(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】電極材料、点火プラグ用電極、及び点火プラグ
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20220913BHJP
H01T 13/39 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C22C19/05 J
H01T13/39
(21)【出願番号】P 2019519061
(86)(22)【出願日】2018-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2018004116
(87)【国際公開番号】W WO2018211752
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2017100387
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】太田 肇
(72)【発明者】
【氏名】上原 泰久
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/093003(WO,A1)
【文献】特開2003-197347(JP,A)
【文献】特表平10-511804(JP,A)
【文献】特開平05-013148(JP,A)
【文献】特開2013-127911(JP,A)
【文献】特開2013-033713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00-19/07
H01T 13/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを96質量%以上含むニッケル基材料からなる芯線と、前記芯線の外周面を覆い、前記芯線の端面を覆わずに露出させる外皮部とを含む複合材を備え、
前記外皮部は
、ニッケル合金からなり、
前記複合材の比抵抗は、50μΩ・cm未満であり、
前記外皮部をなす前記ニッケル合金の結晶粒径に対する前記芯線をなす前記ニッケル基材料の結晶粒径の比率が5以上であ
り、
前記外皮部をなす前記ニッケル合金は、質量%で、
Siを0.1%以上1.5%以下、
Mnを0.1%以上0.6%以下、
Crを10%以上30%以下、
Alを0.1%以上6%以下、
Feを0.01%以上12%以下、
Tiを0.01%以上0.6%以下、
Cを0%超0.1%以下含有し、残部がNi及び不可避不純物である、
電極材料。
【請求項2】
前記複合材の横断面において、前記複合材の断面積に占める前記外皮部の断面積の面積割合は、0.4以上0.7以下である請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記芯線と前記外皮部との間にNiの含有量が傾斜的に変化する拡散層を含む請求項1又は請求項2に記載の電極材料。
【請求項4】
前記芯線をなす前記ニッケル基材料、及び前記外皮部をなす前記ニッケル合金の少なくとも一方は、希土類元素を合計で0.01質量%以上0.7質量%以下含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項5】
前記芯線をなす前記ニッケル基材料は、質量%で、
Siを0.01%以上1.5%以下、
Mnを0%以上1.5%以下、
Crを0.001%以上1.5%以下、
Alを0.001%以上0.5%以下、
Feを0.01%以上1.5%以下、
Tiを0%以上0.5%以下含有し、残部がNi及び不可避不純物である請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の電極材料からなる、
点火プラグ用電極。
【請求項7】
請求項
6に記載の点火プラグ用電極を備える、
点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料、点火プラグ用電極、及び点火プラグに関する。本出願は、2017年05月19日出願の日本出願第2017-100387号に基づく優先権を主張し、上記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などのエンジン部品の一つに点火プラグ(スパークプラグ)がある。特許文献1は、点火プラグに備える電極に適した電極材料として、特定の組成のニッケル合金からなるものを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
[課題を解決するための手段]
本開示の電極材料は、
Niを96質量%以上含むニッケル基材料からなる芯線と、前記芯線の外周面を覆い、前記芯線の端面を覆わずに露出させる外皮部とを含む複合材を備え、
前記外皮部は、Crを10質量%以上30質量%以下、Alを0.1質量%以上6質量%以下含むニッケル合金からなり、
前記複合材の比抵抗は、50μΩ・cm未満である。
【0005】
本開示の点火プラグ用電極は、
上記の本開示の電極材料からなる。
【0006】
本開示の点火プラグは、
上記の本開示の点火プラグ用電極を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の電極材料を示す概略斜視図である。
【
図2】実施形態の電極材料からなる点火プラグ用電極を備える点火プラグを示す概略構成図であり、電極近傍を示す。
【
図3】試験例1において密着性の評価に使用する試料片の説明図である。
【
図4】試験例1において密着性の評価のために行った冷熱サイクル試験後に、試料No.1-1の線材の断面を顕微鏡観察した顕微鏡写真である。
【
図5】試験例1において密着性の評価のために行った冷熱サイクル試験後に、試料No.1-111の線材の断面を顕微鏡観察した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[発明が解決しようとする課題]
上述の点火プラグに備える電極やその電極材料に対して、耐火花消耗性と耐酸化性との双方により優れることが望まれている。
【0009】
特許文献1に記載の電極材料は、特定の組成のニッケル合金からなるものとすることで、耐高温酸化性、耐火花消耗性に優れるとする。昨今、上記点火プラグの電極をより細くすること(断面積を小さくすること)が要求されている。このような要求に対応できる点火プラグ用電極を得るためには、耐火花消耗性と耐酸化性との双方により優れる電極材料が望まれる。
【0010】
そこで、本発明は耐火花消耗性と耐酸化性との双方に優れる電極材料を提供することを目的の一つとする。また、本発明は耐火花消耗性と耐酸化性との双方に優れる点火プラグ用電極、及び点火プラグを提供することを別の目的の一つとする。
【0011】
[発明の効果]
本開示の電極材料、点火プラグ用電極、及び点火プラグは、耐火花消耗性と耐酸化性との双方に優れる。
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係る電極材料は、
Niを96質量%以上含むニッケル基材料からなる芯線と、前記芯線の外周面を覆い、前記芯線の端面を覆わずに露出させる外皮部とを含む複合材を備え、
前記外皮部は、Crを10質量%以上30質量%以下、Alを0.1質量%以上6質量%以下含むニッケル合金からなり、
前記複合材の比抵抗は、50μΩ・cm未満である。
【0013】
上記の電極材料は、単一材料からなるものではなく、複数の異なる材料からなる多層構造の複合材を備える。複合材のうち、内側に位置する芯線は、Niの含有量が多いニッケル基材料からなるため、導電性に優れて比抵抗が小さい。複合材のうち、外側に位置する外皮部は、Cr及びAlを特定の範囲で含むニッケル合金からなるため、耐酸化性に優れる。比抵抗が小さい芯線の具備によって、外皮部のみの組成からなる電極材料と比較して、複合材の比抵抗を小さくできる。耐酸化性に優れる外皮部の具備によって、芯線のみの組成からなる電極材料と比較して、複合材は耐酸化性に優れる。芯線の外側に外皮部が存在して芯線を外部環境から保護できることからも、複合材は耐酸化性に優れる。更に、芯線と外皮部との双方がNiを主成分とし、主成分が共通するため、芯線と外皮部とが密着し易い。このような上記の電極材料は、外皮部に比較して酸化し易い芯線が複合材の端面から露出されているものの、この端面から、芯線と外皮部との界面に沿って、複合材の内部に酸化が進行することを抑制できる。このことからも、上記の電極材料は耐酸化性に優れる。以上のことから、上記の電極材料によれば、比抵抗が小さく、耐火花消耗性に優れる上に、耐酸化性にも優れる点火プラグ用電極を形成できる。
【0014】
また、上記の電極材料によれば、芯線が上記ニッケル基材料からなるため、熱伝導性にも優れる。更に、上記の電極材料は、その端面に芯線が露出されているため、端面が外皮部の構成材料で覆われる場合と比較して、複合材の全長に亘って均一的に熱を伝えられる。このような上記の電極材料は、その内部に熱が籠り難く、高温に保持されることに起因する強度の低下も低減でき、高温強度にも優れる。従って、上記の電極材料によって、端面に芯線が露出された点火プラグ用電極を形成すれば、この電極は、その端面からその全長に亘って均一的に熱伝導を行えて、熱ひけ性にも優れる。更に、上記の電極材料によれば、芯線のNiの含有量が多いものの、芯線を覆う外皮部にCrを比較的多く含むため、耐食性にも優れる。上述のように芯線と外皮部との密着性に優れており、複合材の端面から芯線と外皮部との界面に沿って、複合材の内部に腐食が進行することを抑制できることからも、上記の電極材料は、耐食性に優れる。
【0015】
(2)上記の電極材料の一例として、
前記複合材の横断面において、前記複合材の断面積に占める前記外皮部の断面積の面積割合は、0.4以上0.7以下である形態が挙げられる。以下、上記の面積割合を外皮割合と呼ぶことがある。上記横断面とは、複合材又は芯線の軸方向に直交する面を切断面として、複合材を切断したときの断面をいう。
【0016】
上記形態は、外皮割合が上述の特定の範囲であるため、前記複合材は外皮部の具備による耐酸化性に優れること、及び芯線の具備による耐火花消耗性に優れることの双方の効果をバランスよく有する。また、上記形態は、外皮割合が大き過ぎず、製造過程で加工性に優れ、複合材の製造性にも優れる。
【0017】
(3)上記の電極材料の一例として、
前記外皮部をなす前記ニッケル合金の結晶粒径に対する前記芯線をなす前記ニッケル基材料の結晶粒径の比率が5以上である形態が挙げられる。以下、上記の比率を比率(芯線/外皮)と呼ぶことがある。
【0018】
上記形態は、芯線をなすニッケル基材料が相対的に粗大な結晶粒からなり、外皮部をなすニッケル合金が相対的に微細な結晶粒からなるといえる。芯線が粗大な結晶組織からなることで、比抵抗を小さくし易い。外皮が微細な結晶組織からなることで、耐酸化性を高め易い。即ち、芯線は、組成だけでなく組織からも比抵抗を小さくでき、外皮は、組成だけでなく組織からも耐酸化性を高められる。従って、上記形態は、比抵抗が小さく、耐火花消耗性により優れる上に、耐酸化性にもより優れる。
【0019】
(4)上記の電極材料の一例として、
前記芯線と前記外皮部との間にNiの含有量が傾斜的に変化する拡散層を含む形態が挙げられる。拡散層の詳細は後述する。
【0020】
上記形態は、拡散層の具備によって、芯線と外皮部との密着性により優れる。従って、上記形態は、上述のように内部への酸化の進行や腐食の進行をより抑制し易く、耐酸化性により優れる。
【0021】
(5)上記の電極材料の一例として、
前記芯線をなす前記ニッケル基材料、及び前記外皮部をなす前記ニッケル合金の少なくとも一方は、希土類元素を合計で0.01質量%以上0.7質量%以下含む形態が挙げられる。
【0022】
上記形態は、希土類元素(1種でも2種以上でもよい)を上述の特定の範囲で含むため、芯線や外皮部の耐酸化性をより高められる。
【0023】
(6)上記の電極材料の一例として、
前記外皮部をなす前記ニッケル合金は、質量%で、
Siを0.1%以上1.5%以下、
Mnを0.1%以上0.6%以下、
Crを10%以上30%以下、
Alを0.1%以上6%以下、
Feを0.01%以上12%以下、
Tiを0.01%以上0.6%以下含有し、残部がNi及び不可避不純物である形態が挙げられる。
【0024】
上記形態は、Cr及びAlに加えて、Si,Mn,Fe,Tiを上述の特定の範囲で含むニッケル合金からなる外皮部を備えるため、耐酸化性により優れる。
【0025】
(7)上記の電極材料の一例として、
前記芯線をなす前記ニッケル基材料は、質量%で、
Siを0.01%以上1.5%以下、
Mnを0%以上1.5%以下、
Crを0.001%以上1.5%以下、
Alを0.001%以上0.5%以下、
Feを0.01%以上1.5%以下、
Tiを0%以上0.5%以下含有し、残部がNi及び不可避不純物である形態が挙げられる。
【0026】
上記形態は、Si,Cr,Al,Fe、適宜Mn,Tiを上述の特定の範囲で含むニッケル基材料からなる芯線を備えるため、上述の元素の含有による比抵抗の増大及び熱伝導性の低下を抑制して耐火花消耗性、熱伝導性に優れる上に、耐酸化性もある程度高められ、耐酸化性により優れる。
【0027】
(8)本発明の一態様に係る点火プラグ用電極は、
上記(1)から(7)のいずれか1つの電極材料からなる。
【0028】
上記の点火プラグ用電極は、上述の特定の複合材を備える電極材料からなるため、上述のように比抵抗が50μΩ・cm未満と小さく、耐火花消耗性に優れる上に、耐酸化性にも優れる。上記の点火プラグ用電極は、その端面に上記複合材に備える芯線が露出されたものとすることができる。端面に芯線が露出されていても、上述のように芯線とその外周面を覆う外皮部との密着性に優れて内部に酸化が進行し難く、上記の点火プラグ用電極は、耐酸化性に優れる。
【0029】
また、上記の点火プラグ用電極は、上述のように、その端面に芯線が露出されることで、この端面から電極の全長に亘って均一的な熱伝導を行えて、熱ひけ性にも優れる。更に、上記の点火プラグ用電極は、上述のように、芯線を外皮部で覆うと共に、芯線と外皮部との密着性に優れるため、耐食性にも優れる。
【0030】
(9)本発明の一態様に係る点火プラグは、 上記(8)の点火プラグ用電極を備える。
【0031】
上記の点火プラグは、上記の点火プラグ用電極を備えるため、上述のように耐火花消耗性に優れる上に、耐酸化性にも優れる。
【0032】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施形態を具体的に説明する。元素の含有量は、断りが無い限り質量%とする。
【0033】
[電極材料]
(概要)
実施形態の電極材料1は、
図1に示すように、内外の二層構造の金属線材である。この電極材料1は、自動車などのエンジンに利用される点火プラグ2(
図2)に備える電極20(同)に利用される。実施形態の電極材料1は、芯線11と、芯線11の外周面を覆い、芯線11の端面を覆わずに露出させる外皮部12とを含む複合材10を備える。芯線11と外皮部12とはいずれも、異なる組成の金属からなるものの、Niを主成分(含有質量が最も多い成分)とする。芯線11は、Niを96質量%以上含むニッケル基材料からなる。外皮部12は、Crを10質量%以上30質量%以下、Alを0.1質量%以上6質量%以下含むニッケル合金からなる。実施形態の電極材料1では、複合材10の比抵抗が50μΩ・cm未満である。
【0034】
(組成)
電極材料1をなす複合材10は、芯線11及び外皮部12の双方がNiを主成分とする。そのため、芯線11と外皮部12との界面近傍に異質相が形成され難く、両者の密着性に優れる。特に、芯線11をなすニッケル基材料は、Niの含有量を96質量%以上とするため、比抵抗が小さく、複合材10の比抵抗を小さくすることに寄与する。Niの含有量が多いことで、熱伝導性にも優れ、複合材10の熱ひけ性も高められる上に、塑性加工性にも優れ、二層構造の複合材10を製造し易い。一方、外皮部12をなすニッケル合金は、耐酸化性の向上に寄与するCr及びAlを特定の範囲で含むため、複合材10の耐酸化性の向上に寄与する。実施形態の電極材料1は、耐酸化性に劣る芯線11を外皮部12で覆うことで芯線11の酸化を抑制し、芯線11の具備による上述の効果を適切に得られる。かつ、実施形態の電極材料1は、複合材10の比抵抗が50μΩ・cm未満を満たす範囲で外皮部12の組成や複合材10における外皮部12の占有割合(後述の外皮割合)などを調整することで、Crを多めに含んで比抵抗が高くなり易い外皮部12を備えるものの、耐火花消耗性に優れる。
【0035】
〈芯線〉
芯線11をなすニッケル基材料は、Niの含有量が96質量%以上である種々の組成のニッケル合金、又は純ニッケルが挙げられる。Niの含有量が多いほど、比抵抗を小さくし易く、Niの含有量を96.5質量%以上、更に97質量%以上とすることができる。
【0036】
芯線11をなすニッケル基材料として、例えば、以下の組成(1)のニッケル合金が挙げられる。各元素の含有効果については後述する(Cr,Alは外皮部の項参照)。以下に列挙する元素はいずれも、その含有量が少ないほど比抵抗を小さくし易い傾向にあったり、熱伝導性を高め易い傾向にあったりする。上記含有量が多いほど耐酸化性や高温強度などを高め易い傾向にある(後述する外皮部12をなすニッケル合金に含む各元素についても同様)。
【0037】
組成(1) Siを0.01質量%以上1.5質量%以下、Mnを0質量%以上1.5質量%以下、Crを0.001質量%以上1.5質量%以下、Alを0.001質量%以上0.5質量%以下、Feを0.01質量%以上1.5質量%以下、Tiを0質量%以上0.5質量%以下含有し、残部がNi及び不可避不純物である。
更に、希土類元素を合計で0.01質量%以上0.7質量%以下含むことができる。希土類元素はY,ランタノイド(例、La,Ce,Yb)などが挙げられ、1種又は2種以上の元素を含むことができる(後述する外皮部12をなすニッケル合金においても同様である)。
上記の組成(1)のニッケル合金は、Mn,Ti,希土類元素を必須としない。芯線11をなすこのニッケル合金は、上記に示すように必須元素を少なくし、各元素の含有量も後述する外皮部12よりも少なめにするため、比抵抗が小さい。かつ、上記の元素を上述の特定の範囲で含むことで、耐酸化性にもある程度優れる。
【0038】
上記の組成(1)のニッケル合金における各元素の含有量は、比抵抗の低減、熱伝導性や耐酸化性の向上などを期待して、以下のようにすることができる。
Si:0.03質量%以上1.3質量%以下、更に0.05質量%以上1.2質量%以下
Mn:0.01質量%以上1.3質量%以下、更に0.1質量%以上1.2質量%以下 Cr:0.001質量%以上1.4質量%以下、更に0.001質量%以上1.3質量%以下
Al:0.001質量%以上0.4質量%以下、更に0.001質量%以上0.3質量%以下
Fe:0.02質量%以上1.3質量%以下、更に0.03質量%以上1.2質量%以下
Ti:0.01質量%以上0.5質量%以下、更に0.03質量%以上0.3質量%以下
希土類元素:合計で0.05質量%以上0.68質量%以下、更に0.08質量%以上0.65質量%以下
【0039】
〈外皮部〉
外皮部12をなすニッケル合金は、Cr及びAlを必須元素とする。また、このニッケル合金は、芯線11をなすニッケル基材料よりもNiの含有量が少ないものの、Niを50質量%超、代表的には60質量%以上含み、Niを主成分とする。
Crは、酸化抑制効果、特に内部酸化の抑制効果を有する上に、Alよりも比抵抗を増大させ難い。そこで、外皮部12をなすニッケル合金は、Crの含有量を10質量%以上とし、Crを多めに含む。また、Crは耐食性の向上効果も有する。Crの含有量が多いほど、耐酸化性や耐食性に優れ、Crの含有量を12質量%以上、更に13質量%以上、14質量%以上とすることができる。Crの含有量を30質量%以下とすることで、比抵抗の増大を低減する。
Crの含有量が少ないほど、比抵抗を小さくし易く、Crの含有量を29質量%以下、更に28質量%以下、27質量%以下とすることができる。
【0040】
Alは、酸化抑制効果が高い元素である。Alを含むと、電極材料1からなる点火プラグ用電極を点火プラグとして使用した際、電極の表面にAlを含む酸化物(酸化膜)を事後的に生成できる。この酸化膜によって電極内部への酸化を抑制し易い。Alと共にSiを含有すると、AlやSiを含む酸化膜を形成し易く、酸化抑制効果を更に高められる。Alの含有量を0.1質量%以上とすることで、高い酸化抑制効果を有する。Alの含有量が多いほど、耐酸化性に優れ、Alの含有量を0.2質量%以上、更に2.5質量%以上とすることができる。Alの含有量を6質量%以下とすることで、比抵抗の増大や、酸化膜の厚膜化に起因する酸化膜の剥離や損傷などを低減でき、酸化膜の具備による酸化抑制効果を有し易い。Alの含有量が少ないほど、比抵抗を小さくし易く、上記酸化膜の厚膜化などを低減し易いため、Alの含有量を5.5質量%以下、更に5質量%以下とすることができる。
【0041】
外皮部12をなすニッケル合金として、例えば、以下の組成(2)が挙げられる。
組成(2) Siを0.1質量%以上1.5質量%以下、Mnを0.1質量%以上0.6質量%以下、Crを10質量%以上30質量%以下、Alを0.1質量%以上6質量%以下、Feを0.01質量%以上12質量%以下、Tiを0.01質量%以上0.6質量%以下含有し、残部がNi及び不可避不純物である。
更に、希土類元素を合計で0.01質量%以上0.7質量%以下含むことができる。
上記の組成(2)のニッケル合金は、Cr,Alの他、Si,Mn,Fe,Tiを必須とする。外皮部12をなすこのニッケル合金は、必須元素を多くすると共に、各元素を芯線11よりも多めに含有するため、耐酸化性に優れる。
【0042】
上記の組成(2)のニッケル合金における各元素の含有量は、比抵抗の低減、熱伝導性や耐酸化性の向上などを期待して、以下のようにすることができる。
Si:0.15質量%以上1.3質量%以下、更に0.2質量%以上1.2質量%以下 Mn:0.2%質量以上0.55質量%以下、更に0.3質量%以上0.5質量%以下 Fe:0.02質量%以上11.5質量%以下、更に0.03質量%以上11質量%以下
Ti:0.02質量%以上0.55質量%以下、更に0.03質量%以上0.5質量%以下
希土類元素:合計で0.1質量%以上0.65質量%以下、更に0.2質量%以上0.6質量%以下
【0043】
<各元素の添加効果>
Siは酸化抑制効果が高い元素であり、耐酸化性を高められる。上述のように事後的に酸化膜を生成して、電極内部への酸化を抑制し易い。Siの含有量が多いほど、酸化膜の形成による酸化抑制効果を得易い。Siの含有量を上述の上限値以下とすることで、比抵抗の増大や、酸化膜の厚膜化に起因する酸化膜の剥離や損傷などを低減できる。
【0044】
Mnは、酸化抑制効果、特に内部酸化の抑制効果があり、上述の範囲で含有することで耐酸化性を高められる。Mnの含有量が多いほど、耐酸化性を高め易い。Mnの含有量を上述の上限値以下とすることで、比抵抗の増大を低減できる。
【0045】
Feを含有すると、熱間加工性が向上し、製造性に優れる。Feの含有量が多いほど、熱間加工性を高め易い。Feの含有量を上述の上限値以下とすることで、比抵抗の増大を低減したり、点火プラグの使用温度での強度の低下を低減したりすることができる。
【0046】
Tiは、上述の範囲で含有すると、結晶微細化効果がある。微細な結晶組織であると、結晶粒界の合計長を長くできて、内部酸化を抑制し易く、耐酸化性を高め易い。外皮部12がTiを含むニッケル合金からなると、微細な結晶組織を有し易く、耐酸化性を高め易い。また、Tiは、Alの窒化物(AlN)の生成を抑制することからも、耐酸化性を高め易い。Alの窒化物が上述の酸化膜中に生成されて酸化膜を損傷することを抑制でき、酸化膜を維持し易いからである。Tiの含有量が多いほど、耐酸化性を高め易い。Tiの含有量を上述の上限値以下とすることで、比抵抗の増大を低減できる。
【0047】
希土類元素は、上述の範囲で含有すると、結晶微細化効果がある。結晶の微細化によって、上述のように内部酸化を抑制し易く、耐酸化性を高め易い。外皮部12が希土類元素を含むニッケル合金からなると、微細な結晶組織を有し易く、耐酸化性を高め易い。希土類元素の含有量が多いほど、耐酸化性を高め易い。希土類元素の含有量が上述の上限値以下であれば、比抵抗の増大を低減できる上に、塑性加工性の低下を抑制して、複合材10や電極の製造性にも優れる。
【0048】
その他、芯線11をなすニッケル基材料、及び外皮部12をなすニッケル合金は、C(炭素)を含有することができる。Cの含有量は0質量%超0.1質量%以下が挙げられる。Cを上述の範囲で含有することで、塑性加工性の低下を抑制しつつ、高温強度を高められる。Cの含有量が多いほど高温強度を高められ、少ないほど塑性加工性に優れ、複合材10や電極の製造性にも優れる。高温強度が求められる外皮部12では、Cの含有量を0.01質量%以上0.09質量%以下、更に0.02質量%以上0.08質量%以下とすることができる。また、外皮部12をなすニッケル合金は、芯線11よりCの含有量が多いと、高温強度を高め易い。芯線11では、Cの含有量を0.001質量%以上0.09質量%以下、更に0.005質量%以上0.08質量%以下とすることができる。
【0049】
(組織)
上述の芯線11をなすニッケル基材料及び外皮部12をなすニッケル合金はいずれも、代表的には、結晶組織を有する。実施形態の電極材料1からなる点火プラグ用電極の使用状態において外部環境に曝される外側に配置される外皮部12は、結晶粒がより小さいと、結晶粒界の合計長が長くなって酸素が内部に進入し難くなるため、耐酸化性を高め易い。一方、上述の使用状態において外皮部12よりも内側に配置される芯線11は、結晶粒がより大きいと、導電性に優れて比抵抗を小さくし易い上に、熱伝導性にも優れて熱ひけがよく、内部に熱が籠り難い。このような実施形態の電極材料1として、外皮部12をなすニッケル合金の結晶粒径に対する芯線11をなすニッケル基材料の結晶粒径の比率(芯線/外皮)が5以上である形態が挙げられる。結晶粒径の比率(芯線/外皮)が5以上であれば、芯線11をなすニッケル基材料の結晶粒径が相対的に大きく、比抵抗を小さくし易い上に、外皮部12をなすニッケル合金の結晶粒径が相対的に小さく、耐酸化性に優れる。結晶粒径の比率(芯線/外皮)が大きいほど、例えば5超、更に6以上、7以上、8以上であると、比抵抗をより小さく、耐酸化性をより高くし易い。芯線11及び外皮部12の組成だけでなく、組織をも調整することで、耐火花消耗性及び耐酸化性により優れる電極材料1とすることができる。
【0050】
芯線11をなすニッケル基材料の結晶粒径は、例えば、50μm以上500μm以下、更に100μm以上400μm以下程度が挙げられる。外皮部12をなすニッケル合金の結晶粒径は、例えば、10μm以上100μm以下、20μm以上60μm以下程度が挙げられる。
【0051】
上述の結晶粒の大きさを調整するには、例えば、上述の組成を調整したり、製造過程で熱処理条件を調整したりすることなどが挙げられる。例えば、上述の結晶微細化効果を有する元素(Ti、希土類元素など)を含有すると、製造条件にもよるが結晶を微細にし易い。又は、例えば、製造過程で熱処理を行う場合に熱処理温度を低めにすると、組成にもよるが結晶粒を微細にし易い。
【0052】
(界面状態)
本発明者らは、芯線11と外皮部12との間にNiの含有量が傾斜的に変化する拡散層13を含むと、密着性により優れるとの知見を得た。拡散層13とは、代表的には、芯線11をなすニッケル基材料と比較して、Niの含有量が芯線11側から外皮部12側に向かって少なくなっている領域であると共に、外皮部12をなすニッケル合金と比較して、Niの含有量が外皮部12側から芯線11側に向かって多くなっている領域である。このようにNi濃度が傾斜的に変化する領域は、芯線11及び外皮部12の構成成分が芯線11と外皮部12との界面近傍で拡散して生成されたものである。ここでは、この領域を拡散層13と呼ぶ。
【0053】
拡散層13の組成は、芯線11をなすニッケル基材料の組成とも、外皮部12をなすニッケル合金の組成とも異なる。そのため、拡散層13は、複合材10を適宜な方法で成分分析して、上述の界面近傍の組成と、芯線11の中心部の組成及び外皮部12の表面側の組成とを比較して、Niの含有量が異なる領域として抽出することが挙げられる。「芯線11の中心部の組成」とは、芯線11の輪郭形状における重心位置の組成とすることが挙げられる。例えば、芯線11の輪郭が
図1に示すように長方形状であれば、この長方形の対角線の交点近傍の組成を「芯線の中心部の組成」とすることが挙げられる。外皮部12の表面側の組成とは、例えば、外皮部12の最表面から外皮部12の厚さの20%程度までの地点における組成とすることが挙げられる。拡散層13の簡略的な抽出方法として、以下が挙げられる。複合材10の横断面をとり、芯線11と外皮部12との界面近傍を顕微鏡観察する。上述の組成の相違に起因して、拡散層13と芯線11及び外皮部12とは、色が異なって見える。色が異なり、芯線11と外皮部12とに挟まれる領域を拡散層13として抽出することが挙げられる。
【0054】
拡散層13は、代表的には、芯線11と外皮部12との界面に沿って、筒状に存在する。拡散層13の平均厚さt13が1μm超であると、密着性により優れる。平均厚さt13が1.2μm以上、更に1.5μm以上であると、密着性に更に優れる。平均厚さt13が10μm以下、更に8μm以下程度であれば、拡散層13の形成に伴う芯線11及び外皮部12の減少を低減できる。平均厚さt13とは、複合材10の横断面において、拡散層13を抽出し、拡散層13に対して芯線11の周方向に沿って等間隔に5点以上の測定点をとり、これら測定点の厚さの平均とすることが挙げられる。
【0055】
上述の拡散層13を形成するには、例えば、製造過程で、加工条件、熱処理条件などを調整することが挙げられる。製造条件の詳細は後述する。
【0056】
(比抵抗)
実施形態の電極材料1では、複合材10の室温(代表的には20℃程度)での比抵抗が50μΩ・cm未満である。複合材10の比抵抗が48μΩ・cm以下、更に46μΩ・cm以下、特に30μΩ・cm以下、25μΩ・cm以下、20μΩ・cm以下、15μΩ・cm以下と小さいほど、耐火花消耗性に優れる。
【0057】
複合材10は、比抵抗が大きめである外皮部12を備えるものの、比抵抗が小さめである芯線11も備えるため、上述のように複合材10全体として比抵抗が小さい。複合材10の比抵抗は、芯線11の組成、外皮部12の組成、上述の結晶粒径の比率(芯線/外皮)、後述の外皮割合などによって変化する。実施形態の電極材料1では、複合材10の比抵抗が50μΩ・cm未満を満たすように、上述の組成や比率、外皮割合などを調整する。例えば、芯線11として、Niの含有量がより多いものとしたり、比率(芯線/外皮)をある程度大きくしたり、外皮割合をより少なくしたりすると、比抵抗を小さくし易い。
【0058】
(外皮割合)
上述のように複合材10の比抵抗が50μΩ・cm未満を満たす範囲で、複合材10における芯線11と外皮部12との割合を調整できる。実施形態の電極材料1として、複合材10の横断面において、複合材10の断面積に占める外皮部12の断面積の面積割合(外皮割合)が0.4以上0.7以下である形態が挙げられる。外皮割合が0.4以上であれば、芯線11の割合が多過ぎることによる耐酸化性の低下を抑制でき、耐酸化性を高め易い。外皮割合を0.45以上、更に0.5以上とし、外皮部12の割合をより多くすれば耐酸化性をより高められる。外皮割合が0.7以下であれば、外皮部12の割合が多過ぎることによる比抵抗の増大を抑制でき、比抵抗を小さくし易い。外皮割合を0.65以下、更に0.6以下とし、外皮部12の割合をより少なくすれば比抵抗をより小さくし易い。
【0059】
外皮割合が所定の範囲となるように、製造過程では、最終的に芯線11となる素材と外皮部12となる素材との厚さ割合を調整したり、加工条件を調整したりすることが挙げられる。なお、外皮割合は、上記素材の組成に応じて、複合材10の比抵抗が50μΩ・cm未満を満たす範囲で選択する。
【0060】
(形状、大きさ)
実施形態の電極材料1は、横断面形状が長方形状である角線(
図1)、円形状である丸線などが挙げられる。電極材料1の外形(複合材10の外形であり、外皮部12の外形でもある)は、製造過程において伸線や圧延などの塑性加工を施すことで適宜変更できる。外皮部12がその周方向に均一的な厚さを有する筒状であれば、芯線11の横断面形状は、電極材料1の外形に相似な形状を有する。
【0061】
電極材料1の大きさ(断面積、線径など)は適宜選択できる。電極材料1が角線であれば、厚さtが1mm以上3mm以下程度、幅wが2mm以上4mm以下程度であることが挙げられる。電極材料1が丸線であれば、線径が2mm以上6mm以下程度であることが挙げられる。芯線11の大きさ(同)、外皮部12の厚さは、上述の外皮割合に応じた範囲をとり得る。
【0062】
実施形態の電極材料1は、その端面に芯線11が露出されている。このような電極材料1を用いることで、
図2に示すように、端面20eから芯線11が露出した電極20を形成できる。
【0063】
(電極材料の製造方法)
実施形態の電極材料1の製造には、例えば、以下の嵌合法を利用できる。ここでの嵌合法とは、最終的に芯線11となる素材線を用意し、最終的に外皮部12となる外皮素材を素材線に嵌合した状態で、伸線や圧延などの塑性加工を行う方法である。嵌合法の一例として、以下の準備工程、嵌合工程、加工工程を備えることが挙げられる。更に、加工工程後に熱処理を施す熱処理工程を備えると、上述の拡散層13を備える複合材10を製造できる。
【0064】
(準備工程)素材線の周囲に外皮素材を配置して、素材線の外周を外皮素材で覆った準備材を作製する工程。
(嵌合工程)準備材に塑性加工を施して準備材を締め付け、素材線の外周に外皮素材を嵌合した嵌合材を作製する工程。
(加工工程)所定の大きさ及び所定の形状となるように嵌合材に塑性加工を施して、芯線11の外周に外皮部12を備える加工材を作製する工程。
【0065】
以下、工程ごとに説明する。
〈準備工程〉
この工程では、上述の芯線11及び外皮部12の組成の項で説明した、所定の組成の素材線及び外皮素材を用意する。外皮素材は、テープやシート、線材、パイプなど種々の形態のものが利用できる。素材線や外皮素材をなす線材は、例えば、溶解→鋳造→熱間加工(圧延、鍛造、押出など)→冷間加工(伸線、圧延など)、適宜熱処理という工程を経て製造することが挙げられる。素材線や外皮素材の製造には、公知の金属線、金属板や金属シート、金属パイプの製造方法を参照することができる。
【0066】
素材線の外周に外皮素材を配置する手法として、例えば以下の手法が挙げられる。
(a)外皮素材をなすテープやシート、線材を素材線の周囲に巻く。
(b)外皮素材をなすパイプの中に素材線を挿通配置する。
(c)外皮素材をなす線材を素材線の周囲に軸方向に沿って縦添えする。
素材線の外周に外皮素材を配置した後、必要に応じて、外皮素材をなす複数の線材同士やシートの縁同士など、或いは素材線と外皮素材同士などを溶接やロウ付けといった各種の接合方法で接合すると、素材線と外皮素材とが位置ずれし難く、次の嵌合工程を行い易い。
【0067】
素材線や外皮素材を製造する際、例えば、溶解時や鋳造時の雰囲気を、大気雰囲気よりも酸素濃度が低い低酸素雰囲気(例えば、酸素濃度が10体積%以下)とすると、原料、特に希土類元素などの酸化を抑制し易い。
その他、冷間加工として、伸線後に圧延を行うことで、伸線材の外形を例えば丸線から角線などに変更できる。
また、冷間加工後に熱処理を行うと、熱処理材の加工性を高められて、その後の加工工程で塑性加工を行い易い。この熱処理条件は公知の条件(例えば特許文献1)を参照できる。
更に、素材線及び外皮素材の形状、大きさ(外寸、厚さなど)は、最終形状、最終の外寸、所定の外皮割合を満たす複合材10が得られるように、複合材10の横断面形状、次の加工工程の加工度、加工状態などに応じて選択するとよい。
【0068】
〈嵌合工程〉
嵌合工程では、準備材、特に外皮素材を準備材の外方から締め付けて、素材線と外皮素材とを一体化し、嵌合材とする。締付には、伸線や圧延などの塑性加工を利用できる。ここでの塑性加工は、外皮素材を素材線に密着させることが可能な程度に外皮素材を締め付けられる加工とすることが挙げられる。例えば、ここでの塑性加工として、一加工あたりの加工度(減面率)が比較的大きな加工とすること、具体的には20%超の減面率の加工とすることが挙げられる。
【0069】
〈加工工程〉
加工工程では、素材線や外皮素材が所定の形状、所定の大きさの芯線11及び外皮部12となるように、上述の一体化された嵌合材に伸線や圧延といった塑性加工を施す。この塑性加工は、冷間加工とすることができる。加工工程では、最終形状、最終寸法となるまで加工を繰り返し行うことができる。この場合、必要に応じて、加工と加工との間に熱処理を行う中間熱処理工程を備えることができる。中間熱処理を施すことで加工対象を軟化させて、次の加工を行い易くすることができる。
【0070】
〈熱処理工程〉
この工程では、加工工程で得た加工材に熱処理を施して、芯線11と外皮部12との界面近傍に上述の拡散層13を形成する。拡散層13を形成することで、上述のように芯線11と外皮部12との密着性により優れる。熱処理条件は、芯線11の組成、外皮部12の組成、上述の加工度などにもよるが、加熱温度を150℃以上1200℃以下程度、加熱時間を1秒以上20時間以下程度とすることが挙げられる。芯線11や外皮部12の組成、上述の加工度などにもよるが、加熱温度を150℃程度といった比較的低温とする場合には加熱時間を上記範囲で長めにし、加熱温度を1200℃程度と比較的高温とする場合には加熱時間を上記範囲で短めにすることができる。芯線11や外皮部12の組成、上述の加工度などにもよるが、上述の加工度をある程度大きくし、かつ加熱温度を上述の範囲で低めにするという条件、上述の加工度をある程度小さくし、かつ加熱温度を上述の範囲で高めにするという条件とすると、平均厚さが1μm超の拡散層13を得易い。その他、この熱処理によって、加工工程で導入された加工歪みを除去して複合材10の比抵抗を小さくしたり(耐火花消耗性の向上)、所定の形状の電極20に加工し易くしたりする(加工性の向上)という効果も期待できる。更に、上述の熱処理条件によって、結晶粒の大きさをある程度調整できる。上述の組成や加工度などにもよるが、加熱温度を低めにすると結晶粒を小さくし易い傾向にある。上述の組成(1)の芯線11、組成(2)の外皮部12を備える複合材10とする場合、更に組成(1)や組成(2)に希土類元素を上述の範囲で含む場合には、加熱温度を800℃以上、更に850℃以上1200℃以下とすることが挙げられる(試験例1参照)。
【0071】
(用途)
実施形態の電極材料1は、自動四輪車、自動二輪車といった自動車などのエンジンに用いられる点火プラグ2に備える電極の素材に利用できる。
【0072】
(主要な効果)
実施形態の電極材料1は、Niの含有量が多いニッケル基材料からなる芯線11の具備によって比抵抗が小さく、耐火花消耗性に優れ、Cr及びAlを特定の範囲で含むニッケル合金からなる外皮部12の具備によって、耐酸化性にも優れる。外皮部12によって芯線11の外周面を覆って、芯線11における外部環境に露出される領域を実質的に端面のみとし、芯線11の酸化を低減し易い構造であることからも、実施形態の電極材料1は耐酸化性に優れる。芯線11と外皮部12との主成分(Ni)が共通であるため、芯線11と外皮部12とが密着でき、電極材料1の端面から、芯線11と外皮部12との界面に沿って電極材料1の内部に酸化が進行し難いことからも、実施形態の電極材料1は耐酸化性に優れる。これらの効果を以下の試験例1で具体的に説明する。
【0073】
更に、実施形態の電極材料1は、Niの含有量が多く、熱伝導性に優れる芯線11を備えると共に、電極材料1の端面に芯線11を露出させており、電極材料1の全長に亘って均一的に熱を伝えられて、熱ひけ性にも優れる。そのため、電極材料1は内部に熱が籠り難く、高温強度の低下なども低減できる。
【0074】
[点火プラグ用電極]
実施形態の電極20は、
図2に示すように、点火プラグ2に用いられるものであり、上述の実施形態の電極材料1からなる。電極20は、電極材料1の組成、組織、比抵抗などの特性などを実質的に維持するため、比抵抗が50μΩ・cm未満と小さく、耐火花消耗性に優れる上に、耐酸化性にも優れる。
【0075】
実施形態の電極20は、代表的には、端面20eに芯線11と外皮部12との双方が露出される。電極20は、上述の特定の複合材10を備える実施形態の電極材料1からなるため、端面20eに芯線11が露出されていても、耐酸化性、耐食性に優れる。芯線11と外皮部12とは上述のように密着性に優れており、電極20の端面20eから、芯線11と外皮部12との界面に沿って、電極20の内部に酸化や腐食が進行することを抑制し易いからである。拡散層13を備える場合には、酸化や腐食が更に進行し難い。また、電極20の端面20eに芯線11が露出されていることで、電極20の端面20eから電極20の全長に亘って均一的に熱を伝えられるため、電極20は、熱ひけ性にも優れる。ここで、芯線11は、上述のようにNiの含有量が多いため、過度に高温に保持されると、軟化して曲がるなどの変形が生じる可能性がある。熱ひけ性に優れることで熱が籠り難く、上記軟化や変形を防止できる。なお、高温強度に優れる外皮部12を備えるため、仮に芯線11が軟化しても外皮部12によって電極20が変形することを防止できる。
【0076】
実施形態の電極20は、実施形態の電極材料1を適宜な長さに切断したり、切断した線材を所定の形状に成形したりすることで製造できる。実施形態の電極材料1からなる実施形態の電極20は、中心電極21、接地電極22、又はその両方に利用できる。
図2は、実施形態の電極材料1からなる接地電極22を例示する。接地電極22は、中心電極21に比較して、高温のガスなどに曝され易い。そのため、実施形態の電極材料1は、接地電極22の素材に好適である。
【0077】
[点火プラグ]
実施形態の点火プラグ2は、自動車などのエンジンに備えられて、燃料混合気体の点火などに利用されるものであり、実施形態の電極20を備える。点火プラグ2は、代表的には、棒状の中心電極21と、中心電極21の先端を突出させた状態で保持する絶縁体25と、絶縁体25の先端を突出させた状態で保持する主体金具26と、主体金具26の端面に溶接などで接合されるL字状の接地電極22とを備える。接地電極22は、その一端が主体金具26に接合され、他端側の領域が中心電極21の端面に対向するように屈曲されており、中心電極21との間で火花放電を行う。この放電によって、上述の点火を行う。
【0078】
実施形態の点火プラグ2は上述の実施形態の電極材料1からなる電極20を備えるため、耐火花消耗性に優れる上に、耐酸化性にも優れる。更に、上述のように耐食性、熱ひけ性にも優れる。
【0079】
[試験例1]
種々の組成、構造の電極材料を作製し、その特性を評価した。
【0080】
試料No.1-1~No.1-18は、芯線と、芯線の外周面を覆う外皮部とを備える二層構造の複合材からなる線材である。各線材は、上述の嵌合法によって製造する。概略を述べると、最終的に芯線をなす素材線と、最終的に外皮部をなす外皮素材とを用意し、素材線の外周に外皮素材を嵌合した後、冷間加工(ここでは伸線及び圧延)を施す。この冷間加工後に熱処理を施す。
試料No.1-101,No.1-102は、表1に示す組成のニッケル合金からなる単線であり、二層構造の複合材ではない。
【0081】
上述の素材線、外皮素材、及び単線はいずれも、溶解→鋳造→熱間加工→冷間加工、適宜熱処理という工程を経て製造する。
ここでは、通常の真空溶解炉を用いて、表1に示す組成のニッケル合金(外皮部、又は単線)の溶湯、表2に示す組成のニッケル基材料(芯線)の溶湯を作製する。溶湯の原料は、市販の純Ni及び各添加元素の粒を用いることができる。溶湯は精錬して不純物や介在物などを低減、除去する。ここでは、C(炭素)の含有量が表1に示す量となるように精錬具合を調整する。
組成の単位は質量%である。
表中「BAL.」は残部を意味し、ここではNi及び不可避不純物である。
表中「希土類」は希土類元素を意味する。ここでは、Yのみ、又はYとYbとを含む組成を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
得られた素材線の周囲に外皮素材を配置して、塑性加工を施して締め付けることで一体化した嵌合材に冷間加工を施す。ここでは、冷間加工として、冷間伸線後に冷間圧延を施す。冷間伸線の加工度は、冷間伸線後に得られる二層構造の伸線材が1mmφ~3mmφの外径を有する丸線になるように選択する。冷間圧延の加工度は、上記丸線が、幅0.5mm以上2.0mm以下×長さ1.5mm以上3.0mm以下の外寸を有する角線となるように選択する。最終的に得られる芯線と外皮部とを有する二層構造の複合材について、その横断面における複合材の断面積に占める外皮部の断面積の面積割合と、芯線の断面積の面積割合とが表2に示す断面積比率となるように、作製する素材線及び外皮素材の大きさ、上述の加工度などを調整する。
上記角線に最終熱処理を施し、得られた熱処理材を電極材料の試料とする。表3の試料No.1-1~No.1-18,No.1-111の最終熱処理は、加熱温度を800℃以上1200℃以下の範囲から選択し、保持時間を1秒以上2時間以下の範囲から選択する。雰囲気は、窒素雰囲気又は水素雰囲気とする。
【0085】
表3で試料No.1-1,No.1-111,No.1-112は、同じ組成、同じ大きさの素材線及び外皮素材を用いて、上述の最終熱処理の条件のみ異ならせた試料である。試料No.1-2,No.1-6は、試料No.1-1の最終熱処理の条件とは異なる条件とした試料である。ここでは、保持時間を同じとし、加熱温度を異ならせる。詳しくは、試料No.1-1の加熱温度を基準として、試料No.1-111は加熱温度を最も低くし(ここでは850℃未満)、試料No.1-6は加熱温度をある程度低くし(但し、ここでは850℃以上)、試料No.1-2は加熱温度をある程度高くしている。No.1-112は加熱温度を最も高くしており、上述の加熱温度の範囲外(1200℃超1300℃以下)としている。試料No.1-4は、試料No.1-1の最終熱処理の条件と同じ条件とした試料である。
【0086】
〈組成〉
各試料の電極材料の組成を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて調べたところ、表1,表2に示す組成と同様であり、表1,表2に示す元素を含み、残部がNi及び不可避不純物からなるものである。試料No.1-1~No.1-18,No.1-111,No.1-112の電極材料において、芯線のNiの含有量は96質量%以上である。表1,表2において「-(ハイフン)」又は「0」は、検出限界未満であり、実質的に含まないことを示す。組成の分析には、原子吸光光度法などを利用することができる。
【0087】
〈組織〉
各試料の電極材料について、外皮部をなすニッケル合金の結晶粒径に対する、芯線をなすニッケル基材料の結晶粒径の比率(芯線/外皮)を調べ、その結果を表3に示す。ここでは、試料の横断面を光学顕微鏡で観察し、この顕微鏡観察像に対して、交線法(ライン法)を利用して、芯線の平均結晶粒径と外皮部の平均粒径とをそれぞれ求める。ここでは、一つの測定線が切断する結晶粒の個数が10個以上となるように観察倍率などを調整する。芯線、外皮部のそれぞれについて、一つの横断面に測定線を5本以上とり、合計50個以上の結晶粒を抽出して、結晶粒径の平均を求める。結晶粒径の比率(芯線/外皮)として、芯線の平均結晶粒径/外皮部の平均結晶粒径を求める。表3では、一部の試料について、測定結果を示す。
【0088】
上述の比率(芯線/外皮)が5未満である場合、比率が小さく、芯線と外皮部との双方が粗大な結晶組織などを有するとしてBと評価する。比率(芯線/外皮)が5以上10未満である場合、比率が大きく、芯線が相対的に大きな結晶組織を有し、外皮部が相対的に微細な結晶組織を有するとしてGと評価する。比率(芯線/外皮)が10以上である場合、比率が更に大きく、芯線が相対的により大きな結晶組織を有し、外皮部が相対的により微細な結晶組織を有するとしてVGと評価する。評価結果も表3に示す。なお、この試験では、試料No.1-1~No.1-18の電極材料において、芯線の結晶粒径は50μm以上500μm以下程度であり、外皮部の結晶粒径は10μm以上100μm以下程度である。
【0089】
各試料の電極材料について、横断面をとり、この横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、芯線と外皮部との間に存在する拡散層の平均厚さ(μm)を調べ、その結果を表3に示す。ここでは、SEM観察像において、芯線と外皮部との間に両者と色が異なって見える領域を拡散層とする。このSEM観察像において、芯線の周方向に沿って等間隔に5点以上の測定点をとり、各測定点で拡散層の厚さを求め、これらの厚さの平均を拡散層の平均厚さとする。表3では、一部の試料について、測定結果を示す。
【0090】
なお、上述の色が異なって見える領域について、例えばSEMに付属されるエネルギー分散型X線分析(EDX)装置によって元素分析を行うと、芯線側から外皮部側に向かってNiの含有量が傾斜的に変化することが確認できる。元素分析によって拡散層を抽出することより高精度に拡散層の厚さを測定できる。上述のSEM観察像を用いると、拡散層の厚さを簡便に測定できる。
【0091】
〈比抵抗〉
各試料の電極材料の比抵抗(μΩ・cm)を測定し、その結果を表3に示す。比抵抗(室温)は、電気抵抗測定装置を用いて、直流四端子法により測定する。ここでは、標点距離GLを100mmとする。
【0092】
〈耐火花消耗性〉
各試料の電極材料において、上述の比抵抗(室温)が50μΩ・cm以上である場合、耐火花消耗性に劣るとしてB、50μΩ・cm未満である場合、耐火花消耗性に優れるとしてG、30μΩ・cm未満である場合、耐火花消耗性に非常に優れるとしてVGと評価する。この評価結果も表3に示す。
【0093】
〈耐酸化性〉
各試料の電極材料に、以下の冷熱サイクル試験を行い、試験前後の質量変化を調べ、その結果を表3に示す。ここでは、冷熱サイクル試験前の試験片の質量をW0、冷熱サイクル試験後の試験片の質量をW1とし、質量変化(%)を((W1-W0)/W0)×100として求める。質量変化がマイナス(-)である場合、試験後に質量が減少したことを意味する。質量変化がプラス(表3では数値のみ記載)である場合、試験後に質量が増加したことを意味する。
《冷熱サイクル試験》
1100℃で30分間加熱した後、室温で30分間冷却する、という冷熱サイクルを1サイクルとし、100サイクル繰り返す。
【0094】
上述の質量変化が減少である場合(マイナスである場合)、酸化膜が過度に形成されて剥離したなどと考えられ、耐酸化性に劣るとしてBと評価する。質量変化が5%超10%以下の増加である場合、酸化膜が適切に形成されていると考えられ、耐酸化性に優れるとしてGと評価する。質量変化が0%以上5%以下である場合、酸化膜がより適切に形成されていると考えられ、耐酸化性に非常に優れるとしてVGと評価する。評価結果も表3に示す。
【0095】
〈密着性〉
各試料の電極材料において、上述の冷熱サイクル試験を行い、芯線と外皮部との界面に沿った酸化の進行度合いを調べ、その結果を表3に示す。ここでは、
図3に示すように、試験片Sとして、各試料の電極材料である上述の角線であって、その端面に芯線11及び外皮部12が露出され、芯線11の外周面が外皮部12に覆われたものを用意して、上述の冷熱サイクル試験(100サイクル)を行う。そして、試験片Sの端面から芯線11と外皮部12との界面に沿って形成された酸化物の長さを測定する。
【0096】
ここでは、上記冷熱サイクル試験後、試験片Sにおいて、芯線11の軸方向に平行な平面(
図3のa-a切断線参照)で切断した縦断面をとり、この縦断面をSEMで観察する。このSEM観察像において、上記界面に沿った酸化物の長さ(酸化進行長さ、μm)を測定し、表3に示す。
図4に試料No.1-1のSEM観察像、
図5に試料No.1-111のSEM観察像を示す。ここでは、
図4,
図5に示すようにSEM観察像において、芯線11と外皮部12との間に介在して、芯線11及び外皮部12の両者と色が異なって見える領域を酸化物15とする。なお、上述の介在物について、例えば上述のSEM-EDX装置によって元素分析を行うと、酸化物であることが確認できる。元素分析によって酸化物を抽出すると、より高精度に酸化物の長さを測定できる。上述のSEM観察像を用いると、酸化物の長さを簡便に測定できる。酸化物の長さの測定には、SEM観察像に代えて、金属顕微鏡による観察像を利用することができる。金属顕微鏡によっても、上述の芯部と外皮部との色の相違を確認可能である。
【0097】
上述の酸化物の長さが500μm以上である場合、芯線と外皮部との密着性に劣り、界面近傍が酸化し易いとしてBと評価する。上記酸化物の長さが500μm未満である場合、芯線と外皮部との密着性に優れるとしてGと評価する。上記酸化物の長さが100μm以下である場合、芯線と外皮部との密着性に非常に優れるとしてVGと評価する。評価結果も表3に示す。
【0098】
〈総合評価〉
上述の各評価において、一つでもBがある場合、耐久特性に劣るとしてBと評価する。Bが無く、VGとGとを含む場合、耐久特性に優れるとしてGと評価する。全ての項目がVGである場合、耐久特性に非常に優れるとしてVGと評価する。この総合評価も表3に示す。
【0099】
【0100】
表3に示すように、芯線と外皮部とを備える複合材からなる試料No.1-1~No.1-18の電極材料(以下、複合材試料群と呼ぶことがある)は、単線からなる試料No.1-101,No.1-102に比較して、優れた耐火花消耗性と優れた耐酸化性とを両立していることが分かる。ここでは、複合材試料群は、比抵抗が小さいことで耐火花消耗性に優れ、冷熱サイクル試験後の質量変化(ここでは増加量)が小さいことで耐酸化性に優れる。
【0101】
上述の結果が得られた理由の一つは、以下のように考えられる。
Niの含有量が多い単線からなる試料No.1-101は、比抵抗が小さいものの、上記質量変化が極めて大きく耐酸化性に劣る。Crを多めに含むニッケル合金の単線からなる試料No.1-102は、上記質量変化が実質的に無く、耐酸化性に優れるものの、比抵抗が極めて高い。即ち、単線とすると、耐火花消耗性に優れることと耐酸化性に優れることとの両立が難しい。これに対し、複合材試料群は、Niの含有量が多い芯線と、Cr及びAlを特定の範囲で含むニッケル合金からなる外皮部とを含む複合材を備えるため、芯線によって比抵抗を小さくでき、外皮部によって耐酸化性を高められたと考えられる。
【0102】
図4の試料No.1-1のSEM観察像において、右下側の灰色の領域は芯線11、中央の帯状の灰色の領域は外皮部12、濃い灰色の領域は酸化物15、左側の黒い領域は背景である(後述する
図5の試料No.1-111のSEM観察像も同様)。
図4に示すように、外皮部12の表面には濃い灰色の領域が極薄く存在するのみである。このことから、外皮部12は、酸化し難く、耐酸化性に優れることが分かる。一方、芯線11における外皮部12から露出した部分には、濃い灰色の領域が有る程度厚く存在する。このことから、Niの含有量が多いと、酸化し易いことが分かる。
【0103】
また、複合材試料群は、芯線の主成分(Ni)と外皮部の主成分(Ni)とが共通しており、芯線と外皮部との密着性に優れることからも、耐酸化性を高められたと考えられる。密着性について、
図4,
図5を参照して説明する。
図4のSEM観察像に示ように試料No.1-1では、電極材料の端面から、芯線11と外皮部12との界面に沿って酸化物15が形成されているものの、上記端面からの酸化物15の形成長さは短く、ここでは300μm未満である。上記酸化物15の形成長さが短いことは、芯線11と外皮部12との密着性に優れることを示す一つの根拠といえる。一方、
図5のSEM観察像に示すように試料No.1-111では、上記酸化物15の形成長さが長く、500μm以上である。このことから、試料No.1-111では、芯線11と外皮部12とが十分に密着しておらず、両者の端面から界面を経て酸素などが進入し易いといえる。このような電極材料では、芯線と外皮部との界面から酸素などが経時的に進入して酸化物が形成されることで、芯線と外皮部とが分離し、両者の具備による効果が十分に得られ難いと考えられる。従って、長期に亘り、耐火花消耗性及び耐酸化性の双方に優れるという効果を良好に得るためには、芯部と外皮部との密着性を向上させることが好ましいと考えられる。
【0104】
更に、この試験から以下のことがいえる。
(1)外皮部の組成が同じで、外皮割合が同じ場合でも、芯線の組成を異ならせることで、耐火花消耗性や耐酸化性を異ならせることができる(例、試料No.1-1~No.1-3,No.1-8,No.1-9を比較参照)。
(2)芯線及び外皮部の少なくとも一方に希土類元素を含むと、ここでは特に芯線に含むと、上述の質量変化(ここでは増加量)が少なく、耐酸化性に優れる傾向にある(例、試料No.1-4,No.1-5を比較参照、試料No.1-10~No.1-12を比較参照)。希土類元素の含有量が多いほど、耐酸化性に優れる傾向にある(例、試料No.1-11,No.1-12を比較参照)。
【0105】
(3)外皮割合が大きいほど、上述の質量変化(ここでは増加量)が少なく、耐酸化性に優れる傾向にある(例、試料No.1-1,No.1-4,No.1-6と試料No.1-10,No.1-13,No.1-15とを比較参照、試料No.1-8と試料No.1-17とを比較参照、試料No.1-9と試料No.1-18とを比較参照)。
【0106】
(4)結晶粒径における比率(芯線/外皮)が大きいと、比抵抗が小さくなり易い傾向がある(例、試料No.1-1,No.1-2を比較参照)。この理由の一つとして、芯線の結晶粒が相対的に大きいことが考えられる。上記比率(芯線/外皮)が大きいと、芯線の結晶粒が相対的に大きいことで熱伝導性にも優れることからも、比率(芯線/外皮)が大きいこと、ここでは5以上、更に5超が好ましいと考えられる。また、この試験から、組成や加工度などにもよるが熱処理条件を異ならせることで、比率(芯線/外皮)をある程度調整できるといえる。ここでは、熱処理時の加熱温度が低いほど、比率(芯線/外皮)を大きくし易い傾向にある(試料No.1-6,No.1-1,No.1-112を比較参照)。なお、試料No.1-112は、熱処理時の加熱温度が高いことで、芯線も外皮部も結晶粒が粗大化して、比率(芯線/外皮)が1となったと考えられる。
【0107】
(5)芯線と外皮部との間に拡散層を備えると、密着性をより高められる。例えば、試料No.1-1,No.1-111,No.1-112を比較すれば、拡散層の平均厚さが厚いほど、酸化物の形成長さが短い。このことから、拡散層の厚さを調整することで、芯線と外皮部との密着性をより高められて、耐酸化性により優れたり、上述のように長期に亘り、耐酸化性に優れたりすると期待される。この試験では、組成や加工度などにもよるが熱処理条件を異ならせることで、拡散層の平均厚さを調整できるといえる。ここでは、熱処理時の加熱温度が高いほど、平均厚さを厚くし易い傾向にある。
【0108】
この試験から、Niの含有量が多い芯線と、Cr及びAlを特定の範囲で含むニッケル合金からなる外皮部との二層構造である複合材を備える電極材料は、比抵抗が小さく、耐火花消耗性に優れると共に、耐酸化性にも優れることが示された。この電極材料からなる点火プラグ用電極や、この点火プラグ用電極を備える点火プラグは、耐火花消耗性と耐酸化性との双方に優れると期待される。
【0109】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、試験例1に示す電極材料の組成、形状、大きさなどを適宜変更できる。
【符号の説明】
【0110】
1 電極材料
10 複合材
11 芯線
12 外皮部
13 拡散層
15 酸化物
2 点火プラグ
20 電極
20e 端面
21 中心電極
22 接地電極
25 絶縁体
26 主体金具
S 試験片