(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
H01L21/52 A
(21)【出願番号】P 2019100324
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆誠
(72)【発明者】
【氏名】小西 くみこ
(72)【発明者】
【氏名】毛利 友紀
(72)【発明者】
【氏名】島 明生
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-024121(JP,A)
【文献】特開2017-103290(JP,A)
【文献】実開平07-010939(JP,U)
【文献】特開2014-236166(JP,A)
【文献】特開2019-033585(JP,A)
【文献】特開2012-231019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
第1基板上に設けられ、炭化ケイ素を含む第2基板を備えた半導体チップと、
前記半導体チップの直下の前記第1基板の上面に形成された複数の溝と、
前記溝内に埋め込まれ、前記第1基板の前記上面と前記半導体チップの下面とに接する接合部材と、
を有し、
前記第2基板は、<-1100>方向に成長する積層欠陥へと拡張する基底面転位を含み、
複数の前記溝のそれぞれは、平面視において、前記第2基板の<11-20>方向から時計回りに135°回転した第1方向に対して交差する第2方向に延在し、前記溝の短手方向に並んでいる、半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置において、
前記溝の前記短手方向において、前記半導体チップの端部の直下の前記溝の幅は、前記半導体チップの中央部の直下の前記溝の幅よりも小さい、半導体装置。
【請求項3】
請求項1記載の半導体装置において、
前記短手方向において隣り合う前記溝同士の間には、複数の凸部が前記第2方向に互いに離間して並んでいる、半導体装置。
【請求項4】
請求項1記載の半導体装置において、
前記第1方向と前記第2方向とは、平面視において互いに直交している、半導体装置。
【請求項5】
請求項1記載の半導体装置において、
前記第2基板の上面は、<0001>面である、半導体装置。
【請求項6】
請求項1記載の半導体装置において、
複数の前記溝は、前記第1基板を構成する導電性パターンの上面に形成されている、半導体装置。
【請求項7】
請求項1記載の半導体装置において、
前記半導体チップは、トランジスタを搭載し、ダイオードを内蔵している、半導体装置。
【請求項8】
第1基板と、
第1基板上に設けられ、炭化ケイ素を含む第2基板を備えた半導体チップと、
前記半導体チップの直下の前記第1基板の上面に形成された複数の溝と、
前記溝内に埋め込まれ、前記第1基板の前記上面と前記半導体チップの下面とに接する接合部材と、
を有し、
前記第2基板は、<1-100>方向に成長する積層欠陥へと拡張する基底面転位を含み、
複数の前記溝のそれぞれは、平面視において、前記第2基板の<11-20>方向から時計回りに45°回転した第1方向に対して交差する第2方向に延在し、前記溝の短手方向に並んでいる、半導体装置。
【請求項9】
請求項8記載の半導体装置において、
前記溝の前記短手方向において、前記半導体チップの端部の直下の前記溝の幅は、前記半導体チップの中央部の直下の前記溝の幅よりも小さい、半導体装置。
【請求項10】
請求項8記載の半導体装置において、
前記短手方向において隣り合う前記溝同士の間には、複数の凸部が前記第2方向に互いに離間して並んでいる、半導体装置。
【請求項11】
請求項8記載の半導体装置において、
前記第1方向と前記第2方向とは、平面視において互いに直交している、半導体装置。
【請求項12】
請求項8記載の半導体装置において、
前記第2基板の上面は、<0001>面である、半導体装置。
【請求項13】
請求項8記載の半導体装置において、
複数の前記溝は、前記第1基板を構成する導電性パターンの上面に形成されている、半導体装置。
【請求項14】
請求項8記載の半導体装置において、
前記半導体チップは、トランジスタを搭載し、ダイオードを内蔵している、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関し、特に、半導体チップが接合部材を介して基板に接合されている半導体装置に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
電力変換用の半導体デバイスは、インバータ若しくはコンバータなどの電力変換装置または電力制御装置などに多く使用されている。
【0003】
近年、電力変換用の半導体デバイスでは、電力損失を低減するため、その材料としてSiC(炭化ケイ素)を用いた半導体デバイスの開発が進められている。SiCは、PN接合の通電時に発生するエネルギーで積層欠陥が成長する場合があり、このような場合にはドリフト層の抵抗が高くなるため、デバイス特性が劣化する。この特性劣化により、半導体デバイスの電力損失の増大、および、発熱が大きくなるため、半導体デバイスの破壊が起きる可能性がある。
【0004】
この特性劣化に関しても様々な研究がなされており、例えば、非特許文献1には、半導体デバイスに加わる応力によって劣化が発生する電流の閾値が増減することが記載されている。また、非特許文献1には、当該閾値が上がるか下がるかは、当該応力の方向および半導体チップ中に存在する基底面転位の種類によって決まることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Akihiro Goryu, “The evaluation of the mechanical stress effect for stacking fault expansion in 4H-SiC p-i-n diode” ECSCRM 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電力変換装置への電気的配線のため、半導体チップを接合部材を介して基板に接合する必要があるが、接合プロセスにおいて加熱を要するため、その後の冷却時に半導体チップと接合部材との熱膨張係数の差から応力が発生する。半導体チップ中に存在する基底面転位の種類によっては、当該応力の発生に起因して、特性劣化が発生する電流の閾値が下がる。すなわち、半導体チップ内に応力が生じることで、特性劣化が発生し易くなる虞がある。
【0007】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0009】
代表的な実施の形態による半導体装置は、基板と、基板上に接合部材を介して搭載され、<-1100>方向に成長する積層欠陥へと拡張する基底面転位を含む半導体チップと、半導体チップの直下の基板の上面に形成された複数の溝とを有し、前記半導体チップは炭化ケイ素基板を含むものである。前記溝は、平面視において、炭化ケイ素基板の<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向に延在している。
【発明の効果】
【0010】
代表的な実施の形態によれば、半導体装置の信頼性を向上させることができる。特に、炭化ケイ素を用いた半導体装置における積層欠陥の成長を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1である半導体装置の平面図である。
【
図3】本発明の実施の形態1である半導体装置を示す回路図である。
【
図4】本発明の実施の形態1である半導体装置の拡大断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態1である半導体装置の平面図である。
【
図6】本発明の実施の形態1である半導体装置の拡大断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態1である半導体装置の製造工程中の断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態1の変形例1である半導体装置の平面図である。
【
図10】本発明の実施の形態1の変形例2である半導体装置の平面図である。
【
図12】本発明の実施の形態1の変形例3である半導体装置の平面図である。
【
図14】本発明の実施の形態1の変形例4である半導体装置の平面図である。
【
図16】本発明の実施の形態2である半導体装置の平面図である。
【
図18】本発明の実施の形態2である半導体装置の平面図である。
【
図22】溝部分の幅の合計値を、当該幅の方向に対し直交する方向における半導体チップの長さで積分した式である。
【
図23】本発明の実施の形態2である半導体装置の平面図である。
【
図24】本発明の実施の形態2である半導体装置の平面図である。
【
図25】溝部分の幅の合計値を、当該幅の方向に対し直交する方向における半導体チップの長さで積分した式である。
【
図26】本発明の実施の形態2の変形例である半導体装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0013】
(実施の形態1)
<改善の余地の詳細>
以下に、改善の余地の詳細について説明する。
【0014】
炭化ケイ素(SiC)を用いた半導体パワー素子(半導体チップ)は、例えば、以下のような構成を有している。すなわち、半導体チップは、n型のSiC基板(炭化ケイ素基板)、および、SiC基板上のn型のドリフト層を有する。ドリフト層はSiCを含んでいる。ドリフト層の上面上には、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成されている。ゲート絶縁膜およびゲート電極は、平坦なドリフト層の上面上、または、ドリフト層の上面に形成されたトレンチ内に順に形成されている。
【0015】
SiC基板はドレイン領域を構成しており、ゲート絶縁膜を介してゲート電極と近接するドリフト層の上面には、n型のソース領域が形成されている。ソース領域とドレイン領域のとの間のトレンチの側面(ドリフト層の表面)、または、ソース領域と隣り合うドリフト層の上面であって、ゲート電極とゲート絶縁膜を介して近接するドリフト層の上面には、p型のボディ層が形成されている。ゲート電極、ソース領域およびドレイン領域は、SiCを用いたスイッチング素子であるn型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor、MOS型電界効果トランジスタ)を構成している。ボディ層は、MOSFETの動作時にチャネルが形成される領域である。
【0016】
ボディ層にソース電位を印加するため、ドリフト層の上面には高濃度のp型半導体領域が形成されている。このp型半導体領域およびボディ領域により構成されるp型層と、n型のドリフト層およびSiC基板により構成されるn型層とは、ダイオードを構成している。つまり、SiCを用いたスイッチング素子であるMOSFETは、内蔵ダイオードを有している。当該スイッチング素子を備えたインバータなどのパワーモジュールでは、スイッチング素子に対して順方向とは逆方向の電流(還流)が流れる場合がある。このような還流によるサージ電圧によりスイッチング素子が破壊されることを防ぐため、各スイッチング素子には還流を流すためのダイオード(還流ダイオード)を並列接続する場合がある。しかし、当該スイッチング素子の他に、ダイオードを備えた半導体チップを用意すると、パワーモジュールが大型化し、高コスト化する。インバータを小型化するためには、スイッチング素子が含む上記内蔵ダイオードを還流ダイオードとして使用することが望ましい。
【0017】
ここで、SiC半導体素子は、バイポーラ動作によりSiCドリフト層中に存在する線状の基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)が、面状の積層欠陥に拡張する性質を有している。すなわち、BPDにおいて電子および正孔が再結合する際、その再結合エネルギーによりBPDが面状の積層欠陥に拡張する。積層欠陥部分は高抵抗であるため、積層欠陥が拡張すると素子抵抗が増加し、オン電圧が高くなる。この現象は通電劣化現象と呼ばれている。上記内蔵ダイオードに通電すると、BPDにおいて電子および正孔が再結合し、BPDがドリフト層内で積層欠陥へ拡張する通電劣化現象が起こり得る。
【0018】
以上より、通電劣化の発生を抑制し、半導体装置の信頼性を高め、半導体装置の寿命を延ばす観点から、改善の余地が存在する。
【0019】
そこで、本実施の形態1では、上述した第改善の余地を解決する工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0020】
<半導体装置の構成>
以下、本実施の形態の半導体装置の構造について、
図1~
図4を用いて説明する。
図1は、本実施の形態の半導体装置の平面図である。
図2は、
図1のA-A線における断面図である。
図3は、本実施の形態の半導体装置であるMOSFETおよびその内蔵ダイオードを示す回路図である。
図4は、本実施の形態の半導体装置のうち、半導体チップおよびその下の基板を示す拡大断面図である。
【0021】
本実施の形態の半導体装置は、炭化ケイ素半導体装置であるSiC-MOSFETを含む半導体チップと、当該半導体チップの下の基板(例えば配線パターンが上部に形成された絶縁基板)とを含むものである。本実施の形態の主な特徴の1つは、当該基板の上面であって、当該半導体チップが搭載される面に溝を複数並べて形成することにある。本実施の形態では、当該溝の形成により、半導体チップ内において特定の結晶方向に応力を加わることを防ぐことができ、これにより、半導体装置の特性劣化の発生を抑えることができる。SiC基板には、<-1100>方向に成長する積層欠陥を含むものと、<1-100>方向に成長する積層欠陥を含むものとの2種類があり、本実施の形態は前者に関する。本願でいう結晶格子の結晶面および方向は、いずれも半導体チップを構成する半導体基板の結晶面および方向である。
【0022】
図1および
図2に示すように、本実施の形態の半導体装置100は、基板上に少なくとも1つの半導体チップ(以降、単にチップとも言う)が搭載されたものである。ここでは、少なくとも1つの上記半導体チップがMOSFETを搭載している場合を説明する。半導体装置100は、基板101を有している。基板101は、その裏面側の導電体層102と、導電体層102上の絶縁層103と、絶縁層103上の種々の配線パターンとを備えている。すなわち、基板101の上面側には、絶縁層103上に形成された複数の配線パターンが、それぞれ電気的に絶縁された状態で配置されている。絶縁層103上には、基板101を構成するゲート配線パターン104、ソースセンス配線パターン105、ドレイン配線パターン106およびソース配線パターン107などの導電性パターン(導体パターン)が、それぞれ電気的に絶縁された状態で形成されている。
【0023】
基板101および半導体チップ108のそれぞれの形状は、平面視において例えば矩形である。ここでは、半導体チップ108の平面形状が、正方形である場合について説明するが、後述するように半導体チップ108の平面形状は長方形などであってもよい。
図2では、当該矩形の対角線方向(斜め方向)における基板101および半導体チップ108の断面図を示している。
図2が斜め方向の断面図であることを分かり易くするため、
図2の半導体チップ108の断面の中央部には、図示されていない位置の半導体チップ108の角部を破線で示している。なお、後の説明で用いる
図4、
図6、
図7、
図9、
図12、
図15、
図17、
図19~
図21および
図27は、
図2と同様に、平面視において矩形である半導体チップを、当該対角線方向に切断した場合の断面を示すものである。
図2、
図4、
図6、
図7、
図9、
図12、
図15、
図17、
図19~
図21および
図27に示す断面図は、半導体チップ内に発生する抑えるべき応力の方向に沿う断面を示すものである。
【0024】
ドレイン配線パターン106上には、半導体チップ108が、導電性の接合部材(接続部材)109(例えば、半田など)を介して接合されている。つまり、接合部材109は、半導体チップ108の下面とドレイン配線パターン106の上面とのそれぞれに接しており、半導体チップ108の下面とドレイン配線パターン106の上面とを接合している。
【0025】
半導体チップ108は、その上面側にゲートパッド108gとソースパッド108sとを有している。半導体チップ108のゲートパッド108gと基板101のゲート配線パターン104とは、導電性ワイヤであるゲートワイヤ110によって電気的に接続されている。また、半導体チップ108のソースパッド108sと、基板101のソースセンス配線パターン105とは、導電性ワイヤであるソースセンスワイヤ111によって電気的に接続されている。さらに、半導体チップ108のソースパッド108sと、基板101のソース配線パターン107とは、導電性ワイヤである複数のソースワイヤ112によって、電気的に接続されている。
【0026】
ソースセンス配線パターン105は、半導体チップ108内のソースセンス素子のソース電極に電気的に接続されている。ソースセンス素子は、過電流の検出に用いられる素子である。
【0027】
図3に示すように、半導体チップ108は、パワー系のMOSFET(以下では、パワーMOSと呼ぶ)201を搭載しており、ダイオードであるボディダイオード202が内蔵されている。すなわち、半導体チップ108は、パワーMOS201とボディダイオード202とから成る。なお、ボディダイオードは、内蔵ダイオードとも呼ばれる。
【0028】
ボディダイオード202のアノードはパワーMOS201のソースと電気的に接続され、ボディダイオード202のカソードはパワーMOS201のドレインと電気的に接続されている。また、半導体チップ108のドレイン電極は、半導体装置100のドレイン端子203と電気的に接続されている。半導体チップ108のゲート電極は、半導体装置100のゲート端子204と電気的に接続されている。半導体チップ108のソース電極は、半導体装置100のソース端子205およびソースセンス端子206と電気的に接続されている。
【0029】
半導体装置100を備えた電力変換装置を動作させると、当該動作中に、ソース端子205の電位がドレイン端子203の電位より高くなる場合がある。この時、半導体チップ108中に基底面転位が存在すると、半導体チップ108のボディダイオード202に電流が流れることで、半導体チップ108の特性が劣化する場合がある。
【0030】
そのような特性の劣化を抑えるための構造として、本実施の形態の半導体装置では、
図1に示すように、ドレイン配線パターン106の上面であって、半導体チップ108が搭載される面に、複数の溝1を形成している。
【0031】
図1に示す半導体チップ108は、平面視において、<11-20>方向から時計回りに135°回転した方向、および、<11-20>方向から時計回りに315°回転した方向に回転した方向のそれぞれに圧縮応力が印加された場合、<-1100>方向に積層欠陥が成長し、特性劣化が発生し易くなるものである。このような半導体チップ108に対し、複数の溝1は、平面視において、<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向、つまり、<11-20>方向から時計回りに225°回転した方向に延在している。溝1は、その短手方向(平面視で<11-20>方向から時計回りに135°回転した方向)において複数並んで配置されている。
【0032】
すなわち、複数の溝1は、平面視において、<-1100>方向から時計回りに135°回転した方向に延在している。言い換えれば、<11-20>方向、<-1100>方向および<1-100>方向のいずれもが、平面視において任意の1点から延びる方向であるとすると、複数の溝1は、平面視において、<11-20>方向から、<1-100>方向側ではなく<-1100>方向(半導体チップ108が含む積層欠陥の延びる方向)側に135°回転した方向に延在している。
【0033】
複数の溝1のうち、溝1の短手方向において隣り合う溝1同士の間には、溝1同士の境界である凸パターン(凸部)が形成されている。凸パターンの上端の位置は、溝1の下端の位置よりも高い。凸パターンは、平面視で溝1に沿って延在している。つまり、凸パターンは、平面視において、<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向、つまり、<11-20>方向から時計回りに225°回転した方向に延在している。溝1の短手方向において、溝1と凸パターンとは交互に配置されている。
【0034】
図示は省略するが、炭化ケイ素(SiC)を用いた本実施の形態の半導体チップ108は、例えば、以下のような構成を有している。すなわち、半導体チップ108は、n型のSiC基板、SiC基板上のn型のドリフト層を有する。ドリフト層はSiCを含んでいる。ドリフト層の上面上には、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成されている。ゲート絶縁膜およびゲート電極は、平坦なドリフト層の上面上、または、ドリフト層の上面に形成されたトレンチ内に順に形成されている。
【0035】
SiC基板はドレイン領域を構成しており、ゲート絶縁膜を介してゲート電極と近接するドリフト層の上面には、n型のソース領域が形成されている。ソース領域とドレイン領域のとの間のトレンチの側面(ドリフト層の表面)、または、ソース領域と隣り合うドリフト層の上面であって、ゲート電極とゲート絶縁膜を介して近接するドリフト層の上面には、p型のボディ層が形成されている。ゲート電極、ソース領域およびドレイン領域は、SiCを用いたスイッチング素子であるn型のMOSFETを構成している。ボディ層は、MOSFETの動作時にチャネルが形成される領域である。SiC基板およびSiC基板上のドリフト層から成る積層基板は、半導体基板を構成している。
【0036】
本願でいう平面視とは、半導体チップ108の上面に対して垂直な方向から、半導体装置100などを見下ろすことを指す。また、ここでいう<11-20>方向、<-1100>方向、および<1-100>方向は、半導体チップ108を構成する半導体基板の結晶面に沿う方向である。つまり、当該半導体基板を構成するSiCの結晶構造は六方晶系であり、六方晶系は、<11-20>面、<-1100>面、および<1-100>面などを有している。当該半導体基板の主面は<0001>面である。すなわち、平面視とは、後述するように半導体基板またはSiC基板の上面が<0001>面と平行ではない場合を除き、<0001>面に対して垂直な方向から半導体装置を見ることを指す。<-1100>方向および<1-100>方向のそれぞれは、平面視において<11-20>方向に対し直交する方向である。<-1100>方向は、<1-100>方向に対し反対向きの方向である。
【0037】
本実施の形態の半導体チップ108は、<-1100>方向に成長する積層欠陥を含んでいる。つまり、半導体チップ108を構成する半導体基板は、半導体チップ108の内蔵ダイオードに電流が流れ、BPDにおいて電子および正孔が再結合することで、半導体基板内で積層欠陥が<-1100>方向に成長するものである。言い換えれば、半導体チップ108は、<-1100>方向に積層欠陥が成長する種類の基底面転位を含んでいる。すなわち、半導体チップ108は、<-1100>方向に成長する積層欠陥へと拡張する基底面転位を含んでいる。
【0038】
図4では、半導体装置100の拡大断面図を示しており、ここでは絶縁層103および導電体層102を示していない。
図4に示すように、接合部材109は、ドレイン配線パターン106上において、溝1の頂点(
図4の地点a)の上にも接合部材109が残存する場合がある。この場合、隣り合う溝1のそれぞれの内部の接合部材109同士は厳密には分断されていないが、地点aでは、地点bなどの接合部材109で埋まっている部分に比べて接合部材109の厚さが薄いのは明らかである。このように、部分的に接合部材109が薄くなることによっても半導体チップ108に発生する応力は低減されるため、後述する本実施の形態の効果を得ることができる。
【0039】
ここで、本願における「溝」の定義について説明する。半導体チップ108の上面に沿う方向(横方向)における半導体チップ108の端部(
図4に示す半導体チップ108の左端)を基準として、横方向の任意の位置であるx地点における接合部材109の厚さをT(x)とする。例えば、地点bにおける接合部材109の厚さはT(b)である。また、半導体チップ108の当該端部から反対側の端部までの間(
図4に示す半導体チップ108の左端から右端までの間)におけるT(x)の最大値をTmaxとし、最小値をTminとする。TmaxとTminとの間に差があるとき、T(x)がTminより大きい箇所は全て「溝」と定義する。溝1がドレイン配線パターン106の上面に掘られた凹部により構成されている場合であっても、溝1がドレイン配線パターン106の上面上に突出する複数の凸部同士の間の凹部により構成されていても、溝は前述のように定義される。
【0040】
溝の数量は、Tminの位置で分けて数えるものとする。例えば
図4に示す断面において、溝1の数は8である。本実施の形態では、
図1の破線A-Aと平面視で平行な位置における断面であれば、どの断面も溝1の形状は同じである。
【0041】
図4に示す半導体チップ108の横方向の幅、つまり平面視における半導体チップ108の対角線の長さは、例えば3~15mmである。また、
図4の断面に沿う方向の溝1の幅、つまり溝1の短手方向の幅は、例えば0.5mmである。また、溝1の深さは、50μm以下であり、例えば10μmである。これは、溝1の深さが50μmより大きい場合、半導体チップ108に生じる応力が過度に大きくなる虞があるためである。TmaxとTminとの差は、1μm以上である。これは、TmaxとTminとの差が1μm未満である場合、溝1を設けることによる応力の分断効果が過度に小さくなるためである。
【0042】
上記のようにドレイン配線パターン106の上面に溝を設けることによる本実施の形態の効果について、以下に具体的に説明する。
【0043】
<本実施の形態の効果>
改善の余地として上述したように、SiCを用いた半導体装置では、BPDの存在に起因して積層欠陥が拡張し、通電劣化現象が起こり得る。このような半導体装置の特性劣化は、半導体チップを構成する半導体基板の結晶方向に左右される。本実施の形態の半導体装置100では、
図1に示すように、図の右に向かう方向が<11-20>方向となるように、半導体チップ108がドレイン配線パターン106上に搭載されている。
【0044】
特性劣化の要因は、半導体チップ中に存在する基底面転位が積層欠陥へ成長(拡張)することにある。その成長方向は、平面視において、<-1100>方向(<11-20>方向から反時計周りに90°回転した方向、
図1における上方向)と、<1-100>方向(<11-20>から時計周りに90°回転した方向、
図1における下方向)との2種に主に分けられる。
【0045】
半導体チップ108をドレイン配線パターン106に接合する工程において、半導体チップ108と接合部材109との熱膨張率の差により、冷却プロセスにおいて半導体チップ108に応力が発生する。接合部材109の材料(接続材、接合材)としては、半田または銅などが挙げられるが、SiCの熱膨張率が低いために、接合材として用いられる材料の多くはSiCよりも熱膨張率が大きく、冷却プロセスにおいて半導体チップ側に加わる応力は圧縮応力となる。
図27に比較例として示すように、半導体チップ108の直下のドレイン配線パターン106の上面が平坦である場合、半導体チップ108に印加される圧縮応力は平面視における全方位となる。
【0046】
非特許文献1によれば、平面視において<11-20>方向から時計回りに135°および315°それぞれ回転した方向に圧縮応力が印加された場合、<-1100>方向に積層欠陥が成長する電流の閾値が下がり、積層欠陥の成長に起因する半導体装置の特性劣化が発生し易くなる。すなわち、圧縮応力が生じることで、小さな電流でも<-1100>方向に積層欠陥が成長するようになり、半導体装置の寿命が短くなる。
【0047】
これに対し、本実施の形態の半導体装置100は、
図5に示すように、半導体チップ108の直下のドレイン配線パターン106の上面に、平面視において<11-20>方向から時計回りに45°または225°回転した方向に延在する溝1が形成されている。すなわち、抑えるべき応力の方向に対して平面視で直交する方向に延在する溝1が形成されている。ここでいう抑えるべき応力の方向とは、平面視において、<11-20>方向から時計回りに135°回転した方向および<11-20>方向から時計回りに315°回転した方向を指す。
図5では、抑えるべき応力の方向を、ハッチングを付した矢印により示している。
【0048】
ドレイン配線パターン106は、半導体装置100から外部への配線引き出しのため平坦部106aと、半導体チップ108の搭載部である溝形成部106bとを備えている。平坦部106aは、ドレイン配線パターン106の上面が平坦な部分である。
図1および
図5において溝形成部106bに示す斜線はハッチングではなく、隣り合う溝1同士の境界を表す線である。
【0049】
基板上に半導体チップを接合する工程では、半導体チップおよび接合部材を加熱し、半導体チップを基板に接合した後に冷却を行う。この冷却時に半導体チップ108と接合部材109は、微細ながら収縮する。半導体チップ108と接合部材109とのそれぞれが他の部材に接合されておらず独立している場合には、半導体チップ108と接合部材109とのそれぞれの収縮時の縮み量は、それぞれの熱膨張率に応じた量となる。接合部材として用いられる材料の多くは半導体よりも熱膨張率が大きいため、接合部材109の方が縮み量が大きくなる。
【0050】
接合後の冷却時には、半導体チップ108の裏面と接合部材109の上面が接合されているため、半導体チップ108および接合部材109は、互いの熱膨張率の差の影響を受ける。このため、半導体チップ108および接合部材109の縮み量は、それぞれが単体で存在する場合の縮み量とは異なる大きさとなる。半導体チップ108は、熱膨張率が半導体チップ108より大きい接合部材109につられる形で、半導体チップ108が単体で存在する場合よりも大きく縮む。したがって、半導体チップ108が単体で存在する場合と比べた縮み量の差に応じ、半導体チップ108内に圧縮応力が発生する。同様に、接合部材109、ドレイン配線パターン106にもそれぞれの熱膨張率に応じた引張応力または圧縮応力が発生するが、これは半導体装置の特性劣化には直接関与しない。
【0051】
図6、
図7および
図27では、半導体チップ108に生じる応力の方向を、ハッチングを付した矢印により示している。
図27に示す比較例の半導体装置では、半導体チップ108の直下のドレイン配線パターン106の上面が平坦である。この場合、半導体チップ108の下面全域に亘って接合部材109が一定の厚さで連続的に形成されている。よって、冷却時の収縮は中央に向かっていくため、収縮による半導体チップ108の移動距離が大きくなり、その分だけ半導体チップ108内に大きな応力が発生する。
【0052】
一方、本実施の形態では、
図6に示すように、複数の溝1により接合部材109が分断されるため、半導体チップ108に対して加わる応力が分散される。したがって、分断された接合部材109の領域毎に応力が発生するため、半導体チップ108に発生する圧縮応力を小さくすることができる。言い換えれば、平面視において、<11-20>方向から時計回りに135°および315°それぞれ回転した方向の圧縮応力を低減することができるため、<-1100>方向に積層欠陥が成長することにより生じる特性劣化を抑えることができる。
【0053】
図7は、半導体装置の製造工程中の断面図である。ここでは、接合部材が半田などの比較的融点が低い金属から成る場合について説明する。
図7では、接合工程の図を上段、中断、下段の3つの図に分けて示している。接合工程では、まず、常温の環境においてドレイン配線パターン106上にシート状の接合部材109を配置し、接合部材109上に半導体チップ108を配置する(
図7上段参照)。シート状の接合部材109の厚さは、例えば60~130μmである。続いて、ドレイン配線パターン106、接合部材109および半導体チップ108を加熱すると、半導体チップ108およびドレイン配線パターン106はそれぞれの材料固有の熱膨張率に応じて微細ながら膨張し、接合部材109は溶融してドレイン配線パターン106の上面の溝1に入り込む(
図7中段参照)。ここで、溝1内の接合部材109の下に空隙が残った場合には半導体チップ108の放熱性能が低下し、半導体チップ108が破壊される虞がある。そのような放熱性能の低下を防ぐため、半導体チップ108上に重り501を設置し、接合部材109が溝1の深部まで行き渡るようにする。接合部材109が溶融し、一定時間が経過した後に冷却を行う(
図7下段参照)。急速な冷却は応力発生の原因となるため、自然冷却を行うことが望ましい。接合部材109の凝固後は、温度の低下に伴って各部材の微細な収縮および応力が発生するが、本実施の形態では、接合部材109がドレイン配線パターン106の溝1同士の間の凸パターンによって分断されるため、半導体チップ108に発生する応力を低減することができる。これにより、半導体装置の信頼性を高め、かつ、半導体装置の寿命を延ばすことができる。
【0054】
ここでは、接合部材の材料として半田を例に挙げたが、接合部材の材料としてその他の合金を用いてもよい。また、接合部材の材料として金属粉末を用い、金属粉末の焼結により結合を行ってもよい。また、接合工程は真空雰囲気によって行われることもあるが、本実施の形態の効果は、接合工程中の雰囲気によらず得ることができる。
【0055】
また、本実施の形態では、半導体チップ108内の抑えるべき応力の方向に対して平面視で直交する方向に延在する溝1を形成することについて説明した。しかし、溝1の延在方向が当該応力の方向に対して平面視で交差する方向であれば、当該応力を分散することが可能であり、本実施の形態の効果を得ることができる。ただし、溝1の延在方向が当該応力の方向に対して平面視で直交する場合に、最も効率的に応力の発生を抑えることができる。
【0056】
また、
図4を用いて説明したように、溝1同士の間の凸パターンによって接合部材109が完全に分断されなくても、部分的に接合部材109が薄くなることで半導体チップ108に発生する応力は低減されるため、本実施の形態の効果を得ることができる。
【0057】
本実施の形態でいう、平面視における<11-20>方向は、<11-20>面と、当該半導体基板の上面、当該SiC基板の上面または半導体チップ108の上面とが交わる線に沿う方向である。同様に、本実施の形態でいう、平面視における<-1100>方向および<1-100>方向は、<-1100>面または<1-100>面と、当該半導体基板の上面、当該SiC基板の上面または半導体チップ108の上面とが交わる線に沿う方向である。これらは、SiC基板の上面に対し、<11-20>面、<-1100>面および<1-100>面のうち少なくとも1つの面が直交せず斜めに位置している場合でも同様である。つまり、半導体チップ108を構成する半導体基板またはSiC基板の上面が<0001>面と平行ではなく、SiC基板の上面と<0001>面とが小さい角度で斜めの位置関係にあることが考えられる。つまり、SiC基板の上面に対し、<11-20>面、<-1100>面および<1-100>面のそれぞれが斜めに位置し得る。このような場合でも、上述のように溝1を形成することで、本実施の形態の効果を得ることができる。
【0058】
<変形例1>
図8および
図9に、本実施の形態の変形例1である半導体装置を示す。本変形例の半導体装置100は、半導体チップ108が、<1-100>方向に成長する積層欠陥を含む点が、
図1~
図7を用いて説明した半導体装置と異なる。また、本変形例の半導体装置100の溝2の延在方向は、
図1~
図7を用いて説明した半導体装置の溝1の延在方向と異なる。
【0059】
本変形例は、半導体チップ108に<1-100>方向に積層欠陥が成長する種類の基底面転位が含まれているという前提のもと、平面視で<11-20>方向から時計回りに45°および225°回転した方向の半導体チップ108内の圧縮応力を低減するものである。つまり、半導体チップ108は、<1-100>方向に成長する積層欠陥へと拡張する基底面転位を含んでいる。
【0060】
非特許文献1によれば、平面視において、<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向、または、<11-20>方向から時計回りに225°回転した方向に圧縮応力が印加された場合、<1-100>方向に積層欠陥が成長する電流の閾値が下がるため、積層欠陥が成長し易くなる。よって、積層欠陥が成長することに起因して、特性劣化が発生し易くなる。したがって、ここでは、<1-100>方向に積層欠陥が成長することで生じる特性劣化を抑えるため、平面視において、<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向、および、<11-20>方向から時計回りに225°回転した方向において生じる応力を低減する必要がある。
【0061】
そこで、本変形例では、半導体チップ108の直下のドレイン配線パターン106の上面に、平面視において、<11-20>方向から時計回りに135°回転した方向、つまり、<11-20>方向から時計回りに315°回転した方向に延在する溝2を形成している。つまり、複数の溝1は、平面視において、<1-100>方向から時計回りに45°回転した方向に延在している。すなわち、<11-20>方向、<-1100>方向および<1-100>方向のいずれもが、平面視において任意の1点から延びる方向であるとすると、複数の溝1は、平面視において、<11-20>方向から、<-1100>方向側ではなく<1-100>方向(半導体チップ108が含む積層欠陥の延びる方向)側に135°回転した方向に延在している。
【0062】
すなわち、抑えるべき応力の方向に対して平面視で直交する方向に延在する溝2を形成している。ここでいう抑えるべき応力の方向とは、平面視において、<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向、および、<11-20>方向から時計回りに225°回転した方向である。
【0063】
このように、<1-100>方向に成長する積層欠陥を含む半導体チップを備えた半導体装置においても、ドレイン配線パターン106の上面に形成する溝の向きを変更することで、
図1~
図7を用いて説明した半導体装置と同様の効果を得ることができる。
【0064】
<変形例2>
本変形例では、
図1~
図7を用いて説明した半導体装置を備えたパワーモジュールについて説明する。
図10はパワーモジュール700の平面図であり、
図11は
図10のC-C線における断面図である。パワーモジュール700は底部に放熱ベース701を有し,放熱ベース701上に放熱ベース用接合部材(放熱ベース用接続部材)702を介して半導体装置100が接合されている。放熱ベース用接合部材702の材料としては、半田などが挙げられる。ただし、放熱ベース701と半導体装置100の接合は、半導体装置100と半導体チップ108との接合工程よりも後に行われる工程であるため、放熱ベース用接合部材702の材料には、接合部材109よりも融点が低い材料を用いることが望ましい。
【0065】
ドレイン配線パターン106にはドレイン端子703が超音波接合などにより接続され、ソース配線パターン107にはソース端子704が超音波接合などにより電気的に接続されている。放熱ベース701上において、半導体装置100は外装ケース705により覆われている。ドレイン端子703およびソース端子704は、放熱ベース701および外装ケース705を含むパワーモジュール700の外部にが引き出されている。また、図示しないが、ゲート配線パターン104およびソースセンス配線パターン105からもパワーモジュール700の外部に端子が引き出されている。
【0066】
パワーモジュール700の底部の放熱ベース701には、外装ケース705が固定されており、外装ケース705の内部には、基板101を含む半導体装置100の全体を覆うようにシリコーンゲルなどの材料を用いた封止材706が充填されている。
【0067】
このように本変形例のパワーモジュールでは、半導体チップ内の応力を低減することにより、半導体装置の特性劣化を抑えることができる。したがって、半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0068】
<変形例3>
図1~
図7を用い、絶縁層103と配線パターンとを含む絶縁基板を用いることについて上述したが、導体(例えば金属層)のみから成る基板(例えば金属基板)の上面に溝を複数並べて形成し、それらの溝の上に半導体チップを接合してもよい。つまり、
図12および
図13に示すように、基板126は、ドレイン配線パターンとして用いられる金属基板である。
図12はパワーモジュール700の平面図であり、
図13は
図12のD-D線における断面図である。
【0069】
図12に示すように、基板124、126および127は、それぞれ、
図1に示すゲート配線パターン104、ドレイン配線パターン106およびソース配線パターン107と同様の役割を有しており、互いに横方向に離間して配置されている。基板126は、ドレイン配線パターン106(
図1参照)と同様に、その上面において、半導体装置100から外部への配線引き出しのため平坦部126aと、半導体チップ108の搭載部である溝形成部126bとを備えている。基板124、126および127は、例えば樹脂から成る絶縁層123上に配置されている。ここでは図示していないが、絶縁層123上には
図1に示すソースセンス配線パターン105に対応する金属基板が配置されていてもよい。
【0070】
<変形例4>
図1~
図7に示した半導体装置では、溝1の短手方向の幅が一定であったが、本変形例では、当該短手方向において、半導体チップ108の端部の下の溝1の幅が小さくなっている。すなわち、本変形例では、
図14のE-E線における断面(
図15参照)に示すように、横方向における半導体チップ108の端部の直下の溝1の幅は、半導体チップ108の中央部の直下の溝1の幅よりも小さい。本変形例で示す半導体チップ108は、
図1~
図7を用いて説明した半導体チップ108と同じく、<-1100>方向に積層欠陥が成長するものである。
【0071】
抑えるべき応力の方向(<11-20>方向から時計回りに135°回転した方向および<11-20>方向から時計回りに315°回転した方向)、つまり上記横方向において、半導体チップ108の中央部の直下の溝1の幅は、例えば最大で0.7mmであり、半導体チップ108の端部の直下の溝1の幅は、例えば最小で0.1mmである。
【0072】
半導体チップ108の下の溝1の数が多い程、半導体チップ108内の応力が分散されるが、溝1を過度に高密度化すると放熱効率が低下する虞がある。応力発生の原因は材料間の熱膨張率の差による冷却時の収縮量のずれにあるため、
図27に示すような比較例の半導体チップ108内の応力は、半導体チップ108の中央付近よりも端部の方が大きくなる。そこで本変形例では、
図14および
図15に示すように、半導体チップ108の端部の下において溝1の密度を高めることによって、応力を効果的に緩和し、均一化している。
【0073】
上記効果は、抑えるべき応力の方向における半導体チップ108の端部の直下において溝1を密に配置し、これに対して、抑えるべき応力の方向における半導体チップ108の中央部の直下において溝1を疎に配置することで得られる。つまり、溝1の短手方向において、半導体チップ108の端部の直下の溝1の幅は、半導体チップ108の中央部の直下の溝1の幅よりも小さい。
【0074】
ここで、半導体チップ108の中央部の直下から半導体チップ108の端部の直下に向かって、各溝1の幅は徐々に小さくなってもよい。つまり、溝の幅の種類は3以上であってもよい。これに対し、溝の幅の種類は、半導体チップ108の中央部の直下の溝1の幅と、半導体チップ108の端部の直下の溝1の幅との2種類のみであってもよい。
【0075】
(実施の形態2)
図16は本実施の形態2の半導体装置を示す平面図であり、
図17は
図16のF-F線における断面図である。本実施の形態で示す半導体チップ108は、
図1~
図7を用いて説明した半導体チップ108と同じく、<-1100>方向に積層欠陥が成長するものである。
【0076】
前記実施の形態1で半導体チップの下に形成した複数の溝同士の間の凸パターンは、溝に沿って並ぶ複数の突起状の凸部によって構成されていてもよい。つまり、本実施の形態では、
図16および
図17に示すように、平面視において、<11-20>方向から時計回りに45°または225°回転した方向、すなわち、抑えるべき応力の方向(<11-20>方向から時計回りに135°回転した方向および<11-20>方向から時計回りに315°回転した方向)に対して直交する方向に凸部3が並んでいる。凸部3の上端の位置は、凸部3と隣り合う溝(凹部)の下端の位置よりも高い。
【0077】
図16において、丸い形状で示されているものが凸部3である。凸部3の平面形状は島状の突起であり、1つ1つの凸部3の上面は、例えば平坦である。複数の凸部3のそれぞれの周囲には凹部が存在しているが、ここでは、当該凹部のうち、平面視において、<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向に並ぶ1列の凸部3と隣り合って当該方向(複数の凸部3が並ぶ方向)に延在する部分を溝と呼ぶ。つまり、当該方向に複数並ぶ凸部3から成る列と、当該方向に延在する溝とが交互に並んで配置されており、隣り合う溝同士は凹部により互いに接続されている。当該凹部も、当該方向に並ぶ凸部3同士の間に形成された溝とみなすことができる。すなわち、平面視において、<11-20>方向から時計回りに135°回転した方向において隣り合う凸部3同士の間には第1溝が形成されており、<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向において隣り合う凸部3同士の間には第2溝が形成されている。
【0078】
非特許文献1によれば、平面視において<11-20>方向から時計回りに135°および315°回転した方向に圧縮応力が印加された場合、<-1100>方向に積層欠陥が成長し、これにより、特性劣化が起こる電流閾値が下がり、これにより特性劣化が発生し易くなる。
【0079】
本実施の形態の半導体装置100では、
図18に示すように、半導体チップ108の直下のドレイン配線パターン106の上面に、平面視において、<11-20>方向から時計回りに45°および225°回転した方向に対して直交する方向に並ぶ凸部3が配置されている。すなわち、抑えるべき応力方向(平面視において<11-20>方向から時計回りに135°および315°回転した方向)に対して直交する方向に並ぶ凸部3が配置されている。
図18では、抑えるべき応力の方向を、ハッチングを付した矢印により示している。また、
図18では、溝形成部106bの上面に形成されている凸部3のうち、平面視で半導体チップ108と重ならない箇所の凸部3の図示を省略している。
図18および後の説明で用いる
図24および
図26では、図を分かり易くするため、半導体チップ108の上面の電極パッドの輪郭を破線で示している。
【0080】
つまり、平面視で<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向に並ぶ複数の凸部3は1つの列を構成しており、平面視で<11-20>方向から時計回りに135°回転した方向において、そのような列が複数並んで配置されている。平面視で<11-20>方向から時計回りに135°回転した方向で隣り合う列同士の間には、平面視で<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向に延在する溝(第1溝)が形成されている。
【0081】
図19に、
図18のG-G線における断面図を示す。前記実施の形態1と同様に、半導体チップ108の上面に沿う方向(横方向)における半導体チップ108の端部(
図19では左端)を基準として、横方向の任意の位置であるx地点における接合部材109の厚さをT(x)とする。前記実施の形態1と同様に、半導体チップ108の左端から右端までの間におけるT(x)の最大値をTmax、最小値をTminとし、TmaxとTminとの間に差があるとき、T(x)がTminより大きい箇所は全て「溝」と定義される。本実施の形態では、凸部3上におけるT(x)はTminとなり、凸部3がない部分のT(x)はTmaxとなる。このため、凸部3がない部分は全て溝である。
【0082】
ここで、
図19の手前から奥に向かう方向(
図19のG-G線に直交する方向)をy軸とする。y軸に対し垂直な断面であって、y軸のいずれかの箇所での断面における溝の横方向の幅の合計値をWy(y)とすると、
図19に示すG-G線の断面における溝の幅の合計値はWy(G)となる。
図19に示す断面では、1つの凸部3の左右に溝が1つずつ存在するため、Wy(G)=WGa+WGbとなる。
【0083】
図20に、
図18のH-H線における断面図を示す。
図18に示すように、平面視においてG-G線が凸部3の円形状の中心を通っているのに対し、H-H線は凸部3の円形状の外周寄りを通っている。このため、
図20に示す凸部3の幅は、
図19に示す凸部3の幅より小さい。
図20に示す断面において溝の幅の合計値をWy(H)とすると、Wy(H)=WHa+Whb+WHc+WHdとなる。
【0084】
図21は
図18のI-I線における断面図である。凸部3を通らない断面であるためTmax=Tminとなり、溝が存在しない。したがって、
図21に示す断面における溝の幅の合計値Wy(I)は、ゼロである。
【0085】
図19~
図21を用いて説明したように、平面視において<11-20>方向から時計回りに135°および315°回転した方向と平行な任意の断面において溝の幅の合計値Wyが計算できる。ここで、抑えるべき応力方向と平面視で直交する方向における半導体チップ108の対角線の長さをLyとし、半導体チップ108の対角の両端間、すなわちWy(0)からWy(Ly)までの積分値をWtotalYとすると、WtotalYは
図22に示す式1で表される。
【0086】
長さLyは、抑えるべき応力の方向に対し、平面視で直交する方向の半導体チップ108の長さである。つまり、長さLyは、平面視で<11-20>方向から時計回りに45°回転した方向の半導体チップ108の長さである。これは、
図23に示すように、半導体チップ108は、平面視において長方形である場合でも同様である。すなわち、長さLyは、抑えるべき応力方向、つまり、平面視で<11-20>方向から時計回りに135°または315°回転した方向と平行な断面であって、一部でも半導体チップ108を含む断面をすべて含む範囲の長さである。
図23には平面形状が長方形である半導体チップ108を示したが、平面形状が正方形および長方形以外である半導体チップについても、長さLyは同様に定義される。
【0087】
図24は、
図18と同じ半導体チップ108およびドレイン配線パターン106を示す平面図である。ただし、
図24では、平面視で<11-20>方向から時計回りに45°または225°回転した方向(y軸方向)に延びるK-K線およびJ-J線を示している。
図24では、抑えるべき応力の方向を、ハッチングを付した矢印により示している。また、
図24では、溝形成部106bの上面に形成されている凸部3のうち、平面視で半導体チップ108と重ならない箇所の凸部3の図示を省略している。
【0088】
図16~
図24を用いて説明する本実施の形態は、半導体チップ108に<-1100>方向に積層欠陥が成長する種類の基底面転位が含まれているという前提のもと、平面視で<11-20>方向から時計回りに135°および315°回転した方向の半導体チップ108内の圧縮応力を低減するものである。
図1~
図7を用いて説明した前記実施の形態1の半導体装置のように、溝および溝同士の間の境界部(凸パターン)が1方向に延在する場合、平面視で<11-20>方向から時計回りに45°または225°回転した方向の応力はあまり低減されない。これに対し、本実施の形態では、凸部3が当該方向において互いに離間して並ぶことにより、平面視で<11-20>方向から時計回りに45°および225°回転した方向の応力も低減される効果が得られる。
【0089】
ここで、
図24におけるx軸は、平面視において<11-20>方向から時計回りに315°回転した方向であり、y軸は、平面視において<11-20>方向から時計回りに225°回転した方向である。抑えるべき応力方向における半導体チップ108の対角線の長さをLxとし、半導体チップ108の対角の両端間、すなわちWx(0)からWx(Lx)までの積分値をWtotalXとすると、WtotalXは
図25に示す式2で表される。
【0090】
y軸に沿うJ-J線における断面(図示しない)では、溝が存在しないためWx(J)はゼロである。Wx(J)は、J-J線の断面における溝の幅の合計値である。x軸方向は凸部3の密度が低いため、x軸方向に直交する断面におけるWx(x)がゼロになる場合が多い。また、K-K線のように、凸部3を通る線における断面(図示しない)では、断面内で並ぶ凸部3の数が多いため、溝と定義される部分の合計の距離が少ない。このため、K-K線の断面における溝の幅の合計値であるWx(K)の値は、
図18のF-F線における断面での溝の幅の合計値であるWy(F)よりも小さな値となる。このため、
図18および
図24に示す半導体装置では、WtotalX<WtotalYの関係が成り立つ。
【0091】
このように、ここでは、半導体チップ108に<-1100>方向に積層欠陥が成長する種類の基底面転位が含まれている場合において、平面視で<11-20>方向から時計回りに315°回転した方向をx軸とし、平面視で<11-20>方向から時計回りに225°回転した方向をy軸とする。このとき、WtotalX<WtotalYの関係が成り立つようにドレイン配線パターン106を形成することによって、半導体装置の特性劣化を抑制することができる。つまり、y軸に沿う方向における積層欠陥の成長を抑制することができる。つまり、<-1100>方向に成長する積層欠陥の成長を抑えることができる。
【0092】
本実施の形態では、平面視で円形状を有する凸部3が配置されているが、凸部の形状に制限はなく、当該形状および配置が規則性を有している必要はない。また、WtotalXがゼロより大きい値であれば、半導体チップ108に含まれる積層欠陥のうち、<-1100>方向に成長する積層欠陥のみならず、<1-100>方向に成長する積層欠陥に対しても、成長を抑制する効果を得られる。つまり、y軸およびx軸のそれぞれの方向における積層欠陥の成長を抑制でき、特に、y軸に沿う方向における積層欠陥の成長を抑制することができる。よって、半導体装置の特性劣化を効果的に抑制することができる。
【0093】
<変形例>
図26は、本実施の形態の変形例である半導体装置を構成する半導体チップ108およびドレイン配線パターン106を示す平面図である。
図18と同様に、
図26では半導体チップ108を透過して、半導体チップ108の直下の凸部4を示している。
図26では、抑えるべき応力の方向を、ハッチングを付した矢印により示している。また、
図26では、溝形成部106bの上面に形成されている凸部4のうち、平面視で半導体チップ108と重ならない箇所の凸部4の図示を省略している。
【0094】
非特許文献1によれば、平面視で<11-20>方向から時計回りに45°または225°回転した方向に圧縮応力が印加された場合、<1-100>方向に積層欠陥が成長する電流閾値が下がり、特性劣化が発生し易くなる。本変形例は、半導体チップ108に<1-100>方向に積層欠陥が成長する種類の基底面転位が含まれているという前提のもと、平面視で<11-20>方向から時計回りに45°および225°回転した方向の半導体チップ108内の圧縮応力を低減するものである。
【0095】
x軸は平面視で<11-20>方向から時計回りに315°回転した方向、y軸は平面視で<11-20>方向から時計回りに225°回転した方向である。ここでは、凸部4の配置を
図18~
図25を用いて説明した半導体装置に比べて平面視で90°回転させている。このため、Wx(x)の積分値をWtotalX、Wy(y)の積分値をWtotalYとすると、WtotalX>WtotalYの関係が成り立つ。
【0096】
このように、ここでは、半導体チップ108に<-1100>方向に積層欠陥が成長する種類の基底面転位が含まれている場合において、平面視で<11-20>方向から時計回りに315°回転した方向をx軸とし、平面視で<11-20>方向から時計回りに225°回転した方向をy軸とする。このとき、WtotalX<WtotalYの関係が成り立つように基板101のドレイン配線パターン106を形成することにより、半導体装置の特性劣化を抑制することができる。つまり、<1-100>方向に成長する積層欠陥の成長を抑えることができる。また、
図18~
図25を用いて説明した半導体装置と同様に、WtotalYがゼロより大きい値であれば、半導体チップ108に含まれる積層欠陥のうち、<1-100>方向に成長する積層欠陥のみならず、<-1100>方向に成長する積層欠陥に対しても、成長を抑制する効果を得られる。
【0097】
以上、本発明者らによってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0098】
1、2 溝
3、4 凸部
100 半導体装置
101 基板
103 絶縁層
106 ドレイン配線パターン
108 半導体チップ
109 接合部材