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特許7139263摺動式等速自在継手用外側継手部材、及び摺動式等速自在継手
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】摺動式等速自在継手用外側継手部材、及び摺動式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/20 20060101AFI20220912BHJP
   F16D 3/205 20060101ALI20220912BHJP
   F16D 3/227 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
F16D3/20 J
F16D3/205 M
F16D3/227 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019023445
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020133660
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】板垣 卓
(72)【発明者】
【氏名】石島 実
(72)【発明者】
【氏名】河田 将太
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-235766(JP,A)
【文献】特表2003-505603(JP,A)
【文献】特開2015-72028(JP,A)
【文献】特開2008-249066(JP,A)
【文献】特開2011-149551(JP,A)
【文献】特開2011-231792(JP,A)
【文献】特開平11-336782(JP,A)
【文献】特開2009-97709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に転動体を収容するトラック溝が形成され、前記転動体を介して内側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する摺動式等速自在継手用外側継手部材において、
前記トラック溝の開口端側に、前記転動体及び前記内側継手部材を含む内部部品の抜け止め用として加締め加工にて形成された隆起部を有し、
前記トラック溝は、表面硬度がHRC45以上の硬化部と、前記硬化部から前記トラック溝の開口端に至る領域に設けられた表面硬度がHRC45未満の未硬化部と、を有し、
前記隆起部は、前記未硬化部の軸方向全体に渡って設けられていることを特徴とする摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項2】
前記隆起部は、前記硬化部と前記未硬化部との境界から隆起が開始されている請求項1に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項3】
前記隆起部が形成された箇所に対応する開口端面に、加締め加工にて形成された凹部を有する請求項1又は2に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項4】
前記転動体と前記トラック溝とはアンギュラ接触をなし、2つの接触点の間隔内に前記隆起部が収まる請求項1から3のいずれか1項に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項5】
前記内部部品に対して、継手組付け作業時に生じ得る抜け力よりも大きな引き抜き力を作用させた場合に、前記隆起部は前記内部部品の抜けを許容する請求項1から4のいずれか1項に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項6】
内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、前記トラック溝に転動可能に配置された転動体と、前記転動体を介して前記外側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する内側継手部材と、を備える摺動式等速自在継手において、
前記外側継手部材として、請求項1から5のいずれか1項に記載の外側継手部材を備えることを特徴とする摺動式等速自在継手。
【請求項7】
前記転動体は、ローラであり、
前記内側継手部材は、前記ローラが回転可能に装着されたトリポード部材である請求項6に記載の摺動式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式等速自在継手用外側継手部材、及び摺動式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械の動力伝達系においては、駆動軸と従動軸との二軸間で、角度変位だけでなく軸方向変位も許容しながら等速で回転トルクを伝達する摺動式等速自在継手が用いられている。
【0003】
摺動式等速自在継手としては、例えば、図14に示すようなローラタイプのトリポード型等速自在継手や、図15に示すようなボールタイプのダブルオフセット型等速自在継手などが知られている。
【0004】
図14に示すトリポード型等速自在継手60は、内周面に複数のトラック溝65を有する外側継手部材61と、内側継手部材としてのトリポード部材62と、トリポード部材62に設けられた転動体としてのローラ63など、を備えている。この等速自在継手60においては、ローラ63が外側継手部材61のトラック溝65に沿って転動することで、ローラ63及びトリポード部材62を含む内部部品が外側継手部材61に対して軸方向Xに移動する。なお、ここで言う「軸方向」とは、外側継手部材61の中心軸線O、あるいはこれと平行な任意の軸線の方向を意味する。以下、同様である。
【0005】
一方、図15に示すダブルオフセット型等速自在継手50は、内周面に複数のトラック溝55を有する外側継手部材51と、外周面に複数のトラック溝56を有する内側継手部材52と、外側継手部材51と内側継手部材52の対向するトラック溝55,56の間に配置された転動体としての複数のボール53と、外側継手部材51の内周面と内側継手部材52の外周面との間に介在してボール53を保持するケージ54など、を備えている。この等速自在継手50においては、ボール53が外側継手部材51のトラック溝55に沿って転動することで、ボール53、内側継手部材52及びケージ54を含む内部部品が外側継手部材51に対して軸方向Xに移動する。
【0006】
ところで、このような摺動式等速自在継手においては、車体などへの継手取付時にローラ又はボールなどを含む内部部品が外側継手部材の開口端から抜け出ることを防止するため、特許文献1(特許第4609050号公報)では、外側継手部材の開口端面にピンを打ち込むことによって、案内溝の内面に突出部を設け、この突出部に内部部品のローラが当たるようにすることで、内部部品の抜け止めを行う抜け止め構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4609050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
突出部による抜け止め力を向上させる方法の1つとして、突出部の突出量を多くすることが考えられる。しかしながら、突出部の突出量を多くすると、突出部の形成後に内部部品を外側継手部材内に挿入しにくくなるほか、内部品の挿入時にローラなどが突出部と接触することによる接触痕や変形が生じやすくなることが懸念される。そのため、単に突出量を多くするのではなく、できるだけ突出量を抑えつつも、抜け止め力を向上させる工夫が求められる。
【0009】
そこで、斯かる事情に鑑み、本発明は、抜け止め力を向上させ、内部部品の抜けを効果的に防止できる摺動式等速自在継手用外側継手部材、及び摺動式等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、内周面に転動体を収容するトラック溝が形成され、転動体を介して内側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する摺動式等速自在継手用外側継手部材において、トラック溝の開口端側に、転動体及び内側継手部材を含む内部部品の抜け止め用として加締め加工にて形成された隆起部を有し、トラック溝は、表面硬度がHRC45以上の硬化部と、硬化部からトラック溝の開口端に至る領域に設けられた表面硬度がHRC45未満の未硬化部と、を有し、隆起部は、未硬化部の軸方向全体に渡って設けられていることを特徴とする。この「軸方向」とは、上述の軸方向と同様に、外側継手部材の中心軸線の方向、あるいはこれと平行な任意の軸線の方向を意味する。
【0011】
隆起部を未硬化部の軸方向全体に渡って設けるようにすることで、硬化部側の一部でトラック溝の隆起が拘束されるため、隆起部の勾配を大きくすることができる。すなわち、硬化部によって隆起が部分的に拘束されることで、硬化部と未硬化部との境界からの隆起が顕著となるため、隆起部の勾配が大きくなる。このように、隆起部の勾配が大きくなることで、隆起部による抜け止め力が向上し、内部部品の抜けを効果的に防止できるようになる。
【0012】
隆起部は、硬化部と未硬化部との境界から隆起が開始するように構成されてもよい。
【0013】
隆起部は、例えば、外側継手部材の開口端面に加締め加工にて凹部を形成することによって形成できる。
【0014】
転動体とトラック溝とがアンギュラ接触をなす場合は、2つの接触点の間隔内に隆起部が収まるようにすることが好ましい。このようにすることで、隆起部との接触による転動体の接触痕や変形が、トラック溝に対する転動体の接触箇所に生じるのを回避することができ、転動体の機能性や耐久性を良好に維持することができる。
【0015】
また、内部部品に対して、継手組付け作業時に生じ得る抜け力よりも大きな引き抜き力を作用させた場合、隆起部が内部部品の抜けを許容するようにしてもよい。この場合、外側継手部材と内部部品とを組付け後に分離することができるので、修理やメンテナンスの作業性が向上する。
【0016】
摺動式等速自在継手が、上記外側継手部材を備えることで、外側継手部材に対する内部部品の抜けを有効に防止できるようになる。
【0017】
本発明に係る外側継手部材は、例えば、転動体としてのローラと、ローラが回転可能に装着された内側継手部材としてのトリポード部材と、を備える摺動式等速自在継手に適用可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、内部部品抜け止め用の隆起部による抜け止め力を向上させ、外側継手部材に対する内部部品の抜けを有効に防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の一形態であるトリポード型等速自在継手の要部縦断面図である。
図2図1に示すトリポード型等速自在継手の要部横断面図である。
図3図1に示すトリポード型等速自在継手の外側継手部材を開口端側から見た端面図である。
図4】隆起部の箇所で外側継手部材を軸方向に切断した要部拡大縦断面図である。
図5】加締め工具の要部斜視図である。
図6】加締め工具によって隆起部が形成される前の状態を示す縦断面図である。
図7】加締め工具によって隆起部が形成された状態を示す縦断面図である。
図8】ローラを外側継手部材に圧入している状態を示す縦断面図である。
図9】本発明の実施形態に係る隆起部の構成を示す縦断面図である。
図10図3に示す隆起部を拡大して示す要部拡大端面図である。
図11】隆起部の変形例を示す要部拡大端面図である。
図12】隆起部の別の変形例を示す要部拡大端面図である。
図13】比較例に係る隆起部の構成を示す縦断面図である。
図14】従来のトリポード型等速自在継手の縦断面図である。
図15】従来のダブルオフセット型等速自在継手の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の一形態であるトリポード型等速自在継手の要部縦断面図、図2は、本実施形態に係るトリポード型等速自在継手の要部横断面図である。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材としてのトリポード部材3と、転動体としてのローラ4と、を主な構成要素として備えている。
【0023】
外側継手部材2は、一端に開口部を有するカップ状に形成された部材である。外側継手部材2の内周面には、軸方向に伸びる3つのトラック溝5が周方向に等間隔に形成されている。各トラック溝5には、互いに対向する転動体案内面としてのローラ案内面5aが設けられている。なお、本発明に関する説明中の「軸方向」とは、外側継手部材2の中心軸線Oあるいはこれと平行な任意の軸線の方向X(図1参照)を意味する。
【0024】
トリポード部材3は、中心孔6aが設けられたボス部6と、このボス部6から半径方向に突出する3つの脚軸7と、を有している。ボス部6の中心孔6aには、シャフト8の端部に形成された雄スプライン8bに対して嵌合可能な雌スプライン6bが形成されている。シャフト8の端部が中心孔6aに挿入され、雄スプライン8bと雌スプライン6bとが嵌合することで、シャフト8とトリポード部材3とが一体的に回転可能に連結される。また、中心孔6aから突出するシャフト8の端部に止め輪9が装着されることで、トリポード部材3に対するシャフト8の軸方向Xの抜けが防止される。
【0025】
トリポード部材3の各脚軸7には、ローラ4などから成るローラユニット14が装着されている。ローラユニット14は、アウタリングとしてのローラ4と、ローラ4の内側に配置されると共に脚軸3に外嵌されたインナリング10と、ローラ4とインナリング10との間に介在された多数の針状ころ11と、によって構成されている。ローラ4、インナリング10、及び針状ころ11は、ワッシャ12,13によって互いに分離しないように組み付けられている。
【0026】
また、ローラ4は、外側継手部材2のトラック溝5内に配置されている。ローラ4が、トラック溝5のローラ案内面5aに沿って転動することで、ローラユニット14及びトリポード部材3を含む内部部品は、外側継手部材2に対して軸方向変位する。また、脚軸7の横断面が略楕円形状に形成されていることで、ローラユニット14は脚軸7の軸線に対して傾斜することが可能である。これにより、トリポード部材3の軸線が外側継手部材2の軸線に対して傾斜する角度変位も許容される。また、ローラユニット14は、シャフト8の回転に伴ってトリポード部材3が回転する際、トリポード部材3と外側継手部材2との間で回転トルクを伝達するトルク伝達部材としても機能する。
【0027】
また、本実施形態に係るトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2の開口部を密封するためのブーツ15を備えている。ブーツ15は、大径端部15aと、小径端部(図示省略)と、大径端部15aと小径端部とを連結する蛇腹部15cと、から成る。大径端部15aは、外側継手部材2の外径面の開口端側に形成されたブーツ装着部2bに対してブーツバンド16にて締め付けられることにより取り付けられる。また、小径部は、シャフト8の外径面に形成されたブーツ装着部(図示省略)に対して、別のブーツバンドにて締め付けられることにより取り付けられる。
【0028】
以下、外側継手部材2に対する内部部品(ローラユニット14及びトリポード部材3)の抜けを防止する抜け止め構造について説明する。
【0029】
図3は、外側継手部材2を開口端側から見た端面図である。
【0030】
図3に示すように、外側継手部材2のトラック溝5の開口端側には、内部部品抜け止め用の隆起部20が設けられている。隆起部20は、各トラック溝5の各ローラ案内面5aに1つずつ設けられている。また、各隆起部20が形成された箇所に対応する外側継手部材2の開口端面2aには、隆起部20を形成するために外側継手部材2を加締め加工した際の工具痕である凹部30が形成されている。なお、凹部30は、各隆起部20に対応して1つずつ形成されている。
【0031】
図4は、隆起部20の箇所で外側継手部材2を軸方向Xに切断した要部拡大断面図である。
【0032】
図4に示すように、隆起部20は、ローラ案内面5aよりも内側に突出している。このように、隆起部20がローラ案内面5aよりも内側に突出していることで、図4の二点鎖線で示すように、外側継手部材2内に組み込まれたローラ4が継手開口側へ移動したとしても、ローラ4がローラ案内面5aから突出する隆起部20の規制面20aに突き当たることで、ローラ4の移動が規制され、ローラ4及びこれを含む内部部品の外側継手部材2に対する抜けが防止される。
【0033】
続いて、上記隆起部20の形成方法、及び、摺動式等速自在継手の製造方法について説明する。
【0034】
本発明の実施形態においては、隆起部20を形成するにあたって、図5に示す加締め工具40を用いる。加締め工具40は、直方体形状の本体部41と、本体部41の長手方向の一端部に設けられた凸状の隆起形成部42と、を有する。隆起形成部42は、先端に向かって(図5の上方に向かって)断面幅が小さくなる断面三角形状に形成されている。
【0035】
このように構成された加締め工具40の隆起形成部42を、図6に示すように、隆起部20が成形される前の外側継手部材2の開口端面2aに接触させる。詳しくは、隆起形成部42を、開口端面2aの内側の縁に近い位置で、ただし内側の縁から離れた位置に接触させる。
【0036】
次に、図6に示す状態から、図7に示すように、加締め工具40を図示しないプレス機などによって外側継手部材2の開口端面2aへ押圧し、隆起形成部42を開口端面2aに食い込ませる。これにより、開口端面2aに凹部30が形成されると共に、ローラ案内面5aの開口端側の部分が内側に突出するように塑性変形して、隆起部20が形成される。また、このとき、加締め工具40の本体部41の面(図7の下面)によって、外側継手部材2の体積の移動(図7の上方への移)が拘束されることで、隆起部20を効果的かつ確実に内側へ突出させることができる。
【0037】
そして、上述の方法により、各ローラ案内面5aに隆起部20を形成し、全てのトラック溝5に隆起部20を形成した後、外側継手部材2に対する内部部品の組付け(圧入)を行う。このとき、図8に示すように、ローラ4が隆起部20に接触するが、この状態からローラ4をトラック溝5の奥側へ押し込んで相対面するローラ案内面5a同士を弾塑性変形によって押し広げることで、ローラ4を奥側へ挿入することができる。これにより、ローラ4がトラック溝5の奥側へ挿入され、内部部品の組付けが完了する。
【0038】
ローラ4が隆起部20を乗り越えて、トラック溝5内に組み込まれた後は、隆起部20によってローラ4を含む内部部品の抜けが防止される。この隆起部20による抜け止め力は、車体などへの継手組付け作業時に生じ得る抜け力以上に設定されているため、継手組付け作業時に生じる抜け力では内部部品が外側継手部材2から抜け出ることはない。
【0039】
一方で、継手の修理やメンテナンスを行うことを考慮すると、内部部品は外側継手部材に対して分離可能であることが好ましい。そのため、隆起部20は、内部部品に対して継手組付け作業時に生じ得る抜け力よりも大きな引き抜き力が作用した場合に、内部部品の抜けを許容するようにしてもよい。これにより、継手組付け後においても、外側継手部材と内部部品とを分離して、再度これらを組付けることができ、修理やメンテナンスの作業性を向上させることができる。
【0040】
また、図4に示すように、本発明の実施形態においては、規制面20aの少なくとも一部にローラ案内面5aに対して傾斜する傾斜面20bを有していることで、内部部品を分離する際のローラ4の変形を抑制することができる。傾斜面20bは、外側継手部材2の開口端面2a側からこれとは反対の軸方向奥側に向かって突出量が少なくなるように傾斜している。規制面20aがこのような傾斜面20bを有することで、内部部品を外側継手部材2に対して分離する際に、ローラ4に対する隆起部20の食い込みが軽減され、等速自在継手に大きな変形が生じない程度の引き抜き力でもって外側継手部材と内部部品とを分離できるようになる。
【0041】
ところで、トラック溝5は、ローラ4が転動するローラ案内面5aを有するので、耐久性や強度を確保する必要がある。そのため、一般的に、トラック溝5には熱処理(例えば高周波焼入れ)による硬化層が形成されている。しかしながら、このような硬化層がトラック溝5の開口端にまで及ぶと、トラック溝5の開口端側に隆起部20を形成しにくくなり、所望の突出量が得られない虞がある。また、加締め工具40を外側継手部材2の開口端面2aに対して押し込むときの押し込み荷重を大きくしなければならなくなり、加締め工具40の寿命低下や、隆起部形成時に外側継手部材2の割れが生じる虞もある。なお、隆起部20を形成してから、トラック溝5全体を熱処理することも考えられるが、その場合、熱処理するためにトラック溝5に近接して配置される加熱コイルなどの加熱装置が隆起部20に対して干渉する懸念がある。
【0042】
そこで、このような硬化層による影響を抑制するため、図13に示す例のように、トラック溝5の開口端側に、熱処理による硬化層Mが形成されない未硬化部32を設け、その未硬化部32に隆起部20を形成することが望ましい。なお、ここで言う「未硬化部」とは、表面硬度がHRC45未満の部分を意味する。また、未硬化部32には、表面硬度がHRC45未満であれば、全く熱処理されていない部分のほか、多少熱処理されている部分も含まれる。また、トラック溝5のうち、硬化層Mが形成されている硬化部31の表面硬度は、HRC45以上であり、例えば本実施形態においてはHRC57~64に設定されている。
【0043】
このように、トラック溝5に未硬化部32を設け、未硬化部32に隆起部20を形成することで、硬化部31によって隆起が拘束されることなく隆起部20を形成することができるようになる。
【0044】
しかしながら、図13に示す例のように、隆起部20が硬化部31による拘束の影響を全く受けない場合は、隆起形状が比較的になだらかになるため、隆起部20(傾斜面20b)の勾配が小さくなる傾向にある。隆起部20による抜け止め力は、隆起部20の勾配に依存する。すなわち、隆起部20の勾配が小さい場合は、ローラ4が隆起部20を乗り越えやすくなるため、隆起部20による抜け止め力の向上を図るには、隆起部20の勾配を大きくすることが好ましい。一方で、隆起部20の勾配が小さいことによる抜け止め力不足に対しては、隆起部20の突出量を大きくすることで補うことが可能である。しかしながら、隆起部20の突出量を大きくすると、上述のように、隆起部20の形成後にローラ4を外側継手部材2内に組み込にくくなるほか、ローラ4が隆起部20と接触することによる接触痕や変形が生じやすくなる。さらに、加締め工具40を外側継手部材2に押し当てる荷重を大きくしなければならないため、加締め工具40の寿命低下などの懸念もある。
【0045】
そのため、本発明の実施形態においては、内部部品の組付け性や隆起部の加工性を考慮しつつ、隆起部20の突出量を大きくすることなく隆起部20の勾配を大きくできるように、次のようにしている。以下、本発明の実施形態の構成について説明する。
【0046】
図9は、本発明の実施形態に係る隆起部20の構成を示す縦断面図である。
【0047】
図9に示す本発明の実施形態においては、図13に示す例と同様に、トラック溝5の開口端側に表面硬度がHRC45未満の未硬化部32を設け、この未硬化部32に隆起部20を形成している。ただし、本発明の実施形態においては、図13に示す例よりも、硬化部31がトラック溝5の開口端側(図の上側)へ伸びており、これに伴って、硬化部31からトラック溝5の開口端までの未硬化部32の軸方向長さL1が短くなっている(L1<L2)。
【0048】
また、図9に示す本発明の実施形態においては、硬化部31が、硬化層Mの影響を受けずに隆起部20が形成される範囲W2、すなわち図13の例において隆起部20が形成される範囲W2内に侵入している。このため、硬化部31が侵入する範囲Yにおいては隆起が拘束される。その結果、隆起部20の隆起が、硬化部31と未硬化部32との境界Jから開始されることとなる。
【0049】
このように、本発明の実施形態においては、隆起部20の隆起が硬化部31によって部分的に拘束されることで、反対に、境界Jから開始される隆起が顕著となる。そして、隆起部20の隆起が顕著となることで、隆起部20の勾配(ローラ案内面5aに対する傾斜面20bの傾斜角度θ1)が大きくなる。すなわち、図13に示す例の場合は、硬化部31による拘束の影響を全く受けないことで、隆起形状が比較的になだらかになるのに対して、本発明の実施形態のように、硬化部31によって隆起が部分的に拘束される場合は、硬化部31と未硬化32部との境界Jからの隆起の発生が顕著になるため、図13に示す例に比べて隆起部20の勾配が大きくなる(θ1>θ2)。なお、隆起が部分的に拘束されることで、実際に形成される隆起部20の軸方向領域W1は、図13に示す例に比べて短くなるが(W1<W2)、隆起部20の突出量T1は、図13に示す例と同程度、あるいはそれよりも大きく確保される(T1≧T2)。
【0050】
以上のように、本発明によれば、隆起部20の勾配が大きくなることで、隆起部20による抜け止め力が向上する。これにより、内部部品の抜けをより確実に防止できるようになり、内部部品に対して大きな抜け力が作用し得る環境にも対応できるようになる。例えば、摺動式等速自在継手を車体に取り付けるにあたって、先に車輪やその周辺部品を摺動式等速自在継手に組み付けてから、この組付け品を車体の取付部へ取り付ける場合は、車輪などの荷重が摺動式等速自在継手の内部部品に対して大きな抜け力となって作用する。このような場合においても、本発明の実施形態に係る構成を適用することで、外側継手部材に対する内部部品の抜けをより効果的に防止できるようになり、継手組付け時の作業性や安全性が向上する。
【0051】
また、隆起部20の勾配を大きくすれば、隆起部20の突出量をそれほど多くしなくても、抜け止め力を効果的に向上させることができる。従って、本発明によれば、隆起部20の突出量が多くなることに伴う、外側継手部材2に対する内部部品の組付け性の低下や、圧入時の隆起部20と内部部品との接触による接触痕又は変形の発生、さらには加締め加工時の荷重が大きくなることによる加締め工具40の寿命低下などを回避しつつ、抜け止め力を向上させることが可能である。このように、本発明においては、隆起部20の継手奥側の形状に着目し、隆起部20の突出量を大きくすることなく勾配を大きくすることで、内部部品の組付け性や隆起部20の加工性を維持しつつ、内部部品抜け止め力の高い外側継手部材及び摺動式等速自在継手を実現することができる。
【0052】
硬化部31の表面硬度や、硬化部31と凹部30との相対的距離などによっては、隆起部20の隆起が、硬化部31と未硬化部32との境界Jからではなく、それよりも硬化部31側から開始される場合もある。このような場合でも、硬化部31と未硬化部32との境界Jからの隆起が顕著となるため、隆起部20の勾配が大きくなり、抜け止め力を向上させることが可能である。従って、隆起部20の開始点は、硬化部31と未硬化部32との境界Jであってもよいし、その境界Jよりも硬化部31側であってもよい。要するに、隆起部20は、硬化部32との間に平坦な(隆起の無い)未硬化部32が介在することがなく、未硬化部32の軸方向全体に渡って設けられていればよい。
【0053】
また、隆起部20の規制面20aは、外側継手部材2の軸方向Xから見て、図10に示すような(窪みの無い)直線状のほか、図11に示すような幅方向の端部側よりも中央側で窪んだ凹曲面状であってもよい。なお、ここで言う「幅方向」とは、図11に示すように、外側継手部材2を軸方向Xと直交する面で切断した断面において、隆起部20が形成された部分のトラック溝5の形状線に沿った方向Yを意味する。特に、規制面20aの形状が図11に示すような凹曲面状である場合は、図10に示す直線状の場合に比べて、隆起部20とローラ4との接触範囲が増えるため、隆起部20による抜け止め力が向上する。すなわち、図10に示す例の場合は、規制面20aの曲率がローラ4の外周面4aの形状である凸曲面状の曲率に近くなるため、ローラ4と規制面20aとの接触範囲が増え、ローラ4が隆起部20を乗り越えて脱落しにくくなる。
【0054】
また、図12に示す例のように、規制面20aを、曲線状(凹曲面状)ではなく、直線のみ、あるいは直線と曲線とを組み合わせて形成された凹形状にしてもよい。このような形状であっても、規制面20aが凹形状に形成されていない比較例に比べて、規制面20aの形状がローラ4の外周面4aの形状に近づくため、ローラ4と規制面20aとの接触範囲を広げることが可能である。
【0055】
規制面20aの形状を変更するには、その形状に応じて加締め工具40の形状を適宜変更すればよい。具体的には、図5に示す加締め工具40において、その隆起形成部42の三角形状の二辺を構成する面42a,42bのうち、図の奥側の面42aの形状を変更すればよい。この奥側の面42aの形状を変更すれば、その形状が凹部30(図10図11図12に示す継手内径側の面30a)に転写されることで、これに倣って隆起部20の規制面20aを所望の形状に形成することができる。
【0056】
また、図10図11図12に示すように、ローラ4の外周面4aとローラ案内面5aとが、所定の接触角αをもって接触する、いわゆるアンギュラ接触する場合は、ローラ4の外周面4aとローラ案内面5aとが接触する2つの接触点Sの間隔内に隆起部20が収まるようにすることが好ましい。ここでは、隆起部20が2つの接触点Sの間隔内に収まるようにするため、凹部30の幅寸法Bを、2つの接触点S同士の間隔Aよりも小さく設定している(B<A)。このように、隆起部20が2つの接触点Sの間隔内に収まるようにすることで、隆起部20との接触によるローラ4の接触痕や変形が、トラック溝5に対するローラ4の接触箇所(接触点S)に生じるのを回避することができ、ローラ4の機能性や耐久性を良好に維持することが可能である。
【0057】
また、本発明は、転動体としてローラを備えるローラタイプの摺動式等速自在継手に限らず、図15に示すような転動体としてボールを備えるボールタイプの摺動式等速自在継手にも適用可能である。斯かる摺動式等速自在継手においても、本発明を適用して隆起部20の勾配を大きくすることで、ボール53の抜けを効果的に防止することが可能となる。
【0058】
また、上述の実施形態では、加締め工具40の本体部41に隆起形成部42が1つ設けられているが、本体部41をリング状に形成し、その本体部41に複数の隆起形成部42を設けてもよい。その場合、一度の加締め加工で、複数あるいは全部の隆起部20を形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 トリポード型等速自在継手(摺動式等速自在継手)
2 外側継手部材
2a 開口端面
3 トリポード部材(内側継手部材)
4 ローラ(転動体)
5 トラック溝
20 隆起部
30 凹部
31 硬化部
32 未硬化部
J 硬化部と未硬化部との境界
S 接触点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15