(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】可動体移動装置
(51)【国際特許分類】
B66F 7/12 20060101AFI20220913BHJP
B66F 3/00 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B66F7/12
B66F3/00
(21)【出願番号】P 2020213752
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐倉 俊児
(72)【発明者】
【氏名】坂田 英維
(72)【発明者】
【氏名】中塚 典子
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-31873(JP,A)
【文献】特開2012-153498(JP,A)
【文献】国際公開第2011/062047(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 7/00- 7/28
B66F 1/00- 5/04
F16G 13/20
F16H 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能なスプロケットと、
前記スプロケットの回転に基づき進退移動する少なくとも一対のチェーン部材を有し、対をなす前記チェーン部材同士が進行方向への移動に伴い相互に噛み合って一体化する一方、その一体化した噛合状態から退行方向への移動に伴い相互に噛み外れて分岐する噛合チェーンと、
前記噛合チェーンにおける前記進行方向側の端部に接続されて前記噛合チェーンと共に進退移動方向に移動する可動体と、
を備え、
前記噛合チェーンにおいて対をなす前記チェーン部材のうち少なくとも一方の前記チェーン部材は、当該チェーン部材の長さ方向で前記退行方向側の端部から前記進行方向側に連なる部分が前記スプロケットに巻き付いた状態で当該スプロケットの回転に基づき進退移動することを特徴とする可動体移動装置。
【請求項2】
前記チェーン部材における前記退行方向への移動時に前記噛合状態から噛み外れて分岐した前記退行方向側の部分が前記スプロケットの歯先円に沿った円弧状の移動空間を移動するように、前記チェーン部材における前記退行方向側の部分に対して前記スプロケットの径方向の外方から接触する円弧状のガイド部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の可動体移動装置。
【請求項3】
前記ガイド部は、前記スプロケットの前記歯先円と同心の円形であって且つその内側に前記スプロケットが回転可能に配置される円孔の内周縁によって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の可動体移動装置。
【請求項4】
対をなす前記チェーン部材同士が前記進行方向への移動に伴い相互に噛み合って一体化することで噛合状態となる位置と前記円孔の前記内周縁の一部との間には、前記チェーン部材に対して側方から接触可能なガイド溝が前記円孔の接線方向に延びるように設けられている請求項3に記載の可動体移動装置。
【請求項5】
前記噛合チェーンで対をなす前記チェーン部材は、各々が個別に対応する前記スプロケットに対して各々の長さ方向で前記退行方向側の端部から前記進行方向側に連なる部分が巻き付いた状態で各々が対応する前記スプロケットの回転に基づき進退移動することを特徴とする請求項1~請求項4のうち何れか一項に記載の可動体移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進退移動可能な噛合チェーンを用いて可動体を移動させる可動体移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の可動体移動装置として、例えば特許文献1に記載の可動体移動装置が知られている。この可動体移動装置は、スプロケットに巻き掛けられた状態で重力方向に沿って進退移動する一対のチェーン部材で各々構成された二組の噛合チェーンを横並びで有している。各組の噛合チェーンで対をなすチェーン部材同士は、反重力方向となる進行方向への移動に伴い相互に噛み合って一体化する一方、その一体化した噛合状態から重力方向となる退行方向への移動に伴い相互に噛み外れて分岐する。そして、噛合状態から噛み外れて分岐した部分は、横並び方向で隣り合う他の組の噛合チェーンのチェーン部材における噛合状態から噛み外れて分岐した部分と噛み合って一体化し、新たに噛合状態となって反重力方向に直線移動するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の可動体移動装置では、噛合チェーンの退行方向への移動時に噛合状態から噛み外れたチェーン部材の退行方向側の部分を反重力方向に直線移動させる移動空間が可動体移動装置の周辺空域に必要となる。そのため、こうしたチェーン部材の退行方向側の部分の移動空間によって占有される分だけ、可動体移動装置の周辺空域における利用可能空間の余裕が低下するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する可動体移動装置は、回転可能なスプロケットと、前記スプロケットの回転に基づき進退移動する少なくとも一対のチェーン部材を有し、対をなす前記チェーン部材同士が進行方向への移動に伴い相互に噛み合って一体化する一方、その一体化した噛合状態から退行方向への移動に伴い相互に噛み外れて分岐する噛合チェーンと、前記噛合チェーンにおける前記進行方向側の端部に接続されて前記噛合チェーンと共に進退移動方向に移動する可動体と、を備え、前記噛合チェーンにおいて対をなす前記チェーン部材のうち少なくとも一方の前記チェーン部材は、当該チェーン部材の長さ方向で前記退行方向側の端部から前記進行方向側に連なる部分が前記スプロケットに巻き付いた状態で当該スプロケットの回転に基づき進退移動する。
【0006】
この構成によれば、噛合チェーンにおける少なくとも一方のチェーン部材は、退行方向への移動に伴い噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向側の部分がスプロケットに巻き付いた状態で、スプロケットの周方向に移動する。すなわち、そのチェーン部材における噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向側の部分は、長さ方向の中途部分を巻き掛けられたスプロケットから接線方向に噛み外れて直線移動するのではなく、スプロケットの周方向に沿う円弧状の移動空間を移動する。そのため、この場合は、可動体移動装置の周辺空域に直線的な移動空間ができる場合と異なり、可動体移動装置の周辺空域における利用可能空間の余裕が低下することを抑制できる。
【0007】
上記可動体移動装置は、前記チェーン部材における前記退行方向への移動時に前記噛合状態から噛み外れて分岐した前記退行方向側の部分が前記スプロケットの歯先円に沿った円弧状の移動空間を移動するように、前記チェーン部材における前記退行方向側の部分に対して前記スプロケットの径方向の外方から接触する円弧状のガイド部を更に備えることが好ましい。
【0008】
この構成によれば、退行方向側の部分がスプロケットに巻き付いた状態で進退移動するチェーン部材は、退行方向への移動時に噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向側の部分がガイド部に案内されてスプロケットの歯先円に沿った円弧状の移動空間を移動する。そのため、そのチェーン部材が退行方向に移動するときには、その長さ方向における退行方向側の部分を、スプロケットに対して噛み外れないように巻き付かせることができる。
【0009】
上記可動体移動装置において、前記ガイド部は、前記スプロケットの前記歯先円と同心の円形であって且つその内側に前記スプロケットが回転可能に配置される円孔の内周縁によって構成されていることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、例えば板部材にスプロケットの歯先円よりも僅かに大径の円孔を切り抜くことにより、円弧状のガイド部を容易に形成できる。
上記可動体移動装置において、対をなす前記チェーン部材同士が前記進行方向への移動に伴い相互に噛み合って一体化することで噛合状態となる位置と前記円孔の前記内周縁の一部との間には、前記チェーン部材に対して側方から接触可能なガイド溝が前記円孔の接線方向に延びるように設けられていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、チェーン部材において退行方向への移動時に噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向側の部分を、ガイド溝により案内して、ガイド部を構成する円孔内へ接線方向から滑らかに進入させることができる。
【0012】
上記可動体移動装置において、前記噛合チェーンで対をなす前記チェーン部材は、各々が個別に対応する前記スプロケットに対して各々の長さ方向で前記退行方向側の端部から前記進行方向側に連なる部分が巻き付いた状態で各々が対応する前記スプロケットの回転に基づき進退移動する。
【0013】
この構成によれば、噛合チェーンで対をなす両チェーン部材は、退行方向への移動時に噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向側の部分が、それぞれスプロケットの歯先円に沿った円弧状の移動空間を移動する。したがって、対をなすチェーン部材同士が噛合状態から退行方向への移動に伴い相互に噛み外れて分岐する方向において、可動体移動装置のコンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可動体移動装置の周辺空域における利用可能空間の余裕が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の可動体移動装置を斜め上方から見た一部破断の斜視図。
【
図4】
図3の状態から噛合チェーンが進行方向に移動した状態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、可動体移動装置の一実施形態について、図を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の可動体移動装置11は、長さ方向に沿って進退移動可能な二組の噛合チェーン12と、進退移動する噛合チェーン12を出入自在に収容可能な収容部13と、を備えている。二組の噛合チェーン12は、収容部13内に横並び状態に配置されている。噛合チェーン12は、互いに噛合可能な一対のチェーン部材である第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15を有している。本実施形態の場合、第1チェーン部材14と第2チェーン部材15は、横並び方向で隣の組の噛合チェーン12に近い側に第1チェーン部材14が配置され、横並び方向で隣の組の噛合チェーン12から遠い側に第2チェーン部材15が配置される。
【0017】
第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15は、それぞれ直列に配置される複数のリンクプレート16を有し、直列方向で隣り合うリンクプレート16同士が連結ピン17により順次に連結されることで長尺状をなすように構成されている。なお、噛合チェーン12において、第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15は、
図1では上端部となる互いの先端部に位置するリンクプレート16同士がジョイント部18を介して連結されている。そして、ジョイント部18には、例えば昇降動作する天板や開閉動作する扉等の図示しない機能性部材を支持した状態で噛合チェーン12と共に進退移動する可動体19が取り付けられている。
【0018】
噛合チェーン12は、対をなすチェーン部材同士である第1チェーン部材14と第2チェーン部材15が長さ方向において各々の先端が位置する方向である進行方向に各々移動することで相互に噛み合って直棒状に一体化する。その一方、噛合チェーン12は、第1チェーン部材14と第2チェーン部材15が相互に噛み合って直棒状に一体化した噛合状態から進行方向とは反対の退行方向に各々移動することで相互に噛み外れて分岐する。そして、噛合チェーン12は、第1チェーン部材14と第2チェーン部材15が退行方向に移動した場合に、その長さ方向で基端から先端側に連なる所定長さの部分が収容部13内に収容される。その一方、噛合チェーン12は、第1チェーン部材14と第2チェーン部材15が進行方向に移動した場合に、その長さ方向で先端から基端側に連なる所定長さの部分が収容部13外に露出する。
【0019】
なお、以下の記載では、ジョイント部18に取り付けられた可動体19を移動させる際の噛合チェーン12の進退移動方向をZとする。この場合、
図1では上方向となる噛合チェーン12の進行方向をZ1とし、
図1では下方向となる噛合チェーン12の退行方向をZ2とする。また、噛合チェーン12の長さ方向でもある進退移動方向Zと直交する方向のうち、第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15が相互に噛み合って一体化した噛合状態から退行方向Z2への移動に伴い相互に噛み外れて分岐する方向を分岐方向Xとする。この場合の分岐方向Xは二つの噛合チェーン12の横並び方向でもある。さらに、進退移動方向Z及び分岐方向Xの両方と直交する方向を噛合チェーン12の幅方向でもある奥行方向Yとする。
【0020】
図1に示すように、収容部13は、奥行方向Yに所定の間隔をおいて対向する略同一の矩形状をなす前板20と後板21を備えている。前板20及び後板21は、奥行方向Yに沿う複数本の連結体22により連結され、噛合チェーン12は、前板20と後板21との間の空間領域に横並びに配置される。そして、その横並び方向で両噛合チェーン12の間となる位置には、平面視で矩形状の天板23が前板20の上端縁と後板21の上端縁との間に架設されている。さらに、前板20と後板21との間の空間領域には、奥行方向Yに噛合チェーン12の幅方向の大きさよりも小さな距離をおいて、二枚の板部材24が進退移動方向Zに沿うように配置されている。これら二枚の板部材24は、奥行方向Yに沿う複数本の支持棒25により前板20及び後板21間に支持されている。
【0021】
図1及び
図2に示すように、板部材24は、その長手方向及び短手方向の長さが、前板20及び後板21の長手方向及び短手方向の長さと同じであり、その四隅が、連結体22の通過を許容するように三角形状又は四角形状に切り欠かれている。
図2に示すように、板部材24は正面視で左右対称の形状をしており、その中央部には、左右で対をなす円孔26が切り抜き形成されている。
図2において右側の円孔26内には、駆動軸27が奥行方向Yに挿通され、
図2において左側の円孔26内には、従動軸28が奥行方向Yに挿通される。
【0022】
板部材24において、
図2における右側の円孔26内には、
図1で右側の噛合チェーン12における第1チェーン部材14と噛み合って回転するスプロケット29が駆動軸27と一体回転するように配置されている。一方、
図2における左側の円孔26内には、
図1で左側の噛合チェーン12における第1チェーン部材14と噛み合って回転するスプロケット30が従動軸28と一体回転するように配置されている。各スプロケット29,30は、その軸方向の厚さが板部材24の板厚とほぼ同じである。円孔26は、スプロケット29及びスプロケット30の各歯先円と同心の円形であり、その円孔26の内周縁の一部からは、
図2において上方となる進行方向Z1へ直線的に延びるガイド溝31が板部材24の上端縁まで形成されている。この場合、ガイド溝31は、板部材24の上端縁から円孔26の接線方向に延びるように切り込み形成される。
【0023】
板部材24において、
図2で右側の円孔26よりも更に右側の領域には、
図2で右側のガイド溝31と平行な上下方向に延びる部分を基端側として横向き逆J字状の部分を先端側とする溝形状の誘導溝32が板部材24の上端縁から切り込み形成されている。一方、板部材24において、
図2で左側の円孔26よりも更に左側の領域には、
図2で左側のガイド溝31と平行な上下方向に延びる部分を基端側として横向きJ字状の部分を先端側とする溝形状の誘導溝32が板部材24の上端縁から切り込み形成されている。
【0024】
また、板部材24の上端縁においてガイド溝31及び誘導溝32が切り込まれた箇所の隣となる箇所には、
図1に示すチェーンガイド33を配置可能とするための切欠部34が形成されている。また、板部材24における、円孔26、ガイド溝31及び誘導溝32が切り抜き形成された位置を除く領域の複数箇所には、
図1に示した支持棒25を挿通可能とする支持孔35が貫通形成されている。
【0025】
図1に示すように、駆動軸27及び従動軸28は、それぞれ軸受け36を介して収容部13の前板20及び後板21に支持されている。駆動軸27における前板20よりも前方に突出した先端部には、キー溝構造体37を介して駆動歯車38が駆動軸27と一体回転するように取り付けられている。一方、従動軸28における前板20よりも前方に突出した先端部には、同じくキー溝構造体37を介して従動歯車39が従動軸28と一体回転するように取り付けられている。駆動歯車38と従動歯車39は互いに反対方向に回転するように噛み合わされており、駆動歯車38にはモーター等の図示しない駆動源の駆動力を駆動歯車38に伝達する図示しない伝達歯車が噛み合わされている。
【0026】
したがって、本実施形態の場合、図示しない駆動源からの駆動力により駆動歯車38と駆動軸27が
図1及び
図2において反時計回り方向に回転すると、駆動軸27に一体回転可能に取り付けられたスプロケット29も反時計回り方向に回転する。その逆に、従動歯車39と従動軸28は、従動歯車39が駆動歯車38と噛み合っているため
図1及び
図2において時計方向に回転し、従動軸28に一体回転可能に取り付けられたスプロケット30も時計回り方向に回転する。そのため、横並びの噛合チェーン12は、各々で対をなす第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15が進行方向Z1に移動し、相互に噛み合って直棒状に一体化した噛合状態で先端から基端側に連なる進行方向Z1側の所定長さ部分が収容部13外に露出する。
【0027】
その一方、図示しない駆動源からの駆動力により駆動歯車38と駆動軸27が
図1及び
図2において時計回り方向に回転すると、駆動軸27に一体回転可能に取り付けられたスプロケット29も時計回り方向に回転する。その逆に、従動歯車39と従動軸28は、従動歯車39が駆動歯車38と噛み合っているため
図1及び
図2において反時計方向に回転し、従動軸28に一体回転可能に取り付けられたスプロケット30も反時計回り方向に回転する。そのため、横並びの噛合チェーン12は、各々で対をなす第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15が退行方向Z2に移動し、噛合状態から相互に噛み外れて分岐した状態で基端から先端側に連なる退行方向Z2側の所定長さ部分が収容部13内に収容される。
【0028】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図3及び
図4に示すように、可動体移動装置11は、駆動軸27及びスプロケット29と従動軸28及びスプロケット30とが互いに反対方向に回転することで、噛合チェーン12が
図3に示す退行位置と
図4に示す進行位置との間を移動する。この場合、噛合チェーン12で対をなす第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15のうち第2チェーン部材15は、その長さ方向で退行方向Z2側の所定長さ部分が、先端側を横向き逆J字状又は横向きJ字状とする誘導溝32に沿って進退移動する。
【0029】
一方、噛合チェーン12で対をなす第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15のうち第1チェーン部材14は、その長さ方向で退行方向Z2側の端部から進行方向Z1側に連なる部分が、スプロケット29,30に巻き付いた状態で、その周方向に移動する。例えば、噛合チェーン12が
図4の進行位置から退行方向Z2に移動する場合には、第1チェーン部材14における退行方向Z2側の部分は、その部分の連結ピン17に側方から接触可能に形成されたガイド溝31に案内されて円孔26内に進入する。その後、第1チェーン部材14の退行方向Z2側の部分は、その部分の連結ピン17にスプロケット29,30の径方向の外方から接触可能な円孔26の内周縁に案内され、スプロケット29,30の歯先円に沿った円弧状の移動空間を移動する。この点で、円孔26の内周縁は、第1チェーン部材14における退行方向Z2側の部分に対してスプロケット29,30の径方向の外方から接触する円弧状のガイド部に相当する。
【0030】
ここで、
図3に二点鎖線で示すように、二組の噛合チェーン12における第1チェーン部材14の退行方向Z2側の端部同士がジョイント部18を介して連結されている場合には、次のような問題がある。すなわち、この場合はジョイント部18を含む退行方向Z2側の部分が天板23を突き抜けてしまうことになるため、天板23を無くすか、若しくは天板23に通過用の孔を形成する必要がある。そして、可動体移動装置11の周辺空域のうち特に進行方向Z1側の空域の一部が第1チェーン部材14の退行方向Z2側の部分の移動空間として占有されることになる。これに対し、本実施形態の場合は、
図3に示すように、第1チェーン部材14の退行方向Z2側の部分が、スプロケット29,30に巻き付いた状態で、そのスプロケット29,30の周方向に移動する。そのため、第1チェーン部材14の退行方向Z2側の部分の移動空間が可動体移動装置11の周辺空域の一部を占有することもない。
【0031】
また、噛合チェーン12が
図3の退行位置から進行方向Z1に移動する場合には、第1チェーン部材14における退行方向Z2側の部分は、その部分の連結ピン17が円孔26の内周縁に案内され、退行方向Z2への移動時とは反対の方向へ円弧状に移動する。その後、第1チェーン部材14の退行方向Z2側の部分は、その部分の少なくとも端部がスプロケット29,30に噛合した状態のままで、円孔26内からガイド溝31へと移動するように案内される。そして、
図4に示すように、誘導溝32に案内されて進行方向Z1に移動する第2チェーン部材15と噛み合って直棒状に一体化した噛合状態となる。
【0032】
ここで、
図4に二点鎖線で示すように、二組の噛合チェーン12における第1チェーン部材14の退行方向Z2側の端部同士がジョイント部18を介して連結されている場合には、次のような問題がある。すなわち、両噛合チェーン12の第1チェーン部材14同士は、ジョイント部18がスプロケット29,30には噛合しないため、可動体19を
図4に示す高さ位置まで進行させるためには、
図4に二点鎖線で示すように更に多くのリンクプレート16が必要となる。これに対し、本実施形態の場合は、
図4に示すように、両噛合チェーン12における第1チェーン部材14の退行方向Z2側の端部同士が連結されていない。そのため、第1チェーン部材14は、その退行方向Z2側の端部をスプロケット29,30に個々に噛合させた状態で、必要最低限のリンクプレート16で構成した長さ方向の大部分を第2チェーン部材15との噛み合いで直棒状に一体化した噛合状態にできる。
【0033】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)噛合チェーン12における一方の第1チェーン部材14は、退行方向Z2への移動に伴い噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向Z2側の部分がスプロケット29,30に巻き付いた状態で、スプロケット29,30の周方向に移動する。すなわち、第1チェーン部材14における噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向Z2側の部分は、長さ方向の中途部分を巻き掛けられたスプロケットから接線方向に噛み外れて直線移動するのではなく、スプロケットの周方向に沿う円弧状の移動空間を移動する。そのため、この場合は、可動体移動装置11の周辺空域に直線的な移動空間ができる場合と異なり、可動体移動装置11の周辺空域における利用可能空間の余裕が低下することを抑制できる。
【0034】
(2)退行方向Z2側の部分がスプロケット29,30に巻き付いた状態で進退移動する第1チェーン部材14は、退行方向Z2への移動時に噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向Z2側の部分が当該部分に径方向の外方から接触可能なガイド部に案内される。そして、スプロケット29,30の歯先円に沿った円弧状の移動空間を移動する。そのため、その第1チェーン部材14が退行方向Z2に移動するときには、その長さ方向における退行方向Z2側の部分を、スプロケット29,30に対して噛み外れないように巻き付かせることができる。
【0035】
(3)板部材24にスプロケット29,30の歯先円よりも僅かに大径の円孔26を切り抜くことにより、円弧状のガイド部を容易に形成できる。
(4)第1チェーン部材14において退行方向Z2への移動時に噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向Z2側の部分を、ガイド溝31により案内して、内周縁がガイド部を構成する円孔26内へ接線方向から滑らかに進入させることができる。
【0036】
なお、上記の実施形態は以下に示す変更例のように変更してもよい。また、実施形態に含まれる構成と下記変更例に含まれる構成とを任意に組み合わせてもよいし、下記変更例に含まれる構成同士を任意に組み合わせてもよい。
【0037】
・
図5に示すように、可動体移動装置11は、噛合チェーン12で対をなす第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15の各々が、退行方向Z2への移動時に退行方向Z2側の部分をスプロケット29,30の周方向に移動させる構成でもよい。すなわち、第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15は、対応するスプロケット29,30に対して各々の長さ方向で退行方向Z2側の端部から進行方向Z1側に連なる部分が巻き付いた状態でスプロケット29,30の回転に基づき進退移動するのでもよい。
【0038】
この構成によれば、噛合チェーン12で対をなす両チェーン部材14,15は、退行方向Z2への移動時に噛合状態から噛み外れて分岐した退行方向Z2側の部分が、それぞれスプロケット29,30の歯先円に沿った円弧状の移動空間を移動する。そのため、
図5に二点鎖線で示す上記実施形態の場合の収容部13よりも、分岐方向Xにおける大きさを小さくできる。したがって、対をなすチェーン部材14,15同士が噛合状態から退行方向Z2への移動に伴い相互に噛み外れて分岐する分岐方向Xにおいて、可動体移動装置11のコンパクト化を図ることができる。なお、
図5に示す場合、スプロケット29,30が一体回転可能に取り付けられる駆動軸27及び従動軸28は、4本のうち何れか1本が駆動歯車38を取り付けた駆動軸27で他の3本が従動歯車39を取り付けた従動軸28であってもよい。
【0039】
・
図6に示すように、可動体移動装置11は、第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15が対をなす噛合チェーン12を一組だけ備える構成でもよい。そして、この場合に第1チェーン部材14及び第2チェーン部材15の両方が、退行方向Z2への移動時に噛合状態から噛み外れて分岐する退行方向Z2側の部分を、対応するスプロケット29,30の歯先円に沿った円弧状の移動空間を移動させる構成でもよい。この構成によれば、対をなすチェーン部材14,15同士が噛合状態から退行方向Z2への移動に伴い相互に噛み外れて分岐する分岐方向Xにおける可動体移動装置11のコンパクト化を、より一層図ることができる。
【0040】
・可動体移動装置11は、収容部13の中央上部に天板23を備えない構成でもよい。
・可動体移動装置11は、駆動歯車38が先端に取り付けられた駆動軸27と従動歯車39が先端に取り付けられた従動軸28とを実施形態の場合よりも分岐方向Xに離間して配置し、従動歯車39に駆動源からの駆動力を別途独立に供給するようにしてもよい。
【0041】
・可動体移動装置11において、第1チェーン部材14と第2チェーン部材15の進行方向Z1側の部分同士が噛み合って直棒状に一体化した部分の進退移動方向Zは、重力に沿う方向に限らず、水平な方向や斜め方向など任意である。
【0042】
・噛合チェーン12の退行方向Z2への移動時に第1チェーン部材14の退行方向Z2側の部分をスプロケット29,30の周方向に移動させるガイド部は、板部材24に切り抜き形成された円孔26の内周縁以外で構成してもよい。例えば、第1チェーン部材14のリンクプレート16を連結する連結ピン17の端部を円弧状に摺動させる円弧状のガイド溝が切り込み形成されたガイド板を板部材24と奥行方向Yで重なるように配置してもよい。
【0043】
・可動体移動装置11は、第1チェーン部材14と第2チェーン部材15とが対をなす噛合チェーン12を二組以上、例えば三組や四組など設けてもよい。また、これら複数組の噛合チェーン12は必ずしも横並びの配置でなくてもよい。
【符号の説明】
【0044】
11…可動体移動装置
12…噛合チェーン
14…第1チェーン部材
15…第2チェーン部材
19…可動体
26…内周縁がガイド部を構成する円孔
29,30…スプロケット
31…ガイド溝