(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20220913BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220913BHJP
C08L 61/06 20060101ALI20220913BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20220913BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220913BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L63/00 A
C08L61/06
C08L23/04
C08K5/29
C09K3/10 L
(21)【出願番号】P 2019523423
(86)(22)【出願日】2018-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2018019048
(87)【国際公開番号】W WO2018225471
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2017114231
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】村上 雄基
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224258(JP,A)
【文献】特開2004-262969(JP,A)
【文献】特開平11-058604(JP,A)
【文献】特開2000-052489(JP,A)
【文献】国際公開第2012/115065(WO,A1)
【文献】特開2012-184373(JP,A)
【文献】特開2016-000814(JP,A)
【文献】特開2007-119645(JP,A)
【文献】特開2016-065252(JP,A)
【文献】特開2015-147838(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194583(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/194584(WO,A1)
【文献】特開2005-082642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08L 63/00
C08L 61/06
C08L 23/04
C08K 5/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)、カルボジイミド(B)
、酸化防止剤(C)
およびエポキシ(D)を含有する封止用樹脂組成物
であって、ポリエステル樹脂(A)の酸価が100当量/10
6
g以下であること、およびポリエステル樹脂(A)が、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分が重縮合した化学構造のみからなることを特徴とする封止用樹脂組成物。
【請求項2】
さらにポリオレフィン(E)を含有する請求項
1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
さらにテルペン変性フェノール樹脂(F)を含有する請求項1
または2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の封止用樹脂組成物で封止された封止体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は封止用樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、電気電子部品を封止可能な封止用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車・電化製品に広範に使用されている電気電子部品は、その使用目的を達成する為に、外部との電気絶縁性が必須とされる。例えば、電線は電気絶縁性を有する樹脂で被覆されている。昨今、携帯電話等、小さい容量の中に複雑な形状の電気電子部品を詰め込む必要がある用途が激増している中で、その電気絶縁には種々の方法が採用されている。特に電気絶縁体となる樹脂によって回路基板等複雑な形状を有する電気電子部品を封止するときは、その電気電子部品の形状に確実に追随し未充填部が発生しない封止方法が求められている。加温溶融するだけで粘度が低下し封止できる熱可塑性樹脂(ホットメルト樹脂)は、封止後冷却するだけで固化して封止体が形成されるので、生産性も高く、加えて、一般に熱可塑性の樹脂を使用するので、製品としての寿命を終えた後も、加熱して樹脂を溶融除去することで、部材のリサイクルが容易に可能となる等の優れた特徴を有し、電気電子部品封止用に適している。また、電気絶縁性・耐水性が共に高いポリエステルはこの用途に非常に有用な材料と考えられる。
【0003】
電気電子部品封止体には長期耐久性が要求される場合があるが、従来、熱可塑性樹脂の長期耐久性について酸化防止剤などの配合による耐熱老化性が知られていた(例えば、特許文献1)。しかし、かかる従来技術は長期の高温高湿下の試験においては、ポリエステルの加水分解の抑制が困難で封止性能の長期信頼性が低下するという問題点があった。
【0004】
特許文献2には、封止性能を担保するために、粘着付与剤を配合し、接着強度を高めたポリエステル樹脂組成物が開示されている。この組成物は、接着強度は高いが、長期の高温下の試験においては、樹脂が脆くなり、封止性能の長期信頼性を低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許3187511号公報
【文献】特開平11-106621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように従来の技術では、長期耐久性、特に高温高湿下や高温下において封止用樹脂組成物としての要求性能を充分満足するものは提案されていなかった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、長期耐久性、特に高温高湿下や高温下における物性低下させることなく、冷熱サイクルや長期信頼性に優れた封止用樹脂組成物を提供することにある。特に本発明の封止用樹脂組成物は、電気電子部品の封止用途に好適である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成からなる。
【0009】
ポリエステル樹脂(A)、カルボジイミド(B)および酸化防止剤(C)を含有する封止用樹脂組成物。
【0010】
ポリエステル樹脂(A)の酸価は100当量/106g以下であることが好ましい。
【0011】
さらにエポキシ(D)を含有することが好ましい。
【0012】
さらにポリオレフィン(E)を含有することが好ましい。
【0013】
さらにテルペン変性フェノール樹脂(F)を含有することが好ましい。
【0014】
前記いずれかに記載の封止用樹脂組成物で封止された封止体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物を電気電子部品封止体において封止材として用いることにより、冷熱サイクルや長期耐久性を満足する電気電子部品封止体を製造する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、示差走査熱量分析計で測定したチャートの模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳述する。
【0018】
<ポリエステル樹脂(A)>
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)は特に限定されないが、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分が重縮合した化学構造からなるポリエステル樹脂もしくはポリエステルエラストマー、または主としてポリエステルセグメントからなるハードセグメントと、主としてポリアルキレングリコール成分からなるソフトセグメントとがエステル結合により結合された化学構造からなるポリエステル樹脂もしくはポリエステルエラストマーが挙げられる。なかでも主としてポリエステルセグメントからなるハードセグメントと、主としてポリアルキレングリコール成分からなるソフトセグメントとがエステル結合により結合された化学構造からなることが好ましい。前記ポリエステルセグメントは芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールおよび/または脂環族グリコールとの重縮合により形成しうる構造のポリエステルから主としてなることが好ましい。ここで主としてなるとは、ポリエステルセグメント中、前記構造のポリエステルが90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは100モル%である。前記ソフトセグメントは、ポリエステル樹脂(A)全体に対して20モル%以上80モル%以下含有されることが好ましく、30モル%以上70モル%以下含有されることがより好ましく、40モル%以上60モル%以下含有されることが更に好ましい。
【0019】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)のエステル基濃度の上限は8000当量/106gであることが望ましい。好ましい上限は7500当量/106g、より好ましくは7000当量/106gである。また、耐薬品性(ガソリン、エンジンオイル、アルコール、汎用溶剤等)が要求される場合には、下限は1000当量/106gであることが望ましい。より好ましい下限は1500当量/106g、さらに好ましくは2000当量/106gである。ここでエステル基濃度の単位は、樹脂106gあたりの当量数で表し、ポリエステル樹脂の組成及びその共重合比から算出することができる。
【0020】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の酸価は100当量/106g以下であることが好ましく、より好ましくは70当量/106g以下であり、さらに好ましくは50当量/106g以下である。酸価が高すぎるとカルボン酸から発生する酸によってポリエステル樹脂(A)の加水分解が促進され、樹脂強度の低下が引き起こされることがある。酸価の下限は特に限定されないが、10当量/106g以上であることが好ましく、より好ましくは20当量/106g以上である。酸価が低すぎると接着性が低下することがある。
【0021】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の数平均分子量の下限は特に限定されないが、3,000以上であることが好ましく、より好ましくは5,000以上、さらに好ましくは7,000以上である。また、数平均分子量の上限は特に限定されないが、好ましくは60,000以下、より好ましくは50,000以下、さらに好ましくは40,000以下である。数平均分子量が低すぎると封止用樹脂組成物の耐加水分解性や高温高湿下での強伸度保持が不足することがあり、数平均分子量が高すぎると封止用樹脂組成物の溶融粘度が高くなり成形圧力が高くなりすぎたり成形困難となったりすることがある。
【0022】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、-100℃以上であることが好ましく、より好ましくは-90℃以上であり、さらに好ましくは-80℃以上である。ガラス転移温度が低すぎると、ポリエステル樹脂(A)の耐ブロッキング性が低下することがある。また、-10℃以下であることが好ましく、より好ましくは-20℃以下であり、さらに好ましくは-40℃以下であり、特に好ましくは-50℃以下である。ガラス転移温度が高すぎると、長期耐久性が低下することがある。
【0023】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)は飽和ポリエステル樹脂であることが好ましく、50当量/106g以下の微量のビニル基を有する不飽和ポリエステル樹脂であることも好ましい。高濃度のビニル基を有する不飽和ポリエステルであれば、溶融時に架橋が起こる等の可能性があり、溶融安定性に劣る場合がある。
【0024】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)は、必要に応じて無水トリメリット酸、トリメチロールプロパン等の三官能以上のポリカルボン酸やポリオールを共重合し、分岐を有するポリエステルとしても差し支えない。
【0025】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の熱劣化を出来るだけ生じさせずにモールドするためには、210~240℃での速やかな溶融が求められる。このため、ポリエステル樹脂(A)の融点の上限は210℃が望ましい。好ましくは200℃、より好ましくは190℃である。常温での取り扱い性と通常の耐熱性を考慮すると70℃以上、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上、特に好ましくは140℃以上、最も好ましくは150℃以上である。
【0026】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、公知の方法をとることができる。例えば、後述するポリカルボン酸成分及びポリオール成分を150~250℃でエステル化反応させた後、減圧しながら230~300℃で重縮合反応させることにより、ポリエステルを得ることができる。あるいは、後述するポリカルボン酸のジメチルエステル等の誘導体とポリオール成分を用いて150℃~250℃でエステル交換反応させた後、減圧しながら230℃~300℃で重縮合反応させることにより、ポリエステルを得ることができる。
【0027】
<ポリエステル樹脂(A)のハードセグメント>
本発明のポリエステルのハードセグメントは、主としてポリエステルセグメントからなることが好ましい。
【0028】
ポリエステルセグメントを構成する酸成分は特に限定されないが、炭素数8~14の芳香族ジカルボン酸を含むことがポリエステル樹脂(A)の耐熱性を向上させることができる点で好ましい。また、炭素数8~14の芳香族ジカルボン酸はテレフタル酸および/又はナフタレンジカルボン酸であることがグリコールと高反応性であり、重合性および生産性の点で望ましい。またテレフタル酸とナフタレンジカルボン酸の合計が、全酸成分の50モル%以上含む事が好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが更に好ましく、95モル%以上であることが特に好ましく、全酸成分がテレフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸で構成されていても差し支えない。
【0029】
ポリエステルセグメントを構成するその他の酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などのジカルボン酸が挙げられる。これらのジカルボン酸成分はポリエステル樹脂(A)の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その共重合比率は全酸成分の40モル%以下、好ましくは20モル%以下である。また、ポリエステルセグメントを構成するその他の酸成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3官能以上のポリカルボン酸を用いることも可能である。3官能以上のポリカルボン酸の共重合比率は、封止用樹脂組成物のゲル化防止の観点から全酸成分の10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましい。
【0030】
また、ポリエステルセグメントを構成する脂肪族グリコールおよび/または脂環族グリコールは特に限定されないが、好ましくは炭素数2~10のアルキレングリコール類であり、より好ましくは炭素数2~8のアルキレングリコール類である。脂肪族グリコールおよび/または脂環族グリコールは全グリコール成分の50モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上がより好ましい。好ましいグリコール成分としては、具体的にはエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。1,4-ブタンジオール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールがポリエステル樹脂(A)の耐熱性を向上させることができる点で最も好ましい。また、グリコール成分の一部として、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスルトール等の3官能以上のポリオールを用いても良く、樹脂組成物のゲル化防止の観点から全グリコール成分の10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましい。
【0031】
ポリエステルセグメントを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート単位またはブチレンナフタレート単位よりなるものが、ポリエステル樹脂(A)が高融点となり耐熱性を向上させることができること、また、成形性、コストパフォーマンスの点より、特に好ましい。
【0032】
<ポリエステル樹脂(A)のソフトセグメント>
本発明のポリエステル樹脂(A)のソフトセグメントは、主としてポリアルキレングリコール成分からなることが好ましい。ソフトセグメントの共重合比率は前記ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分全体を100モル%としたとき1モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましく、20モル%以上であることが特に好ましい。また、90モル%以下であることが好ましく、55モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることが更に好ましく、45モル%以下であることが特に好ましい。ソフトセグメントの共重合比率が低すぎると、本発明の封止用樹脂組成物の溶融粘度が高くなり低圧で成形できない、または、結晶化速度が速くショートショットが発生する等の問題を生じる傾向にある。また、ソフトセグメントの共重合比率が高すぎると本発明の封止体の耐熱性が不足する等の問題を生じる傾向にある。
【0033】
ソフトセグメントの数平均分子量は特に限定されないが、400以上であることが好ましく、800以上であることがより好ましい。ソフトセグメントの数平均分子量が低すぎると柔軟性付与が出来ず、封止後の電子基板への応力負荷が大きくなるとの問題を生じる傾向にある。またソフトセグメントの数平均分子量は5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましい。数平均分子量が高すぎると他の共重合成分との相溶性が悪く共重合できないとの問題を生じる傾向にある。
【0034】
ソフトセグメントに用いられるポリアルキレングリコール成分の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を挙げることができる。柔軟性付与、低溶融粘度化の面でポリテトラメチレングリコールが最も好ましい。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂(A)は非晶性でも結晶性でも差し支えないが、結晶性ポリエステル樹脂がより好ましい。本発明において結晶性とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、一旦-100℃まで冷却し、20℃/分のスピードで300℃まで昇温する。次いで、300℃から50℃/分のスピードで-100℃まで降温し、20℃/分のスピードで再び300℃まで昇温する。この二度の昇温工程のどちらかにおいて明確な融解ピークを示すものを指す。一方、非晶性とは、どちらの昇温工程にも融解ピークを示さないものを指す。
【0036】
<カルボジイミド(B)>
本発明の樹脂組成物に用いるカルボジイミド(B)は分子中に少なくとも1つ以上のN=C=N結合をもつ構造のものである。カルボジイミド(B)としては、N,N’-ジ-o-トルイルカルボジイミド、N,N’-ジフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,2-ジ-tert- ブチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ- p -ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トルイルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩などが挙げられる。
【0037】
本発明のカルボジイミド(B)はポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上が更に好ましい。また、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。カルボジイミド(B)の含有量が少なすぎるとポリエステル樹脂(A)の加水分解の抑制が悪くなり、多すぎるとゲル化が生じ、電気電子部品の封止が困難になることがある。
【0038】
本発明において、カルボジイミド(B)を封止用樹脂組成物に配合することにより、長期の高温高湿下におけるポリエステル樹脂(A)の加水分解を抑制することができる。さらに、長期の高温下におけるポリエステル樹脂(A)やエポキシ(D)、テルペン変性フェノール樹脂(F)などの官能基同士の反応を抑制する事ができ、樹脂の硬化や脆化を抑制することができる。
【0039】
<酸化防止剤(C)>
本発明に用いる酸化防止剤としては、ポリエステル樹脂(A)の酸化を防止できるものであれば特に限定されず、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが使用できる。例えば、ヒンダードフェノール系として、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,1,3-トリ(4-ヒドロキシ-2-メチル-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,1-ビス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-ベンゼンプロパノイック酸、ペンタエリトリチルテトラキス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-5-メチル-ベンゼンプロパノイック酸、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニロキシ]エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、リン系として、3,9-ビス(p-ノニルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(オクタデシロキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリ(モノノニルフェニル)フォスファイト、トリフェノキシフォスフィン、イソデシルフォスファイト、イソデシルフェニルフォスファイト、ジフェニル2-エチルヘキシルフォスファイト、ジノニルフェニルビス(ノニルフェニル)エステルフォスフォラス酸、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジトリデシルフォスファイト-5-t-ブチルフェニル)ブタン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、ペンタエリスリトールビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルフォスファイト)、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルフォスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、チオエーテル系として4,4’-チオビス[2-t-ブチル-5-メチルフェノール]ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]、チオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]ビス[3-(テトラデシルチオ)-プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス(3-n-ドデシルチオプロピオネート)、3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル、ビス(トリデシル)チオジプロピオネートが挙げられ、これらを単独に、または複合して使用できる。
【0040】
酸化防止剤(C)を封止用樹脂組成物に配合することにより、高温高湿下での長期耐久性を付与することができる。酸化防止剤(C)の含有量はポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上であり、さらに好ましくは0.5質量部以上である。含有量が少なすぎると、高温高湿下での長期耐久性に悪影響を与える場合がある。また5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下である。含有量が多すぎると、接着性、難燃性等に悪影響を与える場合がある。
【0041】
<エポキシ(D)>
本発明に用いるエポキシ(D)は、1分子中に1個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に限定されない。好ましくは数平均分子量450~40,000の範囲で、1分子中に平均で1.1個以上のエポキシ基を有する樹脂である。例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテルタイプ;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ;トリグリシジルイソシアヌレート、グリシジルヒンダントイン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミンタイプ;3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族または脂肪族エポキサイドタイプなどが挙げられる。これらを単独で、または2種以上を併用して使用することができる。
【0042】
エポキシ(D)の数平均分子量は450以上であることが好ましく、より好ましくは600以上であり、さらに好ましくは1000以上である。数平均分子量が小さすぎると封止用樹脂組成物が軟化しやすくなり、機械的物性が低下することがある。また、40,000以下であることが好ましく、より好ましくは30,000以下であり、さらに好ましくは20,000以下である。数平均分子量が大きすぎると、ポリエステル樹脂(A)との相溶性が低下し、密着性が損なわれることがある。
【0043】
本発明において、エポキシ(D)を封止用樹脂組成物に配合することにより、電気電子部品の封止に際し、良好な初期密着性と冷熱サイクルや高湿高温環境負荷に対する密着耐久性といった優れた特性を付与することができる。エポキシ(D)は、ポリエステル樹脂(A)の結晶化遅延による応力緩和効果、ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン(E)の相溶化剤としての効果、さらには官能基導入による基材への濡れ性向上の効果を発揮するものと考えられる。本発明におけるエポキシ(D)の配合量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは1質量部以上であり、さらに好ましくは5質量部以上である。エポキシ(D)の配合量が0.1質量部未満の場合、ポリエステル樹脂(A)の結晶化遅延による応力緩和効果が発現できない上、ポリオレフィン(E)とエポキシ(D)の相溶化剤としての働きも発現できないことがある。また、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは40質量部以下であり、さらに好ましくは30質量部以下である。エポキシ(D)を50質量部以上配合した場合、封止用樹脂組成物の生産性に劣り、さらには封止体の耐熱性等の特性が劣ることがある。
【0044】
<ポリオレフィン(E)>
本発明に用いるポリオレフィン(E)は、特に限定されないが、2元以上の共重合されたポリオレフィンであることが好ましい。例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸三元共重合体、エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸三元共重合体、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-メタクリル酸グリシジル三元共重合体、エチレン-アクリル酸エチル-メタクリル酸グリシジル三元共重合体等が挙げられる。また密度は0.75g/cm3以上が好ましく、0.80g/cm3以上がより好ましく、0.91g/cm3未満が好ましく、0.90g/cm3以下であるものがより好ましい。このような2元以上の共重合ポリオレフィンで低密度のポリオレフィン樹脂をポリオレフィン(E)として使用することによって、元来ポリオレフィンに非相溶であるポリエステル樹脂(A)に対して、ポリオレフィン(E)を容易に微分散・混合することができ、一般的な二軸押出機にて、均質な封止用樹脂組成物を得ることができる。また、ポリオレフィン(E)として低密度で2元以上の共重合体を用いることにより、ポリエステル樹脂(A)に生じた射出成型時の残存応力の経時的な緩和にも適切に作用し、封止用樹脂組成物として長期接着耐久性付与や環境負荷による発生応力の軽減といった好ましい特性を発揮する。このような特性を有するポリオレフィン(E)としては、ポリエチレンおよびエチレン共重合体が、入手容易かつ安価であり、更に金属やフィルムへの接着性に悪影響を与えない点で、特に好ましい。更に具体的にはエチレン-α-オレフィン共重合体が最も好ましい。
【0045】
また、ポリオレフィン(E)にはカルボキシル基、グリシジル基等の極性基を含まないものが好ましい。極性基が存在すると、ポリエステル樹脂(A)との相溶性が変化し、ポリエステル樹脂(A)の結晶化時のひずみエネルギーを緩和できないことがある。一般に極性基を有するポリオレフィンは、極性基を有しないポリオレフィンに比べてポリエステル樹脂に対する相溶性が高い傾向にあるが、本発明では相溶性が高くなるとかえって経時的な接着性低下が大きくなる傾向にある。
【0046】
さらに本発明に用いるポリオレフィン(E)は、JIS K 7210-1:2014(試験温度190℃、公称荷重2.16kg)により測定したメルトマスフローレイト(以下MFRと略記することがある)が、3~20g/10分であることが好ましい。MFRが3未満では溶融粘度が高すぎることでポリエステル樹脂(A)との相溶性が低下し、接着性が損なわれるおそれがあり、MFRが20を超えると、粘度が低く封止用樹脂組成物として極めて軟化し易く、機械的物性が劣るおそれがある。
【0047】
本発明において、ポリオレフィン(E)を封止用樹脂組成物に配合することで、電気電子部品の封止に際し、良好な初期接着性といった優れた特性を発揮する。ポリオレフィン(E)はポリエステル樹脂(A)の結晶化やエンタルピー緩和によるひずみエネルギーの緩和効果を発揮するものと考えられる。特に2元以上の共重合ポリオレフィンを使用する事によって、単一ポリマーでは発現しない柔軟性を持たせることができ、その効果を促進するものと考えられる。本発明におけるポリオレフィン(E)の配合量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることがさらに好ましい。また70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましい。ポリオレフィン(E)の配合比率が低すぎると、ポリエステル樹脂(A)の結晶化やエンタルピー緩和によるひずみエネルギーの緩和が難しいため、接着強度が低下する傾向がある。また、ポリオレフィン(E)の配合比率が高すぎる場合にも逆に接着性や樹脂物性を低下させてしまう傾向があり、またポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン(E)がマクロな相分離を起こして破断伸度が低下し、また平滑な表面を得られないなど成型性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0048】
<テルペン変性フェノール樹脂(F)>
本発明に用いるテルペン変性フェノール樹脂(F)は、テルペンで変性されたフェノール樹脂であれば特に限定されない。テルペン変性フェノール樹脂やテルペン変性フェノール樹脂を水素添加処理した水添テルペン変性フェノール樹脂であってもよい。
【0049】
テルペン変性フェノール樹脂(F)としては、例えば、α-ピネンとフェノールを反応させて得られるテルペン変性フェノール樹脂およびその水素添加処理した水添テルペン変性フェノール樹脂、β-ピネンとフェノールを反応させて得られるテルペン変性フェノール樹脂およびその水素添加処理した水添テルペン変性フェノール樹脂、ジペンテンとフェノールを反応させて得られるテルペン変性フェノール樹脂およびその水素添加処理した水添テルペン変性フェノール樹脂などが挙げられる。
【0050】
本発明において、テルペン変性フェノール樹脂(F)を封止用樹脂組成物に配合することにより、電気電子部品の封止に際し、良好な接着性を付与することができる。テルペン変性フェノール樹脂(F)は、ポリエステル樹脂(A)の結晶化遅延による応力緩和効果、ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン(E)の分散助剤としての効果、さらには官能基導入による基材への濡れ性向上の効果を発揮するものと考えられる。本発明におけるテルペン変性フェノール樹脂(F)の配合量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることがさらに好ましい。また、70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることが更に好ましい。テルペン変性フェノール樹脂(F)の配合比率が低すぎると、結晶化遅延による応力緩和効果が発現されないことがあり、またポリオレフィン(E)とポリエステル樹脂(A)の分散助剤としての働きも発現されないことがある。また、テルペン変性フェノール樹脂(F)の配合比率が高すぎると、弾性率の上昇に伴い、樹脂柔軟性が低下し接着性に悪影響を及ぼしたり、テルペン変性フェノール樹脂(F)の官能基が配合物と反応し樹脂が脆化することがある。
【0051】
<封止用樹脂組成物>
本発明の封止用樹脂組成物は、少なくとも前記ポリエステル樹脂(A)、カルボジイミド(B)および酸化防止剤(C)を含有し、必要に応じてエポキシ(D)、ポリオレフィン(E)および/またはテルペン変性フェノール樹脂(F)を含有する組成物である。ここで、封止とは精密部品等を防塵、防水するために外気に触れないように隙間なく包むことをいう。本発明の封止用樹脂組成物は、長期信頼性に優れることから、精密部品のなかでも特に電気電子部品の封止用途に好適である。
【0052】
本発明の封止用樹脂組成物には、本発明のポリエステル樹脂(A)、カルボジイミド(B)、酸化防止剤(C)、エポキシ(D)、ポリオレフィン(E)、テルペン変性フェノール樹脂(F)のいずれにも該当しない、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリル、エチレンビニルアセテート、エポキシ等の他の樹脂、イソシアネート化合物、メラミン等の硬化剤、タルクや雲母等の充填材、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、三酸化アンチモン、臭素化ポリスチレン等の難燃剤を本発明の効果を損なわない範囲で配合しても全く差し支えない。これらの成分を配合することにより、接着性、柔軟性、耐久性等が改良される場合がある。その際のポリエステル樹脂(A)は、本発明の樹脂組成物全体に対して50質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。ポリエステル樹脂(A)の含有量が50質量%未満であるとポリエステル樹脂(A)自身が有する、優れた電気電子部品に対する接着性、接着耐久性、伸度保持性、耐加水分解性、耐水性が低下する傾向がある。
【0053】
さらには本発明の封止用樹脂組成物が耐候性を求められる場合には、光安定剤を添加することが好ましい。光安定剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系光安定剤、ベンゾフェノン系光安定剤、ヒンダートアミン系光安定剤、ニッケル系光安定剤、ベンゾエート系光安定剤などが挙げられる。ベンゾトリアゾール系光安定剤としては、2-(3,5-ジ-tert-アミル-2’ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2,4-ジ-tert-ブチル-6-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール,2-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ(1,1-ジメチルベンジル)]-2H-ベンゾトリアゾール等が挙げられる。ベンゾフェノン系光安定剤としては、2-ヒドロキシ-4-(オクチルオキシ)ベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-ベンゾフェノン-5-サルフォニックアシッド、2-ヒドロキシ-4-n―ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。ヒンダートアミン系光安定剤としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert―ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-s-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)トリオン、トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-s-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン等が挙げられる。ニッケル系光安定剤としては、[2,2’-チオ-ビス(4-tert-オクチルフェノレート)]-2-エチルヘキシルアミン-ニッケル-(II)、ニッケルジブチルジチオカルバメート、[2’,2’-チオ-ビス(4-tert-オクチルフェノレート)]n-ブチルアミン-ニッケル等が挙げられる。ベンゾエート系光安定剤としては、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5’-ジ-tert-ブチル‐4’‐ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。これらの光安定剤を単独に、または複合して使用できる。添加する場合の添加量は封止用樹脂組成物全体に対して0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。0.1質量%未満だと耐侯性効果に乏しくなることがある。5質量%を超えると、接着性、難燃性等に悪影響を与える場合がある。
【0054】
ポリエステル樹脂(A)の組成及び組成比を決定する方法としては、例えばポリエステル樹脂(A)を重クロロホルム等の溶媒に溶解して測定する1H-NMRや13C-NMR、ポリエステル樹脂(A)のメタノリシス後に測定するガスクロマトグラフィーによる定量(以下、メタノリシス-GC法と略記する場合がある)等が挙げられる。本発明においては、ポリエステル樹脂(A)を溶解でき、なおかつ1H-NMR測定に適する溶剤がある場合には、1H-NMRで組成及び組成比を決定することとする。適当な溶剤がない場合や1H-NMR測定だけでは組成比が特定できない場合には、13C-NMRやメタノリシス-GC法を採用または併用することとする。
【0055】
本発明の封止用樹脂組成物は220℃での溶融粘度が5~2000dPa・sであることが望ましく、ポリエステル樹脂(A)、カルボジイミド(B)、酸化防止剤(C)、エポキシ(D)、ポリオレフィン(E)、テルペン変性フェノール樹脂(F)の種類と配合比率を適切に調整することにより、達成することができる。例えば、ポリエステル樹脂(A)に共重合するポリエーテルジオールの共重合比率を高くすることや、ポリエステル樹脂(A)の分子量を低くすることは、本発明の樹脂組成物の溶融粘度を低くする方向に作用する傾向にあり、ポリエステル樹脂(A)の分子量を高くすることは本発明の樹脂組成物の溶融粘度を高くする方向に作用する傾向にある。なおここで、220℃での溶融粘度は以下のようにして測定した値である。すなわち、封止用樹脂組成物を水分率0.1%以下に乾燥し、次いで島津製作所株式会社製フローテスター(型番CFT-500C)にて、220℃に加温安定した封止用樹脂組成物を、1.0mmの孔径を有する厚み10mmのダイを98N/cm2の圧力で通過させたときの粘度の測定値である。2000dPa・s以上の高溶融粘度になると、高い樹脂凝集力や耐久性が得られるが、複雑な形状の部品への封止の際には高圧の射出成型が必要となるため、部品の破壊を生じることがある。1500dPa・s以下、好ましくは1000dPa・s以下の溶融粘度を有する封止用樹脂組成物を使用することで、0.1~20MPaの比較的低い射出圧力で、電気絶縁性に優れた封止体(モールド部品)が得られると共に、電気電子部品の特性も損ねない。また、封止用樹脂組成物注入操作の観点からは220℃での溶融粘度は低いほうが好ましいが、樹脂組成物の接着性や凝集力を考慮すると下限としては5dPa・s以上が望ましく、さらに好ましくは10dPa・s以上、より好ましくは30dPa・s以上、最も好ましくは50dPa・s以上である。
【0056】
また、ポリエステル樹脂(A)の熱劣化を出来るだけ生じさせずにモールドするためには、210~240℃での速やかな溶融が求められるため、ポリエステル樹脂(A)の融点の上限は210℃が望ましい。好ましくは、200℃であり、より好ましくは190℃である。下限は、70℃が好ましく、より好ましくは100℃であり、更に好ましくは120℃であり、特に好ましくは140℃であり、最も好ましくは150℃である。該当する用途で求められる耐熱温度より5~10℃以上高くすると良い。
【0057】
本発明において、特定の部材と封止用樹脂組成物の接着強度は、2枚の板状部材の間に封止用樹脂組成物を成形にて接着した測定用試料片を作製し、これのせん断接着強度を測定することにより判定する。測定用試験片の作製方法やせん断接着強度の測定方法は、後述する実施例に記載の方法に従って行うものとする。
【0058】
本発明の封止用樹脂組成物は、電気電子部品をセットした金型に注入することで成型される。より具体的には、スクリュータイプのホットメルト成型加工用アプリケーターを用いた場合において、160~280℃前後で加熱溶融し、射出ノズルを通じて金型へ注入され、その後一定の冷却時間を経た後、成型物を金型から取り外して成型物を得ることが出来る。
【0059】
ホットメルト成型加工用アプリケーターの型式は特に限定されないが、例えばNordson社製ST2、井元製作所製竪型押し出し成型機IMC-18F9等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例、比較例を挙げるが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例、比較例に記載された各測定値は次の方法によって測定したものである。
【0061】
<融点、ガラス転移温度の測定>
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、一度250℃で5分ホールドした。次いで、液体窒素で急冷して、その後-150℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した。得られた曲線においての
図1に示したようなDDSCで変極点が表れる部分の変極点前のベースラインから得られる接線(1)と変極点後のベースラインから得られる接線(2)の交点をガラス転移温度、吸熱ピークの極小点(図内×印)を融点とした。
【0062】
<酸価>
ポリエステル樹脂(A)のサンプル0.1gを精秤し、ベンジルアルコール10mlに加熱溶解する。その後、0.1NのNaOHのメタノール/ベンジルアルコール(1/9容積比)の溶液を使用して滴定にて酸価を求めた。指示薬には、フェノールフタレインを用いた。
【0063】
<溶融特性(流動性)試験>
ポリエステル樹脂(A)および封止樹脂組成物の溶融粘度の評価方法
島津製作所製、フローテスター(CFT-500C型)にて、220℃に設定した加熱体中央のシリンダー中に水分率0.1%以下に乾燥したポリエステル樹脂(A)または封止用樹脂組成物を充填する。充填1分経過後、プランジャーを介して試料に荷重を加え、圧力1MPaで、シリンダー底部のダイ(孔径:1.0mm、厚み:10mm)より、溶融した試料を押出し、プランジャーの降下距離と降下時間を記録し、溶融粘度を算出した。
【0064】
<接着性試験(せん断密着強度)>
せん断接着強度試験片の作製方法
基材を70mm×25mmおよび40mm×25mmの大きさに切断し、表面をアセトンで拭いて油分を取り除いた。次いでこの基材のガラスエポキシ面またはPBT面が溶融した封止用樹脂樹脂組成物と接触するように、基材同士が長さ10mm分、重なるようにして、幅が25mm、成形する封止用樹脂組成物厚みが1mmとなるようにせん断接着試験用金型の内部に固定した。次いでスクリュー型ホットメルト成型加工用アプリケーター(井元製作所製竪型低圧押し出し成型機IMC-18F9)を用いて、水分率を0.1%以下にした封止用樹脂組成物を注入し、成型を行った。成型条件は、成型樹脂温度220℃、成型圧力3.5MPa、保圧圧力3.5MPa、保圧時間20秒、吐出回転を80%設定(最大吐出を100%として)とした。成型物を金型から外し、成形された樹脂組成物が各基材で挟まれたせん断接着強度試験片(基材/封止用樹脂組成物層/基材)を得た。
【0065】
せん断接着強度試験方法
前記せん断接着試験片を23℃、相対湿度50%の雰囲気下にて1日保管した。次いで、オートグラフ(株式会社島津製作所社製AG-IS)を用いて、各基材をチャックで挟み込みせん断方向に樹脂組成物を剥離させ、初期せん断接着強度を測定した。引張速度は50mm/分とした。
長期試験環境下は105℃環境下、85℃85%RH環境下、-40℃と105℃の往復(各温度:30分、サイクル回数:2000回)環境下で実施した。長期試験後のせん断接着強度は、その後、前述のせん断接着試験方法で評価を実施した。
評価基準 ☆:せん断接着強度3MPa以上
◎:せん断接着強度2MPa以上かつ3MPa未満
○:せん断接着強度1MPa以上かつ2MPa未満
△:せん断接着強度0.5MPa以上かつ1MPa未満
×:せん断接着強度0.5MPa未満
尚、基材(被着材)は下記の二種類で評価した。
レジスト無しガラスエポキシ(GE)基板: Nikkan工業製 FR-4
PBT基材:ポリブチレンテレフタレート(GF30%) ポリプラスチック社製:ジュラネックス 3300
【0066】
<機械特性(引張伸度保持率)>
竪型射出成形機(日精樹脂株式会社製TH40E)を用いて射出成形により、100mm×100mm×2mmの封止用樹脂組成物の平板を作製した。
射出成形条件は、成形樹脂温度170℃、成型圧力25MPa、冷却時間20秒、射出速度25mm/秒とした。成形した平板からJIS K6251:2017に基づいた3号ダンベル(ダンベル状3号形試験片)を、切り抜き機を用いて、3つ分切り抜いた。次いで、オートグラフ(株式会社島津製作所社製AG-IS)を用いて、チャック間が20mmとなるように3号ダンベルを挟み込み、機械特性を測定した。引張速度は500mm/分とした。
長期試験環境下は105℃環境下、85℃85%RH環境下、-40℃と105℃の往復(各温度1サイクル30分)環境下で実施し、試験時間は2000時間まで行なった。その後、前述の機械特性試験方法で評価を実施した。
評価基準 ☆:引張伸度保持率 65%以上
◎:引張伸度保持率 60%以上
○:引張伸度保持率 50%以上
△:引張伸度保持率 40%以上
×:引張伸度保持率 40%未満
【0067】
<ポリエステル樹脂(A)の製造例>
撹拌機、温度計、溜出用冷却器を装備した反応缶内にテレフタル酸166質量部、1,4-ブタンジオール180質量部、触媒であるテトラブチルチタネート0.25質量部を加え、170~220℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール「PTMG1000」(三菱化学社製)を300質量部とヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1330」(チバガイギー社製)を0.5質量部投入し、255℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて255℃で665Paとした。そしてさらに133Pa以下で30分間重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(A-1)を得た。このポリエステル樹脂(A-1)の溶融粘度、融点、ガラス転移温度および酸価を表1に示した。また、ポリエステル樹脂(A-2)、(A-3)をポリエステル樹脂(A-1)と同様な方法により合成した。それぞれの組成及び物性値を表1に示した。
【0068】
【0069】
表中の略号は以下の通りである。
TPA:テレフタル酸、NDC:2,6-ナフタレンジカルボン酸、BD:1,4-ブタンジオール、PTMG1000:ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1000)、PTMG2000:ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量2000)
【0070】
表2、3に記載の割合で、ポリエステル樹脂(A)、カルボジイミド(B)、酸化防止剤(C)、エポキシ(D)、ポリオレフィン(E)、テルペン変性フェノール樹脂(F)を、二軸押し出し機を用いてダイ温度160℃~200℃において溶融混練することによって、封止用樹脂組成物を得た。別記した方法により、封止用樹脂組成物の長期耐久性、特に105℃環境下、85℃85%RH環境下、-40℃と105℃の往復環境下での2000時間までのせん断接着強度特性および引張伸度保持率を評価した。評価結果は以下の表2、3の通りである。
【0071】
【0072】
【0073】
表2、表3で使用したカルボジイミド(B)、酸化防止剤(C)、エポキシ(D)、ポリオレフィン(E)、テルペン変性フェノール樹脂(F)は、以下のものである。
カルボジイミド(B-1):カルボジライト(登録商標)HMV-15CA、日清紡ケミカル(株)製
カルボジイミド(B-2):カルボジライト(登録商標)LA-1、日清紡ケミカル(株)製
酸化防止剤(C-1):ヒンダードフェノール系酸化防止剤、IRGANOX 1010(登録商標)、BASFジャパン(株)製 酸化防止剤(C-2):チオエーテル系酸化防止剤、ラスミットLG(登録商標)、第一工業製薬(株)製、3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル
エポキシ(D-1):JER1007(登録商標)、三菱化学(株)製
ポリオレフィン(E-1):エクセレン(登録商標)VL EUL731、住友化学(株)製、エチレン-α-オレフィン共重合体、密度0.90、MFR10g/10分。
ポリオレフィン(E-2):アドマー(登録商標)SF-600、三井化学(株)製、接着性ポリオレフィン、密度0.88、MFR3.3g/10分。
テルペン変性フェノール樹脂(F-1):YSポリスターK140(登録商標)、ヤスハラケミカル(株)製
テルペン変性フェノール樹脂(F-2):YSポリスターG150(登録商標)、ヤスハラケミカル(株)製
テルペン変性フェノール樹脂(F-3):YSポリスターT160(登録商標)、ヤスハラケミカル(株)製
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の封止用樹脂組成物は、電子電子基板封止時の溶融粘度が低く、ガラスエポキシ基板やPBT基板への接着強度に非常に優れ、長期信頼性に優れている事から、電気電子部品封止用樹脂組成物として有用である。また、本発明の電気電子部品封止体は、特に接着性、長期信頼性に優れている事から電気電子部品からの漏電が抑制され、非常に有用である。本発明の電気電子部品封止体は、例えば自動車、通信、コンピュータ、家電用途各種のコネクター、ハーネスやあるいは電子部品、プリント基板を有するスイッチ、センサーのモールド成型品として有用である。