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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】回転速度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/481 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
G01P3/481 X
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019111001
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020204480
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小阪 拓也
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-29996(JP,A)
【文献】特開2000-111564(JP,A)
【文献】特開平11-252966(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101995533(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00- 3/80
G01D 5/00- 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体が1回転する間に複数のパルスが生じる第1パルス信号、及び前記回転体が1回転する間に1つのパルスが生じる第2パルス信号を出力するエンコーダの出力から前記回転体の回転速度を検出する回転速度検出装置であって、
前記第1パルス信号に含まれるノイズを低減する第1ローパスフィルタと、
前記第1ローパスフィルタよりも遮断周波数が低く、前記第2パルス信号に含まれるノイズを低減する第2ローパスフィルタと、
速度指令値の変化量が予め定められた第1の閾値以下であることを第1条件、前記第1パルス信号の変化量が予め定められた第2の閾値以下であることを第2条件とすると、前記第1条件及び前記第2条件のうち少なくともいずれかが成立した場合に前記第2パルス信号を選択し、前記第2パルス信号が選択されなかった場合に前記第1パルス信号を選択する信号選択部と、
前記信号選択部によって前記第1パルス信号が選択されている場合には前記第1パルス信号から前記回転速度を演算し、前記信号選択部によって前記第2パルス信号が選択されている場合には前記第2パルス信号から前記回転速度を演算する演算部と、を備える回転速度検出装置。
【請求項2】
前記信号選択部は、前記第1条件及び前記第2条件の両方が成立した場合に前記第2パルス信号を選択する請求項1に記載の回転速度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転速度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等の回転体の回転速度を検出する回転速度検出装置は、回転体の回転に伴いパルス信号を出力するエンコーダと、パルス信号のパルス数に基づき回転体の回転速度を演算する演算部と、を備える。特許文献1に記載のエンコーダは、回転体が1回転する間に複数のパルスが生じるA相パルス信号、回転体が1回転する間に複数のパルスが生じるとともにA相パルス信号との位相差が90°であるB相パルス信号、及び回転体が1回転する間に1つのパルスが生じるZ相パルス信号を出力する。A相パルス信号、B相パルス信号及びZ相パルス信号を出力するエンコーダを用いて回転体の回転速度を検出する場合、演算部はA相パルス信号及びB相パルス信号のパルス数に基づき回転体の回転速度を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-134068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転速度検出装置は、各相パルス信号に含まれるノイズを低減するため、各相パルス信号用のローパスフィルタを備えている場合がある。モータが1回転する間に生じるパルスが多いほど、パルス信号の周波数は高くなるため、ローパスフィルタの遮断周波数は、モータが1回転する間に生じるパルス数が多いパルス信号が入力されるローパスフィルタほど高く設定される。従って、A相パルス信号及びB相パルス信号用のローパスフィルタの遮断周波数は、Z相パルス信号用のローパスフィルタの遮断周波数よりも高く設定される。A相パルス信号及びB相パルス信号には、遮断周波数よりも低い周波数によるノイズが含まれる。このノイズにより回転速度検出装置によって検出される回転速度の誤差が大きくなる場合がある。
【0005】
本発明の目的は、耐ノイズ性を向上させることができる回転速度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する回転速度検出装置は、回転体が1回転する間に複数のパルスが生じる第1パルス信号、及び前記回転体が1回転する間に1つのパルスが生じる第2パルス信号を出力するエンコーダの出力から前記回転体の回転速度を検出する回転速度検出装置であって、前記第1パルス信号に含まれるノイズを低減する第1ローパスフィルタと、前記第1ローパスフィルタよりも遮断周波数が低く、前記第2パルス信号に含まれるノイズを低減する第2ローパスフィルタと、速度指令値の変化量が予め定められた第1の閾値以下であることを第1条件、前記第1パルス信号の変化量が予め定められた第2の閾値以下であることを第2条件とすると、前記第1条件及び前記第2条件のうち少なくともいずれかが成立した場合に前記第2パルス信号を選択し、前記第2パルス信号が選択されなかった場合に前記第1パルス信号を選択する信号選択部と、前記信号選択部によって前記第1パルス信号が選択されている場合には前記第1パルス信号から前記回転速度を演算し、前記信号選択部によって前記第2パルス信号が選択されている場合には前記第2パルス信号から前記回転速度を演算する演算部と、を備える。
【0007】
第2ローパスフィルタの遮断周波数は第1ローパスフィルタの遮断周波数よりも低い。このため、第2ローパスフィルタによりノイズが低減される第2パルス信号は、第1パルス信号よりもノイズが低減される。第2パルス信号を用いて回転速度を演算する場合、第1パルス信号を用いて回転速度を演算する場合に比べてノイズの影響による回転速度の誤差を低減することができる。一方で、回転体が1回転したときに生じるパルスの数は、第1パルス信号よりも第2パルス信号のほうが少ない。このため、第2パルス信号を用いて回転体の回転速度を演算する場合、第1パルス信号を用いて回転速度を演算する場合に比べて、回転速度が変化した場合に回転速度を検出するのに要する時間が長くなる。また、回転速度が変化した場合に回転速度を精度良く演算することができない。即ち、第2パルス信号を用いて回転速度を演算する場合、回転速度の変化に対応しにくい。
【0008】
第1条件が成立する場合、速度指令値の変化量が第1の閾値以下であり、速度指令値の変化に伴う回転速度の変化が生じにくいといえる。第1条件が成立する場合、回転速度の変化が生じにくいため、第2パルス信号を用いて回転速度を演算することができる。第2条件が成立する場合、負荷変動等を原因として回転体の回転速度に大きな変化が生じていないといえる。第2条件が成立する場合、回転速度の変化が生じにくいため、第2パルス信号を用いて回転速度を演算することができる。
【0009】
上記したように、第1条件及び第2条件のうちの少なくともいずれかが成立した場合に第2パルス信号から回転速度を演算することで、第1パルス信号を用いて回転速度を演算する必要性が低い場合に第2パルス信号から回転速度が演算される。このため、耐ノイズ性を向上させつつ、回転速度の変化に対応する必要がある場合には第1パルス信号を用いることで回転速度の変化に対応することができる。
【0010】
上記回転検出装置について、前記信号選択部は、前記第1条件及び前記第2条件の両方が成立した場合に前記第2パルス信号を選択してもよい。
第1条件及び第2条件のうちいずれかが成立した場合に第2パルス信号を選択する場合、第1条件が成立しているが第2条件が成立していない場合や、第2条件が成立しているが第1条件が成立していない場合でも第2パルス信号が選択される場合がある。この場合、回転速度の変化が生じやすい状態にも関わらず、第2パルス信号が選択される場合がある。これに対し、第1条件及び第2条件の両方が成立した場合に第2パルス信号を選択することで、回転速度の変化が生じにくい状態で第2パルス信号を選択することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐ノイズ性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】モータ及びモータ駆動装置の概略構成図。
図2】モータが回転したときに生じるA相パルス信号、B相パルス信号及びZ相パルス信号の模式図。
図3】信号選択部が行う処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、回転速度検出装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、モータ駆動装置10は、モータ11を駆動するための装置である。本実施形態のモータ11は、3つのコイルU,V,Wを備える3相交流モータである。モータ11は、どのような装置に搭載されるものであってもよい。例えば、モータ11は、電動圧縮機に搭載され、圧縮機構を駆動するために用いられてもよいし、フォークリフト等の産業車両に搭載され、油圧機構の油圧ポンプの駆動や、車軸を回転させるために用いられてもよい。本実施形態では、一例として、モータ11が電動圧縮機に搭載されている場合について説明する。電動圧縮機は、車両用空調装置に用いられる。
【0014】
モータ駆動装置10は、バッテリBと、平滑コンデンサCと、インバータ20と、エンコーダ22と、相電流検出部23と、を備える。インバータ20は、インバータ回路21と、制御装置31と、を備える。インバータ回路21は、6つのスイッチング素子Q1~Q6を備える。スイッチング素子Q1~Q6としては、例えば、IGBT:絶縁ゲートバイポーラトランジスタやMOSFETが用いられる。u相上アームを構成するスイッチング素子Q1と、u相下アームを構成するスイッチング素子Q2とは直列接続されている。v相上アームを構成するスイッチング素子Q3と、v相下アームを構成するスイッチング素子Q4とは直列接続されている。w相上アームを構成するスイッチング素子Q5と、w相下アームを構成するスイッチング素子Q6とは直列接続されている。各スイッチング素子Q1~Q6には、平滑コンデンサCを介してバッテリBが接続されている。
【0015】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との間は、モータ11のu相端子に接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との間は、モータ11のv相端子に接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6との間は、モータ11のw相端子に接続されている。上下のアームを構成するスイッチング素子Q1~Q6を有するインバータ回路21は、スイッチング素子Q1~Q6のスイッチング動作に伴いバッテリBの電圧である直流電圧を交流電圧に変換してモータ11に供給する。スイッチング素子Q1~Q6は、制御装置31によって制御されることでスイッチング動作を行う。
【0016】
相電流検出部23は、少なくとも2相分の相電流を検出する。本実施形態において、相電流検出部23は、u相電流Iuを検出する電流センサと、w相電流Iwを検出する電流センサとで構成される。
【0017】
エンコーダ22は、インクリメンタルエンコーダである。エンコーダ22としては、光学式のものを用いてもよいし、磁気式のものを用いてもよい。エンコーダ22は、回転体としてのモータ11の回転に伴いA相パルス信号AS、B相パルス信号BS及びZ相パルス信号ZSを出力する。なお、モータ11の回転とは、モータ11の回転子又は回転子と一体回転する回転軸の回転である。
【0018】
図2に示すように、A相パルス信号ASは、モータ11が1回転する間に複数のパルスが生じる信号である。B相パルス信号BSは、モータ11が1回転する間に複数のパルスが生じる信号である。A相パルス信号ASとB相パルス信号BSとは、モータ11が1回転する間に生じるパルスの数が同一である。B相パルス信号BSは、A相パルス信号ASと位相差を有する信号である。A相パルス信号ASとB相パルス信号BSとは、互いに位相が90°ずれている。Z相パルス信号ZSは、モータ11が1回転する間に1つのパルスが生じる信号である。A相パルス信号AS及びB相パルス信号BSは、モータ11が1回転する間に複数のパルスが生じる第1パルス信号である。Z相パルス信号ZSは、モータ11が1回転する間に1つのパルスが生じる第2パルス信号である。以下の説明において、適宜、A相パルス信号AS及びB相パルス信号BSを総称して第1パルス信号AS,BSと記載する。
【0019】
図1に示すように、制御装置31は、例えば、マイクロコンピュータを主体として構成される。制御装置31が実行する処理は、記憶部に記憶された処理をCPUが実行することにより行われてもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理によって行われてもよい。制御装置31は、フィルタ部41と、カウンタ45と、信号選択部46と、回転情報演算部47と、速度指令演算部32と、速度制御部33と、電流ベクトル制御部34と、電流制御部35と、を備える。
【0020】
フィルタ部41は、エンコーダ22の各相パルス信号に対応して設けられたローパスフィルタ42,43,44を備える。ローパスフィルタ42,43,44は、A相パルス信号ASが入力されるA相ローパスフィルタ42と、B相パルス信号BSが入力されるB相ローパスフィルタ43と、Z相パルス信号ZSが入力されるZ相ローパスフィルタ44と、を含む。ローパスフィルタ42,43,44は、各相パルス信号の遮断周波数よりも高い成分を低減させることで、各相パルス信号に含まれるノイズを低減する。A相ローパスフィルタ42は、A相パルス信号ASに含まれるノイズを低減する。B相ローパスフィルタ43は、B相パルス信号BSに含まれるノイズを低減する。Z相ローパスフィルタ44は、Z相パルス信号ZSに含まれるノイズを低減する。
【0021】
各ローパスフィルタ42,43,44の遮断周波数は、モータ11が1回転する間に生じるパルス数が多いパルス信号が入力されるローパスフィルタ42,43,44ほど高く設定されている。モータ11が1回転する間に生じるパルスが多いほど、パルス信号の周波数は高くなる。例えば、エンコーダ22の分解能=モータ11が1回転する間に生じる第1パルス信号AS,BSのパルス数が1000であり、モータ11が速度10000[rpm]で回転しているとする。この場合、第1パルス信号AS,BSの周波数はA相パルス信号ASの立ち上がりエッジのみをカウントする1逓倍の場合で166.7[kHz]である。また、A相パルス信号AS及びB相パルス信号BSそれぞれの立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジをカウントする4逓倍の場合は666.7[kHz]である。一方で、Z相パルス信号ZSの周波数は、Z相パルス信号ZSの立ち上がりエッジのみをカウントする場合、0.1667[kHz]である。即ち、Z相パルス信号ZSの周波数は、1逓倍の場合の第1パルス信号AS,BSの周波数の1/1000になる。従って、A相ローパスフィルタ42及びB相ローパスフィルタ43の遮断周波数は、Z相ローパスフィルタ44の遮断周波数よりも高くする必要がある。言い換えれば、Z相ローパスフィルタ44の遮断周波数は、A相ローパスフィルタ42及びB相ローパスフィルタ43の遮断周波数よりも低い。フィルタ部41を通過した各相パルス信号は、カウンタ45に入力される。第1パルス信号AS,BS用のローパスフィルタ42,43であるA相ローパスフィルタ42及びB相ローパスフィルタ43は、第1ローパスフィルタである。Z相ローパスフィルタ44は、第2ローパスフィルタである。
【0022】
カウンタ45は、第1パルス信号AS,BS及びZ相パルス信号ZSのそれぞれについてパルスのエッジをカウントする。カウンタ45は、A相パルス信号ASの立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジをカウントする2逓倍、前述した1逓倍及び4逓倍のうちいずれかの態様で第1パルス信号AS,BSのカウント数を求める。カウンタ45は、Z相パルス信号ZSの立ち上がりエッジのみ、あるいは、Z相パルス信号ZSの立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジをカウントすることでZ相パルス信号ZSのカウント数を求める。
【0023】
信号選択部46は、第1パルス信号AS,BSと、Z相パルス信号ZSのうちモータ11の回転速度ω[rpm]の演算に用いるパルス信号を選択する。信号選択部46がパルス信号を選択する処理については、後述する。
【0024】
演算部としての回転情報演算部47は、モータ11の回転速度ω及び回転位置θを演算する。回転情報演算部47は、信号選択部46により選択されたパルス信号のカウント数からモータ11の回転速度ωを演算する。回転情報演算部47は、信号選択部46により第1パルス信号AS,BSが選択されている場合、予め定められた所定時間の間の第1パルス信号AS,BSのカウント数からモータ11の回転速度ωを演算する。回転情報演算部47は、信号選択部46によりZ相パルス信号ZSが選択されている場合、予め定められた所定時間の間のZ相パルス信号ZSのカウント数からモータ11の回転速度ωを演算する。Z相ローパスフィルタ44の遮断周波数は、A相ローパスフィルタ42及びB相ローパスフィルタ43の遮断周波数よりも低いため、Z相ローパスフィルタ44によりノイズが低減されるZ相パルス信号ZSは、第1パルス信号AS,BSよりもノイズが低減されている。このため、Z相パルス信号ZSを用いて回転速度ωを演算する場合、第1パルス信号AS,BSを用いて回転速度ωを演算する場合に比べてノイズの影響による回転速度ωの誤差を低減することができる。一方で、モータ11が1回転したときに生じるパルスの数は、第1パルス信号AS,BSよりもZ相パルス信号ZSのほうが少ない。このため、Z相パルス信号ZSを用いてモータ11の回転速度ωを演算する場合、第1パルス信号AS,BSを用いて回転速度ωを演算する場合に比べて、回転速度ωが変化した場合に回転速度ωを検出するのに要する時間が長くなる。また、回転速度ωが変化した場合に回転速度ωを精度良く演算することができない。即ち、Z相パルス信号ZSを用いて回転速度ωを演算する場合、回転速度ωの変化に対応しにくい。
【0025】
回転情報演算部47は、第1パルス信号AS,BSのカウント数からモータ11の回転位置θを演算する。モータ11の回転位置θは、例えば、Z相パルス信号ZSの検出位置を基準とした場合の相対角度である。
【0026】
速度指令演算部32は、目標値と現在値との差に応じて、所定の制御周期で速度指令値ω*を演算する。速度指令演算部32は、例えば、上位制御装置の要求に応じて速度指令値ω*を演算する。上位制御装置は、例えば、車室内の温度を制御する空調用の制御装置である。目標値を目標温度、現在値を現在温度とすると、目標温度と現在温度との差が大きいと、制御周期毎に速度指令演算部32により演算される速度指令値ω*の変化量も大きい。目標温度が変更された場合や、電動圧縮機の起動時には目標温度と現在温度との差が大きい。時間経過に伴い、目標温度と現在温度との差とは小さくなり、目標温度と現在温度との差は許容範囲に収まることになる。目標温度と現在温度との差が許容範囲に収まることで、速度指令値ω*の変化量は一定、又は、略一定になる。速度指令値ω*の変化量が一定、又は、略一定になる状態が速度指令値ω*が定常な状態である。
【0027】
速度制御部33は、速度指令演算部32によって演算された速度指令値ω*と、回転情報演算部47によって演算された回転速度ωの速度差を算出する。速度制御部33は、速度差からq軸電流指令値Iq*を演算する。
【0028】
電流ベクトル制御部34は、回転情報演算部47によって演算された回転速度ωと速度制御部33によって演算されたq軸電流指令値Iq*とを用いて、d軸電流指令値Id*を演算する。
【0029】
電流制御部35は、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*、回転位置θ、u相電流Iu、及びw相電流Iwから3相毎の電圧指令値を求める。インバータ20は、電流制御部35からの電圧指令値に対してパルス幅変調を行う。これにより、モータ11が回転する。
【0030】
次に、信号選択部46がパルス信号を選択する処理について詳細に説明を行う。
図3に示すように、ステップS1において、信号選択部46は第1条件が成立するか否かを判定する。第1条件は、速度指令値ω*の変化量が予め定められた第1の閾値以下であることとされている。速度指令値ω*の変化量は、先回の速度指令値ω*と今回の速度指令値ω*との差であり、算出した差が第1の閾値以下の場合、第1条件を満たすと判断する。
【0031】
第1の閾値は、ユーザや設計者が適宜決める値であり、Z相パルス信号ZSを用いて回転速度ωを演算する場合、回転速度ωの変化に対応しにくくなるが、製品使用上、許容できる値である。
【0032】
信号選択部46は、ステップS1の判定結果が肯定の場合、即ち、速度指令値ω*の変化量が予め定められた第1の閾値以下である場合にステップS2の処理を行う。信号選択部46は、ステップS1の判定結果が否定の場合、即ち、速度指令値ω*の変化量が第1の閾値より大きい場合にステップS3の処理を行う。
【0033】
ステップS2において、信号選択部46は第2条件が成立するか否かを判定する。第2条件は、第1パルス信号AS,BSの変化量が予め定められた第2の閾値以下であることとされている。第2の閾値としては、ユーザや設計者が適宜決める値であり、Z相パルス信号ZSを用いて回転速度ωを演算する場合、回転速度ωの変化に対応しにくくなるが、製品使用上、許容できる値である。
【0034】
本実施形態においては、先回の制御周期における第1パルス信号AS,BSのカウント数に対して10%以上、今回の第1パルス信号AS,BSのカウント数が変化した場合には、第1パルス信号AS,BSの変化量が予め定められた第2の閾値を上回ったと判定する。一方で、信号選択部46は、先回の制御周期における第1パルス信号AS,BSのカウント数に対して、今回の第1パルス信号AS,BSのカウント数の変化が10%未満の場合には、第1パルス信号AS,BSの変化量が予め定められた第2の閾値以下であると判定する。
【0035】
なお、第1パルス信号AS,BSの変化量の算出方法は、本実施形態では、先回の制御周期における第1パルス信号AS,BSのカウント数と今回の制御周期における第1パルス信号AS,BSのカウント数との差であるが、カウント数に代えて、第1パルス信号AS,BSのパルス間隔から判定してもよい。
【0036】
信号選択部46は、例えば、先回の制御周期における第1パルス信号AS,BSのパルス間隔に対して10%以上、第1パルス信号AS,BSのパルス間隔が変化した場合には、第1パルス信号AS,BSの変化量が予め定められた第2の閾値を上回ったと判定してもよい。一方で、信号選択部46は、先回の制御周期における第1パルス信号AS,BSのパルス間隔に対して、第1パルス信号AS,BSのパルス間隔の変化が10%未満の場合には、第1パルス信号AS,BSの変化量が予め定められた第2の閾値以下であると判定してもよい。
【0037】
信号選択部46は、ステップS2の判定結果が肯定の場合、即ち、第1パルス信号AS,BSの変化量が第2の閾値以下の場合ステップS4の処理を行う。信号選択部46は、ステップS2の判定結果が否定の場合、即ち、第1パルス信号AS,BSの変化量が第2の閾値を上回っている場合ステップS3の処理を行う。
【0038】
上記したように、本実施形態では、第1条件及び第2条件の両方が成立した場合にはステップS4の処理が行われ、第1条件及び第2条件の少なくともいずれかが成立しなかった場合にはステップS3の処理が行われる。
【0039】
ステップS3において、信号選択部46は、第1パルス信号AS,BSを選択する。第1条件が成立しなかった場合、速度指令値ω*の変化量が予め定められた第1の閾値より大きく、速度差が大きくなる。この場合、逸早く回転速度ωを速度指令値ω*に追従させて速度差を小さくすることが好ましい。即ち、インバータ20の制御応答性を高くすることが好ましい。仮に、Z相パルス信号ZSを用いて回転速度ωを演算する場合、回転速度ωの変化に逸早く対応してインバータ20を制御することができない。一方で、第1パルス信号AS,BSを用いて回転速度ωを演算する場合、回転速度ωの変化に逸早く対応してインバータ20を制御することができる。従って、第1条件が成立しなかった場合、インバータ20の制御応答性を高くするため第1パルス信号AS,BSが選択される。
【0040】
第2条件が成立しなかった場合、速度指令値ω*の変化量が予め定められた第1の閾値以下であるにも関わらず、負荷変動等の発生により回転速度ωが大きく変化したといえる。この場合、インバータ20の制御応答性を高くすべく、第1パルス信号AS,BSが選択される。
【0041】
ステップS4において、信号選択部46はZ相パルス信号ZSを選択する。第1条件及び第2条件の両方が成立した場合、インバータ20に高い制御応答性は求められないため、Z相パルス信号ZSが選択される。
【0042】
ステップS5において、信号選択部46は、ステップS3又はステップS4で選択されたパルス信号を回転情報演算部47に出力する。これにより、回転情報演算部47では、信号選択部46により選択されたパルス信号を用いて回転速度ωが演算されることになる。ステップS1~ステップS5の処理は、所定の制御周期で繰り返し行われる。
【0043】
本実施形態において、フィルタ部41、カウンタ45、信号選択部46及び回転情報演算部47がエンコーダ22の出力から回転速度ωを検出する回転速度検出装置40として機能する。
【0044】
本実施形態の作用について説明する。
第1条件が成立する場合、速度指令値ω*の変化量が第1の閾値以下であり、速度指令値ω*の変化に伴うモータ11の回転速度ωの変化が生じにくいといえる。第1条件が成立する場合、モータ11の回転速度ωの変化が生じにくいため、Z相パルス信号ZSを用いて回転速度ωを演算することができる。第2条件が成立する場合、第1パルス信号AS,BSの変化量が少なく、負荷変動等の外的要因によってモータ11の回転速度ωに大きな変化が生じていないといえる。第2条件が成立する場合、モータ11の回転速度ωの変化が生じにくいため、Z相パルス信号ZSを用いて回転速度ωを演算することができる。
【0045】
本実施形態の効果について説明する。
(1)信号選択部46は、第1条件及び第2条件の両方が成立した場合にZ相パルス信号ZSを選択し、Z相パルス信号ZSを選択しない場合には第1パルス信号AS,BSを選択する。回転情報演算部47は、信号選択部46により選択されたパルス信号から回転速度ωを演算する。第1パルス信号AS,BSを用いて回転速度ωを演算する必要性が低い場合にZ相パルス信号ZSから回転速度ωが演算される。このため、第1条件及び第2条件が成立する状況で回転速度検出装置40の耐ノイズ性を向上させつつ、回転速度ωの変化に対応する必要がある場合には第1パルス信号AS,BSを用いて、回転速度ωの変化に対応することができる。
【0046】
(2)信号選択部46は、第1条件及び第2条件の両方が成立した場合にZ相パルス信号ZSを選択している。第1条件及び第2条件のうちいずれかが成立した場合にZ相パルス信号ZSを選択する場合、第1条件が成立しているが第2条件が成立していない場合や、第2条件が成立しているが第1条件が成立していない場合でもZ相パルス信号ZSが選択される場合がある。この場合、回転速度ωの変化が生じやすい状態にも関わらず、Z相パルス信号ZSが選択される場合がある。これに対し、第1条件及び第2条件の両方が成立した場合にZ相パルス信号ZSを選択することで、回転速度ωの変化が生じにくい状態でZ相パルス信号ZSを選択することができる。
【0047】
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○信号選択部46は、第1条件及び第2条件のうちいずれかが成立した場合にZ相パルス信号ZSを選択してもよい。この場合、信号選択部46は、第1条件及び第2条件の両方が成立するかを判定し、第1条件及び第2条件のうちいずれかが成立した場合にZ相パルス信号ZSを選択するものであってもよい。また、信号選択部46は、第1条件が成立するかのみを判定するものであってもよいし、第2条件が成立するかのみを判定するものであってもよい。
【0048】
第1条件が成立する場合にZ相パルス信号ZSを選択することで、第1条件が成立する状況で回転速度検出装置40の耐ノイズ性を向上させることができる。また、速度指令値ω*の変化量が予め定められた第1の閾値以下ではない場合には、第1パルス信号AS,BSを用いて回転速度ωを演算することで、回転速度ωの変化に対応して、回転速度ωを精度良く、かつ、逸早く演算することができる。第2条件が成立する場合にZ相パルス信号ZSを選択することで、第2条件が成立する状況で回転速度検出装置40の耐ノイズ性を向上させることができる。また、負荷変動等により回転速度ωが変化した場合には、第1パルス信号AS,BSを用いて回転速度ωを演算することで、回転速度ωの変化に対応して、回転速度ωを精度良く、かつ、逸早く演算することができる。
【0049】
○回転速度検出装置40は、インバータ20以外に用いられてもよい。例えば、直流モータを制御する駆動制御装置に用いられてもよい。駆動制御装置は、例えば、互いに直列接続された2つのスイッチング素子と、スイッチング素子を制御する制御部と、を備える。2つのスイッチング素子のデューティー比に応じて直流モータの速度は制御される。制御部は、回転速度検出装置40により検出された回転速度ωに応じてスイッチング素子のオンとオフとを切り替える。
【0050】
○回転情報演算部47は、パルス信号のパルス間隔から回転速度ωを演算してもよい。
○回転速度検出装置40は、タイヤ、ホイール、歯車等のモータ以外の回転体の回転速度を検出するものであってもよい。
【符号の説明】
【0051】
11…回転体としてのモータ、22…エンコーダ、40…回転速度検出装置、42…第1ローパスフィルタとしてのA相ローパスフィルタ、43…第1ローパスフィルタとしてのB相ローパスフィルタ、44…第2ローパスフィルタとしてのZ相ローパスフィルタ、46…信号選択部、47…演算部としての回転情報演算部。
図1
図2
図3