(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】熱処理装置および金属部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 1/00 20060101AFI20220912BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20220912BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20220912BHJP
C21D 9/40 20060101ALI20220912BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20220912BHJP
C21D 9/28 20060101ALN20220912BHJP
C21D 9/32 20060101ALN20220912BHJP
【FI】
C21D1/00 119
C21D1/00 C
C21D1/10 J
C21D1/18 X
C21D9/40 B
F27D21/00 G
C21D9/28 B
C21D9/32 B
(21)【出願番号】P 2018100783
(22)【出願日】2018-05-25
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【氏名又は名称】松岡 徹
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】弁理士法人ワンディ-IPパ-トナ-ズ
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮介
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-162044(JP,A)
【文献】国際公開第2012/118016(WO,A1)
【文献】特開2010-038531(JP,A)
【文献】特開2018-145483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00 - 1/84
C21D 9/00 - 9/44
F27D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理のために加熱された金属製の
円筒状の被処理物自体の温度を測定する測定部と、
前記被処理物を取り囲むことが可能な螺旋状の部分を有する誘導加熱コイルとして設けられ、前記被処理物を加熱するための加熱部材と、
前記被処理物を冷却するための冷却部と、
前記測定部で測定された測定温度を参照し、前記加熱部材の前記螺旋状の部分に囲まれた空間における加熱・冷却位置において前記被処理物が所定の冷却速度で冷却されるように前記冷却部を制御する制御部と、
を備え、
前記冷却部は、円筒状の前記被処理物の孔部へ向けて、不活性ガスまたは還元性ガスを冷却ガスとして噴射し、
前記測定部は、前記被処理物からの放射を測定する放射計を含み、
前記放射計は、前記加熱部材の前記螺旋状の部分の隙間を通して、前記被処理物
の外周側からの放射を検出することで、前記加熱・冷却位置に配置された前記被処理物自体の温度を測定することを特徴とする、熱処理装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の熱処理装置であって、
前記制御部は、前記冷却ガスの供給源から、前記被処理物の配置されている熱処理室への前記冷却ガスの流量を制御することを特徴とする、熱処理装置。
【請求項3】
請求項
1または請求項
2に記載の熱処理装置であって、
前記冷却部は、熱交換器と、前記制御部によって制御される循環ポンプであって前記被処理物が配置されている熱処理室および前記熱交換器に前記熱処理室内のガスを循環させる循環ポンプと、を含んでいることを特徴とする、熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理装置および金属部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車等の金属部品(被処理物)に熱処理を施すための熱処理装置が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1,2に記載の熱処理装置は、被処理物に焼入処理等を行うために用いられる。この熱処理装置は、加熱室および冷却室を有している。加熱室では、被処理物が加熱される。冷却室では、被処理物が水等の液状冷媒で冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2017/043137号
【文献】国際公開WO2017/043138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属部品を焼入処理する熱処理装置においては、被処理物の各部の冷却度合いにばらつきが生じると、この金属部品に歪み(すなわち意図しない変形)が発生する。このため、被処理物の各部の冷却度合いをより均等にすることが好ましい。被処理物の各部の冷却度合いをより均等にするためには、被処理物の冷却の態様をより正確に制御することが好ましい。しかしながら、特許文献1,2に記載の構成では、被処理物は、液状冷媒で冷却される。このため、液状冷媒の温度管理を通じて被処理物の冷却状態が管理されるに過ぎない。すなわち、特許文献1,2に記載の構成では、被処理物の冷却時に被処理物自体の温度を測定する発想が存在せず、被処理物の冷却の態様をより正確に制御できているとはいえない。
【0005】
上記の事情に鑑み、本発明は、被処理物をより正確に所望の状態で冷却することのできる熱処理装置、および、金属部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる熱処理装置は、熱処理のために加熱された金属製の被処理物自体の温度を測定する測定部と、前記被処理物を取り囲むことが可能な螺旋状の部分を有する誘導加熱コイルとして設けられ、前記被処理物を加熱するための加熱部材と、前記被処理物を冷却するための冷却部と、前記測定部で測定された測定温度を参照し、前記加熱部材の前記螺旋状の部分に囲まれた空間における加熱・冷却位置において前記被処理物が所定の冷却速度で冷却されるように前記冷却部を制御する制御部と、を備え、前記冷却部は、円筒状の前記被処理物の孔部へ向けて、不活性ガスまたは還元性ガスを冷却ガスとして噴射し、前記測定部は、前記被処理物からの放射を測定する放射計を含み、前記放射計は、前記加熱部材の前記螺旋状の部分の隙間を通して、前記被処理物の外周側からの放射を検出することで、前記加熱・冷却位置に配置された前記被処理物自体の温度を測定する。
【0007】
この構成によると、制御部は、被処理物そのものの温度を測定することで得られた測定温度に基づいて、被処理物の冷却速度を設定できる。これにより、制御部は、被処理物の冷却時の温度履歴(時間と温度の関係)をより正確に把握できる。その結果、制御部は、被処理物が所望の温度履歴となるように冷却部をより正確に制御できる。これにより、被処理物の冷却の態様をより正確に制御でき、その結果、被処理物をより正確に所望の状態で冷却できる。
【0009】
また、この構成によると、被処理物は、液体ではなく、不活性ガスまたは還元性ガスによって冷却される。このため、被処理物の表面が酸化することを抑制できる。すなわち、被処理物の冷却時に被処理物の光輝度が変化することを抑制できる。
【0012】
(2)前記制御部は、前記冷却ガスの供給源から、前記被処理物の配置されている熱処理室への前記冷却ガスの流量を制御する場合がある。
【0013】
この構成によると、制御部は、被処理物の温度を変化させる影響の大きい要素としての冷却ガスの流量を制御することで、被処理物の冷却速度をより確実に所望の状態にできる。
【0014】
(3)前記冷却部は、熱交換器と、前記制御部によって制御される循環ポンプであって前記被処理物が配置されている熱処理室および前記熱交換器に前記熱処理室内のガスを循環させる循環ポンプと、を含んでいる場合がある。
【0015】
この構成によると、熱処理室内のガスを、熱交換器で冷却できる。そして、制御部は、循環ポンプの制御を通じて熱交換器を通過するガスの流量を制御することで、熱処理室内の冷却ガスの温度を所望の温度に、より正確に設定できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、被処理物をより正確に所望の状態で冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】熱処理装置の模式的な側面図であって、被処理物が加熱・冷却位置に配置されている状態を示しており、熱処理装置の一部を切断して示している。
【
図2】熱処理装置における焼入処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図3】焼入処理の一例における被処理物の温度履歴を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1は、熱処理装置1の模式的な側面図であって、被処理物100が加熱・冷却位置P2に配置されている状態を示しており、熱処理装置1の一部を切断して示している。
【0022】
なお、以下では、熱処理装置1を正面から見た状態を基準として、左右方向X1(被処理物100の搬送方向A1)、前後方向Y1、および、上下方向Z1を規定する。
【0023】
図1を参照して、熱処理装置1は、被処理物100に加熱処理および冷却処理を含む熱処理を施すために設けられている。この熱処理として、焼入処理、浸炭処理、均熱処理等を例示することができる。なお、熱処理装置1で行われる熱処理は、加熱処理および冷却処理が含まれていればよく、具体例は、特に限定されない。また、本実施形態では、被処理物100は、金属部品であり、例えば、軸受の外輪または内輪となるリングである。なお、被処理物100は、歯車等の筒状部材であってもよいし、シャフト等の中実部材であってもよい。
【0024】
被処理物100を構成する金属材料として、SCM材(クロムモリブデン鋼)、SCr材(クロム鋼鋼材)、SNCM材(ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材)、SUJ(高炭素クロム軸受鋼鋼材)等の鋼材を例示できる。
【0025】
また、被処理物100として、特に、質量が数グラムから数十キログラム程度までの小型の部品が好ましく、本実施形態の熱処理装置1は小型部品の熱処理に、より適している。
【0026】
熱処理装置1は、熱処理室2と、搬送機構3と、加熱部材4と、保持ユニット5と、冷却部6と、測定部7と、制御部8と、を有している。
【0027】
熱処理室2は、熱処理装置1の筐体部分であり、被処理物100に加熱処理および冷却処理を行う空間を形成している。熱処理室2は、被処理物100を加熱するための加熱室であり、且つ、被処理物100を冷却するための冷却室でもある。すなわち、本実施形態では、被処理物100は、同一の空間内において加熱処理と冷却処理の双方が行われる。熱処理室2は、略直方体状の箱状に形成されている。本実施形態では熱処理室2内の空間の気圧は、大気圧であり、加圧状態でもなければ、真空状態でもない。なお、熱処理室2は、図示しない真空ポンプによって真空にされた状態で、被処理物100に加熱処理を施すように構成されていてもよい。
【0028】
熱処理室2は、金属板を用いて形成されており、上下方向Z1に延びる4つの側壁21(図では、紙面の手前側の側壁の図示は省略)と、側壁21の上部に配置された天壁22と、側壁21の下部に配置された底壁23と、を有している。
【0029】
4つの側壁21は、全体として中空の四角柱状に形成されている。右側壁21に、開口部である入口24が形成されている。被処理物100は、この入口24から熱処理室2内に搬入される。左側壁21に、開口部である出口25が形成されている。被処理物100は、この出口25から熱処理室2外に搬出される。
【0030】
入口24に入口扉26が設けられているとともに、出口25に出口扉27が設けられている。
【0031】
入口扉26は、閉位置に配置されることで、入口24を塞ぐ。また、入口扉26は、開位置に配置されることで、入口24を開く。入口扉26は、図示しない開閉機構によって開閉動作される。
【0032】
出口扉27は、閉位置に配置されることで、出口25を塞ぐ。また、出口扉27は、開位置に配置されることで、出口25を開く。出口扉27は、図示しない開閉機構によって開閉動作される。
【0033】
上記の構成を有する熱処理室2内に、搬送機構3が設けられている。
【0034】
搬送機構3は、被処理物100を、入口24、持上げ位置P1、出口25の順に搬送する。本実施形態では、搬送機構3は、ベルトコンベア式の搬送機構であり、左右方向X1に沿う搬送方向A1に被処理物100を搬送する。
【0035】
搬送機構3は、被処理物100が載せられる搬送トレイ31と、搬送トレイ31を搬送方向A1に移動させる移動機構32と、を有している。
【0036】
搬送トレイ31は、被処理物100を支持するための搬送支持部材であり、平板状に形成されている。搬送トレイ31の中央部には、当該搬送トレイ31を貫通する孔部31aが形成されている。孔部31aの周縁部から片持ち梁状のステー31bが複数延びている。
【0037】
被処理物100は、ステー31bに受けられており、被処理物100の下面は、搬送トレイ31の孔部31aから搬送トレイ31の下側に露呈している。前後方向Y1における搬送トレイ31の両端部は、移動機構32に支持されている。
【0038】
移動機構32は、搬送トレイ31を搬送方向A1に搬送するように構成されている。移動機構32の具体的な構成は、特に限定されない。左右方向X1における熱処理室2の例えば中央に持上げ位置P1が設定されており、搬送トレイ31は、入口24から搬送されることで持上げ位置P1に配置される。持上げ位置P1の上方に、加熱部材4が配置されている。
【0039】
加熱部材4は、熱処理室2内において上下方向Z1に沿って搬送機構3と離隔して配置された、被処理物100を熱処理のために加熱する部材である。加熱部材4は、本実施形態では、誘導加熱コイルであり、被処理物100に誘導加熱による加熱を行うように構成されている。加熱部材4は、熱処理室2の外部に配置された電力供給部としての誘導加熱発振器9に接続されており、この誘導加熱発振器9からの電力によって、被処理物100を誘導加熱する。
【0040】
加熱部材4は、銅などの導電部材を螺旋状に形成することで構成されている。加熱部材4のうち螺旋状の部分は、被処理物100を取り囲むことが可能な大きさに形成されている。本実施形態では、加熱部材4の螺旋状部分に囲まれた空間が、加熱・冷却空間として規定されており、この螺旋状部分に囲まれた空間に、加熱・冷却位置P2が設定されている。加熱部材4の一端部および他端部は、後方に向けて直線状に延びており、熱処理装置1の後部側の側壁21に支持されている。加熱部材4の一端部および他端部は、誘導加熱発振器9に電気的に接続されており、この誘導加熱発振器9から高周波電力を供給される。
【0041】
なお、本実施形態では、加熱部材4が誘導加熱コイルである形態を例に説明するけれども、この通りでなくてもよい。加熱部材として、ガスバーナー、セラミックヒーター、電熱ランプ、マイクロ波加熱装置、その他、公知の加熱部材が用いられてもよい。
【0042】
持上げ位置P1に到達した搬送トレイ31に載せられている被処理物100は、保持ユニット5によって保持されることで加熱・冷却位置P2へ持上げられ、加熱・冷却位置P2において加熱処理および冷却処理を施される。
【0043】
保持ユニット5は、被処理物100を保持するための保持部材としての載せ治具41および押さえ治具42を含んでおり、これら載せ治具41および押さえ治具42が協働して、加熱処理中の被処理物100および冷却処理中の被処理物100を保持する。
【0044】
載せ治具41は、被処理物100が載せられる部材であり、本実施形態では、上下方向Z1に延びている。載せ治具41は、加熱部材4によって誘導加熱されることを抑制されるために、カーボン等の非磁性の材料で形成されていることが好ましい。載せ治具41は、位置調整部10に設けられた載せ治具変位機構51によって駆動されることで、被処理物100を持上げ位置P1と加熱・冷却位置P2との間で上下方向Z1に往復移動させる。また、載せ治具41は、載せ治具変位機構51によって駆動されることで、被処理物100とともに上下方向Z1に延びる軸線S1回りを回転する。
【0045】
載せ治具41は、被処理物100を載せているとき以外は、持上げ位置P1の下方の待機位置P3に配置されている。そして、搬送機構3によって被処理物100が持上げ位置P1に到達したとき、載せ治具41は、待機位置P3から載せ治具変位機構51によって上昇変位される。これにより、載せ治具41は、ステー31bを回避しつつ搬送トレイ31の孔部31aを通って孔部31aの上方に進むとともに、搬送トレイ31上の被処理物100を持上げ、この被処理物100を加熱・冷却位置P2まで持上げる。被処理物100が熱処理されているとき、載せ治具41は、加熱・冷却位置P2において、載せ治具変位機構51の駆動によって、被処理物100とともに軸線S1回りを回転可能である。このような回転動作によって、被処理物100の各部は、より均等に加熱・冷却される。なお、載せ治具41は、軸線S1回りを回転しなくてもよい。
【0046】
載せ治具41は、軸部43と、軸部43の上端に設けられた台座部44と、を有している。
【0047】
軸部43は、上下に延びる軸部分であり、載せ治具変位機構51からの動力が与えられる。軸部43の中心軸線が、軸線S1である。台座部44は、ステー31bとの接触を回避するように平面視で放射状に延びた形状を有している。台座部44の上面に、被処理物100が載せられる。加熱・冷却位置P2において、台座部44は、加熱部材4に取り囲まれており、且つ、加熱部材4から離隔している。台座部44の直径は、被処理物100の外径よりも大きいことが好ましいけれども、被処理物100の外径以下でもよい。上記の構成を有する載せ治具41と上下方向Z1に向かい合うようにして、押さえ治具42が配置されている。
【0048】
押さえ治具42は、被処理物100に熱処理が行われるときに被処理物100の変位を抑制するために設けられている。より具体的には、押さえ治具42は、加熱部材4による被処理物100の誘導加熱時に生じる磁界の作用で被処理物100が載せ治具41から浮き上がることを抑制する。また、押さえ治具42は、冷却ノズル65による被処理物100のガス冷却時において冷却ガスの噴射によって被処理物100が載せ治具41に対して動くことを抑制する。
【0049】
押さえ治具42は、加熱部材4によって誘導加熱されることを抑制されるために、カーボン等の非磁性の材料で形成されていることが好ましい。押さえ治具42は、位置調整部10に設けられた押さえ治具・冷却ノズル変位機構52によって駆動されることで、載せ治具41(被処理物100)に対する上下方向Z1の位置を設定される。押さえ治具42は、被処理物100の加熱時および冷却時には、加熱・冷却位置P2において載せ治具41および被処理物100と隣接している。
【0050】
押さえ治具42は、軸部45と、軸部45の下端に設けられた押さえ部46と、を有している。
【0051】
軸部45は、上下に延びる軸部分であり、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52からの動力が与えられる。本実施形態では、軸部45の上端部が熱処理室2の天壁22を貫通しているけれども、軸部45の全体が熱処理室2内に配置されていてもよい。押さえ部46は、例えば円板状に形成されており、押さえ部46の下面が、被処理物100の上面と接触可能である。本実施形態では、押さえ部46の外径は、台座部44の外径と略同じに設定されている。また、加熱・冷却位置P2において、押さえ部46は、加熱部材4に取り囲まれており、且つ、加熱部材4から離隔している。
【0052】
上記の構成を有する保持ユニット5によって加熱・冷却位置P2に配置された被処理物100は、冷却部6によって冷却される。冷却部6は、冷却ガスを被処理物100へ噴射することで、被処理物100を冷却する。
【0053】
冷却部6は、冷却ガス源61と、冷却ガス供給路62と、流量調整部63と、第1開閉弁64と、冷却ノズル65と、放熱部66と、を有している。
【0054】
冷却ガス源61は、冷却ガスを溜められたタンク等であり、被処理物100へ供給される冷却ガスは、この冷却ガス源61から供給される。冷却ガス源61は、熱処理室2の外部に配置されている。
【0055】
冷却ガスとして、不活性ガス、および、還元性ガスを例示できる。不活性ガスとして、窒素ガス、ヘリウムガス、および、アルゴンガスを例示できる。還元性ガスとして、炭化水素、一酸化炭素、および、水素を例示できる。冷却ガスとして、上記のガスの一種類または二種類以上が用いられることが好ましい。なお、水のミストが上記のガスに混合されることで冷却ガスが形成されてもよい。
【0056】
冷却ガス源61からの冷却ガスは、配管等を用いて形成された冷却ガス供給路62を通って、冷却ノズル65へ送られる。冷却ガス供給路62と冷却ノズル65とは、図示しないフレキシブル配管を含む配管によって接続されている。これにより、冷却ノズル65の上下変位に伴う冷却ノズル65と、冷却ガス供給路62と、の相対変位が可能である。冷却ガス供給路62には、流量調整部63および第1開閉弁64が設置されている。
【0057】
流量調整部63は、マスフローコントローラ等で構成されている。流量調整部63は、流量調整弁を含んでおり、冷却ガス源61からの冷却ガスの流量を調整する。流量調整部63に設けられる流量調整弁として、ダイヤフラム弁、ニードル弁、グローブ弁、ボール弁等の弁に、電動駆動部が取り付けられた構成を例示できる。このような構成により、流量調整部63は、制御部8から指令信号を与えられることで、指令信号で示される弁開度となるように電動駆動部が動作する。冷却ガス供給路62において、流量調整部63を通過した冷却ガスは、第1開閉弁64を通過する。
【0058】
第1開閉弁64は、電磁弁等を用いて形成されており、指令信号を与えられることで開状態と閉状態とを切り替える。第1開閉弁64を通過した冷却ガスは、冷却ノズル65へ進む。
【0059】
本実施形態では、押さえ治具42に、冷却ノズル65が設けられている。冷却ノズル65は、押さえ部46および軸部45に亘って形成された筒状部分である。
【0060】
冷却ノズル65は、噴射口65aを有している。噴射口65aは、加熱部材4が配置された熱処理室2内に配置されている。噴射口65aは、本発明の「抑制部」の一例であり、熱処理のために加熱された被処理物100における表面100aの光反射率の変化を抑制するために設けられている。噴射口65aは、熱処理のために被処理物100へ向けて冷却ガスを噴射する。本実施形態では、冷却ノズル65の大部分が熱処理室2内に配置されている。冷却ノズル65は、加熱部材4によって加熱された後の被処理物100へ向けて冷却ガスを噴射することで、被処理物100を急速に冷却する。冷却ノズル65は、被処理物100の上方から冷却ガスを噴射する。また、本実施形態では、冷却ノズル65は、近接冷却ノズルとして設けられている。
【0061】
より具体的には、被処理物100の冷却時において、冷却ノズル65の噴射口65aは、加熱・冷却位置P2に配置される。これにより、被処理物100の熱処理時(冷却時)において、冷却ノズル65の噴射口65aと被処理物100との距離D1が、加熱部材4と被処理物100との距離D2(最短距離)よりも短くなる(D1<D2)ように、冷却ノズル65が配置される。尚、本実施形態では、距離D1が距離D2よりも短くなる(D1<D2)ように冷却ノズル65が配置される形態を例示しているが、必ずしも、この通りでなくてもよい。距離D1が距離D2以上となる(D1≧D2)ように冷却ノズル65が配置される形態が実施されてもよい。冷却ノズル65の噴射口65aは、被処理物100へ向けて勢いよく冷却ガスを噴射することで、被処理物100の表面に大量の冷却ガスを吹き付ける。この構成により、冷却ノズル65は、被処理物100のうち後述する放射温度計71で測定される被測定部100bへ向けて冷却ガスを酸化抑制ガスとして供給する。本実施形態では、被測定部100bは、被処理物100の外周面のうち後述する窓部28と向かい合った部分である。
【0062】
冷却ノズル65の噴射口65aは、本実施形態では、押さえ治具42の押さえ部46の下面に形成されており、例えば押さえ部46の中心に配置されている。冷却ノズル65の噴射口65aの内径は、冷却ガスの流量に応じて適宜設定される。冷却ノズル65の噴射口65aは、加熱・冷却位置P2に配置された台座部44と上下に向かい合っている。本実施形態では、被処理物100が円筒状であることにより、冷却ノズル65は、被処理物100の中心に形成された孔部100cと向かい合っている。
【0063】
なお、本実施形態では、押さえ治具42に一つの噴射口65aが形成されている形態を例に説明しているけれども、この通りでなくてもよい。例えば、押さえ治具42の押さえ部46に、複数の噴射口65aが形成されていてもよい。冷却ノズル65の噴射口65aが押さえ部46の下面に複数設けられる場合、噴射口65aは、被処理物100の円周方向(軸線S1回りの周方向)に沿って等間隔に配置される。また、押さえ治具42以外の部材に冷却ノズル65が設置されてもよい。
【0064】
熱処理室2内の冷却ガスを含むガスは、放熱部66を通されることで放熱される。放熱部66は、熱処理室2の外部に配置されている。
【0065】
放熱部66は、循環路67と、熱交換器68と、循環ポンプ69と、第2開閉弁70と、を有している。
【0066】
循環路67は、熱処理室2内の冷却ガスが循環される通路であり、配管を用いて形成されている。循環路67の両端部は、熱処理室2に接続されている。より具体的には、循環路67のうちの入口部67aは、熱処理室2の例えば右側壁21に接続されており、出口部67bは、冷却ノズル65に接続されている。出口部67bと冷却ノズル65とは、図示しないフレキシブル配管を含む配管によって接続されている。これにより、冷却ノズル65の上下変位に伴う冷却ノズル65と、出口部67bと、の相対変位が可能である。
【0067】
循環路67において、入口部67aから出口部67bに向かう方向に沿って、熱交換器68および循環ポンプ69が順に設置されている。なお、熱交換器68の配置と循環ポンプ69の配置とは入れ替えられてもよい。
【0068】
熱交換器68は、例えばラジエターであり、ガス通路と放熱フィンとを含んでいる。熱交換器68を通過するガスの熱は、放熱フィンを通って循環路67の外部へ排出される。なお、熱交換器68は、熱交換器68を通過するガスの熱を放出可能な構成であればよく、具体的な構成は限定されない。
【0069】
循環ポンプ69は、熱処理室2内のガスを熱処理室2内の空間と循環路67内の空間(熱交換器68)とに循環させるために設けられている。循環ポンプ69は、電動モータを含んでおり、この電動モータの回転数をPWM(Pulse Width Modulation)制御すること等により、循環路67におけるガスの流量を設定する。
【0070】
第2開閉弁70は、電磁弁等を用いて形成されており、指令信号を与えられることで開状態と閉状態とを切り替える。第2開閉弁70を通過したガスは、冷却ノズル65へ進む。
【0071】
被処理物100の加熱時、および、被処理物100の冷却時において、被処理物100の温度は、測定部7によって測定される。測定部7は、熱処理のために加熱された被処理物100自体の温度を測定するために設けられている。本実施形態では、測定部7は、被処理物100の表面温度を測定する。
【0072】
測定部7は、被処理物100からの放射を測定する放射計としての放射温度計71を有している。
【0073】
放射温度計71は、被処理物100から発せられる例えば赤外線を検出し、この赤外線の測定結果から被処理物100の温度を算出する。放射温度計71は、被処理物100を非接触で温度測定する。放射温度計71は、赤外線が入射される検出素子71aを含んでいる。検出素子71aは、例えば、熱処理室2の外側に配置されている。そして、側壁21に形成された窓部28を通して、被処理物100の赤外線放射を、検出素子71aが検出する。窓部28は、例えばサファイアガラス等の赤外線透過性を有する材料で形成されており、側壁21に形成された枠部に嵌め込まれている。窓部28および検出素子71aは、加熱・冷却位置P2における被処理物100と水平方向に並ぶように配置されている。
【0074】
窓部28の大きさは、被処理物100からの赤外線が過度に多くならないように(放射温度計71の破損を防止するために)、被処理物100のうちの外殻部の一部が側壁21で隠されるように設定されていることが好ましい。また、本実施形態では、加熱・冷却位置P2における被処理物100の一部が、加熱部材4の側方から見て加熱部材4によって隠されるように配置されるとともに、被処理物100の残りの部分が、加熱部材4の隙間E1を通して窓部28から視認される。このように、加熱部材4は、被処理物100からの赤外線が過度に検出素子71aに入力されることを防止する遮蔽部材としても機能する。
【0075】
なお、上述の実施形態では、被処理物100および窓部28と一直線上に配置された検出素子71aが赤外線を検出する構成を説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、加熱・冷却位置P2の被処理物100から窓部28に真っ直ぐ進んだ箇所にミラーを配置し、このミラーに反射した赤外線を検出素子71aで検出してもよい。また、上述の構成では、検出素子71aが熱処理室2の外部から赤外線を観測する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、熱処理室2の外部に配置された検出素子71aに光ファイバー(図示せず)を接続し、この光ファイバーの先端を熱処理室2内において加熱部材4の近傍に配置してもよい。測定部7で検出された被処理物100の測定温度Txを示すデータは、制御部8へ出力される。
【0076】
被処理物100の加熱時には、被処理物100が磁力によって浮き上がらないように、載せ治具41と押さえ治具42の相対位置を設定することが好ましい。また、被処理物100の冷却時には、被処理物100へ向かう比較的低温の冷却ガスの流量がより多くなるように、冷却ノズル65の噴射口65aを被処理物100のより近くに配置することが好ましい。そこで、本実施形態では、位置調整部10が設けられている。
【0077】
位置調整部10は、被処理物100の加熱時における、加熱部材4と被処理物100との相対位置、および、押さえ治具42と被処理物100との相対位置を調整するように構成されている。また、位置調整部10は、被処理物100の冷却時における冷却ノズル65の噴射口65aと被処理物100との相対位置を調整するように構成されている。
【0078】
位置調整部10は、制御部8と、載せ治具変位機構51と、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52と、を有している。
【0079】
載せ治具変位機構51は、冷却ノズル65の噴射口65aに対して保持部材としての載せ治具41を変位させる保持部材変位機構である。載せ治具変位機構51は、載せ治具41を上下方向Z1に移動させる機能と、載せ治具41を軸線S1回りに回転させる機能と、を有している。載せ治具変位機構51は、例えば、搬送機構3の下方に配置されており、載せ治具41の軸部43に隣接配置されている。
【0080】
載せ治具変位機構51は、直線変位機構56と、回転機構57と、を有している。
【0081】
直線変位機構56は、載せ治具41を上下方向Z1に直線移動させるために設けられている。直線変位機構56は、例えば、ラックアンドピニオン機構、ボールねじ機構等を用いて形成されており、直線変位機構56に設けられた電動モータの回転力を、載せ治具41の上下運動に変換する。この構成により、直線変位機構56は、載せ治具41を、待機位置P1と加熱・冷却位置P2との間で往復移動させる。
【0082】
回転機構57は、加熱・冷却位置P2に位置している載せ治具41を軸線S1回りに回転させることで、熱処理時において被処理物100を回転させる。回転機構57は、例えば、直線変位機構56および載せ治具41が載せられたテーブルと、このテーブルを軸線S1回りに回転させる回転部と、回転部に駆動力を与える電動モータと、を有しており、この電動モータの回転力を、テーブルの回転力に変換する。なお、回転機構57は、加熱・冷却位置P2に位置している載せ治具41を軸線S1回りに回転させることが可能であればよく、具体的な構成は限定されない。
【0083】
押さえ治具・冷却ノズル変位機構52は、載せ治具41に対して押さえ治具42を変位させるための保持部材変位機構である。また、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52は、被処理物100に対して冷却ノズル65の噴射口65aを変位させる冷却ノズル変位機構である。押さえ治具・冷却ノズル変位機構52は、押さえ治具42および冷却ノズル65を変位させることで、冷却ノズル65の噴射口65aと被処理物100との相対位置を調整する。
【0084】
より具体的には、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52は、押さえ治具42および冷却ノズル65を上下方向Z1に移動させる。押さえ治具・冷却ノズル変位機構52は、例えば、加熱部材4の上方に配置されており、押さえ治具42の軸部45に隣接配置されている。
【0085】
押さえ治具・冷却ノズル変位機構52は、例えば、ラックアンドピニオン機構、ボールねじ機構等を用いて形成されており、当該押さえ治具・冷却ノズル変位機構52に設けられた電動モータの回転力を、押さえ治具42の上下運動に変換する。この構成により、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52は、押さえ治具42および冷却ノズル65を、待機位置P4と加熱・冷却位置P2との間で往復移動させる。
【0086】
上記の構成により、持上げ位置P1と、加熱・冷却位置P2と、待機位置P3,P4とは、上下方向Z1に並んでいる。
【0087】
載せ治具変位機構51、および、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52は、制御部8によって制御される。
【0088】
制御部8は、所定の入力信号に基づいて、所定の出力信号を出力する構成を有し、例えば、安全プログラマブルコントローラ(PLC)などを用いて形成することができる。安全プログラマブルコントローラとは、JIS(日本工業規格) C 0508-1のSIL2またはSIL3の安全機能をもつ公的に認証されたプログラマブルコントローラをいう。なお、制御部8は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含むコンピュータ等を用いて形成されていてもよい。
【0089】
制御部8は、冷却ノズル65から噴射される冷却ガスの流量および温度を制御するように構成されている。また、制御部8は、被処理物100の加熱時における、加熱部材4と被処理物100との相対位置、および、押さえ治具42と被処理物100との相対位置を制御するように構成されている。また、制御部8は、被処理物100の冷却時における冷却ノズル65の噴射口65aと被処理物100との相対位置を制御するように構成されている。制御部8は、熱処理室2の外部に配置されている。
【0090】
制御部8は、機器としての誘導加熱発振器9、搬送機構3の電動モータ、載せ治具変位機構51の直線変位機構56の電動モータ、回転機構57の電動モータ、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52の電動モータ、冷却部6の流量調整部63、冷却部6の開閉弁64,70、および、冷却部6の循環ポンプ69の電動モータのそれぞれと電気的に接続されており、これらの機器を制御する。また、制御部8は、放射温度計71に接続されており、放射温度計71で測定された測定温度Txを参照しながら制御動作を行う。すなわち、制御部8は、測定部7で測定された測定温度Txを参照し、被処理物100が所定の冷却速度(後述する温度履歴)で冷却されるように冷却部6等を制御する。
【0091】
次に、熱処理装置1における熱処理動作の一例を説明する。
図2は、熱処理装置1における焼入処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図3は、焼入処理の一例における被処理物100の温度履歴を示すグラフである。なお、温度履歴とは、温度と時間との関係をいう。
図3では、横軸が時間であり、縦軸が温度である。図の温度履歴は、被処理物100を、均熱温度T0まで加熱した後、均熱温度T0から第1冷却温度T1へ一定の第1冷却速度で冷却し、次いで、第2冷却温度T2へ一定の第2冷却速度で冷却する温度履歴を例示している。制御部8は、被処理物100の温度履歴が
図3に示す温度履歴となるように、すなわち、
図3の温度履歴を目標温度履歴として冷却部6等を制御する。
【0092】
図1~
図3を参照して、熱処理装置1による熱処理動作が行われる前の待機状態では、予め冷却ガス供給部6から冷却ノズル65へ冷却ガスが所定量供給されていることで、熱処理室2内の雰囲気は、冷却ガスと同じガスの雰囲気とされている。すなわち、冷却ガス供給部6は、熱処理室2内の雰囲気を調整するためのガス供給部でもある。
【0093】
そして、熱処理装置1における熱処理動作が開始されると、制御部8は、搬送機構3の電動モータを駆動することで、搬送トレイ31を入口24から持上げ位置P1まで搬送する(ステップS1)。
【0094】
次に、制御部8は、直線変位機構56の電動モータを駆動する。これにより、載せ治具41は、待機位置P1から搬送トレイ31の孔部31aを通って被処理物100を持ち上げ、被処理物100とともに加熱・冷却位置P2まで上昇する(ステップS2)。このとき、加熱部材4によって被処理物100が最も効率よく加熱される位置に被処理物100が到達するように、直線変位機構56の電動モータが制御部8のプログラムによって制御される。例えば、上下方向Z1における加熱・冷却位置P2の中心に被処理物100が配置されるように、載せ治具41が上昇する。
【0095】
次に、制御部8は、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52の電動モータを駆動することで、押さえ治具42および冷却ノズル65を、加熱部材4の上方の待機位置P4から加熱・冷却位置P2まで降下させる(ステップS3)。このとき、冷却ノズル65からの冷却ガスが被処理物100に最も効率よく噴射されるように、制御部8は、冷却ノズル65の噴射口65aと被処理物100との相対位置を設定する。例えば、冷却ノズル65の噴射口65aと被処理物100との間隔が数mm程度となるように、押さえ治具42および冷却ノズル65が配置される。
【0096】
なお、被処理物100を加熱・冷却位置P2へ上昇させる動作(ステップS2)と、押さえ治具42および冷却ノズル65を加熱・冷却位置P2へ降下させる動作(ステップS3)とは、同時に行われてもよい。また、押さえ治具42および冷却ノズル65を常時加熱・冷却位置P2に配置しておくことで、押さえ治具42および冷却ノズル65を待機位置P4から加熱・冷却位置P2へ降下させる動作(ステップS3)を行わなくてもよい。
【0097】
次に、制御部8は、誘導加熱発振器9に、加熱部材4へ誘導加熱のための電力を供給する指令を行うことで、加熱部材4による被処理物100の加熱処理を行わせる(ステップS4)。これにより、加熱部材4は、被処理物100に誘導加熱を行わせ、被処理物100を所定の加熱温度まで加熱する。
【0098】
このとき、制御部8は、放射温度計71で検出された測定温度Txと時間との関係が温度履歴の「昇温」区間および「均熱」区間(「加熱」区間)で示される関係となるように、誘導加熱発振器9を制御する。このとき、制御部8は、回転機構57の電動モータを駆動して被処理物100を回転させることで、被処理物100の各部をより均等に加熱してもよい。そして、所定時間経過後、制御部8は、誘導加熱発振器9に、加熱部材4への電力供給を停止する指令を行うことで、加熱部材4による被処理物100の加熱処理を完了する。回転機構57の電動モータ(被処理物100)が回転している場合、この回転は維持される。
【0099】
次に、被処理物100の冷却処理が行われる(ステップS5)。このとき、制御部8は、放射温度計71で検出された測定温度Txが
図3に示す温度履歴に沿うように冷却部6を制御する。具体的には、冷却ノズル65の噴射口65aを通して被処理物100へ冷却ガスを噴射する。これにより、冷却ガスは、矢印F1で示すように、噴射口65aから被処理物100へ噴射され、被処理物100を急速冷却する。
【0100】
冷却処理においては、制御部8は、以下の制御(a)、制御(b)の少なくとも一方を行う。
【0101】
制御(a)は、第1開閉弁64を開いた状態で流量調整部63を制御することにより、冷却ガス源61から冷却ノズル65(熱処理室2)へ供給される冷却ガスの流量を設定する制御である。
【0102】
制御(b)は、第2開閉弁70を開いた状態で循環ポンプ69の回転数を制御することにより、熱処理室2内のガス(冷却ガス)を循環路67の熱交換器68で降温させた後、このガスを冷却ガスとして冷却ノズル65へ供給する流量を設定する制御である。
【0103】
被処理物100の冷却処理(ステップS5)において、制御部8は、制御(a)のみによって被処理物100の冷却処理を行ってもよいし、制御(b)のみによって被処理物100の冷却処理を行ってもよい。この場合、開閉弁64,70のうちガスが供給されないほうの弁は、閉じられている。
【0104】
また、被処理物100の冷却処理(ステップS5)において、制御部8は、制御(a)を所定時間行った後に制御(b)を行ってもよいし、制御(b)を所定時間行った後に制御(a)を行ってもよい。この場合も、開閉弁64,70のうちガスが供給されないほうの弁は、閉じられている。冷却ガス源61からの冷却ガスが供給されない場合、冷却ガス源61からの冷却ガスの消費量をより少なくできる。
【0105】
また、被処理物100の冷却処理(ステップS5)において、制御(a)と制御(b)とが同時に行われてもよい。また、被処理物100の冷却処理(ステップS5)において、制御部8は、測定温度Txに応じて、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52の電動モータおよび直線変位機構56の電動モータの少なくとも一方を駆動させてもよい。これにより、制御部8は、被処理物100と冷却ノズル65との相対位置を測定温度Txと関連付けることができる。その結果、更なる効率的な冷却ガス噴射を実現できる。
【0106】
制御部8は、上述の制御(a)および制御(b)について、上記で例示した動作を行うことで、放射温度計71で検出された測定温度Txと時間との関係が温度履歴の「冷却1」区間および「冷却2」区間で示される関係となるよう、制御を行う。なお、被処理物100の材質および形状の少なくとも一方が変更されても、
図3に示す温度履歴となるように、制御部8による制御動作が行われる。すなわち、制御部8は、放射温度計71を用いたフィードバック制御により、被処理物100の材質および形状の少なくとも一方が変更されても、
図3に示す温度履歴となるように被処理物100を冷却できる。
【0107】
なお、本実施形態では、被処理物100の冷却処理時、被処理物100が、2段階の冷却速度で、第1冷却温度T1、第2冷却温度T2と段階的に冷却される形態を例に説明している。しかしながら、この通りでなくてもよい。被処理物100は、1段階または3段階以上の冷却速度で冷却されてもよい。また、上述の説明では、制御部8は、放射温度計71で測定された測定温度Txを参照しながら、冷却ノズル65から噴射されるガスの流量および温度を制御する形態を説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。制御部8は、被処理物100の冷却開始から冷却完了まで、冷却部6が初期状態(被処理物100の冷却開始時の動作状態)を維持するように冷却部6を制御してもよい。
【0108】
このように、被処理物100が冷却ガスで覆われるように冷却ノズル65から冷却ガスを噴射しつつ放射温度計71で温度測定することで、被処理物100における表面100aの光反射率の変化を抑制しつつ被処理物100自体の温度を測定しながら、被処理物100を冷却する。
【0109】
被処理物100の冷却時(ステップS5)、制御部8は、回転機構57の電動モータを駆動させて被処理物100を回転することで、被処理物100の各部をより均等に冷却できる。そして、測定温度Txが第2冷却温度T2に到達すると、制御部8は、開閉弁64,70を閉じるように開閉弁64,70を制御する。これにより、被処理物100の冷却処理が完了する。すなわち、被処理物100の熱処理が完了する。回転機構57の電動モータ(被処理物100)が回転している場合、この回転も停止される。
【0110】
次に、制御部8は、押さえ治具・冷却ノズル変位機構52の電動モータを駆動することで、押さえ治具42および冷却ノズル65を、待機位置P4まで上昇させる(ステップS6)。
【0111】
次に、制御部8は、直線変位機構56の電動モータを駆動することで、被処理物100を持上げ位置P1まで降下させる(ステップS7)。これにより、被処理物100は、再び搬送トレイ31のステー31bの周縁部に載せられる。このとき、載せ治具41は待機位置P3まで降下される。
【0112】
なお、押さえ治具42および冷却ノズル65を待機位置P4へ上昇させる動作(ステップS6)と、被処理物100を持上げ位置P1まで降下させる動作(ステップS7)とは、同時に行われてもよい。また、押さえ治具42および冷却ノズル65を常時加熱・冷却位置P2に配置しておくことで、押さえ治具42および冷却ノズル65を待機位置P4へ上昇させる動作(ステップS6)を行わなくてもよい。
【0113】
次に、制御部8は、搬送機構3の電動モータを駆動することで、搬送トレイ31を持上げ位置P1から出口25まで搬送する(ステップS8)。その後、出口扉27が開かれ、被処理物100は、熱処理室2から搬出される。
【0114】
以上説明したように、本実施形態によると、制御部8は、被処理物100そのものの温度を測定することで得られた測定温度Txに基づいて、被処理物100の冷却速度を設定できる。これにより、制御部8は、被処理物100の冷却時の温度履歴(時間と温度の関係)をより正確に把握できる。その結果、制御部8は、被処理物100が所望の温度履歴となるように冷却部6をより正確に制御できる。これにより、被処理物100の冷却の態様をより正確に制御でき、その結果、被処理物100をより正確に所望の状態で冷却できる。
【0115】
また、本実施形態によると、冷却部6は、被処理物100へ不活性ガスまたは還元性ガスを冷却ガスとして噴射する。この構成によると、被処理物100は、液体ではなく、不活性ガスまたは還元性ガスによって冷却される。このため、被処理物100の表面100aが酸化することを抑制できる。すなわち、被処理物100の冷却時に被処理物100の光輝度が変化することを抑制できる。
【0116】
また、本実施形態によると、測定部7は、被処理物100からの放射を測定する放射温度計71を含んでいる。そして、冷却ガスが不活性ガスまたは還元性ガスであるため、被処理物100は、被処理物100の光輝度の変化を抑制された状態で冷却される。このため、この構成によると、被処理物の光輝度の変化が抑制されており、放射温度計71を用いた被処理物100の温度測定をより正確に行える。その結果、測定部7は、被処理物100の表面温度をより正確に測定できる。
【0117】
また、本実施形態によると、制御部8は、冷却ガス源61から、被処理物100の配置されている熱処理室2への冷却ガスの流量を制御する。この構成によると、制御部8は、被処理物100の温度を変化させる影響の大きい要素としての冷却ガスの流量を制御することで、被処理物100の冷却速度をより確実に所望の状態にできる。
【0118】
また、本実施形態によると、冷却部6は、熱交換器68と、循環ポンプ69と、を含んでいる。この構成によると、熱処理室2内のガスを、熱交換器68で冷却できる。そして、制御部8は、循環ポンプ69の制御を通じて熱交換器68を通過するガスの流量を制御することで、熱処理室2内の冷却ガスの温度を所望の温度に、より正確に設定できる。
【0119】
また、本実施形態によると、熱処理室2では、冷却ガスが用いられることにより、被処理物100の表面100aの光反射率の変化を抑制されつつ当該被処理物100が冷却される。そして、被処理物100の表面100aの光反射率の変化が抑制されている結果、放射温度計71での温度測定結果が、被処理物100の表面状態の変化によって変動することを抑制できる。すなわち、放射温度計71での温度測定結果が被処理物100の真の温度に対して生じる誤差をより少なくできる。その結果、被処理物100の冷却時における当該被処理物100の温度をより正確に測定できる。被処理物100の冷却時の温度をより正確に測定できる結果、この温度測定結果を用いて被処理物100の冷却の態様をより正確に制御できる。これにより、被処理物100の各部における冷却度合いのばらつきを抑制できるので、金属製の被処理物100に歪みが発生することをより確実に抑制できる。
【0120】
また、本実施形態によると、冷却ノズル65の噴射口65aは、被処理物100のうち放射温度計71で測定される被測定部100bへ向けて不活性ガスまたは還元性ガスを酸化抑制ガスとして供給する。この構成によると、被測定部100bにおける被処理物100の酸化を確実に抑制できる。これにより、被処理物100の被測定部100bにおける光反射率の変化(光輝度の変化)を抑制できる。すなわち、被処理物100の冷却時に被処理物100の光反射率(光輝度)が変化することを抑制できる。その結果、光輝度によって温度測定結果が変化する放射温度計71を用いた温度測定において、光輝度に起因する温度測定誤差が生じることをより確実に抑制できる。
【0121】
また、本実施形態によると、冷却ノズル65は、酸化抑制ガスを、被処理物100を冷却する冷却ガスとして供給する。この構成によると、被処理物100は、液体ではなくガスによって冷却される。このため、放射温度計71による被処理物100の温度測定時に、液体が温度測定の邪魔にならずに済む。よって、測定部7は、被処理物100の温度をより正確に測定できる。その上、被処理物100の被測定部100bの光反射率の変化抑制のためのガスを冷却ガスとしても用いることができる。このため、光反射率の変化抑制のためのガスと、冷却ガスとを別々に用意する必要がなく、熱処理装置1の運用をより簡素にできる。また、被処理物100の冷却に気体であるガスを用いるので、被処理物100は、冷却処理後に大がかりな洗浄処理をされる必要がない。さらに、水や油等の冷媒を用いて被処理物100を冷却する場合と異なり、熱処理室2内が冷媒で汚染されることを防止できる。さらに、水や油等の冷媒を用いて被処理物100を冷却する場合と異なり、冷媒が地球環境に負荷を与える度合いを格段に小さくできるとともに、冷却工程後の洗浄工程(スケール除去工程)用の洗浄装置が不要であり、熱処理装置1の製造コストをおよび運用コストをより少なくできる。
【0122】
また、本実施形態によると、被処理物100の冷却時の温度を放射温度計71によって非接触によって直接的に測定できる結果、被処理物100に孔をあけて熱電対を差し込むような破壊検査をすることなく、正確な温度測定を実現できる。
【0123】
また、本実施形態によると、被処理物100の加熱から冷却完了までの間において、被処理物100の測定温度Txと時間との関係が焼入に必要な温度履歴(温度曲線)となるように、制御部8は、冷却部6(即ち冷却ガスの流量)を制御する。その結果、制御部8は、測定温度Txを用いたフィードバック制御により、個々の被処理物100に応じた加熱・冷却制御を実現できる。これにより、被処理物100の熱処理品質における個体差を極めて小さくできる。また、制御部8は、被処理物100の冷却時に測定温度Txを参照しながら冷却ガスの流量を設定するので、冷却ガスの消費量が過大にならずに済む。これにより、被処理物100の形状およびサイズが設計変更等によって変更されたときでも、同一の温度履歴となるように被処理物100を冷却できる。
【0124】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0125】
(1)上述の実施形態では、放射計として放射温度計71が用いられる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。放射計として、被処理物100からのエネルギー放射を検出しこのエネルギー放射から測定温度Txを取得可能な構成であればよく、放射温度計71以外の放射計が用いられてもよい。
【0126】
(2)また、上述の実施形態では、一つの熱処理室2において被処理物100の加熱および冷却が行われる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。被処理物100が加熱される加熱室と、被処理物100が冷却される冷却室とが別個に設けられていてもよい。
【0127】
(3)また、上述の実施形態において、被処理物100を冷却する冷却ガスと、被処理物100の被測定部7の光反射率の変化を抑制するための酸化抑制ガスとは、別の種類のガスであってもよい。
【0128】
(4)また、上述の実施形態では、冷却ノズルとして一つの冷却ノズル65が設けられる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、加熱部材4と水平に並ぶとともに加熱・冷却位置P2の被処理物100へ向けて冷却ガスを噴射する冷却ノズルとして、側方冷却ノズルが設けられていてもよい。また、載せ治具41内に冷却ノズルとしての下方冷却ノズルを設け、この下方冷却ノズルから被処理物100へ冷却ガスを噴射してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、熱処理装置および金属部品の製造方法として、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0130】
1 熱処理装置
2 熱処理室
6 冷却部
7 測定部
8 制御部
61 冷却ガス源
68 熱交換器
69 循環ポンプ
71 放射温度計(放射計)
100 被処理物
Tx 測定温度