(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】MAX相を含む合金製タービン部品
(51)【国際特許分類】
C22C 29/02 20060101AFI20220912BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20220912BHJP
B22F 5/04 20060101ALI20220912BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20220912BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20220912BHJP
F01D 9/02 20060101ALI20220912BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
C22C29/02 Z
B22F3/14 101B
B22F5/04
C22C1/05 G
F01D5/28
F01D9/02 101
F02C7/00 C
F02C7/00 D
(21)【出願番号】P 2020516696
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 FR2018052305
(87)【国際公開番号】W WO2019058065
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-25
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】311016455
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】306047664
【氏名又は名称】サフラン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サロ,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ブリュネ,ベロニク
(72)【発明者】
【氏名】コルミエ,ジョナタン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥルエル,エロディ・マルト・ベルナデット
(72)【発明者】
【氏名】デュボワ,シルバン・ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ビルシェーズ,パトリック
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0085055(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1478757(CN,A)
【文献】C. Yang,Low-temperature synthesis of high-purity Ti3AlC2 by MA-SPS technique,Journal of the European Ceramic Society,2009年,29,181-185
【文献】Yong Zou,Low temperature synthesis of single-phase Ti3AlC2 through reactive sintering Ti/Al/C powders,Materials Science and Engineering A,2008年,473,90-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/02
B22F 3/14
B22F 5/04
C22C 1/05
F01D 5/28
F01D 9/02
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶性基材(2)を含むタービン部品であって、基材(2)が結晶粒(3)を含み、結晶粒が少なくとも1つのTi
3AlC
2相を有し、前記合金相の質量分率が、97%超であり、各結晶粒(3)が、長さおよび幅を有し、
-結晶粒(3)の平均長さが50μm未満であり、
-結晶粒の平均幅-長さ比が0.4~0.6であり、
-Ti
3AlC
2相の平均格子体積が152.4Å
3未満である、
ことを特徴とする、タービン部品(1)。
【請求項2】
基材(2)が炭化チタンを含み、基材の炭化チタンの質量分率が0.8%未満である、請求項1に記載のタービン部品(1)。
【請求項3】
基材がアルミナを含み、基材のアルミナの質量分率が3%未満である、請求項1または2に記載のタービン部品(1)。
【請求項4】
基材(2)がTi
xAl
y金属間化合物を含み、基材のTi
xAl
y化合物の体積分率が1%未満である、請求項1から3のいずれか一項に記載のタービン部品(1)。
【請求項5】
基材が、鉄および/またはタングステンを含む相を有し、前記相の鉄の平均体積分率とタングステンの平均体積分率との合計が2%未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載のタービン部品(1)。
【請求項6】
Ti
3AlC
2相の相対密度が96%超である、請求項1から5のいずれか一項に記載のタービン部品(1)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の部品(1)を含むことを特徴とするタービン翼。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の部品(1)を含むことを特徴とするタービンステータ。
【請求項9】
請求項7に記載のタービン翼および/または請求項8に記載のタービンステータを含むことを特徴とするタービン。
【請求項10】
タービン部品(1)の製造方法であって、部品(1)が多結晶性基材(2)を含み、基材(2)が結晶粒(3)を含み、結晶粒が少なくとも1つのTi
3AlC
2相を有し、前記合金相の質量分率が97%超であり、各結晶粒(3)が長さおよび幅を有し、結晶粒(3)の平均長さが50μm未満であり、平均幅-長さ比が0.4~0.6であり、Ti
3AlC
2相の平均格子体積が152.4Å
3未満であり、フラッシュ焼結工程を備えることを特徴とする方法。
【請求項11】
フラッシュ焼結工程中の温度が1400℃未満である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
フラッシュ焼結工程中の圧力が60MPa超である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
フラッシュ焼結工程において最高温度で10分未満の熱処理を行う、請求項11~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
フラッシュ焼結工程が、冷却副工程を備え、冷却副工程中の冷却速度が毎分当たり100℃未満である、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか一項に記載の方法であって、
a)少なくともチタン、アルミニウムおよび炭素を含有する粉末を混合および均一化する工程と、
b)粉末を反応焼結する工程と、
c)工程b)の反応焼結の生成物を粉末状態に変換する工程と
をさらに備え、
工程a)~c)が、ミーリングの生成物のフラッシュ焼結工程の前に実施される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空工学において使用される、タービン翼またはノズルガイドベーンの翼型等のタービン部品に関し、特に基材を備えるタービン部品であって、その材料がMAX相を有するものに関する。本発明はまた、かかるタービン部品を製造するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ジェットエンジンにおいて、燃焼室から放出された排気ガスは、1200℃超または、さらには1600℃超の高温に達する可能性がある。したがって、例えばタービン翼等の、この排気ガスと接触しているジェットエンジンの部品は、こうした高温においても機械的特性を保持することが可能でなければならない。
【0003】
この目的のために、ジェットエンジンの特定の部品を「超合金」から製造することが公知である。超合金は、一般的にニッケル基であり、融点に比較的近い温度(一般的には、融点の0.7~0.9倍)で機能し得る高抵抗の金属合金の一種である。
【0004】
しかしながら、これらの合金は非常に高密度であり、これらの質量がタービン効率を制限する。
【0005】
この目的のために、金属間化合物合金TiALが、タービン構成要素の製造のために使用されてきた。この材料は、ニッケル基超合金より低密度であり、この材料の機械的特性が、タービンに属する特定の構成要素へのTiAL製部品の組み込みを可能にする。具体的には、TiAL部品は、例えば、最大で750℃の温度までの耐酸化性を有し得る。
【0006】
しかしながら、特定のニッケル基超合金とは異なり、現状のTiAlは、800℃超の高温における耐酸化性および十分な寿命を有するタービン部品を製造することができない。
【0007】
この目的のために、いわゆるMAX相を有する材料が、タービン部品の製造のために使用されてきた。MAX相を有する材料は、一般式Mn+1AXn(式中、nは1~3の整数であり、Mは遷移金属(Se、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、HfおよびTaから選択される)であり、AはグループAに属する元素、すなわち、Al、Si、P、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、TiおよびPbから選択される元素であり、そしてXは炭素および窒素から選択される元素である。ある材料のMAX相の組成は、特にタービンの動作に対応する温度範囲、例えば800℃~1200℃の温度範囲においては、酸化、密度およびクリープ耐性に関する材料に固有の特性をもたらす。特に、タービン部品の製造のためにTi3AlC2相を有する材料を使用することが公知である。これは、Ti3AlC2相のアルミニウムが、アルミナ保護層を形成して、タービンの動作中における酸化から部品を保護することを可能にするためである。Ti3AlC2相の炭素は、材料が、タービンの動作温度範囲内において最適なクリープ耐性を有することを可能にする。最後に、Ti3AlC2相のチタンは、材料が、MAX相を含む他の材料より低い密度を有することを可能にする。
【0008】
例えば、仏国特許発明第3032449号明細書は、航空工学分野において使用されることを意図されており、高い機械的耐性を有する材料を記述している。前述の材料は、Ti3AlC2型の第1のMAX相およびTiAl3型の第2の金属間化合物相を含み、MAX相の体積分率は70%~95%であり、金属間化合物相の体積分率は5%~30%である。
【0009】
しかしながら、上記文献に記載の材料は、1100℃での酸化に曝されるものであり、この温度は、航空工学におけるタービン部品の製造のために使用されるには高すぎる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一つの目的は、MAX相を含む材料で作られるタービン部品製造の解決策を提案することであり、この材料は、タービン動作範囲の温度における、特有の高い機械的耐性および高い耐酸化性を同時に有し、またニッケル基超合金製の材料よりも低い密度を有する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の範囲においては、上記目的は、多結晶性基材を含み、基材が結晶粒を含み、結晶粒が少なくとも1つのTi3AlC2相を有し、前記合金相の質量分率が97%超であり、各結晶粒が、ある長さおよびある幅を有する、タービン部品であって、
-結晶粒の平均長さが50μm未満であり、
-結晶粒の平均幅-長さ比が0.4~0.6であり、また、
-Ti3AlC2相の平均格子体積が152.4Å3未満である
ことを特徴とするタービン部品によって達成される。
【0013】
結晶粒の平均長さが、50μm未満であり平均幅-長さ比が0.4~0.6であり、Ti3AlC2相の平均格子体積が152.4Å3未満であるため、Ti3AlC2相の微細組織は、タービンの動作温度範囲内における、高い耐酸化性をもたらす。
【0014】
有利なことに、本発明は、個別に採用されるまたは、技術的に可能な組み合わせのいずれか1つとして採用される、下記の特徴によって完成される。すなわち、
-基材が炭化チタンを含み、基材中の炭化チタンの質量分率が0.8%未満であること、
-基材がアルミナを含み、基材中のアルミナの質量分率が3%未満であること、
-基材がTixAly金属間化合物を含み、基材中のTixAly化合物の体積分率が1%未満であること、
-基材が鉄および/またはタングステンを含む相を有し、前記相の鉄の平均体積分率とタングステンの平均体積分率との合計が2%未満であること、
-Ti3AlC2相の相対密度が96%超であること、である。
【0015】
本発明の別の主題は、上記部品を含むことを特徴とするタービン翼である。
【0016】
本発明の別の主題は、上記部品を含むことを特徴とするタービンステータである。
【0017】
本発明の別の主題は、上記タービン翼および/または上記タービンステータを含むことを特徴とするタービンである。
【0018】
本発明の別の主題は、多結晶性基材を含み、基材が、結晶粒を含み、少なくとも1つのTi3AlC2相を有し、前記合金相の質量分率が97%超であり、各結晶粒が、ある長さおよびある幅を有し、結晶粒の平均長さが50μm未満であり、平均幅-長さ比が0.4~0.6であり、Ti3AlC2相の平均格子体積が152.4Å3未満である、タービン部品を製造するための方法であって、フラッシュ焼結工程の実施を特徴とする方法である。
【0019】
有利なことに、本発明は、個別に採用される、または技術的に可能な組み合わせのいずれか1つとして採用される、下記の特徴によって完成される。すなわち、
【0020】
-フラッシュ焼結工程中における温度が1400℃未満であること、
-フラッシュ焼結工程中の圧力が60MPa超であること、
-フラッシュ焼結工程が最高温度で10分未満の熱処理を実施すること、
-フラッシュ焼結工程が、冷却副工程を含み、冷却服工程中における冷却速度が一分間当たり100℃未満であることであり、 -部品の製造方法は、
a)少なくともチタン、アルミニウムおよび炭素を含有する粉末を混合および均一化する工程と、
b)粉末を反応焼結する工程と、
c)粉末の反応焼結の生成物を粉末状態に変換する工程と、
を備え、工程a)~c)が、ミーリングによる生成物のフラッシュ焼結工程の前に実施される。
【0021】
他の特徴および利点は、下記の記述からさらに明確化するであろうが、下記の記述は、純粋に説明を目的とした非限定的なものであり、添付の図面を参照しながら読まれなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】タービン部品、例えば、タービン翼またはノズルガイドベーンの翼型の断面を概略的に示す図である。
【
図2】タービン部品の基材の微細組織の走査型電子顕微鏡法写真である。
【
図3】等温酸化を伴う処理後における、異なる基材の質量増加を示す図である。
【
図5】基材の二次クリープ率の変化に対する、基材の単位格子体積歪み基準および相対密度の影響を示す図である。
【
図6】異なるタイプの基材についてのラーソン-ミラー表現におけるクリープを示す図である。
【
図7】酸化を伴う処理中における、異なる格子体積歪み基準を有する複数の基材の質量増加の変化を示す図である。
【
図8】酸化により処理された基材の質量増加に対する炭化チタンの質量分率の影響を示す図である。
【0023】
定義
結晶粒の「長さ」Lという用語は、結晶粒の重心を通過する直線上における結晶粒の最大寸法を表す。
【0024】
結晶粒の「幅」lという用語は、結晶粒の重心を通過する直線上における結晶粒の最小寸法を表す。
【0025】
「密度」は、4℃および大気圧における同一体積の水の質量に対する、所定の体積の基材の質量の比を示す。
【0026】
「相対密度」は、基材の密度と、これと同一の基材の理論密度との比である。
【0027】
「ラーソン-ミラーパラメータ」は、式(1)で与えられるパラメータPである。:
【0028】
【数1】
ここでTは基材のケルビン温度であり、t
rは特定の応力に対する基材の破断時間であり、kは定数である。
【0029】
「化学量論的化合物」または「化学量論的物質」は、多数の元素から構成される材料を示し、各元素の原子分率は整数である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1を参照すると、ブレード4等のタービン部品1は、多結晶性基材2を含む。この基材は、少なくとも1つのTi
3AlC
2相を有する。
図1に示す要素は、独立に、タービン翼4、ノズルガイドベーンの翼型、または、タービンに属する任意の他の要素、部品もしくは構成要素を表すことができる。
【0031】
図2を参照すると、多結晶性基材2は結晶粒3を含む。基材の結晶粒3は、複数の形態学的パラメータを有する。基材2のTi
3AlC
2相において、結晶粒3の長さLは平均で50μm未満である。さらに、結晶粒3の平均形状係数、すなわち、結晶粒3の長さに対する結晶粒3の幅の平均比l/Lは0.3~0.7、好ましくは0.4~0.6、好ましくは0.45~0.55である。したがって、結晶粒3の平均長さおよび平均形状係数に関する微細組織パラメータは、タービンの動作中における基材2の耐酸化性の増大を可能にし、クリープ耐性の増大を可能にする。具体的には、寸法が小さい結晶粒は、基材の表面にまで通じる粒界の面積分率を増加させることができる。ここで、粒界は、合金元素、例えばアルミニウムの、酸化層の形成を生じさせる高速かつ優先的な拡散を可能にする。アルミニウムの大部分は、表面上にアルミナを形成するために拡散する可能性がある。このようにして形成されたアルミナ層は、非常に安定で、高温でも保護作用があり、基材2の質量増加を抑制または防止することができる。
【0032】
結晶粒の平均形状係数は、結晶粒の寸法と相まって、粒界における滑りを回避することにより、クリープ耐性の改善も可能にする。写真の右下にあるスケールバーは、10μmの長さに相当する。
【0033】
図3は、等温酸化を伴う処理後における、異なる基材の質量増加を示している。二つの形式の基材が酸化された。本発明に係る第一の形式の基材は
図3の黒色の棒に対応し、Ti
3AlC
2相結晶粒の平均長さは実質的に10μmに等しく、本発明のものとは異なる第二の形式の基材は
図3の灰色の棒に対応し、Ti
3AlC
2相結晶粒の平均長さは実質的に60μmに等しい。質量増加は、等温酸化後に測定されている。等温酸化は、異なる温度(800℃、900℃および1000℃)で、空気中で30時間行われた。全ての酸化温度において、結晶粒3の平均長さが実質的に10μmに等しい基材2の質量増加は、結晶粒の平均長さが実質的に60μmに等しい基材により示された質量増加よりも一桁以上小さい。したがって、結晶粒3の平均長さが50μm未満である基材2は、高い耐酸化性を有する。
【0034】
図4は、312型のMAX相セルを示す。一般に、(元素M、AおよびXを含む)MAX相は六方晶構造を有する。MAX相の六方晶格子は、複数の層の中で組織化されている八面体M
6Xから形成されており、これらの間には、元素Aからなる複数の層が挿入されている。Ti
3AlC
2の単位格子の理論体積は公知であり、V
0=153.45Å
3に等しい
。本発明の一態様によれば、Ti
3AlC
2相の単位格子の平均体積は、理論体積と異なる。格子体積歪み基準という用語は、式(2)によって与えられるパラメータδを表す:
【0035】
【数2】
式中、V
mesが、基材2のTi
3AlC
2相について測定された単位格子の平均体積に等しい。この体積は、X線回折(XRD)により、例えば7°~140°の角度範囲において得られた回折像のリートベルト法による単位格子パラメータを決定した後で計算されることが可能である。パラメータδの変化は、主に基材2の製造中における、化学元素による何らかの汚染よって引き起こされる。このパラメータδはまた、基材2の製造パラメータ、例えば製造中における基材2の圧力、温度および/または持続期間等に応じて変化し得る。
【0036】
図5は、基材2の二次クリープ速度の変化に対するパラメータδおよび基材の相対密度の効果を示すものである。二次クリープ速度は、基材2を900℃の温度で処理し、140MPaの引張応力を加えて測定されている。
図5に示す測定のために使用された基材2は、98%超のTi
3AlC
2相の体積分率を有し、異なる相対密度を有する。97%に等しい相対密度(
図5の中央の欄および右側の欄に対応する)に関しては、二次クリープ速度は2つのパラメータδ(δ=0.98%およびδ=0.17%)で示されている。基材2はδ=0.17%よりも高く、δ=0.98%よりも低い二次クリープ速度を有する。一般に、基材はδ<0.7%であるとき、より高い二次クリープ速度を有する。したがって、0.7%超のパラメータδを有する基材2は、基材2のクリープ耐性の向上を可能にする。パラメータδは、MAX相の単位格子の見かけの体積または実測の体積と、単位格子の理論体積または基準体積との区別を特徴づける。したがって、δが増加するとMAX相の格子体積は減少するが、これは、異なる元素Aの層と八面体M
6Xとが接近し合うことの結果である。基材2のパラメータδと、クリープ耐性との関係は、予期されないものである。転位の動きを遅くすることにより、この効果を説明できる可能性があるため、この材料のクリープに対する耐性を向上させることができる。好ましくは、δパラメータは0.7~2%、好ましくは0.92~1%である。Ti
3AlC
2相においてV
0=153.45Å
3であると考えたとき、基材2のTi
3AlC
2相の単位格子の平均体積は、152.4Å
3未満である。好ましくは、Ti
3AlC
2相の平均格子体積は、150.38Å
3~152.37Å
3であり、好ましくは151.91Å
3~152.03Å
3である。好ましくは、上記格子体積の影響は、結晶粒の平均長さが50μm未満であり、結晶粒の平均幅-長さ比が0.4~0.6であるときに観察される。
【0037】
パラメータδ0.98%(
図5の左側の欄および中央の欄に対応する)の場合、二次クリープ速度は、異なる2つの相対密度ρ(左側の欄に対応するρ=92%、および、中央の欄に対応するρ=97%)との関連で示されている。したがって、96%超の基材2の相対密度ρは、96%未満の基材2の相対密度を基準にして、クリープ速度を低下させることができる。具体的に言えば、密度が低下すると、クリープ中に応力を受けた材料の体積はより小さくなる。外部応力が加えられた場合、微細組織基準では、相対密度が低下すると、この力は増大する。したがって、密度が低下するとクリープ寿命は短くなる。
【0038】
図6は、異なる形式の基材に対するラーソン-ミラー表現によるクリープを示す。比応力はラーソン-ミラーパラメータの関数として表される。曲線(a)は、公知の多結晶ニッケル基超合金製基材に対応する。曲線(b)は、Ti
3AlC
2相を含み、0.17%の単位格子歪み基準δを有する基材に対応する。曲線(c)は、Ti
3AlC
2相を含み、0.98%の単位格子歪み基準δを有する、本発明による基材2に対応する。曲線(c)に対応する基材2の特徴は、ニッケル基の基材の比応力に類似した比応力を有することにある。一方で、曲線(b)に対応する基材の特徴は、ラーソン-ミラーパラメータが所定の値である場合において、曲線(c)に対応する基材2の比応力に比べて実質的に1桁小さい比応力を有することにある。したがって、部品1に実装された基材2は、Ti
3AlC
2相を有する公知の基材より高い機械的耐性を有する。
【0039】
図7は、酸化を伴う処理中における、異なるパラメータδを有する複数の基材の質量増加の変化を示している。酸化は、240回のサイクルに亘って各サイクルにつき1時間1000℃の温度に維持しながら、100℃~1000℃において各基材を熱処理することによって実施される。090~140mg/cm
2の表面の質量増加が、パラメータδが0.7%未満の基材で測定された。一方、0.7%超のパラメータδを有する基材2は、質量増加が実質的に0である。したがって、本発明による基材2は、タービンの動作に対応する温度条件下において、公知の基材より高い耐酸化性を有する。
【0040】
図8は、酸化を伴う処理後の基材の質量増加における炭化チタンの質量分率の効果を示す。基材の酸化は、空気中において100回の熱サイクルを制御しながら実施された。各サイクルは、5℃/分の温度勾配で100℃から1000℃まで基材の熱処理を行い、続いて、1000℃の温度で1時間基材を処理した後、1000℃から100℃に冷却するものである。
【0041】
3種の基材を熱処理した。各基材は、1.1%(
図8の左側の欄に示されている)、0.4%(
図8の中央の欄に示されている)および0%(
図8の右側の欄)の異なる炭化チタン(TiC)の質量分率を有する。したがって、基材の酸化は、基材中におけるTiCの質量分率を低下させることによって、顕著に低減させることができる。有利なことに、本発明の一態様による基材2は、タービンの動作温度によって生じる酸化を低減するように、0.8%未満のTiCの質量分率を有する。
【0042】
図9を参照すると、部品1を製造するための方法は、下記のステップを備えることができる。
【0043】
部品1を製造方法のステップ101においては、チタン、アルミニウムおよび炭化物を含有する粉末が混合されて、緻密化される。TiC>0.95、アルミニウムおよびチタンの粉末は、例えば、それぞれの原子分率の比率が1.9%対1.05%対1%であるように混合されることが可能である。例えば、Turbula(TM)型のミキサーまたは同等の任意の種類の三次元ミキサーを使用して、粉末を均質化することができる。好ましくは、混合されたアルミニウム粉末の原子分率は、厳
密には1より大であり、好ましくは1.03~1.08である。具体的に言えば、後続する反応焼結処理中にAlが蒸発することが、工程の終了したときに得られた部品のアルミニウムの原子分率を低下させる。したがって、ステップ101における1.03~1.08のアルミニウムの原子分率は、化学量論的化合物の製造を可能にする。したがって、本発明の一態様によれば、基材は、鉄および/またはタングステンを含む層を有し、この相における鉄およびタングステンの平均体積分率の合計は2%未満となる。
【0044】
方法のステップ102において、ステップ101において混合された粉末の反応焼結が、実施される。反応焼結は、保護雰囲気中において、1450℃で2時間実施されることが可能である。
【0045】
本方法のステップ103において、ステップ102の生成物は、例えばミーリングによって、粉末状態に変換させられる。
【0046】
本方法のステップ104において、フラッシュ焼結(またはスパークプラズマ焼結の略SPS)が、実施される。例えば、フラッシュ焼結は-50℃.min-1で冷却が行われるように制御しながら、1360℃の温度で2分間、75MPaで実施される。有利には、フラッシュ焼結ステップ104における温度は1400℃未満である。これは、1400℃未満の温度におけるフラッシュ焼結が、Ti3AlC2相の分解を回避することができるためである。さらに、1400℃未満の温度におけるフラッシュ焼結は、例えば黒鉛を含むフラッシュ焼結装置の金型を形成する材料と、ステップ103の生成物とが相互作用すること、および/または、前述の材料によってステップ103の生成物が汚染されることを回避可能にする。有利には、フラッシュ焼結工程中の圧力は60MPa超である。これは、公知の方法による焼結の実施中に使用される圧力より高い、この60MPa超の圧力が、96%超のTi3AlC2相の相対密度を有し、結晶粒3の平均長さが50μm未満であり、結晶粒の平均幅-長さ比が0.4~0.6である部品1の製造を可能にするためである。有利には、フラッシュ焼結工程は、最高温度で10分未満の熱処理を実施する。この結果、基材2の結晶粒3の過剰な成長および特性の劣化が回避される。ステップ104は、基材2を最高温度に維持した後に冷却するサブステップを含む。有利には、このサブステップ中における冷却速度の標準は100℃.min-1未満である。これは、冷却するサブステップ中において、残留機械的応力が基材2に蓄積を回避する。残留応力は、例えば基材の機械加工中における材料にクラックを生じさせるため、部品の製造中には問題となる。したがって、本発明の特徴に係る製造方法の実行は、加工中のクラック発生リスクを低減させる。
【0047】
上述の方法による部品1の製造は、化学量論的特性を有する基材を可能にし、酸化または機械的耐性に関する材料の性能を劣化させる化合物の取り込みを回避または抑制することを可能にする。したがって、本発明の特徴によれば、基材のアルミナの質量分率は3%未満となる。本発明の別の特徴によれば、基材はTixAly金属間化合物を含み、これらの化合物の体積分率は1%未満である。