(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】鞍乗型車両の変速制御システム
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20220913BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20220913BHJP
F16H 63/18 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
F16H61/12
F02D29/00 F
F16H63/18
(21)【出願番号】P 2018034786
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】松川 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】出口 宏海
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-216435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F02D 29/00
F16H 63/18
B62M 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者により操作されるギアシフトレバーと、
前記ギアシフトレバーの操作を検出するギアシフトセンサと、
前記ギアシフトレバーの操作によって回転するシフトカムと、
前記シフトカムの回転角度を検出するギアポジションセンサと、
前記シフトカムに形成されたリード溝に係合して該リード溝の位置に応じて変位するシフトフォークと、
前記シフトカムの回転方向の位置を所定の付勢力で位置決めする位置決め機構と、
前記ギアシフトセンサ及び前記ギアポジションセンサの検出結果に応じてエンジンの出力を制御する制御装置とを備え、
前記リード溝は、前記シフトカムの回転によって、前記シフトフォークを変位させる変位領域及び変位させない維持領域を備え、
前記位置決め機構は、前記維持領域の延出方向中央部に前記シフトフォークが係合した状態で前記付勢力により前記シフトカムの回転方向の位置を位置決めし、
前記ギアシフトセンサは、前記維持領域内で前記シフトフォークが係合するときに、前記ギアシフトレバーの操作をシフトチェンジの操作として検出せず、
前記制御装置は、前記ギアポジションセンサの検出結果に応じた検出結果を前記ギアシフトセンサが非検出の場合、または、前記ギアシフトセンサの検出結果に応じた検出結果を前記ギアポジションセンサが非検出の場合、異常発生と判定し、該判定によって前記ギアシフトセンサ及び前記ギアポジションセンサの検出結果に基づくエンジンの動作制御を停止することを特徴とする鞍乗型車両の変速制御システム。
【請求項2】
前記維持領域は、前記シフトカムの回転方向と平行な方向に延在していることを特徴とする請求項
1に記載の鞍乗型車両の変速制御システム。
【請求項3】
前記ギアシフトセンサは、前記ギアシフトレバーの操作を前記シフトカムに伝達するためのリンクロッドに取り付けられ、前記ギアシフトレバーの操作時に前記リンクロッドに作用する荷重を検出することを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載の鞍乗型車両の変速制御システム。
【請求項4】
前記エンジンは、その動力を駆動輪に接続又は遮断するためのクラッチを備え、
前記制御装置は、前記クラッチが接続状態とされたときに、前記異常発生の判定を実施する請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の鞍乗型車両の変速制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両の変速制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の自動二輪車においては、アクセル操作量に応じてエンジンにより発生される回転力を駆動輪に伝達する変速機を備えている。また、上記自動二輪車は、運転者による変速機のシフト操作を検出し、検出値をECUに与える荷重センサを備えている。
【0003】
特許文献1では、運転者がシフトアップ操作またはシフトダウン操作を行った際、その荷重を荷重センサが検出することでシフト操作を検出する。かかるシフト操作が検出された際、エンジンが駆動状態である場合には、ECUによりエンジンの出力が低下される制御が行われ、クラッチ操作を行わずにギアシフトを可能とするクラッチレスシフトが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1にあっては、変速機のシフト操作を検出する荷重センサに故障が生じると、シフト操作を行っていないにも拘らずシフト操作を行っていると検出する場合がある。この場合、エンジンの出力を低下する制御が不要に行われ、運転者に不快感を与えてしまう、という問題がある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、クラッチ操作を行わないシフト操作を採用しつつ、ギアシフトセンサやギアポジションセンサギアシフトセンサの故障による不要なエンジンの出力制御をなくすことができる鞍乗型車両の変速制御システムを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の鞍乗型車両の変速制御システムは、運転者により操作されるギアシフトレバーと、前記ギアシフトレバーの操作を検出するギアシフトセンサと、前記ギアシフトレバーの操作によって回転するシフトカムと、前記シフトカムの回転角度を検出するギアポジションセンサと、前記シフトカムに形成されたリード溝に係合して該リード溝の位置に応じて変位するシフトフォークと、前記シフトカムの回転方向の位置を所定の付勢力で位置決めする位置決め機構と、前記ギアシフトセンサ及び前記ギアポジションセンサの検出結果に応じてエンジンの出力を制御する制御装置とを備え、前記リード溝は、前記シフトカムの回転によって、前記シフトフォークを変位させる変位領域及び変位させない維持領域を備え、前記位置決め機構は、前記維持領域の延出方向中央部に前記シフトフォークが係合した状態で前記付勢力により前記シフトカムの回転方向の位置を位置決めし、前記ギアシフトセンサは、前記維持領域内で前記シフトフォークが係合するときに、前記ギアシフトレバーの操作をシフトチェンジの操作として検出せず、前記制御装置は、前記ギアポジションセンサの検出結果に応じた検出結果を前記ギアシフトセンサが非検出の場合、または、前記ギアシフトセンサの検出結果に応じた検出結果を前記ギアポジションセンサが非検出の場合、異常発生と判定し、該判定によって前記ギアシフトセンサ及び前記ギアポジションセンサの検出結果に基づくエンジンの動作制御を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クラッチ操作を行わないシフト操作を採用しつつ、ギアシフトセンサやギアポジションセンサギアシフトセンサの故障による不要なエンジンの出力制御をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る変速機の一部を示す斜視図である。
【
図2】
図2Aは、位置決め機構の右側面図、
図2Bは、位置決め機構の正面図である。
【
図3】
図1とは他の角度から見たシフト機構の拡大斜視図である。
【
図5】ギアシフトセンサの出力特性を示すグラフである。
【
図6】ギアポジションセンサの出力特性を示すグラフである。
【
図7】
図6のグラフを更に詳述するためのグラフである。
【
図8】
図6のグラフを更に詳述するためのグラフである。
【
図9】ギアシフトセンサの故障判定方法の流れを示すフローチャートである。
【
図10】ギアポジションセンサの故障判定方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について添付の
図1から
図10を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明に係る変速機を自動二輪車に適用した例について説明するが、適用対象はこれに限定されることなく変更可能である。例えば、本発明に係る変速機を、他のタイプの自動二輪車や、バギータイプの自動三輪車等の鞍乗型の車両に適用してもよい。また、方向について、車両前方を矢印FR、車両後方を矢印RE、車両左側を矢印L、車両右側を矢印Rでそれぞれ示す。また、以下の各図では、説明の便宜上、一部の構成を省略している。
【0011】
本実施の形態に係る変速機は、図示省略したが、カウンタシャフト及びドライブシャフトのそれぞれに設けられる変速ギアの各ギア部が常時噛み合った、いわゆる常時噛み合い式の6段変速機で構成されることが例示できる。
図1は、本実施の形態に係る変速機の一部を示す斜視図である。
図1に示すように、変速機1では、エンジンのクランクケース(図示省略)に設けられるシフト機構2によって一部の変速ギアが軸方向にスライドされ、各変速ギアの組み合わせ(噛み合い)が切り替えられることで変速される。
【0012】
シフト機構2は、運転者により回動操作されるギアシフトレバー20と、ギアシフトレバー20の回動操作によって回転するシフトカム(シフトドラム)21と、シフトカム21の回動に応じて軸方向(左右方向)に移動可能な複数のシフトフォーク22、23、24とを有している。
【0013】
ギアシフトレバー20は、回転軸となる軸部31から後方に延びるレバー部32と、レバー部32の後端から左方に突出するペダル部33とを備えている。軸部31は、クランクケースから側方に突出するように形成されて左右方向が軸方向となり、ギアシフトレバー20が軸部31を中心に上下に揺動可能となっている。
【0014】
ギアシフトレバー20には、ギアシフトレバー20の動作をシフトシャフト37に伝達するリンク機構の一部として、リンクロッド35が取り付けられる。リンクロッド35は、概略鉛直方向に延びており、下端がギアシフトレバー20に連結されている。具体的にリンクロッド35の下端は、ギアシフトレバー20の基端側であって、軸部31より後方(ペダル部33側)のレバー部32の側面に揺動可能に支持される。
【0015】
リンクロッド35の先端には、シフトリンク36の一端が揺動可能に連結されている。本実施の形態では、リンクロッド35とシフトリンク36とを合わせてリンク機構と呼ぶことにする。シフトリンク36の他端は、シフトシャフト37に固定される。これにより、シフトリンク36及びシフトシャフト37が一体回転可能に構成される。
【0016】
シフトシャフト37は、車幅方向(左右方向)に延びており、シフトシャフト37の右端部には、シフトカムドライブプレート39が固定されている。また、シフトシャフト37の近傍には、車幅方向に延びる円筒状のシフトカム21が設けられている。シフトカム21の右端部には、シフトカムプレート40が固定されている。
【0017】
図2Aは、位置決め機構の右側面図である。
図2Aに示すように、シフトカムプレート40は、円板の外周から径方向外側に6つの突起40aが形成された側面視花びら形状を有している。隣接する突起40aの間の谷部には、ばね部材(図示省略)によって付勢力を加えるシフトカムストッパ41が係合しており、シフトカムプレート40及びシフトカム21の回転方向の位置が位置決めされている。本実施の形態では、シフトカムプレート40、ばね部材及びシフトカムストッパ41を合わせて位置決め機構42とする。
【0018】
図2Bは、位置決め機構の正面図である。
図2Bに示すように、シフトカム21の円筒面には、シフトカム21の周方向に延びる3つのリード溝26が形成されている。リード溝26は、軸方向に所定幅を有しており、各リード溝26にシフトフォーク22-24の一部が係合する。
【0019】
図1に戻り、シフトカム21の前方には、シフトフォーク22-24を支持する2本のフォークシャフト44、45が上下に並んで設けられている。フォークシャフト44、45は、シフトカム21と同様に車幅方向に延びている。フォークシャフト44には、1つのシフトフォーク22が軸方向にスライド可能に設けられ、フォークシャフト45には、2つのシフトフォーク23、24が軸方向にスライド可能に設けられている。
【0020】
図3は、
図1とは他の角度から見たシフト機構の拡大斜視図である。
図3に示すように、シフトフォーク22-24は、フォークシャフト44、45が挿通される筒状の基部22a、23a、24aと、基部22a、23a、24aから前方に向かって二又に延びるフォーク部22b、23b、24bとを有している。また、基部22a、23a、24aの外面には、シフトカム21に向かって突出する突出部22c、23c、24cが設けられている。突出部22c、23c、24cは、上記したリード溝26に受容されている。フォーク部22b、23b、24bの先端は、変速ギア(図示省略)の一部に係合しており、シフトフォーク22-24のスライド移動によって、該移動方向と平行に変速ギアのギア部をスライド可能に設けられる。
【0021】
以下において、
図4を参照し、所定のシフトポジションに設定されたリード溝26とシフトフォーク24の突出部24cとの位置関係について、説明する。
図4は、
図2Bのシフトカムの部分拡大図である。ここでは、所定のシフトポジションから、シフトアップ方向及びシフトダウン方向の何れの方向にシフトカム21を回転させた場合でも、シフトフォーク24を左右方向に変位させる場合を例に挙げて説明する。
図4に示すように、リード溝26は、シフトカム21の回転方向と平行に延びる維持領域(直線部)27と、回転方向に対して軸方向に僅かに傾斜する変位領域(傾斜部)28とを有している。
【0022】
リード溝26において、維持領域27の延出方向中央部にシフトフォーク24の突出部24cが配置(係合)された状態で、位置決め機構42のばね部材による付勢力によってシフトカム21の回転方向の位置が位置決めされる。この状態から、シフトカム21が所定角度回転しても、その初期段階においては、
図4にて点線で示すように、突出部24cが維持領域27内に位置するので、突出部24c(シフトフォーク24)の左右位置が変位せずに維持されるようになる。従って、維持領域27の延出方向中央部から両端側に亘る領域がいわゆる遊び領域とされる。かかる遊び領域内に突出部24cが配置されるシフトカム21の回転角度範囲では、シフトポジションが変わらずに維持されつつシフトカム21の回転が許容される。
【0023】
シフトカム21が更に回転され、突出部24cが維持領域27を通過して変位領域28に配置されると、突出部24cが変位領域28に沿って摺動される。これにより、シフトフォーク24が変位領域28の形成位置に応じて左右方向(図では右方向)に変位され、シフトフォーク24に係合する変速ギアも同じ方向に変位される。そして、突出部24cは、変位領域28の通過後は隣接するシフトポジションの維持領域27に配置され、シフトフォーク24によるシフトチェンジ(変速)が完了する。
【0024】
上記では、3つのリード溝26のうち1つのリード溝26の一部について説明したが、全てのリード溝26において、維持領域27及び変位領域28が適宜に形成されている。簡単に説明すると、シフトチェンジを行う際にシフトフォーク22-24を変位させる位置にて、そのシフトフォーク22-24の突出部22c、23c、24cを左右方向に変位するよう変位領域28が形成される。位置決め機構42を介してシフトカム21の回転方向の位置が位置決めされた状態では、突出部22c、23c、24cが維持領域27の延在方向中央部で係合した状態とされる。
【0025】
図1に戻り、リンクロッド35にはギアシフトレバー20の操作を検出するギアシフトセンサ47が取り付けられている。ギアシフトセンサ47は、ギアシフトレバー20の操作時に、リンクロッド35に作用する荷重によって伸縮し、その伸縮によるストローク量を電圧信号に変換して検出可能なロードセル等によって構成される。
図5は、ギアシフトセンサの出力特性を示すグラフである。ギアシフトセンサ47は、
図5に示すように、リンクロッド35におけるストロークの変化量に比例して出力する電圧が高くなる。
【0026】
また、シフトカム21の左端側にはギアポジションセンサ48が取り付けられている。ギアポジションセンサ48は、シフトカム21の回転角度を電圧信号に変換して検出するポテンションメータによって構成される。
図6は、ギアポジションセンサの出力特性を示すグラフである。ギアポジションセンサ48は、
図6に示すように、シフトアップするにしたがって大きくなるシフトカム21の回転角度の変化に比例して出力する電圧が高くなる。
【0027】
また、エンジンの動力を駆動輪に接続又は遮断するクラッチCが接続状態か否かを検出するクラッチセンサ49を備えている。
【0028】
図1に戻り、ギアシフトセンサ47、ギアポジションセンサ48及びクラッチセンサ49は制御装置50に電気的に接続され、検出結果を制御装置50に出力する。制御装置50は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)によって構成される。ECUは、CPU、ROM及びRAMなどを含んで構成されるコンピュータからなる。制御装置50は、ギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48を含む各種センサの検出結果に応じてエンジンの動作を制御する。言い換えると、制御装置50は、ギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48の各出力を監視し、出力変化に基づいてエンジンの出力を調整するよう制御する。
【0029】
制御装置50では、ギアシフトセンサ47から出力される電圧が
図5のグラフに示す閾値となる規定値Vssを超えたか否かを判定する。ギアシフトセンサ47の出力電圧が規定値Vssになる場合、運転者からシフトチェンジに要する操作力(操作量)が加わり、
図4の維持領域27と変位領域28との境界位置にシフトフォーク23の突出部23cが配置された状態となる。従って、ギアシフトセンサ47では、維持領域27内に突出部23cが配置された状態では、ギアシフトレバー20に対してシフトチェンジに要する操作力が不足した状態であり、そのときのギアシフトレバー20の操作をシフトチェンジの操作として検出しない。言い換えると、ギアシフトセンサ47にて規定値Vss以下の出力電圧は、シフトチェンジ操作の不感領域とされる。
【0030】
制御装置50では、
図6に示す各ギアポジションにおけるギアポジションセンサ48の出力電圧を予め記憶しておく。具体的には、
図7及び
図8に示すように、各ギアポジションにおいて維持領域27の中央部に位置するときの中央回転角度θcに対応する中央電圧Vcを予め記憶しておく。また、ギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48の故障判定に用いる後述する第1閾値V1(
図7参照)及び第2閾値V2(
図8参照)を予め記憶しておく。第1閾値V1及び第2閾値V2は中央電圧Vcの相対値とされる。
【0031】
このように構成される変速機1では、シフトチェンジすべく運転者によりギアシフトレバー20が操作されると、それに応じてシフトシャフト37が回動される。シフトシャフト37の回動動作は、シフトカムドライブプレート39を介してシフトカムプレート40に伝えられる。シフトカムプレート40は、シフトカムストッパ41に設けられたばね部材の付勢力に抗して回動される。このとき、所定の谷部に係合していたシフトカムストッパ41が突起40aの頂点を越え、隣接する谷部に受容され、シフトカムプレート40の回動が規制される。これにより、シフトカムプレート40は所定角度で回動される。このようにして、シフトカムプレート40は、間欠的に回転することが可能となる。
【0032】
ギアシフトレバー20の操作によるシフトカムプレート40の回動動作に応じて、シフトカム21が一緒に回動される。このとき、シフトフォーク22-24の突出部22c、23c、24cは、リード溝26に沿って摺動される。そして、突出部22c、23c、24cが軸方向に対し傾斜する変位領域28に沿って摺動する際には、シフトフォーク22-24が軸方向にスライドされる。これにより、複数の変速ギアの少なくとも一部が軸方向にスライドされ、動力伝達する変速ギアの組み合わせが切替えられてシフトチェンジが行われる。
【0033】
ギアシフトレバー20の操作時には、ギアシフトセンサ47がリンクロッド35に作用する荷重(ストローク)を検出して制御装置50に出力される。制御装置50では、ギアシフトセンサ47の検出結果となる電圧信号と、予め設定及び記憶した規定値Vss(
図5参照)とが比較される。そして、ギアシフトセンサ47の検出結果が規定値Vssを超えたときに、シフトチェンジ操作が実施されたものと判定される。この判定によって、制御装置50では、エンジンの出力を低下するよう制御され、クイックシフト操作として運転者によるクラッチの断接操作が行われずにシフトチェンジが実現される。
【0034】
なお、かかるエンジン出力の制御としては、アクセル開度センサの検出値に基づき、エンジンに連通する吸気管に設けられたスロットルバルブのスロットル開度の調整制御や、点火バルブの点火停止或いは点火遅角制御が例示できる。かかる制御によってスムースなシフトチェンジを実現することができる。
【0035】
続いて、本実施の形態におけるギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48の故障判定方法について
図9及び
図10を参照して説明する。
図9は、ギアシフトセンサの故障判定方法の流れを示すフローチャートである。
図10は、ギアポジションセンサの故障判定方法の流れを示すフローチャートである。
【0036】
[ギアシフトセンサ47の故障判定方法]
ここでは、
図7に示すように、中央回転角度θcに対応する中央電圧Vcが各シフトポジションにおいて予め記憶される。また、各シフトポジションにて、ギアポジションセンサ48の個体差等による検出誤差を考慮して安定して維持領域27に突出部22c、23c、24cが位置することを検出できるシフトカム21の角度範囲θs1が予め設定される。そして、この角度範囲θs1に対応する出力電圧の範囲が規定範囲Vs1として予め記憶される。規定範囲Vs1は、中央電圧Vcに第1閾値V1を減算した値が最小値、同じ第1閾値V1を加算した値が最大値とされ、かかる第1閾値V1も記憶される。同じ維持領域27での最小回転角度θmin、最大回転角度θmaxに対応する出力電圧を最小電圧Vmin、最大電圧Vmaxとしたときに、第1閾値V1は、中央電圧Vcと最小電圧Vmin或いは最大電圧Vmaxとの偏差の絶対値以下に設定される。
【0037】
図9に示すように、ギアシフトセンサ47の故障判定方法では、まず、現在のシフトカム21の回転角度によるギアポジションセンサ48の出力電圧として現在電圧Vnpが検出される(ステップ(以下、「S」とする)01)。次に、ギアポジションセンサ48が正常に作動するか否かを判定するため、現在電圧Vnpが
図6に示した正常範囲内にあるか否かが比較される(S02)。
【0038】
S02にて正常範囲に現在電圧Vnpが入る場合(S02:Yes)、現在電圧Vnpと、この現在電圧Vnpから求めた現在のシフトポジションにおける維持領域27の中央電圧Vcとの偏差の絶対値Vna(
図7参照)が算出される(S03)。そして、かかる絶対値Vnaと第1閾値V1とが比較される(S04)。
【0039】
絶対値Vnaが第1閾値V1より大きい(Vna>V1)場合(S04:No)、シフトカム21にてシフトチェンジ可能な角度で回転しているものとされ、S01に戻る処理がなされて故障判定が継続される。絶対値Vnaが第1閾値V1以下(Vna≦V1)である場合(S04:Yes)、シフトカム21が回転不足でシフトチェンジ不能とされ、現在のギアシフトセンサ47の出力電圧Vnsが検出される(S05)。
【0040】
S05の後、現在のギアシフトセンサ47の出力電圧Vnsと規定値Vssとが比較される(S06)。出力電圧Vnsが規定値Vssより大きい(Vns>Vss)場合(S06:Yes)、ギアシフトセンサ47に故障等の異常が発生しているものと判定される(S07)。言い換えると、S04ではシフトチェンジ不能とされるのに対し、S06ではギアシフトセンサ47の検出結果によって、ギアシフトレバー20にシフトチェンジに要する操作力が加わったものと判断され、ギアシフトセンサ47の異常発生と判定される。この場合、制御装置50にて、ギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48の検出結果に基づく、エンジンの出力制御が停止され、他のセンサの検出結果や運転者による操作に応じてエンジンの出力が制御される。
【0041】
出力電圧Vnsが規定値Vss以下(Vns≦Vss)である場合(S06:No)、ギアシフトセンサ47にシフトチェンジ可能な操作が行われていないものとされる。言い換えると、S04ではシフトチェンジ不能とされ、且つ、S06でのギアシフトセンサ47の検出結果もシフトチェンジ不要とされ、ギアシフトセンサ47が正常であると判定される。従って、S01に戻る処理がなされて故障判定が継続される。
【0042】
なお、S02にて、正常範囲に現在電圧Vnpが入らない場合(S02:No)、ギアポジションセンサ48が故障しているものと判定される(S08)。
【0043】
このようなギアシフトセンサ47の故障判定方法では、S04にて絶対値Vnaが第1閾値V1以下、つまり、シフトフォーク22-24の突出部22c、23c、24cが維持領域27内に位置するか否かが判定される。この判定にて、維持領域27内に位置する場合、正常なギアシフトセンサ47であればシフトチェンジに要する操作力不足で規定値Vss以下の出力がなされるので、規定値Vssより大きい出力を検出した場合に、故障が生じたものと判定可能となる。言い換えると、ギアポジションセンサ48の現在電圧Vnpが規定範囲Vs1である場合、これに応じてギアシフトセンサ47が規定値Vss以下の出力を検出しないことで故障(異常発生)と判定可能となる。また、S06でギアシフトセンサ47の出力電圧Vnsを判定する場合は、突出部22c、23c、24cが維持領域27内に位置し、シフトカム21が回転しても、シフトフォーク22-24が軸方向に変位せずにシフトチェンジしないようにすることができる。
【0044】
[ギアポジションセンサ48の故障判定方法]
図8に示すように、ここにおいても上記と同様に、中央回転角度θcに対応する中央電圧Vcが予め記憶される。また、各ギアポジションにて、ギアポジションセンサ48の個体差等による検出誤差を考慮して維持領域27の形成位置より若干拡げた角度範囲θs2が予め設定される。そして、この角度範囲θs2に対応する出力電圧の範囲が規定範囲Vs2として予め記憶される。規定範囲Vs2は、中央電圧Vcに第2閾値V2を減算した値が最小値、同じ第2閾値V2を加算した値が最大値とされ、かかる第2閾値V2も記憶される。第2閾値V2は、中央電圧Vcと最小電圧Vmin或いは最大電圧Vmaxとの偏差の絶対値以上に設定される。
【0045】
図10に示すように、ギアポジションセンサ48の故障判定方法では、まず、ギアシフトセンサ47が正常に動作しているかを確認するため、上述したギアシフトセンサ47の故障判定が継続されているか否かを判定する(S21)。
【0046】
ギアシフトセンサ47の故障判定が継続していない場合(S21:No)、ギアシフトセンサ47が故障しているものと判定され(S22)、下記のギアポジションセンサ48の故障判定を実施せずに上記と同様にエンジンの出力制御が停止される。ギアシフトセンサ47の故障判定が継続している場合(S21:Yes)、クラッチセンサ49の出力に基づき、変速機1の動力伝達に用いられるクラッチCが接続状態か判定される(S23)。
【0047】
クラッチが接続状態でない場合(S23:No)、S21に戻る処理がなされて故障判定が継続される。クラッチが接続状態の場合(S23:Yes)、現在のギアシフトセンサ47の出力電圧Vnsが検出され(S24)、この出力電圧Vnsと規定値Vssとが比較される(S25)。
【0048】
出力電圧Vnsが規定値Vssより大きい(Vns>Vss)場合(S25:No)、ギアシフトセンサ47にシフトチェンジ可能な操作が行われているとされ、S21に戻る処理がなされて故障判定が継続される。
【0049】
出力電圧Vnsが規定値Vss以下(Vns≦Vss)である場合(S25:Yes)、ギアシフトセンサ47にシフトチェンジ可能な操作力が加えられていないものとされる。この場合、現在のシフトカム21の回転角度によるギアポジションセンサ48の出力電圧として現在電圧Vnp(
図8参照)が検出される(S26)。更に、現在電圧Vnpと、この現在電圧Vnpから求めた現在のシフトポジションにおける維持領域27の中央電圧Vcとの偏差の絶対値Vna(
図8参照)が算出される(S27)。そして、かかる絶対値Vnaと第2閾値V2とが比較される(S28)。
【0050】
絶対値Vnaが第2閾値V2より小さい(Vna<V2)場合(S28:No)、現在のシフトポジションでの維持領域27に突出部22c、23c、24cが配置された状態であり、シフトチェンジなしと判定される。これにより、S25でのギアシフトセンサ47の検出結果がシフトチェンジ不要とされ、且つ、S28でのギアポジションセンサ48の検出結果がシフトチェンジなしとされ、ギアポジションセンサ48が正常であると判定される。従って、S21に戻る処理がなされて故障判定が継続される。
【0051】
絶対値Vnaが第2閾値V2以上(Vna≧V2)の場合(S28:Yes)、現在のシフトポジションで維持領域27から変位領域28に突出部22c、23c、24cが配置された状態であり、シフトチェンジ有りと判定される。これにより、S25でのギアシフトセンサ47の検出結果がシフトチェンジ不要とされるのに対し、S28でのギアポジションセンサ48の検出結果がシフトチェンジ有りと判断される。かかる検出結果の相違によって、ギアポジションセンサ48に故障等の異常が発生しているものと判定される(S29)。この場合においても、制御装置50にて、ギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48の検出結果に基づく、エンジンの出力制御が停止され、他のセンサの検出結果や運転者による操作に応じてエンジンの出力が制御される。
【0052】
このようなギアポジションセンサ48の故障判定方法では、S25にてギアシフトセンサ47の出力電圧Vnsが規定値Vss以下、つまり、ギアシフトレバー20でシフトチェンジに要する操作が行われているか否かが判定される。この判定にて、操作が行われていない場合、S28にて絶対値Vnaが第2閾値V2以上、つまり、シフトフォーク22-24の突出部22c、23c、24cが維持領域27から変位領域28に達しているか否かが判定される。かかる判定で、正常なギアポジションセンサ48であれば突出部22c、23c、24cが変位領域28に達しないので、変位領域28に達する場合(絶対値Vna>第2閾値V2)、故障が生じたものと判定可能となる。言い換えると、ギアシフトセンサ47の出力電圧Vnsが規定値Vss以下である場合、これに応じて突出部22c、23c、24cが維持領域27に位置するとの検出結果をギアポジションセンサ48が出力しないことで故障(異常発生)と判定可能となる。
【0053】
このような実施の形態によれば、ギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48の故障を判定できるので、運転者によってシフトチェンジしていないにも拘らずシフトチェンジと検出することを回避できる。また、運転者がシフトチェンジしているのにシフトチェンジしていないと検出することも回避できる。これにより、運転者によるクラッチ操作を行わないクイックシフト操作を採用しても、エンジンの出力を不要に調整する制御をなくすことができ、運転者に不快感を与えることを防止することができる。
【0054】
また、ギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48が共同して故障判定するので、それら単独で判定するよりも判定精度を向上させることができる。更に、故障が発生した場合には、ギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48の検出結果に基づく制御を停止するので、これによっても運転者に不快感を与えることを防止することができる。
【0055】
また、上記のようにギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48の両方の故障判定を実施し、何れか一方が故障すれば、その検出結果に基づく制御を停止するので、それらの一方が故障してから他方も故障する可能性が極めて低くなる。従って、同時にギアシフトセンサ47及びギアポジションセンサ48の両方が故障し、それらの故障判定が実施できなくなることを回避して運転者に不快感を与えることをより良く防止することができる。
【0056】
また、ギアポジションセンサ48の故障判定にて、クラッチCが接続状態であることを条件に異常発生の判定を実施するので、クラッチCが切断状態でのギアシフトセンサ47の出力電圧に基づき故障判定することを回避することができる。クラッチCの接続状態と切断状態とでは、ギアシフトレバー20によるシフトチェンジに要する操作力が大きく異なるので、ギアシフトレバー20の出力を安定的に取得して異常発生の判定を実施することができる。
【0057】
なお、上記実施の形態では、ギアポジションセンサ48の故障判定にて、クラッチCが接続状態を検出したが、ギアシフトセンサ47の故障判定においても、クラッチCの接続状態を条件に異常発生の判定を実施してもよい。
【0058】
また、上記実施の形態では、シフトフォーク22-24を3体とした場合を説明したが、変速機1の段数や構成に応じて増減してもよい。
【0059】
また、本実施の形態及び変形例を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0060】
また、本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、クラッチ操作を行わないシフト操作を採用しつつ、ギアシフトセンサやギアポジションセンサギアシフトセンサの故障による不要なエンジンの出力制御をなくすことができるという効果を有し、特に、自動二輪車における変速機に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 変速機
20 ギアシフトレバー
21 シフトカム
22、23、24 シフトフォーク
26 リード溝
27 維持領域
28 変位領域
35 リンクロッド
42 位置決め機構
47 ギアシフトセンサ
48 ギアポジションセンサ
50 制御装置
C クラッチ