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特許7139828解析装置、分析装置、解析方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】解析装置、分析装置、解析方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20220913BHJP
【FI】
G01N27/62 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018177900
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020051751
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓志
(72)【発明者】
【氏名】松尾 英一
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-085219(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183086(WO,A1)
【文献】再公表特許第2015/181893(JP,A1)
【文献】特開2015-029186(JP,A)
【文献】特開2017-040520(JP,A)
【文献】特開2010-205460(JP,A)
【文献】特開2012-215512(JP,A)
【文献】特開2011-210712(JP,A)
【文献】国際公開第2010/100675(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0141718(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-27/70
H01J 49/00-49/48
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーが試料における複数の照射位置に照射され、各照射位置に対応する試料成分の質量分析を行って得られた測定データを取得する測定データ取得部と、
前記各照射位置に前記レーザーが照射される際の照射範囲のうち既に前記レーザーが照射された部分を除いた照射部分である新規照射部分の面積の値を前記各照射位置について特定し、前記新規照射部分の面積の値に基づいて複数の前記各照射位置を複数の位置群に分類し、前記複数の位置群のうち一つを解析位置群として選択し、前記解析位置群に属する前記照射位置における前記新規照射部分の面積の値とは前記新規照射部分の面積の値が異なる前記照射位置を除外照射位置と決定し、複数の前記照射位置のうち前記除外照射位置に対応するデータを除外して前記測定データの解析を行う解析部と
を備える解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の解析装置において、
前記面積は、前記レーザーの照射径および前記複数の照射位置の間隔に基づいて算出されたものである解析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の解析装置において、
前記解析部は、前記試料の複数の位置にそれぞれ対応する複数の画素と、所定のm/zに対応する分子の検出強度とが対応した強度画像に対応するデータを作成し、
前記複数の画素は、前記除外照射位置に対応する画素を含まない解析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の解析装置において、
前記解析部は、前記強度画像に対応するデータの作成の際、前記測定データまたは前記測定データに基づくデータにおいて、前記強度画像の端から所定の個数の行または列に対応するデータを除外する解析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の解析装置において、
前記解析部は、前記測定データまたは前記測定データに基づくデータにおいて、前記強度画像の上端および下端のそれぞれから第1および第2の個数の行に対応するデータを除外し、左端および右端から第3および第4の個数の列に対応するデータを除外し、前記第1、第2、第3および第4の個数のうちの少なくともいずれかは他の個数と異なる解析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の解析装置において、
前記レーザーにより、前記強度画像において各行に対応する前記複数の照射位置が順次走査された場合、前記解析部は、前記強度画像の上下端の一方から1行目と、前記強度画像の左右端から少なくとも1列に対応するデータを除外し、
前記レーザーにより、前記強度画像において各列に対応する前記複数の照射位置が順次走査された場合、前記解析部は、前記強度画像の左右端の一方から1列目と、前記強度画像の上下端から少なくとも1行に対応するデータを除外する解析装置。
【請求項7】
請求項3から6までのいずれか一項に記載の解析装置において、
前記強度画像を表示する表示部を備える解析装置。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一項に記載の解析装置と、
前記質量分析を行う質量分析計と
を備える分析装置。
【請求項9】
レーザーが試料における複数の照射位置に照射され、各照射位置に対応する試料成分が質量分析されて得られた測定データを取得することと、
前記各照射位置に前記レーザーが照射される際の照射範囲のうち既に前記レーザーが照射された部分を除いた照射部分である新規照射部分の面積の値を前記各照射位置について特定し、前記新規照射部分の面積の値に基づいて複数の前記各照射位置を複数の位置群に分類し、前記複数の位置群のうち一つを解析位置群として選択し、前記解析位置群に属する前記照射位置における前記新規照射部分の面積の値とは前記新規照射部分の面積の値が異なる前記照射位置を除外照射位置と決定し、複数の前記照射位置のうち前記除外照射位置に対応するデータを除外して前記測定データの解析を行うことと
を備える解析方法。
【請求項10】
レーザーが試料における複数の照射位置に照射され、各照射位置に対応する試料成分が質量分析されて得られた測定データを取得する測定データ取得処理と、
前記各照射位置に前記レーザーが照射される際の照射範囲のうち既に前記レーザーが照射された部分を除いた照射部分である新規照射部分の面積の値を前記各照射位置について特定し、前記新規照射部分の面積の値に基づいて複数の前記各照射位置を複数の位置群に分類し、前記複数の位置群のうち一つを解析位置群として選択し、前記解析位置群に属する前記照射位置における前記新規照射部分の面積の値とは前記新規照射部分の面積の値が異なる前記照射位置を除外照射位置と決定し、複数の前記照射位置のうち前記除外照射位置に対応するデータを除外して前記測定データの解析を行う解析処理と
を処理装置に行わせるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、分析装置、解析方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析イメージング法は、試料の複数の位置における成分を質量分析することにより、試料における所定の質量の分子の分布を取得する方法である。試料として生物から採取された組織切片等を用いた場合、これにより注目している分子が当該生物においてどのように局在しているかを調べ、当該分子の発現や機能を解析することができる。このように質量分析イメージング法は、分子の位置情報を利用した様々な解析に用いることができる。
【0003】
質量分析イメージング法では、試料のイオン化の方法としてマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)が好適に用いられる。この場合、試料における複数の位置(照射位置)に順次レーザーを照射してイオン化することにより、各位置の試料成分を順次イオン化して質量分離および検出を行う。
【0004】
ここで、試料において一度レーザーが照射された部分について再度レーザーが照射された場合、2回目以降の照射により当該部分から取り出されイオン化される試料成分の量は、1回目の照射により当該部分から取り出されイオン化される試料成分の量よりも大きく減少する。従って、複数の照射位置に順次レーザーを照射する場合、異なる照射位置に対応する照射範囲に重なりがあると、照射範囲が重なっている部分については1回目の照射と2回目の照射でイオン化される試料成分の量が異なるため、試料成分の分布の解析におけるばらつきの原因となる。特許文献1では、レーザーの光束の断面形状を、1種類のみで平面充填が可能である図形形状になるように整形し、これにより照射範囲の重なりが少なくなる点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/183086号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
試料の複数の位置にレーザーを照射する質量分析において、各照射位置に対応する照射範囲が重なり合うことにより解析の際の精度が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい実施形態による解析装置は、レーザーが試料における複数の照射位置に照射され、各照射位置に対応する試料成分の質量分析を行って得られた測定データを取得する測定データ取得部と、前記各照射位置に前記レーザーが照射される際の照射範囲のうち既に前記レーザーが照射された部分を除いた照射部分である新規照射部分の面積の値を前記各照射位置について特定し、前記新規照射部分の面積の値に基づいて複数の前記各照射位置を複数の位置群に分類し、前記複数の位置群のうち一つを解析位置群として選択し、前記解析位置群に属する前記照射位置における前記新規照射部分の面積の値とは前記新規照射部分の面積の値が異なる前記照射位置を除外照射位置と決定し、複数の前記照射位置のうち前記除外照射位置に対応するデータを除外して前記測定データの解析を行う解析部とを備える
らに好ましい実施形態では、前記面積は、前記レーザーの照射径および前記複数の照射位置の間隔に基づいて算出されたものである。
さらに好ましい実施形態では、前記解析部は、前記試料の複数の位置にそれぞれ対応する複数の画素と、所定のm/zに対応する分子の検出強度とが対応した強度画像に対応するデータを作成し、前記複数の画素は、前記除外照射位置に対応する画素を含まない。
さらに好ましい実施形態では、前記解析部は、前記強度画像に対応するデータの作成の際、前記測定データまたは前記測定データに基づくデータにおいて、前記強度画像の端から所定の個数の行または列に対応するデータを除外する。
さらに好ましい実施形態では、前記解析部は、前記測定データまたは前記測定データに基づくデータにおいて、前記強度画像の上端および下端のそれぞれから第1および第2の個数の行に対応するデータを除外し、左端および右端から第3および第4の個数の列に対応するデータを除外し、前記第1、第2、第3および第4の個数のうちの少なくともいずれかは他の個数と異なる。
さらに好ましい実施形態では、前記レーザーにより、前記強度画像において各行に対応する前記複数の照射位置が順次走査された場合、前記解析部は、前記強度画像の上下端の一方から1行目と、前記強度画像の左右端から少なくとも1列に対応するデータを除外し、
前記レーザーにより、前記強度画像において各列に対応する前記複数の照射位置が順次走査された場合、前記解析部は、前記強度画像の左右端の一方から1列目と、前記強度画像の上下端から少なくとも1行に対応するデータを除外する。
さらに好ましい実施形態では、前記強度画像を表示する表示部を備える。
本発明の好ましい実施形態による分析装置は、上述の解析装置と、前記質量分析を行う質量分析計とを備える。
本発明の好ましい実施形態による解析方法は、レーザーが試料における複数の照射位置に照射され、各照射位置に対応する試料成分が質量分析されて得られた測定データを取得することと、前記各照射位置に前記レーザーが照射される際の照射範囲のうち既に前記レーザーが照射された部分を除いた照射部分である新規照射部分の面積の値を前記各照射位置について特定し、前記新規照射部分の面積の値に基づいて複数の前記各照射位置を複数の位置群に分類し、前記複数の位置群のうち一つを解析位置群として選択し、前記解析位置群に属する前記照射位置における前記新規照射部分の面積の値とは前記新規照射部分の面積の値が異なる前記照射位置を除外照射位置と決定し、複数の前記照射位置のうち前記除外照射位置に対応するデータを除外して前記測定データの解析を行うこととを備える。
本発明の好ましい実施形態によるプログラムは、レーザーが試料における複数の照射位置に照射され、各照射位置に対応する試料成分が質量分析されて得られた測定データを取得する測定データ取得処理と、前記各照射位置に前記レーザーが照射される際の照射範囲のうち既に前記レーザーが照射された部分を除いた照射部分である新規照射部分の面積の値を前記各照射位置について特定し、前記新規照射部分の面積の値に基づいて複数の前記各照射位置を複数の位置群に分類し、前記複数の位置群のうち一つを解析位置群として選択し、前記解析位置群に属する前記照射位置における前記新規照射部分の面積の値とは前記新規照射部分の面積の値が異なる前記照射位置を除外照射位置と決定し、複数の前記照射位置のうち前記除外照射位置に対応するデータを除外して前記測定データの解析を行う解析処理とを処理装置に行わせるためのものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レーザーの光束の断面形状を整形することを必ずしも必要とせず、各照射位置に対応する照射範囲が重なり合うことによる解析の際の精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態の分析装置の構成を示す概念図である。
図2図2(A)は、試料の対象領域を示す概念図であり、図2(B)は、レーザーによる走査を説明するための概念図である。
図3図3(A)は、各照射位置に対応する照射範囲が重ならない場合の強度画像を説明するための概念図であり、図3(B)は、各照射位置に対応する照射範囲が重なる場合の強度画像を説明するための概念図である。
図4図4(A)、4(B)、4(C)、4(D)および4(E)は、照射範囲において既にレーザーが照射された領域を除いた部分を示す概念図である。
図5図5は、参照データを示す表である。
図6図6は、一実施形態に係る分析方法の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、レーザーによる走査を説明するための概念図である。
図8図8は、変形例に係る分析方法の流れを示すフローチャートである。
図9図9は、プログラムの提供態様を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下の実施形態の分析装置は、質量分析イメージング法に用いることができる質量分析装置(イメージング質量分析装置)である。
【0011】
-第1実施形態-
図1は、本実施形態の分析装置を説明するための概念図である。分析装置1は、測定部100と、情報処理部40とを備える。測定部100は、試料チャンバ9と、試料画像撮像部10と、イオン化部20と、質量分析部30とを備える。
【0012】
試料画像撮像部10は、撮像部11と、観察用窓12とを備える。イオン化部20は、レーザー照射部21と、集光光学系22と、照射用窓23と、試料Sが配置される試料台24と、試料台駆動部25と、イオン輸送管26とを備える。質量分析部30は、真空チャンバ300と、イオン輸送光学系31と、第1質量分離部32と、第2質量分離部33とを備える。第2質量分離部33は、検出部330を備える。
【0013】
情報処理部40は、入力部41と、通信部42と、記憶部43と、表示部44と、制御部50とを備える。制御部50は、測定データ取得部51と、装置制御部52と、解析部53と、表示制御部54とを備える。解析部53は、強度算出部531と、画像作成部532と、データ除外部533とを備える。
【0014】
試料チャンバ9は、内部が略大気圧に維持されるチャンバを備える。試料チャンバ9の内部には、試料台24と、モーターおよび減速機構等を備える試料台駆動部25が配置されている。試料台24は、試料台駆動部25により、試料Sを撮像部11により撮像可能な撮像位置Paと、試料SにレーザーLを照射可能なイオン化位置Pbとの間を移動可能に構成されている。試料チャンバ9には、観察用窓12と照射用窓23とが形成されている。試料台24において、試料Sを配置する面はxy平面に沿って配置されているものとし、試料画像撮像部10の光軸Axはz軸に沿って配置されているものとする(座標軸8参照)。y軸は後述する質量分析部30のイオン光軸と平行に取り、y軸およびz軸に垂直にx軸をとった。
【0015】
試料画像撮像部10は、撮像位置Paにある試料Sの画像(以下、試料画像と呼ぶ)を撮像する。試料画像撮像部10は、試料Sからの光を光電変換して得られた信号を制御部50に出力する(矢印A1)。
【0016】
試料画像は、試料Sにおいて分析対象となる部分にある複数の位置と、当該位置からの光の強度または波長とが対応して示された画像であれば特に限定されない。例えば、試料画像は、不図示の透過照明部からの光が照射された試料Sの透過光の像を撮像部11が撮像した画像である。試料画像の撮像に際し、試料Sの特定の構造や分子を、染色用試薬で染色したり、抗体反応または遺伝子組換えにより導入された蛍光体等で標識することができる。その後、撮像部11は、染色された部分または蛍光体等からの光を光電変換して得られた信号を制御部50に出力することができる。
【0017】
撮像部11は、CCDやCMOS等の撮像素子を備える。試料台24に配置された試料Sからの光は、観察用窓12を透過して撮像部11に入射する。撮像部11は、試料Sからの光を撮像素子の各画素の光電変換素子により光電変換する。撮像部11は、光電変換により得られた信号をA/D変換し、各画素に対応する試料画像上の位置と、A/D変換により得られた画素値とが対応した試料画像データを生成して制御部50に出力する。
【0018】
イオン化部20は、イオン化位置Pbにある試料Sにおいて分析対象となる部分にある複数の位置にレーザーLを照射し、試料Sをイオン化する。イオン化のためにレーザーLが照射された位置を照射位置と呼ぶ。イオン化部20は、各照射位置に順次レーザーLを照射し、各照射位置に対応する照射範囲にある試料成分を順次イオン化する。
【0019】
レーザー照射部21は、レーザー光源を備える。レーザー光源の種類は、所望の照射径で試料Sの各照射位置にレーザーLを照射し、試料成分のイオン化を起こすことができれば特に限定されない。例えば、このレーザー光源は、紫外~赤外領域に対応する波長のレーザーLを発振する装置とすることができる。ここで、照射径とは、試料Sの表面においてレーザーが照射される部分の最大径とする。
【0020】
集光光学系22は、レンズ等を備え、試料SにおけるレーザーLの照射範囲を調節する。集光光学系22を通過したレーザーLは、照射用窓23を透過して試料Sに入射する。以下では、わかりやすくするため、レーザーLの進行方向に垂直な断面の形状を円とし、試料Sの表面(xy平面に略平行とする)に対して垂直な方向からレーザーLが入射するものとする。この場合、試料Sにおける照射範囲は照射径を直径とする円の形状となる。照射径はレーザーLの波長にもよるが例えば数百nm~数十μmである。
【0021】
試料Sの照射位置にレーザーLが照射されると、照射範囲にある試料成分が脱離しイオン化され、試料由来イオンSiが生成される。以下では、試料由来イオンSiは、イオン化された試料Sの他、イオン化された試料Sの解離、分解により生じたイオンや、イオン化された試料Sへの原子や原子団の付着等により得られたイオンも指す。試料Sから放出された試料由来イオンSiは、イオン輸送管26の内部を通過して質量分析部30の真空チャンバ300に導入される。
【0022】
試料台24は、試料台駆動部25により少なくともx方向およびy方向に移動可能に構成されている。試料Sにおける、ある照射位置にレーザーLが照射された後、試料台24が移動し、次の照射位置にレーザーLが照射される。このように、レーザーLの光路に対して試料台24が相対的に移動することによりレーザーLが試料S上を走査する。従って、イオン化位置Pbは、各照射位置にレーザーLを照射するための試料Sの複数の位置を含むものとする。
なお、試料台24が移動するのではなく、レーザーLの光路が変化することにより照射位置を変化させてもよい。
【0023】
質量分析部30は、試料由来イオンSiを質量分離して検出する。質量分析部30における試料由来イオンSiの経路(イオン光軸A2およびイオンの飛行経路A3)を、一点鎖線の矢印により模式的に示した。真空チャンバ300に導入された試料由来イオンSiは、イオン輸送光学系31に入射する。
【0024】
イオン輸送光学系31は、静電的な電磁レンズや高周波イオンガイド等のイオンの移動を制御する要素を備え、試料由来イオンSiの軌道を収束させつつ試料由来イオンSiを第1質量分離部32に輸送する。真空チャンバ300は、真空度の異なる複数の真空室に分かれており、イオン輸送光学系31の各要素は、第1質量分離部32に近づくにつれて適宜段階的に真空度が高められた複数の真空室にそれぞれ配置される。各真空室は不図示の真空ポンプにより排気される。
【0025】
第1質量分離部32は、イオントラップ等の質量分析器を備え、試料由来イオンSiの解離や質量分離を行う。図1の例のように第1質量分離部32がイオントラップを備える場合、適宜2段階以上の質量分離等を行うことができる。第1質量分離部32および後述する第2質量分離部33では、配置された質量分析器に応じた真空度まで、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプにより排気される。第1質量分離部32を通過した、または第1質量分離部32で解離や質量分離により得られた試料由来イオンSiは、第2質量分離部33に導入される。
【0026】
第2質量分離部33は、飛行時間型質量分析器等の質量分析器を備え、試料由来イオンSiの質量分離を行う。図1の例では、第2質量分離部33が飛行時間型質量分析器の場合として、試料由来イオンSiの飛行経路A3を一点鎖線の矢印で模式的に示した。
【0027】
検出部330は、マイクロチャンネルプレート等のイオン検出器を備え、入射した試料由来イオンSiを検出する。検出モードは正イオンを検出する正イオンモードと、負イオンを検出する負イオンモードとのいずれでもよい。イオンを検出して得られた検出信号はA/D変換され、デジタル信号となって情報処理部40に入力され(矢印A4)、測定データとして記憶部43に記憶される。
【0028】
情報処理部40は、電子計算機等の情報処理装置を備え、適宜分析装置1のユーザー(以下、単に「ユーザー」と呼ぶ)とのインターフェースとなる他、様々なデータに関する通信、記憶、演算等の処理を行う。情報処理部40は、測定部100の制御や、解析、表示の処理を行う処理装置となる。
なお、情報処理部40は、測定部100と一体になった一つの装置として構成してもよい。また、分析装置1が用いるデータの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよく、分析装置1で行う演算処理の一部は遠隔のサーバ等で行ってもよい。測定部100の各部の動作の制御は、情報処理部40が行ってもよいし、各部を構成する装置がそれぞれ行ってもよい。
【0029】
情報処理部40の入力部41は、マウス、キーボード、各種ボタンおよび/またはタッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部41は、測定部100が行う測定や制御部50が行う処理に必要な情報等を、ユーザーから受け付ける。
【0030】
情報処理部40の通信部42は、インターネット等のネットワークを介して無線や有線の接続により通信可能な通信装置を含んで構成される。通信部42は、測定部100の測定に必要なデータを受信したり、制御部50が処理したデータを送信したり、適宜必要なデータを送受信する。
【0031】
情報処理部40の記憶部43は、不揮発性の記憶媒体を備える。記憶部43は、後述する参照データ、検出部330から出力された検出信号に基づく測定データ、および制御部50が処理を実行するためのプログラム等を記憶する。
【0032】
情報処理部40の表示部44は、液晶モニタ等の表示装置を備える。表示部44は、表示制御部54により制御され、測定部100の測定の分析条件に関する情報や、解析部53の解析により得られたデータ等を、表示装置に表示する。
【0033】
情報処理部40の制御部50は、CPU等のプロセッサを含んで構成される。制御部50は、測定部100の制御や、測定データの解析等、記憶部43等に記憶されたプログラムを実行することにより各種処理を行う。
【0034】
測定データ取得部51は、記憶部43に記憶された測定データを取得し、プロセッサのメモリ等の記憶装置に記憶させる。
【0035】
装置制御部52は、測定部100の各部の動作を制御する。装置制御部52は、入力部41からの入力により設定された照射位置、各照射位置を照射する順序(以下、照射順序と呼ぶ)および照射径を取得する。装置制御部52は、レーザー照射部21、集光光学系22および試料台24を制御し、設定された照射順序、照射位置および照射径によりレーザーLを試料Sに照射させる。
【0036】
解析部53は、後述する強度画像の作成を含む、測定データの解析を行う。
【0037】
解析部53の強度算出部531は、測定データ取得部51が取得した測定データから、検出された試料由来イオンSiのm/zと検出強度とを対応させ、試料由来イオンSiに対応する検出強度を算出する。
【0038】
第2質量分離部33で飛行時間型の質量分離を行った場合、強度算出部531は、飛行時間を予め取得した較正データを用いてm/zに変換し、m/zと検出されたイオンの強度とを対応させたマススペクトルに対応するデータを作成する。強度算出部531は、入力部41からの入力等により設定された分析対象の分子(以下、対象分子と呼ぶ)を検出するためのm/z値から、対象分子またはそのフラグメントイオンに対応するマススペクトルのピークを同定する。強度算出部531は、バックグラウンドの除去等のノイズを低減する処理を行った後、同定されたピークのピーク強度またはピーク面積を、対象分子の検出強度の大きさを示す値として算出する。対象分子は1個でも、複数個でもよい。
【0039】
強度算出部531は、照射位置と、当該照射位置にレーザーLを照射して得られた対象分子の強度とを対応付けた強度データを記憶部43に記憶させる。例えば、照射位置が正方格子状に並んだ縦100か所×横100か所の総計10000か所とした場合、横方向に並ぶ100か所を行列の行に対応させ縦方向に並ぶ100か所を行列の列に対応させることができる。この場合、強度算出部531は、算出した対象分子の強度を要素とする100×100の行列に対応する二次元配列データを強度データとして記憶部43に記憶させることができる。
なお、強度データの表現の方法は、解析部53による解析が可能であれば特に限定されない。
【0040】
解析部53の画像作成部532は、強度データに基づいて、強度画像に対応するデータ(以下、強度画像データと呼ぶ)を作成する。強度画像は、試料Sの複数の位置にそれぞれ対応する複数の画素と、所定のm/zに対応する対象分子の強度とが対応して示された画像である。画像作成部532は、各照射位置をそれぞれ一画素に対応させ、各照射位置に対応する対象分子の強度を画素値に変換し、強度画像データを作成し、記憶部43に記憶させる。
【0041】
画像作成部532は、全ての照射位置の対象分子の強度を比較し、対象分子の最大強度および最小強度を取得し、この最大強度および最小強度の少なくとも一つに基づいて各照射位置における強度を画素値に変換することができる。例えば、全ての照射位置のうち対象分子の最大強度が10000(A.U.)、最小強度が100(A.U.)であり、同色、例えば赤色(R)の256段階の画素値に変換する場合には、強度値10000(A.U.)を画素値255、強度値100(A.U.)を0とすることができる。最大強度値と最小強度値の間の強度値は、強度値の変化と画素値の変化が1次の関係等の所定の関係になるように変換することができる。
【0042】
解析部53のデータ除外部533は、強度画像データにおいて、イオン化される試料Sの量が不均一とならないように除外すべき部分を決定する。当該部分は、特定の照射位置に対応する強度画像データであり、レーザーLの照射径および照射位置の間隔(以下、照射ピッチと呼ぶ)に基づいて決定される。
【0043】
図2(A)は、試料Sにおいて分析対象の領域(以下、対象領域S1と呼ぶ)を示す図である。この例では、試料Sは生物から採取した組織の切片とし、対象領域S1は縦5か所×横5か所の照射位置Cを含む場合を想定している。
【0044】
図2(B)は、レーザーLによる走査を説明するための概念図である。以下では、レーザーLの「走査」と記載した場合には、照射位置Cをステップ状に移動させることを意味する。図2の例では、対象領域S1の左上の端にある照射位置C11を最初の照射位置とする。装置制御部52は、照射位置C11からレーザーLを右向きに走査させて照射位置C12、C13、C14、C15の順に照射する。その後、対象領域S1の右端で折り返し、左向きにレーザーLを走査させて照射位置C25、C24、C23、C22、C21の順に照射する。その後、対象領域S1の左端で折り返し、右向きにレーザーLを走査させて照射位置C31、C32、C33、C34、C35の順に照射する。このように両端で折り返すように走査する場合を折り返し型走査と呼ぶ。折り返し走査はレーザーLの試料台24に対する相対的な移動量を少なくし迅速に走査ができるため好ましい。図2(B)では、各照射位置を照射する順序を一点鎖線の矢印Asで模式的に示した。
【0045】
各照射位置Cに対し、照射径DのレーザーLが照射される。照射径Dが照射ピッチPtよりも長いため、隣り合う照射位置C11およびC12のそれぞれの照射範囲R11およびR12は重なり部分Roにおいて重なっている。重なり部分Roでは、最初にレーザーLが照射されたときにイオン化される試料Sの量に比べ、2回目以降にレーザーが照射されたときにイオン化される試料Sの量は大幅に減少する。従って、照射範囲R1と照射範囲R2の面積は等しいが、レーザーLの照射の際、実際にイオン化される試料Sの量は異なることになる。
【0046】
図3(A)は、対象領域S1において各照射位置に対応する照射範囲Rが重ならない場合の強度画像Mi0を説明するための概念図である。図3(A)および3(B)では、強度画像の強度の大きさをハッチングの濃さで示した。強度画像Mi0では、画素Pxのうち特に強度が高いもの(後述する高強度画素)が無いとする。
【0047】
図3(B)は、対象領域S1において各照射位置に対応する照射範囲Rが重なる場合の強度画像Mi1を説明するための概念図である。レーザーLは、対象領域S1の左上の端の照射位置を起点に右向きに進み、折り返し型走査を行ったものとする。この場合、照射範囲Rの重なりに起因して、イオン化される試料成分の量が異なるため、9つの画素(以下、高強度画素Paと呼ぶ)において、その他の画素Pxよりも強度値が高い値に測定されやすくなる。このように、異なる2つの照射位置に対応する照射範囲Rの重なり部分があると、測定の精度が低下する。
【0048】
データ除外部533は、照射範囲Rに重なりのある条件で取得された強度画像Mi1における上端、下端、左端または右端から所定の個数の行または列に対応する強度画像データを除外する。除外される強度画像データに対応する照射位置は、各照射位置にレーザーLが照射される際に、照射範囲Rのうち、既にレーザーLが照射された部分を除いた面積に基づいて定められる。
【0049】
図4(A)、4(B)、4(C)、4(D)および4(E)(以下、図4(A)~(E)と記載する)は、照射範囲Rにおいて既にレーザーLが照射された領域を除いた部分(以下、新規照射部分Rnと呼ぶ)を示す概念図である。これらの例では、照射径Dに対する照射ピッチPtの比率は0.5であり、対象領域S1の左上の端を起点として右向きにレーザーLを走査し、折り返し型走査を行った場合を示している。
【0050】
図4(A)は、対象領域S1の左上の端にレーザーLを照射した場合、すなわち最初の照射位置にレーザーLを照射した場合の新規照射部分Rnを示す図である。この場合、それまでにレーザーLが照射された領域は無いため、新規照射部分Rnは照射範囲R全体となる。
【0051】
図4(B)は、対象領域S1の上端をレーザーLが右向きに走査する場合の新規照射部分Rnを示す図である。この場合、照射範囲Rのうち左側の一部は直前に照射された照射範囲Rbと重なるため、新規照射部分Rnは円から左側の一部が欠けた形状となる。
【0052】
図4(C)は、対象領域S1の右端をレーザーが下向きに走査する場合の新規照射部分Rnを示す図である。この場合、照射範囲Rは、直前の2つの照射範囲Rc1およびRc2との重なりが有るため、新規照射部分Rnは円の上側の部分が欠けた形状となる。
【0053】
図4(D)は、対象領域S1の上端から2行目をレーザーLが左向きに走査する場合の新規照射部分Rnを示す図である。この場合、照射範囲Rは、少なくとも3つの照射範囲Rd1、Rd2およびRd3との重なりが有るため、新規照射部分Rnは円の上側および右側が相当程度欠けた形状となる。
【0054】
図4(E)は、対象領域S1の上端から2行目の最後の照射位置にレーザーLが照射される場合の新規照射部分Rnを示す図である。この場合、照射範囲Rは、少なくとも2つの照射範囲Re1およびRe2との重なりが有るため、新規照射部分Rnは円の上側および右側の一部が欠けた形状となる。
【0055】
図4(A)~(E)における新規照射部分Rnのうち、最も面積の小さいものは図4(D)の新規照射部分Rnである。従って、データ除外部533は、図4(A)、4(B)、4(C)および4(E)に対応する場合を含む、強度画像Mi1の上端の1行、左端の1列、右端の1列に対応する強度画像データを除外して強度画像Miを再度作成する。言い換えれば、データ除外部533が強度画像の一部を切り取る加工を行うことになる。
【0056】
イオン化部20がイオン化を行うたびに、上記のような検討に対応する演算を行い除外する部分を導出すると計算量が増えてしまうため、データ除去部533は、記憶部43に予め記憶された参照データを参照し、強度画像データのうち除外する部分を決定することが好ましい。
【0057】
図5は、参照データの一例を示す表Tbである。参照データでは、レーザーLの照射径Dに対する照射ピッチPtの比率(以下、照射比率と呼ぶ)および走査する順序に、強度画像Mi1の上端、下端、左端および右端から削除する行または列の個数が対応付けられている。表Tbでは、折り返し走査を前提にしている。表Tbに示された条件は一部であり、例えばレーザーLの走査の起点としては右上や右下を含めることができ、走査の向きも左向きを含めることができる。
なお、照射比率として、照射ピッチPtに対する照射径Dの比率を用いてもよい。
【0058】
表Tbに示されている条件のように、強度画像の上端、下端、左端および右端のそれぞれから削除する行または列の個数のうち、少なくとも一つは他とは異なることが好ましいが、特に限定されない。
【0059】
表Tbに示されている条件のように、レーザーLにより、強度画像において各行に対応する照射位置Cが順次折り返し走査された場合、データ除外部533は、強度画像の上下端の一方から1行目と、強度画像の左右端の両方から1以上の列に対応するデータを除外する。また、レーザーLにより、強度画像において各列に対応する照射位置Cが順次折り返し走査された場合、データ除去部533は、強度画像の左右端の一方から1列目と、強度画像の上下端の両方から1以上の行に対応するデータを除外する。これにより、強度画像においてできるだけ多くの画素を残しつつ、イオン化される試料Sの量の不均一性による精度の低下が抑制された強度画像を得ることができる。
なお、参照データに示された除外部分を含めば任意の範囲の強度画像データを削除してもよい。この場合でも、イオン化される試料Sの量の不均一性による精度の低下が抑制された強度画像を得ることができる。
【0060】
データ除外部533は、入力部41からの入力等に基づいて設定された、照射径D、照射ピッチPt、走査の起点、および起点からの走査の向きを取得する。データ除外部533は、照射径Dおよび照射ピッチPtから照射比率を算出する。データ除外部533は、照射比率と、走査の起点および向きとを参照データにおいて参照し、対応づけられた削除する行または列の数を取得する。データ除外部533は、このように取得した参照データからの情報に基づいて、強度画像の上端、下端、左端および右端から所定の個数の行または列を切り取るように強度画像データの一部を削除する。このようにして得られた強度画像は、削除された強度画像データについての照射位置に対応する画素を含まないことになる。
【0061】
参照データにおいて示される強度画像データの除外部分は、上記図4(A)~(E)に対応する検討のように、照射径Dと照射ピッチPtおよび走査する順序に基づいて、照射範囲Rのうち、既にレーザーLが照射された部分を除いた面積に基づいて算出される。
【0062】
データ除外部533は、各照射位置に対応する照射範囲に重なりが無い場合には、強度画像の一部を切り取る加工を行わないようにできる。このように、データ除外部533は、照射範囲に重なりが有るか無いかにより、強度画像を生成、加工する方法を異ならせることができる。
【0063】
表示制御部54は、強度画像、試料画像および、測定部100の測定条件またはマススペクトル等の解析部53の解析結果についての情報等を含む表示画像を作成し、表示部44に表示させる。
【0064】
解析部53は、強度画像の作成の他、様々な解析を、参照データに基づいて一部が除外されたデータを用いて行うことができる。このようなデータは、測定データまたは測定データに基づくデータであれば特に限定されない。
【0065】
図6は、本実施形態の分析方法の流れを示すフローチャートである。ステップS1001において、データ除外部533は、レーザーLの照射径Dに対する照射ピッチPtの比率(照射比率)と、複数の照射位置Cを走査する順序(走査順序)と、それぞれの順序において、照射位置CにレーザーLが照射される際の照射範囲Rのうち、既にレーザーLが照射された部分を除いた面積に基づいて算出された、除外すべきデータについての情報とが対応付けられたデータ(参照データ)を取得する。ステップS1001が終了したら、ステップS1003が開始される。
【0066】
ステップS1003において、撮像部11は、試料Sの画像(試料画像)を撮像する。この際、位置合わせのため、試料Sの表面に可視化マーカーを付しておくことが好ましい。ステップS1003が終了したらステップS1005が開始される。ステップS1005において、ユーザー等により試料の表面にマトリックスが付着され、当該試料Sが試料台24に配置される。位置合わせを行う場合、撮像位置Paにおいて、マトリックスが付着された試料Sを可視化マーカーが写るように再度撮像し、試料Sを試料台24に固定したまま、試料台駆動部25によりイオン化位置Pbへと移動させる。この移動は、可視化マーカーによる試料画像とマトリックスが付着された試料Sの画像との対応付けにより、ユーザーが試料画像で指定した照射位置へレーザーLを照射可能な位置に試料Sが配置されるように行われる。ステップS1005が終了したら、ステップS1007が開始される。
【0067】
ステップS1007において、ユーザー等により、レーザーLの照射径Dと、照射ピッチPtと、複数の照射位置Cを走査する順序(走査順序)とを含む分析条件が設定される。測定部100は、この分析条件に基づいて試料SにレーザーLを照射し、各照射位置Cについてイオン化された試料成分を質量分析し、測定データを取得する。ステップS1007が終了したら、ステップS1009が開始される。
【0068】
ステップS1009において、強度算出部531は、各照射位置Cに対応する測定データから、検出された対象分子の強度を算出する。ステップS1009が終了したら、ステップS1011が開始される。ステップS1011において、画像作成部532は、試料Sの各位置と、算出された強度とが対応した強度画像に対応するデータを作成する。ステップS1011が終了したら、ステップS1013が開始される。
【0069】
ステップS1013において、データ除外部533は、ステップS1001で取得した参照データを参照し、強度画像の端から所定の個数の行または列に対応する部分を切り取る加工を行う。ステップS1013が終了したら、ステップS1015が開始される。ステップS1015において、表示部44は、ステップS1013で加工された強度画像を表示する。ステップS1015が終了したら、処理が終了される。
【0070】
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態に係る解析装置(情報処理部40)および解析方法では、レーザーLが試料Sにおける複数の照射位置Cに照射され、各照射位置Cに対応する試料成分の質量分析を行って得られた測定データを測定データ取得部51が取得し、解析部53が、各照射位置CにレーザーLが照射される際の照射範囲Rのうち既にレーザーLが照射された部分を除いた新規照射部分Rnが互いに異なる複数の照射位置Cの一部である所定の照射位置に対応するデータを除外して測定データの解析を行う。これにより、各照射位置Cに対応する照射範囲Rが重なり合うことによる解析の際の精度の低下を抑制することができる。この際、レーザーの光束の断面形状を整形することを必ずしも必要とせず、装置の構成等を複雑にしなくて済む。
【0071】
(2)本実施形態に係る解析装置において、上記所定の照射位置は、新規照射部分Rnの面積に基づいて定められる。これにより、イオン化される試料Sの量の不均一性に基づく、照射位置Cによる強度のばらつきを抑制することができる。
【0072】
(3)本実施形態に係る解析装置において、新規照射部分Rnの面積は、レーザーLの照射径および複数の照射位置Cの間隔に基づいて算出されたものである。これにより、定量的な算出に基づいて、照射位置Cによる強度のばらつきを確実に抑制することができる。
【0073】
(4)本実施形態に係る解析装置において、解析部53は、試料Sの複数の位置にそれぞれ対応する複数の画素と、所定のm/zに対応する対象分子の強度とが対応した強度画像データを作成し、この複数の画素は、上記所定の照射位置に対応する画素を含まない。これにより、各照射位置Cに対応する照射範囲Rが重なり合うことによる、強度画像における強度のばらつきを抑制することができる。
【0074】
(5)本実施形態に係る解析装置において、強度画像の横方向に並ぶ画素および縦方向に並ぶ画素に、それぞれ行および列を対応させたとき、解析部53は、測定データまたは測定データに基づく強度画像データ等のデータのうち、強度画像の端から所定の個数の行または列に対応するデータを除外することができる。これにより、測定データや強度画像データ等の様々なデータにおける強度のばらつきを効率よく抑制することができる。
【0075】
(6)本実施形態に係る解析装置において、解析部53は、測定データまたは測定データに基づく強度画像データ等のデータのうち、強度画像の上端および下端のそれぞれから第1および第2の個数の行に対応するデータを除外し、左端および右端から第3および第4の個数の列に対応するデータを除外し、これらの第1、第2、第3および第4の個数のうちの少なくともいずれかは他の個数と異なるものとすることができる。これにより、測定データや強度画像データ等の様々なデータにおける強度のばらつきをさらに効率よく抑制することができる。
【0076】
(7)本実施形態に係る解析装置は、強度画像を表示する表示部44をさらに備える。これにより、表示部44を見たユーザー等に試料Sにおける対象分子の分布をわかりやすく伝えることができる。
【0077】
(8)本実施形態の分析装置1は、上述の解析装置(情報処理部40)と、上記質量分析を行う質量分析計(質量分析部30)とを備える。これにより、各照射位置Cに対応する照射範囲Rが重なり合うように試料SにレーザーLを照射した場合でも、解析の際の精度の低下を抑制することができる。
【0078】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。以下の変形例において、上述の実施形態と同様の構造、機能を示す部位に関しては、同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
(変形例1)
上述の実施形態の分析装置1はイオントラップおよび飛行時間型質量分離部を備えるイメージング質量分析装置としたが、質量分析部30の構成は特に限定されない。質量分析部30は、1つの質量分析器からなる質量分離部を備えてもよいし、上述の実施形態とは異なる組合せの2以上の質量分析器からなる質量分離部を備えてもよい。例えば、分析装置1は、四重極飛行時間型質量分析計、シングル飛行時間型質量分析計、タンデム飛行時間型質量分析計、シングル四重極質量分析計、トリプル四重極質量分析計として構成することができる。また、質量分析部30の飛行時間型質量分離部は、図1に示したように飛行時間型質量分析器への入射方向に沿った方向に加速する方式の他、直交加速型でもよく、また、図1に示したリフレクトロン型の他、リニア型やマルチターン型でもよい。
【0079】
分析装置1がタンデム質量分析計または多段階質量分析計を構成する場合、解離の方法は特に限定されない。例えば、衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation:ID)、ポストソース分解、赤外多光子解離、光誘起解離、およびラジカルを用いた解離法等を適宜用いることができる。
【0080】
(変形例2)
上述の実施形態では、照射径D、照射ピッチPtおよび照射順序の各条件に基づいて、データ除去部533が除去するデータに対応する照射位置を算出した。しかし、予めこれらの各条件の下で、所定の濃度の標準試料の各位置にレーザーを照射して質量分析を行い、検出された強度に基づいて除外するデータに対応する照射位置を定めてもよい。例えば、制御部50は、データが除外された後の、すなわち一部の照射位置が除外された後の標準試料の各照射位置における強度のばらつきが所定の値以下になるように、除外するデータに対応する照射位置を定めてもよい。上記所定の値は、例えば、各照射位置に対応する標準試料の強度の算術平均に対する標準偏差の比率が10%以下等、適宜設定される。
【0081】
(変形例3)
上述の実施形態では、試料Sの各照射位置に対応するレーザーLの照射範囲は円としたが、楕円等の任意の形状でもよい。このような場合でも、各照射位置に対応する照射範囲の重なりに基づいて、除外するデータに対応する照射位置を算出することができ、当該データを除外して解析を行うことで上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。除外するデータに対応する照射位置を算出することが難しい場合には、上記変形例のように予め同様の条件で標準試料等に対し質量分析を行った結果に基づいて当該照射位置を決定することができる。
【0082】
(変形例4)
上述の実施形態では、折り返し型走査によりレーザーLの走査を行ったが、装置制御部52は、常に同じ向きに走査するようにレーザーLを制御してもよい。
【0083】
図7は本変形例におけるレーザーLが走査する順序を示す概念図である。照射位置Cは図2(B)と同様、正方格子の格子点上に位置している。レーザーLは、左上の端にある照射位置C11を起点として、右向きに照射位置C12、C13、C14、C15の順で走査する。その後、次の行の左端の照射位置C21を照射し、再び右向きにC22、C23、C24、C25の順に走査する。その後、さらに次の行の左端の照射位置C31を照射し、再び右向きにC32、C33、C34、C35の順に走査する。このように、本変形例では、装置制御部52は、一行ごと、または一列ごとに、常に同じ向きにレーザーLの走査を行う。
【0084】
このような場合でも、上述の実施形態と同様、様々な値の照射径Dと照射ピッチPtに基づいて、除外するデータに対応する照射位置を決定することができる。例えば、図7において、照射径Dが照射ピッチPtの2倍の長さとすると、強度画像データのうち、強度画像の上端から1行、左端から1列に対応するデータを削除すると、残りのデータは、イオン化される試料Sの量のばらつきが低減されたデータとなる。
なお、本変形例で示した走査や折り返し走査以外の態様で走査を行ってもよい。
【0085】
(変形例5)
上述の実施形態において、画像作成部532が強度画像データを作成した後に、データ除去部533が強度画像データの一部を削除する構成としたが、画像作成部532が、測定データのうち、参照データに基づいて定められた一部のデータを用いずに強度画像データを作成してもよい。画像作成部532は、照射比率および走査する順序から、参照データにおいて対応する「削除する行または列の数」を参照し、測定データのうち、削除する行または列に対応する一部のデータを用いずに強度画像データを作成する。
【0086】
従来の方法では、高強度画素Pa(図3(B))の存在により、強度画像データにおける最大強度の値が不必要に高くなり、広い範囲の強度の値を、予め定められた画素値の範囲へ変換するため、高強度画素Pa以外の画素Pxについて強度画像Mi1のコントラストが落ちディテールが消失してしまう問題があった(図3(B)の強度画像Mi1参照)。本変形例の解析方法によると、測定データのうち、高強度画素Paに対応する一部のデータを除いてから、強度を画素値に変換するため、このような問題を解消することができる。
【0087】
図8は、本変形例に係る分析方法の流れを示すフローチャートである。ステップS2001~S2009は上述の実施形態のフローチャートにおけるステップS1001~S1009と同様であるため、説明を省略する。ステップS2009が終了したら、ステップS2011が開始される。
【0088】
ステップS2011において、画像作成部532は、ステップS2001で取得した参照データを参照し、測定データの一部を除外しつつ、試料Sの各位置と、算出された強度とが対応した強度画像に対応するデータを作成する。ステップS2011が終了したら、ステップS2013が開始される。ステップS2013において、表示部44は、ステップS2011で作成されたデータに基づいた強度画像を表示する。ステップS2013が終了したら、処理が終了される。
【0089】
(変形例6)
分析装置1の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述した画像作成部532やデータ除外部533による処理を含む測定、解析および表示の処理およびそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0090】
また、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD-ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。図9はその様子を示す図である。PC950は、CD-ROM953を介してプログラムの提供を受ける。また、PC950は通信回線951との接続機能を有する。コンピュータ952は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク等の記録媒体にプログラムを格納する。通信回線951は、インターネット、パソコン通信などの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ952はハードディスクを使用してプログラムを読み出し、通信回線951を介してプログラムをPC950に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、通信回線951を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0091】
上述した情報処理機能を実現するためのプログラムとして、レーザーLが試料Sにおける複数の照射位置Cに照射され、各照射位置Cに対応する試料成分が質量分析されて得られた測定データを取得する測定データ取得処理(図6のステップS1007および図8のステップS2007に対応)と、各照射位置CにレーザーLが照射される際の照射範囲Rのうち、既にレーザーLが照射された部分を除いた新規照射部分Rnが互いに異なる複数の照射位置の一部である所定の照射位置Cに対応するデータを除外して測定データの解析を行う解析処理(図6のステップS1013および図8のステップS2011に対応)とを処理装置に行わせるためのプログラムが含まれる。これにより、各照射位置Cに対応する照射範囲Rが重なり合うことによる解析の際の精度の低下を抑制することができる。
【0092】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
1…分析装置、10…試料画像撮像部、11…撮像部、20…イオン化部、21…レーザー照射部、22…集光光学系、24…試料台、25…試料台駆動部、30…質量分析部、32…第1質量分離部、33…第2質量分離部、40…情報処理部、43…記憶部、50…制御部、51…測定データ取得部、52…装置制御部、53…解析部、54…表示制御部、100…測定部、300…真空チャンバ、330…検出部、531…強度算出部、532…画像作成部、533…データ除外部、C,C11,C12、C13,C14,C15,C21,C22,C23,C24,C25,C31,C32,C33,C34,C35…照射位置、Mi0,Mi1…強度画像、Rn…新規照射部分、S…試料、S1…対象領域、Si…試料由来イオン、Pt…照射ピッチ、R,R11,R12…照射範囲、Ro…照射範囲の重なり部分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9