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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】対基板作業機および対基板作業方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 13/04 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
H05K13/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021070637
(22)【出願日】2021-04-19
(62)【分割の表示】P 2019508488の分割
【原出願日】2017-03-31
(65)【公開番号】P2021103804
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三治 満
(72)【発明者】
【氏名】仙石 重徳
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-090108(JP,A)
【文献】特開2009-123984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板の原材料となる部材の種類およびサプライヤに応じて、前記サプライヤごとに複数の部材データを予め登録するデータ登録部と、
対基板作業において、複数の前記部材データを択一選択して参照しつつ、前記部材を用いた作業を実施し、または前記部材に対する作業を実施する作業実施部と、
前記作業実施部の前記作業の実施状況に応じて、前記作業実施部が参照する前記部材データを自動で切り替えるデータ自動切り替え部と、を備え、
前記データ登録部は、複数の前記部材データを対象として前記作業の実施精度の高低に対応する優先順位を設定し、
前記データ自動切り替え部は、
最も高い前記実施精度に対応する第1優先順位が設定された第1部材データを始めに用い、
前記作業実施部の前記作業でエラーが発生した場合に、第2優先順位が設定された第2部材データに自動で切り替えて、前記作業実施部に前記作業を再度実施させる、
対基板作業機。
【請求項2】
前記データ自動切り替え部は、前記エラーを解消できた前記部材データを保持して次以降の前記部材に用いる、請求項1に記載の対基板作業機。
【請求項3】
前記データ自動切り替え部は、前記部材のロットが変更されたときに、前記第1部材データを用いる、請求項1または2に記載の対基板作業機。
【請求項4】
回路基板の原材料となる部材の種類およびサプライヤに応じて、前記サプライヤごとに複数の部材データを予め登録するデータ登録部と、
対基板作業において、複数の前記部材データを択一選択して参照しつつ、前記部材を用いた作業を実施し、または前記部材に対する作業を実施する作業実施部と、
前記作業実施部の前記作業の実施状況に応じて、前記作業実施部が参照する前記部材データを自動で切り替えるデータ自動切り替え部と、を備え、
前記データ自動切り替え部は、前記部材データを自動で切り替えた情報を記録する履歴記録部を含み、
複数の前記部材データは、前記部材が移動台の移動によって搬送されるときの搬送速度としての取り扱いデータを含む、
対基板作業機。
【請求項5】
回路基板の原材料となる部材の種類およびサプライヤに応じて、前記サプライヤごとに複数の部材データを予め登録するデータ登録工程と、
対基板作業において、複数の前記部材データを択一選択して参照しつつ、前記部材を用いた作業を実施し、または前記部材に対する作業を実施する作業実施工程と、
前記作業実施工程における前記作業の実施状況に応じて、参照する前記部材データを自動で切り替えるデータ自動切り替え工程と、を備え、
前記データ自動切り替え工程は、前記部材データを自動で切り替えた情報を記録する履歴記録工程を含み、
複数の前記部材データは、前記部材が移動台の移動によって搬送されるときの搬送速度としての取り扱いデータを含む、
対基板作業方法
【請求項6】
前記データ自動切り替え工程は、切り替える前後の前記部材データを記録する前記履歴記録工程を含む、請求項5に記載の対基板作業方法。
【請求項7】
前記データ自動切り替え工程は、切り替える前後の前記部材のロットに関する情報を記録する前記履歴記録工程を含む、請求項5または6に記載の対基板作業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、基板に所定の作業を施す対基板作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線が施された基板に電子部品(以下「部品」と称する)を実装するための諸作業(以下「対基板作業」と称する)を施して、回路基板を量産する技術が普及している。対基板作業を実施する対基板作業機として、はんだ印刷機、部品装着機、リフロー機、基板検査機などがある。これらの対基板作業機を連結して部品実装ラインを構成することが一般的になっている。このうち、部品装着機は、基板や部品の形状情報や取り扱い条件などを予め登録した部材データを参照しながら、部品の装着作業を実施する。
【0003】
ここで、部材データが同一であっても、ロットの違いやサプライヤの違いなどによって、部材相互間に若干の相違点が生じる。そして、この若干の相違点が問題点を引き起こす場合がある。例えば、部材を撮像して画像処理により認識する場合に、若干の相違点は、画像処理エラーの原因になり得る。エラーが発生した場合の従来技術で、作業者は、部材データを編集し直して運用していた。しかしながら、編集作業の間、部品装着機は停止するので、回路基板の生産が中断されて生産効率が低下する。また、作業者の編集作業の手間が繁雑である。部材データを参照しながら装着作業を行う一技術例が特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された部品装着機は、吸着ノズルにより取り出された部品を撮像して部品認識の良、不良を判断する。不良と判断された場合、作業者は、部品撮像画像に基づいて部品を廃棄するか否かの判断を行う。さらに、作業者は、廃棄しないと判断したときに部品ライブラリデータ(部材データ)を変更して、リトライ動作を行わせる。これによれば、基板の機種切り替え後の最初の装着動作で部品認識不良が発生した場合に、部品の廃棄を抑止できるとともに、生産運転の立ち上げを支援できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-186175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1は、部品認識時に画像処理エラーが発生した場合の事後対応技術であり、従来技術の問題点は必ずしも解消されない。つまり、事後対応技術では、生産運転の立ち上げが遅れるとともに、やはり作業者の手間がかかる。類似した問題点は、部品装着機以外の対基板作業機でも発生し得る。例えば、基板に印刷された位置基準マークがかすれて見え難くなっていると、多くの対基板作業機で基板の停止位置の認識エラーが発生し得る。
【0007】
本明細書では、対基板作業において、参照する部材データを自動で切り替えることにより、作業者の手間を軽減できる対基板作業機を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書は、回路基板の原材料となる部材の種類およびサプライヤに応じて、前記サプライヤごとに複数の部材データを予め登録するデータ登録部と、対基板作業において、複数の前記部材データを択一選択して参照しつつ、前記部材を用いた作業を実施し、または前記部材に対する作業を実施する作業実施部と、前記作業実施部の前記作業の実施状況に応じて、前記作業実施部が参照する前記部材データを自動で切り替えるデータ自動切り替え部と、を備え、前記データ登録部は、複数の前記部材データに優先順位を設定し、前記データ自動切り替え部は、前記優先順位に基づいて、前記作業実施部が参照する前記部材データを自動で切り替える、対基板作業機を開示する。
また、本明細書は、回路基板の原材料となる部材の種類およびサプライヤに応じて、前記サプライヤごとに複数の部材データを予め登録するデータ登録部と、対基板作業において、複数の前記部材データを択一選択して参照しつつ、前記部材を用いた作業を実施し、または前記部材に対する作業を実施する作業実施部と、前記作業実施部の前記作業の実施状況に応じて、前記作業実施部が参照する前記部材データを自動で切り替えるデータ自動切り替え部と、を備え、前記データ自動切り替え部は、前記部材データを自動で切り替えた情報を記録する履歴記録部を含む、対基板作業機を開示する。
さらに、本明細書は、回路基板の原材料となる部材の種類およびサプライヤに応じて、前記サプライヤごとに複数の部材データを予め登録するデータ登録部と、対基板作業において、複数の前記部材データを択一選択して参照しつつ、前記部材を用いた作業を実施し、または前記部材に対する作業を実施する作業実施部と、前記作業実施部の前記作業の実施状況に応じて、前記作業実施部が参照する前記部材データを自動で切り替えるデータ自動切り替え部と、を備え、前記データ自動切り替え部は、前記部材データを自動で切り替えた情報を履歴データベースに伝送する、対基板作業機を開示する。
【発明の効果】
【0009】
本明細書で開示する対基板作業機によれば、部材のサプライヤごとに複数の部材データを予め登録しておくので、作業実施部の作業の実施状況が変化したときに、部材データを自動で切り替えることができる。このため、従来の事後対応技術と異なり、作業者は、部材データを手動で切り替える必要がない。したがって、対基板作業において、作業者の手間が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の対基板作業機となる部品装着機の主要部の構造を示す斜視図である。
図2】部品装着機の制御の構成を示すブロック図である。
図3】部材データの登録項目の例を示した図である。
図4】部品装着機の制御部が主になって行う制御フローを示したフローチャートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施形態の対基板作業機(部品装着機1)の構造
実施形態の対基板作業機について、部品装着機1を一例とし、図1図4を参考にして説明する。図1は、実施形態の対基板作業機となる部品装着機1の主要部の構造を示す斜視図である。図1の左上から右下に向かう方向が基板Kを搬送するX軸方向であり、右上から左下に向かう方向が部品装着機1の前後方向となるY軸方向である。基板Kは、回路基板の元になる原基板、または、一部の対基板作業が終了していない生産途中の基板を意味する。部品装着機1は、基板搬送装置2、部品供給装置3、部品移載装置4、部品カメラ5、制御部6(図2参照)、および機台9などで構成されている。
【0012】
基板搬送装置2は、第1ガイドレール21および第2ガイドレール22、一対のコンベアベルト、ならびにクランプ装置などで構成される。第1ガイドレール21および第2ガイドレール22は、機台9の上部中央を横断してX軸方向に延在し、かつ互いに平行するように機台9に組み付けられる。第1ガイドレール21および第2ガイドレール22の直下に、互いに平行に配置された一対のコンベアベルトが並設される。一対のコンベアベルトは、コンベア搬送面に基板Kを戴置した状態で輪転して、基板Kを機台9の中央部に設定された装着実施位置に搬入および搬出する。また、機台9の中央部のコンベアベルトの下方にクランプ装置が設けられる。クランプ装置は、基板Kを複数の押し上げピンで押し上げて水平姿勢でクランプし、装着実施位置に位置決めする。
【0013】
部品供給装置3は、部品装着機1の前側に設けられている。部品供給装置3は、着脱可能な多数のカセット式フィーダ31により構成される。カセット式フィーダ31は、本体32と、本体32の前側に設けられた供給リール33と、本体32の後端上部に設けられた部品取り出し部34とを備える。供給リール33には、多数の部品が所定ピッチで封入されたキャリアテープが巻回保持される。このキャリアテープは、図略のテープ送り機構により所定ピッチで送り出される。これにより、部品は、封入状態を解除されて部品取り出し部34に順次送り込まれる。
【0014】
部品移載装置4は、一対のY軸レール41、Y軸移動台42、Y軸モータ43、X軸移動台44、X軸モータ45、装着ヘッド46、ロータリツール47、およびZ軸モータ48などで構成される。一対のY軸レール41は、機台9の後部から前部の部品供給装置3の上方にかけて配設される。Y軸移動台42は、一対のY軸レール41に装荷されている。Y軸移動台42は、Y軸モータ43からボールねじ機構を介して駆動され、Y軸方向に移動する。X軸移動台44は、Y軸移動台42に装荷されている。X軸移動台44は、X軸モータ45からボールねじ機構を介して駆動され、X軸方向に移動する。
【0015】
装着ヘッド46は、X軸移動台44の前側に配設されている。装着ヘッド46は、ロータリツール47を下側に有する。図1には省略されているが、ロータリツール47の下側に、吸着ノズルの複数本が環状に配置されている。複数本の吸着ノズルは、ロータリツール47の下側で回転されて、1本が選択される。選択された吸着ノズルは、Z軸モータ48に駆動されて昇降し、部品の吸着および基板Kへの装着を行う。これに限定されず装着ヘッド46は、部品を挟持する挟持式装着具を有してもよい。
【0016】
部品カメラ5は、基板搬送装置2と部品供給装置3との間の機台9の上面に、上向きに設けられている。部品カメラ5は、複数本の吸着ノズルが部品取り出し部34で部品を吸着して基板Kに移動する途中の状態を撮影する。これにより、部品カメラ5は、複数本の吸着ノズルにそれぞれ保持された部品を一括して撮像できる。取得された撮像データは画像処理されて、部品の吸着状態が確認される。部品の吸着位置や回転角のずれ、リードの曲がりなどが確認されると、必要に応じて装着動作が微調整される。また、装着が困難な部品は、廃棄される。
【0017】
2.部品装着機1の制御の構成および部材データ
図2は、部品装着機1の制御の構成を示すブロック図である。制御部6は、作業実施部に該当する基板搬送装置2、部品供給装置3、部品移載装置4、および部品カメラ5を制御する。制御部6は、CPUを有してソフトウェアで動作するコンピュータ装置を用いて構成される。図2に示されるように、制御部6は、データ登録部61およびデータ自動切り替え部62を含む。さらに、データ自動切り替え部62は、履歴記録部63および下流伝送部64を含む。
【0018】
データ登録部61は、回路基板の原材料となる部材の種類および形質に応じて、形質ごとに複数の部材データを予め部材データベース71に登録する。図3は、部材データの登録項目の例を示した図である。図3に示される例で、部材データの登録項目は、登録番号、部材の種類および形質、形状データ、取り扱いデータ、および供給形態データを含む。
【0019】
部材の種類は、基板K、部品、ペースト状半田などの別を表す。部材の形質は、例えば、基板Kの大きさの違い、プリント配線のパターンの違い、ロットの違い、サプライヤの違いなどを表す。なお、同一の基板Kでも、表側の面と、裏側の面とを異なる形質として扱うことがある。また、部材の形質は、例えば、部品の大きさの違い、抵抗、コンデンサ、ICなどの違い、ロットの違い、サプライヤの違いなどを表す。さらに、同じ大きさの2個の抵抗部品であっても、電気特性値としての抵抗値が互いに異なれば、異なる形質として扱われる。部材の種類および形質に応じて、それぞれ登録番号が割り当てられる。登録番号は、部材データベース71にアクセスして部材データを読み取る際に必要となる。
【0020】
形状データは、部材の外観寸法の標準値や、外観寸法の許容誤差、部材の外観色または外観輝度などのデータである。例えば、基板Kの形状データは、基板Kの長さ寸法、幅寸法、および厚さ寸法、ならびにこれら3つの寸法の許容誤差を含む。また、基板Kの形状データは、基板Kの地色の外観色または外観輝度を数値化した情報を含む。さらに、基板Kの形状データは、基板Kに付設された位置基準マークの形状および位置に関する情報を含む。
【0021】
部品の形状データは、部品の縦方向、横方向、および高さ方向の寸法、ならびにこれら3つの寸法の許容誤差を含む。また、部品の形状データは、外観色または外観輝度を数値化した情報を含む。部品の外観色または外観輝度は、部品カメラ5で部品を撮像して部品の輪郭を検出する際に参照される。さらに、部品の形状データは、電気接続用のリードや電極の形状および位置に関する情報を含む。
【0022】
取り扱いデータは、部材の形質ごとに登録される取り扱い条件のデータである。例えば、基板Kの取り扱いデータは、基板搬送装置2で搬送されるときの搬送速度や、クランプ装置の複数の押し上げピンの配置の情報を含む。また例えば、部品の取り扱いデータは、Y軸移動台42およびX軸移動台44の移動によって搬送されるときの搬送速度や、ロータリツール47および吸着ノズルの回転速度、吸着ノズルの昇降速度を含む。さらに、部品の取り扱いデータは、部品カメラ5によって撮像されるときの撮像時速度を含む。つまり、吸着ノズルおよび部品は、部品カメラ5によって撮像されるときに、登録された撮像時速度以下の速度で移動していてもよい。
【0023】
供給形態データは、部材が供給されるときの供給形態を表すデータである。例えば、部品の供給形態として、リールに巻回されたキャリアテープ、あるいは、二次元格子状のキャビティを有するトレイ等が登録される。さらに、1テープ当たり、または1トレイ当たりの部品点数の情報も、供給形態データに含まれる。
【0024】
データ登録部61は、詳細には、或る部材の一部の登録項目を対象として、複数の部材データを部材データベース71に登録する。部材データベース71は、部品装着機1と別体の外部記憶装置に設けられており、制御部6からのアクセスが可能となっている。本実施形態において、複数の部材データは、形状データの中の許容誤差に係る登録項目とされている。すなわち、許容誤差として、超高精度データEr1、高精度データEr2、および普通精度データEr3が多重に登録される。
【0025】
超高精度データEr1は、許容誤差が最も小さく、基板Kに部品を装着する装着作業において実施精度が最も高くなる第1部材データである。高精度データEr2は、許容誤差が2番目に小さく、装着作業において実施精度が2番目に高くなる第2部材データである。普通精度データEr3は、許容誤差が3番目に小さく、装着作業において実施精度が普通となる第3部材データである。普通精度データEr3を用いた精度管理を行っても、回路基板は、所定の性能を具備できる。なお、回路基板の性能を保証できる範囲内で、さらに許容誤差が大きな第4以降の部材データが登録されてもよい。
【0026】
反面、超高精度データEr1を用いた精度管理では、正常な作業を実施できなかったと判定されるエラーが最も生じやすい。高精度データEr2を用いた精度管理では、エラーが2番目に生じやすく、普通精度データEr3を用いた精度管理では、エラーが生じにくい。本実施形態では、装着作業の一部分となる作業であって、部品カメラ5の撮像による部品の吸着状態の確認作業(以下、単に「確認作業」と略称する)のエラーを例にして、以降で説明する。
【0027】
データ登録部61は、部品カメラ5の確認作業の実施精度を高くすることを目標として、複数の部材データに優先順位を設定する。すなわち、データ登録部61は、超高精度データEr1(第1部材データ)に第1優先順位を設定する。また、データ登録部61は、高精度データEr2(第2部材データ)に第2優先順位を設定し、普通精度データEr3(第3部材データ)に第3優先順位を設定する。
【0028】
データ自動切り替え部62は、作業実施部の作業の実施状況に応じて、作業実施部が参照する第1~第3部材データを自動で切り替える。作業実施部は、データ自動切り替え部62の切り替え制御にしたがい、複数の部材データを択一選択して参照しつつ、部材を用いた作業を実施し、または部材に対する作業を実施する。
【0029】
換言すると、データ自動切り替え部62は、部品カメラ5の確認作業の実施状況に応じて、超高精度データEr1、高精度データEr2、および普通精度データEr3を自動で切り替える。部品カメラ5は、データ自動切り替え部62の切り替え制御にしたがい、超高精度データEr1、高精度データEr2、および普通精度データEr3のひとつを選択して参照しつつ、確認作業を実施する。ここでは、超高精度データ、高精度データ、普通精度データで切り替えるようにしたが、サプライヤやロット毎に切り替えるデータを準備することもできる。
【0030】
具体的には、データ自動切り替え部62は、最も高い実施精度に対応する第1優先順位が設定された超高精度データEr1を始めに用いる。そして、部品カメラ5の確認作業でエラーが発生した場合に、データ自動切り替え部62は、第2優先順位が設定された高精度データEr2に自動で切り替えて、部品カメラ5に確認作業を再度実施させる。さらに、高精度データEr2を用いてもエラーが発生した場合に、データ自動切り替え部62は、第3優先順位が設定された普通精度データEr3に自動で切り替えて、部品カメラ5に確認作業を再度実施させる、
【0031】
また、履歴記録部63は、部材データを自動で切り替えた情報を、履歴データベース72に記録する。履歴データベース72は、制御部6に付属された内部記憶装置、および外部記憶装置のどちらに設けられてもよい。下流伝送部64は、部材データを自動で切り替えた情報を下流側の別の対基板作業機73に伝送する。データ登録部61、データ自動切り替え部62、履歴記録部63、および下流伝送部64の機能ついては、後の動作および作用の説明でも触れる。
【0032】
3.部品装着機1の動作および作用
次に、部品装着機1の動作および作用について、制御部6が主になって行う制御フローを参照しながら説明する。図4は、部品装着機1の制御部6が主になって行う制御フローを示したフローチャートの図である。図1のステップS1で、制御部6のデータ登録部61は、回路基板の原材料となる部材を対象として、部材データを部材データベース71に登録する。さらに、データ登録部61は、複数の部材データとして、3段階の許容誤差をそれぞれ表す超高精度データEr1、高精度データEr2、および普通精度データEr3を多重に登録する。また、データ登録部61は、多重に登録した部材データについて、前述した第1~第3優先順位を設定する。なお、データ登録部61の登録および設定の動作は、作業者の入力操作等を伴っていてもよい。また、使用実績が有る部材については、部材データが既に部材データベース71に登録済みであるので、再度の登録は不要である。
【0033】
次のステップS2で、部品装着機1は、部品の装着作業を開始する。ステップS3で、データ自動切り替え部62は、第1優先順位が設定された超高精度データEr1を始めに設定して、精度管理に用いる。ステップS4で、部品装着機1は、部品の装着作業を実施する。装着作業の途中で、部品カメラ5の確認作業が行われる。そして、ステップS5で、データ自動切り替え部62は、部品カメラ5の確認作業が良好に行われたか否かを判定する。
【0034】
多くの場合に確認作業は良好に行われ、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS6に進める。ステップS6で、データ自動切り替え部62は、確認作業の前に部材データが切り替えられたか否かを判定する。多くの場合に部材データは切り替えられておらず、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS9に進める。ステップS9で、データ自動切り替え部62は、次の部品に着目する。
【0035】
次のステップS10で、データ自動切り替え部62は、次の部品が新しいロットであるか否か判定する。例えば、部品供給装置3のカセット式フィーダ31または供給リール33が交換された場合に、データ自動切り替え部62は、次の部品が新しいロットであると判定できる。また、部品供給装置3がトレイを用いる構成の場合に、データ自動切り替え部62は、トレイの交換を以って新しいロットと判定できる。多くの場合に現在のロットが継続して用いられ、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS4に戻す。
【0036】
確認作業が良好で、かつ現在のロットが継続して用いられている間、データ自動切り替え部62は、ステップS4、ステップS5、ステップS6、ステップS9、およびステップS10からなるループの制御を繰り返す。ところが、ステップS5で、確認作業がエラーになる場合がある。換言すると、部品カメラ5の撮像によって取得された画像データに画像処理を施した結果、超高精度データEr1よりも大きな誤差が生じて部品の認識エラーと判定される場合がある。この場合、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS11に進める。
【0037】
ステップS11で、データ自動切り替え部62は、切り替える部材データの有無を判定する。例えば、始めに設定された超高精度データEr1を用いている場合、まだ高精度データEr2および普通精度データEr3が残っている。したがって、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS12に進め、超高精度データEr1を高精度データEr2に自動で切り替える。この後、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS4に戻す。
【0038】
戻ったステップS4で、データ自動切り替え部62は、精度管理に高精度データEr2を用いて、部品カメラ5に確認作業を再度実施させる。次のステップS5で確認作業が良好に行われると、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS6に進める。これにより、回路基板の性能を保証できる範囲内で精度管理を緩めて、装着作業を継続できる。ステップS6で、データ自動切り替え部62は、部材データが切り替えられたことを判定して、制御フローの実行をステップS7に進める。
【0039】
ステップS7で、データ自動切り替え部62の履歴記録部63は、超高精度データEr1から高精度データEr2に自動で切り替えた情報を、履歴データベース72に記録する。つまり、履歴記録部63は、切り替える前後の部材データ記録し、さらに、ロットの何番目の部品で切り替えが発生したかという情報を記録する。これにより、部品装着機1は、トレーサビリティ機能を備える。換言すると、何らかの問題点が発生したときに、部材データの自動切り替えに関する追跡調査が可能となっている。
【0040】
次のステップS8で、データ自動切り替え部62の下流伝送部64は、超高精度データEr1から高精度データEr2に自動で切り替えた情報を下流側の別の対基板作業機73に伝送する。これにより、下流側の対基板作業機73は、部品装着機1と同じ部材データを用いて、対基板作業を行うことができる。換言すると、複数の対基板作業機で用いる部材データが常に整合する。
【0041】
この後、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS9に進める。高精度データEr2を用いた確認作業が良好で、かつ現在のロットが継続して用いられている間、データ自動切り替え部62は、ステップS4、ステップS5、ステップS6、ステップS9、およびステップS10からなるループの制御を繰り返す。つまり、データ自動切り替え部62は、エラーを解消できた部材データを保持して次以降の部材に用いる。
【0042】
ステップS5で、確認作業が再度エラーになると、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行を再びステップS11に進める。再度のステップS11で、データ自動切り替え部62は、切り替える部材データの有無を判定する。例えば、高精度データEr2を用いている場合、まだ普通精度データEr3が残っている。したがって、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行を再びステップS12に進め、高精度データEr2を普通精度データEr3に自動で切り替える。この後、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS4に戻す。
【0043】
戻ったステップS4で、データ自動切り替え部62は、精度管理に普通精度データEr3を用いて、部品カメラ5に確認作業を再度実施させる。次のステップS5で確認作業が良好に行われると、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS6に進める。これにより、回路基板の性能を保証できる範囲内で精度管理をさらに緩めて、装着作業を継続できる。ステップS6で、データ自動切り替え部62は、部材データが切り替えられたことを判定して、制御フローの実行をステップS7に進める。
【0044】
ステップS7で、履歴記録部63が再度動作し、ステップS8で、下流伝送部64が再度動作する。この後、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS9に進め、ステップS4、ステップS5、ステップS6、ステップS9、およびステップS10からなるループの制御を繰り返す。
【0045】
ステップS5で、確認作業に3度目のエラーが発生すると、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行を3度目のステップS11に進める。3度目のステップS11で、既に切り替える部材データが無くなっており、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS13に進める。ステップS13で、制御部6は、異常時処理、例えば、作業者への通知を行って一時的に装着作業を中断する。この後、作業者の復旧操作が行われる。普通精度データEr3を用いた確認作業でエラーが発生することは稀であり、ステップS13の制御が行われる機会は多くない。
【0046】
また、ステップS4、ステップS5、ステップS6、ステップS9、およびステップS10からなるループの制御を繰り返していると、ステップS10で、新しいロットと判定される場合が生じる。この場合、データ自動切り替え部62は、制御フローの実行をステップS3に戻す。つまり、データ自動切り替え部62は、部材のロットが変更されたときに、第1部材データを用いる。これによれば、データ自動切り替え部62は、ロット変更前に高精度データEr2や普通精度データEr3を用いていても、新しいロットに対して超高精度データEr1を用いる。つまり、データ自動切り替え部62は、ロットの変更時に最も高い実施精度を目標として動作する。
【0047】
4.実施形態の一応用例
次に、実施形態の一応用例について説明する。一応用例でも、部品カメラ5の確認作業におけるエラーを考慮するが、自動で切り換える部材データの項目が異なる。図4のステップS1で、データ登録部61は、部品カメラ5で部品を撮像するときの撮像時速度の3段階を多重に登録する。具体的に、データ登録部61は、高速度データV1(第1部材データ)、低速度データV2(第2部材データ)、および一旦停止データV3(第3部材データ)を多重に登録する。
【0048】
高速度データV1は、吸着ノズルおよび部品が部品カメラ5の上方を高速度で通過することを許容する。低速度データV2は、吸着ノズルおよび部品が部品カメラ5の上方を低速度で通過することを許容する。一旦停止データV3は、吸着ノズルおよび部品が部品カメラ5の上空で一旦停止することを必要とする。反面、エラーの発生頻度は、高速度データV1で最も高く、低速度データV2、一旦停止データV3の順番で低くなる。
【0049】
データ登録部61は、確認作業の所要時間を短くすることを目標として、複数の部材データに優先順位を設定する。すなわち、データ登録部61は、高速度データV1に第1優先順位を設定し、低速度データV2に第2優先順位を設定し、一旦停止データV3に第3優先順位を設定する。
【0050】
撮像時速度を多重に登録した場合でも、データ自動切り替え部62は、許容誤差を多重に登録した場合と同様に、図4の制御フローに準じる制御を行う。すなわち、ステップS3で、データ自動切り替え部62は、第1優先順位が設定された高速度データV1を始めに設定する。また、ステップS5で確認作業がエラーになった場合のステップS12で、データ自動切り替え部62は、高速度データV1を低速度データV2に自動で切り替える。さらに、2度目のエラーが発生した場合の再度のステップS12で、データ自動切り替え部62は、低速度データV2を一旦停止データV3に自動で切り替える。
【0051】
また、ステップS7における履歴記録部63の動作、ステップS8における下流伝送部64の動作、およびステップS10おけるロット変更時の流れも、許容誤差を多重に登録した場合と同様であるので、説明は省略する。
【0052】
5.実施形態の対基板作業機(部品装着機1)の態様および効果
本実施形態の一態様によれば、部材のサプライヤごとに複数の部材データを予め登録しておくので、作業実施部の作業の実施状況が変化したときに、部材データを自動で切り替えることができる。このため、従来の事後対応技術と異なり、作業者は、部材データを手動で切り替える必要がない。したがって、対基板作業において、作業者の手間が軽減される。さらに、部材データを自動で切り替えるので、部品装着機1は部品の装着作業を継続でき、回路基板の生産効率が高く維持される。
【0053】
さらに、本実施形態の一態様によれば、複数の部材データを、好ましい順序で用いることができる。例えば、実施形態の一応用例において、確認作業の所要時間を短くすることを目標として、複数の撮像時速度に優先順位を設定している。これにより、確認作業の短時間化が実現される。
【0054】
さらに、本実施形態の一態様によれば、エラーが発生しない限り、最も高い実施精度が維持される。また、エラーが発生した場合には、回路基板の性能を保証できる範囲内で精度管理を緩めて、確認作業を再度実施できる。したがって、装着作業の中断が抑制され、回路基板の生産効率が高く維持される。
【0055】
さらに、本実施形態の一態様によれば、データ自動切り替え部62は、エラーを解消できた部材データを保持して次以降の部材に用いる。ここで、エラーの発生は、部材の若干の相違点に起因するものと想定され、若干の相違点は次以降の部材にも共通する場合が多い。したがって、エラーを解消できた部材データを続けて用いることにより、多くの場合に次のエラーを防止できる。また、意味の無い部材データの切り替えと作業の再実施とを繰り返す無駄が発生しない。
【0056】
さらに、本実施形態の一態様によれば、データ自動切り替え部62は、ロットの変更時に最も高い実施精度を目標として動作することができる。補足すると、ロット変更前に第2部材データや第3部材データを用いていても、新しいロットに対して第1部材データを用いてエラーが発生しない可能性が十分にある。
【0057】
また、本実施形態の一態様によれば、複数の対基板作業機で用いる部材データを、常に整合させることができる。
【0058】
また、本実施形態の一態様によれば、部品装着機1は、トレーサビリティ機能を備え、何らかの問題点が発生したときに、部材データの自動切り替えに関する追跡調査が可能となる。
【0059】
また、本実施形態の一態様によれば、部材の外観形状の若干の相違点に起因するエラーに対して、前述した各効果が得られる。
【0060】
また、本実施形態の一態様によれば、部材の取り扱い条件が関与するエラーに対して、前述した各効果が得られる。
【0061】
6.実施形態の応用および変形
なお、実施形態の対基板作業機は、部品装着機1に限定されない。例えば、基板外観検査機において、部品のサプライヤごとに複数の許容誤差を登録して自動で切り替えるように構成することができる。これにより、検査時の精度管理を可変に制御して、部品の認識エラーを抑制できる。また、複数の部材データは、部品の形状データの許容誤差や取り扱いデータの撮像時速度と異なる登録項目にすることもできる。例えば、基板の位置基準マークの形状に係る許容誤差を複数登録すれば、複数の対基板作業機で効果が生じる。また例えば、部品の外観色を複数登録すれば、部品装着機1における部品の確認作業や基板外観検査機における部品の検査作業で効果が生じる。実施形態の構成および動作は、その他にも様々な応用や変形が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1:部品装着機 2:基板搬送装置 3:部品供給装置 4:部品移載装置 5:部品カメラ 6:制御部 61:データ登録部 62:データ自動切り替え部 63:履歴記録部 64:下流伝送部 71:部材データベース 72:履歴データベース 73:別の対基板作業機 Er1:超高精度データ Er2:高精度データ Er3:普通精度データ
図1
図2
図3
図4