(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】骨格部材
(51)【国際特許分類】
B23K 11/00 20060101AFI20220913BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20220913BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220913BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B23K11/00 570
B23K11/11 540
C22C38/00
C22C38/04
(21)【出願番号】P 2022542662
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2022017788
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2021072691
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 遼馬
(72)【発明者】
【氏名】相藤 孝博
(72)【発明者】
【氏名】藤中 真吾
(72)【発明者】
【氏名】戸田 由梨
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-422(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038045(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/116531(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0084074(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111545887(CN,A)
【文献】特開2016-55337(JP,A)
【文献】特開2008-229720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00
B23K 11/11
C22C 38/00
C22C 38/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の鋼板部材と第二の鋼板部材をスポット溶接部でスポット溶接することにより接合した骨格部材であって、
前記骨格部材の長手方向に垂直な断面が閉断面である断面領域を有し、
前記第一の鋼板部材は1900MPa以上の引張強さを有し、
前記スポット溶接部は、前記スポット溶接により形成された溶融金属部と、前記溶融金属部の外側に隣接する熱影響部と、を有し、
前記溶融金属部の中心点を含む前記長手方向に垂直な断面において、
前記溶融金属部に相当する領域を第一の領域と定義し、
前記熱影響部に相当する領域を第二の領域と定義し、
前記第一の領域と前記第二の領域との境界から前記第一の領域側に100μm離間するまでの領域と、前記境界から前記第二の領域側に100μm離間するまでの領域とにより構成される領域を第三の領域と定義し、
前記第一の領域の中央部から前記第二の領域側に延在する仮想直線に沿って、10gfの荷重で15μmピッチでビッカース硬度を測定したとき、
前記仮想直線の上における、前記第一の領域に対応する測定箇所における平均ビッカース硬度Hv
Aveと、前記仮想直線の上における、前記第三の領域に対応する測定箇所における最低ビッカース硬度Hv
Minとが、Hv
Ave-Hv
Min≦100を満たす
ことを特徴とする骨格部材。
【請求項2】
前記骨格部材の長手方向に垂直な断面における、前記第一の鋼板部材における前記スポット溶接部が形成されている部位の板厚方向に沿う、前記第一の鋼板部材の高さh1と、前記第一の鋼板部材における前記スポット溶接部が形成されている部位の板厚方向に垂直な方向に沿う、前記骨格部材の幅wとの比率h1/wが0.6以下である断面領域を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の骨格部材。
【請求項3】
前記比率h1/wが0.6以下である断面領域が、前記骨格部材の前記長手方向の全長の50%以上に存在する
ことを特徴とする請求項2に記載の骨格部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突時のスポット溶接部からの破断を抑制することにより高強度化に見合った優れたエネルギー吸収性能を発揮可能な骨格部材に関する。
本願は、2021年4月22日に、日本に出願された特願2021-072691号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車業界では、衝突時の衝撃を低減し得る車体構造の開発が進められている。車体構造を構築する骨格部材には、衝突エネルギーを吸収させることが求められ、例えば、複数の鋼板をプレス成形等により所定形状に成形した後、スポット溶接により閉断面化した構造が採用されている。
このような構造においては、衝突時の入力によって部材が変形した場合においてもスポット溶接部が容易に破断することなく、部材の閉断面を維持できるような強度を確保することが重要である。
【0003】
一般に鋼板を高強度化することで、骨格部材の単位質量当たりの衝突時の吸収エネルギーを高めることができる。このため、鋼板の高強度化は自動車車体の軽量化の手段として用いられることが多い。
一方で、鋼板の高強度化によって、スポット溶接部の強度が低下することが知られている。従って、高強度の鋼板を用いてスポット溶接により閉断面化する場合には、部材に衝突入力が加わった際にスポット溶接部が破断しないように工夫する必要がある。スポット溶接部からの破断が生じると、閉断面が維持できずに、高強度化に見合ったエネルギー吸収性能が得られないためである。
【0004】
このような実状から、高強度化に見合ったエネルギー吸収性能を得ることを目的とした骨格部材が提案されている。
例えば特許文献1には、第一の鋼板と第二の鋼板と第一の溶接金属部とを備え、第二の鋼板の第一の溶接金属部の周囲4mm以内の領域の最低ビッカース硬度は、第二の鋼板の領域の外側の硬度の80%以上である自動車骨格部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、溶接部を含めた部材全体の強度の向上と衝撃吸収特性の向上を両立させることが可能であるとされている。
しかし、特許文献1が解決しようとしている課題はHAZ軟化による硬度低下の抑制に関するものであるが、鋼板を高強度化した場合における、接合強度低下の要因は、HAZ軟化による硬度低下に限ったものではなく、特許文献1の技術をもってしても、使用する鋼材によってはスポット溶接部からの破断により所望のエネルギー吸収性能を発揮できない場合があり、エネルギー吸収性能を更に高める余地があった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、衝突時のスポット溶接部での破断を抑制することにより高強度化に見合った優れたエネルギー吸収性能を発揮可能な骨格部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)本発明の第一の態様は、第一の鋼板部材と第二の鋼板部材をスポット溶接部でスポット溶接することにより接合した骨格部材であって、前記骨格部材の長手方向に垂直な断面が閉断面である断面領域を有し、前記第一の鋼板部材は1900MPa以上の引張強さを有し、前記スポット溶接部は、前記スポット溶接により形成された溶融金属部と、前記溶融金属部の外側に隣接する熱影響部と、を有し、前記溶融金属部の中心点を含む前記長手方向に垂直な断面において、前記溶融金属部に相当する領域を第一の領域と定義し、前記熱影響部に相当する領域を第二の領域と定義し、前記第一の領域と前記第二の領域との境界から前記第一の領域側に100μm離間するまでの領域と、前記境界から前記第二の領域側に100μm離間するまでの領域とにより構成される領域を第三の領域と定義し、前記第一の領域の中央部から前記第二の領域側に延在する仮想直線に沿って、10gfの荷重で15μmピッチでビッカース硬度を測定したとき、前記仮想直線の上における、前記第一の領域に対応する測定箇所における平均ビッカース硬度HvAveと、前記仮想直線の上における、前記第三の領域に対応する測定箇所における最低ビッカース硬度HvMinとが、HvAve-HvMin≦100を満たす骨格部材である。
(2)上記(1)に記載の骨格部材では、前記骨格部材の長手方向に垂直な断面における、前記第一の鋼板部材における前記スポット溶接部が形成されている部位の板厚方向に沿う、前記第一の鋼板部材の高さh1と、前記第一の鋼板部材における前記スポット溶接部が形成されている部位の板厚方向に垂直な方向に沿う、前記骨格部材の幅wとの比率h1/wが0.6以下である断面領域を有してもよい。
(3)上記(2)に記載の骨格部材では、前記比率h1/wが0.6以下である断面領域が、前記骨格部材の前記長手方向の全長の50%以上に存在してもよい。
【発明の効果】
【0009】
上記の態様によれば、溶融金属とHAZ部との境界の近傍の硬度分布が適正化されていることにより、衝突時のスポット溶接部での破断を抑制することができ、高強度化に見合った優れたエネルギー吸収性能を発揮可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る骨格部材を示す斜視図である。
【
図2A】同実施形態に係る骨格部材のスポット溶接部の近傍を示す概略断面図である。
【
図2B】
図2Aの仮想直線aに沿う硬度分布を示すグラフである。
【
図3A】Mn含有量が1.27質量%である鋼板部材を用いた骨格部材のスポット溶接部の近傍を示す概略断面図である。
【
図3B】
図3Aの仮想直線aに沿う硬度分布を示すグラフである。
【
図4】実施例で用いる部材の断面形状を説明するための模式図である。
【
図5】実験例の3点曲げ試験条件を説明するための模式図である。
【
図6A】3点曲げ試験によりスポット破断が生じた状態を示す模式図であって、片側5箇所にスポット破断が生じた状態を示す。
【
図6B】3点曲げ試験によりスポット破断が生じた状態を示す模式図であって、片側1箇所にスポット破断が生じた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、高強度化に見合った優れたエネルギー吸収性能を発揮できる骨格部材の構成について鋭意検討した。
本発明者らは、2.0GPa超のホットスタンプ材を骨格部材の材料として適用した場合に発生するスポット破断について分析する中で、同じ強度であってもMn含有量が異なる場合にスポット破断の発生頻度が異なることに着目した。
そして、本発明者らは、2.0GPa超のホットスタンプ材を二枚重ね合わせてスポット溶接した骨格部材のスポット溶接部の近傍の硬度分布を精細に調査した。その結果、スポット破断が生じやすい骨格部材においては、HAZ軟化部とは別に、溶融金属とHAZ部との境界の近傍において、溶融金属の平均硬度よりも硬度が100Hv以上低下する部位が存在する傾向があることを発見した。
また、この傾向は、Mn含有量が高い鋼板材料を用いた場合において顕著であることに着目し、更なる研究を行った。その結果、溶融金属とHAZ部との境界の近傍に生じるMn欠乏層の存在が上記の傾向の原因であることを本発明者らは発見した。
これらの発見に基づき、本発明者らは、溶融金属とHAZ部との境界の近傍の硬度分布を適正化することによって、2.0GPa超のホットスタンプ材を適用した骨格部材においてもスポット破断を抑制することができ、高強度化に見合った優れたエネルギー吸収性能を発揮できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る骨格部材1について説明する。
なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
まず、本明細書における語句について説明する。
「長手方向Z」は、骨格部材の材軸方向、すなわち、軸線が延びる方向を意味する。「幅方向X」は、長手方向Zに垂直な方向のうち、スポット溶接される二つの鋼板部材の接合面が延びる方向である。「高さ方向Y」は、長手方向Zと幅方向Xに垂直な方向である。
「溶融金属部」とは、重ね合わされた鋼板部材がスポット溶接熱により溶融し一体となった部位を意味する。溶融金属部はナゲットと呼称される場合もある。
「熱影響部」とは、溶融金属部よりも外側に隣接して形成される部位であり、スポット溶接熱の影響によって母材金属部の組織とは異なる組織を有する部位である。熱影響部はHAZ(Heat Affected Zone)と呼称される場合もある。
尚、通常、熱影響部における外周領域では、スポット溶接熱の影響によって溶融金属部及び母材金属部よりも軟化したHAZ軟化部が存在する。
【0014】
図1は、骨格部材1の斜視図である。骨格部材1は、長手方向Zに沿って延在する中空筒状の長尺部材である。骨格部材1は、第一の鋼板部材10と第二の鋼板部材20とが複数のスポット溶接部50により接合されることで構成される。
【0015】
第一の鋼板部材10は、鋼板を、ハット型断面形状にプレス成形することにより得られる部材である。第一の鋼板部材10の板厚(すなわち、プレス成形前の鋼板の板厚)は0.4mm以上4.2mm以下であればよい。
図1に示すように、第一の鋼板部材10は、天板11と、天板11の幅方向Xの端縁から屈曲して延在する一対の側壁13,13と、一対の側壁13,13における天板11とは反対側の端縁から屈曲して幅方向Xに外方に向けて延在する一対のフランジ15,15とを有する。
【0016】
第一の鋼板部材10は、1900MPa以上の引張強さを有する。第一の鋼板部材10が1900MPa以上の引張強さを有することにより、優れたエネルギー吸収性能を発揮することができる。
ただし、骨格部材1の衝撃変形時にスポット溶接部50からの破断が生じ、閉断面が崩壊する場合においては、第一の鋼板部材10が1900MPa以上の引張強さを有することによるエネルギー吸収性能を十分に発揮することができない。従って、本願においては、後述するように、スポット溶接部50の近傍の硬度分布を適正化することで、高強度部材を用いながらもスポット破断を抑制することが肝要である。
【0017】
第一の鋼板部材10は、鋼板をオーステナイト変態温度以上に加熱し、水冷金型で成形しながら焼き入れる工法(ホットスタンプ工法)により製造され得る。
【0018】
第二の鋼板部材20は、平板状の鋼板である。第二の鋼板部材20の板厚は0.4mm以上4.2mm以下であればよい。
第二の鋼板部材20の引張強さは特に限定されないが、第一の鋼板部材10と同様、1900MPa以上である場合には、更に優れたエネルギー吸収性能を発揮することができる点で好ましい。
【0019】
スポット溶接部50は、第一の鋼板部材10の一対のフランジ15,15に第二の鋼板部材20を重ね合わせた状態でスポット溶接を行うことにより形成される。
スポット溶接部50は、骨格部材1の長手方向Zに沿って15mm~50mm程度のピッチで複数形成される。
スポット溶接の条件は、特に限定されるものではない。例えば、ナゲット径(すなわち、溶融金属部の直径)が6√t(tは第一の鋼板部材10の板厚と第二の鋼板部材20の板厚のうち、薄い方の板厚)程度となる入熱条件であればよい。
【0020】
図2Aは、
図1のA1-A1線に沿う断面の模式図である。換言すると、
図2Aは、スポット溶接部50の中心点Pを含む、長手方向Zに垂直な断面を示す模式図である。
この
図2Aに示すように、スポット溶接部50は、溶融金属部51と、溶融金属部51の外側に隣接して形成される熱影響部53とにより構成される。
【0021】
ここで、スポット溶接部50の中心点Pを含む長手方向Zに垂直な断面において、溶融金属部51に相当する領域を第一の領域αと定義し、熱影響部53に相当する領域を第二の領域βと定義する。
更に、第一の領域αと第二の領域βの境界である溶融境界から、第一の領域α側に100μm離間するまでの領域と、第二の領域β側に100μm離間するまでの領域とにより構成される領域を第三の領域γと定義する。
尚、第三の領域γは、第一の領域αの一部と第二の領域βの一部とに重複する。
【0022】
図2Bは、スポット溶接部50の硬度分布を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は、
図2Bに二点鎖線で示す仮想直線aの位置に対応し、縦軸は、仮想直線aに沿って測定されるビッカース硬度に対応する。
仮想直線aは、第一の領域αの中央部から第二の領域β側に延在する。より具体的には、仮想直線aは、第一の鋼板部材10と第二の鋼板部材20との接合面(
図2Aにおける一点鎖線)から、第一の鋼板部材10側に200μm離間して接合面に平行に延在する。
一対のa2点は、仮想直線aのうち、第一の領域αと第二の領域βとの境界である溶融境界に交差する点である。
一対のa2点よりも内側に存在する一対のa1点は、仮想直線aのうち、第三の領域γの内縁に交差する点である。
一対のa2点よりも外側に存在する一対のa3点は、仮想直線aのうち、第三の領域γの外縁に交差する点である。
一対のa3点よりも更に外側に存在する一対のa4点は、仮想直線aのうち、第二の領域βの外縁に交差する点である。
従って、仮想直線aにおいては、
一対のa2点を結ぶ線分が第一の領域αに対応し、
a2点とa4点とを結ぶ二つの線分が第二の領域βに対応し、
a1点とa3点とを結ぶ二つの線分が第三の領域γに対応する。
【0023】
図2Bに示すように、本実施形態に係る骨格部材1においては、第二の領域βにおける外側の領域(a3点とa4点の間)においてはHAZ軟化部が存在することにより硬度が低下しているものの、第三の領域γにおいては硬度が低下していない。
従って、第一の領域αにおける平均(算術平均)ビッカース硬度Hv
Aveと第三の領域γにおける最低ビッカース硬度Hv
Minとが、Hv
Ave-Hv
Min≦100を満たしている。
この場合、第三の領域γにおける局所的な硬度低下に起因する、骨格部材1の変形途中でのスポット破断が抑制され、閉断面が維持される。これにより、骨格部材1は、高強度化に見合った優れたエネルギー吸収性能を発揮することができる。
【0024】
ここで、
図3Aは、本実施形態に係る骨格部材1の第一の鋼板部材10と第二の鋼板部材20の代わりに、Mn含有量が1.27質量%であり、引張強さが1900MPa以上である第一の鋼板部材110と、Mn含有量が1.27質量%であり、引張強さが1900MPa以上である第二の鋼板部材120を用いた骨格部材101について、スポット溶接部150の中心点Pを含む長手方向Zに垂直な断面を示す模式図である。
図3Aに示すように、スポット溶接部150は、溶融金属部151と熱影響部153を有して構成されている。
【0025】
また、
図3Bは、スポット溶接部150の硬度分布を示すグラフである。このグラフも、
図2Bと同様、横軸は
図3Aにおける二点鎖線で示す仮想直線aの位置に対応し、縦軸は仮想直線aに沿って測定されるビッカース硬度に対応する。
【0026】
図3Bに示すように、骨格部材101においては、第二の領域βにおける外側の領域(a3点とa4点の間)に存在するHAZ軟化部とは別に、第三の領域γにおいて、硬度が急激に低下している部位が存在する。
従って、第一の領域αにおける平均ビッカース硬度Hv
Aveと第三の領域γにおける最低ビッカース硬度Hv
Minとが、Hv
Ave-Hv
Min>100となる。
この現象は、本発明者らの研究の結果によれば、Mn含有量が高く且つ高強度の鋼板をスポット溶接した場合に生じるMn欠乏層に起因するものと推察される。
この骨格部材101においては、第三の領域γに軟化部が存在するため、変形途中でスポット破断が生じることにより閉断面が維持されず、高強度化に見合った優れたエネルギー吸収性能を発揮できない場合がある。
一方、本実施形態に係る骨格部材1によれば、仮想直線aのうち、第一の領域αに対応する測定箇所における平均ビッカース硬度Hv
Aveと、第三の領域γに対応する測定箇所における最低ビッカース硬度Hv
Minとが、Hv
Ave-Hv
Min≦100を満たすことにより、局所的な硬度低下に起因する、変形途中でのスポット破断が抑制され、閉断面が維持される。従って、骨格部材1は、高強度化に見合った優れたエネルギー吸収性能を発揮することができる。
【0027】
尚、変形途中でのスポット破断をより確実に防止するためには、HvAve-HvMin≦50であることが好ましく、HvAve-HvMin≦30であることが更に好ましい。
【0028】
HvAve-HvMin≦100を満たすような硬度分布を得るための方策としては、例えば、第一の鋼板部材10の材料として、Mn含有量が1.0質量%以下、好ましくは0.50質量%以下である鋼板を用いることが考えられる。このように、Mn含有量を低減することで、第三の領域γにおけるMn偏析の発生を抑えることができるため、第三の領域γに局所的な軟化部が生じることを防ぐことができる。また、Mn以外の合金元素量を調整することによっても、第三の領域γに局所的な軟化部が生じることを防ぐことができる。
【0029】
(測定方法)
仮想直線aのうち、第一の領域αに対応する測定箇所における平均ビッカース硬度HvAveと、第三の領域γに対応する測定箇所における最低ビッカース硬度HvMinは、下記のように測定することができる。
【0030】
ビッカース硬度は、JIS Z 2244に準拠し、10gfの荷重で仮想直線aに沿って15μmの測定ピッチで連続的に測定する。
このような測定によって得られたビッカース硬度の値から、第一の領域αにおける平均ビッカース硬度HvAveと第三の領域γにおける最低ビッカース硬度HvMinをそれぞれ求めることができる。
【0031】
尚、本願では、200μm程度の狭い第三の領域γにおける硬度低下を抑制することによりスポット破断を回避しようとするものである。従って、通常よりも狭い15μmという測定ピッチを採用している。
換言すると、測定ピッチが大きすぎる場合には、第三の領域γの近傍における局所的な硬度低下があったとしても、そのような硬度低下を検出することができない。
尚、ここでは、200μm離間して接合面に平行に延在する仮想直線aに沿って測定する方法を示すが、この方法での測定が困難な場合は、溶融部中央から外側に向かって、溶融境界をまたぐように15μmmピッチで測定してもよい。
【0032】
第一の鋼板部材10及び第二の鋼板部材20の化学成分は特に限定されない。ただし、第一の鋼板部材10及び第二の鋼板部材20のそれぞれについて、Mn含有量が過剰であると、Mn偏析が生じやすくなるため、Mn含有量は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。
第一の鋼板部材10及び第二の鋼板部材20のそれぞれについて、焼き入れ性の確保の観点からは、Mn含有量が0.1質量%以上であることが好ましい。
また、Mn含有量を低減する場合、強度を確保するためにC(炭素)含有量は0.30~0.60質量%であればよい。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0034】
例えば、上記実施形態に係る骨格部材1では第一の鋼板部材10と第二の鋼板部材20とを用いて構成されているが、三つ以上の複数の鋼板部材を用いて構成されてもよい。
また、上記実施形態に係る骨格部材1では第一の鋼板部材10がハット型断面形状を有し第二の鋼板部材20が平板の断面形状を有するが、閉断面を有する限り、断面形状は問わない。例えば、第一の鋼板部材10が平板状の断面形状を有し、第二の鋼板部材20がハット型断面形状を有してもよく、第一の鋼板部材10と第二の鋼板部材20が共にハット型断面形状を有してもよい。
また、上記実施形態に係る骨格部材1では、一対の側壁13,13の高さは互いに同じであるが、互いに異なっていてもよい。
【0035】
骨格部材1の長手方向Zに垂直な断面における、第一の鋼板部材10におけるスポット溶接部50が形成されている部位の板厚方向に沿う、第一の鋼板部材10の高さh1と、第一の鋼板部材10におけるスポット溶接部50が形成されている部位の板厚方向に垂直な方向に沿う、骨格部材1の幅wとの比率h1/wが0.6以下である断面領域を有することが好ましい。
このような構成によれば、スポット溶接部50の強度を高めた鋼板を用いて部材断面の縦横比を適正化した部材とすることで、スポット溶接部50の破断を抑制することができる。これにより、更に優れたエネルギー吸収性能を発揮することができる。
尚、一対の側壁13,13の高さが互いに異なるハット型断面形状の場合、両側の側壁13,13の高さの平均の長さを高さh1とする。
【0036】
本実施形態に係る骨格部材1において、第二の鋼板部材20は平板状であるため、高さh2は0mmである。第二の鋼板部材20が平板状ではない部材の場合、その高さh2は骨格部材1の幅wとの比率h2/wが0.6以下である断面領域を有することが好ましい。
【0037】
なお、本実施形態に係る骨格部材1は、全長に亘り一様の断面形状を有するが、全長に亘り一様の断面形状を有さなくてもよい。
比率h1/wが0.6以下である断面領域は、骨格部材1の長手方向Zの全長の50%以上に存在することが好ましく、80%以上に存在することが好ましい。
また、同様に、比率h2/wが0.6以下である断面領域は、骨格部材1の長手方向Zの全長の50%以上に存在することが好ましく、80%以上に存在することが好ましい。
このような構成によれば、より確実に衝突時のスポット溶接部からの破断を抑制することができ、更に優れたエネルギー吸収性能を発揮できる。
【0038】
(実施例)
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0039】
図5に示す三点曲げ試験を数値解析モデルで再現し、スポット破断数を評価した。スポット溶接部をナゲット径:6√t(t=1.4mm)でモデル化した。スポット溶接部強度には、せん断型継手溶接試験結果を用いた。材料物性には、引張試験結果を用いた。
【0040】
まず、評価に用いる鋼板の特定を表1に示す通りとした。
【0041】
【0042】
実験例1~3、5~7では、鋼板Aを用いた所定の部材高さh1を有するハット型鋼板部材と、当該ハット型鋼板部材のフランジにスポット溶接で接合された、鋼板Aと同等の特性を有する平板状の鋼板部材(h2=0mm)と、からなる骨格部材を用いた。スポット溶接のピッチを40mmとした。
実験例4では、鋼板Bを用いた所定の部材高さh1を有するハット型鋼板部材と、当該ハット型鋼板部材のフランジにスポット溶接で接合された、鋼板Bと同等の特性を有する平板状の鋼板部材(h2=0mm)と、からなる骨格部材を用いた。スポット溶接のピッチを40mmとした。 実験例8~13では、鋼板Cを用いた所定の部材高さh1を有するハット型鋼板部材と、当該ハット型鋼板部材のフランジにスポット溶接で接合された、鋼板Cと同等の特性を有する平板状の鋼板部材(h2=0mm)と、からなる骨格部材を用いた。スポット溶接のピッチを40mmとした。
【0043】
これにより、
図4に示すように、部材幅wが130mmであり、部材高さh1が下記表2に示す通りの断面形状の骨格部材とした。なお、骨格部材の長さは800mmであり、全長に亘って断面形状が一定である構造を採用した。
【0044】
次に、
図5に示すように、700mmの間隔で配置された一対のダイ(R50mm)の上に、これらのダイの中間地点と骨格部材の長手方向の中央とが高さ方向に重なるように骨格部材を配置した。その後、骨格部材の長手方向の中央に剛体半円形(R50mm)インパクタを一定速度7.2km/hrで衝突させ、この時の変形状態からスポット破断数を評価した。
図6Aは、スポット破断数が10(片側5箇所)となった場合の例である。この例においては、スポット破断が発生して背板がめくり上がり、閉断面は維持されていない。
図6Bは、スポット破断数が2(片側1箇所)となった場合の例である。この例においては、スポット破断が発生して背板が鋼板部材側に入り込んでいるが、閉断面は維持されている。
実施例においては、スポット破断数が4以下の場合を合格と判定した。評価結果を表2に示す。
【0045】
尚、二枚の鋼板Aを重ね合わせてスポット溶接を行うことで得られたスポット溶接部について、鋼板部材同士の接合面からハット型鋼板部材側に200μm離間して接合面に平行に延在する仮想直線に沿って、JIS Z 2244に準拠し10gfの荷重で15μmピッチでビッカース硬度を測定したと仮定した。
このように仮定したビッカース硬度の値から、第一の領域αにおける平均ビッカース硬度HvAveと第三の領域γにおける最低ビッカース硬度HvMinとの差(HvAve-HvMin)が45となるように設定した。
二枚の鋼板Bを重ね合わせてスポット溶接を行うことで得られたスポット溶接部についても同様にして、HvAve-HvMinの値を90とした。
二枚の鋼板Cを重ね合わせてスポット溶接を行うことで得られたスポット溶接部についても同様にして、HvAve-HvMinの値を140とした。
【0046】
【0047】
Mn含有量が0.39質量%である鋼板Aを用いたと仮定した実験例1~3、5~7、及び、Mn含有量が0.80質量%である鋼板Bを用いたと仮定した実験例4においては、局所的な硬度低下が発生せず、HvAve-HvMinの値が100以下であった。従って、変形途中でのスポット破断数を4以下に抑えることができた。
一方、Mn含有量が1.27質量%である鋼板Cを用いたと仮定した実験例8~13においては、局所的な硬度低下が発生し、HvAve-HvMinの値が100超であった。従って、変形途中でのスポット破断数が8以上となった。
【0048】
尚、発明例の実験例1~3、5~7の比較からは、h1/wの値が0.6以下であるほどよりスポット破断数を抑えることができることも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、衝突時のスポット溶接部での破断を抑制することにより高強度化に見合った優れたエネルギー吸収性能を発揮可能な骨格部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 骨格部材
10 第一の鋼板部材
11 天板
13 側壁
15 フランジ
20 第二の鋼板部材
50 スポット溶接部
51 溶融金属部
53 熱影響部
α 第一の領域
β 第二の領域
γ 第三の領域
【要約】
この骨格部材は、第一の鋼板部材と第二の鋼板部材をスポット溶接部でスポット溶接することにより接合した骨格部材である。前記骨格部材の長手方向に垂直な断面が閉断面である断面領域を有し、前記第一の鋼板部材は1900MPa以上の引張強さを有し、前記スポット溶接部は、前記スポット溶接により形成された溶融金属部と、前記溶融金属部の外側に隣接する熱影響部と、を有する。前記仮想直線の上における、前記第一の領域に対応する測定箇所における平均ビッカース硬度HvAveと、前記仮想直線の上における、前記第三の領域に対応する測定箇所における最低ビッカース硬度HvMinとが、HvAve-HvMin≦100を満たす。