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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】超音波トランスデューサー
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20220912BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
H04R17/00 332B
H01L41/113
H04R17/00 330H
H04R17/00 330L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022530743
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2021032056
【審査請求日】2022-05-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175722
【氏名又は名称】サンコール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】高杉 知
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】特許第6776481(JP,B1)
【文献】特開昭62-081200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
H01L 41/00-41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向一方側の第1面及び厚み方向他方側の第2面を有する剛性の支持板であって、前記第1面に開口された複数の空洞部及び前記空洞部よりも開口幅が小とされた一端側の第1端部が対応する前記空洞部の底面に開口され且つ他端側の第2端部が前記第2面に開口された複数の導波路が設けられた剛性の支持板と、
前記複数の空洞部を覆うように前記支持板の第1面に固着された可撓性樹脂膜と、
平面視において中央領域が対応する空洞部と重合し且つ周縁領域が前記支持板の第1面と重合するように前記可撓性樹脂膜の第1面に固着された前記複数の空洞部と同数の圧電素子とを備え、
前記空洞部は、前記圧電素子の周縁領域と前記支持板との平面視重合幅が前記圧電素子の全周に亘って0.05mm~0.1mmとなるように前記圧電素子の平面視相似形状とされ
前記導波路は、前記第1端部を含む筒状部と前記第2端部を含むホーン部とを有し、
前記筒状部は、前記支持板の厚み方向に亘って同一開口幅を有し、
前記ホーン部は、前記筒状部に連通する基端側から前記第2端部に近接するに従って、開口幅が大きくなるように構成されていることを特徴とする超音波トランスデューサー。
【請求項2】
前記支持板は、前記複数の空洞部のそれぞれと同一開口幅の複数の貫通孔が形成された第1板体と、前記複数の導波路のそれぞれと同一開口幅の複数の貫通孔が形成された第2板体とを含み、
前記第1及び第2板体は厚み方向に積層状態で固着されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサー。
【請求項3】
前記支持板は、前記複数の空洞部及び前記複数の導波路が形成された単一部材とされていることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサー。
【請求項4】
前記圧電素子は、平面視縦横寸法の最大値が3.4mmの平面視矩形状、直径が3.4mm以下の平面視円形状、又は、長径が3.4mm以下の平面視楕円形状とされ、配列ピッチ4.0mmで配列され、
前記空洞部は、前記圧電素子の周縁領域及び前記支持板の平面視重合幅が0.05mmとなるように形成されていることを特徴とする請求項1からの何れかに記載の超音波トランスデューサー。
【請求項5】
前記導波路の第1端部は直径1.5mmの円形とされていることを特徴とする請求項に記載の超音波トランスデューサー。
【請求項6】
前記複数の圧電素子をそれぞれ囲む大きさの複数の圧電素子用開口を有し且つ前記圧電素子よりも厚みが大とされた下側封止板であって、平面視において前記複数の圧電素子が前記複数の圧電素子用開口内に位置するように前記可撓性樹脂膜に固着された下側封止板と、
前記下側封止板に固着された配線アッセンブリとを備え、
前記配線アッセンブリは、絶縁性のベース層と、前記ベース層に設けられ、前記圧電素子における一対の第1及び第2電極にそれぞれ接続される第1及び第2配線を含む導体層と、前記導体層を囲繞する絶縁性のカバー層とを有し、
前記ベース層には、前記第1配線を対応する前記圧電素子の第1電極に接続する為の第1配線/圧電素子接続用開口と、前記第2配線を対応する前記圧電素子の第2電極に接続する為の第2配線/圧電素子接続用開口とが設けられていることを特徴とする請求項1からの何れかに記載の超音波トランスデューサー。
【請求項7】
前記下側封止板及び前記配線アッセンブリに柔軟性樹脂を介して固着された上側封止板を備え、
前記上側封止板は、前記複数の圧電素子のそれぞれに対応した位置に開口部を有していることを特徴とする請求項に記載の超音波トランスデューサー。
【請求項8】
前記上側封止板の複数の開口部を覆うように前記上側封止板に固着された吸音材を備えていることを特徴とする請求項に記載の超音波トランスデューサー。
【請求項9】
前記吸音材に固着された補強板を備えていることを特徴とする請求項に記載の超音波トランスデューサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧電素子が並列配置されてなり、フェイズドアレイセンサーとして好適に利用可能な空中超音波トランスデューサーに関する。
【背景技術】
【0002】
それぞれが振動体として作用する複数の圧電素子が並列配置されてなる超音波トランスデューサーは、前記複数の圧電素子から放射される音波の位相を制御することにより、物体の形状を検知したり又は広範囲に亘って物体の有無を検知する為のフェイズドアレイセンサーとして好適に利用可能である。
【0003】
この場合において、前記複数の圧電素子の共振周波数がばらついていると、前記複数の圧電素子に所定周波数の電圧を位相制御した状態で印加しても前記複数の圧電素子間で振動の位相にばらつきが発生することになり、前記複数の圧電素子のそれぞれから放射される音波の指向性を精密に制御することが困難になる。
【0004】
即ち、超音波トランスデューサーをフェイズドアレイセンサーとして安定して作動させる為には、前記超音波トランスデューサーに備えられる複数の圧電素子の共振周波数の均一性を確保する必要がある。しかしながら、材料や製造工程に起因する様々な理由によって複数の圧電素子の共振周波数を均一にすることは、非常に困難である。
【0005】
この点に関し、本願出願人は、振動体として作用する圧電素子に印加する駆動電圧の周波数(駆動周波数)を当該圧電素子の共振周波数よりも低く設定しても、前記圧電素子の振動振幅を有効に確保することが可能な超音波トランスデューサーに関する特許出願を行い、特許を得ている(下記特許文献1参照)。
【0006】
前記特許文献1に記載の超音波トランスデューサーは、複数の開口部が設けられた剛性基板と、前記複数の開口部を覆うように前記基板の上面に固着された可撓性樹脂膜と、平面視において前記複数の開口部とそれぞれ重合するように前記可撓性樹脂膜の上面に固着された複数の圧電素子とを備えるように構成されており、これにより、駆動周波数を前記圧電素子の共振周波数よりも低くしても、前記圧電素子の振動振幅を有効に確保している。
【0007】
ところで、対象物の位置(対象物までの距離及び対象物の方向)の検知は、超音波トランスデューサーにおける複数の圧電素子に、位相制御された所定周波数のバースト波形電圧を印加して対象物の方向へ音波を放射させ、対象物に反射して戻ってきた音波を受信して、音波放射から反射波受信までの時間に基づき対象物までの距離を検知する(なお、反射波の受信は、音波放射を行った超音波トランスデューサーによって行うことも可能であるし、又は、他の受信専用の超音波トランスデューサーによって行うことも可能である)。
【0008】
ここで、超音波トランスデューサーから放射される音波の指向性の制御向上を図る為には、前記超音波トランスデューサーからは、駆動周波数の成分のみが含まれる音波が放射されることが望ましいが、この点に関し、前記特許文献1に記載の超音波トランスデューサーは改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6776481号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明は、斯かる従来技術に鑑みなされたものであり、圧電素子に印加する駆動電圧の周波数(駆動周波数)を前記圧電素子の共振周波数より低くしても十分に高い放射音圧を得ることができ、さらに、放射音波の指向性の制御向上を図り得る超音波トランスデューサーの提供を目的とする。
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、厚み方向一方側の第1面及び厚み方向他方側の第2面を有する剛性の支持板であって、前記第1面に開口された複数の空洞部及び前記空洞部よりも開口幅が小とされた一端側の第1端部が対応する前記空洞部の底面に開口され且つ他端側の第2端部が前記第2面に開口された複数の導波路が設けられた剛性の支持板と、前記複数の空洞部を覆うように前記支持板の第1面に固着された可撓性樹脂膜と、平面視において中央領域が対応する空洞部と重合し且つ周縁領域が前記支持板の第1面と重合するように前記可撓性樹脂膜の第1面に固着された前記複数の空洞部と同数の圧電素子とを備え、前記空洞部は、前記圧電素子の周縁領域と前記支持板との平面視重合幅が前記圧電素子の全周に亘って0.05mm~0.1mmとなるように前記圧電素子の平面視相似形状とされ、前記導波路は、前記第1端部を含む筒状部と前記第2端部を含むホーン部とを有し、前記筒状部は、前記支持板の厚み方向に亘って同一開口幅を有し、前記ホーン部は、前記筒状部に連通する基端側から前記第2端部に近接するに従って、開口幅が大きくなるように構成されている超音波トランスデューサーを提供する。
【0012】
本発明に係る超音波トランスデューサーによれば、圧電素子に印加する駆動電圧の駆動周波数を前記圧電素子の共振周波数よりも低くしても十分に高い放射音圧を得ることができ、さらに、放射音波の指向性の制御向上を図ることができる。
【0013】
例えば、前記支持板は、前記複数の空洞部のそれぞれと同一開口幅の複数の貫通孔が形成された第1板体と、前記複数の導波路のそれぞれと同一開口幅の複数の貫通孔が形成された第2板体とを含むものとされる。
前記第1及び第2板体は厚み方向に積層状態で固着される。
【0014】
これに代えて、前記支持板は、前記複数の空洞部及び前記複数の導波路が形成された単一部材とされ得る。
【0015】
前記種々の構成において、好ましくは、前記圧電素子は、平面視縦横寸法の最大値が3.4mmの平面視矩形状、直径が3.4mm以下の平面視円形状、又は、長径が3.4mm以下の平面視楕円形状とされて、配列ピッチ4.0mmで配列される。
この場合、前記空洞部は、前記圧電素子の周縁領域及び前記支持板の平面視重合幅が0.05mmとなるように形成される。
【0016】
好ましくは、前記導波路の第1端部は直径1.5mmの円形とされる。
【0017】
好ましくは、本発明に係る超音波トランスデューサーは、前記支持板、前記可撓性樹脂膜及び前記複数の圧電素子に加えて、下側封止板及び配線アッセンブリを有し得る。
【0018】
前記下側封止板は、前記複数の圧電素子をそれぞれ囲む大きさの複数の圧電素子用開口を有し且つ前記圧電素子よりも厚みが大とされ、平面視において前記複数の圧電素子が前記複数の圧電素子用開口内に位置するように前記可撓性樹脂膜に固着される。
【0019】
前記配線アッセンブリは前記下側封止板に固着される。
前記配線アッセンブリは、絶縁性のベース層と、前記ベース層に設けられ、前記圧電素子における一対の第1及び第2電極にそれぞれ接続される第1及び第2配線を含む導体層と、前記導体層を囲繞する絶縁性のカバー層とを有する。
【0020】
前記ベース層には、前記第1配線を対応する前記圧電素子の第1電極に接続する為の第1配線/圧電素子接続用開口と、前記第2配線を対応する前記圧電素子の第2電極に接続する為の第2配線/圧電素子接続用開口とが設けられる。
【0021】
本発明に係る超音波トランスデューサーは、さらに、前記下側封止板及び前記配線アッセンブリに柔軟性樹脂を介して固着された上側封止板を備え得る。
前記上側封止板は、前記複数の圧電素子のそれぞれに対応した位置に開口部を有する。
【0022】
本発明に係る超音波トランスデューサーは、さらに、前記上側封止板の複数の開口部を覆うように前記上側封止板に固着された吸音材を備え得る。
【0023】
本発明に係る超音波トランスデューサーは、さらに、前記吸音材に固着された補強板を備え得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る超音波トランスデューサーの部分縦断面図である。
図2図2(a)及び(b)は、それぞれ、前記超音波トランスデューサーにおける支持板、可撓性樹脂膜及び複数の圧電素子を含む圧電体アッセンブリの平面図及び底面図である。
図3図3は、前記支持板の平面図である。
図4図4は、前記実施の形態の変形例に係る超音波トランスデューサーの部分縦断面図である。
図5図5(a)は、前記圧電素子の平面図であり、図5(b)は、図5(a)におけるV-V線に沿った断面図である。
図6図6は、解析(1)の結果を示すグラフである。
図7図7(a)は、解析(2)において用いたモデルの平面図であり、図7(b)は、図7(a)におけるVII-VII線に沿った断面図である。
図8図8は、解析(2)及び解析(3)の結果を示すグラフである。
図9図9は、図8における一部を拡大したグラフである。
図10図10(a)は、解析(3)において用いたモデルの平面図であり、図10(b)は、図10(a)におけるX-X線に沿った断面図である。
図11図11は、解析(4)の結果を示すグラフである。
図12図12は、解析(5)の結果を示すグラフである。
図13図13(a)は、解析(6)において用いたモデルの平面図であり、図13(b)は、図13(a)におけるXIII-XIII線に沿った断面図である。
図14図14は、解析(6)の結果を示すグラフである。
図15図15は、解析(6)の結果を示す他のグラフである。
図16図16は、解析(7)の結果を示すグラフである。
図17図17は、解析(8)の結果を示すグラフである。
図18図18は、検証(1)の結果を示すグラフである。
図19図19は、検証(2)の結果を示すグラフである。
図20図20は、図1におけるXX-XX線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る超音波トランスデューサーの一実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1に本実施の形態に係る超音波トランスデューサー1Aの部分縦断面図を示す。
【0026】
前記超音波トランスデューサー1Aは、主要構成部材として、厚み方向一方側の第1面10-1及び厚み方向他方側の第2面10-2を有する剛性の支持板10Aと、厚み方向一方側の第1面20-1及び厚み方向他方側の第2面20-2を有し、第2面20-2が前記支持板10Aの第1面10-1に固着された可撓性樹脂膜20と、前記可撓性樹脂膜20の第1面20-1に固着された複数の圧電素子30とを備えている。
【0027】
図2(a)及び(b)に、前記支持板10A、前記支持板10Aの第1面10-1に固着された前記可撓性樹脂膜20及び前記可撓性樹脂膜20の第1面20-1に固着された前記複数(本実施の形態においては3×11の33個)の圧電素子30を含む圧電体アッセンブリの平面図及び底面図を、それぞれ示す。
また、図3に、前記支持板10の平面図を示す。
【0028】
図1図3に示すように、前記支持板10には、当該支持板10Aの第1面10-1に開口された複数(本実施の形態においては3×11の33個)の空洞部15と、一端側の第1端部が前記複数の空洞部15の底面にそれぞれ開口され且つ他端側の第2端部が当該支持板10Aの第2面10-2に開口された複数(本実施の形態においては3×11の33個)の導波路16とが設けられている。
【0029】
前記導波路16の第1端部は、前記空洞部15よりも開口幅が小とされている。
【0030】
本実施の形態においては、前記導波路16は、前記第1端部を含む筒状部17と、前記第2端部を含むホーン部18とを有している。
【0031】
前記筒状部17は、前記支持板10Aの厚み方向に亘って同一開口幅を有している。
前記ホーン部18は、前記筒状部17に連通する基端側から前記第2端部に近接するに従って、開口幅が大きくなるように構成されている。
【0032】
前記支持板10Aは、剛性を有する種々の部材によって形成することができ、ステンレス等の金属、好ましくは、金属よりも密度が小さく且つヤング率の高いSiC、Al等のセラミックス材料によって形成することができる。
前記支持板10Aをセラミックス材料によって形成することにより、前記支持板10Aの共振周波数を可及的に高めることができる。
【0033】
図1に示すように、本実施の形態においては、前記支持板10Aは、前記複数の空洞部15のそれぞれと同一開口幅の複数の貫通孔が形成された第1板体11と、前記複数の導波路16のそれぞれと同一開口幅の複数の貫通孔が形成された第2板体12とを含み、前記第1及び第2板体11、12が厚み方向に積層状態で固着されている。
【0034】
前記第1及び第2板体11、12を有する前記支持板10Aに代えて、単一部材によって形成された支持板10Bを用いることも可能である。
図4に、前記支持板10Aの代えて前記支持板10Bを備えた、本実施の形態の変形例に係る超音波トランスデューサー1Bの部分縦断面図を示す。
【0035】
前記可撓性樹脂膜20は、前記複数の空洞部15を覆うように前記支持板10の第1面10-1に固着されている。
【0036】
前記可撓性樹脂膜20は、例えば、厚さ20μm~100μmのポリイミド等の絶縁性樹脂によって形成される。
前記可撓性樹脂膜20は、接着剤又は熱圧着等の種々の方法によって前記支持板10A(10B)に固着される。
【0037】
前記超音波トランスデューサー1A(1B)は、前記複数の空洞部15と同数(本実施の形態においては3×11の33個)の前記圧電素子30を有している。
前記圧電素子30は、平面視において中央領域が対応する空洞部15と重合し且つ周縁領域が前記支持板10の第1面10-1と重合するように、前記可撓性樹脂膜20の第1面20-1に固着されている。
【0038】
図5(a)に、前記圧電素子30の平面図を示す。
また、図5(b)に、図5(a)におけるV-V線に沿った断面図を示す。
前記圧電素子30は、圧電素子本体32と、一対の第1及び第2電極とを有し、前記第1及び第2電極の間に電圧が印可されると伸縮するように構成されている。
【0039】
図5(a)及び(b)に示すように、本実施の形態においては、前記圧電素子30は2層の積層型とされている。
積層型圧電素子は、単層型圧電素子に比して、同一電圧印可時に電界強度を高めることができ、印可電圧当たりの伸縮変位を大きくすることができる。
【0040】
詳しくは、前記圧電素子30は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材によって形成される前記圧電素子本体32と、前記圧電素子本体32を厚み方向に関し上方側の第1圧電部位32a及び下方側の第2圧電部位32bに区画する内側電極34と、前記第1圧電部位32aの上面の一部に固着された上面電極36と、前記第2圧電部位32bの下面に固着された下面電極37と、一端部が前記内側電極34に電気的に接続され且つ他端部が前記上面電極36とは絶縁状態で前記第1圧電部位32aの上面においてアクセス可能な内側電極端子34Tを形成する内側電極用接続部材35と、一端部が前記下面電極37に電気的に接続され且つ他端部が前記上面電極36及び前記内側電極34とは絶縁状態で前記第1圧電部位32aの上面においてアクセス可能な下面電極端子37Tを形成する下面電極用接続部材38とを有している。
【0041】
この場合、前記上面電極36及び前記下面電極37によって形成される外側電極が第1及び第2電極の一方として作用し、前記内側電極34が第1及び第2電極の他方として作用する。
【0042】
前記圧電素子30においては、前記第1及び第2圧電部位32a、32bは、分極方向が厚み方向に関し同一とされており、これにより、前記外側電極36、37及び前記内側電極34の間に所定の電圧を所定周波数で印可することによって、前記第1及び第2圧電部位32a、32bには互いに対して逆方向の電界が加わるようになっている。
【0043】
前述の通り、前記上面電極36及び前記下面電極37は互いに対して絶縁されており、従って、前記圧電素子30を作成する際には、前記上面電極36及び前記下面電極37の間に電圧を印可することによって、前記第1及び第2圧電部位32a、32bの分極方向を同一とすることができる。
【0044】
前記超音波トランスデューサー1A(1B)においては、前記圧電素子30が超音波を発生する振動体として作用するが、この振動体は、たわみ振動の最低次の共振モードの周波数が当該圧電素子30への印加電圧の周波数(駆動周波数)よりも大となるように構成されている。
【0045】
即ち、本実施の形態に係る前記超音波トランスデューサー1A(1B)におけるように、振動体を形成する複数の圧電素子30が並列配置されているフェイズドアレイによって、数メートル先の物体を検知する為には、前記複数の圧電素子30から放射される音波の位相を精密に制御する必要がある。
【0046】
例えば、ステンレス等の剛性の支持板に直接的に複数の圧電素子が並列配置されている構成のフェイズドアレイにおいては、前記剛性支持板の剛性に抗して前記圧電素子を伸縮させ、それによって前記圧電素子及び前記剛性支持板によって形成される振動体を所定の振幅でたわみ振動させて、発生音圧の大きさを確保する必要がある。
【0047】
その為には、前記圧電素子への印可電圧の周波数(駆動周波数)を、当該圧電素子のたわみ振動の共振周波数の近傍に設定する必要がある。
【0048】
しかしながら、前記圧電素子への印可電圧に対する、当該圧電素子のたわみ振動の周波数応答は、当該振動体の共振周波数近傍において位相が大きく変化する。
【0049】
従って、フェイズドアレイセンサーとして機能させるべく、前記複数の圧電素子が発生する音波の位相を精密に制御する為には、前記複数の振動体間における共振周波数に関する「ばらつき」を極限まで抑制する必要があるが、これは非常に難しい。
【0050】
この点に関し、本実施の形態に係る前記超音波トランスデューサー1A(1B)は、前述の通り、第1面10-1に開口された複数の空洞部15及び前記空洞部15の開口幅よりも開口幅が小とされた第1端部が前記空洞部15の底面に開口され且つ第2端部が第2面10-2に開口された複数の導波路16が設けられた前記剛性の支持板10A(10B)と、前記複数の空洞部15を覆うように前記支持板10A(10B)の第1面10-1に固着された可撓性樹脂膜20と、平面視において中央領域が対応する空洞部15と重合し且つ周縁領域が前記支持板10A(10B)の第1面10-1と重合するように前記可撓性樹脂膜20の第1面20-1に固着された前記複数の圧電素子30とを有している。
【0051】
斯かる構成によれば、前記圧電素子30に印加する駆動電圧の周波数を、前記圧電素子30のたわみ振動の共振周波数よりも低く設定しても、振動体として作用する前記圧電素子30の振動振幅を十分に確保することができる。
【0052】
しかも、前記複数の振動体の共振周波数が前記圧電素子30に印加する駆動電圧の駆動周波数よりも高い場合には、前記複数の振動体間において共振周波数の「ばらつき」があったとしても、前記複数の振動体のたわみ振動の周波数応答の位相に大きな差異は生じない。
従って、振動体として作用する前記複数の圧電素子30が発生する音波の位相を精密に制御することができる。
【0053】
詳しくは、前記超音波トランスデューサー1A(1B)をフェイズドアレイセンサーとして用いて、空気中で数メートル先の物体を検知する為には、前記圧電素子30が放射する超音波の周波数を30~50kHz程度の低周波数とする必要がある。
【0054】
前記圧電素子30の共振周波数を、前記圧電素子30に印加する電圧の駆動周波数(30~50kHz)よりも十分に高い共振周波数(例えば、75kHz)とした場合、前記圧電素子30の平面視縦横寸法を大きくした方が、前記振動体が発生する超音波の音圧を高くすることができる。
【0055】
しかしながら、その一方で、本実施の形態に係る超音波トランスデューサー1A(1B)におけるように、複数の圧電素子30が並列配置されてなる場合においては、前記複数の圧電素子30から放射される音波においてその方位角を±90°の範囲で走査する際にグレーティングローブの発生を抑制する為に、前記複数の圧電素子30の配列ピッチを当該圧電素子30が放射する超音波の波長λの1/2以下にする必要がある。
【0056】
周波数40kHzの超音波の波長λは8.6mmであるから、前記圧電素子30が放射する超音波の周波数を40kHzとしつつ、グレーティングローブの発生を抑制する為に、前記複数の圧電素子30の配列ピッチPを8.6mm/2=4.3mm以下にする必要がある。
【0057】
従って、好ましくは、前記圧電素子30の平面視縦横寸法は、音圧の確保の観点では3.0mm以上で、且つ、グレーティングローブの発生を抑制する観点では4.0mm以下とされる。
【0058】
なお、本実施の形態においては、前記圧電素子30は、平面視正方形状とされているが、これに代えて、前記圧電素子の平面視形状を、平面視縦横寸法の最大値が4.30mm以下の長方形を含む矩形状、直径が4.0mm以下の円形状、又は、長径が4.0mm以下の楕円形状とすることも可能である。
【0059】
前記空洞部15は、前記圧電素子30の周縁領域と前記支持板10A(10B)との平面視重合幅が前記圧電素子30の全周に亘って0.05mm~0.1mmとなるように、前記圧電素子30の平面視相似形状とされる。
【0060】
即ち、仮に、前記圧電素子30が一辺4.0mmの平面視正方形状とされている場合には、前記空洞部15は、好ましくは、一辺3.8mm~3.9mmの平面視正方形状とされ、前記圧電素子30が直径4.0mmの平面視円形状とされている場合には、前記空洞部15は、好ましくは、直径3.8mm~3.9mmの平面視円形状とされる。
【0061】
ところで、超音波トランスデューサーをフェイズドアレイセンサーとして用いて対象物の位置(対象物までの距離及び対象物の方向)を検知する際には、前記複数の圧電素子30に、位相制御された所定駆動周波数のバースト波形電圧を印加して対象物の方向へ音波を放射させ、対象物に反射して戻ってきた音波を受信して、音波放射から反射波受信までの時間に基づき対象物までの距離を検知する(なお、反射波の受信は、音波放射を行った超音波トランスデューサーによって行うことも可能であるし、又は、他の受信専用の超音波トランスデューサーによって行うことも可能である)。
【0062】
従って、超音波トランスデューサーから放射される音波の指向性向上を図る為には、超音波トランスデューサーからは、圧電素子に印加する駆動電圧の周波数(駆動周波数)成分のみが含まれる音波が放射されることが望ましい。
【0063】
以下、この点に関し、本実施の形態に係る前記超音波トランスデューサー1Aから放射される音波がどのような周波数を有しているかに関し、本願発明者が行った解析について説明する。
【0064】
解析(1)
前述の通り、超音波トランスデューサーを空中音波フェイズドアレイセンサーとして用いる場合には、通常、前記複数の圧電素子には一定数の周期の正弦波からなるバースト波形電圧が印加される。
【0065】
本解析(1)においては、図1に示す前記超音波トランスデューサー1Aにおいて、前記圧電素子30を共振周波数75kHz及び減衰比0.03の1自由度の振動系と仮定し、前記圧電素子30に振幅10V及び周波数40kHzの正弦波5周期のバースト波形電圧を印加した際の当該圧電素子30の平面視中心点での速度応答の理論計算を行った。
その結果を図6に示す。
【0066】
図6から、振幅10V及び周波数40kHzの5周期のバースト波形電圧に対する前記圧電素子30の速度応答の波形には「歪」が発生し、さらに、駆動電圧の印加終了後においては、減衰振動波形が発生していることが確認できる。
【0067】
これは以下の理由によるものと考えられる。
前記圧電素子30への印加電圧(駆動電圧)が所定周波数(駆動周波数)の正弦波のバースト波形を有している場合には、印加開始時点では電圧ゼロから突然に電圧が印加されることになり、印加終了時点では印加されていた電圧が突然にゼロになる。
【0068】
即ち、正弦波のバースト波形の印加開始時点及び印加終了時点では、駆動電圧波形は、駆動周波数よりも高い周波数成分を含むことになる。
【0069】
この駆動周波数よりも高い周波数成分のうちの、前記圧電素子30の共振周波数に近い周波数成分によって、前記圧電素子30の共振が励起される。
【0070】
この励起された圧電素子30の共振は、駆動電圧の印加開始時点及び印加終了時点から始まる減衰振動の波形を有する。
【0071】
なぜなら、前記圧電素子30の共振周波数に近い周波数成分は、駆動電圧の印加開始時点及び印加終了時点においてのみ含まれるものであり、それ以外の時間帯においては、前記圧電素子30の共振は励起されないからである。
【0072】
その為、前記圧電素子30の速度応答の波形は、図6に示すように、駆動周波数の波形(振幅10V及び周波数40kHzの5周期のバースト波形)に、駆動電圧の印加開始時点及び印加終了時点を起点とする前記減衰振動波形が重なった波形となる。
【0073】
この解析(1)の結果から、本実施の形態に係る前記超音波トランスデューサー1Aにおけるように、前記複数の空洞部15及び前記複数の導波路16が設けられた前記支持板10Aと、前記複数の空洞部15を覆うように前記支持板10Aに固着された可撓性樹脂膜20と、平面視において中央領域が対応する空洞部15と重合し且つ周縁領域が前記支持板10の第1面10-1と重合するように前記可撓性樹脂膜20に固着された前記複数の圧電素子30とを有する構成においては、前記圧電素子30に印加する駆動電圧の周波数(駆動周波数)を前記圧電素子30のたわみ振動の共振周波数よりも低く設定しても、前記圧電素子30の振動振幅を十分に確保することができる反面、前記圧電素子30の振動には、駆動周波数成分に加えて、前記圧電素子30の共振周波数成分が含まれていることが確認できる。
【0074】
この解析(1)の結果を踏まえて、本願発明者は、前記圧電素子30が駆動周波数成分のみを含む音波を放射するように構成することは不可能であるものの、前記圧電素子30と前記超音波トランスデューサー1Aにおける音波放射口(前記導波路16の第2端部)との間に、駆動周波数付近の音波は透過するが、前記圧電素子30の共振周波数成分付近の音波の透過は防止乃至は低減する音波フィルター構造を設ければ、前記超音波トランスデューサー1Aから放射される音波の指向性向上を図ることができるのではないか、という新規な着想を得て、前記空洞部15及び前記導波路16に関し下記解析を行った。
【0075】
解析(2)
図7(a)に、本解析(2)において用いたモデル100の平面図を示す。
また、図7(b)に、図7(a)におけるVII-VII線に沿った部分拡大断面図を示す。
【0076】
前記モデル100は、本実施の形態に係る前記超音波トランスデューサー1Aにおける前記支持板10A、前記可撓性樹脂膜20及び3×11=33個の前記圧電素子30を有している。
【0077】
本解析(2)においては、前記圧電素子30の共振周波数が220kHzとなるように前記圧電素子30における圧電材の密度を7.97×10kg/mに設定し、共振周波数よりも相当に低い駆動周波数(10~100kHz)で振幅10Vの正弦波の電圧を前記圧電素子30に印加して、放射音波の音圧レベル(Sound Pressure Level、以下、SPLと称する)を有限要素法解析(以下、FEM解析と称する)によって算出して、SPL周波数特性を求めた。
【0078】
本解析(2)におけるSPLは、3×11=33個の前記圧電素子30のうち中央に配置された圧電素子30Xの平面視中央点を通り且つ前記圧電素子30の配列面に対して垂直な直線上で、前記平面視中央点から30cm離れた地点での値である。
【0079】
また、本解析(2)においては、前記支持板10A(前記第2板体12)の第2面10-2の全面において3軸方向の変位を拘束して、FEM解析を行った。これは、前記支持板10Aの振動の影響を排除する為である。
【0080】
前記モデル100の形状・寸法は下記の通りである。
圧電素子30:チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)
3×11の矩形配列 ピッチP=4.0mm
密度7.97×10kg/m(共振周波数が220kHz)
一層の厚さが0.13mmの2層積層型(合計厚さ0.26mm)
一辺の長さA=3.4mmの平面視正方形状
可撓性樹脂膜20:厚さ0.05mmのポリイミドフィルム
第1板体11:厚さhmmのステンレス
空洞部15:一辺の長さB=3.3mmの平面視正方形状、深さhmm
第2板体12:厚さ3.0mmのアルミナ(Al2O3)
筒状部17:直径C1=1.5mm、長さL1=0.25mm
ホーン部18:基端側直径C1=1.5mm、放出側直径C2=3.7mm、
長さL2=2.75mm
【0081】
前記空洞部15の深さh(前記第1板体11の厚さ)を0.05mm(モデルA1)、0.1mm(モデルA2)及び0.2mm(モデルA3)に設定して、各モデルA1~A3におけるSPLをFEM解析に基づき算出した。
その結果を図8に示す。
また、図9に、図8における駆動周波数60~90kHzの領域の拡大図を示す。
【0082】
図8及び図9から明らかなように、前記モデルA1~A3においては、駆動周波数が77~80kHzの際にSPLの値が低下しており、この付近の周波数の音波が透過し難いことが確認される。
【0083】
また、モデルA1においてはSPLの低下を招く駆動周波数は80kHz近傍となり、モデルA2においてはSPLの低下を招く駆動周波数は78kHz近傍となり、モデルA3においてはSPLの低下を招く駆動周波数は77kHzとなっている。
【0084】
このことから、前記空洞部15の深さhを変更することによって、SPLが低下する周波数領域の変更が可能であることが推測される。
【0085】
解析(3)
図10(a)に、本解析(3)において用いたモデル102の平面図を示す。
また、図10(b)に、図10(a)におけるX-X線に沿った部分拡大断面図を示す。
【0086】
前記モデル102は、前記モデル100に比して、前記ホーン部18が削除されている点においてのみ相違している。
【0087】
即ち、前記モデル102は、前記モデル100に比して、前記支持板10Aに代えて支持板10Cを有している。
前記支持板10Cは、前記第1板体11及び第2板体12Cを有している。
前記第2板体12Cは、厚さ0.25mmのアルミナ(Al2O3)とされており、前記第2板体12Cに形成された導波路は前記筒状部17(直径C1=1.5mm、長さL1=0.25mm)のみを有している。
【0088】
前記空洞部15の深さh(前記第1板体11の厚さ)を0.1mmに設定したモデル(モデルB1)におけるSPLをFEM解析に基づき算出した。
その結果を図8及び図9に併せて示す。
【0089】
モデルB1においてはSPLの低下を招く駆動周波数は78kHz近傍となっており、これは、h=0.1mmのモデルA2と同じである。
このことから、所定周波数の音波の透過を防止乃至は低減するという作用に関し、前記ホーン部18の有無は影響しないと推測される。
【0090】
解析(4)
本解析(4)においては、導波路が前記筒状部17のみを有する前記モデル102(図10参照)において、前記空洞部15の深さh(即ち、前記第1板体11の厚さ)を0.1mmで一定とした上で、前記筒状部17の長さL1(即ち、前記第2板体12Cの厚さ)を0.25mmで固定しつつ、前記筒状部17の直径C1を1.0mm(モデルB2)、1.5mm(モデルB3)及び2.2mm(モデルB4)に設定して、各モデルB2~B4におけるSPLをFEM解析に基づき算出した。
なお、前記モデルB2~B4は、その他の形状及び寸法については前記モデルB1と同一に設定した。
【0091】
本解析(4)の結果を図11に示す。
図11から、前記筒状部17の直径を変更することによっても、SPLの低下を招く周波数領域の変更が可能であることが推測される。
【0092】
解析(5)
本解析(5)においては、導波路が前記筒状部17のみを有する前記モデル102(図10参照)において、前記空洞部15の深さh(即ち、前記第1板体11の厚さ)を0.1mmで一定とした上で、前記筒状部17の直径C1を1.5mmで固定しつつ、前記筒状部17の長さL1(即ち、前記第2板体12Cの厚さ)を0.25mm(モデルB5)及び0.15mm(モデルB6)に設定して、各モデルB5及びB6におけるSPLをFEM解析に基づき算出した。
なお、前記モデルB5及びB6は、その他の形状及び寸法については前記モデルB1と同一に設定した。
【0093】
本解析(5)の結果を図12に示す。
図12から、前記筒状部17の長さL1は、SPLの低下を招く駆動周波数の値の変更には影響しないと推測される。
【0094】
解析(6)
図13(a)に、本解析(6)において用いたモデル104の平面図を示す。
また、図13(b)に、図13(a)におけるXIII-XIII線に沿った部分拡大断面図を示す。
【0095】
前記モデル104は、前記第2板体12、12Cが削除されている点、及び、前記圧電素子30の共振周波数が75kHzとなるように前記圧電素子30における圧電材の密度を9.96×103kg/mに設定されている点において、前記モデル100、102と相違している。
【0096】
即ち、前記モデル104は、前記空洞部15及び前記導波路16を有さず、前記圧電素子30から直接的に音波が放射されるように構成されている。
【0097】
前記モデル104において、前記第1板体11の厚さを0.1mm(モデルC1)に設定し、このモデルC1におけるSPLをFEM解析に基づき算出した。
その結果を図14に示す。
【0098】
また、前記モデルC1における前記圧電素子30の平面視中心点の変位の周波数特性を算出した。
その結果を図15に示す。
【0099】
図14及び図15に示される通り、前記空洞部15及び前記導波路16を有さない前記モデルC1においては、SPLも前記圧電素子30の変位も前記圧電素子30の共振周波数である75kHz付近で極大となっており、前記圧電素子30の変位の周波数特性がSPLの周波数特性にそのまま現出されている。
【0100】
解析(7)
前記空洞部15及び前記導波路16を有する前記モデル100(図7(a)及び(b))において、前記空洞部15の深さhを0.1mmに固定した上で、前記圧電素子30の共振周波数を70kHz(モデルA11)、74kHz(モデルA12)、75kHz(モデルA13)、77kHz(モデルA14)、83kHz(モデルA15)に設定して、各モデルA11~A15におけるSPLをFEM解析に基づき算出した。
その結果を図16に示す。
【0101】
なお、前記各モデルA11~A15における前記圧電素子30の共振周波数の設定は、前記圧電素子30における圧電材の密度の変更によって行っている。
即ち、前記モデルA11~A15において、圧電材の密度を下記の通りに設定した。
モデルA11(共振周波数70kHz):10.76×103kg/m
モデルA12(共振周波数74kHz):10.12×103kg/m
モデルA13(共振周波数75kHz): 9.96×103kg/m
モデルA14(共振周波数77kHz): 9.25×103kg/m
モデルA15(共振周波数83kHz): 7.97×103kg/m
【0102】
図16から明らかなように、前記モデルA11においては、駆動周波数75kHz付近においてSPLが低下されている一方で、駆動周波数72kHz付近にSPLの極大点が現出されている。
【0103】
前記モデルA14においては、駆動周波数75kHz付近においてSPLが低下されている一方で、駆動周波数77kHz付近にSPLの極大点が現出されている。
【0104】
また、前記モデルA15においては、駆動周波数75kHz付近においてSPLが低下されている一方で、駆動周波数83kHz付近にSPLの極大点が現出されている。
【0105】
これらの結果から、
・開口幅が一辺の長さB=3.3mmの平面視正方形状とされ且つ深さhが0.1mmとされた前記空洞部15、及び、直径C1が1.5mmで且つ長さL1が0.25mmとされた前記筒状部17が、周波数75kHz近傍の音波の透過を防止乃至は低減する音波フィルターとして作用していること、
・前記圧電素子30の共振周波数が、前記空洞部15及び前記筒状部17が透過を防止乃至は低減する周波数75kHzとは異なっている前記モデルA11(共振周波数70kHz)、前記モデルA14(77kHz)及び前記モデルA15(83kHz)においては、放射音波に圧電素子30の共振周波数成分が重合されていること
が推測される。
【0106】
これに対し、圧電素子30の共振周波数が75kHzに設定された前記モデルA13においては、周波数75kHz付近におけるSPLの低下及び極大の何れも現出されていない。
【0107】
これは、前記モデルA13においては、放射音波に含有されている前記圧電素子30の共振周波数75kHzの成分が、周波数75kHz近傍の音波の透過を防止乃至は低減するように構成された前記空洞部15及び前記筒状部17によって有効にカットされているものと考えられる。
【0108】
また、圧電素子30の共振周波数が74kHzに設定された前記モデルA12においても、SPLの低下及び極大の双方ともにかなり低減されている。
【0109】
これは、放射音波に含有されている前記圧電素子30の共振周波数74kHzの成分が、周波数75kHz近傍の音波の透過を防止乃至は低減するように構成された前記空洞部15及び前記筒状部17によって有効にカットされているものと考えられる。
【0110】
このことから、前記空洞部15及び前記筒状部17が前記圧電素子30の共振周波数の±1.5%内の周波数の音波の透過を低下させるように、前記空洞部15及び前記筒状部17を構成することによって、放射音波から前記圧電素子30の共振周波数成分を有効にカットできると考えられる。
【0111】
なお、前記解析(2)及び(4)において記載した通り、透過の防止乃至は低減を行なえる周波数の調整は、前記空洞部15の深さ及び/又は前記導波路16の筒状部17の直径を変更することによって有効に行うことができる。
【0112】
解析(8)
前記空洞部15及び前記導波路16を有する前記モデル100(図7(a)及び(b))において、前記圧電素子30の共振周波数を75kHzに固定し且つ前記空洞部15の深さhを0.1mmに固定した上で、前記筒状部17の直径C1を1.2mm(モデルA21)、1.5mm(モデルA22)、1.8mm(モデルA23)及び2.2mm(モデルA24)に設定して、各モデルA21~A24におけるSPLをFEM解析に基づき算出した。
その結果を図17に示す。
【0113】
図17から明らかなように、前記モデルA21、A23、A24においては、駆動周波数75kHz付近にSPLの極大点が現出されている。
これは、駆動周波数75kHzの際に、前記圧電素子30から放射される音波に当該圧電素子30の共振周波数成分が重合されている為と推測される。
【0114】
そして、前記モデルA21においては、駆動周波数71kHz付近においてSPLが低下され、前記モデルA23においては、駆動周波数79kHz付近においてSPLが低下され、前記モデルA24においては、駆動周波数88kHz付近においてSPLが低下されている。
【0115】
このことから、前記モデルA21における前記空洞部15(一辺の長さB=3.3mmの平面視正方形状×深さh=1.5mm)及び前記筒状部17(直径C1=1.2mm×長さL1=0.25mm)の組み合わせは周波数71kHz付近の音波の透過を抑制し、前記モデルA23における前記空洞部15(一辺の長さB=3.3mmの平面視正方形状×深さh=1.5mm)及び前記筒状部17(直径C1=1.8mm×長さL1=0.25mm)の組み合わせは周波数79kHz付近の音波の透過を抑制し、前記モデルA24における前記空洞部15(一辺の長さB=3.3mmの平面視正方形状×深さh=1.5mm)及び前記筒状部17(直径C1=2.2mm×長さL1=0.25mm)の組み合わせは周波数88kHz付近の音波の透過を抑制するものと推測される。
【0116】
一方、前記モデルA22においては、特定周波数領域でのSPLの低下及び極大は現出されていない。
【0117】
これは、前記モデルA22においても、駆動周波数75kHzの際に、前記圧電素子30から放射される音波に当該圧電素子30の共振周波数成分が重合されているものの、前記モデルA22における前記空洞部15(一辺の長さB=3.3mmの平面視正方形状×深さh=1.5mm)及び前記筒状部17(直径C1=1.5mm×長さL1=0.25mm)の組み合わせが周波数75kHz付近の音波の透過を抑制している為と考えられる。
【0118】
ここで、前記空洞部15及び前記筒状部17が形成する音波フィルターの効果を確かめる為に行った検証について説明する。
【0119】
検証(1)
前記解析(7)で用いたモデルA22と同一形状、同一材質及び同一寸法の試作品を作成し、この試作品に対して前記解析(1)におけると同一条件(振幅10V及び周波数40kHzの正弦波5周期のバースト波形電圧)で電圧を印加し、放射音波の応答を時間領域で測定した。
測定結果を図18に示す。
【0120】
図18に示す通り、音圧の時間領域波形には、ほぼ駆動周波数の正弦波の波形のみが現出されている。
【0121】
これは、前記圧電素子30から発生された音波には、駆動周波数成分に加えて、前記圧電素子30の共振周波数成分が重合されているものの、前記圧電素子30の共振周波数成分は前記空洞部15及び前記筒状部17によって形成される音波フィルターによって有効にカットされた為、と考えられる。
【0122】
検証(2)
前記検証(1)で用いた試作品に前記検証(1)におけると同一条件の駆動電圧を印加した場合の音圧の指向性を測定した。
測定結果を図19に示す。
【0123】
また、前記試作品に対して、連続波の駆動電圧(振幅10V及び周波数40kHzの正弦波の連続波形電圧)を印加した場合の音圧の指向性を測定した。
その結果を図19に併せて示す。
【0124】
図19に示されるように、駆動電圧がバースト波形電圧の場合及び連続波形電圧の場合の双方において、鋭く良好な音圧指向性が確認された。
【0125】
また、バースト波形電圧を印加した際の指向性は、連続波形電圧を印加した際の指向性とほぼ重なっていることが確認できる。
【0126】
これは、前記空洞部15及び前記筒状部17によって形成される音波フィルターが、放射音波から前記圧電素子30の共振周波数成分を有効にカットしている為、と考えられる。
【0127】
以下、本実施の形態に係る超音波トランスデューサー1Aの任意構成部材について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る前記超音波トランスデューサー1Aは、前記支持板10A、前記可撓性樹脂膜20及び前記複数の圧電素子30に加えて、任意構成部材として下側封止板40及び配線アッセンブリ150を有している。
【0128】
図20に、図1におけるXX-XX線に沿った断面図を示す。
図20に示すように、前記下側封止板40は、前記複数の圧電素子30をそれぞれ囲む大きさの複数の圧電素子用開口42を有しており、前記下側封止板40は、平面視において前記複数の圧電素子30が前記複数の圧電素子用開口42内に位置するように前記可撓性樹脂膜20の第1面20-1に接着剤又は熱圧着等によって固着されている。
【0129】
図1に示すように、前記下側封止板40の厚さは、前記圧電素子30の厚さよりも大とされており、前記可撓性樹脂膜20の第1面20-1に固着された状態において前記下側封止板40の第1面が、前記圧電素子30における前記上面電極36、前記下面電極端子37T及び前記内側電極端子34T(図5参照)よりも前記可撓性樹脂膜20から離間されている。
【0130】
前記下側封止板40は、ステンレス等の金属や炭素繊維強化プラスチック及びセラミックス等の剛性部材によって形成される。
【0131】
前記下側封止板40は、前記複数の圧電素子30を含む圧電素子群の側方を封止するとともに、前記配線アッセンブリ150が固着される基台として作用する。
【0132】
前記配線アッセンブリ150は、外部から供給される印可電圧を前記複数の圧電素子30へ伝達する為のものである。
【0133】
図1に示すように、前記配線アッセンブリ150は、前記下側封止板40に接着剤等によって固着される絶縁性ベース層160と、前記ベース層160に固着された導体層170と、前記導体層170を囲繞する絶縁性のカバー層180とを有している。
【0134】
前記ベース層160及び前記カバー層180は、例えば、ポリイミド等の絶縁性樹脂によって形成される。
【0135】
前記導体層170は、例えば、Cu等の導電性金属によって形成される。
前記導体層170は、前記ベース層160上に積層された厚さ12~25μm程度のCu箔に対して不要部分をエッチング除去することによって形成可能である。
好ましくは、前記導体層170を形成するCuの露出部分にNi/Auメッキを施すことができる。
【0136】
本実施の形態においては、前記導体層170は、前記圧電素子30の第1電極(本実施の形態においては外側電極36、37)及び第2電極(本実施の形態においては内側電極34)にそれぞれ接続される第1配線170a及び第2配線170bを含んでいる。
【0137】
前記ベース層160には、前記第1配線170aを対応する前記圧電素子30の第1電極に接続する為の第1配線/圧電素子接続用開口161aと、前記第2配線170bを対応する前記圧電素子30の第2電極に接続する為の第2配線/圧電素子接続用開口161bとが形成されている。
【0138】
本実施の形態においては、前述の通り、前記上面電極36及び前記下面電極37が前記第1電極として作用し且つ前記内側電極34が前記第2電極として作用している。
【0139】
従って、前記第1配線170aのうち前記第1配線/圧電素子接続用開口161aを介して露出する部分が前記上面電極36の一部及び前記下面電極端子37Tの双方に、例えば、導電性接着剤又ははんだによって電気的に接続されている。
【0140】
そして、前記第2配線170bのうち前記第2配線/圧電素子接続用開口161bを介して露出する部分が前記内側電極端子34Tに、例えば、導電性接着剤又ははんだによって電気的に接続されている。
【0141】
前記カバー層180には、前記第1及び第2配線170a、170bをそれぞれ外部に電気的に接続させる為の第1配線/外部接続用開口及び第2配線/外部接続用開口が設けられている。
【0142】
図1に示すように、本実施の形態に係る前記超音波トランスデューサー1Aは、さらに、前記下側封止板40及び前記配線アッセンブリ150の上面に柔軟性樹脂55を介して固着された上側封止板60を有している。
前記上側封止板60は、前記複数の圧電素子30のそれぞれに対応した位置に開口部65を有している。
【0143】
前記上側封止板60を備えることにより、前記振動体のたわみ振動動作への影響を可及的に防止しつつ、前記配線アッセンブリ150の支持安定化を図ることができる。
【0144】
前記上側封止板60は、例えば、厚さ0.1mm~0.3mmのステンレス等の金属や炭素繊維強化プラスチック及びセラミックス等によって形成される。
【0145】
本実施の形態に係る超音波トランスデューサー1Aは、さらに、前記上側封止板60の複数の開口部65を覆うように前記上側封止板60の上面に接着等によって固着された吸音材70を備えている。
【0146】
前記吸音材70は、例えば、厚さ0.3mm~1.5mm程度のシリコーン樹脂又は他の発泡性樹脂によって形成される。
【0147】
前記吸音材70を備えることにより、前記圧電素子30によって生成される音波が放射されるべき側(図1において下側)とは反対側へ放射されることを有効に抑制することができる。
【0148】
前記超音波トランスデューサー1Aは、さらに、前記吸音材70の上面に接着等によって固着された補強板75を備えている。
【0149】
前記補強板75は、例えば、厚さ0.2mm~0.5mm程度のステンレス等の金属や炭素繊維強化プラスチック及びセラミックス等によって形成される。
【0150】
前記補強板75を備えることにより、外力が前記基板10及び前記圧電素子30に影響を与えることを可及的に防止することができる。
【符号の説明】
【0151】
1A、1B 超音波トランスデューサー
10A、10B 支持板
10-1 支持板の第1面
10-2 支持板の第2面
15 空洞部
16 導波路
17 筒状部
18 ホーン部
20 可撓性樹脂膜
【要約】
本発明の超音波トランスデューサーは、第1面に開口された複数の空洞部及び第2面に開口された複数の導波路を有する支持板と、支持板に固着された可撓性樹脂膜と、平面視において中央領域が空洞部と重合し且つ周縁領域が支持板と重合するように可撓性樹脂膜に固着された複数の圧電素子とを備え、空洞部及び導波路は、圧電素子の共振周波数の±1.5%内の周波数の音波の透過を低下させるように形状及び寸法が設定されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図18
図19
図20