(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】紫外線センサ
(51)【国際特許分類】
H01J 47/02 20060101AFI20220912BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
H01J47/02
G01J1/02 G
(21)【出願番号】P 2018160990
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 有紀
(72)【発明者】
【氏名】片桐 宗和
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-044573(JP,A)
【文献】特開2000-023697(JP,A)
【文献】特開2003-322562(JP,A)
【文献】特開2004-207481(JP,A)
【文献】特開2011-014330(JP,A)
【文献】特開2013-019719(JP,A)
【文献】特開2013-196812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 47/02
G01J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極と、このアノード電極に所定の間隙を隔てて対向して設けられたカソード電極と、前記アノード電極および前記カソード電極を収容したガラス製の保護管とを備え、前記アノード電極と前記カソード電極との間の放電によって生じる電流に基づいて、前記保護管の前記アノード電極と対向する方向に位置する天板部を透過して入射される紫外線を検出する紫外線センサにおいて、
前記保護管は、
前記アノード電極および前記カソード電極の周囲を囲むように前記天板部に接合された筒部と、
前記筒部の内壁面に形成された、前記アノード電極と前記カソード電極との間の放電に起因して前記筒部に誘発される蛍光を抑制する蛍光抑制膜と
を備えることを特徴とする紫外線センサ。
【請求項2】
請求項1に記載された紫外線センサにおいて、
前記保護管は、さらに、前記筒部の前記天板部とは反対側の面を塞ぐように接合された台座部を備え、
前記蛍光抑制膜は、前記台座部の内壁面にも形成されている
ことを特徴とする紫外線センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された紫外線センサにおいて、
前記蛍光抑制膜は、SiもしくはSiO
2を含む材料からなる
ことを特徴とする紫外線センサ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載された紫外線センサにおいて、
前記蛍光抑制膜は、前記筒部に誘発される250~300nmの波長の蛍光を抑制する
ことを特徴とする紫外線センサ。
【請求項5】
アノード電極と、このアノード電極に所定の間隙を隔てて対向して設けられたカソード電極と、前記アノード電極および前記カソード電極を収容したガラス製の保護管とを備え、前記アノード電極と前記カソード電極との間の放電によって生じる電流に基づいて、前記保護管の前記アノード電極と対向する方向に位置する天板部を透過して入射される紫外線を検出する紫外線センサにおいて、
前記保護管は、前記アノード電極および前記カソード電極の周囲を囲むように前記天板部に接合された筒部を備え、
前記筒部は、前記アノード電極と前記カソード電極との間の放電に起因して前記筒部に誘発される蛍光を抑制する蛍光抑制材料で形成されている
ことを特徴とする紫外線センサ。
【請求項6】
請求項5記載された紫外線センサにおいて、
前記保護管は、さらに、前記筒部の前記天板部とは反対側の面を塞ぐように接合された台座部を備え、
前記台座部は、前記蛍光抑制材料で形成されている
ことを特徴とする紫外線センサ。
【請求項7】
請求項5又は6に記載された紫外線センサにおいて、
前記蛍光抑制材料は、石英ガラスである
ことを特徴とする紫外線センサ。
【請求項8】
請求項5~7の何れか1項に記載された紫外線センサにおいて、
前記蛍光抑制材料は、前記筒部に誘発される250~300nmの波長の蛍光を抑制する
ことを特徴とする紫外線センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード電極とカソード電極との間の放電によって生じる電流に基づいて紫外線を検出する紫外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のボディーや部品の塗装ラインの乾燥炉、アルミや亜鉛ダイキャストの溶解炉、および金属部品の焼き入れ用の熱処理炉などの各種工業炉において、燃焼安全装置の火炎検出センサとして紫外線センサが用いられている。
【0003】
図13を参照して、火炎検出センサとして用いられている従来の紫外線センサの構成について説明する(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
この紫外線センサ1Cは、アノード電極11と、このアノード電極11に所定の間隙を隔てて対向して設けられたカソード電極12と、アノード電極11およびカソード電極12を収容したガラスパッケージ(ガラス製の保護管)13Cとを備えている。ガラスパッケージ13Cは、ホウ珪酸ガラスで構成されており、内部空間に特殊な混合ガスが一定圧で封入されている。
【0005】
アノード電極11には、このアノード電極11をカソード電極12が設けられている方向から支える複数の導電性の支柱14(14-1~14-3)の一端部がレーザ溶接されており、この導電性の支柱14(14-1~14-3)の他端部はガラスパッケージ13Cの外部に引き出されている。また、アノード電極11には、複数の貫通孔11aが網目状に形成されている。
【0006】
カソード電極12にも、アノード電極11と同様、カソード電極12を支える複数の導電性の支柱15(15-1~15-3)の一端部がレーザ溶接されており、この導電性の支柱15(15-1~15-3)の他端部もガラスパッケージ13Cの外部に引き出されている。
【0007】
ガラスパッケージ13Cは、アノード電極11と対向する天板ガラス(天板部)13-1と、天板ガラス13-1に一端が接合されて、アノード電極11およびカソード電極12の周囲を囲む円筒状のエンベロープガラス(筒部)13-2と、エンベロープガラス13-2の他端に接合されたボタンステム(台座部)13-3とから構成されている。ボタンステム13-3は、エンベロープガラス13-2の天板ガラス13-1とは反対側の面を塞ぐように、エンベロープガラス13-2に接合されている。
【0008】
天板ガラス13-1は、ガラス(ホウ珪酸ガラス)内から紫外線を吸収する成分を除去することによって、紫外線を透過できるものとされている。これに対し、エンベロープガラス13-2およびボタンステム13-3は、紫外線を吸収する成分を含む通常のホウ珪酸ガラスでできており、これらの部分からガラスパッケージ13Cの内部への紫外線の入射が防がれる。また、アノード電極11とカソード電極12はそれぞれ円板状とされ、これらの電極間には直流電圧が印加されている。
【0009】
このように構成された紫外線センサ1Cでは、天板ガラス13-1を通過した紫外線がアノード電極11の貫通孔11aを通ってカソード電極12に到達すると、光電効果によりカソード電極12から電子が放出され、これが電場により加速されて封入ガスの分子と衝突することによって電子なだれが発生して、アノード電極11とカソード電極12との間で放電が開始される。
【0010】
すなわち、カソード電極12への紫外線の入射による光電効果をトリガーとして、アノード電極11とカソード電極12との間の放電が開始され、この放電によってアノード電極11とカソード電極12との間に電流が流れるので、このアノード電極11とカソード電極12との間に流れる電流に基づいて、天板ガラス13-1を通過した特定波長の紫外線を検出することができる。
【0011】
なお、光電効果とは、物質が光を吸収した際に内部の電子が励起され、それに伴って電子が飛び出す現象を言う。この光電効果において、物質表面から電子を1つ取り出すのに必要なエネルギーは仕事関数と呼ばれ、入射される光のエネルギーをhν、仕事関数をw、物質から飛び出す電子の運動エネルギーをEとした場合(
図14参照)、E=hν-wと表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2012-255730号公報
【文献】特開2015-115228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような紫外線センサにおいて、ガラスパッケージを構成するホウ珪酸ガラスの成分は、主に酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化アルミニウムであるが、パッケージ用のガラスであっても、ガラスメーカによって厳密な成分や成分比は異なり、光学的特性に違いが生じる。
【0014】
本願の発明者らは、ガラスパッケージを構成するホウ珪酸ガラスに複数のガラスメーカのものを適応したところ、ガラスによって紫外線センサ内に入射する紫外線がなくなっても電極間で放電が継続する現象が生じる場合があることがわかった。このように、紫外線がない状態でも放電が継続する現象は、紫外線センサの誤動作の原因となる。
【0015】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、誤動作を起こし難い、紫外線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために本発明は、アノード電極(11)と、このアノード電極に所定の間隙を隔てて対向して設けられたカソード電極(12)と、前記アノード電極および前記カソード電極を収容したガラス製の保護管(13A)とを備え、前記アノード電極と前記カソード電極との間の放電によって生じる電流に基づいて、前記保護管の前記アノード電極と対向する方向に位置する天板部(13-1)を透過して入射される紫外線を検出する紫外線センサ(1A)において、前記保護管は、前記アノード電極および前記カソード電極の周囲を囲むように前記天板部に接合された筒部(13-2)と、前記筒部の内壁面(13-2a)に形成された、前記アノード電極と前記カソード電極との間の放電に起因して前記筒部に誘発される蛍光を抑制する蛍光抑制膜(16)とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、アノード電極とカソード電極との間の放電に起因して保護管の筒部に誘発される蛍光が、保護管の筒部の内壁面に形成された蛍光抑制膜(例えば、Siを含む材料からなる膜やSiO2を含む材料からなる膜)によって抑制される。
【0018】
本発明において、保護管の筒部の内壁面に蛍光抑制膜を形成する代わりに、保護管の筒部を蛍光抑制材料(例えば、石英ガラス)で形成するようにしてもよい。保護管の筒部を蛍光抑制材料で形成するようにしても、保護管の筒部に誘発される蛍光を抑制することができる。
【0019】
なお、上記説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の構成要素を、括弧を付した参照符号によって示している。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、保護管の筒部の内壁面に形成された蛍光抑制膜や、蛍光抑制材料で形成された保護管の筒部により、保護管の筒部に誘発される蛍光が抑制されるので、この蛍光によるカソード電極における光電効果の発現を抑制し、誤動作を起こし難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、カソード電極の母材のアノード電極に対向する面(母材の表面)に結晶方位(110)のタングステンの膜を形成した状態を示す図である。
【
図2】
図2は、タングステンの結晶方位とその結晶方位における仕事関数および限界感度波長を例示する図である。
【
図3】
図3は、母材の表面に結晶方位(110)のタングステンの膜を形成したカソード電極を用いた場合の紫外線の検出可能範囲を示す図である。
【
図4】
図4は、ホウ珪酸ガラスの種類によっては、200~250nmの波長の紫外線によって蛍光(250~300nmの波長の蛍光)が生じることがあることを示す図である。
【
図5】
図5は、火炎によって発生する放電現象によって電極間に発生する光に含まれる200~280nmの波長の紫外線によって、ガラスパッケージ(エンベロープガラスやボタンステム)に250~300nmの波長の蛍光が誘発されることがあることを示す図である。
【
図6】
図6は、ホウ珪酸ガラスに誘発される蛍光を起点として生じる放電を説明する図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態1に係る紫外線センサの要部の構成を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態1に係る紫外線センサの製造工程の概略を示す図である。
【
図9】
図9は、エンベロープガラスの内壁面に蛍光抑制膜を形成した場合としない場合の放電の確率(放電の停止し易さを評価する値)を示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態1に係る紫外線センサにおいてボタンステムの内壁面にも蛍光抑制膜を形成するようにした例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施の形態2に係る紫外線センサの要部の構成を示す図である。
【
図12】
図12は、実施の形態2に係る紫外線センサにおいてボタンステムも蛍光抑制材料で形成するようにした例を示す図である。
【
図13】
図13は、従来の紫外線センサの要部を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、光電効果によって飛び出す電子の運動エネルギーと入射される光のエネルギーと仕事関数との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。先ず、実施の形態の説明に入る前に、本発明の概要について説明する。
【0023】
〔発明の概要〕
本出願人は、
図13に示した紫外線センサ1Cにおいて、カソード電極12を、母材となる結晶方位(200)のタングステン(W)と、この母材のアノード電極11に対向する面に形成した金属膜、具体的には結晶方位(110)のタングステンの膜とから形成している(特願2017-147608号参照)。
【0024】
より具体的には、
図1に示すように、圧延処理されたタングステン(結晶方位(200)のタングステン)の板をカソード電極12の母材12_1とし、母材12_1の表面をスパッタリングすることによって、母材12_1のアノード電極11に対向する面(母材12_1の表面12_1a)にタングステンのスパッタ粒の層(結晶方位(110)のタングステンの膜)12_2を形成している。
【0025】
結晶方位(110)のタングステンの仕事関数は結晶方位(200)のタングステンの仕事関数よりも大きい。一般に、タングステンは、結晶方位が(200)である場合、仕事関数は4.63evとなり、真空中で光電効果が生じる波長の最大値(以下、限界感度波長という。)が268nmとなる。また、結晶方位が(110)である場合、仕事関数は5.25evとなり、限界感度波長は237nmとなる(
図2参照)。
【0026】
なお、上記の限界感度波長は、下記(1)式により計算した。
λmax=h・c×109/(w×1.60×10-19) ・・・・(1)
λmax:限界感度波長、h:プランク定数(6.63×10-34J・s)、c:光速(3.00×108m/s)、w:仕事関数。
【0027】
このカソード電極12の母材12_1の表面12_1aにタングステンのスパッタ粒の層12_2を形成した紫外線センサ1では、真空中で光電効果が発現する限界感度波長は237nmとなるが、ガラスパッケージ13C内のガス圧や印加電圧などを調整することによって、火炎から生じる特定波長(185~240nm)の紫外線のみを選択的に検出することができる(
図3参照)。
【0028】
上述したように、ガラスパッケージ13Cを構成するホウ珪酸ガラスは、ガラスメーカによって厳密な成分や成分比が異なるため、その光学的特性に違いが生じる。この光学的特性の違いにより、ホウ珪酸ガラスの種類によっては、200~250nmの波長の紫外線によって250~300nmの波長の蛍光を生じるものがある(
図4参照)。
【0029】
紫外線センサによる火炎検出は、紫外線入射による光電効果をトリガーとして生じる放電現象を火炎検出に応用しているが、紫外線の発生源が火炎ではなくても、紫外線がカソード電極に入射すると、光電効果が起こり得る。火炎によって発生する放電現象によって電極間には光が発生するが、この時、その光には200~280nmの波長の紫外線も含まれている(
図5参照)。この紫外線は、ガラスパッケージを構成するホウ珪酸ガラスの種類によっては、250~300nmの波長の蛍光を誘発し、この蛍光がカソード電極における光電効果のトリガーとなり得る。
【0030】
すなわち、
図1に示したカソード電極12において、アノード電極11に対向する面(受光面)は、結晶方位が(110)のタングステンのスパッタ粒の層12_2に覆われているため、250~300nmの波長の蛍光では光電効果は発現しない。しかしながら、カソード電極12の裏面(母材12_1の裏面12_1b)は、タングステンのスパッタ粒の層を形成していないために、結晶方位(200)の母材12_1が露出しており、タングステンのスパッタ粒の層12_2よりも仕事関数が小さい。そのため、 ホウ珪酸ガラスよりなるエンベロープガラス13-2やボタンステム13-3に誘発される250~300nmの波長の蛍光によって、カソード電極12の裏面で光電効果が発現し、電子が飛び出すことによって放電現象のトリガーとなり得る。
【0031】
現場での紫外線センサ1Cの使用を想定した場合、シャッタなどによって火炎から生じる紫外線が遮られた際には、紫外線センサ1Cにおけるアノード電極11とカソード電極12との間の放電は直ちに停止しなければならない。しかし、ホウ珪酸ガラスよりなるエンベロープガラス13-2やボタンステム13-3に蛍光が誘発される場合、カソード電極12の裏面で光電効果が発現し、この蛍光による光電効果をトリガーとする放電が継続することにより、火炎から生じる紫外線がなくなった後も紫外線センサ1Cにおける放電が停止しない可能性がある。火炎から生じる紫外線がなくなった後も放電が停止しない現象は、火炎検出の誤検知につながる可能性があり、問題である。
【0032】
図6に、ホウ珪酸ガラスに誘発される蛍光を起点として生じる放電を説明する図を示す。天板ガラス13-1からの紫外線によってアノード電極11とカソード電極12との間に放電が生じ、この放電によって紫外線が発生すると(
図6(a))、この紫外線によってホウ珪酸ガラスよりなるエンベロープガラス13-2やボタンステム13-3に蛍光が誘発される(
図6(b))。この誘発された蛍光によって、天板ガラス13-1からの紫外線がなくなった後も、アノード電極11とカソード電極12との間に放電が生じる(
図6(c))。アノード電極11とカソード電極12との間に放電が生じると、この放電によって再び紫外線が発生する。この繰り返しによってアノード電極11とカソード電極12との間の放電が継続する。
【0033】
上述した内容は、発明者らの研究過程で得られた知見である。この知見から、発明者らは、ホウ珪酸ガラスに誘発される蛍光を抑制することによって、この蛍光がカソード電極における光電効果のトリガーとなることを防ぎ、天板ガラスを透過して入射される紫外線がなくなった後も、アノード電極とカソード電極との間の放電が継続することがないようにして、誤動作を起こし難くすることが可能となることを見出した。
【0034】
〔実施の形態1〕
図7に本発明の実施の形態1に係る紫外線センサ1Aの要部の構成を示す。同図において、
図13を参照して説明した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0035】
実施の形態1に係る紫外線センサ1Aでは、ガラスパッケージ(ガラス製の保護管)13Aのエンベロープガラス(筒部)13-2の内壁面13-2aの全面に蛍光抑制膜16を形成している。
【0036】
この蛍光抑制膜16は、アノード電極11とカソード電極12との間の放電に起因してエンベロープガラス13-2に誘発される蛍光を抑制する役割を果たす。すなわち、アノード電極11とカソード電極12との間の放電により発生する光に含まれる200~280nmの波長の紫外線のエンベロープガラス13-2への入射量を減らして、エンベロープガラス13-2に誘発される250~300nmの波長の蛍光を抑制する役割を持つ。
【0037】
この例では、Siを含む材料からなる膜やSiO2を含む材料からなる膜を蛍光抑制膜16として、エンベロープガラス13-2の内壁面13-2aの全面にコーティングしている。SiやSiO2は200~280nmの波長の紫外線のエンベロープガラス13-2への入射量を減らす。
【0038】
なお、この紫外線センサ1Aにおいても、カソード電極12の母材12_1の表面12_1aは、タングステンのスパッタ粒の層(結晶方位(110)のタングステンの膜)12_2が形成されているが、裏面12_1bには形成されていない。また、この例において、タングステンのスパッタ粒の層12_2の膜厚は、50~200nmとされている。
【0039】
図8に、実施の形態1に係る紫外線センサ1Aの製造工程の概略を示す。この紫外線センサ1Aを製造する場合、ボタンステム(台座部)13-3のガラス成形を行い(ステップS101)、このボタンステム13-3に挿入固定されている導電性の支柱14,15へのアノード電極11やカソード電極12の溶接(電極溶接)を行う(ステップS102)。
【0040】
また、エンベロープガラス(筒部)13-2の内壁面13-2aにSiを含む材料からなる膜もしくはSiO2を含む材料からなる膜をコーティングすることによって蛍光抑制膜16を形成し(ステップS103)、天板ガラス(天板部)13-1とエンベロープガラス13-2とを接合する(ステップS104)。
【0041】
そして、ステップS102で電極溶接を行ったボタンステム13-3に、ステップS104で天板ガラス13-1を接合したエンベロープガラス13-2を接合して(ステップS105)、ガラスパッケージ13Aとする。そして、このガラスパッケージ13Aの内部にガスを封入し、チップオフとする(ステップS106)。なお、ステップS103とステップS104の工程は、その順番を逆としてもよい。
【0042】
図9に、エンベロープガラス13-2の内壁面13-2aに蛍光抑制膜16を形成した場合としない場合の放電の確率(放電の停止し易さを評価する値)を示す。例えば、「電極間に断続的に電圧を印加しながら間欠的に紫外線を照射して放電電流を観測したときの、紫外線を照射した回数と放電電流を検出した回数の比」を放電の確率として用いる。横軸はサンプル(#1~#11)を示し、縦軸は放電の確率を示す。蛍光抑制膜16としてSiを含む材料からなる膜やSiO
2を含む材料からなる膜をコーティングした場合、コーティングしない場合よりも放電の確率が下がり、放電の停止し易さを評価する値に改善がみられた。
【0043】
以上の説明から分かるように、実施の形態1に係る紫外線センサ1Aでは、エンベロープガラス13-2の内壁面13-2aに形成された蛍光抑制膜16によって、エンベロープガラス13-2に誘発される蛍光が抑制される。これにより、エンベロープガラス13-2に誘発される蛍光によるカソード電極12における光電効果の発現が抑制され、天板ガラス13-1を透過して入射される紫外線がなくなった後も、アノード電極11とカソード電極12との間の放電が継続することがないようにして、誤動作を起こし難くいものとすることができる。
【0044】
なお、
図7に示した紫外線センサ1Aではエンベロープガラス13-2の内壁面13-2aに蛍光抑制膜16を形成するようにしたが、
図10に紫外線センサ1A’として示すように、ボタンステム13-3の内壁面13-3aにも蛍光抑制膜16’を形成するようにしてもよい。
【0045】
また、この実施の形態1に係る紫外線センサ1Aでは、エンベロープガラス13-2をホウ珪酸ガラスとするので、後述する実施の形態2に係る紫外線センサのように高い融点のガラスを溶融することができるガラス成形機を使用する必要はない。
【0046】
〔実施の形態2〕
図11に本発明の実施の形態2に係る紫外線センサ1Bの要部の構成を示す。実施の形態2に係る紫外線センサ1Bでは、ガラスパッケージ13Bのエンベロープガラス13-2’を蛍光抑制材料で形成している。
【0047】
この蛍光抑制材料は、アノード電極11とカソード電極12との間の放電に起因してエンベロープガラス13-2’に誘発される蛍光を抑制する役割を持つ。この例では、エンベロープガラス13-2’を形成する蛍光抑制材料として、石英ガラスを用いている。
【0048】
石英ガラスで形成されたエンベロープガラス13-2’において、アノード電極11とカソード電極12との間の放電により発生する光に含まれる200~280nmの波長の紫外線によって誘発される蛍光の量は少ない。但し、石英ガラスは、ホウ珪酸ガラスと比較して融点が高く、高い融点のガラスを溶融することができるガラス成形機を使用する必要がある。
【0049】
なお、
図11に示した紫外線センサ1Bでは、エンベロープガラス13-2’を蛍光抑制材料で形成するようにしたが、
図12に紫外線センサ1B’として示すように、ボタンステム13-3’も蛍光抑制材料で形成するようにしてもよい。
【0050】
また、上述した実施の形態1,2では、カソード電極12の母材12_1の表面12_1aにスパッタリングによって結晶方位(110)のタングステンの膜を形成しているが、タングステンの粒子表面の結晶方位が(110)面になればよく、スパッタリング以外の方法で結晶方位(110)のタングステンの膜を形成するようにしてもよい。例えば、蒸着によって、カソード電極12の母材12_1の表面12_1aに、結晶方位(110)のタングステンの膜を形成することが考えられる。また、母材12_1の表面12_1aに形成する膜は、仕事関数が5.20eV前後の金属膜であればよく、結晶方位(110)のタングステンの膜に限られるものでもない。
【0051】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1A,1A’,1B,1B’…紫外線センサ、11…アノード電極、12…カソード電極、12_1…母材(結晶方位(200)のタングステン)、12_1a…表面(母材の表面)、12_1b…裏面(母材の裏面)、12_2…タングステンのスパッタ粒の層(結晶方位(110)のタングステンの膜)、13A,13B,13B’…ガラスパッケージ(保護管)、13-1…天板ガラス(天板部)、13-2,13-2’…エンベロープガラス(筒部)、13-2a…内壁面、13-3,13-3’…ボタンステム(台座部)、13-3a…内壁面、14(14-1~14-3),(15-1~15-3)…支柱、16,16’…蛍光抑制膜。