IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社メニコンの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】茶用堆肥
(51)【国際特許分類】
   C05F 5/00 20060101AFI20220912BHJP
   A01G 22/15 20180101ALI20220912BHJP
【FI】
C05F5/00
A01G22/15
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018218251
(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公開番号】P2020083684
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000138082
【氏名又は名称】株式会社メニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】亦野 浩
(72)【発明者】
【氏名】木下 忠孝
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102010242(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106489650(CN,A)
【文献】Koji Yamane, Mituaki Kono, Taiji Fukunaga, Kazuya Iwai, Rie Sekine, Yoshinori Watanabe, Morio Iijima,Field Evaluation of Coffee Grounds Application for Crop Growth Enhancement, Weed Control, and Soil Improvement,Plant Production Science,日本,2013年01月30日,17(1),93-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05F 5/00
A01G 22/00-22/67
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆、コーヒー豆のエキス抽出後の残渣、及びサツマイモ茎葉から選ばれる少なくとも一種の原料の好気性微生物を用いた堆肥化処理物を有効成分として含む茶用堆肥(コーヒー砕粉末1~10部、堆肥土70~100部、米ぬか30~35部、大豆粕10~20部、骨粉5~10部、及び魚粉5~8部を均一に混合し、温度15~35℃で5~8日堆積して得られた生物有機肥料を除く)
【請求項2】
前記有効成分が、クロロゲン酸又はその分解産物を含む請求項1に記載の茶用堆肥。
【請求項3】
前記有効成分が、カフェ酸、フェルラ酸、クマル酸、及び芳香族カルボン酸から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1に記載の茶用堆肥。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の茶用堆肥を施肥する茶の生産方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の茶用堆肥を施肥する茶葉中のマンガン含有量の低減方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の茶用堆肥を施肥する茶葉中のニッケル含有量の増加方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の茶用堆肥を施肥することにより、アンモニア態窒素源の施肥量を減少させる方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の茶用堆肥を施肥することにより、土壌から発生する一酸化二窒素の発生を低減させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶用堆肥に係り、詳しくは茶用堆肥の他、それを用いた茶の生産方法、茶葉中のマンガン含有量の低減方法、茶葉中のニッケル含有量の増加方法、アンモニア態窒素源の施肥量を減少させる方法、及び土壌から発生する一酸化二窒素の発生を低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の茶樹栽培は、非特許文献1に開示されるように、窒素肥料を多く吸収させて茶葉の旨味成分(テアニン)を増やすために多肥栽培が主流となっている。窒素肥料としては、吸収性に優れる観点からアンモニア態窒素が用いられてきた。アンモニア態窒素としては、高濃度のアンモニアを含み、施肥時の作業が低減されるとして硫酸アンモニウム等の化学肥料が利用されてきた。
【0003】
しかしながら、茶園での化学肥料の施肥は、塩類濃度が過剰になり生理障害を引き起し易い状況にあった。しかも追肥を繰り返して葉に無理やり養分を補給しようとするため、土壌の電気伝導度が高くなり塩過剰障害が茶樹の根に生じている場合が多々見受けられるが、こうした多肥による生産が良質茶の生産方法として適用されてきた。
【0004】
茶葉は、一般的に4~5月頃に若芽を出し、一番茶又は新茶と呼ばれる旨味豊かな茶葉として収穫される。その後、旺盛な成長力で新しい若芽が成長し、6月頃には二番茶、7月頃には三番茶が収穫される。しかし、一番茶に比べて二番茶、三番茶になるに従い旨味成分が少なくなり渋みが増す。これは根に蓄えられた旨味成分であるテアニン(アミノ酸)が時と共に葉に移動し、盛夏に向かって徐々に強くなる日光を受けてカテキンという渋み成分に変化するためとされる。この新茶への養分分配のため、茶生産地では、気温の低い1月後半から萌芽期(3月末)まで積極的に肥料を施用し、さらに摘採直前には芽だし肥料として硫酸アンモニウムが多量に施用され良質な新茶の生産が行われている。
【0005】
しかしながら、茶樹に吸収されなかった肥料成分は土壌から溶脱して、土壌微生物の力でアンモニアから硝酸態窒素へと変化し、地下水を汚染する場合があった。また、この変化の過程において地球温暖化ガスとして知られる一酸化二窒素が大量に放出されることが知られる。また、硫酸アンモニウム由来の硫酸根は、土壌に蓄積し、圃場のpHを極端に酸性側(pH3付近)に傾け、溶解度の向上した土壌金属イオン(例えばマンガン)の茶葉への蓄積が逆に品質を落とすおそれがあった。
【0006】
ところで、従来より非特許文献2に開示されるように、食品残渣としてコーヒー粕を堆肥化処理し、農業分野への再利用を試みた研究が知られている。しかしながら、コーヒー粕を堆肥化処理した場合、発芽阻害作用と、その後の作物に対する生育阻害作用を有する点について報告している。そのため、特許文献1に開示されるように、コーヒー粕を農業分野に適用する場合、バイオバスを堆肥化する際の吸水性繊維質材料等の補助資材として、植物の生長を阻害しない範囲内において、少量使用されるのみであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4272251号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】農林水産省「茶生産における施肥の現状と課題」、最終更新日平成21年5月、農林水産省ホームページ[平成30年10月3日検索]、インターネット<http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/nenyu_koutou/n_kento/pdf/3siryo4.pdf>
【文献】神奈川県農業総合研究所研究報告 第138号(1997年)、第31~40頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的とするところは、茶の新芽の生長を促進することができる茶用堆肥及び茶の生産方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的とするところは、茶の風香味を向上できる茶葉中のマンガン含有量の低減方法及び茶葉中のニッケル含有量の増加方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の別の目的とするところは、環境の悪化を抑制できるアンモニア態窒素源の施肥量を減少させる方法、及び土壌から発生する一酸化二窒素の発生を低減させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリフェノール等を有効成分として含む堆肥が、環境負荷への低減を図りながら茶の新芽に対して優れた生長促進作用を発揮することを見出したことに基づくものである。
【0012】
上記目的を達成するために本発明の一態様である茶用堆肥は、ポリフェノール及びその分解物から選ばれる少なくとも一種を有効成分として含むことを特徴とする。
前記ポリフェノールは、クロロゲン酸であってもよい。前記ポリフェノールの分解物は、カフェ酸、フェルラ酸、及びクマル酸から選ばれる少なくとも一種であってもよい。前記有効成分は、コーヒー豆、コーヒー豆のエキス抽出後の残渣、及びサツマイモ茎葉から選ばれる少なくとも一種の原料の堆肥化処理物として配合されてもよい。
【0013】
本発明の別態様である茶の生産方法は、前記茶用堆肥を施肥することを特徴とする。
本発明の別態様である茶葉中のマンガン含有量の低減方法は、前記茶用堆肥を施肥することを特徴とする。
【0014】
本発明の別態様である茶葉中のニッケル含有量の増加方法は、前記茶用堆肥を施肥することを特徴とする。
本発明の別態様であるアンモニア態窒素源の施肥量を減少させる方法は、前記茶用堆肥を施肥することを特徴とする。
【0015】
本発明の別態様である土壌から発生する一酸化二窒素の発生を低減させる方法は、前記茶用堆肥を施肥することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、茶の新芽の生長を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の茶用堆肥を具体化した第1実施形態について説明する。茶用堆肥の有効成分は、ポリフェノール及びその分解物から選ばれる少なくとも一種を含むものである。ポリフェノールとしては、例えばフラボノイド、フェノール酸等が挙げられる。フラボノイドの具体例としては、例えばフラボノール、フラボン、イソフラボン、フラバノン、カテキン等のフラバノール、アントシアニン等が挙げられる。フェノール酸の具体例としては、例えばクロロゲン酸、カフェ酸、フェルラ酸、クマル酸、シナピン酸等が挙げられる。
【0018】
ポリフェノールの分解物としては、上述したポリフェノールを加熱した際に生ずる成分、ポリフェノールを含む原料を堆肥化処理した際に生ずる成分、ポリフェノールを含む原料を茶畑に施肥した後、土壌中で分解して生ずる成分等が含まれる。具体的には、例えばフェルラ酸、クマル酸、芳香族カルボン酸、クロロゲン酸の分解産物であるカフェ酸等が挙げられる。これらの有効成分は一種のみを使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの有効成分の中で茶葉の新芽の生長を促進へと誘導させる効果を効率的に発揮する観点からクロロゲン酸、カフェ酸、フェルラ酸、クマル酸が含まれることが好ましい。
【0019】
ポリフェノールは、天然由来の成分又は化学的に合成したもののいずれを用いてもよい。また、ポリフェノールを含む天然素材そのものを有効成分として使用してもよい。ポリフェノールを多く含む天然素材としては、特に限定されないが、例えばコーヒー豆、コーヒー豆のエキス抽出後の残渣(コーヒー粕)、サツマイモ茎葉、米ぬか、ふすま等が挙げられる。コーヒー豆は、生豆、焙煎豆のいずれを使用してもよいが、食品残渣の有効活用を図る観点から焙煎コーヒー豆粕が好ましい。コーヒー豆には、ポリフェノールとしてクロロゲン酸等が多く含まれ、焙煎コーヒー豆粕には、クロロゲン酸の熱分解により生じたカフェ酸、フェルラ酸等が多く含まれている。
【0020】
ポリフェノールを含む天然素材は、さらに堆肥化処理した堆肥化処理物として茶用堆肥に配合されることが好ましい。かかる処理により、ポリフェノールの分解を促進させ、直接的又は間接的に茶の新芽の生長を促進へと誘導させる物質、例えばフェルラ酸等を増加させる。
【0021】
堆肥化処理は、ポリフェノールを含む天然素材を堆肥原料とし、好気性微生物等を含む堆肥化調整剤と混合して発酵処理する方法である。堆肥化調整剤は、天然由来の増粘性多糖類、多糖類分解酵素、吸水性繊維質材料等を更に含有してもよい。
【0022】
堆肥化調整剤に含有される好気性微生物は、堆肥原料を発酵工程に積極的に誘導し、高温分解処理によって堆肥原料を最終的に発酵処理する。好気性微生物は、例えば好熱性の好気性菌及び中温性の好気性菌が挙げられる。好ましくは、好熱性の好気性菌が使用される。好気性微生物は、好ましくは好気性微生物が含有される戻し堆肥及び種菌資材が用いられ、その戻し堆肥及び種菌資材が堆肥化調整剤に配合されてもよい。好熱性の好気性菌及び中温性の好気性菌として、自然界に存在する公知の細菌が使用される。中温性の好気性菌、即ち中温菌としては、堆肥原料を常温(20℃)から中温域(45~55℃の温域)へ導くために、20℃~55℃の範囲で少なくとも増殖可能な菌が好ましい。好熱性の好気性菌、即ち好熱菌として、堆肥原料を中温域から高温域(約60~95℃の温域)へ導くために、約55℃以上の温度で少なくとも増殖可能な菌が好ましい。中温菌及び好熱菌の具体例として、例えばバチルス.アルヴェイ(B. alvei)、バチルス.アミロリチカス(B. amylolyticus)、バチルス.アゾトフィクサンス(B. azotofixans)、バチルス.サーキュランス(B. circulans)、バチルス.グルカノリチカス(B. glucanolyticus)、バチルス.ラーベー(B. larvae)、バチルス.ロータス(B. lautus)、バチルス.レンチモーバス(B. lentimorbus)、バチルス.マセランス(B. macerans)、バチルス.マッククオリエンシス(B. macquariensis)、バチルス.パバリ(B. pabuli)、バチルス.ポリミキサ(B. polymyxa)、バチルス.ポピリエー(B. popilliae)、バチルス.シクロサッカロリチカス(B. psychrosaccharolyticus)、バチルス.パルヴィフェイシェンス(B. pulvifaciens)、バチルス.チアミノリチカス(B. thiaminolyticus)、バチルス.ヴァリダス(B. validus)、バチルス.アルカロフィラス(B. alcalophilus)、バチルス.アミロリカフェイシャンス(B. amyloliquefaciens)、バチルス.アトロフェーアス(B. atrophaeus)、バチルス.カロテーラム(B. carotarum)、バチルス.ファーモス(B. firmus)、バチルス.フレクサス(B. flexus)、バチルス.ラテロスポラス(B. laterosporus)、バチルス.レンタス(B. lentus)、バチルス.リケニフォミス(B. licheniformis)、バチルス.メガテリウム(B. megaterium)、バチルス.ミコイデス(B. mycoides)、バチルス.ニアシニ(B. niacini)、バチルス.パントテニチカス(B. pantothenticus)、バチルス.パミラス(B. pumilus)、バチルス.シンプレックス(B. simplex)、バチルス.サブチリス(B. subtilis)、バチルス.サリンジェンシス(B. thuringiensis)、バチルス.スフェリカス(B. sphaericus)、ジオバチルス.サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)、ジオバチルス.ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)、ジオバチルス.コーストフィルス(Geobacillus kaustophilus)、ジオバチルス.サブテルラネンス (Geobacillus subterranens)、ジオバチルス.サーモルーボランス(Geobacillus thermoleovorans)、ジオバチルス.カルドキシルオシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticas)等が挙げられる。これらは単独で使用されてもよいし、二種以上が組み合わされて使用されてもよい。また、戻し堆肥として市販の堆肥が使用してもよいし、上記堆肥化処理が完了した堆肥が戻し堆肥として使用されてもよい。市販品の種菌資材として、例えばメニコン社製の商品名であるサーモマスター等を使用することができる。
【0023】
増粘性多糖類は、堆肥原料の粘度を調整して、堆肥原料の通気性を向上させる。増粘性多糖類は、天然(物)由来の天然成分である増粘性多糖類が使用され、好ましくは、生分解性の増粘性多糖類が用いられる。生分解性の増粘性多糖類は、堆肥化処理後に残留しても最終的に生分解される。多糖類の具体例として、例えばペクチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガティガム、カードラン等が挙げられる。これらは単独で使用されてもよいし、二種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0024】
吸水性繊維質材料は、微生物の発酵及び増殖を促進させる。吸水性繊維質材料として、好ましくは、入手が容易であり、且つ堆肥化処理後に生分解される天然の植物性有機質材料が使用される。吸水性繊維質材料として、有機質廃棄物、例えばパルプ、コットンリタ、バーク、オガ屑、もみ殻、稲わら、コーン粕、バガス、茶粕等が挙げられる。これらの有機質材料を餌として中温菌の増殖が促進される。これらは単独で使用されてもよいし、二種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0025】
多糖類分解酵素は、増粘性多糖類を最終的に堆肥中において分解して消失させたり、堆肥原料中の多糖類を微生物により生分解され易くしたりする。多糖類分解酵素の具体例として、例えば、セルロース又はその誘導体を加水分解するセルラーゼ(セルロース分解酵素)、ヘミセルロース又はその誘導体を加水分解するヘミセルラーゼ(ヘミセルロース分解酵素)、ペクチン又はその誘導体を加水分解するペクチナーゼ(ペクチン分解酵素)等が挙げられる。多糖類分解酵素として、糖鎖の末端から特定数の糖単位を切り離すエキソ型の分解酵素、及び切断様式がランダムであるエンド型の分解酵素のいずれが使用されてもよい。これらは単独で使用されてもよいし、二種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0026】
堆肥化調整剤中における増粘性多糖類、吸水性繊維質材料、及び多糖類分解酵素の各含有量は、例えばそれらの化合物の種類、酵素の力価、並びに堆肥原料の成分及び水分の含有量により適宜に設定される。
【0027】
堆肥化調整時における堆肥原料中の水分量は特に限定されないが、好ましくは40~95質量%であり、より好ましくは60~90質量%である。水分量が40質量%以下の場合、微生物、例えば中温菌が十分に増殖しないおそれがある。堆肥原料中の水分量が高い場合、即ち高含水性堆肥原料の場合、増粘性多糖類の配合によって堆肥原料をゲル化又は固化させる。それによって高含水性堆肥原料の通気性を高め、微生物の好気的代謝を維持又は向上させることができる。
【0028】
堆肥原料には、前記各成分以外にも、堆肥原料の通気性を確保するために、例えば上記以外の有機質廃棄物又は多孔質鉱物が配合されてもよい。有機質廃棄物として、例えばそば殻が挙げられる。多孔質鉱物として、例えばパーライトが挙げられる。
【0029】
堆肥原料の堆肥化処理は、静置発酵により行ってもよく、撹拌又はブロアーによる空気混入作業により、積極的に空気を混合させて好気的発酵を誘導してもよい。発酵期間は、空気の供給量、外気温、堆肥原料中の水分率等によって左右されるが、通常は2~3ヶ月、堆肥化に長期間を要する場合には約6ヶ月で完了する。処理の完了は、堆肥中の高分子有機物の低分子化及び水分量の減少により温度の低下を伴う。また、処理が完了して製造された堆肥中のポリフェノールは分解し、ポリフェノール分解物が生成している。
【0030】
本実施形態の茶用堆肥によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、有効成分としてポリフェノール又はその分解物を含むものである。かかる有効成分が茶畑に施肥されることにより、茶の新芽の生長を促進することができる。
【0031】
(2)本実施形態では、堆肥原料として焙煎コーヒー豆粕が好ましく用いられる。焙煎コーヒー豆粕には、クロロゲン酸が分解されたカフェ酸が含有されている。したがって、茶葉の新芽の生長を促進へと誘導させる効果を効率的に発揮することができる。また、より安価に茶用堆肥を提供することができる。また、コーヒー粕の利用により、資源の有効活用も図ることができる。
【0032】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・一般的に堆肥とは、わら、もみがら、動物の排泄物等の動植物質の有機質物を堆積又は撹拌し、腐熟させたものと定義されるが、上記実施形態においては、上記有効成分を含み、茶用に施肥される物であれば、茶用堆肥に含まれるものとする。
【0033】
・上記実施形態の茶用堆肥には、その他、堆肥の分野において一般的に用いられている他の添加剤を配合して使用してもよい。
・上記実施形態において、堆肥原料の堆肥化処理の際に用いられる堆肥化調整剤として、さらにその他の添加剤、例えばpH調製の観点から石灰資材等を添加してもよい。
【0034】
(第2実施形態)
以下、本発明の茶の生産方法を具体化した第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0035】
本実施形態における茶の生産方法は、第1実施形態の茶用堆肥を茶に施肥する構成を含むものである。本方法において、茶用堆肥は茶の栽培における通常の堆肥の施肥方法に基づいて施肥することができる。茶の施肥時期は、特に限定されないが、茶葉を採取する時期又はその時期の前に施肥されることが好ましい。茶葉を採取する時期は、茶葉を採取する時期、場所等にもよるが、一般的には4月~10月の間である。堆肥化処理されていない有効成分が用いられる場合、施肥後に土壌中でポリフェノールの分解を進行させる観点から、堆肥化処理した有効成分よりも早い時期に施肥されることが好ましい。また、茶用堆肥の施肥量及び施肥回数は、他の肥料の使用量、有効成分の種類等を考慮の上、最終的には茶葉の生長促進の観点から適宜設定することができる。
【0036】
本実施形態に係る茶の生産方法は、第1実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(3)本実施形態に係る方法によれば、通常の堆肥の使用方法において茶の新芽の生長を効率的に促進することができる。
【0037】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態に係る方法において、茶用堆肥の施肥場所としては、特に限定されないが、効率的な効果発現の観点からうね間に施肥されることが好ましい。
【0038】
(第3実施形態)
以下、本発明の茶葉中のマンガン含有量の低減方法又は茶葉中のニッケル含有量の増加方法を具体化した第3実施形態について説明する。以下、第1又は第2実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態における茶葉中のマンガン含有量の低減方法又は茶葉中のニッケル含有量の増加方法は、第1実施形態の茶用堆肥を茶に施肥する構成を含むものである。茶用堆肥の施肥方法は、第2実施形態の茶の生産方法を適用することができる。
【0039】
茶葉中のマンガン含有量の低減とは、第1実施形態の茶用堆肥を施肥した場合、かかる堆肥の施肥を行わず栽培した場合に比べて茶葉中のマンガンの含有量が低減していることを示す。同様に、茶葉中のニッケル含有量の増加方法とは、第1実施形態の茶用堆肥の施肥を行わず栽培した場合に比べて茶葉中のニッケルの含有量が増加していることを示す。
【0040】
本実施形態に係る茶葉中のマンガン含有量の低減方法又は茶葉中のニッケル含有量の増加方法は、第1又は第2実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(4)本実施形態に係る方法では、第1実施形態の茶用堆肥を施肥する構成を含むものである。かかる構成により、得られる茶葉中のマンガン含有量を低減又はニッケル含有量を増加させることができる。一般的に茶葉は、マンガンの含有量が少ない方又はニッケルの含有量が多い方が風香味が向上することが知られている。したがって、本実施形態に係る方法により、風香味が向上し、品質のよい茶葉が得られる。
【0041】
(第4実施形態)
以下、本発明のアンモニア態窒素源の施肥量を減少させる方法を具体化した第4実施形態について説明する。以下、第1又は第2実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態におけるアンモニア態窒素源の施肥量を減少させる方法は、第1実施形態の茶用堆肥を施肥することにより、アンモニア態窒素源の施肥量を減少させる構成を含むものである。茶用堆肥の施肥方法は、第2実施形態の茶の生産方法を適用することができる。
【0042】
一般的に茶の栽培には、肥料としてアンモニア態窒素源、例えば硫酸アンモニウム、尿素等を含む肥料が用いられることが多い。本実施形態に係る方法は、第1実施形態の茶用堆肥をアンモニア態窒素源の一部又は全部を代わりに用いるものである。それにより第1実施形態の茶用堆肥を使用しない一般的なアンモニア態窒素源を施肥する茶の生産方法に比べて、アンモニア態窒素源の施肥量を減少させる。なお、アンモニア態窒素源の施肥量の減少には、アンモニア態窒素源を施肥しない場合も含むものとする。
【0043】
本実施形態に係るアンモニア態窒素源の施肥量を減少させる方法は、第1又は第2実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(5)本実施形態に係る方法は、茶の栽培においてアンモニア態窒素源の代わりに第1実施形態の茶用堆肥が施肥される。それにより茶葉の生産量を減少させることなくアンモニア態窒素源の施肥量を低減させることができる。特に茶用堆肥として、焙煎コーヒー粕由来のものを使用した場合、アンモニア態窒素源を含む肥料の使用量減少により生産コストの低減を図ることができる。
【0044】
近年、茶葉中のテアニン等のうまみ成分を増加させるため、アンモニア態窒素源を含む肥料が多用される場合があった。茶に吸収されなかった余剰の肥料は、硝酸態窒素として地下水や河川に流出したり、土壌が酸性化するため、環境汚染の一因となっていた。本実施形態に係る方法によりアンモニア態窒素源を含む肥料の施肥量が減少するため多肥が原因とされる環境汚染を抑制することができる。
【0045】
(6)本実施形態に係る方法により、茶葉の生産量を減少させることなくアンモニア態窒素源の施肥量を低減させることができる。それにより、土壌のpHの低下を抑制することができる。
【0046】
従来、茶園では過剰の窒素肥料を長年にわたってうね間に施用してきたために、うね間の土壌pHが極端に低くなっている場合があり、そのために、うね間への根張りが悪くなっている。根張りが悪い茶樹に窒素を吸収させるために、ますます多肥しなければならなくなるという悪循環が生じている場合がった。例えば、石灰窒素(カルシウムシアナミド)は、土壌中で水に溶けてシアナミドを遊離する。シアナミドは生物に軽い毒作用を持ち、硝化菌、病原菌、雑草などの生育をある程度抑制する。シアナミドは、土壌中において加水分解されて尿素を生じた後、アンモニウムを生成する。このため、硫酸アンモニウムに比べてアンモニウムを生ずるのが10日ほど遅れ、しかも硝化菌が抑制されているので、アンモニウムが長期存続するとともに、含有されるカルシウムの作用も加わって、酸性土壌のpHを上昇させる効果も持っている。しかしながら、春肥としての茶園への石灰窒素の施用は、カルシウムが新茶茶葉への取り込みとなるため、茶葉が固くなり品質低下とあるため、春肥での利用は実施されていない。本実施形態の方法により、茶葉に品質を向上させながら、土壌のpHの低下を抑制することができる。
【0047】
(7)本実施形態に係る方法は、茶の栽培においてアンモニア態窒素源の代わりに第1実施形態の茶用堆肥が施肥される。そのため、路地の広い面積で生産される茶園でも適用することができる。
【0048】
連続的な化学肥料が投入された場合、茶園のうね間では茶樹の根は焼かれ委縮してしまい機能不全になっている。例えば、樹冠下点滴施肥技術は、根の健全で肥料の吸収の高い樹冠下に効率的に液肥を茶樹の肥料吸収に合わせ供給することができる。この技術により慣行施肥量に対して1/3まで低減可能とされるが、路地が広い面積で生産される茶園への適用は困難であった。
【0049】
(第5実施形態)
以下、本発明の土壌から発生する一酸化二窒素の発生を低減させる方法を具体化した第5実施形態について説明する。以下、第1、第2、又は第4実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態における土壌から発生する一酸化二窒素の発生を低減させる方法は、第1実施形態の茶用堆肥を施肥することにより、土壌から発生する温室効果ガスとしての一酸化二窒素の発生を低減させる構成を含むものである。茶用堆肥の施肥方法は、第2実施形態の茶の生産方法を適用することができる。
【0050】
一般的に茶の栽培には、肥料としてアンモニア態窒素源、例えば硫酸アンモニウム、尿素等を含む肥料が用いられることが多い。本実施形態に係る方法は、第1実施形態の茶用堆肥をアンモニア態窒素源の一部又は全部を代わりに用いるものである。それにより第1実施形態の茶用堆肥を使用しない一般的なアンモニア態窒素源を施肥する茶の生産方法に比べて、アンモニア態窒素源の施肥量を減少させる。それにより一酸化二窒素の発生を低減させる。なお、一酸化二窒素の発生の低減には、一酸化二窒素を発生しない場合も含むものとする。
【0051】
本実施形態に係る一酸化二窒素の発生を低減させる方法は、第1、第2、又は第4実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(8)本実施形態に係る方法は、茶の栽培においてアンモニア態窒素源の代わりに第1実施形態の茶用堆肥が施肥される。それにより茶葉の生産量を減少させることなくアンモニア態窒素源の施肥量を低減させる。さらにアンモニア態窒素源の施肥量が低減することにより、土壌から発生する一酸化二窒素の発生を低減させる。一酸化二窒素は、二酸化炭素よりも強い温室効果ガス作用があり、また、大気中で紫外線により一酸化二窒素となりオゾン層を破壊すると言われている。本実施形態に係る方法により、一酸化二窒素が原因とされる環境の悪化を抑制し、環境保全を図ることができる。
【0052】
近年、茶葉中のテアニン等のうまみ成分を増加させるため、アンモニア態窒素源が含まれる肥料が多用される場合があった。茶に吸収されなかった余剰の肥料は、貧酸素環境下において、一酸化二窒素を発生させていた。さらに、余剰のアンモニア態窒素源により土壌が酸性化し、それが一酸化二窒素の発生を促進させていた。本実施形態に係る方法によりアンモニア態窒素源を含む肥料の施肥量が減少するため、また土壌の酸性化が抑制されるため、アンモニア態窒素源を含む肥料の多肥が原因とされる一酸化二窒素の発生を抑制することができる。
【実施例
【0053】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。尚、本発明は、実施例欄記載の構成に限定されるものではない。
(茶用堆肥の製造)
堆肥原料としての焙煎コーヒー粕に、下記に示される各成分を配合して高温堆肥化処理することにより有効成分としてポリフェノール分解物を含む茶用堆肥を得た。即ち、コーヒー粕(水分量65~70%)にpH調整を目的として石灰資材(ミネカル:JA全農社製)を10w/v%加え、さらに種菌(サーモマスター:メニコン社製)を規定量加えて通気堆肥化を行った。送風量は1m3の堆肥原料に100L/分とした。本条件により堆肥化開始後48時間以内にコーヒー粕の温度が65℃を超え(最高温度85℃)、この高温状態は約2週間続いた。温度が低下したタイミングで、コーヒー粕堆肥を切り返し、同様に通気を行ったが、切り返し直後、再度堆肥の温度が上がるものの、すぐに低下したため、これを一次発酵堆肥として評価実験に用いた。下記表1において、堆肥化原料の焙煎コーヒー粕、高温堆肥化処理後の堆肥化処理物の水分、各種ポリフェノールの含有量を示す。なお、表1中のN.Dは、検出限界以下を示す。
【0054】
【表1】
表1に示されるように、焙煎コーヒー粕を高温堆肥化処理することにより、クロロゲン酸等のポリフェノールは、分解するとともにフェルラ酸が急激に増加することが確認された。
【0055】
(茶用堆肥の施肥)
得られた茶用堆肥を実際に茶畑に施肥した。下記表2に示されるように実施例1,2、比較例1の施肥方法により茶を栽培した。比較例1は、1月から3月にかけて肥料として菜種粕2回及び硫酸アンモニウム1回を所定量、所定の時期に施肥した。表2の各施肥量の数値は、茶畑10a当たりの施肥量を示す(以下同じ)。実施例1は、比較例1における2回目の菜種粕の施肥を上記茶用堆肥に置き換えた施肥方法とした。また、実施例2は、比較例1における菜種粕2回及び硫酸アンモニウム1回をそれぞれ省略し、上記茶用堆肥を2回所定量施肥した。その後、5月上旬に一番茶を摘採した。摘採した生葉の量を表2に示す。
【0056】
【表2】
表2に示されるように、茶用堆肥を使用することにより茶葉の生産量を増加させることができる。また、有機質肥料やアンモニア態窒素肥料の代わりに茶用堆肥を使用しても茶葉の生長を促進することができることが確認された。アンモニア態窒素肥料の使用量を削減できることが期待される。
【0057】
(茶葉分析及び官能試験)
実施例1,2及び比較例1の施肥方法により得られた茶葉について、表3に示される各元素について微量分析を行った。まず、乾燥させた各茶葉のサンプル500mgを200mLのビーカーに取り、10mL濃硝酸を加えてホットプレートで加熱した。次に、4mLの過酸化水素を加えてホットプレート上で200℃に加熱した。次に、さらに4mLの過酸化水素を加えて乾固するまで加熱した。冷却後、0.1M硝酸で溶解後、メスフラスコで50mLにメスアップした。得られた溶液中の各元素は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、型番:SPS3520)を用いて測定し、乾燥茶葉中の各元素の質量を求めた。結果を表3に示す。
【0058】
また、実施例1及び比較例1の施肥方法により得られた茶葉について、全国茶品評会における「普通煎茶」の審査基準に基づき、専門の評価者が、外観、水色、滋味、から色について評価した。結果を表4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
表3に示されるように、茶用堆肥を使用した実施例1,2の茶葉は、比較例1の茶葉に対してMn量が低下していることが確認された。また、実施例1,2の茶葉は、比較例1の茶葉に対してNi量が増加していることが確認された。
【0061】
また、表4に示されるように、実施例1の茶葉について、味の評価基準である滋味の評価が比較例1の茶葉に対して向上しており、総合評価も高いことが確認された。
(土壌分析)
実施例1,2及び比較例1の施肥方法により生育された茶の土壌について、一番茶を摘採した後の5月25日にpH、アンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度について測定した。
【0062】
pHは、土壌1質量部に対して蒸留水2.5質量部を加えて撹拌し、所定時間経過後の上清部についてpH試験紙を用いて測定した。アンモニア態窒素濃度は、ネスラー試薬を用いたネスラー法を用いて定量した。硝酸態窒素濃度は比色法(ロシュ:Cat No.1 746 081)で定量した。各測定結果を表5に示す。
【0063】
【表5】
表5に示されるように、実施例1,2の土壌のpHは、硫酸アンモニウムの代わりに茶用堆肥を使用したことにより、比較例1の土壌に比べて大幅に上昇したことが確認された。また、実施例1,2の土壌のアンモニア態窒素濃度及び硝酸態窒素濃度は、硫酸アンモニウムの代わりに茶用堆肥を使用したことにより、比較例1の土壌に比べて大幅に低下したことが確認された。アンモニア態窒素肥料の削減により、一酸化二窒素の発生も低減しているものと思われる。また、温暖化効果ガスの一酸化二窒素は、土壌の酸性化により発生がより促進されることから茶用堆肥の使用により一酸化二窒素の発生をより抑制できることが期待される。
【0064】
以上により、本発明の茶用堆肥を使用することにより、土壌や地下水の汚染、温室効果ガスの発生等の環境の悪化を抑制できることが期待される。