(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】処理計画指示装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20220913BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20220913BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2018173433
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】大野 正夫
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-138823(JP,A)
【文献】特開2017-162300(JP,A)
【文献】特開2019-21211(JP,A)
【文献】特開2002-373013(JP,A)
【文献】特開2018-22432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の処理関連情報に基づいて複数のジョブに関する処理計画を作成する処理計画作成部と、
該処理計画作成部から入力される前記処理計画の付帯情報に基づいて処理の必達度を判定する必達度判定部と、
前記処理計画を前記必達度と共に出力する出力部とを備え
、
前記付帯情報は、前記ジョブの処理に必要な資源の消費量の変化を示す消費量データであり、
前記必達度判定部は、前記消費量が最大となる時間を前記必達度が最も高いと判定し、 前記出力部は、前記処理計画上に前記必達度が最も高い時間を表示し、
複数の前記ジョブを複数の処理設備を用いて並列処理する場合、
前記処理計画作成部は、前記処理設備毎に処理計画を作成し、
前記必達度判定部は、複数の前記処理設備の合計消費量が最大となる時間を前記必達度が最も高いと判定することを特徴とする処理計画指示装置。
【請求項2】
前記必達度判定部は、前記消費量が最大となる時間に加え、前記消費量が所定の条件を満足する消費量大の時間を判定し、
前記出力部は、前記必達度が最も高い時間に加え、前記消費量が所定の条件を満足する消費量大の時間を表示することを特徴とする請求項1に記載の処理計画指示装置。
【請求項3】
前記処理計画に対する修正指示を受け付ける操作部をさらに備え、
前記処理計画作成部は、前記修正指示に基づく修正処理計画を作成し、
前記出力部は、前記修正処理計画を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の処理計画指示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理計画指示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、設備の割付を適切化して、設備の効果的な使用が実現できる生産工程スケジューラが開示されている。この生産工程スケジューラは、オーダ毎に生産関連情報を参照することによりロット毎にジョブを生成し、このジョブ(ロット)を設備(工程)に割り付け、ロット(ジョブ)の割付状態を工程毎のチャートとして表示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記生産工程スケジューラが設定した生産計画をより確実に実行するためには、生産作業に関わる要員(作業者)に生産計画に即した適切な作業を行ってもらうことが必要不可欠である。例えば、オーダとの関連で生産計画に対する必達度はロットに応じて異なるが、上述したようにロット(ジョブ)の割付状態を工程毎のチャートとして表示するのみでは、作業者は生産計画に対する必達度を理解することはできない。すなわち、上述した背景技術では生産計画に対する必達度が作業者に提示されないので、作業者は適切な作業を行い得ない。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、処理計画に対する必達度を提示し得る処理計画指示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、処理計画指示装置に係る第1の解決手段として、所定の処理関連情報に基づいて複数のジョブに関する処理計画を作成する処理計画作成部と、該処理計画作成部から入力される前記処理計画の付帯情報に基づいて処理の必達度を判定する必達度判定部と、前記処理計画を前記必達度と共に出力する出力部とを備える、という手段を採用する。
【0007】
本発明では、処理計画指示装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記付帯情報は、前記ジョブの処理に必要な資源の消費量の変化を示す消費量データであり、前記必達度判定部は、前記消費量が最大となる時間を前記必達度が最も高いと判定し、前記出力部は、前記処理計画上に前記必達度が最も高い時間を表示する、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、処理計画指示装置に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、複数の前記ジョブを複数の処理設備を用いて並列処理する場合、前記処理計画作成部は、前記処理設備毎に処理計画を作成し、前記必達度判定部は、複数の前記処理設備の合計消費量が最大となる時間を前記必達度が最も高いと判定する、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、生産計画指示装置に係る第4の解決手段として、上記第2または第3の解決手段において、前記必達度判定部は、前記消費量が最大となる時間に加え、前記消費量が所定の条件を満足する消費量大の時間を判定し、前記出力部は、前記必達度が最も高い時間に加え、前記消費量が所定の条件を満足する消費量大の時間を表示する、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、処理計画指示装置に係る第5の解決手段として、上記第1~第4のいずれかの解決手段において、前記処理計画に対する修正指示を受け付ける操作部をさらに備え、前記処理計画作成部は、前記修正指示に基づく修正処理計画を作成し、前記出力部は、前記修正処理計画を出力する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理計画に対する必達度を提示することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態における熱処理施設の概要を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態における熱処理炉の消費電力変化を示す特性図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る熱処理計画作成支援装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る熱処理計画作成支援装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る熱処理計画作成支援装置の計画図を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る熱処理計画作成支援装置は、複数の熱処理設備を備える熱処理施設を支援対象としており、熱処理施設の消費電力のピーク(最大値)を最小化あるいは所定の管理値以下または未満にする熱処理設備の熱処理計画(処理計画)を求め、当該熱処理計画を出力する装置である。このような熱処理計画作成支援装置は、本発明に係る処理計画指示装置に相当するものであり、所定の熱処理支援プログラム(ソフトウエア)が搭載された一種のコンピュータである。なお、以下では熱処理計画作成支援装置を単に支援装置と言う。
【0014】
上記熱処理施設は、
図1に示すように、例えば複数(8台)の熱処理炉R1~R8を熱処理設備として運転する熱処理工場である。このような熱処理工場(熱処理施設)は、複数の熱処理炉R1~R8(熱処理設備)の他に、複数の上流側ラインU、部品ストレージS及び複数の下流側ラインLを備えており、各熱処理炉R1~R8を用いて複数の部品Xに同時並行的に熱処理(ジョブ)を施す。すなわち、熱処理工場は、複数の熱処理(ジョブ)を複数の熱処理炉R1~R8を用いて並列処理する処理施設である。なお、本実施形態において、電力は熱処理(ジョブ)の処理に必要な資源である。
【0015】
このような熱処理施設において、各上流側ラインUは、熱処理前の部品Xに所定の前処理(洗浄処理等)を施す生産ラインであり、部品ストレージSは、各上流側ラインUで前処理された部品Xを一時的に保持する部品保持設備である。
【0016】
また、各熱処理炉R1~R8は、部品ストレージSから所定数の部品Xを順次受け入れて所定の処理条件における熱処理を行う加熱冷却炉である。これら熱処理炉R1~R8は、例えば
図2の一点鎖線で示すように、炉内温度が所定時間(温度上昇時間)をかけて常温から目標温度まで上昇し、その後に目標温度を所定時間(均熱時間)に亘って維持し、さらに所定時間(冷却時間)をかけて常温まで低下する。温度上昇時間、均熱時間、冷却時間及び目標温度は、ジョブ(熱処理)の処理条件であり、部品X毎に設定される。
【0017】
このような熱処理炉R1~R8の消費電力は、
図2の実線で示すような変化をする。すなわち、各熱処理炉R1~R8の消費電力は、上記温度上昇時間においてゼロから最大値に達し、その後下降して一定値を維持し、さらに冷却時間の途中でゼロに低下する。各熱処理炉R1~R8は、このように炉内温度及び消費電力が変化する熱処理を部品ストレージSから順次受け入れた所定数の部品Xに対して繰り返す。各下流側ラインLは、各熱処理炉R1~R8から受け入れた熱処理済みの部品Xに所定の後処理(選別処理等)を施す生産ラインである。
【0018】
このような熱処理工場における各処理設備のうち、各熱処理炉R1~R8は、他の上流側ラインU、部品ストレージS及び下流側ラインLよりも消費電力が極めて高い処理設備である。すなわち、複数の熱処理炉R1~R8は、熱処理工場における電力消費量を支配する処理設備である。
【0019】
本実施形態に係る支援装置は、
図3に示すように、記憶部1、操作部2、通信部3、演算部4及び表示部5を機能構成要素として備えている。なお、このような支援装置の構成要素のうち、記憶部1及び演算部4は、本発明の処理計画作成部及び必達度判定部を構成している。
【0020】
詳細については後述するが、記憶部1及び演算部4は、所定の熱処理関連情報に基づいて複数の熱処理(ジョブ)に関する熱処理計画を作成する処理計画作成部として機能すると共に、当該処理計画作成部から入力される熱処理計画の付帯情報に基づいて熱処理(ジョブ)の必達度を判定する必達度判定部として機能する。また、通信部3及び表示部5は、本発明における出力部に相当する。なお、所定の熱処理関連情報とは、例えば、熱処理の内容、最早実行可能時刻、熱処理後の部品Xの客先への納期、各ジョブの実行優先順位、作業者の勤務予定、熱処理炉R1~R8のメンテナンス・スケジュール、又は単位時間当たりに稼働開始可能な炉数等である。
【0021】
ところで、記憶部1は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の内部記憶装置並びにハードディスクあるいは/及びメモリーカード等の外部記憶装置からなり、熱処理炉データベース1a及びプログラム記憶部1bを少なくとも備えている。
【0022】
熱処理炉データベース1aは、各熱処理炉R1~R8の運転履歴が複数登録されたデータテーブルである。この運転履歴には、各熱処理炉R1~R8で行った過去の熱処理における消費電力データが少なくとも含まれている。この消費電力データは、
図2に示したように、熱処理に要する消費電力の時間変化を示すものである。
【0023】
プログラム記憶部1bは、上記支援プログラムつまり演算部4が実行するプログラムが記憶された記憶領域である。このプログラム記憶部1bには、上記支援プログラムとして消費電力予測プログラム、数理計画プログラムが少なくとも記憶されている。
【0024】
上記消費電力予測プログラムは、熱処理炉データベース1aに基づいて熱処理炉R1~R8で次に実行する熱処理(ジョブ)の消費電力の変化を示す個別予測消費電力データを生成するための支援プログラムである。数理計画プログラムは、所定のアルゴリズムを用いて電力最適化問題を解くことにより最適な熱処理計画を求める支援プログラムである。
【0025】
操作部2は、支援装置を運用する作業者の操作指示を受け付ける入力装置であり、より具体的にはキーボードやマウス等のポインティングデバイスである。この操作部2は、作業者の操作指示に対応した操作信号を演算部4に出力する。通信部3は、所定の通信回線を介して外部機器とデータの送受信を行う通信装置であり、例えばLAN(Local Area Network)やインターネットに準拠した通信プロトコルを用いて外部機器との通信を行う。
【0026】
演算部4は、上述した専用プログラム、熱処理炉データベース1a及び操作信号等に基づいて上記個別予測消費電力データ及び熱処理計画を求める演算装置であり、インターフェース回路及びCPU(Central Processing Unit)等のハードウエアからなる。上記インターフェース回路は、記憶部1、操作部2、通信部3及び表示部5と各種信号の授受を行う電子回路であり、CPUは、上述した支援プログラムを実行する中央処理装置である。
【0027】
また、演算部4は、機能的な構成要素として予測部4a、最適化部4b及び画像生成部4cを少なくとも備えている。なお、これら機能構成要素のうち、予測部4a、最適化部4b及び上述した記憶部1は、本発明における処理計画作成部を構成している。また、画像生成部4c及び記憶部1は、本発明における必達度判定部を構成している。
【0028】
予測部4aは、熱処理炉データベース1a及び消費電力予測プログラムに基づいて、各熱処理炉Rにおける個々の熱処理(ジョブ)の予測消費電力を示す個別予測消費電力データを生成する。最適化部4bは、上記個別予測消費電力データ及びプログラム記憶部1bに記憶された数理計画プログラムに基づいて、各熱処理炉R1~R8の合計消費電力ピークを最小化あるいは所定の管理値以下または未満にし得る熱処理計画を求める。
【0029】
また、この最適化部4bは、上記熱処理計画に基づいて複数の熱処理炉R1~R8の合計消費電力の時間変化を示す合計予測消費電力データと熱処理計画を生成する。すなわち、この合計予測消費電力データは、熱処理計画に対応するものであり、当該熱処理計画の付帯情報である。最適化部4bは、自らが生成した熱処理計画及び合計予測消費電力データを画像生成部4cに出力する。
【0030】
画像生成部4cは、個別予測消費電力データ、熱処理計画及び合計予測消費電力データに基づいて、熱処理計画、各熱処理炉R1~R8の消費電力の変化及び熱処理工場の全体的な消費電力の変化等を示す画像データを生成する。この画像データは、熱処理計画及び各消費電力を後述するガントチャートとして示すものである。
【0031】
この画像生成部4cは、画像データの生成処理の一環として、合計予測消費電力データから合計消費電力ピークの時間帯を抽出する。なお、合計消費電力ピークの時間帯というのは、厳密な最大値の一点に対応する時間という意味だけではなく、設備合計(複数の熱処理炉全体)の消費電力管理値に対するマージンが、第1閾値以下(または未満)となる時間帯であってもよい。例えば、契約電力が1000[kW]であり、マージンが10[%]である場合には、合計の消費電力が900[kW]以上の時間帯が抽出される。この合計消費電力ピークの時間帯は、熱処理が処理計画通りに行われなかった場合に熱処理工場の消費電力が予め設定された消費電力管理値を越える虞のある時間であり、よって熱処理計画の必達度が最も高い時間である。
【0032】
すなわち、画像生成部4cは、処理計画の付帯情報である各熱処理炉R1~R8の合計予測消費電力データに基づいて熱処理(ジョブ)の必達度を判定する。なお、上記消費電力管理値は、熱処理工場に許容される消費電力の制限値等、熱処理工場の管理者が設定する管理用の電力値である。
【0033】
また、画像生成部4cは、個別予測消費電力データを所定のしきい値と比較することにより、各熱処理炉R1~R8の消費電力が所定の条件を満足する消費電力大の時間帯を抽出する。このような画像生成部4cは、画像データを表示部5に出力する。表示部5は、上記画像データに基づいて熱処理計画、消費電力ピークの時間帯及び消費電力大の時間帯等を表示する表示装置である。
【0034】
ここで、消費電力が所定の条件を満足する消費電力大の時間帯とは、例えば、設備ごと(複数の熱処理炉の各々)の消費電力管理値に対するマージンが第2閾値以下(または未満)となる時間帯である。例えば、定格電力が200[kW]であり、マージンが10[%](第2閾値)である場合には、消費電力が180[kW]以上の時間が抽出される。また、消費電力が所定の条件を満足する消費電力大の時間帯とは、消費電力管理値に対するマージンが第2閾値以下(または未満)となる設備(複数の熱処理炉の各々)の個数が第3閾値以上となり(又は第3閾値を超え)、且つ上記合計消費電力ピークの時間帯と重ならない時間帯であってもよい。更に、消費電力が所定の条件を満足する消費電力大の時間帯とは、設備合計(複数の熱処理炉全体)の消費電力管理値に対するマージンが、第4閾値以下(または未満)(第4閾値は、第1閾値以上である)となり、且つ上記合計消費電力ピークの時間帯と重ならない時間帯であってもよい。
【0035】
次に、本実施形態に係る支援装置の動作について、
図4~
図6をも参照して詳しく説明する。
【0036】
最初に、この支援装置を用いて所定の計画期間(例えば一週間分)における熱処理工場の最適な熱処理計画を求める場合、上記計画期間に各熱処理炉R1~R8が行う複数の部品Xに関する熱処理の内容をジョブ(熱処理の実行単位)として支援装置に入力する必要がある。すなわち、支援装置には、計画期間に熱処理工場で熱処理される複数の部品Xに関するジョブが必要情報(所定の熱処理関連情報)として入力される。
【0037】
また、この支援装置を用いて最適な熱処理計画を求めるためには、上述した複数の熱処理(ジョブ)に加えて、当該各熱処理(ジョブ)の実行に関する必要条件(所定の熱処理関連情報)を電力最適化問題を解くための制約条件として支援装置に入力する必要がある。上記制約条件は、例えば各ジョブの最早実行可能時刻、熱処理後の部品Xの客先への納期、各ジョブの実行優先順位、作業者の勤務予定、熱処理炉R1~R8のメンテナンス・スケジュール、単位時間当たりに稼働開始可能な炉数等である。
【0038】
作業者は、操作部2を操作することにより、上述した複数のジョブ及び制約条件を操作部2から入力する(ステップS1)。演算部4は、操作部2から上記各ジョブ及び制約条件に関する操作信号が入力されると、各熱処理(ジョブ)及び制約条件を記憶部1に記憶させ、この上で消費電力予測プログラムを実行することにより各熱処理(ジョブ)に関する個別予測消費電力データを生成し、また当該個別予測消費電力データ及び上記制約条件を含む電力最適化問題を解くことにより熱処理計画を探索し(ステップS2)、さらに合計予測消費電力データを生成する(ステップS3)。
【0039】
すなわち、予測部4aは、各熱処理(ジョブ)に類似する消費電力データを熱処理炉データベース1aから検索することにより、熱処理(ジョブ)毎に個別予測消費電力データを生成する。また、最適化部4bは、個別予測消費電力データ及び数理計画プログラムに基づいて、各熱処理炉R1~R8に関する熱処理計画、つまり各熱処理炉R1~R8の合計消費電力ピークを最小化あるいは所定の管理値以下または未満にし得る各熱処理炉R1~R8の運転スケジュールを求め(ステップS2)、さらに個別予測消費電力データが示す個別予測消費電力を合算することにより熱処理計画に対応する合計予測消費電力データを求める(ステップS3)。
【0040】
ここで、上記電力最適化問題の定式化及び解法については、特願2017-141248に詳細が記載されている。この特願2017-141248は、本出願人の先願であり、複数の熱処理炉に関する合計消費電力ピークを最小化あるいは所定の管理値以下または未満にし得る電力最適化問題の具体的な定式化及び解法が記載されている。したがって、本明細書では上記電力最適化問題の定式化及び解法について詳しい説明を省略する。なお、本実施形態における電力最適化問題の制約条件は、特願2017-141248の制約条件に対して若干異なっている。
【0041】
そして、演算部4は、合計予測消費電力データから熱処理工場における合計消費電力ピークの時間帯を抽出する(ステップS4)。すなわち、画像生成部4cは、各熱処理炉R1~R8の合計予測消費電力が最も大きくなる時間帯を合計予測消費電力データから抽出する。なお、この合計消費電力ピークは、複数の熱処理炉R1~R8に関する個別の消費電力ピーク(個別消費電力ピーク)が時系列的に重なることにより発生する。
【0042】
また、演算部4は、このような合計消費電力ピークに加えて、各熱処理(ジョブ)において予測消費電力が比較的大きくなる消費電力大の時間帯をも抽出する。すなわち、画像生成部4cは、個別予測消費電力データを所定のしきい値と比較することにより、消費電力大の時間帯をも抽出する。
【0043】
そして、演算部4は、合計消費電力ピーク及び消費電力大の時間帯が付記された熱処理計画をガントチャートとして生成して表示部5に出力する(ステップS5)。すなわち、画像生成部4cは、各熱処理炉R1~R8の運転状態を時系列的に示す図表(熱処理計画表)に合計消費電力ピークの時間帯及び消費電力大の時間帯が付記された画像を示す画像データを生成して表示部5に出力する。
【0044】
図5は、このように生成されたガントチャートの一例を示している。このガントチャートは、熱処理計画つまり各熱処理炉R1~R8の運転スケジュールを所定の時間幅(例えば30分)に相当するマス目単位で示すものである。すなわち、このガントチャートには、各熱処理炉R1~R8の停止/運転、各熱処理炉R1~R8が実行する熱処理(ジョブ)の開始時間帯が時間軸上に並ぶマス目として表示される。
【0045】
また、このガントチャートには、合計消費電力ピークの時間帯が「!マーク」として付加的に表示され、また消費電力大の時間帯つまり熱処理(ジョブ)において消費電力が比較的大きくなる時間帯が各マス目の背景模様の違いとして表示される。なお、この
図5に示す例では、消費電力ピークの時間帯は、太線で示す熱処理炉R6のジョブAと熱処理炉R8のジョブBとが何れも消費電力大の時間帯として重なる時間帯として示されている。
【0046】
本実施形態に係る支援装置は、このようなガントチャートを実際の熱処理(ジョブ)の実施前、例えば熱処理工場の操業開始時に表示する。そして、熱処理(ジョブ)が開始すると、
図5に示されているように、ガントチャートには熱処理計画の実施状況が把握できるように現在時刻が表示される。
【0047】
このような本実施形態によれば、表示部5に合計消費電力ピークの時間帯が熱処理計画と共にガントチャートとして表示されるので、ガントチャートを確認した熱処理工場の作業者は、合計消費電力ピークの時間帯における各熱処理炉R1~R8の熱処理(ジョブ)が熱処理計画通りに行われるように事前準備を進めることができる。また、本実施形態によれば、熱処理(ジョブ)の開始後において、作業者が熱処理計画の実施状況を的確に把握することができる。
【0048】
上述したガントチャートでは、作業者が操作部2を操作してガントチャート上のマス目を指定することによりマス目の時間帯における合計ピーク電力がポップアップ的に表示される。すなわち、画像生成部4cは、合計予測消費電力データから操作部2で指定されマス目に対応する合計消費電力値を検索して表示部5に表示させる。作業者は、この合計ピーク電力を確認することにより、合計ピーク電力が上述した消費電力管理値未満か否かを確認することができる。
【0049】
そして、作業者は、合計ピーク電力が消費電力管理値を上回る場合、操作部2を操作することにより演算部4に熱処理計画の修正指示を入力させる。演算部4の最適化部4bは、上記修正指示が操作部2から入力され(ステップS6)、さらに具体的な修正内容が操作部2から入力されると(ステップS7)、修正内容に基づく修正熱処理計画(修正処理計画)及び修正合計予測消費電力データを生成して表示部5に出力する(ステップS8)。
【0050】
例えば、上記修正内容は、合計消費電力ピークとの関連性が高い熱処理炉、
図5の熱処理計画の場合には熱処理炉R6のジョブA及び熱処理炉R8のジョブBの処理時間を前後に移動させるものである。すなわち、修正内容は、熱処理炉R6のジョブAの処理時間を1マス目分だけ前後に移動させたり、あるいは/及び熱処理炉R8のジョブBの処理時間1マス目分だけ前後に移動させるものである。
【0051】
ただし、このような特定のジョブ(熱処理)の処理時間の移動は、ジョブ(熱処理)の前あるいは/及び後に熱処理炉の停止期間が存在することにより、他のジョブ(熱処理)に消費電力として影響を与えないジョブ(熱処理)である。
【0052】
上記ステップS8の結果、表示部5には修正ガントチャートが表示されるが、作業者は、この修正ガントチャート上のマス目を指定することにより修正合計ピーク電力を表示させる。そして、作業者は、この修正合計ピーク電力が消費電力管理値を下回ったか否かを確認することができる。
【0053】
このような熱処理計画の修正処理によれば、演算部4が電力最適化問題を解くことにより自動的に求めた熱処理計画の信憑性を検証することが可能であり、また消費電力管理値を下回る熱処理計画の取得を可能とするものである。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、熱処理工場の熱処理計画の作成について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明は、処理に事前準備が必要な熱処理計画以外の様々な処理計画、例えば製品の生産計画等にも適用可能であり、本発明における処理設備は熱処理炉以外の様々な設備が考えられる。
【0055】
(2)上記実施形態では、処理計画の付帯情報である各熱処理炉R1~R8の合計予測消費電力データに基づいて熱処理(ジョブ)の必達度を判定したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明の付帯情報は合計予測消費電力データに限定されず、処理設備や当該処理設備が備えられた処理施設の性質によって様々な情報が考えられる。
【0056】
(3)上記実施形態では、合計消費電力ピークの時間帯つまり必達度が最も高い熱処理(ジョブ)の時間帯をガントチャートに表示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、合計消費電力ピークの時間帯に加えて、合計予測消費電力データにおいて合計消費電力ピークの次に大きい消費電力ピークを2番目の必達度の時間帯としてガントチャート上に表示してもよい。また、当然のことであるが、必達度の時間帯の表示方法は、ガントチャートの表示形態に限定されるものではない。
【0057】
(4)上記実施形態では、熱処理計画及び必達度が最も高い時間帯を演算部4(画像生成部4c)から表示部5に出力したが、本発明はこれに限定されない。表示部5に代えて、あるいは表示部5に加えて通信部3に熱処理計画及び必達度が最も高い時間帯を出力してもよい。また、必要に応じて印刷部を追加装備し、当該印刷部に熱処理計画及び必達度が最も高い時間帯を出力してもよい。すなわち、本発明における出力部は、表示部5に限定されず、必要に応じて様々な装置を出力部とすることが考えられる。
【0058】
(5)上記実施形態では、合計消費電力ピークの時間帯に加えて、各熱処理(ジョブ)における消費電力大の時間帯をマス目の背景模様として表示したが、本発明はこれに限定されない。消費電力大の時間帯の表示については必要に応じて省略してもよい。また、消費電力大の時間帯の表示形態としてはマス目の背景模様に限定されるものではない。
【0059】
(6)上記実施形態では、修正熱処理計画及び修正合計予測消費電力データを生成したが、本発明はこれに限定されない。修正熱処理計画及び修正合計予測消費電力データの生成処理については必要に応じて省略してもよい。
【0060】
(7)上記実施形態では、熱処理炉データベース1aに基づいて予測消費電力データを生成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、熱処理炉Rの物理モデルを記憶部1に記憶させ、当該物理モデルを用いて予測消費電力データを生成してもよい。また、物理モデルと熱処理炉データベース1aとを併用して予測消費電力データを生成してもよい。
【0061】
(8)現在時刻より前の消費電力値として、実測値を表示、または、予測値と実測値を重ねて表示しても良い。
【0062】
(9)上記実施形態は、ジョブ(熱処理)の処理に必要な資源の一例である電力に着目したものであるが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明における資源は、設備の稼働に必要なものであればよく、電力の他に例えばガス、石油等の各種燃料、また水や原料等の各種生産財をも含む概念である。
【符号の説明】
【0063】
R1~R8 熱処理炉
U 上流側ライン
S 部品ストレージ
L 下流側ライン
1 記憶部
1a 熱処理炉データベース
1b プログラム記憶部
2 操作部
3 通信部
4 演算部
4a 予測部
4b 最適化部
4c 画像生成部
5 表示部