IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社らいむの特許一覧 ▶ 田井 章博の特許一覧

特許7140325化合物、抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤
<>
  • 特許-化合物、抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤 図1
  • 特許-化合物、抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】化合物、抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/62 20060101AFI20220913BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C07D307/62 CSP
A61K31/365
A61P37/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018098570
(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公開番号】P2019202955
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】500523087
【氏名又は名称】株式会社らいむ
(73)【特許権者】
【識別番号】520223103
【氏名又は名称】田井 章博
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】田井 章博
(72)【発明者】
【氏名】三浦 香織
(72)【発明者】
【氏名】若山 祥夫
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031083(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050894(WO,A1)
【文献】特開2015-003894(JP,A)
【文献】特開昭61-263969(JP,A)
【文献】国際公開第2009/014343(WO,A2)
【文献】特開2000-351905(JP,A)
【文献】田井 章博 ほか,アスコルビン酸誘導体の抗アレルギー作用,ビタミン,2017年,Vol.91, No.9,p.579-580
【文献】IWAOKA, Y. et al.,Affinity resins as new tools for identifying target proteins of ascorbic acid,Analyst,2018年01月09日,Vol.143, No.4,p.874-882
【文献】KATO, K. et al.,Studies on Scavengers of Active Oxygen Species. 1. Synthesis and Biological Activity of 2-O-Alkylasc,J. Med. Chem.,1988年,Vol.31,p.793-798
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/62
A61K 31/366
A61P 37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
[一般式(1)において、R、無置換のアシルアミノ基を表し、その無置換のアシルアミノ基に含まれる炭素原子の数は10以上であり、は、炭素数1~10の無置換のアルキル基を表す。]
【請求項2】
前記一般式(1)のRにおけるアルキル基の炭素数が1~6である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
下記一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含む抗アレルギー剤。
【化2】
[一般式(1)において、R、無置換のアシルオキシ基を表し、その無置換のアシルオキシ基に含まれる炭素原子の数は10以上であるか、または、無置換のアシルアミノ基を表し、その無置換のアシルアミノ基に含まれる炭素原子の数は10以上であり、Rは、炭素数1~10の無置換のアルキル基を表す。]
【請求項4】
下記一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含むメディエーター遊離阻害剤。
【化3】
[一般式(1)において、R、無置換のアシルオキシ基を表し、その無置換のアシルオキシ基に含まれる炭素原子の数は10以上であるか、または、無置換のアシルアミノ基を表し、その無置換のアシルアミノ基に含まれる炭素原子の数は10以上であり、Rは、炭素数1~10の無置換のアルキル基を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤として有用な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、花粉症等のI型アレルギーの罹患者数が増加している。I型アレルギーは、肥満細胞の脱顆粒反応により、ヒスタミン等のメディエーターが放出されることにより発症する。
こうしたアレルギー症状を抑える薬剤として、ヒスタミンH1受容体拮抗作用を有する抗ヒスタミン剤が従来から多用されている。しかし、ヒスタミンH1受容体は、ヒスタミンの結合により覚醒作用等を示すことが知られており、その結合を阻害する抗ヒスタミン剤を服用すると、副作用として眠気、倦怠感や口の渇き等を引き起こすことがあり、服用に注意を要する。
そこで、特許文献1には、L-アスコルビン酸のアシル化誘導体を抗アレルギー剤の有効成分に用いることが提案されており、その実施例において、例えば下記式で表されるグルコシル基等のグリコシル基が2位に導入されたL-アスコルビン酸のアシル化誘導体が、抗アレルギー作用およびメディエーター遊離阻害作用を示すことが確認されている。同文献では、2位にグリコシル基が導入されたL-アスコルビン酸のアシル化誘導体は、こうしたメディエーター遊離阻害作用によりアレルギー症状を抑えるものであるため、ヒスタミンH1受容体拮抗剤で生じるような眠気等の副作用を回避できるとされている。
【0003】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-31083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、2位にグリコシル基が導入されたL-アスコルビン酸のアシル化誘導体が抗アレルギー作用を有することが知られている。しかし、発明者らが、アスコルビン酸について、様々な誘導体を合成して抗アレルギー活性を比較したところ、特許文献1に示されていないグリコシル基非導入のアスコルビン酸のアシル化誘導体の方が、グリコシル基が導入されたアスコルビン酸のアシル化誘導体よりも高い抗アレルギー活性を示すことが判明した。
【0006】
そこで本発明者らは、アスコルビン酸誘導体の抗アレルギー活性についてさらに検討を進め、より抗アレルギー活性が高いアスコルビン酸誘導体を見出すことを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、6位の水酸基をアシルオキシ基またはアシルアミノ基に変換し、2位の水酸基にアルキル基を導入してアルコキシ基に変換したアスコルビン酸誘導体が、2位にグリコシル基を導入したアスコルビン酸のアシル化誘導体よりも、高い抗アレルギー活性と高いメディエーター遊離阻害作用を示すことを見出した。本発明は、こうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0008】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物。
【化2】
[一般式(1)において、R1は、置換もしくは無置換のアシルオキシ基、または、置換もしくは無置換のアシルアミノ基を表し、R2は、置換もしくは無置換のアルキル基を表す。]
[2] 前記一般式(1)のR1におけるアシルオキシ基およびアシルアミノ基の炭素数が、それぞれ10以上である、[1]に記載の化合物。
[3] 前記一般式(1)のR1が、置換もしくは無置換のアシルアミノ基である、[1]または[2]に記載の化合物。
[4] 前記一般式(1)のR1が、無置換のアシルオキシ基、または、無置換のアシルアミノ基である、[1]または[2]に記載の化合物。
[5] 前記一般式(1)のR2におけるアルキル基の炭素数が1~6である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の化合物。
[6] 前記一般式(1)のR2が、無置換のアルキル基である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の化合物。
[7] 前記一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含む抗アレルギー剤。
[8] 前記一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含むメディエーター遊離阻害剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化合物は、高い抗アレルギー活性と高いメディエーター遊離阻害作用を有し、抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤として有用である。本発明の化合物、その異性体またはこれらの薬学的に許容される塩を抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤の有効成分として用いることにより、抗原抗体反応に伴う炎症メディエーターの遊離、および、炎症メディエーターの遊離に引き続いて起こる様々なアレルギー症状を効果的に抑制しうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】化合物1、化合物2、6-sPalm-AA-2Gおよびoxatomideのβ-ヘキソサミニダーゼ遊離抑制率を示すグラフである。
図2】化合物1、化合物2、6-sPalm-AA-2Gまたはoxatomideを投与したマウスのPCA反応による色素漏出量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化3】
【0013】
一般式(1)において、R1は、置換もしくは無置換のアシルオキシ基、または、置換もしくは無置換のアシルアミノ基を表す。R1におけるアシルオキシ基およびアシルアミノ基の炭素数は、10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。一般式(1)で表される化合物は、R1におけるアシルオキシ基およびアシルアミノ基の炭素数が大きいほど、高い抗アレルギー活性、高いメディエーター遊離阻害作用を有する傾向がある。アシルオキシ基およびアシルアミノ基の炭素数の上限値は特に限定されず、化合物の物性や、製剤化する際の基剤等を鑑みて適宜設定される。例えば、R1におけるアシルオキシ基またはアシルアミノ基の炭素数が16以下である化合物は比較的高い水溶性を有するため、水性の基剤等に溶解させることが可能である。また例えば、このアシルオキシ基またはアシルアミノ基の炭素数が18以上である化合物は親油性が高いため、油性基剤や乳化系基剤を用いることができる。また、アシルオキシ基とアシルアミノ基のうちでは、化合物の抗アレルギー活性およびメディエーター遊離阻害作用をより高くできることから、アシルアミノ基であることが好ましい。
1における置換もしくは無置換のアシルオキシ基は、下記一般式(2)で表される構造を有することが好ましい。
【0014】
【化4】
【0015】
一般式(2)において、R11は置換もしくは無置換のアルキル基を表し、*は一般式(1)における6位への結合位置を表す。
11におけるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状であることが好ましい。アルキル基が直鎖状であることにより、一般式(1)で表される化合物は、より高い抗アレルギー活性とより高いメディエーター遊離阻害作用を発揮し得る。また、上記のアシルオキシ基で説明したのと同様の理由から、アルキル基の好ましい炭素数は9以上であり、より好ましくは11以上であり、さらに好ましくは13以上である。また、アルキル基の炭素数の上限値は特に限定されないが、原料の入手や6位への導入が容易であることから、23以下であることが好ましい。アルキル基として、例えば、ノニル基(C919)、ウンデシル基(C1123)、トリデシル基(C1327)、ペンタデシル基(C1531)などを例示することができる。一般式(2)の中のアシル基(-COR11)で言い換えれば、炭素数が10のデカノイル基、炭素数が12のドデカノイル基、炭素数が14のテトラデカノイル基、炭素数が16のヘキサデカノイル基(パルミトイル基)などを例示することができ、中でも、パルミトイル基であることが最も好ましい。R11におけるアルキル基は置換基で置換されていてもよい。アルキル基に置換しうる置換基として、水酸基、ハロゲン原子、炭素数6~40のアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基等を挙げることができる。これらの置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。また、R11が表す置換または無置換のアルキル基に存在するメチレン基の少なくとも1つは、エーテル基(-O-)またはカルボニル基(-CO-)に置換されていてもよい。ただし、隣り合うメチレン基が両方ともエーテル基(-O-)またはカルボニル基(-CO-)に置換されることはない。なお、本明細書でいうアシル基にはアロイル基も含まれる。
【0016】
1における置換もしくは無置換のアシルアミノ基は、下記一般式(3)で表される構造を有することが好ましい。
【0017】
【化5】
【0018】
一般式(3)において、R21は置換もしくは無置換のアルキル基を表し、R22は水素原子または置換基を表す。*は一般式(1)における6位への結合位置を表す。
21におけるアルキル基の説明と好ましい範囲、具体例については、R11におけるアルキル基の説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。R21におけるアルキル基は置換基で置換されていてもよい。置換基の好ましい範囲については、上記のR11における、アルキル基の置換基の好ましい範囲を参照することができる。
22は水素原子であっても置換基であってもよい。R22がとりうる置換基として、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基等を挙げることができる。これらの置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。また、R22が表す置換基中に存在する少なくとも1つのメチレン基は、エーテル基(-O-)またはカルボニル基(-CO-)に置換されていてもよい。ただし、隣り合うメチレン基が両方ともエーテル基(-O-)またはカルボニル基(-CO-)に置換されることはない。
【0019】
一般式(1)において、R2は、置換もしくは無置換のアルキル基を表す。R2が置換もしくは無置換のアルキル基であること、すなわちアスコルビン酸の2位の水酸基がアルキル化されていることにより、その高い還元性を低下させることができ、光や熱、酸素、金属イオン等に対する化合物の安定性を高めることができる。R2におけるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状であることが好ましい。好ましい炭素数は1~20であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~6であり、さらにより好ましくは1~4である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基などを例示することができる。アルキル基に置換しうる置換基として、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基等を挙げることができる。これらの置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。また、R2が表す置換または無置換のアルキル基に存在するメチレン基の少なくとも1つは、エーテル基(-O-)またはカルボニル基(-CO-)に置換されていてもよい。ただし、隣り合うメチレン基が両方ともエーテル基(-O-)またはカルボニル基(-CO-)に置換されることはない。
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。下記式において、Meはメチル基を表す。
【0020】
【化6】
【0021】
[一般式(1)で表される化合物の合成方法]
一般式(1)で表される化合物は新規化合物である。
一般式(1)で表される化合物は、既知の反応を組み合わせることによって合成することができる。例えば、一般式(1)のR1が一般式(2)で表される基(アシルオキシ基)である化合物は、市販のアスコルビン酸のアシル化誘導体を出発物質として、その3位の水酸基へ保護基Xを導入して中間体1aを得た後、その中間体1aとハロゲン化アルキル等との反応により、2位の水酸基へアルキル基を導入し、得られた中間体2aの保護基Xを、塩酸やギ酸等の酸を用いて脱保護することにより合成することが可能である。
【0022】
【化7】
【0023】
上記の反応式におけるR2の説明については、一般式(1)におけるR2の説明を参照することができ、R11の説明については、一般式(2)におけるR11の説明を参照することができる。Xは脱離基を表し、メトキシメチル基などを挙げることができる。
また、上記反応式の出発物質であるL-アスコルビン酸のアシル化誘導体は、市販のL-アスコルビン酸をアシル化することで合成してもよい。アシル化剤としては、酸又は酸ハライド、酸無水物若しくは酸エステルなどを挙げることができ、より具体的には、デカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、ミリスチン酸、パルミチン酸などのカルボン酸、酸ハライド、酸無水物或いはカルボン酸エステル等を挙げることができる。
【0024】
また、一般式(1)のR1が、一般式(3)で表される基であってR22が水素原子である基(アシルアミノ基)である化合物は、市販のアスコルビン酸を出発物質として、Kato K. et al., J. Med. Chem., 31, 793-798 (1988).に記載された方法に従い、そのアスコルビン酸の2位の水酸基にアルキル基を導入して中間体1bを得た後、米国特許第4368330号明細書に記載された方法に従い、中間体1bの6位の水酸基をアミノ基に変換して中間体2bを生成し、さらに、その中間体2bの6位のアミノ基に飽和脂肪酸を導入することで合成することができる。
【0025】
【化8】
【0026】
上記の反応式におけるR2の説明については、一般式(1)におけるR2の説明を参照することができ、R21の説明については、一般式(3)におけるR21の説明を参照することができる。
【0027】
これらの反応の詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。また、一般式(1)で表される化合物は、その他の公知の合成反応を組み合わせることによっても合成することができる。
合成された一般式(1)で表される化合物は、公知の方法を用いて精製することができる。精製方法としては、例えば、塩析、透析、濾過、濃縮、分別沈澱、分液抽出、ゲルクロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、親和クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、等電点電気泳動、結晶化等を挙げることができ、これらの方法を組み合わせて精製してもよい。
【0028】
[一般式(1)で表される化合物の有用性]
本発明の一般式(1)で表される化合物は、L-アスコルビン酸の6位の水酸基がアシルオキシ基またはアシルアミノ基に変換されており、さらに、2位の水酸基にアルキル基が導入されてアルコキシ基に変換された構造を有することにより、2位にグリコシル基が導入されたL-アスコルビン酸のアシル化誘導体よりも高い抗アレルギー活性と高いメディエーター遊離阻害作用を示す。また、一般式(1)で表される化合物は、メディエーター遊離阻害作用によって抗アレルギー作用を発現するものであるため、ヒスタミンH1受容体拮抗剤(抗ヒスタミン剤)で問題になる、眠気、倦怠感や口の渇き等の副作用を回避することができる。さらに、一般式(1)で表される化合物は、生体内で代謝されてアスコルビン酸となり得るため、安全性が非常に高く、また、アスコルビン酸による抗酸化作用等の活性を発揮することも期待できる。そのため、一般式(1)で表される化合物は抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤の有効成分として有用性が高い。
【0029】
[抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤]
次に、本発明の抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤について説明する。
【0030】
(抗アレルギー剤)
本発明の抗アレルギー剤は、一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含むものである。ここで、「薬学的に許容される」とは、悪心、目眩、吐き気等、投与に伴う望ましくない副作用、頻回投与時の製剤に対する免疫応答などがおきないことを意味する。以下の説明では、「薬学的に許容される塩」を単に「塩」ということがある。
抗アレルギー剤に用いる、一般式(1)で表される化合物の説明については、上記の[一般式(1)で表される化合物]の欄の記載を参照することができる。
上記のように、一般式(1)で表される化合物は、L-アスコルビン酸の6位の水酸基が、置換もしくは無置換のアシルオキシ基、または、置換もしくは無置換のアシルアミノ基に変換され、2位の水酸基が置換もしくは無置換のアルコキシ基に変換されたL-アスコルビン酸の誘導体である。その一般式(1)で表される化合物の異性体としては、D-アスコルビン酸、L-アラボアスコルビン酸、D-アラボアスコルビン酸(エリソルビン酸、イソアスコルビン酸とも称する)のそれぞれにおいて、6位の水酸基が、置換もしくは無置換のアシルオキシ基、または、置換もしくは無置換のアシルアミノ基に変換され、2位の水酸基が置換もしくは無置換のアルコキシ基に変換された各誘導体を挙げることができる。各誘導体において、6位の置換もしくは無置換のアシルオキシ基および置換もしくは無置換のアシルアミノ基の説明については、一般式(1)におけるR1の説明を参照することができ、2位の置換もしくは無置換のアルコキシ基を構成する置換もしくは無置換のアルキル基の説明については、一般式(1)におけるR2の説明を参照することができる。これらの誘導体のうち、入手が容易であることから、エリソルビン酸の誘導体が好適に用いられる。アスコルビン酸の異性体は、L-アスコルビン酸と同様の機能を有することが知られており(鈴木他著、J. Nutr. Sci. Vitaminol., 41, 17-24, 1995 等参照)、その異性体の誘導体についても、L-アスコルビン酸の誘導体である一般式(1)で表される化合物と同様に用いることができる。
【0031】
一般式(1)で表される化合物およびその異性体の塩は、無機イオンとの塩であっても、有機イオンとの塩であってもよいが、毒性の低いものであることが好ましい。一般式(1)で表される化合物およびその異性体と塩を形成する無機イオンとして、アルカリ金属(例えばナトリウム、カリウムなど)、アンモニウム、アルカリ土類金属(例えばカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなど)、アルミニウム等の各陽イオンを挙げることができる。また、一般式(1)で表される化合物およびその異性体と塩を形成する有機イオンとして、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、N,N-ジベンジルエチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ジシクロヘキシルアミン等の有機塩基から生じる陽イオンを挙げることができる。一般式(1)で表される化合物およびその異性体は、これらの中でも、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムの各陽イオンと塩を形成していることが好ましい。
ここで、一般式(1)で表される化合物および異性体は、これらの陽イオンの1種のみと塩を形成していてもよいし、2種以上と塩を形成していてもよい。また、一般式(1)で表される化合物およびその異性体において、陰イオン部分になる位置は特に限定されず、例えば3位の水酸基のプロトンが解離して陰イオンになっていてもよいし、R2における置換基のプロトンが解離して陰イオンになっていてもよい。
【0032】
本発明の抗アレルギー剤は、一般式(1)で表される化合物、その異性体、およびこれらの塩のうちの1種のみを含んでいてもよいし、2種類以上を含んでいてもよい。また、抗アレルギー剤が含む、一般式(1)で表される化合物、その異性体、およびこれらの塩は、それぞれ全て同一のものであってもよいし、2種類以上のものから構成されていてもよい。
【0033】
本発明の抗アレルギー剤は、一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの塩を有効成分として含むことにより、生命体のアレルギー症状を効果的に抑制することができ、特にI型アレルギーに対して有効である。具体的には、この抗アレルギー剤は、鼻炎、結膜炎、気管支喘息、食物アレルギー、アナフィラキシー、蕁麻疹またはアトピー性皮膚炎等の症状を抑制することができる。また、抗アレルギー剤が適用されるアレルギーのアレルゲンは、特に限定されず、例えば花粉、ダニ、動物のフケ、カビ、化学物質、食物中の蛋白質等とすることができる。
【0034】
(メディエーター遊離阻害剤)
本発明のメディエーター遊離阻害剤は、一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含むものである。これらの有効成分の説明と好ましい範囲、具体例については、上記の(抗アレルギー剤)の欄の対応する記載を参照することができる。
本発明のメディエーター遊離阻害剤は、一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの塩を有効成分として含むことにより、I型アレルギーの原因となるヒスタミン等の炎症メディエーターの遊離を阻害することができる。I型アレルギーは、肥満細胞の脱顆粒反応により、ヒスタミン等の炎症メディエーターが放出されることにより発症する。本発明のメディエーター遊離阻害剤が含む有効成分は、肥満細胞の脱顆粒反応を抑制してメディエーター遊離阻害作用を発揮するものであり、これにより、I型アレルギーの発症を抑制することもできる。
【0035】
(抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤の形態)
本発明の抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤は、医薬品、医薬部外品または化粧品等、種々の形態を採り得る。医薬品として用いられる場合については、後述する。
本発明の抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤は、化粧品や医薬部外品の薬用化粧品として用いられる場合、敏感肌用またはアレルギー肌用のクリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等に適用することができる。この場合、抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤は、油性または水性基剤、ビタミン剤、皮膚軟化剤、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、緩衝剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、アルコール類、清涼化剤、着色剤、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0036】
<抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤からなる医薬品>
本発明の抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤は、例えば医薬品として、用途に応じた種々の剤形を採り得る。この場合の剤形は、液剤、軟膏、点眼剤、懸濁剤、貼付剤、注射剤、散剤、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、坐剤などを挙げることができる。
本発明の抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤は、医薬品として用いられる場合、非経口、経口投与のいずれも可能である。
特に、一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの塩は、抗アレルギー作用を有する外用薬の有効成分とすることができる。ここでいう外用薬は、内服薬および注射薬を除いた薬剤であり、例えば皮膚用外用薬(外皮用薬)、点眼薬、点鼻薬、吸入薬等を含む。
本発明の抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤は、有効成分である一般式(1)で表される化合物、その異性体、またはこれらの塩を、公知の製剤学的製造法に準じて製剤化することができる(第十六改正日本薬局方(平成23年3月24日 厚生労働省告示第65号)参照)。
この場合、上記の抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤は、その有効成分のほか、医薬上許容される基剤、他の薬効成分および添加物等を配合できる。
基剤は、油性基剤、乳化系基剤および水性基材のいずれでもよい。
他の薬効成分としては、例えば鎮痛消炎剤、殺菌消毒剤、ビタミン剤、皮膚軟化剤、美白剤、保湿剤等を必要に応じて適宜使用できる。
添加物としては、緩衝剤、等張化剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、賦形剤、増粘剤、アルコール類、清涼化剤、着色剤、香料等を配合できる。
また、本発明の抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤を外用薬として用いた場合、上記AA誘導体の含有量は、例えば0.0005~25 w/v%とすることができる。また、投与頻度は特に限定されないが、一日1~6回程度とすることができる。
【実施例
【0037】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0038】
(合成例1) 化合物1の合成
【化9】
6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸(東京化成工業社製)(3.11g、7.5mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(60mL)に溶解し、炭酸カリウム(1.04g、7.5×1.0mmol)とクロロメチルメチルエーテル(0.56mL、7.5mmol)を加え、室温で30分間反応させた。この反応液を、酢酸エチルおよび2M塩化ナトリウム水溶液で分液した。その酢酸エチル層を2M塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した後、濃縮することで3-O-メトキシメチル-6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸を収量3.16g(6.91mmol)で得た。
【0039】
【化10】
【0040】
3-O-メトキシメチル-6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸(3.16g、6.91mmol)をジメチルスルホキシド(60mL)に溶解し、炭酸カリウム(1.15g、6.91×1.2mmol)とヨードメタン(0.52mL、6.91×1.2mmol)を加え、室温で45分間反応させた。この反応液を、酢酸エチルおよび2M塩化ナトリウム水溶液で分液した。その酢酸エチル層を2M塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した後、濃縮することで2-O-メチル-3-O-メトキシメチル-6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸を収量2.98g(6.32mmol)で得た。
【0041】
【化11】
【0042】
2-O-メチル-3-O-メトキシメチル-6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸(2.98g、6.32mmol)をギ酸:エタノール:水=60%:30%:10%の混合液(100mL)に溶解し、80℃で30分間反応させた。この反応液を濃縮し、酢酸エチルおよび2M塩化ナトリウム水溶液で分液した。その酢酸エチル層を2M塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した後、濃縮した。得られた濃縮物をメタノールに溶解させた後、セルロースパウダーに吸着させてシリカゲルカラム(和光純薬工業社:Wakogel C-200(登録商標))に供給し、0.5%のギ酸を含有するトルエン:アセトン=80%:20%の混合液を溶離液に用いて成分を溶出させた。溶出したフラクションをn-ヘキサンとエタノールの混合溶媒により再結晶させて、目的の化合物1を収量1.41g(3.29mmol)、収率43.9%で得た。再結晶した成分のNMRおよびHRMS(high-resolution MS)による構造解析結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
(合成例2) 化合物2の合成
【化12】
【0045】
L-アスコルビン酸(和光純薬工業)(100.00g、568mmol)をアセトン(1.0L)中で、塩化アセチル(8.5mL、568×0.21mmol)を加えて、室温で18時間反応させた。この反応液に減圧濾過を行って粗結晶を回収することにより、5,6-O-イソプロピリデン-L-アスコルビン酸を収量78.17g(362mmol)で得た。
この5,6-O-イソプロピリデン-L-アスコルビン酸(78.17g、362mmol)をテトラヒドロフラン:ジメチルホルムアミド=75%:25%の混合溶媒(280mL)に溶解し、炭酸カリウム(49.97g、362mmol)とクロロメチルメチルエーテル(27.2mL、362mmol)を加え、室温で4時間反応させた。この反応液に水(250mL)を加えて反応を停止させ、2N塩酸で中和させた後、酢酸エチル(250mL)で分液した。その酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した後、濃縮することにより、5,6-O-イソプロピリデン-3-O-メトキシメチル-L-アスコルビン酸を収量32.70g(127mmol)で得た。
この5,6-O-イソプロピリデン-3-O-メトキシメチル-L-アスコルビン酸(32.70g、127mmol)をテトラヒドロフラン:ジメチルスルホキシド=50%:50%の混合液媒(216mL)に溶解し、炭酸カリウム(19.1g、139.7mmol)とヨードメタン(8.6mL、139.7mmol)を加え、30℃で3.5時間反応させた。この反応液に水(300mL)を加え、2N塩酸で中和させた後、酢酸エチル(300mL)で分液した。その酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで脱水した後、濃縮することにより、5,6-O-イソプロピリデン-2-O-メチル-3-O-メトキシメチル-L-アスコルビン酸を収量22.17gで得た。
【0046】
【化13】
【0047】
5,6-O-イソプロピリデン-2-O-メチル-3-O-メトキシメチル-L-アスコルビン酸(22.17g)を2N塩酸:エタノール=25%:75%の混合液(110mL)に溶解し、80℃で1時間反応させた。この反応液を濃縮して得た濃縮物を、0.5%ギ酸水溶液を溶離液に用いて芳香族系吸着カラム(三菱ケミカル社製:ダイヤイオン HP20)により精製し、2-O-メチル-L-アスコルビン酸を収量14.64g(76.99mmol)で得た。
【0048】
【化14】
【0049】
2-O-メチル-L-アスコルビン酸(14.64g、76.99mmol)を酢酸(19.1mL)に溶解し、30%の臭化水素を含む酢酸溶液(29.7mL、臭化水素として153.98mmol)を加えて、30℃で16時間反応させた。この反応液を濃縮し、得られた濃縮物を2N塩酸:エタノール=50%:50%の混合液(75mL)に溶解して60℃で3時間反応させた。この反応液を濃縮し、得られた濃縮物を酢酸エチル(200mL)および水(100mL)を用いて分液した。その酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで脱水した後、濃縮した。得られた濃縮物を、0.5%のギ酸を含有するトルエン:アセトン=80%:20%の混合液を溶離液に用いてシリカゲルカラム(和光純薬工業:Wakogel C-200(登録商標))により精製し、6-ブロモ-6-デオキシ-2-O-メチル-L-アスコルビン酸を収量9.31gで得た。
【0050】
【化15】
【0051】
6-ブロモ-6-デオキシ-2-O-メチル-L-アスコルビン酸(9.31g)に、アジ化ナトリウム(3.59g、55.2mmol)と炭酸ナトリウム(7.79g、55.2mmol)の水溶液(160mL)を加え、室温で15時間反応させた。この反応液を、塩酸で酸性(pH:約4.0)に調整した後、芳香族系吸着カラム(三菱ケミカル社製:ダイヤイオン HP20)に供給し、0.5%ギ酸水溶液、並びに、それぞれ0.5%のギ酸を含有する20%メタノール、40%メタノールおよび60%メタノールを順にカラムに流して成分を溶出させて精製し、6-アジド-6-デオキシ-2-O-メチル-L-アスコルビン酸を収量6.00g(27.9mmol)で得た。
この6-アジド-6-デオキシ-2-O-メチル-L-アスコルビン酸(6.00g、27.9mmol)を水(100mL)に溶解し、パラジウム炭素(0.36g、0.6重量%)を触媒に用いて、室温で水素還元を5時間行った。この反応液を、減圧濾過にてパラジウム炭素を除去した後、濃縮した。得られた濃縮物を、ギ酸を用いて酸性(pH:約4.0)に調整した後、活性炭素カラムに供給し、0.5%ギ酸水溶液を溶離液に用いて成分を溶出させた。溶出したフラクションを水で再結晶させて、6-アミノ-6-デオキシ-2-O-メチル-L-アスコルビン酸を収量3.25g(17.2mmol)で得た。
【0052】
【化16】
【0053】
6-アミノ-6-デオキシ-2-O-メチル-L-アスコルビン酸(1.00g、5.55mmol)をピリジン(20mL)に溶解し、パルミチン酸クロライド(3.2mL、11.1mmol)を加えて、室温で1.5時間反応させた。この反応液にメタノール(20mL)を加えて濃縮し、得られた濃縮物をメタノールとn-ヘキサンを用いて分液した。そのメタノール層を濃縮してエタノールに溶解させた後、セルロースパウダーに吸着させてシリカゲルカラム(和光純薬工業社:Wakogel C-200(登録商標))に供給し、0.5%のギ酸を含有するトルエン:メタノール=80%:20%の混合液を溶離液に用いて成分を溶出させた。溶出したフラクションをエタノールにより再結晶させて、目的の化合物2を収量1.08g(2.53mmol)、収率49.2%で得た。再結晶した成分のNMRおよびHRMS(high-resolution MS)による構造解析結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
(比較化合物)
本実施例で使用した比較化合物を以下に示す。左側の化合物(6-sPalm-AA-2G)は、2位にα-D-グルコピラノシル基を導入したL-アスコルビン酸のアシル化誘導体であり、特許文献1に記載された方法で合成したものである。右側のoxatomideは市販の抗アレルギー薬(和光純薬工業)である。
【0056】
【化17】
【0057】
[実施例1] 脱顆粒抑制作用の評価
本実施例では、化合物1および化合物2について、抗原抗体反応刺激により誘起される脱顆粒に対する抑制作用を評価した。脱顆粒は、ラット好塩基球性白血病細胞RBL-2H3からのβ-ヘキソサミニダーゼの放出を指標にして定量化した。すなわち、β-ヘキソサミニダーゼは肥満細胞や好塩基球の脱顆粒により放出される酵素であって、基質となるp-ニトロフェニル-2-アセタミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシドとの酵素反応により、その反応液の405nmにおける吸光度を上昇させる。ここでは、この吸光度の変化量をβ-ヘキソサミニダーゼの放出量(脱顆粒の程度)として脱顆粒抑制作用を評価した。
【0058】
本実施例で使用した試薬、評価用サンプルおよび比較用サンプルは以下のようにして調製した。
(試薬の調製)
(1)MTバッファー(Modified Tyrode buffer)
137mM塩化ナトリウム、2.7mM塩化カリウム、1.8mM塩化カルシウム、1.0mM塩化マグネシウム、5.6mM(+)-グルコース、20mMHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)なる組成で各物質を水に溶解し、水酸化ナトリウムでpH7.3に調整した。
(2)抗DNP-IgE抗体溶液
抗DNP-IgE抗体(The mouse monoclonal anti-DNP IgE antibody:シグマアルドリッチ社)をPBS(-)(Ca,Mg不含のリン酸緩衝生理食塩水)で250mg/mLに溶解し、さらに、10%FBS含有DMEM(10%のウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地)で50ng/mLに希釈して調製した。
(3)DNP-HSA抗原溶液
2,4-ジニトロフェニル基で標識されたヒト血清アルブミン(DNP-HSA)(シグマアルドリッチ社)をPBS(-)で10mg/mLに溶解し、さらに、MTバッファーで500ng/mLに希釈して調製した。
(4)Triton溶液
Triton X-100(シグマアルドリッチ社)をMTバッファーで0.1%に希釈して調製した。
(5)p-ニトロフェニル-2-アセタミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド溶液(基質溶液)
クエン酸一水和物およびクエン酸三ナトリウム二水和物の水溶液を用いて0.1Mクエン酸バッファー(pH4.5)を調製した。p-ニトロフェニル-2-アセタミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシドを3.3mMの濃度で0.1Mクエン酸バッファーに溶解して調製した。
(6)グリシン溶液(酵素反応停止液)
グリシンを2Mの濃度で水に溶解し、水酸化ナトリウムを用いてpH10.4に調整した。
【0059】
(評価用サンプルおよび比較用サンプルの調製)
化合物1および化合物2を、それぞれ0.25%のジメチルスルホキシドを含むMTバッファーに、40μM、60μMまたは80μMの濃度で溶解して各溶液を調製し、評価用サンプルとした。また、6-sPalm-AA-2Gを、0.25%のジメチルスルホキシドを含むMTバッファーに、40μM、60μMまたは80μMの濃度で溶解して各溶液を調製し、また、oxatomideを、0.25%のジメチルスルホキシドを含むMTバッファーに75μmの濃度で溶解して溶液を調製し、比較用サンプルとした。
【0060】
(試験用細胞)
本実施例では、ヒューマンサイエンスセルバンク(JCRB)から購入したラット好塩基球性白血病細胞RBL-2H3を、10%FBS(非動化済)含有DMEM中に懸濁させて、5%CO2存在下、37℃で培養したものを試験に使用した。
【0061】
(脱顆粒抑制試験)
まず、10%FBS含有DMEM中で培養したRBL-2H3細胞をトリプシン溶液で剥離し、96穴平底マルチプレートに5.0×104cells/200μL/wellの密度で播種し、24時間培養した。各ウェル内の上清を除去した後、抗DNP-IgE抗体溶液(50ng/mL、100μL)を各ウェルに注入し、5%CO2存在下、37℃で2時間インキュベートした。インキュベート後、各ウェル内の細胞層を、37℃に加温したMTバッファーを用いて2回洗浄し、抗DNP-IgE抗体を除去した。続いて、評価用サンプルとしての化合物1および化合物2の各溶液、比較用サンプルとしての6-sPalm-AA-2Gおよびoxatomideの各溶液、およびコントロールとしてMTバッファーを、それぞれ各ウェルに90μL注入し、5%CO2存在下、37℃で20分間インキュベートした。さらに、DNP-HSA抗原溶液(500ng/mL、10μL)を各ウェルに注入し、抗原抗体反応を60分間行った後、氷冷を10分間行い、反応を停止させた。各ウェルの上清の一部(20μL)を空のウェルに分注し、残った上清を除去した後の細胞層に、Triton溶液(100μL)を添加し、プレートシェイカーにて500rpmで5分間振盪することにより、細胞を破砕した。この細胞破砕液(20μL)を、別の96穴平底マイクロプレートの各ウェルに分注した。
抗原抗体反応後に空のウェルに分注した各上清、および、別の96穴平底マイクロプレートの各ウェルに分注した細胞破砕液を37℃で5分間加温した後、基質溶液としてのp-ニトロフェニル-2-アセタミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド溶液(40μL)を添加し、37℃で90分間酵素反応を行った。その後、酵素反応停止液としてのグリシン溶液(40μL)を各ウェルに注入して酵素反応を停止させ、酵素反応停止後の、上清の405nmにおける吸光度(S)および細胞破砕液の405nmにおける吸光度(CL)を測定した。また、この酵素反応を行ったものとは別に、抗原抗体反応後に空のウェルに分注した各上清、および、別の96穴平底マイクロプレートの各ウェルに分注した細胞破砕液を37℃で5分間加温し、グリシン溶液(40μL)を添加した後、p-ニトロフェニル-2-アセタミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド溶液(40μL)を添加して37℃で90分間インキュベートした。その後、各上清の405nmにおける吸光度(Sc)および細胞破砕液の405nmにおける吸光度(CLc)を測定した。
【0062】
測定した吸光度を用い、下記式(I)、(II)を用いてβ-ヘキソサミニダーゼの遊離率(脱顆粒率)を計算し、β-ヘキソサミニダーゼの遊離抑制率(脱顆粒抑制率)を求めた。その結果を図1に示す。図1において、データは平均値±標準偏差で示した。多群間の平均値の比較については一元配置分散分析の後、Dunnett's testにて行い、危険率pが0.05未満であることをもって有意差有りと判定した。図1中、「**」はp<0.01であることを示す。

脱顆粒率(%)=[(S-Sc)/{(S-Sc)+(CL-CLc)}]x100・・・(I)
S:基質溶液を添加した後に、酵素反応停止液を添加した上清の吸光度
Sc:酵素反応停止液を添加した後に、基質溶液を添加した上清の吸光度
CL:基質溶液を添加した後に、酵素反応停止液を添加した細胞破砕液の吸光度
CLc:酵素反応停止液を添加した後に、基質溶液を添加した細胞破砕液の吸光度

脱顆粒抑制率(%)=100-(サンプルの脱顆粒率/controlの脱顆粒率)×100・・・(II)

図1に示されているように、化合物1および化合物2を添加した系のβ-ヘキソサミニダーゼの遊離抑制率(脱顆粒抑制率)は、6-sPalm-AA-2Gを添加した系の脱顆粒抑制率を大きく上回っており、oxatomideを添加した系の脱顆粒抑制率を凌ぐものであった。このことから、アスコルビン酸の2位に導入する基としては、グリコシル基よりもアルキル基の方が遥かに有利であり、アスコルビン酸を一般式(1)で表される構造の誘導体とすることにより、高い脱顆粒抑制作用を有し、メディエーター遊離阻害剤として有用な化合物を実現できることがわかった。また、化合物1と化合物2の間では、6位にアシルアミノ基を導入した化合物2の方が、6位にアシルオキシ基を導入した化合物1よりも、脱顆粒抑制作用が高い傾向があることもわかった。
【0063】
[実施例2] PCA反応抑制作用の評価
本実施例では、化合物1および化合物2の抗アレルギー活性をPCA(passive cutaneous anaphylaxis)反応に対する抑制作用を指標にして評価した。PCA反応とは、免疫グロブリンのFc部分を介した肥満細胞への固着、細胞上での抗原抗体反応、それによる肥満細胞からの炎症メディエーターの遊離および血管透過性亢進というアレルギー反応の一連の細胞反応である。ここでは、抗DNP-IgE抗体溶液を検体に皮下投与した後、2,4-ジニトロフェニル基(DNP)で標識されたヒト血清アルブミン(HSA)と色素(Evans blue)を含む溶液(DNP-HSA-Evans blue溶液)を静脈内投与し、その抗原抗体反応による血管透過性亢進を、血管から組織への色素漏出による吸光度上昇にて定量化し、PCA反応抑制作用を評価した。
【0064】
本実施例で使用した試薬、評価用サンプルおよび比較用サンプルは以下のようにして調製した。
(試薬の調製)
(1)0.9%塩化ナトリウム水溶液
塩化ナトリウムを0.9%の濃度で超純水に溶解し、0.22μmフィルターで濾過滅菌して調製した。
(2)抗DNP-IgE抗体溶液
抗DNP-IgE抗体を250μg/mLの濃度でDPBS(-)(Ca,Mg不含のダルベッコリン酸緩衝生理食塩水)に溶解し、さらに、0.9%塩化ナトリウム水溶液で5μg/mLの濃度に調製した。
(3)DNP-HSA-Evans blue溶液
Evans blue(シグマアルドリッチ社)を、1%(w/v)の濃度で0.9%塩化ナトリウム水溶液に溶解して色素溶液を調製し、この色素溶液に、2,4-ジニトロフェニル基で標識されたヒト血清アルブミン(DNP-HSA)を0.4mg/mLの濃度で溶解して調製した。
【0065】
(評価用サンプルおよび比較用サンプル)
化合物1および化合物2を、それぞれDPBS(-):エタノール:グリセロール:Tween20(和光純薬工業)=74.5%:20%:5%:0.5%(v/v)の希釈液に溶解して各溶液を調製し、評価用サンプルとした。また、6-sPalm-AA-2Gおよびoxatomideを、それぞれ上記の希釈液に溶解して各溶液を調製し、比較用サンプルとした。
【0066】
(試験用検体)
本実施例では、日本クレア社より購入したICR雄性マウス(7週齢)を試験に使用した。
【0067】
(PCA反応抑制試験)
まず、ICR雄性マウス(7週齢)8匹について、それぞれ、その耳介に、麻酔下で抗DNP-IgE抗体溶液20μLを皮下投与し、皮下投与から24時間後に、麻酔下で、評価用サンプルとしての化合物1の溶液を耳介に塗布した。このとき、化合物1の溶液の塗布量は、片耳あたり30μL(化合物1の量で90nmol)とした。溶液を塗布してから3.5時間後に、DNP-HSA-Evans blue溶液(0.25mL)をマウスに静脈内投与した。そして、静脈投与から30分後に、マウスを頸椎脱臼により屠殺し、耳介を切断した。
採取した耳介に1N水酸化カリウム水溶液(0.5mL)を加え、37℃で一晩振とうした。振とう後、0.34Mリン酸水溶液:アセトン=13:5(v/v)の混合液(3.25mL)を加え、4℃で700×gの遠心分離を20分間行い、その上清の620nmにおける吸光度を測定した。
また、化合物1の溶液の代わりに、評価用サンプルとしての化合物2の溶液、比較用サンプルとしてのオキサトミドの溶液および6-sPalm-AA-2Gの溶液、コントロールとしての希釈液を用いて、同様にPCA反応抑制試験を行った。ただし、6-sPalm-AA-2Gの溶液の塗布量は、片耳あたり150nmolである。
各系で測定された吸光度を、コントロールの吸光度を100として換算した相対値を図2に示す。この吸光度の相対値は、血管から漏出した色素の漏出量に対応する。図2において、データは平均値±標準誤差で示した。多群間の平均値の比較については一元配置分散分析の後、Dunnett's testにて行い、危険率pが0.05未満であることをもって有意差有りと判定した。図*中、「*」はp<0.05であることを示し、「**」はp<0.01であることを示す。
【0068】
図2に示されているように、化合物1および化合物2を塗布した系の色素漏出量は、塗布量を2.5倍とした6-sPalm-AA-2Gの系の色素漏出量を下回っており、特に化合物2を塗布した系では、oxatomideを塗布した系よりも色素の漏出が抑えられていた。この結果からも、アスコルビン酸の2位に導入する基は、グリコシル基よりもアルキル基の方が有利であることが示された。そして、一般式(1)で表される化合物は、in vivoで、高い抗アレルギー活性を発現しうることが確認された。また、化合物1と化合物2の間では、6位にアシルアミノ基を導入した化合物2の方が、6位にアシルオキシ基を導入した化合物1よりも、抗アレルギー活性が高い傾向があることもわかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の化合物を用いることにより、高い抗アレルギー活性と高いメディエーター遊離阻害作用を有し、安全性が高い抗アレルギー剤およびメディエーター遊離阻害剤を実現することができる。このため、本発明は、産業上の利用可能性が高い。
図1
図2