(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】貴金属スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20220913BHJP
C22C 5/02 20060101ALI20220913BHJP
C22C 5/04 20060101ALI20220913BHJP
C22C 5/06 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C5/02
C22C5/04
C22C5/06 Z
(21)【出願番号】P 2020153472
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2020-09-16
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2020137355
(32)【優先日】2020-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】高田 英士
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝博
(72)【発明者】
【氏名】仲野 幸健
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】原 和秀
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-316808(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038642(WO,A1)
【文献】特開2006-225696(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187311(WO,A1)
【文献】特開2002-146521(JP,A)
【文献】特開平11-269639(JP,A)
【文献】特開2001-140063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/34 C23C14/14 C22F1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタされる面の表面粗さRaが
2μm以下であり、炭素含有量が
1wtppm以下であることを特徴とする金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
スパッタされる面の表面粗さRaが
2μm以下であり、炭素含有量が
2wtppm以下であることを特徴とする白金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
スパッタされる面の表面粗さRaが
2μm以下であり、炭素含有量が
3wtppm以下であることを特徴とするパラジウムスパッタリングターゲット。
【請求項4】
スパッタされる面の表面粗さRaが
2μm以下であり、炭素含有量が
2wtppm以下であることを特徴とする銀スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体分野における薄膜の形成に最適な貴金属スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングは、半導体分野における微細配線、MEMS、光デバイス、LED、有機EL、高周波デバイス、水晶などにおける薄膜を形成するのに用いられている。スパッタリングとは、真空中で不活性ガス(主にアルゴンガス)を導入し、ターゲット(プレート状の成膜材料であって、スパッタリングターゲットとも呼ばれる。)にマイナスの電圧を印加してグロー放電を発生させ、不活性ガス原子をイオン化し、高速でターゲット表面にガスイオンを衝突させて激しく叩き、ターゲットを構成する成膜材料の粒子(原子、分子)を激しく弾き出し、勢いよく、基材や基板の表面に付着、堆積させ薄膜を形成する技術である。
【0003】
スパッタリングでは、高融点金属や合金など真空蒸着が困難な材料でも成膜が可能であり、広範囲な成膜材料に対応することができるという特長を有する。通常、スパッタリングターゲットは、そのスパッタ特性を安定させるために、使用前に一定時間予備的なスパッタが実施される(プレ・スパッタと呼ばれる)。プレ・スパッタは特に成膜に寄与しないが、プレ・スパッタ時に異常放電が発生するとスパッタリングターゲットにダメージを与えることがあり、また、プレ・スパッタ時にパーティクルが多発すると、スパッタチャンバ内を不必要に汚染するという問題がある。
【0004】
貴金属スパッタリングターゲットの場合、プレ・スパッタ時の異常放電が比較的発生しやすく、また、パーティクルが発生し易いという傾向があった。プレ・スパッタ時間を長くするなどの対策も考えられるが、それによる生産性の低下は避けられず、逆に高価な貴金属スパッタリングターゲットは、プレ・スパッタ時間を極力短縮することが求められている。貴金属スパッタリングターゲットに関する先行技術として、例えば以下のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プレ・スパッタ時における異常放電の発生を抑制することができる貴金属スパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができる本発明の一態様は、スパッタされる面の表面粗さRaが10μm以下であり、炭素含有量が10wtppm以下であることを特徴とする貴金属スパッタリングターゲットである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プレ・スパッタ時における異常放電の発生を抑制することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】Auスパッタリングターゲット:表面粗さに対するプレ・スパッタ時の異常放電回数を示すグラフである。
【
図2】Auスパッタリングターゲット:炭素含有量に対するプレ・スパッタ時の異常放電回数を示すグラフである。
【
図3】Ptスパッタリングターゲット:表面粗さに対するプレ・スパッタ時の異常放電回数を示すグラフである。
【
図4】Ptスパッタリングターゲット:炭素含有量に対するプレ・スパッタ時の異常放電回数を示すグラフである。
【
図5】Pdスパッタリングターゲット:表面粗さに対するプレ・スパッタ時の異常放電回数を示すグラフである。
【
図6】Pdスパッタリングターゲット:炭素含有量に対するプレ・スパッタ時の異常放電回数を示すグラフである。
【
図7】Agスパッタリングターゲット:表面粗さに対するプレ・スパッタ時の異常放電回数を示すグラフである。
【
図8】Agスパッタリングターゲット:炭素含有量に対するプレ・スパッタ時の異常放電回数を示すグラフである。
【
図9】スパッタリングターゲットの表面粗さの測定箇所を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
スパッタリングは、スパッタリングターゲット表面にアルゴンイオンを衝突させて、スパッタリングターゲットを構成する成膜材料の粒子を激しく弾き出し、ターゲットに対向する基板の表面に粒子を堆積させて薄膜を形成する技術である。アルゴンイオンが衝突して粒子が弾き出され、基板に対向して成膜に寄与するスパッタリングターゲットの表面をスパッタされる面という。スパッタされる面の表面状態は、スパッタ特性(異常放電など)に影響を与えることが知られているが、その最適な表面状態は、スパッタリングターゲットの材質によって大きく異なる。
【0011】
したがって、特定の材質からなるスパッタリングターゲットの最適な表面状態を他の材質からなるスパッタリングターゲットの表面状態に適用しても、同様のスパッタ特性が得られるとは限らない。貴金属スパッタリングターゲットの場合、これまでスパッタ特性に最適な表面状態というものが知られていなかった。特に、貴金属スパッタリングターゲットは高価な材料であるため、プレ・スパッタ時間を短くすることは、コストの観点から極めて有効であり、貴金属スパッタリングターゲットに最適な表面状態を見出すことは重要である。
【0012】
本発明の実施形態は、貴金属スパッタリングターゲットであって、スパッタされる面の表面粗さRaが10μm以下であることを特徴とするものである。スパッタされる面の表面粗さRaを10μm以下とすることにより、プレ・スパッタ時における異常放電の発生を顕著に低減することが可能となる。より好ましい実施形態は、表面粗さRaが5μm以下である。さらに好ましい実施形態は、表面粗さRaが2μm以下である。
【0013】
また、本発明の実施形態は、不純物である炭素含有量が10wtppm以下であることを特徴とする。貴金属スパッタリングターゲットは、その製造工程における洗浄時や大気中から、炭素が付着し易く、プレ・スパッタ時において異常放電の原因となる。炭素含有量を10wtppm以下とすることにより、このような異常放電を抑制することが可能となる。好ましい実施形態は、炭素含有量が5wtppm以下であり、より好ましい実施形態は、炭素含有量が2wtppm以下である。
【0014】
本願明細書において、貴金属スパッタリングターゲットは、金、白金、パラジウム、銀のいずれかの単一の金属からなるスパッタリングターゲットを意味し、銀合金などの貴金属を一部に含むような合金スパッタリングターゲットを意味しない。単一の金属からなる場合、スパッタリングターゲットの材質が合金の場合と異なり、スパッタ特性に最適な表面状態が変化するため、合金の場合に最適な表面状態をそのまま適用することが難しい。なお、本願明細書において、単一の金属とは、不純物として他の金属成分を微量に含むものまで除くことを意味せず、具体的には金属不純物を合計で1000wtppm以下含有していてもよい。金属不純物は、グロー放電質量分析(GD-MS)を用いて分析することができる。また、各金属不純物の含有量が、分析下限値未満の場合には、分析下限値をその含有量として算出する。
【0015】
貴金属スパッタリングターゲットは、貴金属の種類によって、不純物の取り込み易さが異なるため、貴金属の種類に応じて、不純物の含有量を制限することは特に効果的である。金(Au)又は銀(Ag)からなるスパッタリングターゲットにおいては、炭素の各含有量が5wtppm以下とすることが好ましい。白金(Pt)又はパラジウム(Pd)からなるスパッタリングターゲットにおいては、炭素の各含有量が10wtppm以下とすることが好ましい。
【0016】
以下、本願明細書に記載されるスパッタリングターゲットの各種物性評価は、以下の方法を用いて行った。
(スパッタリングターゲットの表面粗さ)
表面粗さの測定に使用した装置及び測定箇所を以下に示す。
測定装置:接触式表面粗さ測定器(東京精密製)
型式:SURFCOM 130A
JIS規格:JIS B 0601-2001
表面粗さの測定に供するサンプルは、スパッタリングターゲットの表層部(スパッタされる面)について、
図7の●に示すように、中心部及び半径の約1/4の点(外周に近い側)の計2か所から抽出する。抽出した2か所のサンプルについて、表面粗さを測定し、その平均値を求めた。
【0017】
(スパッタリングターゲットの炭素含有量)
炭素含有量の測定に使用した装置及び測定箇所を以下に示す。
測定装置:堀場製作所、EMIA-920V
分析方法:非分散赤外線吸収法
炭素含有量の測定に供するサンプルは、スパッタリングターゲットの2箇所から端材を切り出す。切り出したサンプルについて、酸洗浄後、アセトン洗浄し、乾燥させた。洗浄後、2つのサンプルについて、炭素含有量を測定し、その平均値を求めた。なお、スパッタリングターゲットの極端な場所(例えば、外周端など)からの端材の切り出しは避けた。
【0018】
次に、本発明の実施例等について説明する。なお、以下の実施例は、あくまで代表的な例を示しているもので、本発明はこれらの実施例に制限される必要はなく、明細書に記載される技術思想の範囲で解釈されるべきものである。
【0019】
(Auスパッタリングターゲット)
純度4NのAu原料を高純度アルミナ坩堝を用いて真空溶解し、Auのインゴットを作製した。得られたAuのインゴットを鍛造、圧延、熱処理を施して、スパッタリングターゲット形状に加工した。その後、スパッタリングターゲットを旋盤加工及びCMP研磨を行うことにより、スパッタされる面の表面粗さを調整した。また、インゴットからスパッタリングターゲット形状に加工する際に潤滑油等を使用せず、炭素混入を防止したものを基準のサンプルとし、炭素含有量と異常放電の関係性を調査するため、溶解の際にカーボン粉末を一定量添加して、スパッタリングターゲット中の炭素含有量を調整した。
【0020】
表面粗さと炭素含有量を調整したAuスパッタリングターゲット(サンプル)を表1に示す。表面粗さと炭素含有量を調整した各サンプルについて、以下の条件で、プレ・スパッタを実施し、スパッタ装置に付属の異常放電モニターで異常放電回数を測定した結果、
図1に示す通り、表面粗さRaが10μmを超えてから、異常放電回数が急激に増加した。また、
図2に示す通り、炭素含有量が5wtppmを超えてから、異常放電回数が急激に増加した。
(プレ・スパッタの条件)
スパッタ装置:電源内蔵型マグネトロン方式
神港精機製(型式:SDH10311)
DC電源:京三製作所(型式:HPK06ZI)
パワー:0.5kw~1.5kW
圧力:0.2~0.4Pa
ウエハーサイズ:6インチ
ターゲットサイズ:8インチ
プレ・スパッタ時間:20分
【0021】
【0022】
(Ptスパッタリングターゲット)
純度4NのPt原料を高純度アルミナ坩堝を用いて真空溶解し、Ptのインゴットを作製した。得られたPtインゴットを鍛造、圧延、熱処理を施して、スパッタリングターゲット形状に加工した。その後、スパッタリングターゲットを旋盤加工及びCMP研磨を行うことにより、スパッタされる面の表面粗さを調整した。また、インゴットからターゲット形状に加工する際に潤滑油等を使用せず、炭素混入を防止したものを基準サンプルとし、炭素含有量と異常放電の関係性を調べるために溶解時にカーボン粉末を一定量添加して、スパッタリングターゲット中の炭素含有量を調整した。
【0023】
表面粗さと炭素含有量を調整したPtスパッタリングターゲット(サンプル)を表2に示す。表面粗さと炭素含有量を調整した各サンプルについて、上記のプレ・スパッタ条件でプレ・スパッタを実施し、スパッタ装置に付属の異常放電モニターで異常放電回数を測定した結果、
図3に示す通り、表面粗さRaが5μmを超えてから、異常放電回数が急激に増加した。また、
図4に示す通り、炭素含有量が10wtppmを超えてから、異常放電回数が急激に増加した。
【0024】
【0025】
(Pdスパッタリングターゲット)
純度3N5のPd原料をアルミナ坩堝を用いて真空溶解し、Pdのインゴットを作製した。得られたPdインゴットを鍛造、圧延、熱処理を施して、スパッタリングターゲット形状に加工した。その後、スパッタリングターゲットを旋盤加工及びCMP研磨を行うことにより、スパッタされる面の表面粗さを調整した。また、Pdインゴットからターゲット形状に加工する際に潤滑油等を使用せず、炭素混入を防止したものを基準サンプルとし、炭素含有量と異常放電の関係性を調べるために溶解時にカーボン粉末を一定量添加して、スパッタリングターゲット中の炭素含有量を調整した。
【0026】
表面粗さと炭素含有量を調整したPdスパッタリングターゲット(サンプル)を表3に示す。表面粗さと炭素含有量を調整した各サンプルについて、上記のプレ・スパッタ条件でプレ・スパッタを実施し、スパッタ装置に付属の異常放電モニターで異常放電回数を測定した結果、
図5に示す通り、表面粗さRaが5μmを超えてから、異常放電回数が急激に増加した。また、
図6に示す通り、炭素含有量が10wtppmを超えてから、異常放電回数が急激に増加した。
【0027】
【0028】
(Agスパッタリングターゲット)
純度4N5のAg原料を高純度カーボン坩堝を用いて真空溶解し、Agのインゴットを作製した。得られたAgインゴットを鍛造、圧延、熱処理を施して、スパッタリングターゲット形状に加工した。その後、スパッタリングターゲットを旋盤加工及びCMP研磨を行うことにより、スパッタされる面の表面粗さを調整した。また、Agインゴットからターゲット形状に加工する際に潤滑油等を使用せず、炭素混入を防止したものを基準サンプルとし、炭素含有量と異常放電の関係性を調べるために溶解時にカーボン粉末を一定量添加して、スパッタリングターゲット中の炭素含有量を調整した。
【0029】
表面粗さと炭素含有量を調整したAgスパッタリングターゲット(サンプル)を表4に示す。表面粗さと炭素含有量を調整した各サンプルについて、上記のプレ・スパッタ条件でプレ・スパッタを実施し、スパッタ装置に付属の異常放電モニターで異常放電回数を測定した結果、
図7に示す通り、表面粗さRaが5μmを超えてから、異常放電回数が急激に増加した。また、
図8に示す通り、炭素含有量が5wtppmを超えてから、異常放電回数が急激に増加した。
【0030】
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、プレ・スパッタ時における異常放電の発生を抑制することができるという優れた効果を有する。本発明の実施形態に係る貴金属スパッタリングターゲットは、高周波デバイス、水晶、MEMS、光デバイス、LED、有機EL、などにおける薄膜を形成するのに有用である。