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特許7139514ストラドルドビークルエンジンユニット、及びストラドルドビークル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】ストラドルドビークルエンジンユニット、及びストラドルドビークル
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D45/00 362
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021504855
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020006043
(87)【国際公開番号】W WO2020184073
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2019045539
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】特許業務法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】堀田 実
(72)【発明者】
【氏名】野々垣 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】岩本 一輝
(72)【発明者】
【氏名】木下 久寿
(72)【発明者】
【氏名】河島 信行
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-293501(JP,A)
【文献】特開2006-152971(JP,A)
【文献】特開平07-083108(JP,A)
【文献】特開2012-077700(JP,A)
【文献】特開平05-340294(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0211296(US,A1)
【文献】特開2017-214857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両に設けられる鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記鞍乗型車両エンジンユニットは、
クランク軸と、前記クランク軸の回転に応じてクランク角信号を周期的に出力するクランク角信号出力器とを有し、複数の種類の行程を前記クランク軸の720度回転毎に繰り返す内燃機関と、
前記クランク角信号出力器の信号に基づいて、前記複数種類の行程のうち特定行程における前記クランク軸の回転速度の変動量に関する物理量を取得するクランク軸回転速度変動物理量取得器、及び、
前記クランク軸回転速度変動物理量が取得される毎に、前記クランク軸回転速度変動物理量が取得される取得タイミングよりも前の前記特定行程に対応する第1先行タイミングで取得された物理量である第1先行物理量と、前記第1先行タイミングよりも前の前記特定行程に対応する第2先行タイミングで取得された物理量である第2先行物理量との差分に基づき第1先行タイミングにおける前記クランク軸の回転速度の低下を検出し、且つ、前記クランク軸回転速度変動物理量と前記第1先行物理量との差分に基づき前記取得タイミングにおける前記回転速度の低下が完了したことを検出した場合に前記内燃機関で失火が生じたと判定する失火判定器を有する失火検出装置と、
を備える。
【請求項2】
請求項1記載の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記内燃機関は、複数の気筒を備え、
前記失火判定器は、前記クランク軸回転速度変動物理量が取得される毎に、前記クランク軸回転速度変動物理量が取得される取得タイミングよりも720度クランク角前の前記特定行程に対応する第1先行タイミングで取得された第1先行物理量と、前記第1先行タイミングよりも720度クランク角前の前記特定行程に対応する第2先行タイミングで取得された第2先行物理量との差分に基づき第1先行タイミングにおける前記クランク軸の回転速度の低下を検出し、且つ、前記クランク軸回転速度変動物理量と前記第1先行物理量との差分に基づき前記回転速度低下の完了を検出した場合に前記内燃機関の失火と判定する。
【請求項3】
請求項1又は2記載の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記クランク軸回転速度変動物理量取得器は、前記特定行程における前記クランク軸の回転速度の変動量に関する物理量として、前記特定行程内の第1クランク角位置における回転速度と、前記第1クランク角位置に対し720度クランク角より小さい角度前の第2クランク角位置における回転速度との間の差分を表す量を取得する。
【請求項4】
請求項3に記載の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記失火判定器は、前記第1先行物理量に対する前記クランク軸回転速度変動物理量の差における正負の極性が、前記第2先行物理量に対する前記第1先行物理量の差における正負の極性と逆である場合に、前記内燃機関で失火が生じたと判定する。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項に記載の鞍乗型車両エンジンユニットと、
前記内燃機関によって駆動される車輪とを有する
鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両エンジンユニット、及び鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両エンジンユニットは、内燃機関及び各種装置を備え、鞍乗型車両に搭載される。例えば、特許文献1には、自動二輪車に搭載されるエンジンの失火を判定する失火判定装置が示されている。
【0003】
特許文献1の失火判定装置によれば、クランク軸の回転速度を示す物理量の変化を検出することによってエンジンの失火の有無を判断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-70255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鞍乗型車両に搭載される内燃機関の失火を、クランク軸の回転速度を示す物理量の変化を用いて検出する場合、検出の精度が低い場合があった。
【0006】
本発明の目的は、鞍乗型車両に搭載される内燃機関の失火を高い精度で検出することができる鞍乗型車両エンジンユニット及び鞍乗型車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鞍乗型車両エンジンユニットにおいて、高い精度で失火を検出するための検討を行った。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
【0008】
鞍乗型車両に搭載される内燃機関は、例えば四輪車に搭載される内燃機関と比べて高い回転速度で動作することが求められている。このため、通常、鞍乗型車両エンジンユニットの内燃機関は、例えば四輪車に搭載される内燃機関と比べて小さい慣性モーメントを有するように構成されている。従って、失火が生じない正常時でも回転速度が変化しやすい。このため、鞍乗型車両に設けられる内燃機関では、失火時と正常時の回転変動の差を用いて判定し難い場合がある。
【0009】
また、鞍乗型車両に搭載される内燃機関は、例えば四輪車に搭載される内燃機関と比べて高い回転速度で動作する場合に対応するため、排気バルブ及び吸気バルブが例えば四輪車に搭載される内燃機関と比べてより長い期間開く。従って、排気バルブ及び吸気バルブが同時に開くバルブオーバーラップの期間が長い。このため、排気通路内の排ガスが、吸気の負圧によって燃焼室内に戻るように引き込まれやすい。つまり、内部残留ガスの混合が生じやすい。燃焼室に含まれる排ガスが多いと、燃焼室におけるガスの燃焼速度が低い。このため、鞍乗型車両に搭載される内燃機関における燃焼期間は長い。燃焼期間が長い分、燃焼期間のばらつきも大きい。このため、回転速度が正常時でも変化しやすい。このため、鞍乗型車両に設けられる内燃機関では、失火時と正常時の回転変動の差を判定し難い。
【0010】
本願発明者らは、鞍乗型車両エンジンユニットの回転変動について更に検討した。
鞍乗型車両に設けられる内燃機関は、小さい慣性モーメントを有する。このため、鞍乗型車両に設けられる内燃機関は、操作又は外乱に対する回転速度の応答性が高い。つまり、鞍乗型車両に設けられる内燃機関は、失火に対する回転速度の応答性も高い。例えば燃焼行程といった特定行程のタイミング毎に見た場合、失火の影響によりあるタイミングで回転速度が低下し、次のタイミングで失火による回転速度の低下は完了する。
【0011】
この知見から、本発明者らは、あるタイミングにおける回転速度の低下と、次のタイミングにおける回転速度の低下の完了を検出することによって、鞍乗型車両に搭載されるエンジンの失火を高い精度で検出することができることに気づいた。
本発明者らは、鞍乗型車両エンジンユニットにおいて、失火の判定精度向上を困難にする要因と考えられていたエンジンの小さい慣性モーメントの性質を利用し、失火の検出精度を高めることができることを見出した。
【0012】
以上の目的を達成するために、本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両エンジンユニットは、次の構成を備える。
【0013】
(1) 鞍乗型車両に設けられる鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記鞍乗型車両エンジンユニットは、
クランク軸と、前記クランク軸の回転に応じてクランク角信号を周期的に出力するクランク角信号出力器とを有し、複数の種類の行程を前記クランク軸の720度回転毎に繰り返す内燃機関と、
前記クランク角信号出力器の信号に基づいて、前記複数種類の行程のうち特定行程における前記クランク軸の回転速度の変動量に関する物理量を取得するクランク軸回転速度変動物理量取得器、及び、
前記クランク軸回転速度変動物理量が取得される毎に、前記クランク軸回転速度変動物理量が取得される取得タイミングよりも前の前記特定行程に対応する第1先行タイミングで取得された物理量である第1先行物理量と、前記第1先行タイミングよりも前の前記特定行程に対応する第2先行タイミングで取得された物理量である第2先行物理量との差分に基づき第1先行タイミングにおける前記クランク軸の回転速度の低下を検出し、且つ、前記クランク軸回転速度変動物理量と前記第1先行物理量との差分に基づき前記取得タイミングにおける前記回転速度の低下が完了したことを検出した場合に前記内燃機関で失火が生じたと判定する失火判定器を有する失火検出装置と、
を備える。
【0014】
上記構成の鞍乗型車両エンジンユニットは、内燃機関と、失火検出装置とを備えている。鞍乗型車両エンジンユニットは、鞍乗型車両に設けられる。従って、内燃機関は、鞍乗型車両に設けられる。内燃機関は、クランク軸と、クランク角信号出力器とを有する。クランク角信号出力器は、クランク軸の回転に応じてクランク角信号を周期的に出力する。
失火検出装置は、クランク軸回転速度変動物理量取得器、及び失火判定器を有する。クランク軸回転速度変動物理量取得器は、クランク角信号出力器の信号に基づいて、クランク軸回転速度変動物理量を取得する。クランク軸回転速度変動物理量は、複数種類の行程のうち特定行程におけるクランク軸の回転速度の変動量に関する物理量である。
失火判定器は、クランク軸回転速度変動物理量が取得される毎に、失火状態の判定を行う。失火判定器は、第1先行タイミングにおけるクランク軸の回転速度の低下を検出し、且つ、取得タイミングにおける回転速度低下の完了を検出した場合に失火が生じたと判定する。第1先行タイミングは、クランク軸回転速度変動物理量が取得される取得タイミングよりも前のタイミングである。第1先行タイミング及び第2先行タイミングはいずれも、特定行程に対応するタイミングである。第2先行タイミングは、第1先行タイミングよりも前のタイミングである。
第1先行タイミングにおけるクランク軸の回転速度の低下は、第1先行タイミングで取得された第1先行物理量と第2先行タイミングで取得された第2先行物理量との差分に基づき検出される。また、取得タイミングにおける回転速度低下の完了は、クランク軸回転速度変動物理量と第1先行物理量との差分に基づき検出される。
【0015】
鞍乗型車両エンジンユニットの内燃機関の正常時におけるクランク軸の回転速度の変動量は、例えば四輪車の内燃機関の場合と比べて大きい。クランク軸回転速度変動物理量は大きい。すなわち、しかし、鞍乗型車両エンジンユニットの内燃機関は小さい慣性モーメントを有するため、失火に対する回転速度の応答性が高い。すなわち、特定行程に対応するタイミングで見た場合に失火による回転速度の低下が、次のタイミングで完了しやすい。
上記構成によれば、クランク軸回転速度変動物理量が取得される取得タイミングよりも前の第1先行タイミングにおけるクランク軸の回転速度の低下を検出し、且つ、上記取得タイミングにおける回転速度低下の完了を検出した場合に内燃機関で失火が生じたと判定される。従って、鞍乗型車両エンジンユニットの内燃機関の失火を、鞍乗型車両エンジンユニットの内燃機関の小さい慣性モーメントを利用して高い精度で失火を判定することができる。
【0016】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両エンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
【0017】
(2) (1)の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記内燃機関は、複数の気筒を備え、
前記失火判定器は、前記クランク軸回転速度変動物理量が取得される毎に、前記クランク軸回転速度変動物理量が取得される取得タイミングよりも720度クランク角前の前記特定行程に対応する第1先行タイミングで取得された第1先行物理量と、前記第1先行タイミングよりも720度クランク角前の前記特定行程に対応する第2先行タイミングで取得された第2先行物理量との差分に基づき第1先行タイミングにおける前記クランク軸の回転速度の低下を検出し、且つ、前記第1先行物理量と前記クランク軸回転速度変動物理量との差分に基づき前記回転速度低下の完了を検出した場合に前記内燃機関の失火と判定する。
【0018】
上記構成によれば、内燃機関は、複数の気筒を備えている。720度クランク角毎に同じ気筒で同じ行程が実施される。上記構成によれば、同じ気筒で同じ行程が2回実施される時のクランク軸回転速度変動物理量同士の差分に基づき失火の判定が行われる。従って、気筒の差による判定の誤差が抑えられる。また、複数の気筒を備える内燃機関において、同じ気筒で同じ行程が2回実施される間には、残りの気筒における燃焼行程を含む行程が実施される。このため、同じ気筒で同じ行程が実施される場合、1回目即ち第1先行タイミングで失火による回転速度の低下が検出された後、同じ気筒における次の同じ行程における取得タイミングでは、回転速度の低下がより確実に完了しやすい。従って、鞍乗型車両エンジンユニットの内燃機関の小さい慣性モーメントを利用してより高い精度で失火を判定することができる。
【0019】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両エンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
【0020】
(3) (1)又は(2)の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記クランク軸回転速度変動物理量取得器は、前記特定行程における前記クランク軸の回転速度の変動量に関する物理量として、前記特定行程内の第1クランク角位置における回転速度と、前記第1クランク角位置に対し720度クランク角より小さい角度前の第2クランク角位置における回転速度との間の差分を表す量を取得する。
【0021】
上記構成によれば、クランク軸の回転速度の変動量に関する物理量として、第1クランク角位置における回転速度と第2クランク角位置における回転速度との間の差分を表す量が取得される。この結果、失火判定器は、第1先行タイミングで取得された速度の差分と、第2先行タイミングで取得された速度の差分との差分に基づき第1先行タイミングにおけるクランク軸の回転速度の低下を検出する。また、失火判定器は、取得タイミングで取得された速度の差分と、第1先行タイミングで取得された速度の差分との差分に基づき回転速度の低下の完了を検出する。
差分同士の差分に基づき検出がされることによって、例えば、鞍乗型車両の加速・減速を伴う緩やかな回転速度の変動の影響が抑えられる。従って、鞍乗型車両エンジンユニットの内燃機関の高い精度で失火を判定することができる。
【0022】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両エンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
【0023】
(4) (3)の鞍乗型車両エンジンユニットであって、
前記失火判定器は、前記第1先行物理量に対する前記クランク軸回転速度変動物理量の差における正負の極性が、前記第2先行物理量に対する前記第1先行物理量の差における正負の極性と逆である場合に、前記内燃機関で失火が生じたと判定する。
【0024】
上記構成によれば、差分同士の差分に基づき検出がされた値に対し、正負の極性を判別することによって、失火が生じたと判定することができる。従って、簡潔な構成で、鞍乗型車両エンジンユニットの内燃機関の失火を高い精度で判定することができる。
【0025】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
【0026】
(5) (1)から(4)の鞍乗型車両エンジンユニットと、
前記内燃機関によって駆動される車輪とを有する
鞍乗型車両。
【0027】
上記構成によれば、鞍乗型車両に設けられる内燃機関の失火を、鞍乗型車両に設けられる内燃機関の小さい慣性モーメントを利用して高い精度で失火を判定することができる。
【0028】
本明細書にて使用される専門用語は特定の実施例のみを定義する目的であって発明を制限する意図を有しない。
本明細書にて使用される用語「および/または」はひとつの、または複数の関連した列挙された構成物のあらゆるまたはすべての組み合わせを含む。
本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」およびその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分および/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」および/またはそれらの等価物は広く使用され、直接的および間接的な取り付け、接続および結合の両方を包含する。更に、「接続された」および「結合された」は、物理的または機械的な接続または結合に限定されず、直接的または間接的な電気的接続または結合を含むことができる。
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
本発明の説明においては、複数の技術および工程が開示されていると理解される。
これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。
従って、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせをすべて繰り返すことを控える。
それにもかかわらず、明細書および特許請求の範囲は、そのような組み合わせがすべて本発明および請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
本明細書では、新しい鞍乗型車両エンジンユニットについて説明する。
以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。
しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。
本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0029】
鞍乗型車両エンジンユニットは、内燃機関及び失火検出装置を備え、鞍乗型車両に設けられる。失火検出装置は、例えば、後述するようなECUであってもよく、ECUとは別に車両に設けられる制御装置であってもよい。失火検出装置は、例えば、少なくとも内燃機関と通信可能である。失火検出装置は、例えば、内燃機関が備えるセンサ等から出力される信号を受信し、内燃機関が備える各種機器・装置等へ制御信号を送信可能であるように構成されている。失火検出装置は、更に、例えば、車両が備えるセンサ等から出力される信号を受信し、車両が備える各種機器・装置等へ制御信号を送信可能であるように構成されてもよい。鞍乗型車両エンジンユニットは、必ずしも、内燃機関と失火検出装置とが物理的にユニット化されていることを意味しない。従って、鞍乗型車両エンジンユニットにおいて、内燃機関と失火検出装置とは、物理的に一体として構成されていてもよく、物理的に一体として構成されていなくてもよい。
【0030】
鞍乗型車両は、鞍乗型車両エンジンユニットに加え、例えば、車輪を有する。車輪には、内燃機関から出力される動力を受けて回転する駆動輪が含まれる。車輪の数は、特に限定されない。鞍乗型車両とは、運転者がサドルに跨って着座する形式の車両をいう。鞍乗型車両としては、例えば、自動二輪車、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)が挙げられる。
鞍乗型車両の駆動輪は、例えば後輪である。駆動輪はこれに限られず、例えば前輪であってもよい。
【0031】
内燃機関としては、特に限定されず、例えば、4ストロークエンジンが挙げられる。また、内燃機関は、ガソリンエンジンであってもよく、ディーゼルエンジンであってもよい。気筒数は、特に限定されない。内燃機関としては、例えば、4気筒、6気筒、8気筒等、種々の数の気筒を有する内燃機関が挙げられる。内燃機関は、単気筒、2気筒又は3気筒を有する内燃機関であってもよい。多気筒の内燃機関は、等間隔燃焼型であってもよく、不等間隔燃焼型であってもよい。
【0032】
クランク角信号出力器は、特に限定されず、従来公知の機器が採用され得る。クランク角信号出力器としては、例えば、レゾルバ、ホールIC、電磁誘導型センサ等が挙げられる。クランク角信号出力器は、例えば、所定の検出角度を空けてクランク軸に配置された被検出部の通過を表すクランク角信号を出力する。クランク角信号出力器は、クランク軸の回転に対し、クランク角信号を周期的に出力する。但し、クランク角信号出力器は、例えばクランク軸が一定速度回転で回転する場合に、常に一定の周期でクランク角信号を出力するものに限られない。例えば、被検出部の一部は、残りの被検出部と異なる間隔で配置されていてもよい。この結果、クランク角信号出力器は、例えば、一部のクランク軸回転角度領域で、他の領域とは異なる周期で信号を出力してもよい。
【0033】
失火検出装置のハードウェア構成は、特に限定されない。失火検出装置は、中央処理装置と、記憶装置とを有するコンピュータにより構成されていてもよい。失火検出装置の一部または全部が、電子回路であるワイヤードロジックによって構成されていてもよい。失火検出装置は、全体として物理的に一体として構成されていてもよく、物理的に別個の複数の装置の組合せにより構成されていてもよい。
【0034】
クランク軸回転速度変動物理量取得器は、特定行程におけるクランク軸の回転速度の変動量に関する物理量を取得する。特定行程は、例えば内燃機関が有する、吸気、圧縮、燃焼、排気のいずれかであればよい。特定行程に対応するタイミングは、特定行程の範囲内のタイミングである。特定行程に対応するタイミングよりも前の特定行程に対応するタイミングは、内燃機関が複数の気筒を有する場合、同じ気筒の同じ行程に対応するタイミングでもよく、他の気筒の同じ行程に対応するタイミングでもよい。クランク軸回転速度変動物理量は、クランク軸の回転速度の変動量に関する物理量である。クランク軸回転速度変動物理量取得器が物理量を取得するタイミングは、クランク角信号出力器から信号が出力されるタイミングと異なっていてもよい。例えば、クランク軸回転速度変動物理量取得器は、クランク角信号出力器から信号が複数回出力される場合にタイミング物理量を1回取得してもよい。
クランク軸回転速度変動物理量は、クランク軸の回転速度の変動量に関する物理量である。クランク軸回転速度変動物理量は、回転速度の変動量を表す値でもよく、また、回転速度を表す値でもよい。回転速度を表す複数の値が継続して取得されることによって、クランク軸回転速度変動物理量が取得される。例えば、クランク軸の回転速度は、クランク角信号出力器から周期的に順次出力されるクランク角信号の1つの時間間隔に基づいて取得される瞬時回転速度であってもよく、所定クランク角度(例えば180CAD、360CAD)の区間における平均回転速度(移動平均回転速度)であってもよい。クランク軸回転速度変動物理量は、例えば、第1のクランク角度の区間に対応する回転速度(瞬時回転速度又は平均回転速度)と、第2のクランク角度の区間に対応する回転速度(瞬時回転速度又は平均回転速度)との差分値であってもよい。この場合、第1のクランク角度の区間は、例えば、失火検出対象の気筒の圧縮上死点から、内燃機関において次に到来する圧縮上死点までの区間と少なくとも部分的に重複するように設定される。一方、第2のクランク角度の区間は、例えば、当該圧縮上死点の前に設定される。当該圧縮上死点で失火が生じた場合、第1のクランク角度の区間に対応するクランク軸の回転速度は減少するが、第2のクランク角度の区間に対応するクランク軸の回転速度は、当該失火による影響を受けない。従って、差分値を取得することにより、正常時と失火時との違いが反映されたクランク軸回転速度変動物理量が得られる。各区間に対応する回転速度は、必ずしも、そのまま差分値の取得に用いられる必要は無い。各区間に対する回転速度の各々に対して演算乃至補正の処理が行われ、処理後の各回転速度に基づいて、差分値が取得されてもよい。クランク軸回転速度変動物理量は、等爆エンジンに係るクランク軸回転速度変動物理量であってもよく、不等爆エンジンに係るクランク軸回転速度変動物理量であってもよい。クランク軸回転速度変動物理量は、例えば、クランク軸から車輪までの動力伝達経路における回転体(例えば、ギア、軸等)の回転速度であってもよい。
【0035】
「先行」は、時間的に早いことを意味する。例えば、取得タイミングよりも前の先行タイミングは、取得タイミングよりも時間的に早いタイミングである。
【0036】
失火検出装置は、第1先行物理量と第2先行物理量との差分に基づき、第1先行タイミングにおけるクランク軸の回転速度の低下を検出する。失火検出装置は、例えば、基準値に対する、第1先行物理量と第2先行物理量との差分の比較結果に応じて回転速度の低下を検出する。失火検出装置は、これに限られず、例えば、第1先行物理量と第2先行物理量との差分に対し、更に先行のタイミングで得られた差分の割合に応じて回転速度の低下を検出してもよい。
回転速度の低下の完了は、時間経過に伴う回転速度の推移において低下(decrease)のピークを過ぎたことである。回転速度の低下が完了する場合、例えば微分値が正に転じる。回転速度の推移には、低下、上昇、維持がある。回転速度の低下が完了する場合は、回転速度の上昇または維持である。
失火検出装置は、クランク軸回転速度変動物理量と第1先行物理量との差分に基づき、取得タイミングにおける回転速度の低下が完了したことを検出する。失火検出装置は、例えば、基準値に対する、クランク軸回転速度変動物理量と第1先行物理量との差分の比較結果に応じて回転速度の低下の完了を検出する。失火検出装置は、これに限られず、クランク軸回転速度変動物理量と第1先行物理量との差分に対し、更に先行のタイミングで得られた差分の割合に応じて回転速度の低下を検出してもよい。
【0037】
失火判定器は、例えば、回転速度変動物理量の差分が少なくとも第1及び第2基準範囲を有する失火パターン範囲に該当するか否かを判定する。例えば、失火判定部は、第1先行物理量に対する回転速度変動物理量の差分が第1基準範囲内にあり、且つ、第2先行物理量に対する第1先行物理量の差分が第2基準範囲内にあることを条件として、失火が生じたと判定し、ここで、第1基準範囲と第2基準範囲は互いに逆の極性に配置される。
但し、失火判定器は、これに限られず、例えば、回転速度変動物理量の差分の増加/減少の変動が所定のパターンに該当するか否かを判定してもよい。
【0038】
失火判定器は、例えば、回転速度変動物理量が所定の物理量判定基準よりも大きいと判定された場合に、回転速度変動物理量の差分に該当するか否かを判定する。但し、失火判定器は、これに限られない。失火判定器は、例えば、回転速度変動物理量が物理量判定基準よりも大きいと判定されない場合でも、回転速度変動物理量の差分について判定してもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、鞍乗型車両に搭載される内燃機関の失火を高い精度で検出することができる鞍乗型車両エンジンユニット及び鞍乗型車両が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の第一実施形態に係る鞍乗型車両エンジンユニットの概略及び回転速度変動物理量の分布を説明する図である。
図2図1に示す鞍乗型車両エンジンユニットを備えた鞍乗型車両を示す外観図である。
図3図1に示す失火検出装置、及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
図4】クランク軸の回転速度の例を示すチャートである。
図5】回転速度及び回転速度変動物理量の一例を示すチャートである。
図6】エンジンに関する回転速度変動物理量の分布を示す説明図である。
図7図1に示す失火検出装置の動作を示すフローチャートである。
図8】本発明の第二実施形態における回転速度及び回転速度変動物理量の一例を示すチャートである。
図9】本発明の第二実施形態における失火検出装置の動作を示すフローチャートである。
図10】本発明の第三実施形態における回転速度及び回転速度変動物理量の一例を示すチャートである。
図11】本発明の第四実施形態における回転速度及び回転速度変動物理量の一例を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、本発明の第一実施形態に係る鞍乗型車両エンジンユニットの概略及び回転速度変動物理量の分布を説明する図である。
【0042】
鞍乗型車両エンジンユニットEUは、エンジン20と、失火検出装置10とを備えている。鞍乗型車両エンジンユニットは、鞍乗型車両50(図2参照)に設けられる。つまり、エンジン20は、鞍乗型車両50に設けられる。
エンジン20は、内燃機関である。エンジン20は、クランク軸21と、クランク角信号出力器27(以降、角信号出力器27とも称する)とを有する。エンジン20の動力は、クランク軸21から出力される。角信号出力器27は、クランク軸21の回転に応じてクランク角信号を周期的に出力する。
【0043】
失火検出装置10は、エンジン20の失火を検出する。また、失火検出装置10は、鞍乗型車両50が悪路を走行しているか否かを検出する悪路検出装置として機能する。また、失火検出装置10は、エンジン20の制御を行う。
失火検出装置10は、クランク軸回転速度変動物理量取得部11(以降、変動物理量取得部11とも称する)、及び失火判定部12を有する。失火検出装置10は、更に、報知信号送信部16と、燃焼制御部17とを備える。
【0044】
変動物理量取得部11は、クランク軸回転速度変動物理量取得器の一例である。失火判定部12は、失火判定器の一例である。
【0045】
変動物理量取得部11は、角信号出力器27の信号に基づいて、クランク軸回転速度変動物理量に関するクランク軸回転速度変動物理量(以降、回転速度変動物理量とも称する。)を取得する。回転速度変動物理量は、エンジン20の複数種類の行程のうち特定行程におけるクランク軸21の回転速度の変動量に関する物理量である。
【0046】
失火判定部12は、エンジン20で失火が生じたか否かを判定する。失火判定部12は、回転速度変動物理量が取得される毎に、回転速度変動物理量に基づいて失火が生じたか否かを判定する。
【0047】
報知信号送信部16は、失火判定部12による判定結果を報知する。報知信号送信部16は、失火判定部12により失火と判定された場合には、報知装置30(図3参照)に失火の表示を行わせる。また、報知信号送信部16は、報知装置30に失火の情報を表示させる。
また、報知信号送信部16は、失火判定部12によって失火が検出された場合、失火の検出結果を表す失火情報を報知装置30に出力する。報知信号送信部16は、報知装置30としての診断装置が失火検出装置10と接続された時又は接続されている時に、記憶された情報を出力する。
【0048】
失火判定部12は、より詳細には、回転速度変動物理量が取得されるタイミングより前の第1先行タイミングで取得された回転速度変動物理量である第1先行物理量、及び、第1先行タイミングより更に前の第2先行タイミングで取得された回転速度変動物理量である第2先行物理量も用いて回転速度の低下、及び、低下の完了を検出する。失火判定部12は、第1先行タイミングにおけるクランク軸21の回転速度の低下を検出し、且つ、取得タイミングにおける回転速度の低下が完了したことを検出した場合に失火が生じたと判定する。
【0049】
図1のパート(b)には、「1」の直前のタイミング(位置)で失火が生じている場合の回転速度OMG、回転速度変動物理量SOMG、及び回転速度変動物理量SOMGから取得される差分ΔOMGが示されている。横軸はクランク軸21の回転角度を示す。ある時点での検出対象のクランク角度の位置の番号を「0」とし、「0」の位置から時間を遡って特定の行程が到来するクランク角度毎に「1」,「2」,「3」…の番号を割り当てている。
【0050】
例えば、「0」のタイミングでは、「0」のタイミングのエンジン20の回転速度と、1つ前の同一の行程である「1」のタイミングでの回転速度差から、変動量として、回転速度変動物理量SOMG(0)が取得される。回転速度変動物理量SOMG(0)が取得された場合、失火判定部12は、第1先行物理量SOMG(1)と、第2先行物理量SOMG(2)との差分ΔOMG(1)に基づき、第1先行タイミング(「1」)におけるクランク軸の回転速度の低下を検出する。第1先行タイミング(「1」)は、回転速度変動物理量SOMG(0)が取得される取得タイミング(「0」)よりも1つ前の吸気行程に対応するタイミングである。第1先行物理量SOMG(1)は、第1先行タイミング(「1」)で取得された回転速度変動物理量である。また、第2先行物理量SOMG(2)は、第1先行タイミング(「1」)よりも1つ前の吸気行程に対応する第2先行タイミング(「2」)で取得された回転速度変動物理量である。
また更に、失火判定部12は、回転速度変動物理量SOMG(0)と第1先行物理量SOMG(1)との差分ΔOMG(0)に基づき取得タイミング(「0」)における回転速度の低下が完了したことを検出する。
【0051】
図1のパート(b)の最下欄には、失火判定部12が失火の判定に適用する失火パターン範囲P1も示されている。失火パターン範囲P1は、2つの基準範囲P1a,P1bを有している。失火判定部12は、第1先行物理量SOMG(1)に対する回転速度変動物理量SOMG(0)の差分ΔOMG(1)が第1基準範囲P1a内にあり、且つ、第2先行物理量SOMG(2)に対する第1先行物理量SOMG(1)の差分ΔOMG(0)が第2基準範囲P1b内にあることを条件として、失火が生じたと判定する。ここで、第1基準範囲P1aと第2基準範囲P1bは互いに逆の極性に配置される。
図1のパート(b)に示す回転速度変動物理量SOMGの例では、「0」のタイミングにおいて、差分ΔOMG(1)は、第1基準範囲P1a内にある。差分ΔOMG(0)は、第2基準範囲P1b内にある。
【0052】
鞍乗型車両50(図2参照)に設けられるエンジン20は小さい慣性モーメントを有するため、特定行程に対応するタイミングで見た場合に、失火による回転速度OMGの低下が、次のタイミングで完了しやすい。
失火判定部12は、第1先行タイミングにおけるクランク軸21の回転速度OMGの低下を検出し、且つ、上記取得タイミングにおける回転速度OMG低下の完了を検出することによって、エンジン20における失火の発生を高い精度で判定することができる。失火判定部12によれば、鞍乗型車両50に設けられるエンジン20の失火を、エンジン20の小さい慣性モーメントの性質を利用して高い精度で判定することができる。
【0053】
図2は、図1に示す鞍乗型車両エンジンユニットを備えた鞍乗型車両を示す外観図である。
図2に示す鞍乗型車両50は、車体51及び車輪52a,52bを備えている。車輪52a,52bは、車体51に支持されている。鞍乗型車両50は、2つの車輪52a,52bを有する自動二輪車である。車輪52a,52bは、鞍乗型車両50の車体51に対して、鞍乗型車両50の前後方向Xに並んで配置されている。後ろの車輪52bは駆動輪である。
鞍乗型車両50は、鞍乗型車両エンジンユニットEU、及び駆動系59を備えている。鞍乗型車両エンジンユニットEUは、失火検出装置10及びエンジン20を備えている。駆動系59は、エンジン20の動力を伝達することによって、鞍乗型車両50を駆動する。
【0054】
図3は、図1に示す失火検出装置、及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
【0055】
図3に示す失火検出装置10は、エンジン20に係る装置である。本実施形態に係るエンジン20は、3気筒エンジンである。
【0056】
エンジン20は、クランク軸21を備えている。クランク軸21はエンジン20の動作に伴い回転する。クランク軸21には、クランク軸21の回転を検出させるための複数の被検出部25が設けられている。被検出部25は、クランク軸21の周方向に、クランク軸21の回転中心から見て予め定められた検出角度を空けて並んでいる。検出角度は、例えば15度である。但し、一部の隣り合う被検出部25の間隔は、上記検出角度よりも広い。被検出部25は、クランク軸21の回転と連動して移動する。
【0057】
角信号出力器27は、被検出部25の通過を検出すると信号を出力する。この結果、角信号出力器27は、クランク軸21の回転に応じてクランク角信号(角信号)を周期的に出力する。例えばクランク軸21が一定速度で回転する場合、角信号出力器27は検出角度に応じた一定周期で角信号を出力する。ただし、角信号出力器27は、一部の回転角度において検出角度に応じた周期より長い周期で角信号を出力する。
【0058】
失火検出装置10を構成するコンピュータ100は、CPU101、メモリ102、及びI/Oポート103を備えている。
CPU101は、制御プログラムに基づいて演算処理を行う。メモリ102は、制御プログラムと、演算に必要な情報とを記憶する。I/Oポート103は、外部装置に対し信号を入出力する。
I/Oポート103には、角信号出力器27が接続されている。角信号出力器27は、エンジン20のクランク軸21が検出角度回転する毎に角信号を出力する。
I/Oポート103には、報知装置30も接続されている。報知装置30は、失火検出装置10から出力される信号に基づいて情報を表示する。報知装置30は、例えば鞍乗型車両50に設けられた表示ランプである。また、報知装置30には、例えば、鞍乗型車両50の外部装置である診断装置も含まれる。
【0059】
本実施形態の失火検出装置10は、クランク軸21の回転速度に基づいて、エンジン20の失火を検出する。本実施形態の失火検出装置10は、エンジン20の動作を制御するエンジン制御装置(ECU)としての機能も有する。失火検出装置10には、不図示の吸気圧力センサ、燃料噴射装置、及び、点火プラグが接続される。
【0060】
図1に示す変動物理量取得部11と、失火判定部12と、報知信号送信部16と、燃焼制御部17と、報知信号送信部16と、燃焼制御部17とは、制御プログラムを実行するCPU101(図3参照)が、図3に示すハードウェアを制御することによって実現される。
【0061】
図1のパート(a)に示す変動物理量取得部11は、角信号出力器27からの角信号に基づいて、クランク軸21の回転速度変動物理量を取得する。角信号は、クランク軸21が検出角度回転する毎に出力される。
変動物理量取得部11は、角信号出力器27からの信号が出力されるタイミングの時間間隔を計測することによって回転速度を得る。また、変動物理量取得部11は、回転速度変動物理量を得る。変動物理量取得部11が取得する回転速度変動物理量は、エンジン20の回転速度変動物理量である。
【0062】
エンジン20の回転速度の変動には、エンジン20の燃焼による変動が含まれている。エンジン20の燃焼による変動は、4ストロークに相当するクランク角度と等しいか又はそれより短い角度周期を有する。
エンジン20の回転速度の変動には、エンジン20の燃焼による変動だけでなく、例えば悪路走行による変動が含まれる場合がある。悪路走行は、エンジン20の外的要因である。
【0063】
変動物理量取得部11は、例えば、各気筒の燃焼行程に対応する180度クランク角度の区間の回転速度と、燃焼行程の間の行程に対応する180度クランク角度の区間の回転速度とを得る。
【0064】
変動物理量取得部11は、エンジン20の回転速度について、同一の行程が連続する気筒における変動量を算出する。変動物理量取得部11は、この変動量に基づいて回転速度変動物理量を取得する。
【0065】
図4は、クランク軸の回転速度の例を示すチャートである。
図4のグラフの横軸はクランク軸21の回転角度θを示し、縦軸は回転速度を示す。図4に示す例では、回転速度の関係を分かりやすくするため、エンジン20の外的要因による変動を含まない。
図4のグラフは、回転速度OMGの変動を概略的に示している。回転速度OMGのグラフは、燃焼行程及び吸気行程に対応するクランク角度について算出された回転速度の値を曲線で結ぶことによって得られる。
図4のグラフは、時間を基準とした回転速度の推移ではなく、クランク角度を基準とした回転速度OMGの推移を示している。
【0066】
燃焼動作による回転変動は、720度クランク角度あたり、気筒数に相当する数の繰返し周期を有する。本実施形態に係るエンジン20は、等間隔燃焼の3気筒4ストロークエンジンである。図4に示す回転速度OMGの回転変動は、720度クランク角度当たり3つの繰返し周期を有している。即ち、エンジン20の燃焼動作による回転変動の周期は、4ストロークに相当するクランク角度(720度)より短い。各気筒の圧縮行程に対応する回転速度のピークは、240度クランク角度毎に表れる。
図4のグラフにおいて、ある時点における検出対象のクランク角度の位置の番号を「0」とし、「0」の位置から240度クランク角度毎に「1」,「2」,「3」…の番号を割り当てている。また、「0」と「1」の間に「0a」、そして、「1」と「2」の間に「1a」のように文字付きの番号を割り当てている。図4の例では、3つの気筒のうち第3の気筒の吸気行程(#3S)を、ある時点における検出対象である「0」の位置とする。「1」,「2」,「3」の位置は、第2の気筒、第1の気筒、第3の気筒における吸気行程(#2S,#1S,#3S)にそれぞれ対応している。
【0067】
各位置「0」,「1」,「2」,…における回転速度OMGの値を、OMG0,OMG1,OMG2,…と表す。変動物理量取得部11が得るクランク軸21の回転速度は、エンジン20の回転速度である。従って、クランク軸21の回転速度OMGをエンジン20の回転速度OMGとして説明する。各位置「0」,「1」,「2」,…は、回転速度変動物理量を取得するタイミングでもある。以降の説明では、「0」,「1」,「2」,…をタイミングとして説明する場合もある。
【0068】
本実施形態の変動物理量取得部11は、同一の行程が連続する気筒における回転速度の差分を算出する。変動物理量取得部11は、回転速度として、エンジン20の回転速度OMGを用いる。算出した差分を回転速度変動物理量とする。本実施形態における回転速度変動物理量は、2つの回転速度OMGの差分であり、回転速度に対する一階差分である。また、回転速度変動物理量SOMGは、回転速度の一次微分と言うことができる。
例えば、図4に示す「0」の位置が検出対象となる場合、同一の行程が連続する気筒に対応するクランク角度の位置は、「0」と「1」の位置である。例えば、「1」の位置は、第2の気筒の吸気行程(図4の#2S)に対応する。「0」の位置は、第3の気筒の吸気行程(図4の#3S)に対応する。つまり、「1」の位置と「0」の位置で第2の気筒の吸気行程と第3の気筒の吸気行程が連続する。「0」の位置における回転速度変動物理量は、回転速度OMG1と回転速度OMG0の差分である。
変動物理量取得部11は、算出した差分を回転速度変動物理量として取得する。
このようにして、変動物理量取得部11は吸気行程を特定行程とし、特定行程のタイミングでの回転速度変動物理量を取得する。
【0069】
図4の破線MS_OMGは、失火時の回転速度の変動を示している。破線MS_OMGは、第3の気筒の燃焼行程(#3W)において、失火時の回転速度の変動を概略的に示している。失火が生じた場合、燃焼による回転速度の上昇が生じないため、第1の気筒の前の気筒の燃焼行程(#2W)から、第1の気筒の次の気筒の燃焼行程(#1W)まで、回転速度が低下し続ける。つまり、「0」の位置における回転速度OMG0が、失火が生じない正常時と比べて低い。
【0070】
図5は、回転速度及び回転速度変動物理量の一例を示すチャートである。
図5には、「1」の直前のタイミング(位置)で失火が生じている場合の回転速度OMG及び回転速度変動物理量SOMGが示されている。また、図5には、回転速度変動物理量SOMGから取得される差分ΔOMGが示されている。
図5において、ある特定行程のタイミングにおける回転速度変動物理量SOMGは、この特定行程の1つ前の特定行程のタイミングで取得された回転速度OMGから、この特定行程のタイミングで取得された回転速度OMGを引いた差分である。例えば、「0」のタイミングにおける回転速度変動物理量SOMG(0)は、「0」の一つ前である「1」のタイミングにおける回転速度OMG(1)から、「0」のタイミングにおける回転速度OMG(0)を引いた差分である。従って、図5のチャートに示す回転速度変動物理量SOMGの正の値は、回転速度OMGの減速を示している。回転速度変動物理量SOMGの負の値は、回転速度の加速を示している。
【0071】
失火判定部12は、回転速度変動物理量SOMGが取得される度に、この回転速度変動物理量、及び、先行するタイミングで既に取得された回転速度変動物理量に基づいて、クランク軸21の回転速度の低下、及び回転速度の低下の完了を検出する。
より詳細には、失火判定部12は、回転速度変動物理量SOMGが取得される取得タイミングよりも1つ前の特定行程に対応する第1先行タイミングで取得された第1先行物理量と、第1先行タイミングよりも1つ前の特定行程に対応する第2先行タイミングで取得された第2先行物理量との差分に基づき、第1先行タイミングにおけるクランク軸の回転速度の低下を検出する。また、失火判定部12は、回転速度変動物理量と第1先行物理量との差分に基づき、上記取得タイミングにおける回転速度の低下が完了したことを検出する。そして、失火判定部12は、上述したクランク軸の回転速度の低下を検出し、且つ回転速度の低下の完了を検出した場合に、エンジン20で失火が生じたと判定する。
【0072】
例えば、図5の「0」のタイミングで回転速度変動物理量SOMG(0)が取得された場合、失火判定部12は、第1先行物理量SOMG(1)と、第2先行物理量SOMG(2)との差分ΔOMG(1)に基づき、第1先行タイミング(「1」)におけるクランク軸の回転速度の低下を検出する。第1先行タイミング(「1」)は、回転速度変動物理量SOMG(0)が取得される取得タイミング(「0」)よりも1つ前の吸気行程に対応するタイミングである。第1先行物理量SOMG(1)は、第1先行タイミング(「1」)で取得された回転速度変動物理量である。また、第2先行物理量SOMG(2)は、第1先行タイミング(「1」)よりも1つ前の吸気行程に対応する第2先行タイミング(「2」)で取得された回転速度変動物理量である。
【0073】
また更に、失火判定部12は、回転速度変動物理量SOMG(0)と第1先行物理量SOMG(1)との差分ΔOMG(0)に基づき取得タイミング(「0」)における回転速度の低下が完了したことを検出する。
【0074】
図5の最下欄のチャートには、各タイミングで得られる回転速度変動物理量SOMGの差分ΔOMGが示されている。このチャートには、失火判定部12が失火の判定に適用する失火パターン範囲P1も示されている。失火パターン範囲P1は、2つの基準範囲P1a,P1bを有している。第1基準範囲P1aは、第2先行物理量SOMG(2)に対する第1先行物理量SOMG(1)の差分ΔOMG(1)の判定に適用される。第2基準範囲P1bは、第1先行物理量SOMG(1)に対する回転速度変動物理量SOMG(0)の差分ΔOMG(0)の判定に適用される。
【0075】
失火パターン範囲P1の第1基準範囲P1aの大きさは、差分ΔOMG(1)の値に応じて決定される。差分ΔOMG(0)に対応した第2基準範囲P1bの上限は、差分ΔOMG(1)の値に対し、所定の係数を乗じることによって算出される。
【0076】
より詳細には、2つの基準範囲P1a,P1bの間には、差分ΔOMG=0の線が延びている。すなわち、失火パターン範囲P1が有する2つの基準範囲P1a,P1bは、互いに逆の極性に配置される。
【0077】
つまり、失火判定部12は、第1先行物理量SOMG(1)に対する回転速度変動物理量SOMG(0)の差分ΔOMG(1)が第1基準範囲P1a内にあり、且つ、第2先行物理量SOMG(2)に対する第1先行物理量SOMG(1)の差分ΔOMG(0)が第2基準範囲P1b内にあることを条件として、失火が生じたと判定し、第1基準範囲P1と第2基準範囲P1baは互いに逆の極性に配置される。
【0078】
図5に示す回転速度変動物理量SOMGの例では、「0」のタイミングにおいて、差分ΔOMG(1)は、第1基準範囲P1a内にある。差分ΔOMG(0)は、第2基準範囲P1b内にある。また、差分ΔOMG(1)の極性と、ΔOMG(0)の極性は互いに逆である。
従って、図5に示す回転速度変動物理量SOMGに対し、失火判定部12は、「1」のタイミングで失火が生じたと判定する。
【0079】
このようにして、失火判定部12は、回転速度変動物理量SOMGから取得される複数の差分が、所定の失火パターン範囲P1内にあるか否かを判定する。言い換えると、失火判定部12は、順次到来するタイミングで取得される回転速度変動物理量SOMGの変動に、失火パターン範囲P1で示すような部分があるか否かを判定する。これによって、失火判定部12は、回転速度OMGの低下及びこれに続く低下の完了が失火に起因するか否かを判定する。
【0080】
例えば、失火の判定として、本実施形態のような複数の差分ΔOMG(1),ΔOMG(0)の組合せを評価する代わりに、1つの差分を評価する検出方法が考えられる。この場合、1つの差分ΔOMGが取得される度に、この1つの差分ΔOMGが、例えば図5に示す基準値ARと単純に比較される。
図5に示す回転速度OMGの変動の例では、「-3」のタイミングで失火は生じていない。しかし、「1」のタイミングで失火による回転速度の低下の反動で回転速度が一旦上昇した後、回転速度が収束するため「-3」のタイミングで低下する。1つの差分ΔOMGを基準値ARと比較する場合、「-3」のタイミングでの回転速度の低下によって、差分ΔOMG(-3)が基準値ARを超えるため失火と誤判定される。
【0081】
本実施形態の失火判定部12によれば、2つの差分の組合せを用いて失火が判定される。つまり、2つの差分ΔOMG(1),ΔOMG(0)の変動のパターンによって失火を判定している。2つの差分の変動のパターンによって、クランク軸の回転速度の低下と、低下の完了がまとめて判定される。失火判定部12の判定によれば、誤検出の頻度を抑え、高い精度で失火を検出することができる。
【0082】
また、回転速度変動物理量SOMGは回転速度に対する一階差分である。回転速度変動物理量SOMGから取得される差分ΔOMGは、回転速度に対する二階差分である。回転速度に対する二階差分では、例えば鞍乗型車両50の加速又は減速に伴う回転速度の緩やかな変化の影響が、一階差分と比べて抑制される。従って、高い精度で失火を検出することができる。
【0083】
本実施形態の失火判定部12による判定は、失火時の回転速度変動物理量の分布と正常時の回転速度変動物理量の分布が互いに近い場合又は互いに接している状況で有効性が高い。ここで、回転速度変動物理量の分布が互いに近い場合又は互いに接している状況について説明する。
【0084】
図6は、エンジンに関する回転速度変動物理量の分布を示す説明図である。
図6の横軸は、クランク軸の回転速度を示す。縦軸はエンジン20の負荷を示す。図6は、エンジン20が出力可能な回転速度と負荷の範囲全体を表している。
図6には、エンジン20が出力可能なクランク軸回転速度の範囲を等分した3つの領域が示されている。また、図6には、エンジン20が出力可能な負荷の範囲を等分した3つの領域が示されている。つまり、図6には、クランク軸回転速度の大きさと負荷大きさの組合せが異なる9つの領域が示されている。9つの領域のうち、高負荷・高回転速度領域HHと低負荷・低回転速度領域LLに符号を付している。例えば、低負荷・低回転速度領域LLは、エンジン20で出力可能なクランク軸回転速度の範囲を等分した3つの領域のうち最も小さいクランク軸回転速度を含む低回転速度領域で、且つ、前記内燃機関で出力可能な負荷の範囲を等分した3つの領域のうち最も小さい負荷を含む領域である。
【0085】
図6には、9つの領域毎に領域を代表する回転速度変動物理量の分布が示されている。
エンジン20は、鞍乗型車両50(図2参照)に搭載するため、クランク軸21の慣性モーメントが小さくなるように構成されている。クランク軸21の慣性モーメントの低減に起因して、低負荷・低回転速度領域LLにおいて、分布Eと、分布Mとが、互いに重なるように生じる。分布Eと、分布Mとが、互いに重なるように生じるエンジン20の動作領域を重複動作領域と称する。低負荷・低回転速度領域LLは、重複動作領域に含まれている。重複動作領域において分布Eの裾Etと、分布Mの裾Mtとの間に、間隔Gaが無い。その結果、低負荷・低回転速度領域LLにおける失火の検出性能が低下する。低負荷・低回転速度領域LLにおいては、悪路走行状態と失火との区別が困難である。
【0086】
エンジン20では、高負荷・高回転速度領域HHを含む高負荷領域全体において、間隔Gaが広く確保されている。
例えば、高負荷・高回転速度領域HHのように、分布Eの裾Etと、分布Mの裾Mtとの間隔が充分に離れていれば、悪路走行によって回転速度変動物理量SOMGが増大しても分布Eの裾Etと、分布Mの裾Mtとの間隔が離れている。従って、回転速度変動物理量の差分が物理量判定基準ARよりも大きいか否かを判定することによって失火を判定することも可能である。
【0087】
しかし、例えば、低負荷・低回転速度領域LLのように、分布Eの裾Etと、分布Mの裾Mtとの間に間隔Gaが無い場合、物理量判定基準ARよりも大きいと判定されたクランク軸回転速度変動物理量に、正常時のクランク軸回転速度変動物理量が混在している可能性がある。
また、例えば鞍乗型車両50(図2参照)の悪路走行状態では、失火時でない場合に物理量判定基準ARよりも大きいと判定される回転速度変動物理量SOMGの数が増大する場合がある。すなわち、判定結果には、誤判定が混在する場合がある。
【0088】
本実施形態の失火検出装置10によれば、失火に起因するクランク軸の回転速度の低下と、低下の完了の双方が判定される。このため、例えば、低負荷・低回転速度領域LLのような重複領域でも失火を高い精度で検出することができる。また、失火に起因するクランク軸の回転速度の低下と、低下の完了の双方が判定されることによって、検出結果から悪路走行状態による変動をより高い精度で除外することができる。
【0089】
図7は、図1に示す失火検出装置の動作を示すフローチャートである。
【0090】
失火判定部12は、回転速度変動物理量が取得される毎に失火の判定を行う。
まず、失火判定部12は、エンジン20が重複動作領域で動作しているか否か判定する(S11)。
例えば、エンジン20が高負荷・高回転速度領域HHで動作している場合、エンジン20が重複動作領域で動作していない。この場合(S11でNo)、失火判定部12は、簡略失火検出を行う(S12)。簡略失火検出では、回転速度変動物理量の1つの差分毎に、この差分が物理量判定基準ARよりも大きいか否かを判定することによって失火を判定する。
【0091】
エンジン20が、低負荷・低回転速度領域LLのように、少なくとも重複動作領域で動作している場合(S11でYes)、失火判定部12は、回転速度OMGの低下及びこれに続く低下の完了が失火に起因するか否かを判定する。
【0092】
エンジン20が重複動作領域で動作している場合(S11でYes)、失火判定部12は判定期間を計数する(S13)。失火判定部12は、例えばクランク軸回転数を計数することによって判定期間を計数する。
【0093】
続いて、失火判定部12は、第2先行物理量SOMG(2)と第1先行物理量SOMG(1)との差分が、図5に示した第1基準範囲P1a内にあるか否か判定する(S14)。
上記ステップS14において、差分が、図5に示した第1基準範囲P1aにある場合(S14でYes)、失火判定部12は、クランク軸の回転速度が失火により低下した可能性があると判定する。この場合、失火判定部12は、今回の取得タイミングで取得された回転速度変動物理量SOMG(0)と、第1先行物理量SOMG(1)との差分が、図5に示した第2基準範囲P1b内にあるか否か判定する(S15)。回転速度変動物理量SOMG(0)と、第1先行物理量SOMG(1)との差分が第2基準範囲P1b内にある場合(S15でYes)、失火判定部12は、回転速度の低下が完了したと判定する。
【0094】
上記の判定において、クランク軸の回転速度が低下し(S14でYes)、且つ、次の取得タイミングで回転速度の低下が完了したと判定された場合(S15でYes)、失火判定部12は、失火が生じたと判定する。失火判定部12は、失火カウンタを計数する(S18)。
【0095】
これに対し、上記ステップS14又はS15のいずれかの判定が否定的であった場合(S14でNo、又は、S15でNo)、失火判定部12は、失火が生じていないと判定する。この場合、失火判定部12は、失火カウンタの計数を省略する。
【0096】
失火判定部12は、判定期間が経過したか否か判定する(S19)。
判定期間が経過した場合(S19でYes)、失火判定部12は、失火カウンタの値が、報知のための基準値を越えているか否か判定する(S22)。
【0097】
異常変動カウンタの値が基準値を越えている場合(S22でYes)、失火判定部12は、報知信号送信部16に報知のための処理を実行させる(S23)。これによって、報知信号送信部16は、報知装置30に報知信号を送信する。失火判定部12は、報知信号送信部16に失火の数として異常変動カウンタの値を送信させる。
【0098】
[第二実施形態]
続いて、本発明の第二実施形態について説明する。
本発明の第二実施形態は、失火の判定に用いる失火パターン範囲P2に第3基準範囲Pcを含み第3基準範囲Pcについても判定を行う点において、第一実施形態と異なる。第二実施形態におけるこの他の点は、第一実施形態と同じである。従って、第二実施形態の説明では、第一実施形態についての図面を流用し、第一実施形態と同じ符号を用いる。
【0099】
図8は、本発明の第二実施形態における回転速度及び回転速度変動物理量の一例を示すチャートである。
本実施形態における失火判定部12が失火の判定に用いる失火パターン範囲P2は、3つの基準範囲P2a,P2b,P2cを有している。第1基準範囲P2aは、第2先行物理量SOMG(2)に対する第1先行物理量SOMG(1)の差分ΔOMG(1)に適用される。第2基準範囲P2bは、第1先行物理量SOMG(1)に対する回転速度変動物理量SOMG(0)の差分ΔOMG(0)に適用される。
第3基準範囲P2cは、第3先行物理量SOMG(3)に対する第2先行物理量SOMG(2)の差分ΔOMG(2)に適用される。
【0100】
失火判定部12は、差分ΔOMG(1)の値が第1基準範囲P2a内にあり、且つ、ΔOMG(0)が第2基準範囲P2b内にあり、更に、ΔOMG(2)が第3基準範囲P2c内にある場合に、回転速度OMGの低下及びこれに続く低下の完了が失火に起因すると判定する。すなわち、失火判定部12は、3つの差分ΔOMG(1),ΔOMG(0),ΔOMG(2)の組合せを評価する。
【0101】
図9は、本発明の第二実施形態における失火検出装置の動作を示すフローチャートである。
実施形態における失火判定部12は、第一実施形態の処理(図7参照)に対し、更に、差分ΔOMG(2)が第3基準範囲P2c内にあるか否かの判定(S16)を追加で実施する。その他の処理は、第一実施形態の処理と同じである。
【0102】
すなわち、本実施形態の失火判定部12は、回転速度変動物理量SOMGが取得される取得タイミング(「0」)よりも前の特定行程に対応する第1先行タイミング(「1」)で取得された物理量である第1先行物理量SOMG(1)と、第1先行タイミング(「1」)よりも前の特定行程に対応する第2先行タイミング(「2」)で取得された物理量である第2先行物理量SOMG(2)との差分ΔOMG1に基づき第1先行タイミング(「1」)におけるクランク軸21(図1参照)の回転速度の低下を検出し、且つ、回転速度変動物理量SOMG(0)と第1先行物理量SOMG(1)との差分ΔOMG0に基づき取得タイミング(「0」)における回転速度OMGの低下が完了したことを検出し、且つ、第2先行タイミング(「2」)よりも前の特定行程に対応する第3先行タイミング(「「3」)で取得された物理量である第3先行物理量SOMG(3)と、第2先行タイミング(「2」)で取得された物理量である第2先行物理量SOMG(2)との差分ΔOMG2に基づき第2先行タイミング(「2」)におけるクランク軸21の回転速度が所定範囲内にあることを検出した場合に前記内燃機関で失火が生じたと判定する。
【0103】
本実施形態における失火パターン範囲P2の第1基準範囲P2aは、第一実施形態における第1基準範囲P1aと同じである。また、第2基準範囲P2bは、第一実施形態における第2基準範囲P1bと同じである。
失火パターン範囲P2における第3基準範囲P2cは、上限及び下限を有している。失火パターン範囲P2における第3基準範囲P2cの大きさは、差分ΔOMG(1)の値に応じて決定される。第3基準範囲P2cの上限及び下限は、差分ΔOMG(1)の値に対し係数を乗じることによって算出される。
第3基準範囲P2cの上限は、差分ΔOMG(1)以下である。図9に示す例において、第3基準範囲P2cの上限は、正の値である。また第3基準範囲P2cの下限は負の値である。すなわち、第3基準範囲P2cは差分ΔOMG=0を含むように設定される。また、第3基準範囲P2cの上限は、差分ΔOMG(1)以下である。図9に示す例において、第3基準範囲P2cの上限は、第1基準範囲P2aの下限よりも小さい。
【0104】
第3基準範囲P2cは、図9に示す範囲に固定される必要はない。例えば、第3基準範囲P2cは、回転速度変動物理量SOMGの変動量に基づいて変更することが可能である。この場合、第3基準範囲P2cの上限は、差分ΔOMG(1)以下である。第3基準範囲P2cの下限は、負の値である。
第3基準範囲P2cの上限及び下限は、例えば、差分ΔOMG(1)に対し、鞍乗型車両50の状態を表す係数を乗じた値を設定することが可能である。この場合、第3基準範囲P2cの上限及び下限は、差分ΔOMG(1)が取得される度に変化する。第3基準範囲P2cの上限は、差分ΔOMG(1)以下の値に設定される。但し、第3基準範囲P2cの上限として、物理量判定基準ARよりも大きい値を設定することが可能である。また、例えば、第3基準範囲P2cの上限として、例えば、負の値も採用可能である。この場合、第3基準範囲P2cは差分ΔOMG=0を含まない。
また、第3基準範囲P2cは、例えば、鞍乗型車両エンジンユニットEUが適用される鞍乗型車両50(図2参照)の種類や鞍乗型車両50の走行状態に基づいて調整することも可能である。
【0105】
鞍乗型車両に搭載されるエンジン20では、排気バルブ及び吸気バルブが同時に開くバルブオーバーラップの期間が長い。このため燃焼前の気筒には燃焼済み排ガスが含まれている。しかし、エンジン20で失火が生じると、失火が生じた気筒内には未燃焼のガスが残る。このため、次の燃焼の気筒に含まれる燃焼済み排ガスの濃度が低くなる。
このため、エンジン20で失火が生じた場合、この失火が生じた気筒の次の燃焼によって、回転速度が、通常よりも高くなる。この場合、更に次の燃焼によって、回転速度が通常の速度に戻る。つまり、失火が生じた気筒では、その後回転速度の上昇と低下を繰り返しやすい。
【0106】
本実施形態では、失火判定部12が、第3先行タイミング(「3」)から第2先行タイミング(「2」)にかけての回転速度変動物理量の変動が第3基準範囲P2cの範囲にあることも検出する。このため、上述した回転速度の上昇と低下の繰り返しを、失火と誤検知することが抑えられる。従って、失火をより高い精度で検出することができる。
【0107】
[第三実施形態]
続いて、本発明の第三実施形態について説明する。
本発明の第三実施形態は、回転速度変動物理量が取得される取得タイミング、第1先行タイミング、第2先行タイミング、第3先行タイミングが互いに720度クランク角の間隔を有する点において、第二実施形態と異なる。第三実施形態におけるこの他の点は、第二実施形態と同じである。従って、第三実施形態の説明では、第二実施形態についての図面を流用し、第二実施形態と同じ符号を用いる。
【0108】
図10は、本発明の第三実施形態における回転速度及び回転速度変動物理量の一例を示すチャートである。
【0109】
エンジン20(図1及び図2参照)は、3気筒エンジンである。エンジン20が有するそれぞれの気筒では、720度クランク角毎に特定行程(例えば吸気行程)が実施される。
本実施形態の失火判定部12は、同じ気筒で特定が2回実施される時の回転速度変動物理量SOMG同士の差分ΔOMGに基づき失火の判定を行う。
【0110】
図10に示す回転速度OMGは、第一実施形態で参照した図5の回転速度OMGと同じである。
ここで、例えば第2の気筒で特定工程が実施されるタイミングに着目する。第2の気筒の吸気行程(#2S)に対応する「-2」のタイミングで回転速度変動物理量SOMG(0)が取得された場合、失火判定部12は、第1先行物理量SOMG(1)として、第2の気筒の吸気行程に対応する「1」のタイミングの回転速度変動物理量を参照する。また、失火判定部12は、第2先行物理量SOMG(2)として、第2の気筒の吸気行程に対応する「4」のタイミングの回転速度変動物理量を参照する。
【0111】
すなわち、失火判定部12は、第1先行物理量SOMG(1)と、第2先行物理量SOMG(2)との差分ΔOMG(1)に基づき、第1先行タイミング(「1」)におけるクランク軸の回転速度の低下を検出する。第1先行タイミング(「1」)は、回転速度変動物理量SOMG(0)が取得される取得タイミング(「-2」)よりも720度クランク角前の吸気行程に対応するタイミングである。また、第1先行物理量SOMG(1)は、第1先行タイミング(「1」)で取得された回転速度変動物理量である。また、第2先行物理量SOMG(2)は、第1先行タイミング(「1」)よりも720度クランク角前の吸気行程に対応する第2先行タイミング(「4」)で取得された回転速度変動物理量である。
また、失火判定部12は、回転速度変動物理量SOMG(0)と第1先行物理量SOMG(1)との差分ΔOMG(0)に基づき取得タイミング(「-2」)における回転速度の低下が完了したことを検出する。
また、失火判定部12は、第1先行タイミング(「1」)よりも720度クランク角前の吸気行程に対応する第2先行タイミング(「4」)に対応する差分ΔOMG(2)も、判定の条件に含める。
【0112】
本実施形態の失火判定部12は、差分ΔOMG(1)の値が第1基準範囲P3a内にあり、且つ、ΔOMG(0)が第2基準範囲P3b内にあり、更に、ΔOMG(2)が第3基準範囲P3c内にある場合に、回転速度OMGの低下及びこれに続く低下の完了が失火に起因すると判定する。すなわち、失火判定部12は、3つの差分ΔOMG(1),ΔOMG(0),ΔOMG(2)の組合せを評価する。
【0113】
本実施形態の第3基準範囲P3cは、第二実施形態の場合と同じく、回転速度変動物理量SOMGの変動量に基づいて変更することが可能である。この場合、第3基準範囲P3cの上限は、差分ΔOMG(1)以下である。第3基準範囲P3cの下限は、負の値である。
【0114】
[第四実施形態]
続いて、本発明の第四実施形態について説明する。
本発明の第四実施形態において、変動物理量取得部11(図1参照)は、回転速度変動物理量SOMGとして、回転速度の差分に代えて回転速度そのものを取得する点において、第二実施形態と異なる。すなわち変動物理量取得部11は、回転速度変動物理量SOMGとして、回転速度を出力する。
従って、失火判定部12は、回転速度変動物理量の差分ΔOMGとして回転速度の差分を判断に用いる。
第四実施形態におけるこの他の点は、第二実施形態と同じである。従って、第四実施形態の説明では、第二実施形態についての図面を流用し、第二実施形態と同じ符号を用いる。
【0115】
図11は、本発明の第四実施形態における回転速度及び回転速度変動物理量の一例を示すチャートである。
図11に示す回転速度は、第一実施形態で参照した図5の回転速度と同じである。但し、本実施形態において、回転速度はそのまま、回転速度変動物理量SOMGとして用いられる。
図11の「0」のタイミングで回転速度変動物理量SOMG(0)が取得された場合、失火判定部12は、第1先行物理量SOMG(1)と、第2先行物理量SOMG(2)との差分ΔOMG(1)に基づき、第1先行タイミング(「1」)におけるクランク軸の回転速度の低下を検出する。本実施形態における回転速度変動物理量SOMG(0)、第1先行物理量SOMG(1)、及び第2先行物理量SOMG(2)は、実際には、回転速度である。
図11に示す失火パターン範囲P4は、2つの基準範囲P4a,P4bを有している。第1基準範囲P4aは、第1先行物理量SOMG(1)に対する回転速度変動物理量SOMG(0)の差分ΔOMG()に適用される。第2基準範囲P4bは、第2先行物理量SOMG(2)に対する第1先行物理量SOMG(1)の差分ΔOMG()に適用される。
失火判定部12は、差分ΔOMG(1)の値が第1基準範囲P4a内にあり、ΔOMG(0)が第2基準範囲P4b内にある場合に、回転速度OMGの低下及びこれに続く低下の完了が失火に起因すると判定する。すなわち、失火判定部12は、複数の差分ΔOMG(1),ΔOMG(0)の組合せを評価する。
【0116】
本実施形態において、差分ΔOMGは、回転速度に対する一階差分である。また、差分ΔOMGは、回転速度の一次微分と言うことができる。失火判定部12は、回転速度に対する複数の一階差分の組合せのパターンが、所定の失火パターン範囲内にあるか否かを判定する。
本実施形態による判定でも、失火による回転速度の低下の反動で回転速度が上昇する影響による誤検出の頻度を抑えることができる。従って、高い精度で失火を検出することができる。
回転速度を回転速度変動物理量として用いる判定でも、失火パターン範囲P4として、2つの基準範囲P4a,P4bに加え、更に異なる基準範囲を含む3つの基準範囲を有する失火パターン範囲を用いることは可能である。また、前のタイミングとして、例えば図10を参照して説明したように、同じ気筒の特定行程のタイミングにおける回転速度変動物理量を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0117】
EU 鞍乗型車両エンジンユニット
10 失火検出装置
11 クランク軸回転速度変動物理量取得部(変動物理量取得部)
12 失火判定部(失火判定器)
20 エンジン(内燃機関)
21 クランク軸
27 クランク角信号出力器(角信号出力器)
50 鞍乗型車両
52b 車輪(駆動輪)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11