(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】光散乱検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/00 20060101AFI20220913BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20220913BHJP
G01N 21/53 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G01N15/00 A
G01N30/74 Z
G01N21/53 Z
(21)【出願番号】P 2020534133
(86)(22)【出願日】2019-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2019026854
(87)【国際公開番号】W WO2020026704
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2018145106
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】山口 亨
(72)【発明者】
【氏名】笠谷 敦
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0100433(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0122315(US,A1)
【文献】特開平10-096695(JP,A)
【文献】特開2003-065941(JP,A)
【文献】特開2010-286491(JP,A)
【文献】特開2015-172556(JP,A)
【文献】特開2008-032548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の微粒子を検出するための光散乱検出装置であって、
液体試料を保持する透明な試料セルと、
前記試料セルにコヒーレント光を照射する光源と、
前記試料セルから周囲に異なる散乱角を以て散乱する光を集光する結像光学系と、
前記結像光学系の入射側に配され、散乱角範囲を制限するためのスリット板と、
前記結像光学系からの集光を受光する検出器と、
前記
結像光学系の焦点距離よりも前記検出器側に配され、開口幅によって前記検出器への受光幅を制限するアパーチャ板と、
を備え、
前記試料セルから前記検出器に至る検出光学系は、前記試料セルの周囲に、該試料セルの中心軸から等間隔で複数配されており、
前記複数の検出器は、前記試料セルへの前記コヒーレント光の入射方向に対する角度が90°の位置を基準として、前記基準位置により近い角度位置に配置された第1検出器と、前記基準位置により遠い角度位置に配置された第3検出器と、前記第1検出器と前記第3検出器との間の角度位置に配置された第2検出器とを含み、
前記各アパーチャ板の開口幅は、前記第1検出器、前記第2検出器、前記第3検出器の順に大きいことを特徴とする光散乱検出装置。
【請求項2】
各アパーチャ板の開口幅は、前記試料セルの中心軸から前記検出器までの距離と、各検出器の配置角度の正弦値と、を乗じた値である、請求項1に記載の光散乱検出装置。
【請求項3】
前記アパーチャ板の開口部は、少なくとも鉛直方向に沿った辺が直状である、請求項1または請求項2に記載の光散乱検出装置。
【請求項4】
前記アパーチャ板は、前記開口幅を微調整すべく、水平方向に回動可能に配されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の光散乱検出装置。
【請求項5】
前記アパーチャ板は、前記液体試料中の溶媒の屈折率情報に基づいて、前記アパーチャ板の回動角を制御するための制御装置を備える、請求項4に記載の光散乱検出装置。
【請求項6】
前記アパーチャ板は、該アパーチャ板を回動させるための回動装置と、前記液体試料中の溶媒の屈折率情報を記憶するための記憶部と、を備える、請求項5に記載の光散乱検出装置。
【請求項7】
前記各スリット板は、開口して形成され、前記散乱角範囲を制限するスリットを有し、
前記各スリットの幅は、前記コヒーレント光の前記試料セルへの入射方向に対する配置角度が90°のところで最大となり、配置角度が90°から離れるにつれて小さくなる、請求項1から6のいずれか1項に記載の光散乱検出装置。
【請求項8】
前記各スリットの幅は、配置角度が90°のときの前記スリットの幅に、各検出
器の配置角度の正弦値を乗じた値である、請求項7に記載の光散乱検出装置。
【請求項9】
前記光源は、該光源から前記試料セルに入射するコヒーレント光の光軸が、前記試料セルおよび前記検出器を含む平面から所定の角度傾斜するように配置されている、請求項1から8のいずれか1項に記載の光散乱検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中に分散している微粒子の分子量や回転半径(サイズ)等を測定するための微粒子検出装置に利用される光散乱検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料中に分散しているタンパク質等の微粒子を分離するための手法として、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)やゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)が知られている。近年、クロマトグラフィ検出装置としては、紫外線(UV)吸光度検出装置や示差屈折率検出装置に加え、多角度光散乱(MALS)検出装置が用いられている。MALS検出装置は、測定試料の分子量や粒子径が算出可能であるという特長がある(特許文献1および2参照)。
【0003】
図12は、MALS検出装置の基本構成例の平面図を、
図13は側面図を示している。
図12および
図13において、110は試料セル、111は液体試料、120は光源、170は検出器、180はビームダンパである。
図12および
図13に示すように、円筒体状の試料セル110の内部に液体試料111を通液し、試料セル110および流路中心を通るように光源120から光を照射する。光源120としては、通常、可視レーザ光が用いられる。光の進行方向からの角度θが水平面上(XY平面上)の散乱角として定義され、異なる散乱角を検出するように試料セル110および流路中心を通る水平面上(XY平面上)に検出器170が複数配置される。
【0004】
円筒状の試料セルで、検出器の配置角度と散乱角が一致するという特長がある。
図14Aから
図14Cは、散乱光強度と散乱角の関係を示す説明図である。
図14Aは粒子径10nm、
図14Bは粒子径100nm、
図14Cは粒子径1000nmの場合である。入射光の波長は660nm、粒子の屈折率1.6、溶媒の屈折率1.33として、Mie散乱理論から算出した結果である。
図14Aから
図14Cに示すように、散乱光強度と散乱角の関係は試料の粒子径に依存する。試料が入射光の波長に比べて十分小さい場合、散乱光は等方的に発生し、散乱光強度の散乱角依存性はない。試料の粒子径が大きくなるに従い、散乱光は前方への散乱が強くなる。複数配置した検出器の散乱光強度について、散乱角0度へ外挿することにより、粒子径や分子量を算出することができる(非特許文献1参照)。
【0005】
MALS検出装置は、より低い濃度の試料が測定でき、かつ、高いS/N比を有することが望ましい。そのためには、試料から発生する散乱光を効率的に検出器に受光させる光学系が求められる。つまりは、各検出器に入る散乱光の立体角が大きい必要がある。検出器の立体角を大きくする際に、水平方向(光軸面上)の立体角を大きくすると、各検出器の角度分解能が悪くなるため、鉛直方向の立体角を大きく設定することが望ましい。立体角を大きくすべく、検出器のサイズを大きくすることは、暗電流が増加するため、好ましくない。検出器サイズを大きくすることなく、立体角を大きく設定するためには、レンズ等で集光する方法が採られる。すなわち、試料セルの流路で発生した散乱光が結像レンズを介して、検出器上で結像する構成が採用される。
【0006】
別のMALS検出装置の基本構成として、特許文献1および2に開示されている方式が挙げられる。この方式では、円柱状の試料セルの側面を貫通するように流路を形成し、流路に平行に光が入射する。円柱状の試料セルの側面がレンズの働きをすることで、水平方向の立体角について角度分解能を悪くせずに大きく設定することができる。しかしながら、流路に平行に光を入射するため、流路内での流れ場の乱れの影響を受けやすく、低散乱角において精度悪化が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平07-72068号公報
【文献】特開2015-111163号公報
【文献】「光散乱法によるタンパク質の絶対分子量と複合体形成の解析」、尾高雅文、生物工学89巻
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
検出器の受光面上に結像される散乱光の像は、検出器を配置する角度によって大きさが異なる。試料セル内で試料が均一に分布している場合、試料由来の散乱光は試料セルの内径Lに一致する長さで発生する。検出器の配置角度をθ、セルおよび結像レンズで構成される結像光学系の倍率をMとすると、検出器上に結像する散乱光像の長さはMLsinθとなる。検出器の大きさが同一の場合、検出器の配置角度によって、検出器が受光する散乱光の発生領域が異なることになる。試料セルにおいて、空気とガラスとの界面およびガラスと液体との界面で散乱光が発生するため、試料全域を補う大きな検出器を用いることは望ましくない。
【0009】
各検出器で受光する散乱光発生領域が異なる場合、広い領域を受光する検出器ほど高い散乱光出力となってしまう。試料セル内で試料が均一に分布している場合、受光する散乱光発生領域で検出器の出力を補正することは可能である。しかしながら、試料セル内で試料が不均一に分布している場合、この補正は不正確となる。すなわち、散乱光出力の角度プロファイルが不正確となるため、算出する粒子径や分子量が不正確となる。
【0010】
一般的なクロマトグラムでは、同一試料のピークは時間的に幅をもったピーク形状である。内部に流路を有する円筒状の試料セルの場合、ピークの立ち上がりでは流路の中心の濃度が高く、中心から離れるに従って濃度が低下する濃度分布となる。ピークの立ち下がりでは、流路の中心ほど移動相溶媒との置換が早く進むため、中心の濃度が低いプロファイルとなる。このため、検出器の配置角度により受光する散乱光発生領域が異なると、クロマトグラムにおける試料のピーク形状が異なることとなり、分子量精度や粒子径精度が悪化する。
【0011】
そこで、本発明は、試料セルの通液時のピーク形状が検出器の配置角度に依存せず、分子量精度および粒子径算出精度を良好に維持することができる光散乱検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る光散乱検出装置は、液体試料中の微粒子を検出するための光散乱検出装置であって、液体試料を保持する透明な試料セルと、前記試料セルにコヒーレント光を照射する光源と、前記試料セルから周囲に異なる散乱角を以て散乱する光を集光する結像光学系と、前記結像光学系の入射側に配され、散乱角範囲を制限するためのスリット板と、前記結像光学系からの集光を受光する検出器と、前記結像光学系の焦点距離よりも前記検出器側に配され、開口幅によって前記検出器への受光幅を制限するアパーチャ板と、を備え、前記試料セルから前記検出器に至る検出光学系は、前記試料セルの周囲に、該試料セルの中心軸から等間隔で複数配されており、前記複数の検出器は、前記試料セルへの前記コヒーレント光の入射方向に対する角度が90°の位置を基準として、前記基準位置により近い角度位置に配置された第1検出器と、前記基準位置により遠い角度位置に配置された第3検出器と、前記第1検出器と前記第3検出器との間の角度位置に配置された第2検出器とを含み、
前記各アパーチャ板の開口幅は、前記第1検出器、前記第2検出器、前記第3検出器の順に大きいことを特徴とする。
【0013】
上記光散乱検出装置の構成において、各アパーチャ板の開口幅は、上記試料セルの中心軸から上記検出器までの距離と、各検出器の配置角度の正弦値と、を乗じた値であることが好ましい。
【0014】
また、上記アパーチャ板の開口部は、少なくとも鉛直方向に沿った辺が直状であることが好ましい。
【0015】
さらに、上記アパーチャ板は、上記開口幅を微調整すべく、水平方向に回動可能に配されていることが好ましい。
【0016】
また、上記アパーチャ板は、上記液体試料中の溶媒の屈折率情報に基づいて、上記アパーチャ板の回動角を制御するための制御装置を備えることが好ましい。
【0017】
また、上記アパーチャ板は、該アパーチャ板を回動させるための回動装置と、上記液体試料中の溶媒の屈折率情報を記憶するための記憶部と、を備えることが好ましい。
【0018】
また、前記各スリット板は、開口して形成され、前記散乱角範囲を制限するスリットを有し、
前記各スリットの幅は、前記コヒーレント光の前記試料セルへの入射方向に対する配置角度が90°のところで最大となり、配置角度が90°から離れるにつれて小さくなることが好ましい。
【0019】
さらに、前記各スリットの幅は、配置角度が90°のときの前記スリットの幅に、各検出器の配置角度の正弦値を乗じた値であることが好ましい。
【0020】
加えて、上記光源は、該光源から前記試料セルに入射するコヒーレント光の光軸が、上記試料セルおよび上記検出器を含む平面から所定の角度傾斜するように配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、試料セルの通液時のピーク形状が検出器の配置角度に依存せず、分子量精度および粒子径算出精度を良好に維持することができる光散乱検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る光散乱検出装置の第1実施形態の平面図である。
【
図2】第1実施形態に係る光散乱検出装置の側面図である。
【
図3】第1実施形態に係る光散乱検出装置(MALS)の平面図である。
【
図4】配置角度60度の検出器の受光面上の散乱光像の観察写真である。
【
図5】配置角度90度の検出器の受光面上の散乱光像の観察写真である。
【
図6A】アパーチャ板の開口幅が配置角度によらず一定の場合のクロマトグラフィ測定の説明図である。
【
図6B】アパーチャ板の開口幅が配置角度によらず一定の場合のクロマトグラフィ測定の説明図である。
【
図7A】アパーチャ板の開口幅を配置角度によって異ならせた場合のクロマトグラフィ測定の説明図である。
【
図7B】アパーチャ板の開口幅を配置角度によって異ならせた場合のクロマトグラフィ測定の説明図である。
【
図8】第2実施形態に係る光散乱検出装置の平面図である。
【
図9】第3実施形態に係る光散乱検出装置の平面図である。
【
図10A】アパーチャ板の開口幅を配置角度によって異ならせ、かつ、スリット板のスリット幅が配置角度によらず一定の場合のクロマトグラフィ測定の説明図(各配置角度における各検出器が受光する散乱光強度の相対値を示すグラフ)である。
【
図10B】アパーチャ板の開口幅を配置角度によって異ならせ、かつ、スリット板のスリット幅も配置角度によって異ならせた場合のクロマトグラフィ測定の説明図(各配置角度における各検出器が受光する散乱光強度の相対値を示すグラフ)である。
【
図11】第4実施形態に係る光散乱検出装置の平面図である。
【
図12】MALS検出装置の基本構成例の平面図である。
【
図13】MALS検出装置の基本構成例の側面図である。
【
図14A】粒子径10nmの散乱光強度と散乱角の関係を示す説明図である。
【
図14B】粒子径100nmの散乱光強度と散乱角の関係を示す説明図である。
【
図14C】粒子径1000nmの散乱光強度と散乱角の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る光散乱検出装置の第1および第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0024】
[第1実施形態]
〔光散乱検出装置の構成〕
まず、
図1から
図3を参照して、本発明に係る光散乱検出装置の第1実施形態の構成について説明する。
図1は、本発明に係る光散乱検出装置の第1実施形態の側面図である。
図2は、第1実施形態に係る光散乱検出装置の側面図である。
図1および
図2に示すように、本実施形態に係る光散乱検出装置1は、液体試料中に分散しているタンパク質等の微粒子の分子量や回転半径(サイズ)を検出する装置である。光散乱検出装置1は、試料セル10、光源20、ビームダンパ80、スリット板40、結像光学系50、アパーチャ板60および検出器70を備える。以下、各構成要素ごとに説明する。
【0025】
試料セル10は、内部の流路に液体試料を保持する透明な円筒体状のセルである。試料セル10は、例えば、無色透明な石英ガラスによって形成されている。
【0026】
光源20は、試料セル10にコヒーレント光を照射する。「コヒーレント光」とは、光束内の任意の2点における光波の位相関係が時間的に不変で一定に保たれており、任意の方法で光束を分割した後、大きな光路差を与えて再び重ね合わせても完全な干渉性を示す光をいう。光源20としては、例えば、可視光レーザを照射するためのレーザ光源が採用される。自然界には完全なコヒーレント光は存在せず、シングルモードで発振するレーザ光はコヒーレント状態に近い光である。
【0027】
光源20から試料セル10に至る入射光の光路L1には、集光光学系21が配置されている。集光光学系21としては、例えば、単一の集光レンズが採用されている。この集光レンズは、平凸レンズであり、光源20からの光の入射側が凸面で、出射側が平面に形成されている。本実施形態では、集光光学系21として、単一の集光レンズを採用しているが、集光光学系21は複数の複合レンズや集光ミラーを組み合わせて構成してもよい。
【0028】
光源20および集光光学系21は、光源20から試料セル10に入射するコヒーレント光の光軸が、試料セル10及び検出器50を含む平面(XY平面)から所定の角度(チルト角度α)で傾斜するように配置されている。具体的には、試料セル10に対して入射光が斜め上方から入射するように、光源20および集光光学系21が配置されている。試料セル10に対して入射光をチルト(角度α)させることによって、試料セル10のガラスと空気との界面及びガラスと流路との界面(以下、「セル界面」と総称する。)での反射光による迷光を低減させることができる。光源20から照射されたレーザ光は、集光光学系21を通過した後、試料セル10の中心軸付近に集光する。
【0029】
ビームダンパ80は、試料セル10を透過したレーザ光を遮蔽する機器である。ビームダンパ80は、試料セル10に入射し、該試料セル10を透過したレーザ光が直進する位置に配置されている。ビームダンパ80は、ビームトラップとも称され、ダンパ器内で無限にレーザ光を反射させることにより、ダンパ器外への反射を最低限に抑える。
【0030】
試料セル10からの出射光の光路L2上には、検出光学系30が配置されている。本実施形態の検出光学系30は、スリット板40、結像光学系50、アパーチャ板60及び検出器70から構成されている。
【0031】
結像光学系50は、試料セル10から周囲に異なる散乱角を以て散乱する光を集光する。結像光学系50としては、例えば、単一の結像レンズが採用されている。この結像レンズは、平凸レンズであり、試料セル10からの散乱光の入射側が平面で、出射側が凸面に形成されている。本実施形態では、結像光学系50として、単一の結像レンズを採用したが、結像光学系50は複数の複合レンズや結像ミラーを組み合わせて構成してもよい。
【0032】
スリット板40は、試料セル10からの出射光の光路L2上において、試料セル10と結像光学系50との間に配置されている。スリット板40は、結像光学系50に入射する散乱角範囲を制限する。すなわち、スリット板40に開口されたスリット41は、水平方向の散乱角を制限し、且つ、鉛直方向の光束を多く取り込むために、鉛直方向に縦長であって、少なくとも鉛直方向に沿った辺が直状である。具体的には、スリット41は、鉛直方向に縦長の長方形状や長孔形状を呈している。
【0033】
アパーチャ板60は、試料セル10からの出射光の光路L2上において、検出器70よりも結像光学系側に配置されている。アパーチャ板60は迷光を制限する機能を有し、その開口部61は検出器70の受光面前で開口している。アパーチャ板60の開口部は、少なくとも鉛直方向に沿った辺が直状である。具体的には、アパーチャ板60の開口部61は、鉛直方向に縦長の長方形状や長孔形状を呈している。
【0034】
図1および
図3に示すように、試料セル10から検出器70に至る検出光学系30は、試料セル10の周囲に、その中心軸Sから等間隔dで複数配されている。光の進行方向からの角度θが水平面上(XY平面上)の散乱角として定義される。異なる散乱角を検出できるように、試料セル10の中心軸Sを通る水平面上(XY平面上)に検出器70が複数配置される。
図1の態様では、θ1,θ2の配置角度で検出光学系30、31が2系配置されている。また、
図1の態様では、試料セル10のコヒーレント光の入射方向に対する角度が90°の位置を基準位置とした場合、検出光学系30の検出器70は、基準位置により近い位置に配置された、すなわち、配置角度θ1に位置する第1検出器となっており、検出光学系31の検出器70は、基準位置により遠い位置に配置された、すなわち、配置角度θ1よりも大きい配置角度θ2に位置する第2検出器となっている。
図3の態様では、試料セル10の周囲に等間隔dで14個の検出器70が配置されている。なお、
図3では、集光光学系、スリット板、結像光学系およびアパーチャ板を省略図示している。
【0035】
このように試料セル10の周囲に複数の検出器70が配置されているので、各アパーチャ板60の開口幅は、試料セル10に対する各検出器70の配置角度に応じて異ならせている。すなわち、各アパーチャ板60の開口幅は、試料セル10へのコヒーレント光の入射方向に対する配置角度が90°のところで最大となり、配置角度が90°から離れるにつれて小さくなっている。そして、本実施形態では、各アパーチャ板60の開口幅は、試料セル10の中心軸から検出器70までの距離と、各検出器70の配置角度の正弦値と、を乗じて設定された値となっている。なお、この値には、本発明の目的を達成することができるのであれば、若干の補正を加えた値も、本発明の範囲内に含まれる。
【0036】
上述したように、試料セル10の内径をL、検出器70の配置角度をθ、セルと結像レンズで構成される結像光学系の倍率をMとすると、検出器70上に結像する散乱光像の長さはMLsinθとなる。ここで、試料セル10の内径Lおよび結像光学系の倍率Mは、全ての検出光学系30、31…で同じである。したがって、試料セル10の周囲に検出光学系30、31が等間隔dで複数配されている場合に、各検出器前のアパーチャ板60の開口幅は、試料セル10に対する各検出器70の配置角度θ1、θ2…に応じて異ならせている。アパーチャ板60の開口幅は、試料セル10の中心軸Sから検出器70までの距離dと、各検出器70の配置角度θ1、θ2の正弦値と、を乗じて設定される。具体的には、配置角度θ1のアパーチャ板60の開口幅は、dsinθ1の幅で設定される。また、配置角度θ2のアパーチャ板60の開口幅は、dsinθ2の幅で設定される。
【0037】
検出器70は、結像光学系50からの集光を受光する。すなわち、結像光学系50の焦点に、検出器70の受光面が位置している。本実施形態の検出器70としては、例えば、フォトダイオード(PD)を採用しているが、2次元CMOS等のアレイ検出器を採用してもよい。
【0038】
〔光散乱検出装置の作用〕
次に、
図1から
図8を参照して、本実施形態に係る光散乱検出装置の作用について説明する。
【0039】
図1に示すように、円筒体状の試料セル10の流路に液体試料11が通液される。液体試料11の通液が完了すると、光源20から集光光学系21を介してコヒーレント光である可視レーザ光が照射される。可視レーザ光は、光路L1に沿って進むことにより、レーザ光が試料セル10の流路内の液体試料11に入射する。液体試料にレーザ光が入射されると、その光は液体試料11に含まれる微粒子に当たって所定の散乱角を以て散乱する。そして、試料セル10から出射した散乱光は、スリット板40のスリット41を通過した後、結像光学系50およびアパーチャ板60を経て、検出器70の受光面上に受光される。他方、試料セル10に入射し、透過して直進したレーザ光は、ビームダンパ80によって吸収される。
【0040】
試料セル10から散乱光が出射する際、試料セル10の空気とガラスとの界面およびガラスと液体との界面において、反射光RLが迷光として生じる。スリット板40は、鉛直方向に縦長のスリット41によって結像光学系50へ入射する散乱光の散乱角範囲を制限する。結像光学系50は散乱光を集光し、検出器70の受光面上に結像するが、検出器前においてさらにアパーチャ板60の開口部61の開口幅によって検出器70への受光幅を制限する。
【0041】
図1および
図3に示すように、試料セル10から検出器70に至る検出光学系30は、試料セル10の周囲に等間隔dで複数配されている。検出器70の受光面上に結像される散乱光の像は、検出器70を配置する角度によって大きさが異なる。上述したように、試料セル10内で液体試料11が均一に分布している場合、試料セル10の内径をL、検出器の配置角度をθ、セルと結像レンズで構成される結像光学系の倍率をMとすると、検出器上に結像する散乱光像の長さはMLsinθとなる。
【0042】
ここで、試料セル10の内径Lおよび結像光学系の倍率Mは、全ての検出光学系30、31…で同じであるので、各検出器前のアパーチャ板60の開口幅は、試料セル10に対する各検出器70の配置角度θ1、θ2に応じて異ならせている。すなわち、アパーチャ板60の開口幅は、試料セル10の中心軸Sから検出器70までの距離dと、各検出器70の配置角度θ1、θ2の正弦値と、を乗じて設定される。このようにアパーチャ板60の開口幅を各検出器70の配置角度θ1、θ2に応じて異ならせることにより、検出器70への受光幅を最適な幅に設定することができる。
【0043】
〔検出器の受光面上の散乱光像の観察〕
第1実施形態の作用効果を確認すべく、検出器に結像された散乱光像を撮像観察した。
図4は、配置角度60度の検出器の受光面上の散乱光像の観察写真である。
図5は、配置角度90度の検出器の受光面上の散乱光像の観察写真である。
図4および
図5において、SLは溶媒由来の散乱光、GLはガラス由来の散乱光である。
【0044】
撮像条件は、次のように設定した。試料セル10は、例えば、内径が1.6mmで、外径が8.0mmの透明な円筒体状のセルである。試料セル10の中心軸Sから50mmの位置には、結像レンズ(平凸レンズ)が配置されている。結像レンズは、例えば、凸径がφ12.7mmで、焦点距離が38mmに形成されている。試料セル10の中心軸Sから100mmの位置には、アパーチャ板60および検出器(PD)70が配置されている。
【0045】
図4および
図5に示すように、溶媒として水を封入した状態での配置角度90度および60度の検出器(PD)の受光面上での水の散乱光像を撮像観察している。散乱光像の長さは上述の通りMLsinθの関係があり、配置角度60度の検出器前のアパーチャ板60の開口幅は配置角度θの正弦分だけ短くなっている。
【0046】
〔クロマトグラフィ測定〕
図6Aおよび
図6Bは、アパーチャ板の開口幅が配置角度によらず一定の場合のクロマトグラフィ測定の説明図である。すなわち、サイズ排除クロマトグラフィ測定におけるBSA(ウシ血清アルブミン)単量体に相当する、配置角度θ1とθ2の検出器(PD)の出力を示す。
図6Aは、単量体ピークの最大値(1030sec)で規格化した結果である。
図6Bはθ2の出力をθ1の出力で除算した結果である。カラムで分離された同一特性の試料であるため、
図6Aにおいθ1とθ2のピーク形状は等しくなり、
図6Bにおいてθ2の値は傾き0となることが理想であるが、時間の経過とともに右肩上がりの結果となっている。この結果から、分子量や粒子径を算出すると、ピーク内で算出結果が異なることとなり、算出精度が悪化する。
【0047】
他方、
図7Aおよび
図7Bは、アパーチャ板の開口幅を配置角度によって異ならせた場合のクロマトグラフィ測定の説明図である。すなわち、検出器(PD)が同一の試料領域からの散乱光を受光するようにアパーチャ板の開口幅を調整した結果である。
図6Aおよび
図6Bと比較して、θ2の変動は小さく、分子量および粒子径の算出値のピーク内での変動は小さくなる効果がある。
【0048】
以上説明したように、第1実施形態の光散乱検出装置1は、各検出器前のアパーチャ板60の開口幅を試料セル10に対する各検出器70の配置角度θ1、θ2に応じて異ならせているので、検出器70への受光幅を最適な幅に設定することができる。したがって、第1実施形態の光散乱検出装置1によれば、試料セル10の通液時のピーク形状が検出器70の配置角度に依存せず、分子量精度および粒子径算出精度を良好に維持することができる。
【0049】
[第2実施形態]
次に、
図8を参照して、第2実施形態に係る光散乱検出装置2について説明する。
図8は、第2実施形態に係る光散乱検出装置の側面図である。なお、第1実施形態と同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0050】
図8に示すように、第2実施形態に係る光散乱検出装置2は、アパーチャ板260が開口幅を微調整すべく、水平方向に回動可能に配されている点が、第1実施形態と異なる。すなわち、アパーチャ板260には、例えば、鉛直方向の中心部に不図示の回動軸で支持されており、水平方向に回動可能に構成されている。アパーチャ板260は、当該アパーチャ板260を回動させるための回動装置210と、液体試料中の溶媒の屈折率情報を記憶するための記憶部230と、溶媒の屈折率情報に基づいて、アパーチャ板260の回動角を制御するための制御装置220と、を備える。
【0051】
回動軸は、例えば、ステッピングモータ等の回動装置210に接続され、回動軸を駆動することにより、アパーチャ板260を回動させる。記憶部230には、各種の液体試料中の溶媒の屈折率情報が記憶されている。制御装置220は、記憶部230から分析対象となる液体試料110の溶媒の屈折率情報を抽出する。制御装置220は、抽出した溶媒の屈折率情報に基づいて、回動装置210を駆動し、アパーチャ板260の回動角を制御する。アパーチャ板260の回動角を制御することにより、当該アパーチャ板260が水平方向に傾斜して、実質的に開口幅が微調整される。
【0052】
第2実施形態に係る光散乱検出装置2は、基本的に第1実施形態に係る光散乱検出装置1と同様の作用効果を奏する。特に、第2実施形態に係る光散乱検出装置2は、アパーチャ板260が開口幅を微調整すべく、水平方向に回動可能に配されている。また、アパーチャ板260は、当該アパーチャ板260を回動させるための回動装置210と、液体試料中の溶媒の屈折率情報を記憶するための記憶部230と、溶媒の屈折率情報に基づいて、アパーチャ板の回動角度を制御するための制御装置220と、を備える。したがって、第2実施形態に係る光散乱検出装置2によれば、液体試料中の溶媒の屈折率情報に応じて、アパーチャ板260の開口幅を微調整することができる。結像光学系の倍率Mは、溶媒の屈折率に依存する。屈折率に応じて、アパーチャ開口幅を調整することで、溶媒に依らず、流路内の同一領域の散乱光を受光することができる。したがって、分子量精度および粒子径算出精度を良好に維持することができるという有利な効果を奏する。
【0053】
[第3実施形態]
次に、
図9、
図10Aおよび
図10Bを参照して、第3実施形態に係る光散乱検出装置3について説明する。
図9は、第3実施形態に係る光散乱検出装置の平面図である。
図10Aは、アパーチャ板の開口幅を配置角度によって異ならせ、かつ、スリット板のスリット幅が配置角度によらず一定の場合のクロマトグラフィ測定の説明図(各配置角度における各検出器が受光する散乱光強度の相対値を示すグラフ)である。
図10Bは、アパーチャ板の開口幅を配置角度によって異ならせ、かつ、スリット板のスリット幅も配置角度によって異ならせた場合のクロマトグラフィ測定の説明図(各配置角度における各検出器が受光する散乱光強度の相対値を示すグラフ)である。本実施形態では、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。また、第1実施形態と同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。また、
図10Aおよび
図10B示すグラフは、いずれも、セル中心(X=0)で発生する散乱光を受光する光強度を1とし、受光する散乱光強度相対値のセル位置依存性(X依存性)を計算した結果である。
【0054】
図9に示すように、第3実施形態に係る光散乱検出装置3では、試料セル10の周囲に複数のスリット板340が配置されている。そして、各スリット板340の各スリット341の幅は、各アパーチャ板60の開口幅と同様に、コヒーレント光の試料セル10への入射方向に対する配置角度が90°のところで最大となり、配置角度が90°から離れるにつれて小さくなっている。また、本実施形態では、各スリット341の幅は、配置角度が90°のときのスリット341の幅に、各検出器70の配置角度の正弦値を乗じて設定された値となっている。例えば、配置角度が90°のときのスリット341の幅をw0としたとき、配置角度θ1のスリット341の幅は、w0×sinθ1の幅で設定される。また、配置角度θ2のスリット341の幅は、w0×sinθ2の幅で設定される。このように本実施形態では、スリット341の幅を各検出器70の配置角度θ1、θ2に応じて異ならせている。なお、配置角度が90°のときのスリット341の幅に、各検出器70の配置角度の正弦値を乗じて設定された値には、本発明の目的を達成することができるのであれば、若干の補正を加えた値も、本発明の範囲内に含まれる。
【0055】
ところで、各アパーチャ板60の開口幅を配置角度によって異ならせるが、各スリット341の幅については、配置角度によらず一定の場合、すなわち、各スリット341の幅を配置角度に応じて異ならせるのを省略した場合、
図10Aに示すグラフのような結果が得られる。
図10Aに示すグラフから明らかなように、各検出器70での光強度は、配置角度が小さくなれば小さくなるほど(例えば配置角度が15度や30度の場合)、配置角度が大きいときの光強度に対して乖離が生じる傾向にあることが分かる。なお、前記配置角度が小さい検出器70を用いない場合には、この乖離が、タンパク質等の微粒子の分子量や回転半径の検出結果に対して、影響を与えるのが防止される。
【0056】
そこで、光散乱検出装置3は、配置角度の大小における光強度の乖離を防止するべく、前述したように、各アパーチャ板60の開口幅を配置角度によって異ならせるとともに、各スリット341の幅も配置角度によって異ならせる構成となっている。この場合、
図10Bに示すグラフのような結果が得られる。
図10Bに示すグラフから明らかなように、配置角度の大小によらず、各配置角度に対応する光強度のグラフは、互いにほぼ重なっており、前記乖離が生じるのが防止されている。これにより、検出器70の配置箇所によらず、タンパク質等の微粒子の分子量や回転半径を高精度に検出することができる。
【0057】
[第4実施形態]
次に、
図11を参照して、第4実施形態に係る光散乱検出装置4について説明する。
図11は、第4実施形態に係る光散乱検出装置の側面図である。前述した第3実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。また、第3実施形態と同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0058】
図11に示すように、第4実施形態に係る光散乱検出装置4は、各スリット341幅を微調整すべく、水平方向に回動可能に配されている点が、第3実施形態と異なる。すなわち、スリット板340には、例えば、鉛直方向の中心部に不図示の回動軸で支持されており、水平方向に回動可能に構成されている。スリット板340は、当該スリット板340を回動させるための回動装置410と、スリット板340の回動角を制御するための制御装置420と、を備える。
【0059】
回動軸は、例えば、ステッピングモータ等の回動装置410に接続され、回動軸を駆動することにより、スリット板340を回動させる。制御装置420は、回動装置410を駆動し、スリット板340の回動角を制御する。そして、各スリット板340に同じスリット板340を用いて、当該各スリット板340の回動角を制御することにより、当該各スリット板340の姿勢が変化する。これにより、各スリット341の幅を配置角度に応じて異ならせることができる。また、各スリット板340を回動させるよう構成されていることにより、各スリット341の幅の微調整も可能となる。
【0060】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
また、本発明の光散乱検出装置は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1、2、3、4…光散乱検出装置
10…試料セル
20…光源
30…検出光学系
40、340…スリット板
41、341…スリット
50…結像光学系
60、260…アパーチャ板
61…開口部
70…検出器
210、410…回動装置
220、420…制御装置
230…記憶部