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特許7140292シリーズハイブリッド車両の制御方法及びシリーズハイブリッド車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】シリーズハイブリッド車両の制御方法及びシリーズハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/14 20160101AFI20220913BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20220913BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220913BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20220913BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20220913BHJP
【FI】
B60W20/14
B60W20/15
B60W10/08 900
B60K6/46
B60K6/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021566011
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020029114
(87)【国際公開番号】W WO2022024273
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 聖
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小林 梓
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-67216(JP,A)
【文献】特開2012-86735(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190022(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/14
B60W 20/15
B60W 10/08
B60K 6/46
B60K 6/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用モータと内燃機関とが一体化された状態で複数のマウント部材を介して車体に支持されるシリーズハイブリッド車両を制御する制御方法であって、
コントローラが、
内燃機関の動力により駆動される発電用モータに発電を行わせ、
発電した電力により駆動用モータをさせて駆動輪を駆動し、
減速時には前記駆動用モータに減速要求に応じた回生トルクを発生させる、シリーズハイブリッド車両の制御方法において、
前記回生トルクが発生している状態で前記発電用モータが発電する際の前記内燃機関のエンジン回転速度よりも、車体フロア部の共振が生じるエンジン回転速度領域であって前記回生トルクの上限に基づいて定まるフロア振動発生領域が低くなる大きさに前記回生トルクの上限を制限して、前記駆動用モータにより前記回生トルクを発生させる、シリーズハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリーズハイブリッド車両の制御方法において、
発電時の前記内燃機関の上限回転速度における燃焼加振力周波数と、前記複数のマウント部材のうちの一つであるエンジンマウントに弾性支持される前記内燃機関の固有周波数とが等しくなる場合の前記エンジンマウントのバネ定数を算出し、
算出された前記バネ定数になるときの前記エンジンマウントの圧縮量を算出し、
当該圧縮量になるときの前記駆動用モータのトルクを、回生トルク上限値とする、シリーズハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載のシリーズハイブリッド車両の制御方法において、
前記上限回転速度が低いほど、前記回生トルク上限値を低くする、シリーズハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のシリーズハイブリッド車両の制御方法において、
前記回生トルクが大きいほど前記エンジンマウントの圧縮量が大きくなり、
前記エンジンマウントの圧縮量が大きいほど、前記フロア振動発生領域が高いエンジン回転速度領域になる、シリーズハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
内燃機関と、
前記内燃機関の動力により駆動される発電用モータと、
前記発電用モータが発電した電力により駆動される駆動用モータと、
減速時に前記駆動用モータに減速要求に応じた回生トルクを発生させるよう制御する制御部と、
を備え、
駆動用モータと内燃機関とが一体化された状態で複数のマウント部材を介して車体に支持されるシリーズハイブリッド車両において、
前記制御部は、前記回生トルクが発生している状態で前記発電用モータが発電する際の前記内燃機関のエンジン回転速度よりも、車体フロア部の共振が生じるエンジン回転速度領域であって前記回生トルクの上限に基づいて定まるフロア振動発生領域が低くなる大きさに前記回生トルクの上限を制限して、前記駆動用モータにより前記回生トルクを発生させる、シリーズハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリーズハイブリッド車両の制御方法及びシリーズハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
動力源として内燃機関と駆動用モータを備えるハイブリッド車両において、内燃機関の振動がエンジンマウントを介して車室フロアに伝達されることで発生するフロア振動を低減するために、上記の駆動用モータにカウンタートルクを発生させる制御が、JP2018-135045Aに開示されている。
【発明の概要】
【0003】
シリーズハイブリッド車両においては、駆動用モータのケーシングが内燃機関に連結されて内燃機関及び駆動用モータが一体化した状態で車載される構成が知られている。このような構成では、駆動用モータがトルクを発生すると、内燃機関を支持しているエンジンマウントがその反力によって圧縮され、エンジンマウントのバネ定数は増大する。そして、エンジンマウントのバネ定数が増大すると、フロア振動が問題となるエンジン回転速度の共振回転速度域が高回転速度側にずれる。この場合に、排気浄化触媒の暖機促進等のためにエンジン回転速度の上限が制限されて、内燃機関が相対的に低回転速度で作動すると、エンジン回転速度が上記の共振回転速度域に入るおそれがある。すなわち、内燃機関の燃焼加振力によって共振が発生し、フロア振動が増大するおそれがある。
【0004】
上記文献には、上述した理由により生じるフロア振動の増大を抑制することについての開示がない。
【0005】
そこで本発明は、駆動用モータがトルクを発生することに起因して共振回転速度域が高回転速度側にずれることにより生じるフロア振動の増大を抑制することを目的とする。
【0006】
本発明のある態様によれば、駆動用モータと内燃機関とが一体化された状態で複数のマウント部材を介して車体に支持されるシリーズハイブリッド車両を制御する制御方法であって、コントローラが、内燃機関の動力により駆動される発電用モータに発電を行わせ、発電した電力により駆動用モータをさせて駆動輪を駆動し、減速時には駆動用モータに減速要求に応じた回生トルクを発生させる、シリーズハイブリッド車両の制御方法が提供される。当該制御方法では、回生トルクの上限を、発電時の前記内燃機関のエンジン回転速度が、車体フロア部の共振が生じるエンジン回転速度領域であって回生トルクの上限に基づいて定まるフロア振動発生領域より高くなる大きさに制限して、駆動用モータにより回生トルクを発生させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、車両の要部を示す概略構成図である。
図2図2は、フロア振動が増大するメカニズムを説明するための図である。
図3図3は、協調回生制動時に、エンジン動作点領域の下限を制限した場合のタイミングチャートである。
図4図4は、協調回生制動を実行するための処理機能を示すブロック図である。
図5図5は、回生トルク上限値の算出方法を説明するための図である。
図6図6は、下限回転速度の算出に用いるテーブルの一例である。
図7図7は、本実施形態にかかる制御を実行した場合のタイミングチャートの一例である。
図8図8は、本実施形態の変形例にかかる制御を実行した場合のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
図1は、車両1の要部を示す概略構成図である。車両1は、内燃機関2(図中のENG)と、発電用モータ3(図中のGEN)と、駆動用モータ4(図中のMG)と、バッテリ5と、駆動輪6とを備える。なお、駆動輪6は車両1の前輪である。つまり、車両1は前輪駆動車である。
【0010】
内燃機関2は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンのいずれでもかまわない。発電用モータ3は、内燃機関2の動力によって駆動されることで発電する。駆動用モータ4は、バッテリ5の電力により駆動されて、駆動輪6を駆動する。駆動用モータ4は、減速時等に駆動輪6の回転に伴って連れ回されることにより減速エネルギを電力として回生する、いわゆる回生機能も有する。バッテリ5には、発電用モータ3で発電された電力と、駆動用モータ4で回生された電力とが充電される。
【0011】
車両1は、第1動力伝達経路21と第2動力伝達経路22とを有する。第1動力伝達経路21は、駆動用モータ4と駆動輪6との間で動力を伝達する。第2動力伝達経路22は、内燃機関2と発電用モータ3との間で動力を伝達する。第1動力伝達経路21と第2動力伝達経路22とは、互いに独立した動力伝達経路、つまり第1動力伝達経路21及び第2動力伝達経路22の一方から他方に動力が伝達されない動力伝達経路になっている。
【0012】
第1動力伝達経路21は、駆動用モータ4の回転軸4aに設けられた第1減速ギヤ11と、第1減速ギヤ11と噛み合う第2減速ギヤ12と、第2減速ギヤ12と同軸上に設けられてデファレンシャルギヤ14と噛み合う第3減速ギヤ13と、デファレンシャルケース15に設けられたデファレンシャルギヤ14とを有して構成される。
【0013】
第2動力伝達経路22は、内燃機関2の出力軸2aに設けられた第4減速ギヤ16と、第4減速ギヤ16と噛み合う第5減速ギヤ17と、発電用モータ3の回転軸3aに設けられ、第5減速ギヤ17と噛み合う第6減速ギヤ18とを有して構成される。
【0014】
第1動力伝達経路21及び第2動力伝達経路22それぞれは、動力伝達を遮断する要素を備えていない。すなわち、第1動力伝達経路21及び第2動力伝達経路22それぞれは常に動力が伝達される状態になっている。
【0015】
第2動力伝達経路22は、動力伝達系23の動力伝達経路を構成する。動力伝達系23は、内燃機関2及び発電用モータ3を含み内燃機関2のモータリング時に発電用モータ3から内燃機関2に動力が伝達される構成とされる。
【0016】
車両1は制御部としてのコントローラ30をさらに備える。コントローラ30は、内燃機関2の制御を行うエンジンコントローラ31、発電用モータ3の制御を行う発電用モータコントローラ32、駆動用モータ4の制御を行う駆動用モータコントローラ33、及び車両1の制御を統合する統合コントローラ34の他、後述する横滑り防止装置41及びボディコントロールモジュール42、を有して構成される。
【0017】
エンジンコントローラ31は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。発電用モータコントローラ32、駆動用モータコントローラ33及び統合コントローラ34についても同様である。エンジンコントローラ31、発電用モータコントローラ32及び駆動用モータコントローラ33は、統合コントローラ34を介してCAN規格のバスにより互いに通信可能に接続される。
【0018】
コントローラ30には、内燃機関2の回転速度NEを検出するための回転速度センサ81、アクセルペダルの踏み込み量を指標するアクセル開度APOを検出するためのアクセル開度センサ82、内燃機関2の水温THWを検出するための水温センサ83、車速VSPを検出するための車速センサ84を含む各種センサ・スイッチ類からの信号が入力される。これらの信号は、直接或いはエンジンコントローラ31等の他のコントローラを介して統合コントローラ34に入力される。なお、車速VSPは車速センサ84から、横滑り防止装置(Vehicle Dynamics Controller:VDC)41を経由して直接統合コントローラ34に入力されるようにしてもよい。
【0019】
車両1は、内燃機関2の動力により駆動されて発電する発電用モータ3の電力を利用して駆動用モータ4で駆動輪6を駆動するシリーズハイブリッド車両を構成する。
【0020】
なお、図1では動力伝達経路を理解し易くするために内燃機関2と駆動用モータ4とが離れた位置に描かれているが、実際には、駆動用モータ4を収容するケーシングが、動力伝達経路22としてのギヤボックスを介して内燃機関2と連結されて一体化している。そして、内燃機関2及び駆動用モータ4は、一体化した状態でエンジンマウント7及びモータマウント(図示せず)を介して車両1に弾性支持される。
【0021】
運転者は、複数のレンジ及びドライブモードの切り替え操作を行って車両1を運転する。レンジの切り替えは図示しないシフターを操作することにより行う。シフターにより選択可能なレンジは、駐車レンジ(Pレンジ)、後進レンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、第1前進レンジ(Dレンジ)及び第2(Bレンジ)を含む。なお、DレンジとBレンジを区別する必要がない場合には、これらを総称して前進レンジということもある。
【0022】
ドライブモードの切り替えは、図示しないドライブモードスイッチを操作することにより行う。ドライブモードはNモードとSモードとECOモードとを含む。Nモードはアクセルペダル操作で加速が行われるモード(通常回生モード)とされる。このため、Nモードではアクセルペダル操作が行われている間は回生減速が行われず、アクセルペダルがオフの状態のときに回生減速が行われる。SモードとECOモードとはアクセルペダル操作で加速及び回生減速が行われるモード(1ペダルモード)とされ、ECOモードはSモードよりも燃費運転に適したモードとされる。
【0023】
車両1では、選択されたドライブモードとの組み合わせにより、DレンジがNモードとの組み合わせのNDモード、Sモードとの組み合わせのSDモード、ECOモードとの組み合わせのECO-Dモードを構成する。同様に、Bレンジは選択されたドライブモードとの組み合わせにより、NBモード、SBモード、ECO-Bモードを構成する。
【0024】
BレンジはDレンジよりも駆動用モータ4の回生によって生じる車両1の減速度が大きいレンジとされる。換言すれば、BレンジではDレンジよりも目標減速度が大きく設定される。減速度が大きいとは、減速度合いが大きいこと(減速度の絶対値が大きいこと)を意味する。目標減速度についても同様である。BレンジではDレンジよりも駆動用モータ4による回生電力の絶対値が大きくなる結果、減速度が大きくなる。また、SDモード及びECO-Dモードは、NDモードよりも駆動用モータ4による回生電力が大きくなる結果、減速度が大きくなる。以下の説明において、Nモードを通常回生モード、Sモード及びECOモードを強回生モードともいう。
【0025】
次に、統合コントローラ34が実行する回生減速時の制御について説明する。
【0026】
本実施形態では、車両1が減速する際に、協調回生制動を実行する。協調回生制動とは、周知の通り、運転者のブレーキペダル操作量等に応じて定まる目標制動力を、液圧により作動する摩擦ブレーキの制動力と、駆動用モータ4の回生により発生する制動力とを合わせることにより得る制御である。本実施形態では、基本的には駆動用モータ4による制動力で対応し、それだけでは目標制動力に対して制動力が不足する場合に、摩擦ブレーキを作動させることとする。すなわち、協調回生制動時には、駆動用モータ4の回生トルクはコースト走行による回生トルクよりも大きくなる。
【0027】
ところで、上述した通り駆動用モータ4と内燃機関2が一体化されて車体に弾性支持されている場合、駆動用モータ4がトルクを発生すると、その反力でエンジンマウント7が圧縮される。そして、エンジンマウント7が圧縮されることにより、エンジンマウント7のバネ定数(弾性係数)が大きくなる。その結果、内燃機関2とエンジンマウント7とからなる一自由度系の固有周波数が増大する。一般的には、いわゆるフロア振動を抑制するために、内燃機関2とエンジンマウント7とからなる一自由度系の固有周波数が内燃機関2の動作中における振動の周波数域よりも低くなるように、エンジンマウント7のバネ定数が設定される。しかし、上記の通り駆動用モータ4のトルクの反力によってエンジンマウント7が圧縮されて固有周波数が増大すると、固有周波数が内燃機関2の動作中における振動の周波数域に入るおそれがある。これについて示したものが図2である。
【0028】
図2の横軸はエンジン回転速度と、内燃機関の燃焼加振力の周波数とである。図2は。例えば、エンジン回転速度がNE1のときの燃焼加振力がF1であることを表している。
【0029】
エンジン回転速度NE1からエンジン回転速度NE2までの回転速度領域は、駆動用モータ4がトルクを発生していない状態において、燃焼加振力により共振が生じる領域(以下、共振回転速度領域ともいう)である。エンジン回転速度NE5からエンジン回転速度NE6までの回転速度領域は、内燃機関2が発電のために動作する際に取り得る領域(以下、エンジン動作点領域ともいう)である。
【0030】
駆動用モータ4がトルクを発生していない場合には、図2に示す通り共振回転速度領域はエンジン動作点領域から離れているので、発電のために内燃機関2が動作しても共振は生じない。そして、共振が生じないので、フロア振動が問題になることもない。なお、「フロア振動が問題になる」とは、フロア振動が許容値を超えることをいう。許容値は本実施形態を適用する車両1の仕様等に応じて任意に設定する。
【0031】
駆動用モータ4がトルクを発生すると、上記の通り共振回転速度域は高回転側へ移行する。図2に示すように共振回転速度領域がNE3-NE5に移行すると、共振回転速度領域とエンジン動作点領域との重複部分が生じる。つまり、発電のために動作する内燃機関2の燃焼加振力によって共振が生じ、これによりフロア振動が問題となる。
【0032】
共振回転速度域が高回転側へ移行してもエンジン動作点領域と重ならないのであれば問題はない。しかし、協調回生制動を実行する場合には駆動用モータ4の回生トルク発生量が大きくなるので、共振によるフロア振動が問題になる可能性が高い。
【0033】
共振を防止する策として、エンジン動作点領域を高回転側へずらすことが考えられる。つまり、協調回生制動により共振回転速度領域が図2のNE3-NE5まで移行する場合には、エンジン動作点領域の下限をNE5より高い回転速度に制限する。
【0034】
図3は、協調回生制動時に、エンジン動作点領域の下限を制限した場合のタイミングチャートである。
【0035】
図3では、タイミングT1まではアクセルペダルが踏み込まれた状態で走行しており、タイミングT1においてアクセルペダルがオフになり、ブレーキペダルが踏み込まれて減速が開始される。
【0036】
減速が始まると、駆動用モータ4のトルク(図中の駆動用モータトルク)は正から負になり、回生による発電が始まる。このときのトルク(図中の実線)は、コースト回生トルク(図中の破線)に、協調回生トルクを加えたものである。なお、協調回生トルクを加えてもブレーキ踏力に応じた目標制動力を実現できない場合には、不足する制動力を摩擦ブレーキにより賄う(図中の一点鎖線)。
【0037】
そして、協調回生制動によるフロア振動の増大を抑制するために、エンジン回転速度の下限を上昇させる。例えば、内燃機関2が発電のためにアイドル回転速度で動作していた場合には、駆動用モータトルクの減少(負の方向への増大)に応じて、エンジン回転速度の下限を上昇させる。
【0038】
これにより、エンジン動作点領域の下限を共振回転速度域よりも高くすることができるので、フロア振動の増大を抑制できる。
【0039】
しかしながら、シリーズハイブリッド車両では、発電時の内燃機関2のエンジン回転速度の上限が制限される場合がある。例えば、ハイブリッドシステムの始動直後に排気浄化用触媒の暖機をする触媒暖機モードの実行中、及び走行中に温度低下した排気浄化用触媒を昇温させるリカバーモードの実行中は、エンジン回転速度の上限が制限される。また、内燃機関2が動作している場合に低車速で走行していると、内燃機関2から周辺機器への熱の伝播量が増大するおそれがある。これを抑制するための熱保護モードの実行中も、エンジン回転速度の上限が制限される。
【0040】
そして、エンジン回転速度の上限が制限されることにより、エンジン動作点領域の下限を共振回転速度領域の上限より高くできなくなるおそれがある。つまり、エンジン回転速度をフロア振動が問題となる共振回転速度域より高くできないおそれがある。
【0041】
そこで本実施形態では、以下に説明する制御を実行することにより、エンジン回転速度の上限が制限される場合においても、協調回生制動とフロア振動の抑制とを両立する。
【0042】
図4は、コントローラ30(具体的には統合コントローラ34)の協調回生制動を実行するための処理機能を示すブロック図である。統合コントローラ34は、モータ駆動力演算部43と、変換部44と、モータトルク指令値演算部45と、回生トルク上限値設定部46と、回生トルク上限値送信部47と、下限回転速度演算用モータトルク演算部48と、下限回転速度演算部29と、要求回転速度演算部50と、要求エンジントルク演算部51と、を有する。なお、これら各演算部は演算処理機能を示すものであって、物理的な構成を意味するものではない。
【0043】
モータ駆動力演算部43は、アクセル開度APOと車速VSPとBCM42から入力される現在のドライブモードとに基づいて、アクセル開度に応じた要求駆動力を演算する。BCM42とは、電装品の作動を制御するコントローラ(ボディコントロールモジュール)のことである。要求駆動力は、例えば、ドライブモード毎にアクセル開度APO及び車速VSPにより駆動力を検索できるマップを予め作成して統合コントローラ34に記憶しておき、入力された信号に基づいてマップ検索することによって演算する。
【0044】
変換部44は、要求駆動力を駆動用モータ4のトルク(要求トルク)に変換する。ここで得られた要求トルクはモータトルク指令値演算部45及び下限回転速度演算用モータトルク演算部48に入力される。
【0045】
回生トルク上限値設定部46は、以下の方法によって、フロア振動防止用の駆動用モータ4の回生トルクの上限値である回生トルク上限値を設定する。
【0046】
[回生トルク上限値の設定方法]
ここでは、内燃機関2の燃焼加振力による振動を、内燃機関2を質量mの剛体、エンジンマウント7をバネ定数kの弾性体とする1自由度系の振動として扱う。なお、内燃機関2と一体化された駆動用モータ4を弾性支持するモータマウントを考慮せずにエンジンマウント7のみの1自由度系として扱うのは、モータマウントは内燃機関2から離れた位置に設置されているため、内燃機関2の振動を考える際に無視し得るからである。
【0047】
上述した触媒暖機モード等により上限が制限される場合のエンジン回転速度のうち、最も低いエンジン回転速度である上限エンジン回転速度Ruで運転中の燃焼加振力周波数feは、式(1)で表される。なお、本実施形態では、内燃機関2が3気筒であるものとして、回転1.5次の燃焼加振力周波数を算出する。
【数1】
上記1自由度系の固有周波数は式(2)で表される。
【数2】
フロア振動が許容レベルである場合の周波数である目標固有周波数ftは式(3)で表される。
【数3】
式(3)におけるηは、固有周波数fをフロア振動の許容レベルまで逃がすための係数である。この係数ηは任意に設定し得る。
【0048】
ここで、燃焼加振力周波数feが目標固有周波数fより小さければ、フロア振動は許容レベルであるということになる。そこで、式(1)>式(3)として、そのときのバネ定数kを算出すると、式(4)の関係が成立する。
【数4】
こうして得られたバネ定数kを用いて、回生トルク上限値設定部46は回生トルク上限値を算出する。具体的には、図5に示す手法により算出する。
【0049】
図5は、予め測定したエンジンマウント7のバネ定数特性を示している。図5の上段はエンジンマウント7に作用する荷重とエンジンマウント7の変形量(圧縮量ともいう)との関係を示し、図5の下段はエンジンマウント7の変形量とバネ定数との関係を示している。
【0050】
まず、図5の下段の特性図から、式(4)により定まるバネ定数kとなるときの変形量x1を算出する。次に、図5の上段の特性図から、変形量x1となるときの荷重FMを算出する。こうして得られた荷重FMをトルクに変換したものが回生トルク上限値である。
【0051】
図4の説明に戻る。
【0052】
回生トルク上限値設定部46で設定された回生トルク上限値は、モータトルク指令値演算部45及び回生トルク上限値送信部47に入力される。回生トルク上限値送信部は、回生トルク上限値をVDC41へ送信する。
【0053】
VDC41は、回生トルク上限値と後述する要求回生トルクとの差に応じた制動力を摩擦ブレーキにより補填するように、摩擦ブレーキの液圧を制御する。
【0054】
モータトルク指令値演算部45には、上記の回生トルク上限値及びアクセル開度に応じた要求トルクの他に、VDC41からブレーキ操作量に応じた要求回生トルクも入力される。そして、モータトルク指令値演算部45はアクセル開度に応じた要求トルクとブレーキ操作量に応じた要求回生トルクとで定まる総回生トルクを、回生トルク上限値で制限した値をモータトルク指令値として算出し、これを駆動用モータコントローラ33に入力する。
【0055】
下限回転速度演算用モータトルク演算部48には、上記のアクセル開度に応じた要求トルクの他に、VDC41からブレーキ操作量に応じた要求回生トルクも入力される。そして、下限回転速度演算用モータトルク演算部48は、アクセル開度に応じた要求トルクにブレーキ操作量に応じた要求回生トルクを加算した総回生トルクを、内燃機関2の下限回転速度を演算するための下限回転速度演算用モータトルクとして、下限回転速度演算部49に入力する。
【0056】
下限回転速度演算部49は、下限回転速度演算用モータトルクを用いて下限回転速度を算出する。具体的には、例えば図6に示すような、モータトルクと下限回転速度との関係を特定したテーブルを用いて算出する。例えば下限回転速度演算用モータトルクがTQ1の場合には、下限回転速度はNE1となる。
【0057】
要求回転速度演算部50は、触媒暖機モード等のために制限される上限回転速度と、下限回転速度演算部49で算出した下限回転速度と、に基づいて要求回転速度を決定する。ここでは、フロア振動よりも排気性能を優先するため、下限回転速度より上限回転速度を優先する。つまり、上限回転速度が下限回転速度より低い場合には、上限回転速度を要求回転速度とする。要求回転速度は、発電用モータコントローラ32及び要求エンジントルク演算部51に入力される。
【0058】
要求エンジントルク演算部51は、入力された要求回転速度に応じたエンジントルクを算出し、算出したエンジントルクをエンジンコントローラ31に入力する。
【0059】
上記の通り、本実施形態では、総回生トルクを用いて駆動用モータ4のトルク制限及び内燃機関2の回転速度制限を行う。本実施形態の車両1は前輪駆動車なので、総回生トルクは前輪による回生トルクである。
【0060】
なお、仮に車両1が四輪駆動車である場合には、前後輪のトータルの回生トルクを総回生トルクとする。本実施形態で問題としているフロア振動は、前輪が発生するモータトルクに起因してエンジンマウント7が圧縮されて、内燃機関2を剛体とする振動系の固有周波数が増大することにより発生するので、四輪駆動車の場合も前輪のモータトルクで上記の各制限を行えばよいようにも考えられる。しかし、四輪駆動車の場合には、前後輪へのトルク配分が変化することがあり、トルク配分が変化するたびにエンジン回転速度が変化すると運転者に違和感を与えるおそれがある。そこで上記の通り四輪駆動車の場合は前後輪のトータルの回生トルクを総回生トルクとする。
【0061】
また、上記の回生トルクの制限は、前進レンジが選択され、かつアクセル開度がゼロの状態での減速時に限られる。これは、以下の理由による。前進レンジが選択され、かつアクセルペダルが踏み込まれている場合、つまり加速要求はある場合には、加速要求に応じてエンジン回転速度が上昇することで、フロア振動が増大する条件を回避できるからである。後進レンジが選択され、かつアクセル開度がゼロの状態での減速時には、そもそもモータトルクの要求値が小さいため、フロア振動が増大する条件が成立しないからである。そして後進レンジが選択され、アクセルペダルが踏み込まれている場合には、仮にフロア振動が増大する条件が成立したとしても、動力性能を優先するからである。
【0062】
図7は、上記の制御を実行した場合のタイミングチャートの一例である。ここでは、熱保護モードによりエンジン回転速度の上限が制限されているものとする。また、ブレーキペダルは踏み込まれていないものとする。
【0063】
タイミングT1でアクセル開度がゼロになり減速が開始されると、駆動用モータ4の要求トルクは図中の破線(図中の「制限前」)のように低下する。換言すると、要求される回生トルクが増大する。制限前の要求トルクを発生させる場合には、フロア振動を抑制するために内燃機関2のエンジン回転速度を下限回転速度(図中の破線)まで上昇させる必要がある。しかし、熱保護モードの実行中であるため、エンジン回転速度は下限回転速度よりも低い上限回転速度に制限されている。このため、本実施形態ではエンジン回転速度を上限回転速度により制限する。その結果、エンジン回転速度は図中の実線のようになる。
【0064】
そして、エンジン回転速度が制限された状態でフロア振動の増大を抑制するために、駆動用モータ4の回生トルクを回生トルク上限値(図中の点線)により制限する。その結果、回生トルクは図中の実線のようになる。
【0065】
さらに、回生トルクが制限されることにより減少する制動力は、摩擦ブレーキにより補填される。
【0066】
これにより、熱保護モードの実行中でも、協調回生制動をしつつフロア振動の増大を抑制できる。
【0067】
以上の通り本実施形態では、駆動用モータ4と内燃機関2とが一体化された状態で複数のマウント部材を介して車体に支持されるシリーズハイブリッド車両を制御する制御方法であって、コントローラ30が、内燃機関2の動力により駆動される発電用モータ3に発電を行わせ、発電した電力により駆動用モータ4をさせて駆動輪6を駆動し、減速時には駆動用モータ4に減速要求に応じた回生トルクを発生させる、シリーズハイブリッド車両の制御方法が提供される。この制御方法では、回生トルクが発生している状態で発電用モータ3が発電する際の内燃機関2のエンジン回転速度よりも車体フロア部の共振が生じるエンジン回転速度領域であって回生トルクの上限に基づいて定まるフロア振動発生領域が低くなる大きさに回生トルクの上限を制限して、駆動用モータ4により回生トルクを発生させる。換言すると、回生トルクが発生している状態で発電用モータ3が発電する際の内燃機関2のエンジン回転速度よりも車体フロア部の共振が生じるエンジン回転速度領域であって回生トルクの上限に基づいて定まるフロア振動発生領域が低くなるように回生トルクの上限を制限して、駆動用モータ4により回生トルクを発生させる。これにより、内燃機関2が発電のために動作している場合に協調回生制動を実行しても、フロア振動が許容できない大きさまで増大することを防止できる。
【0068】
本実施形態では、発電時の内燃機関1の上限回転速度における燃焼加振力周波数と、エンジンマウント7に弾性支持される内燃機関2の固有周波数とが等しくなる場合のエンジンマウント7のバネ定数kを算出し、算出されたバネ定数kになるときのエンジンマウント7の圧縮量x1を算出し、当該圧縮量x1になるときの駆動用モータ4のトルクを、回生トルク上限値とする。これにより、エンジンマウント7のバネ定数の特性に合わせた適切な回生トルク上限値を設定することができる。
【0069】
[変形例]
次に、上記実施形態の変形例について説明する。この変形例も本発明の範囲に属する。
【0070】
上記実施形態では、回生トルク上限値設定部46が触媒暖機モード、リカバーモード及び熱保護モードで制限される上限回転速度のうち、最も低いエンジン回転速度を用いて回生トルク上限値を算出する。これに対して本変形例では、走行シーンに応じた上限回転速度を用いて回生トルク上限値を算出する。例えば、触媒暖機モード、リカバーモード及び熱保護モードのそれぞれで上限回転速度が異なる場合には、現在実行しているモードの上限回転速度を用いる。また、例えば触媒暖機モードの実行中に上限回転速度が変化することもあり、その場合には現在の上限回転速度を用いる。これにより、回生トルク及びエンジン回転速度を必要以上に制限することを防止できる。
【0071】
図8は、触媒暖機モード実行中の減速時に変形例に係る制御を実行した場合のタイミングチャートの一例である。
【0072】
図8に示す通り、タイミングT2で触媒暖機モード中の上限回転速度の要求値(図中のEGVR要求上限回転速度)が低下することとする。また、タイミングT2までは上限回転速度が下限回転速度より高く、タイミングT2以降のEGVR要求上限回転速度に対応する上限回転速度は下限回転速度より低くなることとする。
【0073】
本変形例によれば、上限回転速度が下限回転速度より高い間は、エンジン回転速度を下限回転速度まで上げることができるので、駆動用モータ4の回生トルクでブレーキ操作量に応じた制動力を賄うことができる。しかし、上限回転速度が下限回転速度より低くなると、エンジン回転速度は下限回転速度より低い上限回転速度に制限されることとなり、その結果、駆動用モータ4の回生トルクも制限される。これにより協調回生による制動力が不足することとなるので、摩擦ブレーキによる制動力の補填が行われる。
【0074】
このように、本変形例では、エンジン回転速度の上限が低くなるほど駆動用モータ4の回生トルクの上限値を小さくする。換言すると、エンジン回転速度の上限が低くなるほど、回生トルクの上限値をゼロに近づける。これにより、減速途中に回生トルクの制限の度合いが変化した場合でも、その変化が車両1の挙動には現れないので、運転者に違和感を与えることがない。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8