(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】電気泳動分離データの解析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/447 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
G01N27/447 325D
G01N27/447 301Z
(21)【出願番号】P 2018244082
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】荻野 康太
(72)【発明者】
【氏名】原田 亨
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 英郷
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-118760(JP,A)
【文献】特開2012-168014(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0138209(US,A1)
【文献】特開2018-025536(JP,A)
【文献】特開2013-221839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動分析により得られた分離データの解析を行なうための解析装置であって、
既知の成分である参照成分を含む参照用試料についての電気泳動分析による分離データを参照データとして保持するとともに、解析対象試料についての電気泳動分析による分離データを解析対象データとして保持する分離データ保持部と、
前記参照データ中の成分ピークと前記解析対象データ中の成分ピークとが同一であるか否かを判定するための判定基準を保持する判定基準保持部と、
前記判定基準を用いて前記参照データ中の成分ピークと前記解析対象データ中の成分ピークとが同一であるか否かを判定するように構成された成分ピーク判定部と、
ユーザに前記解析対象データ中の存在を確認したい成分ピークを分離指標値により指定させるように構成された指標値指定部と、を備え、
前記成分ピーク判定部は、ユーザが前記分離指標値により成分ピークを指定したときに、ユーザが指定した前記分離指標値と前記解析対象データ中の成分ピークの前記解析対象成分指標値との差分が前記判定基準を満たしているときに前記解析対象成分中の当該成分ピークをユーザが前記分離指標値により指定した成分ピークと同一であると判定するように構成されている、解析装置。
【請求項2】
電気泳動分析により得られた分離データの解析を行なうための解析装置であって、
既知の成分である参照成分を含む参照用試料についての電気泳動分析による分離データを参照データとして保持するとともに、解析対象試料についての電気泳動分析による分離データを解析対象データとして保持する分離データ保持部と、
前記参照データ中の成分ピークと前記解析対象データ中の成分ピークとが同一であるか否かを判定するための判定基準を保持する判定基準保持部と、
前記判定基準を用いて前記参照データ中の成分ピークと前記解析対象データ中の成分ピークとが同一であるか否かを判定するように構成された成分ピーク判定部と、
ユーザに前記参照成分の名称を入力させるように構成された参照成分名入力部と、を備えている、解析装置。
【請求項3】
電気泳動分析により得られた分離データの解析を行なうための解析装置であって、
既知の成分である参照成分を含む参照用試料についての電気泳動分析による分離データを参照データとして保持するとともに、解析対象試料についての電気泳動分析による分離データを解析対象データとして保持する分離データ保持部と、
前記参照データ中の成分ピークと前記解析対象データ中の成分ピークとが同一であるか否かを判定するための判定基準を保持する判定基準保持部と、
前記判定基準を用いて前記参照データ中の成分ピークと前記解析対象データ中の成分ピークとが同一であるか否かを判定するように構成された成分ピーク判定部と、を備え、
前記成分ピーク判定部は、前記判定基準を用いた判定の結果、前記解析対象データ中の成分ピークと同一であると判定し得る前記参照データ中の成分ピークが複数存在する場合に、前記解析対象データ中の成分ピークの分離指標値に最も近い分離指標値をもつ前記参照データ中の1つの成分ピークを前記解析対象データ中の成分ピークと同一であると判定するように構成されている、解析装置。
【請求項4】
前記成分ピーク判定部による判定結果を出力するように構成された判定結果出力部を備え、
前記判定結果出力部は、前記成分ピーク判定部が、前記解析対象データ中の成分ピークと同一であると判定し得る前記参照データ中の複数の前記成分ピークの中から1つの成分ピークを前記解析対象データ中の成分ピークと同一であると判定したときは、前記判定結果に警告を付するように構成されている、請求項3に記載の解析装置。
【請求項5】
前記解析対象データ中の成分ピークの分離指標値を解析対象成分指標値として特定するように構成された解析対象成分指標値特定部と、
前記参照データ中の成分ピークの分離指標値を参照成分指標値として特定するように構成された参照成分指標値特定部と、をさらに備え、
前記成分ピーク判定部は、前記参照データ中の成分ピークの前記参照成分指標値と前記解析対象データ中の成分ピークの前記解析対象成分指標値との差分が前記判定基準を満たしているときにそれらの前記成分ピークを同一成分ピークであると判定するように構成されている、請求項1
から4のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項6】
前記判定基準は、前記解析対象成分指標値と前記参照成分指標値との間の差分の前記参照成分指標値に対する割合である差分許容率である、請求項
5に記載の解析装置。
【請求項7】
前記解析対象データ中で設定された解析対象範囲のピーク波形とその解析対象範囲に対応する前記参照データ中の範囲のピーク波形との間の相関が最大となるように、前記解析対象範囲のピーク波形を所定の許容範囲内で伸縮及び/又はシフトさせる波形補正を実行するように構成された波形補正部と、
前記成分ピーク判定部は、前記波形補正が実行された後の前記解析対象範囲のピーク波形と前記解析対象範囲に対応する前記参照データ中の範囲のピーク波形との間の相関が前記判定基準を満たしているときに、前記解析対象範囲内にある成分ピークを前記解析対象範囲に対応する前記参照データ中の範囲にある成分ピークと同一成分ピークであると判定するように構成されている、請求項1から
6のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項8】
ユーザに前記解析対象範囲を指定させるように構成された解析対象範囲指定部をさらに備えており、
前記波形補正部はユーザにより指定された前記解析対象範囲に対して前記波形補正を実行するように構成されている、請求項
7に記載の解析装置。
【請求項9】
ユーザに前記許容範囲を指定させるように構成された補正許容範囲指定部をさらに備えており、
前記波形補正部はユーザにより指定された前記許容範囲において前記波形補正を実行するように構成されている、請求項
7又は
8に記載の解析装置。
【請求項10】
ユーザに前記判定基準を入力させる判定基準入力部をさらに備え、
前記判定基準保持部は前記ユーザにより入力された前記判定基準を保持するように構成されている、請求項1から
9のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項11】
前記分離データ保持部は、複数の分離データを保持するとともに、それらの前記分離データのうちユーザにより特定された1つの前記分離データを前記参照データとして保持し、残りの前記分離データのうち少なくとも1つの前記分離データを前記解析対象データとして保持するように構成されている、請求項1から
10のいずれか一項に記載の解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動分析により得られた分離データのフィンガープリンティング解析を自動的に行なう機能を有する解析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気泳動分析により取得される分離データの解析方法として、既知の成分を含む参照用試料についての分離データ(以下、参照データ)と解析対象試料についての分離データ(以下、解析対象データ)とを比較し、解析対象試料に含まれる成分を同定するフィンガープリンティング解析が知られている。
【0003】
フィンガープリンティング解析は、参照データと解析対象データ(又はこれらのデータを基に作成されるゲルイメージ(特定の分離指標(例えば断片サイズ)を軸として各成分ピークを配列したもの))を並べて配置し、参照データ上の各成分ピークと同じ成分ピークが解析対象データ上に存在するか否かを目視で確認することによって行なわれることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気泳動分析では同じ物質について測定を行なっても、分離データにばらつきが生じる場合がある。特に、複数の泳動流路を用いて電気泳動を行なった場合には、泳動流路間の分析誤差により分離データにばらつきが生じやすい。分離データ間のばらつきが大きいと、参照データと解析対象データの比較による解析対象成分の同定が困難になる。
【0006】
分離データ間のばらつきを小さくするために、参照データを基準に解析対象データのピーク波形を補正することが提案されている(特許文献1参照。)。解析対象データの波形補正は、解析対象データ中の特定範囲のピーク波形を一定条件下で時間軸方向に伸縮又はシフトさせることによって行なわれる。これにより、参照データと解析対象データとの比較が容易になる。
【0007】
しかしながら、従来のフィンガープリンティング解析では、解析対象試料中の成分の同定を目視による判定に基づいて行なうので、ユーザの主観による結果のばらつきの懸念がある。また、ユーザによる目視判断は長時間を要し、人為的ミスが起こりやすいという問題もある。
【0008】
そこで、本発明は、電気泳動分析により得られた分離データのフィンガープリンティング解析を自動的に行なう機能を有する解析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電気泳動分析により得られた分離データの解析を行なうための解析装置である。当該解析装置は、分離データ保持部、判定基準保持部及び成分ピーク判定部を備えている。前記分離データ保持部は、既知の成分である参照成分を含む参照用試料についての電気泳動分析による分離データを参照データとして保持するとともに、解析対象試料についての電気泳動分析による分離データを解析対象データとして保持する。前記判定基準保持部は、前記参照データ中の成分ピークと前記解析対象データ中の成分ピークとが同一であるか否かを判定するための判定基準を保持する。前記成分ピーク判定部は、前記判定基準を用いて前記参照データ中の成分ピークと前記解析対象データ中の成分ピークとが同一であるか否かを判定するように構成されている。
【0010】
好ましい実施形態では、前記解析対象データ中の成分ピークの分離指標値を解析対象成分指標値として特定するように構成された解析対象成分指標値特定部と、前記参照データ中の成分ピークの分離指標値を参照成分指標値として特定するように構成された参照成分指標値特定部と、をさらに備え、前記成分ピーク判定部は、前記参照データ中の成分ピークの前記参照成分指標値と前記解析対象データ中の成分ピークの前記解析対象成分指標値との差分が前記判定基準を満たしているときにそれらの前記成分ピークを同一成分ピークであると判定するように構成されている。
【0011】
上記の場合、前記判定基準は、前記解析対象成分指標値と前記参照成分指標値との間の差分の前記参照成分指標値に対する割合である差分許容率であってよい。
【0012】
また、本発明に係る解析装置は、解析対象データ中の特定の範囲のピーク波形を参照データ中の対応範囲のピーク波形に適合させるようにピーク波形を伸縮及び/又はシフトさせる波形補正を実行する機能を有するものであってもよい。すなわち、本発明に係る解析装置の好ましい実施形態では、前記解析対象データ中で設定された解析対象範囲のピーク波形とその解析対象範囲に対応する前記参照データ中の範囲のピーク波形との間の相関が最大となるように、前記解析対象範囲のピーク波形を所定の許容範囲内で伸縮及び/又はシフトさせる波形補正を実行するように構成された波形補正部をさらに備え、前記成分ピーク判定部は、前記波形補正が実行された後の前記解析対象範囲のピーク波形と前記解析対象範囲に対応する前記参照データ中の範囲のピーク波形との間の相関が前記判定基準を満たしているときに、前記解析対象範囲内にある成分ピークを前記解析対象範囲に対応する前記参照データ中の範囲にある成分ピークと同一成分ピークであると判定するように構成されている。なお、波形補正については、特許文献1において詳細に開示されている。
【0013】
上記の場合、ユーザが任意に解析対象範囲を指定できるようになっていてもよい。すなわち、ユーザに前記解析対象範囲を指定するように構成された解析対象範囲をさらに備えており、前記波形補正部はユーザにより指定された前記解析対象範囲に対して前記波形補正を実行するように構成されていてもよい。
【0014】
また、ユーザが任意に波形補正の許容範囲を設定できるようになっていてもよい。すなわち、ユーザに前記許容範囲を指定させるように構成された補正許容範囲指定部をさらに備えており、前記波形補正部はユーザにより指定された前記許容範囲において前記波形補正を実行するように構成されていてもよい。
【0015】
また、ユーザが判定基準を任意に設定できるように構成されていてもよい。すなわち、ユーザに前記判定基準を入力させる判定基準入力部をさらに備え、前記判定基準保持部は前記ユーザにより入力された前記判定基準を保持するように構成されていてもよい。
【0016】
前記分離データ保持部は、複数の分離データを保持するとともに、それらの前記分離データのうちユーザにより特定された1つの前記分離データを前記参照データとして保持し、残りの前記分離データのうち少なくとも1つの前記分離データを前記解析対象データとして保持するように構成されていてもよい。
【0017】
また、ユーザに前記解析対象データ中の存在を確認したい成分ピークを分離指標値により指定させるように構成された指標値指定部をさらに備え、前記成分ピーク判定部は、ユーザが前記分離指標値により成分ピークを指定したときに、ユーザが指定した前記分離指標値と前記解析対象データ中の成分ピークの前記解析対象成分指標値との差分が前記判定基準を満たしているときに前記解析対象成分中の当該成分ピークをユーザが前記分離指標値により指定した成分ピークと同一であると判定するように構成されていてもよい。そうすれば、解析データ中の存在を確認したい成分ピークをユーザが分離指標値により指定することができる。
【0018】
また、ユーザに前記参照成分の名称を入力させるように構成された参照成分名入力部を備えていてもよい。
【0019】
また、上記のように、判定基準は、解析対象データ中の成分ピークの分離指標値と参照データ中の成分ピークの分離指標値との差分の許容率などであるが、このような判定基準を設定すると、参照データ中において互いに隣り合う成分ピークの判定基準どうしが重なり合うことがあり得る。そのような場合、解析対象データ中の成分ピークの分離指標値が判定基準の重なり合っている範囲内にあると、その成分ピークが参照データ中の複数の成分ピークと同一であると判定されてしまい、解析対象データ中の1つの成分ピークが複数の成分ピークと特定されることになる。
【0020】
そこで、前記成分ピーク判定部は、前記判定基準を用いた判定の結果、前記解析対象データ中の成分ピークと同一であると判定し得る前記参照データ中の成分ピークが複数存在する場合に、前記解析対象データ中の成分ピークの前記分離指標値に最も近い前記分離指標値をもつ前記参照データ中の1つの成分ピークを前記解析対象データ中の成分ピークと同一であると判定するように構成されている。これにより、解析対象データ中の1つの成分ピークが複数の成分ピークと特定されることを防止することができる。
【0021】
上記の場合、前記成分ピーク判定部による判定結果を出力する判定結果出力部は、前記成分ピーク判定部が、前記解析対象データ中の成分ピークと同一であると判定し得る前記参照データ中の複数の前記成分ピークの中から1つの成分ピークを前記解析対象データ中の成分ピークと同一であると判定したときは、前記判定結果に警告を付するように構成することができる。これにより、ユーザは、判定結果に付された警告によって解析対象データ中の成分ピークと同一と判定され得る参照データ中の成分ピークが複数存在していたことを容易に認識できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る解析装置では、予め設定された判定基準を用いて、解析対象データ中の成分ピークが参照データ中の成分ピークと同一であるか否かを自動的に判定するように構成されているので、従来はユーザが目視により行なっていたフィンガープリンティングを自動的に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】解析装置の一実施例を概略的に示すブロック図である。
【
図2】同実施例の解析装置により実施されるフィンガープリンティングの一例を示すフローチャートである。
【
図3】同実施例の解析装置により実施されるフィンガープリンティングの他の例を示すフローチャートである。
【
図4】同実施例の解析装置により実施されるフィンガープリンティングのさらに他の例を示すフローチャートである。
【
図5】同実施例のフィンガープリンティングの判定結果データの一例(ゲルイメージ)を示す図である。
【
図6】同実施例のフィンガープリンティングの判定結果データの他の例(判定結果テーブル)を示す図である。
【
図7】同実施例により実行された複雑なフィンガープリンティングの判定結果データ(ゲルイメージ)の一例を示す図である。
【
図8】同実施例のフィンガープリンティングの判定結果データの他の例(判定結果テーブル)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、電気泳動分析により得られる分離データの解析装置の一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1に示されているように、解析装置4は、電気泳動装置2との間で通信可能なコンピュータによって実現されるものである。電気泳動装置2において電気泳動分析により取得された分離データは解析装置4に取り込まれる。
【0026】
解析装置4は、分離データ保持部6、参照データ指定部8、解析対象成分指標値特定部10、参照成分指標値特定部12、判定基準保持部14、判定基準入力部16、成分ピーク判定部18、波形補正部20、解析対象範囲指定部22、許容範囲指定部24、指標値指定部26、参照成分名入力部28及び判定結果出力部30を備えている。分離データ保持部6及び判定基準保持部14は、解析装置4を構成するコンピュータに設けられた記憶装置の一部の記憶領域によって実現される機能である。参照データ指定部8、解析対象成分指標値特定部10、参照成分指標値特定部12、判定基準入力部16、成分ピーク判定部18、波形補正部20、解析対象範囲指定部22、許容範囲指定部24、指標値指定部26、参照成分名入力部28及び判定結果出力部30は、解析装置4を構成するコンピュータに設けられたCPU等の演算素子がプログラムを実行することによって得られる機能である。
【0027】
分離データ保持部6は電気泳動装置2から取り込まれた分離データを保持するための記憶領域である。通常、電気泳動装置2では、既知の成分である参照成分を複数含む参照試料、及び未知の成分を含む試料についての電気泳動分析が実施され、それぞれの分離データが取得されて解析装置4に取り込まれる。
【0028】
ところで、解析装置4では、電気泳動装置2から取り込まれた分離データのうちどの分離データが参照試料についての分離データ(参照データ)であるのかを判別することは通常は不可能である。そのため、解析装置4は、電気泳動装置2から解析装置4に取り込まれた複数の分離データの中から参照データとして取り扱う分離データをユーザに指定させるように構成された参照データ指定部8を備えている。参照データ指定部8は、2以上の分離データを参照データとしてユーザに指定させることができる。分離データ保持部6は、ユーザによって指定された分離データを参照データとして保持するように構成されている。電気泳動装置2から解析装置4に取り込まれた参照データ以外の分離データが解析対象データとして分離データ保持部6に保持される。
【0029】
解析対象成分指標値特定部10は解析対象データ中の各成分ピークの分離指標値をそれぞれ解析対象成分指標値として特定するように構成されている。参照成分指標値特定部12、は参照データ中の各成分ピークの分離指標値をそれぞれ参照成分指標値として特定するように構成されている。分離指標値とは、例えば時間やサイズである。
【0030】
判定基準保持部14は、解析対象データ中の成分ピークが参照データ中の成分ピークと同一の成分ピークであるか否かを判定するための基準を保持するための記憶領域である。
【0031】
判定基準入力部16は、ユーザに判定基準を入力させるように構成されている。ユーザにより入力された判定基準が判定基準保持部14に保持される。ユーザに入力させる判定基準は、ユーザが任意に決定する値であってもよいし、複数の選択肢の中からユーザが選択した値であってもよい。また、判定基準保持部14に保持される判定基準は必ずしもユーザにより入力されたものである必要はなく、予め設定された値を判定基準として用いるようになっていてもよい。
【0032】
成分ピーク判定部18は、判定基準保持部14に保持されている判定基準を用いて、解析対象データ中の成分ピークと参照データ中の成分ピークが同一の成分ピークであるか否かを判定するように構成されている。この実施例では、解析対象データ中の成分ピークが参照データ中の成分ピークと同一の成分ピークであるか否かの判定を、各成分ピークの分離指標値に基づいて、又は各成分ピーク間の相関に基づいて行なうことができるようになっている。判定を分離指標値に基づいて行なう場合には、解析対象データ中の成分ピークの解析対象成分指標値と参照データ中の成分ピークの参照成分指標値との差分の参照成分指標値に対する割合(例えば、参照成分指標値の±5%)を判定基準とすることができる。この場合、比較対象の2つの成分ピークの分離指標値の差分が参照成分指標値の一定割合(例えば5%)以内であれば両成分ピークを同一の成分ピークと判定することができる。一方で、判定を比較対象の成分ピーク間の相関に基づいて判定する場合には、比較対象の成分ピーク間の相関値のしきい値を判定基準として設けることができる。この場合、相関値がしきい値を超えれば比較対象の成分ピークを同一の成分ピークと判定することができる。
【0033】
波形補正部20は、解析対象データ中の特定範囲内のピーク波形を参照データ中の特定範囲内のピーク波形に適合させるように、解析対象データの特定範囲を伸縮及び/又はシフトさせる波形補正を実行するように構成されている。波形補正は、参照試料と解析対象の試料との間での電気泳動分析の条件(流路など)の差による分離データのばらつきを補正するために実行されるものであり、特許文献1(特開2018-025536)に詳述されている。
【0034】
ここでの詳細な説明は省略するが、波形補正では、解析対象データ中の特定範囲(解析対象範囲)を所定の許容範囲内で少しずつ伸縮及び/又はシフトさせていき、解析対象データ中の解析対象範囲内のピーク波形と参照データ中の対応範囲内のピーク波形との相関(類似度)が最大となる伸縮量及び/又はシフト量を探索する。
【0035】
上記のような波形補正が実行された場合、成分ピーク判定部18は、波形補正がなされた後の解析対象データ中の解析対象範囲内の成分ピークと参照データ中の対応範囲内の成分ピークとの相関を判定基準保持部14に保持されている判定基準(しきい値)と比較し、前記相関が判定基準を満たしている場合に解析対象範囲内の成分ピークを参照データ中の対応範囲内の成分ピークと同一の成分ピークであると判定するように構成されている。
【0036】
波形補正の対象となる解析対象範囲、波形補正の際のピーク波形の伸縮やシフトの許容範囲は、ユーザが任意に指定することができる。解析対象範囲指定部22は、ユーザに波形補正の対象となる解析対象範囲を任意に指定させるように構成されている。許容範囲指定部24は、ユーザに波形補正の際の伸縮やシフトの許容範囲を指定させるように構成されている。
【0037】
指標値指定部26は、ユーザに解析対象データ中の存在を確認したい成分ピーク(参照成分ピーク)を分離指標値により指定させるように構成されている。すなわち、この実施例では、ユーザが解析対象データ中の存在を確認したい成分ピークを分離指標値によって特定することができる。ユーザが解析対象データ中の存在を確認したい成分ピークの分離指標値を指定した場合、成分ピーク判定部18は、解析対象成分指標値特定部10により特定された解析対象データ中の成分ピークの解析対象成分指標値とユーザにより指定された分離指標値との差分が判定基準を満たすか否かを判定する。
【0038】
また、参照成分名入力部28は、参照データ中の各成分ピークの成分名をユーザに任意に入力させるように構成されている。ユーザにより入力された各成分ピークの成分名は、成分ピーク判定部18による判定結果として後述の判定結果出力部30により出力される判定結果データ中に表示される。
【0039】
判定結果出力部30は、成分ピーク判定部18による判定結果を、当該解析装置4に電気的に接続された液晶ディスプレイ等の表示装置やプリンターに出力するように構成されている。
【0040】
参照データ中の成分ピークの分離指標値を用いたフィンガープリンティング解析動作の一例について、
図2のフローチャートを
図1とともに用いて説明する。
【0041】
最初に、電気泳動装置2から解析装置4に取り込まれた複数の分離データのうちの1つをユーザが参照データとして特定すると(ステップ101)、参照成分指標値特定部12が参照データ中の成分ピークの分離指標値(例えば、時間やサイズ)を参照成分指標値として特定する(ステップ102)。
【0042】
参照データ以外の分離データの1つを解析対象データとし(ステップ103)、解析対象成分指標値特定部10がその解析対象データ中の成分ピークの分離指標値を解析対象成分指標値として特定する(ステップ104)。判定基準入力部16は、ユーザに判定基準となる値を入力させることにより判定基準を設定する(ステップ105)。なお、判定基準の入力及び設定は、ステップ104以前のいずれの段階で実施してもよい。
【0043】
解析対象データ中に存在するか否かの判定の対象となる参照データ中の1つの成分ピーク(参照成分ピーク)を特定し(ステップ106)、その参照成分ピークの参照成分指標値と解析対象成分指標値との差分が判定基準(例えば参照成分指標値±5%以内)を満たして参照成分ピークと同一の成分ピークと判定される成分ピークが解析対象データ中に存在するか否かを探索する(ステップ107)。探索結果(存在あり又は存在なし)はフラッシュメモリ等の記憶領域に一時的に記憶される。ステップ106~107の動作を参照データ中のすべての参照成分ピークについて実行する(ステップ108)。これにより、1つの解析対象データに対するフィンガープリンティング解析が完了する。
【0044】
複数の解析対象データが存在する場合には、すべての解析対象データについて上記ステップ103~108までのフィンガープリンティング解析を実行する(ステップ109)。すべての解析対象データについてのフィンガープリンティング解析が完了した後、ユーザがほかの分離データを参照データとして用いることを所望する場合(ステップ110)、新たな参照データについて、上記ステップ101~109のフィンガープリンティング解析を実行する。ユーザの所望するすべての参照データを用いたフィンガープリンティング解析が完了した後、判定結果出力部30は、すべてのフィンガープリンティング解析で得られた判定結果データを出力する(ステップ111)。出力される判定結果データとしては、
図5に示されるように、解析対象データ(Sample1~3)中に存在する成分ピークが視覚的に把握しやすいように解析対象データと参照データ(Ref.Data)のゲルイメージが並んで配置されたものが挙げられる。また、判定結果データとしては、
図6に示されているように、解析対象データ(Sample1~3)中に存在する成分ピークが○等で示された判定結果テーブルであってもよい。さらには、
図5のゲルイメージと
図6の判定結果テーブルの両方を出力してもよい。
【0045】
上記のように判定基準を用いて自動的にフィンガープリンティング解析を行なえば、
図7に示されているように、目視では判定困難な複雑なバンドパターンを示す分離データのフィンガープリンティング解析も実施することができる。
【0046】
ここで、複数の参照成分ピークの分離指標値が近接している場合などは、それらの参照成分ピークの判定基準どうしが互いに重なり合うことがあり得る。例えば、ある参照成分ピークの断片サイズ(分離指標値)が800bp、それに隣接する参照成分ピークの断片サイズが740であったとすると、両者の判定基準(±5%)はそれぞれ、760bp~840bp、703bp~777bpとなり、両者の判定基準が760bp~777bpの間で重なり合う。そのような場合に、解析対象データ中のある成分ピークの断片サイズが765bpであったとすると、この成分ピークは上記2つの参照成分ピークのいずれとも同一であると判定されてしまう。
【0047】
そこで、この実施例の成分ピーク判定部18は、解析対象データ中のある成分ピークの分離指標値が複数の参照成分ピークの判定基準の重なり合う範囲内にある場合、解析対象の成分ピークを分離指標値が最も近い参照成分ピークと同一であると判定する。上記の例では、解析対象データ中の成分ピークの断片サイズ765bpは、断片サイズが740bpである参照成分ピークに最も近いので、この成分ピークは断片サイズが740bpの参照成分ピークと同一であると判定する。
【0048】
そして、ピーク判定部18が上記の判定をした場合、判定結果出力部30は、出力する判定結果に、その成分ピークが同一であると判定し得る参照成分ピークが複数存在することを示す警告を付する。警告はどのようなものであってもよいが、
図8のSample 2のFragment No.1の「●」のように、正常に同一成分ピークと判定されたことを示す表記(
図8では「○」)とは区別されるものであればよい。
【0049】
次に、ユーザが分離指標値によって参照成分ピークを特定した場合のフィンガープリンティング解析動作の一例について、
図3のフローチャートを
図1とともに用いて説明する。
【0050】
ユーザによって参照成分ピークの分離指標値が特定され(ステップ201)、1つの解析対象データが特定されると(ステップ202)、解析対象成分指標値特定部10がその解析対象データ中の成分ピークの分離指標値を解析対象成分指標値として特定する(ステップ203)。判定基準入力部16は、ユーザに判定基準となる値を入力させることにより判定基準を設定する(ステップ204)。なお、判定基準の入力及び設定は、ステップ203以前のいずれの段階で実施してもよい。
【0051】
ユーザにより特定された参照成分指標値と解析対象成分指標値との差分が判定基準(例えば参照成分指標値±5%以内)を満たして参照成分ピークと同一の成分ピークと判定される成分ピークが解析対象データ中に存在するか否かを探索する(ステップ205)。探索結果(存在あり又は存在なし)はフラッシュメモリ等の記憶領域に一時的に記憶される。複数の解析対象データが存在する場合には、すべての解析対象データについて上記ステップ202~205までのフィンガープリンティング解析を実行する(ステップ206)。すべての解析対象データについてのフィンガープリンティング解析が完了した後、ユーザがほかの指標値を用いたフィンガープリンティング解析を所望する場合(ステップ207)、新たな指標値についてステップ201~206の処理を実行する。ユーザの所望する指標値を用いたフィンガープリンティング解析をすべて実行した後で、判定結果出力部30は、判定結果データを出力する(ステップ208)。
【0052】
上記の場合も、複数の参照成分ピークの判定基準どうしが互いに重なり合うことがあり得る。そのような場合であって、解析対象データ中のある成分ピークの分離指標値が複数の参照成分ピークの判定基準の重なり合う範囲内にあるときは、成分ピーク判定部18は、解析対象の成分ピークを分離指標値が最も近い参照成分ピークと同一であると判定する。そして、ピーク判定部18がそのような判定をした場合、判定結果出力部30は、出力する判定結果に、その成分ピークが同一であると判定し得る参照成分ピークが複数存在することを示す警告を付する。
【0053】
次に、波形補正が実行される場合のフィンガープリンティング解析動作の一例について、
図4のフローチャートとともに
図1を用いて説明する。
【0054】
電気泳動装置2から解析装置4に取り込まれた複数の分離データのうちのいずれか1つをユーザが参照データとして特定すると(ステップ301)、参照データ以外の分離データの1つを解析対象データとし(ステップ302)、解析対象範囲指定部22がユーザにその解析対象データ中の任意の範囲を解析対象範囲として指定させる(ステップ303)。判定基準入力部16は、ユーザに判定基準となる値を入力させることにより判定基準を設定する(ステップ304)。なお、判定基準の入力及び設定は、ステップ303以前のいずれの段階で実施してもよい。さらに、許容範囲指定部24は、ユーザに波形補正で解析対象範囲の成分ピークを伸縮、シフトさせる際の許容範囲を指定させる(ステップ305)。なお、許容範囲の指定は、ステップ304以前のいずれの段階で実施してもよい。
【0055】
ユーザにより指定された解析対象範囲の成分ピークをユーザにより指定された許容範囲内で伸縮及び/又はシフトさせる波形補正を実行する(ステップ306)。波形補正では、解析対象データの解析対象範囲内の成分ピークと参照データの対応範囲内の成分ピークとの相関が最大となるように、解析対象範囲の成分ピークが伸縮及び/又はシフトされる。成分ピーク判定部18は、波形補正が施された後の解析対象範囲内の成分ピークの相関が判定基準を満たすか否かにより、解析対象範囲内の成分ピークと参照データの対応範囲内の成分ピークとの同一性を判定する(ステップ307)。
【0056】
複数の解析対象データが存在する場合には、すべての解析対象データについて上記ステップ302~307までの波形補正及びフィンガープリンティング解析を実行する(ステップ308)。すべての解析対象データについての波形補正及びフィンガープリンティング解析が完了した後、ユーザがほかの分離データを参照データとして用いることを所望する場合(ステップ309)、新たな参照データについて、上記ステップ301~308のフィンガープリンティング解析を実行する。ユーザの所望するすべての参照データを用いたフィンガープリンティング解析が完了した後、判定結果出力部30は、すべてのフィンガープリンティング解析で得られた判定結果データを出力する(ステップ310)。ここで出力される判定結果データは、
図5~
図7に示されるようなものであってよい。
【0057】
上記の場合も、複数の参照成分ピークの判定基準どうしが互いに重なり合うことがあり得る。そのような場合であって、解析対象データ中のある成分ピークの分離指標値が複数の参照成分ピークの判定基準の重なり合う範囲内にあるときは、成分ピーク判定部18は、解析対象の成分ピークを分離指標値が最も近い参照成分ピークと同一であると判定する。そして、ピーク判定部18がそのような判定をした場合、判定結果出力部30は、出力する判定結果に、その成分ピークが同一であると判定し得る参照成分ピークが複数存在することを示す警告を付する。
【符号の説明】
【0058】
2 電気泳動装置
4 解析装置
6 分離データ保持部
8 参照データ指定部
10 解析対象成分指標値特定部
12 参照成分指標値特定部
14 判定基準保持部
16 判定基準入力部
18 成分ピーク判定部
20 波形補正部
22 解析対象範囲指定部
24 許容範囲指定部
26 指標値指定部
28 参照成分名入力部
30 判定結果出力部