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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】電極触媒層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20220913BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220913BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220913BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M8/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021155857
(22)【出願日】2021-09-24
(62)【分割の表示】P 2018089513の分割
【原出願日】2017-10-31
(65)【公開番号】P2021192392
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】岸 克行
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-278232(JP,A)
【文献】特開2007-103083(JP,A)
【文献】特開2008-311180(JP,A)
【文献】特開2005-108551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜に接合される電極触媒層であって、
触媒、炭素粒子、高分子電解質及び繊維状物質を有し、
前記繊維状物質の繊維径が、10nm以上300nm以下であり、
前記繊維状物質の繊維長が、1μm以上50μm以下であり、
密度が900mg/cm以下であることを特徴とする電極触媒層。
【請求項2】
上記炭素粒子が上記触媒を担持して触媒担持粒子となっていることを特徴とする請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
上記電極触媒層の厚さが5μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電極触媒層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子形燃料電池用の膜電極接合体を構成する電極触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題の有効な解決策として、燃料電池が注目を浴びている。燃料電池は、水素などの燃料を酸素などの酸化剤を用いて酸化し、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、高分子形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形などに分類される。高分子形燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型化・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての応用が期待されている。
【0003】
高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜である高分子電解質膜を、燃料極(アノード)と空気極(カソード)からなる一対の電極で挟んだ膜電極接合体を備え、燃料極側に水素を含む燃料ガスを、空気極側に酸素を含む酸化剤ガスを供給することで、下記の電気化学反応により発電する。
アノード:H → 2H+2e・・・(1)
カソード:1/2O+2H+2e → HO・・・(2)
【0004】
アノード及びカソードは、それぞれ電極触媒層とガス拡散層の積層構造からなる。アノード側電極触媒層に供給された燃料ガスは、電極触媒によりプロトンと電子となる(反応1)。プロトンは、アノード側電極触媒層内の高分子電解質、高分子電解質膜を通り、カソードに移動する。電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。カソード側の電極触媒層では、プロトンと電子と外部から供給された酸化剤ガスが反応して水を生成する(反応2)。このように、電子が外部回路を通ることにより発電する。
【0005】
現在、燃料電池の低コスト化に向けて、高出力特性を示す燃料電池が望まれている。しかし、燃料電池は、高出力運転においては多くの生成水が発生するため、電極触媒層やガス拡散層に水が溢れ、ガスの供給が妨げられるフッティングが生じる。フッティングが発生した場合には、燃料電池の出力が著しく低下する課題がある。
上記課題に対し、特許文献1、2では、異なる粒子径のカーボン又はカーボン繊維を含む触媒層が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-241703号公報
【文献】特許第5537178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2では、異なるカーボン材料を含むことにより電極触媒層内に空孔が生じ、排水性やガス拡散性の向上が期待できると記載されている。しかし、カーボン材料の大きさ、形状や含有量についての記載はあるが、触媒層の構造についての記載がなく、その効果については具体的には検証されてはいない。
発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、排水性やガス拡散性が向上でき、高出力が可能な高分子形燃料電池用の電極触媒層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、高分子電解質膜に接合される電極触媒層であって、触媒、炭素粒子、高分子電解質及び繊維状物質を有し、繊維状物質の繊維径が、10nm以上300nm以下であり、繊維状物質の繊維長が、1μm以上50μm以下であり、密度が900mg/cm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、排水性やガス拡散性が向上でき、高出力が可能な高分子形燃料電池用触媒層を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る触媒層の構成例を示す分解断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る膜電極接合体の構成例を示す断面図である。
図3】膜電極接合体を装着した固体高分子型燃料電池の単セルの構成例を示す分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明は、以下に記載する各実施の形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれものである。
【0012】
(電極触媒層)
図1に示すように、本発明の実施の形態(以下、本実施形態)に係る高分子形燃料電池用の電極触媒層2,3は、触媒13、触媒13を担持する炭素粒子14、高分子電解質15及び繊維状物質16からなる。
また、本実施形態の電極触媒層2,3は、密度が500mg/cm以上900mg/cm以下に設定されている。繊維状物質16を含むことにより、形成時にクラックが発生せず、また電極触媒層2,3内の空孔を増加させることが可能となる。
【0013】
高分子電解質15としては、イオン伝導性を有するものであればよいが、電極触媒層2,3と高分子電解質膜の密着性を考えると、高分子電解質膜と同質の材料を選択することが好ましい。高分子電解質15には、例えばフッ素系樹脂や炭化水素系樹脂が使用可能できる。例えば、フッ素系樹脂としては、Nafion(デュポン社製、登録商標)、炭化水素系樹脂としては、エンジニアリングプラスチック、又はその共重合体にスルホン酸基を導入したものなどが挙げられる。
【0014】
触媒13としては、白金族元素、金属又はこれらの合金、又は酸化物、複酸化物等が使用できる。白金族元素としては、白金やパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムがある。金属としては、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどが例示できる。その中でも、触媒13としては白金や白金合金が好ましい。また、これらの触媒13の粒径は、大きすぎると触媒13の活性が低下し、小さすぎると触媒13の安定性が低下するため、0.5nm以上20nm以下が好ましい。更に好ましくは、1nm以上5nm以下である。
【0015】
炭素粒子14としては、微粒子状で導電性を有し、触媒13におかされないものであればどのようなものでも構わない。炭素粒子14の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると電極触媒層2,3が厚くなり抵抗が増加することで、出力特性が低下したりするので、10nm以上1000nm以下が好ましい。更に好ましくは、10nm以上100nm以下である。
炭素粒子14には、触媒13が担持されていることが好ましい。高表面積の炭素粒子14に触媒13を担持することで、高密度で触媒13が担持でき、触媒活性を向上させることができる。
【0016】
繊維状物質16としては、導電性繊維や電解質繊維が使用できる。導電性繊維としては、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、導電性高分子ナノファイバー等が例示できる。特に、導電性や分散性の点でカーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブが好ましい。また、電解質繊維は高分子電解質を繊維状に加工したものである。繊維状物質16として電解質繊維を用いることでプロトン伝導性を向上することができる。更に、これらの繊維状物質16は、一種のみを単独で使用してもよいが、二種以上を併用してもよく、導電性繊維と電解質繊維を併せて用いても良い。
【0017】
繊維状物質16の繊維径としては、0.5nm以上500nm以下が好ましく、10nm以上300nm以下がより好ましい。上記範囲にすることにより、電極触媒層2,3内の空孔を増加させることができ、高出力化が可能になる。
繊維状物質16の繊維長は1μm以上200μm以下が好ましく、1μm以上50μm以下がより好ましい。上記範囲にすることにより、電極触媒層2,3の強度を高めることができ、形成時にクラックが生じることを抑制できる。また、電極触媒層2,3内の空孔を増加させることができ、高出力化が可能になる。
【0018】
電極触媒層2,3の厚さは、30μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。厚さが30μmより大きいと、電極触媒層2,3の抵抗が大きくなり、出力が低下する。また、厚さが30μmより大きいと、電極触媒層2,3にクラックが生じ易くなるため、好ましくない。
電極触媒層2,3の厚さは5μm以上が好ましい。厚さが5μmよりも薄い場合には、層厚にばらつきが生じ易くなり、内部の触媒13や高分子電解質15が不均一となりやすい。電極触媒層2,3の表面のひび割れや、厚さの不均一性は、燃料電池として使用し、長期に渡り運転した際の耐久性に悪影響を及ぼす可能性が高いため、好ましくない。また、厚さが5μmよりも薄い場合には、電極触媒層内2,3において、発電による生成水濃度が高くなり易く、フラッディングが生じ易く、発電性能が低下するため、好ましくない。
【0019】
(膜電極接合体)
本実施形態の高分子形燃料電池用の膜電極接合体12は、例えば図2に示すよう断面図のような構造体となっている。この膜電極接合体12は、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1の一方の面に形成されたカソード側電極触媒層2と、高分子電解質膜1の他方の面に形成されたアノード側電極触媒層3と、を備えた構造となっている。本発明の電極触媒層は、カソード側電極触媒層2及びアノード側電極触媒層3の一方若しくは両方に該当する。
【0020】
(固体高分子型燃料電池)
本実施形態の固体高分子型燃料電池は、図3に示すように、膜電極接合体12のカソード側電極触媒層2及びアノード側電極触媒層3と対向して、空気極側ガス拡散層4及び燃料極側ガス拡散層5がそれぞれ配置されている。これにより、カソード側電極触媒層2と空気極側ガス拡散層4とから空気極6が構成されると共に、アノード側電極触媒層3と燃料極側ガス拡散層5とで燃料極7が構成される。そして、空気極6及び燃料極7を一組のセパレータ10により挟持することで、単セルの固体高分子型燃料電池11が構成される。一組のセパレータ10は、導電性でかつガス不透過性の材料からなり、空気極側ガス拡散層4又は燃料極側ガス拡散層5に面して配置された反応ガス流通用のガス流路8と、ガス流路8と相対する主面に配置された冷却水流通用の冷却水流路9とを備える。
【0021】
この固体高分子型燃料電池11は、一方のセパレータ10のガス流路8を通って空気や酸素などの酸化剤が空気極6に供給され、他方のセパレータ10のガス流路8を通って水素を含む燃料ガス若しくは有機物燃料が燃料極7に供給されることによって、発電するようになっている。
【0022】
(電極触媒層の製造方法)
電極触媒層は、触媒層用スラリーを作製し、作製した触媒層用スラリーを基材などに塗工・乾燥することで製造できる。
触媒層用スラリーは、触媒13、炭素粒子14、高分子電解質15、繊維状物質16及び溶媒からなる。溶媒としては、特に限定しないが、高分子電解質15を分散又は溶解できるものが良い。一般的に用いられる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイゾブチルケトン、メチルアミルケトン、ペンタノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミン、アニリンなどのアミン類、蟻酸プロピル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチルなどのエステル類、その他酢酸、プロピオン酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を用いてもよい。また、グリコール、グリコールエーテル系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。
【0023】
触媒層用スラリーの塗工方法としては、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ラミネータロールコーティング法、スプレー法などが挙げられるが、特に限定しない。
触媒層用スラリーの乾燥方法としては、温風乾燥、IR乾燥などが挙げられる。乾燥温度は、40℃以上200℃以下、好ましくは40℃以上120℃以下である。乾燥時間は、0.5分以上1時間以下、好ましくは1以上30分以下である。
【0024】
ここで、電極触媒層は、密度が500mg/cm以上900mg/cmに設定するには、繊維状物質の添加量や繊維長、乾燥のための加熱温度、温度勾配、電極触媒層が乾燥されるまでに付与される膜厚方向の加圧などの条件を調整することで実現することが可能である。
【0025】
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の製造方法としては、転写基材又はガス拡散層に電極触媒層を形成し、高分子電解質膜に熱圧着で電極触媒層を形成する方法や高分子電解質膜に直接触媒層を形成する方法が挙げられる。高分子電解質膜に直接触媒層を形成する方法は、高分子電解質膜と触媒層との密着性が高く、触媒層が潰れる恐れがないため、好ましい。
【0026】
以上説明したように、本実施形態の電極触媒層は、触媒13、炭素粒子14、高分子電解質15及び繊維状物質16からなり、密度が500mg/cm以上、900mg/cm以下となっている。
この構成によれば、排水性やガス拡散性が向上でき、高出力が可能な高分子形燃料電池用の電極触媒層を提供することができる。
そして、本実施形態の電極触媒層は、例えば、固体高分子型燃料電池に適用して極めて好適である。
【0027】
なお、本実施形態では触媒13を炭素粒子14に担持させた場合について説明したが、触媒13を繊維状物質16に担持させてもよく、さらに炭素粒子14および繊維状物質16のいずれにも担持させてもよい。繊維状物質16で形成された空隙は発電による生成水の排出経路とすることができる。ここで、繊維状物質16に触媒13を担持させた場合は、生成水の排出経路内で電極反応も起こる。一方で、触媒13を炭素粒子14に担持させることで、炭素粒子14と触媒13とガスとに起因する三相界面による反応点と、繊維状物質16により形成された空間による生成水の排出経路とを区別でき、触媒電極層の排水性を向上することができるため好ましい。
【実施例
【0028】
次に、本発明に基づく実施例について説明する。
[密度の算出]
密度は、電極触媒層の質量と厚さから求めた。質量は、触媒層用スラリー塗工量から求めた質量又は乾燥質量を用いた。厚さは、走査電子顕微鏡(倍率:2000倍)で断面を観察より求めた。
【0029】
[発電特性の評価]
電極触媒層の外側にガス拡散層(SIGRACET(登録商標)35BC、SGL社製)を配置して、市販のJARI標準セルを用いて発電特性の評価を行った。セル温度は、80℃として、アノードに水素(100%RH)、カソードに空気(100%RH)を供給した。
【0030】
[実施例1]
白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)20gを容器にとり、水を加えて混合後、1-プロパノール、電解質(Nafion(登録商標)分散液、和光純薬工業)と繊維状物質としてカーボンナノファイバー(昭和電工社製、商品名「VGCF」、繊維径約150nm、繊維長約10μm)10gを加えて撹拌して、触媒層用スラリーを得た。
得られた触媒層用スラリーを高分子電解質膜(デュポン社製、Nafion212)にダイコーティング法で塗工し、80℃の炉内で乾燥することで実施例1の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
【0031】
[実施例2]
繊維状物質としてカーボンナノチューブ(繊維径約1nm、繊維長約1μm)を用いた以外は、実施例1と同様の手順で実施例2の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
[実施例3]
乾燥温度を高くした以外は、実施例1と同様の手順で実施例3の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
[実施例4]
繊維状物質の量を増加させた以外は、実施例1と同様の手順で実施例4の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
【0032】
[比較例1]
電極触媒層の厚さを5μm未満になるようにスラリーの構成・塗工量を調整して塗工した以外は、実施例1と同様の手順で比較例1の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
[比較例2]
電極触媒層の厚さを30μm超過になるようにスラリーの構成・塗工量を調整して塗工した以外は、実施例1と同様の手順で比較例2の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
【0033】
[比較例3]
PET基材に塗工し、熱圧着により電解質膜に転写した以外は、実施例1と同様の手順で比較例3の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
[比較例4]
繊維状物質を加えないこと以外は、実施例1と同様の手順で比較例4の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
【0034】
[比較例5]
繊維状物質を加えず、またPET基材に塗工し、熱圧着により電解質膜に転写した以外は、実施例1と同様の手順で比較例5の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
実施例1~4,比較例1~5の触媒層について、顕微鏡(倍率:200倍)で観察して10μm以上クラックの有無について評価した。その評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示す通り、繊維状物質を加えない場合(比較例4)は、PETフィルムにクラックなしで塗工できたが、高分子電解質膜でクラックが多く発生した。これに対して、実施例1~4及び比較例1~3のように繊維状物質を加えた場合は、クラックがない触媒層であった。
また実施例1~4,比較例1~5の電極触媒層について、電極触媒層の密度及び発電特性を評価した。その評価結果を表2に示す。
ここで、各電極触媒層において、配合する触媒の質量が同じになるように調整しているが、他の構成が異なるため、各電極触媒層の厚さが異なっている。
【0037】
【表2】
【0038】
表1及び表2から、繊維状物質を加えないと本発明の密度よりも密度が高くてもクラックが発生しやすくなることが分かる。また、触媒、炭素粒子、高分子電解質及び繊維状物質からなり、密度が500mg/cm以上、900mg/cm以下で電極触媒層を使用することで、クラックが発生せず、排水性やガス拡散性が向上して、高出力が可能な高分子形燃料電池用の電極触媒層を提供することができることが分かった。
【符号の説明】
【0039】
1高分子電解質膜
2カソード側電極触媒層
3アノード側電極触媒層
4空気極側ガス拡散層
5燃料極側ガス拡散層
6空気極
7燃料極
8ガス流路
9冷却水流路
10セパレータ
11固体高分子型燃料電池
12膜電極接合体
13触媒
14炭素粒子
15高分子電解質
16繊維状物質
図1
図2
図3