(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】電流センサ、磁気センサ及び回路
(51)【国際特許分類】
G01R 15/20 20060101AFI20220913BHJP
G01R 33/09 20060101ALI20220913BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20220913BHJP
G01R 15/18 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G01R15/20 B
G01R33/09
H01L43/08 A
H01L43/08 Z
G01R15/18 C
(21)【出願番号】P 2020015443
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】工藤 良弘
(72)【発明者】
【氏名】宮内 大助
(72)【発明者】
【氏名】阿部 聡
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/143666(WO,A1)
【文献】特開2012-247191(JP,A)
【文献】特開2011-137811(JP,A)
【文献】国際公開第2012/005042(WO,A1)
【文献】特開2020-008568(JP,A)
【文献】特開2019-078551(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0080165(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 15/00-17/22、
33/00-33/26、
H01L 27/22、
29/82、
43/00-43/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の近傍に設置され、前記導体に流れる電流で誘起される被測定磁界が印加され、前記被測定磁界の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気検出装置と、
前記磁気検出装置の近傍に設けられ、前記被測定磁界を打ち消すキャンセル磁界を発生する2つのコイルと、
2つの前記コイルの間に直列に接続される、前記コイルに流れる電流を検出するためのシャント抵抗器と、
前記磁気検出装置の出力信号を増幅し、前記キャンセル磁界を誘起させる電流を前記コイルに供給する第1の差動増幅器と、
前記シャント抵抗器の両端電圧を増幅し、前記導体に流れる電流と比例する測定電圧を出力する第2の差動増幅器と、
を有
し、
前記磁気検出装置、2つの前記コイル及び前記シャント抵抗器が同一の基板上に形成され、
前記コイルは、前記磁気検出装置を間に挟んで互いに対向して配置される、並列に接続された複数の信号線から成る下部コイル及び並列に接続された複数の信号線から成る上部コイルの少なくとも一方を有する電流センサ。
【請求項2】
2つの前記コイルがそれぞれトロイダル状に形成された請求項
1記載の電流センサ。
【請求項3】
前記磁気検出装置が磁気抵抗効果素子を備え、前記磁気抵抗効果素子がトンネル磁気抵抗効果素子である請求項1
または2記載の電流センサ。
【請求項4】
被測定磁界の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気検出装置と、
前記磁気検出装置の近傍に設けられ、前記被測定磁界を打ち消すキャンセル磁界を発生する2つのコイルと、
2つの前記コイルの間に直列に接続される、前記コイルに流れる電流を検出するためのシャント抵抗器と、
前記磁気検出装置の出力信号を増幅し、前記キャンセル磁界を誘起させる電流を前記コイルに供給する第1の差動増幅器と、
前記シャント抵抗器の両端電圧を増幅し、前記電流と比例する測定電圧を出力する第2の差動増幅器と、
を有
し、
前記磁気検出装置、2つの前記コイル及び前記シャント抵抗器が同一の基板上に形成され、
前記コイルは、前記磁気検出装置を間に挟んで互いに対向して配置される、並列に接続された複数の信号線から成る下部コイル及び並列に接続された複数の信号線から成る上部コイルの少なくとも一方を有する磁気センサ。
【請求項5】
2つの前記コイルがそれぞれトロイダル状に形成された請求項
4記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記磁気検出装置が磁気抵抗効果素子を備え、前記磁気抵抗効果素子がトンネル磁気抵抗効果素子である請求項
4または5記載の磁気センサ。
【請求項7】
被測定磁界の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気検出装置と、
前記磁気検出装置の近傍に設けられ、前記被測定磁界を打ち消すキャンセル磁界を発生する2つのコイルと、
2つの前記コイルの間に直列に接続される、前記コイルに流れる電流を検出するためのシャント抵抗器と、
前記磁気検出装置の出力信号を増幅し、前記キャンセル磁界を誘起させる電流を前記コイルに供給する第1の差動増幅器と、
前記シャント抵抗器の両端電圧を増幅し、前記電流と比例する測定電圧を出力する第2の差動増幅器と、
を有
し、
前記磁気検出装置、2つの前記コイル及び前記シャント抵抗器が同一の基板上に形成され、
前記コイルは、前記磁気検出装置を間に挟んで互いに対向して配置される、並列に接続された複数の信号線から成る下部コイル及び並列に接続された複数の信号線から成る上部コイルの少なくとも一方を有する回路。
【請求項8】
2つの前記コイルがそれぞれトロイダル状に形成された請求項
7記載の回路。
【請求項9】
前記磁気検出装置が磁気抵抗効果素子を備え、前記磁気抵抗効果素子がトンネル磁気抵抗効果素子である請求項
7または8記載の回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気検出装置を備えた電流センサ、磁気センサ及び回路に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータやバッテリーマネージメントシステムにおいて、導体に流れる電流を非接触で検出する電流センサとして、磁気検出装置と、該磁気検出装置の近傍に配置されるフィードバックコイルとを備えた磁気平衡式電流センサが知られている。磁気検出装置には、例えば周知の磁気抵抗効果素子が用いられる。
【0003】
磁気平衡式電流センサは、導体に電流が流れることで誘起される被側定磁界をフィードバックコイルで発生する磁界(キャンセル磁界)で打ち消し、磁気検出装置に印加される磁界が0(零)となるように、フィードバックコイルへ供給する電流を制御する構成である。このような構成では、フィードバックコイルに流れる電流をシャント抵抗器等で電圧に変換することで、導体に流れる電流の測定値として、該電流と比例する測定電圧を得ることができる。磁気検出装置を備えた磁気平衡式電流センサについては、例えば特許文献1や特許文献2にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/094336号
【文献】国際公開第2013/129276号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した磁気平衡式電流センサは、磁気検出装置に印加される磁界が常に0(零)となるように閉ループ制御する構成であるため、周囲温度変化に対する出力変化が少なく、導体に流れる電流に対する測定電圧の線形性も良好であり、比較的高い精度で該電流を測定できる。
【0006】
しかしながら、近年は、電流センサの利用分野の拡大に伴って、比較的大きい電流や小さい電流も測定対象となることがあるため、ノイズ耐性がより高い磁気平衡式電流センサが望まれている。なお、磁気平衡式電流センサは、電流で誘起される磁界だけでなく、磁石で発生する磁界や地磁気等、様々な磁界の強さを測定する磁気センサとしても用いることができる。このような磁気平衡方式の磁気センサ及び該センサを構成する回路についても、利用分野の拡大に伴って、ノイズ耐性がより高いものが望まれている。
【0007】
本発明は上述したような背景技術が有する課題を解決するためになされたものであり、背景技術よりもノイズ耐性が高い電流センサ、磁気センサ及び回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の電流センサは、導体の近傍に設置され、前記導体に流れる電流で誘起される被測定磁界が印加され、前記被測定磁界の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気検出装置と、
前記磁気検出装置の近傍に設けられ、前記被測定磁界を打ち消すキャンセル磁界を発生する2つのコイルと、
2つの前記コイルの間に直列に接続される、前記コイルに流れる電流を検出するためのシャント抵抗器と、
前記磁気検出装置の出力信号を増幅し、前記キャンセル磁界を誘起させる電流を前記コイルに供給する第1の差動増幅器と、
前記シャント抵抗器の両端電圧を増幅し、前記導体に流れる電流と比例する測定電圧を出力する第2の差動増幅器と、
を有し、
前記磁気検出装置、2つの前記コイル及び前記シャント抵抗器が同一の基板上に形成され、
前記コイルは、前記磁気検出装置を間に挟んで互いに対向して配置される、並列に接続された複数の信号線から成る下部コイル及び並列に接続された複数の信号線から成る上部コイルの少なくとも一方を有する。
【0009】
本発明の磁気センサは、被測定磁界の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気検出装置と、
前記磁気検出装置の近傍に設けられ、前記被測定磁界を打ち消すキャンセル磁界を発生する2つのコイルと、
2つの前記コイルの間に直列に接続される、前記コイルに流れる電流を検出するためのシャント抵抗器と、
前記磁気検出装置の出力信号を増幅し、前記キャンセル磁界を誘起させる電流を前記コイルに供給する第1の差動増幅器と、
前記シャント抵抗器の両端電圧を増幅し、前記電流と比例する測定電圧を出力する第2の差動増幅器と、
を有し、
前記磁気検出装置、2つの前記コイル及び前記シャント抵抗器が同一の基板上に形成され、
前記コイルは、前記磁気検出装置を間に挟んで互いに対向して配置される、並列に接続された複数の信号線から成る下部コイル及び並列に接続された複数の信号線から成る上部コイルの少なくとも一方を有する。
【0010】
本発明の回路は、被測定磁界の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気検出装置と、
前記磁気検出装置の近傍に設けられ、前記被測定磁界を打ち消すキャンセル磁界を発生する2つのコイルと、
2つの前記コイルの間に直列に接続される、前記コイルに流れる電流を検出するためのシャント抵抗器と、
前記磁気検出装置の出力信号を増幅し、前記キャンセル磁界を誘起させる電流を前記コイルに供給する第1の差動増幅器と、
前記シャント抵抗器の両端電圧を増幅し、前記電流と比例する測定電圧を出力する第2の差動増幅器と、
を有し、
前記磁気検出装置、2つの前記コイル及び前記シャント抵抗器が同一の基板上に形成され、
前記コイルは、前記磁気検出装置を間に挟んで互いに対向して配置される、並列に接続された複数の信号線から成る下部コイル及び並列に接続された複数の信号線から成る上部コイルの少なくとも一方を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、背景技術よりもノイズ耐性が高い電流センサ、磁気センサ及び回路が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】磁気検出装置の一構成例を示す回路図である。
【
図2】本発明の電流センサの電流検出原理を示す模式図である。
【
図3A】コイルドライバ回路の一例を示す回路図である。
【
図3B】
図3Aで示したコイルドライバ回路の動作例を示す模式図である。
【
図3C】
図3Aで示したコイルドライバ回路の動作例を示す模式図である。
【
図4】本発明の電流センサの一構成例を示すブロック図である。
【
図5】本発明の電流センサの一構成例を示すブロック図である。
【
図6A】電流センサの比較例の構成を示す回路図である。
【
図6B】電流センサの比較例の構成を示す回路図である。
【
図7】
図2で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルの構成の一例を示す模式図である。
【
図8】
図7で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルの接続例を示す回路図である。
【
図9】
図7で示したシャント抵抗器及び下部コイルの配置例を示す模式図である。
【
図10】
図7で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルの構造の一例を示す断面図である。
【
図11】
図7で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルの構造の一例を示す断面図である。
【
図12】
図7で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルの構造の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明について図面を用いて説明する。
【0014】
まず、本発明の電流センサ(磁気センサ)が備える磁気検出装置について説明する。
【0015】
磁気検出装置は、磁気抵抗効果によって生じる電気抵抗の変化に基づいて外部磁界を検出する磁気抵抗効果素子を備える。磁気抵抗効果素子としては、AMR(異方性磁気抵抗効果:Anisotropic Magneto-Resistance effect)素子、GMR(巨大磁気抵抗効果:Giant Magneto-Resistance effect)素子、TMR(トンネル磁気抵抗効果:Tunnel Magneto-Resistance effect)素子が知られている。本発明では、MR(Magneto-Resistive)比が大きく温度ドリフト(周囲温度変化に対する出力変化)が少ない等の優れた特性を有するため、TMR素子を用いることが好ましい。磁気抵抗効果素子(TMR素子)は、磁化方向が固定の固定層と、絶縁体から成る絶縁層と、外部磁界の向きに応じて磁化方向が変化する自由層とを有し、固定層、絶縁層及び自由層がこの順で積層された構造である。磁気抵抗効果素子は、自由層の磁化の向きに応じて電気抵抗が変化し、自由層と固定層の磁化方向が一致したときに電気抵抗が最も小さくなる。
【0016】
図1は、磁気検出装置の一構成例を示す回路図である。
【0017】
図1で示すように、磁気検出装置10は、4つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子11、第2の磁気抵抗効果素子12、第3の磁気抵抗効果素子13、第4の磁気抵抗効果素子14)を備え、これらを相互に接続してブリッジ回路(ホイートストンブリッジ回路)を形成した構成である。4つの磁気抵抗効果素子11~14は、直列に接続された2つの組11,12、並びに13、14に分割され、それぞれの組の磁気抵抗効果素子11、12、並びに磁気抵抗効果素子13、14が直列に接続されている。磁気抵抗効果素子の組11、12、並びに13、14は、それぞれの一端が接続されて不図示の電圧源から一定の電源電圧(Vdd)が供給され、他端がそれぞれ接地(GND)されている。ホイートストンブリッジ回路は、各組の2つの磁気抵抗効果素子の接続点からそれぞれ中点電圧(V1、V2)を取り出すことが可能である。なお、
図1で示す矢印は、各磁気抵抗効果素子の固定層の磁化方向の一例を示している。
図1で示すX方向は磁気センサの感磁方向であり、固定層の磁化方向と一致する。Y方向は磁気センサの感磁方向(X方向)と直交する方向である。以下では、
図1におけるX方向を示す矢印を+X方向と称し、該矢印と反対の向きを-X方向と称す。
【0018】
図1で示した磁気検出装置10では、+X方向に外部磁界が印加されると、第1及び第4の磁気抵抗効果素子11、14の電気抵抗が減少し、第2及び第3の磁気抵抗効果素子12、13の電気抵抗が増大する。これにより中点電圧V1が上昇し、中点電圧V2が下降する。一方、-X方向に外部磁界が印加されると、第1及び第4の磁気抵抗効果素子11、14の電気抵抗が増大し、第2及び第3の磁気抵抗効果素子12、13の電気抵抗が減少する。これにより中点電圧V1が下降し、中点電圧V2が上昇する。したがって、中点電圧V1、V2の差V1-V2を検出することで、中点電圧V1またはV2のいずれか一方を検出する場合と比べて2倍の感度が得られる。また、中点電圧V1、V2がオフセットしている場合もV1-V2を検出することで、該オフセットの影響を排除できる。
【0019】
図2は、本発明の電流センサの電流検出原理を示す模式図である。
【0020】
図2で示すように、本発明の電流センサは、
図1で示した磁気検出装置10と、磁気検出装置10の近傍に設けられた2つのフィードバックコイル21,22と、2つのフィードバックコイル21,22に流れる電流Ifbを検出するためのシャント抵抗器30と、磁気検出装置10の出力信号を増幅し、キャンセル磁界を誘起させるための電流をフィードバックコイル21,22へ供給する第1の差動増幅器40とを有する。
【0021】
磁気検出装置10は電流Ipが流れる導体1の近傍に配置され、電流Ipが流れることで誘起される被測定磁界が、
図1で示した磁気抵抗効果素子11~14にそれぞれ印加される。
【0022】
2つのフィードバックコイル21,22はシャント抵抗器30を間に有して直列に接続され、一方のフィードバックコイル21は直列に接続された磁気抵抗効果素子11及び12の近傍に配置され、他方のフィードバックコイル22は直列に接続された磁気抵抗効果素子13及び14の近傍に配置される。磁気抵抗効果素子11及び12には、一方のフィードバックコイル21に電流が流れることで誘起される磁界(キャンセル磁界)がそれぞれ印加され、磁気抵抗効果素子13及び14には、他方のフィードバックコイル22に電流が流れることで誘起される磁界(キャンセル磁界)がそれぞれ印加される。
【0023】
第1の差動増幅器40は、磁気検出装置10の中点電圧(V1、V2)の差V1-V2を増幅し、増幅後の信号に応じた電流Ifbを、直列に接続されたフィードバックコイル21、シャント抵抗器30及びフィードバックコイル22の一端から供給する。直列に接続されたフィードバックコイル21、シャント抵抗器30及びフィードバックコイル22の他端は接地されている。
【0024】
このような構成では、導体1に電流Ipが流れることで誘起された被測定磁界をフィードバックコイル21,22で発生する磁界(キャンセル磁界)で打ち消し、磁気検出装置10に印加される磁界が0(零)となるように、第1の差動増幅器40によってフィードバックコイル21,22へ供給する電流Ifbが制御される。このとき、シャント抵抗器30の両端電圧を検出することで、フィードバックコイル21,22に流れる電流Ifbと比例する測定電圧を得ることができる。フィードバックコイル21,22に流れる電流Ifbは導体1に流れる電流Ipと比例するため、該測定電圧は導体1に流れる電流Ipとも比例している。
【0025】
図2は、電流Ipによって誘起される被測定磁界が磁気検出装置10に直接印加される構成例を示しているが、電流Ipの値が大きい場合、すなわち、被測定磁界が強い場合は、周知の磁気シールドを形成することで、磁気検出装置10に印加される被測定磁界を減衰させてもよい。また、
図2は、第1の差動増幅器40の出力から2つのフィードバックコイル21,22へ直接電流Ifbを供給する構成例を示しているが、第1の差動増幅器40の出力側には、フィードバックコイル21,22へ所要の電流を供給するためのコイルドライバ回路を備えていてもよい。
【0026】
図3Aは、コイルドライバ回路の一例を示す回路図である。
図3B及び
図3Cは、
図3Aで示したコイルドライバ回路の動作例を示す模式図である。
図3A~Cでは、簡略化のために、直列に接続された2つのフィードバックコイル21,22を1つのコイルで記載している。
【0027】
図3Aで示すように、コイルドライバ回路50は4つのスイッチ51~54を備え、それらを相互に接続してブリッジ回路(Hブリッジ回路)を形成した構成である。4つのスイッチ51~54は、直列に接続された2つの組51,52、並びに53,54に分割され、それぞれの組のスイッチ51,52、並びにスイッチ53,54が直列に接続されている。スイッチの組51,52、並びに53,54は、それぞれの一端が接続されて不図示の電圧源から一定の電源電圧(Vdd)が供給され、他端がそれぞれ接地(GND)される。
【0028】
フィードバックコイル21,22は、各組の2つのスイッチの接続点の間に接続され、
図3B及びCで示すように、オンさせるスイッチの組み合わせによって流れる電流Ifbの方向が切り換えられる。4つのスイッチ51~54のオン/オフは、差動増幅器40の出力電圧によって制御される。
【0029】
スイッチ51~54には、周知のバイポーラトランジスタまたは電解効果トランジスタ(FET: Field Effect Transistor)を用いればよい。
【0030】
図4及び
図5は、本発明の電流センサの一構成例を示すブロック図である。
【0031】
図4は、2つのフィードバックコイル21,22が、磁気検出装置10が形成されたMR基板20に形成され、第1の差動増幅器40、コイルドライバ回路50、コイルドライバ回路50の動作を制御するための制御回路60及びシャント抵抗器30に流れる電流Ifbに比例した測定電圧を出力する第2の差動増幅器70が回路基板80にそれぞれ形成された構成である。
図4に示す電流センサでは、シャント抵抗器30がMR基板20及び回路基板80に搭載されずに外付けされている。
【0032】
制御回路60は、例えば第1の差動増幅器40の出力電圧をデジタル信号に変換するA/D変換器及び各種の信号処理を実行するDSP(Digital Signal Processing)を備えたASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で実現できる。その場合、該ASICには、第1の差動増幅器40、コイルドライバ回路50及び第2の差動増幅器70の機能を備えていてもよい。
【0033】
図5は、2つのフィードバックコイル21,22及びシャント抵抗器30が、磁気検出装置10が形成されたMR基板20に形成され、第1の差動増幅器40、コイルドライバ回路50、制御回路60及び第2の差動増幅器70が回路基板80にそれぞれ形成された構成である。
【0034】
図4は、MR基板20、シャント抵抗器30及び回路基板80をそれぞれ個別に備え、
図5は、MR基板20及び回路基板80をそれぞれ個別に備える構成例を示しているが、
図4及び
図5で示すMR基板20及び回路基板80は1つのパッケージに収容してもよい。
【0035】
また、
図4及び
図5では、フィードバックコイル21,22とシャント抵抗器30との位置関係に対応してコイルドライバ回路50が2つに分割されて記載されているが、
図3A~Cで示したようにコイルドライバ回路50は1つの回路である。
【0036】
図6A及びBは、電流センサの比較例の構成を示す回路図である。
図6A及びBは、特許文献1に記載された電流センサであり、
図6Aは2つのフィードバックコイル(C
1,C
2)が直列に接続された回路例を示し、
図6Bは2つのフィードバックコイル(C
1,C
2)が並列に接続された回路例を示している。
図6A及びBでは特許文献1に記載された電流センサを示しているが、特許文献2に記載された電流センサも同様の構成である。なお、
図6A及びBにおいて、R1~R4は磁気検出装置10が備える磁気抵抗効果素子である。また、
図6A及びBにおいて、18は本発明の第1の差動増幅器40に相当し、19は本発明のコイルドライバ回路50及び制御回路60に相当し、21は本発明の第2の差動増幅器70に相当する。
【0037】
図6A及びBで示すように、背景技術の電流センサは、直列に接続された2つのフィードバックコイル(C
1,C
2)または並列に接続された2つのフィードバックコイルと接地電位との間にシャント抵抗器(R)が接続された構成である。このような構成では、測定電圧を出力する第2の差動増幅器21の2つの入力端子に接続される信号線の抵抗値が非対称となるため、第2の差動増幅器21における、2つの入力端子に入力される同相のノイズ成分(コモン・モード・ノイズ)を除去する能力が低下する。すなわち、シャント抵抗器(R)の両端電圧を増幅して測定電圧を出力する第2の差動増幅器21におけるCMMR(Common Mode Rejection Ratio:同相信号除去比)が低下する。
【0038】
一方、本発明では、
図4及び
図5で示すように、2つのフィードバックコイル21,22がシャント抵抗器30を間に有して直列に接続され、該シャント抵抗器30の両端が第2の差動増幅器70の2つの入力に接続される構成である。そのため、本発明では、第2の差動増幅器70の2つの入力端子に接続される信号線の抵抗値が対称となる。したがって、
図6A及びBで示した背景技術の電流センサよりも第2の差動増幅器70におけるCMMRが向上して、ノイズ耐性が高い電流センサを得ることができる。
【0039】
また、このとき
図5で示すように磁気検出装置10、フィードバックコイル21,22及びシャント抵抗器30をMR基板20にそれぞれ形成すれば、
図4で示すようなシャント抵抗器30を外付けで実装する構成と比べて電流センサの小型化が可能であり、部品数が低減することで電流センサのコストも低減する。
【0040】
また、
図4で示すようにシャント抵抗器30を外付けで実装する構成では、フィードバックコイル21,22とシャント抵抗器30との接続部で接触抵抗が増大するが、
図5で示したMR基板20にフィードバックコイル21,22及びシャント抵抗器30を形成する構成では接触抵抗の増大も抑制できる。そのため、
図5で示す電流センサでは、フィードバックコイル21、22に流れる電流Ifb、すなわち導体1に流れる電流Ipを、
図4で示した電流センサよりも精度よく検出できる。
【0041】
図7は
図2で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルの構成の一例を示す模式図であり、
図8は
図7で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルの接続例を示す回路図である。
図9は、
図7で示したシャント抵抗器及び下部コイルの配置例を示す模式図である。
図10及び
図11は
図7で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルの構造の一例を示す断面図であり、
図12は
図7で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルの構造の他の例を示す断面図である。
図10は、
図7で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルをA-A’線に沿って切断した様子を示している。
図11及び
図12は、
図7で示したシャント抵抗器及びフィードバックコイルをB-B’線に沿って切断した様子を示している。なお、
図7~
図12は、フィードバックコイル21,22及びシャント抵抗器30の配置関係の一例を模式的に示したものであり、形状や寸法を正確に示しているものではない。
【0042】
通常、基板上にコイルを形成する場合、基板の平面と平行に信号線をリング状(または螺旋状)に配置するパンケーキ状のコイル(特許文献1参照)と、基板の厚さ方向と平行にリング状(または螺旋状)に信号線を配置するトロイダル状のコイル(特許文献2参照)とが考えられる。このうち、パンケーキ状のコイルは基板平面における占有面積が大きくなるため、電流センサの大型化を招いてしまう。さらに、パンケーキ状のコイルは、トロイダル状のコイルと比べて抵抗値(直流抵抗値)が大きいため、電源から供給できる電流の最大値がトロイダル状のコイルよりも低下する。そのため、パンケーキ状のコイルで発生可能な磁界の強さ(最大値)は、トロイダル状のコイルよりも低下する。したがって、フィードバックコイル21,22をパンケーキ状に形成した構成では、
図2で示した電流センサにおける検出磁界範囲(ダイナミックレンジ)が狭くなる。そこで、本発明では電流センサが備えるフィードバックコイル21,22をトロイダル状に形成する。
【0043】
図7で示すように、フィードバックコイル21,22は、シャント抵抗器30が形成されたMR基板20(不図示)上に下部コイル201が配置され(
図9参照)、該下部コイル201上に上部コイル202が配置された構成である。下部コイル201と上部コイル202とは、互いの端部で接続されている。下部コイル201及び上部コイル202は、
図1で示した磁気検出装置10が備える4つの磁気抵抗効果素子11~14(
図7では不図示)に対応してそれぞれ4本ずつ備える。磁気抵抗効果素子11~14には、それぞれ1組の下部コイル201及び上部コイル202が対応して配置される。磁気抵抗効果素子11~14は、対応して配置された1組の下部コイル201と上部コイル202との間にそれぞれ設置される(
図11参照)。
【0044】
図4、
図5、
図7、
図8及び
図10で示すように、シャント抵抗器30は、該シャント抵抗器30と平行に配置された4つの電極パッドのうち、両端の電極パッドC1R及びC2Rと接続され、電極パッドC1及びC2はコイルドライバ回路50と接続される。
図7で示すように、電極パッドC1Rは第1の延長配線203を介して上部コイル202と接続され、電極パッドC2Rは第2の延長配線204を介して下部コイル201と接続されている。また、電極パッドC1は第3の延長配線205を介して下部コイル201と接続され、電極パッドC2は第4の延長配線206を介して上部コイル202と接続されている。
【0045】
図10で示すように、シャント抵抗器30の一端には第1の延長配線203が形成され、第1の延長配線203は第1の導電層207を通して電極パッドC1Rと接続される。また、シャント抵抗器30の他端には第2の延長配線204が形成され、第2の延長配線204は第1の導電層207を通して電極パッドC2Rと接続される。第3の延長配線205は第2の導電層208を通して電極パッドC1と接続され、第4の延長配線206は第2の導電層208を通して電極パッドC2と接続されている。
【0046】
図11で示すように、磁気検出装置10が備える磁気抵抗効果素子は、下部コイル201と上部コイル202との間に配置され、導体1で発生する上記被測定磁界が印加されると共に、下部コイル201及び上部コイル202に電流が流れることで誘起されるキャンセル磁界がそれぞれ印加される。
【0047】
なお、
図7及び
図9~
図11では、下部コイル201及び上部コイル202がそれぞれ1本の信号線で形成され、フィードバックコイル21,22の巻き数が1である例を示している。下部コイル201及び上部コイル202で形成するフィードバックコイル21,22の巻き数は複数であってもよく、下部コイル201及び上部コイル202は並列に接続された複数の信号線で形成されていてもよい。
【0048】
図12は、下部コイル201が並列に接続された2本の信号線で形成され、上部コイル202が並列に接続された3本の信号線で形成される構成例を示している。下部コイル201及び上部コイル202が並列に接続された複数の信号線で形成される構成では、フィードバックコイル21,22の抵抗値(直流抵抗値)を低減できるため、
図2で示した電流センサにおける検出磁界範囲(ダイナミックレンジ)を広くできる。
【0049】
上記説明では、磁気検出装置10、フィードバックコイル21及び22、シャント抵抗器30、第1の差動増幅器40、並びに第2の差動増幅器70を備える本発明の回路を、導体1に流れる電流Ipを検出する電流センサとして用いる例を示した。磁気検出装置10、フィードバックコイル21及び22、シャント抵抗器30、第1の差動増幅器40、並びに第2の差動増幅器70を備える本発明の回路は、上述したように、様々な磁界の強さを測定する磁気センサとしても用いることができる。
【0050】
以上説明したように、本発明では、2つのフィードバックコイル21,22がシャント抵抗器30を間に有して直列に接続され、該シャント抵抗器30の両端が第2の差動増幅器70の2つの入力に接続される構成であり、第2の差動増幅器70の2つの入力端子に接続される信号線の抵抗値が対称となる。したがって、本発明によれば、背景技術よりも第2の差動増幅器70におけるCMMRが向上して、ノイズ耐性が高い電流センサ、磁気センサ及び回路を得ることができる。
【0051】
特に本発明の電流センサは、周知の磁気シールドと併用することで、大きな電流を高速に測定する用途にも適している。さらに、本発明では、フィードバックコイル21,22、シャント抵抗器30、磁気検出装置10、並びに閉ループ制御に用いる回路(第1の差動増幅器40、コイルドライバ回路50、制御回路60及び第2の差動増幅器70等)を1つのパッケージに収容できるため、本発明のセンサや回路を備える機器の省スペース化に寄与する。
【符号の説明】
【0052】
1 導体
10 磁気検出装置
11~14 磁気抵抗効果素子
20 MR基板
21、22 フィードバックコイル
30 シャント抵抗器
40 差動増幅器
50 コイルドライバ回路
51~54 スイッチ
60 制御回路
70 増幅器
80 回路基板
201 下部コイル
202 上部コイル
203 第1の延長配線
204 第2の延長配線
205 第3の延長配線
206 第4の延長配線
207 第1の導電層
208 第2の導電層
C1、C1R、C2、C2R 電極パッド