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特許7140085インダクタ部品およびインダクタ部品用のコアの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】インダクタ部品およびインダクタ部品用のコアの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20220913BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20220913BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
H01F27/29 G
H01F27/24 E
H01F41/02 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019175305
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021052133
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】宮本 昌史
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-107248(JP,A)
【文献】特開平05-226156(JP,A)
【文献】特開2015-025189(JP,A)
【文献】特開2017-204595(JP,A)
【文献】特開2003-068549(JP,A)
【文献】特開2004-235372(JP,A)
【文献】特開2014-017904(JP,A)
【文献】特開平01-206610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23-27/26
H01F 27/28-27/29
H01F 27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回されるワイヤを保持するためのもので、軸線方向に延びる巻芯部と、
前記巻芯部の前記軸線方向での第1端に設けられた第1鍔部と、
前記巻芯部の前記軸線方向での前記第1端とは逆の第2端に設けられた第2鍔部と、
前記第1鍔部に設けられた第1端子電極と、
前記第2鍔部に設けられた第2端子電極と、
を有する、コを備え
前記巻芯部は、当該巻芯部の軸線に直交する断面において四角形以上の多角形の形状であり、
前記断面上で前記多角形は形成する内角が90度以上かつ120度未満である角部分を有し、
前記角部分の少なくとも1つには、ともに外方へ向かって凸状の第1アール面および第2アール面が形成され、
前記第1アール面と前記第2アール面とは、前記巻芯部の周方向に隣り合っており、
前記角部分に形成された前記第1アール面および前記第2アール面に接した状態で前記巻芯部に巻回されるとともに、第1端が前記第1端子電極に接続され、前記第1端とは逆の第2端が前記第2端子電極に接続された、ワイヤをさらに備え、
前記巻芯部の前記断面上において、前記角部分を介して隣り合う2つの辺の各々の延長線が交わる仮想の交点から、一方の前記辺までの距離をW、他方の前記辺までの距離をTとし、かつ前記ワイヤの直径をDとしたとき、
0.75D≦(WT) 0.5
の関係が成り立つ、
インダクタ部品。
【請求項2】
巻回されるワイヤを保持するためのもので、軸線方向に延びる巻芯部と、
前記巻芯部の前記軸線方向での第1端に設けられた第1鍔部と、
前記巻芯部の前記軸線方向での前記第1端とは逆の第2端に設けられた第2鍔部と、
前記第1鍔部に設けられた第1端子電極と、
前記第2鍔部に設けられた第2端子電極と、
を有する、コを備え
前記巻芯部は、当該巻芯部の軸線に直交する断面において四角形以上の多角形の形状であり、
前記断面上で前記多角形は形成する内角が90度以上かつ120度未満である角部分を有し、
前記角部分の少なくとも1つには、ともに外方へ向かって凸状の第1アール面および第2アール面が形成され、
前記第1アール面と前記第2アール面とは、前記巻芯部の周方向に隣り合っており、
前記角部分に形成された前記第1アール面および前記第2アール面に接した状態で前記巻芯部に巻回されるとともに、第1端が前記第1端子電極に接続され、前記第1端とは逆の第2端が前記第2端子電極に接続された、ワイヤをさらに備え、
前記ワイヤは、前記巻芯部の周面から浮かずに前記巻芯部に巻回されている、
インダクタ部品。
【請求項3】
巻回されるワイヤを保持するためのもので、軸線方向に延びる巻芯部と、
前記巻芯部の前記軸線方向での第1端に設けられた第1鍔部と、
前記巻芯部の前記軸線方向での前記第1端とは逆の第2端に設けられた第2鍔部と、
前記第1鍔部に設けられた第1端子電極と、
前記第2鍔部に設けられた第2端子電極と、
を有する、コを備え
前記巻芯部は、当該巻芯部の軸線に直交する断面において四角形以上の多角形の形状であり、
前記断面上で前記多角形は形成する内角が90度以上かつ120度未満である角部分を有し、
前記角部分の少なくとも1つには、ともに外方へ向かって凸状の第1アール面および第2アール面が形成され、
前記第1アール面と前記第2アール面とは、前記巻芯部の周方向に隣り合っており、
前記角部分に形成された前記第1アール面および前記第2アール面に接した状態で前記巻芯部に巻回されるとともに、第1端が前記第1端子電極に接続され、前記第1端とは逆の第2端が前記第2端子電極に接続された、ワイヤをさらに備え、
前記ワイヤは、少なくとも一部において多層巻きにされており、
前記巻芯部の前記断面上において、前記角部分を介して隣り合う2つの辺の各々の延長線が交わる仮想の交点から、一方の前記辺までの距離をW、他方の前記辺までの距離をTとし、かつ前記ワイヤの直径をDとしたとき、
(WT) 0.5 ≦2D
の関係が成り立つ、
インダクタ部品。
【請求項4】
前記断面上において、前記角部分を介して隣り合う2つの辺の各々の延長線が交わる仮想の交点から、一方の前記辺までの距離と他方の前記辺までの距離とは互いに異なる、請求項1ないし3のいずれかに記載のインダクタ部品。
【請求項5】
前記第1アール面の曲率半径と前記第2アール面の曲率半径とは互いに異なる、請求項1ないし4のいずれかに記載のインダクタ部品。
【請求項6】
前記第1アール面および前記第2アール面は、前記角部分のすべてに形成されている、請求項1ないしのいずれかに記載のインダクタ部品。
【請求項7】
前記巻芯部は、前記断面上において、前記角部分として、第1の角部分、第2の角部分、第3の角部分および第4の角部分からなる4つの角部分を備え、前記第1の角部分と前記第3の角部分とが対角線方向に互いに対向し、前記第2の角部分と前記第4の角部分とが対角線方向に互いに対向し、前記巻芯部の周方向に沿って、前記第1の角部分における前記第1アール面、前記第1の角部分における前記第2アール面、前記第2の角部分における前記第2アール面、前記第2の角部分における前記第1アール面、前記第3の角部分における前記第1アール面、前記第3の角部分における前記第2アール面、前記第4の角部分における前記第2アール面、前記第4の角部分における前記第1アール面、の順に並ぶ、請求項1ないしのいずれかに記載のインダクタ部品。
【請求項8】
請求項7に記載のインダクタ部品に備えるコアの製造方法であって、
セラミック粉末を加圧して、前記コアとなるべき成形体を成形する成形工程と、
前記成形体を焼成する焼成工程と、
焼成後の前記成形体を研磨する工程と、
を備え、
前記成形工程は、ダイが形成するキャビティに充填された前記セラミック粉末を挟んで上パンチと下パンチとが相対的に近接することにより、前記セラミック粉末を加圧する工程を含み、
前記ダイは、前記キャビティ内において、前記巻芯部の前記第1の角部分と前記第2の角部分との間に延びる第1側面を成形する第1型面、および前記巻芯部の前記第3の角部分と前記第4の角部分との間に延びる第2側面を成形する第2型面を有し、
前記上パンチは、前記巻芯部の前記第1の角部分と前記第4の角部分との間に延びる上面を成形する第3型面を有し、
前記第3型面は、前記第1の角部分における前記第2アール面が形成されるべき部分となる第1肩部を成形する面、および前記第1肩部の内側に前記第1アール面を成形する第1凹面を含むとともに、前記第4の角部分における前記第2アール面が形成されるべき部分となる第4肩部を成形する面、および前記第4肩部の内側に前記第1アール面を成形する第4凹面を含み、
前記下パンチは、前記巻芯部の前記第2の角部分と前記第3の角部分との間に延びる下面を成形する第4型面を有し、
前記第4型面は、前記第2の角部分における前記第2アール面が形成されるべき部分となる第2肩部を成形する面、および前記第2肩部の内側に前記第1アール面を成形する第2凹面を含むとともに、前記第3の角部分における前記第2アール面が形成されるべき部分となる第3肩部を成形する面、および前記第3肩部の内側に前記第1アール面を成形する第3凹面を含み、
前記成形工程によって得られた前記成形体は、前記第1の角部分、前記第2の角部分、前記第3の角部分および前記第4の角部分の各々における前記第1アール面を形成した状態、かつ前記第1肩部、前記第2肩部、前記第3肩部および前記第4肩部を形成した状態であり、
前記研磨する工程は、前記第1肩部、前記第2肩部、前記第3肩部および前記第4肩部を研磨し、それによって前記第1肩部、前記第2肩部、前記第3肩部および前記第4肩部の各々に前記第2アール面を形成する工程を含む、
コアの製造方法。
【請求項9】
前記第3型面は、前記第1の角部分における前記第1アール面を成形する前記第1凹面の外側に前記第1肩部を成形する第1平坦面、および前記第4の角部分における前記第1アール面を成形する前記第4凹面の外側に前記第4肩部を成形する第4平坦面を含み、
前記第4型面は、前記第2の角部分における前記第1アール面を成形する前記第2凹面の外側に前記第2肩部を成形する第2平坦面、および前記第3の角部分における前記第1アール面を成形する前記第3凹面の外側に前記第3肩部を成形する第3平坦面を含む、
請求項に記載のコアの製造方法。
【請求項10】
前記成形工程によって得られた前記成形体は、前記ダイと前記上パンチおよび前記下パンチとの合わせ面の間隙から余分のセラミック粉末がはみ出すことによって、前記第1肩部、前記第2肩部、前記第3肩部および前記第4肩部の少なくとも1つの端縁から延びるバリが形成された状態であり、
前記研磨する工程は、前記バリを除去する工程を含む、
請求項またはに記載のコアの製造方法。
【請求項11】
前記研磨する工程は、バレル研磨する工程を含む、請求項ないし10のいずれかに記載のコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インダクタ部品およびインダクタ部品用のコアの製造方法に関するもので、特に、コアに巻回されるワイヤを保持するための巻芯部の形態に関するものである。
【背景技術】
【0002】
巻線型のインダクタ部品は、巻回されるワイヤを保持するための巻芯部を有するコアを備える。巻芯部は、典型的には、円形もしくは楕円形、四角形または六角形といった断面形状を有しているが、その他、断面形状に関して、種々の形態のものがある。たとえば、特開2018-107248号公報(特許文献1)には、断面形状が四角形に近い六角形の巻芯部が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-107248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、ワイヤがたとえば直径100μm以上というように比較的太い場合、以下のような問題に遭遇しやすい。
【0005】
ワイヤを、巻芯部に巻回しようとする場合、巻芯部の断面形状が円形または楕円形であると、ワイヤが全周にわたって巻芯部に面接触するので、たとえば直径100μm以上の比較的太いワイヤであっても、安定した巻回状態を得ることができる。しかし、ワイヤを整列状態で2層巻きのような多層巻きにしようとすると、ワイヤを下層から上層へ移行させるため、螺旋状に巻回されたワイヤの進行方向とは逆の方向に戻す起点を、巻芯部の周方向での一定の位置に落ち着かせることが困難である。そのため、ワイヤの下層から上層への移行部分の位置が曖昧となり、多層巻きが安定しない。特に、ワイヤが2層以上に巻回された多層巻き部分が、巻芯部の長手方向に沿って複数個配置されたバンク巻きの場合、上述のような安定しない巻回状態がより顕著に現れる。
【0006】
他方、巻芯部の断面形状が四角形や六角形のような角部分を持つ形状であると、上記の問題を解消できるように思われる。しかし、たとえば直径100μm以上といった比較的太いワイヤを巻回する場合には、ワイヤは、巻芯部の角部分以外の部分では、巻芯部の周面から浮いた状態となり、ワイヤと巻芯部との間の摩擦量が少なくなってしまう。そのため、ワイヤをたとえばバンク巻きすると、下層のワイヤが巻芯部の軸線方向にずれやすく、安定したバンク巻きを実現することが困難である。
【0007】
なお、上記の課題は、ワイヤがたとえば直径100μm以上というように比較的太く、かつ、たとえばバンク巻きのような多層巻きを実施した場合において遭遇したものを取り上げたが、ワイヤの直径に関係なく、また、多層巻きを実施しない場合であっても、巻芯部へのワイヤの巻回が安定することが望まれる。
【0008】
そこで、この発明の目的は、ワイヤを安定して巻回することができる巻芯部を有するコアを備えるインダクタ部品、およびインダクタ部品用のコアの製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、巻回されるワイヤを保持するためのもので、軸線方向に延びる巻芯部を有する、コアを備えるインダクタ部品にまず向けられる。
【0010】
上述した技術的課題を解決するため、コアに備える巻芯部は、当該巻芯部の軸線に直交する断面において四角形以上の多角形の形状であり、断面上で上記多角形は形成する内角が90度以上かつ120度未満である角部分を有し、これら角部分の少なくとも1つには、ともに外方へ向かって凸状の第1アール面および第2アール面が形成され、これら第1アール面と第2アール面とは、前記巻芯部の周方向に隣り合っていることを特徴としている。
【0011】
なお、上述した多角形とは、直線のみで規定される多角形に限らず、たとえば角部分にアール面取りが施されたものをも含む。また、第1アール面と第2アール面が隣り合うとは、第1アール面と第2アール面とが互いに接している状態に限らず、第1アール面と第2アール面との間に、外方へ向かって凸状のアール面以外の形状の部分、たとえば外方へ向かって凹状のアール面形状の部分、または平面形状の部分が存在していてもよい。
【0012】
また、コアは、巻芯部の軸線方向での第1端に設けられた第1鍔部と、巻芯部の軸線方向での第1端とは逆の第2端に設けられた第2鍔部と、第1鍔部に設けられた第1端子電極と、第2鍔部に設けられた第2端子電極と、を備える。
【0013】
この発明に係るインダクタ部品は、上述したコアと、ワイヤとを備え、ワイヤは、上記角部分に形成された第1アール面および第2アール面に接した状態で巻芯部に巻回されるとともに、第1端が第1端子電極に接続され、第1端とは逆の第2端が第2端子電極に接続されたことを特徴としている。
以上の基本的な特徴に加えて、この発明に係るインダクタ部品は、第1の局面では、巻芯部の断面上において、角部分を介して隣り合う2つの辺の各々の延長線が交わる仮想の交点から、一方の辺までの距離をW、他方の辺までの距離をTとし、かつワイヤの直径をDとしたとき、0.75D≦(WT) 0.5 の関係が成り立つことをさらなる特徴としている。
第2の局面では、上記基本的な特徴に加えて、ワイヤは、巻芯部の周面から浮かずに巻芯部に巻回されていることをさらなる特徴としている。
第3の局面では、上記基本的な特徴に加えて、ワイヤは、少なくとも一部において多層巻きにされており、巻芯部の断面上において、角部分を介して隣り合う2つの辺の各々の延長線が交わる仮想の交点から、一方の辺までの距離をW、他方の辺までの距離をTとし、かつワイヤの直径をDとしたとき、(WT) 0.5 ≦2Dの関係が成り立つことをさらなる特徴としている。
【0014】
この発明は、さらに、コアの製造方法にも向けられる。製造しようとするコアは、巻芯部が、断面上において、上記角部分として、第1の角部分、第2の角部分、第3の角部分および第4の角部分からなる4つの角部分を備え、第1の角部分と第3の角部分とが対角線方向に互いに対向し、第2の角部分と第4の角部分とが対角線方向に互いに対向し、巻芯部の周方向に沿って、第1の角部分における第1アール面、第1の角部分における第2アール面、第2の角部分における第2アール面、第2の角部分における第1アール面、第3の角部分における第1アール面、第3の角部分における第2アール面、第4の角部分における第2アール面、第4の角部分における第1アール面、の順に並ぶ。
【0015】
なお、上記のコアは、内角が90度以上かつ120度未満である4つの角部分を備え、第1の角部分と第3の角部分とが対角線方向に互いに対向し、第2の角部分と第4の角部分とが対角線方向に互いに対向することが条件であるが、第1ないし第4の角部分以外の角部分を備える場合を除外するものではない。したがって、第1ないし第4の角部分以外の角部分の内角が90度以上かつ120度未満の条件を満たすことも、満たさないこともあり得る。
【0016】
この発明に係るコアの製造方法は、
セラミック粉末を加圧して、コアとなるべき成形体を成形する成形工程と、
上記成形体を焼成する焼成工程と、
焼成後の上記成形体を研磨する工程と、
を備える。
【0017】
上記成形工程は、ダイが形成するキャビティに充填されたセラミック粉末を挟んで上パンチと下パンチとが相対的に近接することにより、セラミック粉末を加圧する工程を含む。
【0018】
上記ダイは、キャビティ内において、巻芯部の第1の角部分と第2の角部分との間に延びる第1側面を成形する第1型面、および巻芯部の第3の角部分と第4の角部分との間に延びる第2側面を成形する第2型面を有する。
【0019】
上記上パンチは、巻芯部の第1の角部分と第4の角部分との間に延びる上面を成形する第3型面を有する。第3型面は、第1の角部分における第2アール面が形成されるべき部分となる第1肩部を成形する面、および第1肩部の内側に第1アール面を成形する第1凹面を含むとともに、第4の角部分における第2アール面が形成されるべき部分となる第4肩部を成形する面、および第4肩部の内側に第1アール面を成形する第4凹面を含む。
【0020】
他方、上記下パンチは、巻芯部の第2の角部分と第3の角部分との間に延びる下面を成形する第4型面を有する。第4型面は、第2の角部分における第2アール面が形成されるべき部分となる第2肩部を成形する面、および第2肩部の内側に第1アール面を成形する第2凹面を含むとともに、第3の角部分における第2アール面が形成されるべき部分となる第3肩部を成形する面、および第3肩部の内側に第1アール面を成形する第3凹面を含む。
【0021】
そして、成形工程によって得られた成形体は、第1の角部分、第2の角部分、第3の角部分および第4の角部分の各々における第1アール面を形成した状態、かつ第1肩部、第2肩部、第3肩部および第4肩部を形成した状態であり、研磨工程は、第1肩部、第2肩部、第3肩部および第4肩部を研磨し、それによって第1肩部、第2肩部、第3肩部および第4肩部の各々に第2アール面を形成する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、巻芯部の断面形状において、内角が90度以上かつ120度未満である角部分の少なくとも1つには、第1アール面および第2アール面が巻芯部の周方向に隣り合う状態で形成されているので、第1アール面および第2アール面の連なりによって、見掛け上、大きな曲率半径を有するアール面を与えることができる。
【0023】
したがって、たとえば直径100μm以上といった比較的太いワイヤを巻回する場合にあっても、ワイヤは、巻芯部の角部分に倣って容易に曲がり、角部分以外の部分でも、巻芯部から浮いた状態となりにくい。また、第1アール面および第2アール面が形成された巻芯部の角部分では、第1アール面および第2アール面の少なくとも2箇所で確実にワイヤに接触させることができる。これらのことから、ワイヤと巻芯部との間の摩擦力を高くすることができ、巻芯部上に巻回されるワイヤの形態および位置を安定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】この発明の第1の実施形態によるインダクタ部品1を正面方向から模式的に示す断面図である。
図2図1に示したインダクタ部品1に備えるコア3の正面図である。
図3図2に示したコア3の、図2の線A-Aに沿う断面図である。
図4図3の部分Eの拡大断面図である。
図5図2に示したコア3の製造方法を説明するためのもので、コア3の成形工程を実施している状態を示す断面図である。
図6図5の部分Fの拡大断面図である。
図7図2に示したコア3の製造方法を説明するためのもので、焼成後の成形体17における図5の部分Fに相当する部分を示す拡大断面図であり、(A)は研磨前の状態、(B)は研磨後の状態、(C)は研磨後の状態であるが、実際の研磨工程によってもたらされることがある状態を示す。
図8図5の部分Fに相当する部分を示すもので、この発明の特徴的構成である第1アール面R1および第2アール面R2の連なりによる見なし曲率半径を求める方法を説明するための図である。
図9】この発明の第2の実施形態を説明するための図7に対応する図である。
図10】この発明の第3の実施形態を説明するための図7に対応する図である。
図11】この発明の第4の実施形態を説明するための図7に対応する図である。
図12】この発明の第5の実施形態を説明するための図7に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1ないし図4を参照して、この発明の第1の実施形態によるインダクタ部品1について説明する。
【0026】
インダクタ部品1は、図1によく示されているように、軸線方向AXに延びる巻芯部2を有するコア3を備える。コア3は、ドラム状であり、巻芯部2の軸線方向AXでの第1端に設けられた第1鍔部4と、第1端とは逆の第2端に設けられた第2鍔部5とを備える。また、インダクタ部品1は、必要に応じて、第1鍔部4および第2鍔部5間に渡されてコア3に接着剤6を介して接着された天板7を備えていてもよい。コア3および天板7は、フェライトまたはアルミナのようなセラミックの焼結体から構成される。コア3および天板7がともに磁性体から構成されるとき、コア3および天板7は閉磁路を構成する。
【0027】
コア3に備える巻芯部2は、図3からわかるように、実質的に四角形の断面形状を有している。巻芯部2の断面形状をなす四角形は4つの辺S1~S4を備え、4つの辺S1~S4の隣り合うものの間でなす内角は90度である。また、巻芯部2の断面形状をなす当該四角形は、内角が90度である4つの角部分C1~C4を備えている。
【0028】
4つの角部分C1~C4には、角部分C1について図4によく示されているように、ともに外方へ向かって凸状の第1アール面R1および第2アール面R2が巻芯部2の周方向に隣り合う状態で形成されている。図3に示すように、4つの角部分C1~C4のうち、第1の角部分C1と第3の角部分C3とが対角線方向に互いに対向し、第2の角部分C2と第4の角部分C4とが対角線方向に互いに対向し、巻芯部2の周方向に沿って、第1の角部分C1における第1アール面R1、第1の角部分C1における第2アール面R2、第2の角部分C2における第2アール面R2、第2の角部分C2における第1アール面R1、第3の角部分C3における第1アール面R1、第3の角部分C3における第2アール面R2、第4の角部分C4における第2アール面R2、第4の角部分C4における第1アール面R1、の順に並んでいる。なお、図4に示した寸法値の単位はmmである。
【0029】
このように、巻芯部2の断面形状において、内角が90度以上かつ120度未満である角部分C1~C4には、第1アール面R1および第2アール面R2が巻芯部2の周方向に隣り合う状態で形成されているので、第1アール面R1および第2アール面R2の連なりによって、見掛け上、大きな曲率半径を有するアール面を与えることができる。
【0030】
したがって、後述するように、ワイヤ40を巻芯部2のまわりに巻回するとき、ワイヤ40がたとえば直径100μm以上というように比較的太くても、ワイヤ40は、巻芯部2の角部分C1~C4に倣って容易に曲がり、角部分C1~C4以外の部分でも、巻芯部2から浮いた状態となりにくい。また、第1アール面R1および第2アール面R2が形成された巻芯部2の角部分C1~C4では、第1アール面R1および第2アール面R2の少なくとも2箇所で確実にワイヤ40に接触させることができる。これらのことから、ワイヤ40と巻芯部2との間の摩擦力を高くすることができ、巻芯部2上に巻回されるワイヤ40の形態および位置を安定に保つことができる。
【0031】
巻芯部2において、上述したような特徴的な形態を有するコア3は、好ましくは、以下のようにして製造される。
【0032】
まず、コア3の材料となるセラミック粉末が用意される。セラミック粉末は、コア3となるべき成形体を得るため、次いで、成形工程に付される。図5には、成形工程を実施するための成形装置11の主要部、特に、巻芯部2を成形する部分が図2の線A-Aに沿う断面に相当する断面をもって図示されている。図6は、図5の部分Fの拡大断面図である。
【0033】
図5および図6を参照して、成形装置11は、セラミック粉末12を充填するキャビティ13を形成するダイ14を備える。ダイ14のキャビティ13内では、上パンチ15と下パンチ16とが、互いに対向した状態で配置され、相対的に近接・離隔可能となるように案内される。上パンチ15と下パンチ16とがセラミック粉末12を挟んで相対的に近接することにより、セラミック粉末12が加圧され、コア3となるべき成形体17が成形される。
【0034】
成形体17は、第1の角部分C1における第1アール面R1の外側に第2アール面R2を形成するための第1肩部31を有し、第2の角部分C2における第1アール面R1の外側に第2アール面R2を形成するための第2肩部32を有し、第3の角部分C3における第1アール面R1の外側に第2アール面R2を形成するための第3肩部33を有し、第4の角部分C4における第1アール面R1の外側に第2アール面R2を形成するための第4肩部34を有する。
【0035】
ダイ14は、キャビティ13内において、巻芯部2の第1の角部分C1と第2の角部分C2との間に延びる第1の辺S1を与える第1側面P1(図3参照)を成形する第1型面19、および巻芯部2の第3の角部分C3と第4の角部分C4との間に延びる第3の辺S3を与える第2側面P2(図2および図3参照)を成形する第2型面20を有する。
【0036】
上パンチ15は、巻芯部2の第1の角部分C1と第4の角部分C4との間に延びる第4の辺S4を与える上面P3(図2および図3参照)を成形する第3型面21を有する。
【0037】
第3型面21は、第1の角部分C1における第1肩部31の内側に第1アール面R1を成形する第1凹面23、および第4の角部分C4における第4肩部34の内側に第1アール面R1を成形する第4凹面26を含む。
【0038】
また、この実施形態では、第3型面21は、第1の角部分C1における上記第1凹面23の外側に上記第1肩部31を成形する第1平坦面27、および第4の角部分C4における上記第4凹面26の外側に上記第4肩部34を成形する第4平坦面30を含む。
【0039】
他方、下パンチ16は、巻芯部2の第2の角部分C2と第3の角部分C3との間に延びる第2の辺S2を与える下面P4(図2および図3参照)を成形する第4型面22を有する。
【0040】
第4型面22は、第2の角部分C2における第2肩部32の内側に第1アール面R1を成形する第2凹面24、および第3の角部分C3における第3肩部33の内側に第1アール面R1を成形する第3凹面25を含む。
【0041】
また、この実施形態では、第4型面22は、第2の角部分C2における上記第2凹面24の外側に上記第2肩部32を成形する第2平坦面28、および第3の角部分C3における上記第3凹面25の外側に上記第3肩部33を成形する第3平坦面29を含む。
【0042】
以上のような形態のダイ14ならびに上パンチ15および下パンチ16によって成形工程が実施されることにより、巻芯部2における第1の角部分C1、第2の角部分C2、第3の角部分C3および第4の角部分C4の各々において、第1アール面R1を形成した成形体17が得られる。このような形態の成形体17における巻芯部2の断面は図5に示され、また、その一部が拡大されて、図6に示されている。
【0043】
次いで、成形体17は、セラミック粉末12を焼結させるため、焼成される。図7(A)には、焼成後の成形体17における図5の部分Fに相当する部分が拡大されて示されている。図7(A)には、巻芯部2の第1の角部分C1における第1アール面R1に隣接して、第2アール面R2を形成すべき第1肩部31が図示されている。
【0044】
次いで、焼成後の成形体17はバレル研磨される。これによって、図7(B)に示すように、第1の角部分C1における第1肩部31が研磨されて、第2アール面R2が形成される。図示されないが、同様に、バレル研磨工程によって、第2の角部分C2、第3の角部分C3および第4の角部分C4における第2肩部32、第3肩部33および第4肩部34がそれぞれ研磨されて、第2アール面R2が形成される。
【0045】
なお、前述した成形工程によって得られた成形体17は、ダイ14と上パンチ15および下パンチ16との合わせ面の間隙37(図6参照)から余分のセラミック粉末がはみ出すことによって、第1肩部31、第2肩部32、第3肩部33および第4肩部34の少なくとも1つの端縁から延びるバリ38(図7(A)において点線で例示する。)が形成されることがある。この場合、バレル研磨工程は、バリ38を除去する工程を兼ねることができる。
【0046】
上述したバレル研磨工程を終えたとき、コア3が完成されるが、図7(C)に示すように、実際のバレル研磨後において、第1アール面R1と第2アール面R2との境界部分に外方へ向かって凹状の第3アール面R3がしばしば形成される。第3アール面R3は、通常、0.04mm以上の曲率半径を有する。なお、第3アール面R3は、成形工程で用いるパンチ15および16の設計変更によっても形成することができる。
【0047】
以上の説明は、主として、焼成後の成形体17における図5の部分Fに相当する部分、すなわち、巻芯部2の第1の角部分C1についてのものであった。巻芯部2の第2ないし第4の角部分C2~C4についても、説明を省略するが、第1の角部分C1の場合と同様の加工が施される。
【0048】
なお、上述した実施形態では、研磨工程において、バレル研磨法が適用されたが、たとえば、サンドブラスト法、レーザー研磨法といった他の研磨方法が適用されてもよい。
【0049】
図1を参照して、巻芯部2上には、ワイヤ40が巻回される。ワイヤ40の巻回態様の詳細については後述する。第1鍔部4および第2鍔部5における実装基板(図示せず。)側に向く底面8および9には、それぞれ、第1端子電極41および第2端子電極42が設けられる。端子電極41および42は、たとえば、導電性ペーストの焼付け、導電性金属のめっき、導電性金属片の貼付け等によって形成される。具体的には図示されないが、ワイヤ40の第1端は第1端子電極41に接続され、ワイヤ40の第1端とは逆の第2端は第2端子電極42に接続される。これらの接続には、たとえば、熱圧着や溶接が適用される。
【0050】
ワイヤ40は、たとえば銅からなり、断面円形の中心導体と、中心導体の周面を覆う絶縁被覆層と、からなる。本明細書において、ワイヤの直径とは、ワイヤの絶縁被覆層を含まない、中心導体の直径を指す。
【0051】
図1において、ワイヤ40の断面内には、第1鍔部4側から数えたターン序数「1」~「20」が記入されている。巻芯部2において巻回されたワイヤ40は、4つの整列されたバンク巻きを構成する部分(以下、「整列バンク巻き部分」と略称する。)B1~B4を備えている。
【0052】
第1整列バンク巻き部分B1は、ワイヤ40の第1ターンないし第5ターン(以下、「ターン1~5」のように表現する。)によって形成される。すなわち、下層側にはワイヤ40のターン1~3が位置され、これらターン1~3が巻芯部2上で螺旋状に巻回される。次いで、ワイヤ40が約1.5ターン分戻され、戻り部分Rを除いて、下層側のターン1および2間に形成される凹部に、上層側のターン4が嵌り込み、さらに、下層側のターン2および3間に形成される凹部に、上層側のターン5が嵌り込むように、ワイヤ40が巻回される。
【0053】
この第1整列バンク巻き部分B1では、ターン3からターン4へと移行する部分が、下層側から上層側へと移行する部分となり、この部分では、巻芯部2上で螺旋状に巻回されたワイヤ40の進行方向とは逆の方向にワイヤ40が戻される。したがって、この部分が戻り部分Rとなる。戻り部分Rでは、ワイヤ40の螺旋状の巻回状態が乱れるが、この実施形態では、戻り部分Rは、第1の角部分C1を起点とし、第2の角部分C2を終点としながら、巻芯部2の周面上の特定の位置、たとえば、巻芯部2における図3に示した辺S1を与える第1側面P1に沿う位置で生じるようにされる。
【0054】
次いで、第2整列バンク巻き部分B2は、ワイヤ40のターン6~10によって形成される。第1整列バンク巻き部分B1における最終ターンである上層側のターン5の巻回の後、ワイヤ40は下層側へ移行され、そこでターン6~8が巻芯部2上で螺旋状に巻回される。次いで、ワイヤ40が約1.5ターン分戻され、戻り部分を除いて、下層側のターン6~8の各間に形成される凹部に、上層側のターン9および10が嵌り込むように、ワイヤ40が巻回される。ここでも、戻り部分は、巻芯部2における図3に示した辺S1を与える第1側面P1に沿う位置で生じるようにされる。
【0055】
詳細な説明を省略するが、第3整列バンク巻き部分B3および第4整列バンク巻き部分B4においても、上述した第1整列バンク巻き部分B1および第2整列バンク巻き部分B2の場合と同様の巻回態様が採用される。
【0056】
上述のように、巻芯部2のまわりに巻回されるワイヤ40、特に下層側のワイヤ40について、本件発明者は、実験および経験により、以下のような知見を得ている。
【0057】
すなわち、ワイヤが太くなるほど、ワイヤの剛性が増し、より曲げにくくなるため、巻芯部の周面から浮かせずに巻回することがより困難になる。しかし、ワイヤを巻芯部の周面から浮かせずに巻回することを可能にする、ワイヤの直径と巻芯部の角部分の曲率半径との関係が存在するはずである。このような推定のもと、上記関係を追及したところ、巻芯部の角部分がワイヤの直径の0.75倍以上の曲率半径の曲面を有していれば、巻芯部の周面から浮かせずに、ワイヤを巻回できることがわかった。
【0058】
他方、角部分の曲率半径が大きすぎると、巻芯部の断面形状が円形または楕円形である場合に近づく。したがって、前述したように、整列状態でバンク巻きされるとき、下層ではワイヤは安定した巻回状態を得ることができるが、ワイヤを下層から上層へ移行させるためにワイヤの進行方向を逆に向ける戻り部分Rの起点を、巻芯部の周方向での一定の位置に落ち着かせることが困難となる問題に遭遇する。よって、角部分の好ましい曲率半径には上限があり、その上限はワイヤの直径の2倍であることがわかった。
【0059】
以上の点を総合すると、ワイヤの直径Dと巻芯部の角部分の曲率半径rとの間で、
0.75D≦r≦2D
の関係が成り立てば、巻芯部の周面から浮かせずに、言い換えると、巻芯部の周面に密着させた状態で、ワイヤを巻回でき、かつ整列バンク巻きでの戻り部分Rを巻芯部の周方向での一定の位置に落ち着かせることができることがわかった。
【0060】
しかし、上記実施形態の場合、巻芯部2の角部分C1~C4は、単純なアール面を形成するのではなく、周方向に連なる2つのアール面、すなわち、第1アール面R1および第2アール面R2を形成している。そこで、図8(A)に示す半径rを有する(1/4)円の面積であるπr/4と、図8(B)に示す長径の(1/2)がWおよび短径の(1/2)がTであり、かつ第1アール面R1および第2アール面R2を含む(1/4)楕円の面積であるπWT/4とが等しくなるとき、すなわち、
πr/4=πWT/4
となるときのrを、巻芯部2の角部分C1~C4の曲率半径と見なした。すなわち、この式から、
=WT
の関係を導き出した。よって、巻芯部2の角部分C1~C4の見なし曲率半径rを、
r=(WT)0.5
とすることができる。
【0061】
したがって、直径が100μm以上といった比較的太いワイヤであっても、巻芯部の周面から浮かせずに巻回できるようにするには、見なし曲率半径(WT)0.5をワイヤの直径の0.75倍以上であればよく、ワイヤの直径をDとすると、
0.75D≦(WT)0.5
の関係が成り立てばよいことになる。
【0062】
他方、ワイヤを整列状態でバンク巻きしたとき、ワイヤを下層から上層へ移行させるためにワイヤの進行方向を逆に向ける起点を、巻芯部の周方向での一定の位置に落ち着かせることを可能にするには、見なし曲率半径(WT)0.5をワイヤの直径の2倍以下であればよく、ワイヤの直径をDとすると、
(WT)0.5≦2D
の関係が成り立てばよいことになる。
【0063】
以上の点を総合すると、ワイヤの直径Dと巻芯部の角部分の見なし曲率半径r=(WT)0.5との間で、
0.75D≦(WT)0.5≦2D
の関係が成り立てばよいことになる。
【0064】
したがって、上述した条件を満たすことにより、ワイヤ40をバンク巻きにした場合、下層のワイヤ40が巻芯部2の軸線方向にずれにくくすることができる。また、ワイヤ40を下層から上層へ移行させるため、螺旋状に巻回されたワイヤ40の進行方向とは逆の方向に戻す起点を、巻芯部2の周方向での一定の位置に落ち着かせることが容易である。したがって、安定したバンク巻きを実現することができる。
【0065】
なお、図8(B)からわかるように、上記Wは、隣り合う2つの辺、より具体的には、たとえば第4の辺S4および第1の辺S1の各々の延長線が交わる仮想の交点Vから、一方の辺、たとえば第4の辺S4までの距離に相当し、上記Tは、他方の辺、たとえば第1の辺S1までの距離に相当する。
【0066】
なお、この実施形態では、図8(B)に示されるように、W>Tとなっているが、W<Tであっても、W=Tであってもよい。
【0067】
また、この実施形態では、たとえば図4からわかるように、第1アール面R1の曲率半径r1は第2アール面R2の曲率半径r2より大きいが、この大小関係は逆でもよく、また、両者の曲率半径r1およびr2は互いに等しくてもよい。
【0068】
上記の距離WおよびTならびに曲率半径r1およびr2の各々の調整は、成形工程で用いるパンチ15および16の設計変更または研磨工程での研磨度合いの変更などにより、任意に行なうことができる。
【0069】
以下、図7に対応する図9ないし図12をそれぞれ参照して、この発明の第2ないし第5の実施形態について説明する。図9ないし図12において、図7に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。なお、以下の説明は、巻芯部2の第1の角部分C1について行ない、巻芯部2の第2ないし第4の角部分C2~C4については、第1の角部分C1の場合と同様であるので、説明を省略する。
【0070】
図9に示した実施形態は、以下の点で、図7に示したものと異なる。図7に示した実施形態では、特に図7(B)によく示されているように、研磨後においても、肩部31の上面に比較的広く平坦部が残されていたが、図9に示した実施形態では、特に図9(B)によく示されているように、研磨後において、肩部31の上面に平坦部がほとんど残されていない。
【0071】
なお、肩部31~34の上面、すなわち、第1アール面R1と第2アール面R2との間に残される平坦面の境界は、必ずしも明瞭でない場合もあるので、平坦面の大きさの上限を規定することは困難であるが、一応の目安として、角部分C1~C4の前述した見なし曲率半径(WT)0.5またはアール面R1の曲率半径が平坦面の大きさの上限とされる。
【0072】
図10に示した実施形態では、特に図10(A)および(B)によく示されているように、成形工程の段階で、第1アール面R1から肩部31へと延びる勾配面45が形成されている。また、特に図10(B)によく示されているように、研磨後において、肩部31の上面に比較的広く平坦部が残されている。
【0073】
図11に示した実施形態では、特に図11(A)および(B)によく示されているように、成形工程の段階で、第1アール面R1から肩部31へと延びる勾配面46が形成されている。また、特に図11(B)によく示されているように、研磨後において、肩部31の上面に平坦部がほとんど残されていない。
【0074】
図12に示した実施形態では、図10および図11に示した各実施形態の場合と同様、特に図12(A)および(B)によく示されているように、第1アール面R1から肩部31へと延びる勾配面47が形成されている。しかし、この実施形態では、勾配面47が第1アール面R1と一体化され、第1アール面R1に吸収されている。
【0075】
以上のような第2ないし第5の実施形態は、成形工程で用いるパンチ15および16の設計変更によって対応することができる。
【0076】
以上、この発明を図示した実施形態に関連して説明したが、図示した各実施形態は、例示的なものであり、いくつかの点で種々に変更可能である。
【0077】
たとえば、断面が四角形の巻芯部の場合、4つの角部分のすべてに、この発明の特徴となる第1アール面および第2アール面が形成されるのではなく、単に1つの角部分にのみ、第1アール面および第2アール面が形成されているだけでも、ワイヤを安定して巻回できる効果を期待できる。したがって、第1アール面および第2アール面が形成されるのは、少なくとも1つの角部分であればよい。
【0078】
また、すべての角部分に同じ曲率半径のアール面が形成されるのではなく、角部分ごとに異なる曲率半径のアール面が形成されていてもよい。
【0079】
また、図示した実施形態では、断面が四角形の巻芯部が例示され、断面上で四角形を構成する4つの辺の隣り合うものの間でなす内角が90度であったが、この発明が適用されるのは、コアの巻芯部の断面が四角以上の多角形であって、複数の辺の隣り合うものの間でなす内角が90度以上かつ120度未満である角部分を備えるものであればよい。なお、内角が120度となるのは、正六角形であるが、正六角形の角部分の内角より小さい内角を有する角部分において、この発明の特徴的構成が有利に採用される。
【0080】
また、図示した実施形態では、ワイヤ40が整列バンク巻きにされたが、ワイヤが単層巻きにされたインダクタ部品にも、この発明を適用することができる。
【0081】
また、図示した実施形態では、インダクタ部品1は2つの端子電極41および42を備えるものであったが、4つ以上の端子電極を備えるインダクタ部品にも、この発明を適用することができる。
【0082】
また、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 インダクタ部品
2 巻芯部
3 コア
4,5 鍔部
11 成形装置
12 セラミック粉末
13 キャビティ
14 ダイ
15 上パンチ
16 下パンチ
17 成形体
19~22 第1~第4型面
23~26 第1~第4凹面
27~30 第1~第4平坦面
31~34 第1~第4肩部
35 間隙
36 バリ
40 ワイヤ
41,42 端子電極
S1~S4 辺
C1~C4 角部分
R1 第1アール面
R2 第2アール面
P1 第1側面
P2 第2側面
P3 上面
P4 下面
V 交点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12