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特許7139437動物内のスカトール及び/又はインドールの低減方法
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  • 特許-動物内のスカトール及び/又はインドールの低減方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】動物内のスカトール及び/又はインドールの低減方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/07 20060101AFI20220912BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
A61K39/07
A61P31/04 171
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020544743
(86)(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2019054570
(87)【国際公開番号】W WO2019166362
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】18159151.2
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505258715
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】モキ リョウイチ
(72)【発明者】
【氏名】サカモト エイゴ
(72)【発明者】
【氏名】ヤマグチ タケシ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-507225(JP,A)
【文献】特表2002-502054(JP,A)
【文献】特表2006-528882(JP,A)
【文献】特表2004-529854(JP,A)
【文献】特表2011-516600(JP,A)
【文献】特表2009-501730(JP,A)
【文献】国際公開第2004/084644(WO,A1)
【文献】The Veterinary Journal, Vol. 194, pp.417-419,2012年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物内のスカトール及び/又はインドールの濃度を低減するための、死滅ローソニア・イントラセルラリス又は改変生ローソニア・イントラセルラリスを含む免疫原性組成物であって、前記改変生ローソニア・イントラセルラリスが無毒性分離菌であるか又は前記改変生ローソニア・イントラセルラリスが弱毒化されている、前記免疫原性組成物
【請求項2】
動物における豚肉臭を防止するための、死滅ローソニア・イントラセルラリス又は改変生ローソニア・イントラセルラリスを含む免疫原性組成物であって、前記改変生ローソニア・イントラセルラリスが無毒性分離菌であるか又は前記改変生ローソニア・イントラセルラリスが弱毒化されている、前記免疫原性組成物
【請求項3】
前記免疫原性組成物が、1用量当たり106~1010個の細胞の死滅ローソニア・イントラセルラリス又は1用量当たり100~800μgの量の死滅ローソニア・イントラセルラリスを含む、請求項1又は2に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記免疫原性組成物が、1用量当たり約3.0~約9.0TCID50の改変生ローソニア・イントラセルラリスを含む、請求項1又は2に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
前記動物がブタである、請求項1~4のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
前記動物が腸管感染を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
前記動物が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している、請求項1~6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
スカトールが3-メチルインドールである、請求項1及び3~7のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
スカトール及び/又はインドールの濃度を、腸管、脂肪、筋肉、食肉又は肝組織内で低減するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
豚肉臭又は成熟雄臭を低減するための、請求項1~9のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
ローソニア・イントラセルラリス感染症の臨床徴候を低減するための、請求項1~10のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
スカトール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している非ワクチン接種コントロール群の動物に比べて脂肪組織内で少なくとも50%低減する、請求項1~11のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
スカトール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.2μg/g未満まで低減する、請求項1~12のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
スカトール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で感覚閾値未満に低減する、請求項1~13のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
インドール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している非ワクチン接種コントロール群の動物に比べて脂肪組織内で少なくとも50%低減する、請求項1~14のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
インドール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.3μg/g未満まで低減する、請求項1~15のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項17】
インドール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で感覚閾値未満に低減する、請求項1~16のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
前記免疫原性組成物が、1日齢以降から前記動物に投与される、請求項1~17のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
前記免疫原性組成物が、獣医学的に許容される担体をさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
前記免疫原性組成物が、1回又は2用量で投与される、請求項1~19のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項21】
前記免疫原性組成物が、筋肉内、皮下、鼻腔内又は経口投与される、請求項1~20のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項22】
前記免疫原性組成物がワクチンである、請求項1~21のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項23】
非ヒト動物内のスカトール及び/又はインドールの濃度の低減方法であって、請求項1及び3~22のいずれか1項に記載の免疫原性組成物の有効量を前記動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項24】
非ヒト動物における豚肉臭の防止方法であって、請求項2~22のいずれか1項に記載の免疫原性組成物の有効量を前記動物に投与することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
説明
背景
ブタ増殖性腸炎(「PPE」)の原因物質であるローソニア・イントラセルラリス(Lawsonia (L.) intracellularis)は、実質的にはウサギ、フェレット、ハムスター、キツネ、ウマ、並びにダチョウ及びエミューなど様々な他の動物を含めた全ての動物に影響を及ぼす。ローソニア・イントラセルラリスは、ブタの世界的に最も蔓延している腸内病原体であり、全世界でブタ生産の顕著な損失の原因となっている。
ローソニア・イントラセルラリスワクチンは、米国及び欧州での使用が認可されており(商標Enterisol(登録商標)Ileitis)、WO96/39629 A1及びWO2005/011731 A1に記載の弱毒化生ローソニア・イントラセルラリス分離菌に基づいている。
同様にWO2009144088 A2、WO97/20050 A1及びWO2002/26250 A2などに死滅ローソニア・イントラセルラリスワクチンが記載されている。
【0002】
豚肉臭は、豚肉の調理又は摂食中に明らかになり得る臭い又は味覚である。豚肉臭に重要ないくつかの化合物があり、最も重要な化合物はアンドロステノン、スカトール及びインドールである。
アンドロステノン(男性ステロイド系フェロモン)は雄ブタの精巣内で産生される。食肉生産用に飼育される雄ブタは、動物内の成熟雄臭(boar taint)(豚肉臭)の発生を防止するため出生直後に去勢されることが多い。
対照的に、スカトール及びインドールは、雄及び雌の両ブタにおけるトリプトファン代謝の分解産物である。脂肪組織内のこのような高濃度のスカトール及びインドールが前記不快な臭い又は味覚を引き起こす可能性がある。
脂肪組織に貯えられるスカトールの量は、スカトール産生速度、腸通過時間、腸吸収及び肝代謝などのいくつかの状況次第である。スカトールの産生は、腸内で食餌性又は内因性タンパク質由来のアミノ酸トリプトファンの微生物分解によって起こる。腸内で産生される利用可能なスカトールのほとんどは腸壁を越えて吸収され、血中で肝臓に輸送され、そこで大半が分解される。しかしながら、肝臓内でのスカトールの分解は、アンドロステノンによって妨害される。そして分解産物は尿中に排泄される。糞便は少量のスカトールしか含まない。その結果、未分解スカトールは脂肪及び筋肉内に蓄積される。
動物内のスカトールの量は、いくつかのパラメーターによって影響される。食餌成分はスカトールの脂肪濃度に影響を与える。さらに、他の管理技術がスカトール産生でも役割を果たす。典型的に、家畜密度(stocking rate)が高いブタほど、より低い家畜密度できれいに維持されるブタより高いスカトールの脂肪濃度を有する。
【0003】
Skrlep et al 2012 (The Veterinary Journal; 194; ページ417-419)は、腸管感染を有する去勢ブタにおいてさえ豚肉臭が生じ得ると述べている。Skrlep et al 2012は、ローソニア・イントラセルラリス及びブラキスピラ・ヒオディセンテリア(Brachyspira hyodysenteriae)に起因し、悪液質及び高死亡率をもたらす急性赤痢が発生しているブタを研究した。
重要なことに、抗生物質(タイロシン又はヴァージニアマイシン)又は抗生物質飼料添加物が補充された食餌は一般にスカトールの脂肪濃度に影響を与えないと記載されている(Hawe et al. 1992; Anim Prod.; 54: ページ413-419;Hansen et al. 1994; Livest Prod Sci;39:ページ269-274;Xue et al 1997; JSHAP; 5(4);ページ151-158)。1種の抗生物質(バシトラシン)についてのみスカトールレベルの低減が観察された(Hansen et al. 1997; Animal Science, 64, 351-363)。前記研究からは腸内の細菌感染症の抗生物質による治療が脂肪組織内のスカトール又はインドールレベルに何らかの又は少なくとも実質的な利益を有するかどうか不明である。
まとめると、ブタの脂肪組織内のスカトール又はインドールレベルは、いくつかのパラメーター、例えば腸におけるスカトール又はインドールの腸管吸収、肝代謝、食餌成分、ブタの家畜密度、成熟雄の去勢、腸管感染などによって影響される。しかしながら、抗生物質飼料は一般にスカトール又はインドールの脂肪濃度に影響を及ぼさなかった。
従って、ブタにおけるスカトール又はインドールレベル及びブタの豚肉臭をそれぞれ低減するための新しい方法が必要である。
【発明の概要】
【0004】
発明の説明
本発明の態様を説明する前に、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明白に他の意味に解すべき場合を除き、複数形を包含することに留意しなければならない。従って、例えば、「an antigen」への言及は、複数の抗原を包含し、「virus」への言及は、当業者に知られる1種又は複数のウイルス及びその等価物への言及であるなどである。特に定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者が普通に理解するのと同じ意味を有する。本発明の実施又は試験においては本明細書に記載のものと類似又は同等のいずれの方法及び材料をも利用できるが、ここでは好ましい方法、装置、及び材料について述べる。本明細書に記載の全ての公表文献の内容は、本発明に関連して利用する可能性のある該公表文献で報告されている細胞株、ベクター、及び方法論を説明かつ開示する目的のために参照することによって本明細書に組み込まれる。本明細書では、先行発明という理由で該開示に先行する権利が本発明にはないと承認するものと解釈すべきでない。
【0005】
本発明は、先行技術に内在する課題を解決し、技術水準の明白な進歩をもたらす。一般的に、本発明は、動物内のスカトール及び/又はインドールの濃度又は量の低減方法であって、ローソニア・イントラセルラリス抗原を含む有効量の免疫原性組成物を前記動物に投与することを含む方法を提供する。
さらに、本発明は、動物における豚肉臭の防止方法であって、ローソニア・イントラセルラリス抗原を含む有効量の免疫原性組成物を前記動物に投与することを含む方法を提供する。
有利には、本発明により提供する実験データは、本発明の方法によって、ブタの組織内のスカトール及び/又はインドールレベルを低減できることを開示する。さらに、ブタの組織内のスカトール及び/又はインドールを低減することによって、豚肉臭又は成熟雄臭が低減する。
【0006】
用語「低減」は、スカトール及び/又はインドールの濃度又は量が、同種の非免疫コントロール群の対象に比べて少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%低減することを意味する。スカトール及び/又はインドールの濃度の測定方法は、当業者の一般知識の範囲内である。典型的に、スカトール及び/又はインドールの濃度は、高速液体クロマトグラフィーによって測定可能である。
用語「スカトール及び/又はインドール」は当業者に周知である。スカトールは、3-メチルインドールとしても知られる。スカトールもインドールも、雌雄の両ブタにおけるトリプトファン代謝の分解産物である。
量という用語は、濃度という用語と互換的に用いられる。
用語「防止」は、一般的に、本発明の有効量の免疫原性組成物を必要とするか又は該治療/予防から利益を得ることができる対象又は対象の群れへの本発明の有効量の免疫原性組成物の投与を含む。用語「治療」は、対象又は群れの少なくとも一部の動物が既に該ローソニア・イントラセルラリスに感染し、かつ該動物が既に該ローソニア・イントラセルラリス感染に起因するか又はそれと関連するいくつかの臨床徴候を示している時点で有効量の免疫原性組成物を投与することを指す。用語「予防」は、ローソニア・イントラセルラリスによる該対象のいずれもの感染前又は少なくとも該動物若しくは動物群のいずれの動物も該ローソニア・イントラセルラリスによる感染に起因するか又はそれと関連するいずれの臨床徴候をも示していない場合の対象の投与を指す。本出願では用語「防止」及び「治療及び/又は予防」を互換的に使用する。
【0007】
本明細書で使用する用語「必要としている(in need又はof need)」は、投与/治療が、本発明の免疫原性組成物を受ける動物の健康若しくは臨床徴候の増強若しくは改善又は該動物の健康へのあらゆる他のプラスの薬効と関連することを意味する。
本明細書で使用する場合、用語「有効量」は、組成物の文脈では、動物における感染症の発生率を低減するか又はその重症度を下げるか又は疾患の付随事柄を減らし、ひいては、前記動物内のスカトール及び/又はインドールの量を減らす免疫応答を誘発できる免疫原性組成物の量を意味する。該有効量は、群れ内の特定ローソニア・イントラセルラリス感染症の発生率を下げるか又は特定ローソニア・イントラセルラリス感染症の臨床徴候の重症度を低減し、ひいては、前記動物内のスカトール及び/又はインドールの量を減らすことができる。特に、有効量は、1用量当たりのTCID50を指す。或いは、療法の文脈では、用語「有効量」は、疾患若しくは障害、又はその1つ以上の症状の重症度若しくは持続期間を低減又は改善し、疾患若しくは障害の進行を防止し、疾患若しくは障害の退行を引き起こし、疾患若しくは障害に関連する1つ以上の症状の再発、発達、発生、若しくは進行を防止し、或いは別の療法又は治療薬の予防若しくは治療を増強又は改善するのに十分である療法の量を指す。
【0008】
用語「免疫原性組成物」は、免疫原性組成物が投与される宿主において免疫応答を誘発する少なくとも1種の抗原を含む組成物を指す。該免疫応答は、本発明の免疫原性組成物への細胞性及び/又は抗体媒介免疫応答であり得る。好ましくは、免疫原性組成物は免疫応答を誘発し、さらに好ましくは、ローソニア・イントラセルラリス感染症の臨床徴候の1つ以上に対する防御免疫を与える。宿主は「対象」とも記載される。好ましくは、本明細書で記載又は言及するいずれの宿主又は対象も動物である。
通常、「免疫応答」としては、限定するものではないが、下記作用の1つ以上が挙げられる:本発明の免疫原性組成物に含まれる1つの抗原又は複数の抗原に特異的に向けられる、抗体、B細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、及び/若しくは細胞傷害性T細胞及び/若しくはγδT細胞の産生又は活性化。好ましくは、宿主は、防御免疫応答又は治療応答のどちらかを示すことになる。
「防御免疫応答」又は「防御免疫」は、感染宿主によって通常示される臨床徴候の低減若しくは欠如、より迅速な回復時間及び/又は感染力の持続時間の短縮又は感染宿主の組織若しくは体液若しくは排泄物中の病原体力価の低下によって実証されることになる。
新たな感染への抵抗性が増強され及び/又は疾患の臨床的重症度が低減されるように宿主が防御免疫応答を示す場合、免疫原性組成物は「ワクチン」と記述される。
用語「ローソニア・イントラセルラリス」は当業者に周知である。ローソニア・イントラセルラリスは、ブタ増殖性腸炎(「PPE」)の原因物質である。
【0009】
本明細書で使用する「抗原」は、限定するものではないが、宿主の免疫応答を引き出す成分を指し、この免疫応答は、該抗原又はその免疫学的に活性な成分を含む興味ある免疫原性組成物又はワクチンに対するものである。抗原又は免疫学的に活性な成分は、宿主に投与されると、宿主の免疫応答を引き出せる全微生物(不活性化又は改変生形態)、又はそのいずれのフラグメント若しくはフラクションであってもよい。抗原は、その原形で又はいわゆる改変生ワクチン(modified live vaccine)(MLV)中の弱毒化生物として完全な生存生物であってよく或いはそれを含んでよい。抗原は、さらに前記生物の適切な要素を含んでよく(サブユニットワクチン)、これらの要素は、全生物を殺すことによって、又は該生物の増殖培養及びその後の所望構造をもたらす精製ステップによって、又は限定するものではないが、細菌、昆虫、哺乳動物若しくは他の種のような適切な系の適切なマニピュレーションによって誘導される合成プロセス、及び場合によっては、その後の単離及び精製手順によって、又はワクチンを必要とする動物に適切な医薬組成物を用いる遺伝子材料の直接組み込みによって前記合成プロセスを導入すること(ポリヌクレオチドワクチン接種)によって生み出される。抗原は、いわゆる死滅ワクチン(killed vaccine)(KV)に適した方法で不活化された全生物を含んでよい。生物が細菌の場合、死滅ワクチンはバクテリンと呼ばれる。
【0010】
ローソニア抗原
本発明の一態様では、ローソニア・イントラセルラリス抗原は死滅ローソニア・イントラセルラリス又は改変生ローソニア・イントラセルラリスである。
本発明の一態様では、死滅ローソニア・イントラセルラリスは死滅全細胞ローソニア・イントラセルラリスである。
死滅ローソニア・イントラセルラリスワクチンはWO2009144088 A2、WO97/20050 A1及びWO2002/26250 A2に記載されている。
本発明の目的にはいずれの通常の不活化方法も使用することができる。従って、不活化は、当業者に周知の化学的及び/又は物理的処理によって行なうことができる。好ましい不活化方法としては、バイナリーエチレンイミン(BEI)に環化された2-ブロモエチルアミン臭化水素酸塩(BEA)の溶液の添加を含む環化バイナリーエチレンイミン(BEI)の添加がある。好ましいさらなる化学的不活化剤は、限定するものではないが、トリトンX100、デオキシコール酸ナトリウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、β-プロピオラクトン、チメロサール、フェノール及びホルムアルデヒド(ホルマリン)を含む。しかしながら、不活化は、中和ステップを含んでもよい。好ましい中和剤としては、限定するものではないが、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0011】
好ましいホルマリン不活化条件は、約0,02%(v/v)~2,0%(v/v)、さらに好ましくは約0,1%(v/v)~1,0%(v/v)、さらに好ましくは約0,15%(v/v)~0,8%(v/v)、さらに好ましくは約0,16%(v/v)~0,6%(v/v)、最も好ましくは約0,2%(v/v)~0,4%(v/v)のホルマリン濃度を含む。インキュベーション時間は、ローソニア・イントラセルラリスの抵抗性によって決まる。一般に、不活化プロセスは、適切な培養系においてローソニア・イントラセルラリスの増殖を検出できなくなるまで行なわれる。
好ましくは、不活化ローソニア・イントラセルラリスは、好ましくは前述した濃度を用いてホルマリン不活化される。
好ましいβ-プロピオラクトン不活化条件は、約0,005%(v/v)~4,0%(v/v)、さらに好ましくは約0,05%(v/v)~2,0%(v/v)のβ-プロピオラクトン濃度を含む。インキュベーション時間は、ローソニア・イントラセルラリスの抵抗性によって決まる。一般に、不活化プロセスは、適切な培養系においてローソニア・イントラセルラリスの増殖を検出できなくなるまで行なわれる。
好ましくは、不活化ローソニア・イントラセルラリスは、β-プロピオラクトンによって、好ましくは前述の濃度を用いて不活化される。
好ましくは、免疫原性組成物は、1用量当たり102~1014個の細胞の死滅ローソニア・イントラセルラリス、さらに好ましくは1用量当たり104~1012個の細胞の死滅ローソニア・イントラセルラリス、さらに好ましくは1用量当たり106~1010個の細胞の死滅ローソニア・イントラセルラリスを含む。
好ましくは、免疫原性組成物は、1用量当たり25~2000μgの量の死滅ローソニア・イントラセルラリス、さらに好ましくは1用量当たり50~1000μgの量の死滅ローソニア・イントラセルラリス、さらに好ましくは1用量当たり100~800μgの量の死滅ローソニア・イントラセルラリスを含む。
【0012】
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、1用量当たり106~1010個の細胞の死滅ローソニア・イントラセルラリス又は1用量当たり100~800μgの量の死滅ローソニア・イントラセルラリスを含む。
本発明の一態様では、改変生ローソニア・イントラセルラリスは無毒性分離菌であるか又はローソニア・イントラセルラリスは弱毒化されている。
用語「弱毒化」は、低減した毒性を有する病原体を指す。本発明では「弱毒化」は「無毒性」と同義である。本発明では、弱毒化ローソニア・イントラセルラリスは、毒性が低減され、その結果ローソニア・イントラセルラリス感染症の臨床徴候を引き起こさないが、標的動物において免疫応答を誘発できるローソニア・イントラセルラリスであるが、非弱毒化ローソニア・イントラセルラリスに感染し、かつ弱毒化細菌を受けていない「コントロール群」の動物に比べて、弱毒化ローソニア・イントラセルラリスに感染した動物では臨床徴候の発生率又は重症度が低減することを意味することもある。この文脈では、用語「低減する/低減した」は、上記コントロール群に比べて少なくとも10%、好ましくは25%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは60%、さらに好ましくは70%、さらに好ましくは80%、さらに好ましくは90%、さらに好ましくは95%、最も好ましくは100%の低減を意味する。従って、弱毒化、無毒性ローソニア・イントラセルラリス株又は分離菌は、改変生ローソニア・イントラセルラリスを含む免疫原性組成物への組み込みに適したものである。
【0013】
ローソニア・イントラセルラリスの病原性及び非病原性弱毒化細菌株は、最新技術において周知である。例えば、WO 96/39629及びWO 05/011731は、ローソニア・イントラセルラリスの非病原性弱毒化菌株及びその調製方法について記載している。
特に、WO 96/39629は、ローソニア・イントラセルラリスの弱毒化細菌株の調製及び寄託株ATCC 55783について記載している。
WO 05/011731は、ローソニア・イントラセルラリスの弱毒化細菌株の調製及び寄託株PTA-4926について記載している。
本発明の一態様では、無毒性分離菌はPTA-4926又はATCC 55783である。
本発明の一態様では、無毒性ローソニア・イントラセルラリス分離菌又は弱毒化ローソニア・イントラセルラリスはEnterisol(登録商標)Ileitisである。
感受性動物に投与すべき推奨用量は、好ましくは約3.0TCID50(50%組織培養感染量エンドポイント)/用量~約9.0TCID50/用量、さらに好ましくは約4.0TCID50/用量~約7.0TCID50/用量である。
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、1用量当たり約3.0~約9.0TCID50の改変生ローソニア・イントラセルラリスを含む。
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、1用量当たり約4.0~約7.0TCID50の改変生ローソニア・イントラセルラリスを含む。
【0014】
動物
用語「動物」は、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、サル、又はウシなどの哺乳動物を指す、さらに好ましくは、動物はブタである。
本発明の一態様では、動物は哺乳動物である。
本発明の一態様では、動物はブタである。
用語「ブタ」は、子ブタ、雌ブタ、若い雌ブタ、成熟雄ブタなどを含むと理解しなければならない。
本発明の一態様では、動物又はブタは雄性又は雌性である。
本発明の一態様では、動物又はブタは雄性である。
本発明の一態様では、雄性動物又はブタは去勢されるか又は去勢されない。
本発明の一態様では、動物は雌ブタ又は去勢された雄ブタである。
【0015】
腸管感染又はローソニア感染
本発明の一態様では、動物は胃腸管感染を有する。
本発明の一態様では、動物は腸管感染を有する。
本明細書で使用する用語「胃腸管感染」又は「腸管感染」は、前記動物の胃腸管又は腸管におけるウイルス、細菌又は寄生虫感染を指す。前記感染は、前記動物において臨床的又は無症候性腸疾患を引き起こす可能性がある。
本発明の一態様では、動物は腸内病原体に感染している。好ましくは、腸内病原体は、下記:ローソニア・イントラセルラリス、ブラキスピラ種(Brachyspira spp.)、病原性大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ種(Salmonella spp.)、B. ハンプソニイ(B. hampsonii)及びB. ムルドキイ(B. murdochii)から成るリスト(これに限定されないが))より選択される。
本発明の一態様では、動物はローソニア・イントラセルラリスによる感染している。
本発明の一態様では、動物はローソニア・イントラセルラリス及びブラキスピラ・ヒオディセンテリア(Brachyspira hyodysenteriae)に感染している。
【0016】
組織
本発明の一態様では、スカトールは3-メチルインドールである。
本発明の一態様では、スカトール及び/又はインドールの濃度は、腸、脂肪、筋肉、食肉又は肝組織内で低減する。
本発明の一態様では、スカトール及び/又はインドールの濃度は、脂肪、筋肉又は食肉内で低減する。
本発明の一態様では、本方法は、豚肉臭又は成熟雄臭を低減する。
【0017】
豚肉臭
本明細書で使用する用語「豚肉臭」又は「成熟雄臭」は、一般に前記豚肉の調理中又は摂食中に明らかになる豚肉の臭い及び/又は風味に関する。前記臭い及び/又は風味は、その肉が人の飲食に受け入れらない程度までであり得る。雄ブタは一般的に、また比較的程度は低いが雌ブタ及び去勢雄ブタも成熟雄臭又はブタ臭を伴う現象を示す。豚肉臭に重要ないくつかの化合物があり、最も重要な化合物はアンドロステノン、スカトール及びインドールである。脂肪組織/液体脂肪内のスカトールの感覚閾値は0.2μg/gである(好例のSkrlep et al 2012 (The Veterinary Journal; 194;ページ417-419)参照)。脂肪組織/液体脂肪内のインドールの感覚閾値は0.3μg/gである。
【0018】
本発明の一態様では、本方法はローソニア・イントラセルラリス感染症の臨床徴候を低減する。
本明細書で使用するローソニア・イントラセルラリス感染症の用語「臨床徴候」としては、限定するものではないが、1日当たりの平均体重増加(ADWG)低減、体重増加の変動性上昇、飼料要求率(feed conversion ratio)上昇、回腸、盲腸及び結腸の肉眼的病変、下痢、検出可能な細菌負荷、ローソニア・イントラセルラリスの排出又はその組み合わせが挙げられる。
従って、本発明の一態様では、前記方法は、同一種の非免疫動物に比べて、1日当たりの平均体重増加(ADWG)上昇、体重増加の変動性低減、最適化飼料要求率、回腸、盲腸及び結腸の肉眼的病変減少、下痢減少、細菌負荷低減、ローソニア・イントラセルラリスの排出減少、又はその組み合わせから成る群より選択される有効性パラメーターの改善をもたらす。
好ましくは、臨床徴候は、治療されていないか又は本発明前に利用可能だった免疫原性組成物で治療したが、その後特定ローソニア・イントラセルラリスに感染した対象に比べて、発生率又は重症度が少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%低減する。
【0019】
スカトール濃度の低減
本発明の一態様では、スカトール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している非ワクチン接種コントロール群の動物に比べて脂肪組織内で少なくとも50%低減する。
本発明の一態様では、スカトール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.2μg/g未満まで低減する。
本発明の一態様では、スカトール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.15μg/g未満まで低減する。
本発明の一態様では、スカトール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.1μg/g未満まで低減する。
本発明の一態様では、スカトール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で感覚閾値未満に低減する。
【0020】
インドール濃度の低減
本発明の一態様では、インドール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している非ワクチン接種コントロール群の動物に比べて脂肪組織内で少なくとも50%低減する。
本発明の一態様では、インドール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.3μg/g未満まで低減する。
本発明の一態様では、インドール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.15μg/g未満まで低減する。
本発明の一態様では、インドール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.05μg/g未満まで低減する。
本発明の一態様では、インドール濃度は、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で感覚閾値未満に低減する。
【0021】
動物の齢
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、3週齢から動物に投与される。
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、10日齢から動物に投与される。
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、1日齢以降から動物に投与される。
【0022】
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、獣医学的に許容される担体をさらに含む。
本発明の一態様では、獣医学的に許容される担体は希釈剤である。
「希釈剤」としては、水、生理食塩水、デキストロース、エタノール、グリセリンなどが挙げられる。等張剤としては、とりわけ、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、及びラクトースが挙げられる。安定剤としては、とりわけ、アルブミン及びエチレンジアミン四酢酸のアルカリ塩がある。
本発明の一態様では、獣医学的に許容される担体は生理的緩衝液である。
本発明の一態様では、薬学的に許容される担体はリン酸緩衝食塩水である。
好ましくは、免疫原性組成物は、さらにスクロースゼラチン安定剤を含む。
好ましくは、免疫原性組成物は、さらに1種以上の他の免疫調節剤、例えば、インターロイキン、インターフェロン、又は他のサイトカインなどを含むことができる。当業者は、本発明の文脈で有用なアジュバント及び添加剤の量及び濃度を容易に決めることができる。
本発明の一態様では、前記獣医学的に許容される担体は、溶媒、分散媒、被覆剤、安定剤、希釈剤、保存剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤、吸着遅延剤、アジュバント、免疫刺激剤、及びその組み合わせから成る群より選択される。
【0023】
いくつかの態様では、本発明の免疫原性組成物はアジュバントを含有する。本明細書で使用する「アジュバント」としては、水酸化アルミニウム及びリン酸アルミニウム、サポニン、例えば、Quil A、QS-21(Cambridge Biotech Inc., Cambridge MA)、GPI-0100 (Galenica Pharmaceuticals, Inc., Birmingham, AL)、油中水型エマルション、水中油型エマルション、水中油中水型エマルションが挙げられる。エマルションは、特に軽質流動パラフィン油(欧州薬局方タイプ);イソプレノイド油、例えばスクアラン又はスクアレン;アルカン、特にイソブテン又はデセンのオリゴマー化から生じる油;直鎖アルキル基を含有する酸又はアルコールのエステル、より特に植物油、オレイン酸エチル、ジ(カプリル酸/カプリン酸)プロピレングリコール、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル又はジオレイン酸プロピレングリコール;分岐脂肪酸又はアルコールのエステル、特にイソステアリン酸エステルをベースにすることができる。油を乳化剤と併用してエマルションを形成する。乳化剤は、好ましくは非イオン性界面活性剤、特にソルビタン、マンニド(mannide)(例えばアンハイドロマンニトールオレアート)、グリコール、ポリグリセロール、プロピレングリコールと、オレイン酸、イソステアリン酸、リシノール酸又はヒドロキシステアリン酸とのエステル(場合によってエトキシル化されている)、並びにポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンコポリマーブロック、特にPluronic製品、特にL121である。Hunter et al., The Theory and Practical Application of Adjuvants (Ed.Stewart-Tull, D. E. S.), JohnWiley and Sons, NY, pp51-94 (1995)及びTodd et al., Vaccine 15:564-570 (1997)を参照されたい。好例のアジュバントは、“Vaccine Design, The Subunit and Adjuvant Approach”(M. Powell及びM. Newman編集, Plenum Press, 1995)の147ページに記載のSPTエマルション、及びこの同書籍の183ページに記載のエマルションMF59である。
【0024】
アジュバントのさらなる例は、アクリル酸又はメタクリル酸のポリマー及び無水マレイン酸とアルケニル誘導体のコポリマーから選択される化合物である。有利なアジュバント化合物は、特に糖又はポリアルコールのポリアルケニルエステルで架橋されている、アクリル酸又はメタクリル酸のポリマーである。これらの化合物は、用語カルボマーによって知られている(Phameuropa Vol. 8, No. 2, June 1996)。当業者は、少なくとも3個、好ましくは8個以下のヒドロキシル基を有し、少なくとも3個のヒドロキシルの水素原子が、少なくとも2個の炭素原子を有する不飽和脂肪族基に置き換えられているポリヒドロキシル化化合物で架橋されている該アクリルポリマーについて記載している米国特許第2,909,462号を参照することもできる。好ましい不飽和脂肪族基は、2~4個の炭素原子を含有するもの、例えばビニル、アリル及び他のエチレン性不飽和基である。不飽和基は、それ自体他の置換基、例えばメチルを含有してよい。名称カーボポール(Carbopol)で販売されている製品(BF Goodrich, Ohio, USA)が特に適している。それらは、アリルスクロース又はアリルペンタエリスリトールで架橋されている。それらの中では、カーボポール974P、934P及び971Pに言及することができる。カーボポール971Pの使用が最も好ましい。無水マレイン酸とアルケニル誘導体のコポリマーの中には、無水マレイン酸とエチレンのコポリマーであるコポリマーEMA(Monsanto)がある。これらのポリマーの水中での溶解が酸溶液をもたらし、これらは、免疫原性、免疫学的又はワクチン組成物自体が中に組み込まれることになるアジュバント溶液を与えるために、好ましくは生理的pHに中和されることになる。
【0025】
さらなる適切なアジュバントとしては、限定するものではないが、数ある中で、RIBIアジュバント系(Ribi Inc.)、ブロックコポリマー(CytRx, Atlanta GA)、SAF-M (Chiron, Emeryville CA)、モノホスホリルリピドA、アブリジン(Avridine)リピド-アミンアジュバント、大腸菌からの熱不安定性エンテロトキシン(組換え体その他)、コレラ毒素、IMS 1314又はムラミルジペプチド、又は天然起源若しくは組換え体サイトカイン若しくはその類似体又は内因性サイトカイン放出の刺激物質が挙げられる。
アジュバントは、1用量当たり約100μg~約10mgの量、好ましくは1用量当たり約100μg~約10mgの量、さらに好ましくは1用量当たり約500μg~約5mgの量、さらに好ましくは1用量当たり約750μg~約2.5mgの量、最も好ましくは1用量当たり約1mgの量で添加できると推測される。或いは、アジュバントは、最終製品の体積で約0.01~50%の濃度、好ましくは約2%~30%の濃度、さらに好ましくは約5%~25%の濃度、さらに好ましくは約7%~22%の濃度、最も好ましくは10%~20%の濃度であってよい。
【0026】
本発明の一態様では、前記獣医学的に許容される担体は、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、サポニン、油中水型エマルション、水中油型エマルション、水中油中水型エマルション、アクリル酸又はメタクリル酸のポリマー、無水マレイン酸とアルケニル誘導体のコポリマー、RIBIアジュバント系、ブロックコポリマー、SAF-M、モノホスホリルリピドA、アブリジンリピド-アミン、大腸菌からの熱不安定性エンテロトキシン(組換え体その他)、コレラ毒素、IMS 1314又はムラミルジペプチド、及びその組み合わせから成る群より選択されるアジュバントである。
本発明の一態様では、前記獣医学的に許容される担体は水中油中水型エマルション又はカルボマーである。
本発明の一態様では、免疫原性組成物が1回投与される。
さらに、本発明の免疫原性組成物の1用量は、このような単一用量の該免疫原性組成物の投与後に効果的であることが分かった。
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、単一用量投与用に処方される。
好ましくは、単一用量は、約0.1ml~2.5ml、さらに好ましくは約0.2ml~2.0ml、さらに好ましくは約0.2ml~1.75ml、さらに好ましくは約0.2ml~1.5ml、さらに好ましくは約0.4ml~1.25ml、さらに好ましくは約0.4ml~1.0mlの総体積を有し、単一の0.5ml用量又は1.0ml用量が最も好ましい。単一用量が0.5ml、1ml、1.5ml又は2mlの総体積を有するのが最も好ましい。
【0027】
しかしながら、免疫原性組成物は、2以上の用量で投与することができ、第2(ブースター)用量の投与前に第1用量が投与される。好ましくは、第2用量は、第1用量の少なくとも15日後に投与される。さらに好ましくは、第2用量は、第1用量の15~40日後に投与される。さらに好ましくは、第2用量は、第1用量の少なくとも17日後に投与される。さらに好ましくは、第2用量は、第1用量の17~30日後に投与される。さらに好ましくは、第2用量は、第1用量の少なくとも19日後に投与される。さらに好ましくは、第2用量は、第1用量の19~25日後に投与される。最も好ましくは第2用量は、第1用量の少なくとも21日後に投与される。2回投与レジメンの好ましい態様では、免疫原性組成物の第1及び第2の両用量が同一量で投与される。好ましくは、各用量は、上記好ましい量であり、第1及び第2用量について1mlの用量が最も好ましい。第1及び第2用量レジメンに加えて、代替実施形態は、さらなる次の用量を含む。例えば、これらの態様では第3、第4、又は第5用量を投与できることになる。好ましくは、次の第3、第4、及び第5用量レジメンは、上記第1及び第2用量間のタイミングと一致する用量間の時間枠で第1用量と同量で投与される。
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、2用量で投与される。
【0028】
免疫原性組成物は、好ましくは、局所又は全身投与される。通常用いられる適切な投与経路は、経口又は非経口投与、例えば鼻腔内、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、並びに吸入である。しかしながら、化合物の作用の性質及び機序に応じて、他の経路によって疫原性組成物を投与してもよい。しかしながら、飲料水によるか又は経口水薬(drench)によってのように免疫原性組成物を鼻腔内又は経口投与するのが最も好ましい。
本発明の一態様では、免疫原性組成物は、筋肉内、皮下、鼻腔内又は経口投与される。
本発明の一態様では、死滅ローソニア・イントラセルラリスは筋肉内又は皮下投与される。
本発明の一態様では、改変生ローソニア・イントラセルラリスは、経口又は鼻腔内投与される。
本発明の一態様では、免疫原性組成物はワクチンである。
【0029】
図面の簡単な説明
下記図面は、本明細書の一部を形成し、かつ本発明の特定態様をさらに実証するために含められる。本明細書に記載の具体的実施形態の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の1つ以上を参照することによって本発明をより良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】背脂肪のサンプル中のスカトール及びインドールの濃度を示し、Nは、臭い問題の間にワクチン接種せず、Vはワクチン接種した。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
本発明は、下記実施形態を提供する。
1. 動物内のスカトール及び/又はインドールの濃度又は量の低減方法であって、ローソニア・イントラセルラリス抗原を含む有効量の免疫原性組成物を前記動物に投与することを含む方法。
2. ローソニア・イントラセルラリス抗原を含む免疫原性組成物であって、有効量の前記免疫原性組成物を動物に投与することを含む、前記動物内のスカトール及び/又はインドールの濃度又は量の低減方法で使用するための免疫原性組成物。
3. 動物内の豚肉臭の防止方法であって、ローソニア・イントラセルラリス抗原を含む有効量の免疫原性組成物を前記動物に投与することを含む方法。
4. ローソニア・イントラセルラリス抗原を含む免疫原性組成物であって、有効量の前記免疫原性組成物を動物に投与することを含む、前記動物内の豚肉臭の防止方法で使用するための免疫原性組成物。
5. ローソニア・イントラセルラリス抗原が、死滅ローソニア・イントラセルラリス又は改変生ローソニア・イントラセルラリスである、条項1~4のいずれか1項に記載の方法。
6. 死滅ローソニア・イントラセルラリスが死滅全細胞ローソニア・イントラセルラリスである、条項5に記載の方法。
7. 免疫原性組成物が、1用量当たり106~1010個の細胞の死滅ローソニア・イントラセルラリス又は1用量当たり100~800μgの量の死滅ローソニア・イントラセルラリスを含む、条項6に記載の方法。
8. 改変生ローソニア・イントラセルラリスが無毒性分離菌であるか又はローソニア・イントラセルラリスが弱毒化されている、条項5に記載の方法。
9. 無毒性分離菌がPTA-4926又はATCC 55783である、条項8に記載の方法。
【0032】
10. 免疫原性組成物が、1用量当たり約3.0~約9.0TCID50の改変生ローソニア・イントラセルラリスを含む、条項8又は9に記載の方法。
11. 免疫原性組成物が、1用量当たり約4.0~約7.0TCID50の改変生ローソニア・イントラセルラリスを含む、条項8~10のいずれか1項に記載の方法。
12. 動物がブタである、条項1~11のいずれか1項に記載の方法。
13. 動物又はブタが雄性又は雌性である、条項1~12のいずれか1項に記載の方法。
14. 動物又はブタが雄性である、条項1~13のいずれか1項に記載の方法。
15. 雄性動物又はブタが去勢されているか又は去勢されていない、条項14に記載の方法。
16. 動物が腸管感染を有する、条項1~15のいずれか1項に記載の方法。
17. 動物が腸内病原体に感染している、条項1~16のいずれか1項に記載の方法。
18. 動物がローソニア・イントラセルラリスに感染しているか又はローソニア・イントラセルラリス及びブラキスピラ・ヒオディセンテリアに感染している、条項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【0033】
19. スカトールが3-メチルインドールである、条項1若しくは2又は5~18のいずれか1項に記載の方法。
20. スカトール及び/又はインドールの濃度が、腸、脂肪、筋肉、食肉又は肝組織内で低減する、条項1~19のいずれか1項に記載の方法。
21. スカトール及び/又はインドールの濃度が、脂肪、筋肉又は食肉内で低減する、条項1~20のいずれか1項に記載の方法。
22. 方法が、豚肉臭又は成熟雄臭を低減する、条項1~21のいずれか1項に記載の方法。
23. 方法が、ローソニア・イントラセルラリス感染症の臨床徴候を低減する、条項1~22のいずれか1項に記載の方法。
24. スカトール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している非ワクチン接種コントロール群の動物に比べて脂肪組織内で少なくとも50%低減する、条項1~23のいずれか1項に記載の方法。
25. スカトール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.2μg/g未満まで低減する、条項1~24のいずれか1項に記載の方法。
26. スカトール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.15μg/g未満まで低減する、条項1~24のいずれか1項に記載の方法。
27. スカトール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.1μg/g未満まで低減する、条項1~24のいずれか1項に記載の方法。
28. スカトール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で感覚閾値未満に低減する、条項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【0034】
29. インドール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している非ワクチン接種コントロール群の動物に比べて脂肪組織内で少なくとも50%低減する、条項1~28のいずれか1項に記載の方法。
30. インドール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.3μg/g未満まで低減する、条項1~29のいずれか1項に記載の方法。
31. インドール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.15μg/g未満まで低減する、条項1~29のいずれか1項に記載の方法。
32. インドール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で0.05μg/g未満まで低減する、条項1~29のいずれか1項に記載の方法。
33. インドール濃度が、ローソニア・イントラセルラリスに感染している動物の脂肪組織内で感覚閾値未満に低減する、条項1~32のいずれか1項に記載の方法。
34. 免疫原性組成物が、3週齢から動物に投与される、条項1~33のいずれか1項に記載の方法。
35. 免疫原性組成物が、10日齢から動物に投与される、条項1~34のいずれか1項に記載の方法。
36. 免疫原性組成物が、1日齢以降から動物に投与される、条項1~35のいずれか1項に記載の方法。
【0035】
37. 免疫原性組成物が、獣医学的に許容される担体をさらに含む、条項1~36のいずれか1項に記載の方法。
38. 前記獣医学的に許容される担体が、溶媒、分散媒、被覆剤、安定剤、希釈剤、保存剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤、吸着遅延剤、アジュバント、免疫刺激剤、及びその組み合わせから成る群より選択される条項37に記載の方法。
39. 獣医学的に許容される担体がアジュバント又は生理的緩衝液である、条項37又は38に記載の方法。
40. 前記獣医学的に許容される担体が、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、サポニン、油中水型エマルション、水中油型エマルション、水中油中水型エマルション、アクリル酸又はメタクリル酸のポリマー、無水マレイン酸とアルケニル誘導体のコポリマー、RIBIアジュバント系、ブロックコポリマー、SAF-M、モノホスホリルリピドA、アブリジンリピド-アミン、大腸菌からの熱不安定性エンテロトキシン(組換え体その他)、コレラ毒素、IMS 1314、ムラミルジペプチド、及びその組み合わせから成る群より選択されるアジュバントである、条項37~39のいずれか1項に記載の方法。
41. 前記獣医学的に許容される担体が水中油中水型エマルション又はカルボマーである、条項37~40のいずれか1項に記載の方法。
【0036】
42. 免疫原性組成物が1回投与される、条項1~41のいずれか1項に記載の方法。
43. 免疫原性組成物が2用量で投与される、条項1~41のいずれか1項に記載の方法。
44. 免疫原性組成物が、筋肉内、皮下、鼻腔内又は経口投与される、条項1~43のいずれか1項に記載の方法。
45. 死滅ローソニア・イントラセルラリスが筋肉内又は皮下投与される、条項1~7及び12~44のいずれか1項に記載の方法。
46. 改変生ローソニア・イントラセルラリスが経口又は鼻腔内投与される、条項1~5及び8~44のいずれか1項に記載の方法。
47. 免疫原性組成物がワクチンである、条項1~46のいずれか1項に記載の方法。
【実施例
【0037】
実施例
下記実施例は、単に本発明を説明する意図である。下記実施例は、決して特許請求の範囲を制限すべきでない。
500頭の雌ブタの繁殖肥育一貫経営(farrow-to-finish)農場の後期肥育者(fattener)に黒色タール様下痢及び突然死が観察され、ローソニア・イントラセルラリス感染に起因する疾患を意味した。剖検においては偽膜で覆われた回腸粘膜のホース様肥厚が見られ、臨床診断を確証した(データ示さず)。さらに、ブラキスピラ・ヒオディセンテリアによる感染が診断された(データ示さず)。さらに、Li(ローソニア・イントラセルラリス)抗体について血清サンプルを試験し(bioScreen Ileitis antibody-ELISA)、120日齢でセロコンバージョンを確認した(データ示さず)。同時期に、豚肉販売先は、彼らの顧客が豚肉臭の苦情を提示していることを報告した。この豚肉は、PHE問題を有するバッチからのものだった。このバッチの7頭の屠殺体サンプルを背脂肪内のスカトール及びインドールの濃度決定のためNH Foods Ltd. R&D Centerに提出した。スカトール濃度は0.04~0.53μg/g(平均0.22μg/g)であり、3サンプル(42%)は0.2μg/gの感覚閾値を超えた(図1参照)。インドール濃度は、0.3μg/gの感覚閾値未満であり、0.03~0.15μg/gの範囲だった(平均0.09μg/g)(図1参照)。
【0038】
経口弱毒生ローソニア・イントラセルラリスワクチン(Enterisol(登録商標)Ileitis, Boehringer Ingelheim)によるワクチン接種を製造業者の説明書に従って40日齢で行なった。ワクチン接種実施5カ月後にワクチン接種ブタを市販するときには、6サンプルを用いて背脂肪のスカトール及びインドールの濃度を測定し、Li抗体試験を再び行なって、Liが農場にまだ存在することを確証した(データ示さず)。スカトール及びインドールの平均濃度は、それぞれ0.07μg/g及び0.02μg/gであり、ワクチン接種前に比べて68%及び78%低減した。感覚閾値を超えるサンプルはなかった(図1参照)。
腸内のトリプトファンの微生物分解の副産物であるスカトールは悪臭を有する。脂肪内に蓄積された非分解スカトールは増加した。しかしながら、Li感染に対するワクチン接種は、臨床徴候のみならず豚肉臭をも改善した。我々は、ローソニア・イントラセルラリスによる感染が異常発酵増加又は腸内吸収増加をもたらす可能性があり、これが腸内でのスカトール産生増加を引き起こしたと仮定する。
図1