(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】離型シート付き多層構造プリプレグ、プリプレグロール、プリプレグテープおよび複合材料
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20220913BHJP
B29B 15/12 20060101ALI20220913BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20220913BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20220913BHJP
【FI】
B29B11/16
B29B15/12
B32B5/28 Z
B29K101:10
(21)【出願番号】P 2019546254
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032494
(87)【国際公開番号】W WO2020040152
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018155067
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018155081
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】越智 隆志
(72)【発明者】
【氏名】西野 聡
(72)【発明者】
【氏名】青木 惇一
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 潔
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-167230(JP,A)
【文献】特開昭60-152580(JP,A)
【文献】特表2001-511827(JP,A)
【文献】特開2012-246442(JP,A)
【文献】特表2016-531026(JP,A)
【文献】特開2014-218588(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0051438(US,A1)
【文献】特開2017-185770(JP,A)
【文献】特開平01-016612(JP,A)
【文献】特開平01-178412(JP,A)
【文献】国際公開第2013/038521(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101913253(CN,A)
【文献】特表2014-524940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
B05C 1/00- 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項13】
強化繊維シートに塗液としてのマトリックス樹脂を付与するプリプレグの製造装置であって、塗液が貯留可能であり、かつ鉛直方向下向きに断面積が連続的に減少する部分を有する液溜り部と、前記液溜り部の下端に連通するスリット状出口を有する狭窄部と、を備える塗布部と、複数の強化繊維シートを、その厚み方向に間隔をあけて鉛直方向下向きに走行させ、塗布部に導入する導入機構と前記狭窄部から導出されるプリプレグを引き取る導出機構とを具備した走行機構と、前記塗布部の内部で前記複数の強化繊維シートを合一させたる合一機構と、を有するプリプレグの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空圧成形性と取り扱い性を両立しうるプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含むマトリックス樹脂を強化繊維で補強した繊維強化複合材料(FRP)は、航空・宇宙用材料、自動車材料、産業用材料、圧力容器、建築材料、筐体、医療用途、スポーツ用途など様々な分野で用いられている。特に高い力学特性と軽量性が必要な場合には、炭素繊維強化複合材料(CFRP)が幅広く好適に用いられている。
【0003】
FRPは強化繊維にマトリックス樹脂を含浸し中間基材を得ている。中間基材の中でもシート状のプリプレグは広く使用されているが、この場合は、プリプレグを積層、成形し、FRPを製造するが、さらにマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を含むものは成形工程の中に熱硬化が必要となる。熱硬化には従来からオートクレーブが用いられ、加熱・加圧するため硬化過程で適度に樹脂がプリプレグ中で流動するため、FRP中にボイドが形成し難く、優れた力学特性のFRPを得ることができる。しかし、オートクレーブは圧力容器であるため、航空・宇宙用の大型材料を処理できるオートクレーブは初期投資額が大きく、オートクレーブを用いない成形法が求められていた。
【0004】
このため、特許文献1記載のように、初期投資額が比較的少なくてすみ、更に大型化させ易い、真空オーブンを用いる真空圧成形の検討が行われている。しかし、真空圧成形で、マトリックス樹脂の含浸を促進する差圧が1気圧以下であることから、オートクレーブ成形に比べ含浸時間が長くなり、しかも加熱時にマトリックス樹脂中の揮発成分が気化し易いためFRP中にボイドが残り易いという問題があった。また、このボイドを減少させるためには更に加熱真空下での時間を長くする必要があった。このため、特許文献1記載のように、真空圧成形方法を改良し含浸時間を短くしたり、特許文献2や特許文献3記載のように、敢えて未含浸部を残したプリプレグを積層したりすることで、脱気パスを形成し、これにより揮発分の除去を促進してボイド発生を抑制する検討がなされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-179357号公報
【文献】国際公開WO2012/135754号パンフレット
【文献】米国特許第6,139,942号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2や特許文献3記載の未含浸部を残したプリプレグは、未含浸部がプリプレグ中央部に集中するため、脱気パスを確実に残すために未含浸部厚みを大きくすると、この部分でマトリックス樹脂が付着していない炭素繊維がばらばらになり易いため、プリプレグが未含浸部で剥離したりズレが起きたりするなど、形状安定性が不良となり易いものであった。このため、プリプレグ製造工程での搬送中や最終的にプリプレグをロール形状に巻き上げる工程で、プリプレグシートやプリプレグロールの形状不良が起き易いものであった。また、プリプレグの裁断やスリット工程において切断面の未含浸部から強化繊維の毛羽が発生する場合が有ったり、プリプレグの積層工程において、広幅プリプレグを用いる場合には、積層作業中に未含浸部が剥離したりズレるなどのトラブルが発生し易いものであった。
【0007】
さらに、近年では、プリプレグ積層工程の効率化のため、細幅プリプレグやプリプレグテープを自動積層していくATL(Automated Tape Laying)やAFP(Automated Fiber Placement)と呼ばれる装置が、広く用いられるようになってきているが、自動積層スピードを上げていくと、やはりプリプレグテープの変形や剥離などのトラブルが発生する可能性が有った。このように、従来の中央部に未含浸部を残したプリプレグでは、プリプレグ製造工程やプリプレグロールの保管工程、プリプレグの裁断・スリット、積層工程などでの取り扱い性が不良となり易い問題が有った。
【0008】
このように、脱気パスを形成するための未含浸部を残しながら、取り扱い性にも優れたプリプレグは未だ確立されていなかった。
【0009】
本発明の課題は、未含浸部を残したプリプレグに関して、真空圧成形性と取り扱い性を両立しうるプリプレグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決する本発明のプリプレグは、強化繊維シートにマトリックス樹脂が含浸されてなる含浸層と、未含浸層が交互に積層された多層構造プリプレグにおいて、該多層構造プリプレグの上面および下面が含浸層で構成され、上面および下面を除く該多層構造プリプレグの内層部に少なくとも1層の含浸層を有し、該多層構造プリプレグの上面および下面の何れかまたは両方の面に離型シートが接合されてなる離型シート付き多層構造プリプレグ、である。
【0011】
また、本発明のプリプレグロールは、前記離型シート付き多層構造プリプレグが巻かれてなる。さらに、本発明の幅30mm以下のプリプレグテープは、前記多層構造プリプレグから成る。さらに、本発明の複合材料は、前記した離型シート付き多層構造プリプレグ、プリプレグロールまたはプリプレグテープを成形して成る。
【0012】
さらに、塗液としてのマトリックス樹脂が貯留され、かつ鉛直方向下向きに断面積が連続的に減少する部分を有する液溜り部と、前記液溜り部の下端で連通するスリット状出口を有する狭窄部と、を備える塗布部に、強化繊維シートを、鉛直方向下向きに通過させて塗液を強化繊維シートに付与するプリプレグの製造方法であって、前記液溜り部に複数の強化繊維シートをその厚み方向に間隔をあけて投入するステップと、導入後に前記塗布部の内部で前記複数の強化繊維シートの合一を行うステップとを有する、プリプレグの製造方法からなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプリプレグによれば、真空圧成形時のボイド低減とプリプレグの取り扱い性を両立することが可能となり、特に航空・宇宙用途の大型部材の真空圧成形において、良好な機械特性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多層構造プリプレグ断面写真である。
【
図2】
図1とは別の実施形態の多層構造プリプレグ断面写真である。
【
図3】本発明の多層構造プリプレグを製造するための製造方法の一実施形態に係る概略図である。
【
図4】
図3とは別の実施形態の本発明の多層構造プリプレグを製造するための製造方法に係る概略図である。
【
図5】
図3における塗布部20の部分を拡大した詳細横断面図である。
【
図6】
図3における塗布部20を、
図3のAの方向から見た下面図である。
【
図7】
図3における塗布部20を、
図3のBの方向から見た場合の塗布部内層部の構造を説明する断面図である。
【
図8】
図7における隙間26でのマトリックス樹脂4の流れを表す断面図である。
【
図10】
図3とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。
【
図11】
図10とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。
【
図12】
図10とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。
【
図13】
図10とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。
【
図14】本製造方法とは異なる実施形態の塗布部30の詳細横断面図である。
【
図15】
図3における塗布部20の部分を拡大した詳細横断面図である。
【
図16】
図15とは別の実施形態の塗布部20aの詳細横断面図である。
【
図17】
図9(a)の図を参照した、幅方向規制部材の配置を説明するための詳細図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る塗布部20fの詳細横断面図である。
【
図19】本発明とは異なる実施形態を示す、塗布部40およびその近傍の詳細横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の望ましい実施形態について、以下説明する。なお、以下の説明は発明の実施形態を例示するものであり、本発明はこれに限定して解釈されるものではなく、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0016】
図1に本発明の一実施形態に係る多層構造プリプレグ断面写真を示す。
図1では、上層から含浸層/未含浸層/含浸層/未含浸層/含浸層という層構造となっている。これはプリプレグ断面において外側と内層部に含浸層を配し、中心含浸層の上下面に未含浸層を配した構造であり、本発明の離型シート付き多層構造プリプレグのうちの多層構造プリプレグの最小単位である。なお、本発明にあって、含浸層は2つの含浸層がマトリクス樹脂によって接合されて形成された層である場合を含む。
【0017】
外側に含浸層を配することで、プリプレグのタック性を確保し、プリプレグの積層工程での貼り付き性が良好となる。特に、プリプレグ積層工程の効率化のため、細幅プリプレグやプリプレグテープを自動積層していくATL(Automated Tape Laying)やAFP(Automated Fiber Placement)と呼ばれる装置が近年、広く用いられるようになってきており、この工程ではプリプレグのタック性が非常に重要となる。また、多層構造プリプレグと離型シートとの貼りつき性も良好となり、多層構造プリプレグと離型紙が剥離することを抑制することができる。
【0018】
一方、プリプレグ断面の内層部にも含浸層を有することでプリプレグ内層部を含浸層で固定し、プリプレグ内の強化繊維がばらばらになることを抑制し、プリプレグが未含浸部で剥離したり、ずれたりすることを抑制し、プリプレグの形状保持性を確保することができる。また、プリプレグ内層部を含浸層で固定することで、プリプレグが未含浸部を有していても、プリプレグに適度な剛性を与え、プリプレグの取り扱い性が向上する。このように、本発明の層構造とすることで、未含浸層を有していたとしてもプリプレグの取り扱い性を損なうことがなく、プリプレグの良好な形状保持性、取り扱い性を実現することができる。
【0019】
強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、金属酸化物繊維、金属窒化物繊維、有機繊維(アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維など)などを例示することができるが、炭素繊維を用いることが、FRPの力学特性、軽量性の観点から好ましい。
【0020】
また、強化繊維は、これを配列させてシート状物を形成させた強化繊維シートとしてプリプレグ製造プロセスに供することができる。このとき、強化繊維シートとしては、複数本の強化繊維を一方向に面上で配列させた一方向材(UD基材)や、強化繊維を多軸で配列させる、またはランダム配置してシート化した強化繊維ファブリックが挙げられる。強化繊維ファブリックの具体例としては、織物や編物などの他、強化繊維を2次元で多軸配置したものや、不織布やマット、紙など強化繊維をランダム配向させたものを挙げることができる。この場合、強化繊維はバインダー付与、交絡、溶着、融着などの方法を利用してシート化することもできる。織物としては、平織、ツイル、サテンの基本織組織の他、ノンクリンプ織物やバイアス構造、絡み織、多軸織物、多重織物などを用いることができる。バイアス構造とUD基材を組み合わせた織物は、UD構造により塗布・含浸工程での引っ張りでの織物の変形を抑制するだけでなく、バイアス構造による擬似等方性も併せ持っており、好ましい形態である。また、多重織物では織物上面または下面、また織物内層部の構造および特性をそれぞれ設計できる利点がある。編物では塗布・含浸工程での形状安定性を考慮すると経編が好ましいが、筒状編み物であるブレードを用いることもできる。
【0021】
これらの中で、FRPの力学特性を優先させる場合には、UD基材を用いることが好ましく、UD基材は、強化繊維を一方向にシート状に配列させる既知の方法により作製することができる。
【0022】
本発明の離型シート付き多層構造プリプレグのうちの多層構造プリプレグは、強化繊維シートにマトリックス樹脂を含浸させた多層構造プリプレグであるが、このとき、マトリックス樹脂を含浸した含浸層と、含浸されていない、または含浸が不十分である未含浸層が積層された構造とすることが重要である。ここで、まず含浸部と未含浸部の定義を行う。含浸部とは、強化繊維にマトリックス樹脂が付着している部分、およびマトリックス樹脂のみが存在する部分を言い、一方、未含浸部とは、強化繊維にマトリックス樹脂が付着しておらず強化繊維が露出している部分(ドライ強化繊維部分)、および強化繊維もマトリックス樹脂も存在しないボイドの部分を言うものとする。そして含浸層と未含浸層はプリプレグを厚み方向に切断した時のプリプレグ断面において定義づけられる。本発明では、前記したプリプレグ厚み方向断面を単にプリプレグ断面と称する。本発明では、含浸層とはプリプレグ断面において、後述する水平方向の未含浸部率が7%未満の領域であり、未含浸層とは水平方向の未含浸部率が7%以上の領域とする。
【0023】
未含浸部率は以下の手順により求めるものとする。このためのプリプレグ断面は、例えば以下の様にして得ることができる。すなわち、プリプレグを-18℃で冷凍庫中で冷凍し、これを冷凍庫から取り出した後、室温下、カッターを用い素早くプリプレグをカットしてプリプレグ断面を得ることができる。このプリプレグ断面を走査型電子顕微鏡(SEM)などを用い、断面写真を以下のように撮影する。すなわち、プリプレグ上面と下面が同一視野に入り、かつプリプレグ上面、あるいは下面の線が写真の水平方向になるべく揃うようにする。そしてプリプレグ断面写真の縦サイズを250~600μm、水平方向サイズを350~900μmとなるようにする。プリプレグ断面がこのサイズに入りきらない場合には、複数枚に写真を分割してもよい。そして、プリプレグ断面写真において、プリプレグ上面に接するように基準線を水平方向に引き、これから垂直方向(縦方向)10μm毎に水平補助線を引く。そしてこの水平補助線上における未含浸部の長さ(LU)を計測する。次に、該水平補助線上でのプリプレグ部の長さ(LP)を計測する。そして未含浸部率(%)=(LU/LP)×100(%)を求める。そして、或る水平補助線で求めた未含浸部率をその水平補助線の上下5μm、すなわち厚み10μmの帯状領域の未含浸部率とする。これにより、含浸層と未含浸層の境界は、未含浸部率7%未満の水平補助線と7%以上の水平補助線の間隔の中間部分となる。
【0024】
本発明では、プリプレグ断面切片を異なる3地点で作製し、そのプリプレグ断面写真全てで、本発明の層構造を形成していることが重要である。本発明の層構造は最小単位が5層であるが、場所によって7層、あるいはそれ以上となっていてもよい。また、異なる3地点全てで本発明の層構造を有していれば、異なる3地点毎に、層の厚みや、プリプレグ厚み方向での層の位置が異なっていても良いし、層の数が異なっていても良い。
【0025】
未含浸層において、未含浸部率の最大値が25%以上であると、真空圧成形時のボイド低減に有利であり、好ましい。一方、未含浸部率の最大値が60%以下であると、未含浸部での剥離を抑制し、プリプレグの形状安定性を向上することができ、好ましい。
【0026】
なお、ドライ強化繊維はマトリックス樹脂が付着していないため、プリプレグ断面写真において強化繊維断面形状が明瞭に観察され易く、一方、強化繊維にマトリックス樹脂が付着していると、逆に繊維断面形状が不明瞭となり易い。また、強化繊維にマトリックス樹脂が付着していないと強化繊維同士が剥離し易く、ボイドを形成していることが多い。
【0027】
以下、図面を用いて本発明のプリプレグの例を、さらに詳細に説明する。
【0028】
図1、
図2に本発明の多層構造プリプレグの断面写真(SEM)の例を示す。断面写真において、プリプレグ上面に基準線を引き、その下方10μmごとに水平補助線を引き、未含浸部率を求めた(水平補助線は
図1、2では省略してある)。そして、未含浸部率が7%未満の水平補助線と未含浸部率が7%以上の水平補助線の間に含浸層と未含浸層を分ける境界を破線で示している。
図1は、本発明の典型的な例である。第1層はプリプレグ上面の含浸層であり、強化繊維断面形状が不明瞭であり、マトリックス樹脂が含浸している様子がわかる。なお、第1層では、一辺10μm程度の小さなボイド(断面積は約70μm
2)を含む箇所もあるが、層のほとんどが全て含浸部である。未含浸層である第2層では、含浸部とボイドが交互に水平方向に並んでいる様子が分かる。また、第2層内での未含浸部率の最大値は45%である。含浸層である第3層では中央部付近に小さなボイド(断面積は約120μm
2)を含む箇所もあるが、層のほとんど全てが含浸部である。また、第3層の厚みは50μm以上である。未含浸層である第4層では、含浸部とボイドが交互に水平方向に並んでいる様子が分かる。また、第4層内での未含浸部率の最大値は30%である。含浸層である第5層(プリプレグ下面の層)では右側に小さなボイド(断面積は約170μm
2)を含む箇所もあるが、層のほとんどが全て含浸部である。
【0029】
図2は
図1とは異なる本発明の多層構造プリプレグの例である。第1層はプリプレグ上面の含浸層であり、強化繊維の断面形状の確認ができない程度にマトリックス樹脂が含浸している様子がわかる。また、層のほとんど全てが含浸部である。未含浸層である第2層では、含浸部中に大きなボイドと大きなドライ強化繊維集合部が水平方向に並んでいる様子が分かる。なお、ドライ強化繊維が集合し大きな領域を形成している部分をドライ強化繊維集合部と称する。また、ドライ強化繊維部分は上下に割れているように見える。また、第2層内での未含浸部率の最大値は49%である。含浸層である第3層では左側に小さなボイドを2つ(断面積は約310μm
2および約220μm
2)を含む箇所もあるが、層のほとんど全てが含浸部である。また、第3層の厚みは50μm以上である。未含浸層である第4層では、中央部に大きなドライ強化繊維集合部が有り、その中で上下に割れている様子が分かる。また、第4層内での未含浸部率の最大値は54%である。含浸層である第5層(プリプレグ下面の層)は、層のほとんど全てが含浸部である。
【0030】
図1、2の例では、未含浸層である第2層、第4層にはドライ強化繊維集合部、ボイドとともに含浸部も含んでいるが、これにより未含浸部での剥離やズレを抑制し、プリプレグ全体としての形状安定性を向上させることができる。また、プリプレグをロール形状とした時も縦置きしてもロール崩れを大幅に抑制することができる。具体的には、未含浸部率の最大値が60%以下であることが好ましい。
【0031】
また、プリプレグ内層部の含浸層厚みは30μm以上とすると、さらにプリプレグ全体としての形状安定性を向上させることができる。
【0032】
また、含浸層内にはプリプレグ断面において、大きなボイドや大きなドライ強化繊維集合部の個数がゼロ個であると、プリプレグ全体としての形状安定性を向上させることができるため好ましい。ここで、大きなボイドや大きなドライ強化繊維集合部のサイズは断面積で500μm2以上である。
【0033】
本発明では、未含浸層が成形時には脱気パスを形成し、マトリックス樹脂に含まれる揮発成分に由来するボイドの発生を抑制・防止することができる。この効果は、特に真空圧成形時に非常に有用となる。
【0034】
なお、
図1、2では含浸層/未含浸層/含浸層/未含浸層/含浸層の5層の例を示したが、さらに未含浸層/含浸層のセットを任意の数だけ付加した、より多層構造を持つプリプレグとすることももちろん可能である。プリプレグ全体の厚みを一定する場合において、層数を増加させると、相対的に未含浸部厚みが縮小するため、さらにプリプレグ全体としての形状安定性を向上させることができる。
【0035】
また、従来技術では、部分含浸プリプレグを積層するとプリプレグ間で空気層を挟み易く、それが成形時にボイドとして残り易いという問題があったが、本発明に係る多層構造プリプレグでは、プリプレグを作製した段階で既にプリプレグが積層された構造であるため、プリプレグ間に空気層を挟みこむ可能性を大幅に減じることができることも優位な点である。
【0036】
また、FRPの靭性や耐衝撃性を高めるため、特開平1-104624号公報などに記載されているように層間強化粒子をプリプレグに含有させることもできる。層間強化粒子は強化繊維層と強化繊維層の間にマトリックス樹脂層を形成するため、これを本発明に適用した場合には、多層構造プリプレグの上面、下面の含浸層に含有していることが好ましい。層間強化粒子は多層構造プリプレグ上面、下面に加えて、内層部の含浸層に含有しているとより好ましい。すなわち、含浸層に層間強化粒子を含有する薄いプリプレグが2枚貼り合わされた形態とすることがより好ましい。
【0037】
前記した層間強化粒子含有プリプレグでは薄いプリプレグ2枚の貼り合せを例として説明したが、これは3枚、4枚、さらに多くの枚数のプリプレグが貼り合わされた形態としてもよい。特に薄層プリプレグを多層積層する場合には、さらにFRPの靭性や耐衝撃性を向上させることができ、好ましい。
【0038】
また、強化繊維の平面方向の配列がプリプレグ中で実質的に同一であると、プリプレグの積層構成によりFRPの力学物性やその異方性を設計し易く、好ましい。ここで強化繊維の平面方向の配列がプリプレグ中で実質的に同一であるとは、強化繊維を一方向に引きそろえた一方向基材(UD基材)を使用した場合には、前記した全ての水平補助線上で強化繊維が0°方向を向いていることを意味する。また、通常の織物を使用した場合には、0°方向、90°方向の強化繊維の数量が同じことを意味する。バイアス基材を使用した場合には、各バイアス方向の強化繊維の数量が同じことを意味する。これらは、同じ規格の強化繊維シートを複数枚同一方向に重ねて、多層構造プリプレグを作製することで得ることができる。
【0039】
また、本発明の離型シート付き多層構造プリプレグは、少なくとも多層構造プリプレグの片面に離型シートが積層されているが、これにより、多層構造プリプレグを搬送したり、ロール状に巻き上げる、また巻き出すことが可能となる。
【0040】
本発明に係る多層構造プリプレグに用いるマトリックス樹脂としては、用途に応じ適宜選択可能であるが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含有することが一般的である。また、マトリックス樹脂は、加熱し溶融させた樹脂でも室温で液状の樹脂であっても良い。また、溶媒を用いて溶液やワニス化したものでも良い。
【0041】
マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などFRPに一般的に使用されるものを用いることができる。また、これらは室温で液体であればそのまま用いても良いし、室温で固体や粘稠液体であれば、加温して低粘度化する、あるいは溶融し融液として用いても良いし、溶媒に溶解し溶液やワニス化して用いても良い。
【0042】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素・炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合から選ばれる結合を有するポリマーを用いることができる。具体的には、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリアミドイミド(PAI)などを例示できる。航空機用途などの耐熱性が要求される分野では、PPS、PES、PI、PEI、PSU、PEEK、PEKK、PEAKなどが好適である。一方、産業用途や自動車用途などでは、成形効率を上げるため、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンやPA、ポリエステル、PPSなどが好適である。これらはポリマーでも良いし、低粘度、低温塗布のため、オリゴマーやモノマーを用いても良い。もちろん、これらは目的に応じ、共重合されていても良いし、各種を混合しポリマーブレンド・アロイとして用いることもできる。
【0043】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アセチレン末端を有する樹脂、ビニル末端を有する樹脂、アリル末端を有する樹脂、ナジック酸末端を有する樹脂、シアン酸エステル末端を有する樹脂があげられる。これらは、一般に硬化剤や硬化触媒と組合せて用いることができる。また、適宜、これらの熱硬化性樹脂を混合して用いることも可能である。
【0044】
本発明に適した熱硬化性樹脂として、耐熱性、耐薬品性、力学特性に優れていることからエポキシ樹脂が好適に用いられる。特に、アミン類、フェノール類、炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、アミン類を前駆体とするエポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体、フェノール類を前駆体とするエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂としては脂環式エポキシ樹脂等があげられるが、これに限定されない。またこれらのエポキシ樹脂をブロモ化したブロモ化エポキシ樹脂も用いられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンに代表される芳香族アミンを前駆体とするエポキシ樹脂は耐熱性が良好で強化繊維との接着性が良好なため本発明に最も適している。
【0045】
熱硬化性樹脂は硬化剤と組み合わせて、好ましく用いられる。例えばエポキシ樹脂の場合には、硬化剤はエポキシ基と反応しうる活性基を有する化合物であればこれを用いることができる。好ましくは、アミノ基、酸無水物基、アジド基を有する化合物が適している。具体的には、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類が適している。具体的に説明すると、ジシアンジアミドはプリプレグの保存性に優れるため好んで用いられる。またジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるため本発明には最も適している。アミノ安息香酸エステル類としては、トリメチレングリコールジ-p-アミノベンゾエートやネオペンチルグリコールジ-p-アミノベンゾエートが好んで用いられ、ジアミノジフェニルスルホンに比較して、耐熱性に劣るものの、引張強度に優れるため、用途に応じて選択して用いられる。また、もちろん必要に応じ硬化触媒を用いることも可能である。また、塗液のポットライフを向上させる意味から、硬化剤や硬化触媒と錯体形成可能な錯化剤を併用することも可能である。
【0046】
また本発明では、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を混合して用いることも好適である。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の混合物は、熱硬化性樹脂を単独で用いた場合より良好な結果を与える。これは、熱硬化性樹脂が、一般に脆い欠点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が可能であるのに対して、熱可塑性樹脂が、一般に強靭である利点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が困難であるという二律背反した特性を示すため、これらを混合して用いることで物性と成形性のバランスをとることができるためである。混合して用いる場合は、プリプレグを硬化させて得られるFRPの力学特性の観点から熱硬化性樹脂を50質量%より多く含むことが好ましい。
【0047】
また、本発明では、無機粒子や有機粒子をマトリックス樹脂に含有させることができる。無機粒子は特に制限されないが、例えば、導電性、伝熱性、チクソトロピー性などを付与するために、カーボン系粒子や窒化ホウ素粒子、二酸化チタン粒子、二酸化珪素粒子などを好適に用いることができる。有機粒子も特に制限されないが、特に、ポリマー粒子を用いると、得られるFRPの靱性や耐衝撃性、制振性などを向上させることができ、好ましい。
【0048】
また、本発明のプリプレグには前記した層間強化粒子などのポリマー粒子を含有させることができるが、ポリマー粒子はマトリックス樹脂に含有させることが一般的である。このとき、ポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)または融点(Tm)は塗液温度よりも20℃以上高くすると、マトリックス樹脂中でポリマー粒子の形態を保持し易く、好ましい。ポリマー粒子のTgは温度変調DSCを用い、以下の条件で測定することができる。温度変調DSC装置としては、TA Instrments社製 Q1000などが好適であり、窒素雰囲気下、高純度インジウムで校正して用いることができる。測定条件は、昇温速度は2℃/分、温度変調条件は周期60秒、振幅1℃とすることができる。これで得られた全熱流から可逆成分を分離し、階段状シグナルの中点の温度をTgとすることができる。
【0049】
また、Tmは通常のDSCで昇温速度10℃/分で測定し、融解に相当するピーク状シグナルのピークトップ温度をTmとすることができる。
【0050】
また、ポリマー粒子としては、マトリックス樹脂に溶けないことが好ましく、このようなポリマー粒子としては、例えば、WO2009/142231パンフレット記載などを参照し、適切なものを用いることができる。より、具体的には、ポリアミドやポリイミドを好ましく用いることができ、優れた靭性のため耐衝撃性を大きく向上できる、ポリアミドは最も好ましい。ポリアミドとしてはポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66やポリアミド6/12共重合体、特開平01-104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)などを好適に用いることができる。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため、本発明の製造法では特に好ましい。また、球状であれば応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点でも好ましい態様である。
【0051】
ポリアミド粒子の市販品としては、SP-500、SP-10、TR-1、TR-2、842P-48、842P-80(以上、東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)、“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323、CX9701、CX9704、(デグサ(株)社製)等を使用することができる。これらのポリアミド粒子は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0052】
また、CFRPの層間樹脂層を高靭性化するためには、ポリマー粒子を層間樹脂層に留めておくことが好ましい。そのため、ポリマー粒子の数平均粒径は5~50μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは7~40μmの範囲、さらに好ましくは10~30μmの範囲である。数平均粒径を5μm以上とすることで、粒子が強化繊維の束の中に侵入せず、得られる繊維強化複合材料の層間樹脂層に留まることができる。数平均粒径を50μm以下とすることで、プリプレグ表面のマトリックス樹脂層の厚みを適正化し、ひいては得られるCFRPにおいて、繊維質量含有率を適正化することができる。
【0053】
本発明の多層構造プリプレグにおいてマトリックス樹脂の含浸度は、真空圧成形性を損なわない範囲で高いことが望ましい。マトリックス樹脂の含浸の様子は、採取した多層構造プリプレグを裂き、内層部を目視することで含浸の有無を確認することができるが、より定量的には例えば剥離法で評価することが可能である。剥離法による塗液の含浸率は以下のようにして測定することができる。すなわち、採取した多層構造プリプレグを粘着テープで挟み、これを剥離し、マトリックス樹脂が付着した強化繊維とマトリックス樹脂が付着していない強化繊維を分離する。そして、投入した強化繊維シート全体の質量に対するマトリックス樹脂が付着した強化繊維の質量の比率を剥離法によるマトリックス樹脂の含浸率とすることができる。また、毛細管現象を利用し、プリプレグの吸水率からも含浸度を評価可能であり、吸水率が低い方が含浸度が高い。より、具体的には、特表2016-510077号公報に記載の方法などを適用することができる。
【0054】
本発明において、多層構造プリプレグの幅には、特に制限は無く、幅が数十cm~2m程度の広幅でも良いし、幅数mm~数十mmのテープ状でも良く、用途に応じ幅を選択することができる。近年では、プリプレグの積層工程を効率化するため、細幅プリプレグやプリプレグテープを自動積層していくATL(Automated Tape Laying)やAFP(Automated Fiber Placement)と呼ばれる装置が広く用いられるようになってきており、これに適合した幅とすることも好ましい。ATLでは幅が約7.5cm、約15cm、約30cm程度の細幅プリプレグが用いられることが多く、AFPでは約3mm~約25mm程度のプリプレグテープが用いられることが多い。このため、本発明では、プリプレグテープ化する場合には、幅30mm以下とすることが好ましい。
【0055】
以上のように、本発明のプリプレグについて述べてきたが、次に、本発明のプリプレグを得るための具体的な製造方法について、例を挙げて具体的に説明する。本発明の多層構造からなるプリプレグを効率的に得る製造方法は従来知られていなかった。そこで、本発明のプリプレグを得るために、これまでにない製造方法を用いる。なお、本発明は以下に説明された具体的な例に限定して解釈されるものではない。
【0056】
具体的には、マトリックス樹脂が貯留され、かつ鉛直方向下向きに断面積が連続的に減少する部分を有する液溜り部と、前記液溜り部の下端で連通するスリット状出口を有する狭窄部と、を備える塗布部に、強化繊維シートを、鉛直方向下向きに通過させてマトリックス樹脂を強化繊維シートに付与するプリプレグの製造方法であって、前記液溜り部に複数の強化繊維シートをその厚み方向に間隔をあけて投入するステップと、導入後に前記塗布部の内部で前記複数の強化繊維シートの合一を行うステップとを有する、プリプレグの製造方法である。
【0057】
なお、複数枚の強化繊維シートを用いるプリプレグ製造方法としては、例えば特開2012-167230号公報には、強化繊維シートの片面に樹脂を塗布し、その後、別の強化繊維シートを積層し、含浸するプリプレグの製造方法が記載されている。該製造方法は厚いプリプレグであっても未含浸部ができないように、あらかじめ内層部に樹脂を配置させるものであり、未含浸部の無いプリプレグを得ることが目的である。このため、前記した本発明のプリプレグを得る方法とは技術思想が全く異なる。しかも、仮に、特開2012-167230号公報記載の方法において、敢えて含浸度を低くしたとしても、プリプレグの上面、下面が未含浸層となり本発明のプリプレグを得ることはできない。
【0058】
以下、
図3により、本発明の多層構造プリプレグを得るための製造方法について詳述する。
図3では強化繊維シートをUD基材とした場合を示してある。クリール11から巻き出された複数本の強化繊維1を、配列装置12によって一方向(紙面奥行き方向)に配列して強化繊維シート2を得た後、強化繊維シート2を塗布部20に実質的に鉛直方向下向きZに通過させ、押さえガイド14によりマトリックス樹脂4への入射角度、位置を調整され、塗布部20に導かれる。その後、塗布部20内で強化繊維シート2それぞれの両面にマトリックス樹脂4を付与し、それぞれの強化繊維シート2の両面にマトリックス樹脂4が塗布されるとともに、部分的に含浸が進行した部分含浸プリプレグが形成される。そして、この複数枚の部分含浸プリプレグを塗布部20内の狭窄部近傍で1枚に合一、すなわち狭窄部から導出された際には一体化しているように強化繊維シートを重ねあわせる操作、を行い、多層構造プリプレグ3を得ることができる。
図3では強化繊維シートが2枚の場合を例示しているが、必要に応じ強化繊維シートの枚数、また各強化繊維シートの種類は適宜変更可能である。ここで、実質的に鉛直方向下向きZに通過させるとは、Z方向(鉛直線)と強化繊維シートの走行方向の成す角度αが20°以内であることを言うものとする。
【0059】
このとき液溜り部22の上端液面において、液溜り部の壁面(すなわち壁面部材)と強化繊維シート2間の間隔および複数の強化繊維シート2どうし間の間隔のうち、最も狭い間隔Ln(
図5の場合は壁面部材21aと強化繊維シート2間の間隔)と、最も広い間隔Lb(
図5の場合は複数の強化繊維シート2どうし間の間隔)の関係が、1≦Lb/Ln≦3を満たすことが好ましい。これは、強化繊維シート2を走行させてマトリックス樹脂4を付与する際、マトリックス樹脂4が消費されて液溜り部22の上端液面が徐々に低下していくが、前記の間隔LnとLbの比が大きすぎると、強化繊維シート2によって分断された液溜り部22の各領域の上端液面低下速度が異なり、強化繊維シート2によって分断された液溜り部22の各領域の上端液面に高低差が生じる。強化繊維シート2の表裏で液面高低差が大きくなると、液面の高い方から低い方へマトリックス樹脂4が流れ込もうとして、強化繊維シート2がその厚み方向に変形して壁面部材21に接触したり、強化繊維シート2としてUD基材を用いている場合は、強化繊維の隙間を割ってマトリックス樹脂4が流れ込み、強化繊維の配列を乱す懸念がある。
【0060】
例えば、
図5においてLb/Lnの比が大きすぎる場合、強化繊維シート2の走行中に壁面部材21と強化繊維シート2に挟まれた領域(左右領域)の液面が急激に低下し、複数の強化繊維シート2に挟まれた領域(中央領域)からマトリックス樹脂4が流れ込もうとして、強化繊維シート2は壁面部材21に押し付けられる。このとき強化繊維シート2と壁面部材21の擦過によって大量の毛羽が発生し、最悪の場合強化繊維シート2が走行不能となる。
【0061】
反対に、
図5において、液溜り部22の上端液面における複数の強化繊維シート2どうしの間隔が狭すぎる場合、複数の強化繊維シート2に挟まれた領域(中央領域)の液面が急激に低下してマトリックス樹脂4が枯渇すると中央領域にマトリックス樹脂4が流れ込もうとし、やはり強化繊維シート2の走行が不安定化する場合がある。
【0062】
以上のことから、強化繊維シート2の走行安定化の観点から、液溜り部22の上端液面の高さを全領域で均一にするため、液溜り部の壁面と強化繊維シート2間の間隔と、複数の強化繊維シート2どうし間の間隔の比を1に近づけることが好ましい。具体的には、最も狭い間隔Lnと最も広い間隔Lbの関係は1≦Lb/Ln≦3を満たすことが好ましい。
【0063】
ここで
図5に示す塗布部20では、液溜り部22の上端液面における壁面部材21と強化繊維シート2の間隔が、複数の強化繊維シートどうしの間隔よりも狭くなっているが、前記の関係式を満たしていればこの限りではない。例えば、複数の強化繊維シート2どうし間の間隔の方を多少は広くしても良い。
【0064】
さらに、離型シート供給装置16aより離型シート5aを巻き出し、多層構造プリプレグ3の片面に離型シート5aを積層し、引き取りロール15を介し、巻取り装置17でロール状に巻き上げる。特に、多層構造プリプレグ3に付与されたマトリックス樹脂4が引き取りロール15に至っても、マトリックス樹脂4の一部または全部が多層構造プリプレグ3表面に存在し、かつ流動性や粘着性が高い場合には、離型シート5aにより、多層構造プリプレグ3表面のマトリックス樹脂4の一部が引き取りロール15に転写されるのを防ぐことができる。さらに、多層構造プリプレグ3同士の接着も防ぐことができ、後工程での取り扱いが容易になる。離型シートとしては、前記効果を奏するものであれば特に制限は無いが、例えば、離型紙の他、有機ポリマーフィルム表面に離型剤を塗布したもの等を挙げることができる。また、必要に応じ、多層構造プリプレグ3の別の面に離型シート5bをさらに積層してもよい。離型シート5aと5bは同じ種類のものでもよいし、目的に応じてそれぞれ違う種類を選択してもよい。
【0065】
なお、強化繊維シートを強化繊維ファブリックとした場合も
図3で強化繊維シート2を形成した後は同じプロセスを採用することができる。強化繊維ファブリックを用いる場合は、クリール部分を強化繊維ファブリック巻き出し装置とすればよい。
【0066】
また、
図4に本製造法の別の好ましい様態について示す。クリール411に掛けられた強化繊維ボビン412より強化繊維414を引き出し、方向転換ガイド413を経由し強化繊維配列装置415で強化繊維シート416を形成させる。
図4ではこの工程を2セット記載してあるが、3セット以上としてもよい。また1セット中の強化繊維ボビンは3個を記載しているが、実際には目的に応じた必要個数を掛けることになる。複数枚の強化繊維シート416は方向転換ロール419を経由して上方に導かれ、その後、方向転換ロール419を経由し鉛直下向きに搬送され、予熱装置420で塗布部内のマトリックス樹脂温度以上まで予熱される。そして、押さえガイド412によりマトリックス樹脂への入射角度、位置を調整され、塗布部430に導かれる。その後、塗布部430内でそれぞれマトリックス樹脂が塗布、含浸され塗布部430内の出口近傍で1枚に合一され、多層構造プリプレグ471を形成することができる。多層構造プリプレグ471は方向転換ロール441上で、離型シート(上)供給装置442から巻き出された離型シート446と積層され、高張力引き取り装置である高張力引取りS字ロール449により引き取られる。同時に、離型シート(下)供給装置443から巻き出された離型シートと高張力引取りS字ロール449上で積層され、多層構造プリプレグの上下両面に離型シートを配置する。そして、これが追含新装置450に供給され、熱版451で予熱された後、加熱ニップロール452を用いて含浸が進められる。その後、冷却装置461で冷却された後、引き取り装置462を経て、上側の離型シートが剥がされ、ワインダー464にて多層構造プリプレグ/離型シートがロール形状に巻き上げられる。上側の離型シートは離型シート(上)巻取装置463に巻き取られる。
【0067】
以下、本製造法の詳細な好ましい様態について、更に記載する。
【0068】
<UD基材の形成>
強化繊維シートとしてUD基材を用いる場合には、これの形成する方法は公知の方法を用いることができ、特に制限は無いが、単繊維をあらかじめ配列させた強化繊維束を形成し、この強化繊維束を更に配列させてUD基材を形成させることが、工程効率化、配列均一化の観点から好ましい。例えば炭素繊維では、テープ状の強化繊維束である「トウ」がボビンに巻かれているが、ここから引き出されたテープ状の強化繊維束を配列させて強化繊維シートを得ることができる。また、クリールにかけられたボビンから引き出された強化繊維束を整然と並べ、シート状強化繊維束中で強化繊維束の望ましくない重なりや折りたたみ、強化繊維束間の隙間を無くするための強化繊維配列機構を有することが好ましい。強化繊維配列機構としては公知のローラーやくし型配列装置などを用いることができる。また、予め配列したシート状強化繊維束を複数枚重ねることも強化繊維間の隙間を減じる観点から有用である。なお、クリールには強化繊維を引き出す際に張力制御機構が付与されていることが好ましい。張力制御機構としては、公知のものを使用可能であるが、ブレーキ機構などが挙げられる。また、糸道ガイドの調整などによっても張力を制御することができる。
【0069】
<強化繊維シートの平滑化>
前記製造方法においては、強化繊維シートの表面平滑性を高くすることで、マトリックス樹脂の塗布部での塗布量の均一性を向上させることができる。このため、強化繊維シートを平滑化処理した後、塗布部に導くことが好ましい。平滑化処理法は特に制限は無いが、対向ロールなどで物理的に押しつける方法や空気流を用いて強化繊維を動かす方法などを例示できる。物理的に押しつける方法は簡便かつ、強化繊維の配列を乱しにくいため好ましい。より具体的にはカレンダー加工などを用いることができる。空気流を用いる方法は擦過が起こりにくいだけでなく、強化繊維シートを拡幅する効果もあり好ましい。平滑化装置は、例えば
図4の強化繊維配列装置415から予熱装置420の間に設置することができる。
【0070】
<強化繊維シートの拡幅化>
また、前記製造方法において、強化繊維シートを拡幅処理した後、液溜り部に導くことも、薄層プリプレグを効率的に製造できる観点から好ましい。また、薄層プリプレグを多層化することで、多層構造プリプレグの層厚みを薄くし、FRPの靭性や耐衝撃性を向上させることができる。拡幅処理方法は特に制限は無いが、機械的に振動を付与する方法、空気流により強化繊維束を拡げる方法などを例示できる。機械的に振動を付与する方法としては、例えば特開2015-22799号公報記載のように、振動するロールにシート状強化繊維束を接触させる方法がある。振動方向としては、シート状強化繊維束の進行方向をX軸とすると、Y軸方向(水平方向)、Z軸方向(垂直方向)の振動を与えることが好ましく、水平方向振動ロールと垂直方向振動ロールを組み合わせて用いることも好ましい。また振動ロール表面は複数の突起を設けておくと、ロールでの強化繊維の擦過を抑制でき、好ましい。空気流を用いる方法としては、例えば、SEN-I GAKKAISHI,vol.64,P-262-267(2008).記載の方法を用いることができる。拡幅化装置は、例えば
図4の強化繊維配列装置415から予熱装置420の間に設置することができる。
【0071】
<強化繊維シートの予熱>
また、本発明において、強化繊維シートを加熱した後、液溜り部に導くと、マトリックス樹脂の温度低下を抑制し、塗液の粘度均一性を向上させられるため好ましい。強化繊維シートは液溜まり部でのマトリックス樹脂温度近傍まで加熱されることが好ましいが、このための加熱手段としては、空気加熱、赤外線加熱、遠赤外線加熱、レーザー加熱、接触加熱、熱媒加熱(スチームなど)など多様な手段を用いることができる。中でも赤外線加熱は装置が簡便であり、またシート状強化繊維束シートを直接加熱できるため、走行速度が速くても所望の温度まで効率よく加熱が可能であり、好ましい。
【0072】
<マトリックス樹脂粘度>
本発明で用いるマトリックス樹脂としては、工程通過性・安定性の観点から最適な粘度を選択することが好ましい。具体的には、粘度を1~60Pa・sの範囲とすると、狭窄部出口での液垂れを抑制するとともに強化繊維シートの高速走行性、安定走行性を向上させることができ、好ましい。ここで、粘度は歪み速度3.14s
-1で液溜り部での塗液温度で測定
<塗布工程>
次に
図5~8により、強化繊維シートへのマトリックス樹脂の付与工程について詳述する。なお、ここでは、強化繊維シート2としてUD基材を例として図示している。
図5は、
図3における塗布部20を拡大した詳細横断面図である。塗布部20は、所定の隙間Dを開けて対向する壁面部材21a、21bを備え、壁面部材21a、21bの間には、鉛直方向下向きZに断面積が連続的に減少する液溜り部22と、液溜り部22の下方(強化繊維シート2の搬出側)に位置し、液溜り部22の上面(強化繊維シート2の導入側)の断面積よりも小さい断面積を有するスリット状の狭窄部23が形成されている。
図5において、強化繊維シート2はUD基材を想定して記載しているが、強化繊維は、紙面の奥行き方向に配列されている。
【0073】
塗布部20において、液溜り部22に導入された強化繊維シート2は、その周囲のマトリックス樹脂4を随伴しながら、下向きに走行する。その際、液溜り部22の断面積は鉛直方向下向きZに向かって減少するため、随伴するマトリックス樹脂4は徐々に圧縮され、液溜り部22の下部に向かうにつれてマトリックス樹脂4の圧力が増大する。液溜り部22の下部の圧力が高くなると、前記随伴液流がそれ以上は下部に流動し難くなり、壁面部材21a、21b方向に流れ、その後、壁面部材21a、21bに阻まれ、上方へ流れるようになる。結果、液溜り部22内では強化繊維シート2の外側平面と、壁面部材21a、21b壁面に沿った循環流Tを形成する。これにより、仮に強化繊維シート2が毛羽を液溜り部22に持ち込んだとしても毛羽は循環流Tに沿って運動し、液圧の大きな液溜り部22下部や狭窄部23に近づくことができない。さらに下記で述べるとおり、気泡が毛羽に付着することにより毛羽が循環流Tから上方に移動し、液溜り部22の上部液面付近を通過する。そのため、毛羽が液溜り部22の下部および狭窄部23に詰まることが防止されるだけでなく、滞留する毛羽は液溜り部22の上部液面から容易に回収することも可能となる。さらに、強化繊維シート2を高速で走行させた場合、前記の液圧はさらに増大するため、毛羽の排除効果がより高くなる。その結果強化繊維シート2により高速でマトリックス樹脂4を付与することが可能となり、生産性が大きく向上する。
【0074】
また、前記の増大した液圧により、マトリックス樹脂4が強化繊維シート2の内層部に含浸しやすくなる効果がある。これは、強化繊維束のような多孔質体に塗液が含浸される際、その含浸度が塗液の圧力で増大する性質(ダルシーの法則)に基づく。これについても、強化繊維シート2をより高速で走行させた場合、液圧がより増大することから、含浸効果をより高めることができる。なお、マトリックス樹脂4は強化繊維シート2の内層部に残留する気泡と気/液置換で含浸されるが、気泡は前記の液圧と浮力により強化繊維シート2の内層部の隙間を通って、繊維の配向方向(鉛直方向上向き)に排出される。このとき、気泡は含浸してくるマトリックス樹脂4を押しのけずに排出されるため、含浸を阻害しない効果もある。また、気泡の一部は強化繊維シート2の表面から液中に排出されるが、この気泡も前記の液圧と浮力により速やかに鉛直方向上向きに排除されるため、含浸効果の高い液溜り部22の下部に留まらず、効率よく気泡の排出が進む効果もある。これらの効果により、強化繊維シート2にマトリックス樹脂4を効率よく含浸させることが可能となる。そして、含浸度はダルシーの法則で記述されるように塗布部20でのマトリックス樹脂4の液圧と加圧時間に支配されるため、含浸度100%にならないように(未含浸部を残すように)塗布部20の形状を設計したり、マトリックス樹脂の粘度を調整することができる。そして、未含浸部を残す複数枚のプリプレグが塗布部20で合一されるため、本発明の多層構造プリプレグを得ることが可能となるのである。
【0075】
なお、本発明の製造方法では、前記した多層構造プリプレグが得られるだけでなく、条件設定によっては、含浸度の高いプリプレグを得ることも可能である。それを下記に説明する。
図5の塗布部20では、複数の強化繊維シート2をその厚み方向に間隔をあけて液溜り部22に導入した後、塗布部20の内部で合一して引き取ることで、液溜り部22の下部および狭窄部23では、投入された強化繊維シート2それぞれでマトリックス樹脂4の含浸が進行する。これにより、
図5の塗布部20では、強化繊維シート2を最初から重ねあわせた状態で液溜り部22に投入した場合と比較して、よりマトリックス樹脂4の含浸度が高いプリプレグ3を得ることが可能となる。ここで
図5の塗布部20では2枚の強化繊維シート2をその厚み方向に間隔をあけて液溜り部22に導入しているが、これを3枚以上としてもよい。一定の厚みのプリプレグ3を得る場合、液溜り部22に導入される強化繊維シート2の数が多いほど、投入されたそれぞれの強化繊維シートの厚みが薄くなり、必要な含浸距離が短くなるため、マトリックス樹脂4の含浸度をさらに高めることが可能となる。このとき、強化繊維シート2の数が多いほど、それぞれの強化繊維シート2の厚みが薄くなるため、前記のように拡幅化装置を用いて、強化繊維シート2の拡幅化を行い、所望の幅にした後に液溜り部22に投入することが、均一な厚みのプリプレグ3を得ることができ好ましい。
【0076】
さらに、前記の増大した液圧により、複数の強化繊維シート2が合一した層構造プリプレグ3が隙間Dの中央に自動的に調心され、強化繊維シート2および/または層構造プリプレグ3が液溜り部22や狭窄部23の壁面に直接擦過せず、ここでの毛羽発生を抑制する効果もある。これは、外乱などにより強化繊維シート2および/または層構造プリプレグ3が隙間Dのどちらかに接近した場合、接近した側ではより狭い隙間にマトリックス樹脂4が押し込まれて圧縮されるため、接近した側で液圧がより増大し、強化繊維シート2および/または層構造プリプレグ32を隙間Dの中央に押し戻すためである。
【0077】
狭窄部23は、液溜り部22の上面よりも断面積が小さく設計される。
図5や
図7から理解されるとおり専ら強化繊維シート2による疑似平面の垂線方向の長さが小さい、すなわち部材間の間隔が狭い、ことで断面積は小さくなる。これは、前記のように狭窄部で液圧を高くすることで、含浸や自動調心効果を得るためである。また、狭窄部23の最上部の面の断面形状は、液溜り部22の最下部の面の断面形状と一致させることが、強化繊維シート2の走行性やマトリックス樹脂4の流れ制御の観点から好ましいが、必要に応じ狭窄部23の方を若干大きくしてもよい。
【0078】
また、強化繊維シート2に付与されるマトリックス樹脂4の総量は、狭窄部23の隙間Dで制御可能であり、例えば、強化繊維シート2に付与するマトリックス樹脂4の総量を多くしたい(目付けを大きくしたい)場合は、隙間Dが広くなるよう、壁面部材21a、21bを設置すればよい。
【0079】
図6は、塗布部20を、
図5のAの方向から見た下面図である。塗布部20には、強化繊維シート2の強化繊維配列方向両端からマトリックス樹脂4が漏れるのを防ぐための側壁部材24a、24bが設けられており、壁面部材21a、21bと側壁部材24a、24bに囲われた空間に狭窄部23の出口25が形成されている。ここで、出口25はスリット状をしており、断面アスペクト比(
図6のY/D)はマトリックス樹脂4を付与したい強化繊維シート2の形状に合わせて設定すればよい。
【0080】
図7は塗布部20を、Bの方向から見た場合の塗布部内層部の構造を説明する断面図である。なお、図を見やすくするため壁面部材21bは省略してあるほか、強化繊維シート2は強化繊維を、隙間を開けて配列しているように描画しているが、実際には強化繊維を隙間無く配列することが、多層構造プリプレグ3の品位、FRPの力学特性の観点から好ましい。
【0081】
図8は隙間26での塗液2の流れを示している。隙間26が大きいとマトリックス樹脂には、Rの向きに渦流れが発生する。この渦流れRは、液溜り部22の下部では外側に向かう流れ(Ra)となるため、強化繊維シート2を引き裂いてしまう(強化繊維シート2がUD基材の場合、強化繊維束の割れが発生する)場合や強化繊維間の間隔を拡げてしまい、そのために多層構造プリプレグ3としたときに強化繊維の配列ムラを発生する可能性がある。一方、液溜り部22の上部では、内側に向かう流れ(Rb)となるため、強化繊維シート2が幅方向に圧縮され、その端部が折れてしまう場合がある。特許文献2(特許第3252278号公報)に代表されるような、フィルムに塗液を両面塗布する装置ではこのような隙間26での渦流れが発生しても品質への影響が少ないため、注意がされていなかった。
【0082】
そこで、本発明においては、隙間26を小さくする幅規制を行い、端部での渦流れの発生を抑制することが好ましい。具体的には、液溜り部22の幅L、すなわち、側板部材24aと24bの間隔Lは、狭窄部23の直下で測定したシート状強化繊維束の幅Wと以下の関係を満たすよう構成することが好ましい。
L≦W+10(mm)。
【0083】
これにより、端部での渦流れ発生が抑制され、強化繊維シート2の割れや端部折れを抑制でき、多層構造プリプレグ3の全幅(W)にわたって均一に強化繊維が配列された、高品位で安定性の高い多層構造プリプレグ3を得ることができる。これにより、プリプレグの品位、品質を向上させるのみならず、これを用いて得られるFRPの力学特性や品質を向上させることができる。LとWの関係はより好ましくは、L≦W+2(mm)とすると、さら強化繊維シートの割れや端部折れを抑制することができる。
【0084】
また、Lの下限は、W-5(mm)以上となるよう調整することが、多層構造プリプレグ3の幅方向寸法の均一性を向上させる観点から好ましい。
【0085】
なお、この幅規制は、液溜り部22下部の高い液圧による渦流れR発生を抑制する観点から、少なくとも液溜り部22の下部(
図7のGの位置)で行うことが好ましい。さらに、この幅規制はより好ましくは、液溜り部22の全域で行うと、渦流れRの発生をほぼ完全に抑制することができ、その結果、シート状強化繊維束の割れや端部折れをほぼ完全に抑制することが可能となる。
【0086】
また、前記幅規制は、前記隙間26の渦流れ抑制の観点からは、液溜り部22だけでもよいが、狭窄部23も同様に行うと多層構造プリプレグ3の側面に過剰なマトリックス樹脂4が付与されることを抑制する観点から好ましい。
【0087】
<強化繊維シートの間隔>
図15は
図5と同じ塗布部20の詳細断面図である。
図15の塗布部20では、複数の強化繊維シート2がその厚み方向に間隔をあけて液溜り部22に投入されている。強化繊維シート2の入射角度と位置は、押さえガイド14によって調整される。このとき液溜り部22の上端液面において、液溜り部の壁面(すなわち壁面部材21)と強化繊維シート2間の間隔および複数の強化繊維シート2どうし間の間隔のうち、最も狭い間隔Ln(
図15の場合は壁面部材21と強化繊維シート2の間隔)と、最も広い間隔Lb(
図15の場合は複数の強化繊維シート2どうしの間隔)の関係が、1≦Lb/Ln≦3を満たすことが好ましい。これは、強化繊維シート2を走行させてマトリックス樹脂4を付与する際、マトリックス樹脂4が消費されて液溜り部22の上端液面が徐々に低下していくが、前記の間隔LnとLbの比が大きすぎると、強化繊維シート2によって分断された液溜り部22の各領域の上端液面低下速度が異なり、強化繊維シート2によって分断された液溜り部22の各領域の上端液面に高低差が生じる。強化繊維シート2の表裏で液面高低差が大きくなると、液面の高い方から低い方へマトリックス樹脂4が流れ込もうとして、強化繊維シート2がその厚み方向に変形して壁面部材21に接触したり、強化繊維シート2としてUD基材を用いている場合は、強化繊維の隙間を割ってマトリックス樹脂4が流れ込み、強化繊維の配列を乱す懸念がある。
【0088】
例えば、
図15においてLb/Lnの比が大きすぎる場合、強化繊維シート2の走行中に壁面部材21と強化繊維シート2に挟まれた領域(左右領域)の液面が急激に低下し、複数の強化繊維シート2に挟まれた領域(中央領域)からマトリックス樹脂4が流れ込もうとして、強化繊維シート2は壁面部材21に押し付けられる。このとき強化繊維シート2と壁面部材21の擦過によって大量の毛羽が発生し、最悪の場合強化繊維シート2が走行不能となる。
【0089】
反対に、
図15において、液溜り部22の上端液面における複数の強化繊維シート2どうしの間隔が狭すぎる場合、複数の強化繊維シート2に挟まれた領域(中央領域)の液面が急激に低下してマトリックス樹脂4が枯渇すると、複数の強化繊維シート2の隙間に付与されるマトリックス樹脂4が不足し、塗布部20で強化繊維シート2の内側からの含浸が十分に進まず、プリプレグ3が含浸不良となってしまう懸念がある。
【0090】
以上のことから、強化繊維シート2の走行安定化と、プリプレグ3へのマトリックス樹脂の含浸度向上の観点から、液溜り部22の上端液面の高さを全領域で均一にするため、液溜り部の壁面と強化繊維シート2の間隔と、複数の強化繊維シート2どうしの間隔の比を1に近づけることが好ましい。具体的には、最も狭い間隔Lnと最も広い間隔Lbの関係は1≦Lb/Ln≦3を満たすことが好ましい。
【0091】
ここで
図15に示す塗布部20では、液溜り部22の上端液面における壁面部材21と強化繊維シート2の間隔が、複数の強化繊維シートどうしの間隔よりも狭くなっているが、前記の寸法関係を満たしていればこの限りではない。例えば、複数の強化繊維シート2どうしの間隔の方を広くしても良い。
【0092】
<強化繊維シートの合一>
図15の塗布部20では複数の強化繊維シート2が液溜り部22と狭窄部23の境界付近で合一されている例を示したが、これに限定されず、強化繊維シート2の合一は塗布部20の内部であればどこで実施してもよい。例えば
図16の塗布部20aのように、液溜り部22の内部に液中ガイド18を設け、液溜り部22の途中で複数の強化繊維シート2を合一してもよい。ただし、強化繊維シート2の合一を液溜り部22の上端液面付近で実施すると、複数の強化繊維シート2に挟まれた領域のマトリックス樹脂4が少なく、前記<強化繊維シートの間隔>で述べたように、複数の強化繊維シート2の隙間に付与されるマトリックス樹脂4が不足し、強化繊維シート2の内側からの含浸が十分に進まず、プリプレグ3が含浸不良となってしまう懸念があることから、強化繊維シート2の合一は液溜り部22の中央よりも下方で実施することが好ましい。なお、液中ガイド18を用いない場合は、複数の強化繊維シート2は液溜り部22の最も断面積が狭くなる部分、すなわち液溜り部22と狭窄部23の境界付近で合一されることになる。
【0093】
<幅規制機構>
前記では幅規制を側壁部材24a、24bが担う場合を示したが、
図9に示すように、側壁部材24a、24b間に幅規制機構27a、27bを設け、かかる機構で強化繊維シート2の幅規制を行うこともできる。これにより、幅規制機構によって規制される幅を自在に変更可能とすることで一つの塗布部により、種々の幅のプリプレグを製造できる観点から好ましい。ここで、
図9(b)における狭窄部の直下における強化繊維シートの幅(W)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅(L2)との関係はL2≦W+10(mm)とすることが好ましく、より好ましくは、L2≦W+2(mm)である。また、L2の下限は、W-5(mm)以上となるよう調整することが、プリプレグ3の幅方向寸法の均一性を向上させる観点から好ましい。幅規制機構の形状および材質に特に制限は無いが、板形状のブッシュであると簡便であり、好ましい。一方、幅規制機構の中間部から下部にかけては塗布部の内部形状に沿った形状とすることが液溜り部での塗液の滞留を抑制でき、塗液の劣化を抑制できることから好ましい。この意味から、幅規制機構は
図9(b)に示す通り、狭窄部23まで挿入されることが好ましい。
【0094】
また、幅規制機構27は複数の強化繊維シート2の幅方向両端部に、強化繊維シート2の走行経路に沿うようにして設けることが好ましい。例えば、
図3のように複数の強化繊維シート2をV字に走行させる場合は、
図9(d)の通り、幅規制機構をV字形状とすることが好ましい。
【0095】
図17は
図9(a)と同じく、
図5の塗布部20を
図3のZ方向から見た図で、液溜り部22の上端液面における強化繊維シート2と幅規制機構27の位置関係を示す。液溜り部22の上端液面付近においては、
図17に示すとおり、幅規制機構27が互いに分割し、すなわち塗布部に導入されている複数の強化繊維シートの各シート間に対応して幅規制機構が存在しない箇所ができるように幅規制機構を設け、かつ壁面部材21a、21bまたは側板部材24a、24bと間隔をあけて設けることが好ましい。具体的には、壁面部材21と幅規制機構27の間隔Lx、または側板部材24と幅規制機構27の間隔Lyを10mm以上とすることが好ましい。これはマトリックス樹脂4の水平方向の流れFを妨げないようにすることで、マトリックス樹脂4を液溜り部22の全領域に行き渡らせて、<強化繊維シートの間隔>の項で述べた液面高低差を縮小し、強化繊維シート2の走行安定化とプリプレグ3のマトリックス樹脂の含浸度向上の効果を得るためである。
【0096】
さらに液溜り部22の上端液面において、幅規制機構27の強化繊維シート2の厚み方向の寸法Eは10mm以上とすることが好ましい。より好ましくは20mm以上である。これは水平方向の流れFが強化繊維シート2の幅方向端部に直接当たらないようにすることで、強化繊維シート2の端部の折れや揺れを防止するためである。
【0097】
また
図9では、幅規制機構として板形状ブッシュの例を示しているが、
図9(d)においてはブッシュの位置Jより下部が液溜り部22のテーパー形状に沿い、狭窄部23まで延在している例を示している。
図9(b)にはL2が塗布液の液面から狭窄部の出口まで一定の例を示しているが、幅規制機構の目的を達成する範囲で部位によって規制する幅を変更してもよい。幅規制機構は任意の方法で塗布部20に固定することができるが、板形状ブッシュの場合には、上下方向で複数の部位で固定することで、高い液圧が負荷されても板形状ブッシュの変形による規制幅の変動を抑制することができる。例えば、上部はステーを用い、下部は塗布部に差し込むようにすると、幅規制機構による幅の規制が容易であり、好ましい。
【0098】
<液溜り部の形状>
前記で詳述したように、本発明の製造方法においては、液溜り部22でZ方向に断面積が連続的に減少することで、強化繊維シート2の走行方向に液圧を増大させることが重要であるが、ここでシート状強化繊維束の走行方向に断面積が連続的に減少するとは、走行方向に連続的に液圧を増大可能であれば、その形状には特に制限は無い。液溜り部の横断面図において、テーパー状(直線状)であったり、ラッパ状などのように曲線的な形態を示してもよい。また、断面積減少部は液溜り部全長にわたって連続してもよいし、本発明の目的、効果が得られる範囲であれば、一部に断面積が減少しない部分や逆に拡大する部分を含んでいてもよい。これらについて、以下に
図10~13で例を挙げて詳述する。
【0099】
図10は、
図5とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21c、21dの形状が異なる以外は、
図5の塗布部20と同じである。
図10の塗布部20bのように、液溜り部22が、鉛直方向下向きZに断面積が連続的に減少する領域22aと、断面積が減少しない領域22bに分かれていてもよい。このとき、断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは10mm以上であることが好ましい。さらに好ましい断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは50mm以上である。これにより、強化繊維シートによって随伴されたマトリックス樹脂が、液溜まり部22の断面積が連続的に減少する領域22aで圧縮される距離が確保され、液溜り部22の下部で発生する液圧を十分に増大させることができる。その結果、液圧により毛羽が狭窄部23に詰まることを防止し、また液圧によりマトリックス樹脂が強化繊維シートに含浸する効果を得ることができる。
【0100】
ここで、
図5の塗布部20や
図10の塗布部20bのように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aをテーパー状とする場合、テーパーの開き角度θは小さい方が好ましく、具体的には鋭角(90°以下)にすることが好ましい。これにより、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22a(テーパー部)でマトリックス樹脂の圧縮効果を高め、高い液圧を得やすくすることができる。
【0101】
図11は、
図10とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21e、21fの形状が2段テーパー状となっている以外は、
図10の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを2段以上の多段テーパー部で構成してもよい。このとき、狭窄部23に最も近いテーパー部の開き角度θを鋭角にするのが、前記の圧縮効果を高める観点から好ましい。またこの場合も、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの高さHを10mm以上にすることが好ましい。さらに好ましい断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは50mm以上である。
図11のように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを多段のテーパー部にすることで、液溜り部22に貯留できる塗液2の体積を維持しつつ、狭窄部23に最も近いテーパー部の角度θをより小さくすることができる。これにより液溜り部22の下部で発生する液圧がより高くなり、毛羽の排除効果や塗液2の含浸効果をさらに高めることが可能となる。
【0102】
図12は、
図10とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21g、21hの形状が階段状となっている以外は、
図10の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の最下部に断面積が連続的に減少する領域22aがあれば、本発明の目的である液圧の増大効果は得られるため、液溜り部22の他の部分に断面積が断続的に減少する領域22cを含んでいてもよい。液溜り部22を
図12のような形状にすることで、断面積が連続的に減少する領域22aの形状を維持しつつ、液溜り部22の奥行きBを拡大して貯留できる塗液2の体積を大きくすることができる。その結果、塗布部20dに塗液2を連続して供給できない場合でも、長時間強化繊維シートにマトリックス樹脂を付与し続けることが可能となり、多層構造プリプレグの生産性がより向上する。
【0103】
図13は、
図10とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21i、21jの形状がラッパ状(曲線状)となっている以外は、
図10の塗布部20bと同じである。
図10の塗布部20bでは、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aはテーパー状(直線状)だが、これに限定されず、例えば
図13のようにラッパ状(曲線状)でもよい。ただし、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部は滑らかに接続することが好ましい。これは、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部の境界に段差があると、強化繊維シートが段差に引っ掛かり、この部分で毛羽が発生する懸念があるためである。また、このように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域をラッパ状とする場合は、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの最下部における仮想接線の開き角度θを鋭角にするのが好ましい。
【0104】
なお、上記は滑らかに断面積が減少する例をあげて説明したが、本発明の目的を損なわない限り、本発明において液溜まり部の断面積は必ずしも滑らかに減少しなくともよい。
【0105】
図14は別の形態の塗布部30の詳細横断面図である。
図10~13とは異なり、
図14の液溜り部32は鉛直方向下向きZに断面積が連続的に減少する領域を含まず、狭窄部23との境界33で断面積が不連続で急激に減少する構成である。このため、強化繊維シート、多層構造プリプレグが詰まり易いため、避けることが好ましい。
【0106】
<走行機構>
強化繊維シートや本発明の多層構造プリプレグを搬送するための走行機構としては、公知のローラー等を好適に用いることができる。本発明では強化繊維シートが実質的に鉛直下向きに搬送されるため、塗布部を挟んで上下にローラーを配置することが好ましい。
【0107】
また、本発明では、強化繊維の配列乱れや毛羽立ちを抑制するため、強化繊維シートの走行経路はなるべく直線状であることが好ましい。また、多層構造プリプレグと離型シートの積層体であるシート状一体物の搬送工程において、屈曲部を有すると、内層と外層の周長差による皺が発生する場合が有るため、シート状一体物の走行経路もなるべく直線状であることが好ましい。この観点からは、シート状一体物の走行経路中では、ニップロールを用いる方が好ましい。
【0108】
S字ロールとニップロールのどちらを用いるかは、製造条件や製造物の特性に応じ、適宜選択することが可能である。
【0109】
<高張力引き取り装置>
本発明では、塗布部から多層構造プリプレグを引き出すための高張力引き取り装置を塗布部より工程下流に配置することが好ましい。これは、塗布部で、強化繊維シートとマトリックス樹脂の間で高い摩擦力、せん断応力が発生するため、それに打ち勝って多層構造プリプレグを引き出すためには、工程下流で高い引き取り張力を発生させることが好ましいためである。高張力引き取り装置としては、ニップロールやS字ロールなどを用いることができるが、いずれもロールと多層構造プリプレグの間の摩擦力を高めることで、スリップを防止し、安定した走行を可能とすることができる。このためには、摩擦係数の高い材料をロール表面に配したり、ニップ圧力やS字ロールへの多層構造プリプレグの押し付け圧を高くすることが好ましい。スリップを防止する観点からは、S字ロールの方がロール径や接触長などで容易に摩擦力を制御でき、好ましい。
【0110】
<離型シート供給装置、ワインダー>
本発明の製造方法によるプリプレグやFRPの製造においては適宜離型シート供給装置やワインダーを用いることができ、そのようなものとしては公知のものを使用することができるが、いずれも巻き出し、あるいは巻き取り張力を巻き出しあるいは巻き取り速度にフィードバックできる機構を備えていることがシートの安定走行の観点から好ましい。離型シートはプリプレグ(あるいは、多層構造プリプレグ)にあっては、その上面および下面の何れかまたは両方の面に接合される。なお、接合とは「ラミネート」の意味であり、離型シートはプリプレグの使用時に剥がすことができることはいうまでもない。
【0111】
<追含浸>
所望の含浸度に調整するために、マトリックス樹脂塗布後に、含浸装置を用いて更に含浸度を高める手段を組み合わせることも可能である。ここでは、塗布部での含浸と区別するために、塗布後に追加で含浸することを追含浸、そのための装置を追含浸装置と称することとする。追含浸装置として用いられる装置には特に制限は無く、目的に応じて公知のものから適宜選択することができる。例えば、特開2011-132389号公報やWO2015/060299パンフレット記載のように、強化繊維シートと樹脂の積層体を、熱板で予熱しシート状炭素繊維束上の樹脂を十分軟化させた後、やはり加熱されたニップロールで加圧する装置を用いることで含浸を進めることができる。予熱のための熱板温度やニップロール表面温度、ニップロールの線圧、ニップロールの直径・数は所望の含浸度になるように適宜選択することができる。また、WO2010/150022パンフレット記載のようなプリプレグシートがS字型に走行する“S-ラップロール”を用いることも可能である。本明細書では“S-ラップロール”を単に“S字ロール”と称することとする。WO2010/150022パンフレット
図1ではプリプレグシートがS字型に走行する例が記載されているが、含浸が可能であれば、U字型や、V型またはΛ型のようにシートとロールの接触長を調整してもよい。また、含浸圧を高め含浸度を上げる場合には、対向するコンタクトロールを付加することも可能である。さらにWO2015/076981パンフレット
図4記載のように、“S-ラップロール”に対向してコンベヤーベルトを配することで含浸効率を向上させ、プリプレグの製造速度の高速化をはかることも可能である。また、WO2017/068159パンフレットや特開2016-203397号公報などに記載のように、含浸前にプリプレグに超音波を付与し、プリプレグを急速昇温することで、含浸効率を向上させることも可能である。また、特開2017-154330号公報記載のように、超音波発生装置で複数の“しごき刃”振動させる含浸装置を用いることも可能である。また、特開2013-22868号公報記載のようにプリプレグを折り畳んで含浸することも可能である。
【0112】
<簡易追含浸>
上記では、従来の追含浸装置を適用する例を示したが、塗布部直下では未だ多層構造プリプレグの温度が高い場合があり、そのような場合には塗布部を出て後、あまり時間が経っていない段階で追含浸操作を加えると、多層構造プリプレグを再昇温するための熱板などの加熱装置を省略あるいは簡略化し、含浸装置を大幅に簡略化・小型化することも可能である。このように塗布部直下に位置させる含浸装置を簡易追含浸装置と称することとする。簡易追含浸装置としては加熱ニップロールや加熱S字ロールを用いることができるが、通常の含浸装置に比較し、ロール径や設定圧力、プリプレグとロールの接触長を減じることができ、装置を小型化できるだけでなく消費電力なども減じることができ、好ましい。
【0113】
また、多層構造プリプレグが簡易追含浸装置に入る前に、多層構造プリプレグに離形シートを付与すると、プリプレグの走行性が向上し好ましい。
【0114】
<プリプレグの幅>
また、所望の幅のプリプレグを得る方法には特に制限は無く、幅1m~2m程度の広幅プリプレグを細幅にスリットする方法を用いることができる。また、スリット工程を簡略化あるいは省略するため、最初から所望の幅となるよう本発明で用いる塗布部の幅を調整することもできる。例えば、ATL用に30cm幅の細幅プリプレグを製造する場合には、塗布部出口の幅をそれに応じて調整すればよい。また、これを効率的に製造するためには、製品幅を30cmとして製造することが好ましく、係る製造装置を複数個並列させると、同一の走行装置・搬送装置、各種ロール、ワインダーを用いて複数ラインのプリプレグを製造することができる。
【0115】
また、プリプレグテープの場合には、テープ状の強化繊維束が1糸条~3糸状程度で強化繊維シートを形成させ、これを所望のテープ幅が得られるように幅を調整した塗布部に通すことで得ることもできる。プリプレグテープの場合はテープ同士の横方向の重なりを制御する観点から、特にテープ幅の精度が求められる場合が多い。このため、塗布部出口幅をより厳密に管理することが好ましく、この場合には、前記のL、L2およびWが、L≦W+1mmおよび/またはL2≦W+1mm、の関係を満たすようすることが好ましい。
【0116】
本発明において塗液の含浸率は10%以上であることが望ましい。塗液の含浸率は、採取した塗液含浸シート状強化繊維束を裂き、内層部を目視することで含浸の有無を確認することができ、より定量的には例えば剥離法で評価することが可能である。剥離法による塗液の含浸率は以下のようにして測定することができる。すなわち、採取した塗液含浸シート状強化繊維束を粘着テープで挟み、これを剥離し、塗液が付着した強化繊維と塗液が付着していない強化繊維を分離する。そして、投入したシート状強化繊維束全体の質量に対する塗液が付着した強化繊維の質量の比率を剥離法による塗液の含浸率とすることができる。
【0117】
<スリット>
プリプレグのスリット方法にも特に制限は無く、公知のスリット装置を用いることができる。プリプレグを一旦巻き取った後、改めてスリット装置に設置し、スリットを行っても良いし、効率化のため、プリプレグ一旦巻き取ることなくプリプレグ作製工程から連続してスリット工程を配置しても良い。また、スリット工程は1m以上の広幅プリプレグを直接、所望の幅にスリットしても良いし、一旦、30cm程度の細幅プリプレグにカット・小分けした後、これを改めて所望の幅にスリットしても良い。
【0118】
なお、上記の細幅プリプレグ、プリプレグテープを複数の塗布部を並列させた場合には、それぞれ独立に離型シートを供給しても良いし、1枚の広幅離型シートを供給し、これに複数枚のプリプレグを積層させても良い。このようにして得られるプリプレグの幅方向の端部を切り落とし、ATLやAFPの装置に供給することができる。この場合には切り落とす端部の大部分が離型シートとなるため、スリットカッター刃に付着するマトリックス樹脂や強化繊維の毛羽を減じることができ、スリットカッター刃の清掃周期を延長できるというメリットもある。
【0119】
<マトリックス樹脂供給機構>
本製造方法において塗布部内にマトリックス樹脂は貯留されているが、塗工が進行するのでマトリックス樹脂を適宜補給することが好ましい。マトリックス樹脂を塗布部に供給する機構には特に制限は無く、公知の装置を使用することができる。マトリックス樹脂は連続的に塗布部に供給することが、塗布部の上部液面を乱さず、強化繊維シートの走行を安定化でき、好ましい。例えば、塗液を貯留する槽から自重を駆動力として供給したり、ポンプなどを用いて連続的に供給することができる。ポンプとしては、ギヤポンプやチューブポンプ、圧力ポンプなど塗液の性質に応じ適宜使用することができる。また、マトリックス樹脂が室温で固体の場合には、貯留層上部にメルターを備えておくことが好ましい。また、連続押し出し機などを用いることもできる。また、塗液供給量は塗液の塗布部上部の液面がなるべく一定となるよう、塗布量に応じ連続供給できる機構を備えることが好ましい。このためには、例えば液面高さや塗布部重量などをモニタリングし、それを供給装置にフィードバックするような機構が考えられる。
【0120】
<オンラインモニタリング>
また、塗布量のモニタリングのために、塗布量をオンラインモニタリングできる機構を備えることが好ましい。オンラインモニタリング方法についても特に制限は無く、公知のものを使用可能である。例えば、厚みを計測する装置として、例えばベータ線計などを用いることができる。この場合は、強化繊維シート厚みと多層構造プリプレグの厚みを計測し、その差分を解析することで塗布量を見積もることが可能である。オンラインモニタリングされた塗布量は、直ぐに塗布部にフィードバックされ、塗布部の温度や狭窄部23の隙間D(
図5参照)の調整に利用することができる。塗布量モニタリングは、もちろん欠点モニタリングとしても使用可能である。厚み計測位置としては、例えば
図4で言えば、方向転換ロール419近傍で強化繊維シート416の厚みを計測し、塗布部430から方向転換ロール441の間で多層構造プリプレグ471の厚みを計測することができる。また、赤外線、近赤外線、カメラ(画像解析)などを用いたオンライン欠点モニタリングを行うことも好ましい。
【実施例】
【0121】
<プリプレグの作製>
(1)プリプレグ製造装置
実施例1~5では、
図11の形態の塗布部20cタイプの塗布部を用い、
図18の形態の押さえガイド14を設置した。また、プリプレグ製造装置として
図4記載の構成の装置(マトリックス樹脂の供給部は描画を省略)を用いた。
【0122】
塗布部は、液溜り部および狭窄部を形成する壁面部材にはステンレス製のブロックを用い、また側板部材にはステンレス製のプレートを用いた。液溜り部は2段テーパー状であるが、上部テーパーは開き角度17°、テーパー高さ(すなわちH)は100mm、下部テーパは開き角度7°であった。また、幅規制機構として、
図9に記載のような塗布部内部の形状に合わせた板状ブッシュを備えており、さらにこの板状ブッシュの設置位置自在に変更し、L2を適宜調整できるようにした。狭窄部の幅Yは、L2を300mmとした場合、300mmとなるようにした。狭窄部の隙間Dは0.2mmとした。この場合、出口スリットのアスペクト比は1500となる。また、この時用いた板状ブッシュはY字型とし、2枚の強化繊維シート間隔からマトリックス樹脂が中央領域に流入できる形状とした。また、狭窄部出口から塗液が漏れないように、狭窄部出口下面においてブッシュより外側は塞いで使用した。さらに塗液を加温するため、壁面部材21e、21fおよび側板部材24a、24bの外周にプレートヒーターを貼り付け、熱電対で温度計測を行いながら、マトリックス樹脂の温度および粘度を調整した。
【0123】
実施例6~12、比較例5では、
図4記載のプリプレグ製造装置(マトリックス樹脂の供給部は描画を省略)を用い、また塗布部には
図18の形態の押さえガイド14および塗布部20f(実施例6~12)または
図19の形態の押さえガイド14および塗布部40(比較例5)を用いた。塗布部は、液溜り部および狭窄部を形成する壁面部材にはステンレス製のブロックを用い、また側板部材にはステンレス製のプレートを用いた。液溜り部は2段テーパー状であるが、上部テーパーは開き角度17°、下部テーパは開き角度7°、テーパー高さの合計(すなわちH)は100mmであった。狭窄部の幅Yは300mm、狭窄部の隙間Dは0.2mmとした。この場合、出口スリットのアスペクト比は1500となる。さらにマトリックス樹脂を加温するため、壁面部材21e、21fおよび側板部材24a、24bの外周にプレートヒーターを貼り付け、熱電対で温度計測を行いながら、マトリックス樹脂の温度を90℃に維持した。なお、表2は実施例6~8および比較例5においてCFRP用プリプレグの作製を行い、走行安定性と含浸度を評価した実験結果をまとめた表である。実施例6~8および比較例5に共通の実施条件として、幅規制機構は用いなかった。
【0124】
(2)強化繊維シート
強化繊維シートとしては、炭素繊維(東レ製、トレカT800S(24K))を配列させたUD基材を2枚形成し、マトリックス樹脂として後記する熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用い、前記装置によりCFRP用の多層構造プリプレグを作製した。また、強化繊維ボビン412の数は作製するプリプレグに応じて調整したが、特に断らない限り、強化繊維シート1枚あたり29ボビンとした。
【0125】
(3)プリプレグ作製方法
クリールに掛けられた複数の強化繊維ボビンから強化繊維を引き出し、強化繊維配列装置で強化繊維シートを2枚形成させ、方向転換ロールで一旦上方に導いた。その後、方向転換ロールを経由し鉛直下向きに搬送され、予熱装置で塗布部内のマトリックス樹脂温度以上まで予熱された。そして、押さえガイドを用い、2枚の強化繊維シートが対称となるように、入射角度α、入射位置を調整し、この時、Lb/Lnが2となるように塗布部に導いた(但し、特記がある場合はそのLb/Lnに調整した)。その後、塗布部内でそれぞれマトリックス樹脂が塗布、含浸され塗布部内の狭窄部近傍で1枚に合一され、多層構造プリプレグを形成させた。多層構造プリプレグは方向転換ロール上で、離型シート(上)供給装置から巻き出された離型シートと積層され、高張力引取りS字ロールにより引き取られた。同時に、離型シート(下)供給装置から巻き出された離型シートと高張力引取りS字ロール上で積層され、多層構造プリプレグの上下両面に離型シートを配置した。そして、これが追含新装置に供給され、熱板で予熱された後、加熱ニップロールを用いて追含浸を行った。その後、冷却装置で冷却された後、引き取り装置を経て、上側の離型シートが剥がされ、ワインダーにて多層構造プリプレグ/離型シートがロール形状に巻き上げた。但し、比較例5にあっては重ね合わされた強化繊維シートを塗布部に導入してプリプレグを作製した。
【0126】
(4)マトリックス樹脂
熱硬化性エポキシ樹脂組成物1(マトリックス樹脂A):
エポキシ樹脂(芳香族アミン型エポキシ樹脂+ビスフェノール型エポキシ樹脂の混合物)、硬化剤(ジアミノジフェニルスルホン)、ポリエーテルスルホンの混合物であり、ポリマー粒子は含有していない。この熱硬化性エポキシ樹脂1の粘度をTA Instruments社製ARES-G2を用いて、測定周波数0.5Hz、昇温速度1.5℃/分で測定したところ、75℃で50Pa・s、90℃で15Pa・s、105℃で4Pa・sであった。
【0127】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物2(マトリックス樹脂B):
エポキシ樹脂(芳香族アミン型エポキシ樹脂+ビスフェノール型エポキシ樹脂の混合物)、硬化剤(ジアミノジフェニルスルホン)、ポリエーテルスルホンの混合物に、ポリマー粒子として、特開2011-162619号公報実施例記載の「粒子3」(Tg=150℃)を樹脂組成物全体の質量を100質量%としたとき12質量%となるよう添加したものを用いた。
【0128】
この熱硬化性エポキシ樹脂2の粘度をTA Instruments社製ARES-G2を用いて、測定周波数0.5Hz、昇温速度1.5℃/分で測定したところ、75℃で118Pa・s、90℃で32Pa・s、105℃で10Pa・sであった。
【0129】
<プリプレグの評価方法>
(1)プリプレグの層構造評価
プリプレグを-18℃で冷凍庫中で冷凍し、冷凍庫から取り出した後、素早く室温でカッターを用いプリプレグをカットして厚み方向のプリプレグ断面作製を行った。このサンプルを走査型電子顕微鏡としてキーエンス社製VHX-5000を用いて観察を行った。
【0130】
(2)プリプレグのマトリックス樹脂含浸度(プリプレグの吸水率)
実施例1~5、比較例1~4の含浸度は毛細管現象によるプリプレグの吸水率から評価可能であり、特表2016-510077号公報に記載の方法にならい、プリプレグを10cm×10cmにカットし、その1辺を5mm、水に5分間浸漬した時の質量変化から計算した。吸水率が低い方が含浸度が高い。
【0131】
実施例6~12、比較例5のプリプレグの含浸度剥離法により含浸度を定量的に評価した。剥離法による塗液の含浸度は以下のようにして測定した。すなわち、採取したプリプレグを粘着テープで挟み、これを剥離し、マトリックス樹脂が付着した強化繊維とマトリックス樹脂が付着していない強化繊維を分離する。そして、投入した強化繊維シート全体の質量に対するマトリックス樹脂が付着した強化繊維の質量の比率を剥離法によるマトリックス樹脂の含浸度として求めた。
【0132】
(3)プリプレグの形状保持性
A.プリプレグ製造工程でのプリプレグ/離型紙の密着性
プリプレグ製造工程でのプリプレグ/離型紙の搬送過程において、400m走行あたりの離型紙はがれが0回のものを「Good」、1回のものを「Fair」、2回以上のものを「Bad」とした。
【0133】
B.プリプレグロールの形状保持性
片面に離型紙を積層したプリプレグを400mロール形状に巻き上げ、このロールを縦置きし20℃、65%RHで24時間放置した時の、プリプレグと離型紙はがれ部分のプリプレグ長手方向の長さ(はがれ距離)が5cm未満のものを「Good」、はがれ距離が5cm以上30cm未満のものを「Fair」、はがれ距離が30cm以上のものを「Bad」とした。
【0134】
また、プリプレグの未含浸層、すなわちドライ強化繊維やボイド部分でのプリプレグの剥離距離が5cm未満のものを「Good」、剥離距離が5cm以上30cm未満のものを「Fair」、剥離距離が30cm以上のものを「Bad」とした。
【0135】
C.プリプレグ積層工程でのプリプレグの形状保持性
30cm四方のプリプレグ(UD基材使用)を一方向に16枚積層した時のプリプレグの未含浸層、すなわちドライ強化繊維やボイド部分での剥離やズレを評価した。剥離やズレが発生したのが1層以下ものを「Good」、剥離やズレが2~3層有ったものを「Fair」、剥離やズレが4層以上のものを「Bad」とした。
【0136】
D.プリプレグ裁断時の毛羽
プリプレグを30cm四方に裁断する作業を16枚行った時に、切断面に強化繊維毛羽が発生している箇所が2箇所以下のものを「Good」、3箇所~4箇所のものを「Fair」、5箇所以上のものを「Bad」とした。
【0137】
(4)真空圧成形性
30cm四方のプリプレグ(UD基材使用)を一方向に16枚積層してプリプレグ積層体とした後、プリプレグ積層体の両表面に厚さ100μmのPTFEフィルムを配置して、厚さ10mmのアルミ板の上に乗せ、ポリアミドフィルムで覆った。さらに25℃環境下で、プリプレグ積層体の周囲の真空度を3kPaとし、3時間放置し、揮発分を除去した。その後、真空度を3kPaに維持したまま、昇温速度1.5℃/分で120℃まで昇温し、180分間保持した。その後、更に、昇温速度1.5℃/分で180℃まで昇温し、120分間保持し、マトリックス樹脂を硬化させCFRPを得た。
【0138】
このCFRPから縦1cm、横1cmのサンプル片を3個切り出し、その断面を研磨後、CFRPの上下面が視野内に収まるように50倍のレンズを用いて光学顕微鏡で観察し、画像を取得した。この取得画像からボイド領域と総断面積の比率を計算し、各画像のボイド率を算出した。同様の作業を各サンプル片につき3箇所、合計9箇所のボイド率を算出し、その平均値を各評価水準のボイド率とした。平均ボイド率が1%未満を「Good」、1%以上2%未満を「Fair」、2%以上を「Bad」とした。
【0139】
(5)プリプレグ製造工程の工程安定性
各実施例または比較例における塗布部での強化繊維シートの走行安定性を評価するため、液溜り部の上端液面付近における強化繊維シートの様子、強化繊維シートの表裏の液面高低差、および液溜り部内を循環する毛羽の様子を観察した。液溜り部の上端液面付近において、強化繊維シートの表裏に液面高低差が生じ、マトリックス樹脂の流れ込みによって強化繊維シートの全幅にわたって繊維束の割れが見られるものを走行安定性「Fair」、繊維束の割れは見られないが液溜り中を毛羽が循環しているものを「Good」、繊維束の割れや液溜り中の毛羽が見られないが強化繊維シートの表裏に5mm以上の液面高低差が生じているものを「Very Good」、繊維束の割れや液溜り中の毛羽が見られず液面高低差が5mm未満のものを「Excellent」とした。
【0140】
また得られたプリプレグの端部に繊維束の折れや割れ(プリプレグ中に強化繊維が存在せずマトリックス樹脂のみが存在する領域)が見られるものを端部の品質「Fair」、繊維束の折れや割れは見られないが得られたプリプレグの端部に強化繊維の厚みムラがあるものを「Good」、繊維束の折れや割れが見られず強化繊維の厚みが均一であるものを「Excellent」とした。
【0141】
[実施例1]
マトリックス樹脂として熱硬化性エポキシ樹脂組成物1(マトリックス樹脂A)を用い、幅規制機構として下端間の距離L2を各々300mmとして300mm幅の多層構造プリプレグを作製した。ただし、ここでは追含浸装置の熱板、加熱ニップロールは使用せず、追含浸は行わなかった。なお、液溜り部の塗液温度は90℃(15Pa・s相当)とした。また、強化繊維シート、多層構造プリプレグの走行速度は10m/分とした。
【0142】
得られた多層構造プリプレグの横断面をSEMで観察したところ、含浸層/未含浸層/含浸層/未含浸層/含浸層という層構造となっており、未含浸部率の最大値は54%であった。また、未含浸層に含まれるボイドおよびドライ強化繊維集合部の断面積は最大でも320μm2であった。これにより、表1に示したように得られた多層構造プリプレグは優れた取り扱い性を示した。
【0143】
また、用いた強化繊維シートが同じ規格で配列させたUD基材であったことから、得られた多層構造プリプレグ中の強化繊維の平面方向の配列は、プリプレグの厚み方向全域にわたって実質的に同一であった。
【0144】
また、この多層構造プリプレグは未含浸層を有しているため、真空圧成形性でのボイドが十分少ないものであった。また、本真空圧成形により得られたCFRPは引っ張り強度が3.0GPaであり、航空・宇宙用の構造材料として好適な機械特性を有していた。なお、CFRP引っ張り強度は、WO2011/118106パンフレットと同様に測定を行い、プリプレグ中の強化繊維の体積%を56.5%に規格化した値を用いた。
【0145】
【0146】
[実施例2]
マトリックス樹脂として、熱硬化性エポキシ樹脂2(マトリックス樹脂B)を用い、液溜り部の塗液温度を105℃とした他は実施例1と同様の方法で多層構造プリプレグの作製を行った。本実験後に塗布部の幅規制装置間に残存した樹脂をサンプリングし、溶剤で樹脂と溶かし、これをろ過してポリマー粒子をろ別し、質量を測定した。これによると、ポリマー粒子の塗布部通過率は99%以上と計算されたことから、ポリマー粒子は大部分が塗布部を通過し、プリプレグに塗布されていると判断した。
【0147】
得られた多層構造プリプレグの横断面をSEMで観察したところ、含浸層/未含浸層/含浸層/未含浸層/含浸層という層構造となっており、未含浸部率の最大値は56%であった。また、未含浸層に含まれるボイドおよびドライ強化繊維集合部の断面積は最大でも350μm2であった。これにより、表1に示したように得られた多層構造プリプレグは優れた取り扱い性を示した。
【0148】
また、用いた強化繊維シートが同じ規格で配列させたUD基材であったことから、得られた多層構造プリプレグ中の強化繊維の平面方向の配列は、プリプレグ中の厚み方向全域にわたって実質的に同一であった。
【0149】
[実施例3]
熱板と加熱ニップロールを備えた追含浸装置を稼働させて用いた以外は、実施例2に記載の方法で多層構造プリプレグにマトリックス樹脂の含浸を行い、引き続いてそれを追含浸機装置に導き、特開2011-132389号公報を参考にインラインで追含浸を行った。得られたプリプレグの吸水率は4%であった。得られた多層構造プリプレグの横断面をSEMで観察したところ、含浸層/未含浸層/含浸層/未含浸層/含浸層という層構造となっており、未含浸部率の最大値は20%であった。また、未含浸層に含まれるボイドおよびドライ強化繊維集合部の断面積は最大でも100μm2であった。これにより、表1に示したように得られた多層構造プリプレグは優れた取り扱い性を示した。また、この多層構造プリプレグの真空圧成形性でのボイドも少ないものであった。
【0150】
[比較例1、2]
特許文献2の記載を参考に、マトリックス樹脂Aを離型紙上に塗布しマトリックス樹脂フィルムを作製し、これを実施例1で用いた強化繊維シートを2枚重ねたものに相当する30cm幅のUD基材の両側から挟みこみ、含浸機を用いて含浸し含浸度を変更したプリプレグを作製した。
【0151】
比較例1では、マトリックス樹脂を完全に含浸させたため、未含浸層を形成していなかった。
【0152】
比較例2では含浸層/未含浸層/含浸層の3層構造のプリプレグを得たが、中央部の含浸層が厚いため、未含浸層での剥離やズレにより取り扱い性が悪いものであった。また、含浸度を種々変更したが、真空圧成形性と取り扱い性を両立することはできなかった。
【0153】
[比較例3]
特開2012-167230号公報を参考に、実施例1で用いた強化繊維シート上にやはり実施例1で用いたマトリックス樹脂Aをダイコーターを使用して塗布し、その後、やはり実施例1で用いた強化繊維シートを積層し、これを上下面から離型紙で挟んだ。そして、これを含浸機を用いて含浸を行い、含浸度を調整し未含浸部を残すことで、未含浸層/含浸層/未含浸層の3層構造プリプレグを作製した。しかし、プリプレグ表面が未含浸層であるため、離型紙からはがれ易いという問題が有った。また、プリプレグ積層時にプリプレグの未含浸層同士を積層することになるため、プリプレグ同士の密着性が悪く、プリプレグ同士の剥離やズレが生じ、取り扱い性が悪いものであった。
【0154】
[実施例4、5および比較例4]
実施例1、3および比較例1で得られたプリプレグ/離型紙からなるシート状一体物をスリットし、幅7mmのプリプレグテープを得た。実施例4(実施例1の多層構造プリプレグ)、5(実施例3の多層構造プリプレグ)のプリプレグテープは比較例4(比較例1のプリプレグ)に比べ、スリッターでの毛羽発生は少ないものであった。
【0155】
[実施例6]
図18に示す押さえガイド14および塗布部20fを用いて、2枚の強化繊維シートをその厚み方向に間隔をあけて液溜り部22に投入し、マトリックス樹脂を塗布、含浸させた後、塗布部の内部で合一して1枚のプリプレグを作製した。強化繊維シートは押さえガイド14を用いて、液溜り部22への入射角度および位置が左右対称となるよう調整した。このとき、液溜り部22の上端液面において、壁面部材21と強化繊維シート2間の間隔を20mm、強化繊維シート21どうし間の間隔を100mmとした(Lb/Ln=5)。
【0156】
塗布部の様子を観察したところ、壁面部材と強化繊維シートに挟まれた領域の液面が急激に低下して強化繊維シートの表裏に20mm以上の液面高低差が生じており、マトリックス樹脂の流れ込みによって強化繊維シートには全幅にわたって繊維束の割れが見られた(走行安定性「Fair」)。また得られたプリプレグのマトリックス樹脂の含浸度は85%であった。
【0157】
[比較例5]
本発明とは異なる形態の
図19に示す押さえガイド14および塗布部40を用いて、プリプレグを作製した。実施例6と異なる点として、押さえガイド14の位置および強化繊維シート2の走行経路を調整し、塗布部40に投入する前に強化繊維シートを合一して液溜り部22に投入した。得られたプリプレグのマトリックス樹脂の含浸度は60%であった。
【0158】
[実施例7]
本発明に係る
図18に示す押さえガイド14および塗布部20fを用いて、プリプレグを作製した。実施例6から押さえガイド14の位置を調整し、壁面部材21と強化繊維シート2間の間隔を28mm、強化繊維シート21どうし間の間隔を84mmとした(Lb/Ln=3)。塗布部の様子を観察したところ、壁面部材と強化繊維シートに挟まれた領域の液面が低下して強化繊維シートの表裏に10mm程度の液面高低差が生じていたが、強化繊維シートに繊維束の割れは見られなかった。さらに液溜り部22を観察すると、上端液面付近に毛羽が見られた(走行安定性「Good」)。また得られたプリプレグのマトリックス樹脂の含浸度は85%であった。
【0159】
[実施例8]
本発明に係る
図18に示す押さえガイド14および塗布部20fを用いて、プリプレグを作製した。実施例7からさらに押さえガイド14の位置を調整し、壁面部材21と強化繊維シート2間の間隔を35mm、強化繊維シート21どうし間の間隔を70mmとした(Lb/Ln=2)。塗布部の様子を観察したところ、壁面部材と強化繊維シートに挟まれた領域の液面が低下して強化繊維シートの表裏に5mm程度の液面高低差が生じていたが、強化繊維シートに繊維束の割れは見られなかった。また液溜り部22にも毛羽は見られなかった(走行安定性「Very Good」)。また得られたプリプレグのマトリックス樹脂の含浸度は85%であった。
【0160】
【0161】
表3は実施例9~12においてCFRP用プリプレグの作製を行い、強化繊維シートの走行安定性と得られたプリプレグ端部の品質を評価した実験結果をまとめた表である。実施例9~12に共通の実施条件として、2枚の強化繊維シートをその厚み方向に間隔をあけて液溜り部22に導入しており、壁面部材21と強化繊維シート2の間隔を35mm、強化繊維シート21どうし間の間隔を70mmとした(Lb/Ln=2)。また実施例9~12では、
図9に示すような幅規制機構27(板状ブッシュ)を用い、幅規制機構27の下端において幅規制機構により規制される幅L2=300mmとした。幅規制機構27は
図9(d)に示すようなV字形状をしており、
図18における各部の寸法Lx、Ly、Eは実施例ごとに異なっている。また、狭窄部出口からマトリックス樹脂が漏れないように、狭窄部出口下面において板状ブッシュより外側は塞いで使用した。
【0162】
[実施例9]
図18の塗布部20fおよび
図9の幅規制機構27を用いて、プリプレグを作製した。
図17を参照して説明すると、壁面部材または側板部材と幅規制機構27の間隔Lx=Ly=5mm、幅規制機構の強化繊維シートの厚み方向の寸法E=5mmとした。塗布部の様子を観察したところ、壁面部材と強化繊維シートに挟まれた領域の液面が低下して強化繊維シートの表裏に5mm程度の液面高低差が生じていたが、強化繊維シートに繊維束の割れは見られなかった。また液溜り部22にも毛羽は見られなかった(走行安定性「Very Good」)。また得られたプリプレグを採取して観察したところ、プリプレグの幅方向端部に繊維束の折れと割れが連続的に見られた(端部の品質「Fair」)。
【0163】
[実施例10]
図18の塗布部20fおよび
図9の幅規制機構27を用いて、プリプレグを作製した。実施例9から幅規制機構27の形状を変更し、
図17を参照して説明すると、壁面部材または側板部材と幅規制機構27の間隔Lx=Ly=10mm、幅規制機構の強化繊維シートの厚み方向の寸法E=5mmとした。塗布部の様子を観察したところ、強化繊維シートの表裏の液面高低差は5mm未満であり、強化繊維シートに繊維束の割れは見られなかった。また液溜り部22にも毛羽は見られなかった(走行安定性「Excellent」)。また得られたプリプレグを採取して観察したところ、プリプレグの幅方向端部に繊維束の折れと割れが連続的に見られた(端部の品質「Fair」)。
【0164】
[実施例11]
図18の塗布部20fおよび
図9の幅規制機構27を用いて、プリプレグを作製した。実施例5からさらに幅規制機構27の形状を変更し、
図17を参照して説明すると、壁面部材または側板部材と幅規制機構27の間隔Lx=Ly=10mm、幅規制機構の強化繊維シートの厚み方向の寸法E=10mmとした。塗布部の様子を観察したところ、強化繊維シートの表裏の液面高低差は5mm未満であり、強化繊維シートに繊維束の割れは見られなかった。また液溜り部22にも毛羽は見られなかった(走行安定性「Excellent」)。また得られたプリプレグを採取して観察したところ、プリプレグの幅方向端部に繊維束の折れや割れは見られないものの、強化繊維の厚みムラが見られた(端部の品質「Good」)。
【0165】
[実施例12]
図18の塗布部20fおよび
図9の幅規制機構27を用いて、プリプレグを作製した。実施例11からさらに幅規制機構27の形状を変更し、
図17を参照して説明すると、壁面部材または側板部材と幅規制機構27の間隔Lx=Ly=10mm、幅規制機構の強化繊維シートの厚み方向の寸法E=20mmとした。塗布部の様子を観察したところ、強化繊維シートの表裏の液面高低差は5mm未満であり、強化繊維シートに繊維束の割れは見られなかった。また液溜り部22にも毛羽は見られなかった(走行安定性「Excellent」)。また得られたプリプレグを採取して観察したところ、プリプレグの幅方向端部に繊維束の折れや割れは見られず、強化繊維の厚みも均一であった(端部の品質「Good」)。
【0166】
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の多層構造プリプレグは、CFRPに代表されるFRPの真空圧成形性とプリプレグとしての取り扱い性を両立し、航空・宇宙用途や自動車・列車・船舶などの構造材や内装材、圧力容器、産業資材用途、スポーツ材料用途、医療機器用途、筐体用途、土木・建築用途など広く適用することができる。
【符号の説明】
【0168】
1 強化繊維
2 強化繊維シート
3 多層構造プリプレグ/プリプレグ
4 マトリックス樹脂
5a、5b 離型シート
11 クリール
12 配列装置
13 搬送ロール
14 押さえガイド
15 引き取りロール
16a、16b 離型シート供給装置
17 巻取り装置
18 液中ガイド
20 塗布部
20a 別の実施形態の塗布部
20b 別の実施形態の塗布部
20c 別の実施形態の塗布部
20d 別の実施形態の塗布部
20e 別の実施形態の塗布部
20f 別の実施形態の塗布部
21a、21b 壁面部材
21c、21d 別の形状の壁面部材
21e、21f 別の形状の壁面部材
21g、21h 別の形状の壁面部材
21i、21j 別の形状の壁面部材
22 液溜り部
22a 液溜り部のうち断面積が連続的に減少する領域
22b 液溜り部のうち断面積が減少しない領域
22c 液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
23 狭窄部
24a、24b 側板部材
25 出口
26 隙間
27、27a、27b 幅規制機構
30 本発明とは異なる実施形態の塗布部
31a、31b 塗布部30の壁面部材
32 塗布部30の液溜り部
33 塗布部30の液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
35a、35b、35c バー
100 塗工装置
B 液溜り部22の奥行き
C 液溜り部22の上部液面までの高さ
D 狭窄部の隙間
E 幅規制機構27の強化繊維シートの厚み方向の寸法
F 水平方向の流れ
G 幅規制を行う位置
H 液溜り部22の断面積が連続的に減少する鉛直方向高さ
J 幅規制機構27がテーパー形状に沿う位置の上端線
L 液溜り部22の幅
L2 幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅
Ln 上端液面において最も狭い間隔
Lb 上端液面において最も広い間隔
Lx 壁面部材の幅規制機構の間隔
Ly 側板部材と幅規制機構の間隔
R、Ra、Rb 渦流れ
T 循環流
T’ 循環流
W 狭窄部23の直下で測定したプリプレグ1bの幅
Y 狭窄部23の幅
Z シート状強化繊維束1aの走行方向(鉛直方向下向き)
α Z方向(鉛直線)と強化繊維シートの走行方向の成す角度
θ テーパー部の開き角度
411 クリール
412 強化繊維ボビン
413 方向転換ガイド
414 強化繊維
415 強化繊維配列装置
416 強化繊維シート
417 拡幅装置
418 平滑化装置
419 方向転換ロール
420 予熱装置
421 押さえガイド
430 塗布部
441 方向転換ロール
442 離型シート(上)供給装置
443 離型シート(下)供給装置
445 方向転換ロール
446 離型シート
447 積層ロール
449 高張力引取りS字ロール
450 追含浸装置
451 熱板
452 加熱ニップロール
453 簡易追含浸装置
461 冷却装置
462 引き取り装置
463 離型シート(上)巻取装置
464 ワインダー
471 プリプレグ
472 プリプレグ/離型シート