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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】統合弁
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/32 20060101AFI20220912BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20220912BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20220912BHJP
   F25B 41/48 20210101ALI20220912BHJP
   F25B 43/00 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
B60H1/32 613Z
B60H1/32 ZHV
B60H1/22 651B
F25B1/00 101D
F25B41/48
F25B43/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020554566
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2019038583
(87)【国際公開番号】W WO2021064812
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000204033
【氏名又は名称】太平洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】金森 和宏
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053591(JP,A)
【文献】特開2017-053613(JP,A)
【文献】特開2014-196880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
F25B 1/00-49/04
F16K 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内コンデンサと室外エバポレータとコンプレッサとを有するヒートポンプサイクルに組み込まれて、前記ヒートポンプサイクルを通常室内暖房モードと特別室内暖房モードとに切り替える統合弁であって、
支持ベースと、
前記支持ベースに形成され、冷媒を取り込んで気液分離して気体状の冷媒と液体状の冷媒とを別々に排出する気液分離室と、
前記気液分離室から延びて末端に前記室内コンデンサに接続される室内コンデンサ用ポートを有する前記冷媒取り込み用の第1流路と、
前記気液分離室から延びて末端に前記室外エバポレータに接続される室外エバポレータ用ポートを有する前記液体状の冷媒用の第2流路と、
前記気液分離室から延びて末端に前記コンプレッサの入力ポートに接続されるコンプレッサ用ポートを有する前記気体状の冷媒用の第3流路と、
前記第3流路の途中に備えられ、通常は、前記第3流路を遮断した閉弁状態になり、前記第2流路の圧力に応じて前記第3流路を開通させる開弁状態になる差圧弁と、
前記第2流路の途中に備えられて、前記通常室内暖房モードでは開弁状態とされ、前記特別室内暖房モードでは閉弁状態になるように駆動される駆動弁と、
前記支持ベースより熱伝導率が低い材料で形成され、前記支持ベースの内部に組み付けられて、前記第2流路の一部が貫通する断熱部材と、
前記断熱部材に形成され、前記第2流路のうち前記駆動弁にて開閉される弁口の上流側と下流側との間を連絡するオリフィスと、を備える統合弁。
【請求項2】
前記第2流路のうち前記断熱部材を貫通する部分の一端開口は、前記駆動弁の弁体によって開閉される弁口をなし、前記一端開口の開口縁は、前記駆動弁の前記弁体が当接する弁座になっている、請求項1に記載の統合弁。
【請求項3】
前記支持ベースには、前記統合弁の使用時に前記気液分離室の下方で横方向に延びるように配置され、一部が前記第2流路の一部を構成すると共に、一端部が前記駆動弁の支持ボディによって閉塞される第1弁取付部をなし、他端部が閉塞されるか縮径された位置決め部となった第1ストレート孔部が形成され、
前記断熱部材は、前記第1ストレート孔部に嵌合されて前記弁座と反対側の端部を前記位置決め部によって位置決めされている、請求項2に記載の統合弁。
【請求項4】
前記断熱部材は、筒状をなし、
前記オリフィスは、前記断熱部材の内側面と外側面との間を連絡するように形成されている請求項3に記載の統合弁。
【請求項5】
前記オリフィスは、前記第1ストレート孔部のうち前記気液分離室との合流部から前記第1ストレート孔部の軸方向で離した位置に配置されている、請求項4に記載の統合弁。
【請求項6】
前記オリフィスは、前記統合弁の使用時に上側に向かって前記断熱部材の外内に冷媒が通過するように配置される、請求項4又は5に記載の統合弁。
【請求項7】
前記位置決め部と前記断熱部材とに形成されて、前記断熱部材の軸方向で凹凸係合して、前記断熱部材を回り止めする第1位置決め係合部を備える、請求項4から6のうち何れか1の請求項に記載の統合弁。
【請求項8】
前記気液分離室と前記第1ストレート孔部との間を区画しかつ前記気液分離室と前記第1ストレート孔部との間を連絡する連通孔と第1係合孔と第2係合孔とを有する底壁と、
前記連通孔と前記第2係合孔とを前記統合弁の使用時に上方から覆う傘部から挿入バーが垂下してなり、前記挿入バーが前記第1係合孔に挿入されて前記底壁に固定される傘形カバー部材と、
前記第2係合孔を貫通し、前記統合弁の使用時に上方への移動を前記傘部によって規制されると共に、下端部を前記断熱部材に係合して前記断熱部材の前記駆動弁側への移動を規制する移動規制バーとを備える、請求項4から7のうち何れか1の請求項に記載の統合弁。
【請求項9】
前記移動規制バーの前記下端部と、前記断熱部材に形成されて前記移動規制バーの前記下端部が係合する凹部とから前記断熱部材を回り止めする第2位置決め係合部を備える、請求項8に記載の統合弁。
【請求項10】
前記第1弁取付部から前記駆動弁の支持ボディを外したときに、前記移動規制バーの前記下端部が視認可能となる、請求項8又は9に記載の統合弁。
【請求項11】
前記支持ベースには、前記統合弁の使用時に前記気液分離室の上側を前記第1ストレート孔部と平行に延びる第2ストレート孔部が形成され、
前記第2ストレート孔部のうち前記気液分離室より前記第1弁取付部側の一端側は、前記第3流路の少なくとも一部を構成し、
前記第2ストレート孔部の他端部は、前記差圧弁に備えた付勢部材を支持する支持キャップで閉塞されている、請求項3から10のうち何れか1の請求項に記載の統合弁。
【請求項12】
前記断熱部材のうち前記オリフィスより下流側部分を内外に貫通する排出孔と、
前記断熱部材の外周面と前記第1ストレート孔部の内周面との間に形成されて、前記第2流路のうち前記弁口より上流側部分から断絶されかつ前記室外エバポレータ用ポート及び前記排出孔と連通し、前記第2流路の一部を構成する湾曲流路と、
前記湾曲流路に連通し、前記差圧弁に前記第2流路の内圧を取り込むための内圧導入路と、を備える、請求項から11の何れか1の請求項に記載の統合弁。
【請求項13】
前記排出孔は、前記統合弁の使用時に上方に向かうように配置され、前記断熱部材の内部から外部へと貫通し、
前記内圧導入路は、前記統合弁の使用時に前記湾曲流路から上方に延びるように配置され、
前記室外エバポレータ用ポートは、前記湾曲流路の側方に配置されている、請求項12に記載の統合弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、室内コンデンサと室外エバポレータとコンプレッサとを有するヒートポンプサイクルに組み込まれ、室内コンデンサからの冷媒を気液分離し、気体状の冷媒をコンプレッサへ流出させるか否かを切り替えて、ヒートサイクルの暖房モードを切り替える統合弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の統合弁として、金属製のボディを有し、そのボディを貫通する流路の途中に開閉される弁口が設けられると共に、ボディに弁口の上流側と下流側とを連通するオリフィスが形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5772764号(段落[0010]、図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の統合弁では、オリフィスをボディの流路の奥に穿孔して形成するため、オリフィスの形成が難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、室内コンデンサと室外エバポレータとコンプレッサとを有するヒートポンプサイクルに組み込まれて、前記ヒートポンプサイクルを通常室内暖房モードと特別室内暖房モードとに切り替える統合弁であって、支持ベースと、前記支持ベースに形成され、冷媒を取り込んで気液分離して気体状の冷媒と液体状の冷媒とを別々に排出する気液分離室と、前記気液分離室から延びて末端に前記室内コンデンサに接続される室内コンデンサ用ポートを有する前記冷媒取り込み用の第1流路と、前記気液分離室から延びて末端に前記室外エバポレータに接続される室外エバポレータ用ポートを有する前記液体状の冷媒用の第2流路と、前記気液分離室から延びて末端に前記コンプレッサの入力ポートに接続されるコンプレッサ用ポートを有する前記気体状の冷媒用の第3流路と、前記第3流路の途中に備えられ、通常は、前記第3流路を遮断した閉弁状態になり、前記第2流路の圧力に応じて前記第3流路を開通させる開弁状態になる差圧弁と、前記第2流路の途中に備えられて、前記通常室内暖房モードでは開弁状態とされ、前記特別室内暖房モードでは閉弁状態になるように駆動される駆動弁と、前記支持ベースより熱伝導率が低い材料で形成され、前記支持ベースの内部に組み付けられて、前記第2流路の一部が貫通する断熱部材と、前記断熱部材に形成され、前記第2流路のうち前記駆動弁にて開閉される弁口の上流側と下流側との間を連絡するオリフィスと、を備える統合弁である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の第1実施形態に係る統合弁が組み込まれるヒートポンプサイクルの概念図
図2】統合弁の前方斜視図
図3】統合弁の後方斜視図
図4】電磁弁が開状態のときの統合弁の正断面図
図5】電磁弁が閉状態のときの統合弁の正断面図
図6】断熱部材の斜視図
図7】下側ベースと断熱部材のB-B断面図
図8】下側ベースに組み付けられた断熱部材の側面図
【発明を実施するための形態】
【0007】
[第1実施形態]
以下、図1~8を参照しつつ、本実施形態の弁10について説明する。図1に示されるように、本実施形態の統合弁10は、例えば、モータの駆動力で走行する電気自動車やハイブリッド自動車のエアコンのヒートポンプサイクル80に組み込まれる。ヒートポンプサイクル80は、車室内を暖房する暖房モードや、車室内を冷房する冷房モード等に切替可能となっている。
【0008】
統合弁10は、冷媒が流入する流入ポート13と、冷媒が流出する2つの流出ポート14,15を有している。後述するように、統合弁10は、気液分離室12を内部に有し、流入ポート13からの冷媒を気液分離する。そして、統合弁10は、気液分離して得られた気体状の冷媒と液体状の冷媒とを、それぞれ気相用流出ポート14と液相用流出ポート15とから流出可能となっている。また、統合弁10は、内部に駆動弁50(本実施形態の例では、電磁弁)を備えていて、駆動弁50を開閉することで、気相用流出ポート14を開閉可能となっている。
【0009】
統合弁10の詳細について説明する前に、ヒートポンプサイクル80についてまず説明する。ヒートポンプサイクル80には、例えば、ボンネット内に配置されるコンプレッサ81及び室外熱交換器83(室外エバポレータ)や、車室内に配置される室内コンデンサ82及び室内蒸発器84等が設けられている。
【0010】
コンプレッサ81は、冷媒を吸入し、圧縮して吐出させる。コンプレッサ81には、低圧冷媒を吸入する低圧入力ポート81Aと、低圧から高圧に圧縮する過程の冷媒に合流させる中間圧入力ポート81Bが設けられると共に、室内コンデンサ82に圧縮冷媒を流出させる出力ポート81Cが設けられている。
【0011】
室外熱交換器83は、外気と室外熱交換器83の内部を流れる冷媒とを熱交換させる。室外熱交換器83は、ヒートポンプサイクル90が暖房モードのときには、吸熱して冷媒を蒸発させる蒸発器(室外エバポレータ)として機能する一方、ヒートポンプサイクル90が冷房モードのときには、冷媒を放熱させる放熱器として機能する。
【0012】
室内コンデンサ82は、車室内の空調ユニット内に配置され、コンプレッサ81から吐出された高温高圧の冷媒を放熱させる放熱器として機能する(車室内を暖める)。冷房モードのときには、室内コンデンサ82は、例えばカバーで覆われる。また、室内蒸発器84は、冷房モードのときに使用され、車室内の空気から吸熱する(車室内を冷やす)。
【0013】
統合弁10の流入ポート13は、室内コンデンサ82の出力ポート82Bに、膨張弁87を介して接続される。統合弁10の気相用流出ポート14は、コンプレッサ81の2つの入力ポートの1つである中間圧入力ポート81Bに接続される。統合弁10の液相用流出ポート15は、室外熱交換器83の入力ポートに接続される。
【0014】
室外熱交換器83の出力ポートには、膨張弁85を介して室内蒸発器84の入力ポートが接続される。また、室内蒸発器84の出力ポートには、コンプレッサ81の低圧入力ポート81Aが接続される。なお、室外熱交換器83の出力ポートとコンプレッサ81の低圧入力ポート81Aの間には、室内蒸発器84と並列に開閉弁86が接続されている。なお、暖房モードのときには、開閉弁86が開状態となって膨張弁85が閉状態となる一方で、冷房モードのときには、開閉弁86が閉状態となって膨張弁85が開状態となる(即ち、室内蒸発器84に冷媒が流通する)。
【0015】
ヒートポンプサイクル80では、暖房モードとして、通常室内暖房モード(以下、通常暖房モードという。)と特別室内暖房モード(以下、特別暖房モードという。)が設けられている。通常暖房モードでは、統合弁10の駆動弁50が開弁し、これにより、統合弁10の気相用流出ポート14は閉じられる(図1(A))。ここで、特別暖房モードでは、統合弁の駆動弁50が閉弁する。これにより、統合弁10の気相用流出ポート14からコンプレッサ81の中間圧入力ポート81Bまでの特別流入路89が開通する(図1(B))。そして、ヒートポンプサイクル80が、ガスインジェクションサイクルとして機能し、外気温が低く通常暖房モードでは車室内が暖まりにくい場合でも車室内を暖め易くすることができる。
【0016】
なお、詳細には、通常暖房モードでは、外気温が極端に低い場合には、室外エバポレータ(室外熱交換器83)で十分に外気から吸熱ができない。そのため、室外熱交換器83からコンプレッサ81までの流路内の冷媒の圧力が上がらず、冷媒流量も少なくなると考えられる。冷媒流量が減れば、コンプレッサ81からの冷媒の吐出圧力や温度が上がらず、室内コンデンサ82からの放熱も少なくなり、暖房能力が低くなると考えられる。これに対して、特別暖房モードでは、ガスインジェクションサイクルにより、室外熱交換器83に流入する前の冷媒を気液分離し、分離した気体冷媒をコンプレッサ81に戻す。これにより、室外熱交換器83で圧力が下がる前の冷媒がコンプレッサ81に加えられるので、コンプレッサ81からの冷媒の吐出圧力の低下を抑制できると考えられる。その結果、暖房性能を向上させることが可能となると考えられる。なお、ヒートポンプサイクル80についての詳細は、例えば、特許5772764号や特開2017-53591号等にも開示されている。
【0017】
次に、統合弁10の詳細について説明する。図2及び図3に示されるように、統合弁10は、縦長をなした例えば金属製の支持ベース11を有し、支持ベース11の内部に複数の流路を備えている。なお、本実施形態の統合弁10は、使用時(即ち、統合弁10が車両に設置された際)には、支持ベース11の長手方向が上下方向となるように配置される。以下では、支持ベース11において、統合弁10の使用時に、上側を向く面を上面、下側を向く面を下面等ということとする。また、図4において、支持ベース11のうち紙面手前を向く面を前面、紙面奥側を向く面を後面といい、支持ベース11のうち左側、右側を向く面を、それぞれ左面、右面ということとする。
【0018】
図4に示されるように、支持ベース11の内部には、上述の気液分離室12が設けられている。気液分離室12は、上下方向に延びた円柱状の部屋となっていて、天井から中心軸と同軸上に円筒体12Aが垂下している。気液分離室12の内周面のうち上部には、流入ポート13が連通している。
【0019】
気液分離室12は、遠心分離式となっていて、流入ポート13から流入した室内コンデンサ82からの冷媒は、気液分離室12の内周面に沿って旋回し、この旋回による遠心力によって冷媒が気体状の冷媒と液体状の冷媒とに分離される。分離した気体状の冷媒は、円筒体12Aの内側を通って、上方に向かい、分離した液体状の冷媒は、気液分離室12の下方に落ちていく。
【0020】
気液分離室12の下側と上側には、互いに平行に延びた第1ストレート孔部21と第2ストレート孔部31とが形成されている。第1ストレート孔部21は、支持ベース11の右面から左面寄り位置まで延びていて、第1ストレート孔部21の左端部は、支持ベース11の前面から延びた上述の液相用流出ポート15と連通している。第1ストレート孔部21の右端部は、駆動弁50の支持ボディ53によって閉塞される第1弁取付部となっている。駆動弁50は、左右方向に直動する弁体51を備え、弁体51により第1ストレート孔部21の途中に設けられた弁口62を開閉する。駆動弁50は、作動状態では、弁口62から離れた開弁状態となり、非作動状態では、弁口62の開口縁(即ち、弁座62Z)に宛がわれて閉弁状態となる。
【0021】
第2ストレート孔部31は、支持ベース11の左面から右面寄り位置まで延びていて、第2ストレート孔部31の右端部は、支持ベース11の後面まで延びた上述の気相用流出ポート14と連通している。第2ストレート孔部31の途中部分は、気液分離室12の円筒体12Aの内側部分と連通孔32により連絡されている。第2ストレート孔部31の左端部は、差圧弁40に備えられた圧縮コイルバネ42を支持する支持キャップ44で閉塞されている。差圧弁40に備えられた弁体41は、第2ストレート孔部31の途中に設けられた弁口43を左側から開閉する。弁体41は、圧縮コイルバネ42により閉弁状態に付勢されている。
【0022】
第1ストレート孔部21の左側部分と第2ストレート孔部31の左端部とは、内圧導入路19により連通されている。
【0023】
図4に示されるように、支持ベース11には、気液分離室12と第1ストレート孔部21との間を区画する底壁39が設けられている。底壁39には、上下方向に延びて気液分離室12と第1ストレート孔部21とを連絡する連通孔34が貫通している。詳細には、第1ストレート孔部21のうち気液分離室12の真下に配置される部分には、拡径部23が設けられている。そして、この拡径部23に、連通孔34の下端が開口している。
【0024】
ここで、第1ストレート孔部21には、円筒状の断熱部材60が嵌合している(図6参照)。断熱部材60は、支持ベース11よりも熱電動率が低い材料で形成されていて、本実施形態の例では、樹脂の射出成形品である。断熱部材60は、第1ストレート孔部21のうち左端部に嵌合していて、断熱部材60の軸方向の途中部分がOリング60Rでシールされている。断熱部材60の右端部は、拡径部23内に配置されて、拡径部23の内面とは隙間をあけて配置されている。断熱部材60の右端開口は、駆動弁50によって開閉される弁口62を構成している。断熱部材60における弁口62の開口縁は、駆動弁50の弁体51が当接する弁座62Zになっている。断熱部材60の左端面は、第1ストレート孔部21の左端に突き当てられ、断熱部材60の左端面の周方向の一部に設けられた係合突部64が、第1ストレート孔部21の左端の係合凹部24(特許請求の範囲に記載の「位置決め部」に相当する。)と、断熱部材60の軸方向で凹凸係合している。これにより、断熱部材60が支持ベース11に対して回り止めされている。詳細には、断熱部材60は、断熱部材60の外周壁を貫通する貫通孔67と液相用流出ポート15とが連通する位置で、回り止めされている。この位置では、断熱部材60の外周壁を貫通孔67に対して直交するように貫通する後述の排出孔65の延長上に内圧導入路19が配置される。なお、本実施形態では、係合突部64と係合凹部24とが、特許請求の範囲に記載の「第1位置決め係合部」に相当する。
【0025】
図4及び図7に示されるように、断熱部材60には、径方向に内外を連通するオリフィス61が形成されている。オリフィス61は、断熱部材60の内側に向かって絞れられている。具体的には、オリフィス61は、断熱部材60のうち前記第1ストレート孔部21の内面と(拡径部23の内面と)隙間をあけて配置される右端部に設けられている。そして、オリフィス61は、断熱部材60の外周面のち下側に配置される部分から上側に向かって延びている。また、オリフィス61は、第1ストレート孔部21のうち気液分離室12との合流部から第1ストレート孔部21の軸方向で(図4に示す左側に)離れた位置に配置されている。なお、本実施形態では、オリフィス61は、断熱部材60の軸方向に対して、直交しているが、傾斜していてもよい。例えば、オリフィス61は、下流側に向かうにつれて断熱部材60の内部に近づくように延びていてもよい。
【0026】
図7に示されるように、底壁39の上面には、連通孔34とは別に、第1係合孔33Aと第2係合孔33Bが設けられている。第1係合孔33Aには、傘形カバー部材70が取り付けられている。具体的には、傘形カバー部材70は、傘部70Aから挿入バー70Bが垂下してなる。挿入バー70Bは、第2係合孔33Bに例えば圧入されている。このとき、傘部70Aは、連通孔34と第2係合孔33Bを上側から覆うように配置される。
【0027】
第2の係合孔33Bは、断熱部材60の端部の外周面のうちオリフィス61と周方向で反対側となる部分と対向している。そして、第2の係合孔33Bには、規制バー72が挿入されている。規制バー72の上端部は、傘部70Aの下面に当接して移動が規制されている。規制バー72の下端部は、断熱部材60の端部の外周面に形成された係合凹部63に係合して、断熱部材60を回り止め可能となっていると共に、断熱部材60を支持ベース11(詳細には、後述の下側ベース20B)に対して抜け止めしている。なお、本実施形態では、規制バー72と係合凹部63から、特許請求の範囲に記載の「第2位置決め係合部」が構成される。
【0028】
図8に示されるように、断熱部材60に当接した規制バー72は、支持ベース11の右面に設けられた第1ストレート孔部21の開口から駆動弁50を外した状態で、視認可能となっている。これにより、規制バー72により断熱部材60が位置決めされているか否かを確認することが容易となる。
【0029】
図7に示されるように、統合弁10には、断熱部材60のうちオリフィス61よりも下流側部分(左側部分)を内外に貫通する排出孔65が設けられている。また、断熱部材60の外周面と、第1ストレート孔部21の内周面との間には、Oリング60Rよりも上流側とは断絶される一方で、液相用流出ポート15及び排出孔65と連通する環状流路66(特許請求の範囲に記載の「湾曲流路」に相当する。)が形成されている。環状流路66は、内圧導入路19に連絡される。詳細には、図6に示されるように、断熱部材60の外周面には、環状流路66を形成するための環状の凹部66Uが形成されている。なお、環状流路66は、C字状であってもよい。
【0030】
なお、支持ベース11は、上側ベース20Aと下側ベース20Bとが上下に連結してなる。下側ベースは、略直方体状をなし、右面には、駆動弁50が取り付けられている。図2に示されるように、下側ベース20Bの前面には、上述の液相用流出ポート15が開口している。また、図3に示されるように、上側ベース20Aは、正面視四角形状のブロック状をなし、上側ベース20Aの後面には、上述の気相用流出ポート14と流入ポート13が上から並んで開口している。また、気液分離室12は、上側ベース20Aと下側ベース20Bの境目に配置され、気液分離室12の下端部は、下側ベース20Bの上面開口30Aにより構成され、上面開口30Aの底部は、底壁39により構成される。
【0031】
本実施形態では、例えば、断熱部材60は、下側ベース20Bと上側ベース20Aを合体させる前に、下側ベース20B内に取り付けられる。具体的には、下側ベース20Bの第1ストレート孔部21の一端開口から、駆動弁50を取り付ける前に挿入され、第1ストレート孔部21に嵌合されると共に、断熱部材60の係合突部64と第1ストレート孔部21の係合凹部24とが凹凸係合する。そして、下側ベース20Bの上面開口30Aから底壁39の第2係合孔33Bに、規制バー72が挿通されて断熱部材60の係合凹部63に係合する。その後、第1係合孔33Aに傘形カバー部材70が挿通され、規制バー72の上端部に当接する。これにより、断熱部材60が下側ベース20Bに取り付けられる。
【0032】
本実施形態の統合弁10では、気相用流出ポート14を開閉する差圧弁40は、以下のようにして動作する。ヒートポンプサイクル80が通常暖房モードである場合には、図4に示されるように、駆動弁50が開弁状態に駆動されると、弁口62が開放される。この場合、内圧導入路19を通った第1ストレート孔部21内の冷媒の圧力(弁体41の背圧)に対して、連通孔32を通った第2ストレート孔部31内における圧力は、弁体41を開弁位置に移動するほど強くないと考えられ、圧縮コイルバネ42に付勢された弁体41は、弁口43が閉弁状態になるように維持される。そのため、ヒートポンプサイクル80が通常暖房モードの場合、統合弁10の気相用流出ポート14が閉塞され、液相用流出ポート15のみから液体状の冷媒が流出する。ここで、特別暖房モードにヒートポンプサイクル80が切り替わった場合には、駆動弁50が閉弁状態に駆動されて弁口62を閉塞する(図5参照)。気液分離室12で分離された液体状の冷媒は、気液分離室12から第1ストレート孔部21の拡径部23内に流下し、その後、オリフィス61を通過して断熱部材60の内側部分に流れ込む。このとき、液体状の冷媒が減圧される。そして、内圧導入路19により、差圧弁40の弁体41の背圧が第1ストレート孔部21内の圧力と同じになる。そして、連通孔32内の圧力が弁体41の背圧よりも大きくなると、弁体41が図5に示されるように弁口43を開状態にする。これにより、気相用流出ポート14から気体状の冷媒が流出し、コンプレッサ81に流れ込む。これにより、ガスインジェクションサイクルが構成される。なお、差圧弁40の詳細については、例えば、特開2017-53591号等にも開示されている。
【0033】
本実施系形態では、流入ポート13、液相用流出ポート15、気相用流出ポート14が、それぞれ特許請求の範囲に記載の、「室内コンデンサ用ポート」、「室外エバポレータ用ポート」、「コンプレッサ用ポート」に相当する。また、流入ポート13により特許請求の範囲に記載の「第1流路」が構成される。さらに、連通孔34、第1ストレート孔部21の拡径部23、断熱部材60の内部及び液相用流出ポート15により、特許請求の範囲に記載の「第2流路」が構成される。また、連通孔32、第2ストレート孔部31、気相用流出ポート14により特許請求の範囲に記載の「第3流路」が構成される。
【0034】
なお、本開示において、「平行」とは、厳密に平行な状態だけでなく、略平行な状態(例えば、5度以下の角度で互いに傾斜する状態)をも意味する。また、「直交」とは、厳密に90度で交差することだけでなく、略直交すること(例えば、85度以上95度以下の角度で交差すること)をも意味する。
【0035】
本実施形態の統合弁10の構造については、以上である。本実施形態では、支持ベース11の内部に組み付けられる部材に、オリフィス61が形成されるので、支持ベース11の内部にオリフィス61を直接形成する場合よりも、オリフィス61の形成を容易にすることが可能となる。本実施形態では、オリフィス61が形成される部材が、円筒状であり、その径方向にオリフィス61が形成されるので、オリフィス61を形成がより容易となる。
【0036】
また、オリフィス61が設けられる部材が、断熱部材であるので、オリフィス61を通過する冷媒の密度が外部の熱により変化し難くなり、オリフィス61を通過する冷媒の流量を安定化することが可能となる。ここで、気液分離された液体状の冷媒には、完全に液体の冷媒のみが含まれるわけではなく、気体の冷媒も分離しきれずに含まれ得る。この場合、液体状の冷媒の中の気体冷媒と液体冷媒との速度比であるスリップ比(気体冷媒の速度/液体冷媒の速度)が大きくなると、オリフィス61を通過する冷媒の密度が温度の影響等で変動し易くなり、オリフィス61を通過する冷媒の流量が安定しない。これに対し、本実施形態の統合弁10では、オリフィス61が、断熱部材60を径方向に貫通することで、第1ストレート孔部21内を流通してきた液体状の冷媒が、オリフィス61に進入する際に、方向を変えることになる。これにより、液体状の冷媒中の気体冷媒と液体冷媒を撹拌し易くなり、スリップ比が大きくなることを抑制可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、オリフィス61が、断熱部材60を下側から上側に向かって貫通する。従って、気液分離室12で分離された液体状の冷媒が少ない場合でも、断熱部材60の上側部分にオリフィス61がある構成に比べて、液体状の冷媒をオリフィス61に通過させ易くすることが可能となる。
【0038】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態では、断熱部材60が、円筒状をなしていたが、これに限定されるものではなく、角筒状をなしていてもよいし、直方体状等のブロック状をなしていてもよい。
【0039】
(2)上記実施形態では、傘形カバー部材70が、規制バー72と別体になっていたが、一体になっていてもよい。
【符号の説明】
【0040】
10 統合弁
11 支持ベース
60 断熱部材
61 オリフィス
80 ヒートポンプサイクル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8