(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】シート状吸着材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20220912BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220912BHJP
B01J 20/32 20060101ALI20220912BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220912BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
B01J20/22 A
B01J20/28 Z
B01J20/32 Z
A61L9/01 K
A61L9/16 Z
(21)【出願番号】P 2018123202
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】田村 勇記
(72)【発明者】
【氏名】久米 哲也
(72)【発明者】
【氏名】谷 信幸
(72)【発明者】
【氏名】吉村 里恵
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-077536(JP,A)
【文献】特開2014-108260(JP,A)
【文献】特開2014-133220(JP,A)
【文献】国際公開第2016/195009(WO,A1)
【文献】特開2002-292287(JP,A)
【文献】特開平08-126840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28;20/30-20/34
A61L 9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状通気性
繊維基材と、多孔質吸着剤及びバインダーを含有するコート材とを含み、前記多孔質吸着剤は前記バインダーを介して前記シート状通気性
繊維基材に結合しているシート状吸着材であって、前記多孔質吸着剤は、アルデヒド類と化学反応する有機化合物を多孔質担体上に担持してなり、
前記バインダーはエマルション系の有機バインダーであり、前記有機化合物はアゾール系化合物であり、前記多孔質担体は活性炭であり、前記シート状吸着材の1cm
3当たりの前記コート材の密度は0.10~0.25g/cm
3であ
り、前記バインダーのマーロン試験値が0.15%以下であるシート状吸着材。
【請求項2】
空隙率が65~85%である、請求項1に記載のシート状吸着材。
【請求項3】
前記有機化合物として4-アミノ-1,2,4-トリアゾールを少なくとも含んでいる、請求項1
又は2に記載のシート状吸着材。
【請求項4】
前記シート状通気性
繊維基材は、ポリエチレンテレフタレートを少なくとも含有する材料からなる、請求項1~
3のいずれか1項に記載のシート状吸着材。
【請求項5】
シート状通気性
繊維基材と、多孔質吸着剤及びバインダーを含有するコート材とを含み、前記多孔質吸着剤は前記バインダーを介して前記シート状通気性
繊維基材に結合しているシート状吸着材であって、前記多孔質吸着剤は、アルデヒド類と化学反応する有機化合物を多孔質担体上に担持してなり、
前記バインダーはエマルション系の有機バインダーであり、前記有機化合物はアゾール系化合物であり、前記多孔質担体は活性炭であり、前記シート状吸着材の1cm
3当たりの前記コート材の密度は0.10~0.25g/cm
3であ
り、前記バインダーのマーロン試験値が0.15%以下であるシート状吸着材の製造方法であり、
前記多孔質吸着剤と前記バインダーを含有するスラリーに、前記シート状通気性
繊維基材を接触させる工程と、
前記スラリーと接触した前記シート状通気性
繊維基材を絞る工程と、
前記絞り工程を経た前記シート状通気性
繊維基材を乾燥する工程と、
を含むシート状吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記シート状吸着材の空隙率が65~85%である、請求項
5に記載のシート状吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記シート状吸着材は、前記有機化合物として4-アミノ-1,2,4-トリアゾールを少なくとも含んでいる、請求項
5又は6に記載のシート状吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記シート状通気性
繊維基材は、ポリエチレンテレフタレートを少なくとも含有する材料からなる、請求項
5~
7のいずれか1項に記載のシート状吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状吸着材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中には、鼻粘膜、眼粘膜、咽頭粘膜等の諸粘膜、更には皮膚を刺激し得る化学物質が数多く存在している。中でも、建材や車室内で発生するホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド類は、化学物質過敏症やシックハウス症候群の原因と考えられているため、排出規制等の対象となっている。また、近年、生活水準の著しい向上と共に、より快適な生活環境や作業環境が求められている中、アルデヒド類は代表的な悪臭成分であり、低濃度でも臭気を感じやすいため、アルデヒド類の除去については益々ニーズが高まっている。
【0003】
空気中のアルデヒド類を除去する手段の一つとして、アルデヒド類と反応して無害化するような化学物質を水等の溶媒に溶解又は分散させてなる様々なアルデヒドキャッチャー剤が開発されている。例えば、特許文献1には、軟質ポリウレタンフォームからなるシート用パッドの表面にアルデヒドキャッチャー剤を塗布することにより、シート用パッドからホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機化合物が放散することを抑制する技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、アルデヒドキャッチャー剤を使用した場合、効果を得るためにはある程度多量のアルデヒドキャッチャー剤を基材に塗布する必要がある。また、特許文献1にあるようにシート用パッドの表面全体にアルデヒドキャッチャー剤を塗布すると、アルデヒドキャッチャー剤の使用量が増えるだけでなく、乾燥時間が長くなり作業性が悪くなるという問題もある。更に、アルデヒドキャッチャー剤が金属や布製品の上に残った場合、変色の原因になるという問題も有している。
【0005】
空気中の化学物質を除去する他の手段として、大きな表面積と細孔容積を有する活性炭等の多孔質体による物理吸着がある。例えば、活性炭をコーティングされたシートは、新築家屋、新電化製品などから排出されるホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等の揮発性有機化合物を除去するために使用されている。しかしながら、活性炭をコーティングされたシートはある程度の揮発性有機化合物を吸着するものの、脱離量も多いという問題があった。特に、沸点の低い低級アルデヒド類に対しては効果が不十分であった。
【0006】
多孔質体による化学物質の物理的な吸着には限界があるため、補助的に化学的な吸着を行うための成分として化学吸着剤を多孔質体に担持してなる多孔質吸着剤が使用されることがある。例えば、特許文献2には、アルデヒド類について優れた吸着特性と吸着後の脱離抑制能とを備えたシート状吸着材として、アゾール化合物及び/又はヒドラジド化合物を担持した多孔質吸着剤が、バインダーを介してシート状基材に固定化されたシート状吸着材が開示されている。
【0007】
また、エアフィルター用途のように、被処理ガスが動的である条件下で使用される用途に特化したシート状吸着材として、特許文献3には、多孔質シリカ等の無機粒子(但し、活性炭を除く)、酸ヒドラジド、及びアミノ基を有する吸湿剤(例えば、尿素、尿素誘導体、グアニジン塩、アミノグアニジン塩等)を基材上に有する繊維シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-124743号公報
【文献】特開2014-133220号公報
【文献】特開2008-138300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
多孔質体や化学吸着剤によるアルデヒド類等の化学物質の除去性能を高めるために、例えば基材に保持される化学吸着剤や多孔質体の目付、すなわち基材1m2当たりの保持量を好適な範囲に調整することなどが一般的に行われている。
【0010】
しかしながら、本発明者等の研究により、基材に保持される化学吸着剤や多孔質体の目付の好適な範囲を見出すだけでは、アルデヒド類の除去速度は一定レベル以上には向上しないことがわかっている。上述の通り、アルデヒド類の除去に対するニーズは益々高まっている。このような状況の中、アルデヒド類の除去速度に更に優れるシート状吸着材の開発が望まれる。
【0011】
本発明は、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド類の除去速度に優れたシート状吸着材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
シート状基材に保持される多孔質吸着剤の目付の好適な範囲を見出しても、アルデヒド類の除去速度は一定レベル以上には向上しない原因について鋭意研究を進めた結果、以下のことがわかった。すなわち、アルデヒド類の除去速度を高レベルな領域まで上げるためには、アルデヒド類を含む被処理ガスと、バインダーを介してシート状基材に固定化される多孔質吸着剤との接触状態を良化することが重要である。そして、そのためにはシート状吸着材に保持される多孔質吸着剤とバインダーを含有するコート材の密度(以下において、「コート密度」ともいう。)が重要なファクターとなる。本発明は、このような知見に基づき開発されたものであり、例えば以下の態様を有する。
【0013】
<態様1>
シート状通気性基材と、多孔質吸着剤及びバインダーを含有するコート材とを含み、上記多孔質吸着剤は上記バインダーを介して上記シート状通気性基材に結合しているシート状吸着材であって、上記多孔質吸着剤は、アルデヒド類と化学反応する有機化合物を多孔質担体上に担持してなり、上記シート状吸着材の1cm3当たりの上記コート材の密度は0.10~0.25g/cm3であるシート状吸着材。上記コート材の密度は、0.10~0.21g/cm3であってよく、0.10~0.15g/cm3であってよく、又は0.10~0.13g/cm3であってよい。
【0014】
<態様2>
空隙率が65~85%である、態様1に記載のシート状吸着材。上記空隙率は、68~85%であってよく、75~85%であってよく、又は79~85%であってよい。
【0015】
<態様3>
上記バインダーのマーロン試験値が0.15%以下である、態様1又は2に記載のシート状吸着材。上記マーロン試験値は、0.13%以下であってよく、0.06%以下であってよく、又は0.03%以下であってよい。
【0016】
<態様4>
上記有機化合物としてアゾール系化合物を少なくとも含んでいる、態様1~3のいずれかに記載のシート状吸着材。
【0017】
<態様5>
上記有機化合物として4-アミノ-1,2,4-トリアゾールを少なくとも含んでいる、態様1~4のいずれかに記載のシート状吸着材。
【0018】
<態様6>
上記多孔質担体が活性炭である、態様1~5のいずれかに記載のシート状吸着材。
【0019】
<態様7>
上記シート状通気性基材は、ポリエチレンテレフタレートを少なくとも含有する材料からなる、態様1~6のいずれかに記載のシート状吸着材。
【0020】
<態様8>
上記多孔質吸着剤は酸ヒドラジドを含まない、態様1~7のいずれかに記載のシート状吸着材。
【0021】
<態様9>
シート状通気性基材と、多孔質吸着剤及びバインダーを含有するコート材とを含み、上記多孔質吸着剤は上記バインダーを介して上記シート状通気性基材に結合しているシート状吸着材であって、上記多孔質吸着剤は、アルデヒド類と化学反応する有機化合物を多孔質担体上に担持してなり、上記シート状吸着材の1cm3当たりの上記コート材の密度は0.10~0.25g/cm3であるシート状吸着材の製造方法であり、
上記多孔質吸着剤とバインダーを含有するスラリーに、上記シート状通気性基材を接触させる工程と、
上記スラリーと接触した上記シート状通気性基材を絞る工程と、
上記絞り工程を経た上記シート状通気性基材を乾燥する工程と、
を含むシート状吸着材の製造方法。
上記コート材の密度は、0.10~0.21g/cm3であってよく、0.10~0.15g/cm3であってよく、又は0.10~0.13g/cm3であってよい。
【0022】
<態様10>
上記シート状吸着材の空隙率が65~85%である、態様9に記載のシート状吸着材の製造方法。上記空隙率は、68~85%であってよく、75~85%であってよく、又は79~85%であってよい。
【0023】
<態様11>
上記バインダーのマーロン試験値が0.15%以下である、態様9又は10に記載のシート状吸着材の製造方法。上記マーロン試験値は、0.13%以下であってよく、0.06%以下であってよく、又は0.03%以下であってよい。
【0024】
<態様12>
上記シート状吸着材は、上記有機化合物としてアゾール系化合物を少なくとも含んでいる、態様9~11のいずれかに記載のシート状吸着材の製造方法。
【0025】
<態様13>
上記シート状吸着材は、上記有機化合物として4-アミノ-1,2,4-トリアゾールを少なくとも含んでいる、態様9~12のいずれかに記載のシート状吸着材の製造方法。
【0026】
<態様14>
上記多孔質担体が活性炭である、態様9~13のいずれかに記載のシート状吸着材の製造方法。
【0027】
<態様15>
上記シート状通気性基材は、ポリエチレンテレフタレートを少なくとも含有する材料からなる、態様9~14のいずれかに記載のシート状吸着材の製造方法。
【0028】
<態様16>
上記多孔質吸着剤は酸ヒドラジドを含まない、態様9~15のいずれかに記載のシート状吸着材の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、アルデヒド類の除去速度に優れたシート状吸着材及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシート状吸着材の表面を示す拡大写真。
【
図2】コート材の密度がアルデヒド類の除去速度に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【
図3】シート状吸着材の空隙率がアルデヒド類の除去速度に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【
図4】多孔質担体上に担持されるキャッチャー剤量がアルデヒド類の除去速度に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【
図5】バインダーのマーロン試験値がコート材の密度に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【
図6】バインダーのマーロン試験値がアルデヒド類の除去速度に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係るシート状吸着材は、シート状通気性基材(以下において、「シート状基材」ともいう。)と、多孔質吸着剤及びバインダーを含有するコート材とを含む。上記多孔質吸着剤は、アルデヒド類と化学反応する有機化合物を多孔質担体上に担持してなる吸着剤であり、シート状吸着材の1cm3当たりの上記コート材の密度(コート密度)は、0.10~0.25g/cm3である。
【0032】
本発明において、シート状吸着材1cm3に占めるコート密度が0.10~0.25g/cm3であることは、上述の通り、被処理ガスと多孔質吸着剤との接触状態を良化することに着目して見出されたものである。
【0033】
しかしながら、シート状吸着材に保持されるコート密度を所望の範囲とすることは、必ずしも容易ではない。すなわち、例えば、シート状基材に適用する吸着剤含有スラリーの使用量や濃度等を最適化しても、必ずしも所望とする吸着剤の密度を有するシート状吸着材は得られない。
【0034】
シート状吸着材に保持されるコート密度を所望範囲に調整するためには、使用するバインダーのマーロン試験値が重要なファクターとなることが新たに見出された。マーロン試験値に着目して使用するバインダーを選択し、コート密度がアルデヒド類の除去速度に及ぼす影響について検討した結果、コート密度が0.10~0.25g/cm3の範囲であるときに、シート状吸着材における被処理ガスと多孔質吸着剤との接触面が増え、アルデヒド類の除去速度が飛躍的に向上することが明らかとなったものである。
【0035】
ここで、コート密度は、シート状吸着材の1cm3当たりのコート材の保持量であり、以下に示す式(I)により定まる値である。
【0036】
【0037】
図1は、本発明の一実施形態に係るシート状吸着材の表面を示す拡大写真である。この拡大写真によると、シート状通気性基材の繊維間において、多孔質吸着剤が膜状に存在する部分が複数集合してブロック状になっている部分がある一方、多孔質吸着剤が膜状に存在せず、空隙部分も存在することがわかる。コート密度が0.10~0.25g/cm
3の範囲内にある場合、シート状通気性基材の繊維間における多孔質吸着剤と空隙との好適なバランスが作られる。その結果、被処理ガスがシート状吸着材の内部にまで到達すると共に、充分な量の多孔質吸着剤と接触することができ、アルデヒド類の除去速度が飛躍的に向上すると推測される。
【0038】
コート密度が0.25g/cm3を超える場合、空隙が不足するため被処理ガスと多孔質吸着剤との接触が悪化し、所望とするアルデヒド類の除去速度が得られない。また、コート密度が0.10g/cm3未満の場合、多孔質吸着剤の量が不足し、所望とするアルデヒド類の除去速度が得られない。
【0039】
本発明の一形態において、シート状吸着材1cm3当たりのコート密度は、0.10~0.21g/cm3であってよく、0.10~0.15g/cm3であってよく、又は0.10~0.13g/cm3であってよい。
【0040】
シート状通気性基材1m2当りのコート材の目付(コート量)は、コート密度が0.10~0.25g/cm3の範囲内である限り、適宜設定することが可能である。例えば、コート密度が0.25g/cm3を超えないようにコート量を増やすことにより、アルデヒド類の除去速度を更に高めることも可能である(例えば、後掲の例4Aと7Aを参照)。一形態において、シート状吸着材1m2当りのコート量(目付)は、200~600g/m2であってよく、200~450g/m2であってよく、又は200~320g/m2であってよい。
【0041】
本発明の一形態において、コート材に含有される多孔質担体とバインダーの配合比は、多孔質担体100gに対して、バインダーが19~41gであってよく、25~35gであってよく、又は27~33gであってよい。
【0042】
また、本発明の一形態において、シート状吸着材における空隙率は、65~85%であってよく、68~85%であってよく、75~85%であってよく、又は79~85%であってよい。空隙率が上記範囲内である場合、被処理ガスと多孔質吸着剤との効率的な接触が促進される。ここでシート状吸着材の空隙率は、単位体積あたりの隙間の割合を百分率で表したものであり、下式により定まる値である。
【0043】
【0044】
<多孔質吸着剤>
多孔質吸着剤は、多孔質担体上にアルデヒド類と化学反応する有機化合物(以下、「化学吸着剤」又は「キャッチャー剤」という。)を担持してなる吸着剤である。多孔質吸着剤としては、1種類又は複数種類を使用することができる。
【0045】
(多孔質担体)
多孔質担体としては、多数の細孔を有する任意の担体を用いることができる。例えば、多孔質担体としては、無機質多孔質担体、及び有機質多孔質担体のいずれの多孔質物質を用いることもできる。
【0046】
具体的な無機質多孔質担体としては、活性炭、セピオライト、パリゴルスカイト、ゼオライト、活性炭素繊維、活性アルミナ、セピオライト混合紙、シリカゲル、活性白土、パーミキュライト、珪藻土を挙げることができる。また、有機質多孔質担体としては、パルプ、繊維、高分子多孔質担体を挙げることができる。これらの多孔質担体の中でも、活性炭は、特にアルデヒド類に対する吸着特性に優れているので好ましい。ここで、本明細書で使用する場合、「吸着特性」とは、被吸着成分をより多く吸着し、かつ一旦吸着した後は被吸着成分を脱離させ難いという性質を意味する。
【0047】
多孔質担体の形状は、アルデヒド類を含む被処理ガスが接触可能なものであれば特に限定されない。例えば、粒状、粉末状、又は繊維状の多孔質担体を使用できる。多孔質担体をシート状通気性基材にコーティングする場合には、多孔質担体はスラリー状で用いることが好ましく、したがってこの場合には、破砕及び/又は粉砕した多孔質担体を選択してもよい。また、本発明で使用する多孔質担体の種類や形状は、除去すべきアルデヒド類の種類に応じて、あるいはシート状吸着材の設置場所に応じて選択することができる。
【0048】
多孔質担体の粒径(メジアン径:D50)は例えば、スラリー形成のためには小さいことが好ましく、例えば150μm以下であってよく、50μm以下であってよく、又は25μm以下であってよい。多孔質担体のBET比表面積は一般に大きいほど好ましく、例えば400m2/g以上であってよく、700m2/g以上であってよく、又は1000m2/g以上であってよい。
【0049】
(キャッチャー剤)
アルデヒド類と化学反応する有機化合物であるキャッチャー剤としては、アルデヒド類と化学的に反応して捕捉作用を発揮する有機化合物である限り使用することができる。
但し、多孔質担体として活性炭を使用する場合、キャッチャー剤として酸ヒドラジドは使用しないことが好ましい。ここで、酸ヒドラジドとは、カルボン酸とヒドラジンとから誘導される-CO-NHNH2で表される酸ヒドラジド基を有する化合物をいう。酸ヒドラジドを活性炭と併用した場合、酸ヒドラジドが失活し、アルデヒド類に対する反応性が低下する。このため多孔質担体として活性炭を使用する場合、多孔質吸着剤は酸ヒドラジドを実質的に含有しないことが好ましく、含有しないことがより好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、本発明の効果を妨げない程度において微量に含有する場合を排除しない趣旨である。
【0050】
一形態において、キャッチャー剤としてアゾール化合物を用いることができる。ここでアゾール化合物とは、ヘテロ原子を少なくとも1つ含む五員環芳香族化合物であって、当該ヘテロ原子の少なくとも1つが窒素原子である化合物、特にアルデヒド類に対して所望の吸着特性を有するこのような化合物を意味する。
【0051】
アゾール化合物には、ジアゾール、トリアゾール、テトラアゾール等が含まれ、具体的には、3-メチル-5-ピラゾロン、1,3-ジメチル-5-ピラゾロン、3-メチル-1-フェニル-5-ラゾロン、3-フェニル-6-ピラゾロン、3-メチル-1-(3-スルホフェニル)-5-ピラゾロン等のピラゾロン化合物;ピラゾール、3-メチルピラゾール、1,4-ジメチルピラゾール、3,5-ジメチルゾール、3,5-ジメチル-1-フェニルピラゾール、3-アミノピラゾール、5-アミノ-3-メチルピラゾール、3-メチルピラゾール-5-カルボン酸、3-メチルピラゾール-5-カルボン酸メチルエステル、3-メチルピラゾール-5-カルボン酸エチルエステル、3,5-メチルピラゾールジカルボン酸等のピラゾール化合物;1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、3-n-ブチル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジ-n-ブチル-1,2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール、5-アミノ-3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジフェニル-1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール-3-オン、ウラゾール(3,5-ジオキシ-1,2,4-トリアゾール)、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、5-ヒドロキシ-7-メチル-1,3,8-トリアザインドリジン、1H-ベンゾトリアゾール、4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物、2-アミノ-5-エチル-1,3,4-チアジアゾール、5-アミノ-2-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、5-t-ブチル-2-メチルアミノ-1,3,4-チアジアゾール、2-アミノ-5-メチル-1,3,4-チアジアゾール、2-アミノ-1,3,4-チアジアゾール等のチアジアゾール化合物が挙げられる。
【0052】
アゾール化合物としては特に、3-アミノピラゾール、5-アミノ-3-メチルピラゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール、5-アミノ-3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール2-アミノ-5-エチル-1,3,4-チアジアゾール、5-アミノ-2-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、5-t-ブチル-2-メチルアミノ-1,3,4-チアジアゾール、2-アミノ-5-メチル-1,3,4-チアジアゾール、2-アミノ-1,3,4-チアジアゾールが好ましく、中でも4-アミノ-1,2,4-トリアゾールが好ましい。
【0053】
アルデヒド類を多く吸着し、且つ、一旦吸着した後はアルデヒド類を脱離し難いという優れた性能を失わない限り、1種又は複数種のアゾール化合物を使用することができ、また、1種又は複数種の他のキャッチャー剤と併用してもよい。
【0054】
キャッチャー剤を多孔質担体に担持させる際の担持方法は特に限定されないが、例えばキャッチャー剤を水又はその他の溶媒等に溶解した後、得られた薬液に多孔質担体を浸漬させて担持を行なってもよい。
【0055】
キャッチャー剤の担持量は、被処理ガスに含まれるアルデヒド類の種類、濃度等に応じて適宜決定することができる。一形態において、キャッチャー剤の担持量は、多孔質担体のBET比表面積1m2当たり0.00002~0.00050gであってよく、0.00003~0.00030gであってよく、又は0.00002~0.00020gであってよい。すなわち、例えば、BET比表面積が1000m2/gである多孔質担体100gに対しては、4~20g、6~12g、又は6~10gのキャッチャー剤を用いることができる。
【0056】
<シート状通気性基材>
シート状通気性基材としては、被処理ガスに対する通気性を有するものであれば特に限定されない。シート状通気性基材としては、製造工程において多孔質吸着剤を含むスラリーが基材内部にまで浸透可能なものが好ましい。
【0057】
具体的なシート状通気性基材としては例えば、発泡樹脂、網状樹脂、多孔質樹脂フィルム、編物、織布、不織布、紙、無機繊維等が挙げられる。その材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ビニロン、アラミド、ポリアクリル系ポリマー、酢酸セルロール、プロミックス等の合成繊維;半合成繊維;レーヨン等の再生繊維;綿、麻、絹等の天然繊維:又は無機繊維を使用することができる。また、シート状通気性基材は、細い金属線で織った織物でもよい。後述する絞り工程後の乾燥工程における復元性や圧縮弾性の観点からは、ポリエチレンテレフタレートを含む材料からなる不織布等のシート状基材を好適に使用することができる。
【0058】
シート状通気性基材の目付は、例えば、10~400g/m2、30~300g/m2、又は50~200g/m2にすることができる。本明細書で使用する場合、「基材の目付」とは1m2当たりのシート状通気性基材の質量を意味している。
【0059】
<バインダー>
バインダーとしては、多孔質吸着剤とシート状通気性基材とを結合できる任意のバインダー、例えばポリマー材料のような有機バインダーを用いることができる。
【0060】
バインダーを用いて多孔質吸着剤をシート状通気性基材に結合させるために、例えば以下の工程を経る。すなわち、多孔質吸着剤を含有しているスラリーにバインダーを添加し、所定の時間にわたって撹拌して、多孔質吸着剤及びバインダーを含有しているスラリーを得、このようなスラリーにシート状通気性基材を接触させ、乾燥する。ここでスラリーと基材との接触は、例えば、シート状通気性基材にスラリーを塗布、含浸、又はコーティング等をすることで実施できる。
【0061】
スラリーと接触したシート状基材は、その後の乾燥工程において厚み方向に復元する。バインダーの種類によってはバインダーがこのシート状基材の厚みの復元を阻害し、これがコート密度を所望とする範囲に調整することを困難とする一因となっている。そこで、本発明の一実施形態は、マーロン試験値の低いバインダーを使用する。マーロン試験値は、機械的安定性を評価するためのパラメーターであり、マーロン試験値が低いほど機械的安定性に優れることを示す。ここでは、スラリーと接触後のシート状基材の厚みの復元性の程度を示す指標としての役割を果たす。
【0062】
製品化のためのプロセスでは、通常、スラリーに接触させた後のシート状基材に対し、スラリーの余剰成分を除去するためにマングルなどの絞り装置で絞る工程が含まれる。この場合、多孔質担体とバインダーが絞り工程で擦り合わされる際にバインダーが破壊され、乾燥させる前に接着性が発現されてしまう。したがって、絞り工程を経て製造されるシート状吸着材において特に、シート状基材の復元阻害の問題が大きかった。マーロン試験値の低いバインダーを使用することにより、絞り工程後においてもバインダーが安定に保持され、シート状基材の厚みの復元阻害を抑制することができる。このためマーロン試験値の低いバインダーを使用することは、絞り工程を経て製造されるシート状吸着材において特に有効である。
【0063】
一形態において、バインダーのマーロン試験値は0.15%以下であってよく、0.13%以下であってよく、又は0.06%以下であってよい。マーロン試験値の低いバインダーを選択することで、コート密度やシート状吸着材における空隙率を好ましい範囲に調整することが容易となる。
【0064】
有機バインダーとしては、例えば、エマルション系の有機バインダーが挙げられ、特にアクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、アクリル-シリコン樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、酢酸ビニル-アクリル樹脂、ポリシロキサン-アクリル樹脂等のアクリル系エマルション、及びブタジエン樹脂等のラテックス系エマルションを用いることができる。一形態において、バインダーとしては、多孔質吸着剤の細孔に残存しにくいバインダー、例えば水性のアクリル系樹脂が好ましい。
【0065】
バインダーの添加量(固形分)は、例えば、多孔質吸着剤に対して10~80質量%、又は20~40質量%にすることができるが、この範囲に限定されない。
【0066】
なお、アルデヒド類吸着材等を含有するスラリーには、増粘剤を更に含有させることができる。このような増粘剤は、スラリーをシート状通気性基材に接触させる際に、スラリーを常時撹拌することが困難である場合や、スラリーが水や樹脂成分を含むエマルションと多孔質吸着剤とに分離してしまう場合などに特に好適に用いられる。
【0067】
このような増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル系共重合体、ポリアクリル酸、カルボン酸系共重合体(アンモニウム塩)、カルボン酸系共重合体(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウムのようなカルボン酸系共重合体ナトリウム塩)、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム、架橋型アクリル系ポリマー、架橋型ポリアクリル酸等を挙げることができる。増粘剤の添加量は、例えば、多孔質担体に対して0.1~10質量%、0.5~5質量%、又は1.0~3質量%にすることができるが、この範囲に限定されない。
【0068】
スラリーに接触した後のシート状通気性基材、あるいは更に絞り工程を経た後のシート状通気性基材を、所定の時間にわたって乾燥することができる。好ましい化学吸着剤であるアゾール化合物は有機物であるため、この乾燥工程は、化学吸着剤が熱劣化しない乾燥条件でおこなうことが好ましい。例えば、この乾燥工程は、150℃以下、110℃以下、又は80℃以下で行うことができる。
【0069】
本発明の実施形態に係るシート状吸着材は、アルデヒド類等の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound;VOC)成分除去のためのアイテムとして好適に使用できる。車内や室内など静置における自然拡散によりVOCが吸着される用途に特に好ましく使用される。車内又は室内において種々の装置又は部材に適用されることが意図され、VOC成分の発生源の近くに設置されることが好ましい。部材へのシート状吸着材の貼り付けや挿入、裁断物の部材へのシート状吸着材の混合など、実施形態に係るシート状吸着材は、用途や適用される部材などに応じて様々な形態で使用することができる。
【実施例】
【0070】
以下に例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<スラリー1の調製>
水238gに4-アミノ-1,2,4-トリアゾールを8g溶解させた。この薬液にBET比表面積約1000m2/g、メジアン径(D50)25μmの粉末状のヤシ殻活性炭100gを浸漬させ、よく撹拌した。水溶性増粘剤を2g、そしてアクリルエマルションバインダー(固形分50%、マーロン試験値0.057%)を61g添加し、撹拌することによりスラリー1を調製した。尚、アクリルエマルションバインダーは、ボンコートAB-886(DIC株式会社製)を使用した。
【0071】
マーロン試験値は以下の方法で測定される値である。
[マーロン試験値(機械的安定性)の測定方法]
エマルションサンプル50gをマーロン式安定度試験器の容器に秤取し、温度25℃、荷重10kg、回転速度2000rpmで10分間機械的シェアーを加した。その後、生成した凝集物を200のメッシュ金網でロ取した。機械的安定性を示すマーロン試験値を、次式に従い算出した。
マーロン試験値(機械的安定性)(%)=(凝集物の絶乾質量/エマルションの絶乾質量)×100
【0072】
<例1A>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、不織布をマングルで絞ってコート量を調整し、100℃で1時間乾燥することによりシート状吸着材1Aを製造した。後掲に示す方法により、コート材の目付(コート量)、コート材の密度(コート密度)、及び空隙率を測定した。その結果、シート状吸着材1Aのコート量は245g/m2、コート密度は0.110g/cm3、空隙率は83%であった。
【0073】
<例2A>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することによりシート状吸着材2Aを製造した。シート状吸着材2Aのコート量は263g/m2、コート密度は0.134g/cm3、空隙率は79%であった。
【0074】
<例3A>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材3Aを製造した。シート状吸着材3Aのコート量は318g/m2、コート密度は0.146g/cm3、空隙率は77%であった。
【0075】
<例4A>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材4Aを製造した。シート状吸着材4Aのコート量は460g/m2、コート密度は0.214g/cm3、空隙率は68%であった。
【0076】
<例5A>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材5Aを製造した。シート状吸着材5Aのコート量は568g/m2、コート密度は0.235g/cm3、空隙率は65%であった。
【0077】
<例6A>
目付140g/m2の不織布(倉敷繊維加工製RFN-150P)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材6Aを製造した。シート状吸着材6Aのコート量は385g/m2、コート密度は0.102g/cm3、空隙率は84%であった。
【0078】
<例7A>
目付140g/m2の不織布(倉敷繊維加工製RFN-150P)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材7Aを製造した。シート状吸着材7Aのコート量は883g/m2、コート密度は0.214g/cm3、空隙率は68%であった。
【0079】
<例1B>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材1Bを製造した。シート状吸着材1Bのコート量は45g/m2、コート密度は0.020g/cm3、空隙率は95%であった。
【0080】
<例2B>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材2Bを製造した。シート状吸着材2Bのコート量は148g/m2、コート密度は0.077g/cm3、空隙率は87%であった。
【0081】
<例3B>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材3Bを製造した。シート状吸着材3Bのコート量は173g/m2、コート密度は0.094g/cm3、空隙率は84%であった。
【0082】
<例4B>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材4Bを製造した。シート状吸着材4Bのコート量は498g/m2、コート密度は0.262g/cm3、空隙率は61%であった。
【0083】
<例5B>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材5Bを製造した。シート状吸着材5Bのコート量は633g/m2、コート密度は0.279g/cm3、空隙率は58%であった。
【0084】
<例6B>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材6Bを製造した。シート状吸着材6Bのコート量は743g/m2、コート密度は0.345g/cm3、空隙率は48%であった。
【0085】
<例7B>
目付140g/m2の不織布(倉敷繊維加工製RFN-150P)を、上記スラリー1に含浸した。次いで、コート量を調整するため、例1Aに対しマングルの圧力を変えて不織布を絞り、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材7Bを製造した。シート状吸着材7Bのコート量は255g/m2、コート密度は0.069g/cm3、空隙率は88%であった。
【0086】
<例8B>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)に、スラリー1に替えて、水238gに4-アミノ-1,2,4-トリアゾールを8g溶解させたトリアゾール水溶液を噴霧し、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材8Bを製造した。シート状吸着材8Bのコート量は16g/m2、コート密度は0.007g/cm3、空隙率は97%であった。
【0087】
<例9B>
目付95g/m2の不織布(倉敷繊維加工製E-90)に、スラリー1に替えて、水238gに4-アミノ-1,2,4-トリアゾールを8g溶解させたトリアゾール水溶液を噴霧し、100℃で1時間乾燥することにより、シート状吸着材9Bを製造した。シート状吸着材9Bのコート量は24g/m2、コート密度は0.010g/cm3、空隙率は97%であった。
【0088】
<評価>
【0089】
[コート密度の測定方法]
作製したシート状吸着材の質量を電子天秤で測定する。当該測定値から、既知質量であるシート状通気性基材の質量を差し引くことにより、シート状吸着材に保持されるコート材の質量を求める。シート状吸着材の縦、横、厚みの長さを電子ノギスで測定し、その体積を求める。算出された質量と体積より、上掲の式(I)に従いコート材の密度(g/cm3)を算出する。
【0090】
[空隙率の測定方法]
まず、作製したシート状吸着材の密度を算出する。すなわち、上掲の式(IIa)に従い、シート状吸着材の密度(A)を、上記で測定したシート状吸着材の質量と体積から算出する。
次に、シート状吸着材の理論密度(空隙なしの密度)を、上掲の式(IIb)に従い算出する。すなわち、シート状吸着材におけるシート状通気性基材の質量とコート材の質量から、シート状吸着材におけるシート状通気性基材とコート材の構成割合を求め、得られた各構成割合にそれぞれの密度(すなわち、基材密度又はコート密度)を掛け合わせ、それらを合計することにより、シート状吸着材の理論密度(B)を算出する。
次に、上掲の式(II)に従い、理論密度(B)に対するシート状吸着材の実際の密度(A)の百分率を100%から引いた値を空隙率(%)として算出する。
【0091】
[アセトアルデヒドの除去速度]
5LバックにN2を4L充填したものを試料の数だけ準備した。各シート状吸着材を2cm×2cmの大きさにカットし、それぞれを各バックに封入した。アセトアルデヒド1.68ppm(≒3000μg/m3)をシート状吸着材が封入された各バックに注入し、25℃、50%RHの室内に1時間静置し、アセトアルデヒド濃度を測定した。1時間の間に吸着したアセトアルデヒド量を、初期濃度との差から算出し、これを静的な条件下におけるアセトアルデヒドの除去速度(ppm/h)とする。
【0092】
例1A~例7A、及び、例1B~例9Bについて、測定結果を表1、
図2及び
図3に纏める。尚、例1A~例7Aはコート密度が0.10~0.25g/cm
3の範囲内にあるものであり、例1B~例9Bはコート密度が当該範囲外にあるものである。
【0093】
【0094】
表1及び
図2に示すように、コート密度が0.10~0.25g/cm
3の範囲内にある例1A~例7Aは、コート密度が当該範囲外である例1B~例9Bと比べ、アセトアルデヒドの除去速度が優れていることがわかる。更に、表1及び
図3に示すように、コート密度が0.10~0.25g/cm
3の範囲内にある例1A~例7Aは、空隙率が65~85%の好適な範囲内にあり、このことからも被処理ガスが多孔質吸着剤と効率よく接触できていることが推測できる。
【0095】
<例10B>
4-アミノ-1,2,4-トリアゾールを使用しないこと以外はスラリー1と同じ条件でスラリー2を調製した。そして、スラリー1に替えてスラリー2を使用した以外は例2Aと同じ条件でシート状吸着材を製造し、例2Aのシート状吸着材2Aとほぼ同じコート密度を有するシート状吸着材10Bを得た。
【0096】
<例8A>
4-アミノ-1,2,4-トリアゾールの使用量を8gから4g(4質量部)に変更した以外は、スラリー1と同じ条件でスラリー3を調製した。そして、スラリー1に替えてスラリー3を使用した以外は例2Aと同じ条件でシート状吸着材を製造し、例2Aのシート状吸着材2Aとほぼ同じコート密度を有するシート状吸着材8Aを得た。
【0097】
<例9A>
4-アミノ-1,2,4-トリアゾールの使用量を8gから6g(6質量部)に変更した以外は、スラリー1と同じ条件でスラリー4を調製した。そして、スラリー1に替えてスラリー4を使用した以外は例2Aと同じ条件でシート状吸着材を製造し、例2Aのシート状吸着材2Aとほぼ同じコート密度を有するシート状吸着材9Aを得た。
【0098】
<例10A>
4-アミノ-1,2,4-トリアゾールの使用量を8gから12g(12質量部)に変更した以外は、スラリー1と同じ条件でスラリー5を調製した。そして、スラリー1に替えてスラリー5を使用した以外は例2Aと同じ条件でシート状吸着材を製造し、例2Aのシート状吸着材2Aとほぼ同じコート密度を有するシート状吸着材10Aを得た。
【0099】
<例11A>
4-アミノ-1,2,4-トリアゾールの使用量を8gから20g(20質量部)に変更した以外は、スラリー1と同じ配合でスラリー6を調製した。そして、スラリー1に替えてスラリー6を使用した以外は例2Aと同じ条件でシート状吸着材を製造し、例2Aのシート状吸着材2Aとほぼ同じコート密度を有するシート状吸着材11Aを得た。
【0100】
例8A~例11A、及び例10Bについて、上で説明したのと同様の方法により、コート密度、空隙率及びアルデヒドの除去速度を測定した。結果を、表2及び
図4に纏める。尚、例2A、例8A~例11Aはコート密度が0.10~0.25g/cm
3の範囲内にあるものであり、例10Bはコート密度が当該範囲内にあるが、キャッチャー剤を含まないものである。
【0101】
【0102】
表2及び
図4に示すように、キャッチャー剤の担持量が異なる種々の多孔質吸着剤を使用したシート状吸着材において、コート密度が0.10~0.25g/cm
3の範囲内にあることによりアセトアルデヒドの除去速度に優れることが確認できた。
【0103】
<例12A>
アクリルエマルションバインダーを、AB-886(DIC株式会社製、マーロン試験値0.057%)からAB-782-E(DIC株式会社製、マーロン試験値0.128%)に変更した以外は、スラリー1と同じ条件でスラリー7を調製した。そして、スラリー1に替えてスラリー7を使用した以外は例3Aと同じ条件でシート状吸着材を製造し、例3Aのシート状吸着材3Aとほぼ同じコート密度を有するシート状吸着材12Aを得た。
【0104】
<例11B>
アクリルエマルションバインダーを、AB-886(DIC株式会社製、マーロン試験値0.057%)からAB-795(DIC株式会社製、マーロン試験値1.660%)に変更した以外は、スラリー1と同じ条件でスラリー8を調製した。そして、スラリー1に替えてスラリー8を使用した以外は例3Aと同じ条件でシート状吸着材を製造し、シート状吸着材11Bを得た。
【0105】
例12A及び例11Bについて、上で説明したのと同様の方法により、コート密度、空隙率及びアルデヒドの除去速度を測定した。結果を、表3、
図5及び
図6に纏める。尚、例3A及び例12Aはコート密度が0.10~0.25g/cm
3の範囲内にあるものであり、例11Bはコート密度が当該範囲内にないものである。
【0106】
【0107】
表3、
図5及び
図6に示すように、マーロン試験値が0.15%未満であるバインダーを使用した例3A及び例12Aは、コート密度が0.10~0.25g/cm
3の範囲内にあり、アルデヒドの除去速度に優れることがわかる。一方、マーロン試験値が0.15%超であるバインダーを使用した例11Bは、コート密度が当該範囲外であり、アルデヒドの除去速度に劣ることがわかる。
【0108】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。