(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】ROシステムの制御方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/12 20060101AFI20220913BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B01D61/12
C02F1/44 A
(21)【出願番号】P 2021030480
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2022-02-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520253410
【氏名又は名称】Fracta Leap株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 修平
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-067968(JP,A)
【文献】特開2010-162501(JP,A)
【文献】特開2004-216225(JP,A)
【文献】特開2000-246070(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108079791(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列された複数のRO装置と、該RO装置の稼働処理および停止処理を含む発停処理を制御する制御部とを有するROシステムの制御方法において、
発停により処理能力が回復しやすいRO装置ほど発停回数が多くなるように制御することを特徴とするROシステムの制御方法。
【請求項2】
各RO装置の発停処理の履歴を記憶し、
発停処理の履歴に基づいて、稼働させる前記RO装置の優先順位を決定することを特徴とする請求項1のROシステムの制御方法。
【請求項3】
各RO装置の膜処理性能の履歴を、各RO装置の発停処理の履歴と関連づけて記憶し、
前記発停処理の履歴および前記膜処理性能の履歴に基づいて、前記発停処理により見込まれる前記膜処理性能の回復度合を、前記RO装置ごとに推定し、
前記発停処理により見込まれる前記回復度合が大きい前記RO装置の優先順位を上位に決定することを特徴とする請求項2のROシステムの制御方法。
【請求項4】
前記RO装置に給水する給水ポンプの出口圧力又は消費電力を計測し、
前記出口圧力又は前記消費電力が大きい前記RO装置の優先順位を上位に決定することを特徴とする請求項3のROシステムの制御方法。
【請求項5】
前記
発停処理により見込まれる前記膜処理性能の回復度合の推定結果に基づいて、駆動時における前記発停処理の回数を決定し、
前記膜処理性能の回復効率の指標となる発停回数対効果が高くなるように、所定時間における発停回数を決定することを特徴とする請求項3又は4のROシステムの制御方法。
【請求項6】
各RO装置の現時点の膜処理性能を計測し、
現時点の膜処理性能に基づいて前記RO装置の優先順位を決定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかのROシステムの制御方法。
【請求項7】
並列された複数のRO装置を有する水処理システムを制御するプログラムであって、
前記RO装置の稼働処理および停止処理を含む発停処理を制御する制御命令と、
各RO装置の発停処理の履歴を記憶する記憶命令と、
前記発停処理の履歴に基づいて、稼働させる前記RO装置の優先順位を決定する優先順位決定命令と、
をコンピュータに実行させる、水処理システムの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はROシステムの制御方法に係り、特に並列に設置された複数のRO装置を有するROシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RO(逆浸透)膜にファウリングが生じると、給水圧力が上昇し、給水ポンプの消費電力が増大する。そのため、ファウリングを除去するために薬品洗浄を行うことがある。しかしながら、薬品洗浄は、時間および費用がかかる上、膜を劣化させ、膜の寿命を短くする。
【0003】
薬品洗浄は、ファウリングの中でも有機物ファウリングおよび微生物(バイオ)ファウリングを対象にしている。一方、RO膜には懸濁物質(SS、Suspended Solid)によるSSファウリング等の物理的なファウリングも生じている。
【0004】
そこで、薬品洗浄の回数を極力抑えながら、簡素な構成でRO膜のファウリングを抑制し、水処理システムの処理効率を担保できることが望ましい。
【0005】
RO膜を有するRO装置の目詰り防止方法として、特許文献1には、被処理水を濾過する過程で逆浸透膜部に発生した懸濁物質濃縮排水を、通水積算時間毎にブローする方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、膜詰まりの程度に基づいて、複数の並列された濾過装置のうち、稼働させる濾過装置の優先順位を設定することが記載されている。なお、特許文献2の0064段落には、膜をエア洗浄することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-279461号公報
【文献】特開2016-067968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、薬品の使用量や膜の交換回数を減らすことにより、消費電力(すなわちCO2)と廃棄物の量を削減することができると共に、安定した運転ができ、省エネに貢献するROシステムの制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のROシステムの制御方法は、並列された複数のRO装置と、該RO装置の稼働処理および停止処理を含む発停処理を制御する制御部とを有するROシステムの制御方法において、発停により処理能力が回復しやすいRO装置ほど発停回数が多くなるように制御することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様では、各RO装置の発停処理の履歴を記憶し、発停処理の履歴に基づいて、稼働させる前記RO装置の優先順位を決定する。
【0011】
本発明の一態様では、各RO装置の膜処理性能の履歴を、各RO装置の発停処理の履歴と関連づけて記憶し、前記発停処理の履歴および前記膜処理性能の履歴に基づいて、前記発停処理により見込まれる前記膜処理性能の回復度合を、前記RO装置ごとに推定し、前記発停処理により見込まれる前記回復度合が大きい前記RO装置の優先順位を上位に決定する。
【0012】
本発明の一態様では、前記RO装置に給水する給水ポンプの出口圧力又は消費電力を計測し、前記出口圧力又は前記消費電力が大きい前記RO装置の優先順位を上位に決定する。
【0013】
本発明の一態様では、前記発停有効性の推定結果に基づいて、駆動時における前記発停処理の回数を決定し、発停回数対効果が高くなるように、所定時間における発停回数を決定する前記発停有効性の推定結果に基づいて、駆動時における前記発停処理の回数を決定し、発停回数対効果が高くなるように、所定時間における発停回数を決定する。
【0014】
本発明の一態様では、各RO装置の現時点の膜処理性能を計測し、現時点の膜処理性能に基づいて前記RO装置の優先順位を決定する。
【0015】
本発明の一態様のプログラムは、並設された複数のRO装置を有する水処理システムを制御するプログラムであって、前記RO装置の稼働処理および停止処理を含む発停処理を制御する制御命令と、各RO装置の発停処理の履歴を記憶する記憶命令と、前記発停処理の履歴に基づいて、稼働させる前記RO装置の優先順位を決定する優先順位決定命令と、をコンピュータに実行させる、水処理システムの制御プログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、簡素な構成でROシステムの処理効率を担保することができる。本発明は、薬品洗浄を行わずに、RO膜装置の停止および稼働、あるいは各流路の流量調整を行うことでファウリング除去を行うので、特別なハードウェア構成を付加しなくても、ソフト的にファウリング除去が可能であり、構成がシンプルである。
【0017】
なお、運転計画に含まれる発停動作においてもファウリングが除去されることから、運転計画の中で行われた発停動作の履歴をも考慮して発停処理を計画することにより、意図的にブロー処理を行う特許文献1と比較してファウリング除去に関する処理回数を抑制し、効率よくファウリングを除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る制御方法が適用されるROシステムの系統図である。
【
図2】機能ブロックに基づく判断の流れを示すフローチャートである。
【
図3】機能ブロックに基づく判断の流れを示すフローチャートである。
【
図4】機能ブロックに基づく判断の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0020】
図1は実施の形態に係る制御方法が適用されるROシステムの系統図である。
【0021】
原水は、原水配管1から複数(この実施の形態では4個)の処理系統(以下、系列ということがある。)A,B,C,Dに供給されてRO処理される。
【0022】
各系列A~Dでは、原水配管1に連なる配管11~14によって原水が送水され、ポンプ21~24で加圧された後、配管31~34によってクロスフロー方式のRO装置41~44に供給(給水)される。
【0023】
RO装置41~44のRO膜を透過した透過水は、透過水配管51~54から集合透過水配管55を介して透過水として取り出される。なお、透過水の一部は、配管55から分岐した配管56を介して洗浄水タンク57に送水され、貯留される。洗浄水タンク57内の水は、洗浄ポンプ58を有した洗浄ライン59を介して前記給水配管31~34に供給可能とされている。
【0024】
RO装置41~44の濃縮水(ブライン)は、濃縮水配管61~64から集合濃縮水配管65を介して濃縮水として取り出される。
【0025】
各配管11~14、31~34には、流量又は圧力さらにはpH等を測定するためのセンサS1,S2が設けられている。配管51~54、61~64には、流量、圧力、電気伝導度等の1又は2以上の特性を測定するためのセンサS3、S4が設けられている。配管51~54、61~64にバルブV1,V2が設けられている。
【0026】
各センサの検出データは制御装置(図示略)に入力される。制御装置には、制御プログラムと共に、運転計画データがメモリに記憶されている。制御装置からの信号に従って各ポンプ21~24、58及び各バルブV1,V2が制御される。
【0027】
本実施形態では、クロスフロー式RO装置において、薬品洗浄以外に、ファウリングの物理的な除去を目的として、RO装置の短時間の停止および再稼働、すなわち「発停処理」を行う。
【0028】
発停処理が物理的なファウリングを剥離させる効果として、「装置停止による膜汚染物質の圧密の解除と装置起動時におけるフラッシング(停止から起動に移行するときの膜面有効圧力の変化が大きいことで膜面の圧密化の解除が推進されやすい)」や「サックバック(停止時の浸透圧の発生による逆洗浄)」などが挙げられる。加えて、発停処理は通常の通水処理のなかで副次的に発生する(例えば、透過水流量が変動に伴う稼働台数の変更など)ため、通水処理を停止せずに、また薬品を使用せずに、物理的なファウリングを除去できる点で優れている。
【0029】
発停処理の実行判断は「発停処理による膜性能の回復効果(例えば、消費電力の削減量)」が0以上、あるいは「発停処理により生じる費用(例えば、フラッシング工程やポンプの起動に伴う消費電力の増加量)」を上回ることをもって判断する。これを満たすとき、脱塩率の以上が検知されない限りにおいて、発停処理を繰り返すのが良い。
【0030】
具体的には、
図2~4の通り、使用するRO装置の過去の発停履歴と膜処理性能の履歴の関係から「直近の洗浄又は膜交換直後の膜処理性能」から「現時点での膜処理性能」の変化のうち「発停処理により回復する見込みの膜処理性能」を算出した上で、「規定時間(例えば過去24時間以内)あたりの発停回数ごとの回復効果」から有効性の高い「規定時間あたり発停回数」を決定し、そのときの「発停処理による膜性能の回復効果(例えば、給水圧力、消費電力)」を算出する。
【0031】
あるRO装置で発停を繰り返すと回復効果は次第に低下していくため、定期的に(例えば3時間ごと)各装置の回復効果を算出して、回復効果が高い系列になるべく多くの発停回数が割り当てられるように稼働優先順位を割り当てる。
【0032】
また、物理的なファウリングでは膜面上の堆積時間が長期化するほど圧密化が進行する性質があるため、「発停処理による膜性能の回復効果」は次第に低下していく。「発停処理により回復する見込みの膜処理性能」を残して運転した時間だけ膜装置の消費電力が大きくなるため、早期段階での検知と発停処理の実行が、透過水量あたりの消費電力と洗浄回数を大幅に削減することに繋がる。
【0033】
本実施形態では、上述のようにRO装置が複数並列して設置されているシステムにおいて、稼働させる優先順位を決定する。特に、運転計画において行われた発停の履歴に基づいて、RO装置の稼働優先順位を決定する。
【0034】
稼働優先順位の変更回数に上限が設定されており、各RO装置の「規定時間あたり発停回数」を満たすことできない場合(例えば、運転員が1日に2度稼働優先順位づけの指示をする、というオペレーションが決まっている)には、回復効果が高い系列になるべく多くの発停回数が割り当てられるように稼働優先順位を割り当てる。
【0035】
各RO装置の「規定時間あたり発停回数」を満たせる場合は、早期段階で「発停処理により除去できる膜処理性能」を検知して、早期段階で発停処理を実行するように稼働優先順位を割り当てる。
【0036】
発停処理によりRO装置の運転を停止する時間は、5分以上、例えば5~360分が好ましいが、これに限定されない。なお、停止時間が5分未満では、RO装置の膜処理性能の回復効果が十分でないことがある。ここで、膜処理性能が回復効果したか否かは、「発停後の透過水量あたりに必要なエネルギー(消費電力、給水圧力)」が「発停前の透過水量あたりに必要なエネルギー(消費電力、給水圧力)」よりも下回ることをもって判断する。
【0037】
「直近の洗浄又は膜交換直後の膜処理性能」から「現時点での膜処理性能」の変化のうち「発停処理により除去できない膜処理性能」があるときは、他の洗浄方法(例えば、薬品洗浄、薬品又は処理水を利用したフラッシング)を実施することで対処する。運転計画の中で行われた発停処理の履歴を考慮して発停処理の計画を実行することで、意図的にブロー処理を行う特許文献1と比較してファウリング除去に関する処理回数を減らし、効率よくファウリングを除去できる。
【0038】
このROシステムには生成する水量等に応じて運転計画が定められていて、運転計画には、時点ごとに、稼働させるRO装置の個数の情報が含まれている。
【0039】
なお、上記の制御システムは次の各機能部を有する。
【0040】
<制御部>
バルブおよびポンプ等の制御により、濾過装置の稼働および停止を制御する。
【0041】
発停処理には、透過水側の流路を閉栓する動作、原水の流量を小さくする動作が含まれる。
【0042】
<給水情報を計測する計測部>
例えば、pH、原水圧力、原水流量などを計測する。
【0043】
<膜処理性能を計測する計測部>
例えば、給水圧力、透過水圧力、ブライン圧力、給水流量、透過水流量、ブライン流量、水温、給水導電率、処理水導電率などを計測する。
【0044】
<ポンプ状態を取得する取得部>
例えば、周波数、出力電流、出力電圧、消費電力、出口圧力を取得する。
【0045】
<装置情報を記録する記録部>
例えば、膜面積、ベッセル数、膜の構成などを記憶する。
【0046】
<メンテナンス履歴を記憶する記憶部>
直近の洗浄又は膜交換直後の膜処理性能(例えば、給水圧力、膜間差圧、フラックス)を記憶する。
【0047】
<発停履歴を記憶する記憶部>
水処理の運転計画に従って発停した履歴と、SS除去のために意図的に発停処理を行った履歴と、の両方を記憶する。
【0048】
<優先順位履歴を記録する記憶部>
制御部から指示された優先順位の履歴を記憶する。
【0049】
<膜処理性能を計算する計算部>
例えば、膜間差圧、FLUXを計算する。
【0050】
<消費電力推定部>
消費電力が連続的に計測されていないとき、計測値(例えば、給水圧力と給水流量など)から消費電力を推定する。
【0051】
<ファウリング推定部>
直近の洗浄又は膜交換直後を処理性能から、運転を継続したことの影響で処理性能が低下した差分のうち、運転条件(例えば、入口水圧力、処理水流量、温度)による影響を排除して、ファウリングによる膜処理性能の変化量を算出する。
【0052】
ファウリングの性質を分類する。例えば、ファウリングによる膜処理性能の変化量のうち、発停処理により回復する見込みの膜処理性能を算出することで、発停処理では除去できない膜処理性能を検知する。
【0053】
<発停有効性推定部>
各RO装置に対し、発停処理で見込まれる膜処理性能の回復効果、すなわち発停有効性を推定する。RO装置によって、発停が膜処理性能の回復に有効であるかが異なるためである。
【0054】
過去(例えば1年以内)の発停履歴と膜処理性能の履歴との関係から、各RO装置の発停有効性を推定する。例えば、所定期間以内に行われた発停の回数と発停前後での膜処理性能の変化とを参照し、発停による処理性能の回復度合を算出する。
【0055】
<発停計画部>
発停履歴に基づいて、今後の発停処理のタイミングを計画する。所定期間内に発停していないRO装置を発停させる。
【0056】
発停有効性推定部の推定結果に基づいて、発停回数を決定する。回復効率の指標となる発停回数対効果が高くなるように、発停回数を決定する。(例えば、24時間以内の5回発停と4回発停の回復度合に差分がないときに4回とする)
【0057】
<優先順位決定部>
各RO装置の発停の履歴に基づいて、発停処理を行わせるRO装置の優先順位を決定する。
【0058】
発停有効性が高いRO装置の優先順位を上位に決定する。
【0059】
さらに、ポンプ状態取得部により取得した高圧ポンプの出口圧力又は消費電力が大きいRO装置の優先順位を上位に決定する。
【符号の説明】
【0060】
21~24 ポンプ
41~44 RO装置
57 洗浄タンク