(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】構造体の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04G 13/02 20060101AFI20220912BHJP
E01D 19/02 20060101ALI20220912BHJP
E04G 9/02 20060101ALI20220912BHJP
E04B 1/16 20060101ALI20220912BHJP
B28B 7/10 20060101ALI20220912BHJP
B28B 7/32 20060101ALI20220912BHJP
B28B 7/34 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
E04G13/02 Z
E01D19/02
E04G9/02
E04B1/16 M
B28B7/10 G
B28B7/32
B28B7/34 D
(21)【出願番号】P 2018232804
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖
(72)【発明者】
【氏名】横田 祐起
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松田 有加
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】坂井 吾郎
【審査官】清水 督史
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-184099(JP,A)
【文献】特開昭63-284332(JP,A)
【文献】米国特許第04723751(US,A)
【文献】特開平04-155059(JP,A)
【文献】特開昭62-233206(JP,A)
【文献】特開平05-278022(JP,A)
【文献】特開平07-040327(JP,A)
【文献】特開2017-193168(JP,A)
【文献】特開平11-303389(JP,A)
【文献】米国特許第05522181(US,A)
【文献】国際公開第95/012727(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 13/02
E01D 19/02
E04G 9/00-9/10
E04B 1/16
B28B 7/00-7/46
E04C 3/30-3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面を形成する筒状部を設ける工程と、
前記筒状部の側方での作業により、前記筒状部の周面に硬化材を吹き付けて塗布する工程と、
前記硬化材の硬化後、前記筒状部を撤去し、前記硬化材の内側に鉄筋を配置して充填材を充填する工程と、
を有し、
硬化した前記硬化材による
外殻部分と、前記充填材による内側部分とを有する構造体を構築することを特徴とする構造体の構築方法。
【請求項2】
前記筒状部の外周面に前記硬化材が吹き付けられることを特徴とする請求項1記載の構造体の構築方法。
【請求項3】
前記筒状部は気体により膨張する袋体により形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の構造体の構築方法。
【請求項4】
前記筒状部は複数の前記袋体を並べて形成されることを特徴とする請求項3記載の構造体の構築方法。
【請求項5】
前記筒状部は1つの前記袋体により形成されることを特徴とする請求項3記載の構造体の構築方法。
【請求項6】
前記筒状部が、前記硬化材に埋設される補強材の内側に取り付けて設置されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の構造体の構築方法。
【請求項7】
前記筒状部の内周面に前記硬化材が吹き付けられることを特徴とする請求項1記載の構造体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋脚や柱のような構造体を構築する際、従来は鉄筋を組み上げ、型枠を組み立ててコンクリートを打設し、所定の材齢まで養生した後に脱型をするのが一般的である。
【0003】
しかしながら、従来の工法では複数の工種が混在しており、作業も煩雑である。また近年では人材確保も困難になっており、より簡易な工法の開発が求められている。
【0004】
その例として、SPER工法など、複数のコンクリート製のプレキャストパネルを組み立てて外殻部分を形成し、その内側にコンクリートを充填する橋脚の施工法がある。外殻部分の内側には鉄筋が配置され、橋脚の補強筋として機能する。
【0005】
また特許文献1には、エアチューブを内型枠として、その外側に配置した外型枠との間にコンクリートを打設することで中空のコンクリート柱を形成する方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したようにコンクリート製のプレキャストパネルを外殻部分の構築に用いることで施工を簡略化できるが、隣接するプレキャストパネルの間に継目が生じるのでその処理を行う必要がある。継目の処理が適切に行われないと、当該継目から劣化因子が侵入し、内部の鉄筋腐食等により橋脚が劣化し健全性が損なわれる。
【0008】
特許文献1の方法では、エアチューブを内型枠として用いることで施工が簡略化され、継目が生じることも無い。ただし、特許文献1の方法ではコンクリートを打設するために外型枠が必要であり、この点では更なる簡略化の余地がある。
【0009】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、構造体を簡易に構築できる構造体の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するための本発明は、閉断面を形成する筒状部を設ける工程と、前記筒状部の側方での作業により、前記筒状部の周面に硬化材を吹き付けて塗布する工程と、前記硬化材の硬化後、前記筒状部を撤去し、前記硬化材の内側に鉄筋を配置して充填材を充填する工程と、を有し、硬化した前記硬化材による外殻部分と、前記充填材による内側部分とを有する構造体を構築することを特徴とする構造体の構築方法である。また、前記筒状部の外周面に前記硬化材が吹き付けられることが望ましい。あるいは、前記筒状部の内周面に前記硬化材が吹き付けられてもよい。
【0011】
本発明では、硬化材を筒状部の周面に吹付等により塗布することで構造体を構築する。当該構造体を、硬化材を型枠内に流し込む(打設)のでは無く、筒状部に硬化材を塗布して構築することで、型枠に係る作業を省略し、構造体の構築を簡易に行うことができる。また本発明では構造体に継目が生じることもない。
【0012】
前記筒状部は気体により膨張する袋体により形成されることが望ましい。前記筒状部は、例えば複数の前記袋体を並べて形成される。あるいは、1つの前記袋体により形成されてもよい。また前記袋体の表面に、前記硬化材の付着性を向上させるための突起が設けられることも望ましい。
このように、本発明では気体により膨張するエアチューブ等の袋体を用いて筒状部を容易に形成できる。また気体を抜くことで筒状部の脱型も容易にでき、保管に場所も取らない。筒状部は複数の袋体を筒状に並べて形成してもよいし、1つの袋体を筒状部として用いてもよい。前者の場合は袋体の配置により筒状部の形状を自由に定めることができ、後者の場合は袋体の数が少なくてすむ。
【0013】
また本発明では、前記硬化材を吹付により塗布することにより硬化材の塗布を容易に行うことが出来る。硬化材の吹付は通常の吹付機械を用いて行うことができ、一般的な作業員でも作業可能である。
【0014】
前記硬化材の硬化後、前記筒状部を撤去することが望ましい。
筒状部は例えば仮設物として用い、硬化材の硬化後に撤去する。
【0015】
本発明では、硬化材の内側に充填材を充填することで、中実の構造体を構築できる。硬化後の硬化材を充填材の充填時の型枠がわりに用いることで、型枠工も省略することができる。
また、前記筒状部が、前記硬化材に埋設される補強材の内側に取り付けて設置されることも望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、構造体を簡易に構築できる構造体の構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図4】ゴムチューブ1aにより筒状部を形成した例。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る構造体100の構築方法を示す図である。
図1(a)~(d)は構造体100の構築方法における各工程を示したものであり、上図は下図の線a-aによる水平方向の断面図、下図は上図の線b―bによる鉛直方向の断面図である。これは後述する
図4、5においても同様である。
【0020】
本実施形態では柱状の構造体100を構築するものとし、まず
図1(a)に示すように複数のエアチューブ1を筒状に並べて配置する。これにより、閉断面を形成する筒状部10を設ける。
【0021】
図2はエアチューブ1の例である。エアチューブ1は筒状の袋体であり、エアー(気体)を注入し膨張させて用いる。エアチューブ1は、例えば筒状部10の内側に当たる箇所で仮設の架台(不図示)を予め組み立てたうえで、当該架台に取り付けて配置し自立させることができる。
【0022】
エアチューブ1により筒状部10を形成した後、
図1(b)に示すように筒状部10の外周面に硬化材2を塗布する。硬化材2にはコンクリートやモルタル等のセメント系材料を用いる。この後、硬化材2の養生を行って硬化材2を硬化させ、これにより構造体100の外殻部分101が構築される。硬化材2には、硬化を早めるために既知の硬化促進剤を添加することも可能である。
【0023】
本実施形態では、吹付機械aを用いて筒状部10の外周面に硬化材2を吹き付けることで、筒状部10の側方での作業により硬化材2の塗布を行う。吹付後の硬化材2の表面は例えば人力でコテ仕上げして平滑にする。
【0024】
硬化材2の硬化後、エアチューブ1内のエアーを抜いて硬化材2からエアチューブ1を取り外し、
図1(c)に示すように筒状部10を撤去する。また、筒状部10と共に前記の架台も撤去し、硬化材2による外殻部分101の内側に鉄筋3を配置する。鉄筋3は例えば予め地組みしたものを外殻部分101の内側に挿入する。
【0025】
そして、
図1(d)に示すように外殻部分101の内側にコンクリート4(充填材)を打設して充填し、構造体100の内側部分を構築する。こうして柱状の構造体100が構築される。コンクリート4の充填前に配置した鉄筋3は、構造体100の補強筋として機能する。
【0026】
以上説明したように、本実施形態では、硬化材2を筒状部10の外周面に塗布することで構造体100の外殻部分101を構築する。当該外殻部分101を、硬化材2を型枠内に流し込む(打設)のでは無く、筒状部10に硬化材2を塗布して構築することで、外殻部分101の構築時に外型枠が不要となって外殻部分101の構築を簡易に行うことができる。さらに、本実施形態では外殻部分101に継目が生じることもない。
【0027】
また、本実施形態では気体により膨張するエアチューブ1を用いて筒状部10を容易に形成できる。気体を抜くことで筒状部10の脱型も容易にでき、保管に場所も取らない。
【0028】
筒状部10は複数のエアチューブ1を並べて形成することで、その配置により筒状部10の形状を自由に定めることができる。本実施形態では筒状部10の形状が矩形筒状であるが、その形状は特に限定されず、筒状部10の形状を自由に設定して様々な構造体100を構築できる。本実施形態では柱状の構造体100を構築しているが、例えば壁状の構造体100を構築することも可能である。
【0029】
また本実施形態では、硬化材2を筒状部10の外周面に吹付けることで、硬化材2の塗布を容易に行うことが出来る。本実施形態では吹付工が必要となるが、硬化材2の吹付は通常の吹付機械aを用いて行うことができ、一般的な作業員でも作業可能である。
【0030】
また、本実施形態では筒状部10を仮設物として用い、硬化材2の硬化後に撤去する。その後、硬化材2による外殻部分101の内側にコンクリート4を充填することで、中実の構造体100を構築できる。本実施形態では外殻部分101がコンクリート4の充填時の型枠として機能するので型枠工が省略され、大工の作業員が不足しても対応可能である。
【0031】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限らない。例えば構造体100の構築手順は前記に限らず、鉄筋3を事前に組み立てて、その後エアチューブ1を設置することも可能であり、当該鉄筋3の外側にエアチューブ1を取り付けて自立させることもできる。
【0032】
また本実施形態では外殻部分101の内側にコンクリート4を充填して中実の構造体100を構築しているが、コンクリート4の充填を省略して(外殻部分101のみにより構成される)中空の構造体を構築することも可能であり、この場合は鉄筋3の配置が省略される。また本実施形態では硬化材2を筒状部10の外周面に塗布しているが、硬化材2を筒状部10の内周面に塗布することも可能である。
【0033】
また、本実施形態では細径のエアチューブ1を複数本並べて筒状部10を形成したが、気体により膨張させた
図3のような太径のゴムチューブ1a(袋体)を筒状部の形成に用い、
図4に示すように、閉断面を形成する1本のゴムチューブ1aの外皮11(筒状部)の外周面に硬化材2を塗布することも可能である。この場合、ゴムチューブ1aの本数が少なくて済み施工が簡略化される。
【0034】
また、硬化材2としてサクセム(登録商標)のような超高強度繊維補強コンクリートを用いることもできる。このような硬化材2は鋼繊維が混入されており引張強度が高いため、構造体100内部の鉄筋3の量を減らす、もしくは省略することができる。
【0035】
さらに、
図5に示すように、硬化材2に鉄筋等の補強材5を埋設してもよい。この場合、事前に補強材5を組立てて、その内側にエアチューブ1を取付けることで、エアチューブ1を自立して配置させることも可能である。
図5は構造体100の構築にエアチューブ1を用いる場合の例であるが、ゴムチューブ1aを用いる場合も同様である。
【0036】
また、エアチューブ1やゴムチューブ1aの表面に突起を設け、硬化材2の付着性を向上させてもよい。さらに、筒状部を形成する部材もエアチューブ1やゴムチューブ1a等の袋体に限らず、例えばエキスパンドメタルやメッシュ材を仮設の架台、鉄筋3、補強材5等の外側あるいは内側に巻き付けて使用してもよく、筒状部として用いたエキスパンドメタルやメッシュ材を残置し、構造体の埋設型枠として用いることも可能である。
【0037】
また、本実施形態では吹付により硬化材2の塗布を行うが、硬化材2の塗布は、左官的方法により硬化材2を塗り付けて行うことも可能である。さらに、外殻部分101の出来形の3次元データに基づいて硬化材2の塗布を自動で行う自動塗布装置(3Dプリンタ)を用いることも可能である。コテ仕上げについても、上記と同様の3次元データに基づいてコテ仕上げを自動で行う自動コテ仕上げ装置を用いることが可能である。これらの装置を用いることで、外殻部分101の施工の自動化が可能になり、作業員をさらに省略することが可能になる。上記の自動塗布装置(3Dプリンタ)は筒状部の形成に用いることも可能であり、筒状部の出来形の3次元データに基づいて成形材の塗布を自動で行い筒状部を形成することで、施工が更に簡略化される。成形材には、例えば樹脂や、前記したコンクリート、モルタル等のセメント系材料などを用いることができる。
【0038】
また、本実施形態では構造体100の外殻部分101の内側の充填材として通常のコンクリート4を充填しているが、充填材はこれに限らず、改良土や高流動コンクリート、砂利等を用いてもよい。
【0039】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0040】
1:エアチューブ
1a:ゴムチューブ
2:硬化材
3:鉄筋
4:コンクリート
5:補強材
10:筒状部
11:外皮
100:構造体
101:外殻部分