(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】管路一体型枕木
(51)【国際特許分類】
E01B 3/44 20060101AFI20220912BHJP
E01B 3/30 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
E01B3/44
E01B3/30
(21)【出願番号】P 2018127987
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昭良
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 庸一
(72)【発明者】
【氏名】棚木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】二坂 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 大一
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕樹
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-002005(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0100391(KR,A)
【文献】特開2008-031829(JP,A)
【文献】実開平06-053601(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 3/44
E01B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂材料で形成された直方体状の枕木本体の内部に、長手方向に沿って前記枕木本体を貫通するように、両端が開口された配管が設けられ
、
前記枕木本体は複数枚の合成樹脂板が上下方向に重なるようにして接合され接着剤によって接着されることで形成され、
前記枕木本体は3枚の合成樹脂板からなり、前記3枚の合成樹脂板のうち最も下方に位置する合成樹脂板の上面と中間に位置する合成樹脂板の下面の互いに対応する部位に、半円柱状の溝がそれぞれ形成され、
前記半円柱状の溝を有する2枚の合成樹脂板が接合されることで前記半円柱状の溝が合体して円柱状の空洞が構成され、当該空洞内に前記配管が配設されていることを特徴とする管路一体型枕木。
【請求項2】
前記配管は合成樹脂材料で形成されており、両端に接続部がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の管路一体型枕木。
【請求項3】
前記配管の途中にT型継手が設けられ、前記T型継手により分岐した管の端部が前記枕木本体の上面より突出するように配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の管路一体型枕木。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道軌道に用いられる枕木さらには管路を有する合成枕木に関し、例えば融雪もしくは除雪のための液体をノズルへ供給する管路を有する管路一体型の枕木に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、降雪地域に敷設されている鉄道の分岐器には、雪氷が介在することでポイント不転換が発生しないように、分岐器の可動部分に向けて温水などを噴射し、雪氷を融かして除去する融雪装置が設置されている。かかる融雪装置として、例えば
図6に示すように、トング部に向けて温水を噴射するノズルN1及びN2を備えた融雪装置が知られている。また、圧縮気体の圧力により液体を発射し、基本レールRbとトングレールRtの間に挟まった雪氷を吹き飛ばすようにして除去する除雪装置に関する発明が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6に示す従来の融雪装置や特許文献1に開示されている除雪装置においては、温水や圧縮気体で押し出された水をノズルまで供給する配管12が、枕木10に沿って露出した状態で配設されていたため、保線作業、天候及び車両に付着した氷雪の落下により配管が損傷を受け易い。そのため、バラスト軌道において、マルチプル・タイタン・パーと呼ばれる保線機械によって道床を突き固める保線作業の際には、予め配管を除去し作業終了後に再設置を行わなくてはならず作業効率が悪いという課題があった。
また、鉄道軌道においては、転てつ機を作動させる信号を伝達するケーブルや、レールに流れる電車電流と信号電流を分離するためのインピ―ダンスボンドとレールとを接続するケーブルが軌道を横切るようにして配設されている箇所があるが、そのような箇所においても、ケーブルが露出した状態で配設されているため、上記と同様な課題があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、融雪もしくは除雪のための水をノズルまで供給する配管や信号を伝達するケーブルが露出した状態で軌道上に設置されるのを回避して、損傷を受けにくくすることができる管路一体型枕木を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、道床を突き固める保線作業の際に、融雪もしくは除雪のための水をノズルまで供給する配管や信号を伝達するケーブルを予め除去し、作業終了後に再設置する必要がなく作業効率を向上させることができる管路一体型枕木を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明に係る管路一体型枕木は、
合成樹脂材料で形成された直方体状の枕木本体の内部に、長手方向に沿って前記枕木本体を貫通するように、両端が開口された配管が設けられ、
前記枕木本体は複数枚の合成樹脂板が上下方向に重なるようにして接合され接着剤によって接着されることで形成され、
前記枕木本体は3枚の合成樹脂板からなり、前記3枚の合成樹脂板のうち最も下方に位置する合成樹脂板の上面と中間に位置する合成樹脂板の下面の互いに対応する部位に、半円柱状の溝がそれぞれ形成され、
前記半円柱状の溝を有する2枚の合成樹脂板が接合されることで前記半円柱状の溝が合体して円柱状の空洞が構成され、当該空洞内に前記配管が配設されているようにしたものである。
上記のような構成によれば、枕木本体の内部に配管が配設されているため、この配管を利用して融雪のための温水を送給したり軌道を横切るケーブルを敷設したりすることができ、温水送給用の配管や信号伝達用のケーブルが軌道表面に露出した状態で軌道上に設置されるのを回避して、損傷を受けにくくすることができる。
また、配管を収納するための空洞の形成ひいては配管を内蔵した管路一体型枕木の製造が容易となる。また、枕木本体全体を一度に樹脂成形で形成する場合に比べて歪みを少なくすることができる。
さらに、配管が枕木本体の高さ方向下から1/3の位置に設けられるため、管路一体型枕木をバラスト軌道に配設する際に、温水送給用の配管や信号伝達用のケーブルが充分にバラストで覆われ、軌道表面に露出した状態で敷設されるのを回避することができる。
【0007】
ここで、望ましくは、前記配管は合成樹脂材料で形成されており、両端に接続部がそれぞれ設けられているようにする。
このように、合成樹脂製の配管を使用することで、特に給水用として利用する際の耐久性を高めることができる。また、合成樹脂製の配管の両端に接続部として口金を設けることで、給水管の接続が容易かつ確実に行なえる。さらに、ケーブルを事前に配管内に敷設し、配管の両端をケーブルの接続部とすることで、枕木交換時に枕木内にケーブルを通線する作業が不要となり、作業効率を向上させることができる。
【0008】
また、望ましくは、前記配管の途中にT型継手が設けられ、前記T型継手により分岐した管の端部が前記枕木本体の上面より突出するように配設されているようにする。
このような構成によれば、枕木本体の上面に突出した継手の上端に融雪用の温水を放出するノズルを装着することが可能となり、融雪装置の設置が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る管路一体型枕木によれば、融雪もしくは除雪のための水をノズルまで供給する配管やケーブルが露出した状態で軌道上に設置されるのを回避して、損傷を受けにくくすることができる。また、道床を突き固める保線作業の際に融雪もしくは除雪のための水をノズルまで供給する配管や信号を伝達するケーブルを予め除去し、作業終了後に再設置する必要がなく作業効率を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る管路一体型枕木の第1実施形態を示すもので、(A)は枕木の全体を示す正面図、(B)は側面図である。
【
図2】実施形態の管路一体型枕木の構成の仕方の一例を示すもので、(A)、(B)、(C)はそれぞれ管路一体型枕木を構成する上、中、下の合成樹脂板を示す斜視図である。
【
図3】(A)、(B)、(C)は実施形態の管路一体型枕木を上、中、下の3枚の合成樹脂板を接着剤で接着して構成する際のクランパによる加圧の仕方の例を示す概念図である。
【
図4】実施形態の管路一体型枕木を融雪装置に利用する形態の一例を示すもので、(A)は枕木の正面図、(B)は断面側面図である。
【
図5】実施形態の管路一体型枕木を使用した分岐器の融雪装置の概略を示す平面図である。
【
図6】従来の分岐器における融雪装置の概略を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る管路一体型枕木の実施形態について詳細に説明する。
図1は、第1実施形態の枕木の構成を示すもので、(A)は枕木の全体を示す正面図、(B)は側面図である。
図1(A)に示すように、本実施形態の枕木10は、直方体状の枕木本体11の内部に、樹脂製の配管12が枕木の長手方向に沿って枕木を貫通するように内蔵した状態で配設されている。
【0016】
枕木本体11は、例えば人工木材として提供されている合成樹脂あるいはガラス繊維と硬質発泡ウレタンなどの合成樹脂で構成された複合材料で形成される。配管12には、耐食性・耐震性に優れた水道管用配管としてポリエチレン管が従前より提供されているので、そのようなポリエチレン管を使用すると良い。金属製の配管を使用しても良いが、合成樹脂の配管を使用することで、特に融雪装置の送水管として利用する際の耐久性を高めることができる。また、配管12が枕木本体11に配設されるため、保線機械によって道床を突き固める保線作業を実施する際に、管に損傷を与えることなく作業を行うことが可能となる。
【0017】
配管12の両端には、外周に雄ネジが形成された口金13A,13Bが固着されている。また、配管12の途中には、管路を分岐させるためT字形の継手14A,14Bが逆さの状態で設けられており、このT型継手14A,14Bの上端には外周に雄ネジが形成された口金15A,15Bが固着されている。融雪装置の送水管として使用される場合、上記配管12の両端の口金13A,13Bの一方はプラグ(キャップ)によって塞がれ、他方にはフレキシブル継手を介して給水管が接続される(
図5参照)。
【0018】
また、配管12の途中のT型継手14A,14B上端の口金15A,15Bの一方はプラグによって塞がれ、他方にはノズルが装着される。T型継手14A,14Bの両方にノズルを装着する構成も可能であるが、一方にのみノズルを装着することで、噴出圧力が低下するのを回避することができる。
本実施形態においては、特に限定されるものでないが、上記配管12が枕木本体11の厚さ方向下から1/3の高さ位置に配設されている。これにより、バラスト軌道において、配管12の端部に接続される給水管がバラスト内に埋設され、表面に露出して損傷され易くなるのを防止することができる。
【0019】
さらに、上記枕木本体11は、配管12をインサートとして一体成型により形成することもできるが、本実施形態では、
図2(A),(B),(C)に示すように、ほぼ同一の厚みを有する3枚の短冊状の樹脂板11A,11B,11Cを重ね合わせ、接合面に接着剤を塗布してクランパによって上下から圧力を加えて接着させることで形成される。また、3枚の樹脂板11A,11B,11Cのうち、一番下側の樹脂板11Cの上面と中央の樹脂板11Bの下面に、配管12を内蔵させる空間を構成する半円柱状の溝11aと11bがそれぞれ形成され、溝11aと11bを合体させることで円柱状の空洞が形成される。
【0020】
樹脂板11A,11B,11Cの接着前に溝11aと11bにより形成される空洞内に配管12が配置され、外周の隙間10aに接着剤が流し込まれる。また、樹脂板11A,11B,11Cの接着後には、樹脂製配管12の両端の口金13A,13Bの外周の隙間にシリコンシーラントのようなシール剤が充填され封止される。これにより、空洞内部での配管12の移動やガタツキが防止されるとともに、隙間への雨水や融水の進入が防止される。
【0021】
また、樹脂板11A,11B,11Cの接着の際の加圧の仕方としては、
図3(A)に示すように、内部に空洞がなければ中央をクランパ31により加圧することも可能であるが、空洞Hがある場合に中央を加圧すると、
図3(B)に示すように、樹脂板11Cの中央が持ち上がって湾曲し樹脂板11Bと11Cの接合面の両端に隙間t1,t2が生じてしまうことが分かった。そこで、本実施形態では、
図3(C)に示すように、クランパ31A,31Bによって樹脂板の両側を加圧することとした。枕木の長手方向に対しては、複数のクランパが設置され、複数のクランパによって樹脂板が加圧される。これにより、接合面の両端に隙間を生じさせることなく3枚の樹脂板11A,11B,11Cを接着して一体化することができる。
【0022】
上記のように途中にT型継手14A,14Bがある配管12を内蔵した状態で枕木10を形成することにより、配管12を融雪装置の温水送給用管路として利用することができる。本発明者らは、上記のようにして形成した枕木のT型継手14A,14Bの一方にノズルを装着し、1.0MPaの水圧で配管12に水を送給し3分間噴出させる試験を500回繰り返し行なった。その結果、水漏れ等の異常が発生しないことを確認することができた。
【0023】
なお、枕木本体11内の配管12を、融雪装置を構成する温水送給用の管路として利用する場合、枕木本体11の上面には、
図4(A)に示すように、タイプレート21を介してレールRが載置され、レール締結器20によって枕木に固定される。このレール締結器20は枕木10に固定するため埋込みネジ22が設けられているが、埋込みネジ22の下端は、
図4(B)に示すように、配管12の外側に位置することになるため、配管12の形成に何ら支障をもたらすものではない。
【0024】
(変形例)
上記実施形態では、T型継手14A,14Bを途中に有する配管12を内蔵した融雪装置用の枕木について説明したが、途中に継手を有していない真っ直ぐな1本の配管を内蔵することで、ケーブルを挿通させるための枕木として構成することも可能である。そして、このような構成を有する枕木によれば、軌道を横断するケーブルを敷設したい場合に、枕木内部を通過し表面に露出しない状態でケーブルを配設することができる。その結果、保線機械によって道床を突き固める保線等の軌道作業を実施する際にケーブルに損傷を与えることなく作業を行うことが可能となる。さらに、ケーブルを事前に配管内に敷設し口金をケーブルの接続部に変更することで、枕木交換時に枕木内にケーブルを通線する作業が不要となり、作業効率を向上させることができる。
【0025】
次に、上記実施形態の管路一体型枕木を適用して有効な融雪装置の構成を、
図5を用いて説明する。
図5は、本実施形態の管路一体型枕木を備えた融雪装置の構成例を平面図示すである。
図5に示す融雪装置においては、枕木10Aと10Bに、前記実施形態で説明した配管12を内蔵した枕木が使用されている。そして、一方の枕木10Aは、枕木本体11の上面に突出するT型継手14A,14Bの上端の口金15A,15Bのうち右側の口金15Aにノズル23Aが、また他方の枕木10Bは左側の口金15Bにノズル23Bが装着されている。
【0026】
また、枕木10Aと10Bの側面に突出する口金13Aと13Bには、フレキシブル継手24Aと24Bがそれぞれ接続されており、これらのフレキシブル継手24A,24Bの他端には温水を供給するパイプ25が接続され、温水送給ポンプ26によってパイプ25を介して枕木10A,10B内の配管12へ温水が送給される。
ノズル23Aと23Bは、枕木と直交する方向すなわちレールRとほぼ平行な方向を向くように装着されており、前方にある基本レールRbとトングレールRtの間に向けて温水を噴射することができるように構成されている。
【0027】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、上下3分割された樹脂板11A,11B,11Cを接着することで枕木本体11を形成しているが、上下2分割した樹脂板を接着することで枕木本体11を形成するようにしても良い。この場合、配管12を配設する空洞を形成する溝は、2つの樹脂板の接合面に形成した半円柱状の溝を合体させることにより構成するが望ましいので、配管12は枕木本体11の中心に配設されることとなる。
【0028】
また、枕木本体11は、上下3分割や2分割でなく、左右に2分割した樹脂板を接着することで形成するようにしても良い。枕木本体11を左右に2分割した樹脂板で構成することによって、任意の高さ位置に配管12を設けることが可能になる。
さらに、前記実施形態では、枕木本体11の内部の配管12を利用して融雪のための温水を供給すると説明したが、除雪のための圧縮気体を供給するのに利用することも可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 枕木
11 枕木本体
11A,11B,11C 樹脂板
11a,11b 溝
12 配管
13A,13B 口金
14A,14B T型継手
20 レール締結器
21 埋込みネジ
22A,22B ノズル
23A,23B フレキシブル継手
24 パイプ
25 温水送給ポンプ
Rb 基本レール
Rt トングレール