(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】食品組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20220912BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20220912BHJP
A23L 31/10 20160101ALN20220912BHJP
【FI】
A23L27/00 C
A23L27/10 H
A23L31/10
(21)【出願番号】P 2018109814
(22)【出願日】2018-06-07
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】714004734
【氏名又は名称】テーブルマーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】松井 麻友佳
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-015683(JP,A)
【文献】特開2012-170354(JP,A)
【文献】特開昭54-046851(JP,A)
【文献】日本家政学会誌,2001年,52(7),pp.627-633
【文献】富山大学教育学部紀要,57,pp.113-120,2003
【文献】日本食品科学工学会誌,1995年,(42)12,p.1003-1011
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A23D
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母細胞及び油脂を含む混合物
の加熱物を含む、炒めた風味を付与するための食品組成物。
【請求項2】
酵母細胞及び油脂を含む混合物を、加熱することを含む、炒めた風味を付与するための食品組成物の製造方法。
【請求項3】
前記加熱を120℃~260℃で行う、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記油脂が植物由来である、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合物が酵母エキスを更に含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
香気成分として、2,3-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,3-ブタンジオン、メチルピラジン、2-[(メチルジチオ)メチル]-フラン、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、2-エチル-5-メチル-ピラジン、3-エチル-2,5-ジメチル-ピラジン及び2-フランメタノールのうち、少なくともひとつを含む、
請求項1に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炒めた風味を付与することのできる、食品組成物が求められている。例えば、特許文献1には、冷凍又は冷蔵加工食品の製造に際し、原料の一部を油ちょうして添加することを特徴とする炒め感、調理感を有する食品の製造法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法により、一定の炒めた風味を付与することは困難な場合がある。そこで、本発明は、炒めた風味を付与するための食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]酵母細胞及び油脂を含む混合物を加熱することを含む製造方法により製造された、炒めた風味を付与するための食品組成物。
[2]酵母細胞及び油脂を含む混合物を、加熱することを含む、炒めた風味を付与するための食品組成物の製造方法。
[3]前記加熱を120℃~260℃で行う、[2]に記載の製造方法。
[4]前記油脂が植物由来である、[2]又は[3]に記載の製造方法。
[5]前記混合物が酵母エキスを更に含む、[2]~[4]のいずれか一項に記載の製造方法。
[6]香気成分として、2,3-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,3-ブタンジオン、メチルピラジン、2-[(メチルジチオ)メチル]-フラン、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、2-エチル-5-メチル-ピラジン、3-エチル-2,5-ジメチル-ピラジン及び2-フランメタノールのうち、少なくともひとつを含む、食品組成物。
[7]炒めた風味を付与するためのものである、[6]に記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、炒めた風味を付与するための食品組成物を製造する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】は、実験例9において、酵母と油脂等の混合物を加熱し、得られた食品組成物の香気成分を、ガスクロマトグラフィー質量分析とスニッフィング試験により分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[製造方法]
一実施形態において、本発明は、酵母細胞及び油脂を含む混合物を、加熱することを含む、炒めた風味を付与するための食品組成物の製造方法を提供する。
【0009】
本明細書において、「香り」及び「臭い」は、鼻から吸い込んだ時の評価のことを指す(オルトネーザル)。「風味」は、口に食品を含み、食品から鼻に抜ける「香り」及び味を合わせた評価のことを指す(レトロネーザル)。
【0010】
本実施形態の製造方法により得られる食品組成物を飲食品等に添加することにより、旨味、味の厚み及び複雑さ等の風味が飲食品等に付与され、飲食品等が炒める調理工程を経ていないにも関わらず、炒めた風味を呈するようになる。
【0011】
炒めた風味とは、例えば、炒めた野菜が呈する風味であるが、これに限定されず、炒められた肉や魚等の動物性原料、加熱された穀物やごま等の風味を含む場合がある。
【0012】
本実施形態の製造方法において、原料に含まれる酵母細胞としては、特に限定されず、食品製造のために用いられる酵母であればよい。例えば、酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母、パン酵母、トルラ酵母等を用いることができる。例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)に属する酵母細胞やキャンディダ(Candida)に属する酵母細胞であることがより好ましいが、これに限定されない。
【0013】
前記加熱の温度としては、120℃~260℃であることが好ましく、150℃~260℃がより好ましく、200℃~260℃が特に好ましい。
【0014】
しかしながら、前記食品組成物を工場で大量生産する場合には、高温で加熱することが困難な場合がある。そして、実施例において後述するように、120℃~150℃の加熱では炒めた風味が得られにくい場合がある。
【0015】
これについて、発明者らは、実施例において後述するように、120℃~150℃という低めの温度範囲においても、酵母細胞と油脂を含む混合物に酵母エキスを更に含めることにより、炒めた風味が得られることを明らかにした。
【0016】
混合物に酵母エキスを添加する場合には、加熱温度は、120℃~200℃であることが好ましく、120℃~180℃がより好ましく、120℃~150℃が特に好ましい。
【0017】
加熱時間としては、特に限定されないが、前記混合物が加熱温度に達するまでの短時間から、加熱温度に達してから30分以内が好ましい。
【0018】
油脂としては、植物由来の油脂を好ましく用いることができる。例えば、菜種油のひとつであるキャノーラ油を用いることができるが、これに限定されず、例えば、パーム油、菜種油、こめ油、大豆油、コーン油、ごま油、サフラワー油、綿実油、ひまわり油、アーモンド油、オリーブ油等を用いることができる。
【0019】
酵母エキスとしては、特に限定されず、炒めた風味を増強する目的で、含硫化合物、プロリン、グルタミン酸、グルタチオン等のアミノ酸又はアミノ酸からなるペプチド、ヌクレオチド等の核酸、有機酸等の含有量が高いものを用いることもできる。
【0020】
酵母エキスとしては、市販品を利用することができるが、これに限定されず、自ら調製してもよい。酵母エキスの調製方法としては、自己消化法、酵素分解法、熱水抽出法、酸/アルカリ分解法、物理的破砕法、凍結融解法等が挙げられる。酵母エキスは1種類のみを用いてもよいが、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。例えば、プロリン高含有酵母エキスであるハイマックスPR(富士食品工業社製)、調整型酵母エキスであるフレバレックスHF-P(富士食品工業社製)等が挙げられる。
【0021】
本実施形態の製造方法により製造される食品組成物には、一般に食品に含まれる材料を更に添加することができる。このような材料としては、例えば、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸、グアニル酸、澱粉、デキストリン、核酸、タンパク質加水分解物、還元糖、糖アルコール、ラード、コーン油、食品添加物等が挙げられる。
【0022】
酵母細胞と油脂の混合物のpHは、適宜調整してもよい。目的のpHに調整するために、例えば、塩酸、硫酸、乳酸、酢酸、クエン酸、リン酸、炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウムを混合物に添加してもよい。
【0023】
[食品組成物]
(第一実施形態)
一実施形態において、本発明は、酵母細胞及び油脂を含む混合物を加熱することを含む製造方法により製造された、炒めた風味を付与するための食品組成物を提供する。
【0024】
なお、上述した製造方法により製造された食品組成物は、炒めた風味を付与することができる。しかしながら、前記食品組成物に含まれる化学物質は非常に多岐にわたるため、これらの炒めた風味を付与する物質を特定することは困難である。また前記物質を特定することが困難であるため、前記物質の含有量により、炒めた風味を付与する食品組成物であるか否かを特定することも困難である。
【0025】
(第二実施形態)
第二実施形態において、本発明は、香気成分として、2,3-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,3-ブタンジオン、メチルピラジン、2-[(メチルジチオ)メチル]-フラン、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、2-エチル-5-メチル-ピラジン、3-エチル-2,5-ジメチル-ピラジン及び2-フランメタノールのうち、少なくともひとつを含む、食品組成物を提供する。本実施形態の食品組成物は上記香気成分の全てを含むことが好ましい。実施例において後述するように、炒めた風味を付与する食品組成物は、少なくとも上記の香気成分を含むことが明らかとなった。
【0026】
食品組成物の香気成分は、例えば、ガスクロマトグラフィーによって分析することができる。また、ガスクロマトグラフィーにより分離した香気成分を質量分析することにより、香気成分の化学構造を推定することができる。
【0027】
実施例において後述するように、香りの強さを評価するために、ガスクロマトグラフィーにより分離した香気成分の一部を鼻から吸い込み、香りを評価するスニッフィング試験を行ってもよい。香りは、必ずしも多く含まれる化学物質によって決まるわけではない。例えば、ごく微量に含まれる化学物質に対して、強い香りを感じる場合がある。
【0028】
前記香気成分を含む前記食品組成物は、炒めた風味を付与するために用いることができる。
【0029】
本実施形態の食品組成物が添加される食品としては、特に制限はなく、ヒトが経口摂取するもの又はペットフードや飼料等として用いるものも含まれる。
【0030】
前記食品としては、特に制限はない。例えば、野菜炒め、炒飯、焼きそば、スパゲッティ、その他の多くの中華料理等といった、通常は炒める工程を経る食品が挙げられる。これらの具材を炒めずに混合したものに対し、本実施形態の食品組成物を添加すると、前記食品に炒めた風味が付与される。また、本実施形態の食品組成物を、炒めた工程を経た食品に対して、更に適度な炒めた風味の付与や、炒めた風味を増強する目的で添加することもできる。
【0031】
また、食品の材料に対し、本実施形態の食品組成物を含有させて、炒めた風味を付与することもできる。例えば、唐揚げや天ぷらの衣に添加してもよく、コロッケやハンバーグ等の食品の種に添加してもよく、畜肉や魚肉にインジェクションしてもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
[酵母細胞]
以下の実験例では次の酵母を使用した。カンジダ・ユチリス AHR21株(受託番号:FERM BP-6099)(以下、「酵母A」という)、サッカロミセス・セレビシエ IFO10150(以下、「酵母B」という)、サッカロミセス・セレビシエ FT-4(受託番号:FERM BP-8081)(以下、「酵母C」という)、サッカロマイセス・セレビシエ JT-YE-P-52(受託番号 FERM BP-10725)(以下、「酵母D」という)、市販品酵母 白神こだま酵母 株式会社サラ秋田白神製(以下、「酵母E」という)。
【0034】
[実験例1]
(酵母、油脂及び糖類の検討)
酵母細胞、油脂及び糖類を様々な組み合わせで混合して加熱し、風味を検討した。
【0035】
まず、ホットプレートに油をひき、表1に示す反応条件の温度まで加熱した。続いて、酵母細胞として酵母E 10gと、表1に示す種類及び量の油脂と、必要に応じてグルコース又はフルクトースを10g加え、表1に示す所定時間加熱し、試験例1-1~1-8の食品組成物(以下、原液という場合がある。)を得た。
【0036】
続いて加熱反応後の食品組成物及び食品組成物を80℃の熱水で2.5質量%に希釈したものについて、官能評価を行った。また、評価が良好であった試験例1-2、1-3、1-4の食品組成物を生の野菜に1質量%混ぜ、電子レンジで加温し、官能評価を行った。結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
その結果、油脂としてキャノーラ油を使用した場合に、炒めた香り、焦げた香り、煮干し様の香り、甘い香りが得られる傾向が認められた。原材料にグルコースを含む場合には、やや薬品臭が感じられるものの、香ばしい香りが感じられた。
【0039】
また、試験例1-3及び1-4の食品組成物を野菜に混ぜて加温すると、炒めた風味が付与されることが明らかになった。
【0040】
[実験例2]
(酵母細胞株の検討1)
酵母の種類を変えて食品組成物の風味を検討した。
【0041】
酵母Cと酵母Eを、それぞれ油脂と混合して加熱し、風味を評価した。ヒーターでヒートブロックを加熱し、ヒートブロックの内温が200℃に達した時点で、各酵母細胞0.8gとキャノーラ油7.2gをそれぞれ混合したバイアルをヒートブロックに置き、表2に示す時間加熱し、試験例2-1~2-4の食品組成物を得た(以下、原液という場合がある。)。
【0042】
続いて加熱反応後の食品組成物及び食品組成物を80℃の熱水で0.83質量%に希釈したものについて、官能評価を行った。結果を表2に示す。その結果、原料に酵母Cを含む場合に、炒めた香りが得られることが明らかになった。また、酵母Eを使用した場合にも、炒めた香りに近いごま油様の香りを得ることができた。
【0043】
【0044】
[実験例3]
(酵母細胞株の検討2)
酵母の種類を更に変えて、食品組成物の風味を検討した。
【0045】
まず、種々の酵母細胞をホットプレートに載せて200℃で乾燥させた後、粉砕し粉末状とした。続いて、ヒーターでヒートブロックを加熱し、ヒートブロックの内温が200℃に達した時点で、粉末状の酵母細胞0.8gとキャノーラ油7.2gを混合し、30分間加熱し、試験例3-1~3-4の食品組成物(以下、原液という場合がある。)を得た。
【0046】
続いて、加熱反応後の食品組成物、食品組成物を80℃の熱水で2.5質量%に希釈したもの、及び食品組成物を80℃の熱水で0.83質量%に希釈したものの官能評価を行った。結果を表3に示す。その結果、原料が酵母A、酵母C、酵母Dを含む場合に、炒めた香りが得られることが明らかになった。
【0047】
【0048】
[実験例4]
(温度の検討)
加熱温度の検討を行った。
【0049】
ヒーターでヒートブロックを加熱し、ヒートブロックの内温が表4、表5に示す温度に達した時点で、種々の酵母細胞0.8gとキャノーラ油7.2gを混合したバイアルをヒートブロックに置き、所定時間加熱し、試験例4-1~4-9の食品組成物(以下、原液という場合がある。)を得た。
【0050】
続いて、加熱反応後の食品組成物、食品組成物を80℃の熱水で0.83質量%又は2.5%に希釈したものの官能評価を行った。結果を表4と表5に示した。
【0051】
【0052】
【0053】
その結果、加熱温度を上げた場合に炒めた香りが得られ、特に加熱温度が200℃以上の場合に炒めた香りが顕著に得られた。また、加熱温度が150℃の場合には、加熱温度が200℃の場合よりも炒めた香りが若干弱くなるが、甘い香りが得られた。加熱温度が260℃の場合には、食品組成物は甘い香りやナッツ様の香りを呈した。
【0054】
[実験例5]
(凍結及び加熱乾燥酵母細胞の検討)
酵母細胞として、凍結乾燥品と加熱乾燥品を用いて検討を行った。ヒーターでヒートブロックを加熱し、ヒートブロックの内温が200℃に達した後に、種々の酵母細胞0.8gとキャノーラ油7.2gを混合したバイアルをヒートブロックに置き、10分間加熱し、試験例5-1~5-3の食品組成物(以下、原液という場合がある。)を得た。原料には、培養した酵母細胞を凍結乾燥又は加熱乾燥させたものを使用した。
【0055】
加熱反応後の食品組成物、食品組成物を80℃の熱水で2.5質量%に希釈したもの、及び0.83質量%に希釈したものについて官能評価を行った。結果を表6に示した。その結果、原料が、凍結乾燥品、加熱乾燥品いずれの場合も、炒めた香りが得られた。
【0056】
【0057】
[実験例6]
(油脂及び水の量の検討)
酵母細胞に混合する油脂及び水の量について検討した。酵母細胞Cに適量の水を加え加熱乾燥を行った後、粉砕し、粉末状の乾燥酵母細胞Cを得た。得られた乾燥酵母細胞、油脂、水を表7に示す割合で混合してステンビーカーに入れた。また、比較例として、乾燥酵母細胞のみをステンビーカーに入れた。これらを加熱し、内温が120℃に達した時点で加熱を終了し、試験例6-1~6-4の食品組成物を得た。得られた食品組成物について官能評価を行った。結果を表7に示した。
【0058】
その結果、酵母Cに油を混ぜて加熱すると、ごま様の香りが得られることが明らかになった。
【0059】
【0060】
[実験例7]
(焙煎の検討)
油脂の非存在下又は存在下で酵母Cを加熱し、風味を検討した。また、加熱温度と時間についても検討した。表8に示す組成で乾燥酵母細胞Cとキャノーラ油を混合し、ホットプレートに置き、表8に示す反応条件で、これらを加熱し、試験例7-1~7-4の食品組成物を得た。達温では、内温が120℃に達した時点で加熱を終了した。得られた食品組成物について官能評価した結果を表9に示した。
【0061】
【0062】
【0063】
その結果、試験例7-2はロースト臭を呈するものの、ごま特有の風味を呈さなかった。一方、試験例7-3はごま特有の香ばしさと風味が強く、最も好ましい評価を得た。更に、加熱条件を強くした試験例7-4は、焦げた香りを呈した。本実験例の結果から、酵母細胞を油脂と共に加熱することにより、ごま様の風味が、より強く感じられることが明らかになった。
【0064】
[実験例8]
(酵母エキス添加の検討)
低めの温度での加熱により、炒めた風味を付与する食品組成物を製造するための、副原料を検討した。
【0065】
ステンビーカーに酵母細胞C、種々の副原料、油脂及び水を加え、配合品とした。試験例8-1の配合品には酵母C15g、試験例8-2の配合品には酵母C12.5gとフレバレックスHF-P 2.5g、試験例8-3の配合品には酵母C12.5gとハイマックスPR 2.5gを加え、さらにそれぞれに油10gと水5gを加えた。
【0066】
混合した各配合品を150℃で10分間加熱し、試験例8-1~8-3の食品組成物(以下、原液という場合がある。)を得た。続いて、加熱反応後の食品組成物、及び食品組成物を80℃の熱水で0.5質量%に希釈したものの官能評価を行った。
【0067】
また、野菜への添加試験を行った。具体的には野菜に対して、10質量%塩だれを添加した。塩だれ中には、試験例8-1~8-3の食品組成物を、それぞれ10質量%添加した。続いて、電子レンジで、500W、3分間加温し、得られたものを官能評価した。炒めた風味を感じた場合には+、炒めた風味を強く感じた場合には++と評価した。結果を表10に示す。
【0068】
【0069】
その結果、酵母Cを含む原材料を200℃以上で加熱した食品組成物と比較して、150℃で加熱した食品組成物は炒めた風味が弱くなることが明らかとなった。一方、酵母エキスを原材料に追加し、150℃で加熱することにより、200℃以上で酵母細胞を含む原材料を加熱した場合と同様の炒めた風味を得られることが明らかになった。
【0070】
[実験例9]
(香気成分の分析)
食品組成物の香気成分を分析した。
【0071】
まず、表11に示す材料を混合して混合物を得た。続いて、前記混合物をハイブリッド釜で、140℃、10分間加熱した。加熱後の混合物を静置し、固形分と油分に分離させ、フィルターを用いて固形分を取り除き、試験例9-1の食品組成物を得た。
【0072】
【0073】
試験例9-1の食品組成物の香りを官能評価するために、ガスクロマトグラフィーにより分離した香気成分の一部を鼻から吸い込み評価した(スニッフィング試験)。また、その香気成分の一部を質量分析し、香気成分の化学構造を推定した。
【0074】
香気成分の分析に用いた機器と、測定条件は以下の通りである。
装置:VARIAN CP-3800 GC/VARIAN 300-MS
カラム:DB-WAX 60m×0.25mm,I.D.0.25μm
前処理:SPME法 Carboxen/Polydimethylsiloxane
スプリット比:スプリットレス
昇温:50℃(5min)-5℃/min-240℃(10min)
キャリアガス:He(1.2ml/min)、スニフィング分岐1:1
イオン源温度:230℃
トランスファーライン温度:300℃
イオン化法:EI、70eV
【0075】
ガスクロマトグラフィーとスニッフィング試験の結果を
図1に示す。図中、A~Iのピークを質量分析した。その結果、Aは2,3-ジメチルピラジンであり、Bは2,5-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンであり、Cは2,3-ブタンジオンであり、Dはメチルピラジンであり、Eは2-[(メチルジチオ)メチル]-フランであり、Fは(E,E)-2,4-ヘプタジエナールであり、Gは2-エチル-5-メチル-ピラジンであり、Hは3-エチル-2,5-ジメチル-ピラジンであり、Iは2-フランメタノールであると推定された。
【0076】
また、2,3-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンが、顕著に炒めた香りを付与すると推定された。2,3-ブタンジオン、メチルピラジン及び2-[(メチルジチオ)メチル]-フランも、炒めた香りを付与すると推定された。また、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、2-エチル-5-メチル-ピラジン、3-エチル-2,5-ジメチル-ピラジン及び2-フランメタノールは、炒めた香りの付与に寄与し得ると推定された。
【0077】
2,3-ジメチルピラジンは、単体では、油脂様の、やや甘めのナッツの香りである。2,5-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンは、それぞれ単体では、ローストしたナッツ様の香りである。2,3-ブタンジオンは、単体では、バター様の香りである。メチルピラジンは、単体では、ポップコーン様の香りである。2-[(メチルジチオ)メチル]-フランは、単体では、煙様の香りである。
【0078】
上記の物質は、通常の野菜炒めには炒めた風味の寄与成分として検出されることが困難であったが、本実施例では炒めた風味の寄与成分であることが明らかとなった。
【0079】
[実験例10]
(調理品の官能評価)
下記のそれぞれ作製した調理品に試験例9-1の食品組成物を添加し、無添加品と比較した官能評価試験を行った。
【0080】
[実験例11]
(焼きそば)
焼きそばの原材料の組成を表12に示す。麺を約4分間炒め、別に豚バラ肉に油を入れて炒めた。炒めた豚バラ肉にキャベツと麺を載せて約2分間蒸した後、全体を混ぜて軽く炒め、最後に焼きそばソースを加えて全体を混ぜた。調理前に、対照区ではキャノーラ油を焼きそばソースと混合し、添加区では試験例9-1の食品組成物を焼きそばソースと混合した。
【0081】
【0082】
各風味の評価については、かなり強い(2点)、やや強い(1点)、対照区と差がない(0点)、やや弱い(-1点)、かなり弱い(-2点)とした。評価は訓練された4人のパネラーによって行った。
【0083】
焼きそばの官能評価項目と評価の平均点及び標準偏差を表13に示す。添加区では、対照区よりも炒めた風味が強く感じられた。また、麺の風味は残り、しっとりとした油脂の風味が感じられた。焼きそばソースの香辛料の味及び酸味はマイルドになった。
【0084】
【0085】
[実験例12]
(野菜(炒め調理なし))
野菜(炒め調理なし)の原材料を表14に示す。対照区では表15に示す組成で野菜とキャノーラ油をよく混ぜ合わせ、添加区では表14に示す組成で野菜と試験例9-1の食品組成物をよく混ぜ合わせた。これを炒めずに、電子レンジで500W、1分30秒間加熱した後、塩コショウを入れて、よく混合した。
【0086】
【0087】
野菜の官能評価項目と評価の平均点及び標準偏差を表15に示す。添加区では、炒めた風味が感じられ、対照区よりも野菜の風味に広がりが出て強くなり、油脂の風味が増し、肉の風味が感じられた。
【0088】
【0089】
[実験例13]
(ごまドレッシング)
ごまドレッシングの原材料を表16に示す。酢、醤油、砂糖、練りごま、マヨネーズを、この順に混合し、キャノーラ油を少量ずつ加えながら混合した。添加区では、最後に試験例9-1の食品組成物を加え、さらに混合した。
【0090】
【0091】
ごまドレッシングの官能評価項目と評価の平均点及び標準偏差を表17に示す。添加区は、対照区よりも、広がりのある風味となり、ごまの風味が強くなり、また、ぶどう酢を加えたような、まろやかな甘みが感じられた。
【0092】
【0093】
[実験例14]
(炒飯(炒め調理あり))
炒飯(炒め調理あり)の原材料を表18に示す。フライパンに油をひき、卵、炊いた白米、塩とグルタミン酸ナトリウム、チャーシューと長ねぎを入れて炒めた。対照区にはキャノーラ油、添加区には試験例9-1の食品組成物を入れ、さらに、醤油、白コショウの順に入れて、炒めた。調理した炒飯をバットに広げ、急速冷凍にかけた。冷凍した炒飯を皿に入れ、ラップをして、電子レンジで500W、4分間加熱した。
【0094】
【0095】
炒飯(炒め調理あり)の官能評価項目と評価の平均点及び標準偏差を表19に示す。添加区は、対照区よりも炒めた風味がやや強く、全体的に抑えられてまとまった風味となった。また、チャーシューの風味が強くなり、豚の香りが口に広がった。
【0096】
【0097】
[実験例15]
(炒飯(炒め調理なし))
炒飯(炒め調理なし)の原材料を表20に示す。フライパンにキャノーラ油をひき、卵とねぎを別々に炒めた。チャーシューは角切りにした。ボウルに、炊いた白米、前記の卵、ねぎ、チャーシューを入れ、添加区と対照区にそれぞれの調味料部を加えて、混ぜ合わせた。混ぜ合わせた炒飯をバットに広げ、急速冷凍にかけた。冷凍した炒飯を皿に入れ、ラップをして、電子レンジで500W、4分間加熱した。
【0098】
【0099】
炒飯(炒め調理なし)の官能評価項目と評価の平均点及び標準偏差を表21に示す。添加区は、対照区よりも、広がりのある風味となり、油脂の風味、炒めた風味が強くなった。
【0100】
【0101】
[実験例16]
(スパゲッティ・ナポリタン)
スパゲッティ・ナポリタンの原材料を表22に示す。ウィンナーを斜めに薄く切り、玉ねぎを薄く切り、ピーマンを輪切りにした。トマトケチャップに、対照区ではキャノーラ油を、添加区では試験例9-1の食品組成物を加えて混合した。パスタをゆでて、フライパンにキャノーラ油10gをひいて具材を炒めた。具材に混合したトマトケチャップを入れて混ぜた。これにゆでたパスタを加え混ぜた。
【0102】
【0103】
スパゲッティ・ナポリタンの官能評価項目と評価の平均点及び標準偏差を表23に示す。添加区では、対照区よりも炒めた風味が強く感じられた。また、添加区では、まろやかな風味となり、広がりのある風味となった。
【0104】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、炒めた風味を付与するための食品組成物を提供することができる。