(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】吹出し口および空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 13/068 20060101AFI20220913BHJP
F24F 11/74 20180101ALI20220913BHJP
F24F 13/08 20060101ALI20220913BHJP
F24F 13/12 20060101ALI20220913BHJP
E04F 15/024 20060101ALI20220913BHJP
E04F 15/18 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
F24F13/068 A
F24F11/74
F24F13/08 A
F24F13/12
E04F15/024 601E
E04F15/18 B
(21)【出願番号】P 2018130906
(22)【出願日】2018-07-10
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222956
【氏名又は名称】東洋熱工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390022666
【氏名又は名称】協立エアテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000229933
【氏名又は名称】日本ブロアー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100159167
【氏名又は名称】大倉 恒太
(72)【発明者】
【氏名】河原 博之
(72)【発明者】
【氏名】今林 憲一
(72)【発明者】
【氏名】瀧ヶ崎 薫
(72)【発明者】
【氏名】上谷 勝洋
(72)【発明者】
【氏名】柴野 律之
(72)【発明者】
【氏名】荒川 芳三
(72)【発明者】
【氏名】岡島 正行
(72)【発明者】
【氏名】金子 一光
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0240764(US,A1)
【文献】特開平05-312391(JP,A)
【文献】登録実用新案第3025624(JP,U)
【文献】実開平04-032442(JP,U)
【文献】特開平03-013659(JP,A)
【文献】特開2003-207169(JP,A)
【文献】特開平06-174260(JP,A)
【文献】特開平06-193947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 13/068
F24F 11/74
F24F 13/08
F24F 13/12
E04F 15/024
E04F 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床下空間から室内に空気を吹き出すために床に設置される床吹出し口であって、
前記床の上に配置される部分を含むフェイス部と、
ファンを有するファン部と、
頂上部が前記フェイス部から前記室内に露出するように配置される
、単一のフットスイッチ
であって、当該フットスイッチの筐体に埋め込まれた単一の点灯部を有する、単一のフットスイッチと、
前記床下空間と前記室内の間の通気の状態を切り替えるシャッタと、
を備え、
前記
単一のフットスイッチ
が押下
されるたびに、前記シャッタの開閉状態と、前記ファンの動作状態
と、が変化する
ことにより、前記床下空間から前記室内に吹き出す空気の状態に対応する複数の運転モードが循環的に切り替わるとともに、前記単一の点灯部の点灯状態が、前記運転モードを示すように切り替わる
ことを特徴とする床吹出し口。
【請求項2】
前記複数の運転モードには、前記シャッタが閉鎖され前記ファンが停止していることにより空調が停止しているモード、前記シャッタが開放され前記ファンが停止していることによりマイルドな空調が行われるモード、および、前記シャッタが開放され前記ファンが動作していることにより通常の空調が行われるモード、が含まれる
ことを特徴とする請求項1に記載の床吹出し口。
【請求項3】
前記フェイス部は、前記床の上に配置されるトップ部と、前記床に設けられた穴に挿入
される胴体部とを有し、
前記フットスイッチに力が掛けられたときに、前記フットスイッチの頂上部は前記トップ部の表面以下の高さになる
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の床吹出し口。
【請求項4】
前記胴体部が前記床を構成する床用パネル材に設けられたコンセント穴に挿入され、前記トップ部が前記床の床面に引っかかって固定される、
ことを特徴とする請求項
3に記載の床吹出し口。
【請求項5】
前記シャッタは、前記フェイス部に形成された上部シャッタと、前記上部シャッタの下方に配置される下部シャッタからなり、
前記上部シャッタおよび前記下部シャッタはそれぞれ、中心部の周囲に放射状に配置された複数のスポーク部を含み、前記下部シャッタが回転運動を行うことで開閉状態を切り替えるものであ
る
ことを特徴とする請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の床吹出し口。
【請求項6】
前記フェイス部は上面視で円形の窪み部を有しており、
前記窪み部に着脱可能な円盤状の風向調節部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の床吹出し口。
【請求項7】
前記風向調節部は、円形の外周部と、前記外周部の内側に配置される複数の平行な板状部を有する
ことを特徴とする請求項
6に記載の床吹出し口。
【請求項8】
前記板状部は、前記床に対して60°~80°の角度をなすように配置される
ことを特徴とする請求項
7に記載の床吹出し口。
【請求項9】
前記室内に設置された、複数の、請求項1ないし
8のいずれか1項に記載の床吹出し口と、
複数の前記床吹出し口の運転モードを制御する情報処理装置と、
を備え、
前記複数の床吹出し口はそれぞれタスク領域の空調に用いられる
ものであり、
前記運転モードは、前記情報処理装置と、前記フットスイッチの押下と、の両方に従って変化する
ことを特徴とする空調システム。
【請求項10】
前記情報処理装置は、人感センサが取得した前記室内の所定の領域に人物がいるかどうかを示す人物情報と、環境センサが取得した前記室内の環境検出値との少なくともいずれかに基づいて、複数の前記床吹出し口を制御する
ことを特徴とする請求項
9に記載の空調システム。
【請求項11】
前記情報処理装置は、前記フットスイッチが押下された状態が一定時間以上続いた場合、前記運転モードの切り替えを停止するか、前記タスク領域の空調を停止する
ことを特徴とする請求項9または10に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹出し口に関し、特に、タスク空調に好適に利用される床用の小型吹出し口およびそれを用いた空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オフィスビル等の建物において省エネルギー性能の向上が大きな課題となっている。同時に、室内環境の快適性を高めてユーザーによる作業の効率化を図ることも求められている。これらの要請を両立させるために、建物において、タスク空調とアンビエント空調を組み合わせたタスクアンビエント空調と呼ばれる空調方式の採用が進められている。タスク空調は、建物のユーザーが作業(タスク)を行うタスク領域に対する空調であり、とりわけ個々のユーザーの近傍領域において、温度、湿度および風量などの環境を制御することを指す。また、アンビエント空調は、タスク領域の周囲の部分(アンビエント領域)の空調を指し、室内の全体的な環境を制御することを指す。
【0003】
タスクアンビエント空調においては、アンビエント空調によってベースとなる環境を管理した上で、タスク空調によって変動する要素を個々のユーザーごとに制御できる。例えば夏季であれば、ベースとなる室温を27°Cに設定し、ユーザーがいる場所については気温を下げたり風量を上げたりして涼感を高めることにより、快適性と省エネルギー性能の両立が可能になる。
【0004】
かかるタスク空調の一つに、複数のタスク領域ごとに、調整された空気(例えば冷気もしくは暖気、または調湿された空気など)を吹き出すための吹出し口を設置する技術がある。この場合、床スラブと床の間の空間に調整された空気を保持しておき、吹出し口を介して空気を吹出すことにより、タスク領域ごとに好ましい環境に調整することができる。特に、吹出しの有無や、吹出しの風量または方向を調整可能とすることで、ユーザー個別の環境制御を実現できる。
【0005】
かかるタスク空調に用いる床用の吹出し口について、操作性や調整のしやすさを改善するために種々の方法が提案されている。例えば特許文献1には、床に設置された伸縮自在の吸気ダクトの先端に吹出し口を設けることが開示されている。また、吹出し口に風量と風向を調節する調整機構や、風量を補うためのファンを設けることが開示されている。
また特許文献2には、複数の吹出し口の中から任意の吹出し口を開放あるいは閉塞させる開閉手段を設けることが開示されている。
また特許文献3にも、吹出し口の開閉状態を変えるためのシャッタと、シャッタを動作させるコントローラを備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-032255号公報
【文献】特開2011-002104号公報
【文献】特開2005-098696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の普及に示されるように、地球環境への配慮が求められており、省エネルギー性能の一層の改善が要求されている。また、働き方改革の実現に向けて、作業環境についてもより一層の改善が必要となっている。しかし、タス
クアンビエント空調に従来どおりの構成を用いていたのでは、これらの改善を行う上で限界があった。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、タスク空調に用いられる吹出し口を改善するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
床下空間から室内に空気を吹き出すために床に設置される床吹出し口であって、
前記床の上に配置される部分を含むフェイス部と、
ファンを有するファン部と、
頂上部が前記フェイス部から前記室内に露出するように配置されるフットスイッチと、を備え、
前記フットスイッチの押下に応じて前記ファンの動作状態が変化する
ことを特徴とする床吹出し口である。
かかる構成によれば、ユーザーが風量を制御する際の利便性が向上する。
【0010】
本発明にかかる床吹出し口は、さらに、
前記フェイス部は、前記床の上に配置されるトップ部と、前記床に設けられた穴に挿入される胴体部とを有し、
前記フットスイッチに力が掛けられたときに、前記フットスイッチの頂上部は前記トップ部の表面以下の高さになる構成をとることができる。
かかる構成によれば、フットスイッチの耐久性を向上させられる。
【0011】
本発明にかかる床吹出し口は、さらに、
前記胴体部が前記床を構成する床用パネル材に設けられたコンセント穴に挿入され、前記トップ部が前記床の床面に引っかかって固定される構成をとることができる。
かかる構成によれば、床に取り付け開口を設ける必要がないため、パネルの強度が低下しない。
【0012】
本発明にかかる床吹出し口は、さらに、
前記床下空間と前記室内の間の通気の状態を切り替えるシャッタをさらに備え、
前記シャッタは、前記フェイス部に形成された上部シャッタと、前記上部シャッタの下方に配置される下部シャッタからなり、
前記上部シャッタおよび前記下部シャッタはそれぞれ、中心部の周囲に放射状に配置された複数のスポーク部を含み、前記下部シャッタが回転運動を行うことで開閉状態を切り替えるものであり、
前記フットスイッチの押下に応じて前記シャッタの開閉状態が変化する構成をとることができる。
かかる構成によれば、タスク空調の制御においてユーザーの意図をより正確に反映できる。
【0013】
本発明にかかる床吹出し口は、さらに、
前記フットスイッチは、前記ファンの動作状態を示す点灯部を含む構成や、
前記フットスイッチは、点灯部を含み、
前記フットスイッチの押下に応じて、前記ファンおよび前記シャッタの動作状態の組み合わせからなる運転モードが変化し、
前記点灯部は、前記運転モードに応じて点灯の状態が変化する構成をとることができる。
これらの構成によれば、ユーザーが吹出し口の運転状態を容易に把握できる。
【0014】
本発明にかかる床吹出し口は、さらに、
前記フェイス部は上面視で円形の窪み部を有しており、
前記窪み部に着脱可能な円盤状の風向調節部をさらに備える構成や、
前記風向調節部は、円形の外周部と、前記外周部の内側に配置される複数の平行な板状部を有する構成や、
前記板状部は、前記床に対して60°~80°の角度をなすように配置される構成をとることができる。
これらの構成によれば、吹出し口からの気流の風向を柔軟かつ容易に変更できる。
【0015】
本発明は、また、以下の構成を採用する。すなわち、上記いずれかの床吹出し口を複数含む空調システムであって、
複数の前記床吹出し口の運転モードを制御する情報処理装置を備え、
前記複数の床吹出し口はそれぞれタスク領域の空調に用いられる構成である。
さらに、上記の空調システムにおいて、
前記情報処理装置は、人感センサが取得した前記室内の所定の領域に人物がいるかどうかを示す人物情報と、環境センサが取得した前記室内の環境検出値との少なくともいずれかに基づいて、複数の前記床吹出し口を制御する構成を取ることができる。
これらの構成によれば、室内の状況に応じてタスク領域の制御を柔軟に行うことができ、良好なタスク空調を実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タスク空調に用いられる吹出し口を改善するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】空調システムを適用した部屋の構成を示す断面図
【
図2】空調システムを適用した部屋の様子を示す平面図
【
図5】床吹出し口のフェイス部の構造およびシャッタの構造を表す平面図
【
図8】空調システムの制御に関する構成を説明するブロック図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。ただし、以下に記載されている構成ブロックやそれらの相対配置などは、発明が適用されるシステムの各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0019】
本発明は、吹出し口やそれを用いたタスク空調装置およびタスク空調システム、それらを備える建物、ならびに、それらの制御方法に好ましく適用できる。本発明はまた、情報処理装置の演算資源を利用して動作し、各制御方法の各工程を情報処理装置に実行させるプログラムや、かかるプログラムが格納されたコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、非一時的な記憶媒体であっても良い。
【0020】
[実施の形態]
<システム構成>
図1は、本実施形態のタスク空調システム1が適用される様子を説明する概略図であり、建物の1つの階層に位置するある部屋の断面を示す。部屋は、概略、下の階層との境界となる床スラブ10、上の階層との境界である天井スラブ40、隣の部屋または建物外との境界である壁面70によって区画された空間である。床スラブ10が部屋の下部境界面を規定し、天井スラブ40が部屋の上部境界面を規定する。床スラブ10は下の階層の天井スラブを兼ねていてもよい。天井スラブ40も同様に、上の階層の床スラブを兼ねていてもよい。壁面70は壁材などの構造体からなり、該壁材は隣接する部屋の壁面や建物の外壁を兼ねていてもよい。下部境界面、上部境界面および壁面は、完全な水平または垂直でなくてもよいし、一部に段差、出っ張りや引っ込みがあってもよい。
【0021】
部屋の床は二重構造となっており、床スラブ10の上部に支持部材(不図示)を介して床材20が配置されている。床材20としては、複数の正方形や直方形の床用パネル材を組み合わせて用いることが好ましい。床スラブ10と床材20の間には床下空間30が形成される。床材20は床面を規定する。本図の例では部屋の天井も二重構造としているが、これは一例に過ぎない。天井スラブ40の下には支持部材(不図示)に支持された天井材50が配置されている。天井スラブ40と天井材50の間には天井空間60が形成される。天井材50は天井面を規定する。天井空間60や床下空間30を構成する各部分においては、調整された冷暖気を逃がさないようにしたり結露を防止したりするために、断熱性の高い部材を用いるか、断熱材を敷設するとよい。
【0022】
本明細書では、高さ方向において床面と天井面の間、かつ幅方向において壁面に囲まれた空間を、ユーザーが利用可能な居住空間とする。当該居住空間がタスク空調による環境制御の対象となる。なお、タスク領域とアンビエント領域を設定する場合、その設定方法は任意であり、部屋の使用目的、建物の構造、空調システムの能力などに応じて定めてよい。一例として、高さ方向及び広さ方向においてユーザーが通常利用する範囲をタスク領域としても良い。タスク領域は、広さごとに複数の小領域に分割され、それぞれについて異なる制御が可能である。アンビエント領域としては、例えば所定以上の高さの範囲や、窓際や壁際、出入り口付近などを設定しても良い。
【0023】
また、各ユーザーの座席が決まっている場合、各ユーザーごとに座席や作業エリアを中心としたタスク領域として設定してもよい。室内にパーティションが設置されている場合は、当該パーティションごとに小領域を分けても良い。図の例では、ユーザー5a~ユーザー5cそれぞれの座席の近傍を小領域とする、タスク領域が設定される。ただし、タスク空調とアンビエント空調それぞれが空調効果を発揮する範囲は、気流の変化や各種の外的要因により相互に変化する。したがって、タスク領域とアンビエント領域の境界を必ずしも厳密に定める必要はない。
【0024】
本実施形態の記載においては、説明の簡略化のために、タスク領域において、ユーザーが各小領域ごとにオンデマンドで制御可能な空調をタスク空調と呼び、室内全体として制御される空調をアンビエント空調と呼ぶ。また本実施形態では、タスク空調は床に配置された吹出し口を用いる方式であり、アンビエント空調は天井の吹出し口を用いる方式とする。しかしタスク空調用に、床に加えて天井や壁に吹出し口を設けてもよい。またアンビエント空調用に、天井に加えてまたは天井に代えて、床や壁に吹出し口を設けても良い。また、気流による空調に限らず、輻射空調を用いても構わない。
【0025】
この例では、壁面70aの外部に空調機300を設けている。空調機300は、冷暖気などの調整済み空気を供給する。この空気の温度等は、季節や気温に応じて不図示の中央制御装置によって調整されている。ただし空調機の配置は室外に限られず、天井空間や床下空間配置しても良いし、部屋の近傍に空調室を設けてもよい。なお、ここでは簡略化のために、空調済み空気を供給する給気(Supply Air)系統のみを示す。
【0026】
空調機300から供給された、調整済みのタスク空調用空気210は、ダクト311を介して床下空間に導入される。床材20には、タスク空調の小領域ごとに床吹出し口101a~101cが設置されている。なお、吹出し口の個数や配置は任意である。詳しくは後述するが、床吹出し口には個別に風向と風量を調節する機能がある。例えば床吹出し口101aは閉状態であり、気流が発生していない。床吹出し口101bは、弱い風量で、ユーザー5bの方向に気流221を吹き出している。床吹出し口101cは、強い風量で、上方に気流222を吹き出している。
【0027】
なお、ファンによる送風に加えて、床下空間内が給気によって陽圧になることで発生する上向きの気流を用いても良い。また、個別制御とは別に、中央制御によって吹き出し風量や風向を制御してもよい。床吹出し口から出た空気は旋回流として吹き出し、周りの空気を誘引しながら混合し、室内の空調を行う。また、本図では床下空間全体をチャンバとしたが、ダクトを用いて空調機から個々の吹出し口に空気を導いても良い。
【0028】
空調機300から供給された、調整済みのアンビエント空調用空気220は、ダクト321を介して天井空間に導入される。天井材50には複数の天井用吹出し口50aが設けられており、天井空間に蓄積されたアンビエント空調用空気220を室内に噴出させる。天井用吹出し口としては、埋込み型のユニットや、ファンを有するもの、あるいはノズル、スリットを有するものなど、どのようなものを用いてもよい。また、天井材として、膜天井または布天井と呼ばれる空調に用いられる、複数の小穴を持つ膜状の部材を用いてもよい。また、アンビエント空調用に、従来のエアコンに用いられる種類の室内機を用いてもよい。
【0029】
<配置>
図2は、空調システムが適用される部屋での、床吹出し口の設置方法や設置の様子の一例を示す平面図である。図中、ユーザーや、デスクや椅子などオフィス家具類は省略している。部屋の床は上述した二重構造になっている。部屋に敷き詰められた床用パネル材420は、二重構造の上層であり、
図1の床材20に相当する。本実施形態では、床用パネル材420にはコンセント穴430が設けられている。すなわち、それぞれの床用パネル材420の一辺には、コンセントを設置するのに必要なサイズの半分の大きさの穴が設けられており、通常は着脱可能なカバーで覆われている。図示したように2つの隣接する床用パネル材420を、それぞれのコンセント穴430が接合するように敷き詰めることで、床下空間に設置したコンセントを居住空間に露出させてユーザーの利用に供することが可能になる。
【0030】
本実施形態では、床吹出し口101をコンセント穴430に設置する。図中、床吹出し口101が設置されたコンセント穴430は、黒塗りで示されている。コンセント穴に簡易に床吹出し口を設置するためには、床吹出し口を、コンセント穴に嵌合する胴体部分と室内に露出するフェイス部分を備える構成とし、フェイス部分を床面に引っ掛けて固定する構造にするとよい。例えば、比較的広く用いられている床用パネル材では、コンセント穴は一辺が85mmの略正方形である。その場合、床吹出し口101の胴体部分の断面形状を、当該コンセント穴に嵌合するサイズの略正方形とする。あるいは、床吹出し口の断面形状とコンセント穴の形状が異なる場合にアダプタ部材を用いてもよい。
【0031】
このようにコンセント穴を利用することで、ユーザーのタスク領域(小領域)の広さやユーザー間隔に応じた適切な位置に床吹出し口を設置できる。例えば図では、床吹出し口101a~101cはそれぞれ、風向、風量や外的条件にも依存するものの、小領域260a~260cの空調に寄与する。また通常、コンセント穴は床に多数設けられているので、床吹出し口の設置位置の自由度が高くなり、柔軟にタスク領域を決定できる。また、
既設のコンセント穴を利用することで、床用パネル材の強度を損なうことが無い。ただし、予め設けられたコンセント穴を用いるのではなく、所望の位置に穴を開けても構わない。
【0032】
<吹出し口の構造>
図3を用いて、本実施形態の床吹出し口101の全体構造の一例を説明する。床吹出し口は概略、床面の上に露出する円形のフェイス部170、フェイス部170の中央部の円形の窪みに着脱可能な風向調節部180、設置されたときフェイス部170の下部に接続するシャッタ駆動部160、シャッタ駆動部の下部に接続するファン部150、を備える。フェイス部170から一部が室内に露出するように、フットスイッチ190が設けられている。なお、フェイス部170、シャッタ駆動部160およびファン部150の接続方法は任意であるが、長いねじを用いて三者を繋げれば、確実な固定と容易な分離を両立できる。
【0033】
図4は、設置された床吹出し口を上方から見た平面図である。この例におけるフェイス部170は、上方から見ると3つの部分に区画できる。フェイス部の中央部は、上面視で円形の窪み部171であり、略円盤状の風向調節部180と嵌合するように整形されている。かかる構成により、ユーザーが窪み部171に嵌め込まれた風向調節部180を、360°いずれの方向にも自由に回転させて風向を調節できる。その周辺には平坦部172があり、さらに周辺には、床に向かってなだらかに傾斜する傾斜部173が存在する。かかる構成により、設置されたときの安定性が向上するとともに、ユーザー歩行時やオフィス家具の移動時の引っ掛かりを抑制できる。
【0034】
図中、フットスイッチ190のうち、筒状の筐体部192の上部と、筐体部に埋め込まれたLEDからなる点灯部191とは、室内に露出している。フットスイッチの筐体部192は、フェイス部170に開けられた穴に、押下可能に設置される。ただし点灯部についてはLEDに限定されない。また、点灯部をフットスイッチとは別の位置に設けてもよい。
【0035】
また、風向調節部180は、窪み部の内径よりわずかに狭い直径を持つ円形の外周部181と、外周部181の内側に平行に複数配置される細長い板状部182を備える。この構造により、下方からの調整済み空気が通過するためのスリット部183が形成される。なお
図4では、スリット部183の隙間から、窪み部が有する上部シャッタが見えている。板状部182は、吹出し口設置時に床面に垂直にならないように配置されている。このように角度を付けることで、風向調節部をユーザーが手動で回転させたときに、気流の吹き出し方向に多様性が生じる。なお、互いに角度が異なる複数の風向調節部を用意しておき、ユーザーが所望のタイプを利用できるようにしても良い。角度としては60°~80°程度が好ましく、典型的には70°とする。
【0036】
図5Aは、フェイス部170を上から見た平面図であり、風向調節部が窪み部171から取り外された様子を示す。窪み部171の底面は、上部シャッタ174を兼ねている。上部シャッタ174の周辺部は、平坦部172に接続され固定されている。上部シャッタを、シャッタ駆動部が有する下部シャッタと組み合わせることにより、気流の通路を塞ぐことが可能になる。この例での上部シャッタ174は、ハブ部176を中心部として、その周囲に放射状に配置された板状の複数のスポーク部177が組み合わされた形状である。ファンにより下方から送られてきた気流は、スポークの間の空隙部175を通路として上方に吹き出す。またフェイス部には、フットスイッチを挿通するための穴178が開けられている。
【0037】
図5Bは、設置時にシャッタ駆動部160において床面に近い側(フェイス部に接続す
る側)に配置される、下部シャッタ162を示す。下部シャッタも、ハブ部166を中心部として、その周囲に複数の板状のスポーク部167が放射状に接続された形状であり、スポーク間に空隙部165が形成される。下部シャッタ162は、シャッタ駆動部の上面視で略四角形の断面内に収まるようなサイズであり、ハブ部中央(符号A)を回転中心として、少なくとも1つの空隙部165が回転方向において占める角度の分だけ回転可能である(符号R)。回転の動力は任意であり、この例では筐体に格納され、小孔169と接続された直動ソレノイド(不図示)の進退運動をシャッタの回転運動に変換している。他に、ロータリソレノイドやモータなど、回転の動力を得られれば何を用いてもよい。
【0038】
下部シャッタがかかる回転運動をすることで、室内と床下空間の通路の開放/閉塞状態を容易に変更できる。すなわち、上部シャッタの空隙部175と下部シャッタの空隙部165が互いに重なり合ったときには気流の通路が形成される。一方、上部シャッタの空隙部175と下部シャッタのスポーク部167、および、上部シャッタのスポーク部177と下部シャッタの空隙部165が互いに重なり合ったときは閉塞状態となる。なお、下部シャッタは、上部シャッタ等と接触する可能性があるため、下部シャッタの羽根に自己潤滑性樹脂を利用して耐摩擦性や耐久性を向上させると良い。
【0039】
シャッタの開閉は、フットスイッチによるファンの動作制御と連動させても良い。例えば、フットスイッチによりファンの停止が指示された場合には、同時にシャッタを閉塞状態にする。これにより、陽圧により発生する床下空間からの気流が防止され、タスク空調を停止したいというユーザーの意図をより正確に反映できる。なお、シャッタは回転方式に限定されない。例えば直動方式や、羽状部材を折りたたんだり広げたりする方式などでも構わない。ただし、図示したような円形シャッタを用いると、風量・風向の均一化が可能になる。また、シャッタを開閉させる動力は手動でも良い。
【0040】
図6は、床吹出し口101の側面図である。図示したように、フェイス部170は胴体部179aとトップ部179bに分けて考えられる。胴体部179aが床下に挿入されると、胴体部より上のトップ部179bが床面やコンセント穴の縁に引っかかり、吹出し口が床に固定される。したがって胴体部179aはコンセント穴に収まるような形状とサイズ(ここでは、断面の一辺が85mmよりわずかに小さい略正方形)に設計されている。シャッタ駆動部160およびファン部150も、コンセント穴に挿通可能な形状とサイズに設計される。図の例ではいずれの部材の断面も同様の略正方形であり、3つの部材は4本のねじ154によって互いに固定されている。シャッタ駆動部160は、外部の電源から電力供給を受けたり、外部の制御回路から制御信号を入力されたり、外部に状態情報を送信したりするために、制御線を接続するコネクタ164を備えている。
【0041】
図7は、床吹出し口101の底面図である。ファン部150として例えば、PC用に用いられるような小型で静音性に優れたファンを利用できる。ファン部150は、フットスイッチの軸受部を有し、ユーザーによるフットスイッチ押下に応じて気流の状態を制御する。ファン部はまた、不図示の制御線を介して外部の電源や制御回路と接続され、制御指令を受けたり状態を示す情報である状態信号を送信したりしても良い。なお、
図7にはフェイス部170のトップ部の裏面が示されているが、この裏面に補強、滑り止め、部材コスト削減の意味で、筋交いや刻みを設けてもよい。
【0042】
床吹出し口を構成する各部材の材質は、要求される性能やコストに応じて任意に選択できる。例えば、樹脂、アルミやステンレスなどの金属などである。また加工方法についても、射出成形、鋳造、旋盤加工など任意である。また、床吹出し口を構成する各部材のサイズも、要求される性能やコストに応じて自由に決定できる。ファンの性能についても同様である。ただし、吹出し口全体の高さについては、一般的には100~200mmとされる床下空間の範囲に収める必要がある。
【0043】
床に設置するという特性上、フットスイッチ190には、強い力で踏まれたりスイッチの上に荷物等が置かれたりしても壊れないような耐久性が求められる。
図6において、力が掛かっていないときのフットスイッチの頂上部の高さを符号T、フェイス部の表面の平坦部の高さを符号Sで表す。このとき、頂上部の高さTが平坦部の高さSと同じか、高さSよりも低くなり得ることが好ましい。これにより、強い力が掛けられてもフットスイッチが破損しない。このように、フットスイッチ頂上部がトップ部の表面以下の高さになる機能を実現するために、例えば、筐体部192を、加わる力に応じて全体の長さが変化する構造にするとよい。長さ可変構造として例えば、互いに上下方向に摺動可能な2つの部材を組み合わせた構造を利用できる。あるいは、筐体部192の基部にばね等の弾性部材を配置しても良い。
【0044】
<運用>
図8は、本実施形態の空調システムの制御に関する構成を説明するブロック図である。本図には、複数の吹出し口のうちの1つのみを示している。この図においては、タスク空調に関わる床吹出し口101およびアンビエント空調に関わるアンビエント空調機330は、ユーザー5による操作と、中央制御用の情報処理装置208による遠隔操作の両方に従って動作状態を変える。ただし、少なくともユーザーの操作に従って動作する床吹出し口があれば、本発明の処理は実施できる。
【0045】
情報処理装置208は、CPU、メモリ等の演算資源や、マウスやキーボードやディスプレイ等のユーザインタフェース、通信手段などを備える装置であり、PCやワークステーションを好適に利用できる。情報処理装置208は、センサ類からのデータを受信したり、各種空調機あるいはその制御回路に制御値を送信したりする機能を備える。人感センサ211は、室内の所定の領域にユーザーが居るかどうかを判定し、人物情報として情報処理装置に送信するセンサである。人感センサとしては、赤外線センサ、超音波センサ、光学カメラと画像解析ソフトウェアを組み合わせたセンサなど、任意のものを利用できる。環境センサ212は、少なくとも室内の温度情報を取得し、環境検出値として情報処理装置に送信する。他にも湿度や照度などを取得してもよい。この例では、人感センサおよび環境センサは、タスク領域(小領域)ごとの人物情報及び環境検出値と、部屋全体の人物情報および環境検出値を取得する。タスク領域ごとのデータは主にタスク空調の制御に、部屋全体のデータは主にアンビエント空調の制御に、それぞれ利用される。
【0046】
この例では、複数の床吹出し口(101a,101b,101c…)が、制御回路102により制御される。制御回路102は複数(例えば8個)の床吹出し口を制御する。ユーザー5がフットスイッチ190を押下すると、押下信号が制御回路に送信される。制御回路は、現在の運転状態とスイッチ押下の回数に応じて、ファン部150に対して風速制御パラメータを、シャッタ駆動部160に対して開閉制御パラメータを、それぞれ送信する。ただし、制御回路と床吹出し口の関係は本図に限られず、それぞれの床吹出し口が制御回路を備える構成であっても良い。
【0047】
図9は、ファン、シャッタおよびLEDの状態の組み合わせ(運転モード)を説明する表である。ここで、ファン部については「停止/風量弱/風量強」の3つの状態があり、シャッタの開閉状態については「閉塞/通気」の2つの状態があるものとする。また、制御回路がファン部150から状態信号を受け付けることもできる。状態信号は例えば「停止・弱・強」のいずれかで表され、制御回路あるいは情報処理装置による制御に利用される。
【0048】
図9(A)の例では、フットスイッチ押下ごとにタスク空調の運転モードが切り替わる。具体的には、ファン、シャッタおよびLEDの動作状態の組み合わせ(1-1)~(1
-3)の切り替えを繰り返す。組み合わせ(1-1)は、対象となるタスク領域でのタスク空調がオフの状態である。ユーザーがスイッチを1回押下すると組み合わせ(1-2)に移行して弱運転状態となり、LEDは点滅状態となる。ユーザーがさらにスイッチを押下すると組み合わせ(1-3)に移行して強運転状態となり、LEDは常時点灯する。
図9(B)は、組み合わせの場合数が4つとなっている。
図9(A)との違いは、組み合わせ(2-2)が存在することである。この状態では、ファンは停止しているもののシャッタは開いている。そのため、陽圧になった床下空間からの吹き出しによるマイルドな空調が実施される。
【0049】
図9(A),(B)に示したファン、シャッタおよびLEDの各状態の順序や組み合わせは例示に過ぎず、これらに限定されない。また、ファンの運転状態をより細かく制御しても良い。また、空調システムにモード切替機能を設けても良い。モード切替機能とは、情報処理装置の指示やユーザーの操作によって複数の動作パターン(例えば
図9(A)のパターンと
図9(B)のパターン)を切り替える機能である。
【0050】
従来、一般的な床吹出し口において風量を調節する際には、可変アンプ等を用いたダイヤル式のつまみや、所望の風量ごとに異なるボタン(例えば、弱/中/強ボタン)が用いられていた。しかしこのような方法では、調節を行うときにユーザーがかがんだり手を伸ばしたりする必要がある。一方、本発明のスイッチであれば着席したまま足を伸ばして調節すれば良いため、快適性が向上する。
【0051】
なお、フットスイッチの上に荷物が置かれたときなどは、スイッチから常時押下信号が出力されてしまう。そこで、制御回路または情報処理装置が押下信号の持続時間を検知し、一定時間(例えば10秒)以上押下状態が続いた場合は、状態切替を停止したり、タスク空調を停止したりすると良い。
【0052】
以上述べたように、タスク空調の床吹出し口にフットスイッチを用いることで、ユーザーが風量を制御する際に身をかがめたり手を伸ばしたりする必要がなくなって、ユーザーの快適性が向上する。また、上述のように、フットスイッチと連動したシャッタを用いることによっても、手動でシャッタを開閉する必要がないため、快適性が向上する。また、LED等の点灯手段を用いれば、ユーザーが現在のタスク空調の状態を簡易に知ることができる。また、情報処理装置と人感センサや環境センサを用いた中央制御を行えば、居住空間全体のバランスを取ったタスクアンビエント空調を実現できる。また、吹出し口の設置時に既設のコンセント穴を利用することにより、設置作業の負荷軽減や床の強度維持が可能になる。また、窪み部および風向調節部の外周が円形であるため、吹き出し方向を自由に調節できる。さらに、部材の構造及び組み合わせを各図で示したようにすることで、ファンとシャッタの双方を利用可能でありながら、床下空間が狭い場合にも設置可能なコンパクトな構造を実現できる。
【0053】
この明細書で述べたような種々の構成は、どのように組み合わせても良く、いずれの組み合わせであっても従来の床吹出し口では得られない効果を発揮できる。
【符号の説明】
【0054】
20:床材,30:床下空間,101:床吹出し口,150:ファン部,170:フェイス部,190:フットスイッチ