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特許7139567燃料電池用酸化触媒及びその製造方法並びに燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】燃料電池用酸化触媒及びその製造方法並びに燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20220913BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20220913BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220913BHJP
   H01M 8/1011 20160101ALI20220913BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M8/10 101
H01M8/1011
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018163411
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020035720
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】中川 紳好
(72)【発明者】
【氏名】石飛 宏和
(72)【発明者】
【氏名】阿部 壮真
(72)【発明者】
【氏名】山本 春也
(72)【発明者】
【氏名】越川 博
(72)【発明者】
【氏名】八巻 徹也
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-244246(JP,A)
【文献】国際公開第2018/117254(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/140612(WO,A1)
【文献】特表2015-516883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/10
H01M 8/1011
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折法により求められる111面の面間隔が0.3129nm~0.3160nmである酸化セリウム、及び、X線回折法により求められる110面の面間隔が0.3195nm~0.3244nmである酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物を含む担体と、
前記担体に担持された触媒金属と、
を有する、直接メタノール型燃料電池用酸化触媒。
【請求項2】
前記担体は、カーボン材料を更に含む、請求項1に記載の直接メタノール型燃料電池用酸化触媒。
【請求項3】
前記酸化セリウムは、粒子状の前記酸化セリウムを含み、前記粒子状の酸化セリウムの結晶子径は1nm~1μmである、請求項1又は請求項2に記載の直接メタノール型燃料電池用酸化触媒。
【請求項4】
前記酸化チタンは、粒子状の酸化チタンを含み、前記粒子状の酸化チタンの結晶子径が、1nm~1μmである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用酸化触媒。
【請求項5】
直接メタノール型燃料電池の燃料としてアルコール又はエーテルを用いた燃料電池に用いられる、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用酸化触媒。
【請求項6】
高分子電解質膜と、
電極と、
前記高分子電解質膜と前記電極との間に設けられた、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用酸化触媒を有する触媒層と、
を備える、燃料電池。
【請求項7】
遷移金属酸化物を含む担体に、イオンビームを1.0×1010ions/cm~8.0×1012ions/cmの照射量で照射する照射工程と、
前記照射工程で得られた前記遷移金属酸化物を含む担体に触媒金属を担持する工程と、
を有
前記遷移金属酸化物が酸化セリウム及び酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記イオンビームのイオン種がArイオン、Krイオン、又はXeイオンであり、
前記イオンビームが、エネルギー127MeV及び照射量5.0×10 11 ions cm -2 ~1.0×10 12 ions cm -2 のArイオンビーム、
エネルギー310MeV及び照射量3.0×10 11 ions cm -2 ~3.0×10 12 ions cm -2 のKrイオンビーム、
又は、エネルギー350MeV及び照射量2.0×10 11 ions cm -2 ~2.0×10 12 ions cm -2 のXeイオンビームであり、
前記得られた遷移金属酸化物が、X線回折法により求められる111面の面間隔が0.3129nm~0.3160nmである酸化セリウム、及び、X線回折法により求められる110面の面間隔が0.3195nm~0.3244nmである酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1つである、
直接メタノール型燃料電池用酸化触媒の製造方法。
【請求項8】
前記担体は、カーボン材料を更に含む、請求項7に記載の直接メタノール型燃料電池用酸化触媒の製造方法。
【請求項9】
前記照射工程で得られた前記遷移金属酸化物は、面間隔の変化率の絶対値が、0.15%~0.65%である、請求項7又は請求項8に記載の直接メタノール型燃料電池用酸化触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池用酸化触媒及びその製造方法並びに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話などの携帯機器の普及が加速している。携帯機器の発展に伴い、高機能化が進められ、消費電力量はますます増加する傾向にある。また、現在これらの携帯機器の電源には主にリチウムイオン電池などの二次電池が使用されているが、この電池の理論的なエネルギー密度は現状よりも飛躍的に増大させることは困難であることは知られている。そのため、エネルギー密度がより大きく、小型化及び軽量化が可能な新しい小型電源の開発が必要とされている。
【0003】
従来の二次電池に替わる新しいエネルギーデバイスの一つとして、メタノールを燃料とした直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol fuel cell :DMFC)が注目されている。
直接メタノール型燃料電池は、液体の燃料を使用するため理論的なエネルギー密度が大きく、小型化が容易になると考えられ、広く研究されている。
【0004】
例えば、固体高分子電解質膜の両側に夫々触媒層を介して、アノード層、カソード層を形成した固体高分子電解質型燃料電池セルにおいて、該触媒層の少なくとも一方は、溶剤を用いずに形成したものであることを特徴とする固体高分子型燃料電池セルが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、例えば、固体高分子電解質膜と、電極と、前記固体高分子電解質と電極間に設けられた触媒層を有する固体高分子型燃料電池の触媒層であって、樹枝状構造の触媒を有することを特徴とする固体高分子型燃料電池の触媒層とこの触媒層を有する固体高分子型燃料電池が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-289206号公報
【文献】特開2006-049278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載された電子ビーム蒸着により触媒層を用いた場合、DMFCのさらなる発展のためには、更なる出力の改善のためにもアルコール酸化活性の向上の改善が求められている。また、DMFCでは、アノード触媒に使用される貴金属のコストが高いことも懸念されている。DMFCのアノード触媒においては、貴金属の使用量を抑えて、かつ、アルコール酸化活性を向上させることが求められている。
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定量のイオンビームの照射により、面間隔が広がった酸化セリウムを含む担体を用いた燃料電池用酸化触媒では、燃料に対する酸化活性に優れることを見出した。
【0008】
本開示は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、燃料に対する酸化活性に優れた燃料電池用酸化触媒及びその製造方法、並びに、それを用いた燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、前記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> X線回折法により求められる111面の面間隔が0.3129nm~0.3160nmである酸化セリウム、及び、X線回折法により求められる110面の面間隔が0.3195nm~0.3244nmである酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物を含む担体と、
前記担体に担持された触媒金属と、
を有する、燃料電池用酸化触媒。
<2> 前記担体は、カーボン材料を更に含む、<1>に記載の燃料電池用酸化触媒。
<3> 前記酸化セリウムは、粒子状の前記酸化セリウムを含み、前記粒子状の酸化セリウムの結晶子径は1nm~1μmである、上記<1>又は<2>に記載の燃料電池用酸化触媒。
<4> 前記酸化チタンは、粒子状の酸化チタンを含み、前記粒子状の酸化チタンの結晶子径が、1nm~1μmである、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の燃料電池用酸化触媒。
<5> 直接メタノール型燃料電池の燃料としてアルコール又はエーテルを用いた燃料電池に用いられる、<1>~<4>のいずれか1つに記載の燃料電池用酸化触媒。
<6> 高分子電解質膜と、
電極と、
前記高分子電解質膜と前記電極との間に設けられた、<1>~<5>のいずれか1つに記載の燃料電池用酸化触媒を有する触媒層と、
を備える、燃料電池。
<7> 遷移金属酸化物を含む担体に、イオンビームを1.0×1010ions/cm~8.0×1012ions/cmの照射量で照射する照射工程と、
上記照射工程で得られた前記遷移金属酸化物を含む担体に触媒金属を担持する工程と、
を有する、燃料電池用酸化触媒の製造方法。
<8> 前記担体は、カーボン材料を更に含む、<7>に記載の燃料電池用酸化触媒の製造方法。
<9> 前記遷移金属酸化物は、酸化セリウム、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化マンガン、酸化スズ及び酸化ジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1つを含む、上記<7>又は<8>に記載の燃料電池用酸化触媒の製造方法。
<10> 前記照射工程で得られた前記遷移金属酸化物は、面間隔の変化率の絶対値が、0.15%~0.65%である、<7>~<9>のいずれか1つに記載の燃料電池用酸化触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、燃料に対する酸化活性に優れた燃料電池用酸化触媒及びその製造方法、並びに、それを用いた燃料電池を提供とすることができる。また、触媒金属の使用量を抑えても高出力となる燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、静電紡糸法による酸化セリウムを含む担体の製造方法の一例を示す図である。
図2図2は、酸化セリウム(111)面のピークの拡大図である。
図3図3は、イオンビーム照射量と触媒の質量活性との関係を表した図である。
図4図4は、酸化セリウム(111)面の面間隔値d[Å]と触媒の質量活性との関係を表した図である
図5図5は、燃料電池膜電極接合体の構成を一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態に係る燃料電池用酸化触媒について説明する。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
《燃料電池用酸化触媒》
本開示に係る燃料電池用酸化触媒は、面間隔(即ち、結晶の格子間隔)が調整された遷移金属酸化物の微粒子を含む担体と、前記担体に担持された触媒金属と、を有する。本開示の一実施形態としては、X線回折法により求められる111面の面間隔が0.3129nm~0.3160nmである酸化セリウム、及び、X線回折法により求められる110面の面間隔が0.3195nm~0.3244nmである酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物を含む担体と、上記担体に担持された触媒金属と、を有する。
なお、遷移金属酸化物としては、後述の燃料電池用酸化触媒の製造方法に用いられる遷移金属酸化物と同義であり、好ましい態様も同様である。
X線回折法により求められる111面の面間隔が0.3129nm~0.3160nmである酸化セリウムを含む担体に担持された触媒金属、及び、X線回折法により求められる110面の面間隔が0.3195nm~0.3244nmである酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1つの酸化物を含む担体に担持された触媒金属を有する燃料電池用酸化触媒では、燃料に対する酸化活性に優れ、また、面間隔が調整された遷移金属酸化物(具体的には、酸化セリウム及び/又は酸化チタン)を含む担体では、触媒金属の量を低減することができる。
このような効果が得られる作用は明らかではないが、以下のように推測される。
【0014】
例えば、直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol fuel cell :DMFC)では、メタノールが完全酸化した場合、以下の電極反応式を示す
Anode reaction : CH3OH + H2O → CO2 + 6H++ 6e (1.1)
Cathode reaction : O2 + 4H+ + 4e → 2H2O (1.2)
Total reaction : CH3OH + 3/2 O2 → CO2 + 2H2O (1.3)
メタノールが完全酸化された場合、アノード層に供給されたメタノールと水が式(1.1)のように反応する。カソードでは供給された酸素と、アノード層で生成した電子とプロトンが式(1.2)のように反応する。この時、固体高分子電解質膜の性質により電子は膜を通らず外部回路を通ってカソードに移動し、この仕組みによって発電されるようになっている。また、全体の反応式は式(1.3)のようになっている。
【0015】
一般に、直接メタノール型燃料電池では、アノード(陽極)層の電極反応速度が遅いことが知られている。その原因としては、アノード層中に含まれるPtへの反応中間体(CO等)の被毒である。PtがCO種に被毒を受けることにより反応サイトが減少し、反応速度が低下してしまう。そのため、例えば、PtにRu等を添加し、合金化することによりCO被毒を軽減されることで、メタノール酸化反応(MOR)活性が向上したが、その活性は必ずしも十分ではなく、更に高い活性が求められている。
【0016】
適切な条件のイオンビーム照射処理された酸化セリウム及び酸化チタンは、酸化セリウムでは、X線回折法により求められる酸化セリウムの111面の面間隔が0.3129nm~0.3160nmとなり、酸化チタンでは、X線回折法により求められる酸化チタンの110面の面間隔が0.3195nm~0.3244nmとなる。
このように酸化セリウム又は酸化チタンにイオンビームの照射がされると、照射前の酸化セリウム又は酸化チタンの面間隔に比べて、面間隔が拡張又は減少すると推察される。すなわち、特定の面間隔値を示す酸化セリウム又は酸化チタンでは、酸素原子空孔が形成されていると推察されるため、この酸化セリウムを含む担体又は酸化チタンを含む担体を有する燃料電池用酸化触媒では、酸化セリウム又は酸化チタンから触媒金属表面への酸素種供給(以下、「OH基供給能」とも称する場合がある。)が促進されるので、触媒金属の表面でのメタノール等の燃料の酸化反応が活性化されると共に、酸化セリウム又は酸化チタンの導電性が向上すると推察される。
このことから、本開示に係る燃料電池用酸化触媒では、触媒金属の使用量を低減しても燃料に対して高い酸化活性が得られやすい。
以下、燃料電池用酸化触媒を構成する各成分の詳細について説明する。
【0017】
<担体>
本開示に係る燃料電池用酸化触媒が有する担体は、X線回折法により求められる111面の面間隔が0.3129nm~0.3160nmである酸化セリウム(以下、「特定酸化セリウム」ともいう。)及びX線回折法により求められる110面の面間隔が0.3195nm~0.3244nmである酸化チタン(以下、「特定酸化チタン」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも1つの酸化物を含む。
特定酸化セリウム及び特定酸化チタンは、酸素原子空孔が比較的多く形成されているため、これらの特定の酸化物を含む担体を有する燃料電池用触媒では、OH基供給能が向上され、導電性が向上して、燃料に対する酸化活性を向上させることができ、また、後述する触媒金属量を低減させることが可能となる。
【0018】
酸化セリウム及び酸化チタンにおける酸素原子空孔の生成の度合いは、例えば、XRD測定(X-Ray Diffraction;X線回折)によって確認することができる。例えば、酸化セリウムの場合、XRD測定において、一般に最大ピーク強度を示す111面のピークの位置のずれにより、酸素原子空孔の生成度合いを確認することができる。
また、酸化チタンの場合、同様に110面のピーク位置のずれによって、酸素原子空孔の生成度合いを確認することができる。
【0019】
(特定酸化セリウム)
特定酸化セリウムは、X線回折法により求められる111面の面間隔は0.3129nm~0.3160nmであり、燃料に対する酸化活性に優れる観点から、X線回折法により求められる酸化セリウムの111面の面間隔としては、0.3130nm~0.3150nmがより好ましく、0.3140nm~0.3145nmであることが更に好ましい。
【0020】
特定酸化セリウムの111面の面間隔は、例えば、以下の方法で求められる。
CuKαを用いた粉末X線回折装置(製品名;Rint2100、(株)リガク製)を用いて、V=32kV、I=20mAの条件で、燃料電池用触媒担体に照射し、このときの回折線をゴニオメーター(製品名;Rinto2000縦型ゴニオメーター、(株)リガク製)を用いて、スキャン速度1.0°/分で2θ=5°~90°付近に現れる回折ピーク位置(即ち、面間隔値)を測定する。このピーク位置の回折角2θ[Degree]から特定酸化セリウムの111面の面間隔の値d[nm]を下記の式より求めることができる。
d[nm]=λ/(2・sinθ)
上記式中、λ(=0.154056nm)はX線波長を示す。
【0021】
担体は、粒子状の酸化セリウムを含み、上記粒子状の酸化セリウムの結晶子径は1nm~1μmであることが好ましい。結晶子径が上記範囲内であると、後述の白金等の触媒金属と酸化セリウムとの間の強い相互作用が得られやすい。
上記観点から、粒子状の酸化セリウムの結晶子径としては、1nm~1μmであることが好ましく、より好ましくは5nm~500nmであり、更に好ましくは5nm~100nmであり、特に好ましくは10nm~20nmである。
本明細書において結晶子径とは、結晶を構成する最小結晶単位の大きさ(最大径)であり、一般に、X線回折(XRD)装置を用いて測定することができる。
【0022】
本開示において、結晶子径は以下の測定法及び算出法により求められる。
先ず、CuKαを用いた粉末X線回折を用いて、サンプルを測定し、2θ=5°~90°付近の範囲において、最大強度を示すピーク、又は、近接するピークと分離可能な大きな強度を示すピークの半値幅を測定し、下記のシェラー(Scherrer)の式を用いて結晶子径を求める。

D=K・λ/(β・cosθ)

D;結晶子径[nm]
K;Scherrer定数
λ;測定X線波長[nm]
θ;回折線のブラッグ角(回折角2θの半分)[rad(ラジアン)]
β;結晶格子の回折線の半値幅[rad(ラジアン)]
【0023】
特定酸化セリウムは、イオンビームを1.0×1010ions/cm~8.0×1012ions/cmの照射量で酸化セリウムを含む担体に照射して得られることが好ましく、得られる燃料電池用酸化触媒の燃料に対する酸化活性がより優れる観点から、酸化セリウムに対するイオンビームの照射量としては、1.0×1011ions/cm~5.0×1012ons/cmの照射量であることがより好ましく、1.0×1011ions/cm~4.0×1012ons/cmの照射量であることが更に好ましい。
【0024】
イオンビームの照射に用いる酸化セリウムは、特に制限はなく、市販品でもあってもよく、セリウムを熱処理(酸化処理)した化合物であってもよい。
【0025】
イオンビームの照射に用いるイオン種としては、特に制限はないが、Ar、Kr等の希ガス、Br、I等のハロゲン原子、水素、窒素、酸素等が挙げられる。
【0026】
イオン種を加速する加速器及び照射量は、イオン種によって適宜選択することができる。
例えば、イオン種としてAr又はHを用いる場合には静電加速器を、Ar9+及びKr20+を用いる場合には、サイクロトン加速器を用いて、照射することが好ましい。
【0027】
担体における特定酸化セリウムの含有量としては、酸化セリウムを含有する後述のカーボンナノファイバー担体の全質量に対して、10質量%~60質量%であることが好ましく、20質量%~40質量%であることがより好ましい。
【0028】
(特定酸化チタン)
特定酸化チタンは、X線回折法により求められる110面の面間隔が0.3190nm~0.3250nmであり、燃料に対する酸化活性に優れる観点から、X線回折法により求められる酸化チタンの110面の面間隔としては、0.3195nm~0.3244nmであることが好ましい。
特定酸化チタンの110面の面間隔の求め方は、既述の酸化セリウムと同様の方法で求めることができる。
【0029】
特定酸化チタンの結晶構造としては、ルチル型、アナタース型、ブルッカイト型等が挙げられるが、燃料に対する酸化活性に優れる観点から、ルチル型であることが好ましい。
担体中にルチル型の特定酸化チタンが含まれていることは、粉末X線回折装置を用いる方法で確認することができる。
【0030】
特定酸化チタンの結晶子径としては、燃料に対する酸化活性に優れる観点から、1nm~1μmであることが好ましく、より好ましくは10nm~500nmであり、更に好ましくは10nm~100nmであり、特に好ましくは、15nm~40nmである。
なお、特定酸化チタンの粒子径は、既述の特定酸化セリウムと同様の方法により求めることができる。
【0031】
特定酸化チタンは、イオンビームを1.0×1010ions/cm~8.0×1012ions/cmの照射量で酸化チタンを含む担体に照射して得られることが好ましく、得られる燃料電池用酸化触媒の燃料に対する酸化活性の観点から、酸化チタンに対するイオンビームの照射量としては、1.0×1011ions/cm~5.0×1012ons/cmの照射量であることがより好ましく、1.0×1011ions/cm~4.0×1012ons/cmの照射量であることが更に好ましい。
イオンビームの照射に用いる酸化チタンは、特に制限はなく、市販品でもあってもよく、チタンを熱処理(酸化処理)した化合物であってもよい。
また、酸化チタンに照射するイオンビームのイオン種、イオン種を加速する加速器は、既述の酸化セリウムに用いるイオンビームのイオン種、加速器と同様である。
【0032】
担体における特定酸化チタンの含有量としては、特定酸化チタンを含有する後述のカーボンナノファイバー担体の全質量に対して、40質量%~70質量%であることが好ましい。
【0033】
本開示に係る燃料電池用酸化触媒が有する担体は、特定酸化セリウム、及び、特定酸化チタン以外の他の遷移金属酸化物、すなわち、面間隔が調整されていない遷移金属酸化物を含有してもよいが、触媒活性の観点から、面間隔が調整されていない遷移金属酸化物を含有しないことが好ましい。
【0034】
(カーボン材料)
担体は、カーボン材料を更に含むことが好ましい。担体がカーボン材料を含むことで、導電性を更に向上することができる。
カーボン材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー(CNF)、フラーレン等が挙げられる。
なお、カーボン材料とは、例えば、炭素元素をカーボン材料に含まれる全元素に対して90個数%以上を含むものを指す。
【0035】
カーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック等の公知のカーボンブラックが挙げられる。
カーボン材料がカーボンブラックである場合、カーボンブラックの平均一次粒子径としては、例えば1nm~100nmが挙げられ、20nm~80nmの範囲であることが好ましい。
【0036】
表面積が広く、表面に結晶構造的欠陥をより形成し易く、カーボン材料と遷移金属酸化物との相互作用が得られやすい観点から、カーボン材料としては、シート状のカーボン材料であることが好ましく、カーボンナノファイバー(CNF)であることがより好ましい。
【0037】
カーボン材料がカーボンナノファイバーである場合、その径としては、例えば50nm以上500nm以下の範囲が挙げられ、200nm~300nmの範囲が好ましい。
【0038】
カーボン材料としてカーボンナノファイバー(CNF)を用いる場合、カーボンナノファイバーの製造方法としては、代表的なものとして例えば静電紡糸法が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0039】
静電紡糸法は、原料となる高分子化合物の溶液をノズル等の噴出口から噴出させながら高電圧を印加する静電紡糸操作を行い、繊維状のカーボンナノファイバーを得る方法である。
原料となる高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリイミド(PI)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ピッチ、フェノール樹脂等が挙げられる。高分子化合物の溶液に用いる溶媒は、原料となる高分子化合物を溶解させるものであれば特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、塩化亜鉛水溶液、チオシアン酸ナトリウム水溶液等が挙げられ、溶解性および粘度、導電性などの静電紡糸特性の観点からN,N-ジメチルホルムアミドを用いることが好ましい。
【0040】
なお、静電紡糸操作の後に、例えば恒温槽で高温の空気雰囲気下において安定化処理を行ってもよく、高温の窒素雰囲気下において炭化処理を行ってもよく、また炭化後に高温で水蒸気雰囲気や二酸化炭素雰囲気下において賦活処理を行ってもよく、さらに炭化後に高温でアンモニア雰囲気において窒素ドープ処理を行ってもよく、安定化処理、炭化処理、賦活処理、窒素ドープ処理のいずれかまたはそれらの組み合わせを行ってもよい。
【0041】
酸化セリウム、酸化チタン等の遷移金属酸化物、及び、カーボンナノファイバーを含有する担体を製造する場合、例えば、溶媒と、炭素源として上記高分子化合物及び上記遷移金属酸化物と、を混合した混合液を用いて、静電紡糸法により、上記遷移金属酸化物と、カーボンナノファイバーと、を含有する担体を調製してもよい。
【0042】
燃料電池用酸化触媒が有する担体がカーボン材料を含有する場合、燃料に対する酸化活性を向上させる観点から、カーボン材料と遷移金属酸化物との含有比(カーボン材料:遷移金属酸化物)としては、体積基準で、10:1~1:1が好ましく、5:1~1:1であることが好ましい。
燃料電池用酸化触媒が有する担体がカーボン材料を含有する場合、燃料に対する酸化活性を向上させる観点から、カーボン材料と酸化セリウムとの含有比(カーボン材料:酸化セリウム)としては、体積基準で、10:1~1:1が好ましく、5:1~1:1であることが好ましい。
【0043】
また、同様の観点から、燃料電池用酸化触媒が有する担体がカーボン材料を含有する場合、カーボン材料と酸化チタンとの含有比(カーボン材料:酸化チタン)としては、体積基準で、10:1~1:1が好ましく、5:1~1:1であることが好ましい。
【0044】
<触媒金属>
本開示に係る燃料電池用触媒は、担体に担持された触媒金属を有する。
触媒金属としては、特に制限はなく、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、又は銅(Cu)が好適に挙げられ、触媒金属はこれら金属を含む複合体であってもよい。
上記複合体としては、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル及び銅からなる金属群より選ばれる少なくとも一つと、前記金属群の金属と異なる他の金属と、からなる複合体が挙げられる。他の金属としては、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)等が含まれ、好ましくは、亜鉛もしくはマンガン、又は亜鉛及びマンガンを含む。
【0045】
触媒金属が複合体である場合、複合体としては、例えば、Ni-Ru(1:1)、Ni-Cu(1:1)、Pt-Ru(1:1)、Cu-Ru(2:1)、Cu-Mn(12:1)等を挙げられる。カッコ内の数値は、元素のモル比を示す。
複合体としては、電子的相互作用を期待できる点で、固溶体が好ましく、少なくとも、白金、ルテニウム及びニッケルの少なくとも一つを含む固溶体であることが好ましい。
【0046】
触媒金属の粒子径は、比表面積を大きくする観点から、1nm~10nmであることが好ましい。なお、触媒金属の粒子径は、既述の結晶子径と同様の方法で求めることができる。
このような範囲の粒子径を有する触媒金属は、例えば、マイクロ波ポリオール法により作製して用いてもよい。
【0047】
本開示に係る燃料電池用酸化触媒における触媒金属の担持量は、触媒金属の種類又は温度等に依存するが、本開示における燃料電池用酸化触媒では、担体に担持された触媒金属の担持量は、0.1mg/cm~100mg/cmであることが好ましい。
また、触媒金属が白金を含む場合、触媒金属の担持量としては、高い酸化活性を維持する観点から0.1mg/cm~50mg/cmであることが好ましく、0.5mg/cm~10mg/cmであることがより好ましい。
【0048】
本開示に係る燃料電池用酸化触媒は、直接メタノール型燃料電池の燃料としては、特に制限はないが、燃料としてアルコール又はエーテルを用いた燃料電池に好適に用いることができる。
燃料に対する酸化活性に優れる観点から、燃料電池用酸化触媒は、直接メタノール型燃料電池の燃料としてアルコールを用いる直接メタノール型燃料電池に用いられることがより好ましい。
【0049】
《燃料電池用酸化触媒の製造方法》
本開示に係る燃料電池用酸化触媒の製造方法は、遷移金属酸化物を含む担体に、イオンビームを1.0×1010ions/cm~8.0×1012の照射量で照射する照射工程と、
前記照射工程で得られた前記遷移金属酸化物含む担体に触媒金属を担持する工程(以下、「担持工程」ともいう。)と、
を有する。
本開示の製造方法は、上記工程を有するので、本開示に係る製造方法により得られた燃料電池用酸化触媒では、燃料に対する酸化活性に優れる。
以下、本開示に係る燃料電池用酸化触媒の製造方法の各工程について説明するが、既述の燃料電池用酸化触媒に含まれる成分と同様の成分については詳細な説明を省略する。
【0050】
<照射工程>
照射工程は、遷移金属酸化物を含む担体にイオンビームを1.0×1010ions/cm~8.0×1012ions/cmの照射量で照射する工程であり、好ましくは1.0×1011ions/cm~5.0×1012ons/cmであり、より好ましくは1.0×1011ions/cm~4.0×1012ons/cmの照射量で照射する工程を含む。
照射工程では、イオンビームの照射により面間隔が調整された遷移金属酸化物を含む担体が得られる。図1に示すように、例えば、面間隔が調整された酸化セリウム又は酸化チタンにおいて、これらの中に酸素原子空孔が比較的多く形成されていると考えられ、燃料電池用酸化触媒におけるOH基供給能を向上し、かつ、導電性も向上させることができる。
【0051】
照射工程で用いる担体は、既述の担体と同義であり、好ましい範囲も同一である。
また、イオンビームを照射する条件及びイオンビームの照射に用いる加速器等の説明は、既述の説明と同様の内容であるので省略する。
【0052】
照射工程で得られた遷移金属酸化物は、面間隔の変化率の絶対値が、0.15%~0.65%であることが好ましい。
面間隔の変化率の絶対値が上記範囲内に調整されていると、酸素原子空孔が多く形成されて、OH基供給能が向上し、燃料に対する酸化活性が優れる。
より好ましい。
【0053】
面間隔の変化率(%)は、例えば、以下のように求められる。
面間隔の変化率(%)=((イオンビーム照射後の酸化物の面間隔-イオンビーム照射前の酸化物の面間隔)/イオンビーム照射前の酸化物の面間隔)×100(%)
【0054】
遷移金属酸化物としては、燃料に対する酸化活性がより得られやすい観点から、酸化セリウム、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化マンガン、酸化スズ及び酸化ジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、酸化セリウム、酸化チタン、酸化モリブデン、及び、酸化バナジウムからなる群より選択される少なくとも1つを含むことがより好ましい。
なお、遷移金属酸化物は、1種であってもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
上記遷移金属酸化物は、粒子状の遷移金属酸化物を含んでいてもよい。
遷移金属酸化物が、粒子状の遷移金属酸化物を含む場合、白金等の触媒金属と遷移金属酸化物との間の強い相互作用が得られやすい観点から、粒子状の遷移金属酸化物の結晶子径は1nm~1μmであることが好ましい。
なお、粒子状の遷移金属酸化物の結晶子径は、既述の結晶子径の測定方法と同様の方法で求められる。
【0056】
本開示に係る燃料電池用酸化触媒の製造方法において、酸化セリウムを含む担体を用いる場合、燃料に対する酸化活性に優れる観点から、照射工程で得られた酸化セリウム(遷移金属酸化物)は、X線回折法により求められる111面の面間隔が0.3129nm~0.3160nmであることが好ましく、0.3140nm~0.3150nmであることがより好ましい。
【0057】
本開示に係る燃料電池用酸化触媒の製造方法において、遷移金属酸化物が酸化チタンを含む担体を用いる場合、燃料に対する酸化活性に優れる観点から、照射工程で得られた酸化チタンはX線回折法により求められる110面の面間隔が0.3190nm~0.3250nmであることが好ましく、0.3195nm~0.3244nmがより好ましい。
【0058】
<担持工程>
担持工程は、前記照射工程で得られた前記遷移金属酸化物を含む担体に触媒金属を担持する工程である。
担体に触媒金属を担持する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を使用することができる。
触媒金属を担持する方法としては、例えば、マイクロ波ポリオール法による触媒金属を担持してもよい。
【0059】
マイクロ波ポリオール法を用いた触媒金属を担持する一例としては、ポリエチレングリコールに担体を加え、超音波処理を30分間行い混合液を調製し、次いで、触媒金属を加えて、3時間攪拌した後、電子レンジ(600W)で5分間、加熱し1晩攪拌する。この溶液を濾過し、メタノール及び蒸留水を用いて洗浄を行った。得られた沈殿物を真空乾燥器で70℃、24時間乾燥させて調製することができる。
【0060】
本開示に係る燃料電池用酸化触媒の製造方法は、照射工程及び担持工程に加えて、必要に応じてその他の工程を有していてもよい。
【0061】
本開示に係る燃料電池用酸化触媒は、例えば、後述の燃料電池における、アノード及びカソードのいずれの触媒層にも用いることができる。
本開示に係る燃料電池用酸化触媒は、OH基供給能、すなわち、燃料に対する酸化活性に優れるので、カソードの触媒層、特に直接メタノール型燃料電池が備えるカソードの触媒層に用いることが好ましい。
【0062】
《燃料電池》
本開示に係る燃料電池は、高分子電解質膜10と、電極20と、前記高分子電解質と前記電極との間に設けられた、上記燃料電池用酸化触媒を有する触媒層31と、を備える。
燃料電池は、触媒層として、既述の燃料電池用酸化触媒を有するので、燃料に対する酸化活性に優れ、また、導電性にも優れる。
以下、燃料電池の各構成について、図5を参照しながら説明するが、燃料電池用酸化触媒についての説明は省略する。
【0063】
(触媒層(電極))
触媒層31は、高分子電解質膜10と前記電極20との間に設けられている。通常、例えば、直接メタノール型燃料電池では、燃料極(アノード)及び空気極(酸化剤極:カソード)が高分子電解質膜を両側から挟みこむ構造を有する。
触媒層31は、既述の燃料電池用酸化触媒及び導電性材料に加えて、通常の燃料電池に用いられる任意成分を含んでいてもよい。
燃料極(アノード)は、触媒層31に加えてガス拡散層32を有していてもよい。ガス拡散層としては、例えば、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどの導電性材料が挙げられる。
【0064】
(高分子電解質膜)
高分子電解質膜10としては、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜であることが好ましく、例えば、ポリパーフルオロスルホン酸膜、スルホン酸型ポリスチレン-グラフト-エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)膜などのフッ素系固体高分子電解質膜が挙げられる。
【0065】
燃料電池は、上記構成の他に、通常燃料電池が備える構成を備えていてもよい。
【0066】
本開示に係る燃料電池用酸化触媒は、燃料に対する酸化活性に優れるので、特に燃料としてメタノール、エタノール等のアルコール燃料又は、ジメチルエーテル等のエーテルを用いる燃料電池に好適に使用することができる。
【実施例
【0067】
以下に本開示を実施例により説明するが、本開示は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り「%」はすべて質量基準である。
【0068】
-製造例1-
[CeO/CNF担体の作製]
溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)(Wako Pure Chemicals Ind. Ltd.)9gと酸化セリウム(CeO)ナノ粒子 (製品名;Nano Tek(登録商標)、シーアイ化成社製、平均一次粒子径14nm)0.3gと、を混合し、30分間超音波処理した。
次いで、ジメチルホルムアミド(DMF)と酸化セリウムとの混合溶液に、炭素源として高分子化合物であるポリアクリロニトリル(PAN)(Sigma-Aldrich, Co. Ltd社製)を1g加え80℃で一晩撹拌し、原料溶液を調製した。
【0069】
調製した原料溶液をシリンジ(2mL)の中に充填し、シリンジポンプ(Future Science Co. Ltd.)をシリンジの先から集電板の距離が15cmになるように固定し、シリンジの先と集電板との間に18kVの高電圧を印加して、流量0.025mL/分で図1に示すように静電紡糸を行い、集電板上にカーボンナノファイバーを形成させた。
集電板上のカーボンナノファイバー(CNF)を、大気雰囲気下、250℃、10時間の条件で安定化処理を行い、更に、窒素雰囲気下で900度、1時間の条件下で炭化処理を施し、酸化セリウムを埋め込んだカーボンナノファイバー(CECNF)のシートを得た。
【0070】
2.5cm×5.0cmの大きさにカットした、酸化セリウムを埋め込んだカーボンナノファイバー(CECNF)のシートを、アルミ板の上に載せた。CECNFシートにポリイミドフィルムを重ね、ポリイミドフィルムの端をイミドテープでアルミ板に固定し、CECNFシートをアルミ板上に固定した。
【0071】
-イオンビームの照射-
AVF(azimuthal varying field)サイクロン加速器を用いて、下記の表1に記載の照射条件で、得られたCECNFにイオンビームを照射して担体1、担体2-1、担体2-2、担体3-1、担体3-2、担体4-1及び担体4-2を作製した。
【0072】
-製造例2-
[TiO/CNF担体の作製]
製造例1において、酸化セリウム(CeO)に代えて酸化チタン(TiO)ナノ粒子(P25、日本アエロジル社製)を用いた以外は、同様の手順で原料溶液を調製した。 酸化チタンを含んだカーボンナノファイバーは、電気炉で窒素ガス中で850℃に加熱した後、70℃の水蒸気圧を含む窒素の気流下に1時間さらし、水蒸気賦活処理を行って作製した。下記の表1に記載の照射条件で、得られた酸化チタンを含んだカーボンナノファイバーにイオンビームを照射して、担体5-1及び担体5-2を作製した。
【0073】
【表1】
【0074】
表中、「No ion」とは、イオンビームを照射していない条件を意味する。また、「-」とは、該当するデータがないことを意味する。
【0075】
(実施例1)
-マイクロ波ポリオール法による触媒金属の担持-
エチレングリコールに担体2-1を加え、超音波処理を30分間行い、混合液を調製した。次いで、PtとRuとの原子比(Pt:Ru)が1:1になるように、Pt及びRuの前駆体化合物を混合液に加えて、3時間攪拌した。その後、電子レンジ(600W)で5分間、加熱し1晩攪拌した。この溶液を濾過し、メタノール及び蒸留水を用いて洗浄を行った。得られた沈殿物を真空乾燥器で70℃、24時間乾燥させて、CNFにPtRuナノ粒子を担持(PtRu/CECNF)した燃料電池用触媒1を得た。
【0076】
[触媒特性の評価]
CuKαを用いた粉末X線回折装置(製品名;Rint2100、(株)リガク製)を用いて、V=32kV、I=20mAの条件で、燃料電池用触媒1に照射した。このときの回折線をゴニオメーター(製品名;Rinto2000縦型ゴニオメーター、(株)リガク製)を用いて、スキャン速度1.0°/分で2θ=5°~90°付近に現れる回折ピークを調査した。その結果を表2並びに図2に示す。
【0077】
[メタノール酸化反応における触媒特性]
触媒のメタノール酸化活性の評価試験として回転ディスク電極(RDE;Rotating Disk Electrode、AFMSRCE)による質量活性評価を行った。
作用極(Working Electrode:WE)には、下記の方法により作製したガラス状炭素電極(GCE;Glassy Carbon Electrode、内径;5.0mm、BAS Inc.社製)を用いた。対極(Counter Electrode:CE)には白金メッシュ、参照極(Reference Electrode:RE)にはAg・AgCl電極(BAS Inc社製.)を用いた。
【0078】
-作用極の作製-
触媒担持量が1.0mg/cmなるように、燃料電池用触媒1と、水と、エタノールと、5質量%のフッ素樹脂共重合体溶液(Nafion(登録商標)、Sigma-Aldrich, Co. Ltd社製)と、ガラス状炭素電極の表面に塗布後、乾燥し、作用極を作製した。
【0079】
-メタノール溶液に対する酸化活性-
0.5モル/LのHSOと0.5モル/Lのメタノールとの混合溶液を直接メタノール型燃料電池の燃料溶液として使用した。
燃料溶液はNを100ml/分、30分間パージしたのち、50ml/分でNを流入、作用極を1600rpm(revolutions per minute)で回転させながら、スキャン速度は0.02V/s、走査範囲は、0V~1.2 V vs 標準水素電極(RHE; reversible hydrogen electrode)の電極電位の範囲で測定を行い、酸化ピークが低下し始めるまで測定を続けた。
なお、酸化活性は、質量活性(作用極上のPtRu1mg当たりの電流値;mA/mg PtRu)に統一して評価した。
測定したサイクリックボルタモグラムから燃料電池用触媒1のメタノール溶液に対する質量活性の結果を表3並びに図3及び図4に示した。
質量活性が高いほど、燃料に対する酸化活性に優れる。
【0080】
図2に示すX線回折(XRD)パターンの酸化セリウムの111面のピーク位置の回折角2θ[Degree]を用いて、酸化セリウムの111面の面間隔値d[nm]を下記の式より求めた。
【0081】
d[nm]=λ/(2・sinθ)
上記式中、λはX線波長を示す。酸化セリウムの111面の面間隔値d[nm]は、λの値として0.154056[nm]を用いて求めた。
【0082】
また、上記XRDのピークの半値幅を用いて、酸化セリウムの結晶子径Dを下記のシェラーの式より求めた。

D[nm]=K・λ/(β・cosθ)

上記式中、βは該当成分のXRDのピークの半値幅[rad(ラジアン)]を示す。
D;結晶子径
K;Scherrer定数 0.9
λ;X線波長、0.154056nm
θ;回折線のブラッグ角(回折角2θの半分)[rad(ラジアン)]
β;結晶格子の回折X線の半値幅[rad(ラジアン)]
【0083】
その結果を表3に示し、図4に酸化セリウムの111面の面間隔値d[nm]と質量活性との関係を表した。
【0084】
(実施例2~実施例6及び比較例1~3)
実施例1における担体2-1を表2に記載の担体に変更した以外は、実施例1と同様にして、マイクロ波ポリオール法を使用して燃料電池用触媒2~9をそれぞれ作製した。得られた燃料電池用触媒2~9を用いて、各評価を行った。その結果を表2~表4及び図2図4に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表中、「N.D」とは、測定されなかったことを意味する。また、「-」とは、該当するデータがないことを意味する。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
表3及び図2中、2θ値[Deg.]及びd値[nm]は、未処理(Non ion)の酸化セリウムの111面の回折角2θを、文献値(NIMS データベース、J. Am. Ceram. Soc., 1993, 76, 1745-1750, Yamashita M.,Morimoto K., Ishizawa N., Yoshimura M.)28.545[Degree]に合わせる補正を行い、計算し直した補正値である。
【0090】
表4中、2θ値[Deg.]及びd値[nm]は、未処理(Non ion)の酸化チタンの(110)の回折角2θを、文献値(NIMS データベース、J. Am. Ceram. Soc., 1996, 79, 1095, Kim D.W., Enomoto N., Nakagawa Z., Kawamura K.)27.431[Degree]に合わせる補正を行い、計算し直した補正値である。
【0091】
表3及び図4に示すとおり、実施例1~実施例5における酸化セリウムの111面の面間隔、即ち、d値が大きくなるほど質量活性すなわち燃料に対する酸化活性が増大していることが分かる。
一方、酸化セリウムの111面の面間隔d値が0.3129nm~0.3160nmの範囲外である比較例1及び比較例2では、実施例と比較して、質量活性の値が小さく、燃料に対する質量活性すなわち燃料に対する酸化活性に劣っていることが分かる。
【0092】
また、表4に示すとおり、実施例6における酸化チタンの110面の面間隔d値は、0.3195nm~0.3244nmであり、110面の面間隔d値が0.3195nm~0.3244nmの範囲外である比較例3における酸化チタンの110面の面間隔と比べて、面間隔が小さくなり、燃料に対する酸化活性が向上したことがわかる。
【0093】
以上より、X線回折法により求められる111面の面間隔が0.3129nm~0.3160nmである酸化セリウム、及びX線回折法により求められる110面の面間隔が0.3195nm~0.3244nmである酸化チタンを含む実施例の燃料電池用酸化触媒は、燃料に対する酸化活性に優れる。
【符号の説明】
【0094】
10 高分子電解質膜
20 電極
31 触媒層
32 ガス拡散層
図1
図2
図3
図4
図5