(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】ストラドルドビークル用駆動系異常判定装置、及びストラドルドビークル
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20220912BHJP
F02B 77/08 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
F02D45/00 362
F02D45/00 368Z
F02B77/08 M
(21)【出願番号】P 2021504853
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020006041
(87)【国際公開番号】W WO2020184071
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2019045537
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】特許業務法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】岩本 一輝
(72)【発明者】
【氏名】木下 久寿
(72)【発明者】
【氏名】河島 信行
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-312085(JP,A)
【文献】特開2008-037255(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208757(WO,A1)
【文献】特開2014-084840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02B 77/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両に搭載される鞍乗型車両用駆動系異常判定装置であって、
前記鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、
前記鞍乗型車両における駆動系内に含まれる回転体の回転に応じて角信号を周期的に出力する角信号出力器と、
前記角信号出力器の信号に基づいて、前記回転体の回転速度の変動に関する回転体回転速度変動物理量を取得する回転体回転速度変動物理量取得器と、
前記回転体回転速度変動物理量取得器で取得された前記回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定する悪路判定器と、
前記悪路条件が満たされている状態が継続しているか否かを判定する継続性判定器と、
前記悪路条件が満たされている状態が継続していると前記継続性判定器により判定された場合に、駆動系異常であると判定する駆動系異常判定器と
を備える。
【請求項2】
請求項1記載の鞍乗型車両用駆動系異常判定装置であって、
前記継続性判定器は、前記鞍乗型車両が悪路を走行する場合の上限設定速度よりも大きな速度で走行中に、前記悪路条件が満たされている状態が継続しているか否かを判定する。
【請求項3】
請求項1記載の鞍乗型車両用駆動系異常判定装置であって、
前記鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、
前記回転体回転速度変動物理量取得器で取得された前記回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた失火条件を満たしているか否かを判定する失火判定器を更に備え、
前記失火判定器は、駆動系異常判定器によって駆動系異常であると判定された場合に、前記予め定められた失火条件を変更する。
【請求項4】
請求項3記載の鞍乗型車両用駆動系異常判定装置であって、
前記鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、
前記駆動系異常判定器によって駆動系異常であると判定された場合に、駆動系異常を報知する報知装置に、報知させるための報知信号を送信する報知信号送信器を更に備える。
【請求項5】
鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、
請求項1から4記載の鞍乗型車両用駆動系異常判定装置と、
前記鞍乗型車両用駆動系異常判定装置による異常判定の対象となる駆動系を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両用駆動系異常判定装置、及び鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、鞍乗型車両に設けられた巻掛伝動体が有する要素の異常を検出する装置が示されている。巻掛伝動体は、エンジンからの駆動力を伝達する部材である。特許文献1の装置は、エンジンにより回転される回転体の回転速度に基づいて、エンジンの回転変動に含まれ、上記要素の循環周期で繰り返される周期的変動を検出する。特許文献1の装置は、例えば、変動する回転速度に対し自己相関関数を適用することによって、巻掛伝動体の異常を表す変動指標を演算する。例えば、自己相関関数に基づく回転変動指標が大きいと、巻掛伝動体が異常であると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2017/208757号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記自己相関関数が適用される演算では、時間の経過に伴い取得される回転速度をある期間前に得られた回転速度に対し演算処理を行うことが求められる。自己相関関数では、複数の期間を想定した複数の回転速度のデータの群に対し演算を行う。このため、演算処理は複雑であり、演算に長い時間がかかる。この課題は、巻掛伝動体に限られず、鞍乗型車両に搭載される駆動系の異常を、例えば自己相関関数を用いて判定する場合でも同じである。
【0005】
本発明の目的は、鞍乗型車両に設けられた駆動系の異常を簡潔な構成で判定することができる駆動系異常判定装置、及び鞍乗型車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、異常を簡潔な構成で判定するための検討を行った。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
【0007】
例えば、鞍乗型車両として、ビークルの悪路走行を検出する装置及びエンジンを搭載した鞍乗型車両が知られている。ビークルの悪路走行の状態の検出にエンジンの回転変動を用いることができる場合がある。
【0008】
しかしながら、エンジンの回転変動に基づく悪路走行の判定では、実際に悪路走行でない場合に悪路走行と検出される場合がある。本願発明者らは、エンジンの回転変動に基づく悪路走行の判定について更に詳細に検討した。その結果、エンジンの回転変動に基づき悪路走行と判定された結果の中に、実際には駆動系の異常に起因した誤判定が含まれていることが分かった。
【0009】
回転速度変動は、駆動系異常の影響も受ける。このため、例えば、回転体の回転速度変動に基づく物理量の分布状態又はパターンが、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定する場合、判定結果に、駆動系異常に起因した誤判定も含まれる場合がある。しかし、このことは、取得された物理量に基づいて予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定することによって、駆動系異常も判定することが可能であることを意味する。
【0010】
悪路条件は、鞍乗型車両が悪路を走行している場合に充足される条件である。つまり悪路条件が満たされているという判定は、悪路走行という一時的な現象の結果である。即ち、鞍乗型車両の走行路が例えば悪路から平坦路に変われば、悪路条件は解消する。
これに対し、駆動系の異常は、通常、駆動系の劣化に伴う不可逆的な現象である。駆動系の異常は、例えば部品の交換又は修理を行うまで解消しない。
従って、上記物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた悪路条件を満たしていると判定される場合、悪路条件が満たされている状態が継続しているか否かを判定することができる。そして、悪路条件が満たされている状態が継続しているか否かによって、悪路条件の成立が実際に悪路走行に起因するのか、駆動系の異常に起因するのかを更に判定することが可能である。つまり、回転速度変動に基づく物理量を利用している悪路走行の判定に対し、悪路条件成立の継続の判定を追加することによって駆動系の異常を判定することができる。悪路条件を満たしていることの判定、及び継続の判定のいずれも、例えば自己相関関数の演算といった処理と比べ、簡潔な構成で実現することができる。
【0011】
以上の目的を達成するために、本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、次の構成を備える。
【0012】
(1) 鞍乗型車両に搭載される鞍乗型車両用駆動系異常判定装置であって、
前記鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、
前記鞍乗型車両における駆動系内に含まれる回転体の回転に応じて角信号を周期的に出力する角信号出力器と、
前記角信号出力器の信号に基づいて、前記回転体の回転速度の変動に関する回転体回転速度変動物理量を取得する回転体回転速度変動物理量取得器と、
前記回転体回転速度変動物理量取得器で取得された前記回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定する悪路判定器と、
前記悪路条件が満たされている状態が継続しているか否かを判定する継続性判定器と、
前記悪路条件が満たされている状態が継続していると前記継続性判定器により判定された場合に、駆動系異常であると判定する駆動系異常判定器と
を備える。
【0013】
上記構成によれば、鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、鞍乗型車両に搭載される。鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、角信号出力器と、回転体回転速度変動物理量取得器と、悪路判定器と、継続性判定器と、駆動系異常判定器とを備える。
角信号出力器は、鞍乗型車両における駆動系内に含まれる回転体の回転に応じて角信号を周期的に出力する。回転体回転速度変動物理量取得器は、角信号出力器の信号に基づいて、回転体の回転速度の変動に関する回転体回転速度変動物理量を取得する。悪路判定器は、取得された回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定する。継続性判定器は、悪路条件が満たされている状態が継続しているか否かを判定する。継続性判定器が継続を判定する結果は、悪路条件が満たされているという悪路判定器の判定結果であってもよい。駆動系異常判定器は、悪路条件が満たされている状態が継続していると継続性判定器により判定された場合に、駆動系異常であると判定する。
【0014】
駆動系の異常は、回転体の回転速度の変動として現われる。このため、取得された回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定する場合、この判定結果に、駆動系の異常が含まれるようにすることができる。つまり、駆動系の異常は、取得された回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定することによって判定することが可能である。
ここで、悪路条件は、鞍乗型車両が悪路を走行している期間充足される。つまり悪路条件が満たされているという判定結果は、悪路走行という一時的な現象による。これに対し、駆動系の異常は不可逆的な現象である。
従って、回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた悪路条件を満たしていると判定される場合、悪路条件の成立が継続しているか否かを判定することができる。そして、悪路条件の成立が継続しているか否かによって、悪路条件の成立が実際に悪路走行に起因するのか、駆動系の異常に起因するのかを更に判定することが可能である。つまり、回転体の回転速度変動を利用する悪路走行の判定に対し、悪路条件成立の継続の判定を追加することによって、駆動系異常を判定することができる。悪路条件を満たしていることの判定、及び継続の判定のいずれも、例えば自己相関関数の演算といった処理と比べ、簡潔な構成で実現することができる。
従って、鞍乗型車両に設けられた駆動系の異常を簡潔な構成で判定することができる。
【0015】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、以下の構成を採用できる。
【0016】
(2) (1)の鞍乗型車両用駆動系異常判定装置であって、
前記継続性判定器は、前記鞍乗型車両が悪路を走行する場合の上限設定速度よりも大きな速度で走行中に、前記悪路条件が満たされている状態が継続しているか否かを判定する。
【0017】
悪路は、通常、鞍乗型車両が高速で走行するような路面状況ではない。また、鞍乗型車両の走行速度が大きいほど、回転体回転速度変動物理量の分布状態に対する駆動系の影響が大きい。悪路を走行する場合の上限設定速度よりも大きな速度で走行中に悪路条件の充足が継続するか否かを判定することにより、駆動系の異常をより精密に判定することができる。
【0018】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、以下の構成を採用できる。
【0019】
(3) (1)の鞍乗型車両用駆動系異常判定装置であって、
前記鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、
前記回転体回転速度変動物理量取得器で取得された前記回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた失火条件を満たしているか否かを判定する失火判定器を更に備え、
前記失火判定器は、駆動系異常判定器によって駆動系異常であると判定された場合に、前記予め定められた失火条件を変更する。
【0020】
回転体回転速度変動物理量に駆動系異常の影響が含まれると、失火判定器において誤判定が生じる場合がある。例えば、実際に失火が生じても、回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが予め定められた失火条件を満たさないと判定される場合がある。上記構成によれば、駆動系の異常に応じて、予め定められた失火条件が変更される。このため、駆動系の異常に対し、失火条件を満たしているか否かの判定におけるロバスト性を簡潔な構成で向上することができる。
【0021】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、以下の構成を採用できる。
【0022】
(4) (3)の鞍乗型車両用駆動系異常判定装置であって、
前記鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、
前記駆動系異常判定器によって駆動系異常であると判定された場合に、駆動系異常を報知する報知装置に、報知させるための報知信号を送信する報知信号送信器を更に備える。
【0023】
上記構成によれば、駆動系異常が報知されるので、駆動系の部品の交換又は修理が促進される。従って、失火条件を満たしているか否かの判定について長期的に見たロバスト性を簡潔な構成で向上することができる。
【0024】
(5) 鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、
(1)~(4)の鞍乗型車両用駆動系異常判定装置と、
前記鞍乗型車両用駆動系異常判定装置による異常判定の対象となる駆動系を備える。
【0025】
上記構成によれば、駆動系の異常を簡潔な構成で判定することができる。
【0026】
本明細書にて使用される専門用語は特定の実施例のみを定義する目的であって発明を制限する意図を有しない。
本明細書にて使用される用語「および/または」はひとつの、または複数の関連した列挙された構成物のあらゆるまたはすべての組み合わせを含む。
本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」およびその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分および/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」および/またはそれらの等価物は広く使用され、直接的および間接的な取り付け、接続および結合の両方を包含する。更に、「接続された」および「結合された」は、物理的または機械的な接続または結合に限定されず、直接的または間接的な電気的接続または結合を含むことができる。
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
本発明の説明においては、複数の技術および工程が開示されていると理解される。
これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。
従って、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせをすべて繰り返すことを控える。
それにもかかわらず、明細書および特許請求の範囲は、そのような組み合わせがすべて本発明および請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
本明細書では、新しいビークルについて説明する。
以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。
しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。
本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0027】
鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、例えば、後述するようなエンジン制御ユニット(ECU)であってもよく、ECUとは別に車両に設けられる駆動系異常判定装置であってもよい。鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、例えば、少なくとも内燃機関と通信可能である。鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、例えば、内燃機関が備えるセンサ等から出力される信号を受信し、内燃機関が備える各種機器・装置等へ制御信号を送信可能であるように構成されている。鞍乗型車両用駆動系異常判定装置は、更に、例えば、鞍乗型車両が備えるセンサ等から出力される信号を受信し、鞍乗型車両が備える各種機器・装置等へ制御信号を送信可能であるように構成されてもよい。
【0028】
回転体回転速度変動物理量取得器、悪路判定器、継続性判定器、及び駆動系異常判定器は、例えばプログラムを実行するコンピュータ100によって実現される。ただし、回転体回転速度変動物理量取得器、悪路判定器、継続性判定器、及び駆動系異常判定器は、これに限られず、例えば、集積回路上のハードウェアロジックとして形成されてもよい。また更に、上記ブロックの一部を構成する集積回路が他の集積回路と独立して形成されてもよい。
【0029】
鞍乗型車両とは、運転者がサドルに跨って着座する形式の車両をいう。鞍乗型車両としては、例えば、自動二輪車、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)が挙げられる。
【0030】
回転体は、例えばクランク軸である。但し回転体はこれに限られず、変速機のギア、チェーンが巻き掛けられたスプロケット、又は車輪であってもよい。
【0031】
エンジンは、3気筒エンジンである。ただし、エンジンの種類としては、単気筒エンジンまたは2気筒エンジンも採用可能であり、また、4以上の気筒を有するエンジンも採用可能である。
【0032】
駆動系は、鞍乗型車両を駆動する。駆動系は、例えば、クラッチ、変速装置、駆動力の伝達装置を含む。駆動力の伝達装置は、例えば、チェーン、スプロケット、ベルト、プーリ、又はこれらの組合せである。駆動系は、例えば車輪を含む。但し駆動系はこれに限られず、車輪を含まなくともよい。この場合、駆動系は、車輪を駆動する。
【0033】
角信号出力器は、特に限定されず、従来公知の機器が採用され得る。クランク角信号出力器としては、例えば、レゾルバ、ホールIC、電磁誘導型センサ等が挙げられる。
【0034】
回転速度変動物理量は、回転速度の変動を表す。回転速度変動物理量は、例えば燃焼サイクル以下の期間における平均の回転速度に基づいて取得されてもよい。また、回転速度変動物理量は、例えばある回転角度での回転速度に基づいて取得されてもよい。回転速度変動物理量は、例えば、加加速度を表す量である。但し、回転速度変動物理量は、例えば、加速度を表す量であってもよい。また、回転速度変動物理量は、例えば、回転速度を表す量であってもよい。この場合、複数の回転速度によって、回転速度の変動が表される。
物理量としては、例えば、速度、加速度、加加速度、又は、速度、加速度、或いは加加速度の逆数である時間が挙げられる。また、物理量は、例えば、振幅・周波数・位相のいずれであってもよい。
【0035】
悪路判定器は、回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態が、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定する。悪路判定器は、回転体回転速度変動物理量に基づくパターンが、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定してもよい。パターンは、ある期間における物理量の変動の型である。
悪路条件は、例えば悪路走行状態で、回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態が充足する条件である。悪路条件は、例えば、回転体回転速度変動物理量の分布において、悪路判定領域に含まれる回転体回転速度変動物理量の頻度に基づいて判定される。悪路判定領域は、回転体回転速度変動物理量の分布において、平坦路を走行中の失火時における分布と、平坦路を走行中の正常時(非失火時)における分布との間に設けられた領域である。悪路判定器は、例えば、悪路走行状態でなく駆動系異常の場合にも、回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態が悪路条件を満たすと判定する。
但し、悪路判定器等による悪路条件の判定は、これに限られず、例えば次に挙げる判定も含む。
(a)日本の特開平5-10199号公報に示すような、変動物理量の変化パターンを用いる悪路の判定。
(b)日本の特開2004-124795号公報に示すような、失火周波数に合わせた特性のフィルタと、失火周波数とは異なる特性のフィルタとにより、変動物理量の特定周期のパターンのフィルタリング結果を用いる悪路の判定。
(c)日本の特開平5-296101号公報に示すような、変動物理量の標準偏差を取得し、正規分布の場合との比較結果に基づく悪路の判定。
【0036】
継続性判定器では、悪路条件が満たされている状態であるか否かについては、悪路判定器による判定結果が用いられ得る。即ち、継続性判定器は、悪路条件が満たされているという悪路判定器による判定結果が継続しているか否かを判定するように構成されていてもよい。また、継続性判定器は、悪路判定器による判定処理とは別に、悪路条件が満たされている状態が継続しているか否かに係る判定処理を実行するように構成されていてもよい。
【0037】
継続性判定器により悪路条件の成立が継続するか否かが判定される対象となる期間(継続性判定期間)は、悪路判定器により悪路条件を満たすか否かが判定される対象となる期間(悪路条件判定期間)より長い。悪路条件判定期間では、回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが悪路条件を満たすか否かが判定される。この時、例えば、当該分布状態又はパターンが所定期間又は所定回数にわたって満たされた場合に、悪路を走行していると判定される、というように、当該分布又はパターンの継続性が評価されてもよい。この場合、当該分布又はパターンの継続性は、悪路条件判定期間における悪路条件の成否判定のために評価されており、継続性判定期間における継続性の判定とは異なる。
【0038】
例えば、悪路判定器は、悪路条件を満たすか否かが判定される対象となる悪路条件判定期間ごとに、回転体回転速度変動物理量に基づく分布状態又はパターンが、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定する。そして、継続性判定器は、複数の悪路条件判定期間に亘り継続して悪路判定器により悪路条件を満たしていると判定された場合、駆動系異常であると判定する。ただし、継続性判定器はこれに限られず、悪路条件を満たしている判定の継続の単位は悪路条件判定期間と異なってもよい。ただし、悪路条件判定期間が採用されると、判定のための構成がより単純になる。
継続性判定期間として、例えば、鞍乗型車両で想定される1日の最大走行期間が設定される。即ち、継続性判定器は、例えば、鞍乗型車両の走行中で悪路条件を満たす状態の継続期間が、鞍乗型車両で想定される1日の最大走行期間より長い場合に、悪路条件が満たされている状態が継続していると判定する。1日の最大走行期間として想定される期間は、例えば500km走行相当である。但し、継続性判定器は、判定の基準となる期間として、想定される1日の最大走行期間よりもさらに長い期間を設定することも可能である。この場合、悪路条件が満たされている状態が継続していると判定される条件が、より限定される。例えば、継続性判定器は、鞍乗型車両の走行中で悪路条件を満たす状態の継続期間が大陸横断で想定される走行期間より長い場合に、悪路条件が満たされている状態が継続していると判定することも可能である。鞍乗型車両が平坦路無しの大陸横断で想定される走行期間は、例えば5000km走行相当である。継続期間は、例えば、エンジンの累計回転数として計数される。但し、継続期間は、例えば累計走行時間として計数されてもよい。また、継続期間は、例えば鞍乗型車両の走行距離として計数されてもよい。
悪路条件の成立が継続することは、走行中に悪路条件の不成立が検出されない状態が実質的に継続することである。
【0039】
継続性判定期間においては、悪路条件の成立が継続又は実質的に継続することにより、悪路条件が継続していると判定される。悪路条件の成立が実質的に継続するとは、瞬時的又は一時的に悪路条件が満たされない期間が生じることが許容されることをいう。即ち、走行環境等の変化が回転体回転速度変動物理量に影響を及ぼし、その結果、瞬時的又は一時的に悪路条件が満たされなくても、継続性判定期間における残りの期間において悪路条件の成立が継続している場合には、悪路条件の成立が継続していると判定されてもよい。
【0040】
報知信号送信器は、例えば、駆動系異常であると判定される都度、報知信号を送信する。但し、報知信号送信器はこれに限られず、例えば、駆動系異常あると判定されると判定の結果を記憶しておき、記憶された判定結果が所定の条件を満たした場合に、報知信号を送信してもよい。例えば、報知装置が駆動系異常判定装置と任意のタイミングで通信可能に接続される診断装置でもよい。この場合、報知信号送信部は、報知装置が駆動系異常判定装置と接続された時に信号を出力してもよい。
報知装置は、例えば、ランプである。但し、報知装置は、画像表示装置、又は音発生装置であってもよい。報知装置は、駆動系異常の表示と失火の表示と悪路走行の表示とを行うものであってもよい。また、報知装置は、例えば、鞍乗型車両の点検・修理時に駆動系異常判定装置に接続される診断装置でもよい。この場合、報知装置は、駆動系異常判定装置に常時接続されていなくともよい。例えば、報知信号送信部は、鞍乗型車両の運転時、失火判定部による判定の結果を表す情報をメモリに記憶しておく。報知信号送信部は、報知装置としての診断装置が駆動系異常判定装置接続された時に、メモリに記憶された情報を出力する。その結果、報知装置としての診断装置が失火判定部による判定の結果を表示する。また、報知装置は、例えば判定結果の履歴を表示してもよい。
【0041】
上限設定速度は、運転者が悪路を通常に走行する場合に想定される上限の速度である。但し、上限設定速度には、鞍乗型車両の種類に応じ異なる速度が設定されてよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、鞍乗型車両に設けられた駆動系の異常を簡潔な構成で判定することができる駆動系異常判定装置、及び鞍乗型車両が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る駆動系異常判定装置の概略を説明する図である。
【
図2】
図1に示す駆動系異常判定装置を備えた鞍乗型車両を示す外観図である。
【
図3】
図1に示す駆動系異常判定装置及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
【
図4】クランク軸の回転速度の例を示すチャートである。
【
図5】回転速度変動物理量の分布を説明する図である。
【
図6】
図1に示す駆動系異常判定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】駆動系異常判定装置の動作の例を説明するタイムチャートである。
【
図8】本発明の第二実施形態に係る駆動系異常判定装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0045】
図1は、本発明の第一実施形態に係る駆動系異常判定装置の概略を説明する図である。
図1のパート(a)は、駆動系異常判定装置を示すブロック図である。
図1のパート(a)には、駆動系異常判定装置の周辺の装置も示されている。
図1のパート(b)は、駆動系の異常判定に用いる回転速度変動物理量の分布を示すチャートである。
図1のパート(c)は、動作の概要を説明するタイムチャートである。
【0046】
鞍乗型車両用駆動系異常判定装置10(以下、単に駆動系異常判定装置10とも称する)は、例えば鞍乗型車両50(
図2参照)に搭載される。
鞍乗型車両50は、エンジン20、及び、駆動系59を備えている。駆動系異常判定装置10は、鞍乗型車両50に備えられた駆動系の異常を判定する。駆動系59は、エンジン20の動力を伝達することによって鞍乗型車両50を駆動する。エンジン20には、クランク軸21が設けられている。エンジン20の動力は、クランク軸21から出力される。クランク軸21は、エンジン20を構成する部品である。また、クランク軸21は、動力を伝達する駆動系59の一部として機能する。クランク軸21は回転体の一例である。
【0047】
駆動系異常判定装置10は、エンジン20の失火を検出する失火検出装置として機能する。本明細書では、駆動系異常判定装置10を、失火検出装置とも称する。また、駆動系異常判定装置10は、鞍乗型車両50が悪路を走行しているか否かを検出する悪路検出装置として機能する。また、駆動系異常判定装置10は、エンジン20の制御を行う。
【0048】
駆動系異常判定装置10は、角信号出力器105と、変動物理量取得部11と、悪路判定部12と、継続性判定部13と、駆動系異常判定部14とを備える。また、駆動系異常判定装置10は、失火判定部15と、報知信号送信部16と、燃焼制御部17とを備える。
【0049】
変動物理量取得部11と、悪路判定部12と、継続性判定部13と、駆動系異常判定部14と、失火判定部15と、報知信号送信部16と、燃焼制御部17とは、コンピュータの機能として実現されている。変動物理量取得部11は、回転体回転速度変動物理量取得器の一例である。また、悪路判定部12は、悪路判定器の一例である。継続性判定部13は、継続性判定器の一例である。駆動系異常判定部14は、駆動系異常判定器の一例である。報知信号送信部16は、報知信号送信器の一例である。
【0050】
角信号出力器105は、エンジン20に設けられたクランク軸21の回転に応じて角信号を周期的に出力する。角信号出力器105は、クランク軸21が所定の検出角度回転する毎に角信号を出力する。
【0051】
変動物理量取得部11は、角信号出力器105の信号に基づいて、クランク軸21の回転速度の変動に関する回転速度変動物理量を取得する。
より詳細には、変動物理量取得部11は、クランク軸21の回転速度を取得する。変動物理量取得部11は、回転速度を用いて回転速度変動物理量を取得する。
【0052】
回転速度変動物理量の分布を示す
図1のパート(b)における実線は、平坦路の走行中に失火が生じる状態における回転速度変動物理量の分布を示す。平坦路の走行中に失火が生じる場合における回転速度変動物理量の分布は、平坦路の走行中に失火が生じない時(正常時)の回転速度変動物理量の分布E0と、失火が生じる時(失火時)の回転速度の分布M0を有している。
例えば
図5に示す回転速度変動物理量の分布では、分布E0の裾(tail)と、分布M0の裾との間に間隔がある。分布E0の裾(tail)と、分布M0の裾との間に悪路判定領域ARが設定される。
【0053】
失火判定部15は、回転速度変動物理量が所定の失火判定範囲内にある場合、失火時と判断する。より詳細には、失火判定部15は、変動物理量取得部11で取得された回転速度変動物理量が失火判定値よりも大きい場合、失火が発生したと判断する。失火判定値は、悪路判定領域ARの上限基準TUである。
【0054】
図1のパート(b)における破線は、悪路における正常時の回転速度変動物理量の分布E1と、失火時の回転速度の分布M1を示している。悪路における正常時の分布E1は、平坦路における正常時の分布E0と比べてより広い裾を有する。また、悪路における失火時の分布M1は、平坦路における失火時の分布M0と比べて、より広い裾を有する。つまり、分布E1,M1は、分布E0,M0よりもそれぞれ拡散している。
【0055】
悪路判定部12は、回転速度変動物理量の分布を用いて悪路を判定する。悪路判定部12は、変動物理量取得部11で取得された回転速度変動物理量に基づく分布状態が、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定する。より詳細には、悪路判定部12は、悪路判定領域ARに含まれる回転速度変動物理量の頻度が所定の悪路基準よりも多い場合、悪路と判定する。
【0056】
駆動系59に異常が生じている場合、平坦路の走行中であっても、回転速度変動物理量の分布は、
図1のパート(b)における破線で示す悪路の場合の分布E1,M1のように変化する。
このため、悪路判定部12による悪路の判定結果には、実際に悪路に起因する判定と、駆動系59の異常に起因する判定が混在している。
【0057】
継続性判定部13は、悪路判定部12で悪路条件が満たされているという判定結果が継続しているか否かを判定する。継続性判定部13は、より詳細には、悪路判定部12が、異常確定基準より長い期間連続して悪路条件の充足を判定しているか否かを判定する。異常確定基準は、例えば、少なくとも、鞍乗型車両50が平坦路を走行することなく悪路を1日走行すると想定した最大の期間である。
図1のパート(c)に示すように、悪路判定部12は、所定の長さの累積期間(時刻t1からt2までと時刻t3からt4までの累積期間)(時刻t4からt5までと時刻t6からt7までの累積期間)で、悪路判定領域ARに含まれる回転速度変動物理量の頻度が悪路基準を超えると、悪路条件が満たされると判定する。この場合、継続性判定部13は、悪路継続カウンタを計数する。回転速度変動物理量の頻度が悪路基準を超えない場合、悪路継続カウンタは初期化される。
【0058】
駆動系異常判定部14は、悪路判定部12による判定結果が継続していると継続性判定部13により判定された場合に、駆動系59の異常であると判定する。
図1のパート(c)に示す悪路継続カウンタが所定の異常確定基準を越えると、駆動系異常判定部14は、悪路条件が長い期間連続して充足しているとして、駆動系59の異常であると判定する。
【0059】
報知信号送信部16は、駆動系異常判定部14による判定結果を報知する。報知信号送信部16は、駆動系異常判定部14により駆動系異常と判定された場合には、報知装置30(
図3参照)に駆動系異常の表示を行わせる。また、報知信号送信部16は、報知装置30に駆動系異常の情報を表示させる。
また、悪路判定部12によって悪路走行が検出された場合、報知信号送信部16は、悪路走行の検出結果を表す情報を報知装置30に出力する。失火判定部15によって失火が検出された場合、失火の検出結果を表す失火情報を報知装置30に出力する。報知信号送信部16は、報知装置30としての診断装置が駆動系異常判定装置10と接続された時又は接続されている時に、記憶された情報を出力する。
【0060】
一実施形態の駆動系異常判定装置10によれば、クランク軸21の回転速度変動を利用する悪路走行の判定に対し、判定結果の継続の判定を追加することによって、駆動系59の異常を判定することができる。従って、悪路走行の判定及び駆動系59の異常の判定を簡潔な構成で実現することができる。この結果、鞍乗型車両に設けられた駆動系の異常を簡潔な構成で判定することができる。
【0061】
続いて、駆動系異常判定装置の詳細を説明する。
【0062】
図2は、
図1に示す駆動系異常判定装置を備えた鞍乗型車両を示す外観図である。
図2に示す鞍乗型車両50は、車体51及び車輪52a,52bを備えている。車輪52a,52bは、車体51に支持されている。鞍乗型車両50は、2つの車輪52a,52bを有する自動二輪車である。車輪52a,52bは、鞍乗型車両50の車体51に対して、鞍乗型車両50の前後方向Xに並んで配置されている。後ろの車輪52bは駆動輪である。
鞍乗型車両50は、駆動系異常判定装置10、エンジン20、及び駆動系59を備えている。より詳細には、鞍乗型車両50は、エンジンユニットEU、及び駆動系59を備えている。エンジンユニットEUは、駆動系異常判定装置10及びエンジン20を備えている。
エンジン20は、4ストロークエンジンである。駆動系異常判定装置10及びエンジン20は、車体51に取り付けられている。
【0063】
駆動系59は、エンジン20の動力を伝達することによって、鞍乗型車両50を駆動する。
駆動系59は、変速機58、巻掛伝動体59a、及び伝動車59bを有する。エンジン20のクランク軸21(
図3参照)も、駆動系59としての機能を有する。駆動輪としての車輪52bも、駆動系59としての機能を有する。
巻掛伝動体59aは、無端であり、複数の伝動車59bに巻き掛けられている。巻掛伝動体59aは伝動車59bの回転に伴い循環的に移動する。本実施形態において、巻掛伝動体59aは、複数の伝動車59bと噛み合うように構成されている。巻掛伝動体59aはチェーン又はベルトである。伝動車59bはスプロケット又はプーリである。
【0064】
図3は、
図1に示す駆動系異常判定装置、及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
【0065】
図3に示す駆動系異常判定装置10は、エンジン20に係る装置である。本実施形態に係るエンジン20は、3気筒エンジンである。
【0066】
エンジン20は、クランク軸21を備えている。クランク軸21は、本発明にいう回転体の一例に相当する。クランク軸21はエンジン20の動作に伴い回転する。つまり、クランク軸21は、エンジン20により回転される。クランク軸21には、クランク軸21の回転を検出させるための複数の被検出部25が設けられている。被検出部25は、クランク軸21の周方向に、クランク軸21の回転中心から見て予め定められた検出角度を空けて並んでいる。検出角度は、例えば15度である。被検出部25は、クランク軸21の回転と連動して移動する。
【0067】
角信号出力器105は、被検出部25の通過を検出すると信号を出力する。この結果、角信号出力器105は、クランク軸21の回転に応じて角信号を周期的に出力する。
【0068】
駆動系異常判定装置10を構成するコンピュータ100は、CPU101、メモリ102、及びI/Oポート103を備えている。
CPU101は、制御プログラムに基づいて演算処理を行う。メモリ102は、制御プログラムと、演算に必要な情報とを記憶する。I/Oポート103は、外部装置に対し信号を入出力する。
I/Oポート103には、角信号出力器105が接続されている。角信号出力器105は、エンジン20のクランク軸21が検出角度回転する毎に角信号を出力する。
I/Oポート103には、報知装置30も接続されている。報知装置30は、駆動系異常判定装置10から出力される信号に基づいて情報を表示する。報知装置30は、例えば鞍乗型車両50に設けられた表示ランプである。また、報知装置30には、例えば、鞍乗型車両50の外部装置である診断装置も含まれる。
【0069】
本実施形態の駆動系異常判定装置10は、クランク軸21の回転速度に基づいて、エンジン20の失火を検出する。本実施形態の駆動系異常判定装置10は、エンジン20の動作を制御するエンジン制御装置(ECU)としての機能も有する。駆動系異常判定装置10には、不図示の吸気圧力センサ、燃料噴射装置、及び、点火プラグが接続される。
【0070】
図1に示す変動物理量取得部11と、悪路判定部12と、継続性判定部13と、駆動系異常判定部14と、失火判定部15と、報知信号送信部16と、燃焼制御部17とは、制御プログラムを実行するCPU101(
図3参照)が、
図3に示すハードウェアを制御することによって実現される。
【0071】
図1のパート(a)に示す変動物理量取得部11の詳細を説明する。
【0072】
変動物理量取得部11は、角信号出力器105(
図3参照)からの角信号に基づいて、クランク軸21の回転速度変動物理量を取得する。角信号は、クランク軸21が検出角度回転する毎に出力される。
変動物理量取得部11は、角信号出力器105からの信号が出力されるタイミングの時間間隔を計測することによって回転速度を得る。また、変動物理量取得部11は、回転速度変動物理量を得る。変動物理量取得部11が取得する回転速度変動物理量はエンジン20の回転速度変動物理量である。
【0073】
エンジン20の回転速度の変動には、エンジン20の燃焼による変動が含まれている。エンジン20の燃焼による変動は、4ストロークに相当するクランク角度と等しいか又はそれより短い角度周期を有する。
エンジン20の回転速度の変動には、エンジン20の燃焼による変動だけでなく、悪路走行による変動が含まれる場合がある。また、エンジン20の回転速度の変動には、駆動系59の異常による変動が含まれる場合がある。悪路走行及び駆動系59の異常は、エンジン20の外的要因である。
【0074】
変動物理量取得部11は、例えば、各気筒の燃焼行程に対応する180度クランク角度の区間の回転速度と、燃焼行程の間の行程に対応する180度クランク角度の区間の回転速度とを得る。
【0075】
変動物理量取得部11は、エンジン20の回転速度について、同一の行程が連続する気筒における変動量を算出する。変動物理量取得部11は、この変動量に基づいて回転速度変動物理量を取得する。
【0076】
図4は、クランク軸21の回転速度の例を示すチャートである。
図4のグラフの横軸はクランク軸21の回転角度θを示し、縦軸は回転速度を示す。
図4に示す例では、回転速度の関係を分かりやすくするため、エンジン20の外的要因による変動を含まない。
図4のグラフは、回転速度OMGの変動を概略的に示している。回転速度OMGのグラフは、燃焼行程及び吸気行程に対応するクランク角度について算出された回転速度の値を曲線で結ぶことによって得られる。
図4のグラフは、時間を基準とした回転速度の推移ではなく、クランク角度を基準とした回転速度OMGの推移を示している。
燃焼動作による回転変動は、720度クランク角度あたり、気筒数に相当する数の繰返し周期を有する。本実施形態に係るエンジン20は、等間隔燃焼の3気筒4ストロークエンジンである。
図4に示す回転速度OMGの回転変動は、720度クランク角度当たり3つの繰返し周期を有している。即ち、エンジン20の燃焼動作による回転変動の周期は、4ストロークに相当するクランク角度(720度)より短い。各気筒の圧縮行程に対応する回転速度のピークは、240度クランク角度毎に表れる。
図4のグラフにおいて、ある時点における検出対象のクランク角度の位置の番号を「0」とし、「0」の位置から120度クランク角度ごと順に番号を付している。
図4の例では、3つの気筒のうち第3の気筒の吸気行程(#3S)を、ある時点における検出対象である「0」の位置とする。「0」の位置は、第1の気筒の燃焼行程(#1W)に対応する「1」の位置と、第2の気筒の燃焼行程(#2W)に対応する「-1」の位置との中間の位置である。また、「2」,「4」,「6」の位置は、第2の気筒、第1の気筒、第3の気筒における吸気行程(#2S,#1S,#3S)にそれぞれ対応している。
【0077】
各位置「0」,「1」,「2」,…における回転速度OMGの値を、OMG0,OMG1,OMG2,…と表す。変動物理量取得部11が得るクランク軸21の回転速度は、エンジン20の回転速度である。従って、クランク軸21の回転速度OMGをエンジン20の回転速度OMGとして説明する。
【0078】
変動物理量取得部11は、同一の行程が連続する気筒における回転速度の差を算出する。変動物理量取得部11は、回転速度として、エンジン20の回転速度OMGを用いる。算出した差を第1の変動量とする。例えば、
図4に示す「0」の位置が検出対象となる場合、同一の行程が連続する気筒に対応するクランク角度の位置は、「0」と「2」の位置である。例えば、「2」の位置は、第2の気筒の吸気行程(
図4の#2S)に対応する。「0」の位置は、第3の気筒の吸気行程(
図4の#3S)に対応する。つまり、「2」の位置と「0」の位置で第2の気筒の吸気行程と第3の気筒の吸気行程が連続する。第1の変動量は、回転速度OMG2と回転速度OMG0の差である。ここで、回転速度OMG2は、
図4に示す「2」の位置の回転速度である。また、回転速度OMG0は、「0」の位置での回転速度である。
また更に、変動物理量取得部11は、第1の変動量を算出したクランク軸21の位置よりも720度クランク角度前の位置において、同一の行程が連続する気筒における差を算出する。この差を第2の変動量とする。720度クランク角度前の位置において、同一の行程が連続する気筒に対応するクランク軸21の位置は、「6」と「8」の位置である。第2の変動量は、回転速度OMG8と回転速度OMG6の差である。ここで、回転速度OMG6は、「6」の位置での、エンジン20の回転速度OMGである。また、回転速度OMG8は、「8」の位置での回転速度である。
また、変動物理量取得部11は、回転速度変動物理量ΔOMGとして、上記の第1の変動量と第2の変動量との差を算出する。算出した差を回転速度変動物理量として出力する。
【0079】
図1に示す失火判定部15は、回転速度変動物理量ΔOMGが、所定の失火判定範囲内にある場合には、失火時と判断する。
【0080】
図4の破線MS_OMGは、失火時の回転速度の変動を示している。破線MS_OMGは、第1の気筒の燃焼行程(#1W)において、失火時の回転速度の変動を概略的に示している。失火が生じた場合、燃焼による回転速度の上昇が生じないため、第1の気筒の前の気筒の燃焼行程(#3W)から、第1の気筒の次の気筒の燃焼行程(#2W)まで、回転速度が低下し続ける。つまり、「0」の位置における回転速度OMG0が、失火が生じない正常時と比べて低い。このため、「0」の位置における第1の変動量は、失火が生じない正常時と比べ増大する。この場合、「0」の位置における回転速度変動物理量ΔOMGは、失火が生じない正常時と比べて増大する。
【0081】
第1の変動量又は第2の変動量は、例えばエンジンの回転が制御に応じて加速又は減速する場合にも増大する。本実施形態では、失火判定部15が、第1の変動量と第2の変動量との差を算出することによって取得された回転速度変動物理量ΔOMGについて判断する。これによって、エンジンの回転が制御に応じて加速又は減速する場合の影響が抑制される。また、回転速度変動物理量ΔOMGの、720度クランク角度期間の経過後の変化が判断されることによって、同じ行程での回転速度の変化が判断される。従って、変化を判断する対象のクランク角度位置による影響が抑制される。従って、失火の検出及び悪路の検出において、制御に応じた加速又は減速の影響が抑えられる。
【0082】
回転速度変動物理量ΔOMGは、失火時でない正常時でも、例えば、エンジン20を搭載した鞍乗型車両50(
図2参照)が平坦路ではなく悪路を走行する場合に増大する。鞍乗型車両50が悪路を走行する場合、路面の凹凸等による負荷の変動が、車輪52b(
図2参照)から駆動系59等を介してエンジン20のクランク軸21に伝達される。この結果、回転速度OMGが変動する。この結果、回転速度変動物理量ΔOMGが変動する。回転速度変動物理量ΔOMGの変動に含まれる、悪路の走行に起因する変動が増大すると、失火判定部15が精密な失火の判定を実施できない。
【0083】
失火以外に起因する回転速度変動物理量ΔOMGの変動には、駆動系59の異常に起因する回転変動が含まれ得る。
駆動系59の異常は、例えば、駆動系59を構成する部品の劣化により部品の一部が変形することにより生じる。例えば、駆動系59に含まれる巻掛伝動体59aがベルトである場合、ベルトの一部の幅が減少することによって回転速度変動物理量ΔOMGが影響を受ける。また、駆動系59に含まれる巻掛伝動体59aがチェーンである場合、チェーンを構成するリンクの一部が伸びることによって回転速度変動物理量ΔOMGが影響を受ける。
【0084】
駆動系59の異常は、駆動系59の構造そのものに関連している。このため、駆動系59の異常に起因する回転速度変動物理量ΔOMGの変動は、例えばビークルが悪路を走行する場合のような一時的な変動とは異なる。つまり、駆動系59の異常に起因する回転速度変動物理量ΔOMGの変動は、恒常的に失火の検出の精度に影響する。すなわち、失火判定部15による判定の精度が、恒常的に低下する。失火判定の精度は、異常な部品を交換又は修理することによって回復する。このように、駆動系59の異常が回転速度変動物理量ΔOMGに与える影響のメカニズムは、悪路走行によるメカニズムとは本質的に異なる。ただし、回転速度変動物理量ΔOMGにおいて、駆動系59の異常により現われる回転速度変動物理量ΔOMGの変化と、悪路走行により現われる回転速度変動物理量ΔOMGの変化は、互いに近似している。
【0085】
図5は、回転速度変動物理量の分布を説明する図である。
図5の実線は、平坦路の走行中に失火が生じる状態における回転速度変動物理量ΔOMGの分布E0,M0を示している。より詳細には、平坦路の走行中に失火が生じる状態における回転速度変動物理量の分布は、平坦路の走行中に失火が生じない場合(正常時)の回転速度変動物理量ΔOMGの分布E0と、失火が生じた場合(失火時)の回転速度の分布M0を有している。分布E0,M0のそれぞれは、正規分布又は実質的に正規分布である。
【0086】
図5に示す例では、正常時の回転速度変動物理量ΔOMGの分布E0の裾(tail)と、失火時の回転速度変動物理量ΔOMGの分布M0の裾との間に間隔がある。
正常時の回転速度変動物理量ΔOMGの分布E0の裾と、失火時の回転速度変動物理量ΔOMGの分布M0の裾との関係は、エンジン20の動作状態によっても異なる。
エンジン20は、鞍乗型車両50に搭載するため、クランク軸21の慣性モーメントが小さくなるように構成されている。このため、エンジン20が高負荷・高回転領域で動作する場合、分布E0の裾と、分布M0の裾との間には、
図5で示す間隔が生じやすい。これに対し、エンジン20が低負荷領域で動作する場合、又は高回転領域で動作する場合、分布E0の裾と分布M0の裾との間の間隔が
図5で示すよりも小さいか、又は、分布E0と分布M0とが繋がっている。
駆動系異常判定装置10は、エンジン20が高負荷・高回転領域で動作する場合に分布E0の裾と分布M0の裾との間に生じる間隔を利用して、悪路判定及び駆動系の異常の判定を行う。従って、駆動系異常判定装置10は、エンジン判定条件として、エンジン20が高負荷・高回転領域で動作する場合に駆動系の異常の判定を行う。
【0087】
高負荷・高回転速度領域に対応する回転速度は、具体的には、特に限定されない。高負荷・高回転速度領域は、例えば、回転速度が6000rpm以上の領域に位置していてもよく、回転速度が8000rpm以上の領域に位置していてもよく、回転速度が9000rpm以上の領域に位置していてもよく、回転速度が10000rpm以上の領域に位置していてもよい。この場合、低負荷・低回転速度領域は、回転速度が高負荷・高回転速度領域の回転速度よりも低い領域に位置する。
高負荷・高回転速度領域及び低負荷・低回転速度領域の各々に対応する負荷は、具体的には、特に限定されない。車両及び/又は内燃機関の仕様によって異なり、負荷の検出方法によっても異なる。負荷の具体的な数値については、特に限定されない。高負荷は、例えば、車両の加速時、登坂時又は内燃機関の高速回転を維持するように車両が高速で走行する時に生じる負荷に相当する。低負荷は、例えば、車両の定常走行時、減速時又は降坂時に生じる負荷に相当する。高負荷と低負荷とは、互いの相対的な関係により特定され得る。
【0088】
図5に示すように、平坦路における正常時の分布E0と、平坦路における失火時の分布M0の間に、悪路判定領域ARが設定される。悪路判定領域ARの下限基準TL及び上限基準TUは、正常時の分布E0のピークXnの物理量と失火時の分布M0のピークXsの物理量との間に設定される。下限基準TLは、上限基準TUよりも低い。悪路判定領域ARは、正常時の回転速度変動物理量ΔOMGの分布の裾と、失火時の回転速度変動物理量ΔOMGの分布の裾との間の間隔に設けられる。
失火判定部15は、回転速度変動物理量ΔOMGが悪路判定領域ARの上限基準TUより大きい場合、失火と判定する。失火判定部15は、回転速度変動物理量ΔOMGが悪路判定領域ARの下限基準TLより小さい場合、失火でない正常と判定する。
【0089】
図5の破線は、悪路における正常時の回転速度変動物理量ΔOMGの分布E1と、失火時の回転速度の分布M1を示している。
分布E1、M1のそれぞれは、正規分布又は実質的に正規分布である。悪路における正常時の分布E1のピークの物理量は、平坦路における正常時の分布E1のピークXnの物理量と実質的に同じである。ただし、悪路における正常時の分布E1は、平坦路における正常時の分布E0と比べて、より広い裾を有し、より低いピークを有する。また、悪路における失火時の分布M1のピークの回転速度変動物理量ΔOMGは、平坦路における失火時の分布M1のピークXsの物理量と実質的に同じである。但し、悪路における失火時の分布M1は、平坦路における失火時の分布M0と比べて、より広い裾を有し、より低いピークを有する。このため、悪路では、正常時の回転速度変動物理量ΔOMGと失火時の回転速度変動物理量ΔOMGの双方が、悪路判定領域ARに含まれる頻度が増大する。
【0090】
悪路判定部12は、回転速度変動物理量ΔOMGの分布を用いて悪路を判定する。悪路判定部12は、悪路判定領域ARに含まれる回転速度変動物理量ΔOMGの頻度が、悪路基準よりも多い場合、悪路と判定する。より詳細には、悪路判定部12は、所定の判定期間で悪路判定領域ARに含まれる回転速度変動物理量ΔOMGの頻度が悪路基準よりも多い場合、悪路と判定する。即ち、悪路判定部12は、悪路判定領域ARの下限基準TLより大きく、且つ上限基準TUより小さい回転速度変動物理量ΔOMGの頻度が悪路基準よりも多い場合、悪路と判定する。
悪路判定部12が悪路と判定した場合、失火判定部15による失火の判定結果は無効とされる。
【0091】
回転速度変動物理量ΔOMGの分布は、駆動系59の異常によっても変化する。駆動系59の異常の場合における回転速度変動物理量ΔOMGの分布は、平坦路の走行中でも、悪路の場合の分布E1、M1のように変化する。即ち、駆動系59の異常の場合の分布は、例えば、悪路の場合の分布E1、M1のように、平坦路における分布E0,M0と比べてより広い裾を有しより低いピークを有する。
【0092】
ここでは、
図5に示す分布E1、M1を、駆動系59の異常の場合の分布として説明する。
【0093】
駆動系59の異常の場合と悪路の場合とでは、回転速度変動物理量ΔOMGの分布が継続する期間に違いがある。
駆動系59の異常は、通常、駆動系59の劣化に伴う不可逆的な現象である。このため、駆動系59の異常に起因して変化した回転速度変動物理量ΔOMGの分布E1,M1は、長期間継続する。
これに対し、悪路の場合の分布は、鞍乗型車両の走行路が悪路から平坦路に変われば、分布E1,M1から分布E0,M0に戻る。
【0094】
駆動系異常判定装置10は、上記継続期間の違いを利用して、駆動系59の異常を判別する。
より詳細には、悪路判定部12で悪路条件が満たされているという判定結果が継続しているか否かを継続性判定部13が判定する。そして、悪路判定部12による判定結果が継続していると継続性判定部13によって判定された場合、駆動系59の異常であると判定する。
継続性判定部13は、より詳細には、悪路判定部12が、異常確定基準より長い期間連続して悪路条件の充足を判定しているか否かを判定する。異常確定基準として、悪路の最大想定期間が設定される。悪路の最大想定期間は、鞍乗型車両50が途中平坦路を走行することなく悪路を走行する期間の累積として想定される最大の期間である。例えば、悪路を走行中に鞍乗型車両50が停止し、再び悪路を走行するような場合、悪路条件が満たされる期間は引続き累積する。例えば、鞍乗型車両50が途中平坦路を走行することにより、悪路条件が満たされない場合、悪路条件が満たされる期間の計数値は初期化される。
継続性判定部13は、より詳細には、悪路判定部12で悪路条件が満たされていると判定される場合に悪路継続カウンタを計数する。継続性判定部13は、悪路判定部12で悪路条件が満たされていないと判定される場合に悪路継続カウンタを初期化する。継続性判定部13は、悪路継続カウンタが異常確定基準より大きい場合に、判定結果が継続していると判定する。
【0095】
異常確定基準として設定される悪路の最大想定期間は、少なくとも、鞍乗型車両50が平坦路を走行することなく悪路を1日走行すると想定した最大の期間である。これは、通常、鞍乗型車両50が1日走行する場合どこかで平坦路を走行する、という経験則に基づいている。異常確定基準は、エンジンの回転数の単位で設定される。
つまり、少なくとも、鞍乗型車両50が1日悪路を走行すると想定した最大の期間よりも長い期間に亘り、悪路判定部12により悪路条件が満たされているという判定が継続する場合、継続性判定部13は判定結果が継続していることを判定する。
【0096】
異常確定基準として、上述した期間よりも長い期間が設定される場合がある。例えば、異常確定基準は、鞍乗型車両50の種類によっても異なる。例えば、鞍乗型車両50がオフロード車の場合、上述した期間よりも長い期間が設定され得る。例えば、悪路の最大想定期間として、大陸の横断に要する期間が設定される。
【0097】
また、悪路判定部12で悪路条件が満たされる条件には、駆動系59の異常の場合と悪路の場合とで次のような違いがある。即ち、鞍乗型車両50が悪路を高速で走行することは困難である。従って、悪路による影響は、鞍乗型車両50の高速走行中には生じにくい。
そこで、駆動系異常判定装置10は、走行速度の条件の違いも利用して、駆動系59の異常を判別する。
より詳細には、継続性判定部13は、鞍乗型車両50が悪路を走行する上限設定速度よりも大きな速度で走行中に、悪路判定部12により悪路条件が満たされているという判定結果が継続しているか否かを判定する。駆動系異常判定部14は、鞍乗型車両50が悪路を通常に走行する上限設定速度よりも大きな速度で走行中に、悪路判定部12により悪路条件が満たされているという判定結果が継続していると継続性判定部13により判定された場合、駆動系59の異常であると判定する。
上限設定速度は、悪路を走行可能と想定される上限の速度である。上限設定速度は、例えば時速60kmである。但し、上限設定速度は、鞍乗型車両50自体の性能及び大きさに応じて、より大きな速度に設定され得る。上限設定速度は、例えば時速80kmに設定することもできる。また、高速走行基準は、例えば時速100kmに設定することもできる。
【0098】
図6は、
図1に示す駆動系異常判定装置の動作を示すフローチャートである。
図6を参照して、
図1に示す駆動系異常判定装置10の動作を説明する。
【0099】
変動物理量取得部11は、エンジン20のクランク軸21の回転速度変動物理量ΔOMGを取得する(S11)。
変動物理量取得部11は、角信号出力器105から出力される角信号に基づいてクランク軸21の回転速度変動物理量ΔOMGを取得する。変動物理量取得部11は、クランク軸21が所定の回転角度回転する度に回転速度変動物理量ΔOMGを取得する。
より詳細には、変動物理量取得部11は、エンジン20における各気筒の特定の行程(例えば
図4に示す「#1S」、「#2S」、「#3S」の各位置)で回転速度変動物理量ΔOMGを取得する。
【0100】
次に、継続性判定部13は、悪路を判定するためのエンジン判定条件が充足しているか否かを判別する(S12)。より詳細には、継続性判定部13は、エンジン判定条件として、エンジン20が高負荷・高回転領域で動作しているか否かを判別する。
エンジン20が高負荷・高回転領域で動作している場合に(S12でYes)、回転速度変動物理量ΔOMGによる悪路の判定が行われることによって、判定結果に含まれるノイズが抑制される。
【0101】
エンジン判定条件が充足する場合(S12でYes)、継続性判定部13は、鞍乗型車両50の車速が高速走行基準より大きいか否か判定する(S13)。高速走行基準は、通常、鞍乗型車両50が悪路を走行できる上限の速度である。車速が高速走行基準より大きいことは(S13でYes)、悪路ではないことを意味する。車速が高速走行基準より大きい場合(S13でYes)、継続性判定部13は判定期間を計数する(S14)。判定期間は、悪路を判定する周期に相当する。車速が高速走行基準以下の場合(S13でNo)、継続性判定部13は判定期間の計数を省略する。
【0102】
次に、悪路判定部12は、変動物理量取得部11で取得された回転速度変動物理量ΔOMGが悪路判定領域AR(
図5参照)内にあるか否かを判定する(S15)。より詳細には、悪路判定部12は、回転速度変動物理量ΔOMGが、悪路判定領域ARの下限基準TLよりも大きく、かつ、悪路判定領域ARの上限基準TUよりも小さいか否かを判定する。回転速度変動物理量ΔOMGが予め定められた悪路判定領域AR内にある場合(S15でYes)、悪路走行又は駆動系の異常である可能性が高い。
悪路判定部12は、鞍乗型車両50の車速が高速走行基準より大きいか否か判定する(S16)。鞍乗型車両50の車速が高速走行基準より大きい場合(S13でYes)、継続性判定部13は異常頻度カウンタを計数する(S17)。
【0103】
回転速度変動物理量ΔOMGが悪路判定領域AR内にない場合(S15でNo)、失火判定部15は、失火条件が満たされているか否か判定する(S18)。回転速度変動物理量ΔOMGが悪路判定領域ARの上限基準TU(
図5参照)よりも大きい場合、失火判定部15は、失火条件が満たされていると判定する(S18でYes)。
ステップS18において失火条件が満たされていると判定された場合(S18でYes)、失火判定部15は、失火カウンタを計数する(S19)。
回転速度変動物理量ΔOMGが悪路判定領域AR内になく、且つ、失火条件も満たされない場合(S18でNo)、失火判定部15は、エンジン20及び駆動系59に異常はないと判定する。
【0104】
上記ステップS12で、回転速度変動物理量ΔOMGの大小を用いた悪路の判定が容易でないと判定された場合、失火判定部15は、補助判定を行う(S20)。補助判定は、回転速度変動物理量ΔOMGの大小とは異なる方法による判定である。補助判定は、例えば、回転速度変動物理量ΔOMGの変動のパターンに基づく判定である。失火判定部15は、補助判定において、失火条件を満たしていると判定する場合(S20でYes)、失火カウンタを計数する(S19)。
【0105】
次に、悪路判定部12は、悪路を判定する判定期間が経過したか否かを判定する(S21)。より詳細には、継続性判定部13は、計数した判定期間が悪路判定期間と等しいか否か判定する。計数した判定期間が悪路判定期間と等しいことは、エンジン判定条件が充足し、且つ高速走行条件が充足した期間の累積期間が、悪路判定期間と等しいことを意味する。
【0106】
悪路判定期間が経過した場合(S21でYes)、悪路判定部12は、悪路判定を実施する(S23)。悪路判定部12は、回転速度変動物理量ΔOMGに基づく分布状態が、予め定められた悪路条件を満たしているか否かを判定する。より詳細には、悪路判定部12は、判定期間で計数された異常頻度カウンタが悪路基準より大きいか否か判定する。
異常頻度カウンタが悪路基準より大きい場合(S23でYes)、回転速度変動物理量ΔOMGの分布は、
図5に示すE1及びM1のように拡散していることを意味する。異常頻度カウンタが悪路基準より大きい場合(S23でYes)、悪路判定部12は、悪路であると判定する。この場合、悪路判定部12は、失火カウンタを初期化する(S24)。これは、悪路の場合、失火の判定(S18、S20)の結果がエンジン20の失火を精密に反映しないからである。
異常頻度カウンタが悪路基準より大きい場合(S23でYes)、駆動系59の異常の可能性がある。即ち、悪路判定部12による判定には、悪路の可能性と駆動系59の異常の可能性が混在している。継続性判定部13は、悪路継続カウンタを計数する(S24)。
【0107】
異常頻度カウンタが悪路基準以下の場合(S23でNo)、悪路判定部12は、鞍乗型車両50の平坦路の走行状態と判定する。異常頻度カウンタが悪路基準以下の場合(S23でNo)、継続性判定部13は、実質的に駆動系59の異常でないとして悪路継続カウンタを初期化する(S25)。
【0108】
次に、継続性判定部13は、駆動系に異常があるか否かを判定する(S26)。継続性判定部13は、悪路条件が満たされているという判定が継続しているか否かによって、駆動系の異常を確定する。より詳細には、継続性判定部13は、悪路継続カウンタが異常確定基準よりも大きいか否かを判定する。
悪路継続カウンタが異常確定基準よりも大きい場合(S26でYes)、駆動系異常判定部14は、駆動系59の異常であると判定する。
駆動系異常判定部14が駆動系59の異常であると判定する場合(S26でYes)、報知信号送信部16は、報知装置30に報知信号を送信する(S31)。この結果、報知装置30が、運転者又は整備者に駆動系異常を報知する。
【0109】
悪路継続カウンタが異常確定基準以下で(S26でNo)、且つ、失火基準変更レベルより大きい場合(S27でYes)、失火判定部15は失火条件を変更する(S32)。より詳細には、失火判定部15は、悪路判定領域ARの上限基準TU及び下限基準TLを変更する。より詳細には、失火判定部15は、
図5に示す悪路判定領域ARの上限基準TUをTU’まで減少する。
悪路継続カウンタが異常確定基準以下で(S26でNo)、且つ、失火基準変更レベルより大きい場合(S27でYes)、駆動系の異常の程度が小さい。例えば駆動系が劣化の初期にある。失火の検出は可能であるが、回転速度変動物理量ΔOMGの分布は完全な正常状態と比べて拡散する。このため、失火検出の精度が低下する。具体的には、実際に失火が生じる頻度に対し、上記ステップS18で失火と判定される頻度が減少する。
本実施形態では、失火判定部15が失火条件を変更することにより、失火の判定結果が、実際に発生した失火の頻度をより精密に反映できる。
【0110】
図7は、駆動系異常判定装置の動作の例を説明するタイムチャートである。
図7には、鞍乗型車両50の車速、車速条件フラグ、エンジン判定条件フラグ、判定期間カウンタ、異常頻度カウンタ、悪路継続カウンタ、及び報知状態フラグが示されている。
図7に示す動作の例では、鞍乗型車両50が加速、減速、及び停止を繰り返す。鞍乗型車両50の車速は、増加及び減少する。
また、鞍乗型車両50の走行状態に応じてエンジン判定条件も変化する。
判定期間は、鞍乗型車両50の車速が高速走行基準より大きい速度で走行し、且つ、エンジンが高負荷・高回転領域で動作する場合、計数される(
図6のS12で
Yes)。具体的には、判定期間は、時刻t1からt2の期間、時刻t3からt5の期間、時刻t6からt8の期間、及び、時刻t9までの期間である。
また、悪路の判定(S15)は、車速条件が充足する場合、且つ、エンジン判定条件が充足する場合、実施される(
図6のS12で
Yes)。つまり、悪路の判定(S15)は、時刻t1からt2の期間、時刻t3からt5の期間、時刻t6からt8の期間、及び、時刻t9までの期間、実施される。車速条件が充足しない場合又はエンジン判定条件が充足しない場合、悪路の判定は実施されない。この場合、判定期間の値は変わらず保持される。
【0111】
車速条件が充足し、且つエンジン判定条件が充足する場合、回転速度変動物理量ΔOMGが悪路判定領域ARにあると、異常頻度カウンタが計数される。
【0112】
時刻t4,t7,t9で判定期間が悪路判定期間の値に達する。時刻t4,t7,t9は悪路の判定タイミングである。上記の各時刻で、異常頻度カウンタが駆動系異常基準より大きいため、悪路継続カウンタが計数される。悪路継続カウンタはカウントアップされる。
【0113】
時刻t9で、悪路継続カウンタが異常確定基準より大きくなると、駆動系の異常が確定し、駆動系の劣化の状態が報知状態となる。即ち、報知信号送信部16は、報知装置30に、報知させるための報知信号を送信する(S31)。
【0114】
本実施形態の駆動系異常判定装置10では、回転速度変動物理量ΔOMGに基づく分布状態によって悪路が判定される。そして、悪路の判定が継続しているか否かによって、この判定が実際に悪路走行に起因するのか、駆動系の異常に起因するのかが更に判定される。従って、悪路の判定結果を利用して、駆動系の異常を簡潔な構成で判定することができる。
【0115】
図8は、本発明の第二実施形態に係る駆動系異常判定装置を示すブロック図である。
本実施形態に係る駆動系異常判定装置210が備える継続性判定部213は、悪路判定部12による判定処理とは別に、悪路条件が満たされている状態が継続しているか否かに係る判定処理を実行する。つまり、本実施形態の継続性判定部213は、第一実施形態における継続性判定
部13による処理と悪路判定部12による処理の双方を実施する。但し、本実施形態で、悪路条件が満たされている場合の報知は、継続性判定部213とは異なる悪路判定部12の判定結果に基づいて実施される。駆動系異常判定部14は、悪路条件が満たされている状態が継続していると継続性判定部13により判定された場合に、駆動系59の異常であると判定する。
本実施形態におけるその他の構成及び動作は、第一実施形態と同じであるため、第一実施形態と同じ符号を付し、説明を省略する。
【符号の説明】
【0116】
10 駆動系異常判定装置(失火検出装置)
11 変動物理量取得部(変動物理量取得器)
12 悪路判定部(悪路判定器)
13 継続性判定部(継続性判定器)
14 駆動系異常判定部(駆動系異常判定器)
15 失火判定部(失火判定器)
16 報知信号送信部(報知信号送信器)
20 エンジン
21 クランク軸(回転体)
50 ビークル
59 駆動系
59a 巻掛伝動体
59b 伝動車
105 角信号出力器