(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】舶用機関の潤滑
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20220912BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20220912BHJP
C10M 159/24 20060101ALN20220912BHJP
C10M 159/22 20060101ALN20220912BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20220912BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20220912BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20220912BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20220912BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20220912BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20220912BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20220912BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20220912BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220912BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M101/02
C10M159/24
C10M159/22
C10M137/10 A
C10M133/12
C10M139/00 A
C10M133/16
C10N10:04
C10N20:00 Z
C10N30:08
C10N30:10
C10N40:25
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018055678
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-01-07
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】アダム ポール マーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン マーク ヒューズ
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237854(JP,A)
【文献】特開2011-157530(JP,A)
【文献】特開2012-057167(JP,A)
【文献】国際公開第2016/131929(WO,A1)
【文献】特開2005-264066(JP,A)
【文献】特開2002-256278(JP,A)
【文献】特開2008-169228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低硫黄舶用燃料トランクピストン型ディーゼル機関用の潤滑油組成物であって、
(A)大量の潤滑粘度を持つグループIおよび/またはグループIIベースオイル;および夫々少量での以下の成分:
(B)ヒドロカルビル-置換スルホン酸およびヒドロカルビル-置換サリチル酸の金属塩を含む、過塩基化された金属洗浄剤;
(C)P原子換算で、質量基準で50~500ppmという量の一級および/または二級ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛;
(D)N原子換算で、質量基準で400ppmまでの
量のアミン系酸化防止剤;および
(E)B原子換算で、質量基準で10~200ppmという量のホウ酸化無灰分散剤
を含み、またはこれらを混合することにより製造され、
該組成物が、5乃至20mgKOH/g未
満というTBNを持つ、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
前記潤滑粘度を持つオイルが、グループIベースオイルである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(B)が、0.1~4質量
%という石鹸レベルを前記組成物に与える、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記洗浄剤がスルホネートをも含む、請求項1~3の何れかに記載の組成物。
【請求項5】
(D)が、アルキル化ジフェニルアミンである、請求項1~4の何れかに記載の組成物。
【請求項6】
(E)が、ホウ酸化サクシンイミドである、請求項1~5の何れかに記載の組成物。
【請求項7】
(D)が、10~200ppmの量で存在する、請求項1~6の何れかに記載の組成物。
【請求項8】
(B)が、0.4~3.3質量%という石鹸レベルを前記組成物に与える、請求項1~7の何れかに記載の組成物。
【請求項9】
(B)が、0.4~3.3質量%という石鹸レベルを前記組成物に与える、請求項3~7の何れかに記載の組成物。
【請求項10】
4-ストロークトランクピストン型機関を動作させる方法であって、
(i)該機関に、低硫黄舶用燃料を燃料供給する工程;および
(ii)該機関を、請求項1~
9の何れかに記載の潤滑油組成物で潤滑する工程
を含む、方法。
【請求項11】
前記低硫黄舶用燃料が蒸留燃料である、請求項
10記載の方法。
【請求項12】
前記燃料が、硫黄のS原子換算で、0.5質量%に等しいかまたはそれ未満の硫黄含有率を持つ、請求項
10または請求項
11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低硫黄燃料で燃料供給された場合に、通常トランクピストン型機関と呼ばれている、4-ストローク舶用ディーゼル内燃機関の潤滑に係る。従って、潤滑剤は、通常トランクピストン型エンジンオイル(「TPEOs」)として知られている。
【背景技術】
【0002】
トランクピストン型機関は、船舶、発電および鉄道牽引用途において使用することができ、およびクロス-ヘッド型機関よりも高速度を持つことができる。単一の潤滑剤(TPEO)は、クランクケースおよびシリンダ潤滑のために使用される。該機関のあらゆる主要な可動部品、即ち主要なかつ大きなエンドベアリング、カムシャフトおよびバルブギアは、ポンプ輸送される循環システムによって潤滑される。そのシリンダライナーは、部分的には飛沫潤滑により、および一部にはコネクティングロッドおよびガジョンピンによって、そのピストンスカート内の孔を通して該シリンダの壁に進む、該循環システムからのオイルにより潤滑される。
健康上および環境上の懸念により駆り立てられて、トランクピストン型機関を作動するための低硫黄燃料の使用に対する関心が高まってきている。従って、TPEOが低い塩基価を持つが、酸化安定性、粘度増の制御、および改善された洗浄性能をもたらし得る場合に、低硫黄燃料と共に使用するように設計された該TPEOsを提供することが望ましい。
【0003】
EP-A-3 020 790(「’790」)は、このようなTPEOであるが、規定された線状アルキル-置換ヒドロキシ安息香酸の過塩基化された塩を含む、中および高度に過塩基化された洗浄剤の特定の組合せを含有するTPEOを記載している。’790は、アミン系酸化防止剤(酸化安定性および粘度増の制御性を更に改善するものと述べられている)およびジアルキルジチオリン酸亜鉛系磨耗防止剤を含むTPEOsを記載している。’790は、その発明に係るTPEOsが、スルホン酸の塩、または従来のサリチレートをベースとする洗浄剤、または硫化金属アルキルフェネートを含まないことを述べている。
同様に、WO2016/131929(「’929」)も、洗浄剤の特定の組合せを含む、このようなTPEOを記載している。これは、ジアルキルジチオリン酸亜鉛系磨耗防止剤および後処理されていないサクシンイミド(即ち、ホウ素を含まない)分散剤を含むTPEOsを記載している。
また、WO2016/184897(「’897」)は、洗浄剤の特定の組合せを含むこのようなTPEOを記載している。これは、ジアルキルジチオリン酸亜鉛系磨耗防止剤およびホウ酸化され後-処理されたサクシンイミド分散剤を含有するTPEOsを、比較例において記載している。’897は、その好ましいサクシンイミドが、ホウ素を含まないことを述べている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、’790に係る発明のTPEOsに含まれていない洗浄剤を、少量のアミン系酸化防止剤およびジアルキルジチオリン酸亜鉛磨耗防止剤の存在下で、首尾良く使用することを可能とする(それによりコストを減じる)。このことは、規定されたレベルのホウ酸化分散剤、’790において記載されていないホウ酸化分散剤を使用することにより行われる。
本発明においてスルホネート洗浄剤が使用される場合、高温安定性を改善し、および追加の添加剤の必要性を減じることが可能である。更に、サリチレート/スルホネート洗浄剤の組合せの使用は、酸化制御性および高温安定性両者の改善を可能とする。
第一の局面において、本発明は、低硫黄舶用燃料トランクピストン型ディーゼル機関用の潤滑油組成物を提供し、該潤滑油組成物は、
(A)大量の潤滑粘度を持つオイル;および夫々少量での以下の成分:
(B)ヒドロカルビル-置換フェノール、ヒドロカルビル-置換スルホン酸、およびヒドロカルビル-置換ヒドロキシ安息香酸から選択される界面活性剤の金属塩を含む、過塩基化された金属洗浄剤;
(C)P含有量換算で、質量基準で50~1,000ppmという量のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛;
(D)随意に、N含有量換算で、質量基準で400ppmまでの量のアミン系酸化防止剤;および
(E)B含有量換算で、質量基準で10~500ppmという量のホウ酸化無灰分散剤
を含み、またはこれらを混合することにより製造され、
該組成物は、5乃至20mgKOH/g未満、好ましくは8~15mgKOH/gというTBNを持つ。
第二の局面において、本発明は、4-ストロークトランクピストン型機関を動作させる方法を提供し、該方法は以下の工程を含む:
(i)該機関に、低硫黄舶用燃料を燃料供給する工程;および
(ii)該機関を、本発明の上記第一の局面に係る潤滑油組成物で潤滑する工程。
【0005】
定義
本明細書において、以下の用語および表現は、もしも使用される場合には、以下に帰せられる意味を持つ:
「有効成分(active ingredients)」または「(a.i.)」は、希釈剤または溶媒ではない添加物質を表す。
「含む(comprising)」またはあらゆるその同語源の用語は、述べられた特徴、段階、または整数または成分の存在を規定するが、1種または2種以上の他の特徴、段階、整数、成分またはその集団の存在またはその付加を妨げるものではなく;表現「からなる(consists of)」または「から本質的になる(consists essentially of)」またはその同語源の表現は、「含む(comprises)」またはその同語源の語の範囲内に含めることができ、そこで「から本質的になる」は、物質が適用される上記組成物の特徴に実質上影響を及ぼさない該物質の受入れを可能とする。
「大量(major amount)」とは、組成物の40または50質量%またはこれを超え、好ましくは60質量%またはこれを超え、より一層好ましくは70質量%またはこれを超えることを意味する。
「少量(minor amount)」とは、組成物の50質量%未満、好ましくは40質量%未満、より一層好ましくは30質量%未満を意味する。
「TBN」とは、ASTM D2896により測定される様な全塩基価を意味する。
「低硫黄舶用燃料(low sulfur marine fuel)」とは、該燃料の全質量に対して、0.5質量%またはそれ未満、0.5~0.05質量%、または0.1~0.0015質量%の硫黄を含む燃料を意味し、またISO 8217:2010の国際基準において明示された船舶用蒸留燃料に係る規格を満たす燃料であり得る。
【0006】
更に、本明細書において、もしも使用される場合には、以下の通りである:
「カルシウム含有率」とは、ASTM D5185により測定された如きものであり;
「リン含有率」とは、ASTM D5185によって測定された如きものであり;
「硫酸灰分含有率」とは、ASTM D874により測定された如きものであり;
「硫黄含有率」とは、ASTM D2622により測定された如きものであり;
「ホウ素含有率」とは、ASTM D5185により測定された如きものであり;
「窒素含有率」とは、ASTM D5762により測定された如きものであり;
「亜鉛含有率」とは、ASTM D5185により測定された如きものであり;
「kV100」とは、ASTM D445により測定された如き、100℃における動粘度を意味する。
同様に、必須並びに最適および慣例により使用される様々な成分は、配合、貯蔵または使用条件下で反応する可能性があり、また本発明が、同様に任意のこのような反応の結果として得ることのできるまたは得られる生成物をも提供するものであることが理解されるであろう。
更に、ここにおいて明示される量、範囲および比の任意の上限および下限が、独立に組合せ可能であることが理解される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
今から、本発明の特徴を、以下において更に詳細に論じるであろう。
潤滑粘度を持つオイル(A)
上記潤滑油組成物は、主要な割合の潤滑粘度を持つオイルを含有する。このような潤滑油は、粘度において、軽質蒸留鉱油乃至重質潤滑油までに及び得る。一般的に、該オイルの粘度は、100℃にて測定されたものとして、2~40mm2/秒、例えば3~15mm2/秒に及び、また粘度指数は、80~100、例えば90~95に及ぶ。該潤滑油は、該組成物の内の60質量%を超え、典型的には70質量%を超える割合を占める。
天然オイルは、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油);液状石油系オイルおよびパラフィン系、ナフテン系および混合パラフィン-ナフテン型の、水素化精製された、溶媒処理されたまたは酸処理された鉱油を含む。石炭またはシェール由来の潤滑粘度を持つオイルも、有用なベースオイルとして役立つ。
合成潤滑油は、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油、例えば重合されたおよび共重合されたオレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);およびアルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体、類似体および同族体を含む。
【0008】
アルキレンオキサイドポリマーおよび共重合体およびその誘導体は、その末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化等により変性されている場合には、もう一つの群の既知合成潤滑油を構成する。これらは、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドの重合によって調製されるポリオキシアルキレンポリマー、およびポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびアリールエーテル(例えば、1,000という分子量を持つメチルポリイソプロピレングリコールエーテルまたは1,000~1,500という分子量を持つ、ポリエチレングリコールのジフェニルエーテル);およびそのモノ-およびポリ-カルボン酸エステル、例えばテトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3-C8脂肪酸エステルおよびC13オキソ酸ジエステルにより例示される。
合成潤滑油のもう一つの適切な群は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、琥珀酸、アルキル琥珀酸およびアルケニル琥珀酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルを含む。このようなエステルの具体的な例は、ジブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-へキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸ダイマーの2-エチルヘキシルジエステル、および1モルのセバシン酸と、2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2-エチルヘキサン酸とを反応させることにより形成される複合エステルを含む。
【0009】
同様に、合成オイルとして有用なエステルは、C5~C12モノカルボン酸とポリオールおよびポリオールエステル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールとから製造されるものをも含む。
ケイ素をベースとするオイル、例えばポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-またはポリアリールオキシシリコーンオイルおよびシリケートオイルは、合成潤滑油のもう一つの有用な群を構成し、このようなオイルは、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ-(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(p-tert-ブチルフェニル)シリケート、ヘキサ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサンおよびポリ(メチルフェニル)シロキサンを含む。その他の合成潤滑油は、リン-含有酸の液状エステル(例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デシルホスホン酸のジエチルエステル)およびポリマー系テトラヒドロフランを含む。
未精製、精製および再精製オイルを、本発明に係る潤滑剤において使用することができる。未精製オイルは、天然または合成源から、更なる精製処理なしに直接得られるものである。例えば、レトルト操作によって直接得られるシェール油、蒸留により直接得られる石油系油分、またはエステル化によって直接得られ、かつ更に処理することなしに使用されるエステルオイルは、未精製オイルである。
【0010】
米国石油協会(American Petroleum Institute)(API)の刊行物:「エンジンオイルのライセンスと認証システム(Engine Oil Licensing and Certification System)」,工業サービス部門(Industry Services Department),第14版, 1996年12月, 補遺1, 1998年12月は、ベースストックを以下の如く分類している:
a)グループI(Group I)ベースストックは、90%未満の飽和物(saturates)および/または0.03%を超える硫黄を含み、また以下の表E-1に指定されたテスト法を使用して場合に、80に等しいかまたはこれを超え、かつ120未満の粘度指数を持つ。
b)グループII(Group II)ベースストックは、90%に等しいかまたはこれを超える飽和物および0.03%に等しいかまたはこれ未満の硫黄を含有し、また以下の表E-1に指定されたテスト法を使用した場合に、80に等しいかまたはこれを超え、かつ120未満の粘度指数を持つ。
c)グループIII(Group III)ベースストックは、90%に等しいかまたはこれを超える飽和物および0.03%に等しいかまたはこれ未満の硫黄を含み、また以下の表E-1に指定されたテスト法を使用した場合に、120に等しいかまたはこれを超える粘度指数を持つ。
d)グループIV(Group IV)ベースストックは、ポリα-オレフィン(PAO)である。
e)グループV(Group V)ベースストックは、グループI、II、III、またはIVには含まれない全ての他のベースストックを含む。
ベースストックに関する分析法は、以下の表に示されている:
【0011】
【0012】
本発明は、上記ベースオイルの全てと共に利用し得る。
本発明は、上記潤滑粘度を持つオイルとしての、90%に等しいかまたはこれを超える飽和物および0.03%に等しいかまたはそれ未満の硫黄を含むオイル、例えばグループII、III、IVまたはVに対して特に適している。同様に、これらは、フィッシャー-トロプシュ(Fischer-Tropsch)法によって合成された炭化水素由来のベースストックをも含む。該フィッシャー-トロプシュ法においては、一酸化炭素および水素を含む合成ガス(または「シンガス(syngas)」)が先ず発生させられ、またこれは、次にフィッシャー-トロプシュ触媒を用いて、炭化水素に転化される。典型的に、これらの炭化水素は、ベースオイルとして有用なものとするために、更なる処理を必要とする。例えば、これらは、当技術において公知の方法によって、水素化異性化し;水素化分解かつ水素化異性化し;脱蝋し;または水素化異性化かつ脱蝋処理することができる。該シンガスは、例えば天然ガスまたはその他のガス状炭化水素から、該ベースストックがガス-ツー-リキッド(gas-to-liquid)(「GTL」)ベースオイルと呼ぶことができる場合には、水蒸気改質により;あるいは該ベースストックがバイオマス-ツー-リキッド(biomass-to-liquid)(「BTL」または「BMTL」)ベースオイルと呼ぶことができる場合には、バイオマスのガス化により;あるいは該ベースストックが、コール-ツー-リキッド(coal-to-liquid)(「CTL」)ベースオイルと呼ぶことができる場合には、石炭のガス化によって製造し得る。
【0013】
好ましくは、本発明における上記潤滑粘度を持つオイルは、50質量%またはこれを超える上記ベースストックを含む。これは、60質量%、例えば70、80または90質量%またはこれを超える該ベースストックまたはこれらの混合物を含むことができる。該潤滑粘度を持つオイルは、実質上全てが、該ベースストックまたはその混合物であり得る。
TPEOは、5~35質量%、好ましくは7~20質量%、より好ましくは12~15質量%の濃縮物または添加剤パッケージを使用でき、その残部はベースストックである。
好ましくは、上記TPEOは、7~30、例えば7~20、最も好ましくは8~15という組成上のTBN(D2896を使用)を持つ。
以下の記載を、TPEOにおける添加剤の典型的な割合として述べることができる。
【0014】
【0015】
しかし、これらの割合は、ここにおいて述べられた制限に従って、本発明においては修正されている。
本発明の上記TPEOに係るTBNは5乃至20未満、例えば5~18、例えば8~15の範囲にある。
【0016】
過塩基化金属洗浄剤(B)
洗浄剤は、機関内での堆積物、例えば高温ワニスおよびラッカー堆積物の形成を減じる添加剤であり、これは酸-中和特性を有し、また微細に分割された固体を懸濁状態に維持することを可能とする。これは、金属「石鹸(soaps)」、即ちしばしば界面活性剤と呼ばれる、酸性有機化合物の金属塩をベースとしている。
洗浄剤は、長い疎水性尾部と共に極性ヘッドを含む。大量の金属塩基が、過塩基化された洗浄剤を与えるために、過剰量の金属化合物、例えば酸化物または水酸化物と、二酸化炭素等の酸性ガスとを反応させることにより含められ、該過塩基化された洗浄剤は、金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外側層として、中和された洗浄剤を含む。
上記洗浄剤は、好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類金属添加剤、例えばフェノール、スルホン酸およびヒドロキシ安息香酸から選択される、界面活性剤の過塩基化されたオイル-溶解性またはオイル-分散性カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウム塩であり、そこで該過塩基化は、該金属のオイル-不溶性塩、例えば炭酸塩、塩基性炭酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、水酸化物またはオキサレートによって与えられ、該オイル-不溶性金属塩は、該界面活性剤であるオイル-溶解性塩によって安定化される。該オイル-溶解性界面活性剤塩の金属は、該オイル-不溶性塩の金属と同一であっても異なっていてもよい。好ましくは、該金属は、該オイル-溶解性またはオイル-不溶性塩の金属の何れであれ、カルシウムである。該酸は、当技術において公知の如く、ヒドロカルビル置換、例えばアルキル-置換されている。
上記洗浄剤のTBNは、ASTM D2896により測定されたものとして、低くても、即ち50mgKOH/g未満でも、中程度でも、即ち50~150mgKOH/gでも、または高くても、即ち150mgKOH/gを超えてもよい。好ましくは、該TBNは、中程度または高く、即ち50TBNを超える。より好ましくは、該TBNは、ASTM D2896により測定されたものとして、少なくとも60、より好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも150、および500まで、例えば350mgKOH/gまでである。
上記TPEOにおける上記石鹸の質量は0.1~4質量%、例えば0.4~3.3質量%であり得る。
好ましくは、上記界面活性剤はヒドロキシ安息香酸、例えばヒドロカルビル-置換サリチル酸の形状にある。該界面活性剤は単一の酸、酸の混合物、または様々な酸の複合体であり得る。有利には、該洗浄剤は、サリチル酸塩とスルホン酸塩との混合物であり得る。
【0017】
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(C)
ジヒドロカルビルジチオリン酸の金属塩は、公知の技術に従って、先ず、通常は1種または2種以上のアルコールまたはフェノールとP2S5との反応により、ジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、および次に該形成されたDDPAを金属化合物で中和することにより製造し得る。例えば、ジチオリン酸は、一級および二級アルコールの混合物を反応させることにより製造し得る。あるいは、多数のジチオリン酸を調製することができ、そこでその一方におけるヒドロカルビル基は、性質上専ら二級であり、および他方におけるヒドロカルビル基は、性質上専ら一級である。該金属塩を製造するために、任意の塩基性または中性金属化合物を使用し得るが、その酸化物、水酸化物および炭酸塩が、最も一般的に使用される。市販の添加剤は、その中和反応において、過剰量の該塩基性金属化合物使用しているために、しばしば過剰量の金属を含んでいる。
少なくとも50モル%の成分(C)が、アルキルジチオリン酸亜鉛であり、そこでそのアルキル基は、C6一級アルキル基であり、また以下の式によって表すことができる:
【0018】
【0019】
ここにおいて、R1およびR2は、同一でも異なっていてもよく、また6個の炭素原子を含む一級アルキル基、例えばn-へキシル基であり得る。
好ましくは、成分(C)の少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、または少なくとも90モル%が、上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛である。より好ましくは、成分(C)の全てが、該ジアルキルジチオリン酸亜鉛である。
好ましくは、(C)は、上記TPEOのP含有量換算で、質量基準で、50~800ppm、例えば100~800ppm、例えば100~500ppm、または50~500ppm、例えば200~400ppmを構成する。(C)は、一級および/または二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛であり得る。
【0020】
アミン系酸化防止剤(D)
アミン系酸化防止剤の例として、二級芳香族アミン、例えばジアリールアミン、例えばジフェニルアミンを挙げることができ、そこで各フェニル基は、4~9個の炭素原子を持つアルキル基でアルキル-置換されている。
好ましくは、上記酸化防止剤は、上記組成物において、N含有量換算で、質量基準で、10~400ppm、例えば10~300ppm、例えば10~200ppm、例えば50~200ppmの量で与えられる。本発明の一態様において、例えば酸化防止剤は存在しない。
【0021】
ホウ酸化無灰分散剤(E)
無灰分散剤は、燃焼に際して灰分を実質上形成しない、非金属有機物質である。これらは、極性ヘッドを持つ長鎖炭化水素を含み、その極性は、例えばO、PまたはN原子を含むことに由来している。該炭化水素は、オイル-溶解性を付与し、かつ例えば40~500個の炭素原子を持つ親油性基である。従って、無灰分散剤は、分散すべき粒子と会合し得る官能基を持つ、オイル-溶解性ポリマー系主鎖を含むことができる。
特筆すべき無灰分散剤の例は、サクシンイミド、例えばポリイソブテン琥珀酸無水物およびポリアミン縮合生成物である。
本発明において、ホウ酸化無灰分散剤は、上記規定されたホウ素含有率を与えるために使用される。好ましくは、これはB含有量換算で、質量基準で10~200ppm、例えば10~150ppm、例えば50~150ppmである。
その他の添加剤、例えば他の分散剤、流動点降下剤、消泡剤、金属防錆剤、および/または解乳化剤を、必要ならば与えることができる。
ここにおいて使用されるような用語「オイル-溶解性(oil-soluble)」または「オイル-分散性(oil-dispersable)」とは、必ずしも、上記化合物または添加剤が、あらゆる割合で上記オイル中に溶解でき、分散し得、混和し得または懸濁し得ることを示すものではない。しかし、これらのことは、該化合物または添加剤が、例えばオイルが使用されている環境内でその意図された効果を発揮するのに十分な程度まで、該オイルに対して溶解性であり、あるいはそこに安定に分散し得ることを、確かに意味している。その上、他の添加剤の付随的な組入れは、同様に、所望により特定の添加剤のより高いレベルでの組入れを可能とするかもしれない。
【0022】
本発明の潤滑油組成物は、混合前後において、化学的に同一性を維持していても維持していなくてもよい、規定された個々の(即ち、別々の)成分を含む。
上記添加剤を含む1種または2種以上の添加剤パッケージまたは濃縮物を調製し、それにより上記潤滑油組成物を形成するために、該添加剤を、上記潤滑粘度を持つオイルに対して同時に添加し得ることは、本質的ではないが望ましいことであり得る。該添加剤パッケージ(1または複数)の該潤滑油に対する溶解は、溶媒によりおよび穏やかな加熱を伴う混合によって容易なものとし得るが、これは必須ではない。該添加剤パッケージ(1または複数)は、典型的に、上記所望の濃度を与え、および/または該添加剤パッケージ(1または複数)が予め決められた量のベース潤滑油と混ぜ合わされる際に、最終的な配合物中で該所望の機能を果たすのに適した量で含まれるように配合されるであろう。
従って、上記添加剤は、他の望ましい添加剤と共に、少量のベースオイルまたは他の相溶性の溶媒と混合して、有効成分として、該添加剤パッケージ基準で、適当な比率にある添加剤を、例えば2.5~90質量%、好ましくは5~75質量%、最も好ましくは8~60質量%という量で含有し、残部がベースオイルである、添加剤パッケージを形成することができる。
上記最終的な配合物は、典型的に約5~40質量%の上記添加剤パッケージ(1または複数)を含むことができ、その残部はベースオイルである。
【実施例】
【0023】
本発明を、以下の実施例により例証するが、本発明はこれらに限定されない。
配合物
3種のトランクピストンエンジンオイル(TPEOs)を、以下に列挙するものの内の1種または2種以上を含むようにブレンドした:
・グループIベースオイル;
・サクシンイミド分散剤;
・過塩基化されたサリチル酸カルシウム洗浄剤;
・ジアルキルジチオリン酸亜鉛磨耗防止剤(ZDDP);
・アルキル化ジフェニルアミン酸化防止剤(DPA)。
これらの成分は、本発明の実施例(1および2)各々が、ホウ酸化されたサクシンイミド分散剤を含み、一方比較例(A)が、非-ホウ酸化分散剤を含むことを除き、同一であった。
上記3種のTPEOsに係る組成物を、以下の表1に提示する:
【0024】
【0025】
主な差は、実施例1および2各々がBを含み、一方で実施例Aがこれを含まないこと;および実施例1および2が実施例Aよりも少量のDPAおよび少量のZDDPを含むことである。
テストおよび結果
組成物A、1および2各々を、以下の3種のテストに掛けた:
・潤滑油の高温洗浄力および熱および酸化安定性に係る程度を測定する、潤滑工業ベンチテストである、コマツホットチューブテスト(Komatsu Hot Tube Test)(KHTT)。このテストは、320℃にて実施された。また、結果は、より高い数値がより良好な性能を表す、格付けとして表示されている。
・示差走査熱量計テスト(Differential Scanning Calorimeter Test)(PDSC)を、潤滑油の薄膜酸化安定性を評価するために使用し、また該テストは、ASTM D-6186に従って行われる。テストは210℃にて行われた。また、結果は、該オイルの酸化が開始する時間(分)で表される。従って、より長い時間が、より良好な性能を表す。
・GFC酸化テスト(GFC Oxidation Test)を、GFC Tr-21-A-90に従って実施する。PAI(ピーク面積増加)を、216時間後に測定し、%KV100増加を、同様に216時間後に測定し、および216時間後に残留している%TBNを計算する。より低い数値が、より良好な性能を表している。
結果を、以下の表にまとめる:
【0026】
【0027】
上記結果において、Bおよびより低レベルのZDDPおよびDPAを含有する、本発明の実施例(1および2)は、上記全てのテストにおいて、比較例(A)よりも良好な性能を与えた。
第二の組のTPEOsを調製し、かつテストした。
調製
以下の成分の内の1種または2種以上を含むように、5種のTPEO’sをブレンドした:
・グループIベースオイル;
・サクシンイミド分散剤;
・過塩基化されたサリチル酸カルシウムおよび/または過塩基化されたスルホン酸カルシウム洗浄剤;
・ジアルキルチオリン酸亜鉛磨耗防止剤(ZDDP);
・随意に、アルキル化ジフェニルアミン酸化防止剤(DPA)。
上記5種のTPEO’sに係る組成を、以下の表に提示し、そこで実施例BおよびCは比較例であり、また実施例3~5は本発明に係る。
【0028】
【0029】
テストおよび結果
上記5種の組成物各々を、上記の如きKHTTおよびGFC酸化テスト、および同様に以下に記載されるような高周波往復動リグテスト(high frequency reciprocating rig test)(HFRR)に掛けた。
上記配合物に係るサンプルを、PCSインスツルメンツ(PCS Instruments)の高周波往復動リグ(HFRR)を用いて、以下のような条件を含む標準的なプロトコルに基いてテストした:
・15分;
・1mmというストローク長さの、20Hz往復動;
・標準的な装置製造業者により提供されたスチール製支持体を使用し、400gの負荷;
・20℃/分にて、80℃~380℃。
報告された温度(℃単位にて)は、上記HFRR装置のソフトウエアにより測定されたものとしての、ばらつきの無い摩擦応答が、上記テストサンプルから、最早与えられない点(スカッフィングの開始)から選び取られた。一度これが生じたら、上記オイルは、十分な磨耗防止性を与えることが、最早不可能であると見做される。スカッフィングの開始は、最小摩擦係数と関連する。より高い結果が、より良好である。
これらの結果を、以下の表にまとめる。
【0030】
【0031】
上記結果において、本発明に係るB-含有およびより低いZDDP-レベルの実施例(3-5)は、より良好に機能し、また実施例4および5におけるCaスルホネートの存在は、改善された性能、特に改善された高温安定性および改善された酸化抵抗性を引起した。