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特許7140211外装パネルおよび外装パネルを備える自動車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】外装パネルおよび外装パネルを備える自動車
(51)【国際特許分類】
   B62D 29/04 20060101AFI20220913BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220913BHJP
   B62D 25/02 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B62D29/04 A
B32B15/08 E
B62D25/02 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020565172
(86)(22)【出願日】2020-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2020000267
(87)【国際公開番号】W WO2020145293
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2019001129
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】澤 靖典
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】茨木 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】古賀 敦雄
(72)【発明者】
【氏名】相藤 孝博
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123560(WO,A1)
【文献】特開平06-122940(JP,A)
【文献】特開2009-035814(JP,A)
【文献】特開2018-016171(JP,A)
【文献】特開平05-263189(JP,A)
【文献】特開平08-269621(JP,A)
【文献】国際公開第2013/077083(WO,A1)
【文献】特開2012-132734(JP,A)
【文献】特開平05-261167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/02,29/04
B32B 15/08
B60J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板、第1接着層、中間層、第2接着層、および補強層を含み、
前記鋼板と前記補強層とは、前記中間層を挟み、
前記第1接着層は、前記鋼板と前記中間層とを接着し、
前記第2接着層は、前記中間層と前記補強層とを接着し、
前記鋼板の厚みは、0.30~0.55mmであり、
前記鋼板の到達降伏応力は、350MPa以上であり、
前記補強層の面内方向における平均ヤング率をE、前記補強層の面内方向における平均単位幅当たりの断面二次モーメントをIとしたときに、単位幅当たりの曲げ剛性ΔEIが45N・mm以上であり、
前記中間層の厚みは、0.1~2.0mmである、
外装パネル。
【請求項2】
前記鋼板の厚みは、0.30~0.45mmであり、
前記鋼板の前記到達降伏応力は、510MPa以上である、
請求項1に記載の外装パネル。
【請求項3】
前記補強層は、繊維強化樹脂を備える、請求項1又は2に記載の外装パネル。
【請求項4】
前記補強層は、炭素繊維強化樹脂を備える、請求項3に記載の外装パネル。
【請求項5】
前記曲げ剛性ΔEIが600N・mm以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の外装パネル。
【請求項6】
前記補強層の降伏応力が100MPa以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の外装パネル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の外装パネルを備える、自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、外装パネルおよび外装パネルを備える自動車に関する。
本願は、2019年1月8日に、日本に出願された特願2019-001129号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車を軽量化する技術が求められている。自動車を構成するドア又はルーフなどの外装パネルを高強度化することができれば、当該外装パネルを薄くしても十分な強度を維持することができると考えられている。そこで、自動車の軽量化のために、自動車を構成する外装パネルを高強度化する技術の開発が進められている。
【0003】
しかし、外装パネルを薄くすると張り剛性不足と耐デント性不足の課題が顕在化する。張り剛性不足対策として例えば、特許文献1には、自動車を構成するドア又はルーフなどの外板部品における、凸状に湾曲したパネル面の内側にCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)の板材を接着することにより、当該外板部品の張り剛性を向上させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2018-16171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、耐デント性不足への対策は特に言及されていない。一方で、高い耐デント性を有する外装パネルが求められている。耐デント性とは、凹み痕など変形の残りにくさを示す特性である。例えば、小石又は指が自動車等の外板部材に当たったとき、当該外板部材の耐デント性が低いと、当該外板部材に凹み痕が残りやすい。
【0006】
耐デント性は、外装パネルの厚さを薄くすると、著しく低下する特性である。特許文献1に記載のように、CFRPの板材を外板部品の裏側に接着するだけでは、外板部品の耐デント性を十分に向上させることができない可能性がある。そこで、さらに耐デント性の高い外装パネルとともに、そのような外装パネルを備える自動車等が希求されていた。
【0007】
そこで、本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、軽量であり耐デント性の優れた外装パネル、及び当該外装パネルを備える自動車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は下記の通りである。
(1)本発明の第一の態様は、鋼板、第1接着層、中間層、第2接着層、および補強層を含み、前記鋼板と前記補強層とは、前記中間層を挟み、前記第1接着層は、前記鋼板と前記中間層とを接着し、前記第2接着層は、前記中間層と前記補強層とを接着し、前記鋼板の厚みは、0.30~0.55mmであり、前記鋼板の到達降伏応力は、350MPa以上であり、前記補強層の面内方向における平均ヤング率をE、前記補強層の面内方向における平均単位幅当たりの断面二次モーメントをIとしたときに、単位幅当たりの曲げ剛性ΔEIが45N・mm以上であり、前記中間層の厚みは、0.1~2.0mmである、外装パネルである。
(2)上記(1)に記載の外装パネルでは、前記鋼板の厚みは、0.30~0.45mmであり、前記鋼板の前記到達降伏応力は、510MPa以上であってもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の外装パネルでは、前記補強層は、繊維強化樹脂を備えてもよい。
(4)上記(3)に記載の外装パネルでは、前記補強層は、炭素繊維強化樹脂を備えてもよい。
(5)上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の外装パネルでは、前記曲げ剛性ΔEIが600N・mm以上であってもよい。
(6)上記(1)から(5)のいずれか一項に記載の外装パネルでは、前記補強層の降伏応力が100MPa以上であってもよい。
(7)本発明の第二の態様は、上記(1)から(6)のいずれか一項に記載の外装パネルを備える自動車である。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本開示によれば、軽量であり、耐デント性の優れた外装パネル、及び当該外装パネルを備える自動車が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係る自動車10を右側から見た図である。
図2】本開示の一実施形態に係るドア100を示す図である。
図3図2に示す領域111における一点鎖線I-I’に沿ったドアパネル110の断面の一部を拡大して示す図である。
図4】試験パネル200を上から見た図である。
図5図4に示す一点鎖線II-II’に沿った試験パネル200の断面を示す図である。
図6】鋼板のSSカーブを示す図である。
図7】試験パネル200の耐デント性を測定するための試験装置20を示す図である。
図8】ドアパネルに補強部材120が張り付けられる領域のバリエーションを示す図である。
図9】ドアパネルに補強部材120が張り付けられる領域のバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
まず、図1を参照して、本開示の一実施形態に係る自動車10について説明する。図1は、本開示の一実施形態に係る自動車10を右側から見た図である。自動車10には、ドアアウターパネル(本明細書では、単に「ドアパネル」と称する。)、ルーフパネル、フェンダーパネル、フードアウターパネル、又はリアゲートアウターパネルなどの各種の外装パネルが設けられている。
【0013】
一般に、自動車10の部材の強度(「引張強さ」ともいう。)を高めることにより、当該部材が薄い場合であっても、当該部材の強度を担保することができる。この結果、部材を薄肉化し、当該部材を軽量化することができる。しかし、部材が自動車の外装パネルである場合には、当該外装パネルの強度を高めても、当該外装パネルを薄肉化することができない。なぜなら、自動車の外装パネルに要求される張り剛性は、ヤング率に依存するからである。すなわち、外装パネルの強度を向上させても、張り剛性は向上しない。
【0014】
耐デント性は、部材の降伏応力が高くなると、改善される。すなわち、部材の強度が高くなると、耐デント性は改善される。しかし、部材全体の強度を維持しつつ外装パネルの板厚を薄くした場合、外装パネルの耐デント性は低下する。なぜなら、鋼板の強度は、耐デント性に線形(強度の1乗)で効く。これに対して、鋼板の板厚は、外装パネルの形状によっては、耐デント性に1~3乗で効くからである。
【0015】
なお、張り剛性とは、外装パネルのたわみにくさを表す特性である。例えば、自動車の外装パネルに手をついたとき、当該外装パネルの張り剛性が高いと、当該外装パネルはたわみにくい。また、耐デント性とは、上述のように、凹み疵のつきにくさを表す特性である。
【0016】
自動車を軽量化するために、外装パネルに極薄ハイテンを適用し、外装パネルを薄肉化する場合、外装パネルの張り剛性及び耐デント性の向上が課題となる。張り剛性の観点からは、鋼板に軽量素材を張り付けることによって、張り剛性を補てんすることができる。この場合、十分な張り剛性を担保しながら、従来よりも軽量な外装パネルを実現できる。しかし、単純に鋼板に軽量素材を張り付けるだけでは、耐デント性の向上を実現することはできない。
【0017】
本開示では、従来自動車パネルに使用されてきた鋼板よりも薄く(厚みは、0.30mm~0.55mm)かつ高強度の極薄ハイテンを適正に補強することによって、軽量であり極薄のハイテンを用いた、軽量であり優れた耐デント性を有する外装パネルを作製した。本実施形態では、外装パネルであるドアパネルに本開示に係る技術を適用し、軽量であり優れた耐デント性を有するドアパネルを作製した。
【0018】
以下、図2及び図3を参照して、ドアパネルの構成について説明する。
図2は、本開示の一実施形態に係るドア100を示す図である。ドア100は、ドアパネル110と、窓フレーム112とを備えている。
【0019】
ドアパネル110は、斜線で示された領域111の裏側に、補強部材(図2には図示しない)を備えている。ドアパネル110は、補強部材を備えることにより、優れた耐デント性を有している。また、図2の左側には、自動車10の前後方向及び上下方向と、その二つの方向から45°傾いた方向(二つの方向)を矢印で示している。
【0020】
図3は、図2に示す領域111における一点鎖線I-I’に沿ったドアパネル110の断面の一部を拡大して示す図である。ドアパネル110は、鋼板121と補強部材120とを含む。鋼板121と補強部材120とは、第1接着層122により接着されている。補強部材120は、中間層123、第2接着層124、および補強層125を含む。ここで、鋼板121は、ドアパネル110の表側を構成し、表面には塗料が塗布されている。鋼板121と補強層125とは、中間層123を挟んでいる。また、第1接着層122は、鋼板121と中間層123とを接着している。更に、第2接着層124は、中間層123と補強層125とを接着している。
【0021】
ドアパネル110が自動車10に組み込まれる際には、まず、例えば鋼板121が成形された後、塗装される。その後、鋼板121の表面に塗布された塗料を乾燥させるために、例えば170℃程度の温度で約20分加熱される。このとき、塗料が乾燥するとともに、かかる加熱により鋼板121の強度が高められる。その後、鋼板121の温度が例えば室温程度になった後に、鋼板121に補強部材120が接着される。より具体的には、鋼板121の裏面(車両内側面)に第1接着剤が塗布され、当該第1接着剤が塗布された面に中間層123が接着される。当該第1接着剤が固化すると、第1接着層122になる。更に、中間層123の鋼板121と反対側の面に第2接着剤が塗布され、当該第2接着剤が塗布された面に補強層125が接着される。当該第2接着剤が固化すると、第2接着層124になる。なお、予め中間層123と補強層125とが第2接着層124で接着された補強部材120を形成し、当該補強部材120を鋼板121に第1接着層122により接着してよい。
【0022】
ここで、鋼板121の厚みは、0.30mm~0.55mmである。鋼板121の厚みが0.55mm以下であることにより、ドアパネル110の軽量化を実現することができる。また、厚みが0.30mm未満の鋼板は、鋼板製造やプレス加工時の課題により製造が困難である。なお、鋼板121の厚みは、好ましくは0.30mm~0.45mmであり、より好ましくは0.35mm~0.45mmである。
【0023】
また、鋼板の到達降伏応力は、耐デント性に直接的に影響を与える特性である。本開示に係る鋼板の到達降伏応力は、350MPa以上である。鋼板121の到達降伏応力が350MPaであることにより、ドアパネル110の耐デント性が十分に高められる。鋼板121の到達降伏応力は、好ましくは410MPa以上であり、より好ましくは500MPa以上であり、更に好ましくは510MPa以上である。なお、到達降伏応力の定義の詳細については後述する。
【0024】
また、補強層125の面内方向における平均単位幅当たりの曲げ剛性ΔEI(以下、単に「曲げ剛性ΔEI」ともいう。)は、45N・mm以上である。ここで、曲げ剛性ΔEIは、下記の式(1)を用いて算出される値である。
【0025】
曲げ剛性ΔEI=平均ヤング率×平均断面二次モーメント/平均断面幅方向の長さ ・・・式(1)
【0026】
ここで、平均ヤング率は、補強層125の面内方向のヤング率の平均値である。より具体的には、平均ヤング率は、図2に示した4方向(自動車10の前後方向、上下方向、およびこの2つの方向に45°傾いた2つの方向)のヤング率の平均値である。
【0027】
また、平均断面二次モーメントは、面内方向における単位幅当たりの断面二次モーメントの平均値である。より具体的には、平均断面二次モーメントは、図2に示した4方向の単位幅当たりの断面二次モーメントの平均値である。
平均ヤング率は、外装パネルにおける縁部やキャラクタラインを避けてその近傍から試験片を採取し、対象部位を分離して測定することができる。
【0028】
曲げ剛性ΔEIが45N・mm以上であることにより、ドアパネル110の耐デント性を十分に高めることができる。45N・mmの根拠については、後述する実施例で説明する。曲げ剛性ΔEIの値は、好ましくは600N・mm以上であり、より好ましくは1000N・mm以上である。
【0029】
また、補強層125の平均板厚は、補強層125の体積を当該補強層125が中間層123に接着された面積で割ることにより算出される。補強層125の体積は、接触式又は非接触式の厚みゲージで補強層の複数個所を測定し、その平均を算出すればよい。
本実施形態では、補強層125の板厚に線状又は点状の凹凸があることを考慮して、このような方法で補強層125の平均板厚が測定される。なお、補強層125の板厚に線状又は点状の凹凸がありミクロ的には厚みが不均一である場合でもマクロ的には厚みは均一とみなすことができる。そのため、補強層125の平均板厚は補強層の全領域を対象に平均値を算出しなくても部分的領域(凹凸による厚みの変動周期よりも十分大きい領域)を対象に平均板厚を算出すればよい。
【0030】
また、補強層125の平均降伏応力S(以下、単に降伏応力と呼ぶ場合がある)は、100MPa以上であることが好ましい。降伏応力Sが100MPa以上であることにより、ドアパネル110の耐デント性を十分に高めることができる。降伏応力Sの値は、更に好ましくは150MPa以上である。
【0031】
補強層125の平均降伏応力Sは、自動車10の前後方向、上下方向、およびこの二つの方向に45°傾いた二つの方向の4方向における、補強層125の降伏応力の平均値である。なお、上記の4方向は、図2に示す4つの方向に対応している。降伏応力は、外装パネルにおける縁部やキャラクタラインを避けてその近傍から試験片を採取し、対象部位を分離して測定することができる。
【0032】
また、式(1)の平均断面幅方向長さとは、上記4つの方向の断面における幅方向の長さの平均値である。より詳細には、後述する実施例において説明する。
【0033】
ここで、中間層123が有する機能について説明する。例えば、自動車10のユーザの手がドアパネル110の表側を押したり、当該ユーザの指がドアパネル110の表側にぶつかったりした場合には、ドアパネル110の表面を構成する鋼板121に荷重がかかる。このとき、鋼板121に降伏応力を超えた応力集中が発生すれば、凹み痕がつく。中間層123が無く、鋼板121と補強層125の間に接着層しかない場合、凹み痕が付きやすい。荷重が小さい間は、中間層123が無くても接着状態が良好である。このため、鋼板121にかかる荷重により鋼板内に生じる応力が、接着層内のせん断応力を介して、補強層125に伝達される。しかし荷重が大きくなると、接着状態が不良となり、つまり局所的に接着はがれが生じる。そのため、デント痕が0.1mmに達するような大きな荷重域では、鋼板121に生じる応力を補強層125に伝達するために重要な接着層内のせん断応力が効果的に生じなくなる。したがって、ドアパネル110と補強層125の間に接着層しかない場合、鋼板121に生じた応力が伝達しにくいため、凹み痕が付きやすい。一方、鋼板121と補強層125の間に中間層123がある場合、凹み痕はつきにくい。中間層123はせん断応力によって、鋼板121にかかる荷重により生じる応力を、鋼板121と補強層125の双方に効率的に分散させることで、鋼板121の応力集中の発生を緩和する。この結果、鋼板121に凹み痕がつきにくくなる。すなわち、ドアパネル110の耐デント性が向上する。
【0034】
中間層123の材質は、特に限定されないが、各種の公知の樹脂であってもよい。中間層123の平均ヤング率は、5MPa~5000MPaであることが好ましい。そうであれば、中間層123は荷重が負荷されても剥がれにくく、なおかつせん断応力によって鋼板121から補強層125に応力を伝達しやすい。そのため、鋼板121に応力集中が生じにくくなる。この結果、ドアパネル110に凹み痕などのデント痕が残りにくくなる。
【0035】
ここで、中間層123の厚みは、0.1mm~2.0mmである。中間層123の厚みが2.0mm以上であると、中間層123内にせん断応力が生じにくくなるため、中間層123が、鋼板121に生じる応力を補強層125に効果的に伝達することができなくなる。そのため、荷重により生じる応力を、鋼板121と補強層125の双方に効果的に分散できなくなる。このため、外装パネルの表面に荷重が加わると、補強層125が変形せず、鋼板121が変形し易くなる。このため、優れた耐デント性を有するドアパネル110を得ることができない。また、厚み0.1mm未満の中間層123を高品質に製造することが難しい。なお、中間層123の厚みは、好ましくは0.1mm~1.0mmであり、より好ましくは0.1mm~0.5mmである。
【0036】
鋼板121の厚みは、0.30mm~0.45mmであり、当該鋼板121の到達降伏応力が、510MPa以上であることが好ましい。この場合、鋼板121の厚みが0.45mm以下であるため、鋼板121の総重量が軽くなる。その結果、ドアパネル110が軽量化される。また、鋼板121の到達降伏応力が510MPa以上であるため、デント痕の残る応力集中の水準が高い。すなわち、耐デント性に有利である。つまり、鋼板121の厚みが0.30mm~0.45mmであり、当該鋼板121の到達降伏応力が510MPa以上であることにより、より軽量で、優れた耐デント性を有するドアパネル110を得ることができる。
【0037】
また、補強層125は、繊維強化樹脂(「FRP(:Fiber Reinforced Plastic)」とも称する。)を備えていることが好ましい。繊維強化樹脂は、一般に降伏応力が高いため、補強層125が繊維強化樹脂を備えることにより、鋼板121から荷重により生じる応力が伝達されたときに、補強層125が塑性変形することが抑止される。この結果、鋼板121に生じる応力が十分に補強層125に伝達されるようになるため、より優れた耐デント性を有するドアパネル110を得ることができる。なお、補強層125の全部が繊維強化樹脂であってもよいし、補強層125の一部が繊維強化樹脂であってもよい。補強層125の一部が繊維強化樹脂である場合には、補強層125の繊維強化樹脂以外の部分は、強化繊維材料を含まない各種の公知の樹脂であってもよい。
【0038】
また、補強層125は、炭素繊維強化樹脂(「CFRP」とも称する。)を備えていることが好ましい。炭素繊維強化樹脂は、一般に繊維強化樹脂の中でもより高い降伏応力を有する。このため、補強層125が炭素繊維強化樹脂を備えることにより、鋼板121から荷重により生じる応力が伝達されたときに、補強層125が塑性変形することがより抑止される。この結果、鋼板121に生じる応力がより十分に補強層125に伝達され、鋼板121にデント痕が形成されることが抑止される。つまり、補強層125が炭素繊維強化樹脂を備えることにより、より優れた耐デント性を有するドアパネル110を得ることができる。なお、補強層125の全部が炭素繊維強化樹脂であってもよいし、補強層125の一部が炭素繊維強化樹脂であってもよい。補強層125の一部が炭素繊維強化樹脂である場合には、補強層125の炭素繊維強化樹脂以外の部分は、強化繊維材料である炭素繊維を含まない繊維強化樹脂であってもよいし、強化繊維材料を含まない各種の公知の樹脂であってもよい。
【0039】
ここで、補強層125に用いられるFRPについて補足する。
【0040】
補強層125に用いられ得るFRPは、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に含有され、複合化された強化繊維材料からなる樹脂を意味する。
【0041】
強化繊維材料としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維を用いることができる。他にも、強化繊維材料として、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、アラミド繊維等を用いることができる。補強層125に用いられるFRPにおいて、強化繊維材料の基材となる強化繊維基材としては、例えば、連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)等を使用することができる。これらの強化繊維基材は、強化繊維材料の配向性の必要に応じて、適宜選択され得る。
【0042】
CFRPは、強化繊維材料として炭素繊維を用いたFRPである。炭素繊維としては、例えば、PAN系またはピッチ系のものが使用できる。CFRPの炭素繊維は弾性率が高いピッチ系炭素繊維であることが好ましい。ピッチ系炭素繊維を含むCFRPを備えた補強層125によれば、より高い反力を得ることができ、張り剛性を向上させることができる。
【0043】
GFRP(Glass Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、強化繊維材料としてガラス繊維を用いたFRPである。
【0044】
FRPに用いられるマトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれも使用することができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、並びにビニルエステル樹脂等があげられる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)およびその酸変性物、ナイロン6およびナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタラート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、塩化ビニル、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、並びにフェノキシ樹脂等があげられる。なお、マトリックス樹脂は、複数種類の樹脂材料により形成されていてもよい。
【0045】
鋼板への適用を考慮すると、加工性、生産性の観点から、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。さらに、マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を用いることで、強化繊維材料の密度を高くすることができる。また、フェノキシ樹脂は熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂と分子構造が酷似しているためエポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有する。また、硬化成分をさらに添加することにより、高温環境への適用も可能となる。硬化成分を添加する場合、その添加量は、強化繊維材料への含浸性、FRPの脆性、タクトタイムおよび加工性等とを考慮し、適宜決めればよい。
【0046】
次に、第1接着層122及び第2接着層124(以下、これらをまとめて単に「接着層」ともいう。)について補足する。
【0047】
接着層を形成する接着樹脂組成物の種類は特に限定されない。例えば、接着樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれかであってもよい。熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンおよびその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタラートやポリブチレンテレフタラート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、並びにポリエーテルケトンケトン等から選ばれる1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0048】
接着樹脂組成物は、補強層125が備えるFRPを構成するマトリックス樹脂の特性、補強層125の特性、中間層123の特性、または鋼板121の特性に応じて適宜選択され得る。例えば、接着樹脂層として極性のある官能基を有する樹脂や酸変性などを施された樹脂を用いることで、接着性が向上する。
【0049】
このように、上述した接着樹脂層を用いて中間層123を鋼板121に接着させることにより、中間層123と鋼板121との密着性を向上させることができる。そうすると、鋼板121に対し荷重が入力された際の、補強層125の変形追従性を向上させることができる。この場合、鋼板121の変形に対する補強層125の効果をより確実に発揮させることが可能となる。
【0050】
なお、接着樹脂層を形成するために用いられる接着樹脂組成物の形態は、例えば、粉体、ワニス等の液体、フィルム等の固体とすることができる。
【0051】
また、接着樹脂組成物に架橋硬化性樹脂および架橋剤を配合して、架橋性接着樹脂組成物を形成してもよい。これにより接着樹脂組成物の耐熱性が向上するため、高温環境下での適用が可能となる。架橋硬化性樹脂として、例えば2官能性以上のエポキシ樹脂や結晶性エポキシ樹脂を用いることができる。また、架橋剤として、アミンや酸無水物等を用いることができる。また、接着樹脂組成物には、その接着性や物性を損なわない範囲において、各種ゴム、無機フィラー、溶剤等その他添加物が配合されてもよい。
【0052】
中間層123の鋼板121への複合化は、種々の方法により実現される。例えば、中間層123となる樹脂と、鋼板121とを、上述した接着樹脂組成物で接着し、該接着樹脂組成物を固化(または硬化)させることで得られる。この場合、例えば、加熱圧着を行うことにより、中間層123と鋼板121とを複合化させることができる。
【0053】
また、中間層123の鋼板121への接着は、部品の成形後に行われ得る。例えば、被加工材である金属材料を所望の形状を有する鋼板121に成形した後に、中間層123を該鋼板121に接着してもよい。
【0054】
<鋼板121およびその表面処理>
本開示に係る鋼板121は、めっきされていてもよい。これにより、耐食性が向上する。めっきの種類は特に限定されず、公知のめっきを用いることができる。例えば、めっき鋼板として、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn-Ni系合金めっき鋼板等が用いられ得る。
【0055】
また、鋼板121は、表面に化成処理とよばれる皮膜が被覆されていてもよい。これにより、耐食性がより向上する。化成処理として、一般に公知の化成処理を用いることができる。例えば、化成処理として、りん酸亜鉛処理、クロメート処理、クロメートフリー処理等を用いることができる。また、上記皮膜は、公知の樹脂皮膜であってもよい。
【0056】
また、鋼板121は、一般に公知の塗装が施されているものであってもよい。これにより、耐食性がより向上する。塗装として、公知の樹脂を用いることができる。例えば、塗装として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはふっ素系樹脂等を主樹脂としたものを用いることができる。また、塗装には、必要に応じて、一般に公知の顔料が添加されていてもよい。また、塗装は、顔料が添加されていないクリヤー塗装であってもよい。かかる塗装は、FRP部材を複合化する前に予め鋼板に施されていてもよいし、FRP部材を複合化した後に鋼板121に施されてもよい。また、予め鋼板121に塗装が施されたのちに中間層123が複合化され、さらにその後塗装が施されてもよい。塗装に用いられる塗料は、溶剤系塗料、水系塗料または粉体塗料等であってもよい。塗装の施工方法として、一般に公知の方法が適用され得る。例えば、塗装の施工方法として、電着塗装、スプレー塗装、静電塗装または浸漬塗装等が用いられ得る。電着塗装は、鋼板121の端面や隙間部を被覆するのに適しているため、塗装後の耐食性に優れる。また、塗装前に鋼板121の表面にりん酸亜鉛処理やジルコニア処理等の一般に公知の化成処理を施すことにより、塗膜密着性が向上する。
【実施例
【0057】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本開示に係るドアパネル110について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本開示に係るドアパネル110のあくまでも一例にすぎず、本開示に係るドアパネル110が下記の例に限定されるものではない。
【0058】
まず、実施例及び比較例では、図4及び図5に示す形状を有する試験パネル200が用意される。図4は、試験パネル200を上から見た図である。試験パネル200は、一枚の板で構成され、正方形の板である平部202の中央に略正方形状の凸部201を有している。当該凸部201の一辺の長さLは、400mmである。また、凸部201の中心203は、後述する試験装置により荷重が加えられ、デント痕が形成される位置である。なお、図4に示す4つの方向は、図2に示す4つの方向に対応している。より具体的には、x方向が図2に示す前方向、y方向が図2に示す上方向に対応している。図5は、図4に示す一点鎖線II-II’に沿った試験パネル200の断面を示す図である。平部202の上面から凸部201の上面までの高さhは、31mmである。
【0059】
実施例では、まず、鋼板をプレス成形する処理(以下、「成形処理」ともいう。)する。その結果、図4及び図5に示す形状の鋼板が成形される。次に、成形された鋼板を170℃で20分間加熱処理する。その後、加熱処理された鋼板の片側面に、中間層と補強層とを接着剤により接着する。このようにして、実施例に係る試験パネル200が作製される。なお、プレス成形により生成される鋼板の相当塑性ひずみ量は、約3%で一定である。
【0060】
本開示が想定している外装パネルは、完成した自動車に取り付けられた外装パネルである。一般に、外装パネルは、自動車に取り付けられた後、焼き付け塗装される。このため、実施例では、鋼板に上述のような加熱処理が施される。また、この加熱処理により鋼板のSS(Stress Strain)カーブが変化する。
【0061】
図6を参照して、鋼板のSSカーブについて説明する。図6には、横軸に公称ひずみ、縦軸に公称応力を示している。図6には、加熱処理前の鋼板に係るSSカーブが、第1カーブC1として実線で示されている。また、公称ひずみe1を付与後に加熱処理した後の鋼板に係るSSカーブが、第2カーブC2として破線で示されている。第1カーブC1と第2カーブC2とは、いずれも所定の公称ひずみで応力が極大をもっている。例えば、第1カーブC1では、公称ひずみe2で応力が極大値をとる。なお、このときの極大値を、TS(Tensile Strength)という。また、鋼板の塑性変形が開始する応力(第1カーブC1では、公称ひずみがe0のときの応力)を、YP(Yield Point)という。
【0062】
ここで、鋼板は、例えば成形処理により塑性変形しており、このときの鋼板の公称ひずみがe1であるとする。このときの鋼板における公称応力からYPを差し引いた値をWH量という。鋼板に公称ひずみe1を付与後に、加熱処理が施されると、鋼板のSSカーブは、第1カーブC1から第2カーブC2に変化する。このときの加熱処理による鋼板における降伏応力の変化量をBH量という。さらに、YPとWH量とBH量との和を到達降伏応力という。この到達降伏応力は、外装パネルの耐デント性に直接的に効く特性である。上述のように、350MPa以上の到達降伏応力を有する鋼板を用いることにより、軽量であり耐デント性に優れた外装パネルを作製することができる。
【0063】
次に、図7を参照して、試験パネル200の耐デント性を測定する方法について説明する。図7は、試験パネル200の耐デント性を測定するための試験装置20を示す図である。試験装置20は、パネル固定部210と荷重部220とデント痕測定機231とを備える。パネル固定部210は、試験パネル200を固定する。荷重部220は、試験パネル200に荷重を加えることが可能である。デント痕測定機231は、試験パネル200に形成されるデント痕の深さを測定することが可能である。
【0064】
試験の際、試験パネル200は、パネル固定部210が備える試験台211の上面に置かれる。このとき、当該試験パネル200の端部が留め具212a及び212bにより試験台211に固定される。このようにして、試験パネル200は、試験台211に固定されている。また、試験パネル200の凸部の中央には、デント痕測定機231に接続された接続線232が固定されている。デント痕測定機231は、接続線232を介して、試験パネル200に形成されるデント痕の深さを測定する。
【0065】
荷重部220は、2本の支柱221a及び221bを備える。これら2本の支柱221a及び221bは、接続部222により接続される。接続部222の中央には、圧子棒224を上下に稼働可能とする圧子棒保持部223が設けられている。圧子棒224には、圧子棒保持部223の上で支持される被保持部225が設けられている。圧子棒224がモーター機構等によって下向きに動くことによって、圧子棒224の先端に設けられた、鋼製で半径25mmの圧子226が下に降りる。圧子226の先端が、試験パネル200の凸部の略中央の上面の中心に接触し、当該上面の中心に所定の一定値に制御された荷重がかかることにより、試験パネル200にデント痕が形成される。
【0066】
ここで、試験パネル200にかかる荷重が大きくなるほど、試験パネル200に形成されるデント痕が深くなる。本実施形態では、0.1mmの深さのデント痕が形成されるときの試験パネル200にかかる荷重の大きさを用いて、試験パネル200の耐デント性を評価する。
【0067】
ここでは、耐デント性の優劣を分かりやすくするために、厚さが0.65mmであり、JAC340Hの規格の鋼板を基準の試験パネル200とする。つまり、基準となる試験パネル200は、中間層及び補強層を備えておらず、鋼板のみで構成されている。また、後述するように、当該試験パネル200は、比較例1に係る試験パネル200である。当該試験パネル200に0.1mmのデント痕が形成されるときに、当該試験パネル200にかかった荷重の値を基準値として、耐デント性を評価した。より具体的には、試験パネル200に0.1mmの深さのデント痕が形成されるときの荷重を基準値で割った値を、デント値とする。
【0068】
以下、実施例及び比較例では、1.0以上のデント値を有する試験パネル200を、優れた耐デント性を有する試験パネル200として評価する。さらに、1.2以上のデント値を有する試験パネルを、より優れた耐デント性を有する試験パネル200として評価する。一方、1.0未満のデント値を有する試験パネル200を、不芳な耐デント性を有する試験パネルとして評価する。さらに、0.8未満のデント値を有する試験パネル200を、より不芳な耐デント性を有する試験パネルとして評価する。
【0069】
以下、実施例と比較例との評価結果を説明する。表1には、実施例と比較例に係る試験パネル200の作製条件と、当該試験パネルのデント値及び重量比とを示す。表1において、実施形態の要件を満たさない値には下線を付している。
【0070】
(比較例1)
比較例1では、到達降伏応力が303MPa、厚みが0.65mmの鋼板を試験パネル200として、デント値(「Dent値」とも称する。)を測定した。上述のように当該試験パネル200のデント値を1.0とする。また、以下の実施例及び比較例では、当該試験パネル200の重量を1として、試験パネル200の重量比を計算する。試験パネル200の重量比が1よりも小さい場合に、当該試験パネルの重量が軽量化されていると判定する。なお、重量比は、試験パネル200が備える鋼板の片面の50%の面積の領域に、中間層及び補強層が接着されているものとして計算する。
【0071】
(比較例2)
比較例2では、鋼板の厚みを0.40mmに変更し、到達降伏応力が比較例1に係る鋼板の到達降伏応力よりも高い鋼板を適用したこと以外は、試験パネル200の条件は比較例1と同一である。比較例2に係る鋼板の厚みは、比較例1に係る鋼板の厚みに比べて薄くなっている。このため、比較例2に係る試験パネル200は、比較例1に係る試験パネルよりも軽量化されている。また、比較例2のデント値は0.90である。比較例2は、鋼板の到達降伏応力が比較例1に係る鋼板の到達降伏応力より高くなっているものの、鋼板が薄い。このため、比較例2は十分な耐デント性を得ることができなかった。
【0072】
このように、鋼板のみで構成された試験パネル200では、鋼板の厚みを薄くすると優れた耐デント性が得られない。そこで、本開示では、鋼板に中間層及び補強層を接着することにより、耐デント性に優れた試験パネル200を得た。詳細には、実施例を用いて後述する。
【0073】
(比較例3)
比較例3では、比較例2に係る試験パネル200として用いられた鋼板に、補強層として、平均板厚が0.2mm、曲げ剛性ΔEIが47N・mm、ヤング率が70000MPaのCFRP(CFRP1)を張り付けた、試験パネル200を作製した。なお、曲げ剛性ΔEIの算出には、平均断面幅方向長さとして、試験パネル200の中心203における補強層を通る、図4に示した凸部201の補強層における4方向の断面に係る幅方向の長さの平均値を用いた。比較例3に係る試験パネル200には補強層が張り付けられているが、比較例3に係る試験パネル200のデント値は、0.93であり十分な高さのデント値ではなかった。
【0074】
(実施例1)
実施例1では、図3に示した断面構造を有している。つまり、実施例1に係る試験パネルは、鋼板と補強層とで、中間層を挟み込んだ構造を有している。なお、鋼板と中間層とは、第1接着層により接着されている。また、中間層と補強層とは、第2接着層により接着されている。ここで、第1接着層と第2接着層には、アクリル樹脂が用いられている。また、鋼板の条件は、到達降伏応力が420MPa、厚みが0.50mmである。また、中間層の条件は、ヤング率Eが50MPa、厚みが1.3mm、材質がポリウレアである。さらに、補強層の条件は、平均降伏応力が1000MPa、平均板厚が0.2mm、曲げ剛性ΔEIが47N・mm、材質が、ヤング率70000MPaのCFRP(CFRP1)である。
【0075】
比較例3では、鋼板と補強層とで試験パネルが構成されている。実施例1では、鋼板と補強層との間に、中間層が設けられている点が比較例3と相違する。実施例1では、中間層があるため、鋼板に荷重が負荷されるとき、鋼板121と補強層125の双方に、応力が効率的に分散される。すなわち、応力集中が緩和される。このため、鋼板にデント痕が残りにくくなる。つまり、試験パネル200の耐デント性が向上する。
【0076】
実施例1に係る試験パネルでは、デント値が1.4、重量比が0.93であった。このため、実施例1に係る試験パネル200は、軽量であり耐デント性に優れた試験パネル200であるといえる。実施例1では、到達降伏応力が420MPaの鋼板を用いている。一方で、発明者らは中間層および補強層を適用した場合、鋼板の到達降伏応力は耐デント性に対して1.0乗よりも影響が小さいことがわかっている。したがって、実施例1以降の実施例において、到達降伏応力が350MPa以上の鋼板を用いると、軽量であり耐デント性に優れた試験パネルが実現できる。
【0077】
(実施例2~6、11)
実施例2に係る試験パネル200は、実施例1と同様に、図3に示す断面構造を有している。中間層の条件は、実施例1と同一である。実施例3は、補強層の厚みが1.0mm、曲げ剛性ΔEIが5833N・mmである点で実施例1と相違する。また、実施例2は鋼板の厚みが0.40mmであり、到達降伏応力が540MPaである点も、実施例1と相違する。すなわち、実施例2の鋼板は実施例1の鋼板より薄く、到達降伏応力が高い。実施例2に係る試験パネルの重量比は0.89である。すなわち、実施例2は、実施例1係る試験パネルの重量比よりも改善されている。
【0078】
また、実施例2に係る試験パネル200のデント値は1.9であり、実施例2に係る試験パネル200は優れた耐デント性を有している。これは、鋼板にかかる応力が中間層を介して補強層に効率的に分散されることと、鋼板の到達降伏応力が540MPa以上という高い値を有していることから鋼板に塑性変形が生じる応力集中の水準が高くなっていること、とが要因となっていると考えられる。
【0079】
実施例3~6に係る試験パネル200と実施例2に係る試験パネル200との相違点は、中間層の厚みである。実施例3~6では、中間層の厚みが0.1mm~1.7mmの範囲内にある。この中間層の厚みの範囲では、中間層の厚みが薄くなるほど、試験パネル200の耐デント性が向上した。なお、実施例6のデント値は、実施例2~5に係る中間層の厚みとデント値との関係を用いて、外挿することで算出された値である。
【0080】
試験パネル200のデント値が2.1以上であれば、かかる試験パネルは、例えば比較例1に係る試験パネルの耐デント性に対して格段に優れる耐デント性を有しているといえる。そこで、本実施形態では、デント値を最大2.1まで測定している。また、表1の実施例4~6では、デント値として2.1の値が測定又は算出されたため、デント値が2.1以上であるとしている。
【0081】
実施例2~6では、中間層の厚みが薄くなるにつれて、デント値が高くなる傾向がみられた。このため、実施例2~6に係る中間層の厚みの中で、最も薄い厚みである0.1mmよりも薄い厚みを有する中間層を用いることが考えられる。しかし、0.1mm未満の中間層を高品質に製造することは困難である。中間層の厚みを0.1mm以上とすることにより、優れた耐デント性が高い外装パネルを得ることができる。
【0082】
更に、実施例11に係る試験パネル200と実施例5に係る試験パネル200とを比較すると、実施例11は、補強層の厚みが0.6mm、曲げ剛性ΔEIが1260N・mmである点で実施例5と相違する。
この実施例11では、実施例5と比較して補強層の厚みが小さく、曲げ剛性ΔEIが低いものの、デント値は1.3、重量比は0.86である。従って、軽量であり耐デント性に優れた試験パネル200であるといえる。
【0083】
(比較例4~6)
比較例4~6では、いずれも中間層の厚みが3.0mmである。比較例4~6に係る試験パネル200のその他の条件は、表1に記載の通りである。比較例4~6に係る試験パネルは、いずれもデント値が1.0を下回っている。つまり、優れた耐デント性を有する試験パネル200を得ることができなかった。これは、中間層の厚みが、2.0mmを超えており、厚すぎることが原因であると考えられる。より具体的には、中間層の厚みが厚すぎるため、鋼板にかかった応力が、中間層内にせん断応力が充分に生じず、十分に補強層に伝達されないことが考えられる。
【0084】
(実施例7)
実施例7では、実施例1~6等の他の実施例と異なり、中間層の材質がポリウレアではなく、ポリカーボネートである。中間層の材質がポリカーボネートであっても、軽量であり耐デント性に優れた試験パネル200が作製された。
【0085】
(実施例8、9)
実施例8及び9は、補強層の厚みが、実施例2~7と相違する。実施例8及び9の補強層の厚みは0.2mmであり、実施例1の補強層の厚みと同じである。すなわち、実施例8及び9の補強層の厚みは薄い。補強層の厚みが0.2mmであっても、実施例8及び9に係る試験パネル200は、軽量であり優れた耐デント性を有している。
【0086】
また、実施例1、8及び9の補強層の曲げ剛性ΔEIは47N・mmである。これは全実施例における曲げ剛性ΔEIの中で、最も低い値である。実施例1、8及び9に係る試験パネル200のデント値は、1.1又は1.4である。すなわち、これらの実施例に係る試験パネル200は、優れた耐デント性を有している。これらの実施例に係る試験パネル200のデント値が1.1又は1.4であることを考慮すると、曲げ剛性ΔEIが47N・mmよりも少し低い45N・mm以上であれば、優れた耐デント性を有する外装パネルを得られることが推測される。
【0087】
(実施例10)
実施例10では、補強層の材質がヤング率17500MPaのGFRPである。補強層がGFRPであっても、デント値は1.2、重量比が0.70の試験パネル200が得られた。つまり、軽量であり、優れた耐デント性を有する試験パネル200を得ることができた。
【0088】
以上のように、鋼板の厚みを0.30mm~0.55mm、到達降伏応力を350MPa以上、曲げ剛性ΔEIを45N・mm以上、中間層の厚みを0.1mm~2.0mmとすることにより、軽量であり耐デント性に優れたドアパネル110を作製することができる。
【0089】
また、実施例2~11のように、鋼板の厚みを0.45mm未満、鋼板の到達降伏応力を510MPa以上とすることにより、優れた耐デント性を有し、かつ、より軽量化された外装パネルを提供することができる。
【0090】
(実施例12)
実施例12は、補強層としてヤング率8750MPaのCFRP(CFRP2)を用いた例である。この実施例12のように、鋼板の厚みを0.30mm~0.55mm、到達降伏応力を350MPa以上、曲げ剛性ΔEIを45N・mm以上、中間層の厚みを0.1mm~2.0mmとし、且つ、補強層の降伏応力を100MPa以上とすることにより、優れた耐デント性を有し、かつ、より軽量化された外装パネルを提供することができる。
【0091】
(比較例7)
比較例7では、補強層の平均板厚が0.1mm、曲げ剛性ΔEIが5.8N・mmである。従って、比較例7の補強層の曲げ剛性ΔEIは、45N・mm未満である。このため、鋼板に荷重がかかり、中間層を介して荷重が補強層に伝達されると、補強層が塑性変形してしまう場合がある。この結果、塑性変形した補強層には、鋼板にかかる荷重が十分に補強層に伝達されない。比較例7に係る試験パネルのデント値は、0.90であり、優れた耐デント性を有する試験パネル200を得ることができなかった。
【0092】
(比較例8)
比較例8では、鋼板の到達降伏応力が330MPaである。すなわち、比較例8の鋼板の到達降伏応力は350MPaを下回っている。このため、当該鋼板を備える試験パネルにはデント痕が残りやすい。比較例8の試験パネル200のデント値は、0.70である。比較例8では、優れた耐デント性を有する試験パネル200を得ることができなった。
【0093】
【表1】
【0094】
以上、表1および添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明した。本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、本開示の技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかである。これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0095】
例えば、補強部材120が鋼板に張り付けられる領域は、図2の例に限られない。補強部材120が張り付けられる領域の変形例について、図8及び図9を参照して説明する。図8及び図9は、ドアパネルに補強部材120が張り付けられる領域のバリエーションを示す図である。図8に示す例では、ドア101のドアパネル113の上から略2/3までの領域130までに補強部材が設けられている。一般的に、自動車のユーザは、ドアパネル113の上から略2/3の領域130をよく触るため、当該領域に補強部材が設けられることにより、有効にドアパネル113に凹み痕が生じることが抑止される。また、図9に示すように、複数の領域に分割して補強部材が設けられてもよい。図9に示す例では、ドア102のドアパネル114における8つの領域140(140a~140h)に分割して8枚の補強部材が設けられているが、これに限らず、2~6つの領域に分割して2~6枚の補強部材が設けられてもよいし、9つ以上の領域に分割して9枚以上の補強部材が設けられてもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、本開示にかかる技術がドアパネル110に適用された。これに限らず、本開示にかかる技術は、ルーフパネル、フェンダーパネル、フードアウターパネル、又はリアゲートアウターパネルなどの各種の外装パネルに適用され得る。また、本開示にかかる技術は、自動車の他、耐デント性が求められる製品にも適用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、軽量であり、耐デント性の優れた外装パネル、及び当該外装パネルを備える自動車が提供される。
【符号の説明】
【0098】
10 自動車
100 ドア
110 ドアパネル
121 鋼板
122 第1接着層
123 中間層
124 第2接着層
125 補強層
20 試験装置
200 試験パネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9