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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】ヌメリ取り具
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/26 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
E03C1/26 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021511437
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012217
(87)【国際公開番号】W WO2020203337
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2019065669
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512160070
【氏名又は名称】ニッソーファイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐原 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】秋田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 博之
(72)【発明者】
【氏名】樋口 嘉恵
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】意匠登録第1625052(JP,S)
【文献】特開2000-144840(JP,A)
【文献】特開2006-028887(JP,A)
【文献】特開2004-324314(JP,A)
【文献】特開2003-213754(JP,A)
【文献】特開2005-127009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12-1/33
日本意匠分類 M2-84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水口の底部に載置してヌメリを防除するためのヌメリ取り具であって、少なくとも
(A)ヌメリ取り用固形薬剤を収納するための、排水流入口と薬液流出口とを有する薬剤収納部であって、ヌメリ取り具を、下記排水口底部当接部材が排水口底部の水平面に接触するように、排水口底部に置いた場合に、ヌメリ取り具の上部に位置し、かつ上方から見てヌメリ取り具の外周に位置するように設けた、少なくとも1個の薬剤収納部、及び
(B)ヌメリ取り具を、下記排水口底部当接部材が排水口底部の水平面に接触するように、排水口底部に置いた場合に、排水口の底部に当接するように設けた排水口底部当接部材と、前記薬剤収納部を下方から支持する薬剤収納部支持部材とを少なくとも含む、フレーム構造部
を有し、フレーム構造部の薬剤収納部支持部材は薬剤収納部と接続して薬剤収納部及びフレーム構造部は1個の略環状体をなし、
ヌメリ取り具の外周の少なくとも1つの径方向に相対するヌメリ取り具の2点間で、外向きに引張荷重をかけることにより、該2点間の長さが荷重開始時の20%増加した時点での引張荷重が3N以上であり、かつ内向きに曲げ圧縮荷重をかけることにより、該2点間の長さが荷重開始時の50%減少した時点での曲げ圧縮荷重が0.7N以上である、ヌメリ取り具。
【請求項2】
薬剤収納部が複数あり、フレーム構造部の薬剤収納部支持部材が複数の薬剤収納部を直列に連結している、請求項1に記載のヌメリ取り具。
【請求項3】
薬剤収納部が複数あり、フレーム構造部の薬剤収納部支持部材、及び隣接する2個の薬剤収納部を結合する薬剤収納部連結部材が、複数の薬剤収納部を直列に連結している、請求項1に記載のヌメリ取り具。
【請求項4】
排水口底部当接部材に、排水口底部突出部受け部が設けられている、請求項1~3のいずれかに記載のヌメリ取り具。
【請求項5】
浴室の排水口を使用対象とする、請求項1~4のいずれかに記載のヌメリ取り具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水設備に設置するヌメリの除去および防止のための器具に関する。特に、浴室等の排水口に好ましく適用することができる、ヌメリの除去および防止のための器具に関する。
本願は、2019年3月29日に出願された日本国特許出願第2019-65669号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
台所流し台や浴室の排水口、これらの設備に設置するゴミ取り籠、あるいは排水管内等には、雑菌やカビ等の微生物あるいはその代謝物によるヌメリが発生しやすく、このようなヌメリを除去し、又はその発生を防止するための薬剤(ヌメリ取り用薬剤)や、薬剤を収納して効果を発揮させるための器具(ヌメリ取り具)が、多数提案され、使用されている。
【0003】
浴室の排水口の形式は多様である。特に、排水口周辺が洗い場よりくぼんでいる排水口(形状によっては「排水枡」と呼ばれることもある。)は、くぼみの形状も多様であり、特に底部は平面であるものや凹凸および傾斜を有するものがあり、これらのいずれにも設置できて効果を発揮するヌメリ取り具は知られていなかった。そのため、台所流し台の排水口とは異なり、浴室の排水口については、ヌメリを防除するには頻繁に清掃する必要があった。特に、排水枡が蓋や目皿で覆われている場合には、通気性が悪く湿度が常に高いため、微生物の繁殖防止が困難であるにもかかわらず、その清掃には手間がかかるという問題もあった。
特許文献1には、表面に抗菌・抗カビ材が塗布又はメッキされた抗菌及び抗カビ用構造体を、排水枡の内部底面に置くことで、排水枡内の抗菌・抗カビ効果を発揮させる方法が記載されているが、排水枡周壁に対する効果は記載されていない。
また、浴室の排水口には、特に毛髪が集中し、通常これが排水管内に流入しないように目皿やストレーナーが設置されるが、その上にヌメリ取り具を設置すると、ヌメリ取り具に毛髪がまとわりつくことがある。
特許文献2には、リング状の浴室排水口用のヌメリ取り器について、毛髪が外側周面下端にまとわりついて、排水の一部が流入・流出する外孔が閉塞され、薬剤溶解液の流出に支障を来すことを防ぐため、毛髪通過部を設けることが記載されている。ここでは、毛髪が毛髪通過部を通ってリング内に流入し、ヌメリ取り器に毛髪がまとわりつくことが防止できることが記載されている。
特許文献3には、網状の通水部を有し、排水口目皿を覆うように装着して使用するゴミ取り具が記載されており、さらに中央付近にヌメリ防除剤を収納してもよいことが記載されている。このゴミ取り具は通水部に毛髪を捕集することを主目的としているが、目皿やストレーナーがある場合にはこのような毛髪捕集具は特に必要なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-5603号公報
【文献】特開2003-213754号公報
【文献】特開2016-98476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上挙げた文献に開示されたヌメリ取り具は、くぼんだ排水口の周壁に対しては特段の効果を発揮せず、また底部が平面からなる特定の構造を有する排水口にしか適用できない。
そこで、本発明は、周壁を含め排水口周辺のくぼみ部全体に効果を発揮し、さらに一般の浴室排水口に使用可能であるヌメリ取り具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を開始した。その結果、ヌメリ取り具のフレーム構造部を排水口底部の形状に適合させた形状として排水口底部に載置し、上方にある薬剤収納部を下方から支持して排水口周壁に接触させるヌメリ取り具により、上記課題が解決されることを見出した。
またヌメリ取り具では、水流を阻害せず、それ自体にヌメリや汚れが残りにくくする等の必要があり、そのためにはできるだけ単純な構造が望ましい。本発明者らは、そのために、比較的細いフレーム構造部と薬剤収納部とが直列した略環状構造を採用した。
以上に加え、くぼんだ排水口で使用する場合には、特許文献2の毛髪通過部に相当する部分があっても、くぼみのない排水口で使用した場合に比較して、ヌメリ取り具に多くの毛髪がからみつくことが明らかになった。従って、からみついた毛髪を容易に除去できるようにすることが、新たな課題として判明した。
こうしてからみついた毛髪を、手で引っ張って除去しようとすると、フレーム構造部が変形しやすく、除去が困難であった。これは、フレーム構造部に、排水口底部に載置するための水平方向の部材や、薬剤収納部を下方から支持するための上下方向の部材など、方向を異にする部分があり、水平方向に引っ張ると、上下方向の部材で撓みが生じ易いためである。
本発明者らはこの検討により、上方にある薬剤収納部を下方から支持するタイプのヌメリ取り具において、フレーム構造部の剛性を高くすることにより、毛髪の除去が容易になることを見出した。
また発明者らは、検討の過程で、複数の薬剤収納部を細いフレーム構造部で水平方向に連結した閉環状であり、前記の上下方向部材を有しないリング状ヌメリ取り具(以下「ネックレス状ヌメリ取り具」と称する。)についても比較した。このネックレス状ヌメリ取り具は、くぼんだ排水口で使用すると多量の毛髪が細いフレーム構造部に複雑に巻き付くため、毛髪の除去が非常に困難であった。
本発明者らはこれらの検討により、上方にある薬剤収納部を下方から支持するタイプのヌメリ取り具において、フレーム構造部の剛性を高くすることにより、毛髪の除去が容易になることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
(1) 排水口の底部に載置してヌメリを防除するためのヌメリ取り具であって、少なくとも
(A)ヌメリ取り用固形薬剤を収納するための、排水流入口と薬液流出口とを有する薬剤収納部であって、ヌメリ取り具を、下記排水口底部当接部材が排水口底部の水平面に接触するように、排水口底部に置いた場合に、ヌメリ取り具の上部に位置し、かつ上方から見てヌメリ取り具の外周に位置するように設けた、少なくとも1個の薬剤収納部、及び
(B)ヌメリ取り具を、下記排水口底部当接部材が排水口底部の水平面に接触するように、排水口底部に置いた場合に、排水口の底部に当接するように設けた排水口底部当接部材と、前記薬剤収納部を下方から支持する薬剤収納部支持部材とを少なくとも含む、フレーム構造部
を有し、フレーム構造部の薬剤収納部支持部材は薬剤収納部と接続して薬剤収納部及びフレーム構造部は1個の略環状体をなし、
ヌメリ取り具の外周の少なくとも1つの径方向に相対するヌメリ取り具の2点間で、外向きに引張荷重をかけることにより、該2点間の長さが荷重開始時の20%増加した時点での引張荷重が3N以上であり、かつ内向きに曲げ圧縮荷重をかけることにより、該2点間の長さが荷重開始時の50%減少した時点での曲げ圧縮荷重が0.7N以上である、ヌメリ取り具。
(2)薬剤収納部が複数あり、フレーム構造部の薬剤収納部支持部材が複数の薬剤収納部を直列に連結している、(1)に記載のヌメリ取り具。
(3)薬剤収納部が複数あり、フレーム構造部の薬剤収納部支持部材、及び隣接する2個の薬剤収納部を結合する薬剤収納部連結部材が、複数の薬剤収納部を直列に連結している、(1)に記載のヌメリ取り具。
(4)排水口底部当接部材に、排水口底部突出部受け部が設けられている、(1)~(3)のいずれかに記載のヌメリ取り具。
(5)浴室の排水口を使用対象とする、(1)~(4)のいずれかに記載のヌメリ取り具。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、多様な浴室排水口に適用でき、さらに毛髪がからみついてもそれを容易に除去できるヌメリ取り具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のヌメリ取り具(実施例1)の斜視図である。
図2】本発明のヌメリ取り具(実施例1)の平面図及び側面図である。
図3】比較例1のヌメリ取り具の斜視図である。
図4】比較例1のヌメリ取り具の平面図及び側面図である。
図5】比較例2のヌメリ取り具の斜視図である。
図6】比較例2のヌメリ取り具の平面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のヌメリ取り具は、排水口の底部に載置してヌメリを防除するためのヌメリ取り具であって、少なくとも
(A)ヌメリ取り用固形薬剤を収納するための、排水流入口と薬液流出口とを有する薬剤収納部であって、ヌメリ取り具を、下記排水口底部当接部材が排水口底部の水平面に接触するように、排水口底部に置いた場合に、ヌメリ取り具の上部に位置し、かつ上方から見てヌメリ取り具の外周に位置するように設けた、少なくとも1個の薬剤収納部、及び
(B)ヌメリ取り具を、下記排水口底部当接部材が排水口底部の水平面に接触するように、排水口底部に置いた場合に、排水口の底部に当接するように設けた排水口底部当接部材と、前記薬剤収納部を下方から支持する薬剤収納部支持部材とを少なくとも含む、フレーム構造部
を有するものである。
ここで「上方」等における「上」及び「下方」等における「下」とは、排水口底部当接部材が水平面に接触するように該水平面上にヌメリ取り具を置いた場合の上下各方向を意味する。以下でも基準を特記しない限り、「上」あるいは「下」は同じ意味であり、さらに「水平」とはこの場合の水平方向を意味し、「側面」とは「上面」に略直交する方向の面を意味する。またヌメリ取り具を排水口の底部に設置した場合にも、上下各方向は同じ方向となる。
また「排水口の底部」とは、排水設備から、排水を流下させるための管状の構造である排水管部を除外した部分の下端部を指す。この部分には通常、目皿若しくはストレーナーが設置されており、本発明のヌメリ取り具は、目皿、ストレーナー上端のリム部、あるいはその周囲に載置して使用する。
本発明のヌメリ取り具は、排水口の底部に載置することにより、排水口、排水口の周辺、及び/又は排水管のヌメリを除去又は防止することを目的とし、特に排水口周辺の周壁に対して顕著な効果を有する。
【0011】
(薬剤収納部)
薬剤収納部は、上方から見てヌメリ取り具の外周にある。これは、薬剤収納部が排水口周壁に接触し得るようにするためである。
薬剤収納部は、少なくとも1個あればよいが、各方向にヌメリ取り効果を発揮するために、複数あることが好ましく、特に排水口の周囲は矩形状のくぼみとなっている場合が多いことから、4個又はそれ以上あればより好ましい。また、薬剤収納部の外形は、特に限定されるものではないが、ヌメリ取り具の中央部から各薬剤収納部へ向かう線と略直交する水平な方向に長い形状とすることが好ましく、具体的には、矩形、長円形等が挙げられ、湾曲していてもよい。
薬剤収納部は、ヌメリ取り用固形薬剤を収納するための容器であり、少なくとも排水流入口と薬液流出口とを有する。排水口に排水が流入した場合、この排水の一部が薬剤収納部の排水流入口から薬剤収納部内部へ流入する。これによって固形薬剤が溶解し、生じた薬液は薬液流出口から流出し、ヌメリ取り効果を発揮する。なお、排水流入口と薬液流出口とが兼用である態様も包含されるが、薬剤収納部内に水流を起こさせるために、両者が別に設置されている方が好ましい。
排水流入口と薬液流出口の位置、数、大きさ及び構造は、固形薬剤がそのまま流出するおそれがないものである限り、特に限定されない。
薬剤収納部の外形が、ヌメリ取り具の中央部から各薬剤収納部へ向かう線と略直交する水平な方向に長い形状である場合には、この長手方向に沿って複数の薬液流出口があることが好ましい。これにより、排水口周壁の広い範囲にヌメリ取り効果を発揮させることができる。さらに同様に、長手方向に沿って複数の排水流入口があってもよい。
排水流入口と薬液流出口との位置関係に関しては、例えば、薬剤収納部の上面及び/又は側面上部に排水流入口を設け、薬剤収納部の底部及び/又は側面の排水流入口より低い位置に薬液流出口を設けることができる。この場合には、排水流入口は、ゴミの流入を抑制する構造を有することが好ましく、具体的には、スリット又は網目構造を有することが好ましい。また、固形薬剤が十分に溶解するよう、薬液流出口の開口総面積は、薬剤保持部内に保持できる最大量の水が0.5~500秒、好ましくは2~100秒、さらに好ましくは5~50秒で流出するように調整されていることが好ましい。これは、例えば、薬液流出口の開口面積を小さく、あるいはスリット状に細長くすることで達成できる。
また、薬剤収納部の側面下部に排水流入口を設け、薬剤収納部の排水流入口と同等又はより高い位置に、排水が流入しない構造として、薬液流出口を設けることもできる。この場合、排水流入口の構造としては、上方に向かって開口した構造や、排水の一部を薬剤収納部内に分配するための水受部を設け、ここから排水流入口に排水を流し込む構造がある。また排水が流入しない薬液流出口の構造としては、下方に向かって開口した構造、あるいは薬液を下方に案内する案内片を有する構造がある。
薬剤収納部の内部は、単一の空間であってもよく、また、内部を完全に又は一部のみ分けるための仕切りが設けられていてもよい。
薬剤収納部の材質としては、金属、プラスチック等が挙げられるが、製造が容易であり、またフレーム構造部との一体成形も可能である点で、プラスチックが好ましく、特に限定されるものではないが、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS、ナイロン、ポリ乳酸、光硬化性アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等が例示される。
薬剤収納部の製造に当たっては、薬剤収納部の一部又は全体をフレーム構造部と一体成形してもよいし、フレーム構造部と薬剤収納部とを別に成形し、これらを互いに係止してヌメリ取り具としてもよい。
なお、薬剤収納部としては、下記のようにフレーム構造部の外周部と直列に1個の略環状体をなすものが必須であるが、フレーム構造部の外周部と並列に追加的薬剤収納部がさらに存在してもよい。ただし、このような追加的薬剤収納部は、フレーム構造部の外周部に1個の薬剤収納部支持部材のみを介して結合している必要がある。
【0012】
本発明のヌメリ取り具は、少なくとも使用時には、薬剤収納部に固形薬剤を収納して使用される。また薬剤収納部に単独で、若しくはフレーム構造部と結合した状態で固形薬剤を収納した製品として供給してもよい。このため、薬剤収納部は、その成形後に固形薬剤を収納できる構造として製造する必要がある。具体的には、薬剤収納部を異なる2つの部材として成形し、固形薬剤の収納後にこれら2つの部材を組み合わせ固定する方法(2つの部材の少なくとも一方をフレーム構造部と一体成形してもよい)や、蝶番部を介して結合された2部分からなる薬剤供給部を一体成形し、固形薬剤の収納後に蝶番部を閉じて固定する方法が挙げられる。上記の固定方法としては、爪により嵌合させる方法や、溶融固着させる方法が挙げられる。爪により嵌合させる方法を採用すれば、固形薬剤を使用完了した後に、新たな固形薬剤を詰め直して再使用することも可能である。
【0013】
(ヌメリ取り用固形薬剤)
本発明に用いられるヌメリ取り用固形薬剤は、特に限定されるものではないが、ヌメリ取り効果を有する限り薬剤収納部から流失しない形状を有することが好ましい。固形薬剤の状態としては、錠剤等の変形しにくい固体のほか、弾性を有するが流動性を有しないゲル、あるいは水を吸収してそのようなゲルに変化し得る固体等がある。
本発明に用いられるヌメリ取り用固形薬剤の成分としては、特に限定されるものではないが、ヌメリを除去、ヌメリを発生させる菌等の除菌、殺菌、抗菌等の効力を有する薬剤成分を含有し、これらの薬剤成分を水中に次第に放出するものが好ましい。この放出は、固形薬剤の溶解とともに起こることが好ましく、特に、薬剤放出濃度が低下してヌメリ取り効果が低下する頃には固形薬剤が消失することで、取り換え時期の判断が容易になることが好ましい。
前記効力を有する薬剤成分としては、塩素系殺菌剤、非さらし粉系抗菌剤、抗菌性無機金属又はその化合物、抗生物質、ヌメリを除去できる菌等を例示することができ、好ましくは非さらし粉系抗菌剤である。
【0014】
(塩素系殺菌剤)
本発明に使用できる塩素系殺菌剤としては亜塩素酸ナトリウム、さらし粉、高度さらし粉、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水等を例示することができる。
【0015】
(非さらし粉系抗菌剤)
本発明に使用できる非さらし粉系抗菌剤としては、その使用時に酸性物質等と反応して塩素ガスを発生しないものであればどのようなものでも使用することができ、例えば、一般的な防黴剤又は抗細菌剤として知られている化合物及び抗菌作用を有することが知られている天然精油類等を例示することができる。
【0016】
本発明に使用できる防黴剤又は抗細菌剤としては、例えば、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-3-n-オクチル-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メトキシカルボニルベンズイミダゾール、2,3,5,6-テトラクロロ-4-メタンスルホニルピリジン、2-チオシアノメチルチオベンゾチアゾール、2,2-ジチオ-ビス-(ピリジン-1-オキサイド)、3,3,4,4-テトラハイドロチオフェン-1,1-ジオキサイド、4,5-ジクロロ-1,2-ジチオラン-3-オン、5-クロロ-4-フェニル-1,2-ジチオラン-3-オン、N-メチルピロリドン、フェニル-(2-シアノ-2-クロロビニル)スルホン、メチレンビスチオシアネート、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、2,2-ジブロモ-2-エタノール、2-ブロモ-4’-ヒドロキシアセトフェノン、ジブロモニトリルプロピオンアミド、2-ブロモ-2-ブロモメチルグルタルニトリル、過炭酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過ほう酸ナトリウム、オルトフェニルフェノール、ジフェニル、2-イソプロピル-5-メチルフェノール(チモール)、5-イソプロピル-2-メチルフェノール(カルバクロール)、4-イソプロピルフェノール、4-イソプロピル-3-メチルフェノール、3-イソプロピル-5-メチルフェノール、チモール(2-イソプロピル-5-メチルフェノール)、パラクロロメタキシレノール、トリクロサン、ダイクロサン、パラヒドロキシ安息香酸n-ブチル、パラヒドロキシ安息香酸エチル、パラヒドロキシ安息香酸メチル、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロロへキシジン、グルコン酸クロロヘキシジン、2-ピリジンチオール-1-オキサイド、2-ピリジンチオール-1-オキシド亜鉛塩、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、N,N’-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)、4,4’-(テトラメチレンジアミノ)ビス(1-デシルピリジニウムブロマイド)等を具体的に挙げることができる。
【0017】
また、本発明に使用できる天然精油類としては、例えば、シネオール、ヒノキチオール、メントール、テルピネオール、ボルネオール、ノポール、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、ゲラニオール、リナロール、ジメチルオクタノール、チモール等を例示することができる。
【0018】
さらに、本発明に使用できる非さらし粉系抗菌剤として、ヨード系抗菌剤も例示することができ、その中でも特に固体のものが望ましい。ヨード系抗菌剤としては、例えば、2,3,3-トリヨードアリルアルコール類、2,3,3-トリヨードアリルエーテル類、2,3,3-トリヨードアリルアゾール類、3-ヨード-2-プロパルギルブチルカルバミン酸、4-クロロフェニル(3-ヨードプロパルギル)ホルマール、ヨードプロパルギルアゾール類、ジヨードメチルパラトリルスルホン、ポビドンヨード、ベンジルヨード酢酸エステル及びパラニトロベンジルヨード酢酸エステルを挙げることができる。
以上の非さらし粉系抗菌剤は、単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0019】
(包接化合物タイプの抗菌剤)
これら非さらし粉系抗菌剤は、多分子系ホスト化合物のゲスト化合物とすることができ、例えば、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等をゲスト化合物として包接化合物を形成させ、これらを非さらし粉系抗菌剤として使用することができる。
【0020】
本発明において多分子系ホスト化合物とは、ゲストとなる抗菌剤と水素結合等の分子間力により相互作用を持ち、規則的配列を有する、結晶性錯体(包接化合物)を形成する化合物をいい、上記の性質を有する化合物であれば特に制限されないが、例えば以下の化合物を例示することができる。
(1)テトラキスフェノ-ル類
(2)1,1,6,6-テトラフェニル-2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオール
(3)1,6-ビス(2-クロロフェニル)-1,6-ジフェニルヘキサン-2,4-ジイン-1,6-ジオール
(4)1,1,4,4-テトラフェニル-2-ブチン-1,4-ジオール
(5)2,5-ビス(2,4,ジメチルフェニル)ハイドロキノン
(6)1,1-ビス(2,4,ジメチルフェニル)-2-プロピン-1-オール
(7)1,1,2,2-テトラフェニルエタン-1,2-ジオール
(8)1,1’-ビ-2-ナフトール
(9)9,10-ジフェニル-9,10-ジヒドロキシアントラセン
(10)1,1,6,6-テトラ(2,4-ジメチルフェニル)-2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオール
(11)9,10-ビス(4-メチルフェニル)-9,10-ジヒドロキシアントラセン
(12)1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン
(13)N,N,N’,N’-テトラキス(シクロヘキシル)-(1,1’-ビフェニル)-2-2’-ジカルボキシアミド
(14)4,4’-スルホニルビスフェノール
(15)4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)
(16)2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)
(17)4,4’-チオビス(4-クロロフェノール)
(18)2,2’-メチレンビス(4-クロロフェノール)
(19)デオキシコール酸
(20)コール酸
(21)α,α,α’,α’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-2,2’-ジメタノール
(22)t-ブチルヒドロキノン
(23)2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン
(24)顆粒状コーンスターチ
(25)1,4-ジアザビシクロ-(2,2,2)-オクタン
【0021】
前記多分子系ホスト化合物におけるテトラキスフェノ-ル類としては、例えば、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2-テトラキス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2-テトラキス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2-テトラキス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2-テトラキス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2-テトラキス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,3,3-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3-テトラキス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3-テトラキス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3-テトラキス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3-テトラキス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3,3-テトラキス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,4,4-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4-テトラキス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4-テトラキス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4-テトラキス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4-テトラキス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,4,4-テトラキス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,5,5-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1,5,5-テトラキス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1,5,5-テトラキス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1,5,5-テトラキス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1,5,5-テトラキス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1,5,5-テトラキス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)ペンタン等テトラキス(ヒドロキシフェニル)アルカン類を具体的に例示することができる。
【0022】
本発明に使用できる包接化合物は、通常、ゲストとなる非さらし粉系抗菌剤とホスト化合物とを、場合によっては水あるいは有機溶媒存在下に、常温~100℃で数分間~数時間攪拌して反応させることにより容易に得られる。
【0023】
(抗菌性無機金属又はその化合物)
本発明に使用するヌメリ防除剤には、抗菌性無機金属又はその化合物を添加することができる。抗菌性を有する無機金属を含有する成分であれば特に限定されないが、好ましくは固体状であり、抗菌性無機金属そのもの又はその酸化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩を担体に担持した粒子状のもの等が好ましく選ばれる。
ここで、担体の具体例としては、リン酸塩類(リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム等)、金属酸化物(酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム等)、無機化合物(ゼオライト、粘土鉱物、シリカゲル等)等が挙げられる。これらの担体は、単独または2種以上を用いてもよい。
なかでも、金属酸化物の担体に抗菌性無機金属酸化物を担持したものが、担持強度の点から、より好ましく選ばれる。
抗菌性無機金属又はその化合物中の抗菌性無機金属としては、抗菌性を有する金属であれば特に限定されないが、銀、亜鉛、銅等が好ましく選ばれる。さらに好ましいものとして、抗菌性の効果の点から、銀が選ばれる。これら抗菌性無機金属は、単独または2種以上を用いてもよい。
また、抗菌性無機金属又はその化合物の実際の商品としては、商業的に入手可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ATOMYBALL-S、ATOMYBALL-L、ATOMYBALL-UA(登録商標、触媒化成工業(株))の商品名で販売されているナノ粒子銀系無機抗菌剤などを使用することができる。
抗菌性無機金属含有成分は、一種または二種以上を混合して用いることができる。
抗菌性無機金属又はその化合物の配合量としては、例えば銀を含む成分の場合、銀元素濃度に換算して、0.0002質量%以上が好ましい。より好ましくは、0.0002~0.005質量%である。0.0002質量%以上で抗菌能が向上し、また、0.005質量%以下であっても、抗菌能は充分であり、経済的にも許容される上限量である。
抗菌性無機金属又はその化合物が粒子状である場合の組成物中における分散粒子の平均粒子径は、1~500nmであることが好ましく、さらには、1~100nmであることが好ましい。
ここで、平均粒子径とは、数平均粒子径であり、光散乱法により測定されるものである。500nm以下であれば粒子の分散状態は安定になり、100nm以下であれば粒子の分散状態はより安定なものとなる。また、粒子径が小さいほど、菌との接触の観点から有利に作用する。
【0024】
(ヌメリを除去できる菌)
ヌメリを除去できる菌とは、具体的には枯草菌(バチルス属)等であり、枯草菌としては納豆菌等を例示することができる。
【0025】
(その他の成分)
本発明に用いる固形薬剤には、単独で製剤できる場合を除いて、通常、製剤化に必要なその他の成分が添加される。その他の成分としては、賦形剤、結合剤、溶解調整剤、滑沢剤、界面活性剤、腐食防止剤、ゲル化物、帯電防止剤、その他の機能成分等である。
【0026】
(賦形剤、結合剤、溶解調整剤)
賦形剤、結合剤、溶解調整剤としては、フマル酸、安息香酸、アジピン酸、コハク酸、スルファミン酸、dl-リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、マロン酸、グリコール酸、C10-24飽和脂肪酸等の有機酸類;ほう酸等の無機酸類;乳糖;ショ糖;ブドウ糖;コーンスターチ等のデンプン類;結晶セルロース、粉末セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース等の各種セルロース類;塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、燐酸水素カルシウム、合成珪酸アルミニウム、三珪酸マグネシウム等の無機塩類;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム(粉末)等の高分子化合物類;ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができるが、その中でも特に乳糖;ショ糖;ブドウ糖;コーンスターチ等のデンプン類;結晶セルロース、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類;アラビアゴム(粉末)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン等は加圧成形性を向上することができ、また、各種洗剤等が混入しても反応して有毒ガス等が発生することが無いので好ましく、これら賦形剤や結合剤、溶解調整剤は全固形物質量に対して1~99質量%の割合で添加することができる。
【0027】
硫酸カルシウムを用いる場合、成形性や溶解性を容易にコントロールすることができる点からして硫酸カルシウム0.5水和物が好ましく、硫酸カルシウム0.5水和物の中でも、常圧焼成により製造されるβ型のものが、加圧焼成することにより製造されるα型のものよりも、吸水による成形体の型崩れを起こしにくい点で好ましく、このβ型の硫酸カルシウム0.5水和物を用いる場合は、乳糖又はショ糖と併用することが成形性や溶解性のコントロールの点でより好ましい。
【0028】
10-24飽和脂肪酸としては、ステアリン酸、ラウリン酸などが挙げられる。
これら飽和脂肪酸は、成形時の滑沢性を付与するのと同時に剤の水中での安定性(膨潤、崩壊防止性)を向上させる目的で使用され、固形薬剤の全固形物質量に対して1~10質量%の割合で用いられる。
【0029】
ヒドロキシプロピルセルロースとは、セルロースの水酸基の一部又は全部が-(CHCH(CH)-O)H(式中、mは1以上の整数)で置換されたものであり、重合度、置換度などについては特に限定されない。ヒドロキシプロピルセルロースとしては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース HPC-SL、HPC-L(以上商品名、日本曹達(株)社製)等が挙げられる。本発明において使用するヒドロキシプロピルセルロースの量は、固形薬剤の全固形物質量に対して、好ましくは5質量%より少なく、より好ましくは、1~4質量%である。
【0030】
(滑沢剤)
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、オルトほう酸、シリカ、タルク、ワックス類等を例示することができ、これら滑沢剤は全固形物質量に対して0.01~1質量%の割合で使用することができる。
【0031】
タルクとは、マグネシウムの含水ケイ酸塩鉱物であり、MgSi10(OH)の組成を有する。本発明においては、界面活性剤の代わりに用いたり、界面活性剤と併用して用いられる。タルクの含有量としては、固形薬剤の全質量に対して、0.1~10質量%、好ましくは0.5~3質量%である。
【0032】
(界面活性剤)
本発明において使用される界面活性剤は抗菌剤成分と反応せず、融点が50℃以上のものであれば特に制限はない。融点が50℃以下の界面活性剤を用いると、温水により固形薬剤が溶解しやすくなり、また、夏場においては気温の上昇により固形薬剤から界面活性剤がブリードしやすくなるなどの問題がある。融点が50℃以上の界面活性剤としては、例えば、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノイソプロパノールアミドなどの脂肪酸アルカノールアミド類;ソルビタンステアレート、ソルビタンパルミテートなどのソルビタン脂肪酸エステル類;アルキルアルカノールアミド類、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。その中でも、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドとソルビタンステアレートを好ましい界面活性剤として挙げることができる。
これらのうち、市販されているものとしては、以下のものが挙げられる。ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドとしては、トーホールN-120(東邦化学工業株式会社製)、アミゾールCME(登録商標、川研ファインケミカル株式会社製)など、ラウリン酸モノイソプロパノールアミドとしてはアミゾールPLME(登録商標、川研ファインケミカル株式会社製)、ソルビタンステアレートとしてはレオドールSP-S10V、S20V、S30V(登録商標、花王株式会社製)、ソルボンS-60(東邦化学工業株式会社製)など、ソルビタンパルミテートとしてはソルボンS-40(東邦化学工業株式会社製)など、ポリオキシエチレンステアリルエーテルとしてはエマルゲン350(登録商標、花王株式会社製)など、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーとしてはニューポールPE-68(登録商標、三洋化成工業株式会社製)などがある。
これらは、単独で使用することも、あるいは2種以上混合して使用することもできるが、加圧成形した時の打錠性、水に対する溶解性、崩壊性、抗菌剤の安定性への影響を考慮して決定することが望ましい。
界面活性剤の含有量としては、固形薬剤の全質量に対して、0.1~10質量%、好ましくは0.5~3質量%である。
【0033】
加熱溶融混合の場合や混練り押し出し成形する場合の配合物としては、融点が40~100℃で固体であるものが好ましく、ポリオキシエチレン等の各種の水溶性高分子類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類等の界面活性剤を例示することができる。
【0034】
(腐食防止剤)
前記腐食防止剤としては、アルキルチオ尿素系やトリアゾール系化合物を例示することができ、これらを使用すると配管などの金属部分の腐食を抑制することができる。
【0035】
(ゲル状物)
前記ゲル状物として用いる場合のゲル化剤としては、寒天、ゼラチン、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、アラビアガム、ジェランガム、アミノ酸、カルボキシメチルセルロース及びその金属塩、カラギーナン等を例示することができる。
【0036】
(帯電防止剤)
前記帯電防止剤としては、ケイソウ土、硫酸白土などを加えることにより、成形の際、帯電防止効果を付与することもできる。
【0037】
(その他の機能成分)
その他の機能成分を有する化合物を添加することができる。その他の機能成分としては、乳幼児の誤食の防止等を目的とした苦味付与成分、排水口の悪臭の防止等を目的とした消臭成分、芳香成分、デザイン性向上等を目的とした着色成分を例示することもできる。
【0038】
(固形薬剤の製造及び配合割合)
本発明に使用する固形薬剤の製造方法は特に限定されるものではないが、ヌメリ取りに用いられる薬剤とそれ以外の成分との加熱溶融混合、混練り押し出し成形、加圧成形等により行われる。加圧成形法は、機種により同時に凹部や貫通孔を形成することができるため好ましい。具体的な製造方法は例えば以下の通りであるが、この方法に限定される必要はない。
まず、各原料をナウターミキサーに投入し、室温(20~30℃)にて30~60分間混合を行う。混合された原料は圧延ローラーを通して板状造粒を行う。それを一旦荒く砕き、原末を製造する。原末を打錠機のホッパーから投入し、打錠を行う。打錠機に設置した型の形状により凹部や貫通孔を有した錠剤が形成される。また、凹部や貫通孔を形成できる加圧打錠機としては、例えば、株式会社菊水製作所製型式HER2ロータリー打錠機等が挙げられる。
【0039】
本発明に使用する固形薬剤に用いられる薬剤とそれ以外の成分との混合割合は、使用状況が様々であることからヌメリ取りに用いられる薬剤1~99質量部、それ以外の成分99~1質量部の間で任意に混合比率を変化させることができるが、好ましくはヌメリ取りに用いられる薬剤5~20質量部、それ以外の成分95~80質量部である。また、ヌメリ取りに用いられる薬剤として包接化合物を用いる場合、該包接化合物2~30質量部、それ以外の成分98~70質量部の混合割合が好ましい。
【0040】
(固形薬剤の形状)
固形薬剤の形状としては、球状、錠剤状、円柱状、直方体状、角錐状、ドーナツ状、また凹部を有するもの等どのような形態でもよく、その大きさも薬剤収納部に収容し得る大きさであればどのようなものでもよい。これらの形状により、薬剤の溶出濃度を調整することが可能である。また例えば1個の薬剤収納部につき、薬剤収納部の形状に適合させた1個の固形薬剤を収納するものでもよく、より小さい複数の固形薬剤を収納するものでもよい。特に、薬剤収納部が1方向に長い形状を有する場合には、複数の固形薬剤を長手方向に直列して収納すれば、製造が容易であり、かつ使用時に溶解しやすいため、好ましい。
固形薬剤は、(A)及び/又は(B)の形状を有する錠剤であることが好ましい。ここで「上面」及び「底面」とは、錠剤を水平面上に最も安定に置いた状態での上下各面を意味する。ただし、錠剤は薬剤収納部内では必ずしも同じ方向に収納されている必要はない。
(A)錠剤上面の中央部及び/又は錠剤底面の中央部に設けられた凹部。この場合、凹部の深さは、一番深い所で錠剤の厚みの5~30%であるか、または、錠剤の直径の3~20%であることが好ましい。
(B)錠剤上面の中央部から錠剤底面の中央部にかけて設けられた貫通孔。この場合、貫通孔の直径は、錠剤の直径の10~40%であることが好ましい。
特に、薬剤収納部が内部で一定方向に水が流れる構造を有するものである場合には、以上のような形状を有する固形薬剤により、薬剤溶出濃度が使用初期から長期にわたりヌメリ防除に十分な濃度であり、かつ、薬剤溶出濃度が低下する頃には錠剤が消失するため取り換え時期を判断しやすいという効果が発揮される。
固形薬剤の使用の形態としては、薬剤収納部の形状に合わせて、例えば円柱状のものやドーナツ状のものを1個用いる場合もあるが、小粒のものを多数使用することもできる。小粒のものを多数使用する場合、同種のものを用いるほか、例えば配合成分の異なる薬剤や溶解度が異なる薬剤等異種の複数の小粒の固形薬剤を用いることもできる。
【0041】
(ヌメリ取りに用いられる薬剤の溶出濃度)
本発明に用いられる薬剤の溶出濃度は、初期においては殺菌成分の濃度が高いほうがよく、また長期間にわたって一定濃度以上であることが好ましい。この場合、初期とは使用開始から1日間であり、長期間とは使用開始から少なくとも5日間、好ましくは少なくとも10日間、さらに好ましくは、少なくとも15日間である。また、薬剤の溶出濃度は、ヌメリ取りに用いられる薬剤の種類によってその有効濃度が異なるので適宜決めるべきものであるが、最小発育阻止濃度以上であることが好ましい。
殺菌成分の溶出濃度の測定は、例えば、以下の様にして行うことができる。本発明のヌメリ取り用錠剤を、本発明のヌメリ取り具の薬剤収納部に充填した後、排水口に設置し、その後、1日あたり、水温37~42℃の水を5L/分の速度で5分間流し、55分間流水を停止するという処理を18時間行った後、6時間放置する。この処理を毎日繰り返し行う。毎日、洗浄水を流し終わった10秒後にヌメリ取り具を取り出し、適切な容器に入れて1分間付着している水を採取する。この採取した水の殺菌成分の溶出濃度を測定する。殺菌成分により、測定装置は異なるが、例えば、ヌメリ取りに用いられる薬剤が5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMI)の場合は、液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0042】
(フレーム構造部)
フレーム構造部は、排水口底部当接部材と、薬剤収納部支持部材との2部材を必須の部材として含む。
「排水口底部当接部材」とは、設置時には排水口の底部に当接するための部材を意味し、「上」及び「下」とは、基準を特記しない限り、この排水口底部当接部材が排水口底部の水平面に接触するように、排水口底部にヌメリ取り具を置いた場合の上下各方向を意味する。「薬剤収納部支持部材」とは、薬剤収納部を下方から支持し、上方から見てヌメリ取り具の外周に固定する部材を意味する。
フレーム構造部は、薬剤収納部が複数である場合には、
i)互いに直接には結合せず薬剤収納部を介して互いに結合している複数の部分からなっていてもよく、
ii)2個又はそれ以上の薬剤収納部を単に連結するための、前記排水口底部当接部材及び薬剤収納部支持部材以外の部材(以後「薬剤収納部連結部材」と称する。)等を含んでいてもよい。
排水口底部当接部材、薬剤収納部支持部材、及び存在する場合は薬剤収納部連結部材は、それぞれの機能を有する部分として存在すればよく、互いに直結する2種の部材の連結部が必ずしも明確に識別されず連続的に形成されていてもよい。例えば、排水口底部当接部材と薬剤収納部支持部材、あるいは薬剤収納部支持部材と薬剤収納部連結部材が、連続的に形成されていてもよい。
薬剤収納部の直下、及び/又は薬剤収納部連結部材の直下には、薬剤収納部支持部材どうし、薬剤収納部支持部材と薬剤収納部連結部材との間等に、フレーム構造がない部分が存在する。排水口底部に突出部がある場合には、この空間部分に突出部を差し込むことができ、これによって、底部が平面になっていない一般の排水口構造にも適用できるという効果が得られる。また、一般の排水口構造に適用できるようにする目的で、薬剤収納部支持部材以外にも、排水口底部当接部材内に、排水口突出部を差し込む構造(以下「排水口突出部受け部」と称する。)を設けてもよい。
フレーム構造部は、薬剤収納部に薬剤収納部支持部材及び存在する場合は薬剤収納部連結部材を介して接続し、薬剤収納部とフレーム構造部の外周部とが互いに直列して1個の略環状体をなしている。
ここで、「略環状体」とは、ほぼ環状(円形)になっていればよいが、上から見たときに多角形の角が湾曲している形状のものなども包含する。
なお、薬剤収納部としては、フレーム構造部の外周部と直列して1個の略環状体をなすものが必須であるが、フレーム構造部の外周部と並列に追加的薬剤収納部がさらに存在してもよい。ただしこのような追加的薬剤収納部は、フレーム構造部の外周部に1個の薬剤収納部支持部材のみを介して結合している必要がある。これは、追加的薬剤収納部を設けることにより新たな略環状体を形成し分岐部を無用に増やすことを避けるためである。
フレーム構造部は、設置時には、排水口底部当接部材は排水口の底部に当接し、薬剤収納部支持部材は薬剤収納部を下方から支持し、薬剤収納部がヌメリ取り具の上部かつ上方から見てヌメリ取り具の外周にあるようにし、これにより薬剤収納部が排水口周壁に接触し得るようにする。
薬剤収納部は、排水口周壁に接触し、これにより排水口周壁にヌメリ取り効果を発揮する目的を達することができる。
【0043】
本発明のヌメリ取り具は、ヌメリ取り具の外周の少なくとも1つの径方向に相対するヌメリ取り具の2点間で、外向きに引張荷重をかけることにより、該2点間の長さが荷重開始時の20%増加した時点での引張荷重が3N以上であり、かつ内向きに曲げ圧縮応力をかけることにより、該2点間の長さが荷重開始時の50%減少した時点での曲げ圧縮荷重が0.7N以上である、という高い剛性を有することを特徴とする。
フレーム構造部の剛性を高くするためには、フレーム構造部相互間や、薬剤収納部とフレーム構造部との間を結合する梁、壁等の補強部材を追加することも可能である。とはいえ、これらの補強部材を追加すると、分岐の多い複雑な構造となるため製造が容易でなく、材料費がかさみ、また使用時には分岐部にヌメリや汚れが残りやすく、形状によっては水流を阻害する恐れもあるなど、好ましくない。
従って本発明では、薬剤収納部が薬剤収納部支持部材及び存在する場合は薬剤収納部連結部材と接続し、薬剤収納部及びフレーム構造部が1個の略環状体をなす(すなわち、薬剤収納部とフレーム構造部が直列する。)という単純な構造を採用している。
【0044】
フレーム構造部の形状は、以上の条件に該当するものであれば特に限定されない。例えば、フレーム構造部に1個又は複数の薬剤収納部が挿入され、これらが上方から見て略円形等の閉曲線状をなすものを挙げることができる。また本発明のヌメリ取り具は、基本的にフレーム構造部及び薬剤収納部からなるものであればよく、その他の部材は特に必要ないが、本発明の効果を害することがない限り、さらに他の機能を有する部材を含んでもよい。
【0045】
フレーム構造部の材質は、ヌメリ取り具全体が本発明で規定する剛性を有するものであればよいが、具体的には金属、プラスチック、あるいはこれらが複合してなる材質が挙げられる。このうち、薬剤収納部と一体に成形すれば製造が容易である点で、プラスチックが好ましく、特に限定されるものではないが、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS、ナイロン、ポリ乳酸、光硬化性アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等が例示される。
フレーム構造部の表面は、毛髪の除去を容易にするために、平滑であることが好ましく、そのために上記各種材料から特定の材料を選択し、あるいは成形方法を選択することができる。
また、材料の断面形状としては、線状又は帯状が例示され、この場合には後述の剛性を与えるように断面の厚み及び/又は幅(これは材質にもより、一概に決定されるものではない。)を調整することが好ましい。また撓みを防止し得る特殊な断面形状として、例えば屈曲又は湾曲を有する断面等を採用してもよいが、この場合にはヌメリや汚れが残ることを防ぐ必要が生じるため、前記の厚み及び/又は幅を調整する方法がより好ましい。
排水口底部の形状は、製品によって大きく異なり、突出部を有する場合も多いため、ここにヌメリ取り具を載置した場合、ヌメリ取り具が突出部に当たって傾くなどして、十分な効果が得られないおそれがある。
本発明では、薬剤収納部の直下にフレーム構造が存在しないため、この部分に排水口底部の突出部が来るように設置し、該突出部を差し込むことで、この問題に対応できる。
さらに必要であれば、排水口底部当接部材に、排水口突出部受け部を設け、これに排水口底部の突出部を差し込むこともできる。
【0046】
本発明のヌメリ取り具は、剛性を有することにより、毛髪を除去しやすい効果を奏する。
本発明のヌメリ取り具は、フレーム構造部の排水口底部当接部材と薬剤収納部支持部材、及び薬剤収納部を必須の部材として有するため、少なくともこれら方向を異にする3部材の間の接合部で屈曲又は湾曲している。さらに排水口突出部受け部があれば屈曲/湾曲部分はさらに増加する。このヌメリ取り具を水平方向に引っ張ると、上下方向に延在する薬剤収納部支持部材や排水口突出部受け部とそれらに隣接する接合部で撓みが生じ易い。
発明者らは、比較のために、複数の薬剤収納部を細いフレーム構造部で連結した閉環状であり、前記の上下方向に延在する部分を有しないリング状ヌメリ取り具についても検討した。このリング状ヌメリ取り具は、水平方向に引っ張っても撓みが生じないため、高い剛性を有する。ところが、くぼみを有する排水口でこれを使用すると、多量の毛髪がフレーム構造部にからみついた。しかも毛髪は強く巻き付くため、毛髪の除去が非常に困難であった。またそれ以前の問題として、平面状の排水口でしか使用できず、くぼみを有する排水口の周壁にヌメリ取り効果を奏することはできない。
本発明のヌメリ取り具は、上記リング状ヌメリ取り具と比較すると、毛髪がからみつくことはあっても複雑に巻き付くことはなく、引っかかる程度であるため、毛髪をある1方向に引っ張れば除去が可能である。しかも剛性を有するため除去が容易である。
以上からわかるように、本発明のヌメリ取り具は、上下方向/水平方向など、方向を異にする部分を有し、かつ剛性を有するという、2つの特徴を併せ持つことにより、毛髪を容易に除去できる効果を発揮する。
本発明のヌメリ取り具と同様の形状を有するヌメリ取り具の剛性は、以下のようにして評価することができる。
ヌメリ取り具の外周の1つの径方向に相対するヌメリ取り具外周の2点を選び、2点に外向きに引張荷重をかける。これにより2点間の距離が増加する。引張荷重とこの距離とを同時に測定しつつ、距離が荷重開始時に比較して20%増加(すなわちヌメリ取り具の歪が20%。)するまで荷重をかける。引張荷重は距離が荷重開始時に比較して20%増加した時点で最大となる。この最大引張荷重を求める。
「径方向」とは、ヌメリ取り具外周が略円形の場合には、該円の中心を通る径の方向を意味する。ヌメリ取り具外周が略円形でない場合には、外周図形から数学的に求められる重心を通る直線の方向を意味する。
本発明のヌメリ取り具では、具体的には、いずれか特定の径方向に相対するヌメリ取り具外周の2点間で、外向きに引張荷重をかけることにより、該2点間の長さが荷重開始時の20%増加した時点での引張荷重が3N以上、好ましくは4N以上であり、かつ、内向きに曲げ圧縮荷重をかけることにより、該2点間の長さが荷重開始時の50%減少した時点での曲げ圧縮荷重が0.7N以上、好ましくは0.8N以上である、という条件を満たす。これにより、この径方向以外の方向で測定した場合にも同じ条件を満たすため、この径方向に引っ張る場合は無論のこと、他の方向に引っ張る場合でも、変形しにくく、毛髪が容易に除去できる。また特に必要ではないが、この効果をさらに確実なものとするために、さらにこの径方向以外の方向で同様に測定を行い、上記条件を満たすことを確認してもよい。
ヌメリ取り具外周は、略円形であれば、どのような方向で上記測定を行っても同程度の結果が得られるため、特に好ましい。ヌメリ取り具外周は、必ずしも略円形でなくてもよく、楕円形、多角形(好ましくは四角形以上。)等でもよい。
【0047】
本発明のヌメリ取り具において、剛性を上記範囲に調整する具体的な方法は、特定されないが、以下の方法が例示され、またこれらの方法を組み合わせて採用してもよい。
(1)ヌメリ取り具の材料として、高い剛性を有するものを使用する。この場合、材料は全部同一である必要はなく、必要に応じて部分的に異なる材料を用いてもよい。
(2)フレーム構造部の厚み及び/又は幅を調整する。
特に、薬剤収納部支持部材、及びこれと排水口底部当接部材及び薬剤収納部との接合部について、さらに排水口突出部受け部及びこれと排水口底部当接部材との接合部について、(1)又は(2)の対策を施すことが好ましい。
【0048】
以下に、添付の図と共に、本発明のヌメリ取り具の具体例について説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【実施例
【0049】
(実施例1)
実施例1は、PP相当ナイロン樹脂を材料として3Dプリンターにより製作された、6個の薬剤収納部1を含む環状連結構造を有する、本発明に属するヌメリ取り具である。図1にその斜視図、図2に平面図及び側面図を示す。
薬剤収納部1は、細長く湾曲した外形を有し、上方から見ると、薬剤収納部連結部材7とともに、ヌメリ取り具の中央部を中心とする円周に沿って配置されている。6個ある薬剤収納部1のうち、対向する2個を除く4個は、隣り合う2個ずつが薬剤収納部連結部材7により連結されている。
フレーム構造部2は、排水口底部当接部材5(4箇所)、薬剤収納部支持部材6(8箇所)、及び薬剤収納部連結部材7(2箇所)からなる。
薬剤収納部支持部材6は、一端で薬剤収納部1の端部に結合しており、他端では排水口底部当接部材5と屈曲して結合しており、薬剤収納部1との結合部から排水口底部当接部材5との結合部に向かって傾斜して延在する。薬剤収納部連結部材7はそれぞれの両端で薬剤収納部1と直接結合している。
排水口底部当接部材5と薬剤収納部支持部材6は特に幅広としてあるため、ヌメリ取り具全体を水平方向に引っ張った場合、薬剤収納部支持部材6での撓みが生じにくく、剛性は高い。また、排水口に設置し水を流した場合、傾斜した薬剤収納部支持部材6表面に水流が生じるため、ここには毛髪かからみつきにくい。
排水口底部当接部材5は、ヌメリ取り具の中央部を中心とする円周に沿って配置されている。また排水口底部当接部材5は下方にあり、そこから薬剤収納部支持部材6が上方に突出しており、薬剤収納部支持部材6は薬剤収納部1を下方から支持している。各薬剤収納部連結部材7とその両端に結合した2個の薬剤収納部1とは共に上方にある。これにより、本態様は、大型の突出部等の複雑な形状を有する排水口底部での使用に適している。
【0050】
(比較例1)
比較例1は、PP相当ナイロン樹脂を材料として3Dプリンターにより製作されたものであり、6個の薬剤収納部1を含む環状連結構造を有する、実施例1と類似した態様であるが、排水口底部当接部材5と薬剤収納部支持部材6の幅がより狭く、薬剤収納部1と薬剤収納部支持部材6とは薬剤収納部1の底部で互いに結合しており、薬剤収納部支持部材6は傾斜せず上下方向に延在し、ヌメリ取り具全体の剛性が低い点で異なる。また、実施例1に比較すると、薬剤収納部支持部材6にも毛髪がからみつきやすい。図3にその斜視図、図4に平面図及び側面図を示す。
【0051】
(比較例2)
比較例2は、PP相当ナイロン樹脂を材料として3Dプリンターにより製作されたものであり、実施例1及び比較例1と同様の6個の薬剤収納部1が、細い水平方向の薬剤収納部連結部材7のみにより円環状に連結されている、「ネックレス状ヌメリ取り具」である。図5にその斜視図、図6に平面図及び側面図を示す。このヌメリ取り具は水平方向への引張剛性は高いが、曲げ圧縮剛性は低い。
[測定例]
【0052】
以下、本発明のヌメリ取り具の効果について、測定例を挙げて詳細に説明する。
【0053】
(1)剛性の測定方法
(1-1)引張剛性
クリープメーターRE2-33005C(山電社製)において、200Nロードセルを用い、棒状治具を相対する薬剤収納部1の2点(これらを上下方向とする。)に固定してヌメリ取り具が左右対称となるようにし、速度60mm/minで、前記2点間の長さが荷重開始時の20%増加するまで引張荷重をかけ、前記2点間の長さと引張荷重を同時に測定した。前記2点間の長さが荷重開始時の20%増加した時点で引張荷重が最大値となったので、この値を記録した。
【0054】
(1-2)曲げ圧縮剛性
クリープメーターRE2-33005C(山電社製)において、20Nロードセルを用い、圧縮治具を相対する薬剤収納部1の2点(これらを上下方向とする。)に固定してヌメリ取り具が左右対称となるようにし、速度120mm/minで、前記2点間の長さが荷重開始時の50%減少するまで圧縮荷重をかけ、前記2点間の長さと圧縮荷重を同時に測定した。前記2点間の長さが荷重開始時の50%減少した時点で圧縮荷重が最大値となったので、この値を記録した。
【0055】
(2)毛髪のからまり及び除去難易性の評価方法
各ヌメリ取り具実施例をTOTO社製一般家庭用浴室排水口に設置した。洗い場で、シャワー水を9L/分の割合で流しながら、人毛(長さ25~34cm、及び長さ35~40cmの2種、各200本)を40分かけて流した。両種の人毛がヌメリ取り具にからみついた本数の率(からまり率:%)を測定した。以上の試験を各ヌメリ取り具実施例について3回行い、からまり率の平均値を算出した。また、試験毎にからみついた人毛を手で引っ張って除去し、除去難易性を評価した。
以上の結果を以下の表に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
以上から、本発明のヌメリ取り具は、毛髪がからまっても容易に除去でき、くぼみを有する浴室排水口での使用に特に適していることが示された。
【符号の説明】
【0058】
1 薬剤収納部
2 フレーム構造部
3 排水流入口
4 薬液流出口
5 排水口底部当接部材
6 薬剤収納部支持部材
7 薬剤収納部連結部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6