(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー含水分散液
(51)【国際特許分類】
C08J 3/03 20060101AFI20220912BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20220912BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220912BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20220912BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
C08J3/03 CEP
C08J5/04 CEP
C08L101/00
C08L1/02
C08L71/00
(21)【出願番号】P 2020516247
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2019016217
(87)【国際公開番号】W WO2019208313
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2018082268
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018096460
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018193575
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018213081
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】都築 隼一
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-513007(JP,A)
【文献】特表2018-510931(JP,A)
【文献】特表2018-505285(JP,A)
【文献】特開2016-210893(JP,A)
【文献】特開2018-044054(JP,A)
【文献】特開2015-117340(JP,A)
【文献】特開2012-102324(JP,A)
【文献】特開2012-201767(JP,A)
【文献】国際公開第2015/107995(WO,A1)
【文献】特開2016-030809(JP,A)
【文献】特開2014-009290(JP,A)
【文献】特開2016-196711(JP,A)
【文献】国際公開第2013/035461(WO,A1)
【文献】特表2010-536965(JP,A)
【文献】特開2013-217006(JP,A)
【文献】特開2017-218595(JP,A)
【文献】特開2020-007496(JP,A)
【文献】Composites Science and Technology,2013年,89号,120-126頁
【文献】Cellulose,25号,2018年,1117-1126頁
【文献】日本油脂化学会誌,第49巻,日本,2000年,第10号,1071-1080頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/24
C08L 1/00-101/14
C08L101/16
C08K 3/00- 13/08
C08G 65/00- 67/04
D01F 1/00- 6/96
D01F 9/00- 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項2】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項3】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含み、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項4】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記(B)表面処理剤の分子構造が、ABA型のトリブロック構造、3分岐構造、及び4分岐構造から選択される1つである、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項5】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記(B)表面処理剤の分子構造が、親水性セグメント-疎水性セグメント-親水性セグメントのトリブロック構造である、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項6】
(B)表面処理剤の数平均分子量が200~30000である、請求項1~5のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項7】
(B)表面処理剤の曇点が10℃以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項8】
(B)表面処理剤の、親水性セグメント質量分率に対する疎水性セグメント質量分率の比(疎水性セグメント質量分率/親水性セグメント質量分率)が1.5~20である、請求項1~7のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項9】
(B)表面処理剤がノニオン界面活性剤である、請求項1~8のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項10】
(E)酸化防止剤を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項11】
(F)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらのいずれか2種以上の混合物からなる群より選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項12】
前記樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの質量含有率a、前記樹脂組成物の引張降伏強度b、及び前記(F)熱可塑性樹脂の引張降伏強度cから、下記式(1):
引張降伏強度向上率=(b/c-1)/a (1)
に従って求められる引張降伏強度向上率が、1.0よりも大きい、請求項1~11のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの質量含有率a、前記樹脂組成物の曲げ弾性率d、及び前記(F)熱可塑性樹脂の曲げ弾性率eから、下記式(2):
曲げ弾性率向上率=(d/e-1)/a
に従って求められる曲げ弾性率向上率が、3.0よりも大きい、請求項1~12のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物から形成された、樹脂成形体。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物の製造方法であって、
少なくとも、(A)セルロースナノファイバーと、(B)HLB値が0.1以上8.0未満である表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂とを混練することを含む、方法。
【請求項16】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項17】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項18】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含み、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項19】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記(B)表面処理剤の分子構造が、ABA型のトリブロック構造、3分岐構造、及び4分岐構造から選択される1つである、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項20】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記(B)表面処理剤の分子構造が、親水性セグメント-疎水性セグメント-親水性セグメントのトリブロック構造である、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項21】
(B)表面処理剤がノニオン界面活性剤である、請求項16~20のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項22】
(E)酸化防止剤を更に含む、請求項16~21のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項23】
請求項16~22のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー含水分散液の乾燥物である、セルロースナノファイバー乾燥体。
【請求項24】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項25】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項26】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含み、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項27】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記(B)表面処理剤の分子構造が、ABA型のトリブロック構造、3分岐構造、及び4分岐構造から選択される1つである、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項28】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記(B)表面処理剤の分子構造が、親水性セグメント-疎水性セグメント-親水性セグメントのトリブロック構造である、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー含水分散液及びその乾燥体、並びにセルロースナノファイバー樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。しかしながら、樹脂単体では、機械特性、摺動性、熱安定性、寸法安定性等が不十分である場合が多く、樹脂と各種無機材料をコンポジットしたものが一般的に用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂をガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイなどの無機充填剤である強化材料で強化した樹脂組成物は、比重が高いため、得られる樹脂成形体の重量が大きくなるという課題がある。そこで近年、樹脂の新たな強化材料として、環境負荷の低いセルロースが用いられるようになってきている。
【0004】
セルロースは、その単体特性として、アラミド繊維に匹敵する高い弾性率と、ガラス繊維よりも低い線膨張係数を有することが知られている。また、真密度が1.56g/cm3と、低く、一般的な熱可塑性樹脂の補強材として使用されるガラス(密度2.4~2.6g/cm3)やタルク(密度2.7g/cm3)と比較し圧倒的に軽い材料である。
【0005】
セルロースは、樹木を原料とするもののほか、麻・綿花・ケナフ・キャッサバ等を原料とするものなど多岐にわたっている。さらには、ナタデココに代表されるようなバクテリアセルロースなども知られている。これら原料となる天然資源は地球上に大量に存在し、この有効利用のために、樹脂中にセルロースをフィラーとして活用する技術が注目を浴びている。
【0006】
CNF(セルロースナノファイバー)は、パルプ等を原料とし、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといった粉砕法により解繊することにより得られるものであり、水中において微細なナノ分散と呼ばれるレベルの高度の分散状態やネットワークを形成していることが知られている。
【0007】
しかし樹脂中にCNFを配合するためには、CNFを乾燥し粉末化する必要があるが、CNFは水と分離する過程で微分散状態から、強固な凝集体となり、再分散しにくいといった課題がある。この凝集力はセルロースが持つ水酸基による水素結合により発現されており、非常に強固であると言われている。
【0008】
そのため、充分な性能を発現させるためには、セルロースが持つ水酸基による水素結合を緩和する必要がある。また水素結合の緩和を充分に実現できても、解繊された状態(ナノメートルサイズ(すなわち1μm未満))を樹脂中で維持することは困難である。
【0009】
これらCNFをフィラーとして各種樹脂とコンポジットした組成物が提案されている。例えば、特許文献1、2には分散剤を使用して、セルロースと樹脂を複合化する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5797129号公報
【文献】国際公開第2018/123150号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1は、HLB値が8~13のエーテル型ノニオン界面活性剤を用いてセルロースナノファイバーを分散させる技術を記載し、低濃度のCNFスラリーに界面活性剤を添加することで、攪拌後も一定時間CNFの分散性に優れることや、ポリプロピレンを用いることを教示する。しかし、特許文献1に記載されるセルロースナノファイバーは、X線CTでもセルロースナノファイバーの塊が確認できる程度の分散で存在することから、機械特性及び熱特性の向上効果は非常に小さい。また、熱可塑性樹脂の摺動性、臭気性、及び成形性への言及はなされていない。
【0012】
特許文献2は、有機成分を用いて、セルロースを分散させる技術を記載するが、この技術でも、機械特性及び熱特性の向上効果は非常に小さく、また、熱可塑性樹脂の摺動性、臭気性及び成形性への言及はなされていない。そのため、これら特許文献は実際の用途には適さないという問題に直面する。
【0013】
つまり、現時点において、樹脂成形体の所望の機械的特性を発現するために充分な量のセルロースを樹脂組成物中で微分散させて、高い機械的特性及び熱特性(特に低減された熱膨張)を確保し、さらには耐摩耗性(特に摺動時の耐摩耗性)、成形性に優れるセルロースナノファイバー含有樹脂成形体を与えるための、セルロースナノファイバー含水分散液、セルロースナノファイバー乾燥体は得られていない。
【0014】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、乾燥後にも容易に水又は有機溶媒にセルロースナノファイバーを再分散可能でかつ樹脂中へのセルロースナノファイバーの優れた分散性を与える分散液及びセルロースナノファイバー含水分散液、並びに、樹脂に分散させたときに、樹脂組成物に充分な機械的特性及び熱特性を与えつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを与えるセルロースナノファイバー乾燥体の提供を目的とする。本発明の一態様は、優れた機械的特性及び熱特性を有しつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを有する、樹脂組成物及び樹脂成形体の提供を目的とする。本発明の一態様は、更に、摺動性、成形前後での外観変化の低減、及び/又は臭気の低減においても優れる樹脂組成物及び樹脂成形体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記の課題を解決するため、鋭意検討を進めた結果、特定の表面処理剤を含むセルロースナノファイバー含水分散液を用いることで前記の課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1] (A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有する、セルロースナノファイバー含水分散液。
[2] (B)表面処理剤の数平均分子量が200~30000である、上記態様1に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[3] (B)表面処理剤の曇点が10℃以上である、上記態様1又は2に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[4] (B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有する、上記態様1~3のいずれかに記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[5] 前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含み、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、上記態様4に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[6] (B)表面処理剤の分子構造が、ABA型のトリブロック構造、3分岐構造、及び4分岐構造から選択される1つである、上記態様4又は5に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[7] (B)表面処理剤の分子構造が、親水性セグメント-疎水性セグメント-親水性セグメントのトリブロック構造である、上記態様6に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[8] (B)表面処理剤の、親水性セグメント質量分率に対する疎水性セグメント質量分率の比(疎水性セグメント質量分率/親水性セグメント質量分率)が0.1~3である、上記態様4~7のいずれかに記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[9] (B)表面処理剤がノニオン界面活性剤である、上記態様1~8のいずれかに記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[10] (B)表面処理剤がエーテル型ノニオン界面活性剤である、上記態様9に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[11] (B)表面処理剤を、(A)セルロースナノファイバー100質量部に対し、0.1~100質量部の量で含む、上記態様1~10のいずれかに記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[12] (C)水溶性有機溶媒をさらに含む、上記態様1~11のいずれかに記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[13] (D)バインダー成分を更に含む、上記態様1~12のいずれかに記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[14] (B)表面処理剤が水溶性ポリマーであり、
(D)バインダー成分がソフトセグメントとハードセグメントとを有するポリウレタンである、上記態様13に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[15] (A)セルロースナノファイバー100質量部に対して、(B)表面処理剤を0.1~100質量部、及び(D)バインダー成分を0.1~100質量部含む、上記態様13又は14に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[16] (E)酸化防止剤を更に含む、上記態様1~15のいずれかに記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[17] (B)表面処理剤100質量部に対して、(E)酸化防止剤を0.01~100質量部含む、上記態様16に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[18] (E)酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤、からなる群から選択される、上記態様16又は17に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
[19] 上記態様1~18のいずれかに記載のセルロースナノファイバー含水分散液の乾燥物である、セルロースナノファイバー乾燥体。
[20] (A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有する、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
[21] (B)表面処理剤の数平均分子量が200~30000である、上記態様20に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[22] (B)表面処理剤の曇点が10℃以上である、上記態様20又は21に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[23] (B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有する、上記態様20~22のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[24] 前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含み、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、上記態様23に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[25] (B)表面処理剤の分子構造が、ABA型のトリブロック構造、3分岐構造、及び4分岐構造から選択される1つである、上記態様23又は24に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[26] (B)表面処理剤の分子構造が、親水性セグメント-疎水性セグメント-親水性セグメントのトリブロック構造である、上記態様25に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[27] (B)表面処理剤の、親水性セグメント質量分率に対する疎水性セグメント質量分率の比(疎水性セグメント質量分率/親水性セグメント質量分率)が0.1~3である、上記態様23~26のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[28] (B)表面処理剤がノニオン界面活性剤である、上記態様23~27のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[29] (B)表面処理剤がエーテル型ノニオン界面活性剤である、上記態様28に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[30] (B)表面処理剤を、(A)セルロースナノファイバー100質量部に対し、0.1~100質量部の量で含む、上記態様20~29のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[31] (B)表面処理剤が、数平均分子量200~25000を有し、
(F)熱可塑性樹脂100質量部に対し、(A)セルロースナノファイバーを1~200質量部、及び(B)表面処理剤を0.1~200質量部含む、上記態様20~30のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[32] 水を更に含み、含水分散体の形態である、上記態様20~31のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[33] (C)水溶性有機溶媒をさらに含む、上記態様32に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[34] 乾燥体の形態である、上記態様20~31のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[35] (D)バインダー成分を更に含む、上記態様20~34のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[36] (B)表面処理剤が水溶性ポリマーであり、
(D)バインダー成分がソフトセグメントとハードセグメントとを有するポリウレタンである、上記態様35に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[37] (A)セルロースナノファイバー100質量部に対して、(B)表面処理剤を0.1~100質量部、及び(D)バインダー成分を0.1~100質量部含む、上記態様35又は36に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[38] (A)セルロースナノファイバーを1~50質量%、(B)表面処理剤を0.1~50質量%、(D)バインダー成分を0.1~50質量%、及び(F)熱可塑性樹脂を1~98.8質量%含む、上記態様35~37のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[39] (F)熱可塑性樹脂100質量部に対して、(A)セルロースナノファイバーを1~200質量部、(D)バインダー成分を0.01~200質量部含む、上記態様35~38のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[40] (D)バインダー成分が(A)セルロースナノファイバーと結合又は吸着している、上記態様35~39のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[41] (D)バインダー成分が(F)熱可塑性樹脂と結合又は吸着している、上記態様35~40のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[42] (E)酸化防止剤を更に含む、上記態様20~41のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[43] (B)表面処理剤100質量部に対して、(E)酸化防止剤を0.01~100質量部含む、上記態様42に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[44] (E)酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤、からなる群から選択される、上記態様42又は43に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[45] (F)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらのいずれか2種以上の混合物からなる群より選択される、上記態様20~44のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[46] 前記樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの質量含有率a、前記樹脂組成物の引張降伏強度b、及び前記(F)熱可塑性樹脂の引張降伏強度cから、下記式(1):
引張降伏強度向上率=(b/c-1)/a (1)
に従って求められる引張降伏強度向上率が、1.0よりも大きい、上記態様20~45のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[47] 前記樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの質量含有率a、前記樹脂組成物の曲げ弾性率d、及び前記(F)熱可塑性樹脂の曲げ弾性率eから、下記式(2):
曲げ弾性率向上率=(d/e-1)/a
に従って求められる曲げ弾性率向上率が、3.0よりも大きい、上記態様20~46のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[48] 上記態様20~47のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物から形成された、樹脂成形体。
[49] 上記態様20~47のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物の製造方法であって、
少なくとも、(A)セルロースナノファイバーと、(B)HLB値が0.1以上8.0未満である表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂とを混練することを含む、方法。
[50] 上記態様20~47のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物の製造方法であって、
上記態様1~18のいずれかに記載のセルロース水分散液を調製すること、及び
前記セルロース水分散液と少なくとも(F)熱可塑性樹脂とを混練すること、
を含む、方法。
[51] (B)表面処理剤と、(D)バインダー成分と、水とを含む分散液であって、
前記(B)表面処理剤が、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有し、数平均分子量が200~30000である水溶性ポリマーであり、
前記(D)バインダー成分が、ポリウレタンである、分散液。
[52] (A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(D)バインダー成分と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(B)表面処理剤が、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有し、数平均分子量が200~30000である水溶性ポリマーであり、
前記(D)バインダー成分が、ポリウレタンである、セルロースナノファイバー含水分散液。
[53] 上記態様52に記載のセルロースナノファイバー含水分散液の乾燥物である、セルロースナノファイバー乾燥体。
[54] (A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(D)バインダー成分と、(F)熱可塑性樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(B)表面処理剤が、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有し、数平均分子量が200~30000である水溶性ポリマーであり、
前記(D)バインダー成分が、ポリウレタンである、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
[55] 前記ポリウレタンが、ブロック化イソシアネート、及び前記(A)セルロースナノファイバー若しくは前記(F)熱可塑性樹脂又はこれらの両者に結合しているポリウレタン、からなる群から選ばれる1つ以上である、上記態様54に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
[56] 上記態様54又は55に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物から形成された、樹脂成形体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、樹脂成形体に充分な機械的特性及び熱特性を与えつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを与える樹脂組成物が提供される。また、本発明の一態様によれば、乾燥後に容易に水又は有機溶媒にセルロースナノファイバーを再分散可能でかつ樹脂中へのセルロースナノファイバーの優れた分散性を与える分散液及びセルロースナノファイバー含水分散液、並びに、樹脂に分散させたときに、樹脂組成物に充分な機械的特性及び熱特性を与えつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを与えるセルロースナノファイバー乾燥体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0019】
[第1の実施形態]
≪(A)セルロースナノファイバー≫
(A)セルロースナノファイバーは、平均繊維径1000nm以下のセルロースである。(A)セルロースナノファイバーの好適例は、特に限定されないが、例えばセルロースパルプを原料としたセルロースナノファイバー又はこれらセルロースの変性物の1種以上を用いることが出来る。これらの中でも、安定性、性能などの点から、セルロースの変性物の1種以上が好ましく使用可能である。(A)セルロースナノファイバーの平均繊維径は、樹脂成形体の良好な機械的強度(特に引張弾性率)を得る観点から、1000nm以下であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下である。平均繊維径は小さい方が好ましいが、加工容易性の観点からは、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上であることができる。上記平均繊維径は、レーザー回折/散乱法粒度分布計で、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径(体積平均粒子径)として求められる値である。
【0020】
上記平均繊維径は、以下の方法で測定することができる。(A)セルロースナノファイバーを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー(例えば(株)品川工業所製、5DM-03-R、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練し、次いで0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」処理条件)を用い、回転数15,000rpm×5分間で分散させ、遠心分離機(例えば久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA-400型)を用い、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理し、遠心後の上澄みを採取する。この上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(例えば堀場製作所(株)製、商品名「LA-910」又は商品名「LA-950」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(すなわち、粒子全体の体積に対して、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径)を、体積平均粒子径とする。
【0021】
典型的な態様において、(A)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーのL/D比は、20以上である。セルロースナノファイバーのL/D下限は、好ましくは30であり、より好ましくは40であり、より好ましくは50であり、より好ましくは80であり、さらにより好ましくは100であり、特に好ましくは120であり、最も好ましくは150である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは10000以下、又は1000以下である。本開示の樹脂組成物の良好な機械的特性を少量のセルロースナノファイバーで発揮させるために、セルロースナノファイバーのL/D比は上述の範囲内であることが望ましい。
【0022】
(A)セルロースナノファイバーは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等を用いた粉砕法により解繊したセルロースであってよい。一態様において、(A)セルロースナノファイバーは、L/D比が30以上、かつセルロースパルプ(典型的には、L/D比が40以上かつ繊維径が1000nmを超えるもの)に分類されないものであってよい。
【0023】
セルロースパルプの製法は特に限定されないが、例えば、原料パルプを裁断後100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等を用いた粉砕法により解繊して得ることができる。典型的な態様において、セルロースパルプは、L/D比が40以上かつ繊維径が1000nmを超えるものである。
【0024】
セルロースパルプのL/D下限は、より好ましくは50であり、さらにより好ましくは80であり、最も好ましくは100である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは10000以下である。樹脂組成物の良好な機械物性を発現させるために、セルロースパルプのL/D比は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0025】
本開示で、セルロースナノファイバー、セルロースパルプ又は後述のセルロースウィスカーの長さ、径、及びL/D比は、セルロースナノファイバー、セルロースパルプ及びセルロースウィスカーの各々の水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、光学顕微鏡、又は高分解能走査型顕微鏡(SEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースナノファイバー、セルロースパルプ又はセルロースウィスカーが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースナノファイバー、セルロースパルプ又はセルロースウィスカーの長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。また、本開示のセルロースナノファイバー、セルロースパルプ又はセルロースウィスカーの長さ及び径とは、上記100本のセルロースの数平均値である。一態様においては、比(L/D)が20未満のものをセルロースウィスカー、20以上のものをセルロースファイバーと分類する(但し、繊維径が1000nmを超え、かつ比(L/D)が40以上のものはセルロースパルプと分類する)ことができる。
【0026】
樹脂組成物中及び樹脂成形体中のセルロースナノファイバー、セルロースパルプ又はセルロースウィスカーの各々の長さ、径、及びL/D比は、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で十分に洗浄した後、溶媒を純水又は分散可能な有機溶媒に置換した水分散液を作製し、セルロース濃度を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースは無作為に選んだ100本以上の測定を行う。
【0027】
又は、組成物中のセルロースナノファイバー、セルロースパルプ及びセルロースウィスカーの各々の長さ、径、及びL/D比は、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒を純水又は分散可能な有機溶媒に置換した水分散液を作製し、セルロース濃度を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースは無作為に選んだ100本以上の測定を行う。
【0028】
本開示における(A)セルロースナノファイバーは、未変性物又は変性物であってよい。変性物としては、エステル化剤、シリル化剤、イソシアネート化合物、ハロゲン化アルキル化剤、酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物から選択される1種以上の変性剤により変性されたものが挙げられる。好ましい態様において、(A)セルロースナノファイバーは、未変性物、又はオキソ酸変性基(すなわちセルロースの水酸基がオキソ酸(例えばカルボン酸)又はその塩(例えばカルボン酸塩)で変換されている部位)不含有の変性物であり、この好ましい変性物の例は上記で列挙した変性剤による変性物である。
【0029】
変性剤としてのエステル化剤は、(A)セルロースナノファイバーの表面のヒドロキシル基と反応してこれをエステル化できる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物を包含する。またエステル化は国際公開第2017/159823号の段落[0108]に記載の方法で実施できる。エステル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0030】
エステル化剤の好適例としては、特に限定されないが、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物、並びに、これらから任意に選ばれる、対称無水物(無水酢酸、無水マレイン酸、シクロヘキサン-カルボン酸無水物、ベンゼン-スルホン酸無水物)、混合酸無水物(酪酸-吉草酸無水物)、環状無水物(無水コハク酸、無水フタル酸、ナフタレン-1,8:4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸3,4-無水物)、エステル酸無水物(酢酸3-(エトキシカルボニル)プロパン酸無水物、炭酸ベンゾイルエチル)等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、無水酢酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、及び無水フタル酸が好ましく使用可能である。
【0032】
変性剤としてのシリル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基又はその加水分解後の基と反応できる少なくとも一つの反応性基を有するSi含有化合物を包含する。シリル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0033】
シリル化剤の好適例としては、特に限定されないが、クロロジメチルイソプロピルシラン、クロロジメチルブチルシラン、クロロジメチルオクチルシラン、クロロジメチルドデシルシラン、クロロジメチルオクタデシルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロ(1-ヘキセニル)ジメチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロヘプチルメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,3-ジフェニル-1,3-ジメチル-ジシラザン、1,3-N-ジオクチルテトラメチル-ジシラザン、ジイソブチルテトラメチルジシラザン、ジエチルテトラメチルジシラザン、N-ジプロピルテトラメチルジシラザン、N-ジブチルテトラメチルジシラザン又は1,3-ジ(パラ-t-ブチルフェネチル)テトラメチルジシラザン、N-トリメチルシリルアセトアミド、N-メチルジフェニルシリルアセトアミド、N-トリエチルシリルアセトアミド、t-ブチルジフェニルメトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、等が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からヘキサメチルジシラザン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシランが好ましく使用可能である。
【0035】
変性剤としてのハロゲン化アルキル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応してこれをハロゲン化アルキル化できる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物を包含する。ハロゲン化アルキル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0036】
ハロゲン化アルキル化剤の好適例としては、特に限定されないが、クロロプロパン、クロロブタン、ブロモプロパン、ブロモヘキサン、ブロモヘプタン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードオクタン、ヨードオクタデカン、ヨードベンゼン等を用いることが出来る。これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からブロモヘキサン、及びヨードオクタンが好ましく使用可能である。
【0037】
変性剤としてのイソシアネート化合物は、(A)セルロースナノファイバーの表面のヒドロキシル基と反応できるイソシアネート基を少なくとも一つ有する有機化合物を包含する。またイソシアネート化合物は、特定の温度でブロック基が脱離してイソシアネート基を再生する事が可能なブロック化イソシアネート化合物であってもよく、また、ポリイソシアネートの2量体若しくは3量体、ビューレット化イソシアネートなどの変性体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)等であってもよい。これらは市販の試薬又は製品であってもよい。
【0038】
イソシアネート化合物の好適例としては、特に限定されないが、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等のポリイソシアネート、ブロック化イソシアネート化合物、等が挙げられる。例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン)、トリレンジイソシアネート(TDI)、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート)、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、上記イソシアネート化合物にオキシム系ブロック剤、フェノール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、アミン系ブロック剤、ピラゾール系ブロック剤、重亜硫酸塩系ブロック剤、又はイミダゾール系ブロック剤を反応させたブロック化イソシアネート化合物、等が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からTDI、MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、及び、ヘキサメチレンジイソシアネート変性体とヘキサメチレンジイソシアネートとを原料とするブロック化イソシアネートが好ましく使用可能である。
【0040】
前記ブロック化イソシアネート化合物のブロック基の解離温度は、反応性、安定性の観点から、上限値が好ましくは210℃であり、より好ましくは190℃であり、さらに好ましくは150℃である。また下限値は好ましくは70℃であり、より好ましくは80℃であり、さらに好ましくは110℃である。ブロック基の解離温度がこの範囲となるようなブロック剤としては、メチルエチルケトンオキシム、オルト-セカンダリーブチルフェノール、カプロラクタム、重亜硫酸ナトリウム、3,5-ジメチルピラゾール、2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0041】
変性剤としての酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応できる酸化アルキレン基、グリシジル基及び/又はエポキシ基を少なくとも一つ有する有機化合物を包含する。酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0042】
酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物の好適例としては、特に限定されないが、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、2-メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p-ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、n-ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェニルフェノールグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;グリシジルアセテート、グリシジルステアレート等のグリシジルエステル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等の多価アルコールグリシジルエーテルが挙げられる。
【0043】
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点から2-メチルオクチルグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、及びペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルが好ましく使用可能である。
【0044】
(A)セルロースナノファイバーは、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、分離したセルロースを熱分解又は加水分解処理することにより確認できる。又は直接1H-NMR、13C-NMR測定を行うことにより確認する事が出来る。
【0045】
一態様である、セルロースナノファイバー含水分散液、及びセルロースナノファイバー乾燥体の全体に対する(A)セルロースナノファイバーの配合量は、それぞれ、良好な再分散性の観点から、好ましくは1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、樹脂組成物及び樹脂成形体における十分な機械物性を得る観点から、好ましくは50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0046】
一態様である、樹脂組成物及び樹脂成形体の全体に対する(A)セルロースナノファイバーの配合量は、それぞれ、良好な機械的特性、熱安定性及び耐久性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、良好な成形性を得る観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0047】
(F)熱可塑性樹脂100質量部に対する(A)セルロースナノファイバーの配合量は、良好な機械的特性、熱安定性及び耐久性の観点から、1質量部以上、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部であり、十分な成形性を得る観点から、200質量部以下、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
【0048】
セルロースナノファイバー含水分散液中及びセルロースナノファイバー乾燥体中の(A)セルロースナノファイバーの量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。セルロースナノファイバー乾燥体は水を加え、セルロースナノファイバー含水分散液とする。セルロースナノファイバー含水分散液に対し、遠心分離を行う。これにより沈降物(セルロースナノファイバー及びポリウレタン)と表面処理剤分散液に分離が可能である。沈降物に対し、洗浄溶媒を加え吸引ろ過を行い、不溶分1(セルロースナノファイバー)を分離する。単離したセルロースナノファイバーを乾燥させ、重量を測定することで含有量を算出できる。また、単離したセルロースナノファイバーを熱分解GC-MS、1H-NMR、13C-NMR等の各種分析装置を用いることで定性分析(すなわち同定)できる。
【0049】
樹脂組成物中及び樹脂成形体中の(A)セルロースナノファイバーの量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。樹脂組成物及び成形体の破断片を用いて樹脂を溶解させる溶媒に樹脂組成物を溶解させて、可溶分1(樹脂及び表面処理剤)と不溶分1(セルロース及び樹脂)を分離する。分離後に不溶分1を樹脂溶解性溶媒に溶解させ、可溶分2(樹脂及び表面処理剤)と不溶分2(セルロース)に分離する。不溶分2(セルロース)に洗浄溶媒を加え吸引ろ過を行い、セルロースナノファイバーに分離する。単離したセルロースナノファイバーを乾燥させ、重量を測定することで含有量を算出できる。単離したセルロースナノファイバーを熱分解GC-MS、1H-NMR、13C-NMR、又は広角X線回折を用いることで定性分析できる。
【0050】
≪(B)表面処理剤≫
本開示の(B)表面処理剤は、HLB値が0.1以上8.0未満である。本開示で、HLB値は、以下のグリフィン法による式より求められる値である。なお下記式1において、「親水基の式量の総和/分子量」とは、親水基の質量%である。
式1) グリフィン法:HLB値=20×(親水基の式量の総和/分子量)
【0051】
本開示の(B)表面処理剤のHLB値の下限値は、水への易溶解性の観点から特に限定されないが、0.1であり、より好ましくは0.2であり、最も好ましくは1である。また、当該HLB値の上限値は、水又は有機溶媒へのセルロースナノファイバーの再分散性の観点から、8.0未満であり、好ましくは7.5以下であり、より好ましくは7.4以下であり、より好ましくは7.0以下である。HLB値は、特に好ましくは4.0以上7.6以下である。水又は有機溶媒へのセルロースナノファイバーの再分散性に優れるためには、(B)表面処理剤のHLB値は上述の範囲内にあることが望ましい。有機溶媒への再分散性に優れることは、樹脂中での分散性に優れることを意味する。尚、HLB値とは、界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを示す値であり、1~20までの値をとり、数値が小さいほど疎水性が強く、数値が大きくなると親水性が強いことを示す。
【0052】
一態様において、(B)表面処理剤は水溶性ポリマーである。一態様において、(B)表面処理剤は、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する。また、一態様において、(B)表面処理剤の数平均分子量は200~30000である。本開示で、「水溶性」とは、23℃で100gの水に対して0.1g以上溶解することを意味する。(B)表面処理剤は、例えば、本開示の(F)熱可塑性樹脂と同種のポリマーの変性物(例えば酸変性体、共重合体)、(F)熱可塑性樹脂と異種のポリマー、等であることによって、(F)熱可塑性樹脂とは異なる。典型的な態様において、(F)熱可塑性樹脂が水溶性を有さず、かつ(B)表面処理剤が水溶性を有する。(B)表面処理剤は、例えば(B)表面処理剤を高濃度で含む水分散体の状態で、他の成分(例えば、(A)セルロースナノファイバー、(D)バインダー成分等)と混合されてよい。(B)表面処理剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0053】
好ましい態様において、(B)表面処理剤は、界面活性剤(すなわち、分子内に親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する化合物)である。好ましい態様において、(B)表面処理剤は、(A)セルロースナノファイバー及び(F)熱可塑性樹脂の両者との親和性が高い点で、エーテル型界面活性剤(すなわち、親水性セグメントと疎水性セグメントとがエーテル結合している化合物)である。
【0054】
(B)表面処理剤の親水性セグメントは、セルロースの表面との親和性が良好である。疎水性セグメントは、親水性セグメントを介してセルロース同士の凝集を抑制する事が出来る。そのため(B)表面処理剤において親水性セグメント及び疎水性セグメントは同一分子内に存在することが望ましい。
【0055】
典型的な態様において、親水性セグメントは、親水性構造(例えば水酸基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基等から選ばれる1つ以上の親水性基)を含むことによって、(A)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を示す部分である。親水性セグメントとしては、ポリオキシエチレンブロック(すなわち複数のオキシエチレンユニットのセグメント)(PEGブロック)、4級アンモニウム塩構造を含む繰り返し単位が含まれるセグメント、ポリビニルアルコールのセグメント、ポリビニルピロリドンのセグメント、ポリアクリル酸のセグメント、カルボキシビニルポリマーのセグメント、カチオン化グアガムのセグメント、ヒドロキシエチルセルロースのセグメント、メチルセルロースのセグメント、カルボキシメチルセルロースのセグメント、ポリウレタンの柔軟なセグメント(ソフトセグメント)(具体的にはジオールセグメント)等を例示できる。好ましい態様において、親水性セグメントは、オキシエチレンユニットを含む。
【0056】
疎水性セグメントとしては、炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を有するセグメント(例えば、ポリオキシプロピレンブロック(PPGブロック))、また以下のポリマー構造を含むセグメント等を例示できる:
アクリル系ポリマー、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ポリビス(4‐アミノシクロヘキシル)メタンドデカン等の、炭素数4~12の有機ジカルボン酸と炭素数2~13の有機ジアミンとの重縮合物、ω-アミノ酸(例えばω-アミノウンデカン酸)の重縮合物(例えば、ポリウンデカンアミド(11ナイロン)等)、ε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド(6ナイロン)、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物であるポリラウリックラクタム(12ナイロン)等の、ラクタムの開環重合物を含むアミノ酸ラクタム、ジアミンとジカルボン酸とから構成されるポリマー、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂。
【0057】
(B)表面処理剤は、グラフト共重合体構造、及び/又はブロック共重合体構造を有することができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。またこれら共重合体の部分変性体、又は末端変性体(酸変性)でも良い。
【0058】
(B)表面処理剤の構造は、特に限定されないが、親水性セグメントをA、疎水性セグメントをBとしたときに、AB型ブロック共重合体、ABA型ブロック共重合体、BAB型ブロック共重合体、ABAB型ブロック共重合体、ABABA型ブロック共重合体、BABAB型共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、AとBを含む4分岐型共重合体、AとBを含む星型共重合体、AとBを含む単環状共重合体、AとBを含む多環状共重合体、AとBを含むかご型共重合体、等が挙げられる。
【0059】
(B)表面処理剤の構造は、好ましくはAB型ブロック構造、ABA型のトリブロック構造、AとBを含む3分岐構造、又はAとBを含む4分岐構造であり、より好ましくは、ABA型のトリブロック構造、AとBを含む3分岐構造、及びAとBを含む4分岐構造から選択される。(A)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を確保するために、(B)表面処理剤の構造は上記構造であることが望ましい。
【0060】
(B)表面処理剤の好適例としては、親水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリエチレングリコール)、疎水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)、ポリブタジエンジオール等)をそれぞれ1種以上用いて得られる共重合体(例えば、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとのブロック共重合体、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとのブロック共重合体)等が挙げられる。表面処理剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。また、上記した共重合体が変性されたもの(例えば、不飽和カルボン酸、その酸無水物又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたもの)も用いることもできる。
【0061】
これらの中でも、耐熱性(臭気性)、塗装性及び機械特性の観点から、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコールとポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)の共重合体、及びこれらの混合物が好ましく挙げられ、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。
【0062】
一態様において、(B)表面処理剤は、少なくとも(A)セルロースナノファイバーの表面上に存在する。この場合、セルロースナノファイバー樹脂組成物において、(A)セルロースナノファイバーと(F)熱可塑性樹脂との間に(B)表面処理剤が介在することによって(A)セルロースナノファイバーが(F)熱可塑性樹脂中に良好に分散する。(A)セルロースナノファイバーの繊維径は本来的にある程度の分布を有する。(B)表面処理剤が(A)セルロースナノファイバーの表面上に存在していることは、以下の方法で確認できる。すなわち、樹脂組成物中の繊維径が大きいセルロースの表面に(B)表面処理剤が存在する場合、セルロースナノファイバーの表面にも同様に表面処理剤が存在することとなる。よって、各種顕微鏡で観察可能なセルロース(繊維径が大きいものであっても)の表面に表面処理剤が存在することをもって、(B)表面処理剤が(A)セルロースナノファイバーの表面に存在すると判断できる。
【0063】
一態様において、(B)表面処理剤は、(A)セルロースナノファイバーと結合又は吸着している。
【0064】
一態様において、(B)表面処理剤は、(F)熱可塑性樹脂と結合又は吸着している。
【0065】
一態様において、(B)表面処理剤は、(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーと化学的又は物理的に結合又は相互作用し得る官能基(すなわち、本開示の反応性官能基)を一つ以上有する。一態様において、(B)表面処理剤が有する反応性官能基は、少なくとも水酸基との間で結合性又は吸着性を示すような基である。反応性官能基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ホルミル基、アシル基、アミノ基、アゾ基、アジ基、イミノ基、カルボニル基、チオカルボニル基、ジイミド基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、シアノ基、ニトロ基、イソニトリル基、ビニル基、アリル基、アルコキシ基、酸無水物基、炭素-炭素二重結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、等が挙げられる。これら反応性官能基は分子内に一つ以上また、一種以上存在できる。
【0066】
これらの中でも、(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーとの反応性の点からヒドロキシル基、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、カルボニル基、及びイソシアネート基が好ましく使用可能である。
【0067】
一態様において、(B)表面処理剤は、界面活性剤である。界面活性剤は市販の試薬又は製品であってもよい。界面活性剤は、(F)熱可塑性樹脂に対する(A)セルロースナノファイバーの分散性の向上に寄与する。界面活性剤の好ましい量は、(A)セルロースナノファイバー100質量部に対し、50質量部以下である。より好ましい上限量は45質量部であり、さらにより好ましくは40質量部、さらにより好ましくは35質量部、特に好ましくは30質量部である。下限は特に限定されないが、(A)セルロースナノファイバー100質量部に対し、0.1質量部以上添加することで、取扱い性を高めることができる。下限量は、より好ましくは0.5質量部、最も好ましくは1質量部である。
【0068】
典型的な界面活性剤としては、炭素原子を基本骨格とし、炭素、水素、酸素、窒素、塩素、硫黄、及びリンから選ばれる元素から構成される官能基を有するものが挙げられる。分子中に上述の構造を有していれば、無機化合物と上記官能基とが化学結合したものも好ましい。
【0069】
界面活性剤は、単独であってもよく、2種以上の界面活性剤の混合物であってもよい。混合物の場合、本開示の界面活性剤の特性値(例えば静的表面張力、動的表面張力、SP値)は、当該混合物の値を意味する。
【0070】
界面活性剤の静的表面張力は20mN/m以上であることが好ましい。この静的表面張力は、ウィルヘルミー法で測定される表面張力を指す。室温で液体状の界面活性剤を使用する場合は、25℃で測定した値を用いる。室温で固体又は半固形状の(E)界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤を融点以上に加熱し溶融した状態で測定し、25℃に温度補正した値を用いる。なお本開示で室温とは、25℃を意味する。また、添加を容易にするためなどの目的で、界面活性剤を有機溶剤や水等に溶解・希釈してもよい。この場合の上記静的表面張力は、使用する界面活性剤自体の静的表面張力を意味する。
【0071】
界面活性剤の静的表面張力が上記の範囲内であることは、樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの分散性が更に向上するという効果を奏する。理由は定かではないが、界面活性剤内にある親水性官能基が、(A)セルロースナノファイバーの水酸基又は反応性基と水素結合等を介して(A)セルロースナノファイバーの表面を被覆し、(F)熱可塑性樹脂と(A)セルロースナノファイバーとの界面形成を阻害しているためであると考えられる。(E)界面活性剤の親水性基が(A)セルロースナノファイバー側に配されることにより、(F)熱可塑性樹脂側は疎水雰囲気となるため、(F)熱可塑性樹脂と(A)セルロースナノファイバーとの親和性が増すためと考えられる。
【0072】
界面活性剤の好ましい静的表面張力の下限は、23mN/mであり、より好ましくは25mN/m、さらに好ましくは30mN/m、更により好ましくは35mN/m、最も好ましくは39mN/mである。界面活性剤の静的表面張力の好ましい上限は、72.8mN/m、より好ましくは60mN/m、さらに好ましくは50mN/m、最も好ましくは45mN/mである。
【0073】
界面活性剤の(F)熱可塑性樹脂に対する親和性と(A)セルロースナノファイバーに対する親和性とを両立し、(F)熱可塑性樹脂中への(A)セルロースナノファイバーの微分散性、樹脂組成物の流動性、樹脂成形体の強度及び伸びの向上といった特性を発現させる観点で、界面活性剤の静的表面張力を特定の範囲にすることが好ましい。
【0074】
本開示でいう界面活性剤の静的表面張力は、市販の表面張力測定装置を用いることで測定することが可能である。具体的に例示すると、自動表面張力測定装置(例えば協和界面科学株式会社製、商品名「CBVP-Z型」、付属のガラス製セルを使用。)を用い、ウィルヘルミー法により測定することができる。この時、(E)界面活性剤が室温で液体の場合は、付属のステンレス製シャーレに底から液面までの高さを7mm~9mmとなるように仕込み、25℃±1℃に調温した後に測定し、以下の式により求められる。
【0075】
γ=(P-mg+shρg)/Lcosθ
ここで、γ:静的表面張力、P:つりあう力、m:プレートの質量、g:重力定数、L:プレート周囲長、θ:プレートと液体の接触角、s:プレート断面積、h:(力が釣り合うところまで)液面から沈んだ深さ、ρ:液体の密度である。
【0076】
なお、室温で固体のものは上述の方法では表面張力は測定できないため、便宜上、融点+5℃の温度で測定した表面張力を採用する。融点が未知の物質である場合、まずは目視による融点測定法(JIS K6220)により融点を測定し、融点以上に加熱して溶融させた後、融点+5℃の温度に調節し、上述したウィルヘルミー法により表面張力を測定することで可能である。
【0077】
界面活性剤の動的表面張力は60mN/m以下であることが好ましい。より好ましい動的表面張力の上限は、55mN/mであり、50mN/mがより好ましく、45mN/mがさらに好ましく、40mN/mが特に好ましい。界面活性剤の動的表面張力の好ましい下限を挙げるとすると、10mN/mである。より好ましい下限は、15mN/mであり、20mN/mが最も好ましい。
【0078】
ここでいう動的表面張力は、最大泡圧法(液体中に挿した細管(以下、プローブ)に空気を流して、気泡を発生させたときの最大圧力(最大泡圧)を計測し、表面張力を算出する方法)で測定される表面張力のことである。具体的には、(E)界面活性剤を5質量%としてイオン交換水に溶解又は分散し測定液を調製し、25℃に調温した後、動的表面張力計(例えば英弘精機株式会社製 製品名シータサイエンスt-60型、プローブ(キャピラリーTYPE I(ピーク樹脂製)、シングルモード)を使用し、気泡発生周期を10Hzで測定された表面張力の値を指す。各周期における動的表面張力は、以下の式により求められる。
【0079】
σ=ΔP・r/2
ここで、σ:動的表面張力、ΔP:圧力差(最大圧力-最小圧力)、r:キャピラリー半径である。
【0080】
最大泡圧法で測定される動的表面張力は、動きの速い場における界面活性剤の動的な表面張力を意味する。界面活性剤は水中では、通常ミセルを形成している。動的表面張力が低いということは、ミセル状態からの界面活性剤の分子の拡散速度が速いことを表し、動的表面張力が高いということは分子の拡散速度が遅いことを意味する。
【0081】
界面活性剤の動的表面張力が特定値以下であることは、(A)セルロースナノファイバーの樹脂組成物中での分散を顕著に向上させるという効果を奏する点で有利である。この分散性向上の理由の詳細は不明であるが、動的表面張力が低い界面活性剤は、押出機内での拡散性に優れることで、(A)セルロースナノファイバーと(F)熱可塑性樹脂との界面に局在化できること、さらに(A)セルロースナノファイバー表面を良好に被覆できることが、分散性向上の効果に寄与していると考えられる。この界面活性剤の動的表面張力を特定値以下とすることにより得られる(A)セルロースナノファイバーの分散性の改良効果は、成形体の強度欠陥を消失させるという顕著な効果を発現させる。
【0082】
界面活性剤としては、水より高い沸点を有するものが好ましい。なお、水よりも高い沸点とは、水の蒸気圧曲線における各圧力における沸点(例えば、1気圧下では100℃)よりも高い沸点を指す。
【0083】
界面活性剤として水より高い沸点を有するものを選択することにより、例えば、界面活性剤の存在下で、水に分散された(A)セルロースナノファイバーを乾燥させ、(A)セルロースナノファイバー乾燥体を得る場合に、水が蒸発する過程で水と界面活性剤とが置換されて(A)セルロースナノファイバー表面に界面活性剤が存在するようになるため、(A)セルロースナノファイバーの凝集を大幅に抑制する効果を奏することができる。
【0084】
界面活性剤は、その取扱い性の観点より、室温(すなわち25℃)で液体のものが好ましく使用可能である。常温で液体の界面活性剤は、(A)セルロースナノファイバーと親和しやすく、(F)熱可塑性樹脂にも浸透しやすいという利点を有する。
【0085】
界面活性剤としては、溶解パラメーター(SP値)が7.25以上であるものがより好ましく使用可能である。界面活性剤がこの範囲のSP値を有することで、(A)セルロースナノファイバーの(F)熱可塑性樹脂中での分散性が向上する。
【0086】
SP値は、Fodersの文献(R.F.Foders:Polymer Engineering & Science,vol.12(10),p.2359-2370(1974))によると、物質の凝集エネルギー密度とモル分子量の両方に依存し、またこれらは物質の置換基の種類及び数に依存していると考えられ、上田らの文献(塗料の研究、No.152、Oct.2010)によると、後述する実施例に示す既存の主要な溶剤についてのSP値(cal/cm3)1/2が公開されている。
【0087】
界面活性剤のSP値は、実験的には、SP値が既知の種々の溶剤に界面活性剤を溶解させたときの、可溶と不溶の境目から求めることができる。例えば、実施例に示す表中のSP値が異なる各種溶剤(10mL)に、界面活性剤1mLを室温においてスターラー撹拌下で1時間溶解させた場合に、全量が溶解するかどうかで判断可能である。例えば、界面活性剤がジエチルエーテルに可溶であった場合は、その界面活性剤のSP値は7.25以上となる。
【0088】
界面活性剤としては、親水性の置換基と疎水性の置換基が共有結合した化学構造を有する化合物が挙げられ、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができる。例えば、以下のものを1種又は2種以上併用して用いる。特に好ましい態様において、界面活性剤は、前述のような特定の動的表面張力を有する界面活性剤である。
【0089】
界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロース成分との親和性の点で、陰イオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
【0090】
陰イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(陰イオン)として、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム,アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム等が挙げられ、直鎖アルキルベンゼン系として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、高級アルコール系(陰イオン)系として、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、アルファオレフィン系としてアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム等、ノルマルパラフィン系としてアルキルスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0091】
非イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(非イオン)として、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の糖脂質、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられ、高級アルコール系(非イオン)としてポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、アルキルフェノール系としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0092】
両性イオン系界面活性剤としては、アミノ酸系として、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム等が挙げられ、ベタイン系としてアルキルベタイン等が挙げられ、アミンオキシド系としてアルキルアミンオキシド等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0093】
陽イオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩系として、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0094】
界面活性剤は、油脂の誘導体であってよい。油脂としては、脂肪酸とグリセリンとのエステルが挙げられ、通常は、トリグリセリド(トリ-O-アシルグリセリン)の形態を取るものをいう。脂肪油で酸化を受けて固まりやすい順に乾性油、半乾性油、不乾性油と分類され、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができ、例えば以下のものを、1種又は2種以上併用して用いる。
【0095】
油脂としては、動植物油として、例えば、テルピン油、トール油、ロジン、白絞油、コーン油、大豆油、ゴマ油、菜種油(キャノーラ油)、こめ油、糠油、椿油、サフラワー油(ベニバナ油)、ヤシ油(パーム核油)、綿実油、ひまわり油、エゴマ油(荏油)、アマニ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ、乳脂(バター、ギー等)、硬化油(マーガリン、ショートニングなど)、ひまし油(植物油)等が挙げられる。
【0096】
特に、上述の動植物油の中でも、セルロース成分表面への親和性、均一コーティング性の観点から、テルピン油、トール油、ロジンが好ましい。
【0097】
テルピン油(テルビン油ともいう)は、マツ科の樹木のチップ、或いはそれらの樹木から得られた松脂(まつやに)を水蒸気蒸留することによって得られる精油のことであり、松精油、ターペンタインともいう。テルピン油としては、例えば、ガム・テレピン油(松脂の水蒸気蒸留によって得られたもの)、ウッド・テレピン油(マツ科の樹木のチップを水蒸気蒸留或いは乾留することで得られたもの)、硫酸テレピン油(硫酸塩パルプ製造時にチップを加熱処理した時に留出して得られたもの)、亜硫酸テレピン油(亜硫酸パルプ製造時にチップを加熱処理した時に留出して得られたもの)が挙げられ、ほぼ無色から淡黄色の液体で、亜硫酸テレピン油以外は主にα-ピネンとβ-ピネンを成分とする。亜硫酸テレピン油は、他のテレピン油と異なりp-シメンを主成分とする。上述の成分を含んでいれば、前記テルピン油に含まれ、いずれも単独又は複数の混合物の誘導体を、本発明の界面活性剤として使用することができる。
【0098】
トール油は、松材を原料にクラフトパルプを作る際に副成する、樹脂と脂肪酸を主成分とする油である。トール油としては、オレイン酸とリノール酸を主成分とするトール脂肪を用いても、アビエチン酸などの炭素数20のジテルペノイド化合物を主成分とするトールロジンを用いてもよい。
【0099】
ロジンは、マツ科の植物の樹液である松脂等のバルサム類を集めてテレピン精油を蒸留した後に残る残留物で、ロジン酸(アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等)を主成分とする天然樹脂である。コロホニー或いはコロホニウムとも呼ばれる。中でも、トールロジン、ウッドロジン、ガムロジンが好適に使用できる。これらロジン類に種々の安定化処理、エステル化処理、精製処理などを施したロジン誘導体を、界面活性剤として使用できる。安定化処理とは、上記ロジン類に水素化、不均化、脱水素化、重合処理等を施すことをいう。また、エステル化処理とは、上記ロジン類、又は安定化処理を施したロジン類を各種アルコールと反応させてロジンエステルとする処理のことをいう。このロジンエステルの製造には各種公知のアルコール又はエポキシ化合物等を使用することができる。アルコールとしては、例えば、n-オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコールのような1価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アルコールが挙げられる。また、イソペンチルジオール、エチルヘキサンジオール、エリトルロース、オゾン化グリセリン、カプリリルグリコール、グリコール、(C15-18)グリコール、(C20-30)グリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジグリセリン、ジチアオクタンジオール、DPG、チオグリセリン、1,10-デカンジオール、デシレングリコール、トリエチレングリコール、チリメチルギドロキシメチルシクロヘキサノール、フィタントリオール、フェノキシプロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、BG、PG、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、メチルプロパンジオール、メンタンジオール、ラウリルグリコール等の多価アルコールを用いてもよい。また、イノシトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、ラクチトール等の糖アルコールとして分類されるものも、多価アルコールに含まれる。
【0100】
さらに、上記アルコールとしては、アルコール性の水溶性高分子を用いることもできる。アルコール性の水溶性高分子としては、多糖類・ムコ多糖類、デンプンとして分類されるもの、多糖誘導体として分類されるもの、天然樹脂に分類されるもの、セルロース及び誘導体に分類されるもの、タンパク質・ペプチドに分類されるもの、ペプチド誘導体に分類されるもの、合成ホモポリマーに分類されるもの、アクリル(メタクリル酸)酸共重合体に分類されるもの、ウレタン系高分子に分類されるもの、ラミネートに分類されるもの、カチオン化高分子に分類されるもの、その他の合成高分子に分類されるもの等が挙げられ、常温で水溶性のものを用いることができる。より具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム、セルロースエーテル、アルギン酸カルシウム、カルボキシビニルポリマー、エチレン/アクリル酸共重合体、ビニルピロリドン系ポリマー、ビニルアルコール/ビニルピロリドン共重合体、窒素置換アクリルアミド系ポリマー、ポリアクリルアミド、カチオン化ガーガムなどのカチオン系ポリマー、ジメチルアクリルアンモニウム系ポリマー、アクリル酸メタクリル酸アクリル共重合体、POE/POP共重合体、ポリビニルアルコール、プルラン、寒天、ゼラチン、タマリンド種子多糖類、キサンタンガム、カラギーナン、ハイメトキシルペクチン、ローメトキシルペクチン、ガーガム、アラビアゴム、セルロースウィスカー、アラビノガラクタン、カラヤガム、トラガカントガム、アルギン酸、アルブミン、カゼイン、カードラン、ジェランガム、デキストラン、セルロース(本開示のセルロースファイバー及びセルロースウィスカーではないもの)、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、カチオン化シリコーン重合体等が挙げられる。
【0101】
上述の各種ロジンエステルの中でも、セルロース成分表面のコーティング性、樹脂中でのセルロース製剤の分散性がさらに促進される傾向にあるため、ロジンと水溶性高分子がエステル化したものが好ましく、ロジンとポリエチレングリコールとのエステル化物(ロジンエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレングリコール樹脂酸エステル、ポリオキシエチレンロジン酸エステルともいう。)が特に好ましい。
【0102】
硬化ひまし油型の界面活性剤としては、例えば、トウダイグサ科のトウゴマの種子等から採取する植物油の一種であるひまし油(ひましあぶら、ひましゆ、蓖麻子油)を原料として、水素化されたものを疎水基として、その構造中の水酸基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。ひまし油の成分は、不飽和脂肪酸(リシノール酸が87%、オレイン酸が7%、リノール酸が3%)と少量の飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸などが3%)のグリセリドである。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。
【0103】
鉱物油の誘導体としては、例えば、カルシウム石鹸基グリース、カルシウム複合石鹸基グリース、ナトリウム石鹸基グリース、アルミニウム石鹸基グリース、リチウム石鹸基グリース等のグリース類等が挙げられる。
【0104】
界面活性剤は、アルキルフェニル型化合物であってもよく、例えば、アルキルフェノールエトキシレート、すなわちアルキルフェノールをエチレンオキシドでエトキシル化して得られる化合物が挙げられる。アルキルフェノールエトキシレートは非イオン界面活性剤である。親水性のポリオキシエチレン(POE)鎖と、疎水性のアルキルフェノール基がエーテル結合で結びついていることから、ポリ(オキシエチレン)アルキルフェニルエーテルとも呼ばれる。一般にアルキル鎖長、POE鎖長の異なる多数の化合物の混合物として、平均鎖長の異なる一連の製品が市販されている。アルキル鎖長は炭素数6~12(フェニル基を除く)が市販されているが、代表的なアルキル基の構造は、ノニルフェノールエトキシレートやオクチルフェノールエトキシレートが挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が5~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。
【0105】
界面活性剤は、βナフチル型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、ナフタレンを含み、芳香環の2又は3又は6又は7位の炭素が水酸基と結合したβモノ置換体と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。EO残基が15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。
【0106】
界面活性剤は、ビスフェノールA型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、ビスフェノールA(化学式 :(CH3)2C(C6H4OH)2)を含み、その構造中の二つのフェノール基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。このEO残基は、一つの分子中に、二つのエーテル結合がある場合は、それら二つを足し合わせた平均値を指す。
【0107】
界面活性剤は、スチレン化フェニル型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、スチレン化フェニル基を含み、その構造中のフェノール基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。スチレン化フェニル基は、フェノール残基のベンゼン環にスチレンが1~3分子付加した構造を有する。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。このEO残基は、一つの分子中に、二つのエーテル結合がある場合は、それら二つを足し合わせた平均値を指す。
【0108】
界面活性剤の具体的な好適例としては、例えば、アシルグタミン酸塩等のアシルアミノ酸塩、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウロイルサルコシンナトリウム等のN-アシルサルコシン酸塩等のアニオン性界面活性剤;塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化(N,N’-ジメチル-3,5-メチレンピペリジニウム)、塩化セチルピチジニウム等のアルキルピリジニウム塩、アルキル4級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のアルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体等のカチオン性界面活性剤;2-ウンデシル-N,N,N-(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)2-イミダゾリンナトリウム、2-ココイル-2-イミタゾリニウムヒドロキサイド-1-カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤、2-ヘプタデシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホバタイン等のベタイン系両性界面活性剤等の両性界面活性剤、ソルビタンノモオレエート、ソルビタンモノモイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸グリセリン、α,α’-オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸等のグリセリンポリグリセリン脂肪酸類、モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン-ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン-ソルビタンテトラオレエート等のポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン-ソルビットモノラウレート、ポリオキシエチレン-ソルビットモノオレエート、ポリオキシエチレン-ソルビットペンタオレエート、ポリオキシエチレン-ソルビットモノステアレート、ポリオキシエチレン-グリセリンモノイソステアレート、ポリオキシエチレン-グリセリントリイソステアレート等のポリオキシエチレン-グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンモノジオレエート、システアリン酸エチレングリコール等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油トリイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油マレイン酸等のポリオキシエチレンヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0109】
上述の中でも、セルロース成分との親和性の点で、親水基としてポリオキシエチレン鎖、カルボン酸、又は水酸基を有する界面活性剤が好ましく、親水基としてポリオキシエチレン鎖を有するポリオキシエチレン系界面活性剤(ポリオキシエチレン誘導体)がより好ましく、非イオン系のポリオキシエチレン誘導体がさらに好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、セルロース成分との親和性が高まるが、コーティング性(樹脂及びセルロース成分との界面への局在性)とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
【0110】
疎水性の樹脂(例えばポリオレフィン、ポリフェニレンエーテル等)にセルロース成分を配合する場合には、親水基としてポリオキシエチレン鎖に代えて、ポリオキシプロピレン鎖を有するものを用いることが好ましい。ポリオキシプロピレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、セルロース成分との親和性が高まるが、コーティング性とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
【0111】
上述の界面活性剤でも、特に、疎水基としては、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、硬化ひまし油型が、樹脂との親和性が高いため、好適に使用できる。好ましいアルキル鎖長(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)としては、炭素鎖が5以上であるこことが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、16以上が特に好ましい。樹脂がポリオレフィンの場合、炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まるため上限は設定されないが、好ましくは30、より好ましくは25である。
【0112】
これらの疎水基の中でも、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものが好ましく、環状構造を有するものとしては、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型が特に好ましい。これらの中でも、特にロジンエステル型、硬化ひまし油型が最も好ましい。
【0113】
したがって、特に好ましい態様において、界面活性剤は、ロジン誘導体、アルキルフェニル誘導体、ビスフェノールA誘導体、βナフチル誘導体、スチレン化フェニル誘導体、及び硬化ひまし油誘導体からなる群より選択される1種以上である。
【0114】
(F)熱可塑性樹脂100質量部に対する界面活性剤の配合量は、良好な機械的特性、熱安定性及び耐久性を得る観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上であり、良好な成形性を得る観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0115】
典型的な態様において、(B)表面処理剤は曇点を有する。親水性部位としてポリオキシエチレン鎖等のポリエーテル鎖をもつ非イオン性界面活性剤の水溶液の温度を上昇させていくと、透明又は半透明であった水溶液がある温度(この温度を曇点という)で白濁する現象がみられる。すなわち、低温で透明又は半透明である水溶液を加温した際に、ある温度を境に非イオン性界面活性剤の溶解度が急激に低下し、それまで溶けていた界面活性剤同士が凝集・白濁して、水と分離する。これは、高温になると非イオン性界面活性剤が水和力を失う(ポリエーテル鎖と水との水素結合が切れ水への溶解度が急激に下がる)ためと考えられる。曇点はポリエーテル鎖が長いほど低い傾向にある。曇点以下の温度であれば、水に任意の割合で溶解することから、曇点は、(B)表面処理剤における親水性の尺度となる。
【0116】
(B)表面処理剤の曇点は以下の方法で測定する事ができる。音叉型振動式粘度計(例えば株式会社エー・アンド・デイ社製SV-10A)を用いて、(B)表面処理剤の水溶液を0.5質量%、1.0質量%、5質量%に調整し、温度0~100℃の範囲で測定を行う。この時、各濃度において変曲点(粘度の上昇変化、又は水溶液が曇化した点)を示した部分を曇点とする。
【0117】
(B)表面処理剤の曇点の下限値は、取扱い性の観点から、好ましくは10℃であり、より好ましくは20℃であり、最も好ましくは30℃である。また、当該曇点の上限値は、特に限定されないが、好ましくは120℃であり、より好ましくは110℃であり、さらに好ましくは100℃であり、最も好ましくは60℃である。(A)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を確保するために、(B)表面処理剤の曇点は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0118】
(B)表面処理剤の融点の下限値は、樹脂組成物を可塑化しない観点から、好ましくは-50℃であり、より好ましくは-35℃であり、より好ましくは-30℃であり、より好ましくは-10℃であり、最も好ましくは0℃であり、上限値は、操作性の観点から、好ましくは70℃であり、より好ましくは60℃であり、より好ましくは55℃であり、より好ましくは30℃であり、最も好ましくは10℃である。
【0119】
(B)表面処理剤の親水性セグメントと疎水性セグメントとの質量比率(疎水性セグメント分子量/親水性セグメント分子量)の下限値は特に限定されないが、HLB値を所定値以下に容易に調整できる点で、好ましくは1.5であり、より好ましくは1.55であり、最も好ましくは1.60である。また、当該親水性セグメントと疎水性セグメントとの質量比率(疎水性セグメント分子量/親水性セグメント分子量)の上限値は、HLB値を所定値以上に容易に調整できる点、及び水への溶解性の観点から好ましくは199、より好ましくは100、さらに好ましくは50、最も好ましくは20である。一態様において、上記質量比率は、0.1~3であってよい。(A)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を確保するために、(B)表面処理剤の上記比率は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0120】
(B)表面処理剤の数平均分子量の下限値は、樹脂組成物作製時の臭気性、及び成形時の成形性を向上させる観点から、好ましくは200であり、より好ましくは250であり、さらに好ましくは300であり、最も好ましくは500である。また、当該数平均分子量の上限値は、取扱い性の観点から、好ましくは30000であり、より好ましくは25000、さらに好ましくは23000、さらに好ましくは20000、さらに好ましくは10000、最も好ましくは5000である。(A)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を確保するために、(B)表面処理剤の数平均分子量は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0121】
(B)表面処理剤の親水性セグメントの分子量の下限値は、セルロースナノファイバーとの親和性の観点から、好ましくは100、より好ましくは150、最も好ましくは200であり、上限値は、水への溶解性の観点から、好ましくは20000、より好ましくは15000、最も好ましくは10000である。
【0122】
(B)表面処理剤の疎水性セグメントの分子量の下限値は、樹脂中へのセルロースナノファイバーの分散性の観点から、好ましくは100、より好ましくは150、最も好ましくは200であり、上限値は、水への溶解性の観点から、好ましくは10000、より好ましくは5000、最も好ましくは4000である。
【0123】
一態様のセルロースナノファイバー含水分散液において、(B)表面処理剤の好ましい量は、分散液全体に対し、0.1~60質量%である。上限量は、より好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%、より好ましくは35質量%、より好ましくは30質量%、より好ましくは20質量%、より好ましくは10質量%、より好ましくは5質量%、特に好ましくは3質量%である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%、より好ましくは0.5質量%、より好ましくは1質量%である。(B)表面処理剤の上限量を上記とする事で、分散液の粘度が過度に高くならず、当該分散液を用いて均一なセルロースナノファイバー含水分散液を容易に調製できる。また、(B)表面処理剤の下限量を上記とすることで、セルロースナノファイバーの再分散性(すなわち、セルロースナノファイバー含水分散液を用いて調製されたセルロースナノファイバー乾燥体を水中に分散させたときのセルロースナノファイバーの分散性)を高めることができる。
【0124】
樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、(B)表面処理剤の好ましい量は、樹脂組成物又は樹脂成形体の全体に対し、(B)表面処理剤が0.1~50質量%の範囲内である。上限量は、より好ましくは18質量%、さらに好ましくは15質量%、さらにより好ましくは10質量%、特に好ましくは5質量%である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%、最も好ましくは0.5質量%である。(B)表面処理剤の上限量を上記とする事で、樹脂組成物の可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、(B)表面処理剤の下限量を上記とすることで、(F)熱可塑性樹脂中の(A)セルロースナノファイバーの分散性を高めることができる。
【0125】
セルロースナノファイバー含水分散液、セルロースナノファイバー乾燥体、樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、(B)表面処理剤の好ましい量は、(A)セルロースナノファイバー100質量部に対し、(B)表面処理剤が0.1~100質量部の量の範囲内である。上限量は、より好ましくは99質量部、より好ましくは90質量部、より好ましくは80質量部、さらにより好ましくは70質量部、さらにより好ましくは50質量部、特に好ましくは40質量部である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1質量部、より好ましくは0.5質量部、最も好ましくは1質量部である。(B)表面処理剤の上限量を上記とする事で、樹脂組成物及び樹脂成形体における可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、(B)表面処理剤の下限量を上記とすることで、(A)セルロースナノファイバーの再分散性を高めることができる。
【0126】
樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、(B)表面処理剤の量は、(F)熱可塑性樹脂100質量部に対して、下限量が、0.1質量部、好ましくは0.5質量部、より好ましくは1質量部、さらに好ましくは2質量部であり、上限量が、200質量部、好ましくは50質量部、より好ましくは10質量部、さらに好ましくは5質量部である。(B)表面処理剤の上限量を上記とする事で、(F)熱可塑性樹脂の可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、(B)表面処理剤の下限量を上記とすることで、(F)熱可塑性樹脂中の(A)セルロースナノファイバーの分散性を高めることができる。
【0127】
セルロースナノファイバー含水分散液中及びセルロースナノファイバー乾燥体中の(B)表面処理剤の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。セルロースナノファイバー乾燥体は水を加え、セルロースナノファイバー含水分散液とする。セルロースナノファイバー含水分散液に対し、遠心分離を行う。これにより沈降物(セルロースナノファイバー)と表面処理剤分散液に分離が可能である。表面処理剤分散液を濃縮(乾燥・風乾・減圧乾燥等)させることで(B)表面処理剤の定量が可能である。濃縮後の(B)表面処理剤について、前述の方法によって同定及び分子量の測定を行うことができる。
【0128】
樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、(B)表面処理剤の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。樹脂組成物又は樹脂成形体の破断片を用い、(F)熱可塑性樹脂を溶解させる溶媒に樹脂組成物を溶解させたときの、可溶分1(樹脂及び表面処理剤)と不溶分1(セルロース及び表面処理剤)を分離する。可溶分1を、樹脂を溶解させないが表面処理剤を溶解させる溶媒で再沈殿させ、不溶分2(樹脂)と可溶分2(表面処理剤)に分離する。また、不溶分1を表面処理剤溶解性溶媒に溶解させ、可溶分3(表面処理剤)と不溶分3(セルロース)に分離する。可溶分2、可溶分3を濃縮(乾燥・風乾・減圧乾燥等)させることで(B)表面処理剤の定量が可能である。濃縮後の(B)表面処理剤について、前述の方法によって同定及び分子量の測定を行うことができる。
【0129】
一態様において、後述の(D)バインダー成分としてポリウレタンが含まれる樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、(B)表面処理剤の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。樹脂組成物又は樹脂成形体の破断片を用い、(F)熱可塑性樹脂を溶解させる溶媒に樹脂組成物を溶解させたときの、可溶分1(樹脂及び表面処理剤)と不溶分1(セルロース及びポリウレタン及び表面処理剤)を分離する。可溶分1を、ポリウレタンを溶解させないが表面処理剤を溶解させる溶媒で再沈殿させ、不溶分2(樹脂)と可溶分2(表面処理剤)に分離する。また、不溶分1をポリウレタン溶解性溶媒に溶解させ、可溶分3(ポリウレタン及び表面処理剤)と不溶分3(セルロース)に分離する。可溶分3を、ポリウレタンを溶解させないが表面処理剤を溶解させる溶媒で再沈殿させ、不溶分4(ポリウレタン)と可溶分4(表面処理剤)に分離する。上記操作によって単離した表面処理剤(可溶分2及び可溶分4)を濃縮させることで、(B)表面処理剤の定量が可能である。濃縮後の(B)表面処理剤について、前述の方法によって同定及び分子量の測定を行うことができる。
【0130】
セルロースナノファイバー含水分散液を調製する際の(B)表面処理剤の添加方法としては、特に制限はないが、(B)表面処理剤を水に溶解させ、得られた表面処理剤水溶液に(A)セルロースナノファイバーを添加し混合することでセルロースナノファイバー含水分散液を得る方法、(A)セルロースナノファイバーを水に分散させ、得られた(A)セルロースナノファイバー分散液に(B)表面処理剤を添加し、混合することで分散液を得る方法、等が挙げられる。
【0131】
また、樹脂組成物を調製する際の(B)表面処理剤の添加方法としては、特に制限はないが、(F)熱可塑性樹脂、(A)セルロースナノファイバー、及び(B)表面処理剤をあらかじめ混合し溶融混練する方法、(F)熱可塑性樹脂にあらかじめ(B)表面処理剤を添加し、必要により予備混練した後、(A)セルロースナノファイバーを添加して溶融混練する方法、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤を予め混合した後、(F)熱可塑性樹脂と溶融混練する方法、(A)セルロースナノファイバーが水に分散している分散液中に(B)表面処理剤を添加し、乾燥させてセルロース乾燥体を作製したのち、当該乾燥体を(F)熱可塑性樹脂に添加する方法、等が挙げられる。
【0132】
≪(C)水溶性有機溶媒≫
一態様において、セルロースナノファイバー含水分散液、セルロース乾燥体は、それぞれ、(C)水溶性有機溶媒を含んでよい。(C)水溶性有機溶媒は、本開示で定義する「水溶性」を有する溶媒である。(C)水溶性有機溶媒は、(A)セルロースナノファイバーの表面に存在する(B)表面処理剤を溶解させて、(B)表面処理剤を(A)セルロースナノファイバーに均一に塗布するという利点、さらにこれによりセルロースナノファイバー乾燥体の水への再分散を良好にするという利点を与えることができる。(C)水溶性有機溶媒は、プロトン性有機溶媒又は非プロトン性有機溶媒であってよい。
【0133】
プロトン性有機溶媒は酸素原子に結合した比較的酸性度の高い水素原子をもち、水素結合の供与体になる有機溶媒である。一方、非プロトン性有機溶媒は酸性度の高い水素原子を持たない有機溶媒である。(C)水溶性有機溶媒は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0134】
(C)水溶性有機溶媒として好適に使用可能な具体例としては、非プロトン性有機溶媒として、1,4-ジオキサン、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、Nーメチルアセトアミド、N,Nージメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリンサントリアミド、リン酸トリエチル、スクシノニトリル、ベンゾニトリル、ピリジン、ニトロメタン、モルホリン、エチレンジアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、炭酸プロピレン、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル等が挙げられる。プロトン性有機溶媒として、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、フェノール、ベンジルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0135】
これらの中でも、耐熱性、及び入手容易性の観点から、非プロトン性有機溶媒として、ジエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,Nージメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリンサントリアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、トリエチレングリコールジメチルエーテルが好ましく挙げられ、N,N-ジメチルホルムアミド、N,Nージメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、トリエチレングリコールジメチルエーテルが、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。
【0136】
耐熱性、及び入手容易性の観点から、プロトン性有機溶媒として、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、が好ましく挙げられ、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、が取り扱い性・コストの観点からより好ましい。
【0137】
典型的な態様において、(C)水溶性有機溶媒の分子量の下限値は、50であり、好ましくは100であり、より好ましくは300であり、最も好ましくは1000である。また、数平均分子量の上限値は、特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは2000以下である。(B)表面処理剤を溶解させ、樹脂組成物中の(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーとの結合又は吸着を良好にする観点で、上述の範囲内にあることが望ましい。
【0138】
典型的な態様において、(C)水溶性有機溶媒の沸点の下限値は、100℃であり、好ましくは110℃であり、より好ましくは120℃であり、より好ましくは150℃であり、最も好ましくは180℃である。好ましい態様において、沸点の上限値は、300℃であり、より好ましくは290℃であり、より好ましくは280℃であり、より好ましくは260℃であり、最も好ましくは240℃である。(C)水溶性有機溶媒の沸点の下限が上記範囲にあることで、推定ではあるが、セルロースナノファイバー乾燥体において、先に水分が気化し(B)表面処理剤と(C)水溶性有機溶媒が共存する環境が形成される。このような環境は、(A)セルロースナノファイバーの表面に存在する(B)表面処理剤を溶解させて当該(B)表面処理剤を(A)セルロースナノファイバーに均一に塗布するのに有利であり、セルロースナノファイバー乾燥体の水又は有機溶媒への再分散を良好にすること、及び、セルロースナノファイバー含水分散液及びセルロースナノファイバー乾燥体の樹脂組成物中への分散を良好にすることに寄与する。一方(C)水溶性有機溶媒の沸点の上限が上記範囲にあることで、樹脂組成物の製造時に十分に(C)水溶性有機溶媒が気化することができる。これにより、(C)水溶性有機溶媒による樹脂組成物の可塑化を抑制し、良好な強度を保つことができる傾向にある。
【0139】
典型的な態様において、(C)水溶性有機溶媒の25℃における比誘電率の下限値は、1であり、好ましくは2であり、より好ましくは3であり、より好ましくは5であり、最も好ましくは7である。また、25℃における比誘電率の上限値は、好ましくは80であり、より好ましくは70であり、より好ましくは60であり、最も好ましくは50である。(C)水溶性有機溶媒の比誘電率が上記範囲にあると、推定ではあるが、分散液において(B)表面処理剤を均一に分散させることができ、乾燥の過程においても、(B)表面処理剤の曇点以上でも析出を抑制できていると思われる。
【0140】
セルロースナノファイバー含水分散液において、(C)水溶性有機溶媒の好ましい量は、(A)セルロースナノファイバー100質量部に対し、(C)水溶性有機溶媒が0.1~100質量部の量の範囲内である。上限量は、より好ましくは80質量部、さらにより好ましくは50質量部、特に好ましくは20質量部である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.5質量部、より好ましくは1質量部、最も好ましくは5質量部である。(C)水溶性有機溶媒の上限量を上記とする事で、表面処理剤を均一にセルロースナノファイバーにコートすることができ、(C)水溶性有機溶媒の下限量を上記とすることで、セルロースナノファイバー乾燥体の水への再分散性を高めることができる。また、セルロースナノファイバー含水分散液及びセルロースナノファイバー乾燥体の樹脂組成物中への分散が良好となる傾向にある。
【0141】
セルロースナノファイバー含水分散液において、(C)水溶性有機溶媒の含有量は、分散液全体100質量%に対し、上限量は、より好ましくは50質量%、さらにより好ましくは30質量%、さらにより好ましくは20質量%、特に好ましくは10質量%である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.5質量%、最も好ましくは1質量%である。(C)水溶性有機溶媒の上限量を上記とする事で、経済性に優れた分散液を調製することができる。また、(C)水溶性有機溶媒の下限量を上記とすることで、セルロースナノファイバー乾燥体の水への再分散性を高めることができる。また、セルロースナノファイバー含水分散液及びセルロースナノファイバー乾燥体の樹脂組成物中への分散が良好となる傾向にある。
【0142】
セルロースナノファイバー乾燥体において、(C)水溶性有機溶媒の含有量は、乾燥体全体の質量基準で、(C)水溶性有機溶媒が0~10000ppmの範囲内である。上限量は、より好ましくは5000ppm、より好ましくは3000ppm、より好ましくは2500ppm、さらにより好ましくは2000ppm、さらにより好ましくは1500ppm、特に好ましくは1200ppmである。下限は特に限定されないが、好ましくは100ppm、より好ましくは150ppm、最も好ましくは300ppmである。(C)水溶性有機溶媒の上限量が上記である場合、表面処理剤が均一にセルロースナノファイバーにコートされている傾向がある。また(C)水溶性有機溶媒の下限量が上記である場合、セルロースナノファイバー乾燥体の水への再分散性及び樹脂組成物中への分散性が良好である傾向にある。
【0143】
一態様の樹脂組成物及び樹脂成形体において、(C)水溶性有機溶媒の含有量は、樹脂組成物全体の質量基準で、(C)水溶性有機溶媒が0~5000ppmの範囲内である。上限量は、より好ましくは4000ppm、より好ましくは3500ppm、より好ましくは2500ppm、より好ましくは1800ppm、さらにより好ましくは1500ppm、さらにより好ましくは1200ppm、特に好ましくは1000ppmである。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1ppm、より好ましくは1ppm、最も好ましくは10ppmである。(C)水溶性有機溶媒の上限量を上記とする事で、(F)熱可塑性樹脂の可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、(C)水溶性有機溶媒の下限量を上記とすることで、(F)熱可塑性樹脂中の(A)セルロースナノファイバーの分散性を高めることができる。
【0144】
セルロースナノファイバー含水分散液中、セルロースナノファイバー乾燥体中、樹脂組成物中、又は樹脂成形体中の(C)水溶性有機溶媒の量は、それぞれ、当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。セルロースナノファイバー含水分散液若しくはセルロースナノファイバー乾燥体を直接、又は樹脂組成物若しくは樹脂成形体の破断片を、熱分解GCMS測定に供し、クロマトグラムとマススペクトルから(C)水溶性有機溶媒を定性的に同定できる。この時検出された(C)水溶性有機溶媒を用いて、同じコンディションで検量線を作成することで、セルロースナノファイバー含水分散液中、セルロースナノファイバー乾燥体中、樹脂組成物中、又は樹脂成形体中の含有量を定量する事が出来る。
【0145】
分散液中の(C)水溶性有機溶媒の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。分散液を直接熱分解GCMS測定に供し、クロマトグラムとマススペクトルから(C)水溶性有機溶媒を定性的に同定できる。この時検出された(C)水溶性有機溶媒を用いて、同じコンディションで検量線を作成することで、分散液中の含有量を定量する事が出来る。
【0146】
セルロースナノファイバー含水分散液中、及びセルロースナノファイバー乾燥体中の(C)水溶性有機溶媒の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。セルロースナノファイバー含水分散液又はセルロースナノファイバー乾燥体を直接熱分解GCMS測定に供し、クロマトグラムとマススペクトルから(C)水溶性有機溶媒を定性的に同定できる。この時検出された(C)水溶性有機溶媒を用いて、同じコンディションで検量線を作成することで、セルロースナノファイバー含水分散液中、及びセルロースナノファイバー乾燥体中の含有量を定量する事が出来る。
【0147】
樹脂組成物中、及び樹脂成形体中の(C)水溶性有機溶媒の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。樹脂組成物又は樹脂成形体の破断片を熱分解GCMS測定に供し、クロマトグラムとマススペクトルから(C)水溶性有機溶媒を定性的に同定できる。この時検出された(C)水溶性有機溶媒を用いて、同じコンディションで検量線を作成することで、樹脂組成物中及び樹脂成形体中の含有量を定量する事が出来る。
【0148】
≪(F)熱可塑性樹脂≫
一態様において、セルロースナノファイバー含水分散液、及びその乾燥体であるセルロースナノファイバー乾燥体は、(F)熱可塑性樹脂をさらに含む。このようなセルロースナノファイバー含水分散液及びセルロースナノファイバー乾燥体の各々は、本実施形態のセルロースナノファイバー樹脂組成物である。本発明において用いることができる(F)熱可塑性樹脂は、典型的には、数平均分子量5000以上を有する。(F)熱可塑性樹脂の数平均分子量の下限は、好ましくは5500、より好ましくは10000、特に好ましくは13000であり、上限は、好ましくは100万、より好ましくは50万、特に好ましくは30万である。なお(F)熱可塑性樹脂の数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用い、標準ポリメタクリル酸メチル換算で測定される値である。(F)熱可塑性樹脂としては、100℃~350℃の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、又は、100~250℃の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂が挙げられる。(F)熱可塑性樹脂は、ホモポリマーでもコポリマーでもよい1種又は2種以上のポリマーで構成されてよい。
【0149】
ここでいう結晶性樹脂の融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度をいう。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
【0150】
また、ここでいう非晶性樹脂のガラス転移温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とすることが望ましい。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成型品の切り出し片を用いることが望ましく、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が熱伝導の観点より望ましい。
【0151】
(F)熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルを他の樹脂とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性ポリフェニレンエーテルも含む)、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばα-オレフィン(共)重合体)、各種アイオノマー等が挙げられる。
【0152】
(F)熱可塑性樹脂の好ましい具体例は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(例えば直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系樹脂、ポリ1-ブテン、ポリ1-ペンテン、ポリメチルペンテン、エチレン/α-オレフィン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン-プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α-オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体、エチレン-アクリル酸変性体、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びその酸変性物、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体の水素化物、他の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体、天然ゴム、各種ブタジエンゴム、各種スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭化物、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリロブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル、アクリロニトリルを主成分とするアクリロニトリル系共重合体、アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/酢酸ビニル共重合体のケン化物等が挙げられる。
【0153】
これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。また、上記した熱可塑性樹脂が、不飽和カルボン酸、その酸無水物又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたものも用いることもできる。
【0154】
これらの中でも、耐熱性、成形性、意匠性及び機械特性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が好ましい。
【0155】
これらの中でもポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂、特に、ポリアミド系樹脂及びポリアセタール系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。
【0156】
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)を含むモノマー単位を重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、特に限定されないが、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどに例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などに例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体などに代表されるα-オレフィンと他のモノマー単位との共重合体等が挙げられる。
【0157】
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、組成物の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
【0158】
また、セルロースとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、及びクエン酸等のポリカルボン酸等から適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下/非存在下で樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。
【0159】
酸変性されたポリオレフィン系樹脂は、単独で用いても構わないが、組成物としての変性率を調整するため、変性されていないポリオレフィン系樹脂と混合して使用することがより好ましい。例えば、変性されていないポリプロピレンと酸変性されたポリプロピレンとの混合物を用いる場合、全ポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、好ましくは0.5質量%~50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、さらに好ましくは2質量%、さらにより好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、さらに好ましくは40質量%、さらにより好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。セルロースとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
【0160】
酸変性されたポリプロピレンの好ましいISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)は、セルロース界面との親和性を高めるため、50g/10分以上であることが好ましい。より好ましい下限は100g/10分であり、さらにより好ましくは150g/10分、最も好ましくは200g/10分である。上限は特にないが、機械的強度の維持から500g/10分である。MFRをこの範囲内とすることにより、セルロースと樹脂との界面に存在しやすくなるという利点を享受できる。
【0161】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては、特に限定されないが、ラクタム類の重縮合反応により得られる、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸 、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られる、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等;及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,T/6,I)等の共重合体;が挙げられる。
【0162】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0163】
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、さらに好ましくは80μモル/gである。
【0164】
ポリアミド系樹脂において、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30~0.95であることが好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(A)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0165】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0166】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0167】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0168】
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H-NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003-055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、1H-NMRによる定量がより好ましい。
【0169】
ポリアミド系樹脂は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]が、0.6~2.0dL/gであることが好ましく、0.7~1.4dL/gであることがより好ましく、0.7~1.2dL/gであることがさらに好ましく、0.7~1.0dL/gであることが特に好ましい。好ましい範囲、その中でも特に好ましい範囲の固有粘度を有する上記ポリアミド系樹脂を使用すると、樹脂組成物の射出成形時の金型内流動性を大幅に高め、成形片の外観を向上させるという効用を与えることができる。
【0170】
本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。この粘度を求める具体的な方法は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法である。このゼロに外挿した値が固有粘度である。これらの詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。
【0171】
このとき濃度の異なるいくつかの測定溶媒の点数は、少なくとも4点とすることが精度の観点より望ましい。推奨される異なる粘度測定溶液の濃度は、好ましくは、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの少なくとも4点である。
【0172】
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリアリレート(PAR)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)(3-ヒドロキシアルカン酸からなるポリエステル樹脂)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカーボネート(PC)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂としては、PET、PBS、PBSA、PBT、及びPENが挙げられ、さらに好ましくは、PBS、PBSA、及びPBTが挙げられる。
【0173】
また、ポリエステル系樹脂は、重合時のモノマー比率並びに末端安定化剤の添加の有無及び量によって、末端基を自由に変えることが可能であるが、ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30~0.95であることが好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらに好ましくは、0.40であり、最も好ましくは0.45である。また、カルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらに好ましくは、0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(A)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0174】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、例えば1,3-ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3-ジオキソラン)量としては0.01~4モル%の範囲内が好ましい。コモノマー成分量のより好ましい下限量は、0.05モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%であり、特に好ましくは0.2モル%である。またより好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、特に好ましくは2.5モル%であり、最も好ましくは2.3モル%である。押出加工時及び成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点より、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
【0175】
≪(D)バインダー成分≫
(D)バインダー成分は、(F)熱可塑性樹脂とは異なる成分であり、典型的には、数平均分子量1000以上を有する。一態様において、(D)バインダー成分は、ホモポリマーでもコポリマーでもよい1種又は2種以上のポリマーで構成されてよい。(D)バインダー成分は、例えば、(F)熱可塑性樹脂と同種のポリマーの変性物(例えば酸変性体)、(F)熱可塑性樹脂と同種のポリマーでかつ分子量が異なるもの、(F)熱可塑性樹脂と異種のポリマー、等であることによって、(F)熱可塑性樹脂とは異なる。(D)バインダー成分は、例えば水分散体、水溶液の状態で樹脂に混練する方法で加えても良い。(D)バインダー成分は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0176】
(D)バインダー成分の数平均分子量の下限値は、好ましくは1000であり、より好ましくは2000であり、さらに好ましくは3000であり、特に好ましくは5000である。また、数平均分子量の上限値は、特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは1000000以下である。特に、(D)バインダー成分及び(B)表面処理剤の組合せと、樹脂組成物中の(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーとの結合又は吸着を良好にする観点で、(D)バインダー成分の数平均分子量は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0177】
典型的な態様において、(D)バインダー成分は、(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーと化学的又は物理的に結合又は相互作用し得る官能基(本開示で、「反応性官能基」ともいう。)を一つ以上有する。結合は、典型的には、イオン結合及び共有結合等の化学結合を包含し、相互作用は、典型的には、分子間力(例えば水素結合、ファンデルワールス力、及び静電引力)に起因する吸着(化学的又は物理的な吸着)を包含する。一態様において、(D)バインダー成分が有する反応性官能基は、少なくとも水酸基との間で結合性又は吸着性を示すような基である。反応性官能基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ホルミル基、アシル基、アミノ基、アゾ基、アジ基、イミノ基、カルボニル基、チオカルボニル基、ジイミド基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、シアノ基、ニトロ基、イソニトリル基、ビニル基、アリル基、アルコキシ基、酸無水物基、炭素-炭素二重結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、等が挙げられる。これら反応性官能基は分子内に一つ以上また、一種以上存在できる。
【0178】
これらの中でも、(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーとの反応性の点からヒドロキシル基、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、カルボニル基、及びイソシアネート基が好ましく使用可能である。
【0179】
(D)バインダー成分の上限は、(F)熱可塑性樹脂100質量部に対して、200質量部であり、150質量部であることが好ましく、100質量部であることがより好ましく、50質量部であることがさらに好ましい。(D)バインダー成分の下限は熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01質量部であり、0.05質量部であることが好ましく、0.1質量部であることがより好ましく、5質量部であることがさらに好ましい。上限を上記範囲とする事で、樹脂組成物全体の強度を維持する事が可能となる。下限を上記範囲とする事で、より強固な密着性を維持する事が出来る。
【0180】
(D)バインダー成分の好適例としては、特に限定されないが、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルを他の樹脂とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性ポリフェニレンエーテルも含む)、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂(例えば熱可塑性ポリウレタン)、ポリオレフィン系樹脂(例えばα-オレフィン(共)重合体)、各種アイオノマー等が挙げられる。
【0181】
(D)バインダー成分のより具体的な例としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(例えば直鎖状低密度ポリエチレン)、酸変性ポリエチレン、ポリエチレンワックス、酸変性ポリエチレンワックス、ポリプロピレン、ポリプロピレンワックス、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンワックス、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系樹脂、ポリ1-ブテン、ポリ1-ペンテン、ポリメチルペンテン、エチレン/α-オレフィン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン-プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α-オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体、エチレン-アクリル酸変性体、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びその酸変性物、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体の水素化物、他の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体、天然ゴム、各種ブタジエンゴム、各種スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭化物、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリロブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル、アクリロニトリルを主成分とするアクリロニトリル系共重合体、アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/酢酸ビニル共重合体のケン化物等が挙げられる。
【0182】
(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーとの反応性の点から、(D)バインダー成分としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン(特に熱可塑性ポリウレタン)、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル、アクリロニトリルを主成分とするアクリロニトリル系共重合体、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン等が好ましい。
【0183】
一態様において、(D)バインダー成分はイソシアネート化合物である。イソシアネート化合物としては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等のポリイソシアネート、ブロック化イソシアネート化合物(すなわちイソシアネート基がブロック剤でブロックされてなるブロック化イソシアネート基を有する化合物)等が挙げられる。ブロック剤としては、オキシム系ブロック剤、フェノール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、アミン系ブロック剤、ピラゾール系ブロック剤、重亜硫酸塩系ブロック剤、イミダゾール系ブロック剤等が挙げられる。好ましい態様において、イソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン)、トリレンジイソシアネート(TDI)、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート)、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、上記イソシアネート化合物にオキシム系ブロック剤、フェノール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、アミン系ブロック剤、ピラゾール系ブロック剤、重亜硫酸塩系ブロック剤、イミダゾール系ブロック剤等とを反応させたブロック化イソシアネート化合物、等が挙げられる。
【0184】
一態様において、(D)バインダー成分としては、(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーとの反応性、安定性、価格などの点から、TDI、MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート変性体とヘキサメチレンジイソシアネートとを原料とするブロック化イソシアネート化合物、等が好ましい。
【0185】
一態様において、イソシアネート化合物は、ポリウレタンであり、より好ましくは変性ポリウレタンである。変性ポリウレタンは、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等のポリイソシアネート、ブロック化イソシアネート化合物、等であってよい。
【0186】
ブロック化イソシアネート化合物のブロック基の解離温度は、反応性、安定性の観点から、上限値が好ましくは210℃であり、より好ましくは190℃であり、さらに好ましくは150℃である。また下限値は好ましくは70℃であり、より好ましくは80℃であり、さらに好ましくは110℃である。ブロック基の解離温度がこの範囲となるようなブロック剤としては、メチルエチルケトンオキシム、オルト-セカンダリーブチルフェノール、カプロラクタム、重亜硫酸ナトリウム、3,5-ジメチルピラゾール、2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0187】
一態様において、(D)バインダー成分は、イソシアネート化合物と(A)セルロースナノファイバー及び/又は(F)熱可塑性樹脂との反応生成物におけるイソシアネート化合物由来部分であってよい。
【0188】
一態様において、(D)バインダー成分としてのポリウレタンは、数平均分子量500以上、又は1000以上を有する。ポリウレタンの数平均分子量の下限は、好ましくは500、より好ましくは1000、特に好ましくは2000であり、上限は、好ましくは100000、より好ましくは50000、特に好ましくは30000である。一態様において、ポリウレタンは、ソフトセグメント及びハードセグメントを有する。一態様においては、ソフトセグメント及びハードセグメントのそれぞれが、1種又は2種以上のモノマー(ジイソシアネート)及びポリマーで構成されて良い。ポリウレタンは、例えば水分散体又は水溶液の状態で樹脂に混練する方法で加えても良い。ポリウレタンは市販の試薬又は製品であってもよい。
【0189】
ポリウレタンは、例えば、(F)熱可塑性樹脂と同種のポリマーの変性物(例えば酸変性体、水酸基変性体)とのウレタン結合を有するポリマー、(F)熱可塑性樹脂と同種のポリマーでかつ分子量が異なるものとのウレタン結合を有するポリマー、等であることによって、(F)熱可塑性樹脂とは異なる。ポリウレタンは、例えば、(A)セルロースナノファイバーとのウレタン結合を有するポリマー等であることによって、(A)セルロースナノファイバーとは異なる。ポリウレタンは、例えば、(B)表面処理剤とのウレタン結合を有するポリマー等であることによって、(B)表面処理剤とは異なる。ポリウレタンは、(B)表面処理剤、(A)セルロースナノファイバー、及び(F)熱可塑性樹脂との1つ以上のウレタン結合を有するポリマー等であっても良い。
【0190】
好ましい態様において、ポリウレタンは変性ポリウレタンである。例えば、ポリウレタンは、特定の温度でブロック基が脱離してイソシアネート基を再生する事が可能な変性ポリウレタンであってもよく、また、ポリイソシアネートの2量体若しくは3量体、ビューレット化イソシアネートなどの変性ポリウレタン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)等であってもよい。ポリウレタンは、例えば水分散体又は水溶液の状態で樹脂に混練する方法で加えても良い。ポリウレタンは市販の試薬又は製品であってもよい。
【0191】
ポリウレタンのソフトセグメント(特にジオールセグメント)の数平均モル質量は、(A)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を得る観点から、好ましくは500~50000g/mol、より好ましくは1000~30000g/molである。当該ジオールセグメントとしては、ポリエーテルジオール類、ポリエステルジオール類、ポリエーテルエステルジオール類、ポリカーボネートジオール類等のセグメントが挙げられる。
【0192】
ポリエーテルジオール類としては、例えば、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリブタジエンジオール又はこれらの共重合物(例えば、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとのコポリマー、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとのコポリマー)等を挙げることができる。また、これらは、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はテトラヒドロフランの開環重合により得ることができる。
【0193】
ポリエステルジオール類は、上述のポリエーテルジオール類又はジアルコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレン1,3-グリコール、プロピレン1,2-グリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチルプロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどが挙げられる)と、ジカルボン酸類(例えば、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる)とのエステル化反応により、又は対応するエステル交換反応により得ることができる。このタイプのポリエステルジオール類をラクトン類(例えば、カプロラクトン、プロピオラクトン、バレロラクトンなどが挙げられる)の開環重合により得ることもできる。
ポリカーボネート類は、上述のポリエーテルジオール類又はジアルコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレン1,3-グリコール、プロピレン1,2-グリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチルプロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどが挙げられる)をジフェニルカーボネート類又はホスゲン類と反応させることにより得ることができる。
【0194】
ポリウレタンのハードセグメントとしては、以下のポリマー構造を含むセグメント等を例示できる:
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)(例えば異性体である2,4-トルエンジイソシアネート及び2,6-トルエンジイソシアネートやその混合物が挙げられる)、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニレンジイソシアネート(TODI)、2,2-ジフェニルプロパン-4,4”-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロペンチレン-1,3-ジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、及び1,4-ブチレンジイソシアネートからなる群から選ばれる一つ以上のジイソシアネートと、下記鎖延長剤(架橋剤と称される時もある)、すなわち、ジオール類(例えば、エチレングリコール、プロピレン1,3-グリコール、プロピレン1,2-グリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2ブチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジヒドロキシ-シクロペンタン、1,4-シクロヘキサンジメチロール、チオジグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、ヒドロキノンのジヒドロキシエチルエーテル、及び水素化ビスフェノールA)、ジアミン類(例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、及び4,4’-ジアミノジフェニルメタン)、並びにトリオール類(例えば、トリメチロールプロパン、及びグリセリン)からなる群から選ばれる一つ以上の鎖延長剤との反応物であるポリウレタンの剛直なウレタンセグメント(ハードセグメント);
【0195】
アクリル系ポリマー、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカン等の、炭素数4~12の有機ジカルボン酸と炭素数2~13の有機ジアミンとの重縮合物、ω-アミノ酸(例えばω-アミノウンデカン酸)の重縮合物(例えば、ポリウンデカンアミド(11ナイロン)等)、ε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド(6ナイロン)、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物であるポリラウリックラクタム(12ナイロン)等の、ラクタムの開環重合物を含むアミノ酸ラクタム、ジアミンとジカルボン酸とから構成されるポリマー、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、からなる群から選ばれる一つ以上の鎖延長剤との反応物であるポリウレタンの剛直なウレタンセグメント(ハードセグメント)。
【0196】
中でも、ポリウレタンハードセグメントは、製造上の観点から、好ましくは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニレンジイソシアネート(TODI)、2,2-ジフェニルプロパン-4,4”-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロペンチレン-1,3-ジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、及び1,4-ブチレンジイソシアネートからなる群から選ばれる一つ以上で構成されている。
【0197】
ポリウレタンのハードセグメントの数平均モル質量は、(F)熱可塑性樹脂との良好な親和性を得る観点から、好ましくは300~10000g/mol、より好ましくは500~5000g/molである。
【0198】
好ましい態様において、ポリウレタンは、ソフトセグメントにおける親水性の特性と、ハードセグメントにおける疎水性の特性との両者が顕著に発現されることによって(A)セルロースナノファイバーに対する親和性及び凝集防止効果が良好である点で、親水性セグメントとしてのソフトセグメントと、疎水性セグメントとしてのハードセグメントとを有するポリウレタンである。
【0199】
一態様の分散液において、ポリウレタンの好ましい量は、分散液全体に対し、ポリウレタンが0.1~50質量%の量の範囲内である。上限量は、より好ましくは45質量%、さらにより好ましくは40質量%、さらにより好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1質量%、より好ましくは1質量%、最も好ましくは10質量%である。ポリウレタンの上限量を上記とする事で、分散液の沈降を抑制でき、さらに一態様のセルロースナノファイバー含水分散液及びセルロースナノファイバー乾燥体において、均一な形態を維持することができる。また、ポリウレタンの下限量を上記とする事で、一態様の樹脂組成物及び樹脂成形体において、良好な機械物性を得ることができる。
【0200】
一態様のセルロースナノファイバー含水分散液、セルロースナノファイバー乾燥体、樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、ポリウレタンの好ましい量は、(A)セルロースナノファイバー100質量部に対し、ポリウレタンが0.1~100質量部の量の範囲内である。上限量は、より好ましくは80質量部、さらにより好ましくは70質量部、さらにより好ましくは50質量部、特に好ましくは40質量部である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1質量部、より好ましくは0.5質量部、最も好ましくは1質量部である。ポリウレタンの上限量を上記とする事で、(F)熱可塑性樹脂の可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、ポリウレタンの下限量を上記とすることで、セルロースナノファイバーの再分散性を高めることができる。
【0201】
一態様の樹脂組成物及び樹脂成形体において、ポリウレタンの量は、樹脂組成物全体に対し、ポリウレタンが0.1~50質量%の量の範囲内である。上限量は、より好ましくは45質量%、さらにより好ましくは40質量%、さらにより好ましくは30質量%、特に好ましくは20質量%である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.5質量%、最も好ましくは1質量%である。ポリウレタンの上限量を上記とする事で、樹脂組成物全体の可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、ポリウレタンの下限量を上記とすることで、熱可塑性樹脂中における(A)セルロースナノファイバーの分散性を高め、強固な密着性を維持する事が出来る。
【0202】
一態様において、分散液中の(D)バインダー成分(特にポリウレタン)の量は当業者に一般的な方法(より具体的には以下の方法)で確認できる。分散液に対し、塩析、又は遠心分離を行う。これにより沈降物(ポリウレタン)とポリウレタン以外の分散液を分離可能であり、単離したポリウレタンを乾燥することにより含有量を算出可能である。また、ポリウレタンを熱分解GC-MS、1H-NMR、又は13C-NMRを用いて測定することによって分子構造について定性(すなわち同定)及び分子量の測定を行うことができる。
【0203】
セルロースナノファイバー含水分散液中及びセルロースナノファイバー乾燥体中のポリウレタンの量は当業者に一般的な方法(より具体的には以下の方法)で確認できる。セルロースナノファイバー乾燥体は水を加え、セルロースナノファイバー含水分散液とする。セルロースナノファイバー含水分散液に対し、遠心分離を行う。これにより沈降物(セルロースナノファイバー及びポリウレタン)と表面処理剤分散液に分離が可能である。沈殿物をポリウレタン溶解性溶媒に溶解させ、可溶分1(ポリウレタン)と不溶分1(セルロース)に分離する。可溶分1を、ポリウレタンを溶解させない溶媒で再沈殿させ、ポリウレタンを単離する。単離したポリウレタンについては、前述の方法で定性・定量分析できる。
【0204】
樹脂組成物中及び樹脂成形体中のポリウレタンの量は当業者に一般的な方法(より具体的には以下の方法)で確認できる。樹脂組成物及び成形体の破断片を用いて樹脂を溶解させる溶媒に樹脂組成物を溶解させて、可溶分1(樹脂及び表面処理剤)と不溶分1(セルロース及びポリウレタン及び表面処理剤)を分離する。分離後に不溶分1をポリウレタン溶解性溶媒に溶解させ、可溶分2(ポリウレタン及び表面処理剤)と不溶分2(セルロース)に分離する。可溶分2を、ポリウレタンを溶解させないが表面処理剤を溶解させる溶媒で再沈殿させ、ポリウレタンを単離する。単離したポリウレタンについては、前述の方法で定性・定量分析できる。
【0205】
典型的な態様において、(F)熱可塑性樹脂と(D)バインダー成分とは、分子量及び/又は官能基構造において異なる。(F)熱可塑性樹脂と(D)バインダー成分との好ましい組合せの例は、ポリアミド樹脂とポリウレタン、ポリアミド樹脂とポリエチレングリコール、ポリアミド樹脂とポリアクリル、等である。
【0206】
また、樹脂組成物を調製する際の、(D)バインダー成分の添加方法としては、特に制限はないが、(F)熱可塑性樹脂、(A)セルロースナノファイバー、(D)バインダー成分、及び(B)表面処理剤をあらかじめ混合し溶融混練する方法、(F)熱可塑性樹脂にあらかじめ(D)バインダー成分、及び(B)表面処理剤を添加し、必要により予備混練した後、(A)セルロースナノファイバーを添加して溶融混練する方法、(A)セルロースナノファイバーと(D)バインダー成分及び(B)表面処理剤を予め混合した後、(F)熱可塑性樹脂と溶融混練する方法等が挙げられる。(A)セルロースナノファイバーが水に分散している分散液中に(D)バインダー成分及び(B)表面処理剤を添加し、乾燥してセルロース製剤を作製したのち、当該製剤を(F)熱可塑性樹脂に添加する方法も有効である。
【0207】
≪(E)酸化防止剤≫
(E)酸化防止剤は、(A)セルロースナノファイバー及び(B)表面処理剤、更に、セルロースナノファイバー組成物を用いて樹脂組成物を製造したときの当該樹脂組成物中の(F)熱可塑性樹脂の酸化劣化を抑制することによって、樹脂組成物及び樹脂成形体の良好な耐熱性に寄与する。特に、(E)酸化防止剤を使用することで(A)セルロースナノファイバー(すなわち表面積が極めて大きいポリマー)の劣化が抑制されることは、セルロースナノファイバー組成物、及びセルロースナノファイバー樹脂組成物の耐熱性向上において極めて有利である。
【0208】
(E)酸化防止剤としては、熱可塑性樹脂の酸化防止剤として有用であることが当業者に理解される各種化合物を使用できる。酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。酸化防止剤としては、ラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤が挙げられる。ラジカル捕捉剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)等が挙げられる。過酸化物分解剤としては、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、分子中に酸化防止作用部位を2種以上有する化合物であってもよい。このような化合物としては、例えばヒンダードフェノール構造とチオエーテル構造とを共に有する化合物(これは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びチオエーテル系酸化防止剤の両方に包含される)が挙げられる。これらの酸化防止剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、酸化防止剤は、複合系酸化防止剤(すなわち、2種以上の酸化防止剤が予め適切にブレンドされているもの)であってもよい。
【0209】
酸化防止剤としては、熱による劣化の防止効果の観点から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤及びヒンダードフェノール系酸化防止剤がより好ましい。一態様においては、リン系酸化防止剤及び/又はヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)との併用が好ましい。一態様においては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤は、例えば(B)表面処理剤を高濃度で含む水分散体の状態で(A)セルロースナノファイバーと混合されてよい。(E)酸化防止剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0210】
リン系酸化防止剤及び/又はヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)とを併用する場合、その割合は特に制限されないが、(リン系酸化防止剤及びヒンダードフェノール系酸化防止剤の合計)/ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)の質量比で、好ましくは1/5~2/1、より好ましくは1/2~1/1である。
【0211】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、分子内にフェノール構造(特に、立体障害性の置換基を有するフェノール構造)を1つ以上有する化合物である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チオエーテル系酸化防止剤にも包含される構造を有してよい)としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))、ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチル-エチル)-4-ヒドロキシ-C7-C9分岐アルキルエステル、3,3´,3″,5,5´,5″-ヘキサ-tert-ブチル-α,α´,α″-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス-(3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート)、ヘキサメチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1- ベンゾピラン-6-オール、2′,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド、2,2-ビス{[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロポキシ]メチル}プロパン-1,3-ジイルビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]、ジ(トリデシル)3,3’-チオジプロピオネートが挙げられる。
【0212】
市販されている試薬としては、Irganox1010、Irganox1035、Irganox1076、Irganox1098、Irganox1135、Irganox1330、Irganox1520 L、Irganox245、Irganox259、Irganox3114、Irganox565、Irganox1726、IrganoxE201、IrganoxMD1024(以上、BASFジャパン(株)等から入手可能)、アデカスタブAO412S、アデカスタブAO503(以上、(株)ADEKAから入手可能)、SUMILIZERGS、SUMILIZERGM、SUMILIZERGA80(以上、住友化学(株)から入手可能)などが挙げられる。
【0213】
リン系酸化防止剤は、分子内に亜リン酸エステル構造等のリン含有構造を有する化合物である。リン系酸化防止剤は、ホスファイト系、又はホスホナイト系であってよい。リン系酸化防止剤としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、テトラ-C12-15-アルキル(プロパン-2,2-ジイルビス(4,1-フェニレン))ビス(ホスファイト)、2-エチルへキシルジフェニルホスファイト、イソデシルジフェニルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイトが挙げられる。
【0214】
市販されている試薬としては、Irgafos168(BASFジャパン株式会社から入手可能)、アデカスタブPEP8、アデカスタブPEP36、アデカスタブHP10、アデカスタブ2112、アデカスタブ1178、アデカスタブ1500、アデカスタブC、アデカスタブ135A、アデカスタブ3010、アデカスタブTPP(以上、(株)ADEKAから入手可能)などが挙げられる。
【0215】
硫黄系酸化防止剤としては、チオエーテル構造を有する化合物(すなわちチオエーテル系酸化防止剤)、及びチオエステル構造を有する化合物(すなわちチオエステル系酸化防止剤)が挙げられる。チオエーテル系酸化防止剤としては、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、2,2-ビス{[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロポキシ]メチル}プロパン-1,3-ジイルビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]、ジ(トリデシル)3,3’-チオジプロピオネート、などが挙げられる。チオエステル系酸化防止剤としては、ジドデシル-3,3′-チオジプロピオネート、3,3′-チオジプロピオン酸ジオクタデシルエステルなどが挙げられる。
【0216】
市販されている試薬としては、IrganoxPS800FL、IrganoxPS802FL(以上、BASFジャパン(株)から入手可能)などが挙げられる。
【0217】
ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)は、好ましくは、分子内に2,2,6,6-テトラメチルピペリジン構造を有する化合物である。光安定剤としては、[1,6-ヘキサンジアミン,N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-ポリマー及び2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン,N-ブチル-1-ブタンアミンとN-ブチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジンアミンとの反応生成物]、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]])、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-5-ピペリジニル)イミノ]])、ブタン二酸ジメチルエステルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピぺリジンエタノールとの反応性生物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-2-ブチル-2-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルベンジル)プロパンジオエート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート+メチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、デカン二酸,ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル,1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンとの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルethyl)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、フェノール,2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-ドデシル-,分岐及び直鎖、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸,テトラメチルエステル,1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジエタノールの反応生成物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸,テトラメチルエステル,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジエタノールとの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-ウンデカノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレートが挙げられる。
【0218】
市販されている試薬としては、Chimassorb2020FDL、Chimassorb944FDL、Chimassorb944LD、Tinuvin622SF、TinuvinPA144、Tinuvin765、Tinuvin770DF、TinuvinXT55FB、Tinuvin111FDL、Tinuvin783FDL、Tinuvin791FB、Tinuvin249、Tinuvin123、Tinuvin144、Tinuvin171、Tinuvin292、Tinuvin5100、Tinuvin770DF(以上、BASFジャパン(株)から入手可能)、アデカスタブLA52、アデカスタブLA57、アデカスタブLA63、アデカスタブLA68、アデカスタブLA72、アデカスタブLA77Y、アデカスタブLA81、アデカスタブLA82、アデカスタブLA87、アデカスタブLA402AF、アデカスタブLA502XP(以上、(株)ADEKAから入手可能)などが挙げられる。
【0219】
複合系酸化防止剤は、典型的には、ビスフェノール系酸化防止剤と、リン系酸化防止剤との組合せである。複合系酸化防止剤として市販されている試薬としては、アデカスタブA611、アデカスタブA612、アデカスタブA613、アデカスタブA512、アデカスタブAO15、アデカスタブAO18、アデカスタブAO37、アデカスタブAO412S、アデカスタブAO503、アデカスタブA(以上、(株)ADEKAから入手可能)、SUMILIZERGP(住友化学(株)から入手可能)などが挙げられる。
【0220】
これらの中でも、セルロースと表面処理剤の組成物の熱安定性向上の観点から、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))、エチレンビス(オキシエチレン)ビス-(3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート)、2′,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド、市販されている試薬ではIrganox1010、Irganox1076、Irganox1098、Irganox245、IrganoxMD1024(以上、BASFジャパン(株)から入手可能)が好ましい。
【0221】
(E)酸化防止剤の分子量の下限値は、樹脂組成物作製時の臭気性、及び成形時の成形性を向上させる観点から、好ましくは200であり、より好ましくは250であり、さらに好ましくは300であり、最も好ましくは500である。また、当該分子量の上限値は、取扱い性の観点から、好ましくは10000であり、より好ましくは5000、さらに好ましくは3000、最も好ましくは1000である。(B)表面処理剤との良好な親和性を確保するために、(E)酸化防止剤の分子量は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0222】
一態様において、(E)酸化防止剤の量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1~2質量部、の範囲であると好ましい。安定剤の添加量が上述の範囲である事で樹脂組成物の取扱い性を高めることができる。
【0223】
一態様において、セルロースナノファイバー組成物(例えば含水分散液及び乾燥体)中の(E)酸化防止剤の好ましい量は、当該組成物全体に対し、0.1~20質量%である。上限量は、より好ましくは15質量%、さらにより好ましくは10質量%、さらにより好ましくは5質量%、特に好ましくは3質量%である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.0005質量%、より好ましくは0.005質量%、最も好ましくは0.01質量%である。
【0224】
樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、(E)酸化防止剤の好ましい量は、樹脂組成物又は樹脂成形体の全体に対し、(E)酸化防止剤が0.01~5質量%の範囲内である。上限量は、より好ましくは4質量%、さらに好ましくは3質量%、さらにより好ましくは2質量%、特に好ましくは1質量%である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.02質量%、より好ましくは0.03質量%、最も好ましくは0.05質量%である。(E)酸化防止剤の上限量を上記とする事で、樹脂組成物の可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、(E)酸化防止剤の下限量を上記とすることで、(F)熱可塑性樹脂中の(A)セルロースナノファイバーの耐熱性を高めることができる。
【0225】
セルロースナノファイバー組成物(例えば含水分散液及び乾燥体)、樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、(E)酸化防止剤の好ましい量は、(B)表面処理剤100質量部に対し、(E)酸化防止剤が0.01~100質量部の量の範囲内である。上限量は、より好ましくは60質量部、より好ましくは30質量部、より好ましくは15質量部、より好ましくは8質量部、特に好ましくは5質量部である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.02質量部、より好ましくは0.05質量部、最も好ましくは0.1質量部である。(E)酸化防止剤の上限量を上記とする事で、樹脂組成物及び樹脂成形体における可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、(E)酸化防止剤の下限量を上記とすることで、セルロースナノファイバー、及び表面処理剤、酸化防止剤、を含む組成物の耐熱性を高めることができる。
【0226】
セルロースナノファイバー組成物(例えば含水分散液及び乾燥体)中の(E)酸化防止剤の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。セルロースナノファイバー乾燥体は(E)酸化防止剤を可溶な有機溶媒を加え、抽出、洗浄の操作を行う。この抽出液又は洗浄液を濃縮し、表面処理剤と酸化防止剤の定量を行う。濃縮後の(E)酸化防止剤は、熱分解GC-MS、1H-NMR、又は13C-NMRなどの各種分析装置によって同定及び分子量の測定を行うことができる。
【0227】
樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、(E)酸化防止剤の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。樹脂組成物又は樹脂成形体の破断片を用い、(F)熱可塑性樹脂を溶解させる溶媒に樹脂組成物を溶解させたときの、可溶分1(樹脂、表面処理剤、及び酸化防止剤)と不溶分1(セルロース、表面処理剤及び酸化防止剤)を分離する。可溶分1を、樹脂を溶解させないが表面処理剤を溶解させる溶媒で再沈殿させ、不溶分2(樹脂)と可溶分2(表面処理剤、及び酸化防止剤)に分離する。また、不溶分1を、表面処理剤及び酸化防止剤を溶解させる溶媒に溶解させ、可溶分3(表面処理剤、及び酸化防止剤)と不溶分3(セルロース)に分離する。可溶分2及び可溶分3を濃縮(乾燥・風乾・減圧乾燥等)させることで(E)酸化防止剤の定量が可能である。濃縮後の(E)酸化防止剤について、前述の方法によって同定及び分子量の測定を行うことができる。
【0228】
セルロースナノファイバー組成物を調製する際の(E)酸化防止剤の添加方法に特に制限はない。例えば、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する際の方法としては、これに制限されないが、(B)表面処理剤を水に溶解させ、得られた表面処理剤水溶液に(E)酸化防止剤、(A)セルロースナノファイバーを添加し混合することでセルロースナノファイバー含水分散液を得る方法、(A)セルロースナノファイバーを水に分散させ、得られた(A)セルロースナノファイバー分散液に(B)表面処理剤、(E)酸化防止剤を添加し、混合することで分散液を得る方法、(E)酸化防止剤を溶解可能な溶媒に溶解させ、別に(B)表面処理剤を水に溶解させ、得られた表面処理剤水溶液に加え、混合したのちに、(A)セルロースナノファイバーを添加し混合することでセルロースナノファイバー含水分散液を得る方法等が挙げられる。
【0229】
また、樹脂組成物を調製する際の(E)酸化防止剤の添加方法としては、特に制限はないが、(F)熱可塑性樹脂、(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤、及び(E)酸化防止剤をあらかじめ混合し溶融混練する方法、(F)熱可塑性樹脂にあらかじめ(B)表面処理剤及び(E)酸化防止剤を添加し、必要により予備混練した後、(A)セルロースナノファイバーを添加して溶融混練する方法、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤及び(E)酸化防止剤とを予め混合した後、(F)熱可塑性樹脂と溶融混練する方法、(A)セルロースナノファイバーが水に分散している分散液中に(B)表面処理剤及び(E)酸化防止剤を添加し、乾燥させてセルロース乾燥体を作製したのち、当該乾燥体を(F)熱可塑性樹脂に添加する方法、等が挙げられる。
【0230】
≪その他の成分≫
次に本発明において用いることができるその他の成分について詳述する。一態様において、セルロースナノファイバー含水分散液は、セルロースファイバーに加え、セルロースウィスカーを更に含む。本開示で、セルロースウィスカーとは、パルプ等を原料とし、当該原料を裁断後、塩酸、硫酸等の酸中でセルロースの非晶部分を溶解した後に残留する結晶質のセルロースであって、長さ/径比率(L/D比)が20未満であるものを指す。セルロースウィスカーの平均径は、好ましくは、1000nm以下、又は500nm以下、又は200nm以下であってよく、好ましくは、10nm以上、又は20nm以上、又は30nm以上である。上記平均径は、(A)セルロースナノファイバーの平均繊維径と同様の方法で測定される値である。
【0231】
セルロースウィスカーのL/D上限は、好ましくは15であり、さらにより好ましくは10であり、最も好ましくは5である。下限は特に限定されないが、1を超えていればよい。樹脂組成物の良好な摺動性を発現させるために、セルロースウィスカーのL/D比は上述の範囲内にあることが望ましい。一態様において、セルロースウィスカーは、そのサイズを除いて、(A)セルロースナノファイバーファイバーについて前述したのと同様の特性(未変性又は変性の態様等)を有してよい。
【0232】
セルロースナノファイバー含水分散液、セルロースナノファイバー乾燥体、樹脂組成物及び樹脂成形体のそれぞれにおいて、(A)セルロースナノファイバー100質量部に対するセルロースウィスカーの配合量は、好ましくは0.1質量部以上、又は0.3質量部以上、又は0.5質量部以上であり、好ましくは30質量部以下、又は20質量部以下、又は10質量部以下である。
一態様において、セルロースナノファイバー含水分散液、及びセルロースナノファイバー乾燥体の全体に対するセルロースウィスカーの配合量は、セルロースナノファイバーを均一に分散させる観点から上記範囲内で併用した方が良い。
一態様において、樹脂組成物及び樹脂成形体の全体に対するセルロースウィスカーの配合量は、セルロースナノファイバーの配向を不均一にさせて均一な機械物性を得る観点から上記範囲内で併用した方が良い。
一態様において、(F)熱可塑性樹脂100質量部に対するセルロースウィスカーの配合量は、熱可塑性樹脂の特性を維持させる観点から好ましくは0.5質量部以上、又は0.8質量部以上、又は1.0質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、又は10質量部以下、又は5質量部以下である。
【0233】
また、本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態の目的を損なわない範囲で、従来熱可塑性樹脂に使用されている各種安定剤を含有することができる。安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、無機充填剤、熱安定剤、潤滑油等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらは市販の試薬又は製品であってもよい。
【0234】
前記無機充填剤は、以下に限定されるものではないが、繊維状粒子、板状粒子、無機顔料からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることができる。一態様において、ここでいう繊維状粒子及び板状粒子とは、平均アスペクト比が5以上である粒子である。上述した無機充填剤の添加量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して、無機充填剤が0.002~50質量部の範囲であると好ましい。無機充填剤の添加量が上述の範囲である事で樹脂組成物の取扱い性を高めることができる。
【0235】
潤滑油の分子量の下限は100が好ましく、400がより好ましく、500がさらに好ましい。また、上限は500万が好ましく、200万がより好ましく、100万がさらに好ましい。潤滑油の融点の下限値は-50℃が好ましく、-30℃がより好ましく、-20℃がさらに好ましい。潤滑油の融点の上限値は50℃が好ましく、30℃がより好ましく、20℃がさらに好ましい。分子量は100以上にすることで潤滑油の摺動性が良好となる傾向にある。また分子量を500万以下、特に100万以下にすることで、潤滑油の分散が良好となり耐摩耗性が向上する傾向にある。また、融点を-50℃以上とすることで、成型体表面に存在する潤滑油の流動性が維持され、アブレッシブ摩耗を抑制することにより、成形体の耐摩耗性が向上する傾向にある。また融点を50℃以下とすることで、熱可塑性樹脂と容易に混練しやすくなり、潤滑油の分散性が向上する傾向にある。上記した観点より、潤滑油の分子量及び融点は、上記範囲内にすることが好ましい。好ましい態様において、上記融点は潤滑油の流動点の2.5℃低い温度である。上記流動点はJIS K2269に準拠して測定することができる。
【0236】
本実施形態に用いることのできる潤滑油は、以下に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂成形体の摩擦・摩耗特性を向上させ得る物質であればよく、例えば、エンジンオイルやシリンダーオイルなどの天然オイル、或いは、パラフィン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル PS32など)やナフテン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル NS90Sなど)やアロマ系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル AC12など)などの合成炭化水素、シリコーン系オイル(信越化学株式会社製 G30シリーズなど)(ポリジメチルシロキサンに代表されるシリコーンオイルや、シリコーンガム、変性シリコーンガム)を挙げることができ、一般に市販されている潤滑油の中から適宜に選んで、そのまま、或いは、所望により適宜に配合して用いればよい。これらの中でもパラフィン系オイル及びシリコーン系オイルが摺動性の観点からも優れ、かつ工業的にも容易に入手可能であり好ましい。これら潤滑油は、単独で用いても、組み合わせて用いても構わない。
【0237】
(F)熱可塑性樹脂100質量部に対する、潤滑油の含有量の下限値は、特に限定されないが、0.1質量部が好ましく、0.2質量部がより好ましく、0.3質量部がさらに好ましい。また、上記含有量の上限値も特に限定されないが、5.0質量部が好ましく、4.5質量部がより好ましく、4.2質量部がさらに好ましい。潤滑油の含有量が上述した範囲である場合、セルロースナノファイバー樹脂組成物の耐摩耗性が向上する傾向にある。特に、潤滑油の含有量が0.1質量部以上である場合、充分な摺動性を確保でき、耐摩耗性が向上する傾向にある。また、潤滑油の含有量が5.0質量部以下である場合、樹脂の軟化を抑制でき、ギヤ等の用途にも耐えうるセルロースナノファイバー樹脂組成物の強度を確保できる傾向にある。
【0238】
本実施形態のセルロースナノファイバー樹脂組成物における潤滑油の含有量の範囲を上記のとおり調整する場合、摺動時の摩耗特性を改善し、さらには安定摺動性に優れるという観点から好ましい。
【0239】
≪引張降伏強度向上率≫
本発明の樹脂組成物においては、引張降伏強度が、(F)熱可塑性樹脂単独に比して飛躍的に改善する傾向がある。引張降伏強度向上率は、樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの質量含有率a(すなわち樹脂組成物の総質量を1としたときの値)、樹脂組成物の引張降伏強度b、及び(F)熱可塑性樹脂の引張降伏強度cから、下記式(1):
引張降伏強度向上率=(b/c-1)/a (1)
に従って求められる値である。この値が大きいほど樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの分散性が優れ、セルロースが有効にフィラーとして機能している。
【0240】
引張降伏強度向上率の下限は、好ましくは0.6、より好ましくは0.7、さらに好ましくは0.8、さらに好ましくは0.9、さらに好ましくは1.0である。引張降伏強度向上率は、最も好ましくは1.0よりも大きい。引張降伏強度向上率の上限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、30.0であることが好ましく、より好ましくは20.0である。
【0241】
≪曲げ弾性率向上率≫
本発明の樹脂組成物においては、曲げ弾性率が、(F)熱可塑性樹脂単独に比して飛躍的に改善する傾向がある。曲げ弾性率向上率は、樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの質量含有率a、樹脂組成物の曲げ弾性率d、及び(F)熱可塑性樹脂の曲げ弾性率eから、下記式(2):
曲げ弾性率向上率=(d/e-1)/a (2)
に従って求められる値である。この値が大きいほど樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの分散性が優れ、(A)セルロースナノファイバーが有効にフィラーとして機能している。曲げ弾性率向上率の下限は、好ましくは2.3、より好ましくは2.5、さらに好ましくは2.8、最も好ましくは3.0である。曲げ弾性率向上率は、最も好ましくは3.0よりも大きい。曲げ弾性率向上率の上限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、30.0であることが好ましく、より好ましくは20.0である。
【0242】
本実施形態の樹脂組成物を製造する装置としては、特に限定されず、一般に実用されている混練機が適用できる。当該混練機としては、以下に限定されるものではないが、例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等を用いればよい。中でも、減圧装置、及びサイドフィーダー設備を装備した2軸押出機が好ましい。
【0243】
本発明の樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0244】
樹脂組成物の製造方法の具体例としては、以下方法が挙げられる。
(1)単軸又は二軸押出機を用いて、セルロースナノファイバー、表面処理剤、熱可塑性樹脂及び必要に応じて任意成分を含む混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法。
(2)単軸又は二軸押出機を用いて、セルロースナノファイバー、表面処理剤、熱可塑性樹脂及び必要に応じて任意成分を含む混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を得る方法。
(3)単軸又は二軸押出機を用いて、セルロースナノファイバー、表面処理剤、熱可塑性樹脂及び必要に応じて任意成分を含む混合物を溶融混練し、Tダイより押出し、シート又はフィルム状の成形体を得る方法。
【0245】
また、セルロースナノファイバー、表面処理剤及び熱可塑性樹脂の混合物の溶融混練方法の具体例としては、以下の方法が挙げられる。
(1)熱可塑性樹脂と、所望の比率で混合されたセルロースナノファイバー、表面処理剤混合粉末とを、一括溶融混練する方法。
(2)熱可塑性樹脂及び必要により表面処理剤を溶融混練した後、所望の比率で混合されたセルロースナノファイバー粉末、及び必要により表面処理剤を添加して、さらに溶融混練する方法。
(3)熱可塑性樹脂、所望の比率で混合されたセルロースナノファイバー、表面処理剤混合粉末、及び水を溶融混練した後、所望の比率で混合されたセルロースナノファイバー、及び水、並びに必要により表面処理剤を混合した後、一括で溶融混練する方法。
(4)熱可塑性樹脂及び必要により表面処理剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバー、表面処理剤混合粉末、及び水、を添加して、さらに溶融混練する方法。
(5)上記(1)~(4)を単軸又は二軸押出機を用いて任意の割合でTopとSideで分割して添加し、溶融混練する方法。
【0246】
例えば、樹脂組成物が(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤、(D)バインダー成分及び(F)熱可塑性樹脂を含む態様における溶融混練方法としては、以下の方法が挙げられる。
(1)(F)熱可塑性樹脂と、所望の比率で混合された(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤及び(D)バインダー成分を含むセルロースナノファイバー含水分散液又はセルロースナノファイバー乾燥体(例えば粉末)とを、一括溶融混練する方法。
(2)(F)熱可塑性樹脂及び必要により(B)表面処理剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤及び(D)バインダー成分を含むセルロースナノファイバー含水分散液又はセルロースナノファイバー乾燥体(例えば粉末)を添加して、更に溶融混練する方法。
(3)(F)熱可塑性樹脂及び必要により(D)バインダー成分を溶融混練した後、所望の比率で混合された(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤及び(D)バインダー成分を含むセルロースナノファイバー含水分散液又はセルロースナノファイバー乾燥体(例えば粉末)をさらに溶融混練する方法。
(4)(F)熱可塑性樹脂並びに必要により(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤及び(D)バインダー成分を含むセルロースナノファイバー含水分散液を溶融混練した後、所望の比率で混合された(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤及び(D)バインダー成分を含むセルロースナノファイバー乾燥体(例えば粉末)をさらに溶融混練する方法。
(5)上記(1)~(4)の態様の添加のうち少なくとも2つを、単軸又は二軸押出機を用いて任意の割合でTopとSideで分割して行い、溶融混練する方法。
【0247】
また、例えば、樹脂組成物が(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤、(E)酸化防止剤及び(F)熱可塑性樹脂を含む態様における溶融混練方法としては、以下の方法が挙げられる。
(1)熱可塑性樹脂と、所望の比率で混合された(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤、(E)酸化防止剤混合粉末とを、一括溶融混練する方法。
(2)(F)熱可塑性樹脂及び必要により(B)表面処理剤、(E)酸化防止剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された(A)セルロースナノファイバー粉末、及び必要により(B)表面処理剤、(E)酸化防止剤を添加して、更に溶融混練する方法。
(3)(F)熱可塑性樹脂、所望の比率で混合された(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤、(E)酸化防止剤混合粉末、及び水を溶融混練した後、所望の比率で混合された(A)セルロースナノファイバー、及び水、並びに必要により(B)表面処理剤を混合した後、一括で溶融混練する方法。
(4)(F)熱可塑性樹脂及び必要により(B)表面処理剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された(F)熱可塑性樹脂、(A)セルロースナノファイバー、(B)表面処理剤、(E)酸化防止剤混合粉末、及び水、を添加して、更に溶融混練する方法。
(5)上記(1)~(4)を単軸又は二軸押出機を用いて任意の割合でTopとSideで分割して添加し、溶融混練する方法。
【0248】
≪部材≫
本実施形態の樹脂組成物は、下記のような部材の形態に成形することができる。樹脂組成物を成形する方法については特に限定されず、公知の成形方法を適用できる。例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発泡射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法のいずれかによって成形することができる。
【0249】
上述の樹脂組成物から得られる本実施形態の部材の用途としては、高い塗装性、耐摺動性、成形後の熱による寸法変化が小さいことといった特性が要求される用途が好適である。
【0250】
本実施形態の部材の用途としては、以下に限定されるものではないが、例えば、一般的な熱可塑性樹脂組成物の用途が挙げられる。このような用途の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、及びガイド等に代表される機構部品;アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー、側板、プリンター、及び複写機に代表されるオフィスオートメーション機器用部品;VTR(Video tape recorder)、ビデオムービー、デジタルビデオカメラ、カメラ、及びデジタルカメラに代表されるカメラ又はビデオ機器用部品;カセットプレイヤー、DAT、LD(Laser disk)、MD(Mini disk、CD(Compact disk)〔CD-ROM(Read only memory)、CD-R(Recordable)、CD-RW(Rewritable)を含む〕、DVD(Digital versatile disk)〔DVD-ROM、DVD-R、DVD+R、DVD-RW、DVD+RW、DVD-R DL、DVD+R DL、DVD-RAM(Random access memory)、DVD-Audioを含む〕、Blu-ray(登録商標) Disc、HD-DVD、その他光デイスクのドライブ;MFD(Multi Function Display)、MO(Magneto-Optical Disk)、ナビゲーションシステム及びモバイルパーソナルコンピュータに代表される音楽、映像又は情報機器、携帯電話及びファクシミリに代表される通信機器用部品;電気機器用部品;電子機器用部品等が挙げられる。また、本実施形態の成形体は、自動車用の部品として、ガソリンタンク、フュエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等に代表される燃料廻り部品;ドアロック、ドアハンドル、ウインドウレギュレータ、スピーカーグリル等に代表されるドア廻り部品;シートベルト用スリップリング、プレスボタン等に代表されるシートベルト周辺部品;コンビスイッチ部品、スイッチ類、クリップ類等の部品;さらにシャープペンシルのペン先、シャープペンシルの芯を出し入れする機構部品;洗面台、排水口、及び排水栓開閉機構部品;自動販売機の開閉部ロック機構、商品排出機構部品;衣料用のコードストッパー、アジャスター、ボタン;散水用のノズル、散水ホース接続ジョイント;階段手すり部、及び床材の支持具である建築用品;使い捨てカメラ、玩具、ファスナー、チェーン、コンベア、バックル、スポーツ用品、自動販売機、家具、楽器、産業用機械部品(例えば、電磁機器筐体、ロール材、搬送用アーム、医療機器部材など)、一般機械部品、自動車・鉄道・車両等部品(例えば外板、シャーシ、空力部材、座席、トランスミッション内部の摩擦材など)、船舶部材(例えば船体、座席など)、航空関連部品(例えば、胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、座席、内装材など)、宇宙機、人工衛星部材(モーターケース、主翼、構体、アンテナなど)、電子・電気部品(例えばパーソナルコンピュータ筐体、携帯電話筐体、OA機器、AV機器、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品など)、建築・土木材料(例えば、鉄筋代替材料、トラス構造体、つり橋用ケーブルなど)、生活用品、スポーツ・レジャー用品(例えば、ゴルフクラブシャフト、釣り竿、テニスやバトミントンのラケットなど)、風力発電用筐体部材等、また容器・包装部材、例えば、燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器用の材料となり得る。
【0251】
また、本実施形態の部材が樹脂複合フィルムである場合、プリント配線板における積層板補強用に好適である。その他、例えば、発電機、変圧器、整流器、遮断器、制御器における絶縁筒、絶縁レバー、消弧板、操作ロッド、絶縁スペーサ、ケース、風胴、エンドベル、風ウケ、標準電気品におけるスイッチボックス、ケース、クロスバー、絶縁軸、ファンブレード、機構部品、透明樹脂基板、スピーカ振動板、イータダイヤフラム、テレビのスクリーン、蛍光灯カバー、通信機器・航空宇宙用におけるアンテナ、ホーンカバー、レードーム、ケース、機構部品、配線基板、航空機、ロケット、人工衛星用電子機器部品、鉄道用部品、船舶用部品、浴槽、浄化槽、耐食機器、いす、安全帽、パイプ、タンクローリ、冷却塔、浮消波堤、地下埋没タンク、コンテナ住宅設備機器に代表される工業部品としても好適に使用できる。
【0252】
≪結合・吸着≫
本実施形態の樹脂組成物において、(B)表面処理剤及び/又は(D)バインダー成分は、(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーと結合(例えばイオン結合、共有結合等の化学結合)又は吸着(例えば化学吸着若しくは物理吸着)されていることができる。物理吸着の典型例は、吸着質((D)バインダー成分及び(B)表面処理剤)が、固体吸着剤((F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバー)との間に働くファンデルワールス力によって当該固体吸着剤表面に濃縮される現象である。一般に、ファンデルワールス力は、化学結合(イオン結合、共有結合等)と比較して格段に弱い相互作用であるため、物理吸着した分子は加熱・減圧等の物理操作によって容易に脱着する。
【0253】
物理吸着現象は、当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。
【0254】
初めに樹脂組成物で構成される成形体の表面分析を行う。成形体の(F)熱可塑性樹脂又は(A)セルロースナノファイバー近傍の成分を赤外分光法分析、飛行時間型二次イオン質量分析法、局所熱分解GC-MS分析法等により、確認する事が出来る。
【0255】
次に以下の操作を行う。樹脂組成物の(F)熱可塑性樹脂を溶解させる。溶液と(A)セルロースナノファイバーとを分離し、セルロース成分を単離する。溶液(すなわち(F)熱可塑性樹脂が溶解している溶液)を再沈殿させて、(F)熱可塑性樹脂を取り出した後、溶液を乾固させる。乾固させた成分を各種方法により成分分析し、当該成分が、前記表面分析により検出された成分と一致すれば、当該成分が物理吸着に係る成分であると確認できる。
【0256】
一方、化学結合は、物理吸着と異なり、物理操作によっては不可逆である。(D)バインダー成分及び(B)表面処理剤が(F)熱可塑性樹脂及び/又は(A)セルロースナノファイバーと化学結合している場合、(F)熱可塑性樹脂及び(A)セルロースナノファイバーの熱分解、加水分解、アルカリ分解などにより(D)バインダー成分及び(B)表面処理剤を容易に分解する事が出来る。
【0257】
化学結合現象は、当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。
【0258】
初めに樹脂組成物の(F)熱可塑性樹脂及び(A)セルロースナノファイバーの単離を行う。まず、樹脂組成物の(F)熱可塑性樹脂を溶解させる。溶液と(A)セルロースナノファイバーとを分離して、セルロース成分を単離する。溶液(すなわち(F)熱可塑性樹脂が溶解している溶液)を再沈殿させて、(F)熱可塑性樹脂を取り出した後、溶液を乾固させる。単離した(F)熱可塑性樹脂及び(A)セルロースナノファイバーを直接、1H-NMR,又は13C-NMRで分析する事で、化学結合している成分を確認できる。
【0259】
次に以下の操作を行う。単離した(F)熱可塑性樹脂と(A)セルロースナノファイバーとの熱分解、加水分解、アルカリ分解等を行い、分解された成分を赤外分光法分析、GC-MS分析、LC-MS分析、飛行時間型二次イオン質量分析法、1H-NMR,13C-NMR等で分析することで分解前の成分を構造決定する。分解前後で検出された成分が一致すれば、当該成分が化学結合に係る成分であると確認できる。
【0260】
≪線膨張係数≫
本実施形態の樹脂組成物は、(A)セルロースナノファイバーを含むため、従来の成形体よりも低い線膨張性を示すことが可能となる。具体的には、樹脂成形体の温度範囲0℃~60℃における線膨張係数は60ppm/K以下であることが好ましい。線膨張係数は、より好ましくは50ppm/K以下であり、さらにより好ましくは45ppm/K以下であり、さらにより好ましくは40ppm/K以下であり、最も好ましくは35ppm/K以下である。線膨張係数の下限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、5ppm/Kであることが好ましく、より好ましくは10ppm/Kである。
【0261】
≪塗装性≫
本実施形態の樹脂組成物は、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤とポリウレタンとを含むため、従来の成形体よりも優れた塗装性を示すことが可能となる。このような優れた塗装性の発現要因は未解明ではあるが、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤とポリウレタンとの密着している界面部分に塗料成分が浸透し、表面外観を優れたものにしていると推測される。
【0262】
[第2の実施形態]
本開示の一態様はまた、
(B)表面処理剤と、(D)バインダー成分と、水とを含む分散液であって、(B)表面処理剤が、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有し、数平均分子量が200~30000である水溶性ポリマーであり、(D)バインダー成分が、ポリウレタン(好ましくは、ブロックポリイソシアネート基を有する変性ポリウレタン)である、分散液を提供する。
【0263】
本開示の一態様はまた、
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(D)バインダー成分と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、(B)表面処理剤が、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有し、数平均分子量が200~30000である水溶性ポリマーであり、(D)バインダー成分が、ポリウレタン(好ましくは、ブロックポリイソシアネート基を有する変性ポリウレタン)である、セルロースナノファイバー含水分散液、及び、当該セルロースナノファイバー含水分散液の乾燥物である、セルロースナノファイバー乾燥体を提供する。
【0264】
本開示の一態様はまた、
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(D)バインダー成分と、(F)熱可塑性樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、(B)表面処理剤が、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有し、数平均分子量が200~30000である水溶性ポリマーであり、(D)バインダー成分が、ポリウレタンである(好ましくは、ブロック化イソシアネート、及び(A)セルロースナノファイバー若しくは(F)熱可塑性樹脂又はこれらの両者に結合しているポリウレタン、からなる群から選ばれる1つ以上である)、セルロースナノファイバー樹脂組成物を提供する。一態様において、当該樹脂組成物は、水を更に更に含み、含水分散体の形態である。一態様において、当該樹脂組成物は、乾燥体の形態である。
【0265】
本開示の一態様はまた、上記セルロースナノファイバー樹脂組成物から形成された、樹脂成形体を提供する。
【0266】
第2の実施形態における(A)セルロースナノファイバーの好ましい態様は、第1の実施形態において(A)セルロースナノファイバーに関して前述したのと同様である。
【0267】
第2の実施形態における、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有し、数平均分子量が200~30000である水溶性ポリマーである(B)表面処理剤は、取り扱い性及びコストの観点から好ましい。当該表面処理剤は、一態様において、親水性セグメントとしてエチレンオキシドセグメントを少なくとも有しかつ疎水性セグメントとしてプロピレンオキシドセグメントを少なくとも有し、一態様において、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体である。親水性セグメント及び疎水性セグメントを有し、数平均分子量が200~30000である水溶性ポリマーである表面処理剤の好適例は、第1の実施形態において(B)表面処理剤に関して前述した例を包含してよい。
【0268】
第2の実施形態における(D)バインダー成分としてのポリウレタン(特に変性ポリウレタン)の好ましい態様は、第1の実施形態においてポリウレタン(特に変性ポリウレタン)に関して前述したのと同様である。
【0269】
第2の実施形態に係るセルロースナノファイバー含水分散液、セルロースナノファイバー乾燥体、セルロースナノファイバー樹脂組成物、及び樹脂成形体の各々の性状及び製造方法は、第1の実施形態において前述した例示を包含してよい。
【実施例】
【0270】
本発明を実施例に基づいてさらに説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
≪原料及び評価方法≫
以下に、使用した原料及び評価方法について説明する。
<(A)セルロースナノファイバー>
(a-1)セルロースA
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾、純水中に固形分率が1.5質量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で2.5時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに2時間叩解を実施し、セルロースAを得た。
(a-2)セルロースB
国際公開第2017/159823号の[0108]実施例1に記載の方法でセルロースBを作製した。
【0271】
<(A)セルロースナノファイバーの重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定した。
【0272】
<(A)セルロースナノファイバーの結晶形、結晶化度>
X線回折装置(株式会社リガク製、多目的X線回折装置)を用いて粉末法にて回折像を測定(常温)し、Segal法で結晶化度を算出した。また、得られたX線回折像から結晶形についても測定した。
【0273】
<(A)セルロースナノファイバーのL/D>
(A)セルロースナノファイバーを、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを、原子間力顕微鏡(AFM)で計測された際に得られる粒子像の長径(L)と短径(D)とした場合の比(L/D)を求め、100個~150個の粒子の平均値として算出した。
【0274】
<(A)セルロースナノファイバーの平均繊維径>
(A)セルロースナノファイバーを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、商品名「5DM-03-R」、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練した。次いで、固形分が0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA-400型、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理する。)した。遠心後の上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA-910」、超音波処理1分間、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定し、この値を平均径とした。
【0275】
【0276】
≪(B)表面処理剤≫
(b-1)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn2000)11質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn9000)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-1を得た。
(b-2)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn3250)25質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn6375)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-2を得た。
(b-3)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn1750)28質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn3125)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-3を得た。
【0277】
(b-4)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn2000)130質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn750)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-4を得た。
(b-5)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn2100)150質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn700)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-5を得た。
(b-6)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn2120)150質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn690)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-6を得た。
【0278】
(b-7)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn2150)160質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn675)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-7を得た。
(b-8)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn2050)160質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn625)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-8を得た。
(b-9)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn2000)180質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn550)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-9を得た。
【0279】
(b-10)2Lオートクレーブ中に、ポリエチレンオキシド(Mn1300)58質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリプロピレンオキシド(Mn1100)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-10を得た。
(b-11)2Lオートクレーブ中に、ポリエチレンオキシド(Mn1200)57質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリプロピレンオキシド(Mn1050)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-11を得た。
(b-12)2Lオートクレーブ中に、ポリエチレンオキシド(Mn1000)47質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリプロピレンオキシド(Mn1050)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-12を得た。
【0280】
(b-13)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn1950)230質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn425)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-13を得た。
(b-14)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn1750)250質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn325)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-14を得た。
(b-15)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn1900)400質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn250)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-15を得た。
【0281】
(b-16)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn1870)550質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn165)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-16を得た。
(b-17)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn1750)700質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn125)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-17を得た。
(b-18)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn1850)1200質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn75)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-18を得た。
【0282】
(b-19)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn1900)1800質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn50)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-19を得た。
(b-20)ポリエチレンオキシド(Mn31000)を用いた。
(b-21)ポリエチレンオキシド(Mn150)を用いた。
(b-22)2Lオートクレーブ中に、グリセリン(Mn92)100質量部と、触媒としてKOH 0.6質量部を入れ窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn325)340質量部を160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、ポリプロピレンオキシド(Mn650)680質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-22を得た。
【0283】
(b-23)2Lオートクレーブ中に、ペンタエリスリトール(Mn136)100質量部と、触媒としてKOH 0.6質量部を入れ窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn450)330質量部を160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、ポリプロピレンオキシド(Mn900)660質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-23を得た。
(b-24)三洋化成株式会社製 ノニポール40(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)を用いた。
(b-25)三洋化成株式会社製 ノニポール85(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)を用いた。
(b-26)三洋化成株式会社製 ノニポール100(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)を用いた。
(b-27)三洋化成株式会社製 ノニポール160(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)を用いた。
【0284】
(b-28)青木油脂工業株式会社製 ブラウノンRCW-20(PEG-10水添ヒマシ油)を用いた。なおこの物質は静的表面張力42.4mN/m、動的表面張力52.9mN/m、常圧下沸点100℃超を有する。
(b-29)三洋化成株式会社製 イオネットDL-200(ラウリン酸ポリエチレングリコールジエステル)を用いた。
(b-30)三洋化成株式会社製 イオネットDS-300(ステアリン酸ポリエチレングリコールジエステル)を用いた。
(b-31)三洋化成株式会社製 セドランSF-506を用いた。
(b-32)三洋化成株式会社製 ナロアクティCL-20(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)を用いた。
【0285】
(b-33)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn1000)140質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn350)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、a-7を得た。
(b-34)2Lオートクレーブ中に、ポリプロピレンオキシド(Mn2100)150質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn700)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、b-3を得た。
【0286】
<(B)表面処理剤の分子量測定>
各表面処理剤につき、分子量10000以上をGPCにて、分子量10000未満をHPLCにて、下記の条件で測定を行った。
各表面処理剤を下記の条件で測定した。
【0287】
[GPC測定]
常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後に水へ溶解させ測定した。
装置名:HLC-8320GPC EcoSEC(東ソー株式会社製)
カラム:Shodex GPC KD-802+KD-80(昭和電工株式会社製)
溶離液:0.01M LiBr in DMF
流速:1.0mL/min
検出器:RI
測定温度:50℃
【0288】
[HPLC測定]
常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後に水へ溶解させ測定した。
装置名:HP-1260(アジレントテクノロジー株式会社製)
カラム:TSKgel ODS-80Ts (東ソー株式会社製)
移動相:水/アセトニトリル移動相による溶媒グラジエント
検出器:蒸発型光散乱検出器(ELSD)
測定温度:40℃
流速:1mL/min
試料濃度:1mg/mL
注入量:10μL
【0289】
<(B)表面処理剤の疎水性セグメント/親水性セグメント比率>
使用したプロピレンオキシドの分子量を使用したエチレンオキシドの分子量で除した値を疎水性セグメント/親水性セグメント比率とした。
【0290】
<(B)表面処理剤の融点>
常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後にアルミパンに封入し測定した。
装置名:DSC8500パーキンエルマー株式会社製
測定温度:-60~100℃
【0291】
<(B)表面処理剤の曇点>
常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後に水へ溶解させサンプルとした。
装置名:SV-10A 株式会社エー・アンド・デイ社製
測定濃度:0.5質量%、1.0質量%、5質量%
測定温度:0~90℃
上記方法で曇点を示さないものは、ガラス製の可視化可能な密閉容器に封をした。後に温度を上昇させ、析出水溶液が曇った点を目視で確認し曇点を測定した。
【0292】
<(B)表面処理剤のHLB値>
(b-1)~(b-23)、(b-33)、(b-34)について、グリフィン法を用い、下記式に従ってHLB値を求めた。
HLB値=20×(親水基の式量の総和/分子量)
(式中、親水基の式量は、ポリエチレンオキシドセグメントの式量である。)
なお(b-24)~(b-32)について表2に示すHLB値は、製造元によるカタログ値である。
【0293】
【0294】
≪(C)水溶性有機溶媒≫
表3記載の溶媒を使用した。c-2の比誘電率は日本化学会編 改定5版 化学便覧基礎編Ip770~777に記載の数字を用いた。c-2以外の比誘電率は、HEWLETT PACKARD社製プレジョンLCRメーター HP4284A(液体測定電極HP 16452A、固体測定電極 HP 16451B)を使用して測定を行った。
【0295】
【0296】
≪(D)バインダー成分≫
表4記載のバインダー成分を使用した。
【表4】
【0297】
≪(E)酸化防止剤≫
表5記載の酸化防止剤を使用した。c-4は先にヘキサンに溶解させてからアセトンを加え再沈殿を行い、これを用いた。その他はアセトンを用いて溶解させ、これを用いた。
【0298】
【0299】
≪(F)熱可塑性樹脂≫
表6記載の樹脂を使用した。
【0300】
【0301】
≪製造-1 セルロースナノファイバー含水分散液≫
(B)表面処理剤を20℃環境下で蒸留水に投入し、密閉した容器に入れて一晩静置し溶解させた。翌日、均一な水溶液であることを確認し、(B)表面処理剤水溶液を得た。なお、(C)酸化防止剤を用いた例については、(B)表面処理剤を20℃環境下で蒸留水に投入し、密閉した容器に入れて一晩静置し溶解させた。別に(C)酸化防止剤を可溶な溶媒に溶解させた。翌日、均一な表面処理剤水溶液であることを確認し、(C)酸化防止剤溶溶液を添加して、(B)表面処理剤水溶液を得た。得られた(B)表面処理剤水溶液を、セルロースナノファイバースラリー(固形分10~20質量%)に投入し、新東科学株式会社製ハイパワー汎用攪拌機BLh3000を用いて30分攪拌し、均一なセルロースナノファイバー含水分散液を得た。
【0302】
(D)バインダー成分又は比較のバインダー成分を用いた例については、(B)表面処理剤を20℃環境下で蒸留水に投入し、密閉した容器に入れて一晩静置し溶解させた。翌日、均一な水溶液であることを確認し、(B)表面処理剤水溶液を得た。得られた(B)表面処理剤水溶液にバインダー成分を加え、新東科学株式会社製ハイパワー汎用攪拌機BLh3000を用いて10分攪拌し、均一な分散液Aを得た。
先の製造で得られた分散液Aをセルロースナノファイバースラリー(固形分10~20質量%)に投入し、新東科学株式会社製ハイパワー汎用攪拌機BLh3000を用いて10分攪拌し、均一なセルロースナノファイバー含水分散液を得た。
【0303】
≪製造-2 セルロースナノファイバー乾燥体≫
先の製造で得られたセルロースナノファイバー含水分散液を、株式会社小平製作所製ACM-5LVTを用いて攪拌しながら40℃で1時間減圧乾燥し、均一なクラム状の塊を得た。これをヤマト科学株式会社製Inert Oven DN43HIを用いて、120℃・窒素雰囲気で24時間乾燥させ、セルロースナノファイバー乾燥体を得た。
【0304】
≪製造-3 樹脂組成物≫
二軸押出機(東芝機械(株)製TEM-26SS押出機(L/D=48、ベント付き)を用いて、ポリアミド系材料は260℃、ポリプロピレン系材料は190℃、ポリオキシメチレン系材料は200℃にシリンダー温度を設定し、(F)熱可塑性樹脂を押出機メインスロート部より定量フィーダーより供給し、セルロースナノファイバー含水分散液又はセルロースナノファイバー乾燥体を、押出機サイド部より定量フィーダーを用いて供給して、押出量15kg/時間、スクリュー回転数250rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断しペレット形状の樹脂組成物を得た。
【0305】
<樹脂組成物 臭気性>
上記〔製造-3〕を実施しているときの、ストランドカッター直後のペレットを、縦50cm、横25cmの紙袋に1kg捕集し、この臭気を5人が嗅いで判定した。判定値は5人の平均値とし、小数点第一位で四捨五入した。
判定基準は以下のとおりとした。
1:臭いを感じなかった。
2:臭いを少し感じた。
3:臭いを感じた。
4:臭いを強く感じた。
5:臭いをかなり強く感じた。
【0306】
≪製造-4 成形体≫
射出成形機(EC-75NII、東芝機械(株)製)を用いて、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した。
ポリアミド系材料:JIS K6920-2に準拠した条件
ポリプロピレン系材料:JIS K6921-2に準拠した条件
ポリオキシメチレン系材料:JIS K7364-2に準拠した条件
原料樹脂(すなわち熱可塑性樹脂単独)及び樹脂組成物(すなわちセルロースナノファイバー樹脂組成物)の各々について、ISO527に準拠して引張降伏強度及び引張破断伸び、ISO179に準拠して、曲げ弾性率を測定した。
なお、ポリアミド系材料は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
【0307】
≪成形機滞留性≫
先の射出成形機を用いて、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した時とは別に、射出成形機(EC-75NII、東芝機械(株)製)を用いて、シリンダー温度を+20℃(上記記載の各樹脂の規格の温度)に設定し、滞留時間を30分とし、射出時間35秒、冷却時間15秒の射出条件で成形することにより、厚み2mm、縦120mm、横80mmの平板を得た。この時の金型温度は、70℃とした。この平板について成形を行い、成形片の黄変程度を評価した。成形片の黄変度合いに応じた数値を表に記載した。数値が小さいほど成形機滞留性に優れると判断した。
1:変色が認められなかった。
2:かすかに黄変が認められる。
3:わずかに黄変が認められる。
4:黄変が認められる。
5:遠目から見ても黄変が認められる。
【0308】
≪成形性≫
先の射出成形機を用いて、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した時とは別に、射出成形機(EC-75NII、東芝機械(株)製)を用いて、シリンダー温度を250℃に設定し、射出時間35秒、冷却時間15秒の射出条件で成形することにより、厚み2mm、縦120mm、横80mmの平板を得た。この時の金型温度は、70℃とした。この平板金型を用いて50点成形を行い、成形不良の点数を計測した。成形不良とは、シルバーストリークス、ヒケ、汚れ、その他外観不良などを指す。
発生した回数に応じた数値を表に記載した。数値が小さいほど成形性に優れると判断した。
1:成形不良が認められなかった。
2:成形不良が認められたが3点以下であった。
3:成形不良が3点超5点以下であった。
4:成形不良が5点超10点以下であった。
5:成形不良が10点超であった。
【0309】
≪特性評価条件・機械物性測定≫
<分散液A 外観検査>
製造-1で得られた分散液Aの攪拌終了後、アズワン株式会社製のラボランスクリュー管瓶20mlに入れて分散液Aの色の観察を行った。
【0310】
≪分散液A 沈降検査≫
製造-1で得られた分散液Aの攪拌終了後、アズワン株式会社製のラボランスクリュー管瓶20mlに入れて分散液を48時間静置した。静置後の分散液Aの沈降を目視による外観検査を行った。
A:均一に分散しており、沈降は見られない。
B:分散しているが、若干沈降が見られる。
C:沈降が確認される。
【0311】
≪特性評価条件・機械物性測定≫
<セルロースナノファイバー含水分散液 希釈検査>
製造-1で得られたセルロースナノファイバー含水分散液をアズワン株式会社製のラボランスクリュー管瓶20mlに入れて、蒸留水でセルロース濃度0.1質量%まで希釈を行った。攪拌を行い、均一なセルロースナノファイバー含水分散液とした後にスライドガラス上に1滴滴下し、液滴上にカバーガラスを乗せた。カバーガラスを押し、カバーガラスよりはみ出たセルロースナノファイバー含水分散液を、日本製紙クレシア株式会社製キムワイプを用いて除去した。このスライドガラス-カバーガラス間のセルロースナノファイバー含水分散液をキーエンス株式会社製のVHX1000、及びVH-Z100URを用いて目視で観察した。
A:均一に分散しており、凝集は見られない。
B:分散しているが、若干凝集が見られる。
C:凝集が確認される。
【0312】
<セルロースナノファイバー乾燥体 再分散検査-1>
製造-2で得られたセルロースナノファイバー乾燥体をアズワン株式会社製のラボランスクリュー管瓶20mlに入れて、ヘキサフルオロイソプロパノールでセルロース濃度1質量%まで希釈を行った。24時間静置後に、再び攪拌を行い、均一なセルロースナノファイバー溶液とした後目視による外観検査を行った。有機溶媒への再溶解性に優れることは樹脂への溶解性にも優れると判断した。
A:均一に分散している。
B:分散しているが、若干凝集が見られる。
C:凝集が確認される。
【0313】
<セルロースナノファイバー乾燥体 再分散検査-2>
製造-2で得られたセルロースナノファイバー乾燥体をアズワン株式会社製のラボランスクリュー管瓶20mlに入れて、蒸留水でセルロース濃度1質量%まで希釈を行った。24時間静置後に、再び攪拌を行い、均一なセルロースナノファイバー含水分散液とした後目視による外観検査を行った。蒸留水への再溶解性に優れることは、セルロース同士の凝集が少なく、樹脂への溶解性にも優れると判断した。
A:均一に分散している。
B:分散しているが、若干凝集が見られる。
C:凝集が確認される。
【0314】
<セルロースナノファイバー乾燥体 耐熱性検査>
製造-2で得られたセルロースナノファイバー乾燥体をPerkinElmer社製 7Series/UNIX(登録商標) TGA7を用いて、170℃、60分、空気雰囲気における重量減少量の測定を行った。このときの重量減少量が少ない方が表面処理剤の分解量が少なく、耐熱性に優れると判断した。
【0315】
<樹脂成形体 線膨張係数>
上記≪製造-4≫で得られた多目的試験片の中央部から、精密カットソーにて縦4mm、横4mm、長さ4mmの立方体サンプルを切り出し、測定温度範囲-40~100℃で、ISO11359-2に準拠して測定し、0℃~60℃の間での膨張係数を算出した。線膨張係数が低いほど、セルロースナノファイバーの樹脂中の分散性に優れていると評価した。
【0316】
<樹脂成形体 耐摩耗性>
上記≪製造-4≫で得られた多目的試験片について、往復動摩擦摩耗試験機(東洋精密(株)製AFT-15MS型)、相手材料として、SUS304試験片(直径5mmの球)を用いて、線速度50mm/sec、往復距離50mm、荷重9.8N、往復回数10,000回、温度23℃、湿度50%で、摺動試験を実施した。摩耗量は摺動試験後のサンプルの摩耗量(摩耗深さ)を、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて測定した。摩耗深さはn=4で測定した数値の平均値とした。測定箇所は摩耗痕の端より12.5mmの等しい間隔をあけた箇所とした。また摩耗深さは数値が低い方が摩耗特性に優れると評価した。
【0317】
<樹脂成形体 塗装性>
上記≪製造-4≫で得られた多目的試験片について、大日本塗料株式会社製アクアプラニット#240(黒)を水性塗料専用スプレーガン(W-300-141G)に充填して、塗装を行い、80℃30分の乾燥を行った。乾燥後は23℃50%の恒温恒湿環境下に48時間静置し、目視による外観検査を行った。
A:表面光沢があり、外観に優れる。
B:表面光沢に一部モヤがあるが、外観に優れる。
C:外観不良(段差、クレーター、白化、荒れ、ちぢみ、はじき、ふくれ、クラック)が一部存在する。
D:表面外観に多数の荒れがある。
E:表面外観に荒れが認められ、クラックが存在する。
【0318】
≪例I(第1の実施形態)≫
[セルロース含水分散液 実施例1-1~1-28及び比較例1-1~1-13]
(B)表面処理剤と(A)セルロースナノファイバーを、製造-1に記載の方法を用いて、それぞれ表7~10記載の割合で用いて各セルロース含水分散液を得た。得られた分散液を上述した評価方法に準拠して、評価した。
【0319】
[セルロース乾燥体 実施例2-1~2-28及び比較例2-1~2-13]
先の実施例で得られたセルロース含水分散液(表7~10記載)を用い、製造-2に記載の方法で各セルロース乾燥体(表7~10記載)を得た。得られたセルロース乾燥体を上述した評価方法に準拠して、評価した。
【0320】
【0321】
【0322】
【0323】
【0324】
[樹脂組成物 実施例3-1~3-56及び比較例3-1~3-16]
先の実施例で得られたセルロース含水分散液(表7~10記載)、及びセルロース乾燥体(表7~10記載)を用い、製造-3に記載の方法で樹脂組成物(表11~21記載)を得た。得られた組成物を製造―5に記載の方法で成形した。
表7~10記載の実施例及び比較例(実施例1-1~1-28及び比較例1-1~1-13、実施例2-1~2-28及び比較例2-1~2-13)の表示が表11~21にないものについては、(F)熱可塑性樹脂以外を各表に記載の割合で用い、製造-1~2に記載の方法で製造を行った。その後、製造-3、-4に記載の方法で組成物及び成形体を得た。
【0325】
表19の実施例3-46-1は製造-1のときに、水の代わりにc-4を1質量%加えた。それ以外は実施例3-46と同様に行った。実施例3-48-1は製造-1のときに、水の代わりにc-3を1質量%加えた。それ以外は実施例3-48と同様に行った。実施例3-50-1は製造-1のときに、水の代わりにc-3を1質量%加えた。それ以外は実施例3-50と同様に行った。
上記各成形体を上述した評価方法に準拠して、評価した。
【0326】
【0327】
【0328】
【0329】
【0330】
【0331】
【0332】
【0333】
【0334】
【0335】
【0336】
【0337】
≪例II(第1の実施形態)≫
[セルロースナノファイバー含水分散液 実施例1-1~1-37及び比較例1-1~1-7]
製造-1に記載の方法を用いて、各成分をそれぞれ表22~24記載の割合で用いて各分散液を得た。得られた分散液を上述した評価方法に準拠して、評価した。
【0338】
[セルロースナノファイバー乾燥体 実施例2-1~2-37及び比較例2-1~2-7]
先の実施例で得られたセルロースナノファイバー含水分散液(表22~24記載)を用い、製造-2に記載の方法で各セルロースナノファイバー乾燥体(表22~24記載)を得た。得られたセルロース乾燥体を上述した評価方法に準拠して、評価した。
【0339】
【0340】
【0341】
【0342】
[樹脂組成物 実施例3-1~3-39及び比較例3-1~3-10]
先の実施例で得られたセルロースナノファイバー含水分散液(表22~24記載)、及びセルロース乾燥体(表22~24記載)を用い、製造-3に記載の方法で樹脂組成物(表25~30記載)を得た。得られた組成物を製造-5に記載の方法で成形した。
【0343】
表22~24記載の実施例及び比較例(実施例1-1~1-37及び比較例1-1~1-7、実施例2-1~2-37及び比較例2-1~2-7)の表示が表25~30にないものについては、(F)熱可塑性樹脂以外を各表に記載の割合で用い、製造1~2に記載の方法で製造を行った。その後、製造-3、-4に記載の方法で組成物及び成形体を得た。
【0344】
上記各成形体を上述した評価方法に準拠して、評価した。
【0345】
【0346】
【0347】
【0348】
【0349】
【0350】
【0351】
上述のように各成分をそれぞれ適切な種類と量にて配合することにより、セルロースナノファイバー含水分散液及びセルロースナノファイバー乾燥体は、容易に水又は有機溶媒へ再分散可能かつ、樹脂中への分散性に優れることが分かる。樹脂組成物及び樹脂成形体は、優れた機械的特性及び熱特性を与えつつ、一態様において、成形性、実用途における耐摩耗性に優れ、一態様において耐熱性に優れ、一態様において成形性、実用途における耐摩耗性、臭気性、成形性に優れることが分かる。
【0352】
≪例III(第2の実施形態≫
[分散液 実施例1-1~1-20及び比較例1-1~1-6]
(B)表面処理剤と(D)バインダー成分(ポリウレタン)を、製造-1に記載の方法を用いて、それぞれ表31、32記載の割合で用いて各分散液Aを得た。得られた分散液Aを上述した評価方法に準拠して、評価した。
【0353】
[セルロース含水分散液 実施例2-1~2-20-2及び比較例2-1~2-6]
先の実施例で得られた分散液A(表31、32記載)を用い、製造-1に記載の方法で各セルロース含水分散液(表33、34記載)を得た。得られたセルロース含水分散液を上述した評価方法に準拠して、評価した。
【0354】
【0355】
【0356】
【0357】
【0358】
[セルロース乾燥体 実施例3-1~3-20-2及び比較例3-1~3-6]
先の実施例で得られたセルロース含水分散液(表33、34記載)を用い、製造-2に記載の方法で各セルロース乾燥体(表35、36記載)を得た。得られたセルロース乾燥体を上述した評価方法に準拠して、評価した。実施例3-4-2においては、先の製造で得られた実施例2-4のセルロースナノファイバー含水分散液を、株式会社小平製作所製ACM-5LVTを用いて攪拌しながら40℃で0.5時間減圧乾燥し、均一なクラム状の塊を得た。これをヤマト科学株式会社製Inert Oven DN43HIを用いて、120℃・窒素雰囲気で5時間乾燥し、セルロースナノファイバー乾燥体を得た。実施例3-4-3においては、先の製造で得られた実施例2-4のセルロースナノファイバー含水分散液を、株式会社小平製作所製ACM-5LVTを用いて攪拌しながら40℃で0.5時間減圧乾燥し、均一なクラム状の塊を得た。これをヤマト科学株式会社製Inert Oven DN43HIを用いて、120℃・窒素雰囲気で2時間乾燥し、セルロースナノファイバー乾燥体を得た。
[樹脂組成物 実施例4-1~4-63及び比較例4-1~4-10]
先の実施例で得られたセルロース含水分散液(表33、34記載)、及びセルロース乾燥体(表35、36記載)を用い、製造-3に記載の方法で樹脂組成物(表37~47記載)を得た。得られた組成物を製造-4に記載の方法で成形した。表33、34、表35、36記載の実施例及び比較例(実施例2-1~2-20-2及び比較例2-1~2-6、実施例3-1~3-20-2及び比較例3-1~3-6)の表示が表37~47にないものについては、(F)熱可塑性樹脂以外を各表に記載の割合で用い、製造1~3に記載の方法で製造を行った。その後、製造-3、-4に記載の方法で組成物及び成形体を得た。表47の実施例4-58~4-63は、(D)バインダー成分(ポリウレタン)と(F)熱可塑性樹脂とを攪拌して乾燥を行い均一にした後に、押出機メインスロート部より定量フィーダーにより供給し、(B)表面処理剤を含むセルロースナノファイバー含水分散液を押出機サイド部より定量フィーダーを用いて供給して、押出量15kg/時間、スクリュー回転数250rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断しペレット形状の樹脂組成物を得た。その後、製造-4に記載の方法で組成物及び成形体を得た。上記各成形体を上述した評価方法に準拠して、評価した。
【0359】
【0360】
【0361】
【0362】
【0363】
【0364】
【0365】
【0366】
【0367】
【0368】
【0369】
【0370】
【0371】
【0372】
上述のように各成分をそれぞれ適切な種類と量にて配合することにより、セルロースナノファイバー用分散液はセルロースナノファイバーを凝集させること無く、分散可能であることが分かる。また、セルロースナノファイバー含水分散液及びセルロースナノファイバー乾燥体は、容易に水へ再分散可能かつ、樹脂中への分散性に優れることが分かる。樹脂組成物及び樹脂成形体は、優れた機械的特性と熱特性を与えつつ、実用途における塗装性、耐摩耗性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0373】
本発明の一態様に係るセルロースナノファイバー含水分散液及びセルロースナノファイバー乾燥体は、容易に水又は有機溶媒へ再分散可能であり、かつ樹脂中への分散性に優れる。本発明の一態様に係る樹脂組成物及び樹脂成形体は、機械的特性及び熱特性に優れ、かつ、成形性、及び実用途における耐摩耗性に優れる。本発明の一態様に係る樹脂組成物及び樹脂成形体は、摺動性、成形前後での外観変化の低減、臭気の低減、及び/又は実用途における塗装性において優れることができる。本発明の一態様に係る樹脂組成物及び樹脂成形体は、上記の特性が要求される種々の用途に好適に適用される。