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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】紫外線センサ
(51)【国際特許分類】
   H01J 47/02 20060101AFI20220912BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
H01J47/02
G01J1/02 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018160991
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020035639
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 有紀
(72)【発明者】
【氏名】片桐 宗和
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-207481(JP,A)
【文献】特開2013-019719(JP,A)
【文献】特開2013-196812(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0252467(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 47/02
G01J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極と、このアノード電極に所定の間隙を隔てて対向して設けられたカソード電極と、前記アノード電極および前記カソード電極を収容したガラス製の保護管とを備え、前記アノード電極と前記カソード電極との間の放電によって生じる電流に基づいて前記保護管の一部を透過して入射される紫外線を検出する紫外線センサにおいて、
前記カソード電極は、
ングステンからなる板状の母材と、
前記母材の前記アノード電極に対向する第1面の全面に形成された、前記母材の仕事関数よりも大きい仕事関数を有する第1金属膜と
前記母材の前記第1面と反対の第2面に形成された、前記母材の仕事関数よりも大きい仕事関数を有する第2金属膜と、を備える
ことを特徴とする紫外線センサ。
【請求項2】
請求項1に記載された紫外線センサにおいて、
前記板状の母材は、結晶方位(200)の面が前記第1面及び前記第2面に露出したタングステンからなる、
ことを特徴とする紫外線センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された紫外線センサにおいて、
前記板状の母材は、圧延された圧延母材である、
ことを特徴とする紫外線センサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載された紫外線センサにおいて、
前記第1金属膜及び前記第2金属膜は、結晶方位(110)の面が粒子表面に露出したタングステン粒子からなる
ことを特徴とする紫外線センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード電極とカソード電極との間の放電によって生じる電流に基づいて紫外線を検出する紫外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のボディーや部品の塗装ラインの乾燥炉、アルミや亜鉛ダイキャストの溶解炉、および金属部品の焼き入れ用の熱処理炉などの各種工業炉において、燃焼安全装置の火炎検出センサとして紫外線センサが用いられている。
【0003】
図11を参照して、火炎検出センサとして用いられている従来の紫外線センサの構成について説明する(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
この紫外線センサ1Bは、アノード電極11と、このアノード電極11に所定の間隙を隔てて対向して設けられたカソード電極12Bと、アノード電極11およびカソード電極12Bを収容したガラスパッケージ(ガラス製の保護管)13とを備えている。ガラスパッケージ13は、ホウ珪酸ガラスで構成されており、内部空間に特殊な混合ガスが一定圧で封入されている。
【0005】
アノード電極11には、このアノード電極11をカソード電極12Bが設けられている方向から支える複数の導電性の支柱14(14-1~14-3)の一端部がレーザ溶接されており、この導電性の支柱14(14-1~14-3)の他端部はガラスパッケージ13の外部に引き出されている。また、アノード電極11には、複数の貫通孔11aが網目状に形成されている。
【0006】
カソード電極12Bにも、アノード電極11と同様、カソード電極12Bを支える複数の導電性の支柱15(15-1~15-3)の一端部がレーザ溶接されており、この導電性の支柱15(15-1~15-3)の他端部もガラスパッケージ13の外部に引き出されている。
【0007】
ガラスパッケージ13は、アノード電極11と対向する天板ガラス(天板部)13-1と、天板ガラス13-1に一端が接合されて、アノード電極11およびカソード電極12Bの周囲を囲む円筒状のエンベロープガラス(筒部)13-2と、エンベロープガラス13-2の他端に接合されたボタンステム(台座部)13-3とから構成されている。ボタンステム13-3は、エンベロープガラス13-2の天板ガラス13-1とは反対側の面を塞ぐように、エンベロープガラス13-2に接合されている。
【0008】
天板ガラス13-1は、ガラス(ホウ珪酸ガラス)内から紫外線を吸収する成分を除去することによって、紫外線を透過できるものとされている。これに対し、エンベロープガラス13-2およびボタンステム13-3は、紫外線を吸収する成分を含む通常のホウ珪酸ガラスでできており、これらの部分からガラスパッケージ13の内部への紫外線の入射が防がれる。また、アノード電極11とカソード電極12Bはそれぞれ円板状とされ、これらの電極間には直流電圧が印加されている。
【0009】
このように構成された紫外線センサ1Bでは、天板ガラス13-1を通過した紫外線がアノード電極11の貫通孔11aを通ってカソード電極12Bに到達すると、光電効果によりカソード電極12Bから電子が放出され、これが電場により加速されて封入ガスの分子と衝突することによって電子なだれが発生して、アノード電極11とカソード電極12Bとの間で放電が開始される。
【0010】
すなわち、カソード電極12Bへの紫外線の入射による光電効果をトリガーとして、アノード電極11とカソード電極12Bとの間の放電が開始され、この放電によってアノード電極11とカソード電極12Bとの間に電流が流れるので、このアノード電極11とカソード電極12Bとの間に流れる電流に基づいて、天板ガラス13-1を通過した特定波長の紫外線を検出することができる。
【0011】
なお、光電効果とは、物質が光を吸収した際に内部の電子が励起され、それに伴って電子が飛び出す現象を言う。この光電効果において、物質表面から電子を1つ取り出すのに必要なエネルギーは仕事関数と呼ばれ、入射される光のエネルギーをhν、仕事関数をw、物質から飛び出す電子の運動エネルギーをEとした場合(図14参照)、E=hν-wと表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2012-255730号公報
【文献】特開2015-115228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような紫外線センサにおいて、ガラスパッケージを構成するホウ珪酸ガラスの成分は、主に酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化アルミニウムであるが、パッケージ用のガラスであっても、ガラスメーカによって厳密な成分や成分比は異なり、光学的特性に違いが生じる。
【0014】
本願の発明者らは、ガラスパッケージを構成するホウ珪酸ガラスに複数のガラスメーカのものを適応したところ、ガラスによって紫外線センサ内に入射する紫外線がなくなっても電極間で放電が継続する現象が生じる場合があることがわかった。このように、紫外線がない状態でも放電が継続する現象は、紫外線センサの誤動作の原因となる。
【0015】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、誤動作を起こし難い、紫外線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために本発明は、アノード電極(11)と、このアノード電極に所定の間隙を隔てて対向して設けられたカソード電極(12A)と、前記アノード電極および前記カソード電極を収容したガラス製の保護管(13)とを備え、前記アノード電極と前記カソード電極との間の放電によって生じる電流に基づいて、前記保護管の前記アノード電極と対向する方向に位置する天板部(13-1)を透過して入射される紫外線を検出する紫外線センサ(1A)において、カソード電極は、結晶方位(200)のタングステンからなる板状の母材(12_1)と、前記母材の前記アノード電極に対向する面(12_1a)および反対側の面(12_1b)に形成された、前記母材の仕事関数よりも大きい仕事関数を有する金属膜(12_2,12_3)とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明において、カソード電極の母材のアノード電極に対向する面および反対側の面には、母材の仕事関数よりも大きい仕事関数を有する金属膜(例えば、5.20eV前後の仕事関数を有する金属膜)が形成されている。これにより、アノード電極とカソード電極との間の放電に起因して保護管の内壁面(筒部や基台部の内壁面)に蛍光が誘発されても、この蛍光による光電効果が発現し難くなり、天板部を透過して入射される紫外線がなくなった後も、アノード電極とカソード電極との間の放電が継続することがないようにして、誤動作を起こし難くすることが可能となる。
【0018】
なお、上記説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の構成要素を、括弧を付した参照符号によって示している。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、カソード電極の母材のアノード電極に対向する面および反対側の面に母材の仕事関数よりも大きい仕事関数を有する金属膜を形成するようにしたので、保護管の内壁面に蛍光が誘発されても、この蛍光によるカソード電極における光電効果が発現し難くなり、誤動作を起こし難くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、カソード電極の母材のアノード電極に対向する面(母材の表面)に結晶方位(110)のタングステンの膜を形成した状態を示す図である。
図2図2は、タングステンの結晶方位とその結晶方位における仕事関数および限界感度波長を例示する図である。
図3図3は、母材の表面に結晶方位(110)のタングステンの膜を形成したカソード電極を用いた場合の紫外線の検出可能範囲を示す図である。
図4図4は、ホウ珪酸ガラスの種類によっては、200~250nmの波長の紫外線によって蛍光(250~300nmの波長の蛍光)が生じることがあることを示す図である。
図5図5は、火炎によって発生する放電現象によって電極間に発生する光に含まれる200~280nmの波長の紫外線によって、ガラスパッケージ(エンベロープガラスやボタンステム)に250~300nmの波長の蛍光が誘発されることがあることを示す図である。
図6図6は、ホウ珪酸ガラスに誘発される蛍光を起点として生じる放電を説明する図である。
図7図7は、本発明の実施の形態に係る紫外線センサの要部の構成を示す図である。
図8図8は、カソード電極の母材のアノード電極に対向する面(母材の表面)とは反対側の面(母材の裏面)にも結晶方位(110)のタングステンの膜を形成した状態を示す図である。
図9図9は、本発明の実施の形態に係る紫外線センサの製造工程の概略を示す図である。
図10図10は、母材の裏面に結晶方位(110)のタングステンの膜を形成した場合としない場合の放電の確率(放電の停止し易さを評価する値)を示す図である。
図11図11は、従来の紫外線センサの要部を示す斜視図である。
図12図12は、光電効果によって飛び出す電子の運動エネルギーと入射される光のエネルギーと仕事関数との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。先ず、実施の形態の説明に入る前に、本発明の概要について説明する。
【0022】
〔発明の概要〕
本出願人は、図7に示した紫外線センサ1Bにおいて、カソード電極12Bを、母材となる結晶方位(200)のタングステン(W)と、この母材のアノード電極11に対向する面に形成した金属膜、具体的には結晶方位(110)のタングステンの膜とから形成している(特願2017-147608号参照)。
【0023】
より具体的には、図1に示すように、圧延処理されたタングステン(結晶方位(200)のタングステン)の板をカソード電極12Bの母材12_1とし、母材12_1の表面をスパッタリングすることによって、母材12_1のアノード電極11に対向する面(母材12_1の表面12_1a)にタングステンのスパッタ粒の層(結晶方位(110)のタングステンの膜)12_2を形成している。
【0024】
結晶方位(110)のタングステンの仕事関数は結晶方位(200)のタングステンの仕事関数よりも大きい。一般に、タングステンは、結晶方位が(200)である場合、仕事関数は4.63evとなり、真空中で光電効果が生じる波長の最大値(以下、限界感度波長という。)が268nmとなる。また、結晶方位が(110)である場合、仕事関数は5.25evとなり、限界感度波長は237nmとなる(図2参照)。
【0025】
なお、上記の限界感度波長は、下記(1)式により計算した。
λmax=h・c×109/(w×1.60×10-19) ・・・・(1)
λmax:限界感度波長、h:プランク定数(6.63×10-34J・s)、c:光速(3.00×108m/s)、w:仕事関数。
【0026】
このカソード電極12Bの母材12_1の表面12_1aにタングステンのスパッタ粒の層12_2を形成した紫外線センサ1Bでは、真空中で光電効果が発現する限界感度波長は237nmとなるが、ガラスパッケージ13内のガス圧や印加電圧などを調整することによって、火炎から生じる特定波長(185~240nm)の紫外線のみを選択的に検出することができる(図3参照)。
【0027】
上述したように、ガラスパッケージ13を構成するホウ珪酸ガラスは、ガラスメーカによって厳密な成分や成分比が異なるため、その光学的特性に違いが生じる。この光学的特性の違いにより、ホウ珪酸ガラスの種類によっては、200~250nmの波長の紫外線によって250~300nmの波長の蛍光を生じるものがある(図4参照)。
【0028】
紫外線センサによる火炎検出は、紫外線入射による光電効果をトリガーとして生じる放電現象を火炎検出に応用しているが、紫外線の発生源が火炎ではなくても、紫外線がカソード電極に入射すると、光電効果が起こり得る。火炎によって発生する放電現象によって電極間には光が発生するが、この時、その光には200~280nmの波長の紫外線も含まれている(図5参照)。この紫外線は、ガラスパッケージを構成するホウ珪酸ガラスの種類によっては、250~300nmの波長の蛍光を誘発し、この蛍光がカソード電極における光電効果のトリガーとなり得る。
【0029】
すなわち、図1に示したカソード電極12Bにおいて、アノード電極11に対向する面(受光面)は、結晶方位が(110)のタングステンのスパッタ粒の層12_2に覆われているため、250~300nmの波長の蛍光では光電効果は発現しない。しかしながら、カソード電極12Bの裏面(母材12_1の裏面12_1b)は、タングステンのスパッタ粒の層を形成していないために、結晶方位(200)の母材12_1が露出しており、タングステンのスパッタ粒の層12_2よりも仕事関数が小さい。そのため、 ホウ珪酸ガラスよりなるエンベロープガラス13-2やボタンステム13-3に誘発される250~300nmの波長の蛍光によって、カソード電極12Bの裏面で光電効果が発現し、電子が飛び出すことによって放電現象のトリガーとなり得る。
【0030】
現場での紫外線センサ1Bの使用を想定した場合、シャッタなどによって火炎から生じる紫外線が遮られた際には、紫外線センサ1Bにおけるアノード電極11とカソード電極12Bとの間の放電は直ちに停止しなければならない。しかし、ホウ珪酸ガラスよりなるエンベロープガラス13-2やボタンステム13-3に蛍光が誘発される場合、カソード電極12Bの裏面で光電効果が発現し、この蛍光による光電効果をトリガーとする放電が継続することにより、火炎から生じる紫外線がなくなった後も紫外線センサ1Bにおける放電が停止しない可能性がある。火炎から生じる紫外線がなくなった後も放電が停止しない現象は、火炎検出の誤検知につながる可能性があり、問題である。
【0031】
図6に、ホウ珪酸ガラスに誘発される蛍光を起点として生じる放電を説明する図を示す。天板ガラス13-1からの紫外線によってアノード電極11とカソード電極12Bとの間に放電が生じ、この放電によって紫外線が発生すると(図6(a))、この紫外線によってホウ珪酸ガラスよりなるエンベロープガラス13-2やボタンステム13-3に蛍光が誘発される(図6(b))。この誘発された蛍光によって、天板ガラス13-1からの紫外線がなくなった後も、アノード電極11とカソード電極12Bとの間に放電が生じる(図6(c))。アノード電極11とカソード電極12Bとの間に放電が生じると、この放電によって再び紫外線が発生する。この繰り返しによってアノード電極11とカソード電極12Bとの間の放電が継続する。
【0032】
上述した内容は、発明者らの研究過程で得られた知見である。この知見から、発明者らは、カソード電極の母材の表面だけではなく、裏面にも母材の仕事関数よりも大きく、5.20eV前後の仕事関数を有する金属膜を形成することによって、ガラスパッケージの内壁面(エンベロープガラスやボタンステムの内壁面)に蛍光が誘発されても、この蛍光によるカソード電極における光電効果が発現し難くなり、天板ガラスを透過して入射される紫外線がなくなった後も、アノード電極とカソード電極との間の放電が継続することがないようにして、誤動作を起こし難くすることが可能となることを見出した。
【0033】
〔実施の形態〕
図7に本発明の実施の形態に係る紫外線センサ1Aの要部の構成を示す。同図において、図11を参照して説明した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0034】
この紫外線センサ1Aでは、図8に示すように、カソード電極12Aの母材12_1の表面(アノード電極11に対向する面)12_1aだけではなく、母材12_1の裏面(反対側の面)12_1bにも、母材12_1の仕事関数よりも大きく、5.20eV前後の仕事関数を有する金属膜として、タングステンのスパッタ粒の層(結晶方位(110)のタングステンの膜)12_3を形成している。
【0035】
すなわち、この紫外線センサ1Aでは、カソード電極12Aの母材12_1の表面12_1aと裏面12_1bの両方に、タングステンのスパッタ粒の層(結晶方位(110)のタングステンの膜)12_2,12_3を形成している。なお、この例において、タングステンのスパッタ粒の層12_2,12_3の膜厚は、50~200nmとしている。
【0036】
図9に、紫外線センサ1Aの製造工程の概略を示す。この紫外線センサ1Aを製造する場合、タングステン圧延材を使用してカソード電極12Aの母材12_1を形成し(ステップS101)、このカソード電極12Aの母材12_1の両面にタングステンのスパッタ粒の層12_2,12_3を形成する(ステップS102)。なお、ステップS101では、タングステン圧延材を使用してアノード電極11も形成する。
【0037】
一方、ボタンステム(台座部)13-3のガラス成形を行い(ステップS103)、このボタンステム13-3に貫通固定されている導電性の支柱14,15へのアノード電極11やカソード電極12Aの溶接(電極溶接)を行う(ステップS104)。
【0038】
そして、天板ガラス(天板部)13-1とエンベロープガラス13-2とを接合し(ステップS105)、ステップS104で電極溶接を行ったボタンステム13-3に、ステップS105で天板ガラス13-1を接合したエンベロープガラス13-2を接合して(ステップS106)、ガラスパッケージ13とする。そして、このガラスパッケージ13の内部にガスを封入し、チップオフとする(ステップS107)。
【0039】
なお、ステップS101,102において、電極シートの状態でスパッタリングを行い、電極シートの両面にタングステンのスパッタ粒の層を形成し、このタングステンのスパッタ粒の層が形成された電極シートからタングステンのスパッタ粒の層12_2,12_3が形成されたカソード電極12Aを切り出すようにしてもよい。また、カソード電極12Aの母材12_1の裏面12_1bにだけタングステンのスパッタ粒の層12_3を形成しておき、紫外線センサ1Aを製作した後のエージングによって、母材12_1の表面12_1aにタングステンのスパッタ粒の層12_2を形成するようにしてもよい。
【0040】
図10に、母材12_1の裏面12_1bにタングステンのスパッタ粒の層12_3を形成した場合としない場合の放電の確率(放電の停止し易さを評価する値)を示す。例えば、「電極間に断続的に電圧を印加しながら間欠的に紫外線を照射して放電電流を観測したときの、紫外線を照射した回数と放電電流を検出した回数の比」を放電の確率として用いる。横軸はサンプル(#1~#26)を示し、縦軸は放電の確率を示す。カソード電極12Aの母材12_1の裏面12_1bにもタングステンのスパッタ粒の層12_3を形成した場合、形成しない場合(成膜なし)よりも放電の確率が下がり、放電の停止し易さを評価する値に改善がみられた。図10には、タングステンのスパッタ粒の層12_3の膜厚を50nm、100nm、150nm、200nmとした場合を示している。50nmでも効果は認められるが、100nm以上とすることが好ましい。
【0041】
以上の説明から分かるように、本実施の形態に係る紫外線センサ1Aでは、カソード電極12Aの表面だけではなく、裏面の仕事関数も母材12_1の仕事関数よりも大きくなり(図2参照)、ガラスパッケージ13の内壁面(エンベロープガラス13-2やボタンステム13-3の内壁面)に蛍光が誘発されても、この蛍光によるカソード電極12Aにおける光電効果が発現し難くなり、天板ガラス13-1を透過して入射される紫外線がなくなった後も、アノード電極11とカソード電極12Aとの間の放電が継続することがないようにして、誤動作を起こし難くすることができる。
【0042】
なお、上述した実施の形態では、カソード電極12Aの母材12_1の表面12_1aおよび裏面12_1bにスパッタリングによって結晶方位(110)のタングステンの膜を形成しているが、タングステンの粒子表面の結晶方位が(110)面になればよく、スパッタリング以外の方法で結晶方位(110)のタングステンの膜を形成するようにしてもよい。例えば、蒸着によって、カソード電極12Aの母材12_1の表面12_1aおよび裏面12_1bに、結晶方位(110)のタングステンの膜を形成することが考えられる。また、母材12_1の表面12_1aおよび裏面12_1bに形成する膜は、母材12_1よりも仕事関数が大きく、5.20eV前後の仕事関数を有する金属膜であればよく、結晶方位(110)のタングステンの膜に限られるものでもない。
【0043】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0044】
1A…紫外線センサ、11…アノード電極、12A…カソード電極、12_1…母材(結晶方位(200)のタングステン)、12_1a…表面(母材の表面)、12_1b…裏面(母材の裏面)、12_2,12_3…タングステンのスパッタ粒の層(結晶方位(110)のタングステンの膜)、13…ガラスパッケージ(保護管)、13-1…天板ガラス(天板部)、13-2…エンベロープガラス(筒部)、13-3…ボタンステム(台座部)、14(14-1~14-3),(15-1~15-3)…支柱。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12