(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】光学構造体および認証体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/32 20060101AFI20220913BHJP
B42D 25/328 20140101ALI20220913BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G02B5/32
B42D25/328
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2019532871
(86)(22)【出願日】2018-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2018028161
(87)【国際公開番号】W WO2019022210
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2017144769
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017252240
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 彰人
(72)【発明者】
【氏名】屋鋪 一尋
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-237457(JP,A)
【文献】特開2012-252306(JP,A)
【文献】特開2005-215570(JP,A)
【文献】特開2014-47284(JP,A)
【文献】特開2014-215619(JP,A)
【文献】特開2017-13474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/32
B42D 25/00 - 25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子化位相差構造層の一方の面に、量子化位相差構造を有した光学構造体であって、
量子化位相差構造は、サイズが一定の複数の量子化凸部と、サイズが一定の複数の量子化凹部とが整列しており、
前記量子化凸部が一方向に整列されたリブ状凸部と、前記量子化凹部が前記リブ状凸部と並行して整列された溝状凹部とが、隣接し交互に配置された量子化位相差構造を多重回折領域に有し、
前記多重回折領域は、1方向に離散した複数の規則的に配置した再生点を再生する量子化位相差構造であることを特徴とする、光学構造体。
【請求項2】
前記量子化位相差構造の量子化凹部の底面の表面粗さと、前記量子化位相差構造の量子化凹部の頂面の表面粗さが異なることを特徴とする、請求項1に記載の光学構造体。
【請求項3】
複数の前記多重回折領域が、前記量子化位相差構造に規則的に配置されてなることを特徴とする、請求項1に記載の光学構造体。
【請求項4】
前記多重回折領域における
リブ状凸
部の傾斜面が向く方向によって空間周波数成分の方向が決定されることを特徴とする、請求項3に記載の光学構造体。
【請求項5】
前記空間周波数成分から再生される前記複数の再生点から、前記再生点が配置された平面までの最短距離Rは、前記多重回折領域全体の長さD、および前記多重回折領域における光の波長λを用いて、R>D
2/λの関係を満足することを特徴とする、請求項4に記載の光学構造体。
【請求項6】
前記平面に垂直な入射光ベクトルが
【数1】
であり、前記平面上に構成される
、表現したい仮想
的な3D形状のポリゴンの傾斜面に対する法線ベクトルが
【数2】
であり、
【数3】
と、前記法線ベクトル
【数4】
とのなす角度がθ1であり、前記複数の再生点の整列方向
【数5】
と、前記法線ベクトル
【数6】
とのなす角度がθ2であり、θ1=θ2=θである場合、前記複数の再生点が、前記整列方向
【数7】
に従って分布することを特徴とする、請求項5に記載の光学構造体。
【請求項7】
前記複数の再生点のうち、入射光が前記ポリゴンの傾斜面において正反射する方向に存在する再生点の光強度が最も強く、前記複数の再生点のうち、正反射する方向からずれた再生点ほど、光強度が弱くなるように、前記複数の再生点の光強度分布を決定したことを特徴とする、請求項6に記載の光学構造体。
【請求項8】
前記複数の再生点を、空間において非均等な間隔で配置したことを特徴とする、請求項6に記載の光学構造体。
【請求項9】
前記多重回折領域がセル型であることを特徴とする、請求項3に記載の光学構造体。
【請求項10】
前記多重回折領域毎に、前記量子化位相差構造の深さが異なることを特徴とする、請求項3に記載の光学構造体。
【請求項11】
前記量子化位相差構造の表面に、反射層を備えたことを特徴とする、請求項3に記載の光学構造体。
【請求項12】
請求項1に記載の光学構造体を備えたことを特徴とする認証体。
【請求項13】
フィルム上に剥離層、エンボス層、および反射層が順に積層されてなる光学構造体から作製される光学構造体であって、
前記エンボス層は量子化位相差構造を有し、前記量子化位相差構造の量子化凸部の頂面から量子化凹部の底面までの距離は、多重回折領域内の位置によらず一定であり、
前記量子化位相差構造の空間周波数のピーク強度が、前記エンボス層において、1方向または複数の方向に沿って、互いに離間して複数配置され
、
前記光学構造体はさらに、
前記反射層を保護する保護層が積層され、前記エンボス層および前記保護層のうちの少なくとも何れかに、塩分吸着剤を内包したことを特徴とする、
光学構造体。
【請求項14】
前記量子化凸部の頂面または前記量子化凹部の底面のうちの少なくとも何れかの表面粗さが、前記距離の10分の1以下であることを特徴とする、請求項13に記載の光学構造体。
【請求項15】
前記量子化位相差構造の凹凸方向は、前記量子化凸部の頂面と前記量子化凹部の底面によって形成されるリブ状
凸部と溝状凹部の延在方向に対して垂直であることを特徴とする、請求項13に記載の光学構造体。
【請求項16】
前記光学構造体は、樹脂内に分散され、印刷可能なインキとして適用されることを特徴とする、請求項13に記載の光学構造体。
【請求項17】
前記反射層が磁性を有することを特徴とする、請求項13に記載の光学構造体。
【請求項18】
前記エンボス層および前記反射層が有する構造色の反射スペクトルが、少なくとも波長800nm以上、1000nm以下においてピークを有し、前記光学構造体はさらに、可視光を反射し、赤外光を透過する光学層が積層されてなることを特徴とする、請求項13に記載の光学構造体。
【請求項19】
前記量子化位相差構造の空間周波数のピークの数を、5以上、200以下としたことを特徴とする、請求項13に記載の光学構造体。
【請求項20】
量子化位相差構造層の一方の面に、量子化位相差構造を有した光学構造体であって、
前記量子化位相差構造は、一方の要素構造としてサイズが一定の凸部である量子化凸部が一方向に整列されたリブ状凸部と、他方の要素構造としてサイズが一定の凹部である量子化凹部が前記リブ状凸部と平行に整列された溝状凹部とが、隣接し交互して配置され、前記リブ状凸部の上面から前記溝状凹部の底面までの深さが一定であり、前記量子化凸部と前記量子化凹部との要素構造とに量子化され、
量子化位相差構造の前記底面の表面粗さは、前記上面の表面粗さより粗く、
前記量子化位相差構造の回折光は、一方向に離散した複数の再生点を再生することを特徴とする、光学構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、証券やカード媒体、またはパスポートや査証などセキュリティー性を高めるための偽造防止手段として適用される光学構造体、および光学構造体を備えた認証体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホログラフィー技術によって提供される3次元表現は、特に計算機によって光の波面を計算する計算機合成ホログラムのように、セキュリティー性を高めるための偽造防止手段として適用されている。
【0003】
計算機合成ホログラムは、複製のために、エンボス成型可能であり、この場合、現像処理が不要なため、商業的に優れた技術である。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2011-118034号公報)には、光の異方性散乱を用いて、仮想的な三次元物体を立体に見せる方法が開示されている。
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1によって開示された方法によれば、擬似的に立体視に見える斜面に対して光が入射した場合、斜面毎に光の明暗は切り替わるが、立体感に欠けてしまう。
【0006】
また、ホログラムに照射する参照光の見かけの光源のサイズが大きいと、3次元の再生像がぼやけてしまう。
【0007】
これらの欠点を解決するためには、ホログラムを観察する際に光源のサイズや、光源の波長等の観察条件を制約する必要がある。しかしながら、これは観察者に負荷をかけてしまう。
【0008】
また、一般的なキノフォームから形成される計算機ホログラムは、表面の細かい溝状の回折格子構造により、複数の波長が混じった白色光にて再生した場合、視野角に起因した色ずれが起こり、波長によって決まった角度に回折することによって、虹色の回折光が得られる。これは、白色の入射光が入射すると、回折格子の等ピッチの構造により回折し、異なる方向に異なる波長の回折光が進むからである。
【0009】
この虹色を利用し、ホログラムの像を形成するセキュリティラベル等が商品化されている。例えば、従来の回折格子パターンによれば、照明、表示体、観察者の位置関係によって色が虹色に変化する。
【0010】
しかしながら、虹色に見えるようなホログラムは近年容易に製造することが可能であり、もはや十分な偽造防止能力を備えているとは言えず、虹色に代わる表現を求めるニーズが市場トレンドとなっている。
【0011】
このため、一般的なキノフォームから形成される計算機ホログラムは、例えば、商品券等の有価証券、クレジットカード等のカード媒体、パスポートや査証等、ブランド品、および機器部品等のための偽造防止用に適用することはできない。
【0012】
また、ホログラムには特有のぼけが伴う。近年、このようなぼけを改善するために、動的な視覚効果を排除する技術があるが、この場合、視角を変化させても物体の像が全く変化せず、一般的な印刷物との違いが無くなってしまうという問題がある。
【0013】
また、前述したように、一般的なキノフォームから形成される計算機ホログラムは、例えば、商品券等の有価証券、クレジットカード等のカード媒体、パスポートや査証等、ブランド品、および機器部品等のための偽造防止用に適用することはできないために、これらの真贋判定のためには、一般に、ホログラムの他に、インキも使用されている。
【0014】
この種のインキは、時間が経過しても色あせることなく使用できるように、高い耐久性が要求される。また、どの方向から見ても色味が変化しないように、特定方向へのカラーシフト効果を有さないことが好ましい。
【0015】
インキの耐久性向上に関する従来技術として、特許文献2(特許第4916636号明細書)が開示されている。特許文献2には、反射層を2層付与して、干渉色によって、カラーシフト効果を低減する顔料が開示されている。
【0016】
しかしながら、反射層を顔料化し、印刷して使用する場合、印刷時の顔料の傾き角度はランダムであり、顔料が固定された方向によってある特定方向に出る色味が混ざってしまう。これにより彩度の高い色を出すことは困難となる。
【0017】
これを解消するために、磁界によって、配向を制御し、印刷した場合、顔料化する前の膜としての多層膜のカラーシフト効果が強く発現し、さらに、光の放射角度によって、徐々に色が変化するため、どの色が本当の色なのかの判断がつきづらいという問題がある。また、一般的な量子化位相差構造を用いて得られる構造色の場合も同様に、カラーシフト効果が強いものが多く、同様な問題がある。
【0018】
以上まとめると、回折格子によるホログラムは、高輝度な像が得られ、アイキャッチ効果が高いという利点を有するが、ラベルの角度で大きく色が変化し、安定した発色とならないという欠点がある。
【0019】
また、凸部の平坦な上面と、凸部以外の平面との干渉で特有の発色を実現するとともに、凸部で光を散乱することで発色の安定化を図った技術も知られている。凸部の平坦な上面と、凸部以外の平面との干渉の発色は、視点、光源の位置による色のシフトが少なく、安定した発色が得られるという利点を有するが、安定発色のために、広く拡散させる必要があり、輝度が低下するという欠点がある。輝度の低下は、アイキャッチ効果の低減を引き起こしうる。
【0020】
本発明の実施形態はこのような事情に鑑みてなされたものであり、回折や干渉といった従来技術での欠点である色の不安定性や、輝度の低下をキノフォームの技術を応用して解決することが可能であり、その1つの目的は、証券やカード媒体、またはパスポートや査証などのためのセキュリティー性を高めるための偽造防止手段として、絵柄等の図形情報、あるいは文字情報を表示する際に、光源依存の無い3次元表現が可能であり、虹色の見栄えを改善し、さらに視角によって宝石のようにキラキラと点滅するような外観が得られる光学構造体、およびこの光学構造体が備えられた認証体を提供することができる。
【0021】
また、その第2の目的は、証券やカード媒体、またはパスポートや査証のような印刷物に適用されることが好適なインキに適用され、高い耐久性を有するとともに、高輝度表現が可能なキノフォームを応用することによって、カラーシフト効果を有さない光学構造体を提供することにある。
【0022】
上記の目的を達成するために、本発明の実施形態では、以下のような手段を講じる。
【0023】
上記第1の目的を解決する光学構造体は、量子化位相差構造層の一方の面に、量子化位相差構造を有した光学構造体であって、量子化位相差構造は、サイズが一定の複数の量子化凸部と、サイズが一定の複数の量子化凹部とが整列しており、量子化凸部が一方向に整列されたリブ状凸部と、量子化凹部がリブ状凸部と並行して整列された溝状凹部とが、隣接し交互に配置された量子化位相差構造を多重回折領域に有し、多重回折領域は、1方向に離散した複数の規則的に配置した再生点を再生する量子化位相差構造であることを特徴とする。
【0024】
また、上記光学構造体において、量子化位相差構造の量子化凹部の底面の表面粗さと、量子化位相差構造の量子化凹部の頂面の表面粗さが異なる。
【0025】
また、上記光学構造体において、複数の多重回折領域が、量子化位相差構造に規則的に配置されている。
【0026】
また、上記光学構造体において、多重回折領域におけるリブ状凸部の傾斜面が向く方向によって空間周波数成分の方向が決定される。
【0027】
また、上記光学構造体において、空間周波数成分から再生される複数の再生点から、再生点が配置された平面までの最短距離Rは、多重回折領域全体の長さD、および多重回折領域における光の波長λを用いて、R>D2/λの関係を満足する。
【0028】
また、上記光学構造体において、平面に垂直な入射光ベクトルが、
【0029】
【0030】
であり、平面上に構成される、表現したい仮想的な3D形状のポリゴンの傾斜面に対する法線ベクトルが
【0031】
【0032】
であり、
【0033】
【0034】
と、法線ベクトル
【0035】
【0036】
とのなす角度がθ1であり、複数の再生点の整列方向
【0037】
【0038】
と、法線ベクトル
【0039】
【0040】
とのなす角度がθ2であり、θ1=θ2=θである場合、複数の再生点が、整列方向
【0041】
【0042】
に従って分布する。
【0043】
また、上記光学構造体において、複数の再生点のうち、入射光がポリゴンの傾斜面において正反射する方向に存在する再生点の光強度が最も強く、複数の再生点のうち、正反射する方向からずれた再生点ほど、光強度が弱くなるように、複数の再生点の光強度分布を決定する。
【0044】
また、上記光学構造体において、複数の再生点を、空間において非均等な間隔で配置する。
【0045】
また、上記光学構造体において、多重回折領域がセル型である。
【0046】
また、上記光学構造体において、多重回折領域毎に、量子化位相差構造の深さが異なる。
【0047】
また、上記光学構造体において、凸構造の表面に、反射層を備える。
【0048】
また、上記光学構造体を備えた認証体である。
【0049】
さらに、光学構造体は、量子化位相差構造層の一方の面に、量子化位相差構造を有し、量子化位相差構造は、一方の要素構造としてサイズが一定の凸部である量子化凸部が一方向に整列されたリブ状凸部と、他方の要素構造としてサイズが一定の凹部である量子化凹部がリブ状凸部と平行に整列された溝状凹部とが、隣接し交互して配置され、リブ状凸部の上面から溝状凹部の底面までの深さが一定であり、量子化凸部と量子化凹部との要素構造とに量子化され、量子化位相差構造の底面の表面粗さは、上面の表面粗さより粗く、量子化位相差構造の回折光は、一方向に離散した複数の再生点を再生するような構成とすることもできる。
【0050】
上記第2の目的を解決するための光学構造体は、フィルム上に剥離層、エンボス層、および反射層が順に積層されてなる光学構造体であって、エンボス層は量子化位相差構造を有し、量子化位相差構造の量子化凸部の頂面から量子化凹部の底面までの距離は、多重回折領域内で一定である。量子化位相差構造の空間周波数のピーク強度が、エンボス層において、1方向または複数の方向に沿って、互いに離間して複数配置され、光学構造体はさらに、反射層を保護する保護層が積層され、エンボス層および保護層のうちの少なくとも何れかに、塩分吸着剤を内包している。
【0051】
また、上記光学構造体において、量子化凸部の頂面または量子化凹部の底面のうちの少なくとも何れかの表面粗さが、この距離の10分の1以下である。また、上記光学構造体において、量子化位相差構造の凹凸方向は、量子化凸部の頂面部と凹部の底面によって形成されるリブ状凸部と溝状凹部の延存方向に対して垂直である。
【0053】
さらに、上記光学構造体は、樹脂内に分散され、印刷可能なインキとして適用される。さらにまた、上記光学構造体において、反射層は磁性を有する。
【0054】
また、上記光学構造体は、エンボス層および反射層が有する構造色の反射スペクトルが、少なくとも波長800nm以上、1000nm以下においてピークを有し、光学構造体はさらに、可視光を反射し、赤外光を透過する光学層が積層されてなる。
【0056】
さらに、上記光学構造体は、量子化位相差構造の空間周波数のピークの数が、5以上、200以下である。
【0057】
本光学構造体によれば、証券やカード媒体、またはパスポートや査証などのためのセキュリティー性を高めるための偽造防止手段として、絵柄等の図形情報、あるいは文字情報を表示する際に、従来のホログラフィーとは異なり、光源依存の無い3次元表現が可能であり、従来のホログラム独特の虹色の見栄えを改善し、さらに視角によって宝石のようにキラキラと点滅するような効果が得られる光学構造体、およびこの光学構造体が備えられた認証体を実現することができる。
【0058】
特に、本記載では、キャリアの法線方向に対して180°逆方向から光が入ることを計算の前提とし、正反射方向を中心に光が広がるように設計するため、キャリアの法線方向に対して光が斜めに入った場合でも、実際斜面がある場合の光の反射方向とほぼ同一方向に光が反射するため、実際にその場所に、仮想的な三次元物体がある場合と同一の光の明暗が観察されるため、あたかもそこに、三次元物体があるかのように見える。
【0059】
本光学構造体によれば、光が平面に対して垂直に入射した際の光の反射方向を量子化位相差構造により規定することができ、さらに空間周波数成分を複数有することによって、光の反射方向を複数とすることができる。
【0060】
この効果は、光が物体に当たって反射する際に、正反射成分は強く反射し、正反射方向から、角度がずれていくほど反射光強度が低下することと等価な効果を実現する。また、空間周波数成分を離散させることによって、明暗の輝点を発生させることができ、宝石のようなキラキラした効果を発生させることが可能となる。
【0061】
本光学構造体によればさらに、量子化位相差構造を、複数の多重回折領域によって構成することができる。
【0062】
本光学構造体によればさらに、空間周波数成分の方向を、空間周波数多重化の傾斜面が向く方向によって決定することができる。
【0063】
本光学構造体によればさらに、多重回折領域から回折する光の回折領域を、フラウンフォーファー領域とすることで、再生点を直接目視すること無く、再生点の方向に光が反射するような効果が得られるようになる。
【0064】
本光学構造体によればさらに、光の反射光効果を疑似的に回折を計算することによって代用することが可能となる。
【0065】
本光学構造体によればさらに、正反射方向の光強度を強く、さらに正反射からずれた光の強度を弱くすることによって、実際の面に光が当たったような効果を実現することが可能となる。
【0066】
本光学構造体によればさらに、再生点が密な方向では、再生像を白く反射させることが可能となり、逆に、再生点が粗な部分では、従来のホログラムのような虹色の再生像を再生することが可能であり、白色と虹色との両方を制御することが可能となる。
【0067】
本光学構造体によればさらに、多重回折領域をセル型とすることができる。
【0068】
本光学構造体によればさらに、反射した際の光の反射色を量子化位相差構造の深さにより制御できるようになり、もって、3次元像のフルカラーでの表現が可能となる。
【0069】
本反射層を備える光学構造体によればさらに、光の反射率を高めることが可能となる。
【0070】
本認証体によれば、光源依存の無い3次元表現が可能であり、従来のホログラム独特の虹色の見栄えを改善し、さらに視角によって宝石のようにキラキラと点滅するような効果を実現することも可能となる。
【0071】
また、本光学構造体によれば、量子化位相差構造の量子化凸部の頂面部から量子化凹部底面部までの長さが、エンボス層面内の位置によらず一定であるので、該長さをコントロールすることによって、特定波長の光が反射しやすくなるように制御することが可能となる。
【0072】
また、量子化位相差構造において、空間周波数のピーク強度を1方向または複数の方向に沿って離間して複数配置することによって、カラーシフト効果が少なく、どの方向からみても色味が均一になるような効果を実現することが可能となる。
【0073】
さらには、量子化凸部の頂面または量子化凹部の底面のうちの少なくとも何れかの表面粗さが、量子化凸部の頂面から量子化凹部の底面まで長さの10分の1以下で荒れているので、光の波長に依存しない程度に量子化位相差構造をつけることによって、色を変化させずに、光の反射方向を若干ランダム化することができる。量子化凸部の頂面または量子化凹部の底面のどちらにも表面粗さが全く無い場合、量子化凸部の頂面から量子化凹部の底面までの距離が、設計値に対して、製造公差により若干変化した場合、構造色としての色がセンシティブに変化してしまうが、本光学構造体のように、量子化凸部の頂面あるいは量子化凹部の底面のどちらかに表面粗さを持つことで、量子化凸部の頂面から量子化凹部の底面まで長さが若干変化しても、構造色としての色はさほど変化しなくなるので、製造公差をある程度緩和することが可能となる。
【0074】
さらに、本光学構造体によれば、表面粗さを有する量子化位相差構造の凹凸方向は、量子化凸部の頂面と量子化凹部の底面によって形成されるリブ状凸部と溝状凹部の延在方向に対して垂直であるので、構造色に関連する光を、垂直方向へ散乱させることができる。これによって、構造色の色味を変化させない方向に、光を散乱させ、製造公差に強い構造とすること可能となる。
【0075】
さらに、本光学構造体は、反射層を保護する保護層を備えることによって、反射層の表面を保護することができる。それに加えて、保護層の材料を、エンボス層の材料と同じ屈折率の材料とすることによって、表裏での構造色を同一にすることも可能となる。
【0076】
さらにまた、本光学構造体は、反射層が磁性を有していることによって、特定方向の磁界で配向された後に、樹脂を硬化させるような方法によって製造することが可能となるため、光学構造体の方向を制御し、それによる光学効果を付与することも可能となる。
【0077】
また、エンボス層および反射層が有する構造色の反射スペクトルが、少なくとも波長800nm以上、1000nm以下においてピークを有していることによって、可視光で見た目には黒く、通常の黒で印字した印刷物と変わらないが、赤外光により反応する印刷物を作製することができる。したがって、本光学構造体をコンクリート等の材料中に付与することによって、赤外光の検査の際に、ひび割れの部分とひび割れしていない部分とのコントラストを強調できるようになるので、コンクリート等の材料の劣化判定のために適用することが可能となる。
【0078】
さらにまた、エンボス層および保護層のうちの少なくとも何れかに、塩分吸着剤を内包させることによって、大気中の塩分による反射層の劣化を防止することが可能となる。
【0079】
また、本光学構造体は、量子化位相差構造層の一方の面に、量子化位相差構造を有した光学構造体である。量子化位相差構造は、一方の要素構造としてサイズが一定の凸部である量子化凸部が一方向に整列されたリブ状凸部と、他方の要素構造としてサイズが一定の凹部である量子化凹部がリブ状凸部と平行に整列された溝状凹部とが、隣接し交互して配置され、リブ状凸部の上面から溝状凹部の底面までの深さが一定であり、量子化凸部と量子化凹部との要素構造とに量子化されている。量子化位相差構造の底部の表面粗さは、上面の表面粗さより粗く、量子化位相差構造の回折光は、一方向に離散した複数の再生点を再生する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1A】
図1Aは、本発明の1つの実施形態に係る光学構造体に備えられた多重回折領域を示す平面図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1Aに示す多重回折領域における空間周波数成分のピーク強度を示す図である。
【
図2】
図2は、複数の多重回折領域が備えられた光学構造体の一例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、量子化位相差構造を示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、仮想的な3次元形状の一例である球体を示す正面図である。
【
図5】
図5は、球体のための仮想3D形状のポリゴンの一部を示す断面図である。
【
図6A】
図6Aは、空間周波数分布の実施形態を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、空間周波数分布の実施形態を示す図である。
【
図6C】
図6Cは、空間周波数分布の実施形態を示す図である。
【
図6D】
図6Dは、空間周波数分布の実施形態を示す図である。
【
図7】
図7は、光学構造体を媒体に貼り合わせた状態を示す断面図である。
【
図8】
図8は、光学構造体を媒体に貼り合わせた状態の別の形態を示す断面図である。
【
図9A】
図9Aは、本発明の他の実施形態に係る光学構造体の素材となる光学構造体の構成例を概略的に示す断面図である。
【
図9B】
図9Bは、本発明の他の実施形態に係る光学構造体の素材となる光学構造体の別の構成例を概略的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、光学構造体を構成するエンボス層の構成例を概略的に示す断面図である。
【
図11A】
図11Aは、エンボス層によって形成される多重回折領域の実施形態を示す平面図である。
【
図13】
図13は、エンボス層の量子化位相差構造の表面の一部を、走査電子顕微鏡によって観察することによって得られた顕微鏡写真である。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態に係る光学構造体によって得られる画像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、同様または類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0082】
(光学構造体および認証体)
図1Aは、本発明の一つの実施形態に係る光学構造体10に備えられた量子化位相差構造にある多重回折領域12の実施形態を示す平面図であり、
図1Bは、この多重回折領域12における5つの再生点における空間周波数成分F1~F5のピーク強度の一例を示す図である。光学構造体10は、エンボス層の片面または両面にエンボス面を有する。エンボス面は、その一部または全面に多重回折領域を有する。多重回折領域には、量子化位相差構造が形成されている。
【0083】
図1Aのように、量子化位相差構造は、サイズが一定の複数の量子化凸部と、サイズが一定の複数の量子化凹部とが整列している。
図1Aで、明るい部分が量子化凸部で、暗い部分は、量子化凹部である。 量子化凸部と、量子化凹部は、一定の間隔で配置されている。一定の間隔で、量子化凸部には、隣接して量子化凹部か、量子化凸部が配置している。また、一定の間隔で、量子化凹部には、隣接して量子化凸部か、量子化凹部が配置している。例えば、量子化位相差構造の量子化凸部と量子化凹部は、一つづつ、交互に配置したり、複数が交互に配置している。
【0084】
多重回折領域12の量子化位相差構造は、量子化凸部と量子化凹部の配列により、エンボス面上に粗い周期の空間周波数成分と細かい周期の空間周波数成分とが重ね合わさる。多重回折領域12は、量子化位相差構造を内包したセルとすることができる。多重回折領域12の量子化位相差構造は、量子化凸部が一方向に整列されたリブ状凸部と、要素構造としてサイズが一定の凹部である量子化凹部がリブ状凸部と並行して整列された溝状凹部とが、隣接し交互に配置された、量子化凸部のサイズは、可視波長の中心波長の半分以下、1/20以上とできる。量子化凹部のサイズは、可視波長の中心波長の半分以下、1/20以上とできる。具体的には、量子化凸部のサイズは、250nm以下、25nm以上とできる。量子化凹部のサイズは、250nm以下、25nm以上とできる。量子化凸部は、正方形とできる。量子化凹部は正方形とできる。量子化凸部の角は、丸くできる。量子化凹部の角は、丸くできる。また、量子化凸部、量子化凹部は、仮想グリットに整列してもよい。また、量子化凸部の高さは、基準高さと同じまたはその整数倍とできる。量子化凹部の深さは、基準深さと同じまたはその整数倍とできる。基準高さと基準深さは、同じとできる。このときの整数倍の値は、1~4とできる。また、1~8としてもよい。基準深さ、基準高さは、10nm以上、500nm以下とできる。
【0085】
多重回折領域12によって再現されるホログラムの再生像が、5点の再生点群である場合、
図1Aのように、多重回折領域12の平面内の予め決定された1方向Dに沿って空間周波数成分を計算すると、
図1Bのように、再生点に対応する空間周波数成分F1~F5において、離散的な5点のピークを有する。なお、
図1Bの横軸は空間周波数[1/mm]であり、縦軸は空間周波数成分の強度である。
【0086】
離散的な空間周波数成分が疎な場合、再生像は虹色となり、密な場合は白色となる。また、空間周波数成分の分布の粗密を調整することにより、ある角度方向では再生像は虹色となり、それ以外の角度では白色となるようにすることも可能である。
【0087】
図2は、複数の多重回折領域12が備えられた光学構造体10aの一例を示す平面図である。
【0088】
このように光学構造体10に備えられる多重回折領域12の数は、
図1Aのように1つに限られず、
図2のように複数であっても良い。なお、
図1Aおよび
図2に示される各多重回折領域12の平面形状は、矩形形状であるが、矩形以外の形状であっても良い。
【0089】
【0090】
図3にその断面図を示すような量子化位相差構造14の表面には、図示しない反射層を備えていても良い。反射層は、透光性または隠蔽性とできる。
【0091】
反射層は、金属材料からなる反射層とすることができる。金属材料は、Al、Ag、Sn、Cr、Ni、Cu、Auおよびそれらの合金等とすることができる。金属からなる反射層は、隠蔽性の反射層とできる。あるいは、反射層として、レリーフ構造形成層とは屈折率が異なる誘電体層としてもよい。あるいは、反射層として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、すなわち、誘電体多層膜としてもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、レリーフ構造形成層と接触しているものの屈折率は、レリーフ構造形成層の屈折率とは異なることが望ましい。誘電体層は、金属化合物、または酸化ケイ素とできる。金属化合物は、金属酸化物、金属硫化物、フッ化金属等とできる。誘電体層の材料は、TiO2、ZnO、Si2O3、SiO、Fe2O3、ZnS、CaF、MgFとできる。反射層は、気相堆積法により形成することができる。気相堆積法としては、真空蒸着法およびスパッタリング法等が適用できる。誘電体層の反射層は、透光性とできる。反射層は、10nm以上、1000nm以下とすることができる。
【0092】
反射層は、インキを用いて形成できる。このインキは、印刷方式に応じて、オフセットインキ、活版インキおよびグラビアインキなどとできる。また、組成の違いに応じて、樹脂インキ、油性インキおよび水性インキを用いてよい。また、乾燥方式の違いに応じて、酸化重合型インキ、浸透乾燥型インキ、蒸発乾燥型インキおよび紫外線硬化型インキを用いてよい。
【0093】
また、反射層として、照明角度または観察角度に応じて色が変化する機能性インキとしてもよい。このような機能性インキとしては、光学的変化インキ(Optical Variable Ink)、カラーシフトインキおよびパールインキとできる。
【0094】
量子化位相差構造14を用いて、表現したい仮想的なポリゴンに対するホログラム計算を行うためには、該ポリゴンの傾斜角度を決定し、該傾斜角度の傾斜面15(後述する
図5を参照)に対応する量子化位相差構造14の計算を行う。
【0095】
図4Aは、量子化位相差構造14の回折光により現れる擬似的なポリゴンの実施形態である球体16を示す正面図である。
図4Bは、
図4Aのような球体16を疑似的に表現するために、方向の異なる複数の空間周波数成分を有する複数の多重回折領域12が配置された光学構造体10bを示す平面図である。
図4Cは、光学構造体10と球体16との位置関係を示す断面図である。
【0096】
図5は、球体16のための仮想3D形状のポリゴンの一部を示す断面図である。多重回折領域12の基準面18に対して傾斜角度θ1を有する傾斜面15によって形成されている。
【0097】
図5にはまた、傾斜面15と再生点20との位置関係も示されている。
図5に示すように、本発明の実施形態では、傾斜面15の正反射方向に再生点20を配置することによって、光が入射した際にあたかも仮想の傾斜面15が存在するような目視効果を得ることができるようにしている。
【0098】
光が垂直入射する傾斜面15を計算する場合、基準面18に対して、垂直な入射光ベクトルが
【0099】
【0100】
であり、基準面18上に構成される仮想3D形状のポリゴンの傾斜面15に対する法線ベクトルが
【0101】
【0102】
であり、
【0103】
【0104】
と、法線ベクトル
【0105】
【0106】
とのなす角度がθ1であり、複数の再生点20(#1)~(#5)の整列方向
【0107】
【0108】
と、法線ベクトル
【0109】
【0110】
とのなす角度がθ2であり、θ1=θ2=θである場合、複数の再生点20(#1)~(#5)が、整列方向
【0111】
【0112】
に従って分布する。
【0113】
なお、再生点20(#1)~(#5)から基準面18までの最短距離Rは、多重回折領域12全体の長さD、および多重回折領域12における光の波長λを用いて、R>D2/λの関係を満足する。
【0114】
複数の再生点20(#1)~(#5)のうち、入射光がポリゴンの傾斜面15において正反射する方向に存在する再生点20(#3)の光強度が最も強く、正反射する方向からずれた再生点ほど、すなわち、再生点20(#3)→再生点20(#2)→再生点20(#1)、および再生点20(#3)→再生点20(#4)→再生点20(#5)の順に光強度が弱くなるように、複数の再生点20(#1)~(#5)の光強度分布を決定する。
【0115】
これによって、傾斜面15の反射強度分布を計算によって実現することを可能としている。
【0116】
なお、上述の光強度分布と別の光強度分布も適用できる。また、
図5では、複数の再生点20(#1)~(#5)を、空間において均等な間隔で配置した実施形態を示しているが、複数の再生点20(#1)~(#5)を、非均等な間隔で配置しても良い。これらを
図6A~
図6Dを用いて説明する。
図6A~
図6Dでは、横軸が再生点20の整列方向を示し、縦軸が、再生点20の強度を示す。なお、横軸における
【0117】
【0118】
は、正反射方向に対応する。
【0119】
図6Aは、正反射方向には再生点20が配置されていないものの、強度の等しい6つの再生点20が、正反射方向を中心として均等な間隔で配置された実施形態を示す。
図6Bは、強度の等しい11の再生点20が、正反射方向付近において粗に、正反射方向から離れた場所において密に配置された実施形態を示す。
図6Cは、正反射方向には再生点20が配置されていないものの、正反射方向付近に強度が高く、正反射方向から離れるにしたがって強度が低くなるように、再生点20を均等な間隔で配置した実施形態を示す。
図6Dは、正反射方向近傍には再生点20が配置されていないものの、正反射方向からさらに離れる方向に行くにしたがって強度が徐々に高くなり、正反射方向からさらに近づく方向に行くにしたがって強度が徐々に低くなるように再生点20を配置した実施形態を示す。本実施形態では、このように、再生点20の強度分布を任意に設定できるようにしている。
【0120】
このように本発明の実施形態では、
図5に示すように正反射方向を中心に、離散的に再生点20を配置することによって、再生像は、宝石のように、各ポリゴンが、視点、光源により複雑に変化する光沢を有する。複雑に変化する光沢は、キラキラした外観とできる。
【0121】
図7は、光学構造体10cを、認証体に適用するために被着体22に貼り合わせた状態の実施形態を示す断面図である。
【0122】
被着体22に貼り合わせるために、光学構造体10cは、キャリア24の上に量子化位相差構造14を備え、量子化位相差構造14の表面に金属薄膜からなる反射層26を形成し、さらにその表面に、接着層28を備え、接着層28によって被着体22と接着される。
【0123】
反射光の損失を抑えるために、キャリア24は透明としている。キャリア24の材料は、ガラスのような剛体でも良いし、フィルムでも良い。フィルムは、プラスチックフィルムとできる。プラスチックフィルムはPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PEN(ポリエチレンナフタレートフィルム)、PP(ポリプロピレン)フィルムなどとできる。なお、用途や目的によっては紙や合成紙、プラスチック複層紙や樹脂含浸紙等をキャリアとして用いても良い。
【0124】
量子化位相差構造14を形成する材料は、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート等の熱硬化性樹脂、あるいはこれらの混合物、さらにはラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性材料等とすることが可能である。
【0125】
図8は、光学構造体10dを、認証体に適用するために被着体22に貼り合わせた状態の別の実施形態を示す断面図である。
【0126】
図8に示す光学構造体10dは、キャリア24を剥離するために、キャリア24と量子化位相差構造14との間に剥離層30を設けた点が、
図7に示す光学構造体10cと異なる。
【0127】
接着層28によって光学構造体10dを被着体22に接着した後は、剥離層30において剥離することによってキャリア24を剥離するので、キャリア24は、透明である必要はない。
【0128】
剥離層30の形成材料は、樹脂とできる。また、剥離層30は滑剤を含有して良い。樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等を含有して良い。樹脂は、アクリル樹脂やポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂とできる。
【0129】
また、滑剤としてはポリエチレンパウダー、パラフィンワックス、シリコーン、カルナバロウ等のワックスとできる。これらは剥離層30として、キャリア24層上に塗布することができる。塗布は、公知の塗布方法が適用できる。塗布は、グラビアコートやマイクログラビアコート等、ダイコート、リップコート等とできる。剥離層30の厚みは、0.5μm以上、5μm以下の範囲内とできる。
【0130】
以上のような本発明の実施形態に係る光学構造体10によれば、絵柄等の図形情報、あるいは文字情報は、虹色フリーであり、さらに視点、光源により宝石のような光沢感を有する外観とできる。この外観は、視点や光源によって、輝度が点滅し、キラキラした見え方となる。この外観は、量子化位相差構造証券やカード媒体、またはパスポートや査証などのためのセキュリティー性を高めることができる。
【0131】
[実施例]
(比較例)
本発明の実施形態では、
図6A~
図6Dに示すように、複数の空間周波数成分が考慮され、これに応じて、複数の再生点20が考慮されるが、本比較例では、比較のために、再生点数N=1として、ホログラムの計算を行った。
【0132】
光学構造体10には、240×240のグリットに整列した量子化凸部と、量子化凹部からなる多重回折領域12を、縦250、横250、配置した。量子化凸部、量子化凹部の一辺のサイズが100nmの正方形とした。この描画解像度はレジストへの電子線描画装置による描画解像度である。
【0133】
レジストへ描画後、Niスパッタを施し、Ni電鋳後Ni版を作製した。このNi版からUV硬化性樹脂によりPETフィルムにエンボス成型を行った。エンボス成型後の構造の表面にAlを150nm蒸着した。
【0134】
その結果、虹色に薄暗く光る再生像が再生された。虹色に再生された理由は、再生点数N=1で計算したためであり、ほとんど散乱成分がない状態であるためである。また、暗かった理由も同様に散乱成分がないため、反射した光が目視で確認できないためである。
【0135】
(実施例1)
上記比較例と比較すべく、本実施例1では、再生点数N=5、再生点の光強度をcos(θ)^sとし、s=20とした条件において、ホログラムの計算を行った。
【0136】
この時のθは、傾斜面15の傾斜角に等しく、
図5において
【0137】
【0138】
方向がθ=0となる。また、
図5におけるθ2=90degとした。
【0139】
また、光学構造体10は、比較例と同様に作製した。すなわち、240×240のグリットに整列した量子化凸部と、量子化凹部からなる多重回折領域12を、縦250、横250、配置し、量子化凸部、量子化凹部の一辺のサイズが100nmの正方形とし、レジストへ描画後、Niスパッタを施し、Ni電鋳後Ni版を作製し、このNi版からUV硬化性樹脂によりPETフィルムにエンボス成型を行い、エンボス成型後の構造の表面にAlを150nm蒸着した。
【0140】
その結果、虹色に光る再生像が再生された。明るさは比較例よりも明るかった。虹色に再生した理由は再生点数N=5で計算したためであり、再生点の数が比較例よりも多いために、比較例よりも明るく再生されたものの、再生点の数は、まだ白色に再生させるためには十分ではないためである。
【0141】
(実施例2)
上記比較例および実施例1と比較すべく、本実施例2では、再生点数N=91とし、他の条件は変えることなく、位相の計算を行った。
【0142】
また、光学構造体10は、比較例と同様に作製した。すなわち、240×240グリットに整列した量子化凸部と、量子化凹部からなる多重回折領域12を、縦250、横250、配置し、量子化凸部、量子化凹部の一辺のサイズが100nmの正方形とし、レジストへ描画後、Niスパッタを施し、Ni電鋳後Ni版を作製し、このNi版からUV硬化性樹脂によりPETフィルムにエンボス成型を行い、エンボス成型後の構造の表面にAlを150nm蒸着した。
【0143】
その結果、再生像は白色に再生された。その理由は、再生点数がN=91と多くなっており、虹色が十分混ざったため、白色にて再生できたからである。明るさも比較例、実施例1と比較し明るかった。その理由は、再生点数Nが増加し、散乱成分が増加したからである。
【0144】
このように、本光学構造体は、実施例1、2の比較例との比較のように、再生点数を増加させることによって、より明るく白い再生像を実現できることを確認することができた。
【0145】
(光学構造体)
本発明の他の実施形態に係る光学構造体について説明する。
【0146】
本発明の実施形態に係る光学構造体は、フィルム上に剥離層、エンボス層、および反射層が順に積層されている。
【0147】
図9Aおよび
図9Bは、本発明の実施形態に係る光学構造体の構成を概略的に示す断面図である。
【0148】
図9Aに示すように、光学構造体40は、フィルム42上に、剥離層44、エンボス層46、および反射層48が順に積層されてなる。
【0149】
また、
図9Bに示すように、光学構造体40はさらに、反射層48の非エンボス層側に、反射層48を保護する保護層49が積層されていても良い。
【0150】
キャリア42は、ガラスのような剛体や、フィルムとできる。フィルムは、プラスチックとできる。プラスチックフィルムは、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)フィルムなどとできる。なお、用途や目的によっては紙や合成紙、プラスチック複層紙や樹脂含浸紙等を用いても良い。キャリアは、耐熱材料とできる。耐熱材料は、エンボス層46を積層する場合にかかる熱や圧力等によって変形や変質の少ない。
【0151】
剥離層44の形成材料は、樹脂とできる。また、剥離層44は滑剤を含有してもよい。樹脂は、アクリル樹脂やポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂とできる。樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、および電子線硬化性樹脂等とできる。また、滑剤は、ポリエチレンパウダー、パラフィンワックス、シリコーン、カルナバロウ等のワックスとできる。剥離層44は、公知の塗布方法で形成できる。剥離層44は、キャリア42上にグラビア印刷法やマイクログラビア法等によって形成できる。剥離層44の厚みは、0.5μm以上、5μm以下の範囲とできる。
【0152】
次にエンボス層46について説明する。
【0153】
図10は、光学構造体40のエンボス層46の構造を概略的に示す断面図である。
【0154】
エンボス層46は、略平坦な形状をしており、片面に量子化位相差構造50を有する。量子化位相差構造50の量子化凸部の上面52から量子化凹部の下面54までの長さLは、エンボス層46面における位置によらず一定である。量子化凸部の上面52および量子化凹部の下面54は、キャリア42に対して、略平行とできる。このようなエンボス層46では、長さLにより、反射光の色が変調する。また、量子化位相差構造50の凹凸方向(すなわち、
図10における上下方向)は、量子化凸部の頂面52と量子化凹部の底面54によって形成されるリブ状凹部と溝状凹部の延在方向に対して垂直である。この構造によって、光の射出分布をブロードとし、かつ、光の色味を崩さずに制御することを可能としている。
【0155】
エンボス層46は、片面または両面にエンボス面を備える。エンボス面には、位相角記録領域を含む。位相角記録領域には、量子化位相差構造が形成される。量子化位相差構造は量子化凸部と量子化凹部とが整列している。量子化凸部と量子化凹部は、単位長さの整数倍の横幅と、単位長さの整数倍の縦幅を有する。単位長さは、可視波長の中心波長の半分以下、1/20以上とできる。単位長さは、250nm以下、25nm以上とできる。
【0156】
量子化凸部は、記録する位相角が、0以上π未満の部分に配置される。量子化凸部の高さが一定の場合、0以上π未満の位相角は、π/2に量子化される。量子化された、π/2に相当する高さを量子化凸部は有する。また、量子化凸部の高さが複数の場合、π/(2・n)の間隔で量子化される。量子化された、それぞれの位相に対応したそれぞれの高さを量子化凸部は有する。また、π以上、2π未満の部分には、量子化凹部が配置される。π以上2π未満の位相角は、量子化凹部の深さが一定の場合、3π/2に量子化される。量子化凹部の深さが複数の場合、π/(2・n)の間隔で量子化される。量子化された、それぞれの位相に対応したそれぞれの深さを量子化凹部は有する。量子化凸部と、量子化凹部が整列した量子化位相差構造との相互作用により特定の角度へ回折する光の波長は、量子凸凹部、量子化凹部の配置により定まる空間周波数と入射角度と回折角度により定まる。そのため、エンボス面の多重回折領域は、量子化凸部、量子化凹部の空間周波数も離散的であるため、空間周波数に対応した回折光のみが回折する。回折光はある間隔の波長を射出されるため、観察される回折光は複数の特定波長の回折光の混色となる。
【0157】
量子化凹部が、一定の深さを有し、量子化凸部も一定の高さの場合、量子化凹部が整列した量子化位相差構造との相互作用で量子化凹部の頂面の反射光と量子化凹部の底面の反射光が干渉する。量子化凹部が、一定の深さを有し、量子化凸部も一定の高さの場合、その深さ、高さは、100nm以上、400μm以下とできる。
【0158】
干渉光は、位相が揃う頂面の反射光と底面の反射光の位相差が0または2πの整数倍で最大となり、位相が逆になる頂面の反射光と底面の反射光の位相差がπの整数倍で打ち消しあい干渉した反射光は0となる。位相が揃う位相差と、位相が逆となる位相差の間では反射光から0まで連続的に変化する。位相差は、反射光の波長に比例するため、干渉による反射光の波長毎の反射光の強度は連続的に変化する。従って、干渉による反射光は、特定の帯域となる。
【0159】
量子化凹部が、一定の深さを有し、量子化凸部も一定の高さ量子化位相差構造は、この干渉と回折により反射光を発する。
【0160】
このため、量子化凹部が、一定の深さを有し、量子化凸部も一定の高さ量子化位相差構造は、回折光のうち、干渉光の帯域にある反射光を選択的に発する。通常の回折では、通常ノイズとなる2次以上の高次の回折光も発せられるため、設計どおりの反射光は得られない。しかし、本発明の量子化位相差構造は、回折光のうち、干渉する光が選択的に反射されるため、高次の回折光を含まない反射光が得られる。
【0161】
なお、量子化位相差構造による干渉の帯域をモディファイするため、量子化凸部の頂面または量子化凹部の底面を粗面とできる。これにより、必要な量子化位相差構造による干渉の帯域を確保することができる。
【0162】
量子化位相差構造の形成に必要な処理は次の通りである。先ず、計算機は、
図6に示すように、1つの再生点220(#a)によって規定される計算要素区画160(#A)と、位相角記録領域180(#1)とが重なる領域である重複領域190(#1)、および、計算要素区画160(#A)と、位相角記録領域180(#2)の一部とが重なる領域である重複領域190(#2-1)に含まれる量子化凸部、量子化凹部を対象として、再生点220(#a)からの光の位相W(x,y)を計算する。
【0163】
再生点220は1つ、または、再生点220は複数存在する。1つの再生点220には、1つの対応する計算要素区画160が存在する。再生点220は複数存在する場合、各計算要素区画160は、複数の再生点220の各々に1対1で対応して、複数の再生点220と同数存在する。
【0164】
再生点220が、複数存在する場合、計算機はさらに、
図6に示されるように別の再生点220(#b)によって決定される計算要素区画160(#B)と、位相角記録領域180(#2)とが重なる領域である重複領域190(#2)に含まれる量子化凸部、量子化凹部を対象として、再生点220(#b)からの光の位相W(x,y)を計算する。
【0165】
図6に示すように、2つの計算要素区画160(#A)、160(#B)が重なり合う場合は、位相W(x,y)の和を計算する。
【0166】
計算機はさらに、計算された位相W(x,y)に基づいて、位相角φ(x,y)を計算し、計算された位相角φ(x,y)の数値の情報を、対応する重複領域190にリタデーションとして記録する。位相から位相角φ(x,y)を計算する式は、以下に示す通りである。
【0167】
【0168】
ここで、Wn(kx,ky)はn番目の再生点の計算要素区画160での座標(kx,ky)における再生点nの位相、W(x,y)は座標(x,y,0)における位相変調構造体に記録する位相、nはn番目の再生点(n=0~Nmax)、ampnはn番目の再生点の光の振幅、iは虚数、λは再生点220の集合で再生される再生像を再生する際の光の波長、On(x)は再生点のx座標の値、On(y)は再生点のy座標の値、On(z)は再生点のz座標の値、(kx,ky,0)は量子化凸部、量子化凹部の座標、φn(kx,ky)はn番目の再生点の位相角である。位相Wn(kx,ky)は、計算要素区画160のすべての点で求められ、再生点nの位相は、再生点220からの距離が同じ点では、同じとなるため計算済みの位相の情報をコピーできる。また、下記で述べるように、On(z)は再生点のz座標の値、すなわち記録面からの距離が同じ再生点の位相Wn(kx,ky)は、同じ位相の分布となるため計算済みの位相の情報をコピーできる。なお、計算要素区画160での座標(kx,ky)は、その中心座標を、(0,0)とした場合、対応する再生点Onのx座標は、On(x)となりy座標は、On(x)となるため、記録面での座標、(x,y)とは、x=kx+On(x)、y=ky+On(y)の関係となる。
【0169】
ところで、量子化凸部、量子化凹部に数値情報を記録する再生点220の位相が増加すると、それに伴って情報量も増加し、計算時間も増大する。記録する再生点220の位相が多すぎると、再生点220において再生される再生像のコントラストが落ちる要因ともなる。よって、たとえば、重複領域190(#2-1)のように、複数の再生点220(#a、#b)の位相角記録領域180が重なる部分について、より明瞭な再生像を得るためには、計算要素区画160の重なりが少ない、すなわち位相角記録領域180に存在する計算要素区画の数が少ない方が好ましい。
【0170】
位相角記録領域180には、計算要素区画160が重ならないように、すなわち計算要素区画160を1つとすることができる。また、位相角記録領域180に、計算要素区画160が複数存在する場合には、位相角記録領域180内の計算要素区画160の数を256以下とすることができる。この場合、計算をより効率的にすることができる。さらに、位相角記録領域180内の計算要素区画160の数を16以下とすることができる。この場合、明瞭な再生像を得やすい。
【0171】
そして、視野角θによって規定される計算要素区画160と、位相角記録領域180とが重複する領域である重複領域190における量子化凸部、量子化凹部に対して、位相W(x、y)が計算され、位相W(x、y)から位相角φ(x、y)が計算される。前述したように、視野角θの上限が規定され、位相角φが計算される領域も重複領域190に限定されるので、計算時間は短縮される。そして、計算された位相角φは、重複領域190における対応する量子化凸部、量子化凹部にリタデーションとして記録される。
図7は、位相角φが記録された量子化凸部、量子化凹部を示すSEM画像である。
図7に示される量子化凸部、量子化凹部は、一辺の長さがdである正方形をしており、X方向とY方向との両方において配列間隔dで2次元配列されている。
【0172】
また、位相角記録領域180の他に、記録面140に位相角非記録領域200を有してもよい。位相角非記録領域200は、たとえ計算要素区画160と重複した場合であっても、計算機によって、計算はされず、位相角非記録領域200には、位相角は記録されない。代わりに、位相角非記録領域200には、例えば光の散乱、反射、および回折特性に関する情報のように、位相角以外の情報が記録されてもよい。または、位相角非記録領域200を透光性とし、位相角非記録領域200に印刷を設けても良い。これにより記録面を有する位相変調構造体240の意匠性を高めることができる。
【0173】
なお、
図10では、簡略のため、複数の量子化位相差構造50の凹凸のピッチPが同一の構成を示しているが、エンボス層46は、このような構成に限定されず、複数の異なるピッチP、複数の異なる長さL、複数の異なる量子化凸部の頂面52の長さT、および複数の異なる量子化凹部の底面54の長さBを有していても良い。後述するように、エンボス層46は、量子化位相差構造50において複数の空間周波数成分を有するために、凹凸のピッチP、長さL、長さT、および長さBが局所的にそれぞれ異なる量子化位相差構造50を有する。但し、この量子化位相差構造50は、一定のサイズの量子化凸部、量子化凹部からなるため、量子化凸部、量子化凹部のサイズより小さな構造は形成されない。一方で、量子化凸部が連続する領域や、量子化凹部が連続する領域では、量子化凸部や量子化凹部の整数倍の構造が形成される。
【0174】
図11Aは、量子化位相差構造50を有するエンボス層46によって形成される多重回折領域を示す平面図である。
図11Aには、
図1Aと同様に、エンボス層46の全面にわたって、多くの異なるピッチPを有する量子化位相差構造50が配置されていることが示されている。また、
図11Bは、
図11Aの多重回折領域における5つの空間周波数成分f1~f5を示す平面図である。
図11Cは、
図11Bに示す空間周波数成分f1~f5のピーク強度を示す図である。
図11Cにおいて、横軸は、平面上における距離(ピクセル)を示し、縦軸はグレイ値を示す。このように、光学構造体40もまた、本発明の一つの実施形態と同様に、平面上に予め決定された1方向に沿ってそれぞれ離散して配置された複数の再生点の各々に対応した、それぞれ固有の空間周波数成分f1~f5を有する多重回折領域が、平面上の量子化位相差構造50に配置されている。
【0175】
図11Bに示されるように、空間周波数成分f1~f5は、1方向に離間して複数配置される。
図11Bでは、一例として、5つの空間周波数成分f1~f5が示されているが、本発明の実施形態において、空間周波数成分の数は、5以上、200以下である。
【0176】
【0177】
比較とする
図11Bに示す5つの空間周波数成分f1~f5は、1方向に離間して分布していることによって、反射光の色のカラーシフトの範囲を制限することができる。かつ、隣接する空間周波数成分間の間隔によって、目で見た際、あるいは測定器等でセンシングした際の明るさの低下を抑え、反射光の輝度低下を抑えることが可能となる。
【0178】
一方、
図12Aに示す1つの空間周波数成分f6は、直線状であることによって、
図11Bよりも、カラーシフトを抑える効果を高めることができるが、その分、目で見た際、または、測定器等でセンシングした際の輝度低下が起きるために、
図11Bの場合よりも暗くなる。
【0179】
また、
図12Bに示す3つの空間周波数成分f7~f9は、それぞれ直線状の空間周波数成分であるので、光が拡散する方向が複数となる。これによって、
図12Aと同様に、
図11Bよりもカラーシフトを抑える効果を高めることができるが、目で見た際、または、測定器等でセンシングした際の輝度低下が起きるために、
図11Bの場合よりも暗くなる。
【0180】
また、
図12Cに示すような唯一の点状の空間周波数成分f10によれば、拡散する方向は単一となるが、カラーシフトを制限することができない。
【0181】
なお、エンボス層46は、塩分吸着剤を内包していてもよい。また、
図9Bのように、保護層49を備えている光学構造体40の場合には、エンボス層46および保護層49のうちの少なくとも何れかに、塩分吸着剤を内包しても良い。
【0182】
図13は、エンボス層46の量子化位相差構造50の表面の一部の、走査電子顕微鏡による観察によって得られた顕微鏡写真である。
【0183】
量子化位相差構造50は、一方の要素構造としてサイズが一定の凸部である量子化凸部が一方向に整列されたリブ状凸部と、他方の要素構造としてサイズが一定の凹部である量子化凹部がリブ状凸部と平行に整列された溝状凹部とが、隣接し交互して配置されている。リブ状凸部の量子化凸部の頂面52から溝状凹部の量子化凹部の底面54までの深さが一定であり、量子化凸部と量子化凹部との要素構造とに量子化されている。量子化位相差構造50の量子化凹部の底面54の表面粗さは、量子化凸部の頂面52の表面粗さより粗く、量子化位相差構造50の回折光は、一方向に離散した複数の再生点を再生する。
【0184】
エンボス層46が多数の空間周波数成分を有している場合、エンボス層46の量子化位相差構造50の表面は、
図13に示すように、ある程度規則的ではあるものの、かつ複雑な構造となる。
図13に図示される本発明の実施形態では、量子化位相差構造50は、量子化凹部の底面54は、一定の深さであり、量子化凹部の底面54の深さのばらつきは、長さLの10分の1以下となっている。尚、量子化凹部の底面54の表面は荒れていても良い。
【0185】
エンボス層46の材料としては、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート等の熱硬化性樹脂、あるいはこれらの混合物、さらにはラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性材料とすることができる。
【0186】
反射層48は、インキを塗布し形成できる。このインキは、印刷方式に応じて、オフセットインキ、活版インキおよびグラビアインキなどとできる。また、インキ溶剤の違いに応じて、無溶剤インキ、油性インキおよび水性インキとできる。また、乾燥方式の違いに応じて、酸化重合型インキ、浸透乾燥型インキ、蒸発乾燥型インキ、および紫外線硬化型インキとできる。
【0187】
また、反射層48として、照明角度または観察角度に応じて色が変化する機能性インキとすることができる。このような機能性インキとしては、光学的変化インキ(Optical Variable Ink)、カラーシフトインキおよびパールインキとできる。
【0188】
また、反射層48は、金属、金属化合物とできる。金属化合物は、TiO2、Si2O3、SiO、Fe2O3、ZnS等とすることができる。これらの金属化合物屈折率の高く高反射率としやすい。また、金属は、Al、Ag、Sn、Cr、Ni、Cu、Au等とできる。これらの金属は反射率を高くしやすい。
【0189】
さらにまた、反射層48は磁性を有していても良い。
【0190】
保護層49は、エンボス層46と同じ種類の材料とできる。また、保護層49は、エンボス層46と同じ材料でもよい。エンボス層46と同じ材料とすることによって、屈折率を、エンボス層46と同じにすることができるので、光学構造体40の表裏での色を同一にできる。
【0191】
光学構造体40にはさらに、可視光を反射し、赤外光を透過する光学層(図示せず)を積層しても良い。
【0192】
光学構造体40ではまた、エンボス層46および反射層48の構造色が、少なくとも波長800nm以上、1000nm以下においてピークを有する反射スペクトルを有することが好ましい。
【0193】
本発明の実施形態に係る光学構造体は、このような光学構造体40のキャリア42から、剥離層44を介してエンボス層46および反射層48を、光構造体用素材として剥離し、この光学構造体用素材を微細に粉体化することによって作製される。このように作製された光学構造体は、樹脂内に分散され、印刷可能なインキとして適用される。
【0194】
次に、このような本発明の実施形態に係る光学構造体の作用について説明する。
【0195】
本発明の実施形態に係る光学構造体では、量子化位相差構造50の量子化凸部の頂面52から量子化凹部の底面54までの長さLは、エンボス層46における面内の位置によらず一定であり、長さLの値を調節することによって、特定波長の光を反射させ易くすることが可能である。
【0196】
また、量子化位相差構造50の空間周波数において、
図11Bに示すように、複数の空間周波数分布f1~f5のピーク強度を、平面内において1方向または複数の方向に沿って離間して配置することで、カラーシフトが少なく、観察方向、照明の方向の変化に伴う色の変化を小さくすることができる。
【0197】
一方、
図12Aに示すように、空間周波数成分f6のピーク強度を、直線状に連続的に配置する場合にもカラーシフト効果を低減させることが可能であるが、この場合は、輝度および色の彩度が下がる。
【0198】
さらには、
図12Bに示すように、空間周波数成分f7~f9のピーク強度を、平面内で1方向だけではなく、複数の方向になるようにした場合には、光の反射方向が多すぎるために、輝度は低下する。
【0199】
さらにまた、
図12Cに示すように、空間周波数成分f10のピーク強度を、複数方向への配置ではなく、単一方向への配置とした場合には、光が入射した場合、ある特定の方向にしか回折光しか反射しない。言い換えると、
図12Cのような場合、エンボス層46は、
図10に示すような単純な単一ピッチPの回折格子となるが、この場合には、反射する方向が少なすぎるため、全体の輝度の低下につながる。
【0200】
また、本発明の実施形態に係る光学構造体では、
図13に示されるように、量子化凹部の底面54の表面粗さが、長さLの10分の1以下で荒れているので、光の波長に依存しない程度の量子化位相差構造50とすることによって、色を変化させずに、光の反射方向を拡散することが可能となる。
【0201】
また、前述したように、量子化凸部の頂面52から量子化凹部の底面54までの長さLを調節することによって、特定波長の光を反射させることが可能となるが、仮に、量子化凸部の頂面52または量子化凹部の底面54の何れにも表面粗さが全く無い場合、長さLが、設計値に対して、公差による変化に、色が敏感に変化する。
【0202】
しかしながら、本発明の実施形態に係る光学構造体では、エンボス層46は、量子化凹部の底面54が表面粗さを有しているので、長さLに対する色変化の度合いが低減されるので、公差を緩和することが可能となる。このような効果は、量子化凹部の底面54の表面粗さのみによって奏されるものに限定されず、量子化凸部の頂面52の表面粗さによっても同様に奏される。
【0203】
したがって、量子化凸部の頂面52または量子化凹部の底面54のうちの少なくとも何れかの表面粗さの平均が、基準長さLの10分の1以下で荒れていれば良い。表面粗さとしては、算術平均粗さ(Ra)を適用できる。つまり、算術平均粗さ(Ra)は、0.1以下となる。また、長さLの100分の1以上の粗さとできる。つまり、算術平均粗さ(Ra)は、0.01以上となる。
【0204】
なお、量子化凸部の頂面52の表面粗さは、量子化凹部の底面54の表面粗さより小さくできる。この場合、構造色の公差を低減し、かつ構造色の彩度の低下を抑制できる。つまり、構造色の安定性と構造色の発色性を両立できる。また、量子化凹部の底面54の表面粗さは、量子化凸部の頂面54の表面粗さより小さくてもよい。つまり、量子化凸部の頂面52の表面粗さと、量子化凹部の底面54の表面粗さは異なる。
【0205】
さらに、本発明の実施形態における光学構造体は、量子化位相差構造50の凹凸方向(すなわち、
図10における上下方向)が、量子化凸部の頂面52と量子化凹部の底面54によって形成されるリブ状
凸部と溝状凹部の延在方向に対して垂直であることによって、構造色に関連する光を、構造色の色味を変化させない垂直方向に散乱させることができるので、製造公差があっても、実現することができる。
【0206】
さらにまた、本発明の実施形態に係る光学構造体は、
図9Bに示されるように、保護層49が積層された光学構造体40から作製される場合、保護層49を、エンボス層46と同じ屈折率を有する材料で形成することによって、表裏での構造色を同一にすることが可能となる。
【0207】
さらにまた、反射層48が磁性を有していれば、特定方向の磁界で光学構造体を配向させた後に、樹脂を硬化させるような方法によって製造することが可能となるため、光学構造体の方向を制御し、それによる光学効果を付与することも可能となる。
【0208】
さらには、エンボス層46および反射層48が有する構造色の反射スペクトルが、少なくとも波長800nm以上、1000nm以下においてピークを有していることによって、可視光で見た目には黒く、通常の黒で印字した印刷物と変わらないが、赤外光により反応する印刷物を作製することが可能となる。
【0209】
この特性を利用することによって、本発明の実施形態に係る光学構造体を、コンクリート等の材料の劣化判定に適用することも可能となる。コンクリート等の被検材料中が本発明の実施形態の光学構造体を含有すると、赤外光の検査の際に、ひび割れしている部分と、ひび割れしていない部分とのコントラストが強調されることが可能となる。
【0210】
また、エンボス層46に、あるいは、
図9Bのように、保護層49を備えている場合には、エンボス層46および保護層49のうちの少なくとも何れかに、塩分吸着剤を内包すれば、大気中の塩分による反射層48の劣化を防止することが可能となる。
【0211】
さらに、
図13に説明文を加えた
図14に示すように、長さLが一定の凸部および凹部を、一方向に整列することで、干渉、回折作用を付与し、さらに、量子化位相差構造50の量子化凹部の底面54を粗面とし、過度な散乱性を付与することができる。これによって、干渉、回折の高輝度発色と、粗面による散乱性とにより、安定した高輝度発色を実現することができる。また、量子化位相差構造50は、要素構造をベースとした量子化構造となっているので、成形困難な極端に小さな構造や極端に大きな構造を排除することができる。
【0212】
このように、本発明の実施形態の光学構造体のフレークを、耐久性を要求される印刷物用のインキの顔料として適用することによって、時間が経過しても色あせることが無いインキを実現することが可能となる。また、このインキによれば、特定方向へのカラーシフト効果を排除できることから、どの方向から見ても変化しにくい色味を実現することも可能となる。したがって、商品券などの有価証券、クレジットカード、およびブランド品や機器部品の偽造における真贋判定のための識別手段としての利用に極めて好適である。
【0213】
さらには、本発明の実施形態に係る光学構造体を、赤外光用のインキに適用すれば、通常は人間の目には不可視であるが、赤外用検出器等で検出できるようにすることも可能である。さらに、これを利用して、赤外光用のインキを、コンクリートに内包させることによって、赤外光でのコンクリートのひび割れの検出のために活用することも可能となる。
【0214】
なお、
図13および
図14に示す量子化位相差構造50と同様に、量子化凸部の頂面52と量子化凹部の底面54との干渉で発色する技術が、特許文献3(WO2007/131375号公報)に開示されている。しかしながら、特許文献3で開示されている構成は、レリーフ高さは一定であるが、幅にはばらつきがある。そのため、幅の広い部分や、狭い部分で、成形不良が起きやすいという欠点がある。しかしながら、
図13および
図14に示す量子化位相差構造50では、レリーフ幅が一定であるので、そのような成形不良は生じない。
【0215】
このような本発明の実施形態に係る光学構造体によれば、
図15に示すように、従来の回折格子のような虹色のイメージとはならず、また、特許文献3で実現される像よりも輝度の高い像を得ることができる。
【0216】
[実施例]
次に、上述したような本発明の実施形態に係る光学構造体を実際の作製し、その特性を確認し、さらに、コンクリート劣化検出用に適用した例を、実施例として以下に説明する。
【0217】
(光学構造体の作製)
本発明の実施形態に係る光学構造体を作製するために、先ず、エンボス層46を設計した。具体的には、量子化位相差構造50に、空間周波数成分を90個離間させて配置し、光が垂直入射した際に、隣り合う光線の間隔が2deg程度で、光が面状に180度方向に広がるようにエンボス層46を設計した。
【0218】
次に、ガラス原版上に、膜厚0.6μmのポジレジストを塗布し、そのポジレジスト面に電子線描画機を用いて、量子化位相差構造50を描画した。なお、塗布するポジレジストのドーズ量は、ポジレジストの長さが220nm程度となるように調整しながら決定した。
【0219】
その後、現像することによって、量子化位相差構造50が形成された側のガラス原版上に、スパッタリング法によってNiの導電性薄膜を設け、その後、Niメッキを施して、ガラス原版と剥離し、複版を作製し、エンボス版を得た。
【0220】
次に、キャリア42として使用する厚さ19μmのポリエステルフィルム(東レ社製、商品名「ルミラー19528」)の一方の面上に、デンカポバール(R)(ポリビニルアルコール)を、乾燥後の膜厚が2μmになるようにグラビアコーティング法により塗布して剥離層44を設けた。
【0221】
その後、剥離層44上に、UV硬化性樹脂(和信化学工業社製、「ポリスター200」)を膜厚2μmで塗布し、その塗布面に、前述したエンボス版を押し付け、キャリア42であるポリエステルフィルムの、剥離層44が塗布されていない面側から、200mJ/cm2の紫外線を照射し、UV硬化性樹脂を硬化することによって、剥離層44上に、エンボス層46を形成した。そして、エンボス版を剥がすことによって、剥離層44上に、量子化位相差構造50を備えたエンボス層46を形成した。
【0222】
さらに、エンボス層46の全面にわたって、膜厚50nmのAl蒸着薄膜を形成することによって、エンボス層46を覆う反射層48を形成した。
【0223】
さらに、反射層48の上に、再度UV硬化性樹脂(和信化学工業社製、「ポリスター200」)を膜厚2μmで塗布することによって、保護層49を形成した。このように、エンボス層46と保護層49とを同一材料で形成した。
【0224】
このようにして形成された光学構造体を水溶液中に液浸し、剥離層44を溶解することによって、エンボス層46、反射層48、および保護層49からなる光学構造体用素材を、キャリア42から分離した。
【0225】
その後、光学構造体用素材を、MEK溶媒中に液浸し、分離した後、遊星ミルにて粉体化することによって、光学構造体を作製した。この光学構造体の粒径を、実体顕微鏡で確認したところ、おおよそφ20μm程度であった。
【0226】
(特性)
上記のようにして作製した光学構造体を、UV硬化性樹脂に30W%分散させ、アプリケータにてDry膜厚100μmとなるようにPET上に塗工し、UV光にて硬化させたところ、カラーシフト青色の反射光を目視にて確認することができた。
【0227】
(コンクリート劣化検出への適用)
上記のような光学構造体を、コンクリート劣化検出のために適用するために、セメント:砂:砂利:光学構造体を、1:3:1:3の割合で混合した後に撹拌しながら、適量の水を加えることによって、50cm立方のコンクリート試験体Aを作製した。
【0228】
次に、光学構造体を混入せずに、セメント:砂:砂利を1:3:1の割合で混合した後に撹拌しながら、適量の水を加えることによって、50cm立方のコンクリート試験体Bを作製した。
【0229】
そして、コンクリート試験体A、Bそれぞれの裏面にφ30mm、深さ15mmの穴を形成し、コンクリート試験体A、Bそれぞれの表面の赤外線写真を、日本アビオニクス社の赤外線サーモグラフィーTVS-500を用いて撮影した。
【0230】
その結果、光学構造体が混入されていないコンクリート試験体Bでは、穴の形状が判明できなかったが、光学構造体が混入されたコンクリート試験体Aでは、円形の穴の形状を確認することができた。また、温度差による形状の変化も確認できた。
【0231】
このように、本発明の実施形態に係る光学構造体を、コンクリートの形状の計測が容易となり劣化判定のために適用できることが確認された。
【0232】
以上、本発明を実施するための実施形態について、添付図面を参照しながら記載したが、本発明の実施形態は記載された構成に限定されない。また、本発明の実施形態は組み合せることができ、相乗的な効果を得ることができる。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。