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▶ ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】塩化ビニルの調製のための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20220912BHJP
   C07C 21/06 20060101ALI20220912BHJP
   C07C 17/08 20060101ALI20220912BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220912BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C21/06
C07C17/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017561248
(86)(22)【出願日】2016-05-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-06-14
(86)【国際出願番号】 GB2016051533
(87)【国際公開番号】W WO2016189318
(87)【国際公開日】2016-12-01
【審査請求日】2019-05-14
(31)【優先権主張番号】1509019.4
(32)【優先日】2015-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カーセイ, ニコラス アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ハイルズ, アンドリュー ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】スミット, ヨースト ヨハンネス
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第00/029359(WO,A1)
【文献】特公昭48-007407(JP,B1)
【文献】特表2014-523810(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103157499(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103381369(CN,A)
【文献】米国特許第04482770(US,A)
【文献】英国特許出願公告第00801663(GB,A)
【文献】中国特許出願公開第104326865(CN,A)
【文献】特開昭52-136103(JP,A)
【文献】Applied Catalysis A: General,2014, Vol.475,p.292-296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/25
C07C 21/06
C07C 17/08
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも80重量%の二塩化エチレン(EDC)を含む供給流を二塩化エチレンの脱塩化水素をもたらして塩化ビニルを生成するのに十分な温度で脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒を含む触媒系上を通過させる工程を含む、塩化ビニルの生成のための方法であって、
脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒が同じ容器に存在し、
脱塩化水素触媒が、貴金属が還元された形態で存在する担持貴金属触媒を含み、
塩化水素化触媒が、正の酸化状態における少なくとも一部の金属を含み
塩化水素化触媒が、触媒担体上に金又は金の化合物を含み、かつ
塩化水素化触媒及び脱塩化水素触媒が互いに異なる、塩化ビニルの生成のための方法。
【請求項2】
反応温度が150~350℃の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応圧力が0から55バールGの範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
脱塩化水素触媒が、白金、パラジウム、ルテニウム及び/又はロジウムのうちの少なくとも一を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
触媒系が、同じ反応容器に存在する脱塩化水素触媒の粒子及び塩化水素化触媒の別個の粒子を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒の別個の粒子が、反応容器の異なる領域に配置される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒の別個の粒子が、一緒に混合されて、混合触媒ベッドを形成する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒が同じ触媒粒子に存在する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
塩化水素化触媒及び脱塩化水素触媒が同じ触媒担体上に担持される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
脱塩化水素触媒が貴金属を含み、前記塩化水素化触媒が、ホウ素、窒素、酸素、リン又は硫黄を含有する化合物を含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
供給流がEDC及び水素を1:<0.1のモル比で含有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
供給流がEDC及び水素を1:<0.001のモル比で含有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
供給流が本質的に水素を含有しない、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、二塩化エチレンの熱又は接触分解による塩化ビニル(クロロエタン、HC=CHCl)の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニルは、主にポリ(塩化ビニル)(PVC)の生成のためのモノマーとして使用される、商用的に重要な化学原料である。塩化ビニルは、しばしば、塩化ビニルモノマー(VCM)と称される。VCMは様々な方法により製造されうる。一の商用的な方法は、1,2-二塩化エチレン(EDC)の脱塩化水素を含む。脱塩化水素は、熱「分解」により達成されうる。熱分解中、高温、通常500℃超で、及び上昇した圧力、例えば約12バールGでEDCが反応し、VCM、HCl及び副生成物(アセチレン、コークス及び重質生成物を含む)を形成する。この方法は吸熱性であり、それ故、エネルギーを消費する。変換は、典型的に約55%であるため、通常は、更なるエネルギー入力を要する重要なリサイクルを伴って操作される。別の方法は、EDCの接触分解を含み、VCMを形成する。この方法は、パラジウム炭素担体を含む触媒上、少なくとも250℃の温度で、EDC及び水素を供給し、VCM、HCl並びにいくらかのアセチレン及びエチレンを形成する。約60%までの変換は、>95%の選択性で達成された。この方法は国際公開第00/29359に記載されており、水素が存在し、in situで任意のアセチレン副生成物を、再利用してEDCを形成することができるエチレンに変換されることを説明している。アセチレンの変換は、触媒の寿命を減少させるコークスの構築を防ぐ。接触分解はまた、熱分解よりもエネルギーを必要としない。本発明の目的は、VCMの生成のための別の方法を提供することである。
【発明の概要】
【0003】
本発明によれば、塩化ビニルの生成のための方法は、二塩化エチレン(EDC)を含む供給流を、二塩化エチレンの脱塩化水素をもたらして塩化ビニルを生成するのに十分な温度で、脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒を含む触媒系上を通過させる工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0004】
水素が供給流中に存在してもよいが、水素が存在する必要がないことが本発明の方法の特有の利点である。EDCの熱分解又は接触分解を含む既知の方法はどちらも、水素流を必要とし、望ましくないアセチレンをエチレンへ変換する。本発明の一実施態様において、供給流は、1 EDC:0.1 H未満(即ち、1 EDC:<0.1 H)、特に1:0.001未満(即ち、1 EDC:<0.001 H)のモル比でEDC及び水素を含有する。別の実施態様において、供給流は本質的に水素を含まない。この実施態様において、水素は供給流に添加されない。「本質的に水素を含まない」とは、水素が供給流に添加されないが、不純物として低レベルで存在しうることを意味する。
【0005】
EDCは、本明細書で使用される場合、1,1-二塩化エチレン及び/又は1,2-二塩化エチレンを意味する。供給流としてVCMを作製するための方法への使用のための二塩化エチレンは、塩素化又はオキシ塩素化法においてエチレンを塩素及び/又は塩化水素(HCl)と反応させることにより作製されうる。そのような方法は知られており、商用的に広く実施されており、本発明の方法に直接含まれていない。そのような方法により生成されたEDCは、主に1,2-二塩化エチレン(1,2-EDC)である。1,2-EDCは、EDCからVCMを作製するための最も一般的な原料である。1,1-EDCは、本発明の方法の供給流に存在しうる。1,1-EDCは、塩化水素化法においてアセチレンからVCMを作製するための方法における副生成物として形成されうる。アセチレン系VCM法において、典型的な重質副生成物流は、およそ90%の1,1-EDC及びおよそ10%の他の塩素化炭化水素から成る。本発明の方法の供給流は、そのような副生成物流の少なくとも一部分を含みうる。本発明の方法の供給流は、アセチレンの塩化水素化のための方法において形成されるEDCを含有する生成物流の少なくとも一部分を含みうる。重質流の脱塩化水素は、塩化水素法にリサイクルできるVCM、及びHClを生成しうる。重質流の一部はパージされ、プロセス中の変換不可能な重質流の構築を妨げることができる。変換不可能な重質流は、例えば、破壊用の熱又は触媒酸化装置に送られうる。本発明の方法を、アセチレンからVCMを製造するための方法に統合することは、そのような方法によるVCMの産生を増加させる。
【0006】
供給流は、例えば、窒素のような、希釈剤又は不活性化合物を含みうる。供給流は、アセチレン、エチレン、塩化水素又はVCMのような、生成物流に存在する化合物を含む化合物を含みうる。供給流は、少量(通常1重量%未満)の不純物、例えばHCl、O、エチレン、Cl、CO、VCM、塩化エチル、クロロプレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トリクロロエチレン、トリクロロエタン及び重質塩素化炭化水素を含有しうる。典型的には、供給流は処理され、そのような化合物の少なくとも一部が除去される。
【0007】
二塩化エチレンを含む供給流は、好ましくは少なくとも10重量%のEDCを含む。より好ましくは、二塩化エチレンを含む供給流は、少なくとも30重量%のEDCを含む。二塩化エチレンを含む供給流は、少なくとも50重量%のEDCを含みうる。プロセスに対する供給流は、一般的に、少なくとも70重量%のEDCを含み、少なくとも80%のEDCを含みうる。ワンススループロセスである商用の方法の実施態様において、供給流は95~100重量%のEDCを含みうる。EDCが精製されている場合、供給流は少なくとも99重量%のEDCを含みうる。商用の方法は、精製されているEDC供給流を使用してもよいが、リサイクル流も共供給してもよい。リサイクル流は、例えば、EDC接触分解反応器の下流の精製セクションから取り出される。あるいは、供給流はEDC及びアセチレンを含有する共供給流を含みうる。精製されたアセチレンに、精製されたEDCがEDCの脱塩化水素中に生成されたHClと反応するのに十分な量で共供給される場合、そのような流におけるアセチレン及びEDCの理論量は、21重量%のアセチレン及び79重量%のEDCであるであろう。
【0008】
好ましい実施態様において、本発明の方法は、VCMの商業生産のためにVCMを形成するためのEDCの意図的な接触分解を含む方法である。理論に縛られることを望むものではないが、塩化水素化触媒は、アセチレン及びHCl(どちらもEDCの脱塩化水素の副生成物として、以下の反応2において形成される)の反応を触媒化して塩化ビニルを形成すると考えられる。この方法において、VCMは以下の反応1及び3により形成される。
【0009】
したがって、本発明の方法は、アセチレン又はエチレンを含有する生成物流をリサイクルする必要性を回避又は低減することができ、それによってプロセスの全体的なコストを低減することができる。本発明の方法は、単一パスプロセスとして操作されうる。必要に応じて、生成物流の一部がリサイクルされてもよい。
【0010】
一実施態様において、アセチレンは供給流に存在してもよい。そのような方法において、アセチレンは塩化水素化反応中、HClと反応して塩化ビニルを形成しうる。この反応は発熱性である。この反応において生成された熱は、EDCが脱塩化水素されてVCM及びHClを形成する、吸熱性の脱塩化水素反応に熱を提供するのに使用されてもよい。供給流に存在するアセチレンの量は1:1のアセチレン:EDCのモル比を著しく超えることがないようにバランスがとられてもよい。反応器中の過剰なアセチレンの存在は、脱塩化水素触媒の不活性化をもたらしうる。
【0011】
反応はガス相で生じる。反応に使用される典型的な温度は、150~350℃、通常250~300℃の範囲である。典型的な圧力は、0から55バールG、通常約5から15バールGである。本方法の一実施態様において、操作圧力は20~55バールg、例えば30~40バールgでありうる。比較的高圧力(約30バールg)でのプロセスの操作は、数多くの利点を潜在的に提供する。そのような利点は、より小さな反応器及び触媒容積並びにより効率的な熱伝達を含む。高操作圧力はまた、下流の精製プロセスがより高い圧力で操作されることも可能にする。下流の精製プロセスをより高圧力で操作することは、必要な冷媒をより高い温度レベルにシフトすることができ、低電力の必要性をもたらす。
【0012】
脱塩化水素触媒は、EDCを脱塩化水素してVCMを生成するのに活性である触媒である。適切な脱塩化水素触媒は、担持貴金属触媒、即ち、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、銀及び金のうちの少なくとも一を含有する触媒である。好ましい触媒は、白金、パラジウム、ルテニウム及び/又はロジウムを含みうる。好ましい金属はパラジウムである。貴金属は、好ましくは還元された形態で反応器中に存在する。脱塩化水素触媒は、還元された形態で供給されてもよく、又は反応器中で還元されてもよい。脱塩化水素触媒は、総触媒の重量に基づき、0.01から10重量%、例えば0.1~5重量%(好ましくは0.3から2重量%)の貴金属を含みうる。
【0013】
塩化水素化触媒は、金、水銀、パラジウム、銀、ルテニウム、イリジウム、白金、ロジウム、銅、ビスマス、スズ、ジルコニウム、アンチモン及び鉛若しくはそれらの化合物から成る群より選択される少なくとも一の金属又は金属化合物を含みうる。塩化水素化のための活性形態の触媒は、酸化状態>0における金属であると考えられる。したがって、塩化水素化触媒中の少なくとも一部の金属が、0より高い酸化状態、即ち正の酸化状態に存在する。塩化水素化触媒は、総触媒の重量に基づき、0.01から10重量%、例えば0.1~5重量%(好ましくは0.3から2重量%)の金属を含みうる。あるいは、塩化水素化触媒は非金属であってもよい。アセチレンの塩化水素化のための非金属触媒は、B、N、O、S又はPを含有する少なくとも一の非金属化合物を含有しうる。塩化水素化のための非金属触媒の使用は、非金属が高温で使用される場合、いくつかの失活機構に対して耐性がありうるため、有益でありうる。適切でありうる非金属触媒の例は、炭素のような触媒担体を含み、メラミン、尿素、ピロール、ピリジン、ピリミジン、若しくはプリンのような窒素含有化合物;酸若しくは過酸化水素のようなO含有化合物、ボロン酸のようなB含有化合物、チオ尿素若しくはチオールのようなS含有化合物、又はホスフィン、亜リン酸塩、リン酸塩若しくはピロリン酸塩のようなP含有化合物でドープされる。
【0014】
適切な塩化水素化触媒の一種は、固体触媒担体上に金又は金の化合物を含む。適切な触媒は、例えば、国際公開第2013/008004号及び同第2010/055341号に記載され、そのそれぞれの内容が参照により本明細書に援用される。活性触媒金種は、正の酸化状態、例えばAu3+及びAu1+で金を含むと考えられるが、存在する金のいくつかは、金属金(Au)の形態で存在しうる。適切な金含有触媒は、金の錯体、例えばチオ硫酸塩化合物で錯体形成されたか又はテトラクロロ金酸イオンの形態の金を含みうる。適切な金触媒は、金属金を含むコアと、Au3+を含む高酸化状態の金種を含むシェル若しくは表面層とを有する、金粒子を含むと考えられうる。シェルは完全である必要はないが、好ましくは、粒子の曝露された表面の全体若しくは実質的に全体は、高酸化状態の金種の表面を有する:例えば、金属金が担体で部分的に囲まれている場合、「シェル」は、曝露されている粒子表面上にのみ延びうる。Au3+はシェルに存在する唯一の高酸化状態の金種である必要がなく、例えば、Au1+もまた存在しうる。塩化水素化触媒が金を含有する場合は、総触媒重量の0.01~10重量%の金、特に、重量で、0.01~5%、例えば≦1%、例えば0.1~1%、特に0.05~0.5%の金を含有する。
【0015】
塩化水素化触媒は、金属又は金属化合物に加えて、硫黄、硫黄化合物、窒素含有化合物、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸金属塩、シアン化水素酸塩、ハロゲン若しくはハロゲン化物、特に塩化物を含みうる。塩化水素化触媒又は脱塩化水素は、白金、パラジウム、銀、ランタニド、ニッケル、鉄、コバルト、銅、ランタン、セリウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム又はヨウ素のような添加剤を含みうる。添加剤は促進剤として存在してもよく、又は、触媒又はその調製中に別の機能を有してもよい。例えば、カルシウムのようないくつかの金属は、触媒上の炭素堆積物の形成を抑制し、したがって、触媒の活性を一時維持するのを助けるために使用できると考えられる。したがって、添加剤が、触媒の活性を短期間で増加させない場合でも、反応器での使用中に、触媒が失活する傾向を減少させるか、又は、例えば触媒選択性を増強させることのような触媒の実際の使用に対して別の有益な効果を有する場合、添加剤は促進剤とみなされうる。
【0016】
触媒は、任意の適切な担体上に担持されうる。塩化水素化触媒及び脱塩化水素触媒は、同じ種類の担体に担持されてもよく、又はそれぞれ異なる種類の担体に担持されてもよい。触媒担体は、アルミナ、遷移アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、ゼオライト、マグネシア、ジルコニア、チタニア及び炭素(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイト及び改質担体、例えば窒素、リン、若しくは硫黄でドープされている炭素)を含みうる。例えば、担体は、尿素のような窒素化合物を使用して改質されうる。炭素担体は、好ましくは活性炭素を含む。活性炭素担体物質がよく知られている。適切な炭素物質は、木材、石炭、木の実の殻、ココナツの殻、殻、コイア、泥炭又はその他炭素質源より形成されうる。合成炭素が使用されてもよい。炭素は、好ましくは、例えば、蒸気、酸二より活性化されている、又はその他科学的に活性化されている活性化炭素である。好ましい炭素担体は、好ましくは300m/g超の表面積、例えば1300m/gの炭素押出物又は顆粒である高表面積活性化炭素を含む。炭素押出物は、「高純度」又は「極高純度」グレードとして市販されており、そのようなグレードは、典型的には、不純物を除去するために洗浄された酸である。金属酸化物と炭素との組合せは、触媒担体としても使用されうる。
【0017】
担体は、粉末、顆粒、ペレット、又はその他の形状、例えば球、タブレット、シリンダー、輪、切れ込みシリンダー、ミニリス、モノリス若しくはその他適切な形状の形態をとってもよい。押し出されたペレット又はシリンダーは、触媒担体に特に簡便な形態である。あるいは、粉末の形態の触媒は、コーティング配合物中に含有されて、造形構造のようなモノリス若しくは反応器挿入物のような反応器の壁又は成形された基材上にコーティングすることができる。一の好ましい形態の触媒担体は、それぞれ1~10mmの直径、より好ましくは3~5mmの範囲の直径を有する、シリンダー、球又は切れ込みシリンダーの形態の複数の成形ユニットを含む。切れ込みシリンダーのような不均一な直径を有する断面形状の場合、直径は平均直径である。触媒形状は、チャネル及び穴を含みうる。そのような触媒担体の形状は市販されており、押出、打錠により、又は添加剤層製造のようなその他の方法により、作製されうる。
【0018】
触媒は、当該技術分野で一般的に知られている様々な触媒調製技術、例えば含浸を使用して、好ましくは、初発湿潤法、体積、沈殿及びこれらの組合せを使用して調製されうる。脱塩化水素触媒は、触媒製造の分野で知られる方法により、貴金属の可溶性化合物の溶液を担体と組み合わせることにより作製されうる。適切な金属化合物は、とりわけ、硝酸塩、ハロゲン化物、テトラミン錯体を含む。貴金属は、担体の存在下で、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又は水酸化アンモニウムのようなアルカリ性沈殿物を添加することにより、沈殿してもよい。あるいは、貴金属塩溶液は、担体物質の孔に含浸されてもよく、任意選択的に続いて乾燥される。任意選択的に、担体上の金属化合物は焼成されてもよい。任意選択的に、還元工程は、乾燥されているか又は焼成されている触媒に存在する貴金属種を元素金属に変換するのに使用されうる。還元は、水素含有ガスで処理することにより、又はヒドラジンのような湿潤還元剤を用いて行われうる。触媒は、反応前又は反応中に「in situ」で、即ち、反応器中で還元されうる。
【0019】
塩化水素化触媒は、上記を含む任意の適切な調製法により作製されうる。金属塩化水素化触媒の金属化合物は、通常、元素金属に還元されない。金属化合物は、別の処理、例えばHClを用いた事前処理が施されうる。そのような事前処理は、反応器内又はex-situで行われうる。塩化水素化触媒が例えば金属の化合物を含む場合、触媒は、担体に金の溶液、例えば王水(塩酸と硝酸の混合物)の溶液を含浸させることにより作製されうる。また、出願人は、触媒担体に活性金属の錯体、例えば金錯体を含浸させることにより、効率的触媒が作製されうることを発見した。金錯体は、例えば、硫黄含有リガンド又は窒素含有リガンドを含む、金の錯体であってもよい。そのような錯体は、ほとんど環境危険を提示しない、容易に利用可能な溶媒、例えば水に溶けうる。含浸に適した溶液は、金属硫酸塩、スルホン酸塩、チオスルホン酸塩、チオシアン酸塩、チオ尿素、塩化チオニル、チオプロピオン酸及びチオリンゴ酸、シアン酸塩、トリクロロイソシアヌル酸錯体又はジクロロイソシアヌル酸金属塩の水溶液を含む。
【0020】
含浸法は、初発湿潤又は使用される溶液の量が担体の細孔をちょうど充填するように計算される「細孔充填」プロトコルにより行われうる。典型的には、含浸の初発湿潤法を使用して、使用される溶液の容積は、担体の測定される(又は計算される)細孔体積の100%±約20%までである。担体は、通常、回転することにより溶液と混合されるか、又は溶液は、例えば滴下又は噴霧により、担体の撹拌されたベッドに一時添加されうる。別法として、金、硫黄化合物及び/又はトリクロロイソシアヌル酸塩が、吸収により又はイオン交換反応により触媒担体上に堆積するように、触媒担体は、金化合物又は金錯体及びその他必要な化合物、例えば硫黄含有化合物又はトリクロロイソシアヌル酸塩を含有する溶液を、過剰な容積の溶液を使用して、含浸しうる。更に別法として、堆積-沈殿法が使用されてもよい。触媒製造分野の当業者は、担体物質に活性金属化合物の溶液を含浸させることにより触媒を調製するこのような方法に精通している。
【0021】
含浸する溶液中の金又はその他金属化合物の量は、必要とされる最終触媒中の金の量を提供するように計算される。金は、通常、触媒中に層として存在する。典型的には、例えば3mmの触媒粒子中に、金は、触媒担体の表面から内部へ延びる約300ミクロンの厚さまでの層に存在する。しかしながら、金は触媒粒子全体に不均一に分布しうる。
【0022】
非金属塩化水素化触媒は、細孔触媒担体に選択される非金属化合物、例えば、任意選択的に適切な溶媒に溶解している、B、N、O、S又はPを含有する化合物を含浸させることにより調製されうる。含浸された触媒担体は、次いで、存在する任意の上澄み液体から分離され、次いで、任意選択的に乾燥され、任意選択的に、例えば200~1000℃の範囲の温度に熱処理される。調製、又は少なくともいくつかの工程は、非酸素含有大気(例えば窒素大気)下で行われうる。炭素担体を使用する場合、不活性(非酸化)大気下で任意の加熱工程が行われることが非常に好ましい。
【0023】
一例として、本発明の方法において塩化水素化触媒として機能する有用な触媒は、微粒子状の炭素担体に、金の化合物及びチオ硫酸イオンを含有する化合物を含有する水溶液を含浸させることにより、続いて、必要な場合は、過剰な溶液を分離し、次いで含浸物質を乾燥させることにより作製されうる。出願人は、金の化合物及びチオ硫酸イオンを含有する化合物は一緒に、金-チオ硫酸塩錯体を形成すると考える。
【0024】
脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒は、別々の反応容器に存在しうる。EDCを含有する供給流は、脱塩化水素触媒を含有する第一の容器を通って流され、次いで、第一の反応容器からの生成物流は、塩化水素化触媒を含有する第二の反応容器を通過しうる。温度及び/又は圧力を含む反応条件は、各容器で同じであっても異なってもよい。反応器は、従来の方法で供給されうる蒸気の供給、灯油、炉等の加熱手段を含んでもよい。
【0025】
脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒は、同じ容器に存在しうる。反応容器は、脱塩化水素触媒の粒子及び塩化水素化触媒の粒子を含有しうる。脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒の粒子は、容器の異なる領域に配置されうる。例えば、脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒の粒子は、容器内の別々の層に配置されうる。そのような場合、層は金属ガーゼ又は担体のような境界で分離されうる。触媒ベッドは、供給流が、塩化水素化触媒と接触する前に脱塩化水素触媒に接触するように、配置されうる。不活性微粒子状物質の一又は複数の層は反応容器中に存在しうる。脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒の粒子は、一緒に混合されて、混合触媒ベッドを形成する。混合物中の画触媒の割合は、反応容器の異なる領域において変化しうる。
【0026】
反応容器は触媒粒子の固定ベッドを含有しうる。反応容器は軸流反応器を含みうる。反応容器は、触媒ベッドを含有する一又は複数の反応管を含みうる。一又は複数の管状反応器(反応容器)は、例えばマルチ管状反応器として、直列又は並列に配置されうる。反応容器には熱伝達手段が備えられうる。反応容器には温度制御装置が備えられうる。マルチ管状反応器は、反応器シェル(熱伝達媒体はそこを通って循環する)内に配置されている複数の管状反応器を含みうる。触媒の固定ベッドは、半径流反応器に配置されうる。本発明の方法を行うための様々な反応器の設計が有用である。国際公開第2011/048361号に記載される反応器は、触媒ベッドを通る反応物の流れを促進するよう設計されている一又は複数の触媒担体が反応管内に置かれている方法で使用されうる反応器の例である。特定の実施態様において、反応容器は、好ましくは、二段階の反応の間に低温若しくはサブクール反応物の中間注入を伴う多段階反応器の反応システムを含まないか、又はそれから成らない。
【0027】
脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒は、同じ触媒粒子に存在しうる。本実施態様において、貴金属及び塩化水素化触媒の金属又は金属化合物は、同じ触媒担体上に担持されうる。そのような触媒は、例えば、触媒担体粒子に、それぞれ貴金属化合物及び金化合物である二の溶液を含浸させることにより作製されうる。あるいは、触媒担体は、貴金属化合物と塩化水素化触媒の金属又は金属化合物との両方を含有する混合溶液を含浸しうる。更に別の方法として、触媒粒子は、小粒子の脱塩化水素触媒及び小粒子の塩化水素化触媒を一緒に混合することより形成されてもよく、次いで、例えば混合物を含有するペーストを押し出すこと又は混合物を打錠、顆粒化若しくはペレット化することにより、混合物から触媒粒子を形成してもよい。同じ物理的粒子に脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒の両方を含有する二元機能触媒は、貴金属のナノ粒子、及び金、水銀、パラジウム、銀又は銅のナノ粒子(どちらも担体粒子上に担持される)を含みうる。そのような触媒は、懸濁物として金属ナノ粒子を形成し、次いでそれらを固体担体上に吸収させることにより作製されうる。類似の方法は、一を超える金属の合金を含む金属ナノ粒子を形成することにより、利用されうる。更なる別法として、脱塩化水素触媒及び塩化水素化触媒は、金を含む貴金属の合金を含みうる。更なる一例として、触媒粒子は、例えば窒素でドープされた炭素のような非金属触媒を含有する担体上に、脱塩化水素触媒(例えばパラジウムのような貴金属を含みうる)を含みうる。したがって、そのような触媒粒子は、貴金属触媒からの脱塩化水素活動及び本例では窒素でドープされた炭素である非金属触媒を通じた塩化水素化活動を呈しうる。更に別法として、混合触媒は、脱塩化水素触媒と塩化水素化触媒とを一緒に砕くことにより作製されうる。
【実施例
【0028】
本発明の方法について、以下の実施例で更に説明する。
【0029】
実施例1(比較例)
ジョンソンマッセイにより市販される30gの0.8%のパラジウム炭素触媒(3mm押出炭素担体粒子上Pd)を直径2cmのガラス管にロードし、約40cmのベッド長さを得た。管を水平管炉内に含有させた。次いで、31ml/分の窒素フローをベッドを通じて開始した。次いで、ベッドの温度を300℃に上昇させ、1,2-ジクロロエタン(二塩化エチレン、EDC)を窒素流に導入した。これは、窒素流を120℃に加熱された金属コイルを通過させることにより達成し、GLCポンプを介してEDC液体を0.25ml/分のフローでコイルに注入した。反応中、異なる時間にガスクロマトグラフィーで反応器排水を分析し、そして、結果(排水流中質量%)を表1に示す。EDCは脱塩化水素し、生成物流中およそ50%のVCM及び約0.6%のアセチレンを得たように思われる。約400分後、EDCフローを停止し、触媒ベッドを窒素化で冷却した。
【0030】
実施例2
実施例1に記載されるような触媒ベッドの出口の最寄りの5gのPd/C触媒を除去し、5gの市販の0.6%のAu/C触媒(ジョンソンマッセイによる)で置き換えた。触媒の重なるベッドをロードした反応管を、次いで窒素でパージし、300℃に加熱し、上記の通りにEDCを導入した。結果(排水流中質量%)を表2に示す。アセチレン濃度は、実施例1と比較して0.2%未満に有意に減少し、それに対応してEDCが減少し、VCMが増加することが分かる。