(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】RNAの投与のための配合物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20220912BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220912BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220912BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20220912BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220912BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220912BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220912BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220912BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220912BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20220912BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220912BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K9/10
A61K9/14
A61K38/00
A61K39/00 G
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/44
A61K48/00
A61P37/04
C12N15/11 Z
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2019501687
(86)(22)【出願日】2017-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2017067887
(87)【国際公開番号】W WO2018011406
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-04-20
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/066930
(32)【優先日】2016-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520193437
【氏名又は名称】バイオンテック・エスイー
(73)【特許権者】
【識別番号】513288447
【氏名又は名称】トロン-トランスラショナル・オンコロジー・アン・デア・ウニヴェルシテーツメディツィン・デア・ヨハネス・グーテンベルク-ウニヴェルシテート・マインツ・ゲマインニューツィゲ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウグール・シャヒーン
(72)【発明者】
【氏名】ハインリッヒ・ハース
(72)【発明者】
【氏名】アネッテ・フォーゲル
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ツッカー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー・エルバー
(72)【発明者】
【氏名】ケルスティン・ロイター
(72)【発明者】
【氏名】アンネ・シュレーゲル
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン・ヘルナー
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン・クライター
(72)【発明者】
【氏名】ムスタファ・ディケン
(72)【発明者】
【氏名】ヨルゲ・モレノ・ヘレロ
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/097377(WO,A1)
【文献】特表2006-517793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N 15/11
C12N 15/12
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品として使用するための、
(a)一本鎖RNA、及び
(b)ポリエチレンイミン
を含む、組成物であって、
一本鎖RNA及びポリエチレンイミンが、ポリプレックス粒子中に存在し、
ポリエチレンイミン中の窒素原子(N)の数と、一本鎖RNA中のリン原子(P)の数とのモル比(N
/P比)が、2.0から15.0であり、
前記使用が、前記組成物の筋肉細胞又は筋肉組織への投
与を含む、組成物。
【請求項2】
前記使用が、筋肉組織への筋肉内注射を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
イオン強度が50mM以下で
ある、請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項4】
一価カチオン性イオンの濃度が25mM以下であり、二価カチオン性イオンの濃度が20μM以下である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ポリエチレンイミンが、以下の一般式(I):
【化1】
(式中、
Rは、Hであり、
nは、2であり、
pは、整数であり、ポリマーの平均分子量が1.5×10
2から10
7D
aである)
を含む、請求項1
から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ポリマーの平均分子量が、5000から10
5
Da、10000から40000Da、15000から30000Da、又は20000から25000Daである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
緩衝物質、糖、安定化剤、抗凍結剤、凍結乾燥保護剤、及びキレート剤からなる群から選択される1種又は複数の添加剤を含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
緩衝物質が、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、酢酸、酢酸緩衝
液、リン酸及びリン酸緩衝液、並びにクエン酸及びクエン酸緩衝液からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
糖が、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、及び多糖からなる群から選択され
る少なくとも1種を含む、請求項
7又は
8に記載の組成物。
【請求項10】
糖が、グルコース、トレハロース、及びサッカロースから選択される少なくとも1種を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
抗凍結剤が、グリコール
、及びグリセロー
ルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項
7から
10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
グリコールが、エチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
HEPES緩衝グルコース(HBG)、MES緩衝グルコース又はHEPES緩衝トレハロース(HBT)を含む、請求項1から
12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
粒子の動的光散乱測定により導出したz平均が、200nm未
満である、請求項1から
13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
粒子の動的光散乱測定により導出したz平均が、150nm未満、又は100nm未満であり、及び/又は前記粒子の動的光散乱測定により導出した多分散度指数が、0.5未満である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記粒子の動的光散乱測定により導出した多分散度指数が、0.3未満、又は0.2未満である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
HBGが、5%グルコース(w/v)及び10mM HEPES、pH7.1を含み、HBTが、10%トレハロース(w/v)及び10mM HEPES、pH7.1を含み、MES緩衝グルコースが、5%グルコース及び10mM MES、pH6.1を含む、請求項
13から16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
一本鎖RNAが、少なくとも1種の目的とするタンパク質をコードする、請求項1から
17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
一本鎖RNAが、レプリコ
ンであ
る、請求項1から
18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
一本鎖RNAが、自己複製又は自己増幅RNAである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
レプリコンが、アルファウイルス由来のレプリカーゼによって複製することができる、請求項19又は20に記載の組成物。
【請求項22】
レプリコンが、アルファウイルス由来の5'複製認識配列又はそのバリアント、及びアルファウイルス由来の3'複製認識配列又はそのバリアントを含む、請求項19から21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
一本鎖RNAが、目的とするペプチド又はタンパク
質をコードするオープンリーディングフレームを含む、請求項1から
22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
目的とするペプチド又はタンパク質が、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質である、請求項23に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非経口投与後、特に筋肉内投与後に、標的器官又は標的細胞にRNAを送達するための、ポリプレックス配合物を含む組成物に関する。より厳密には、本発明は、特に筋肉内注射による、RNA、例えば自己複製RNA等の投与のための配合物に関する。より詳細には、ポリプレックス粒子は、一本鎖RNA、好ましくは自己複製又は自己増幅RNAと、ポリアルキレンイミンとを含む。RNAは、目的とするタンパク質、例えば薬学的に活性なタンパク質等をコードしていてもよい。RNAは細胞によって取り込まれ、RNAは、好ましくは、その生理学的活性を呈し得るペプチド又はタンパク質へと翻訳される。本発明の組成物は、免疫応答を誘導又は強化するために適用可能である。本発明の組成物はまた、タンパク質等の抗原に関与する疾患の予防的及び/又は治療的処置においても有用である。更に、本発明は、RNA-ポリプレックス配合物を含む安定な組成物を生成するための方法であって、前記RNA-ポリプレックス配合物が、一本鎖RNA及びポリアルキレンイミンを含む、方法に関する。本明細書に記載されるRNA-ポリプレックス粒子配合物は、製品の品質を失うことなく、特にRNA活性を実質的に失うことなく、凍結及び解凍することができ、又は脱水及び再水和することができる。特に、本明細書に記載されるRNA-ポリプレックス粒子配合物は、液体貯蔵に関して製品の貯蔵寿命の延長を達成することを可能にする、凍結乾燥、噴霧乾燥、又は関連する方法によって、凍結又は脱水することができる。更に、本明細書に記載されるRNA-ポリプレックス粒子配合物は、医薬製品に関する要件、より具体的に言及すれば、GMP製造に関する要件及び非経口適用のための医薬製品の品質に関する要件に準拠し得る。本明細書に記載されるRNA-ポリプレックス配合物は、特に、例えば感染性疾患に対するヒト又は動物のワクチン接種にとって有用である。
【背景技術】
【0002】
予防及び治療上の目的のために、1種又は複数のポリペプチドをコードする外来核酸を導入することは、長年にわたって、生物医学研究の目標であった。従来技術のアプローチは、標的細胞又は有機体への核酸分子の送達という点に関しては共通しているものの、核酸分子及び/又は送達系の種類において異なっている。デオキシリボ核酸(DNA)分子の使用と関連する安全性への懸念による影響から、近年では、リボ核酸(RNA)分子に対する注目が増している。例えば非ウイルス性又はウイルス性の送達媒体中の、裸のRNAの形態、又は複合体化若しくはパッケージ化された形態での、一本鎖RNA又は二本鎖RNAの投与等を含めた、様々なアプローチが提案されている。ウイルス中及びウイルス性送達媒体中において、核酸は、典型的には、タンパク質及び/又は脂質によってカプセル封入されている(ウイルス粒子)。例えば、RNAウイルス由来の遺伝子操作RNAウイルス粒子が、植物の治療(国際公開第2000/053780(A2)号)又は哺乳動物のワクチン接種(Tubulekasら、1997年、Gene、第190巻、191~195頁)のための送達媒体として提案されている。安全性への懸念の観点から、医学界及び獣医学界は、ヒト又は動物に対するRNAウイルス粒子の投与には消極的である。遺伝子送達に基づく治療薬を開発するため、RNAに対して適用可能である非ウイルス性の送達媒体については、広範な調査が為されてきた。しかしながら、様々な理由から、非ウイルス性の遺伝子送達アプローチの臨床治療への移行は、非常に成功を遂げているとは言えない。関連付けられる理由としては、遺伝子発現のレベルが不十分であること、そのような複合体製品の医薬開発に関する技術的問題及び規制の問題、並びに安全性の理由がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2000/053780(A2)号
【文献】国際公開第2014/071963(A1)号
【文献】米国特許出願第12/671,312号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Tubulekasら、1997年、Gene、第190巻、191~195頁
【文献】「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」、H.G.W. Leuenberger、B. Nagel、及びH. Koelbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel、Switzerland、(1995年)
【文献】Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、J. Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、1989年
【文献】Koppel, D.、J. Chem. Phys.、第57巻、1972年、4814~4820頁
【文献】Joseら、Future Microbiol.、2009年、第4巻、837~856頁
【文献】Gouldら、2010年、Antiviral Res.、第87巻、111~124頁
【文献】Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁
【文献】Ruppら、2015年、J. Gen. Virology、第96巻、2483~2500頁
【文献】Shirako & Strauss、1994年、J. Virol.、第68巻、1874~1885頁
【文献】Kimら、2004年、Virology、第323巻、153~163頁
【文献】Vasiljevaら、2003年、J. Biol. Chem.、第278巻、41636~41645頁
【文献】Petterssonら、1980年、Eur. J. Biochem.、105、435~443頁
【文献】Rozanovら、1992年、J. Gen. Virology、第73巻、2129~2134頁
【文献】Rubachら、Virology、2009年、第384巻、201~208頁
【文献】Whiteら、1998年、J. Virol.、第72巻、4320~4326頁
【文献】Frolovら、2001年、RNA、第7巻、1638~1651頁
【文献】McKinneyら、1963年、Am. J. Trop. Med. Hyg.、1963年、第12巻、597~603頁
【文献】Hardy & Rice、J. Virol.、2005年、第79巻、4630~4639頁
【文献】Smith及びWaterman、1981年、Ads App. Math.、2、482頁
【文献】Neddleman及びWunsch、1970年、J. Mol. Biol.、48、443頁
【文献】Pearson及びLipman、1988年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85、2444頁
【文献】Current Protocols in Molecular Biology、F. M. Ausubelら編、John Wiley & Sons, Inc.、New York
【文献】Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.(A. R Gennaro編、1985年)
【文献】Demoulins, Thomasら、「Polyethylenimine-based polyplex delivery of self-replicating RNA vaccines.」、Nanomedicine: Nanotechnology, Biology and Medicine、(2015年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、患者及び動物において、ワクチン等の治療的価値を有するタンパク質をコードするRNAを安全で効率的に送達するための医薬製品に対するニーズが存在する。本明細書において記載される場合、本発明の態様及び実施形態は、このニーズに対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
免疫療法戦略は、例えば、感染性疾患及びがん疾患の予防及び療法のための有望な選択肢である。病原体関連抗原及び腫瘍関連抗原がますます特定されることによって、免疫療法にとって好適な標的の幅広い蓄積がもたらされた。本発明は、疾患の予防及び療法のための免疫療法治療にとって好適な抗原の効率的な発現にとって好適な、改善された薬剤及び方法を包括する。
【0007】
一態様において、本発明は、
(a)一本鎖RNA、及び
(b)ポリアルキレンイミン
を含む、医薬組成物
に関する。
【0008】
更なる態様において、本発明は、医薬品として使用するための、
(a)一本鎖RNA、及び
(b)ポリアルキレンイミン
を含む、組成物
に関する。
【0009】
本発明のすべての態様の一実施形態において、ポリアルキレンイミン中の窒素原子(N)の数と、一本鎖RNA中のリン原子(P)の数とのモル比(N:P比)は、1.0から30、好ましくは2.0から15.0、より好ましくは6.0から12.0である。
【0010】
更なる態様において、本発明は、
(a)一本鎖RNA、及び
(b)ポリアルキレンイミン
を含む組成物であって、
ポリアルキレンイミン中の窒素原子(N)の数と、一本鎖RNA中のリン原子(P)の数とのモル比(N:P比)が、1.0から30.0、好ましくは2.0から15.0、より好ましくは6.0から12.0である、組成物
に関する。
【0011】
本発明のすべての態様の一実施形態において、組成物のイオン強度は50mM以下であり、好ましくは、正に帯電した一価イオンの濃度は25mM以下であり、正に帯電した二価カチオン性遊離イオンの濃度は20μM以下である。
【0012】
更なる態様において、本発明は、
(a)一本鎖RNA、及び
(b)ポリアルキレンイミン
を含む組成物であって、
イオン強度が50mM以下である、組成物
に関する。
【0013】
一実施形態において、正に帯電した一価イオンの濃度は25mM以下であり、正に帯電した二価カチオン性イオンの濃度は20μM以下である。
【0014】
本発明のすべての態様の一実施形態において、組成物は、筋肉内注射等による筋肉内投与のためである。
【0015】
本発明のすべての態様の一実施形態において、一本鎖RNA及びポリアルキレンイミンは、ポリプレックス粒子中に存在する。
【0016】
本発明のすべての態様の一実施形態において、ポリアルキレンイミンは、以下の一般式(I):
【0017】
【0018】
(式中、
Rは、H、アシル基であるか、又は以下の一般式(II):
【0019】
【0020】
を含む基であり、
式中、R1は、Hであるか、又は以下の一般式(III):
【0021】
【0022】
を含む基であり、
n、m、及びlは、2から10の整数から独立して選択され、
p、q、及びrは、整数であり、ここでp、q、及びrの合計は、ポリマーの平均分子量が1.5×102から107Da、好ましくは5000から105Da、より好ましくは10000から40000Da、より好ましくは15000から30000Da、更により好ましくは20000から25000Daとなるような値である)
を含む。
【0023】
一実施形態において、n、m、及びlは、2、3、4、及び5から、好ましくは2及び3から独立して選択される。一実施形態において、R1はHである。一実施形態において、RはH又はアシル基である。
【0024】
本発明のすべての態様の一実施形態において、ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミン及び/又はポリプロピレンイミン、好ましくはポリエチレンイミンを含む。
【0025】
本発明のすべての態様の一実施形態において、ポリアルキレンイミン中のN原子の少なくとも92%は、プロトン化可能である。
【0026】
本発明のすべての態様の一実施形態において、本発明の組成物は、1種又は複数の添加剤を含む。一実施形態において、1種又は複数の添加剤は、緩衝物質、糖、安定化剤、抗凍結剤、凍結乾燥保護剤、及びキレート剤からなる群から選択される。本発明のすべての態様の一実施形態において、本発明の組成物は、1種又は複数のポリマーを含む。一実施形態において、緩衝物質は、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、酢酸緩衝系及び類似体、リン酸緩衝系、又はクエン酸緩衝系からなる群から選択される少なくとも1種を含む。本発明のすべての態様の一実施形態において、本発明の組成物は、4から8の間、好ましくは5から7.5の間のpH範囲に緩衝するための緩衝液を含む。そのような緩衝系の例は、酢酸緩衝液、又はHEPES緩衝液、又はリン酸緩衝液、又は酢酸緩衝液である。一実施形態において、糖は、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、及び多糖からなる群から選択される、好ましくは、グルコース、トレハロース、サッカロース、及びデキストランから選択される少なくとも1種を含む。一実施形態において、添加剤は、1kDaから100kDaの間の平均モル質量を有するデキストランである。一実施形態において、抗凍結剤は、グリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセロール等からなる群から選択される少なくとも1種を含む。一実施形態において、キレート剤はEDTAを含む。一実施形態において、脂質は、カチオン性脂質、中性脂質、及びアニオン性脂質からなる群から選択される少なくとも1種を含む。一実施形態において、本発明の組成物は、エチレンオキシド構成ブロック及びプロピレンオキシド構成ブロックを含む、1種又は複数のブロックコポリマーを含む。一実施形態において、本発明の組成物は、エチレンジアミン基を含むコポリマーを含む。一実施形態において、本発明の組成物は、好ましくはエチレンオキシド構成ブロック及びプロピレンオキシド構成ブロックを含み、任意選択でエチレンジアミン基もまた含む、両親媒性ブロックコポリマーを含む。
【0027】
本発明のすべての態様の一実施形態において、組成物は、HEPES緩衝グルコース(HBG又はHBG×1)、MES緩衝グルコース(MBG又はMBG×1)、又はHEPES緩衝トレハロース(HBT又はHBT×1)を含む。本発明のすべての態様の一実施形態において、組成物は、酢酸緩衝液中に、0.1mMから10mMの範囲の濃度で、グルコース、又はトレハロース、又はサッカロースを含む。本発明のすべての態様の一実施形態において、組成物は、リン酸緩衝液中に、0.1mMから10mMの範囲の濃度で、グルコース、又はトレハロース、又はサッカロースを含む。
【0028】
本発明のすべての態様の一実施形態において、粒子のz平均サイズは、200nm未満、好ましくは150nm未満、より好ましくは100nm未満である。一実施形態において、粒子のz平均サイズは、50nmから200nmの間である。本発明のすべての態様の一実施形態において、粒子のゼータ電位は、20mV以上、好ましくは25から40mVである。本発明のすべての態様の一実施形態において、粒子の電気泳動移動度(μ)は、1から1.6μm*cm/V*Sの間である。本発明のすべての態様の一実施形態において、粒子のz平均サイズ、及び/又はゼータ電位、及び/又は電気泳動移動度は、ポリプレックス粒子と、HEPES緩衝グルコース(HBG)又はHEPES緩衝トレハロース(HBT)とを含む懸濁液中で決定される。一実施形態において、HBGは、5%グルコース(w/v)及び10mM HEPES、pH7.1を含み、又はHBTは、10%トレハロース(w/v)及び10mM HEPES、pH7.1を含む。一実施形態において、粒子のz平均サイズは、動的光散乱法及びキュムラントアルゴリズムによるデータ分析によって決定される。一実施形態において、並進拡散係数が、動的光散乱法によって測定される。次いで、Z平均を計算するために、ストークス・アインシュタインの式を使用する。一実施形態において、電気泳動移動度は、レーザードップラー電気泳動法によって測定される。次いで、Z平均電位を計算するために、ヘンリーの式又はスモルコフスキーの式を使用する。
【0029】
本発明のすべての態様の一実施形態において、粒子は、好ましくは生理学的pHにおいて又は4.5から7.5の間のpHにおいて、中性であるか、又は正に帯電している。
【0030】
本発明のすべての態様の一実施形態において、一本鎖RNAは、6000から15000塩基、好ましくは9000から12000塩基の分子である。本発明のすべての態様の一実施形態において、一本鎖RNAは、少なくとも1種の目的とするタンパク質をコードする。本発明のすべての態様の一実施形態において、一本鎖RNAは、レプリコン、好ましくは自己複製又は自己増幅RNAである。一実施形態において、レプリコンは、アルファウイルス由来のレプリカーゼによって複製することができ、レプリコンは、好ましくは、アルファウイルス由来の5'複製認識配列又はそのバリアント、及びアルファウイルス由来の3'複製認識配列又はそのバリアントを含む。本発明のすべての態様の一実施形態において、一本鎖RNAは、目的とするペプチド又はタンパク質、例えば薬学的に活性なペプチド又はタンパク質等をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0031】
本発明のすべての態様の一実施形態において、本明細書に記載される組成物は、療法において使用するためのものである。本発明のすべての態様の一実施形態において、本明細書に記載される組成物は、ワクチン組成物である。
【0032】
更なる態様において、本発明は、細胞内にRNAを導入するため、特に、細胞においてRNAを発現させるための、本明細書に記載される組成物の使用に関する。一実施形態において、細胞は筋肉細胞である。
【0033】
更なる態様において、本発明は、RNAの筋肉内投与のための、本明細書に記載される組成物の使用に関する。
【0034】
更なる態様において、本発明は、本明細書に記載される組成物を筋肉内投与する工程を含む、RNAの筋肉内投与の方法に関する。
【0035】
更なる態様において、本発明は、
(a)一本鎖RNA、及び
(b)ポリアルキレンイミン
を含む、凍結、凍結乾燥、又は噴霧乾燥組成物であって、
抗凍結剤及び/又は凍結乾燥保護剤を含み、好ましくはトレハロース等の二糖又はデキストラン等の多糖を含む、組成物
に関する。
【0036】
一実施形態において、組成物は、EDTA等のキレート剤を更に含む。
【0037】
一実施形態において、組成物は、5~20%(w/v)の二糖、及び任意選択で20μMから10mM、例えば80μMから5mM等のキレート剤を含む水性組成物から調製される。一実施形態において、水性組成物は、トレハロース、HEPES、及びEDTA、例えば10%トレハロース(w/v)、2.8mM HEPES、80μM EDTA、pH7.1等を含む。
【0038】
更なる態様において、本発明は、本明細書に記載される凍結組成物を解凍することによって、又は本明細書に記載される凍結乾燥若しくは噴霧乾燥組成物を再構成することによって得ることができる、水性組成物に関する。
【0039】
更なる態様において、本発明は、凍結、凍結乾燥、又は噴霧乾燥組成物を調製する方法であって、
(i)一本鎖RNA、ポリアルキレンイミン、並びに抗凍結剤及び/又は凍結乾燥保護剤、好ましくはトレハロース等の二糖又はデキストラン等の多糖を含む水性組成物を調製する工程と、
(ii)組成物を凍結、凍結乾燥、又は噴霧乾燥する工程と
を含む、方法
に関する。
【0040】
一実施形態において、水性組成物は、EDTA等のキレート剤を更に含む。一実施形態において、水性組成物は、5~20%(w/v)の二糖、及び任意選択で20μMから10mM、例えば80μMから5mM等のキレート剤を含む。一実施形態において、水性組成物は、トレハロース、HEPES、及びEDTA、例えば10%トレハロース(w/v)、2.8mM HEPES、80μM EDTA、pH7.1等を含む。
【0041】
更なる態様において、本発明は、
(a)一本鎖RNA、及び
(b)ポリアルキレンイミン
を含む凍結、凍結乾燥、又は噴霧乾燥組成物を調製するための、抗凍結剤及び/又は凍結乾燥保護剤、好ましくはトレハロース等の二糖又はデキストラン等の多糖の使用
に関する。
【0042】
一実施形態において、二糖は、EDTA等のキレート剤と組み合わせて使用される。
【0043】
凍結、若しくは凍結乾燥、若しくは噴霧乾燥組成物、又は凍結、若しくは凍結乾燥、若しくは噴霧乾燥組成物を調製するための水性組成物は、以下のうちの1つ又は複数を含んでもよい:
(i)非水性溶媒、例えばエチレングリコール、グリセロール、ジメチルスルホキシド、及びジメチルホルムアミド等。
(ii)界面活性剤、例えばTween 80、Brij 35、Brij 30、Lubrol-px、Triton X-10;ポロキサマー、ポロキサミン、及びドデシル硫酸ナトリウムとしても公知である、Pluronic F127(ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー)。
(iii)二糖、例えばトレハロース、スクロース、ラクトース、及びマルトース等。
(iv)ポリマー(異なるMWを有してもよい)、例えばポリエチレングリコール、デキストラン、ポリ(ビニルアルコール)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、フィコール、及びアルブミン等。
(v)アミノ酸、例えばグリシン、プロリン、4-ヒドロキシプロリン、L-セリン、グルタメート、アラニン、リジン、サルコシン、及びガンマ-アミノ酪酸等。
【0044】
更なる態様において、本発明は、連続フローポンプと混合デバイスとを使用することによる、RNAポリプレックス配合物の連続フロー製造のための方法であって、2種の水性流体がmm又はμmサイズのチャネルによって混合される、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】A、HEK-293細胞におけるインビトロでの遊離の純粋なPEIの毒性を示す図である。IC
50=77μMの窒素(遊離)。B、HEK-293細胞におけるインビトロでのPEI/レプリコン-RNAポリプレックスの毒性。IC
50=542μMの窒素(ポリプレックス配合物)を示す図である。
【
図2】1週間の保管後の異なる保管条件による、N/Pが11.6のPEI/レプリコン-RNAポリプレックスとともにインキュベートした後の、C2C12筋肉細胞からの相対的なルミネセンスを示す図である。
【
図3】2週間の保管後の異なる保管条件における、N/Pが11.6のPEI/レプリコン-RNAポリプレックスの相対的なRNAの完全性を示す図である。
【
図4】ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)は、開始剤の存在下で、2-エチル-2-オキサゾリンを開環異性化重合することによって得られるを示す図である。
【
図5】PEOZの酸加水分解による、完全に脱アシル化された直鎖状PEI22、PEI87、及びPEI217の合成を示す図である。条件:(i)24%(質量/体積)HCl、110℃、96時間;50kDaのPEOZの場合、n=504、200kDaのPEOZの場合、2,018、及び500kDaのPEOZの場合、5,044。
【
図6】増加する塩濃度における、IVT(A)及びレプリコン(B)のポリプレックスの凝集動態を示す図である。
【
図7】濾過前(最初)及び濾過後(最後)のポリプレックスの生理化学的パラメーターを示す図である。A及びB。ポリプレックスの直径及び多分散度を、DLSによって測定した。C。RNAをヘパリンによってポリプレックスから放出し、260nmでのUV吸収によって測定した。D。PEI濃度を、CuSO
4アッセイによって測定した。
【
図8】高度に純粋なPEIと通常の純度のPEIとの化学構造の比較を示す図である。25kDaのPEIの場合、n=58。PEI 25kDにおける-CH2CH2NH-モノマーの平均数は581であり、これはまた、潜在的にプロトン化可能な窒素の隣接区間の長さでもある。通常のPEI25において、N-プロピオニル部分の分布が均一であると仮定すると、そのプロトン化可能な窒素の隣接区間は64でしかない。
【
図9】異なるN/P比で、異なる純度レベルのPEIを使用して調製した、レプリコン-RNAポリプレックスによるインビトロでのC2C12筋肉細胞のトランスフェクションを示す図である。
【
図10】1(-)及び11.6(+)のN/P比のレプリコン-RNAポリプレックスを、高度に純粋なPEI(jetPEI)及び通常の純度のPEI(25kDa)を用いて調製したことを示す図である。遊離RNAを対照として使用した。配合物は、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射した。マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【
図11】N/P比が7.7及び11.6のレプリコン-RNAポリプレックスを、高度に純粋なPEI、jetPEI(Polyplus社製)、PEI-Max 40000(Polyscience社製)、及びExgen 500(Eurodamex社製)を用いて調製したことを示す図である。すべての配合物を、HBG×1緩衝液において調製したが、凍結乾燥配合物に関してのみ、HBT×1緩衝液において調製した。配合物は、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射した。マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【
図12】異なる緩衝液を用いて調製した、N/Pが11.6のJetPEI/レプリコン-RNAポリプレックスの凍結乾燥ケーキを示す図である。
【
図13】C2C12筋肉細胞を、ルシフェラーゼをコードするIVT-RNAによって、インビトロでトランスフェクトしたことを示す図である。RNAは、HBG×1緩衝液における、異なるN/P比のJetPEIとの複合体であった。ルミネセンスシグナルを、トランスフェクションの24時間後に測定した。
【
図14】5.8及び11.6のN/P比のIVT-RNAポリプレックスを、純粋なPEIを用いて、HBG×1緩衝液において調製したことを示す図である。HBG×1緩衝液における遊離IVT-RNAを対照として使用した。配合物は、1回の注射当たり2~8μgのRNA用量で、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射した。注射の6時間後に、マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【
図15】N/P比が11.6の、レプリコン-RNA及びjetPEIのポリプレックスを、異なるRNA濃度で、HBG×1緩衝液において調製したことを示す図である。DLSによるサイズ測定のために、ポリプレックスを、RNA濃度が10mg/lになるまで希釈した。
【
図16】C2C12筋肉細胞を、
図16のポリプレックスによって、インビトロでトランスフェクトしたことを示す図である。ルミネセンスシグナルを、トランスフェクションの24時間後に測定した。
【
図17】
図16と同様に、N/P比が11.6のRep-RNAポリプレックスを、異なるRNA濃度で、HBG×1緩衝液において、純粋なPEIを用いて調製したことを示す図である。配合物は、1回の注射当たり2~8μgのRNA用量で、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射した。マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【
図18】ヒト樹状細胞(DC)及びマウス筋肉細胞(C2C12)における、PEI/レプリコン-RNAポリプレックスを用いたインビトロ研究を示す図である。A.毒性(ポリプレックスによる治療後の生存細胞の%として表される)、B.トランスフェクション(ポリプレックスによる治療後のルミネセンス発光として表される)。トランスフェクションの結果は、C2C12細胞に関してのみ示される。
【
図19】N/P比が11.6又は15.8のRep-RNAポリプレックスを、HBG×1又はHepes 10mM緩衝液において、Polyplus社又はPolytheragene社製のPEIを用いて調製したことを示す図である。マウスへの注射前に、ポリプレックスは、HBG×1又はOpti-MEM緩衝液で希釈した。配合物は、1回の注射当たり2μgのRNA用量で、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射した。マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【
図20】A)2μgの、非配合(緩衝溶液)又は配合後のレプリコン-ルシフェラーゼをコードするRNAを、Balb/cマウスの両方の後脛骨筋に筋肉内(i.m.)適用した4日後、7日後、及び11日後であり、これらの動物を、非侵襲的インビボバイオルミネセンス画像化に供したことを示す図である。ルシフェラーゼタンパク質由来の光子を1分間にわたって収集し、画像化されたマウスの写真と重ねて示す。B)注射部位における、測定した光子/秒(p/s)の図形表示。
【
図21】A)2μgの、非配合(緩衝溶液)又は配合後のレプリコン-ルシフェラーゼをコードするRNAを、Balb/cマウスの背部皮膚の2か所の注射部位に皮内(i.d.)適用した7日後であり、これらの動物を、非侵襲的インビボバイオルミネセンス画像化に供したことを示す図である。ルシフェラーゼタンパク質由来の光子を1分間にわたって収集し、画像化されたマウスの写真と重ねて示す。黒い矢印は、注射部位を示す。B)注射部位における、測定した光子/秒(p/s)の図形表示。
【
図22】レプリコン-RNA配合物のワクチンとしての有益な効果を示す図である。
【
図23】レプリコン-RNA配合物のワクチンとしての有益な効果を示す図である。
【
図24】10%(w:v)トレハロースにおいて、PEIを用いて配合したレプリコン-RNAの噴霧乾燥からの結果を示す図である。
【
図25】滅菌濾過前(調製後)及び滅菌濾過後(濾過後)の、異なるN/P比のPEI/レプリコン-RNAポリプレックスとともにインキュベートした後の、C2C12筋肉細胞からの正規化ルミネセンスを示す図である。
【
図26】実施例16による、インビトロトランスフェクション効率に対する、短鎖及び長鎖PEIの組み合わせの効果を示す図である。
図26A):ウェル当たり250ngのRNAでの、短鎖直鎖状PEI及び長鎖PEIポリプレックスのトランスフェクション有効性。
図26B):ウェル当たり250ngのRNAでの、短鎖分岐状PEI及び長鎖PEIポリプレックスのトランスフェクション有効性。ベンチマーク、in vivo Jet PEIと比較した場合、及び同一の総合的なNP比の場合、異なる時間枠において、より高い発現レベルが、短鎖PEI(
図26A:直鎖状、
図26B:分岐状)と長鎖PEI(例えば、in vivo jetPEI)との比較によって達成された。
【
図27】実施例17による、長鎖Jet PEI+短鎖PEIポリプレックス対ベンチマーク(すなわち、in vivo JetPEI NP12)のレプリコン-RNAトランスフェクション有効性:総合的NPが12である場合の、異なる組み合わせ(NP4+NP8又はNP1.15+NP11)の短鎖PEI(分岐状、1.8kDA)及び長鎖PEIを示す図である。
【
図28】実施例18による、インビボでのレプリコン(saRNA)-RNAトランスフェクション有効性に対する塩の変動(例えば、NaCl)の効果を示す図である。バイオルミネセンスシグナルを、3日目(
図28A)、6日目(
図28B)、9日目(
図28C)、及び13日目(
図28D)に検出した。シグナル強度を、
図28Eにおいて比較した。マウスの筋肉領域における最も強いシグナルは、PEI-レプリコン-RNAポリプレックス(例えば、長鎖PEI N/Pは12)と低濃度(5から10mM)の塩の添加とを受容したマウスにおける筋肉内注射の6日後に検出することができた。
【
図29】実施例18による、レプリコン(saRNA)-PEI配合物のトランスフェクション有効性に対する、pH調整の効果を示す図である。6.5から7.1の間のpH値を有するsaRNA-PEIポリプレックス配合物で、良好な結果が得られた。最も強いシグナルは、pH6.5に調整された、NP12配合物のsaRNA-長鎖PEIで検出することができた。ベンチマークとして、pH未調整(BM)又はHBG(20mM Hepes、pH7.4、5質量%グルコース)の、NP12のsaRNA-Jet PEIポリプレックスを使用した。
【
図30】実施例19による、異なるpH値に調整したin vivo jetPEI/レプリコン-RNAポリプレックス(N/P 4)の電気泳動移動度を示す図である。
【
図31】実施例19による、N/P比が4であり、pH値が異なる(pH6.5~pH8.5)場合の、異なる投与量のin vivo jetPEI/レプリコン-RNAポリプレックスとのインキュベーション後のC2C12筋肉細胞からの正規化ルミネセンスを示す図である。
【
図32】実施例20による、異なる量のPEI/PEI配合物中の過剰な正電荷によるトランスフェクション後のルシフェラーゼ発現を示す図である。
【
図33】実施例21による、2工程複合化を使用することによるポリプレックストランスフェクションの最適化を示す図である。
【
図34】実施例22による免疫化実験を示す図であって、HEPES緩衝グルコース(HBG)と比較して、MES緩衝グルコース(MBG)と配合したsaRNA-ポリプレックスの優れた効果が示される。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明については下で詳細に説明しているが、方法論、プロトコル、及び試薬は多様であり得るため、本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、及び試薬に限定されるものではないということが理解されるべきである。また、本明細書において使用される専門用語は、特定の実施形態について説明することを目的とするに過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。本発明の範囲については、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになる。別途定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。
【0047】
好ましくは、本明細書において使用される用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」、H.G.W. Leuenberger、B. Nagel、及びH. Koelbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel、Switzerland、(1995年)に記載されている通りに定義される。
【0048】
本発明の実践には、別途指示のない限り、当該技術分野の文献(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、J. Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、1989年を参照)において説明されている、化学、生化学、細胞生物学、免疫学、及び組換えDNA技法の従来の方法を用いることになる。
【0049】
以下、本発明の要素について説明する。これらの要素は、具体的な実施形態とともに列挙されるが、これらは、更なる実施形態を創出するために、任意の様式で、任意の数で組み合わせることができることが理解されるべきである。様々に記載される実施例及び好ましい実施形態は、明示的に記載される実施形態にのみ本発明を限定するように解釈されるべきでない。本明細書は、明示的に記載される実施形態を、任意の数の、開示される要素及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施形態を開示及び包括するように理解されるべきである。更に、文脈により別途示されない限り、本出願において記載されるすべての要素の任意の並び替え及び組み合わせが、本明細書によって開示されているものとみなされるべきである。
【0050】
「約」という用語は、およそ又はほぼを意味し、本明細書において示される数値又は範囲の文脈において、好ましくは、列挙又は主張される数値又は範囲の+/-10%を意味する。
【0051】
本発明について説明する文脈において(特に、特許請求の範囲の文脈において)使用される、「1つの(a)」、及び「1つの(an)」、及び「その(the)」という用語、並びに同様の言及は、本明細書において別途指示のない限り、又は文脈によって明確に否定されない限り、単数形及び複数形の両方を網羅するものと解釈されるべきである。本明細書の値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に入るそれぞれ別個の値に対して個別に言及する省略表現方法として働くことを意図するものである。本明細書において別途指示のない限り、各個別の値は、それがあたかも本明細書において個別に列挙されているかの如く、本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書において別途指示のない限り、又は文脈によって明確に否定されない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書において提供されるありとあらゆる例、又は例示的言語(例えば、「等」)の使用は、本発明をより良好に例示することを意図するものに過ぎず、別途主張される本発明の範囲に対する限定を提起するものではない。本明細書におけるいかなる言語も、本発明の実践にとって必須である、主張されていない任意の要素を示すものとして解釈されるべきでない。
【0052】
別途明示的に示されない限り、「含む」という用語は、本文書の文脈において、「含む」に先行するリストのメンバーに加えて、更なるメンバーが任意選択で存在してもよいことを示すように使用される。しかしながら、本発明の特定の実施形態としては、「含む」という用語が、いかなる更なるメンバーも存在しないという可能性を包括することが企図される。すなわち、この実施形態の場合には、「含む」が、「からなる」の意味を有するものと理解されるべきである。
【0053】
いくつかの文献が、本明細書の本文全体にわたって引用されている。本明細書において引用されている文献(すべての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、指示書等を含む)のそれぞれは、上記のものであれ、又は以下のものであれ、それら全体がここに参照により組み込まれる。本明細書におけるいかなる記載も、本発明がそのような開示に先行する権利がないことに対する承認として解釈されるべきでない。
【0054】
以下、本発明のすべての態様に適用される定義を示す。
【0055】
本明細書において使用される場合、「低減する」又は「阻害する」等の用語は、レベルにおける全体的な減少、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の全体的な減少を引き起こす能力を意味する。「阻害する」という用語又は類似する表現には、完全な阻害又は本質的に完全な阻害、すなわちゼロへの低減又は本質的にゼロへの低減が含まれる。
【0056】
「増加」する又は「強化する」等の用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、更により好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%の増加又は強化に関する。
【0057】
核酸配列に関する「フラグメント」は、核酸配列の一部、すなわち、5'末端及び/又は3'末端において短縮された核酸配列を表す配列に関する。好ましくは、核酸配列のフラグメントは、前記核酸配列に由来するヌクレオチド残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、又は99%を含む。本発明において、RNA安定性及び/又は翻訳効率を保持しているようなRNA分子のフラグメントが好ましい。
【0058】
アミノ酸配列(ペプチド又はタンパク質)に関する「フラグメント」は、アミノ酸配列の一部、すなわち、N末端及び/又はC末端において短縮されたアミノ酸配列を表す配列に関する。C末端において短縮されたフラグメント(N末端フラグメント)は、例えば、オープンリーディングフレームの3'末端を欠く、トランケートオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。N末端において短縮されたフラグメント(C末端フラグメント)は、例えば、トランケートオープンリーディングフレームが翻訳を開始するように働く開始コドンを含む限り、オープンリーディングフレームの5'末端を欠く、トランケートオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。アミノ酸配列のフラグメントは、例えば、アミノ酸配列に由来するアミノ酸残基の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含む。
【0059】
「イオン強度」という用語は、特定の溶液中の異なる種類のイオン種の数と、それらそれぞれの電荷との間の数学的関係性を指す。したがって、イオン強度Iは、以下の式によって数学的に表される。
【0060】
【0061】
式中、cは、特定のイオン種のモル濃度であり、zは、その電荷の絶対値である。合計Σは、溶液中のすべての異なる種類のイオン(i)に対して計算される。
【0062】
本明細書に記載される組成物のイオン強度は、50mM以下、好ましくは25mM以下、好ましくは20mM以下、19mM以下、18mM以下、17mM以下、16mM以下、15mM以下、10mM以下、又は5mM以下であることが好ましい。好ましくは、本明細書に記載される組成物のイオン強度は、ポリプレックス粒子の凝集を予防するように、十分に低い。
【0063】
本発明によれば、「イオン強度」という用語は、好ましくは、一価イオンの存在に関する。二価イオン、特に二価カチオンの存在に関する場合、キレート剤の存在に起因する、それらの濃度又は有効濃度(遊離イオンの存在)は、好ましくは、RNAの分解を予防するように、十分に低い。特に好ましい一実施形態において、二価イオンの濃度又は有効濃度は、RNAヌクレオチド間のホスホジエステル結合の加水分解にとっての触媒レベルより低い。特に好ましい一実施形態において、遊離二価イオンの濃度は20μM以下であり、好ましくは、遊離二価イオンは、まったく又は本質的にまったく存在しない。
【0064】
本明細書に記載される組成物のpHは、4から8の間であることが好ましく、より好ましくは5.5から8の間、例えば6から7.5の間、例えば6.5から7.1の間、6.5から7の間、又は6.5から6.9の間等である。
【0065】
「二糖」という用語は、グリコシド結合によって結合された2個の単糖残基で構成される炭水化物を指す。二糖の代表例としては、トレハロース、マルトース、スクロース、ラクトース、ラクツロース、セロビオース、イソマルトース、ゲンチビオース、ラミナリン二糖(ラミナラビオース)、キトビオース、キシロビオース(キシロビオース)、イヌリン二糖、及びマンノビオース糖が挙げられる。本明細書に記載される組成物中の二糖の好ましい含有量は、5~20%(w/v)、例えば5~15%(w/v)、7~15%(w/v)、又は8~12%(w/v)等である。本発明によれば、高いガラス転移温度を有する二糖が好ましい。
【0066】
「キレート剤」という用語は、金属イオン、好ましくは二価又は多価金属イオンとともにキレートを形成する化合物を意味する。キレート剤は、金属イオンとともに環構造を形成可能である複数の基、例えばOH、-COOHを有する。キレート剤の例は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トランス-1,2-ジアミノ-シクロヘキサン四酢酸一水和物、N-ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)クエン酸、及びリン酸キレート剤(例えば、Dequest 2000)である。本発明によれば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が好ましい。キレート剤は、本明細書に記載される組成物中に、少なくとも20μM、少なくとも40μM、少なくとも60μM、又は少なくとも80μMの濃度で存在することが好ましい。キレート剤は、本明細書に記載される組成物中に、最大で10mMまで、最大で5mMまで、最大で2mMまで、最大で1mMまで、最大で0.5mMまで、最大で0.2mMまで、又は最大で0.1mMまでの濃度で存在することが好ましい。
【0067】
「凍結する」という用語は、通常、熱の除去に伴う、液体の凝固に関する。
【0068】
「凍結乾燥する」又は「凍結乾燥」という用語は、ある物質を凍結させ、次いで周囲の圧力を低減して、物質中の凍結媒体を固相から気相へと直接昇華させることによる、物質の凍結乾燥を指す。
【0069】
「噴霧乾燥」という用語は、容器(噴霧乾燥器)内で、(加熱された)気体を霧化(噴霧)された流体と混合して、形成された液滴から溶媒を蒸発させ、乾燥粉末をもたらすことによる、物質の噴霧乾燥を指す。
【0070】
「抗凍結剤」という用語は、凍結段階の間に、活性成分を保護するために配合物に添加される物質を指す。
【0071】
「凍結乾燥保護剤」という用語は、乾燥段階の間に、活性成分を保護するために配合物に添加される物質を指す。
【0072】
「再構成する」という用語は、水等の溶媒を乾燥された製品に添加して、それを、液体状態、例えばその製品の元来の液体状態等に戻すことを指す。
【0073】
「自家」という用語は、同一の対象に由来するあらゆるものについて説明するために使用される。例えば、「自家細胞」は、同一の対象に由来する細胞を指す。自家細胞の対象への導入は、それらの細胞が、さもなければ拒絶をもたらす免疫学的障壁を乗り越えるため、有利である。
【0074】
「同種異系」という用語は、同種の異なる個体に由来するあらゆるものについて説明するために使用される。1か所又は複数の座位における遺伝子が同一でない場合、2つ以上の個体が、互いに対して同種異系であると言われる。
【0075】
「同系」という用語は、同一の遺伝子型を有する個体又は組織、すなわち、一卵性双生児若しくは近交系の動物、又はそれらの組織若しくは細胞に由来するあらゆるものについて説明するために使用される。
【0076】
「異種」という用語は、複数の異なる要素からなるものについて説明するために使用される。例としては、ある個体の細胞を異なる個体へ導入することは、異種移植を構成する。異種遺伝子とは、対象以外の起源(source)に由来する遺伝子である。
【0077】
本発明によれば、非保護RNAの不安定性に起因して、RNA分子を複合体の形態で提供することが有利である。特に、一部の実施形態において、本発明の組成物は、RNAとポリアルキレンイミンとを含む粒子を含む。
【0078】
本発明による系が粒子性配合物として配合される場合、それぞれのRNA種(例えば、レプリコン、レプリカーゼコンストラクト、及び任意選択の追加的なRNA種、例えばIFNの阻害にとって好適なタンパク質をコードするRNA等)を、別個に、個別の粒子性配合物として配合することが可能である。この場合、それぞれの個別の粒子性配合物は、1つのRNA種を含むことになる。個別の粒子性配合物は、別個の実体として、例えば別個の容器中に存在してもよい。そのような配合物は、それぞれのRNA種を別個に(典型的には、それぞれをRNA含有溶液の形態で)、粒子形成剤と一緒に提供し、それにより粒子を形成させることによって得ることができる。それぞれの粒子は、粒子が形成される際(個別の粒子性配合物)に提供されている、特定のRNA種を排他的に含有する。
【0079】
一実施形態において、本発明による組成物は、2種以上の個別の粒子配合物を含む。それぞれの組成物は、混合粒子性配合物と呼ばれる。本発明による混合粒子性配合物は、上記のような個別の粒子性配合物を別個に形成し、その後、これらの個別の粒子性配合物を混合する工程を経ることで得ることができる。混合工程により、RNA含有粒子の混合集団を含む配合物が得られる(例証のために、例えば、第1の集団の粒子はレプリコンを含有してもよく、第2の粒子の配合物は、レプリカーゼコンストラクトを含有してもよい)。個別の粒子性集団は、1つの容器内において一緒にされ、個別の粒子性配合物の混合集団を含んでもよい。
【0080】
或いは、組成物のすべてのRNA種(例えば、レプリコン、レプリカーゼコンストラクト、及び任意選択の追加的な種、例えばIFNの阻害にとって好適なタンパク質をコードするRNA等)を、複合粒子性配合物として一緒に配合することが可能である。そのような配合物は、すべてのRNA種の複合配合物(典型的には、複合溶液)を、粒子形成剤と一緒に提供し、それにより粒子を形成させることによって得ることができる。混合粒子性配合物とは異なり、複合粒子性配合物は、典型的には、2種以上のRNA種を含む粒子を含むことになる。複合粒子性組成物において、異なるRNA種が、典型的には、単一の粒子内に一緒に存在する。
【0081】
一実施形態において、本発明の粒子性配合物は、ナノ粒子性配合物である。この実施形態において、本発明による組成物は、ナノ粒子の形態でRNAを含む。
【0082】
一般的定義において、「ナノ粒子」という用語は、1nmから1000ナノメートル(nm)の間の直径を有する任意の粒子を指す。
【0083】
本発明の文脈において、「粒子」という用語は、分子又は分子複合体によって形成された構造化実体に関する。一実施形態において、「粒子」という用語は、ミクロ又はナノサイズ構造、例えばミクロ又はナノサイズのコンパクト構造等に関する。
【0084】
「In vivo-jetPEITM」、「in vivo jetPEITM」、「in vivo jetPEI」、「jetPEI」、「jet PEI」、及び「JetPEI」はすべて、Polyplus-Transfection SA社(Illkirch、France)製の、市販のIn vivo-jetPEITM試薬、カタログ番号201-50Gを指す。
【0085】
本明細書において使用される場合、「ポリプレックス」という用語は、静電相互作用を介して形成された、ポリマーとRNA等の核酸との複合体を指す。ポリプレックスがRNAを含む場合、それは「RNA複合体」又は「RNAポリプレックス」とも呼ばれる場合がある。
【0086】
本発明は、少なくとも1種の一本鎖RNAと、少なくとも1種のポリアルキレンイミンとから形成される、ポリプレックス粒子に関する。
【0087】
一実施形態において、本明細書に記載される粒子は、約200nm未満、好ましくは約150nm未満、より好ましくは約100nm未満の平均直径を有する。一実施形態において、本明細書に記載される粒子は、少なくとも約30nm、少なくとも約40nm、少なくとも約50nm、少なくとも約60nm、少なくとも約70nm、少なくとも約80nm、少なくとも約90nm、又は少なくとも約100nmの平均直径を有する。
【0088】
「平均直径」という用語は、いわゆるキュムラントアルゴリズムを使用するデータ分析を伴う動的光散乱法によって測定されるような、粒子の流体力学的直径の平均を指し、これにより、長さの次元を有する、いわゆるZaverage、及び無次元である多分散度指数(PI)が結果としてもたらされる(Koppel, D.、J. Chem. Phys.、第57巻、1972年、4814~4820頁、ISO 13321)。ここでは、粒子に関する「平均直径」、「直径」、又は「サイズ」は、このZaverageの値と同義的に使用される。
【0089】
「正味電荷」という用語は、正電荷及び負電荷等の電荷の総計に関する。例えば、粒子が正電荷よりも多い数の負電荷を含む場合、この粒子の正味電荷は負である。粒子が負電荷よりも多い数の正電荷を含む場合、この粒子の正味電荷は正である。粒子が等しい数の正電荷及び負電荷を含む場合、この粒子の正味電荷は中性であり、特に電気的中性である。したがって、本発明による粒子の正味電荷は、負であってもよく、正であってもよく、又は中性であってもよい。一実施形態において、粒子の正味電荷は正である。一実施形態において、粒子の正味電荷は負である。
【0090】
「帯電した」、「正味電荷」、「負に帯電した」、又は「正に帯電した」のような用語は、妥当なpH(例えば、7.1)で水性緩衝液中に溶解又は懸濁された場合の、所与の化合物又は粒子の電気的正味電荷を指す。
【0091】
本発明によれば、「N/P比」、「NP比」、「N:P比」、「N/P」、及び「NP」は、ポリエチレンイミン中の窒素原子(N)とRNA中のリン原子(P)とのモル比を指す。
【0092】
本発明によれば、ポリアルキレンイミン中の窒素原子(N)の数とRNA中のリン原子(P)の数とのモル比(N/P比)は、好ましくは2.0から15.0、好ましくは8.0から12.0、6.0から14.0、又は6.0から12.0である。
【0093】
本発明によれば、本明細書に記載される組成物は、2回以上の工程、例えば2回、3回、4回、又はそれ以上の工程等で最終的なN/P比に調整することが好ましい。例えば、組成物は、第1の工程で、例えば長鎖ポリアルキレンイミンを使用して、最終的なN/P比よりも低い第1のN/P比に調整されてもよい。更なるポリアルキレンイミン、例えば、短鎖ポリアルキレンイミン又は長鎖ポリアルキレンイミン、例えば第1の工程で使用した長鎖ポリアルキレンイミン等を添加することによって、N/P比を、最終的なN/P比へと調整してもよい。一実施形態において、最終的なN/P比は、8から16の間、例えば9から14の間、例えば10から12の間等である。一実施形態において、第1の工程でもたらされるN/P比は、1から6の間、例えば2から5の間、例えば3又は4等である。
【0094】
ポリアルキレンイミン
本明細書において使用される場合、ポリアルキレンイミンは、好ましくは、以下の一般式(I):
【0095】
【0096】
(式中、
Rは、H、アシル基であるか、又は以下の一般式(II):
【0097】
【0098】
を含む基であり、
式中、R1は、Hであるか、又は以下の一般式(III):
【0099】
【0100】
を含む基であり、
n、m、及びlは、2から10の整数から独立して選択され、
p、q、及びrは、整数であり、ここでp、q、及びrの合計は、ポリマーの平均分子量が1.5×102から107Da、好ましくは5000から105Da、より好ましくは10000から40000Da、より好ましくは15000から30000Da、更により好ましくは20000から25000Daとなるような値である)
を含む。
【0101】
一実施形態において、n、m、及びlは、2、3、4、及び5から、好ましくは2及び3から独立して選択され、より好ましくは2である。一実施形態において、R1はHである。一実施形態において、RはH又はアシル基である。
【0102】
一実施形態において、ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミン及び/又はポリプロピレンイミン、好ましくはポリエチレンイミンを含む。好ましいポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミン(PEI)である。PEIの平均分子量は、好ましくは1.5×102から107Da、好ましくは5000から105Da、より好ましくは10000から40000Da、より好ましくは15000から30000Da、更により好ましくは20000から25000Daである。
【0103】
本発明によれば、直鎖状ポリアルキレンイミン、例えば直鎖状ポリエチレンイミン(PEI)等が好ましい。一実施形態において、直鎖状PEIは、2-エチル-2-オキサゾリンを開環異性化重合してポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(PEOX、N-プロピオニル-PEI)を得て、次いでこれを酸加水分解して、N-プロピオニル基を切り落としてPEIを生成することによって得られる。
【0104】
本発明によれば、直鎖状PEIを、PEOXの完全な又は本質的に完全な脱アシル化によって得ることが好ましい。例えば、50kDaの分子量を有するPEOXからは、22kDaの分子量を有する直鎖状PEIが得られる。ポリエチレンイミン等のポリアルキレンイミン中の窒素原子の置換基のうちの少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は本質的に100%が、水素である(すなわち、上式中のRがHである)ことが好ましい。したがって、ポリエチレンイミン等のポリアルキレンイミン中の窒素原子の少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は本質的に100%が、プロトン化可能であることが好ましい。
【0105】
本発明によれば、好ましいポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミン(PEI)、特に直鎖状ポリエチレンイミンである。そのような直鎖状ポリエチレンイミンは、好ましくは、15kDaから30kDaの間のモル質量を有し、好ましくは、自己複製又は自己増幅RNAと組み合わせて使用され、N/P比は、好ましくは、6から15の間であり、直鎖状ポリエチレンイミン及び自己複製又は自己増幅RNAは、好ましくは、200nm未満、好ましくは150nm未満、更により好ましくは100nm未満のサイズを有するポリプレックス粒子中に存在する。
【0106】
本発明の一実施形態において、ポリアルキレンイミンは、短鎖ポリアルキレンイミン、例えば0.6から11kDaの間、好ましくは1から6kDaの間又は1から4kDaの間、例えば1から3kDaの間等の短鎖ポリエチレンイミン(直鎖状及び/又は分岐状)等と、長鎖ポリアルキレンイミン、例えば20から40kDaの間の長鎖ポリエチレンイミン(直鎖状及び/又は分岐状)等との組み合わせであり、総合的なN/P比は、好ましくは、8から16の間、例えば9から14の間、例えば10から12の間等である。一実施形態において、長鎖ポリアルキレンイミンとRNAとの間でのN/P比は、1から6の間、例えば2から5の間、例えば3又は4等である。
【0107】
ポリエチレンイミン(PEI)は、高いカチオン性電荷密度を有する、有機高分子である。PEIは、核酸を、細胞表面におけるアニオン性プロテオグリカンとの相互作用が可能であり、エンドサイトーシスによる粒子の流入を促進することができる正に帯電した粒子へと圧縮することができる。
【0108】
PEIに関しては、いくつかの製造方法が存在する。本発明によれば、直鎖状ポリエチレンイミンは、好ましくは、99%を上回る純度の、所定量のモノマー、2-エチル-2-オキサゾリンから、前記量のモノマーを十分に乾燥させる工程と、前記量のモノマーを重合させて、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(PEOX)を以下のようにして得る工程とを含む方法によって合成及び調製される。
【0109】
- 所定量のアセトニトリルを十分に乾燥させた後、前記アセトニトリルを、前記量の乾燥モノマーにおいて溶媒として使用する一方で、既定量の十分に乾燥された重合反応の開始剤を添加し、それらを一緒に混合する工程、
- 得られた前記PEOXを蒸発によって精製して、前記溶媒を除去する一方で、メタノール及びジエチルエーテル、並びに対応する濾過を用いて、少なくとも3回の連続的な洗浄/沈殿工程を実施する工程、
(乾燥、重合、及び精製の前記操作は、(i)1H NMR試験を実施することによる、前記PEOXポリマーの正確な特定、1.0%未満のレベルに至るモノマーの不在の確認及び5.0%未満のレベルに至る溶媒の不在の確認、並びに(ii)ゲル浸透クロマトグラフィーを実施することによる、前記PEOXの、23,000Daを超える分子量(Mw)の平均及び1.5未満の多分散度が得られるように手配される)
- 塩酸を用いて前記PEOXを加水分解して、1H-NMR試験を実施することによる、5%未満の量の残留側鎖又はプロピオン酸を有する前記PEIを十分に効率的に得て、このPEIが単一ピークであることを特定する工程。
【0110】
特定量のモノマー、アセトニトリル、又は開始剤を十分に乾燥させることとは、使用の直前に、10ppmの水より低い湿度の低減を得ることであるということが理解されるべきであり、これは、水素化カルシウム上での48時間の乾燥及びそれに次ぐ蒸留、並びに129℃より高い温度でのモノマーの収集によって得ることができる。
【0111】
本発明によれば、以下の特色のうちの1つ又は複数が好ましい:
(i)PEOXの分子量(Mw)の平均が、例えば、40,000Da<Mw<60,000Da等であること、
(ii)モノマー/開始剤の比が、約500であること(約とは、±5%であることが理解されるべきである)、
(iii)モノマー/開始剤の比が、480であること、
(iv)モノマーが、99.95%を上回る純度であること、
(v)開始剤が、モノマーに添加する前に、アセトニトリルと混合されること、
(vi)重合が、85℃を上回る温度で、20時間を超える期間実施されること、
(vii)重合温度が、105℃以上であること、
(viii)最初の濾過の後、残留物をMeOH等の溶媒を十分に用いて洗浄し、ジエチルエーテルを添加した後、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)が溶液から油として自然と分離し、溶媒全体をデカントし、前記洗浄及び分離を少なくとも4回繰り返した後、真空中で乾燥させること、
(ix)加水分解工程が、1H-NMR分光法によって反応過程を監視しながら、反応混合物から、定期的且つ少なくとも1日間の共沸蒸留によって得られる、排出されるプロピオン酸を除去することを含むこと、
(x)反応過程の最後に得られた残留物を水で希釈し、少なくとも3回蒸発させることで微量のプロピオン酸を除去し、その後、残留物を再度水中に溶解させ、凍結乾燥の前に濾過すること、
(xi)濾過が、0.20μmから0.25μmの間のメッシュ直径を有する滅菌メンブレン、特に滅菌酢酸セルロース(cellular acetate)メンブレンによって行われること。
【0112】
有利なことには、本発明による使用のための直鎖状PEIは、中間体PEOXが例えば40,000<Mw<60,000Da等の分子量Mwを有する点を特徴とする。
【0113】
重合度は、モノマー/開始剤の比及び合成の収率によって制御される。分子量の決定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって実施することができる。
【0114】
本発明によれば、「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、及びロックド核酸(LNA)を含む。本発明によれば、核酸は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、ウイルスRNA、組換えで調製された分子、及び化学合成された分子を含む。本発明によれば、核酸は、一本鎖の形態であってもよく、又は二本鎖の形態であってもよく、直鎖状の分子であってもよく、又は共有結合的に閉じた環状分子であってもよい。また、本発明によれば、「核酸」という用語は、ヌクレオチド塩基、糖、又はホスフェートにおいて化学的に誘導体化された核酸、並びに非天然ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体を含有する核酸も含む。記載される核酸は、単離核酸及び/又は組換え核酸であってもよい。
【0115】
本明細書において使用される場合、「単離」という用語は、他の細胞物質等の他の分子を実質的に含まない分子を指すことを意図するものである。本発明によれば、「単離核酸」という用語は、核酸が、(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってインビトロで増幅されているか、(ii)クローニングによって組換え産生されているか、(iii)例えば切断及びゲル電気泳動分画によって精製されているか、又は(iv)例えば化学合成によって合成されていることを意味する。単離核酸は、組換え技法による操作に利用可能な核酸である。
【0116】
本発明の文脈において、「組換え」という用語は、「遺伝子操作によって作製された」ことを意味する。好ましくは、本発明の文脈において、「組換え物」は天然に存在しない。
【0117】
本明細書において使用される場合、「天然に存在する」という用語は、ある物を自然において見つけることができるという事実を指す。例えば、有機体(ウイルスを含む)中に存在し、自然源から単離することができ、実験室において人による意図的な改変を受けていないペプチド又は核酸は、天然に存在する。「自然において見出される」という用語は、「自然において存在する」ことを意味し、公知の物、並びに未だ自然から発見及び/又は単離されてはいないが、将来的に天然源から発見及び/又は単離される可能性がある物も含む。
【0118】
本発明によれば、「核酸配列」は、核酸、例えばリボ核酸(RNA)又はデオキシリボ核酸(DNA)中のヌクレオチドの配列を指す。この用語は、核酸分子全体(例えば、核酸分子全体の一本鎖等)を指してもよく、又はその一部(例えば、フラグメント)を指してもよい。
【0119】
本発明によれば、「核酸の3'末端」は、遊離ヒドロキシ基を有する方の末端を指す。二本鎖核酸、特にDNAの図式的表示において、3'末端は常に右側にある。本発明によれば、「核酸の5'末端」は、遊離ホスフェート基を有する方の末端を指す。二本鎖核酸、特にDNAの図式的表示において、5'末端は常に左側にある。
5'末端 5'--P-NNNNNNN-OH-3' 3'末端
3'-HO-NNNNNNN-P--5'
【0120】
「上流」とは、核酸分子の第1の要素及び第2の要素の両方が同一の核酸分子内に含まれ、第1の要素が、核酸分子の第2の要素よりも、核酸分子の5'末端により近く位置する場合の、核酸分子の第1の要素の、当該核酸分子の第2の要素に対する相対的位置について説明するものである。そして、第2の要素は、当該核酸分子の第1の要素の「下流」にあると言われる。第2の要素の「上流」に位置する要素は、同義的に、第2の要素の「5'」側に位置すると呼ぶことができる。二本鎖核酸分子に関しては、「上流」及び「下流」といった指標は、(+)鎖に関して与えられる。
【0121】
本発明によれば、「遺伝子」という用語は、1種若しくは複数の細胞産物の産生、及び/又は1つ若しくは複数の細胞間若しくは細胞内機能の達成を担う、特定の核酸配列を指す。より具体的には、前記用語は、特異的タンパク質、又は機能若しくは構造RNA分子をコードする核酸を含む核酸セクション(DNA又はRNA)に関する。
【0122】
「ベクター」という用語は、ここでは、その最も一般的な意味で使用され、例えば、核酸を原核及び/又は真核宿主細胞内に導入し、適切な場合、ゲノムへと一体化することを可能にする、前記核酸のための任意の媒介手段を含む。そのようなベクターは、好ましくは、細胞内で複製及び/又は発現される。ベクターは、プラスミド、ファージミド、ウイルスゲノム、及びそれらの断片を含む。
【0123】
本発明の文脈において、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは、全体的に又は実質的にリボヌクレオチド残基で構成されている分子に関し、本明細書に記載されるすべてのRNA型を含む。「リボヌクレオチド」という用語は、β-D-リボフラノシル基の2'位においてヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、単離RNA、例えば部分的に又は完全に精製されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、並びに1つ又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換、及び/又は変更によって天然に存在するRNAとは異なる改変RNA等の、組換えで生成されたRNAを含む。そのような変更としては、例えばRNAの末端、又は内部、例えばRNAの1つ若しくは複数のヌクレオチドにおける、非ヌクレオチド物質の付加を挙げることができる。また、RNA分子内のヌクレオチドは、非標準的ヌクレオチド、例えば天然に存在しないヌクレオチド、又は化学合成されたヌクレオチド若しくはデオキシヌクレオチドを含んでもよい。これらの変更されたRNAは、類似体、特に天然に存在するRNAの類似体と呼ばれる場合がある。本発明によって使用されるRNAは、公知の組成を有してもよく、又はRNAの組成は、部分的若しくは完全に未知であってもよい。
【0124】
RNAの「安定性」という用語は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」は、分子の活性、量、又は数の半分を排除するのに必要とされる期間に関する。本発明の文脈において、RNAの半減期は、前記RNAの安定性を示す。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続期間」に影響を与える場合がある。長い半減期を有するRNAは、長期間にわたって発現されるであろうことが予期され得る。
【0125】
「翻訳効率」という用語は、特定の期間内に、RNA分子によってもたらされる翻訳産物の量に関する。
【0126】
本発明によれば、「二本鎖RNA」又は「dsRNA」は、2本の部分的又は完全に相補的な鎖を有するRNAを意味する。
【0127】
本発明によれば、RNAは、好ましくは一本鎖RNA(ssRNA)である。「一本鎖RNA」という用語は、概して、相補的核酸分子(典型的には、相補的RNA分子)が結合していないRNA分子を指す。一本鎖RNAは、RNAの一部が折り返され、限定されるものではないが、塩基対、ステム、ステムループ、及びバルジ等の二次構造モチーフを形成し得る、自己相補的配列を含有し得る。一本鎖RNAは、マイナス鎖[(-)鎖]又はプラス鎖[(+)鎖]として存在し得る。(+)鎖は、遺伝情報を含むか、又はそれをコードする鎖である。遺伝情報は、例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であってもよい。(+)鎖RNAがタンパク質をコードする場合、(+)鎖は、翻訳のための鋳型として直接働き得る(タンパク質合成)。(-)鎖は、(+)鎖の相補体である。二本鎖RNAの場合、(+)鎖及び(-)鎖は、2つの別個のRNA分子であり、これらのRNA分子の両方が互いと結合して、二本鎖RNA(「二重鎖RNA」)を形成する。
【0128】
本発明による特に好ましい一本鎖RNAは、mRNA及びレプリコン-RNA、例えば自己複製RNA等である。本発明によれば、RNAは、コード化RNA、すなわちペプチド又はタンパク質をコードするRNAであってもよい。好ましくは、RNAは、薬学的に活性なRNAである。
【0129】
「薬学的に活性なRNA」とは、薬学的に活性なペプチド若しくはタンパク質、例えば抗原等をコードするRNA、又は免疫学的に活性な化合物(抗原をコードしていない)であるか、或いはそれ自体が薬学的に活性であり、例えば、薬学的に活性なタンパク質に関して記載されている活性等の、1つ又は複数の薬学的活性を有する。
【0130】
本発明によれば、「ペプチド又はタンパク質をコードするRNA」という用語は、RNAが、適切な環境下、好ましくは細胞内に存在する場合、翻訳中にペプチド又はタンパク質を産生するようにアミノ酸の集合体を仕向けることことを意味する。好ましくは、本発明によるコード化RNAは、コード化RNAを翻訳して、ペプチド又はタンパク質を生成させる細胞翻訳機構と相互作用することができる。
【0131】
本発明によれば、「mRNA」という用語は、「メッセンジャー-RNA」を意味し、典型的にはDNA鋳型を使用することによって生成され、ペプチド又はタンパク質をコードする転写産物に関する。典型的には、mRNAは、5'-UTR、タンパク質コード領域、3'-UTR、及びポリ(A)配列を含む。mRNAは、DNA鋳型からのインビトロ転写によって生成される。インビトロ転写方法は、当業者に公知である。例えば、様々なインビトロ転写キットが市販されている。本発明によれば、mRNAは、修飾を安定化すること及びキャッピングによって改変することができる。
【0132】
「非翻訳領域」又は「UTR」という用語は、転写されるが、アミノ酸配列へと翻訳されることはないDNA分子中のある領域、又はRNA分子、例えばmRNA分子中の対応する領域に関する。非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレームの5'(上流)(5'-UTR)及び/又はオープンリーディングフレームの3'(下流)(3'-UTR)に存在してもよい。
【0133】
存在する場合、3'-UTRは、遺伝子の3'末端、タンパク質コード領域の終結コドンの下流に位置するが、「3'-UTR」という用語は、好ましくは、ポリ(A)テールを含まない。したがって、3'-UTRは、ポリ(A)テールの上流にあり、例えばポリ(A)テールに直接隣接している(存在する場合)。存在する場合、5'-UTRは、遺伝子の5'末端、タンパク質コード領域の開始コドンの上流に位置する。5'-UTRは、5'-キャップの下流にあり、例えば5'-キャップに直接隣接している(存在する場合)。本発明によれば、5'-及び/又は3'-非翻訳領域は、これらの領域が、オープンリーディングフレームを含むRNAの安定性及び/又は翻訳効率が増加するような方法で前記オープンリーディングフレームと結合するように、オープンリーディングフレームと機能的に連結していてもよい。
【0134】
本発明によれば、「ポリ(A)配列」又は「ポリ(A)テール」という用語は、典型的にはRNA分子の3'末端に位置する、アデニレート残基の連続的又は断続的配列を指す。連続的配列は、連続したアデニレート残基によって特徴付けられる。自然においては、連続的なポリ(A)配列が典型的である。ポリ(A)配列は通常、真核生物のDNAにはコードされていないが、細胞核における真核生物転写中に、転写後の鋳型独立的なRNAポリメラーゼによってRNAの遊離3'末端に対して結合し、本発明は、DNAによってコードされるポリ(A)配列を包括する。
【0135】
「5'-キャップ」、「キャップ」、「5'-キャップ構造」、又は「キャップ構造」等の用語は、同義的に使用されて、メッセンジャーRNA前駆体等の、一部の真核生物の一次転写産物の5'末端において見出されるジヌクレオチドを指す。5'-キャップは、(任意選択で修飾された)グアノシンが、5'対5'トリホスフェート結合(又はある特定のキャップ類似体の場合には、改変されたトリホスフェート結合)を介してmRNA分子の第1のヌクレオチドに結合している構造である。これらの用語は、従来のキャップ又はキャップ類似体を指す場合もある。
【0136】
本発明によるRNA分子は、5'-キャップ、5'-UTR、3'-UTR、ポリ(A)配列、及び/又はコドン使用頻度の適合によって特徴付けることができる。
【0137】
本発明による使用のためのRNA分子は、好ましくは、2000塩基超、好ましくは3000塩基超、4000塩基超、5000塩基超、6000塩基超、7000塩基超、8000塩基超、9000塩基超、又は10000塩基超のサイズを有する。本発明による使用のためのRNA分子は、好ましくは、6000から20000塩基、好ましくは6000から15000塩基、好ましくは9000から12000塩基のサイズを有する。
【0138】
本発明によれば、「発現」という用語は、その最も一般的な意味で使用され、RNA及び/又はタンパク質の産生を含む。また、この用語は、核酸の部分的な発現も含む。更に、発現は、一過性であってもよく、又は安定であってもよい。RNAに関しては、「発現」又は「翻訳」という用語は、コード化RNA(例えば、メッセンジャーRNA)の鎖が、ペプチド又はタンパク質を生成するようにアミノ酸の配列の集合体を仕向ける、細胞のリボソーム内の過程に関する。
【0139】
「転写」及び「転写する」という用語は、特定の核酸配列を有する核酸分子(「核酸鋳型」)が、RNAポリメラーゼによって読み取られ、その結果、RNAポリメラーゼによって一本鎖RNA分子が産生される過程に関する。転写中、核酸鋳型内の遺伝情報が転写される。核酸鋳型はDNAであってもよいが、例えば、アルファウイルスの核酸鋳型からの転写の場合、この鋳型は典型的にはRNAである。続いて、転写されたRNAは、タンパク質へと翻訳され得る。本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、「インビトロ転写」という用語は、RNA、特にmRNAが無細胞系内においてインビトロ合成される過程に関する。好ましくは、クローニングベクターが、転写物を生成するために適用される。これらのクローニングベクターは、一般に転写ベクターと呼ばれ、本発明によれば、「ベクター」という用語によって包括される。クローニングベクターは、好ましくはプラスミドである。本発明によれば、RNAは、好ましくはインビトロで転写されたRNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得ることができる。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモーターであり得る。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、インビトロ転写のためにそれを適切なベクター中に導入することによって得ることができる。cDNAは、RNAの逆転写によって得ることができる。
【0140】
転写中に産生される一本鎖核酸分子は、典型的には、鋳型の相補的配列である核酸配列を有する。
【0141】
本発明によれば、「鋳型」、又は「核酸鋳型」、又は「鋳型核酸」という用語は、一般的に、複製又は転写可能である核酸配列を指す。
【0142】
「発現制御配列」という用語は、本発明によれば、プロモーター、リボソーム結合配列、及び遺伝子の転写又は導出されたRNAの翻訳を制御する他の制御要素を含む。本発明の特定の実施形態において、発現制御配列は、調節することができる。発現制御配列の正確な構造は、種又は細胞型に応じて多様であり得るが、通常、それぞれ転写及び翻訳の開始に関与する、5'-非転写配列、並びに5'-及び3'-非翻訳配列を含む。より具体的には、5'-非転写発現制御配列は、機能的に連結した遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を包括するプロモーター領域を含む。発現制御配列はまた、エンハンサー配列又は上流アクチベーター配列も含み得る。DNA分子の発現制御配列は、通常、5'-非転写配列、並びに5'-及び3'-非翻訳配列、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等を含む。アルファウイルスRNAの発現制御配列は、サブゲノムプロモーター、及び/又は1種若しくは複数の保存配列要素を含んでもよい。本発明による特定の発現制御配列は、本明細書に記載されるような、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターである。
【0143】
「プロモーター」又は「プロモーター領域」という用語は、RNAポリメラーゼの認識及び結合部位を提供することによって、転写物、例えばコーディング配列を含む転写物の合成を制御する核酸配列を指す。プロモーター領域は、前記遺伝子の転写の調節に関与する更なる因子の更なる認識又は結合部位を含んでもよい。プロモーターは、原核生物又は真核生物遺伝子の転写を制御することができる。プロモーターは、「誘導性」であり、誘導因子に応答して転写を開始してもよく、又は転写が誘導因子によって制御されない場合、「構成的」であってもよい。誘導性プロモーターは、誘導因子が不在である場合、非常に小さい程度のみ発現されるか、又はまったく発現されない。誘導因子の存在下において、遺伝子は、「スイッチオン」されるか、又は転写のレベルが増大する。これは通常、特異的転写因子の結合によって媒介される。本発明による特定のプロモーターは、本明細書に記載されるような、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターである。他の特定のプロモーターは、アルファウイルスのゲノムプラス鎖又はマイナス鎖プロモーターである。
【0144】
「コアプロモーター」は、プロモーターに含まれる核酸配列を指す。コアプロモーターは、典型的には、転写を適正に開始するために必要とされる、プロモーターの最小部分である。コアプロモーターは、典型的には、転写の開始部位と、RNAポリメラーゼの結合部位とを含む。
【0145】
本明細書において特定される核酸配列、特に転写可能なコーディング核酸配列は、前記核酸配列と同種であってもよく、又は異種であってもよい任意の発現制御配列と組み合わせることができる。「同種」という用語は、核酸配列が、発現制御配列に対して天然に機能的に連結もされているという事実を指し、「異種」という用語は、核酸配列が、発現制御配列に対して天然に機能的に連結はされていないという事実を指す。
【0146】
核酸配列、特にペプチド又はタンパク質をコードする核酸配列と、発現制御配列とは、それらが、転写可能及び/又はコーディング核酸配列の転写又は発現が発現制御配列の制御下又は影響下にあるような方法で互いに対して共有結合している場合、互いに対して「機能的に」連結されている。
【0147】
本発明によれば「機能的連結」又は「機能的に連結された」とは、機能的関係性内での接続に関する。核酸は、それが別の核酸配列と機能的に関連している場合、「機能的に連結され」ている。例えば、プロモーターは、それがコーディング配列の転写に影響を及ぼす場合、前記コーディング配列に対して機能的に連結している。機能的に連結した核酸は、典型的には、互いと隣接しているが、適切な場合には、更なる核酸配列によって分離されている。
【0148】
特定の実施形態において、核酸は、本発明によれば、その核酸に対して同種であってもよく、又は異種であってもよい発現制御配列に対して機能的に連結されている。
【0149】
「ポリメラーゼ」は、一般に、モノマー構成ブロックからのポリマー分子の合成を触媒することができる分子的実体を指す。「RNAポリメラーゼ」は、リボヌクレオチド構成ブロックからのRNA分子の合成を触媒することができる分子的実体である。「DNAポリメラーゼ」は、デオキシリボヌクレオチド構成ブロックからのDNA分子の合成を触媒することができる分子的実体である。DNAポリメラーゼ及びRNAポリメラーゼの場合、分子的実体は、典型的には、タンパク質、又は複数のタンパク質の集合体若しくは複合体である。典型的には、DNAポリメラーゼは、典型的にはDNA分子である鋳型核酸に基づいて、DNA分子を合成する。典型的には、RNAポリメラーゼは、DNA分子である(この場合、RNAポリメラーゼは、DNA依存性RNAポリメラーゼ、DdRPである)か、又はRNA分子である(この場合、RNAポリメラーゼは、RNA依存性RNAポリメラーゼ、RdRPである)鋳型核酸に基づいて、RNA分子を合成する。
【0150】
「RNA依存性RNAポリメラーゼ」又は「RdRP」は、RNA鋳型からのRNAの転写を触媒する酵素である。アルファウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼの場合、ゲノムRNAの(-)鎖の相補体及び(+)鎖ゲノムRNAの連続的合成により、RNA複製がもたらされる。したがって、アルファウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼは、同義的に、「RNAレプリカーゼ」と呼ばれる。自然において、RNA依存性RNAポリメラーゼは、典型的には、レトロウイルスを除くすべてのRNAウイルスによってコードされている。RNA依存性RNAポリメラーゼをコードするウイルスの典型的代表は、アルファウイルスである。
【0151】
本発明によれば、「RNA複製」は、概して、所与のRNA分子(鋳型RNA分子)のヌクレオチド配列に基づいて合成されたRNA分子を指す。合成されるRNA分子は、例えば、鋳型RNA分子と同一であってもよく、又はそれに対して相補的であってもよい。一般に、RNA複製は、DNA中間体の合成を介して起こる場合があり、又はRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)によって媒介される、RNA依存性RNA複製によって直接起こる場合がある。アルファウイルスの場合、RNA複製は、DNA中間体を介しては起こらず、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)によって媒介される。鋳型RNA鎖(第1のRNA鎖)又はその一部が、第1のRNA鎖又はその一部に対して相補的である第2のRNA鎖を合成するための鋳型として働く。第2のRNA鎖又はその一部は、任意選択で、今度は、第2のRNA鎖又はその一部に対して相補的である第3のRNA鎖を合成するための鋳型として働く場合がある。それにより、第3のRNA鎖は、第1のRNA鎖又はその一部と同一である。したがって、RNA依存性RNAポリメラーゼは、鋳型の相補的RNA鎖を直接的に合成することが可能であり、(相補的中間体鎖を介して)同一のRNA鎖を間接的に合成することが可能である。
【0152】
本発明によれば、「鋳型RNA」という用語は、RNA依存性RNAポリメラーゼによって転写又は複製可能であるRNAを指す。
【0153】
本発明の好ましい実施形態において、本発明に従って使用されるRNAは、レプリコンRNA又は単に「レプリコン」、特に自己複製RNAである。特に好ましい一実施形態において、レプリコン又は自己複製RNAは、ssRNAウイルス、特にプラス鎖ssRNAウイルス、例えばアルファウイルス等に由来するか、又はそれに由来する要素を含む。
【0154】
一般に、RNAウイルスとは、RNAゲノムを有する感染性粒子の多彩な群である。RNAウイルスは、一本鎖RNA(ssRNA)ウイルス及び二本鎖RNA(dsRNA)ウイルスのサブグループへと分類することができ、ssRNAウイルスは概して、プラス鎖[(+)鎖]ウイルス及び/又はマイナス鎖[(-)鎖]ウイルスへと更に分類することができる。プラス鎖RNAウイルスは、一見したところでは、それらのRNAが宿主細胞において翻訳のための鋳型として直接的に働くことができるため、バイオ医薬品における送達系として魅力的である。
【0155】
アルファウイルスは、プラス鎖RNAウイルスの典型的代表である。アルファウイルスの宿主としては、昆虫、魚類、並びに哺乳動物、例えば飼育動物及びヒト等を含む、多種多様な有機体が挙げられる。アルファウイルスは、感染細胞の細胞質において複製される(アルファウイルスの生活環の総説については、Joseら、Future Microbiol.、2009年、第4巻、837~856頁を参照されたい)。多くのアルファウイルスの総ゲノム長は、典型的には、11,000から12,000ヌクレオチドの範囲であり、ゲノムRNAは、典型的には、5'-キャップ、及び3'-ポリ(A)テールを有する。アルファウイルスのゲノムは、非構造タンパク質(ウイルスRNAの転写、修飾、及び複製、並びにタンパク質修飾に関与する)及び構造タンパク質(ウイルス粒子を形成する)をコードする。典型的には、ゲノム中には、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する。4種の非構造タンパク質(nsP1~nsP4)が、典型的には、ゲノムの5'末端付近から始まる第1のORFによって一緒にコードされている一方で、アルファウイルスの構造タンパク質は、第1のORFの下流において見出され、ゲノムの3'末端付近まで延在する第2のORFによって一緒にコードされている。典型的には、第1のORFは第2のORFよりも大きく、その比はおよそ2:1である。
【0156】
アルファウイルスに感染した細胞では、非構造タンパク質をコードする核酸配列のみがゲノムRNAから翻訳される一方で、構造タンパク質をコードする遺伝情報は、真核生物のメッセンジャーRNA(mRNA)に似たRNA分子である、サブゲノム転写物から翻訳可能である(Gouldら、2010年、Antiviral Res.、第87巻、111~124頁)。感染後、すなわち、ウイルスの生活環の初期の段階において、(+)鎖ゲノムRNAが、非構造ポリタンパク質(nsP1234)をコードするオープンリーディングフレームの翻訳のためのメッセンジャーRNAのように直接的に作用する。一部のアルファウイルスにおいて、nsP3及びnsP4のコーディング配列間にオパール停止コドンが存在する。nsP1、nsP2、及びnsP3を含有するポリタンパク質P123が、オパール停止コドンにおいて翻訳が終結する際に生成され、追加的にnsP4を含有するポリタンパク質P1234は、このオパールコドンがリードスルーされる際に生成される(Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁、Ruppら、2015年、J. Gen. Virology、第96巻、2483~2500頁)。nsP1234は、自己タンパク分解により、フラグメントnsP123及びnsP4へと切断される。ポリペプチドnsP123及びnsP4は結合して、(+)鎖ゲノムRNAを鋳型として使用することで(-)鎖RNAを転写する、(-)鎖レプリカーゼ複合体を形成する。典型的には、後の段階において、nsP123フラグメントは、個別のタンパク質nsP1、nsP2、及びnsP3へと完全に切断される(Shirako & Strauss、1994年、J. Virol.、第68巻、1874~1885頁)。4種のタンパク質すべてによって、ゲノムRNAの(-)鎖の相補体を鋳型として使用することで新しい(+)鎖ゲノムを合成する、(+)鎖レプリカーゼ複合体が形成される(Kimら、2004年、Virology、第323巻、153~163頁、Vasiljevaら、2003年、J. Biol. Chem.、第278巻、41636~41645頁)。
【0157】
感染細胞において、サブゲノムRNA及び新しいゲノムRNAは、nsP1により、5'-キャップとともに提供され(Petterssonら、1980年、Eur. J. Biochem.、105、435~443頁、Rozanovら、1992年、J. Gen. Virology、第73巻、2129~2134頁)、nsP4により、ポリ-アデニレート[ポリ(A)]テールとともに提供される(Rubachら、Virology、2009年、第384巻、201~208頁)。したがって、サブゲノムRNA及びゲノムRNAの両方が、メッセンジャーRNA(mRNA)と類似する。
【0158】
アルファウイルスの構造タンパク質は、典型的には、サブゲノムプロモーターの制御下にある1つのオープンリーディングフレームによってコードされている(Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁)。サブゲノムプロモーターは、シスで作用するアルファウイルスの非構造タンパク質によって認識される。特に、アルファウイルスレプリカーゼは、ゲノムRNAの(-)鎖の相補体を鋳型として使用することで、(+)鎖サブゲノム転写物を合成する。(+)鎖サブゲノム転写物は、アルファウイルスの構造タンパク質をコードする(Kimら、2004年、Virology、第323巻、153~163頁、Vasiljevaら、2003年、J. Biol. Chem.、第278巻、41636~41645頁)。サブゲノムRNA転写物は、1つのポリタンパク質として構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの翻訳のための鋳型として働き、このポリタンパク質が切断されて、構造タンパク質が生成される。宿主細胞におけるアルファウイルス感染の後の段階において、nsP2のコーディング配列内に位置するパッケージングシグナルによって、構造タンパク質によってパッケージされる、出芽ビリオンへのゲノムRNAの選択的パッケージングが確保される(Whiteら、1998年、J. Virol.、第72巻、4320~4326頁)。
【0159】
感染細胞において、(-)鎖RNAの合成は、典型的には、感染後の最初の3~4時間の間のみ観察され、後の段階では検出不可能となり、この時間には、(+)鎖RNA(ゲノム及びサブゲノムの両方)の合成のみが観察される。Frolovら、2001年、RNA、第7巻、1638~1651頁によれば、RNA合成の調節のための一般的モデルによって、非構造ポリタンパク質のプロセシングに対する依存性が示唆されている。非構造ポリタンパク質nsP1234の最初の切断により、nsP123及びnsP4が生成され、nsP4は、(-)鎖合成にとっては活性であるが、(+)鎖RNAの生成にとっては非効率である、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)として作用する。nsP2/nsP3接合部における切断等の、ポリタンパク質nsP123の更なるプロセシングにより、(+)鎖RNAの合成を増加し、(-)鎖RNAの合成を減少又は終結させるように、レプリカーゼの鋳型特異性が変更される。
【0160】
アルファウイルスRNAの合成はまた、4種の保存配列要素(CSE)を含めた、シス作用RNA要素によっても調節される(Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁及びFrolov、2001年、RNA、第7巻、1638~1651頁)。
【0161】
一般に、アルファウイルスゲノムの5'複製認識配列は、異なるアルファウイルス間での全体的相同性が低いことによって特徴付けられるが、保存された予測二次構造を有する。アルファウイルスゲノムの5'複製認識配列は、翻訳の開始に関与するだけでなく、ウイルスRNAの合成に関与する2つの保存配列要素、CSE1及びCSE2を含む、5'複製認識配列も含む。CSE1及びCSE2の機能に関しては、二次構造が、直鎖状配列よりも重要であると考えられている(Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁)。
【0162】
対照的に、アルファウイルスゲノムの3'末端配列、すなわち、ポリ(A)配列の直ぐ上流の配列は、保存された一次構造、特に、「19-nt保存配列」とも呼ばれる、保存配列要素4(CSE4)によって特徴付けられる。これは、(-)鎖合成の開始にとって重要である。
【0163】
「接合配列」とも呼ばれるCSE3は、アルファウイルスのゲノムRNAの(+)鎖上の保存配列要素であり、(-)鎖上のCSE3の相補体は、サブゲノムRNA転写のためのプロモーターとして作用する(Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁、Frolovら、2001年、RNA、第7巻、1638~1651頁)。CSE3は、典型的には、nsP4のC末端フラグメントをコードする領域と重複している。
【0164】
アルファウイルスタンパク質に加えて、おそらくはタンパク質である宿主細胞因子も、保存配列要素に対して結合する場合がある(Strauss & Strauss、上記)。
【0165】
アルファウイルス由来のベクターが、標的細胞又は標的有機体への外来遺伝情報の送達に関して提案されている。単純なアプローチでは、アルファウイルスの構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームが、目的とするタンパク質をコードするオープンリーディングフレームによって置き換えられる。アルファウイルスに基づくトランス複製系は、2つの別個の核酸分子上のアルファウイルスヌクレオチド配列要素に依存する。一方の核酸分子は、ウイルスレプリカーゼをコードし(典型的には、ポリタンパク質nsP1234として)、他方の核酸分子は、前記レプリカーゼによってトランスで複製を受けることが可能である(したがって、トランス複製系という呼称である)。トランス複製は、所与の宿主細胞内における、これらの核酸分子両方の存在を必要とする。レプリカーゼによってトランスで複製を受けることが可能である核酸分子は、アルファウイルスのレプリカーゼによる認識及びRNA合成を可能にするため、ある特定のアルファウイルス配列要素を含まなければならない。
【0166】
本発明によれば、「アルファウイルス」という用語は、広く理解されることになり、アルファウイルスの特徴を有する任意のウイルス粒子が包含される。アルファウイルスの特徴としては、RNAポリメラーゼ活性を含めた、宿主細胞における複製にとって好適な遺伝情報をコードする、(+)鎖RNAの存在が挙げられる。多くのアルファウイルスの更なる特徴については、Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁に記載されている。「アルファウイルス」という用語には、自然において見出されるアルファウイルスだけでなく、その任意のバリアント又は誘導体も包含される。一部の実施形態において、バリアント又は誘導体は、自然において見出されない。
【0167】
一実施形態において、アルファウイルスは、自然において見出されるアルファウイルスである。典型的には、自然において見出されるアルファウイルスは、任意の1種又は複数の真核生物、例えば動物(ヒト等の脊椎動物及び昆虫等の節足動物を含む)等に対して感染性である。
【0168】
自然において見出されるアルファウイルスは、好ましくは、以下からなる群から選択される:バーマフォレストウイルス(Barmah Forest virus)複合体(バーマフォレストウイルスを含む)、東部ウマ脳炎(Eastern equine encephalitis)複合体(東部ウマ脳炎ウイルスの7種の抗原タイプを含む)、ミデルブルグウイルス(Middelburg virus)複合体(ミデルブルグウイルスを含む)、ヌドゥムウイルス(Ndumu virus)複合体(ヌドゥムウイルスを含む)、セムリキ森林ウイルス(Semliki Forest virus)複合体(ベバルウイルス(Bebaru virus)、チクングニアウイルス(Chikungunya virus)、マヤロウイルス(Mayaro virus)及びそのサブタイプであるウナウイルス(Una virus)、オニョンニョンウイルス(O'Nyong virus)及びそのサブタイプであるイグボオラウイルス(Igbo-Ora virus)、ロスリバーウイルス(Ross River virus)及びそのサブタイプであるベバルウイルス、ゲタウイルス(Getah virus)、サギヤマウイルス(Sagiyama virus)、セムリキ森林ウイルス及びそのサブタイプであるメトリウイルス(Me Tri virus)を含む)、ベネズエラウマ脳炎(Venezuelan equine encephalitis)複合体(カバソウウイルス(Cabassou virus)、エバーグレーズウイルス(Everglades virus)、モッソダスペドラスウイルス(Mosso das Pedras virus)、ムカンボウイルス(Mucambo virus)、パラマナウイルス(Paramana virus)、ピクスナウイルス(Pixuna virus)、リオネグロウイルス(Rio Negro virus)、トロカラウイルス(Trocara virus)及びそのサブタイプであるビジューブリッジウイルス(Bijou Bridge virus)、ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む)、西部ウマ脳炎(Western equine encephalitis)複合体(アウラウイルス(Aura virus)、ババンキーウイルス(Babanki virus)、キジラガッチェウイルス(Kyzylagach virus)、シンドビスウイルス(Sindbis virus)、オケルボウイルス(Ockelbo virus)、ワタロアウイルス(Whataroa virus)、バギークリークウイルス(Buggy Creek virus)、フォートモーガンウイルス(Fort Morgan virus)、ハイランドJウイルス(Highlands J virus)、西部ウマ脳炎ウイルスを含む)、及びサケ膵臓病ウイルス(Salmon pancreatic disease virus)を含む一部の未分類のウイルス、睡眠病ウイルス(Sleeping Disease virus)、ミナミゾウアザラシウイルス(Southern elephant seal virus)、トナテウイルス(Tonate virus)。より好ましくは、アルファウイルスは、セムリキ森林ウイルス複合体(セムリキ森林ウイルス等の、上に示されたようなウイルスタイプを含む)、西部ウマ脳炎複合体(シンドビスウイルス等の、上に示されたようなウイルスタイプを含む)、東部ウマ脳炎ウイルス(上に示されたようなウイルスタイプを含む)、ベネズエラウマ脳炎複合体(ベネズエラウマ脳炎ウイルス等の、上に示されたようなウイルスタイプを含む)からなる群から選択される。
【0169】
更なる好ましい実施形態において、アルファウイルスは、セムリキ森林ウイルスである。代替的な更なる好ましい実施形態において、アルファウイルスは、シンドビスウイルスである。代替的な更なる好ましい実施形態において、アルファウイルスは、ベネズエラウマ脳炎ウイルスである。
【0170】
本発明の一部の実施形態において、アルファウイルスは、自然において見出されるアルファウイルスではない。典型的には、自然において見出されないアルファウイルスは、ヌクレオチド配列、すなわちゲノムRNAにおける少なくとも1か所の変異によって自然において見出されるアルファウイルスから区別される、自然において見出されるアルファウイルスのバリアント又は誘導体である。ヌクレオチド配列における変異は、自然において見出されるアルファウイルスと比較した場合の、1つ又は複数のヌクレオチドの挿入、置換、又は欠失から選択することができる。ヌクレオチド配列における変異は、ヌクレオチド配列によってコードされているポリペプチド又はタンパク質における変異と関連してもよく、又は関連しなくてもよい。例えば、自然において見出されないアルファウイルスは、弱毒性アルファウイルスであってもよい。自然において見出されない弱毒性アルファウイルスは、そのヌクレオチド配列中に少なくとも1か所の変異を典型的には有するアルファウイルスであり、この変異により、弱毒性アルファウイルスは、自然において見出されるアルファウイルスから区別され、この変異は、まったく感染性ではないか、又は感染性ではあるが、疾患を引き起こす能力がより低いか、若しくは疾患を引き起こす能力をまったく有しない。例証的な例としては、TC83が、自然において見出されるベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)から区別される弱毒性アルファウイルスである(McKinneyら、1963年、Am. J. Trop. Med. Hyg.、1963年、第12巻、597~603頁)。
【0171】
また、アルファウイルス属のメンバーは、ヒトにおけるそれらの相対的な臨床的特色に基づいて、主に脳炎と関連するアルファウイルス、並びに主に発熱、発疹、及び多発性関節炎と関連するアルファウイルスに分類することもできる。
【0172】
「アルファウイルスの」という用語は、アルファウイルスにおいて見出されること、又はアルファウイルスを起源とすること若しくは例えば遺伝子操作によってアルファウイルスから導出されることを意味する。
【0173】
本発明によれば、「SFV」は、セムリキ森林ウイルスの略語である。本発明によれば、「SIN」又は「SINV」は、シンドビスウイルスの略語である。本発明によれば、「VEE」又は「VEEV」は、ベネズエラウマ脳炎ウイルスの略語である。
【0174】
本発明によれば、「アルファウイルスの」又は「アルファウイルスに由来する」という用語は、アルファウイルスを起源とする実体を指す。例証すると、アルファウイルスのタンパク質とは、アルファウイルスにおいて見出されるタンパク質及び/又はアルファウイルスによってコードされているタンパク質を指す場合があり、アルファウイルスの核酸配列とは、アルファウイルスにおいて見出される核酸配列及び/又はアルファウイルスによってコードされている核酸配列を指す場合がある。好ましくは、「アルファウイルスの」核酸配列は、「アルファウイルスのゲノムの」核酸配列及び/又は「アルファウイルスのゲノムRNAの」核酸配列を指す。
【0175】
本発明によれば、「アルファウイルスRNA」という用語は、アルファウイルスのゲノムRNA(すなわち、(+)鎖)、アルファウイルスのゲノムRNAの相補体(すなわち、(-)鎖)、及びサブゲノム転写物(すなわち、(+)鎖)、又は任意のそれらのフラグメントのうちの任意の1つ又は複数を指す。
【0176】
本発明によれば、「アルファウイルスゲノム」は、アルファウイルスのゲノム(+)鎖RNAを指す。
【0177】
本発明によれば、「天然アルファウイルス配列」という用語及び類似する用語は、典型的には、天然に存在するアルファウイルス(自然において見出されるアルファウイルス)の(例えば、核酸)配列を指す。一部の実施形態において、「天然アルファウイルス配列」という用語には、弱毒性アルファウイルスの配列も包含される。
【0178】
本発明によれば、「5'複製認識配列」という用語は、好ましくは、アルファウイルスゲノムの5'フラグメントと同一又はそれに対して相同性である、連続した核酸配列、好ましくはリボ核酸配列を指す。「5'複製認識配列」は、アルファウイルスのレプリカーゼによって認識することができる核酸配列である。5'複製認識配列という用語には、天然5'複製認識配列だけでなく、その機能的均等物、例えば自然において見出されるアルファウイルスの5'複製認識配列の機能的バリアント等も包含される。5'複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの(-)鎖の相補体の合成にとって必要とされ、(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖ウイルスゲノムRNAの合成にとって必要とされる。天然の5'複製認識配列は、典型的には、少なくともnsP1のN末端フラグメントをコードするが、nsP1234をコードするオープンリーディングフレーム全体を含むわけではない。天然5'複製認識配列が、典型的には、少なくともnsP1のN末端フラグメントをコードするという事実から見て、天然5'複製認識配列は、典型的には、少なくとも1つの開始コドン、典型的にはAUGを含む。一実施形態において、5'複製認識配列は、アルファウイルスゲノムの保存配列要素1(CSE1)又はそのバリアント、及びアルファウイルスゲノムの保存配列要素2(CSE2)又はそのバリアントを含む。5'複製認識配列は、典型的には、4つのステムループ(SL)、すなわちSL1、SL2、SL3、SL4を形成することができる。これらのステムループの番号付けは、5'複製認識配列の5'末端から始まる。
【0179】
本発明によれば、「3'複製認識配列」という用語は、好ましくは、アルファウイルスゲノムの3'フラグメントと同一又はそれに対して相同性である、連続した核酸配列、好ましくはリボ核酸配列を指す。「3'複製認識配列」は、アルファウイルスのレプリカーゼによって認識することができる核酸配列である。3'複製認識配列という用語には、天然3'複製認識配列だけでなく、その機能的均等物、例えば自然において見出されるアルファウイルスの3'複製認識配列の機能的バリアント等も包含される。3'複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの(-)鎖の相補体の合成にとって必要とされる。一実施形態において、3'複製認識配列は、アルファウイルスゲノムの保存配列要素4(CSE4)又はそのバリアント、及び任意選択で、アルファウイルスゲノムのポリ(A)テールを含む。
【0180】
「保存配列要素」又は「CSE」という用語は、アルファウイルスRNAにおいて見出されるヌクレオチド配列を指す。これらの配列要素は、オーソログが異なるアルファウイルスのゲノムに存在するため、「保存された」と呼ばれ、異なるアルファウイルスのオーソログCSEは、好ましくは、高い割合の配列同一性、及び/又は類似する二次構造若しくは三次構造を共有する。CSEという用語には、CSE1、CSE2、CSE3、及びCSE4が包含される。
【0181】
本発明によれば、「CSE1」又は「44-nt CSE」という用語は、同義的に、(-)鎖鋳型からの(+)鎖合成にとって必要とされるヌクレオチド配列を指す。「CSE1」という用語は、(+)鎖上の配列を指し、((-)鎖上の)CSE1の相補的配列は、(+)鎖合成のためのプロモーターとして機能する。好ましくは、CSE1という用語には、アルファウイルスゲノムの最も5'側のヌクレオチドが包含される。CSE1は、典型的には、保存されたステムループ構造を形成する。特定の理論によって束縛されることを望むものではないが、CSE1の場合、二次構造が、一次構造、すなわち直鎖状配列よりも重要であると考えられている。モデルアルファウイルスのシンドビスウイルスのゲノムRNAでは、CSE1は、44個のヌクレオチドの連続した配列からなり、これは、ゲノムRNAの最も5'側の44個のヌクレオチドによって形成されている(Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁)。
【0182】
本発明によれば、「CSE2」又は「51-nt CSE」という用語は、同義的に、(+)鎖鋳型からの(-)鎖合成にとって必要とされるヌクレオチド配列を指す。(+)鎖鋳型は、典型的には、アルファウイルスゲノムRNA又はRNAレプリコンである(CSE2を含まないサブゲノムRNA転写物は、(-)鎖合成のための鋳型としては機能しないことに留意されたい)。アルファウイルスゲノムRNAにおいて、CSE2は、典型的には、nsP1のコーディング配列内に局在する。モデルアルファウイルスのシンドビスウイルスのゲノムRNAでは、51-nt CSEは、ゲノムRNAの155~205のヌクレオチド位に位置する(Frolovら、2001年、RNA、第7巻、1638~1651頁)。CSE2は、典型的には、2つの保存されたステムループ構造を形成する。これらのステムループ構造は、アルファウイルスゲノムRNAの5'末端から数えて、それぞれ、アルファウイルスゲノムRNAの3番目及び4番目の保存されたステムループであるため、ステムループ3(SL3)及びステムループ4(SL4)と呼称される。特定の理論によって束縛されることを望むものではないが、CSE2の場合、二次構造が、一次構造、すなわち直鎖状配列よりも重要であると考えられている。
【0183】
本発明によれば、「CSE3」又は「接合配列」という用語は、同義的に、アルファウイルスのゲノムRNAに由来し、サブゲノムRNAの開始部位を含むヌクレオチド配列を指す。(-)鎖におけるこの配列の相補体は、サブゲノムRNA転写を促進するように作用する。アルファウイルスゲノムRNAにおいて、CSE3は、典型的には、nsP4のC末端フラグメントをコードする領域と重複しており、構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの上流に位置する短い非コーディング領域まで延在している。
【0184】
本発明によれば、「CSE4」、又は「19-nt保存配列」、又は「19-nt CSE」という用語は、同義的に、アルファウイルスゲノムの3'非翻訳領域中の、ポリ(A)配列の直ぐ上流の、アルファウイルスのゲノムRNAに由来するヌクレオチド配列を指す。CSE4は、典型的には、19個の連続したヌクレオチドからなる。特定の理論によって束縛されることを望むものではないが、CSE4は、(-)鎖合成を開始するためのコアプロモーターとして機能すると理解されており(Joseら、Future Microbiol.、2009年、第4巻、837~856頁)、及び/又はアルファウイルスゲノムRNAのCSE4及びポリ(A)テールは、効率的な(-)鎖合成のために一緒に機能すると理解されている(Hardy & Rice、J. Virol.、2005年、第79巻、4630~4639頁)。
【0185】
本発明によれば、「サブゲノムプロモーター」又は「SGP」という用語は、核酸配列(例えば、コーディング配列)の上流(5')にあり、RNAポリメラーゼ、典型的にはRNA依存性RNAポリメラーゼ、特に機能的アルファウイルス非構造タンパク質の認識及び結合部位を提供することによって、前記核酸配列の転写を制御する、核酸配列を指す。SGPは、更なる因子のための更なる認識又は結合部位を含んでもよい。サブゲノムプロモーターは、典型的には、アルファウイルス等のプラス鎖RNAウイルスの遺伝要素である。アルファウイルスのサブゲノムプロモーターは、ウイルスゲノムRNA中に含まれる核酸配列である。サブゲノムプロモーターは、概して、RNA依存性RNAポリメラーゼ、例えば機能的アルファウイルス非構造タンパク質の存在下において、転写を開始させる(RNA合成)という点を特徴とする。RNA(-)鎖、すなわち、アルファウイルスのゲノムRNAの相補体は、(+)鎖サブゲノム転写物を合成するための鋳型として働き、(+)鎖サブゲノム転写物の合成は、典型的には、サブゲノムプロモーターにおいて、又はその付近で開始される。本明細書において使用される場合、「サブゲノムプロモーター」という用語は、そのようなサブゲノムプロモーターを含む核酸において、いかなる特定の局在化にも限局されない。一部の実施形態において、SGPは、CSE3と同一であるか、又はCSE3と重複しているか、又はCSE3を含む。
【0186】
「サブゲノム転写物」又は「サブゲノムRNA」という用語は、同義的に、RNA分子を鋳型(「鋳型RNA」)として使用する転写の結果として得ることができるRNA分子を指し、この鋳型RNAは、サブゲノム転写物の転写を制御するサブゲノムプロモーターを含む。サブゲノム転写物は、RNA依存性RNAポリメラーゼ、特に機能的アルファウイルス非構造タンパク質の存在下において得ることができる。例えば、「サブゲノム転写物」という用語は、アルファウイルスゲノムRNAの(-)鎖の相補体を鋳型として使用して、アルファウイルスに感染した細胞において調製される、RNA転写物を指してもよい。しかしながら、本明細書において使用される場合、「サブゲノム転写物」という用語はこれに限定されず、異種RNAを鋳型として使用することによって得ることができる転写物も包含される。例えば、サブゲノム転写物は、本発明によるSGP含有レプリコンの(-)鎖の相補体を鋳型として使用することによって得ることもできる。したがって、「サブゲノム転写物」という用語は、アルファウイルスゲノムRNAのフラグメントを転写することによって得ることができるRNA分子を指すだけでなく、本発明によるレプリコンのフラグメントを転写することによって得ることができるRNA分子を指してもよい。
【0187】
本発明によれば、レプリカーゼ、好ましくはアルファウイルスのレプリカーゼによって複製することができる核酸コンストラクトは、レプリコンと呼ばれる。本発明によれば、「レプリコン」という用語は、RNA依存性RNAポリメラーゼによって複製され、DNA中間体を伴わずに、1つ又は複数の、RNAレプリコンの同一又は本質的に同一なコピーを生成することができるRNA分子を定義する。「DNA中間体を伴わずに」とは、デオキシリボ核酸(DNA)のコピー若しくはレプリコンの相補体が、RNAレプリコンのコピーを形成する過程においてまったく形成されないこと、及び/又はデオキシリボ核酸(DNA)分子が、RNAレプリコンのコピー若しくはその相補体を形成する過程においてまったく使用されないことを意味する。レプリカーゼの機能は、典型的には、機能的アルファウイルス非構造タンパク質によって提供される。
【0188】
本発明によれば、「複製することができる」及び「複製可能である」という用語は、概して、1つ又は複数の、核酸の同一又は本質的に同一なコピーが調製され得ることを説明している。「レプリカーゼ」という用語と一緒に使用される場合、例えば「レプリカーゼによって複製可能である」等において、「複製することができる」及び「複製可能である」という用語は、レプリカーゼに関する、核酸分子、例えばRNAレプリコンの機能的特徴について説明している。これらの機能的特徴は、(i)レプリカーゼが、レプリコンを認識可能であること、及び(ii)レプリカーゼが、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)として作用可能であることのうちの少なくとも1つを含む。好ましくは、レプリカーゼは、(i)レプリコンの認識及び(ii)RNA依存性RNAポリメラーゼとしての作用の両方が可能である。
【0189】
「認識可能である」という表現は、レプリカーゼが、レプリコンと物理的に結合可能であること、及び好ましくは、レプリカーゼが、非共有結合的に、レプリコンに対して結合可能であることについて説明している。「結合」という用語は、レプリカーゼが、保存配列要素1(CSE1)又はその相補的配列(レプリコンによって含まれている場合)、保存配列要素2(CSE2)又はその相補的配列(レプリコンによって含まれている場合)、保存配列要素3(CSE3)又はその相補的配列(レプリコンによって含まれている場合)、保存配列要素4(CSE4)又はその相補的配列(レプリコンによって含まれている場合)のうちの任意の1つ又は複数に対して結合する能力を有することを意味し得る。好ましくは、レプリカーゼは、CSE2[すなわち、(+)鎖]及び/若しくはCSE4[すなわち、(+)鎖]に対して結合可能であるか、又はCSE1の相補体[すなわち、(-)鎖]及び/若しくはCSE3の相補体[すなわち、(-)鎖]に対して結合可能である。
【0190】
「RdRPとして作用可能である」という表現は、レプリカーゼが、(+)鎖RNAが鋳型機能を有する場合、アルファウイルスのゲノム(+)鎖RNAの(-)鎖の相補体の合成を触媒可能であること、及び/又はレプリカーゼが、(-)鎖RNAが鋳型機能を有する場合、(+)鎖アルファウイルスゲノムRNAの合成を触媒可能であることを意味する。また、一般に、「RdRPとして作用可能である」という表現には、レプリカーゼが、(-)鎖RNAが鋳型機能を有し、(+)鎖サブゲノム転写物の合成が、典型的には、アルファウイルスサブゲノムプロモーターにおいて開始される場合、(+)鎖サブゲノム転写物の合成を触媒可能であることも包含され得る。
【0191】
「結合可能である」及び「RdRPとして作用可能である」という表現は、通常の生理学的条件における能力を指す。特に、これらの条件は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質を発現する細胞、又は機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードする核酸でトランスフェクトされている細胞内の条件を指す。細胞とは、好ましくは、真核細胞である。結合する能力及び/又はRdRPとして作用する能力は、例えば、無細胞インビトロ系又は真核細胞内において実験的に試験することができる。任意選択で、前記真核細胞は、レプリカーゼの起源となる特定のアルファウイルスが感染性である種に由来する細胞である。例えば、ヒトに対して感染性である特定のアルファウイルスに由来するアルファウイルスレプリカーゼが使用される場合、通常の生理学的条件とは、ヒト細胞における条件のことである。より好ましくは、真核細胞(一例においてヒト細胞)は、レプリカーゼの起源となる特定のアルファウイルスが感染性である組織又は器官と同じ組織又は器官に由来する。
【0192】
本発明によれば、「天然アルファウイルス配列と比較した場合」及び類似する用語は、天然アルファウイルス配列のバリアントである配列を指す。バリアントは、典型的には、それ自体は天然アルファウイルス配列ではない。
【0193】
一実施形態において、RNAレプリコンは、5'複製認識配列及び3'複製認識配列等の複製認識配列を含む。複製認識配列は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質によって認識することができる核酸配列である。換言すれば、機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、複製認識配列を認識可能である。好ましくは、5'複製認識配列は、レプリコンの5'末端に位置する。一実施形態において、5'複製認識配列は、CSE1及びCSE2からなるか、又はそれらを含む。好ましくは、3'複製認識配列は、レプリコンの3'末端に位置する(レプリコンがポリ(A)テールを含まない場合)か、又はポリ(A)テールの直ぐ上流に位置する(レプリコンがポリ(A)テールを含む場合)。一実施形態において、3'複製認識配列は、CSE4からなるか、又はそれを含む。
【0194】
一実施形態において、5'複製認識配列及び3'複製認識配列は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質の存在下において、RNAレプリコンの複製を指示することが可能である。したがって、単独で存在する場合、又は好ましくは一緒に存在する場合、これらの認識配列は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質の存在下において、RNAレプリコンの複製を指示する。
【0195】
機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、シスである(レプリコン上のオープンリーディングフレームによって、目的とするタンパク質としてコードされている)か、又はトランスである(レプリコンの5'複製認識配列及び3'複製認識配列の両方を認識可能である、別個のレプリカーゼコンストラクト上のオープンリーディングフレームによって、目的とするタンパク質としてコードされている)ことが好ましい。一実施形態において、これは、5'複製認識配列及び3'複製認識配列が、機能的アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスにとって天然である場合に達成される。天然とは、これらの配列の天然起源が同じアルファウイルスであることを意味する。代替的な実施形態において、5'複製認識配列及び/又は3'複製認識配列は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスにとって天然ではないが、ただし、機能的アルファウイルス非構造タンパク質が、レプリコンの5'複製認識配列及び3'複製認識配列の両方を認識可能であることを条件とする。換言すれば、機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、5'複製認識配列及び3'複製認識配列に対して適合性である。非天然の機能的アルファウイルス非構造タンパク質が、それぞれの配列又は配列要素を認識可能である場合、機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、適合性であると言われる(クロスウイルス適合性)。クロスウイルス適合性が存在する限り、それぞれ、(3'/5')複製認識配列及びCSEと、機能的アルファウイルス非構造タンパク質との任意の組み合わせが可能である。クロスウイルス適合性は、本発明を扱う当業者であれば、例えば好適な宿主細胞内で、RNA複製にとって好適な条件において、試験する機能的アルファウイルス非構造タンパク質を、RNA(このRNAは、試験する3'複製認識配列及び5'複製認識配列を有する)と一緒にインキュベートすることによって容易に試験することができる。複製が起これば、(3'/5')複製認識配列と、機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、適合性であると決定される。
【0196】
本発明の一実施形態において、レプリコンは、トランス複製系の一部であり、したがって、レプリコンはトランスレプリコンである。この実施形態において、RNAレプリコンは、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まないことが好ましい。したがって、この実施形態において、本発明は、2種の核酸分子:機能的アルファウイルス非構造タンパク質を発現するための第1のRNAコンストラクト(すなわち、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードする)、及び第2のRNA分子、RNAレプリコンを含む系を提供する。機能的アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNAコンストラクトは、本明細書において、同義的に、「機能的アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNAコンストラクト」又は「レプリカーゼコンストラクト」と呼ばれる。機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、上に定義した通りであり、典型的には、レプリカーゼコンストラクトに含まれるオープンリーディングフレームによってコードされている。レプリカーゼコンストラクトによってコードされている機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、レプリコンを複製可能である、任意の機能的アルファウイルス非構造タンパク質であってもよい。本発明によれば、レプリカーゼコンストラクトは、例えば混合粒子性配合物若しくは複合粒子性配合物として、同一の組成物内に存在してもよく、又は例えば個別の粒子性配合物として、別個の組成物内に存在してもよい。本発明の系が細胞、好ましくは真核細胞内に導入された場合、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、翻訳され得る。翻訳後、機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、別個のRNA分子(RNAレプリコン)をトランスで複製可能である。
【0197】
本明細書では、トランス(例えばトランス作用性、トランス調節性の文脈における)は、一般に、「異なる分子から作用すること」(すなわち、分子間)を意味する。これは、一般に、「同じ分子から作用すること」(すなわち、分子内)を意味するシス(例えばシス作用性、シス調節性の文脈における)とは反対である。RNA合成(転写及びRNA複製を含む)の文脈において、トランス作用性要素としては、RNA合成が可能である酵素(RNAポリメラーゼ)をコードする遺伝子を含有する核酸配列が挙げられる。RNAポリメラーゼは、第2の核酸分子、すなわち、それがコードされている核酸分子以外の核酸分子を、RNAを合成するための鋳型として使用する。RNAポリメラーゼ及びRNAポリメラーゼをコードする遺伝子を含有する核酸配列の両方が、第2の核酸分子に対して「トランスで作用する」と言われる。本発明の文脈において、トランス作用性RNAによってコードされているRNAポリメラーゼは、機能的アルファウイルス非構造タンパク質であってもよい。機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、RNAレプリコンである第2の核酸分子を、RNAレプリコンの複製を含めた、RNAの合成のための鋳型として使用可能である。レプリカーゼによってトランスで複製され得る、本発明によるRNAレプリコンは、本明細書において、同義的に、「トランス-レプリコン」と呼ばれる。
【0198】
本発明によれば、機能的アルファウイルス非構造タンパク質の役割は、レプリコンを増幅すること、及びサブゲノムプロモーターがレプリコン上に存在する場合、サブゲノム転写物を調製することである。レプリコンが、発現のための目的とする遺伝子をコードする場合、目的とする遺伝子の発現レベル及び/又は発現の持続期間は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質のレベルを修正することによって、トランスで調節することができる。
【0199】
本発明のトランス複製系は、少なくとも2種の核酸分子を含む。好ましい実施形態において、系は、厳密に2種のRNA分子、レプリコン及びレプリカーゼコンストラクトからなる。代替的な好ましい実施形態において、系は、それぞれが好ましくは少なくとも1種の目的とするタンパク質をコードする、2種以上のレプリコンを含み、また、レプリカーゼコンストラクトも含む。これらの実施形態において、レプリカーゼコンストラクトによってコードされている機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、それぞれのレプリコンに対して作用して、それぞれ、複製と、任意選択でサブゲノム転写物の産生とを促進し得る。例えば、それぞれのレプリコンは、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質をコードしていてもよい。これは、例えば、いくつかの異なる抗原に対する対象のワクチン接種が所望される場合、有利である。
【0200】
好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、(+)鎖鋳型に基づく(-)鎖合成にとって必要であり、及び/又は(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖合成にとって必要である、少なくとも1種の保存配列要素(CSE)を欠いている。より好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、いかなるアルファウイルスの保存配列要素(CSE)も含まない。特に、アルファウイルスの4種のCSE(Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁、Joseら、Future Microbiol.、2009年、第4巻、837~856頁)の中でも、以下のCSE:CSE1、CSE2、CSE3、CSE4のうちの任意の1つ又は複数が、好ましくは、レプリカーゼコンストラクト上に存在しない。特に、任意の1つ又は複数のアルファウイルスのCSEの不在下では、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスのゲノムRNAに類似しているよりも、典型的な真核生物のmRNAに対して遥かに類似している。
【0201】
本発明のレプリカーゼコンストラクトは、好ましくは、少なくとも、自己複製が不可能である点及び/又はサブゲノムプロモーターの制御下のオープンリーディングフレームを含まない点において、アルファウイルスのゲノムRNAから区別される。自己複製が不可能である場合、レプリカーゼコンストラクトは、「自殺コンストラクト」とも呼ばれる場合がある。
【0202】
本発明によるレプリカーゼコンストラクトは、好ましくは、一本鎖RNA分子である。本発明によるレプリカーゼコンストラクトは、典型的には、(+)鎖RNA分子である。一実施形態において、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、単離核酸分子である。
【0203】
一実施形態において、本発明によるレプリコン等のRNAは、目的とするペプチド又は目的とするタンパク質をコードする、少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む。様々な実施形態において、目的とするペプチド又はタンパク質は、異種核酸配列によってコードされている。本発明によれば、「異種」という用語は、核酸配列が、アルファウイルス核酸配列等の核酸配列に対して天然に機能的に又は構造的に連結はされていないという事実を指す。
【0204】
本発明によるRNAは、単一のポリペプチドをコードしていてもよく、又は複数のポリペプチドをコードしていてもよい。複数のポリペプチドは、単一のポリペプチド(融合ポリペプチド)としてコードされていてもよく、又は別個のポリペプチドとしてコードされていてもよい。一部の実施形態において、本発明によるRNAは、2つ以上のオープンリーディングフレームを含んでもよく、これらのオープンリーディングフレームはそれぞれ、レプリコンの場合、サブゲノムプロモーターの制御下であるか、又はそうでないかについて、独立して選択され得る。或いは、ポリタンパク質又は融合ポリペプチドが、任意選択で自己触媒的なプロテアーゼ切断部位によって分離される個別のポリペプチド(例えば、口蹄疫ウイルス2Aタンパク質)、又はインテインを含む。
【0205】
目的とするタンパク質は、例えば、レポータータンパク質、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質、細胞内インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害剤、及び機能的アルファウイルス非構造タンパク質からなる群から選択することができる。
【0206】
本発明によれば、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチド及びポリペプチドを含み、ペプチド結合を介して互いに連結された、2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは20個以上、最大で好ましくは50個まで、好ましくは100個、又は好ましくは150個の連続したアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大きいペプチド、好ましくは少なくとも151個のアミノ酸を有するペプチドを指すが、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書において、同義語として通常使用される。
【0207】
「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本発明によれば、アミノ酸成分だけでなく、糖及びホスフェート構造等の非アミノ酸成分も含有する物質を含み、エステル、チオエーテル、又はジスルフィド結合等の結合を含有する物質も含む。
【0208】
例えば核酸配列及びアミノ酸配列に関する「バリアント」という用語には、本発明によれば、任意のバリアント、特に変異体、ウイルス株バリアント、スプライスバリアント、コンホメーション、アイソフォーム、対立遺伝子バリアント、種バリアント及び種ホモログ、特に天然に存在するものが包含される。対立遺伝子バリアントは、遺伝子の通常の配列における改変に関し、その優位性は不明確であることが多い。完全な遺伝子配列決定により、所与の遺伝子に関して、多数の対立遺伝子バリアントが特定されることが多い。核酸分子に関して、「バリアント」という用語には、変性核酸配列が包含され、本発明による変性核酸は、遺伝子コードの縮重に起因して(例えば、コドン使用頻度の適合に起因して)コドン配列における基準核酸とは異なっている核酸である。種ホモログは、所与の核酸配列又はアミノ酸配列のものとは異なる種の起源を有する核酸配列又はアミノ酸配列である。ウイルスホモログは、所与の核酸配列又はアミノ酸配列のものとは異なるウイルスの起源を有する核酸配列又はアミノ酸配列である。
【0209】
本発明によれば、核酸バリアントには、基準核酸と比較した場合、単一又は複数のヌクレオチド欠失、付加、変異、置換、及び/又は挿入が含まれる。欠失は、基準核酸からの1つ又は複数のヌクレオチドの除去を含む。付加バリアントは、1個又は複数のヌクレオチド、例えば1個、2個、3個、5個、10個、20個、30個、50個、又はそれ以上のヌクレオチドの、5'末端及び/又は3'末端融合を含む。置換の場合、配列中の少なくとも1個のヌクレオチドが除去され、その場所に少なくとも1個の他のヌクレオチドが挿入される(例えば、トランスバージョン及びトランジション等)。変異には、非塩基部位、架橋部位、及び化学変性又は化学修飾塩基が含まれる。挿入には、基準核酸への少なくとも1個のヌクレオチドの付加が含まれる。
【0210】
本発明によれば、「ヌクレオチド変化」は、基準核酸と比較した場合、単一又は複数のヌクレオチド欠失、付加、変異、置換、及び/又は挿入を指す場合がある。一部の実施形態において、「ヌクレオチド変化」は、基準核酸と比較した場合の、単一のヌクレオチドの欠失、単一のヌクレオチドの付加、単一のヌクレオチドの変異、単一のヌクレオチドの置換、及び/又は単一のヌクレオチドの挿入からなる群から選択される。本発明によれば、核酸バリアントは、基準核酸と比較した場合、1つ又は複数のヌクレオチド変化を含み得る。
【0211】
特定の核酸配列のバリアントは、好ましくは、前記特定の配列の少なくとも1つの機能的特性を有し、好ましくは、前記特定の配列と機能的に同等であり、例えば、特定の核酸配列の特性と同一又はそれに類似する特性を呈する核酸配列である。
【0212】
好ましくは、所与の核酸配列と、前記所与の核酸配列のバリアントである核酸配列との間の同一性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、更により好ましくは少なくとも90%、又は最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%となる。同一性の程度は、好ましくは、少なくとも約30個、少なくとも約50個、少なくとも約70個、少なくとも約90個、少なくとも約100個、少なくとも約150個、少なくとも約200個、少なくとも約250個、少なくとも約300個、又は少なくとも約400個のヌクレオチドの領域について与えられる。好ましい実施形態において、同一性の程度は、基準核酸配列の全長について与えられる。
【0213】
「配列類似性」は、同一であるか、又は保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸の割合を示す。2つのポリペプチド又は核酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるアミノ酸又はヌクレオチドの割合を示す。
【0214】
「同一性%」という用語は、特に、比較する2つの配列間での最適なアライメントにおいて同一であるヌクレオチドの割合を指すことを意図するものであり、前記割合は純粋に統計的であり、2つの配列の間での最適なアライメントを得るために、2つの配列間における差異は、配列の全長にわたってランダムに分布していてもよく、比較する配列は、基準配列と比較した場合に付加又は欠失を含んでいてもよい。2つの配列の比較は、通常、最適なアライメントの後、対応する配列の局所領域を同定するために、セグメント又は「比較窓」に関して前記配列を比較することによって実行される。比較のための最適なアライメントは、手作業で実行されてもよく、又はSmith及びWaterman、1981年、Ads App. Math.、2、482頁の局所相同性アルゴリズムを用いて、Neddleman及びWunsch、1970年、J. Mol. Biol.、48、443頁の局所相同性アルゴリズムを用いて、並びにPearson及びLipman、1988年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85、2444頁の類似性検索アルゴリズムを用いて、若しくは前記アルゴリズムを使用するコンピュータープログラム(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group社、575 Science Drive、Madison、Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N、及びTFASTA)を用いて実行されてもよい。
【0215】
同一性割合は、比較されている配列が対応している同一の位置の数を決定し、この数を比較されている位置の数で除し、この結果に100を乗じることによって得られる。
【0216】
例えば、ウェブサイト、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgiにおいて利用可能である、BLASTプログラム「BLAST 2 sequences」を使用してもよい。
【0217】
核酸は、別の核酸に対して、これら2つの配列が互いと相補的である場合、「ハイブリダイズ可能である」か、又は「ハイブリダイズする」。核酸は、別の核酸に対して、これら2つの配列が互いとともに安定な二重鎖を形成可能である場合、「相補的」である。本発明によれば、ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ポリヌクレオチド間で特定のハイブリダイゼーションが許容される条件(ストリンジェント条件)下で実行される。ストリンジェント条件については、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、J. Sambrookら編、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press社、Cold Spring Harbor、New York、1989年又はCurrent Protocols in Molecular Biology、F. M. Ausubelら編、John Wiley & Sons, Inc.、New Yorkに記載されており、例えば、ハイブリダイゼーション緩衝液(3.5×SSC、0.02%フィコール、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaH2PO4(pH7)、0.5% SDS、2mM EDTA)中、65℃でのハイブリダイゼーションが参照される。SSCとは、0.15Mの塩化ナトリウム/0.15Mのクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーションの後、DNAが移ったメンブレンを、例えば、室温で2×SSCにおいて洗浄し、次いで、最大68℃までの温度で0.1~0.5×SSC/0.1×SDSにおいて洗浄する。
【0218】
相補性パーセントは、第2の核酸配列と水素結合を形成することができる(ワトソン・クリック塩基対)、核酸分子中の隣接する残基の割合を示す(例えば、10個のうちの5個、6個、7個、8個、9個、10個は、50%、60%、70%、80%、90%、及び100%相補的である)。「完璧に相補的」又は「完全に相補的」とは、核酸配列のすべての隣接する残基が、第2の核酸配列中の同数の隣接する残基と水素結合することを意味する。好ましくは、本発明による相補性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、更により好ましくは少なくとも90%、又は最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%である。最も好ましくは、本発明による相補性の程度は100%である。
【0219】
「誘導体」という用語は、ヌクレオチド塩基、糖、又はホスフェートにおいて化学的に誘導体化された任意の核酸を含む。また、「誘導体」という用語は、ヌクレオチド及び天然に存在しないヌクレオチド類似体を含有する核酸も含む。好ましくは、核酸の誘導体化は、その安定性を増加させる。
【0220】
本発明によれば、「核酸配列に由来する核酸配列」は、それが由来する核酸のバリアントであってもよい核酸のことを指す。
【0221】
一実施形態において、オープンリーディングフレームは、レポータータンパク質をコードする。その実施形態において、オープンリーディングフレームは、レポーター遺伝子を含む。ある特定の遺伝子は、それらの遺伝子がそれらを発現する細胞又は有機体に対して付与する特徴が、容易に特定及び測定できるため、又はそれらが選択的マーカーであるため、レポーターとして選ばれる場合がある。レポーター遺伝子は、多くの場合、ある特定の遺伝子が、細胞又は有機体集団に取り込まれているか、又はそこで発現されているかどうかの指標として使用される。好ましくは、レポーター遺伝子の発現産物は、視覚的に検出可能である。一般的な、視覚的に検出可能であるレポータータンパク質は、典型的には、蛍光タンパク質又は発光タンパク質を保有する。特定のレポーター遺伝子の例としては、クラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)(それを発現する細胞を、青色光の下で緑色に輝かせる)、酵素ルシフェラーゼ(ルシフェリンとの反応を触媒して発光する)、及び赤色蛍光タンパク質(RFP)をコードする遺伝子が挙げられる。これらの特定のレポーター遺伝子のうちのいずれかのバリアントも、それらのバリアントが視覚的に検出可能な特性を保有している限り、可能である。例えば、eGFPは、GFPの点変異体バリアントである。
【0222】
本発明によれば、一実施形態において、RNAは、薬学的に活性なRNAを含むか、又はそれからなる。「薬学的に活性なRNA」は、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質をコードするRNAであってもよい。好ましくは、本発明によるRNAは、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質をコードする。好ましくは、オープンリーディングフレームは、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質をコードする。好ましくは、RNAは、任意選択で、サブゲノムプロモーターの制御下であるRNAレプリコンの場合、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0223】
「薬学的に活性なペプチド又はタンパク質」は、治療有効量で対象に投与された場合、対象の状態又は病態に対してプラスの又は有利な効果を有する。好ましくは、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質は、治癒的又は緩和的特性を有し、疾患又は障害の1つ又は複数の症状を寛解させ、緩和し、軽減し、逆転し、その発症を遅延させ、又はその重症度を小さくするために投与することができる。薬学的に活性なペプチド又はタンパク質は、予防的特性を有する場合があり、疾患の発症を遅延させ、又はそのような疾患若しくは病理学的状態の重症度を小さくするために使用することができる。「薬学的に活性なペプチド又はタンパク質」という用語は、タンパク質又はポリペプチド全体を包含し、その薬学的に活性なフラグメントも指すことができる。また、この用語は、薬学的に活性な、ペプチド又はタンパク質の類似体も包含し得る。「薬学的に活性なペプチド又はタンパク質」という用語は、抗原であるペプチド及びタンパク質を包含し、すなわち、ペプチド又はタンパク質は、対象において、治療的、又は部分的若しくは完全に保護的であり得る免疫応答を誘発する。
【0224】
一実施形態において、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質は、免疫学的に活性な化合物、又は抗原、又はエピトープであるか、又はそれを含む。
【0225】
本発明によれば、「免疫学的に活性な化合物」という用語は、好ましくは免疫細胞の成熟を誘導及び/若しくは抑制し、サイトカイン生合成を誘導及び/若しくは抑制することによって免疫応答を変更し、及び/又はB細胞による抗体産生を刺激することによって体液性免疫を変更する、任意の化合物に関する。一実施形態において、免疫応答は、抗体応答(通常、免疫グロブリンG(IgG)を含む)及び/又はT細胞応答等の細胞応答の刺激を伴う。免疫学的に活性な化合物は、限定されるものではないが、抗ウイルス及び抗腫瘍活性を含めた強力な免疫刺激活性を保有する場合があり、また、例えば広範囲のTH2媒介疾患の治療にとって有用であるTH2免疫応答から免疫応答を逸らすことで、免疫応答の他の態様を下方調節することもできる。
【0226】
本発明によれば、「抗原」又は「免疫原」という用語は、免疫応答を誘発するあらゆる物質を網羅する。特に、「抗原」は、抗体又はTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質に関する。本発明によれば、「抗原」という用語は、少なくとも1つのエピトープを含む任意の分子を含む。好ましくは、本発明の文脈における抗原は、任意選択で、プロセシング後に、好ましくはその抗原に対して特異的である免疫反応を誘導する分子である。本発明によれば、体液性免疫反応及び細胞性免疫反応の両方であってもよい免疫反応のための候補である、任意の好適な抗原を使用することができる。本発明の実施形態の文脈において、抗原は、MHC分子の文脈において、細胞によって、好ましくは抗原提示細胞によって提示されることが好ましく、これが、抗原に対する免疫応答をもたらす。抗原は、好ましくは、天然に存在する抗原に対応するか、又はそれに由来する産物である。そのような天然に存在する抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物、及び他の感染性因子、並びに病原体を含んでもよく、若しくはそれらに由来してもよく、又は抗原は腫瘍抗原であってもよい。本発明によれば、抗原は、天然に存在する産物、例えばウイルスタンパク質又はその一部に対応してもよい。好ましい実施形態において、抗原は、表面ポリペプチド、すなわち、細胞、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍の表面上において自然に現れるポリペプチドである。抗原は、細胞、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍に対する免疫応答を誘発することができる。
【0227】
「疾患関連抗原」という用語は、疾患に関連する任意の抗原を指すために、その最も広い意味で使用される。疾患関連抗原は、エピトープを含有する分子であり、これが、宿主の免疫系を刺激して、疾患に対する細胞性抗原特異的免疫応答及び/又は体液性抗体応答を生み出す。したがって、疾患関連抗原は、治療上の目的のために使用することができる。疾患関連抗原は、好ましくは、微生物、典型的には微生物抗原による感染症と関連するか、又はがん、典型的には腫瘍と関連する。
【0228】
「病原体」という用語は、有機体、好ましくは脊椎動物における疾患を引き起こすことができる、病原性の生物的物質を指す。病原体としては、細菌、単細胞真核生物(原生生物)、真菌等の微生物、及びウイルスが挙げられる。
【0229】
「エピトープ」、「抗原ペプチド」、「抗原エピトープ」、「免疫原性ペプチド」、及び「MHC結合ペプチド」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、抗原等の分子における抗原決定因子を指し、すなわち、特にMHC分子の文脈において提示される場合、免疫系によって認識される、例えば、T細胞によって認識される、免疫学的に活性な化合物の一部又はそのフラグメントを指す。タンパク質のエピトープは、好ましくは、前記タンパク質の連続的な又は不連続な部分を含み、5から100の間、好ましくは5から50の間、より好ましくは8から30の間、最も好ましくは10から25の間のアミノ酸長であることが好ましく、例えば、エピトープは、好ましくは、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25アミノ酸長であってもよい。本発明によれば、エピトープは、MHC分子、例えば細胞の表面におけるMHC分子等に結合し得るため、「MHC結合ペプチド」又は「抗原ペプチド」であってもよい。「主要組織適合遺伝子複合体」という用語及びその略語「MHC」には、MHCクラスI及びMHCクラスIIの分子が包含され、すべての脊椎動物に存在する遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質又はMHC分子は、免疫反応において、リンパ球と抗原提示細胞又は疾患細胞との間のシグナル伝達にとって重要であり、MHCタンパク質又はMHC分子はペプチドを結合し、それらをT細胞レセプターによる認識のために提示する。MHCによってコードされているタンパク質は、細胞の表面において発現され、自己抗原(細胞自体に由来するペプチドフラグメント)及び非自己抗原(例えば、侵入している微生物のフラグメント)の両方をT細胞に対して提示する。そのような好ましい免疫原性部分が、MHCクラスI又はクラスII分子に結合する。本明細書において使用される場合、免疫原性部分は、そのような結合が当該技術分野において公知である任意のアッセイを使用することで検出可能である場合、MHCクラスI又はクラスII分子「に結合する」と言われる。「MHC結合ペプチド」という用語は、MHCクラスI及び/又はMHCクラスII分子に結合するペプチドに関する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には8~10アミノ酸長であるが、より長いペプチド又はより短いペプチドが有効であり得る。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には10~25アミノ酸長であり、特に13~18アミノ酸長であるが、一方で、より長いペプチド及びより短いペプチドが有効であり得る。
【0230】
一実施形態において、本発明による、目的とするタンパク質は、標的有機体のワクチン接種にとって好適であるエピトープを含む。当業者であれば、免疫生物学及びワクチン接種の原則の1つが、疾患に対する免疫保護反応は、治療される疾患と免疫学的に関連する抗原による有機体の免疫化によってもたらされるという事実に基づくことを理解するであろう。本発明によれば、抗原は、自己抗原及び非自己抗原を含む群から選択される。非自己抗原は、好ましくは、細菌抗原、ウイルス抗原、真菌抗原、アレルゲン、又は寄生生物抗原である。抗原は、標的有機体において免疫応答を誘発可能であるエピトープを含むことが好ましい。例えば、エピトープは、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍に対する免疫応答を誘発することができる。
【0231】
一部の実施形態において、非自己抗原は、細菌抗原である。一部の実施形態において、抗原は、鳥類、魚類、飼育動物等の哺乳動物を含めた動物に感染する細菌に対する免疫応答を誘発する。好ましくは、免疫応答が誘発される細菌は、病原性細菌である。
【0232】
一部の実施形態において、非自己抗原は、ウイルス抗原である。ウイルス抗原は、例えば、ウイルス表面タンパク質に由来するタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドであり得る。例えば、膜結合型糖タンパク質、キャプシドタンパク質若しくはポリペプチド、又はスパイクタンパク質若しくはポリペプチドであってもよい。一部の実施形態において、抗原は、鳥類、魚類、飼育動物等の哺乳動物を含めた動物に感染するウイルスに対する免疫応答を誘発する。好ましくは、免疫応答が誘発されるウイルスは、病原性ウイルスである。
【0233】
一部の実施形態において、非自己抗原は、真菌に由来するポリペプチド又はタンパク質である。一部の実施形態において、抗原は、鳥類、魚類、飼育動物等の哺乳動物を含めた動物に感染する真菌に対する免疫応答を誘発する。好ましくは、免疫応答が誘発される真菌は、病原性真菌である。
【0234】
一部の実施形態において、非自己抗原は、単細胞真核性寄生生物に由来するポリペプチド又はタンパク質である。一部の実施形態において、抗原は、単細胞真核性寄生生物、好ましくは病原性の単細胞真核性寄生生物に対する免疫応答を誘発する。病原性の単細胞真核性寄生生物は、例えばプラスモディウム(Plasmodium)属、例えば熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)、若しくは卵形マラリア原虫(P. ovale)に由来してもよく、リーシュマニア(Leishmania)属に由来してもよく、又はトリパノソーマ(Trypanosoma)属、例えばクルーズトリパノソーマ(T. cruzi)若しくはブルーストリパノソーマ(T. brucei)に由来してもよい。
【0235】
一部の実施形態において、非自己抗原は、アレルゲン性ポリペプチド又はアレルゲン性タンパク質である。アレルゲン性タンパク質又はアレルゲン性ポリペプチドは、減感作療法としても公知であるアレルゲン免疫療法にとって好適である。
【0236】
一部の実施形態において、抗原は、自己抗原、特に腫瘍抗原である。腫瘍抗原及びそれらの決定については、当業者に公知である。
【0237】
本発明の文脈において、「腫瘍抗原」又は「腫瘍関連抗原」という用語は、通常の条件下では、限られた数の組織及び/若しくは器官において又は特定の発生段階において特異的に発現されるタンパク質に関し、例えば、腫瘍抗原は、通常の条件下では、胃組織、好ましくは胃粘膜において、生殖器官、例えば精巣において、栄養膜組織、例えば胎盤において、又は生殖系細胞において特異的に発現されてもよく、1つ又は複数の腫瘍組織若しくはがん組織において発現又は異常発現される。この文脈において、「限られた数」とは、好ましくは3以下、より好ましくは2以下を意味する。本発明の文脈における腫瘍抗原としては、例えば分化抗原、好ましくは細胞タイプ特異的分化抗原、すなわち通常の条件下ではある特定の分化段階においてある特定の細胞タイプで特異的に発現されるタンパク質、がん/精巣抗原、すなわち通常の条件下では精巣において及び時には胎盤において特異的に発現されるタンパク質、並びに生殖系列特異的抗原が挙げられる。本発明の文脈において、腫瘍抗原は、好ましくは、がん細胞の細胞表面と関連し、好ましくは、正常組織では発現しないか又は稀にしか発現しない。好ましくは、腫瘍抗原又は腫瘍抗原の異常発現によって、がん細胞が特定される。本発明の文脈において、対象、例えばがん疾患に罹患している患者においてがん細胞によって発現されている腫瘍抗原は、好ましくは、前記対象における自己タンパク質である。好ましい実施形態において、本発明の文脈における腫瘍抗原は、通常の条件下では、必須ではない組織若しくは器官、すなわち、免疫系によって損傷を受けた場合に対象の死がもたらされない組織若しくは器官において、又は免疫系がアクセスできないか若しくはほとんどアクセスできない器官若しくは身体構造において、特異的に発現される。好ましくは、腫瘍抗原のアミノ酸配列は、正常組織において発現される腫瘍抗原と、がん組織において発現される腫瘍抗原との間で同一である。
【0238】
本発明において有用であり得る腫瘍抗原の例は、p53、ART-4、BAGE、ベータ-カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディンファミリーの細胞表面タンパク質、例えばCLAUDIN-6、CLAUDIN-18.2、及びCLAUDIN-12、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(又はhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、又はMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/Melan-A、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、MUM-2、MUM-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、p190マイナーBCR-abL、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1、又はRU2、SAGE、SART-1、又はSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、SURVIVIN、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTE、並びにWTである。特に好ましい腫瘍抗原としては、CLAUDIN-18.2(CLDN18.2)及びCLAUDIN-6(CLDN6)が挙げられる。一部の実施形態において、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質が、免疫応答を誘発する抗原である必要はない。好適な、薬学的に活性なタンパク質又はペプチドは、サイトカイン及び免疫系タンパク質、例えば免疫学的に活性な化合物(例えば、インターロイキン、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン、インテグリン、アドレシン、セレクチン(seletin)、ホーミングレセプター、T細胞レセプター、免疫グロブリン)、ホルモン(インスリン、甲状腺ホルモン、カテコールアミン、ゴナドトロピン、栄養ホルモン、プロラクチン、オキシトシン、ドーパミン、ウシソマトトロピン、レプチン、及び同類のもの)、成長ホルモン(例えば、ヒト成長ホルモン)、増殖因子(例えば、上皮増殖因子、神経増殖因子、インスリン様増殖因子、及び同類のもの)、増殖因子レセプター、酵素(組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、生合成又は分解性コレステロール、ステロイド産生酵素、キナーゼ、ホスホジエステラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、デヒドロゲナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アロマターゼ、シトクロム、アデニル酸シクラーゼ又はグアニル酸シクラーゼ(guanylaste cyclase)、ノイラミニダーゼ(neuramidase)、及び同類のもの)、レセプター(ステロイドホルモンレセプター、ペプチドレセプター)、結合タンパク質(成長ホルモン又は増殖因子結合タンパク質、及び同類のもの)、転写及び翻訳因子、腫瘍増殖抑制タンパク質(例えば、血管新生を阻害するタンパク質)、構造タンパク質(コラーゲン、フィブロイン、フィブリノーゲン、エラスチン、チューブリン、アクチン、及びミオシン等)、血液タンパク質(トロンビン、血清アルブミン、第VII因子、第VIII因子、インスリン、第IX因子、第X因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター、プロテインC、フォンウィルブランド因子、抗トロンビンIII、グルコセレブロシダーゼ、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、又は修飾第VIII因子、抗凝固因子、並びに同類のものからなる群から選択することができる。一実施形態において、本発明による薬学的に活性なタンパク質は、リンパ恒常性の調節に関与するサイトカイン、好ましくは、T細胞の発生、プライミング、拡大、分化、及び/又は生存に関与し、好ましくはこれらを誘導又は強化するサイトカインである。一実施形態において、サイトカインは、インターロイキン、例えばIL-2、IL-7、IL-12、IL-15、又はIL-21である。
【0239】
オープンリーディングフレームによってコードされている、更なる好適な目的とするタンパク質は、インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害剤である。RNAが発現のために導入された細胞の生存率は、特に、細胞がRNAで複数回トランスフェクトされた場合、低減される可能性があることが報告されているが、IFN阻害剤は、RNAが発現されることになる細胞の生存率を向上することが見出されている(国際公開第2014/071963(A1)号)。好ましくは、阻害剤は、I型IFNシグナル伝達の阻害剤である。細胞外IFNによるIFNレセプターへの係合を防止すること、及び細胞における細胞内IFNシグナル伝達を阻害することによって、細胞内でのRNAの安定した発現が可能となる。或いは、又は加えて、細胞外IFNによるIFNレセプターへの係合を防止すること、及び細胞内IFNシグナル伝達を阻害することによって、特に細胞がRNAで繰り返しトランスフェクトされる場合、細胞の生存が向上される。理論によって束縛されることを望むものではないが、細胞内IFNシグナル伝達は、翻訳の阻害及び/又はRNA分解をもたらし得ることが予想される。このことは、1つ又は複数のIFN誘導性の抗ウイルス活性エフェクタータンパク質を阻害することによって対処することができる。IFN誘導性の抗ウイルス活性エフェクタータンパク質は、RNA依存性タンパク質キナーゼ(PKR)、2',5'-オリゴアデニル酸シンセターゼ(OAS)、及びRNase Lからなる群から選択することができる。細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、PKR依存性経路及び/又はOAS依存性経路を阻害することを含み得る。好適な目的とするタンパク質は、PKR依存性経路及び/又はOAS依存性経路を阻害可能であるタンパク質である。PKR依存性経路を阻害することは、eIF2-アルファリン酸化を阻害することを含み得る。PKRを阻害することは、少なくとも1種のPKR阻害剤で細胞を処置することを含み得る。PKR阻害剤は、PKRのウイルス性阻害剤であってもよい。PKRの好ましいウイルス性阻害剤は、ワクシニアウイルスE3である。ペプチド又はタンパク質(例えば、E3、K3)が、細胞内IFNシグナル伝達を阻害するためのものである場合、ペプチド又はタンパク質の細胞内発現が好ましい。ワクシニアウイルスE3は、dsRNAに結合及びそれを捕捉して、PKR及びOASの活性化を防止する、25kDaのdsRNA結合タンパク質(遺伝子E3Lによってコードされている)である。E3は、PKRに対して直接的に結合し、その活性を阻害することができ、eIF2-アルファのリン酸化の低減をもたらす。他の好適な、IFNシグナル伝達の阻害剤は、単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus)ICP34.5、トスカーナウイルス(Toscana virus)NS、カイコ核多角体病ウイルス(Bombyx mori nucleopolyhedrovirus)PK2、及びHCV NS34Aである。
【0240】
一実施形態において、細胞内又は細胞外IFNシグナル伝達の阻害剤が、レプリコンによってコードされている。レプリコンは、アルファウイルスレプリカーゼによる複製を可能にする核酸配列要素、典型的にはCSE1、CSE2、及びCSE4を含み、好ましくはまた、サブゲノム転写物の産生を可能にする核酸配列要素、すなわち、サブゲノムプロモーターも含み、典型的にはCSE3を含む。レプリコンは更に、本明細書に記載されるような、1つ又は複数の非ポリペプチド配列修飾性改変、例えば、キャップ、ポリ(A)配列、コドン使用頻度の適合を含んでもよい。複数のオープンリーディングフレームがレプリコン上に存在する場合、細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤は、それらのうちの任意の1つによってコードされていてもよく、任意選択で、サブゲノムプロモーターの制御下にあるか、又は制御下にない。好ましい実施形態において、細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤は、RNAレプリコンの最も上流のオープンリーディングフレームによってコードされている。細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤が、RNAレプリコンの最も上流のオープンリーディングフレームによってコードされている場合、細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤をコードする遺伝情報は、宿主細胞内にRNAレプリコンを導入した後、初期の段階で翻訳されることになり、その後、結果として生じたタンパク質が、細胞内IFNシグナル伝達を阻害することができる。
【0241】
オープンリーディングフレームによってコードされている、更なる好適な目的とするタンパク質は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質である。「アルファウイルス非構造タンパク質」という用語には、アルファウイルス非構造タンパク質の炭水化物修飾形態(例えば、グリコシル化等)及び脂質修飾形態を含めた、ありとあらゆる同時翻訳修飾形態又は翻訳後修飾形態が包含される。
【0242】
一部の実施形態において、「アルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、アルファウイルス起源の個別の非構造タンパク質(nsP1、nsP2、nsP3、nsP4)のうちの任意の1つ若しくは複数、又はアルファウイルス起源の2種以上の非構造タンパク質のポリペプチド配列を含む、ポリタンパク質を指す。一部の実施形態において、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP123及び/又はnsP4を指す。他の実施形態において、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1234を指す。一実施形態において、オープンリーディングフレームによってコードされている目的とするタンパク質は、単一の、任意選択で切断可能な、ポリタンパク質:nsP1234として、nsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4のすべてからなる。一実施形態において、オープンリーディングフレームによってコードされている目的とするタンパク質は、単一の、任意選択で切断可能な、ポリタンパク質:nsP123として、nsP1、nsP2、及びnsP3からなる。その実施形態において、nsP4は、更なる目的とするタンパク質であってもよく、更なるオープンリーディングフレームによってコードされていてもよい。
【0243】
一部の実施形態において、アルファウイルス非構造タンパク質は、例えば宿主細胞内において、複合体又は会合体を形成可能である。一部の実施形態において、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP123(同義的に、P123)とnsP4との複合体又は会合体を指す。一部の実施形態において、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1、nsP2、及びnsP3の複合体又は会合体を指す。一部の実施形態において、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4の複合体又は会合体を指す。一部の実施形態において、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4からなる群から選択される任意の1つ又は複数の複合体又は会合体を指す。一部の実施形態において、アルファウイルス非構造タンパク質は、少なくともnsP4を含む。
【0244】
「複合体」又は「会合体(association)」という用語は、空間的に近接する2つ以上の同じ又は異なるタンパク質分子を指す。複合体のタンパク質は、好ましくは、互いと、直接的又は間接的に、物理的又は生理化学的に接触している。複合体又は会合体は、複数の異なるタンパク質からなってもよく(ヘテロ多量体)、及び/又は1つの特定のタンパク質の複数のコピーからなってもよい(ホモ多量体)。アルファウイルス非構造タンパク質の文脈において、「複合体又は会合体」という用語は、少なくとも2個のタンパク質分子の群であって、そのうちの少なくとも一方がアルファウイルス非構造タンパク質であるものについて説明するものである。複合体又は会合体は、1つの特定のタンパク質の複数のコピーからなってもよく(ホモ多量体)、及び/又は複数の異なるタンパク質からなってもよい(ヘテロ多量体)。多量体の文脈において、「多」とは、2以上、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11以上等を意味する。
【0245】
「機能的アルファウイルス非構造タンパク質」という用語には、レプリカーゼの機能を有するアルファウイルス非構造タンパク質が包含される。したがって、「機能的アルファウイルス非構造タンパク質」は、アルファウイルスレプリカーゼを包含する。「レプリカーゼ機能」は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)、すなわち、(+)鎖RNA鋳型に基づいて(-)鎖RNAの合成を触媒可能である酵素、及び/又は(-)鎖RNA鋳型に基づいて(+)鎖RNAの合成を触媒可能である酵素の機能を含む。したがって、「機能的アルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、(+)鎖(例えばゲノム)RNAを鋳型として使用することで(-)鎖RNAを合成するタンパク質若しくは複合体、ゲノムRNAの(-)鎖の相補体を鋳型として使用することで新しい(+)鎖RNAを合成するタンパク質若しくは複合体、並びに/又はゲノムRNAの(-)鎖の相補体のフラグメントを鋳型として使用することでサブゲノム転写物を合成するタンパク質若しくは複合体を指し得る。機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、例えば、プロテアーゼ(自己切断のため)、ヘリカーゼ、末端アデニリルトランスフェラーゼ(ポリ(A)テール付加のため)、メチルトランスフェラーゼ及びグアニリルトランスフェラーゼ(核酸に5'-キャップを提供するため)、核局在化部位、トリホスファターゼ等の1つ又は複数の追加的な機能を更に有してもよい(Gouldら、2010年、Antiviral Res.、第87巻、111~124頁、Ruppら、2015年、J. Gen. Virol.、第96巻、2483~500頁)。
【0246】
本発明によれば、「アルファウイルスレプリカーゼ」という用語は、天然に存在するアルファウイルス(自然において見出されるアルファウイルス)に由来するRNA依存性RNAポリメラーゼ、及びアルファウイルスのバリアント又は誘導体、例えば弱毒性アルファウイルス等に由来するRNA依存性RNAポリメラーゼを含めた、アルファウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼを指す。本発明の文脈において、任意の特定のレプリカーゼがアルファウイルスレプリカーゼでないことが文脈によって規定されない限り、「レプリカーゼ」及び「アルファウイルスレプリカーゼ」という用語は交換可能に使用される。
【0247】
「レプリカーゼ」という用語は、アルファウイルスレプリカーゼのすべてのバリアント、特に翻訳後修飾バリアント、コンホメーション、アイソフォーム、及びホモログを含み、これらは、アルファウイルス感染細胞によって発現されるか、又はアルファウイルスレプリカーゼをコードする核酸でトランスフェクトされた細胞によって発現される。また、「レプリカーゼ」という用語は、組換え方法によって産生された、また組換え方法によって産生することができる、レプリカーゼのすべての形態を含む。例えば、実験室でのレプリカーゼの検出及び/又は精製を容易にするタグ、例えば、myc-タグ、HA-タグ、又はオリゴヒスチジンタグ(His-tag)を含むレプリカーゼが、組換え方法によって産生されてもよい。
【0248】
任意選択で、アルファウイルスレプリカーゼは、追加的に、アルファウイルスの保存配列要素1(CSE1)又はその相補的配列、保存配列要素2(CSE2)又はその相補的配列、保存配列要素3(CSE3)又はその相補的配列、保存配列要素4(CSE4)又はその相補的配列のうちの任意の1つ又は複数に対して結合する能力によって、機能的に定義される。好ましくは、レプリカーゼは、CSE2[すなわち、(+)鎖]及び/若しくはCSE4[すなわち、(+)鎖]に対して結合可能であるか、又はCSE1の相補体[すなわち、(-)鎖]及び/若しくはCSE3の相補体[すなわち、(-)鎖]に対して結合可能である。
【0249】
レプリカーゼの起源は、任意の特定のアルファウイルスに限定されることはない。好ましい実施形態において、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するセムリキ森林ウイルス、及びセムリキ森林ウイルスのバリアント又は誘導体、例えば弱毒性セムリキ森林ウイルス等を含めたセムリキ森林ウイルスに由来する非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施形態において、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するシンドビスウイルス、及びシンドビスウイルスのバリアント又は誘導体、例えば弱毒性シンドビスウイルス等を含めたシンドビスウイルスに由来する非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施形態において、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、及びVEEVのバリアント又は誘導体、例えば弱毒性VEEV等を含めたVEEVに由来する非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施形態において、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するチクングニアウイルス(CHIKV)、及びCHIKVのバリアント又は誘導体、例えば弱毒性CHIKV等を含めたCHIKVに由来する非構造タンパク質を含む。
【0250】
レプリカーゼはまた、2種以上のアルファウイルスに由来する非構造タンパク質を含んでもよい。したがって、アルファウイルス非構造タンパク質を含み、レプリカーゼ機能を有する異種複合体又は会合体も、本発明によって等しく含まれる。単に例証を目的とするが、レプリカーゼは、第1のアルファウイルスに由来する1つ又は複数の非構造タンパク質(例えば、nsP1、nsP2)と、第2のアルファウイルスに由来する1つ又は複数の非構造タンパク質(nsP3、nsP4)とを含んでもよい。2種以上の異なるアルファウイルスに由来する非構造タンパク質は、別個のオープンリーディングフレームによってコードされていてもよく、又はポリタンパク質、例えばnsP1234として、単一のオープンリーディングフレームによってコードされていてもよい。
【0251】
一部の実施形態において、機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質が発現される、膜複製複合体及び/又は細胞内の液胞を形成可能である。
【0252】
機能的アルファウイルス非構造タンパク質、すなわち、レプリカーゼ機能を伴うアルファウイルス非構造タンパク質が、本発明による核酸分子によってコードされている場合、レプリコンのサブゲノムプロモーターは、存在する場合、前記レプリカーゼと適合性であることが好ましい。この文脈において、適合性であるとは、アルファウイルスレプリカーゼが、存在する場合、サブゲノムプロモーターを認識可能であることを意味する。一実施形態において、これは、サブゲノムプロモーターが、レプリカーゼが由来するアルファウイルスにとって天然である場合、すなわち、これらの配列の天然起源が同じアルファウイルスである場合に達成される。代替的な実施形態において、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスレプリカーゼが由来するアルファウイルスにとって天然ではないが、ただし、アルファウイルスレプリカーゼが、サブゲノムプロモーターを認識可能であることを条件とする。換言すれば、このレプリカーゼは、サブゲノムプロモーターと適合性である(クロスウイルス適合性)。異なるアルファウイルスを起源とするサブゲノムプロモーター及びレプリカーゼに関するクロスウイルス適合性の例は、当該技術分野において公知である。クロスウイルス適合性が存在する限り、サブゲノムプロモーター及びレプリカーゼの任意の組み合わせが可能である。クロスウイルス適合性は、本発明を扱う当業者であれば、サブゲノムプロモーターからのRNA合成にとって好適な条件において、試験するレプリカーゼを、RNA(このRNAは、試験するサブゲノムプロモーターを有する)と一緒にインキュベートすることによって容易に試験することができる。サブゲノム転写物が調製された場合、サブゲノムプロモーターとレプリカーゼは、適合性であると決定される。クロスウイルス適合性の様々な例が公知である(Strauss & Strauss、Microbiol. Rev.、1994年、第58巻、491~562頁によって概説されている)。
【0253】
本発明において、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、RNAレプリコン上に提供されてもよく、又は代替的に、別個の核酸分子、例えばmRNA分子として提供されてもよい。別個のmRNA分子は、任意選択で、例えばキャップ、5'-UTR、3'-UTR、ポリ(A)配列、及び/又はコドン使用頻度の適合を含んでもよい。別個のmRNA分子は、本明細書に記載されるように、トランスで提供され得る。
【0254】
機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームが、RNAレプリコン上に提供される場合、レプリコンは、好ましくは、機能的アルファウイルス非構造タンパク質によって複製することができる。特に、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードするRNAレプリコンは、そのレプリコンによってコードされている機能的アルファウイルス非構造タンパク質によって複製することができる。この実施形態は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードするどの核酸分子もトランスで提供されていない場合に、非常に好ましい。この実施形態において、レプリコンのシス複製が目標とされる。好ましい実施形態において、RNAレプリコンは、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームだけでなく、目的とするタンパク質をコードする、少なくとも1つの更なるオープンリーディングフレームも含み、機能的アルファウイルス非構造タンパク質によって複製することができる。
【0255】
複数のオープンリーディングフレームがレプリコン上に存在する場合、機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、それらのうちの任意の1つによってコードされていてもよく、任意選択で、サブゲノムプロモーターの制御下にあるか、又は制御下にないが、好ましくは、サブゲノムプロモーターの制御下にない。好ましい実施形態において、機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、RNAレプリコンの最も上流のオープンリーディングフレームによってコードされている。機能的アルファウイルス非構造タンパク質が、RNAレプリコンの最も上流のオープンリーディングフレームによってコードされている場合、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードする遺伝情報は、宿主細胞内にRNAレプリコンを導入した後、初期の段階で翻訳されることになり、その後、結果として生じたタンパク質が、宿主細胞において、複製と、任意選択でサブゲノム転写物の産生とを促進し得る。
【0256】
レプリコンに含まれているにせよ、又はトランスで提供された別個の核酸分子に含まれているにせよ、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの存在によって、レプリコンが複製され、結果として、レプリコンによってコードされている目的とする遺伝子を、サブゲノムプロモーターの制御下において、高いレベルで発現させることができる。
【0257】
RNAレプリコンは、任意選択で、サブゲノムプロモーターの制御下における、目的とするペプチド又は目的とするタンパク質をコードする1つ又は複数の遺伝子の発現にとって好適である。様々な実施形態が可能である。それぞれが目的とするペプチド又は目的とするタンパク質をコードする、1つ又は複数のオープンリーディングフレームが、RNAレプリコン上に存在してもよい。RNAレプリコンの最も上流のオープンリーディングフレームは、「第1のオープンリーディングフレーム」と呼ばれる。一部の実施形態において、「第1のオープンリーディングフレーム」は、RNAレプリコンの唯一のオープンリーディングフレームである。任意選択で、1つ又は複数の更なるオープンリーディングフレームが、第1のオープンリーディングフレームの下流に存在してもよい。第1のオープンリーディングフレームの下流の、1つ又は複数の更なるオープンリーディングフレームは、それらが第1のオープンリーディングフレームの下流に存在している(5'側から3'側)への順序で、「第2のオープンリーディングフレーム」、「第3のオープンリーディングフレーム」等と呼んでもよい。好ましくは、それぞれのオープンリーディングフレームは、開始コドン(塩基トリプレット)、典型的には、(それぞれのDNA分子における)ATGに対応する、(RNA分子における)AUGを含む。
【0258】
レプリコンが3'複製認識配列を含む場合、すべてのオープンリーディングフレームが、3'複製認識配列の上流に局在することが好ましい。
【0259】
1つ又は複数のオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンが宿主細胞内に導入された場合、レプリコンは、第1のオープンリーディングフレームの翻訳のための鋳型として、直接的に働き得る。好ましくは、レプリコンは5'-キャップを含む。これは、レプリコンからの直接的な、第1のオープンリーディングフレームによってコードされている遺伝子の発現に役立つ。
【0260】
一部の実施形態において、レプリコンの少なくとも1つのオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモーター、好ましくはアルファウイルスサブゲノムプロモーターの制御下にある。アルファウイルスサブゲノムプロモーターは非常に効率的であるため、高いレベルでの異種遺伝子発現にとって好適である。好ましくは、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスにおけるサブゲノム転写物のためのプロモーターである。これは、サブゲノムプロモーターが、アルファウイルスにとって天然であり、好ましくは、前記アルファウイルスにおいて、1つ又は複数の構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの転写を制御しているものであることを意味する。或いは、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターのバリアントであり、宿主細胞において、サブゲノムRNA転写のためのプロモーターとして機能する任意のバリアントが好適である。レプリコンがサブゲノムプロモーターを含む場合、レプリコンは、保存配列要素3(CSE3)又はそのバリアントを含むことが好ましい。
【0261】
好ましくは、サブゲノムプロモーターの制御下にある少なくとも1つのオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモーターの下流に局在する。好ましくは、サブゲノムプロモーターは、オープンリーディングフレームの転写物を含むサブゲノムRNAの産生を制御する。
【0262】
一部の実施形態において、第1のオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモーターの制御下にある。第1のオープンリーディングフレームがサブゲノムプロモーターの制御下にある場合、その局在化は、アルファウイルスのゲノムにおける構造タンパク質をコードするオープンリーディングの局在化と類似する。第1のオープンリーディングフレームがサブゲノムプロモーターの制御下にある場合、第1のオープンリーディングフレームによってコードされている遺伝子は、レプリコン及びそのサブゲノム転写物の両方から発現され得ることが好ましい(後者は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質の存在下で)。それぞれがサブゲノムプロモーターの制御下にある、1つ又は複数の更なるオープンリーディングフレームが、サブゲノムプロモーターの制御下にある第1のオープンリーディングフレームの下流に存在してもよい。1つ又は複数の更なるオープンリーディングフレーム、例えば第2のオープンリーディングフレームによってコードされている遺伝子は、それぞれがサブゲノムプロモーターの制御下にある、1つ又は複数のサブゲノム転写物から翻訳され得る。例えば、RNAレプリコンは、第2の目的とするタンパク質をコードする転写物の産生を制御するサブゲノムプロモーターを含んでもよい。
【0263】
他の実施形態において、第1のオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモーターの制御下にない。第1のオープンリーディングフレームがサブゲノムプロモーターの制御下にない場合、第1のオープンリーディングフレームによってコードされている遺伝子は、レプリコンから発現され得る。それぞれがサブゲノムプロモーターの制御下にある、1つ又は複数の更なるオープンリーディングフレームが、第1のオープンリーディングフレームの下流に存在してもよい。1つ又は複数の更なるオープンリーディングフレームによってコードされている遺伝子は、サブゲノム転写物から発現され得る。
【0264】
本発明によるレプリコンを含む細胞において、レプリコンは、機能的アルファウイルス非構造タンパク質によって増幅されてもよい。加えて、レプリコンが、サブゲノムプロモーターの制御下にある1つ又は複数のオープンリーディングフレームを含む場合、1つ又は複数のサブゲノム転写物が、機能的アルファウイルス非構造タンパク質によって調製されることが予期される。機能的アルファウイルス非構造タンパク質は、トランスで提供されてもよく、又はレプリコンのオープンリーディングフレームによってコードされていてもよい。
【0265】
レプリコンが、目的とするタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを2つ以上含む場合、それぞれのオープンリーディングフレームは、異なるタンパク質、例えば、異なる薬学的に活性なペプチド又はタンパク質をコードすることが好ましい。例えば、第2のオープンリーディングフレームによってコードされているタンパク質は、第1のオープンリーディングフレームによってコードされているタンパク質と異なる。
【0266】
一部の実施形態において、第1の及び/又は更なるオープンリーディングフレームによってコードされている、好ましくは、第1のオープンリーディングフレームによってコードされている、目的とするタンパク質は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質又はIFNシグナル伝達の阻害剤、例えばE3である。一部の実施形態において、第1の及び/又は更なるオープンリーディングフレームによってコードされている、例えば、第2のオープンリーディングフレームによってコードされている、目的とするタンパク質は、薬学的に活性なペプチド若しくはタンパク質、又はレポータータンパク質である。
【0267】
一実施形態において、第1のオープンリーディングフレームによってコードされている、目的とするタンパク質は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質である。その実施形態において、レプリコンは、好ましくは5'-キャップを含む。特に、第1のオープンリーディングフレームによってコードされている、目的とするタンパク質が、機能的アルファウイルス非構造タンパク質である場合、好ましくは、レプリコンが5'-キャップを含む場合、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードする核酸配列は、レプリコンから効率的に翻訳することができ、その後、結果として生じたタンパク質が、レプリコンの複製を促進し、サブゲノム転写物の合成を促進し得る。この実施形態は、機能的アルファウイルス非構造タンパク質をコードする更なる核酸分子が、使用されていないか、又はレプリコンと一緒に存在しない場合、好ましくあり得る。この実施形態において、レプリコンのシス複製が目標とされる。
【0268】
本明細書に記載される組成物は、本明細書に記載される疾患等の疾患、例えば、投与されるRNAによってコードされている抗原と関連する疾患を治療するために投与され得る。
【0269】
「疾患」という用語は、個体の身体に影響を及ぼす異常な状態を指す。疾患は、特定の症状及び兆候と関連した医学的状態と解釈されることが多い。疾患は、感染疾患等、元来は外部源に由来する因子によって引き起こされたり、又は疾患は、自己免疫性疾患等、身体内の機能不全によって引き起こされたりする。ヒトにおいて、「疾患」は、罹患した個人に対して疼痛、機能不全、苦痛、社会的問題、若しくは死を引き起こすか、又はその個人と接触した人々に同様の問題を引き起こす任意の状態を指すように、より広い意味で使用されることが多い。このより広い意味において、「疾患」には、傷害、能力障害、障害、症候群、感染症、孤発性の症状、逸脱した行動、並びに構造及び機能の非定型変種が包含されることもあるが、他の文脈において及び他の目的にとっては、これらは区別可能な区分と見なされる場合がある。多くの疾患に罹患し、生活することは、人生観及び人格を変えてしまう可能性もあるため、疾患は通常、個人に対して、身体的にだけでなく、感情的にも影響を及ぼす。
【0270】
「抗原と関連する疾患」又は「抗原を伴う疾患」という用語は、抗原に関与する任意の疾患、例えば、抗原の存在によって特徴付けられる疾患を指す。抗原を伴う疾患は、感染性疾患、自己免疫性疾患、又はがん疾患若しくは単にがんであり得る。上述したように、抗原は、疾患関連抗原、例えば、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、又は細菌性抗原であってもよい。
【0271】
「感染性疾患」という用語は、個体から個体に、又は有機体から有機体に伝達される可能性があり、微生物因子によって引き起こされる任意の疾患(例えば、感冒)を指す。感染性疾患については当該技術分野で公知であり、例えば、それぞれ、ウイルス、細菌、及び寄生生物が原因である、ウイルス性疾患、細菌性疾患、又は寄生生物疾患が挙げられる。この点に関して、感染性疾患は、例えば、肝炎、性行為感染症(例えば、クラミジア又は淋病)、結核、HIV/後天性免疫不全症候群(AIDS)、ジフテリア、B型肝炎、C型肝炎、コレラ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザ、インフルエンザ、口蹄疫のような動物疾患、小反芻動物病、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス、又はシャーガス、マラリア、及び他のもの等の寄生生物疾患であってもよい。
【0272】
「自己免疫性疾患」という用語は、身体が自己組織の一部の構成要素に対して免疫原性(すなわち、免疫系)応答を生じる任意の疾患を指す。換言すれば、免疫系は、身体内の一部の組織又は系を自己として認識するその能力を失い、その組織又は系が外来性であるかのように、それを標的とし、攻撃する。自己免疫性疾患は、主に1つの器官が影響されるもの(例えば、溶血性貧血及び抗免疫甲状腺炎)、及び自己免疫性疾患プロセスが多くの組織を通じて拡散するもの(例えば、全身性エリテマトーデス)に分類することができる。例えば、多発性硬化症は、脳及び脊髄の神経線維を囲う神経鞘を攻撃するT細胞によって引き起こされると考えられている。これは、協調の喪失、脱力感、及びかすみ目をもたらす。自己免疫性疾患は、当該技術分野において公知であり、例えば、橋本甲状腺炎、グレーブス病、狼瘡、多発性硬化症、リウマチ性関節炎、溶血性貧血、抗免疫甲状腺炎、全身性エリテマトーデス、セリアック病、クローン病、大腸炎、糖尿病、強皮症、乾癬、及び同類のものが挙げられる。
【0273】
「がん疾患」又は「がん」という用語は、典型的には無秩序な細胞増殖によって特徴付けられる、個体における生理学的状態を指すか、又はそれについて説明する。がんの例としては、限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、神経膠腫、及び白血病が挙げられる。より具体的には、そのようながんの例としては、骨がん、血液がん、肺がん、肝がん、膵がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚又は眼球内黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門部のがん、胃がん、結腸がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん、性器及び生殖器の癌腫、ホジキン病、食道のがん、小腸のがん、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、副腎のがん、軟組織の肉腫、膀胱のがん、腎臓のがん、腎細胞癌、腎盂の癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉性がん、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、及び下垂体腺腫が挙げられる。また、本発明による「がん」という用語は、がん転移も含む。
【0274】
「免疫応答」という用語は、免疫原性の、細菌若しくはウイルス等の有機体、細胞、又は物質等に対する免疫系の反応に関する。「免疫応答」という用語には、自然免疫応答及び適応免疫応答が包含される。好ましくは、免疫応答は、免疫細胞の活性化、サイトカイン生合成及び/又は抗体産生の誘導に関連する。
【0275】
本発明の組成物によって誘導される免疫応答は、抗原提示細胞、例えば樹状細胞及び/又はマクロファージ等の活性化の工程、前記抗原提示細胞による抗原又はそのフラグメントの提示の工程、並びにこの提示に起因する細胞傷害性T細胞の活性化の工程を含むことが好ましい。
【0276】
「免疫細胞」という用語は、個体の身体の防御に関与する免疫系の細胞を指す。「免疫細胞」という用語は、マクロファージを含む白血球、単球(マクロファージの前駆細胞)、好中球等の顆粒球、好酸球及び好塩基球、樹状細胞、マスト細胞、並びにB細胞、T細胞、及びナチュラルキラー(NK)細胞等のリンパ球を含めた、特定のタイプの免疫細胞及びそれらの前駆細胞を包括する。マクロファージ、単球(マクロファージの前駆細胞)、好中球、樹状細胞、及びマスト細胞は、貪食細胞である。
【0277】
「免疫療法」という用語は、免疫応答を誘導、強化、又は抑制することによる、疾患又は状態の治療に関する。免疫応答を誘発又は増幅するように設計された免疫療法が、活性化免疫療法に分類される一方で、免疫応答を低減又は抑制する免疫療法は、抑制免疫療法に分類される。「免疫療法」という用語には、抗原免疫化若しくは抗原ワクチン接種、又は腫瘍免疫化若しくは腫瘍ワクチン接種が包含される。また、「免疫療法」という用語は、リウマチ性関節炎、アレルギー、糖尿病、又は多発性硬化症等の自己免疫性疾患の文脈において、不適切な免疫応答が調節されてより適切な免疫応答となるように、免疫応答を操作することにも関する。
【0278】
「免疫化」又は「ワクチン接種」という用語は、例えば治療又は予防上の理由から、免疫応答を誘導する目的で、個体に対して抗原を投与するプロセスについて説明するものである。
【0279】
「治療的処置」又は単に「治療」という用語は、個体の健康状況を改善し、及び/又はその寿命を延ばす(延長させる)、任意の治療に関する。前記治療は、個体の疾患を排除する、個体の疾患の進展を停止する若しくは遅らせる、個体の疾患の進展を阻害する若しくは遅らせる、個体の症状の頻度若しくは重症度を減少させる、及び/又は疾患を現在有する若しくは過去に有していた個体での再発を減少させる可能性がある。
【0280】
「予防的処置」又は「防止的処置」という用語は、疾患が個体に出現することを防止することを意図した、あらゆる処置に関する。「予防的処置」又は「防止的処置」という用語は、本明細書において交換可能に使用される。
【0281】
「保護する」、「防止する」、「予防的」、「防止的」、又は「保護的」という用語は、個体における疾患、例えば腫瘍の出現及び/又は伝播の防止及び/又は処置に関する。例えば、本発明の組成物を投与することによる免疫療法の予防的投与は、受容する個体を腫瘍の進展から保護することができる。例えば、本発明の組成物を投与することによる免疫療法の治療的投与は、疾患の進展を停止し、例えば腫瘍の進行/増殖の阻害をもたらすことができる。これには、腫瘍の進行/増殖の減速、特に、好ましくは腫瘍の排除をもたらす、腫瘍の進行の妨害が含まれる。免疫療法の治療的投与は、例えば、既存の腫瘍の内転移又は転移から、個体を保護することができる。
【0282】
「個体」又は「対象」という用語は、脊椎動物、特に哺乳動物に関する。例えば、本発明の文脈における哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、飼育哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ等、実験動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等、及び動物園の動物等の捕らわれている動物である。また、「対象」という用語は、鳥類等の非哺乳類脊椎動物(特に、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ等の飼育鳥類)、及び魚類(特に、養殖魚、例えばサケ又はナマズ)にも関する。また、「動物」という用語は、本明細書において使用される場合、ヒトも包含する。
【0283】
本明細書に記載されるポリプレックス粒子等の薬剤は、任意の好適な医薬組成物の形態で投与することができる。「医薬組成物」という用語は、治療有効薬剤又はその塩を、好ましくは、緩衝液、保存剤、及び浸透圧調節剤等の医薬賦形剤と一緒に含む配合物に関する。前記医薬組成物は、前記医薬組成物を個体に投与することによって、疾患又は障害を治療する、防止する、又はその重症度を低減するために有用である。医薬組成物はまた、当該技術分野において医薬配合物としても公知である。医薬組成物は、局所的に投与されてもよく、又は全身的に投与されてもよい。本発明の文脈において、医薬組成物は、本明細書に記載される粒子を含む。
【0284】
「全身投与」という用語は、治療有効薬剤が有意な量で、個体の身体内に広く分布し、生物学的効果を発揮するように、その薬剤を投与することを指す。本発明によれば、投与は非経口投与によることが好ましい。
【0285】
「非経口投与」という用語は、治療有効薬剤が腸を通過しないように、その薬剤を投与することを指す。「非経口投与」という用語には、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、又は動脈内投与が包含されるが、これらに限定されない。
【0286】
特に好ましい一実施形態において、本発明による組成物は、骨格筋等の筋肉細胞に対して投与される。したがって、筋肉内注射等による筋肉内投与が、好ましい投与経路である。
【0287】
投与は、様々な方法で達成することができる。一実施形態において、本発明による組成物は、注射によって投与される。好ましい実施形態において、注射は、針を介する。代替案として、無針注射が使用されてもよい。
【0288】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1種のアジュバントを含んでもよい。「アジュバント」という用語は、抗原又は抗原ペプチドと組み合わせて個体に対して投与された場合、免疫応答を長期化、又は強化、又は加速させる化合物に関する。アジュバントは、1つ又は複数の機構によってそれらの生物学的活性を発揮すると想定され、これには、抗原の表面積の増加、身体内における抗原保持の長期化、抗原放出の遅延、マクロファージへの抗原の標的化、抗原の取り込みの増加、抗原プロセシングの強化、サイトカイン放出の刺激、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、T細胞等の免疫細胞の刺激及び活性化、並びに免疫細胞の非特異的活性化が含まれる。アジュバントは、オイルエマルション(例えば、フロイントアジュバント)、ミネラル化合物(ミョウバン等)、細菌による産物(百日咳菌(Bordetella pertussis)の毒素等)、又は免疫刺激性複合体等の、異種群の化合物を含む。アジュバントの例としては、サポニン、フロイント不完全アジュバント、フロイント完全アジュバント、トコフェロール、又はミョウバンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0289】
本発明による医薬組成物は、概して、「薬学的有効量」で、「薬学的に許容される調製物」として適用される。
【0290】
「薬学的有効量」という用語は、単独で、又は更なる用量と一緒になって、所望される反応又は所望される効果を達成する量を指す。特定の疾患を治療する場合、所望される反応は、好ましくは、疾患の過程の阻害に関する。これには、疾患の進行を遅くすることと、特に、疾患の進行を中断するか、又は逆転することとが含まれる。疾患の治療において所望される反応は、前記疾患又は前記状態の発症の遅延又は発症の防止である場合もある。本明細書に記載される組成物の有効量は、治療しようとする状態、疾患の重症度、患者の個別のパラメーター、例えば年齢、生理学的状態、大きさ、及び体重等、治療の持続期間、付随する療法の種類(存在する場合)、投与の具体的な経路、並びに類似する因子に左右されることになる。したがって、本明細書に記載される組成物の投与される用量は、このような様々なパラメーターに左右され得る。初回用量での患者における反応が不十分である場合、より高い用量(又はより局所的な異なる投与経路によって達成される、事実上より高い用量)が使用されてもよい。
【0291】
「薬学的に許容される」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質の無毒性を指す。
【0292】
本発明の医薬組成物は、塩、緩衝液、保存剤、担体、及び任意選択で他の治療剤を含有してもよい。好ましくは、本発明の医薬組成物は、1つ又は複数の、薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含む。
【0293】
「賦形剤」という用語は、結合剤、滑沢剤、増粘剤、界面活性剤、保存剤、乳化剤、緩衝液、香味剤、又は着色剤等の、有効成分ではない、医薬組成物中のすべての物質を示すことを意図するものである。
【0294】
「希釈剤」という用語は、希釈するため及び/又は薄めるための薬剤に関する。また、「希釈剤」という用語には、流体、液体、若しくは固体懸濁液、及び/又は混合媒体のうちの1つ又は複数が含まれる。
【0295】
「担体」という用語は、ヒトに対する投与にとって好適である、1種又は複数の適合性の固体若しくは液体充填剤、又は希釈剤に関する。「担体」という用語は、活性成分の適用を促進するために活性成分と組み合わされる、天然又は合成の有機又は無機成分に関する。好ましくは、担体成分は、滅菌液体、例えば水又は油等であり、鉱物油、動物、又は植物に由来するもの、例えばピーナッツ油、ダイズ油、ゴマ油、ヒマワリ油等が含まれる。また、塩溶液、並びにデキストロース及びグリセリン水溶液を水性担体化合物として使用することもできる。
【0296】
治療上の使用のための薬学的に許容される担体又は希釈剤は、医薬分野において周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.(A. R Gennaro編、1985年)に記載されている。好適な担体の例としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、カカオバター、及び同類のものが挙げられる。好適な希釈剤の例としては、エタノール、グリセリン、及び水が挙げられる。
【0297】
医薬担体、賦形剤、又は希釈剤は、意図される投与経路及び標準的な薬剤業務を考慮して選択することができる。本発明の医薬組成物は、担体、賦形剤、若しくは希釈剤として、又はそれに加えて、任意の好適な結合剤、滑沢剤、懸濁剤、コーティング剤、及び/又は可溶化剤を含んでもよい。好適な結合剤の例としては、デンプン、ゼラチン、天然の糖、例えばグルコース、無水ラクトース、易流動性ラクトース、ベータ-ラクトース、トウモロコシ甘味料、天然及び合成ガム、例えばアカシア、トラガカント、又はアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、並びにポリエチレングリコールが挙げられる。好適な滑沢剤の例としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及び同類のものが挙げられる。保存剤、安定化剤、染料、及び更には香味剤も、医薬組成物中に提供することができる。保存剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。抗酸化剤及び懸濁剤を使用することもできる。
【0298】
一実施形態において、組成物は、水性組成物である。水性組成物は、任意選択で、溶質、例えば塩を含んでもよい。一実施形態において、組成物は、凍結乾燥組成物の形態である。凍結乾燥組成物は、それぞれの水性組成物を凍結乾燥することによって得ることができる。
【0299】
本明細書において提供される薬剤及び組成物は、単独で使用されてもよく、又は外科手術、放射線照射、化学療法、及び/若しくは骨髄移植(自家、同系、同種異系、又は非血縁者間)等の他の治療レジメンと組み合わせて使用されてもよい。
【0300】
本発明を、図及び実施例によって詳細に説明し、例証するが、これらは、例証を目的として使用されているに過ぎず、限定的であることを意図するものではない。本記載及び実施例によって、本発明に同様に含まれる更なる実施形態が、当業者に利用可能となる。
【実施例】
【0301】
(実施例1)
ポリプレックスのインビトロ毒性
材料及び方法
In vivo-jetPEI(商標)試薬、カタログ番号201-50Gを、Polyplus-Transfection社(Illkirch、France)から購入した。In vivo-jetPEI(商標)を、滅菌非発熱性水中150mM(窒素残留物の濃度として表される)で準備する。JetPEIを、HEPES 10mM、pH7.1、グルコース5%(HBG×1)緩衝液中で、所望される濃度(窒素残留物の濃度として表される)まで希釈した。
【0302】
インビトロ細胞傷害性アッセイ
HEK-293細胞を、ウェル当たり細胞2×104個の濃度で、96ウェルプレート(平底)に播種した。細胞は、37℃及び7.5%CO2に維持した。24時間後、上清を廃棄し、50μLのDMEM媒体(+10%FCS)で置き換えた。PEIを、10%のFCSを伴うRPMI媒体で希釈(1:5)し、およそ15分間プレインキュベートした。次いで、最終媒体体積が100μlとなるように、50μlのPEI溶液を細胞に添加した。更に18時間経過した後、XTT-アッセイ(XTT細胞生存率キット#9095、New England Biolabs GmbH社、Frankfurt、Germany)を、取扱説明書に従って実施した。PEI濃度の関数としての細胞死データを、シグモイド曲線の等式を使用してフィッティングした。
【0303】
【0304】
図1Aは、HEK-293細胞におけるインビトロでの遊離の純粋なPEIの毒性を示している。IC
50=77μMの窒素(遊離)。
図1Bは、HEK-293細胞におけるインビトロでのPEI/レプリコン-RNAポリプレックスの毒性を示している。IC
50=542μMの窒素(ポリプレックス配合物)。
【0305】
結果及び結論
遊離PEIは、18μMより高い窒素濃度において細胞死をもたらす(
図1A)。毒性の問題を避けるために、細胞培地中の遊離PEIの最終濃度は、前述の限度を下回るべきである。
ポリプレックスは、遊離PEIよりも引き起こす細胞死は少ないが、PEIの濃度が増加した場合、それらの毒性もまた増加する(
図1B)。ポリプレックスの添加後の細胞死は、以下の等式を使用して計算することができる。
細胞死%=21.13+78.59/(1+10^((-0.27-log(濃度))*3.13))
N/Pが11.6のポリプレックス(10mg/lのRNA濃度、PEI=348μM)の場合、細胞死は36.8%である一方で、N/Pが15.8のポリプレックスの場合、細胞死は52.3%である。
【0306】
(実施例2)
ポリプレックスの安定性研究
材料及び方法
実施例1のIn vivo-jetPEI(商標)試薬を使用した。ルシフェラーゼをコードするRNA、Construct D1-824 Replicon、ID R076 1を、RNA Biochemistryユニットによって準備した(BioNTech RNA Pharmaceuticals GmbH社、Mainz、Germany)。
【0307】
ポリプレックスの調製
調製の前に、in-vivo jetPEI(商標)及び糖溶液を室温で平衡化した。in-vivo jetPEI(商標)/RNA複合体の調製を、滅菌糖溶液を使用して、ラミナーフローフードにおいて実施した(Table 1(表1))。配合物中の糖の最終濃度は、5~10%w/vであった。
すべての配合物は、250mg/lのRNA濃度及び11.6のN/P比で調製した。
調製工程は、以下の通りであった。
1.濃縮糖緩衝液(HBG×2、MBG×2、又はHBT×2)を使用して、RNAを希釈して、1/2の最終体積の溶液を調製した。穏やかなボルテックスを適用した。
2.in-vivo jetPEI(商標)試薬を、同じ糖緩衝液及び滅菌水を使用して希釈して、3/5の最終体積の溶液を調製した。穏やかなボルテックスを適用した。
3.希釈したin-vivo jetPEI(商標)から体積の半分を、希釈したRNAに対して一挙に急速に添加し、穏やかなボルテックスを適用した。
4.ポリプレックスを室温で15から20分間インキュベートした後、適切な保管条件に移した。
【0308】
【0309】
ポリプレックスの凍結乾燥
配合物を、ベンチトップマニフォールド式凍結乾燥機、Epsilon 2-4 LSCplus(Martin Christ Gefriertrocknungsanlagen GmbH社、Osterode、Germany)に配置した。
サンプルを、1気圧で、-40℃に凍結した(およそ2℃/分)。60~90分間かかった。
圧力を、-40℃で10分間かけて、0.2気圧に低減した。
サンプルを、0.2気圧及び-40℃で、4時間乾燥させた。
サンプルを、0.2気圧で2時間かけて、-16℃に加熱した(勾配)。
サンプルを、-16℃及び0.2気圧で、更に4時間乾燥させた。
圧力を、-16℃で10分間かけて、0.01気圧に低減した。
サンプルを、-16℃及び0.01気圧で、更に4時間乾燥させた。
サンプルを、0.01気圧で2時間かけて、20℃に加熱した(勾配)。
サンプルを、20℃及び0.01気圧で、更に8時間乾燥させた。
【0310】
ポリプレックスからのRNA放出
90μlのサンプルが入った12本の試験管を、Table 2(表2)に従って調製した。
【0311】
【0312】
500mMのNaCl中50g/lのヘパリン10μlを、各試験官に添加した。混合物を、ボルテックス機において300rpmの振盪速度で、20分間30℃でインキュベートした。
【0313】
RNAの完全性
5μlの放出RNAを、バイオアナライザー測定のために使用した。RNAを、5μlのホルムアミドと混合した。RNAの完全性の定量化を、Agilent 2100バイオアナライザー装置を用いて実施した。Agilent RNA 6000ナノキットを、30分間、室温で平衡化した。「Nano Gel Matrix」400μlを、1500gで10分間、遠心分離した。65μlの上清を、1μlのよくボルテックスされた「Nano Dye Concentrate」と混合し、15000gで10分間遠心分離して、「Gel-Dye-Mix」を得た。調製したサンプルを、70℃で10分間加熱することによって変性させ、「Nano Ladder」も同じ温度で2分間加熱した。チップは、「Priming Station」を使用して、9μLの「Gel-Dye-Mix」をGマークの位置に添加し、チップを30秒間加圧することによって、プライミングした。次いで、9μLの「Gel-Dye-Mix」を、他の2か所のG位置に添加した。7.5μLの「Marker」を、ラダー位置に添加し、5μLをそれぞれのサンプル位置に添加した。変性した「Nano Ladder」(1.5μL)をラダー位置に添加した後、1μLのサンプルを、12か所のサンプルウェルすべてに添加した(使用していないウェルには1μLのH2Oを添加する)。Chipを、IKA Vortex機に配置し、2000rpmでのボルテックスを1分間適用した。このチップを装置で測定し、レプリコンRNAピークを、47~57秒で検出した。RNAの完全性を、レプリコンRNA領域を選択することによって、スミア分析を使用するExpert 2100ソフトウェアで計算した。
相対的なRNAの完全性%を、以下の等式を使用して計算した。
【0314】
【0315】
インビトロトランスフェクションアッセイ
C2C12細胞を、ウェル当たり細胞2×104個の濃度で、96ウェルプレート(平底)に播種した。細胞は、37℃及び7.5% CO2に維持した。24時間後、上清を廃棄し、50μLのDMEM媒体(+10% FCS)で置き換えた。ポリプレックスを、10%のFCSを伴うDMEM媒体で希釈(1:5)し、およそ15分間プレインキュベートした。次いで、最終媒体体積が100μlとなるように、50μlのポリプレックス溶液を細胞に添加した。更に48時間経過した後、Bright-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイ(カタログ番号E2610、Promega GmbH社、Mannheim、Germany)を、取扱説明書に従って実施した。
【0316】
相対的なルミネセンス%を、以下の等式を使用して計算した。
【0317】
【0318】
図2は、1週間の保管後の異なる保管条件による、N/Pが11.6のPEI/レプリコン-RNAポリプレックスとともにインキュベートした後の、C2C12筋肉細胞からの相対的なルミネセンスを示している。
【0319】
図3は、2週間の保管後の異なる保管条件における、N/Pが11.6のPEI/レプリコン-RNAポリプレックスの相対的なRNAの完全性を示している。
【0320】
結果及び結論
ポリプレックスの保管安定性は、液体状態では不良である(4及び25℃)。ポリプレックスの安定性は、液体状態よりも、固体状態(凍結又は凍結乾燥)の方が有意に良好である。HBT+EDTA緩衝液における、固体状態でのポリプレックスの保管安定性は、HBG×1緩衝液における保管安定性よりも有意に良好である。
HBT+EDTA中のポリプレックスの場合、固体状態での長期の保管安定性が可能であるが、HBG×1中のポリプレックスの場合、液体状態での長期の保管安定性は、非常に可能性が低い。
レプリコン-RNAによるポリプレックス配合物は、トレハロース5~20%(w/v)、EDTA 80μM~5mMの添加によって安定化することができる。
【0321】
(実施例3)
直鎖状PEIのMw計算についての説明
直鎖状PEIを、2-エチル-2-オキサゾリンから、2つの工程で合成した。まず、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)を、開始剤の存在下で、2-エチル-2-オキサゾリンを開環異性化重合することによって得る(
図4)。次いで、PEOX(N-プロピオニル-PEI)を酸加水分解して、N-プロピオニル基を切り落としてPEIを生成する(
図5)。
【0322】
50kDaの分子量を有するPEOX(N-プロピオニル-PEI)を完全に脱アシル化することで、22kDaの分子量を有する直鎖状PEIが得られる。中間体生成物(PEOX)の分子量の決定は、屈折率検出器又は多角度光散乱検出器を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィーによって実施する。完全な技術的詳細については、Adib, Abdennaji、Fabrice Stock、及びPatrick Erbacherの「Method for Manufacturing Linear Polyethylenimine (PEI) for Transfection Purpose and Linear PEI Obtained with Such Method」、米国特許出願第12/671,312号に記載されている。
【0323】
本発明によれば、40~60kDaの範囲のMWを有するPEOXから合成されたPEIが、レプリコン-RNAにとって強力なトランスフェクション試薬である。
【0324】
本発明による使用のためのPEIは、Polyplus-Transfection SA社(Illkirch-Graffenstaden、France)のin-vivo JetPEI、Polysciences Europe GmbH社(Eppelheim、Germany)のPEI MAX 40000、及びEuromedex社(Souffelweyersheim、France)のExgen 500を購入することができる。
【0325】
(実施例4)
ポリプレックスの凝集動態
材料及び方法
ポリプレックスを、実施例2において先に記載したように、HBG×1において、200mg/LのRNA濃度で調製した。これらをHBG×1及びリン酸緩衝食塩水、pH7.4(PBS)で希釈して、RNA濃度を10mg/lにした。PBSは、溶液のイオン強度を増加させるために使用した。96ウェルプレートを濾過空気で洗浄した後、希釈したポリプレックスをプレートに添加した。サイズを、WYATT technology GmbH社(Dernbach、Germany)製のDynaProプレートリーダーII装置で測定した。単峰性のサンプルのサイズ計算に関しては、キュムラントフィッティングを使用する一方で、多峰性のサンプルに関しては、正則化フィッティングを使用した。
【0326】
図6は、増加する塩濃度における、JetPEIを伴うIVT(A)及びレプリコン(B)のポリプレックスの凝集動態を示している。
【0327】
結果及び結論
高いイオン強度は、ポリプレックスのサイズにおける増加をもたらす(
図6)。ポリプレックス配合物のイオン強度は、ポリプレックスの凝集を予防するために、20mM以下でなくてはならない。
【0328】
(実施例5)
濾過によるポリプレックスの滅菌
材料及び方法
「ポリプレックスの安定性研究」のセクションで先に記載したように、ポリプレックスを、100mg/LのRNA濃度、並びに11.5、13.5、及び15.5のN/P比で調製した。
【0329】
RNA濃度及び完全性
RNAは、ヘパリンを伴うインキュベーションによって、ポリプレックスから放出させた。90μlの遊離RNA(100mg/l)又はポリプレックスを、Hepes 10mM、pH7.4、EDTA 1mM中において、10μlのヘパリン20g/lと混合した。混合物を、ボルテックス機において、20分間30℃でインキュベートした。5μlのこの混合物を、5μlのホルムアミドと混合した。次に、RNAの完全性を、ピコチップを用いて、バイオアナライザーで測定した。RNAの完全性は、実施例2に記載されている通りに計算した。RNA濃度は、「Quant-iT RiboGreen RNA Reagent and Kit」(カタログ番号R11490、Thermo Fischer Scientific社)を用いて、高感度方法に関する製造業者の説明書に従って、Ribogreenアッセイで測定した。簡潔に述べれば、ポリプレックスとヘパリンとの混合物を、Tris 10mM、pH7.5、EDTA 1mM緩衝液中において、Ribogreenフルオロフォアとともにインキュベートした。Ribogreenの蛍光を、485nmの励起波長及び535nmの発光波長で測定した。
【0330】
PEI濃度
100mlの酢酸Na 0.1M中23mgのCuSO4(無水)の溶液、pH5.4(CSS試薬)を調製した。CSS試薬600μlを、ポリプレックスと混合し、室温で5分間インキュベートした。各溶液の吸収率を、UV分光光度計において、1cmのキュベットを使用して、ブランクに対して、285nmで測定した。公知のPEI濃度(0~1.55mM)による較正曲線を準備し、未知のサンプルのPEI濃度を計算するために使用した。遊離RNAのバックグラウンド吸収は、すべてのサンプルから減じた。
【0331】
電気泳動移動度(μ)の測定
ポリプレックスを、3.1mlのHBG×1中において、20mg/lのRNA濃度まで希釈した。次に、それらを、600gで2分間遠心分離した。1.05mlの3つのサンプルを、プラスチックキュベットにおいて、それぞれの配合物に関して調製した。ポリプレックスの電気泳動移動度を、ζ-Wallis装置(Corduan technologies社、France)を用いて、レーザードップラー電気泳動法によって測定した。10回のランの1シークエンスで、中解像度測定を、それぞれのサンプルについて使用した。シグナル・ノイズ比が低い測定値、又はμが極端である(3μm*cm/V*S超又は-3μm*cm/V*S未満)測定値は、最終分析から除外した。すべての配合物について、トリプリケートで測定した。
【0332】
ポリプレックスの濾過
3つの異なるN/P比で、2.68mlのポリプレックスを伴う3本のチューブを調製した。ポリプレックス(1.34ml)を、220nmの細孔を有する、滅菌されたMillex-GP Med Syringe Filter Units(カタログ番号SLMPL25SS、Merck Millipore社)を通して濾過した。生理化学的特性を、濾過の前後で測定した。
【0333】
図7は、濾過の前(調製後)及び濾過の後(濾過後)のポリプレックスの生理化学的パラメーターを示している。A及びB。RNAは、ヘパリンによってポリプレックスから放出された。次いで、レプリコン-RNAの完全性(A)を、バイオアナライザー装置を用いて、キャピラリー電気泳動法によって測定した。レプリコン-RNA濃度(B)は、Ribogreen蛍光によって測定した。C。PEI濃度は、CuSO
4アッセイによって測定した。D。電気泳動移動度(μ)は、レーザードップラー電気泳動法によって測定した。
【0334】
結果及び結論
Syringe Filter Unitsは、ポリプレックスの滅菌にとって好適な方法である。ポリプレックスは、それらを濾過によって滅菌するために、120nm未満の小ささでなければならない。N/P比が11.6の場合、ポリプレックスの生理化学的特性は、濾過によっても変わらない。
そして、N/P比が11.6を上回って増加された場合、濾過中にRNAの損失が発生する。
【0335】
(実施例6)
レプリコン-RNA/PEI配合物のトランスフェクションに対する、PEI純度の効果
材料及び方法
以下の高純度PEI、Polyplus-Transfection SA社(Illkirch-Graffenstaden、France)製のin-vivo JetPEI、及びPolysciences Europe GmbH社(Eppelheim、Germany)製のPEI MAX 40000を購入した。
以下の通常の純度のPEI、Polysciences Europe GmbH社(Eppelheim、Germany)製のPEI 25000を購入した。
ポリプレックスを、実施例2において先に記載したように、HBG×1において、100mg/LのRNA濃度で調製した。
【0336】
インビボトランスフェクション
イソフルランを用いてマウスに麻酔をかけ、後脚の後側の毛を剃り、70% EtOH溶液を用いて殺菌した。20μlの試験配合物を、サイズが30Gのカニューレを予め備え付けたインスリンシリンジを用いて、後脛骨筋内に注射した。マウスが意識を取り戻すまで、疼痛、苦しみ、及び苦痛の兆候について観察した。
測定日には、マウスに、ルシフェリン溶液を腹腔内注射した。続いて、マウスに、イソフルランを用いて麻酔をかけ、個別の麻酔マスクを介してイソフルラン/酸素を絶えず供給しながら、IVIS(登録商標)Spectrum(Perkin Elmer社)の画像化チャンバ内のヒートマット(37℃)上に置いた。ルシフェリンの注射から5分後、カメラによる1分間にわたるバイオルミネセンス光の検出を実施した。結果として得られた画像を、ソフトウェア「LivingImage」(Perkin Elmer社)を使用して分析した。
【0337】
図8は、高度に純粋なPEIと通常の純度のPEIとの化学構造の比較を示している。25kDaのPEIの場合、n=58。PEI 25kDにおける-CH2CH2NH-モノマーの平均数は581であり、これはまた、潜在的にプロトン化可能な窒素の隣接区間の長さでもある。通常のPEI25において、N-プロピオニル部分の分布が均一であると仮定すると、そのプロトン化可能な窒素の隣接区間は64でしかない。
【0338】
図9は、異なるN/P比で、異なる純度レベルのPEIを使用して調製した、レプリコン-RNAポリプレックスによるインビトロでのC2C12筋肉細胞のトランスフェクションを示している。
【0339】
図10によれば、1(-)及び11.6(+)のN/P比のレプリコン-RNAポリプレックスを、高度に純粋なPEI(jetPEI)及び通常の純度のPEI(25kDa)を用いて調製した。遊離RNAを対照として使用した。配合物は、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射した。マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【0340】
結果及び結論
高純度のPEIを使用して調製されたポリプレックスは、通常の純度のPEIよりも良好に、インビトロの筋肉細胞にトランスフェクトする。筋肉内注射後、N/Pが11.6のポリプレックスが、最も高いインビボのトランスフェクション有効性を有する。
【0341】
高純度のPEIによる、N/Pが11.6のカチオン性ポリプレックスは、遊離レプリコン-RNAよりも有意に良好に(4~5倍の差異)、インビボの筋肉細胞にトランスフェクトし得る。
高純度のPEIによる、N/Pが1のアニオン性ポリプレックス、通常の純度のPEIによる、N/Pが1のポリプレックス、及び通常の純度のPEIによる、N/Pが11.6のカチオン性ポリプレックスは、遊離レプリコン-RNAよりも筋肉細胞へのトランスフェクトが不良である。
【0342】
(実施例7)
異なる供給業者からの純粋なPEIによるレプリコン-RNA及び凍結乾燥ポリプレックスの高いトランスフェクション有効性
材料及び方法
以下の高純度PEI、Polyplus-Transfection SA社(Illkirch-Graffenstaden、France)製のin-vivo JetPEI、及びEuromedex社(Souffelweyersheim、France)製のExgen 500、及びPolysciences Europe GmbH社(Eppelheim、Germany)製のPEI MAX 40000を購入した。
ポリプレックスを、実施例2において先に記載したように、HBG×1において、100mg/LのRNA濃度で調製した。すべての配合物を、HBG×1緩衝液において調製したが、凍結乾燥配合物に関してのみ、HBT×1緩衝液において調製した。実施例2において先に記載したように、HBT×1緩衝液中におけるポリプレックスの凍結乾燥を実施した。実施例6において先に記載したように、配合物は、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射し、マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【0343】
図11の実験のために、N/P比が7.7及び11.6のレプリコン-RNAポリプレックスを、高度に純粋なPEI、jetPEI(Polyplus社製)、PEI-Max 40000(Polyscience社製)、及びExgen 500(Eurodamex社製)を用いて調製した。
【0344】
【0345】
図12は、異なる緩衝液を用いて調製した、N/Pが11.6のJetPEI/レプリコン-RNAポリプレックスの凍結乾燥ケーキを示している。
【0346】
結果及び結論
筋肉内注射後、レプリコン-RNAのポリプレックスは、筋肉組織に効率的にトランスフェクトする(
図11)。高純度PEI、jetPEI(Polyplus社製)、PEI-Max 40000(Polyscience社製)、及びExgen 500(Eurodamex社製)を、ポリプレックスの調製のために使用することができた。Exgen-500ポリプレックスは、N/Pが11.6よりも、7.7の場合に良好にトランスフェクトする。
トレハロース中におけるポリプレックスの凍結乾燥物が、ケーキ様の形態を有する一方で、グルコース中では凍結乾燥物は崩壊し、それを水中に溶解させるのは困難である(
図12)。
ポリプレックスの凍結乾燥に関しては、トレハロースの方がグルコースよりも好ましい。凍結乾燥ポリプレックスは、新しく調製した液体ポリプレックスと同様にインビボで働く。
【0347】
(実施例8)
純粋なPEIのポリプレックスによる、IVT-RNAの筋肉細胞へのトランスフェクション
材料及び方法
In vivo-jetPEI(商標)試薬、カタログ番号201-50Gを、Polyplus-Transfection社(Illkirch、France)から購入した。ルシフェラーゼをコードするインビトロ転写(IVT)mRNA、Construct pST1-475を、RNA Biochemistryユニットによって準備した(Biontech RNA Pharmaceuticals社、Mainz、Germany)。
IVT-RNA及びPEIのポリプレックスを、実施例2において先に記載したように調製した。RNA濃度を一定に保ち、PEI濃度を増加させることによって、異なるN/P比を準備した。
【0348】
インビトロでの筋肉細胞のトランスフェクションを、実施例2において先に記載したように実施した。
インビボトランスフェクション研究を、実施例6において先に記載したように実施した。
【0349】
図13によれば、C2C12筋肉細胞を、ルシフェラーゼをコードするIVT-RNAによって、インビトロでトランスフェクトした。RNAは、HBG×1緩衝液における、異なるN/P比のJetPEIとの複合体であった。ルミネセンスシグナルを、トランスフェクションの24時間後に測定した。
【0350】
図14によれば、5.8及び11.6のN/P比のIVT-RNAポリプレックスを、純粋なPEIを用いて、HBG×1緩衝液において調製した。HBG×1緩衝液における遊離IVT-RNAを対照として使用した。配合物は、1回の注射当たり2~8μgのRNA用量で、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射した。注射の6時間後に、マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【0351】
結果及び結論
IVT-RNA及び高純度PEIのポリプレックスは、インビトロで、筋肉細胞に効率的にトランスフェクトすることができる。トランスフェクションの効率性と、N/P比との間には正の相関関係が存在する(
図13)。遊離IVT-RNAは、インビトロの細胞にはトランスフェクトしない。
高純度のPEIによる、N/P比が5.8及び11.6のポリプレックスは、遊離IVT-RNAよりも、インビボでの筋肉組織へのトランスフェクトが有意に不良である(
図14)。
【0352】
(実施例9)
レプリコン-RNAポリプレックスによるトランスフェクションに対する、粒径及び調製条件の効果
材料及び方法
レプリコン-RNA及びPEIのポリプレックスを、実施例2において先に記載したように調製した。ポリプレックスは、5つの異なるRNA、100、250、500、750、1000mg/lで調製した。すべての配合物に関してN/P比を11.6に保つため、PEI濃度は適宜増加させた。
実施例4において先に記載したように、ポリプレックスのサイズを測定した。
インビトロでの筋肉細胞のトランスフェクションを、実施例2において先に記載したように実施した。
インビボトランスフェクション研究を、実施例6において先に記載したように実施した。
【0353】
図15によれば、N/P比が11.6の、レプリコン-RNA及びjetPEIのポリプレックスを、異なるRNA濃度で、HBG×1緩衝液において調製した。DLSによるサイズ測定のために、ポリプレックスを、RNA濃度が10mg/lになるまで希釈した。
【0354】
図16によれば、C2C12筋肉細胞を、
図16のポリプレックスによって、インビトロでトランスフェクトした。ルミネセンスシグナルを、トランスフェクションの24時間後に測定した。
【0355】
図17によれば、
図16と同様に、N/P比が11.6のRep-RNAポリプレックスを、異なるRNA濃度で、HBG×1緩衝液において、純粋なPEIを用いて調製した。配合物は、1回の注射当たり2~8μgのRNA用量で、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射した。マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【0356】
結果及び結論
- ポリプレックスは、レプリコン-RNAにとって、良好なトランスフェクション剤である。筋肉組織におけるRNA翻訳の効率性に関するポリプレックスの生物活性は、ポリプレックス形成時のRNA濃度(0.1~1g/l)によって影響されることはない。
- 60~200nmの範囲のポリクレックスのサイズは、インビトロ及びインビボ(筋肉内注射)でのポリプレックスのトランスフェクション有効性に対して効果を有しない。
【0357】
(実施例10)
異なるポリプレックスは、マウスへの皮下注射又は筋肉内注射後に異なって働く
材料及び方法
In vivo-jetPEI(商標)試薬、カタログ番号201-50Gを、Polyplus-Transfection SA社(Illkirch、France)から購入した。直鎖状PEI 22kDaは、Cheradame教授(Polytheragene社、EVRY cedex、France)によって提供された。ルシフェラーゼをコードするRNA、Construct D1-824 Replicon、ID 1600801を、RNA Biochemistryユニットによって準備した(Biontech RNA Pharmaceuticals社、Mainz、Germany)。
【0358】
JetPEIによるポリプレックスを、実施例2において先に記載したように、HBG×1において、500mg/LのRNA濃度で調製した。
【0359】
Polytheragene-PEIによるポリプレックスを、JetPEIによる手順と同様に調製したが、以下の2点を修正した。
1.ポリプレックスの調製のために、HBG×1の代わりに、HEPES 10mM、pH7.4緩衝液を使用した。
2.11.6の代わりに、15.8のN/P比を使用した。
【0360】
Polytheragene-PEIによるポリプレックスの調製は、以下の論文に従って実施した:Demoulins, Thomasら、「Polyethylenimine-based polyplex delivery of self-replicating RNA vaccines.」、Nanomedicine: Nanotechnology, Biology and Medicine、(2015年)。
【0361】
ポリプレックスは、HBG×1又はOpti-MEM(カタログ番号31985062、Thermo Fisher Scientific社、Schwerte、Germany)緩衝液中において、インビトロ研究の場合、5mg/lの最終RNA濃度まで、インビボ研究の場合、100mg/lの最終RNA濃度まで希釈した。
【0362】
インビトロ研究を、実施例1及び2において先に記載したように実施した。
インビボ研究を、実施例6において先に記載したように実施した。
【0363】
結果及び結論
図18は、ヒト樹状細胞(DC)及びマウス筋肉細胞(C2C12)における、PEI/レプリコン-RNAポリプレックスを用いたインビトロ研究を示している。A.毒性(ポリプレックスによる治療後の生存細胞の%として表される)、B.トランスフェクション(ポリプレックスによる治療後のルミネセンス発光として表される)。トランスフェクションの結果は、C2C12細胞に関してのみ示される。
【0364】
図19の結果に関しては、N/P比が11.6又は15.8のRep-RNAポリプレックスを、HBG×1又はHepes 10mM緩衝液において、Polyplus社又はPolytheragene社製のPEIを用いて調製した。マウスへの注射前に、ポリプレックスは、HBG×1又はOpti-MEM緩衝液で希釈した。配合物は、1回の注射当たり2μgのRNA用量で、マウス(n=3)の後肢に筋肉内注射した。マウスの筋肉からのルミネセンスシグナルを記録した。
【0365】
結果及び結論
【0366】
【0367】
Opti-MEMは、20mMよりも高いイオン強度を有する。Opti-MEMにおいて、ポリプレックスは急速に凝集するため(Table 4(表4))、この配合物は、医薬品開発にとって好適ではない。
【0368】
本明細書に記載されるポリプレックス(polyplus社製のPEI、N/P 11.6、HBG×1)は、先に記載したポリプレックス(polytheagene社製のPEI、N/P 15.8、Opti-MEM)と非常に異なる特徴を有する。Opti-MEMでは、ポリプレックスは1000nmを上回る直径を有し、サイズ分布は多峰性である。本明細書に記載されるポリプレックスは、およそ100nmの直径を有し、多分散度は低い。
インビトロでは、すべてのポリプレックスが、筋肉細胞よりも樹状細胞に対して毒性を持つ。おそらく、樹状細胞は、皮下注射後にポリプレックスを取り込むが、筋肉細胞には、筋肉内注射後に、ポリプレックスがトランスフェクトされる。
本明細書に記載されるポリプレックスの、筋肉細胞へのインビトロでのトランスフェクション、及び先に記載されたポリプレックスのトランスフェクションは類似している。
本明細書に記載されるポリプレックスの、インビボトランスフェクション、及び先に記載されたポリプレックスのトランスフェクションは異なっており、これは投与経路に左右される。本明細書に記載されるポリプレックスは、筋肉内注射後には良好にトランスフェクトされ、皮下注射後のトランスフェクションは不良である。先に記載したポリプレックスは、筋肉内注射後はまったくトランスフェクトしないが、皮下注射後には弱いシグナルが観察された。
【0369】
(実施例11)
筋肉内注射対皮内注射によるマウスへのレプリコンRNAの投与
ルシフェラーゼ酵素をコードするレプリコン-RNAを、実施例2に記載されているように、HBG×1緩衝液中に溶解させるか、又はポリプレックスで複合体化した。これらの配合物を、2μgのRNAの用量で、Balb/cマウスの後脛骨筋に筋肉内注射した。マウスは、注射の4日後、7日後、及び10日後に、イソフルランで麻酔をかけた。そして、マウスにルシフェリン基質を注射し、筋肉からのルミネセンス発光をCCDカメラで記録した。
ルシフェラーゼタンパク質由来の光子を1分間にわたって収集し、画像化されたマウスの写真と重ねて示す(
図20A)。
図20Bは、注射部位における、測定した光子/秒(p/s)の図形表示を示している。
【0370】
2μgの、非配合HBG×1)又は配合後のレプリコン-ルシフェラーゼをコードするRNAを、Balb/cマウスの背部皮膚の2か所の注射部位に皮内(i.d.)適用した7日後であり、これらの動物を、非侵襲的インビボバイオルミネセンス画像化に供した。ルシフェラーゼタンパク質由来の光子を1分間にわたって収集し、画像化されたマウスの写真と重ねて示す。黒い矢印は、注射部位を示す(
図21A)。
図21Bは、注射部位における、測定した光子/秒(p/s)の図形表示を示している。
【0371】
(実施例12)
RNA配合物のワクチンとしての有益な効果
N/P比が11.6である、PEIにより配合された、H1N1インフルエンザウイルス株A/PuertoRico/8/1934(H1N1/PR8)のヘムアグルチニン(HA)をコードする一本鎖レプリコン-RNAの組成物、又は非配合一本鎖RNAのいずれかで、マウスを、試験の0日目及び21日目に2回免疫化した。すべての動物が、1.25μgの用量のRNAを受容した。第3の群は、緩衝液対照群として、生理食塩水のみを受容した。
図22Aに示されているように、1回目の免疫化の19日後及び2回目の免疫化の少し前には、配合後のRNAを受容したすべての動物は、ウイルス中和アッセイ(VNT、検出限界1280)によって分析したところ、HAに対する免疫応答を発生させていた。対照的に、非配合RNAを受容していた8匹の動物のうち、HAに対して抗体陽転したのは5匹のみであった。
図22Bに示されているように、1回目の免疫化の35日後、RNAを受容するすべての動物が、HA特異的抗体に関して陽性となっており、HAに対する抗体価は増加していた。配合後RNA群の動物の力価は、生理食塩水対照群と比較して、有意に高くなったが、非配合RNA群では、そうはならなかった。
図22Cに示されているように、免疫化の54日後、1.25μgの、配合後の、H1N1/PR8-HAをコードするRNAを受容していたマウスは、1.25μgの、配合されていない、H1N1/PR8-HAをコードするRNAを受容していた動物と比較して、有意に高い抗体価を発生させていた(有意性は、一元配置分散分析を使用して計算した、* p≦0.001)。
【0372】
11.6の特定のN/P比を有する、PEIにより配合された、H1N1インフルエンザウイルス株A/PuertoRico/8/1934(H1N1/PR8)のヘムアグルチニン(HA)をコードする一本鎖レプリコン-RNAの組成物、又は非配合一本鎖RNAのいずれかで、マウスを、試験の0日目に1回免疫化した。すべての動物が、0.25μgのRNAを受容した。第3の群は、緩衝液対照群として、生理食塩水のみを受容した。
図23Aに示されているように、免疫化の54日後、RNAを受容するすべての動物が、HA特異的抗体に関して陽性となっており、配合後RNA群の力価は、生理食塩水対照群、及び0.25μgの、配合されていない、H1N1/PR8-HAをコードするRNAを受容していた動物と比較して、有意に高くなっていた(有意性は、一元配置分散分析を使用して計算した、** p≦0.001、* p≦0.05)。免疫化の55日後、すべてのマウスを、H1N1/PR8の半致死量(MLD
50)の10倍で感染させた。生存を観察した。
図23Bに示されているように、すべての対照動物は、8日以内に死亡した。配合されていない、H1N1/PR8-HAをコードするRNAを受容していた5匹の動物のうち4匹が、チャレンジ感染から生き延びた。対照的に、配合後の、H1N1/PR8-HAをコードするRNAを受容していたマウスはすべて、チャレンジ感染から生き延び、RNA/ポリアルキレンイミン組成物の有益な効果を実証した。
【0373】
(実施例13)
PEIによって配合されたレプリコンRNAの噴霧乾燥
Table 1(表1)に与えられたピペット方式に2回従った後、得られた材料を組み合わせることで、N:P比が12の配合物を調製した。それによって、RNA濃度が0.1mg/mL RNAである、5.0mLのレプリコンRNAポリプレックスを得た。
【0374】
【0375】
3.5mLのこの配合物を噴霧乾燥し、533mgの材料を収集した(収率:76.1%)。新しく調製したレプリコンRNAポリプレックスの粒径は、材料がBuchiデモラボで排出されたため、決定されなかった。水を用いた再構成後の粒径(z平均)(混合物:20mgの噴霧乾燥ポリプレックス及び200μlのwfi、結果として、10mMのトレハロース及び0.1mg/mLのRNA濃度がもたらされた)は289nmであり、PDIは0.238であった(Nicomp、15分間)。
図24Aは、噴霧乾燥の前後でのsaRNAポリプレックスのルシフェラーゼ発現のインビトロ調査について示している。saRNAのルシフェラーゼ活性は、噴霧乾燥プロセスに起因して失われてはいない。シグナルの絶対高さ(absolute height)における差異は、アッセイの相違に起因するものである。
【0376】
更なる実験において、10%(w:v)トレハロース中の複合体化していないmRNAを噴霧乾燥させ、噴霧乾燥後のmRNAの完全性を、キャピラリー電気泳動測定によって調査した。
【0377】
2.50mLのメッセンジャーRNA(R36-05.2-DP、c(RNA)=0.5mg/mL、10mM Hepes、0.1mM EDTA、pH7.0)を、2.50mLの20%(w:v)トレハロース溶液と混合し(1:1の体積比)、結果として、以下の組成物:c(RNA)=0.25mg/mL、10%(w/v)トレハロース、5mM Hepes、0.05mM EDTAを得た。噴霧乾燥中、サンプル材料は氷上に保持した。全体として、2.5mLのこの溶液を噴霧乾燥した。噴霧乾燥中、10分間の間に、出口温度を33から37℃に上昇させた。温度の上昇を下げるために、ガス流を、98から101L/分に増加させた。噴霧乾燥中、次の60分間の間に、温度を更に41℃に上昇させた。完全に噴霧した後、165mgの乾燥材料を収集した(収率:66.0%)。RNAの完全性を分析するため、この材料を、wfi中に溶解させた(混合物:20mgの噴霧乾燥RNA及び200μlのwfi、結果として、10%のトレハロース含有量及び0.25mg/mLのRNA濃度がもたらされた)。溶解したRNAを、Agilent 2100バイオアナライザーを使用することで分析した。これらの分析の結果を、
図24Bにおいて、噴霧乾燥RNAの電気泳動図として表す。
【0378】
複合体化されていないRNAの完全性は維持されており、噴霧乾燥が、測定可能なRNA分解をもたらさないことが実証された。
【0379】
噴霧乾燥実験は、以下の通りに実施した。
【0380】
RNA含有配合物を噴霧乾燥するために、Buchi社製のナノスプレードライヤーB-90を使用した。これらの配合物を調製するため、以下の化合物を使用した。
・メッセンジャーRNA(R36-05.2-DP、c(RNA)=0.5mg/mL、10mM Hepes、0.1mM EDTA、pH7.0)
・ルシフェラーゼをコードするレプリコンRNA(D2 RNA-A1310 29-01 pST1-SFV4-TRON-I2m2-A30L70、wfi、c(RNA)=1mg/mL)
・注射用水(wfi)
・NaCl(wfi中1.5M)
・wfi中のトレハロース20%(w:v)(Pfanstiehl社、ロット番号:35261A)
・wfi中の2X Hepes緩衝トレハロース20%(w:v)(Pfanstiehl社、ロット番号:35261A、20mM Hepes)
・JetPEI(Polyplus社、ロット番号:13081A1S、150mM窒素)
【0381】
噴霧乾燥のために、以下のプロセスパラメーターを選んだ。
・ノズル:4μm
・入口温度:80℃
・出口温度:30℃
・ガス流:98mL/分
・印加電流:15.000V、350μA
【0382】
すべての実験の前に、デバイスは、RNAse Zappで洗浄し、エタノールを用いて拭き、キャップは、超音波浴で洗浄した。
【0383】
(実施例14)
ポリプレックス製造のためのマイクロフルイディクス
NanoAssemblr(商標)(Precision Nanosystems社、BC、Vancouver、Canada)を、この製造業者によって提供されているマイクロ流体チップ(1029-036)とともに使用した。RNAに関しては、自社製品のレプリコンRNA(バッチ番号R071_1_2)を使用した。ポリエチレンイミン(Max PEI 40)は、Polysciences社(Eppelheim、Germany)製であった。シリンジとしては、BD Plastipak 1ml、1508006、BD Biosciences社(Heidelberg、Germany)を使用した。2つの成分を、12ml/分の流速を使用して、1:1の比で混合した。サンプルは、2つの異なる濃度、すなわち50mg/l及び250mg/lで調製した。
動的光散乱法を使用する粒径測定に関しては、Nicomp社の380 ZLSサブミクロン粒子/ゼータ電位アナライザー(PSS Nicomp社、Santa Barbara、CA)を使用した。
【0384】
各条件に関して、1.5mlを製造した。サンプルを、サイズ測定のために、HBG緩衝液を用いて希釈した。
【0385】
ピペット方式は、以下の通りであった。
【0386】
【0387】
マイクロ流体混合実験を、Y型マイクロ流体ミキサーを備えるデバイスを使用して実施した。このミキサーにおいて、標準的シリンジに提供された2つの成分が混合される。2つの成分を、12ml/分の一定の流速を使用して、1:1の比で混合した。サンプルは、2つの異なる濃度、すなわち50mg/l及び250mg/lで調製し、得られたポリプレックスの粒径を測定した。
【0388】
ポリプレックスは、マイクロ流体デバイスを用いて製造され、アップスケーリングのための連続フロー製造及びGMP製造の実行可能性が実証された。粒子の形成は問題なく可能であり、凝集体の形成又は閉塞の兆候は観察されなかった。粒径は、動的光散乱法によって測定した。0.05mg/lで製造したポリプレックスの場合、サイズは約123nmであり、0.25mg/mlで製造した粒子の場合、サイズは約314nmであった。得られた結果の詳細については、下の表に提供する。
【0389】
【0390】
マイクロフルイディクスによるポリプレックス製造の実行可能性が実証された。製造は、単純なY型ミキサーを用いて実施され、順調な製造を可能にするための、流体力学的集束等の特定の手順は必要とされなかった。好適な条件の下では、200nmを遥かに下回るサイズを有する粒子を製造することができ、確立されており、GMP対応の滅菌フィルターを用いた、最終的な滅菌濾過が可能となる。凝集又は閉塞に関する兆候が認められなかったため、より大きい製造バッチへのアップスケーリングが、問題なく可能となるであろうと結論付けられる。アップスケーリングのための更なる選択肢には、いくつかの同一のデバイスの並列化が含まれる。要約すると、これらの結果は、PEI/RNAポリプレックスの、GMP対応のマイクロ流体製造の一般的な実行可能性に対する指標として解釈することができる。
【0391】
(実施例15)
濾過によるポリプレックスの滅菌
「ポリプレックスの安定性研究」のセクションで先に記載したように、ポリプレックスを、100mg/Lのレプリコン-RNA濃度、並びに11.5、13.5、及び15.5のN/P比で調製した。
3つの異なるN/P比で、2.68mlのポリプレックスを伴う3本のチューブを調製した。ポリプレックス(1.34ml)を、220nmの細孔を有する、滅菌されたMillex-GP Med Syringe Filter Units(カタログ番号SLMPL25SS、Merck Millipore社)を通して濾過した。
ポリプレックスを、HBG×1中において、10mg/LのRNA濃度まで希釈した。次に、これらのポリプレックスを、細胞に添加する30分前に、NaCl 0.9%中において、5mg/lのRNA濃度まで希釈した。
C2C12細胞を、ウェル当たり細胞2×104個の濃度で、96ウェルプレート(平底)に播種した。細胞は、37℃及び7.5% CO2に維持した。24時間後、上清を廃棄し、50μLのDMEM媒体(+10% FCS)で置き換えた。ポリプレックスを、10%のFCSを伴うDMEM媒体で希釈(1:5)し、およそ15分間プレインキュベートした。次いで、最終媒体体積が100μlとなるように、50μlのポリプレックス溶液を細胞に添加した。更に48時間経過した後、Bright-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイ(カタログ番号E2610、Promega GmbH社、Mannheim、Germany)を、説明書のマニュアルに従って実施した。
トランスフェクションと並行して、Cell proliferation Kit II(XTT、Roche、#11465015001)を使用して、細胞数を測定した。両方のアッセイにおいて、それぞれのポリプレックスサンプルは、生物学的トリプリケートで試験した。負の対照として、細胞を処置なしで播種した(「未処置」)。XTT-アッセイに関しては、バックグラウンド(BG)に等しい、細胞を伴わない媒体も、トリプリケートで播種した。最後に、ルミネセンス(Bright-Glo(商標))及び吸光度(XTT)を、「infinite 200pro」リーダー(Tecan社)を用いて測定した。ルミネセンスシグナルを吸光度(細胞数に比例する)で除すことによって、正規化ルミネセンスを計算した。
【0392】
図25は、滅菌濾過前(調製後)及び滅菌濾過後(滅菌後)の、異なるN/P比のPEI/レプリコン-RNAポリプレックスとともにインキュベートした後の、C2C12筋肉細胞からの正規化ルミネセンスを示している。
【0393】
Syringe Filter Unitsは、ポリプレックスの滅菌にとって好適であると結論付けることができる。ポリプレックスのトランスフェクション有効性が、滅菌プロセスに起因して変化することはない。
【0394】
(実施例16)
短鎖及び長鎖PEIの組み合わせによる、ポリプレックストランスフェクションの最適化
ルシフェラーゼをコードするレプリコン-RNAを、0.6から11kDAの間の短鎖PEI(例えば、直鎖状短鎖PEI 2.5kDA又は分岐状短鎖PEI 1.8kDAのいずれか)と、20から40kDaの間の長鎖PEI(例えば、22kDaのin vivo/Jet PEI)との純粋な組み合わせと、MBG緩衝液中において、総合的NPが10又は12である異なる組み合わせで、複合体化した(最終濃度、5%w/vグルコース、10mM MES、pH6.1)。単独のIn vivo/Jet PEI(NPは12)をベンチマークとして使用した。短鎖及び長鎖PEIポリプレックスの複合体化は、2つの工程で行った。第1の工程では、レプリコン-RNAの複合体化を、in vivo/Jet PEIで所望されるNPのために調整した。第2の工程では、所望される総合的NP比に到達するように、過剰な短鎖PEIを配合物に添加した。すなわち、第1の数が長鎖PEIのNPを定義し、第2の数が短鎖PEIを定義する(例えば、NP4+8=NP4の長鎖PEI及びNP8の短鎖PEIである)。ルシフェラーゼアッセイを、実施例15において先に記載したように実施した。結果を、
図26に示す。
図26A)は、ウェル当たり250ngのRNAでの、短鎖直鎖状PEI及び長鎖in vivo Jet PEIポリプレックスのトランスフェクション有効性を示している。
図27B)は、ウェル当たり250ngのRNAでの、短鎖分岐状PEI及び長鎖in vivo Jet PEIポリプレックスのトランスフェクション有効性を示している。
結論:長鎖PEI(例えば、in vivo Jet PEI)のみを伴うベンチマークの結果と比較して、長鎖PEI及び短鎖PEIの組み合わせを使用することによって、トランスフェクション有効性を有意に改善することができる。
【0395】
興味深いことに、直鎖状短鎖PEIとの組み合わせに関しては、ルシフェラーゼ発現シグナルは、トランスフェクション後の最初の24時間でピークに達したのに対し、分岐状短鎖PEIとの組み合わせに関しては、ルシフェラーゼ発現シグナルは、トランスフェクション後最初の48時間でピークに達した。したがって、特定の時間枠内での発現が所望されるような状況では、正しい短鎖PEI/長鎖PEIの組み合わせを慎重に選択することが合理的である。
【0396】
(実施例17)
長鎖PEIの量を低減することによる、ポリプレックストランスフェクションの最適化
分泌型ナノルシフェラーゼをコードするレプリコン-RNAを、短鎖PEI(例えば、分岐状1.8kDA)と、長鎖PEI(例えば、in vivo/Jet PEI)との純粋な組み合わせと、MBG緩衝液中において、総合的NPが12である異なる組み合わせで、複合体化した(最終濃度、5%w/vグルコース、10mM MES、pH6.1)。In vivo/Jet PEI(NPは12)をベンチマークとして使用した。短鎖+長鎖PEIポリプレックスの複合体化は、2つの工程で行った。第1の工程では、レプリコン-RNAの複合体化を、in vivo/Jet PEIで所望されるNPのために調整した。第2の工程では、所望される総合的NP比に到達するように、過剰な短鎖PEIを配合物に添加した。すなわち、第1の数が長鎖PEIのNPを定義し、第2の数が短鎖PEIを定義する(例えば、NP4+8=NP4の長鎖PEI及びNP8の短鎖PEIである)。分泌型ルシフェラーゼを、ウェル当たり125ngのRNAにおいて、製造業者のプロトコル(Nano-GLO、Promega社、USA)に従って測定した。細胞生存率アッセイを、実施例15において先に記載したように実施した。
結果を、
図27に示す。ベンチマークと比較した場合、及び同じ総合的NP比に関しては、より高い発現レベルが組み合わせ、例えば、NP4+8及びNP1.15+11によって達成された。したがって、トランスフェクション有効性は、配合物中の長鎖PEIの濃度を低減し、毒性がより低い短鎖PEI(例えば、分岐状1.8kDa)の濃度を増加させることによって、有意に増加させることができる。
【0397】
(実施例18)
インビボでのトランスフェクション有効性に対する、塩の変動及び/又はpHの効果
BALB/cマウスを、Janvier Laboratories社から購入し、8週齢で実験を実行した。指示される試験項目を注射する前に、マウスをイソフルランによる麻酔に供し、電気カミソリを使用して、後脚の毛を取り除いた。続いて、レプリコン-RNA(saRNA)-PEI-ポリプレックス(例えば、saRNA-in vivo Jet PEIポリプレックス、NP12)を、2μgのRNA用量で、群当たり3匹のマウスのそれぞれの後脛骨筋に対して、20μLの全体積で筋肉内適用した。配合物は、pH及び/又は塩濃度(例えば、NaCl)に関して異なった。指示された時間点で、マウスに、D-ルシフェリン溶液(体重1kg当たり100mg)を腹腔内注射し、バイオルミネセンスを、IVIS(登録商標)Spectrum Device(Perkin Elmer社)によって1分間、イソフルランで麻酔されたマウスにおいて非侵襲的に捕捉した。これらの写真には、群当たりで合計6つの値があるが、グラフは、マウスの筋肉(注射部位)に対する、手作業で画定された関心領域(ROI)における、Living Image(登録商標)ソフトウェア(Perkin Elmer社)によって決定されたバイオルミネセンスシグナルの光子/秒[p/s]を表示している。
トランスフェクション有効性に対する、塩の変動(例えば、NaCl)の効果は、
図28に示されている。異なるN/P比での、レプリコン-RNA-PEIポリプレックスの筋肉内注射によって、3日目、6日目、9日目、及び13日目の測定後、マウスの筋肉領域において長く持続するバイオルミネセンスシグナルがもたらされた。検出されたシグナル強度は、適用後3日目から6日目(ピーク)まで増加したが、13日目でも検出可能であった。マウスの筋肉領域における最も強いシグナルは、レプリコン-RNA-PEIポリプレックス(例えば、長鎖PEI N/Pは12)と低濃度(5から10mM)の塩の添加とを受容したマウスにおける筋肉内注射の6日後に検出することができた。
トランスフェクション有効性に対する、pH変動の効果は、
図29に示されている。6.5から7.1の間、好ましくは6.5から6.9の間のpH値を有するレプリコンRNA(saRNA)-PEIポリプレックス配合物で、良好な結果が得られた。最も強いシグナルは、pH6.5に調整された、NP12配合物のレプリコン-RNA-長鎖PEIで検出することができた。ベンチマークとして、pH未調整(BM)又はHBG(20mM HEPES、pH7.4、5質量%グルコース)の、レプリコン-RNA-Jet PEIポリプレックス(NPは12)を使用した。
【0398】
(実施例19)
PEIポリプレックスのインビトロでの電気泳動移動度及びトランスフェクション有効性に対する、pH依存性効果
ルシフェラーゼをコードするレプリコン-RNAを、長鎖PEI(例えば、in vivo jet PEI)と、HBG緩衝液中において、4のN/P比で、室温で15分間複合体化して(最終濃度、4.5%w/vグルコース、10mM HEPES、pH7.1)、11個のサンプルに分割した。サンプルのpHを、試験する最終的なバルクpHに応じて、HCl又はNaOHを添加することによって調整した。電気泳動移動度(μ)の測定は、実施例5に記載されている通りに実施した。C2C12マウス筋肉細胞のインビトロトランスフェクション、ルシフェラーゼ、及び細胞生存率アッセイを、実施例15において先に記載したように実施した。
PEIポリプレックスのインビトロでの電気泳動移動度及びトランスフェクション有効性に対する、pH依存性効果を、
図30及び
図31に示す。
図30は、異なるpH値に調整したin vivo jetPEI/レプリコン-RNAポリプレックス(N/P 4)の電気泳動移動度を示している。
図31は、N/P比が4であり、pH値が異なる(pH6.5~pH8.5)場合の、異なる投与量のin vivo jetPEI/レプリコン-RNAポリプレックスとのインキュベーション後のC2C12筋肉細胞からの正規化ルミネセンスを示している。
【0399】
ポリプレックスの電気泳動移動度は、pHと負の相関関係にあった。中性のポリプレックスは、およそpH8.9において得られる。ポリプレックスのバルクpHを、好ましくは6.5から7.1の間のpH値まで低減することによって、PEIポリプレックスの正電荷密度を増加させることは、細胞生存率に影響を及ぼすことなく、C2C12細胞のより高いトランスフェクション有効性をもたらした。PEIポリマーは、一級アミン及び二級アミンを含有し、これらのプロトン化状態は、バルクpHに依存する。したがって、これらの結果は、バルクpHを調整及び最適化することによる、ポリプレックスの電荷及びそれらのトランスフェクション有効性を制御する、効率的な方法を示唆している。
【0400】
(実施例20)
長鎖PEI配合物における過剰な正電荷の影響
分泌型ナノルシフェラーゼをコードするレプリコン-RNAを、MBG緩衝液中において、2~12の間の異なるNP比で複合体化した(最終濃度、5%w/vグルコース、10mM MES、pH6.1)。分泌型ルシフェラーゼを、ウェル当たり125ngのRNAにおいて、製造業者のプロトコル(Nano-GLO、Promega社、USA)に従って測定する。過剰な正電荷は、長鎖PEI(すなわち、in vivo/Jet PEI)-レプリコンRNAのNP比、及びこのレプリコン-RNAとin vivo Jet PEIとの完全な複合体化が起こる厳密なNP比に基づいて計算される。使用されるNP比と、完全な複合体化の場合の既知のNP比との間の差異によって、配合物の過剰な正電荷を計算することができる。
例として、250ngのRNAでのin vivo Jet PEIポリプレックスによるトランスフェクションに関する結果が、
図32に示されている。一般に、配合物中の正電荷の濃度を増加させることは、ルシフェラーゼの発現レベルと指数関数的に比例する。PEIの量を増加させることによる、最大30nMまでの過剰な正電荷は、有益であることが証明された。
【0401】
(実施例21)
2工程複合体化を使用することによる、一成分PEIポリプレックストランスフェクションの最適化。
ただ1種のPEIバリアント(例えば、長鎖PEI等)しか使用されない場合であっても、2工程複合体化方法を使用することによって、トランスフェクションの効率性を改善することができる。分泌型ナノルシフェラーゼをコードするレプリコン-RNAを、MBG緩衝液中において、総合的NPを12とするように2つの工程で複合体化した(最終濃度、5%w/vグルコース、10mM MES、pH6.1)。In vivo/Jet PEI(NPは12)による1工程の複合体化をベンチマークとして使用した。例えば、in vivo Jet PEIを使用する2つの工程での複合体化は、以下の通りに行った。第1の工程では、レプリコン-RNAの複合体化を、所望される初期NPのために調整した。第2の工程では、所望される総合的NP比に到達するように、過剰なin vivo/Jet PEIを配合物に添加した。すなわち、第1の数が初期PEIのNPを定義し、第2の数が、第2の工程での過剰な所与のin vivo Jet PEIを定義する(例えば、NP4+8:第1の工程でのNP4のJet PEI及び第2の工程でのNP8のJet PEIである)。分泌型ルシフェラーゼを、ウェル当たり125ngのRNAにおいて、製造業者のプロトコル(Nano-GLO、Promega社、USA)に従って測定した。細胞生存率アッセイを、実施例15において先に記載したように実施した。
2工程複合体化の結果を、
図33に示す。vivo/Jet PEI(NPは12)による1工程での複合体化のベンチマークと比較した場合、及び同一の総合的NP比の場合、より高い発現レベルが、2工程での複合体化によって達成された。
【0402】
(実施例22)
免疫化効率性に対する、ポリプレックス配合物緩衝液の効果
saRNAを、In vivo-jetPEIを使用することによって、ポリプレックスへと配合した。ポリプレックスは、Hepes緩衝グルコース(HBG)又はMES緩衝グルコース(MBG)(5% D-グルコース、10mM MES、pH6.1)を使用することによって製造した。マウスを、1回投与実験において、0日目に筋肉内で免疫化した。免疫化後45日目に血清を収集し、血清中のCf07-HA特異的抗体の量を、HA特異的ELISAを使用して分析した。血清希釈液のエンドポイント滴定を実施して、曲線下面積(AUC)を決定した。MBGで製造したポリプレックスの曲線下面積における増加の割合を、HBGで製造したポリプレックスを100%と設定し、それと比較して表す。
結果を、
図34に示す。HBGとともに配合されたポリプレックスと比較して、MES緩衝グルコースを使用することによって製造されたポリプレックスは、マウスの1回ワクチン接種後に、遥かに高いELISAシグナルを生成する。
【0403】
略語及び定義のリスト
ATM 気圧
C 濃度
CSS 100mlの酢酸Na 0.1M中23mgのCuSO4の溶液、pH5.4
DLS 動的光散乱法
EDTA エチレンジアミン四酢酸
FCS ウシ胎仔血清
h 時間
HBG×1 HEPES 10mM緩衝(pH7.1)グルコース5%
HBG×2 HEPES 20mM緩衝(pH7.1)グルコース10%
HBT×1 HEPES 10mM緩衝(pH7.1)トレハロース10%
HBT×2 HEPES 20mM緩衝(pH7.1)トレハロース20%
HBT×1+EDTA HEPES 2.8mM緩衝(pH7.1)トレハロース10%及びEDTA 80μM
HEPES 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸
IVI Institute of Virology and immunology、Mittelhausern、Switzerland
IVT インビトロで転写されたmRNA
kDa 1000ドルトン
Lyo 凍結乾燥
min 分
MBG×1 5% D-グルコース、10mM MES、pH6.1
MES 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸
N/P PEI中のアミン基の数とRNA中のホスフェート基の数との間の比。
PEI ポリエチレンイミン
RNA リボ核酸
UV 紫外線