(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20220912BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20220912BHJP
C23C 16/505 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
H05H1/46 L
H05H1/46 R
H01L21/302 101C
C23C16/505
(21)【出願番号】P 2018140650
(22)【出願日】2018-07-26
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】518267034
【氏名又は名称】ワイエイシイテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓史
(72)【発明者】
【氏名】野口 武史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 龍也
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-129222(JP,A)
【文献】特開2002-151492(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073532(WO,A1)
【文献】特開2010-258324(JP,A)
【文献】特開2016-091829(JP,A)
【文献】特開2010-135298(JP,A)
【文献】特開2004-031566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01L 21/3065
H01L 21/205
C23C 16/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の圧力が制御可能な真空容器と、前記真空容器内にガスを供給するガス供給手段と、前記真空容器内に設けられて、上面に基板を載置する下部電極と、この下部電極に対向配置された誘導結合を形成する為のアンテナとを有するプラズマ処理装置であって、
前記誘導結合を形成する前記アンテナは、一端を整合回路を介し、高周波電力を供給する高周波電源に接続し、他端を開放端とし、
前記アンテナの長さがRF周波数の波長(λ)の1/2λ未満であり、前記アンテナの高周波電力給電側に、前記アンテナに並列なインピーダンス調整回路を接続し、
前記インピーダンス調整回路による合成インピーダンスのリアクタンス成分を、前記アンテナに供給されるRF周波数に対し、容量性負荷から誘導性負荷まで調整可能とすることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記インピーダンス調整
回路が可変コンデンサーであり、使用するアプリケーションによって前記可変コンデンサーの容量を最適化し、前記インピーダンス調整回路の合成インピーダンスを、前記アンテナに供給されるRF周波数に対し調整する事により、プラズマ分布の調整、プラズマ密度の調整を自在としたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記誘導結合を形成するアンテナがスパイラル形状のコイルアンテナであり、その巻き数(ターン数)が少なくとも2ターン以上の巻き数を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記アンテナの開放端側の部分が、電位の上昇による気中放電(アーキング)防止用の絶縁体で被覆されるか、或いは、絶縁体を介し、近くの構造物に支持されたことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
内部の圧力が制御可能な真空容器と、前記真空容器内にガスを供給するガス供給手段と、前記真空容器内に設けられて、上面に基板を載置する下部電極と、この下部電極に対向配置された誘導結合を形成する為のアンテナとを有するプラズマ処理装置であって、
前記アンテナが、一端を整合回路を介し高周波電力を供給する高周波電源に接続し、他端を開放端とした複数のアンテナ素子が集合した集合体アンテナであり、
前記アンテナの長さが、RF周波数の波長(λ)の1/2λ未満であり、
前記整合回路から前記複数のアンテナまでの間に、RF電力を分配供給する為のRF電力分配経路を有し、前記RF電力分配経路と各々のアンテナのRF給電側の間に、前記アンテナに並列なインピーダンス調整回路が、少なくとも1つ以上のアンテナに並列に接続され、前記アンテナまたはアンテナ群と、前記インピーダンス調整回路による合成インピーダンスのリアクタンス成分が、前記アンテナまたは前記アンテナ群に供給されるRF周波数に対して、容量性負荷から誘導性負荷まで前記インピーダンス調整
回路により調整可能であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記インピーダンス調整
回路が可変コンデンサーであり、使用するアプリケーションによって前記可変コンデンサーの容量を最適化し、前記インピーダンス調整回路の合成インピーダンスを、前記アンテナに供給されるRF周波数に対し調整する事により、プラズマ分布調整、プラズマ密度の調整を自在としたことを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記誘導結合を形成するアンテナがスパイラル形状のアンテナコイルであり、その巻き数(ターン数)が少なくとも2ターン以上の巻き数を有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記アンテナの開放端側の部分が、電位の上昇による気中放電(アーキング)防止用の絶縁体で被覆されるか、或いは、絶縁体を介し、近くの構造物に支持されたことを特徴とする請求項5~請求項7のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記アンテナ群の各々のアンテナのRF給電部から開放端部に到る経路の途中で、各々のアンテナに流れるRF電流を計測可能な電流計を具備し、前記アンテナに流れる電流値から、前記インピーダンス調整回路のインピーダンスを調整自在とし、前記アンテナに流れる電流値を調整する事で、プラズマ密度の面内分布を制御可能としたことを特徴とする請求項5~請求項8のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記インピーダンス調整回路の調整が、プラズマ処理を行う為の処理レシピの各処理ステップにおいて設定可能であり、事前に、任意のインピーダンス調整回路の値を設定したインピーダンス調整値のパラメーター設定により設定可能としたことを特徴とする請求項1~請求項9に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記合成インピーダンスのリアクタンス成分が使用するRF周波数に対して、容量性負荷から誘導性負荷までの変化に対応可能な、逆L型整合回路、または、T型整合回路から前記整合回路が構成されたことを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に於いて、ガラス基板等の基板に所定のプラズマ処理を実施する際に、基板サイズの大型化に伴い、大面積の基板を処理可能なプラズマ処理装置のニーズが高い。また、基板に対して、プラズマエッチングや、プラズマ製膜等の処理を行う場合、従来の容量結合性プラズマ処理装置では、生成されるプラズマ密度が低く、それに伴い、エッチング速度や、製膜速度が低い為、処理時間が長くなり、生産性悪化や装置台数の増加による製造ラインのコスト増加等の問題が有る。
【0003】
この様な問題に対して、高密度のプラズマが生成可能な誘導結合性プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)を使用したプラズマ処理装置が有効であるが、処理を行う基板面積の大型化に伴い、誘導結合型プラズマ処理装置においても、以下の様な装置に対する要求課題が有る。
【0004】
(1)より高密度のプラズマが生成可能な、高密度プラズマ生成機構。
(2)大面積で均一なプラズマが生成可能な、高密度プラズマ生成機構。
(3)大面積で、プラズマの面内分布を自在に調整可能な、高密度プラズマ生成機構。
(4)高周波電力(RFパワー)が高パワーになっても、ICP生成用アンテナコイルのRF電位を低く抑え、アンテナ下の誘電体窓のプラズマからのイオンアタックによる削れを抑制し、誘電体窓のイオンアタックで発生する異物(パーティクル)の発生量を低減可能な、高密度プラズマ処理装置。
(5)様々なプラズマ処理のアプリケーションに対し、安定して放電可能で、且つ、種々のプラズマ処理条件に対し、簡単にプラズマの強弱、密度分布が調整可能な、高密度プラズマ処理装置。
この様な、プラズマ処理装置に対する要求課題に対して、従来のプラズマ処理装置では、全ての課題を克服する事が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4080793号公報
【文献】特許第5399151号公報
【文献】特開2013-105664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した、プラズマ処理装置に対する要求に対して、特許文献1では、複数のコイルを並列に配置してなる平面上のアンテナコイルと、各々に直列に接続された1つ以上のコンデンサーを備えた集合体アンテナが用いられている。
しかし、このプラズマ処理装置では、基板サイズの大型化に伴い、より大容量の高周波電力(RFパワー)をかけた場合、アンテナコイルの給電部の電位が十分に低下できずに、前記(4)に記載のアンテナ下の誘電体窓のプラズマからのイオンアタックによる削れと、異物の発生を十分に抑制する事が出来ていない。
また、(1)に記載のより高密度のプラズマが要求される中、このアンテナ構造では、プラズマ密度の高密度化に限界が有った。
【0007】
特許文献2に記載の技術では、処理室内に誘導結合を形成するアンテナ回路と、アンテナ回路に並列に接続された並列回路を具備し、アンテナ回路のインピーダンスと、前記並列回路のインピーダンスとを逆位相にして、プラズマの分布調整を実施可能なプラズマ処理装置が記載されている。
【0008】
しかし、特許文献2に記載の技術においては、前記プラズマ処理装置に対する要求課題の(4)に記載のアンテナ給電部の電位上昇に対する効果の記載は無い。また、アンテナ回路と前記並列回路が、並列共振に近い状態になった場合、アンテナ給電部のRF電位が上昇し、アンテナ電位上昇による誘電体窓へのプラズマからのイオンアタックの増加や、イオンアタックで発生する異物(パーティクル)の増加の懸念が推測される。
また、前記要求課題の(3)に記載の大面積でのプラズマ面内分布を自在に調整可能な構造とはなっていない。
また、アンテナ端をコンデンサーを介してGNDに接続したり、そのままGNDに接続した場合、アンテナの長さを長くすると、アンテナのインダクタンス(L成分)の増加により、アンテナ給電部のRF電位の上昇やアンテナ回路と並列な回路のリアクタンス成分(C成分)を増加させる(コンデンサーの場合は容量を低下させる)必要が有り、アンテナと並列回路のインピーダンスの調整範囲が狭くなる為、大面積におけるプラズマ分布の自在な調整が難し事が推測される。
【0009】
特許文献3に記載の技術では、複数の分割アンテナのそれぞれに並列に設けられた並列共振キャパシター回路を有し、負荷を並列共振状態にする事で、整合(マッチング)回路に流れる電流値を少なくして、整合回路の発熱を抑制しつつ、誘導結合プラズマ処理装置のパワー効率を向上させる事が可能な、アンテナ回路が記載されている。
【0010】
しかし、特許文献3に記載の技術においても、前記プラズマ処理装置に対する要求課題の(4)に記載のアンテナ給電部の電位上昇に対する効果の記載は無い。また、アンテナ回路と前記並列回路が並列共振に近い状態になった場合、アンテナ給電部のRF電位が上昇し、アンテナ電位上昇による誘電体窓へのプラズマからのイオンアタックの増加や、イオンアタックで発生する異物(パーティクル)の増加の懸念が推測される。
【0011】
本発明は前記事情に鑑みなされたものであり、アンテナ給電部の電位が低く、異物の発生を抑制可能で、且つ、高密度プラズマを実現可能であり、プラズマ処理の面内分布の制御性に優れ、大面積のプラズマ処理が可能なプラズマ処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
「1」本発明に係るプラズマ処理装置は、内部の圧力が制御可能な真空容器と、前記真空容器内にガスを供給するガス供給手段と、前記真空容器内に設けられて、上面に基板を載置する下部電極と、この下部電極に対向配置された誘導結合を形成する為のアンテナとを有するプラズマ処理装置であって、前記誘導結合を形成する前記アンテナが、一端を整合回路を介し、高周波電力を供給する高周波電源に接続し、他端を開放端とし、前記アンテナの長さがRF周波数の波長(λ)の1/2λ未満であり、前記アンテナの高周波電力給電側に、前記アンテナに並列なインピーダンス調整回路を接続し、前記インピーダンス調整回路による合成インピーダンスのリアクタンス成分を、前記アンテナに供給されるRF周波数に対し、容量性負荷から誘導性負荷まで調整可能とすることを特徴とする。
【0013】
プラズマ処理装置において、下部電極と誘導結合するアンテナの一端を整合回路を介し高周波電源に接続し、他端を開放端とすることにより、アンテナの他端をコンデンサーを介し接地した従来構造に比べ、アンテナ給電部におけるR F 電位を例えば約1/3以下などに低減できる。このため、アンテナから放射される振動電界を低減することができ、プラズマからのイオンアタックによる誘電体窓の削れを抑制し、イオンアタックに起因する異物(パーティクル)発生を抑制できる。
プラズマ処理装置において、合成インピーダンスのリアクタンス成分を容量性負荷から誘導性負荷まで調整可能なインピーダンス調整回路を備えることで、アンテナに流れるRF電流の量を調整可能となる。これにより、プラズマの密度、強弱が調整可能となる。
アンテナに並列なインピーダンス調整回路とすることで、より高密度のプラズマの生成を可能とし、大面積で均一なプラズマの生成を可能とする。
【0014】
「2」本発明において、前記インピーダンス調整回路が可変コンデンサーであり、使用するアプリケーションによって前記可変コンデンサーの容量を最適化し、前記インピーダンス調整回路の合成インピーダンスを、前記アンテナに供給されるRF周波数に対し調整する事により、プラズマ分布の調整、プラズマ密度の調整を自在としたことが好ましい。
【0015】
可変コンデンサーの利用により、使用するアプリケーションによって種々のプラズマ処理条件に対し、プラズマ分布、プラズマ密度の調整が容易にできるようになる。
【0016】
「3」本発明において、前記誘導結合を形成するアンテナがスパイラル形状のコイルアンテナであり、その巻き数(ターン数)が少なくとも2ターン以上の巻き数を有することが好ましい。
【0017】
スパイラル形状のコイルアンテナであれば、一般的な櫛形形状や、はしご型形状、クランク型形状のアンテナに比べて、アンテナとプラズマとの結合が強くなり、より高密度のプラズマが生成可能である。
また、コイルアンテナの巻き数は、下記、アンテナから放射される磁界強度Hの式(1)から、磁場強度Hと比例関係にあり、ターン数が多い程、コイルアンテナから放射される磁場強度が強くなり、より、高密度のプラズマが生成可能となる。
【0018】
【0019】
式(1)において、Iは、コイルアンテナに流れる電流(瞬時値)で、aはコイルアンテナの半径、xは中心からの距離、nはコイルアンテナの巻き数(ターン数)をそれぞれ表す。
【0020】
「4」本発明において、前記アンテナの開放端側の部分が、電位の上昇による気中放電(アーキング)防止用の絶縁体で被覆されるか、或いは、絶縁体を介し、近くの構造物に支持されたことが好ましい。
【0021】
アンテナの一端を開放端にすると、RF電位の上昇により高RF電力を投入した際、気中放電(アーキング)を発生するおそれがある。アンテナの開放端を絶縁体で覆うか、絶縁体を介して支持すると、気中放電(アーキング)を防止することができる。
【0022】
「5」本発明に係るプラズマ処理装置は、内部の圧力が制御可能な真空容器と、前記真空容器内にガスを供給するガス供給手段と、前記真空容器内に設けられて、上面に基板を載置する下部電極と、この下部電極に対向配置された誘導結合を形成する為のアンテナとを有するプラズマ処理装置であって、前記アンテナが、一端を整合回路を介し高周波電力を供給する高周波電源に接続し、他端を開放端とした複数のアンテナ素子を集合させた集合体アンテナであり、前記アンテナの長さが、RF周波数の波長(λ)の1/2λ未満であり、前記整合回路から前記複数のアンテナまでの間に、RF電力を分配供給する為のRF電力分配経路を有し、前記RF電力分配経路と各々のアンテナの高周波電力給電側の間に、前記アンテナに並列なインピーダンス調整回路が、少なくとも1つ以上のアンテナに並列に接続され、前記アンテナまたはアンテナ群と、前記インピーダンス整合回路による合成インピーダンスのリアクタンス成分が、前記アンテナまたは前記アンテナ群に供給されるRF周波数に対して、容量性負荷から誘導性負荷まで前記インピーダンス調整回路により調整可能なことを特徴とする。
【0023】
プラズマ処理装置において、下部電極と誘導結合するアンテナまたはアンテナ群の一端を整合回路を介し高周波電源に接続し、他端を開放端とすることにより、アンテナの他端をコンデンサーを介し接地した従来構造に比べ、アンテナ給電部におけるR F 電位を例えば約1/3以下などに低減できる。このため、プラズマからのイオンアタックによる誘電体窓の削れを抑制し、イオンアタックに起因する異物(パーティクル)発生を抑制できる。
プラズマ処理装置において、合成インピーダンスのリアクタンス成分を容量性負荷から誘導性負荷まで調整可能なインピーダンス調整回路を備えることで、アンテナに流れるRF電流の量を調整可能となる。これにより、プラズマの密度、強弱が調整可能となる。
複数のアンテナ素子を集合した集合体アンテナとすることにより、大面積で均一なプラズマが生成可能な高密度プラズマ生成機構を提供できる。
アンテナに並列なインピーダンス調整回路とすることで、より高密度のプラズマの生成を可能とし、大面積で均一なプラズマの生成を可能とする。
また、複数のアンテナ群からアンテナを構成することでプラズマの面内分布調整を自在に行うことができるプラズマ処理装置を提供できる。
【0024】
「6」本発明において、前記インピーダンス調整回路が可変コンデンサーであり、使用するアプリケーションによって前記可変コンデンサーの容量を最適化し、前記インピーダンス調整回路の合成インピーダンスを、前記アンテナに供給されるRF周波数に対し調整する事により、プラズマ分布調整、プラズマ密度の調整を自在としたことが好ましい。
【0025】
可変コンデンサーの利用により、使用するアプリケーションによって種々のプラズマ処理条件に対し、プラズマ分布、プラズマ密度の調整が容易にできるようになる。
【0026】
「7」本発明において、前記誘導結合を形成するアンテナがスパイラル形状のアンテナコイルであり、その巻き数(ターン数)が少なくとも2ターン以上の巻き数を有することが好ましい。
【0027】
スパイラル形状のコイルアンテナであれば、一般的な櫛形形状や、はしご型形状、クランク型形状のアンテナに比べて、アンテナとプラズマとの結合が強くなり、より高密度のプラズマが生成可能である。
また、コイルアンテナの巻き数は、先に示したアンテナから放射される磁界強度Hの式(1)から、磁場強度Hと比例関係にあり、ターン数が多い程、コイルアンテナから放射される磁場強度が強くなり、より、高密度のプラズマが生成可能となる。
【0028】
「8」前記アンテナの開放端側の部分が、電位の上昇による気中放電(アーキング)防止用の絶縁体で被覆されるか、或いは、絶縁体を介し、近くの構造物に支持されたことが好ましい。
【0029】
アンテナの一端を開放端にすると、RF電位の上昇により高RF電力を投入した際、気中放電(アーキング)を発生するおそれがある。アンテナの開放端を絶縁体で覆うか、絶縁体を介して支持すると、気中放電(アーキング)を防止することができる。
【0030】
「9」本発明において、前記アンテナ群の各々のアンテナのRF給電部から開放端部に到る経路の途中で、各々のアンテナに流れるRF電流を計測可能な電流計を具備し、前記アンテナに流れる電流値から、前記インピーダンス調整回路のインピーダンスを調整自在とし、前記アンテナに流れる電流値を調整する事で、プラズマ密度の面内分布を制御可能としたことが好ましい。
【0031】
アンテナの電流値から、アンテナに並列に接続されたインピーダンス調整回路のインピーダンスを調整可能にできるので、プラズマ分布調整の再現性の確保と、調整時間の短縮が可能となる。また、アンテナ群のいずれかのアンテナやインピーダンス調整回路のいずれかの制御機構に不具合が発生した場合、瞬時に不具合を検出し、基板のプラズマ処理を中断し、アラームを発報することで、基板の処理不良を未然に防ぐことが可能となる。
【0032】
「10」本発明において、前記インピーダンス調整回路の調整が、プラズマ処理を行う為の処理レシピの各処理ステップにおいて設定可能であり、事前に、任意のインピーダンス調整回路の値を設定したインピーダンス調整値のパラメーター設定により設定可能としたことが好ましい。
【0033】
プラズマ処理を行う場合、事前に、任意のインピーダンス調整回路の値を設定した、インピーダンス調整値のパラメーター設定を用いることにより、各処理ステップに於いて最適なプラズマ分布やプラズマ強度を選択する事が可能なプラズマ処理装置を提供できる。
これによって、様々なプラズマ処理のアプリケーションに対して、簡単に、プラズマの強弱、密度分布が調整可能になる。
【0034】
「11」本発明において、前記合成インピーダンスのリアクタンス成分が使用するRF周波数に対して、容量性負荷から誘導性負荷までの変化に対応可能な、逆L型整合回路、または、T型整合回路から前記整合回路が構成されたことが好ましい。
【0035】
逆L型整合回路あるいはT型整合回路により容量性負荷のインピーダンスから誘導性負荷のインピーダンスまで整合範囲をカバーすることが可能となり、本形態のプラズマ処理装置に適用できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のプラズマ処理装置によれば、従来の誘導結合型プラズマ処理装置と比較して、より高密度のプラズマが生成可能であり、また、大面積であってもプラズマの面内分布を自在に調整可能となり、また、高周波電力が高パワーになっても、アンテナコイルのRF電位を低く抑え、アンテナ下の誘電体窓のプラズマからのイオンアタックによる削れを抑制し、異物(パーテイクル)の発生を抑制する事が可能となる。
尚、本発明は、プラズマエッチング装置や、アッシング装置に限らず、CVD製膜装置等の他のプラズマ処理装置に広く適用する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】従来の誘導結合型プラズマ処理装置を示す断面図。
【
図2】本発明の第1 実施形態に係るプラズマ処理装置を示す断面図。
【
図3】本発明の第1 実施形態に係るプラズマ処理装置に設けられる終端開放端アンテナの例を示す図。
【
図4】本発明の第1 実施形態に係るプラズマ処理装置に設けられる終端開放端アンテナと並列なインピーダンス調整用回路(可変コンデンサー)の配置例を示す図。
【
図5】従来の誘導結合型アンテナを使用した際のアンテナコイルの電位分布を示す図。
【
図6】本発明の第1 実施形態に係る終端開放端アンテナ素子と、並列なインピーダンス調整回路(可変コンデンサー)を使用した際の、アンテナコイルの電位分布を示す図。
【
図7】別の形態において、終端開放端アンテナコイルに更に直列にコンデンサーを追加した際の、アンテナコイルの電位分布を示す図。
【
図8】同終端部開放端アンテナコイルを使用した場合と、従来のアンテナ構造における、セラミック誘電体窓下に設置したSiO
2酸化膜の評価用チップの削れ量比較結果を測定した場合に適用したプラズマ処理装置を示す断面図。
【
図9】コイルアンテナ他端部(開放端)の気中放電(アーキング)防止構造を示すもので、(A)は第1の例を示す斜視図、(B)は第2の例を示す斜視図。
【
図10】本発明の実施例1のプラズマ処理装置における、負荷側合成インピーダンスのR F周波数に対する変化を示した図。
【
図11】本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置に設けられる終端開放端アンテナ群(4個)と、各々のアンテナに並列なインピーダンス調整
回路(可変コンデンサー)の配置例を示す図。
【
図12】本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置に設けられる終端開放端アンテナ群(4個)と、2個のアンテナに対して1つの並列なインピーダンス調整
回路(可変コンデンサー)を設置した際の配置例を示す図。
【
図13】本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置に設けられる終端開放端アンテナ群(16個)と、各々のアンテナに並列なインピーダンス調整
回路(可変コンデンサー) を設置した際の配置例を示す図。
【
図14】本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置に設けられる終端開放端アンテナ群(16個)と、2個のアンテナに対して、1つの並列なインピーダンス調整
回路(可変コンデンサー) を設置した際の配置例を示す図。
【
図15】本発明の第2実施形態に係る終端開放端アンテナ群と、各々のアンテナに並列なインピーダンス調整
回路(可変コンデンサー)を設置し、インピーダンス調整を実施した状態において、プラズマ密度分布調整を簡略的に示した、プラズマ処理装置の断面図。
【
図16】終端部が開放端のアンテナにおける、アンテナと並列接続されたインピーダンス調整回路を調整した時の、酸素プラズマの発光分光強度(OES)の比較結果を示すグラフ。
【
図17】実施例2のアンテナ構造の場合の酸素プラズマ密度と、従来のアンテナ構造の場合の酸素プラズマ密度について圧力10mTorrの場合の比較結果を示すグラフ。
【
図18】実施例2のアンテナ構造の場合の酸素プラズマ密度と、従来のアンテナ構造の場合の酸素プラズマ密度について圧力20mTorrの場合の比較結果を示すグラフ。
【
図19】実施例2のアンテナ構造の場合の酸素プラズマ密度と、従来のアンテナ構造の場合の酸素プラズマ密度について圧力30mTorrの場合の比較結果を示すグラフ。
【
図20】本発明の実施形態で使用するマッチング(整合)回路の内、T型整合回路の電気回路図の1 例を示した図。
【
図21】本発明の実施形態で使用するマッチング(整合) 回路の内、逆L型整合回路の電気回路図の1 例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
「第1実施形態」
本発明のプラズマ処理装置の各実施形態について、図面に基づき説明する。
図1は基本的な構造の誘導結合型プラズマ処理装置Aを示す断面図であり、
図2は本発明に係る第1実施形態の誘導結合型プラズマ処理装置Bを示す断面図である。
【0039】
プラズマ処理装置A、Bは、液晶ディスプレイ(LCD)や、有機ELディスプレイ(OLED)等のフラットパネルディスプレイの製造プロセス中において、プラズマによるドライエッチング等の処理を行うプラズマ処理装置である。
プラズマ処理装置A、Bは、内部の圧力が制御可能な金属製の真空容器11と、真空容器11の上面に設けられ、電磁波を透過する誘電体窓12と、真空容器11内を排気して所望の真空度、例えば、0.1~100Pa程度に圧力を維持可能な排気ポンプ13と、真空容器11内に設けられて、上面(一主面)にプラズマ処理を行う為の基板(被処理物)Sを載置するアルミニウム等の導電性材料からなる第2の電極(下部電極)14と、下部電極14に対応して誘電体窓12の上方に配置された誘導結合を形成するためのアンテナからなる第1の電極(誘導結合アンテナ)15と、アンテナの周辺を覆う、アルミニウム等の金属製の導電性材料からなる、高周波シールド16により構成されている。
【0040】
誘電体窓12は、誘導結合アンテナ15から放射される電磁波を透過させて、真空容器11内に電磁波を放射させ、真空容器内に高密度プラズマを形成させるもので、石英やセラミック等の誘電体により構成されている。
真空容器11には、この真空容器11内に処理ガスを導入する為の処理ガス導入口21が設置され、この処理ガス導入口21には、被処理基板に対するプラズマ処理を実施する際に適した各種ガスの供給手段(図示せず)が接続されている。この処理ガス導入口21から、真空容器内11に各種処理ガスが導入され、真空容器11内を所望の圧力に調整する為の自動圧力調整バルブ(図示せず)によって、各処理条件に最適な圧力に調整できるようになっている。
真空容器11の底部には、排気管20を介し排気ポンプ13が接続されているので、真空容器11の内部を排気でき、プラズマ処理中の真空容器11の圧力を、設定された所望の圧力に調整・維持できる。真空容器11の側壁にはゲートバルブ27が設けられ、基板Sを搬入できるようになっている。
【0041】
また、第2の電極(下部電極)14には、バイアス用の第2の高周波(RF)電源25から、第2のマッチングボックス(バイアス用整合器)24を介して、1~100MHz程度の高周波電力が供給される。下部電極14の周辺には、下部電極14と真空容器11との間の絶縁を保つ為の、絶縁部材19が設置されている。
誘導結合アンテナ15は、真空容器11内に高周波電磁波を放射して、所望の処理ガスと所望の処理圧力において、プラズマを励起・解離・電離させて高密度プラズマを発生させるものである。
【0042】
図3に示すように、例えば、銅板等の導電性材料からなる平面状のコイルアンテナ31から構成され、基本的な構造では、
図1に示すように、アンテナコイルの一端が、第1のマッチングボックス(ICP用整合器)22に接続され、他端(アンテナ終端側)は、直接、又は
図1に示す可変コンデンサー34等を介してGND電位に接続される。前記、第1のマッチングボックス22には、第1の高周波(RF)電源23から、1MHz~40MHz程度の高周波(RF)電力が供給され、第1のマッチングボックス22を介して、誘導結合アンテナ15にRF電力が供給される。
【0043】
下部電極14の内部には、被処理物の基板Sの背面に冷却用の熱伝達ガス(He等)を供給する為の、Heガス通路が内蔵されており、Heガス導入部26から、He等の熱伝達ガスを導入する事で、プラズマ処理中の基板Sの温度上昇を抑える事が出来る様になっている。その際、下部電極14と基板Sの間には、基板吸着のためのDC電圧用電極(図示せず)が有り、DC電圧を印加することで、基板Sを吸着し、基板の冷却効率を高めることができる。
【0044】
プラズマ処理装置A、Bを用いて、液晶ディスプレイ(LCD)や、有機ELディスプレイ(OLED)等の表示装置の製造プロセス中で、プラズマ処理を行うには、被処理物の基板Sを、図示しない真空搬送室から、基板搬送ロボットを使用し、ゲートバルブ27を開けて、基板Sを真空容器11に搬入する。
【0045】
基板受取り・受け渡し機構(図示しない)を使用して基板Sを下部電極14表面の基板載置台の上に移送する。ゲートバルブ27を閉めて、処理ガス導入導入口21から処理ガスを導入し、排気ポンプ13で排気を行いながら、真空容器11内を所望の圧力、例えば0.1~100Pa程度に調整・維持した後、第1の高周波電源23より、アンテナ15に高周波を印加する。この時、誘導結合アンテナ(第1の電極)15から、誘電体窓12を透過して真空容器11内に電磁波が放射され、真空容器11内にプラズマが発生する。プラズマ処理用ガスは、プラズマ中で解離し、化学的に活性なラジカルや、電離したイオンとなって、被処理対象である基板Sにプラズマ処理を施す。
【0046】
基本的な構造の誘導結合型プラズマ処理装置A(
図1)において、誘導結合アンテナ15は、コイルアンテナ31と、アンテナ終端側の可変コンデンサー34を直列に接続し、アンテナ終端側可変コンデンサー34を介して、GNDに接続された構造となっている。
【0047】
この時のコイルアンテナ31の、RF給電部側のRF電位(V0-P’)は、第1の高周波電源23により、コイルアンテナ31に高周波電力を給電した時のコイルアンテナ31に流れる電流をI’、供給される高周波電力の角周波数をω、コイルアンテナ31の自己インダクタンスをL1、コイルアンテナ31に直列接続されるコンデンサー34の静電容量をC1とすると、次の式(2)で表される。
【0048】
【0049】
この場合のコイルアンテナ31とコイルアンテナ31に直列接続されたコンデンサー34における、コイルアンテナ31のRF電位分布のイメージを
図5に示す。
【0050】
コイルアンテナ31の他端部には、直列にコンデンサー34が接続されて、その後、接地電位に接続されている為、コイルアンテナ31のRF給電部のRF電位(V0-P’)を、コンデンサーの容量に応じて、低下させる事が可能となっている。
しかし、コイルアンテナ31が大きくなり、コイルアンテナ31の長さが長くなると、比例して、コイルアンテナ31の自己インダクタンスLも増大する為、直列のコンデンサーの容量による、コイルアンテナ31のRF電位(V0-P’)の低下にも限界が有り、コイルアンテナ31のRF電位が上昇する問題が有った。
【0051】
(コイルアンテナ終端部開放端の効果についての説明)
本発明の第1実施形態における、プラズマ処理装置Bを
図2に示す。
図2において、コイルアンテナ31は、一端(アンテナRF入力部32)を第1のマッチングボックス22内部の整合回路を介して、第1の高周波電源23に接続され、他端は、開放端33とされている。また、コイルアンテナ31の一端側には高周波電力供給側と並列になるようにインピーダンス調整回路18が接続されている。
コイルアンテナ31の終端部を開放端33とした場合、開放端部分ではコイルアンテナ31のRF電位は腹のような状態になる為、開放端部分でのRF電位Vが上昇し、コイルアンテナ給電部におけるRF電位V
P-0‘’は、従来の様なコイルアンテナ31に直列のコンデンサー34を介して接地電位に接続する場合に比べ、約1/3以下に低減できることが後述する試験結果等により判明している。
【0052】
この場合のコイルアンテナ31とアンテナ終端部開放端33における、コイルアンテナ31のRF電位分布のイメージを
図6に示す。
また、実際にコイルアンテナ31にRF電力を供給して、プラズマを生成した時の、基本的な構造のプラズマ装置A(実施例1)におけるコイルアンテナ給電部のRF電位V
0-P‘’と、本発明の第1実施形態のプラズマ処理装置B(基本型)におけるRF電位V
0-P‘’の実際の測定値を以下の表1に示す
【0053】
【0054】
表1の結果から、本発明の実施例1のプラズマ処理装置における、コイルアンテナ31給電部のRF電位(VP-P=V0-P×2)は、従来型の処理装置における、コイルアンテナ31給電部のRF電位(VP-P=V0-P×2)と比較して、約30%以下という大幅な値に低減している事が判る。
この結果から、本発明の実施例においては、先述した、大型プラズマ処理装置に対する要求課題の内、(4)に記載のコイルアンテナ31のRF電位を低く抑える事が可能になり、コイルアンテナ下の誘電体窓12のプラズマからのイオンアタックによる削れを抑制し、誘電体窓12のイオンアタックで発生する異物(パーティクル)の量を低減可能である事が判る。
【0055】
実際に、アンテナ下の誘電体窓のプラズマからのイオンアタックによる削れ量の比較を実施する為、真空容器11の内部の、誘電体窓12のプラズマに曝される真空容器側に(誘電体窓12の下側に)、プラズマからのイオンアタックによる削れ量の評価のために、ガラス基板表面に酸化ケイ素(SiO2)の薄膜を付けた、評価用ガラスチップを貼り付け、プラズマからのイオンアタックによるSiO2膜の削れ量の評価を行った。
【0056】
【0057】
【0058】
図8と表2に示す結果から、本発明の実施例においては、基本型の誘導結合プラズマ処理装置と較べて、誘電体窓下の評価用SiO
2の削れ量(エッチングレート)は13.5%に低減しているが、同時に、被処理対象のガラス基板のSiO
2薄膜の削れ量(エッチングレート)には、変化が見られない事が判明した。
この結果から、プラズマ処理による被処理対象のガラス基板の薄膜エッチング処理性能は維持したまま、異物(パーティクル)の発生原因となる、誘電体窓(セラミック等)の削れ量を大きく低減可能である事が判明した。
【0059】
尚、本実施例の実施中に、コイルアンテナ31のコイル終端部(開放端)33において、RF電位の上昇により、高RF電力を投入した際に、気中放電(アーキング)が発生する事が有った。この、気中放電(アーキング)を防止する為には、
図9に示す様に、コイルアンテナセグメント39の終端部(開放端)を、セラミックや絶縁樹脂等の絶縁体40で被覆する構造(
図9(A)参照)や、コイルアンテナセグメント39の終端部(開放端)を、セラミックや樹脂等の絶縁材料で出来た支持部材(絶縁体)41を介して、コイルアンテナ近くの構造物42で支持する構造(
図9(B)参照)を採用することが有効である。
【0060】
尚、この様なコイルアンテナセグメント39を被覆する絶縁材料や、支持する為の絶縁材料としては、比誘電率(εr)が低く、誘電正接(Tanδ)が低い材料が好ましい。
例えば、樹脂材料としては、PTFE(商品名:テフロン、εr=2.2、Tanδ=0.0002)や、ポリエーテルイミド(商品名:ウルテム他、εr=3.15、Tanδ=0.0013)、ポリイミド(商品名:カプトン他、εr=3.7、Tanδ=0.0013)セラミック材料としては、ステアタイト(εr=5.2~6.2、Tanδ=7~13e-4)や、アルミナセラミック(εr=9~10、Tanδ=4e-4)等が好適である。
【0061】
次に、本第1実施形態において、コイルアンテナのRF給電側に並列なインピーダンス調整回路を接続した際の、アンテナと並列なインピーダンス調整回路による合成インピーダンスについて調査した結果を示す。
一例として、
図4に示すように、終端部が開放端であるアンテナコイル31のRF給電側(アンテナRF入力部32)に並列なインピーダンス調整回路として、可変コンデンサー35を接続し、この可変コンデンサー35の容量を変えた時の、コイルアンテナとインピーダンス調整回路の合成インピーダンスの測定結果を以下の表3に示す。
【0062】
【0063】
表3に記載の合成インピーダンスの測定結果から、
(1)50pFの場合…合成インピーダンスのリアクタンスは誘導性負荷、
(2)80pF~(4)150pFの場合…合成インピーダンスのリアクタンス成分は容量性負荷、
(5)250pF~(6)400pFの場合…合成インピーダンスのリアクタンス成分は、誘導性負荷である事がわかった。
即ち、直列リアクタンスを大きく変化できていることがわかる。
【0064】
この様に、コイルアンテナ31のRF給電側(アンテナRF入力部32)に並列なインピーダンス調整回路18(可変コンデンサー35)を接続して、合成インピーダンスが誘導性負荷から、容量性負荷まで調整可能にする事で、コイルアンテナ31に流れるRF電流の量を調整可能となることがわかる。
これは、コイルアンテナ31の入力側の並列組み込みの可変コンデンサー35の容量を調整することで、整合器22から見たアンテナ負荷のインピーダンスを並列共振点(コイルアンテナ31から並列の可変コンデンサー35への循環電流が最大)から直列共振点(負荷に流入する電流最大)に近いインピーダンスとすることでコイルアンテナ31に流れる電流を最大化し、プラズマ密度を最大限に高めることができることによる。
なお、上述の効果を得るために、コイルアンテナ31の長さは、RF周波数の波長λの1/2未満であることが望ましく、波長λの1/4未満であることがより望ましい。コイルアンテナ31の長さが上述の範囲を超えると以下のような問題が発生する。
【0065】
1)コイルアンテナ31の両端(アンテナRF入力部32と他端の開放端33)の間にかかるRF電圧が上昇し、開放端33に近いアンテナ部で気中放電(アーキング)の問題が発生しやすくなる。
2)アンテナ上に分布するRF電圧やRF電流が定在波分布に近くなり、アンテナ上の電圧の最大・最小の部分では誘電体窓のプラズマからのイオンアタックによる削れ量に差が大きくなり、また、RF電流最大・最小部分ではその下に生成されるプラズマ強度の差が大きくなってしまう。
3)コイルアンテナ31と並列なインピーダンス調整回路(インピーダンス調整手段)の可変コンデンサー35の容量を、非常に低い値(例:50pF以下)にしないと、合成インピーダンスを並列共振点から直列共振点に近いインピーダンスまで調整する事が出来なくなるが、低容量のコンデンサーの場合、アンテナ自体の寄生容量(浮遊容量)の影響が大きくなる為、制御が難しくなる。
【0066】
上記の様な問題を防ぐ為には、コイルアンテナ31の長さとしては、RF周波数の波長λの1/2未満であることが望ましく、1/4以下がより望ましい。
なお、この場合のコイルアンテナ31の長さとは、アンテナのRF給電部(アンテナRF入力部32)から、アンテナ開放端33までの総延長長さ(コイルを1次元に伸ばした時の長さ)を指す。
また、コイルアンテナ31の長さが短すぎる場合、先述のコイルアンテナ31から放射される磁界強度の式(1)に従い、アンテナから放射される磁界強度は、コイルの巻き数nに比例するので、コイルの長さが短い程、巻き数nが少なくなる為、コイルアンテナ31から放射される磁界強度が弱くなり、結果、プラズマ密度が低下する。また、大面積のプラズマを生成する為には、一定の大きさ(長辺と短辺の長さ)のコイルアンテナ31が必要で有り、その為には一定以上のアンテナ長さが必要である。
【0067】
コイルアンテナ31に流れるRF電流と、コイルアンテナ31から放射される電磁波の強度は、下記、式(1)から比例関係に有る為、流れる電流が多くなるとコイルアンテナ31から放射されるRF電磁波が強くなる。その結果、誘電体窓12を介してコイルアンテナ31の下に生成されるプラズマの密度が高くなり、反対に、RF電流が少なくなると、コイルアンテナ31の下に生成されるプラズマ密度が弱くなる。
【0068】
コイルアンテナから放射される電場強度Hは以下の式(1)で示される。
【数3】
【0069】
式(1)において、Iは、コイルアンテナに流れる電流(瞬時値)で、コイルアンテナから放射される磁場の強度は、コイルアンテナに流れる電流Iに比例関係にある。
尚、式(1)において、aはコイルアンテナの半径、xはコイルアンテナの中心からの距離、nはコイルアンテナの巻き数(ターン数)をそれぞれ表す。
この結果を元に、大面積基板のプラズマ処理装置への対応を行うべく、コイルアンテナの並列数を増やし、プラズマ生成領域を広げた場合の実施例について、以下に示す。
【0070】
「第2実施形態」
図11は、
図4に代表される第1実施形態のコイルアンテナ31とコイルアンテナ31と並列なインピーダンス調整手段18(例:可変コンデンサー35)を接続したものを、4個並列に配置した時の平面図である。
図11ではコイルアンテナ36、可変コンデンサー37として示している。
図11において、コイルアンテナ36(a)、36(b)、36(c)、36(d)は、各々、前後左右に隣り合うコイルアンテナが互いに逆巻の配置となっている。
【0071】
これは、複数のコイルアンテナ36を配置する際には、単に同一平面内に配置しただけでは、複数のコイルアンテナ36(a)~(d)から発生する誘導電磁界が互いに干渉を起こして、生成されるプラズマが不安定になるためである。また、平面内に配置されたコイルアンテナ36の巻き方が同方向巻の場合、1つの高周波電源23から複数のコイルアンテナ36に給電すると、隣り合うコイルアンテナ36に流れる電流の向きが逆方向となり、コイルアンテナ36から放射される誘導磁場が電流逆方向の箇所で互いに弱めあう方向に作用する為、その箇所に於いてプラズマが弱くなる傾向が有る。
【0072】
しかし、コイルアンテナ36の巻き方を前後左右で逆巻にする事で、隣り合うコイルアンテナ36に流れる電流の向きが同方向になり、コイルアンテナ36から放射される誘導磁場が、電流同方向の箇所で互いに強めあう方向に作用する為、結果として、大面積で均一なプラズマを生成する事ができる。このため、大面積プラズマ処理装置に対する要求課題(2)への対応が可能となる。
【0073】
また、
図12は、4個並列に配置されたコイルアンテナ36(a)~(d)に対して、2個のインピーダンス調整手段(例:可変コンデンサー37)を、2個のコイルアンテナ36のRF入力部に対して1個並列に接続した時の平面図である。この様に、必要に応じて、コイルアンテナ36に並列に接続されるインピーダンス調整手段(可変コンデンサー37)の数を調整する事が出来る。
【0074】
図13は、コイルアンテナ36とアンテナ素子と並列なインピーダンス調整手段(例:可変コンデンサー37)を接続したものを、16個並列に配置した時の平面図である。
高周波電力は、第1の高周波電源23に接続された第1のマッチングボックス(図示されない)から、RF電力分配経路17を経由して、複数の各コイルアンテナ36(a)~36(p)に供給される。
【0075】
アンテナ給電部には、複数のインピーダンス調整手段(例:可変コンデンサー37(a)~37(p)が並列に接続されている。
このインピーダンス調整手段のインピーダンスを調整する事で、大面積基板のプラズマ処理装置における、プラズマの面内分布の調整が自在に可能となる。このため、大面積プラズマ処理装置に対する要求課題(3)への対応が可能となる。
図14は4個並列に配置されたコイルアンテナ36(a)~(d)に対して、2個のインピーダンス調整手段(例:可変コンデンサー37)を、2個のコイルアンテナ36のRF入力部に対して1個並列に接続した時の平面図である。
図14に示すように可変コンデンサー37の設置個数を削減しても良い。
【0076】
図15は、第2実施形態の誘導結合型プラズマ処理装置Cの要部を示す断面図であり、終端部が開放端33とされたコイルアンテナ36(36(a)~36(d))のRF入力側に並列に接続されたインピーダンス調整手段として、可変コンデンサー37(37(a)~37(h))を使用した場合の、プラズマ分布の調整方法について、模式的に示した図である。
表3に示した合成インピーダンスの測定結果から、アンテナ素子入力側の可変コンデンサー37の容量を低容量から高容量に容量を上げた場合、合成インピーダンスの直列リアクタンス成分は低くなっていく。従って、可変コンデンサー37の容量を上げた場合、コイルアンテナ36に流れる電流が、他のコイルアンテナより増大する為、その下に生成されるプラズマの密度が高くなる。つまり、大面積のプラズマにおいて、プラズマの分布を自在に調整可能となる。
【0077】
第2実施形態のプラズマ処理装置C(
図16ではBタイプと表示)において、各コイルアンテナ36(a)~(p)に並列に接続された可変コンデンサー37(a)~37(p)の各容量を変えた時の、酸素プラズマにおける酸素イオン(O
2+)と酸素ラジカル(O*)の各波長における、プラズマ発光分光(OES)の発光強度の比較データを
図16に示す。
図16に示す結果から、可変コンデンサー37(a)~(p)の各容量(全て同一容量とした)が80pFの時に、最も、酸素ラジカルO*の波長(844.8nm)における発光強度が強かった。これは、この条件の時にコイルアンテナから生成される誘導電磁界が最も強くなり、プラズマの解離が進み、酸素プラズマ中の酸素ラジカルO*の数密度が増加したためと推測される。
【0078】
第2実施形態の誘導結合プラズマ処理装置Cと基本型の誘導結合プラズマ処理装置Aにおける酸素プラズマ密度の測定結果を
図17~
図19に示す。酸素プラズマの測定は、ラングミュアープローブを使用し、同じプラズマ生成条件(ガス流量・圧力・高周波電力等条件)において、生成されるプラズマ密度の比較を実施した。
その結果、第2実施形態のプラズマ処理装置Cのプラズマ密度は、基本型の誘導結合型プラズマ処理装置Aのプラズマ密度に対して、40%以上の上昇が観測された。特に、処理圧力の高い条件(20~30mTorr:
図18、
図19参照)において、本実施形態におけるプラズマ密度は最大で90%のプラズマ密度上昇が確認された。
この事は、第2実施形態のプラズマ処理装置Cが、より高密度のプラズマが生成可能な高密度プラズマ生成機構である事を意味する。このため、大面積プラズマ処理装置に対する要求課題(1)への対応が可能となる。
【0079】
プラズマ処理装置において、コイルアンテナ36に並列なインピーダンス調整回路の調整方法として、プラズマ処理を行う為の処理レシピの各処理ステップにおいて設定する事が可能で有り、事前に、任意のインピーダンス調整回路の値(例:可変コンデンサーの容量の値等)を設定した、インピーダンス調整値のパラメーター設定を用いる事で、各処理ステップに於いて最適なプラズマ分布やプラズマ強度を選択する事が可能な処理装置とすることができる。
これによって、様々なプラズマ処理のアプリケーションに対して、簡単に、プラズマの強弱、密度分布が調整可能になる。このため、大面積プラズマ処理装置に対する要求課題(5)への対応が可能となる。
【0080】
プラズマ処理装置において、コイルアンテナ群の各々のコイルアンテナのRF給電部から終端開放端部に到るまでの経路の途中で、各々のコイルアンテナに流れるRF電流を計測可能な電流計を設置しておくことができる。これにより、コイルアンテナの電流値から、コイルアンテナに並列に接続されたインピーダンス調整回路のインピーダンスを調整可能にできるので、プラズマ分布調整の再現性の確保と、調整時間の短縮が可能となる。
また、コイルアンテナ群のいずれかのコイルアンテナやインピーダンス調整回路のいずれかの制御機構に不具合が発生した場合、瞬時に不具合を検出して、基板Sのプラズマ処理を中断し、アラームを発報することで、基板Sの処理不良を未然に防ぐことが可能となる。
【0081】
プラズマ処理装置において、本実施例におけるコイルアンテナ36と並列に接続されたインピーダンス調整手段によって、合成インピーダンスのリアクタンス成分が、容量性負荷から、誘導性負荷まで変化するのに対応可能な、整合回路を設けても良い。
【0082】
図20に、第1のマッチングボックス22に設ける整合回路としてT型整合回路を使用した際の整合回路網と、13.56MHzのRF高周波を使用した場合の整合範囲の一例を示す。
T型整合回路では、
図20に示すスミスチャートから判るように整合範囲が容量性負荷のインピーダンスから誘導性負荷のインピーダンスまでカバーする事が可能であり、本実施例において、並列に接続されたインピーダンス調整手段18によって変化する合成インピーダンスの変化に対して対応可能となる。T型整合回路では主回路に直列コイルが設けられている。
図20に示す例では直列接続した可変コンデンサーVC-1、VC-2の間にインダクタンス回路23を並列接続して整合回路が構成されている。
【0083】
図21に、第1のマッチングボックス22に設ける整合回路として逆L型整合回路(主回路に直列コイルを有した物)を使用した際の整合回路網と、13.56MHzのRF高周波を使用した場合の整合範囲の例を示す。
逆L型整合回路の場合も、
図21に示すスミスチャートから判るように整合範囲が容量性負荷のインピーダンスから誘導性負荷のインピーダンスまで、負荷インピーダンスをカバーする事が可能で有り、本実施例における合成インピーダンスの変化に対しても対応可能なプラズマ処理装置を提供できる。
図21に示す例では直列接続した可変コンデンサーVC-2とインダクタンス回路23に対し可変コンデンサーVC―1を並列接続して整合回路が構成されている。
【符号の説明】
【0084】
A: 基本型のプラズマ処理装置、 B:実施形態のプラズマ処理装置、
11: 真空容器、 12: 誘電体窓、 13: 排気ポンプ(真空ポンプ)、
14: 下部電極(第2の電極)、15: アンテナ(第1の電極)、
16: RFシールド、 17: RF電力分配経路、
18: アンテナ給電側のインピーダンス調整回路、
19: 下部電極絶縁部、
21: 処理ガス導入口、 22: 第1のマッチングボックス(整合回路)、
23: 第1の高周波(RF)電源、24: 第2のマッチングボックス(整合回路)、
25: 第2の高周波(RF)電源、26: Heガス導入部、
27: ゲートバルブ、
31: コイルアンテナ、 32: アンテナRF入力部、
33: アンテナ終端部(開放端)、 34: アンテナ終端側の可変コンデンサー、
35: アンテナ入力側の可変コンデンサー、
36a~36p: 集合体アンテナの各コイルアンテナ、
37a~37p: 集合体アンテナの各入力側可変コンデンサー、
38: コンデンサー、 39: コイルアンテナセグメント、
40: アンテナ開放端部の絶縁体、 41:支持部材(絶縁体)、
42: アンテナ近くの構造物、
S: 基板(被処理物)、 VC-1、VC-2:可変コンデンサー。