(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】調光フィルムの使用状態管理システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/00 20120101AFI20220913BHJP
H04M 11/00 20060101ALI20220913BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20220913BHJP
H04Q 9/00 20060101ALI20220913BHJP
B60J 3/04 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G06Q10/00 300
H04M11/00 301
G02F1/13 505
H04Q9/00 311K
B60J3/04
(21)【出願番号】P 2018162821
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林部 暁
(72)【発明者】
【氏名】中山 健太郎
【審査官】速水 雄太
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-160823(JP,A)
【文献】特開2011-040344(JP,A)
【文献】特開平05-045838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H04M 11/00
G02F 1/13
H04Q 9/00
B60J 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧に応じて少なくともヘイズを2段階以上に変調可能な調光層を具備する調光フィルムの使用状態管理システムであって、
予めIDが付与された
前記調光フィルム、状態検出手段、環境検出手段、および制御部を有する調光システムと、
前記調光システムとネットワークサービスを介して通信可能に接続され、前記IDを用いて前記調光システムを統合的に管理する管理サーバと、
前記管理サーバに接続され、前記IDごとに
前記調光フィルムの
実使用データを保有するデータベースと
、を有し、
前記制御部は、前記状態検出手段および前記環境検出手段による検出結果に基づき前記調光フィルムの前記実使用データを生成し、前記管理サーバに送信する
調光フィルムの使用状態管理システム。
【請求項2】
前記管理サーバおよび前記データベースに接続され、前記調光フィルムの異常を予測する予測システムをさらに有し、
前記予測システムは、少なくとも前記調光フィルムに関する初期登録情報および前記実使用データに基づき演算を行い、前記調光フィルムの異常を予測する
請求項1に記載の調光フィルムの使用状態管理システム。
【請求項3】
研究又は開発時に得られる調光フィルムに関するデータを保有する開発サーバをさらに有し、
前記予測システムは、前記開発サーバが保有する前記データも活用して前記調光フィルムの異常を予測する請求項2に記載の調光フィルムの使用状態管理システム。
【請求項4】
前記状態検出手段は、前記調光フィルムの表裏対向箇所または同一表面上での近接箇所に設置される照射光源および光検出器を少なくとも有しており、前記照射光源からの照射光による前記調光フィルムの透過光または反射光を前記光検出器にて受光し、前記調光フィルムのヘイズの変化を透過率または反射率の形で検出する構成である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の調光フィルムの使用状態管理システム。
【請求項5】
前記環境検出手段は、温度と湿度の少なくとも一方を検出する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の調光フィルムの使用状態管理システム。
【請求項6】
前記予測システムにより異常が判定された場合に、前記管理サーバは端末に対して保守フラグをたてる工程を有する請求項2または請求項3に記載の調光フィルムの使用状態管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的制御によって光の透過状態を制御する光学素子を備えた調光フィルムの使用状態管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
不透明状態(あるいは白濁状態)と透明状態とを切り替える調光フィルムは様々な用途で用いられている。調光フィルムは、透明電極が形成された一対の透明基材と、該透明電極により挟持された調光層とを有する。調光層には、液晶素子,エレクトロクロミック材料,懸濁粒子(SPD:Suspended Particle Device)から選択される光学材料が採用される。調光フィルムは、一対の透明電極間に挟持された調光層を備える。調光フィルムは、電極に印加する電圧により調光層を駆動させ、入射した光を散乱する不透明状態と、入射した光を透過する透明状態とを切り替え可能に構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
調光フィルムは、例えばガラス等の透明基材に固定されることにより、建造物用途での窓ガラスや展示ウィンドウ、間仕切りなどに採用することが可能となる。この外にも、調光フィルムは、自動車のサンルーフやサンバイザー用途、または電車,航空機,船舶向けのウィンドウとしての利用も提案されている。
【0004】
調光フィルムは、上記のように多種多様な用途が提案、要望され、早くも施工されて実用化されているものもある。しかしその一方で、耐候性や長寿命化等といった観点からの品質向上や品質改善のため現在鋭意研究開発されている状態にある。つまり、現状施工される調光フィルムはこまめなメンテナンスが必須となっている。
【0005】
ここで、メンテナンスは、調光フィルムの使用環境や使用条件等によって大きく変化する。これは、調光層に用いられる材料、例えば液晶が温度や湿度等の使用環境に対する大きな依存性を有するからである。従って、従来動作保証と称してユーザの求めに応じた受動的なメンテナンス対応や一定期間経過後の定期的メンテナンスや一律交換を行うことが通常とされていた。
【0006】
ここで、上記メンテナンスや一律交換は、調光フィルムの実際の劣化度合いや状態変化とは無関係に行われる。従って、効率の悪さや無駄な処理であることは否めなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、調光フィルムの劣化度合いや状態変化に応じた適切なメンテナンス対応を採ることができる使用状態管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による調光フィルムの使用状態管理システムは、
印加電圧に応じて少なくともヘイズを2段階以上に変調可能な調光層を具備する調光フィルムの使用状態管理システムであって、
予めIDが付与された調光フィルム、状態検出手段、環境検出手段、および制御部を有する調光システムと、
調光システムとネットワークサービスを介して通信可能に接続され、前記IDを用いて前記調光システムを統合的に管理する管理サーバと、
管理サーバに接続され、IDごとに調光フィルムの情報を保有するデータベースと、
管理サーバおよびデータベースに接続され、調光フィルムの状態を予測する予測システムと、を有し、
管理サーバは、予測システムの予測結果に基づき、各調光システムの状態を管理することを特徴とする。
【0010】
制御部は、状態検出手段および環境検出手段による検出結果に基づき調光フィルムの実使用データを生成し、管理サーバに送信する。
【0011】
予測システムは、少なくとも調光フィルムに関する初期登録情報および実使用データに基づき演算を行い、調光フィルムの状態を予測する。
【0012】
研究又は開発時に得られる調光フィルムに関するデータを保有する開発サーバをさらに有し、予測システムは、開発サーバが保有するデータも活用して調光フィルムの状態を予測するようにしても良い。
【0013】
使用環境の照度に応じて調光システム(フィルム)のヘイズが変調して視覚される状態を実測データとして検出する状態検出手段は、調光フィルムの表裏対向箇所または同一表面上での近接箇所に設置される照射光源および光検出器を少なくとも有しており、照射光源からの照射光による調光フィルムの透過光または反射光を光検出器にて受光し、調光フィルムのヘイズの変化を透過率または反射率の形で検出する構成が好適である。ヘイズデータの検出は、検査光の光学的検出による手法が汎用的であり、照射光源および光検出器としては、LEDおよびフォトダイオードの採用が好適である。検出動作は、電源オン時、あるいは、照度の変調が感じられた際、または、調光システム(フィルム)に対する外部からの指示受け時などに実行される。
【0014】
環境検出手段は、温度と湿度の少なくとも一方を検出することが好適であり、使用環境のデータと調光システム(フィルム)の動作状態のデータが紐付けられて管理サーバのデータベースに記憶される。
【0015】
管理サーバは、ネットワークサービスを介して受信する各調光システムの実使用データをデータベースに格納すると共に、データに基づき各調光システムの調光フィルムの状態を分析し、分析結果をPC,携帯端末などのカスタマーサービスセンターのスタッフが使用する機器に伝送する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の使用状態管理システムにより、管理者側でのユーザ側の設備機器の状態の正確な把握,主導的なメンテナンスの要否判定,ユーザ側への能動的な保守対応の提案などが可能となり、使用者側の負荷が一層軽減され、適切なメンテナンス対応が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態の使用状態管理システムの概略構成を示す説明図である。
【
図2】実施形態の使用状態管理システムの管理サーバが有するデータテーブルを示す図である。
【
図3】実施形態のデータベースの階層構造を示す図である。
【
図4】実施形態のデータベースに記録される実使用データ群の一例を示す図である。
【
図5】実施形態の制御部が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態の管理サーバが実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明は以下の図示や説明によって限定されるものではない。
図1は本発明の実施形態の使用状態管理システム100の概略構成を示す説明図である。
【0019】
使用状態管理システム100は、調光システムP1、P2、ネットワーク101、管理サーバ103、データベース105、PC107、携帯端末109、予測システム111、開発サーバ113を有する。調光システムP1、P2は、インターネット等のネットワークを介して管理サーバ103に接続される。管理サーバ103は、データベース105、PC107に接続されている。携帯端末109は、PC107や開発サーバに接続されている。
【0020】
調光システムP1は、機能性窓ガラス10,30と制御部12を有する。機能性窓ガラス10は、窓ガラス等の透明基材(不図示)に貼付施工された調光フィルム11、LED13、フォトダイオード等の光検出器14、環境センサ16を有する。機能性窓ガラス30も同様である。つまり、調光システムP1は、調光フィルムを有する同一構成の機能性窓ガラス2枚を単一の制御部12によって駆動制御している。環境センサとは、調光フィルム周辺の温度や湿度等に例示される使用環境を検知する各種センサをいう。調光システムP2は、P1の変形例となる構成を有する。具体的には調光システムP2は、機能性窓ガラス20と制御部22を有する。機能性窓ガラス20は、窓ガラス等の透明基材に貼付施工された調光フィルム21、LED23、フォトダイオード等の光検出器24、ミラー25、環境センサ36を有する。
【0021】
各調光フィルム11、21、31は、印加電圧に応じてヘイズ,明暗,色相の少なくとも何れかを2段階以上に変調可能な調光層を具備する。調光フィルム11、21、31の調光層に含まれる材料は、液晶素子,エレクトロクロミック材料,懸濁粒子(SPD:Suspended Particle Device)等から適宜選択されうる。本実施形態の液晶素子は、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)またはポリマーネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)を想定する。前者は、液晶分子がポリマー中に分散配置された高分子分散型液晶または三次元の網目状に形成された樹脂からなる。後者は、ポリマーネットワークの内部に形成された空隙内に配置された液晶分子を有する。
【0022】
例えば、PNLCを有する調光層を具備する調光フィルムは、液晶と光重合性化合物(モノマー)との混合物を一対の透明電極基板(透明導電膜の形成された透明基板)の間に挟み、一定の条件下で紫外線を照射し、光重合によって光重合性化合物が高分子に変化すると共に、光重合および架橋結合により、微細なドメイン(高分子の空隙)を無数に有するポリマーネットワークが液晶中に形成されることで製造される。PNLCの駆動では、ポリマーネットワークの構造上の特性(ドメインの大きさや形状,ポリマーネットワークの膜厚など)に依存して駆動電圧が決定され、ON/OFFに応じて液晶分子配向に基づく透明/光散乱の状態(ヘイズ)が変化する。透明電極基板の透明導電膜上に液晶分子の配向膜を配置することにより、光散乱(白濁)系から電圧を印加(ON)にすることで透明状態へ変化するノーマルモード方式に加えて、電圧の印加で透明から白濁系へと状態が変化するリバースモード方式にも適用可能である。
【0023】
調光システムP1について説明を加える。制御部12は図示しない電源部にも接続されている。制御部12は、ユーザの操作に応じて電源部を駆動し、調光フィルム11等に所
定の電圧を印加する。LED13、33は、それぞれ後述する所定のタイミングで調光フィルム11、31を介して対向配置される光検出器14、34に対して投光する。光検出器14、34は、LED13、33から照射される光を受光し、光量に応じた信号を制御部12に送信する。
【0024】
調光システムP2における機能性窓ガラス20は、LEDや光検出器等からなる検出手段の構成が他の機能性窓ガラス10、30とは異なる。すなわち、機能性窓ガラス20では、LED23と光検出器24とがミラー25の法線に対して互いに傾きかつ線対称な関係にある。(機能性窓ガラス10,30の様に、LED光の透過光を検出する上での調光フィルムの表裏対向箇所での配置ではなく、LED光の反射光を検出する上で、調光フィルムの同一側表面上での近接箇所に配置されている。)LED23から照射された光は、調光フィルム21を介してミラー25で反射し、光検出器24により受光される。受光結果は制御部22に送信される。調光フィルムのヘイズの変化を反射率の形で検出する意義としては、屋内向けでなく電車,航空機,船舶向けのウィンドウに調光フィルムを適用する用途では、苛酷な屋外環境にLEDまたはフォトダイオードを設置せずに駆動状態を検出する上での有効性にある。
【0025】
各機能性窓ガラス10、30、20はそれぞれ環境センサ16,26,36が設置される。環境センサ16、26、36は、少なくとも温度および湿度が検出される。これらの環境情報も制御部12、22に送信される。
【0026】
各制御部12、22は、有線または無線によりインターネット等のネットワークサービス101を介して管理サーバ103に接続される。各制御部12、22は既述の電流信号のレベルと環境情報を管理サーバ103に送信する。以下の説明では、各制御部12、22から管理サーバ103に送信される諸データを総称して実使用データと記す。本実施形態では、当該接続により、各制御部12、22は管理サーバ103と双方向通信が可能となる。なお、本実施形態の使用状態管理システム100で行われる通信は基本的には暗号化された状態で行われる。
【0027】
管理サーバ103はネットワークサービス101を介して受信する各調光システムP1、P2の実使用データをデータベース105に格納するとともに、当該諸情報に基づき調光フィルムの状態を分析する。分析結果はPC107や携帯端末109といったカスタマーサービスセンターのスタッフが使用する機器に伝送される。各スタッフは、PC107や携帯端末109等を用いて分析結果に基づき、施工済みの調光フィルムに対する管理、保守等のメンテナンスサービスを実行する。
【0028】
図2は管理サーバ103に記録されるデータテーブルを示す図である。
図2に示すように、管理サーバ103に登録、管理される各調光システムP1,P2は、それぞれのID、ロット、所在地、設置状況、サイズ、リンクID、備考に関する初期に登録される諸情報が相互に関連付けられた状態でテーブルとして保存されている。ここで、IDは、各調光フィルムに対して付与された固有の識別番号データをいう。ロットは、各調光フィルムの製造ロットナンバデータをいう。所在地は、各調光フィルムが貼付施工された場所データをいう。設置状況は、各調光フィルムがどこにどのように設置されているかという現況データをいう。サイズは、各調光フィルムのサイズデータをいう。リンクIDとは、例えば同じ部屋に並設されている等設置条件が近似していたり、同一の調光システムに組み込まれたりしている調光フィルム同士を関連付けるデータをいう。本実施形態では
図1に示すように、調光システムP1には2枚の調光フィルム11、31が搭載されている。ここで、調光フィルム11のIDを「0001」、調光フィルム31のIDを「0003」であるとすると、
図2に示すように「0001」と「0003」の各IDは相互にリンクIDとして登録される。備考は、設置状況や特殊サイズといった通常の規格や仕様、使用条件とは異なる条件に関するデータをいう。本実施形態では、例えば、調光システムP2が車両に搭載されているものと想定する。調光システムP2に用いられる調光フィルム21のIDが「0002」であるとする。また、上記車両は寒冷地仕様になっていると想定する。そのため、
図2に示すようにID0002のレコードには、備考データとして「寒冷地仕様車」が記録されている。
【0029】
管理サーバ103は、各制御部12、22から送信された各調光システムP1,P2に関する実使用データが真正なものであるか判定した後、当該データをデータベース105に格納する。
図3は、データベース105の階層構造の一部を示す図である。
図3に示すように、データベースはIDごとに最上位階層が割り振られている。そして各IDフォルダの直下には年、月といった順に下位のフォルダが形成されている。データベース105では、IDおよび送信日付を参照して該当するフォルダに実使用データを格納している。
図4にID0001に関する実使用データ群の一例を示す。
【0030】
データベース105は機密性が担保された社内LAN等を介して予測システム111に接続されている。予測システム111は、開発サーバ113に上記社内LAN等を介して接続されている。開発サーバ113は、要素研究や開発段階で得られた各種データ、例えばSWOM等の耐候性試験結果等を各ロットや試作品ごとに蓄積している。
【0031】
予測システム111について説明を加える。予測システム111は、自律性判断プログラム、本実施形態ではAIが搭載されている。予測システムを管理する者は、AIに種々の条件下得られたサンプルの検証結果や、シミュレーション結果、そしてその結果と因果関係を有する調光システムの異常発生ケース等を事前学習させておく。予測システムサーバはこれら事前学習結果をベースとしつつ、実際にデータベース105に蓄積される各調光システム使用時の実データ(つまりサンプル検証ではなく実使用に基づき得られたより複雑な条件が影響する情報)および都度更新される開発サーバ113の情報を引用し、現在使用中の各調光システムの状態を演算により求め、異常を予測する。
【0032】
図5は各制御部12、22の処理を示すフローチャートである。
図5に示すように、各制御部12、22は、電源がオンされた時(S1)、管理サーバ103から定期的に発信される指示(S3)、管理サーバ103から不定期に発信され他の処理に優先する指示(S5)を検知すると、光検出処理を実行する(S7)。このように、ヘイズデータの検出は、電源オン時、あるいは、照度の変調が感じられた際、または、調光システムに対する外部からの指示を受けた時などに実行される。
【0033】
S7に示す光検出処理を、機能性窓ガラス10を例にとり説明する。制御部12は、上記の各指示(S1~S5)を受信すると、LED13を発光させる。LEDから照射された光は、光検出器14により受光される。光検出器14は検出した光の光量に応じた電流信号を発生させ、制御部12に送信する。ヘイズデータの検出に用いられる検査光はLED光に限定されるものではないが、検出精度や取り扱い性などの各種優位性があり、LEDの採用が最も好適となっている。
【0034】
上記受発光処理と同時に制御部12は、環境センサ16を駆動させ、現時点での温度及び湿度を検出する。そして制御部12は、検出した各データにタイムスタンプかつ自己のIDを付し実使用データを生成する(S9)。制御部12は、生成した実使用データを、ネットワーク101を介して管理サーバ103に送信する(S11)。
【0035】
このように各制御部12、22は、所定のタイミングで夫々に接続される各種センサ等を駆動、制御しリアルタイムでの調光フィルムの状態を検出する。しかもそのタイミングは、フィルム全体に一番負荷がかかりやすい電源操作時、経時変化を意識した定期的な指
示を受信した時、そして管理サーバ103側でなんらかの異常を認識した際に発信される強制指示を受信した時と種々のパタンを想定している。従って、より精度の高い状態管理を実現する実使用データが収集されることになる。
【0036】
図6は、管理サーバ103が行う処理を示すフローチャートである。
図6に示すように、管理サーバ103は、各制御部12、22から実使用データを受信するまで待機状態にある(S31:NO)。各制御部12、22から実使用データを受信すると(S31:YES)、管理サーバ103は、自らが保有するデータテーブルを参照しつつ実使用データのIDを認証する(S33)。ここで、データテーブルに登録されていない等の想定外のIDであった場合には安全性の観点からノイズとして処理し、データベースへの保存は行わない。
【0037】
S33においてID認証が正しくなされると、次いで管理サーバ103は、実使用データをデータベース105に書き込む処理を行う(S35)。この際、管理サーバ103は、実使用データに付されたタイムスタンプを読み取り、データベース105において
図2に示す階層のうち適切なフォルダに格納する。
【0038】
次いで管理サーバ103は、データの検証処理を実行する(S37)。なお、本実施形態ではデータの書き込み後にデータ検証処理を実行する態様を示したが、逆のステップを踏んでも構わない。データ検証は、以下のようにして行う。すなわち、管理サーバ103は、
図2に示すIDに紐付けられた各種情報と実使用データを予測システム111に送信し、調光フィルムの現状および将来予測を行わせる。
【0039】
基本的には、もし電流信号レベルが初期設定範囲内である場合、調光フィルムの透明時(または非透明時)における透明度合い(または非透明度合い)が所定の仕様範囲内である。もし電流信号レベルが初期設定範囲外である場合、上記度合いが所定の使用範囲外である、換言すれば現実的に調光フィルムになんらかの異常が発生していると判断される。ここで透明度合いとは本実施形態ではヘイズ又は像鮮明度(クラリティ)を想定する。
【0040】
但し、現実には信号レベルが極端に範囲外の値を示している場合は、調光システムを使用する各ユーザが視覚的、感覚的に何らかの異常を認識することができる。本実施形態の状態管理システムでは上記のような現実的な事象のみならず、将来発生しうる異常な事象を予測システム111が予測する。
【0041】
具体的には、予測システム111は、開発サーバから得られたSWOM試験結果等に基づき、実使用データ中の環境情報、および
図2に示すデータテーブル、そして電流レベルの経時変化を総合的に判断する。例えば、調光フィルムの要となる液晶は一般に水分に耐性が低いという特性を持つ。従って、同一電流信号レベル変化であっても、調光フィルムの所在地が高湿環境下にある場合には、当初想定される正常動作期間を短縮するといった予測結果を出すことが考えられる。また、サイズが大きい場合で使用頻度が高い調光フィルムである場合には、より高い駆動電圧を継続して印加し続けなければならない。そのため、他の標準タイプよりも正常動作期間を短縮するという予測結果を出すことが考えられる。つまり、予測システム111は自身が予め学習した調光フィルムの特性、使用条件等に加え常に最新の実使用データ及び開発情報を観測することにより、より適切な判断を可能としている。
【0042】
管理サーバ103は、上記予測システムの判断結果を受け、実使用データを送信してきた調光フィルムの状態を判定する(S39)。判定に基づく所定の処理は、通常判定(何もしない)、警告判定(保守)、故障判定(交換)に代表される。仮に正常であると判定した場合(S39:Normal)には、そのまま待機状態に戻る。このとき予測システムの判
断結果をログとして残しておくことも可能である(
図4参照)。
【0043】
仮に要警告であると判定した場合(S39:Warning)、管理サーバ103は、制御部に対して保守フラグを立ち上げるように促す(S41)。同時に、PC107や端末109にも同様の保守フラグを立てる。これにより、ユーザ、業者双方がメンテナンスの時期であることを認識し、適切な保守点検が可能となる。
【0044】
仮に故障間近(又は故障)であると判定した場合(S39:Error)、管理サーバ103は、制御部12等、PC107、端末109に交換フラグを立てる(S43)。この際、管理サーバはデータテーブルを参照し、リンクされているIDがある場合には、当該リンク先のIDが付与された調光フィルムに対しても交換フラグを立てる(S45:YES、S47)。これにより、他の調光フィルムを逐次チェックせずとも同時期に施工した同条件下にある調光フィルムをまとめて交換することが可能になり、作業効率性が格段に向上する。
【0045】
以上により、ユーザからの問合せ,クレームを待たず、管理者側でユーザ側の設備機器の状態を正確に把握し、メンテナンスの要否判定も主導的に行ない、ユーザ側への能動的な保守対応を提案出来、客観的なデータ分析に基づいた真に必要なメンテナンスを行なえる様になる。
【0046】
加えて、設計開発者にとって実使用データはサンプル評価では得られない貴重な検証データとなる。さらには、予測システム111を介して得られた保守フラグや交換フラグは、AIが収集された(収集されている)諸データに基いて統計的または演算的に自律的に導出した貴重な情報源でもある。従って、これらの諸情報を設計開発者が参照することにより、次期ロットでの改良目標や改善ポイントを具体化させることが可能になる。設計開発者により蓄積された開発情報を記録する記録手段を有し、判定手段(S39)は、その記録手段から読み出した開発情報も利用することができる様に、管理サーバによる処理手順を改良することも望ましい。
【0047】
以上、本発明に係る調光フィルムの使用状態管理システムの好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されず、以下に例示する変形例も本発明の主旨を逸脱するものではない。例えば、上記実施形態では、調光システムP1は機能性ガラスを2枚有すると説明した。これはあくまでも一例であり、調光システムを構成する機能性窓ガラスは1枚でもよいし、3枚以上であっても良い。
【0048】
また、上記実施形態では、調光システムP1は、複数の機能性ガラスを単一の制御部で統括して制御していると説明した。本発明に係る使用状態管理システムはこれに限定されるものではない。例えば、各調光フィルムに対応する制御部を設けることも可能である。
【0049】
また、上記実施形態では、管理サーバ103と予測システム111は別個独立の存在として説明した。これは、各々の処理負担を軽減し処理の高速化を意図したためである。本発明に係る状態管理システムでは、この構成に限定されるものではなく、両者を単一構成にすることも可能である。
【0050】
また、上記実施形態では、より予測システムによる状態予測の精度を向上させるために開発サーバとリンクさせているがこれに限定される必要はない。例えば、開発が極秘裏に進められる場合には、その秘匿性を重視しリンクを解除あるいは、当初からリンクさせないことも可能である。
【符号の説明】
【0051】
10,20,30 機能性窓ガラス
11,21,31 調光フィルム
12,22 制御部
13,23,33 LED
14,24,34 光検出器(フォトダイオード)
16,26,36 環境センサ
25 ミラー
100 使用状態管理システム
101 ネットワークサービス
103 管理サーバ
105 データベース
107 PC
109 携帯端末
111 予測システム
113 開発サーバ