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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】揚力型垂直軸風車
(51)【国際特許分類】
   F03D 3/06 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
F03D3/06 G
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018157631
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020029853
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502444733
【氏名又は名称】日軽金アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 豊
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 栄徳
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 啓介
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-017463(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0216378(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1379177(CN,A)
【文献】特開2003-042053(JP,A)
【文献】実開昭55-142672(JP,U)
【文献】実公昭25-008417(JP,Y1)
【文献】実開昭59-190978(JP,U)
【文献】特開2011-085127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 3/06
F03D 7/04
F03D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転用ハブと、垂直軸周りに回転する複数の風車翼部を備えた揚力型垂直軸風車であって、
前記複数の風車翼部のそれぞれは、前記回転用ハブに支持され、前記垂直軸に対して垂直な水平方向に延びるアームと、前記アームの一端に設けられたブレードとを有し、
前記アームは、
前記回転用ハブに前記水平方向に延びる回転軸周りに回転可能に支持され、前記ブレードの受風面積を減少させるように前記アームの前記回転軸周りにツイストするように設けられ、
前記アームおよび前記ブレードは、前記アームが前記回転軸周りにツイストする際に、前記アームの前記回転軸の軸方向へ移動せず、
前記揚力型垂直軸風車がさらに、
前記複数の風車翼部のそれぞれの前記アームおよび前記ブレードのツイスト角が互いに等しくなるように、前記アームの前記回転軸周りの回転を互いに同調させる同調機構と、
前記アームがツイストした際に、前記アームを前記ブレードの受風面積が大きくなる方向に向かって付勢する付勢部材と
を備え、
前記アームは、前記ブレードの前記垂直軸周りの回転時に前記ブレードおよび/またはアームに加わる空気力によって、前記回転軸周りにツイストするように構成され、
前記ブレードの断面は、前縁が湾曲し後縁が尖った流線形であり、
前記ブレードを前記アームの軸方向に見たときに、
前記アームの前記回転軸が、前記アームの前記回転軸に対して等距離に位置する2つの空力中心点を結んだ線に対して、前記ブレードの後縁側に位置するように、前記アームが設けられている、揚力型垂直軸風車。
【請求項2】
前記アームは、前記ブレードがツイストしていない状態において前記垂直軸に平行な方向に扁平に形成されている、請求項1に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項3】
無風状態のときに対応する前記ブレードの初期位置が、前記2つの空力中心点を結んだ線が鉛直線に対して所定の初期ツイスト角で傾斜した状態となるように設定され、前記ブレードの初期位置において、前記ブレードは、前記付勢部材から所定の付勢力で予圧が加えられた状態で保持されている、請求項1または2に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項4】
前記ブレードが前記付勢部材によって付勢された状態で、前記所定の初期ツイスト角で傾斜した状態で保持されるように、前記ブレードの初期位置を画定する位置決め部材を有している、請求項3に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項5】
前記ブレードが、前記初期位置から前記ブレードの受風面積が減少した第2の位置までツイストした際に、前記ブレードのさらなるツイストを規制し、前記ブレードの最大ツイスト角を画定する第2の位置決め部材を有している、請求項4に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項6】
前記同調機構は、
前記複数の風車翼部の前記アームの他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車と、
前記回転用ハブに設けられ、前記複数のアーム側歯車に噛み合う1つのハブ側歯車と
を有している、請求項1~のいずれか1項に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項7】
前記付勢部材が前記同調機構の前記ハブ側歯車を付勢することにより、前記アームを間接的に付勢している、請求項6に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項8】
前記回転用ハブが、前記回転用ハブが回転し所定の遠心力が加わったときに前記回転用ハブに対して移動可能な錘部材を有し、
前記錘部材は、前記同調機構に連結部材を介して連結され、
前記付勢部材は、前記錘部材の遠心力による移動を抑制する方向に前記錘部材を直接または間接的に付勢するように構成され、
前記ブレードの前記垂直軸周りの回転時に前記ブレードおよび/またはアームに加わる空気力によるツイストモーメントおよび前記遠心力による前記錘部材に加わる力が、前記付勢部材の付勢力に打ち勝って前記錘部材が移動したときに、前記錘部材の移動に連動する前記連結部材の動作によって前記同調機構が操作されて、前記ブレードが前記ブレードの受風面積を減少させる方向にツイストするように構成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項9】
前記同調機構は、
前記複数の風車翼部の前記アームの他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車と、
前記回転用ハブに設けられ、前記複数のアーム側歯車に噛み合う1つのハブ側歯車と
を有し、
前記連結部材が前記回転用ハブに対して前記垂直軸に平行な軸周りに揺動可能に取り付けられ、
前記連結部材が、前記連結部材の揺動軸から前記錘部材に向かって延びる第1延出部と、前記連結部材の前記揺動軸から前記ハブ側歯車に向かって延び、前記ハブ側歯車に取り付けられる第2延出部と
を備え、
前記第2延出部は、前記ハブ側歯車に取り付けられる端部に長孔を有し、
前記ハブ側歯車は、前記長孔に挿入される軸部材を有し、
前記錘部材が遠心力により移動し、前記第2延出部の端部が前記連結部材の揺動軸を中心に揺動したときに、前記軸部材が前記第2延出部の長孔の縁部から力を受けることによって前記ハブ側歯車が回転する、請求項8に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項10】
前記同調機構は、
前記複数の風車翼部の前記アームの他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車と、
前記回転用ハブに設けられ、前記複数のアーム側歯車に噛み合う1つのハブ側歯車と
を有し、
前記連結部材が前記回転用ハブに対して前記垂直軸に平行な軸周りに揺動可能に取り付けられ、
前記連結部材が、前記連結部材の揺動軸から前記錘部材に向かって延びる延出部と、前記連結部材の揺動軸と同軸上に設けられた連結部材側歯車と
を備え、
前記同調機構が、
前記連結部材側歯車と噛み合い、前記ハブ側歯車と同軸上に設けられた同調機構側歯車を備え、前記ハブ側歯車は、前記同調機構側歯車の回転に応じて回転するように構成され、
前記錘部材が遠心力により移動し、前記連結部材が前記揺動軸を中心に揺動したときに、前記同調機構側歯車の回転によって、前記ハブ側歯車が回転する、請求項8に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項11】
回転用ハブと、垂直軸周りに回転する複数の風車翼部を備えた揚力型垂直軸風車であって、
前記複数の風車翼部のそれぞれは、前記回転用ハブに支持され、前記垂直軸に対して垂直な水平方向に延びるアームと、前記アームの一端に設けられたブレードとを有し、
前記アームは、
前記回転用ハブに前記水平方向に延びる回転軸周りに回転可能に支持され、前記ブレードの受風面積を減少させるように前記アームの前記回転軸周りにツイストするように設けられ、
前記アームおよび前記ブレードは、前記アームが前記回転軸周りにツイストする際に、前記アームの前記回転軸の軸方向へ移動せず、
前記揚力型垂直軸風車がさらに、
前記複数の風車翼部のそれぞれの前記アームおよび前記ブレードのツイスト角が互いに等しくなるように、前記アームの前記回転軸周りの回転を互いに同調させる同調機構と、
前記アームがツイストした際に、前記アームを前記ブレードの受風面積が大きくなる方向に向かって付勢する付勢部材と
を備え、
前記ブレードの前記垂直軸周りの回転により前記ブレードに所定の遠心力が加わったときに前記ブレードの半径方向外側に最大変形が生じる前記ブレードの変形箇所と、前記同調機構との間に延びる補強部材をさらに有し、
前記補強部材の一端は前記ブレードの前記変形箇所に接続され、前記補強部材の他端は前記同調機構に連結部材を介して接続され、
前記付勢部材は、前記連結部材を介して、前記補強部材が前記ブレードの前記変形箇所に対して半径方向内側に向かう張力を加えるように、前記同調機構を付勢し、
前記ブレードに所定の遠心力が加わり、前記補強部材および前記変形箇所が前記付勢部材の付勢力に抗して半径方向外側に変位したときに、前記補強部材の変位によって前記連結部材を介して前記同調機構が操作されて、前記ブレードが前記ブレードの受風面積を減少させる方向にツイストするように構成されている、揚力型垂直軸風車。
【請求項12】
前記同調機構は、
前記複数の風車翼部の前記アームの他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車と、
前記回転用ハブに設けられ、前記複数のアーム側歯車に噛み合う1つのハブ側歯車と
を有し、
前記連結部材の一端は、前記ハブ側歯車に、前記垂直軸と平行な軸周りに揺動可能に取り付けられ、前記連結部材の他端は、前記補強部材の他端に揺動可能に取り付けられ、
前記ブレードに所定の遠心力が加わって、前記補強部材および前記変形箇所が半径方向外側に変位したときに、前記連結部材の移動により前記ハブ側歯車が回転し、
前記ハブ側歯車の回転によって前記アーム側歯車が回転し、前記ブレードが前記ブレードの受風面積を減少させる方向にツイストする、請求項11に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項13】
前記ブレードが前記付勢部材によって付勢された状態で、前記ブレードの受風面積が最大となる所定の初期ツイスト角で傾斜した状態で保持されるように、前記ブレードの初期位置を画定する位置決め部材を有している、請求項11または12に記載の揚力型垂直軸風車。
【請求項14】
前記ブレードが、前記初期位置から前記ブレードの受風面積が減少した第2の位置までツイストした際に、前記ブレードのさらなるツイストを規制し、前記ブレードの最大ツイスト角を画定する第2の位置決め部材を有している、請求項13に記載の揚力型垂直軸風車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電機に用いられる揚力型垂直軸風車に関する。さらに詳しくは、突風などに伴う強風が吹いた場合でも過回転により翼の破損や発電機の故障を生じないように構成された揚力型垂直軸風車に関する。
【背景技術】
【0002】
小型風車は系統電源のない場所における電源や災害時に系統電源が途絶えた場合の非常用電源として役立ち、設置場所の制限が少ないことから、分散型電源として有用である。しかし、強風時には容易に高速回転に至ることから安全面の配慮が重要である。
【0003】
このような強風時の安全対策として、たとえば特許文献1には、風車の翼部の過回転を防止する機構を有する風車が開示されている。この特許文献1の風車は、ブレード軸(以下、アームという)がブレードの回転に伴う遠心力により半径方向に移動し得ると共に、半径方向を軸として自転することによりブレードの実効的ピッチ角および受風面積を変えるように構成されている。これにより、強風時には、ブレードに加わる遠心力により、ブレードが半径方向外側に移動して受風面積を減らして、ブレードの回転数を減らすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-17463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の風車は、アームが半径方向外側への平行移動とアームの回転軸周りの回転運動を同時に行う機構であり、非直線状のガイド溝を必要とするため摩擦の影響を受け易い。また構造が複雑であるとともに、アームの軸方向のストロークを確保するスペースがロータ中心部および半径方向外側に必要となり、過回転抑制機構が大きくなってしまう。
【0006】
そこで、本発明はかかる問題点に鑑みて、揚力型の垂直軸風車において、アームの軸方向の移動を伴わずに、風車の翼部の過回転を抑制し、摩擦の影響を減らすとともに、過回転抑制機構の大型化を抑制することができる、揚力型垂直軸風車の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の揚力型垂直軸風車は、回転用ハブと、垂直軸周りに回転する複数の風車翼部を備えた揚力型垂直軸風車であって、前記複数の風車翼部のそれぞれは、前記回転用ハブに支持され、前記垂直軸に対して垂直な水平方向に延びるアームと、前記アームの一端に設けられたブレードとを有し、前記アームは、前記回転用ハブに前記水平方向に延びる回転軸周りに回転可能に支持され、前記ブレードの受風面積を減少させるように前記アームの前記回転軸周りにツイストするように設けられ、記アームおよび前記ブレードは、前記アームが前記回転軸周りにツイストする際に、前記アームの前記回転軸の軸方向へ移動せず、前記揚力型垂直軸風車がさらに、前記複数の風車翼部のそれぞれの前記アームおよび前記ブレードのツイスト角が互いに等しくなるように、前記アームの前記回転軸周りの回転を互いに同調させる同調機構と、前記アームがツイストした際に、前記アームを前記ブレードの受風面積が大きくなる方向に向かって付勢する付勢部材とを備えている。
【0008】
また、前記アームは、前記ブレードの前記垂直軸周りの回転時に前記ブレードおよび/またはアームに加わる空気力によって、前記回転軸周りにツイストするように構成されていることが好ましい。
【0009】
また、前記ブレードの断面は、前縁が湾曲し後縁が尖った流線形であり、前記ブレードを前記アームの軸方向に見たときに、前記アームの前記回転軸が、前記アームの前記回転軸に対して等距離に位置する2つの空力中心点を結んだ線に対して、前記ブレードの後縁側に位置するように、前記アームが設けられていることが好ましい。
【0010】
また、前記アームは、前記ブレードがツイストしていない状態(ツイスト角0°)において前記垂直軸に平行な方向に扁平に形成されていることが好ましい。
【0011】
また、無風状態のときに対応する前記ブレードの初期位置が、前記2つの空力中心点を結んだ線が鉛直線に対して所定の初期ツイスト角で傾斜した状態となるように設定され、前記ブレードの初期位置において、前記ブレードは、前記付勢部材から所定の付勢力で予圧が加えられた状態で保持されていることが好ましい。
【0012】
また、前記ブレードが前記付勢部材によって付勢された状態で、前記所定の初期ツイスト角で傾斜した状態で保持されるように、前記ブレードの初期位置を画定する位置決め部材を有していることが好ましい。
【0013】
また、前記ブレードが、前記初期位置から前記ブレードの受風面積が減少した第2の位置までツイストした際に、前記ブレードのさらなるツイストを規制し、前記ブレードの最大ツイスト角を画定する第2の位置決め部材を有していることが好ましい。
【0014】
また、前記同調機構は、前記複数の風車翼部の前記アームの他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車と、前記回転用ハブに設けられ、前記複数のアーム側歯車に噛み合う1つのハブ側歯車とを有していることが好ましい。
【0015】
また、前記付勢部材が前記同調機構の前記ハブ側歯車を付勢することにより、前記アームを間接的に付勢していることが好ましい。
【0016】
また、前記回転用ハブが、前記回転用ハブが回転し所定の遠心力が加わったときに前記回転用ハブに対して移動可能な錘部材を有し、前記錘部材は、前記同調機構に連結部材を介して連結され、前記付勢部材は、前記錘部材の遠心力による移動を抑制する方向に前記錘部材を直接または間接的に付勢するように構成され、前記空気力によるツイストモーメントおよび前記遠心力による前記錘部材に加わる力が、前記付勢部材の付勢力に打ち勝って前記錘部材が移動したときに、前記錘部材の移動に連動する前記連結部材の動作によって前記同調機構が動作されて、前記ブレードが前記ブレードの受風面積を減少させる方向にツイストするように構成されていることが好ましい。
【0017】
また、前記同調機構は、前記複数の風車翼部の前記アームの他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車と、前記回転用ハブに設けられ、前記複数のアーム側歯車に噛み合う1つのハブ側歯車とを有し、前記連結部材が前記回転用ハブに対して前記垂直軸に平行な軸周りに揺動可能に取り付けられ、前記連結部材が、前記連結部材の揺動軸から前記錘部材に向かって延びる第1延出部と、前記連結部材の前記揺動軸から前記ハブ側歯車に向かって延び、前記ハブ側歯車に取り付けられる第2延出部とを備え、前記第2延出部は、前記ハブ側歯車に取り付けられる端部に長孔を有し、前記ハブ側歯車は、前記長孔に挿入される軸部材を有し、前記錘部材が遠心力により移動し、前記第2延出部の端部が前記連結部材の揺動軸を中心に揺動したときに、前記軸部材が前記第2延出部の長孔の縁部から力を受けることによって前記ハブ側歯車が回転することが好ましい。
【0018】
また、前記同調機構は、前記複数の風車翼部の前記アームの他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車と、前記回転用ハブに設けられ、前記複数のアーム側歯車に噛み合う1つのハブ側歯車とを有し、前記連結部材が前記回転用ハブに対して前記垂直軸に平行な軸周りに揺動可能に取り付けられ、前記連結部材が、前記連結部材の揺動軸から前記錘部材に向かって延びる延出部と、前記連結部材の揺動軸と同軸上に設けられた連結部材側歯車とを備え、前記同調機構が、前記連結部材側歯車と噛み合い、前記ハブ側歯車と同軸上に設けられた同調機構側歯車を備え、前記ハブ側歯車は、前記同調機構側歯車の回転に応じて回転するように構成され、前記錘部材が遠心力により移動し、前記連結部材が前記揺動軸を中心に揺動したときに、前記同調機構側歯車の回転によって、前記ハブ側歯車が回転することが好ましい。
【0019】
また、前記ブレードの前記垂直軸周りの回転により前記ブレードに所定の遠心力が加わったときに前記ブレードの半径方向外側に最大変形が生じる前記ブレードの変形箇所と、前記同調機構との間に延びる補強部材をさらに有し、前記補強部材の一端は前記ブレードの前記変形箇所に接続され、前記補強部材の他端は前記同調機構に連結部材を介して接続され、前記付勢部材は、前記連結部材を介して、前記補強部材が前記ブレードの前記変形箇所に対して半径方向内側に向かう張力を加えるように、前記同調機構を付勢し、前記ブレードに所定の遠心力が加わり、前記補強部材および前記変形箇所が前記付勢部材の付勢力に抗して半径方向外側に変位したときに、前記補強部材の変位によって前記連結部材を介して前記同調機構が操作されて、前記ブレードが前記ブレードの受風面積を減少させる方向にツイストするように構成されていることが好ましい。
【0020】
また、前記同調機構は、前記複数の風車翼部の前記アームの他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車と、前記回転用ハブに設けられ、前記複数のアーム側歯車に噛み合う1つのハブ側歯車とを有し、前記連結部材の一端は、前記ハブ側歯車に、前記垂直軸と平行な軸周りに揺動可能に取り付けられ、前記連結部材の他端は、前記補強部材の他端に揺動可能に取り付けられ、前記ブレードに所定の遠心力が加わって、前記補強部材および前記変形箇所が半径方向外側に変位したときに、前記連結部材の移動により前記ハブ側歯車が回転し、前記ハブ側歯車の回転によって前記アーム側歯車が回転し、前記ブレードが前記ブレードの受風面積を減少させる方向にツイストすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、揚力型の垂直軸風車において、アームの軸方向の移動を伴わずに、風車の翼部の過回転を抑制し、摩擦の影響を減らすとともに、過回転抑制機構の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態の揚力型垂直軸風車の側面図である。
図2図1の風車の一部を示す斜視図である。
図3図2の風車の上面図である。
図4】風車翼部の一部が取り除かれた状態の風車の側面図である。
図5図4のV-V線断面図であり、翼断面形状の一例を示す概略図である。
図6A】本発明の一実施形態の風車において、ブレードがツイストする前とツイストした後の状態を示す概略図である。
図6B】ブレードのツイスト角を変更する位置決め部材が取り付けられる取付部を示す図である。
図7】ブレードの半径方向外側に位置する直線状の部分における回転軸に対して等距離にある空力中心点と空力中心点に作用する空気力を示した模式図である。
図8A】アームが空力中心点よりも回転方向後方にシフトしている場合にブレードがツイストした状態のアームを基準として対称な位置にある2つの空力中心点Aと空力中心点Bの垂直軸方向からみた位置関係を示す図である。
図8B】無次元ツイストモーメントの翼取付位置およびツイスト角への依存性を示す図である。
図9】初期ツイスト角が変化した場合の、風車回転数と風車の軸トルクとの関係を示すグラフである。
図10】(A)~(C)は、一実施形態の風車の組立作業の一例を示す概略図である。
図11】本発明の他の実施形態の揚力型垂直軸風車の斜視図である。
図12図11の風車の上面図である。
図13】本発明のさらに他の実施形態の揚力型垂直軸風車の斜視図である。
図14図13の風車の上面図である。
図15図13の風車の連結部材側歯車と同調機構側歯車とを示す概略側面図である。
図16】ケース6の風車の軸トルクと風車回転数の関係を示す図である。
図17】ケース7の風車の軸トルクと風車回転数の関係を示す図である。
図18】ケース8の風車の軸トルクと風車回転数の関係を示す図である。
図19】ケース6、7、8における発電電力の風速依存性の比較を示す図である。
図20】有限要素法に基づく構造解析によって、三角状の翼の変形をシミュレーションした結果である。
図21】ブレードの変形を抑制するための補強部材が取り付けられたブレードを示す概略図である。
図22】ブレードのツイストを駆動する力として、補強部材を介して作用するブレードの変形力を利用する実施の形態4の揚力型垂直軸風車の斜視図である。
図23図22に示される揚力型垂直軸風車の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態の揚力型垂直軸風車を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明の揚力型垂直軸風車は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
<実施の形態1>
図1に示されるように、本実施形態の揚力型垂直軸風車1(以下、単に風車1と呼ぶ)は、発電部21を有する基部2と、基部2に対して垂直軸Xまわりに回転する回転用ハブ3と、回転用ハブ3とともに垂直軸X周りに回転する複数の風車翼部4とを備えている。
【0025】
基部2は、風車1の土台となる部分である。基部2の構造は特に限定されないが、本実施形態では、図1に示されるように、風車1の風車翼部4を設置面から所定の高さに位置させるために所定の高さに形成される脚部22を備えている。
【0026】
回転用ハブ3は、風車翼部4が受風したときに基部2に対して回転する。本実施形態では、回転用ハブ3は、垂直軸X周りに回転する軸部(図示せず)に接続され、風車翼部4が風を受けて、回転用ハブ3および軸部が垂直軸X周りに回転することにより発電が行なわれる。
【0027】
風車翼部4は、風を受けて回転する部位である。本実施形態では、風車翼部4は、ダリウス型の風車翼を改良したバタフライ型の風車翼である。なお、本実施形態では、揚力型垂直軸風車としてダリウス型風車を改良したバタフライ型の風車を例に挙げて説明するが、揚力型の垂直軸風車であればバタフライ型以外の風車であってもよいし、ダリウス型風車以外の風車であってもよい。風車翼部4は、図2および図3に示されるように、垂直軸X周りに等間隔で複数(図2および図3においては3枚)設けられている。なお、風車翼部4の数は特に限定されない。風車翼部4の材料は特に限定されないが、たとえば、アルミニウムなど、所定の強度を有し軽量な材料が好適に用いられる。
【0028】
図2および図3に示されるように、複数の風車翼部4のそれぞれは、回転用ハブ3に支持され、垂直軸Xに対して垂直な水平方向に延びるアーム41と、アーム41の一端に設けられたブレード42とを有している。
【0029】
本実施形態では、風車1は揚力型であり、ブレード42の断面は、図5に示されるように、前縁LEが湾曲し後縁TEが尖った流線形を呈した翼型形状である。図5では翼断面内は中空であってリブが存在していないが、1つあるいは複数のリブを有していても良いし、翼断面内部が中実であっても良い。本実施形態では、風車翼部4は、図2および図4に示されるように、バタフライ型であり、アーム41の先に設けられたブレード42はループを形成している。より具体的には、ブレード42は略三角形状に形成されている。なお、風車翼部4の形状は、揚力型の垂直軸風車に適したものであれば、図2図5に示される形状に限定されない。たとえば、風車翼部4は、H型ダリウス風車に用いられるブレードや、非直線形状のブレードや、円形のバタフライ型ブレードを有していてもよい。
【0030】
アーム41は、回転用ハブ3に、水平方向に延びる回転軸Y(図4参照)周りに回転可能に支持されている。回転軸Yはアーム41の回転中心となる線である。アーム41は、回転軸Yを中心として回転可能に回転用ハブ3に支持されていればよく、アーム41の支持方法は特に限定されない。本実施形態では、アーム41は、回転用ハブ3に設けられた支持部31にベアリング(図示せず)を介して回転軸Y周りに回転可能に支持されている。具体的には、支持部31は、アーム41を挿通可能な挿通孔を有し、アーム41は支持部31に形成された挿通孔にベアリングを介して支持されている。支持部31はアーム41の軸方向に沿って2カ所以上で支持されていることが好ましい。
【0031】
本実施形態では、アーム41の一端(風車1の垂直軸Xから遠い側の端部)側にブレード42が設けられている。また、アーム41は、アーム41の他端(風車1の垂直軸Xに近い側の端部)側に後述する傘歯車(後述するアーム側歯車)G1を有している。また、本実施形態では、アーム41は、図2および図4に示されるように、アーム41の一端側において、ツイスト角0°の状態において垂直軸Xに平行な方向に扁平に形成されている。この場合、後述する空気力によるブレード42のツイストがさらに容易となる。アーム41を扁平な形状とする場合、アーム41の断面形状は、ブレード42と同様の翼形状(図5参照)であってもよいし、扁平な長方形状であってもよい。なお、本実施形態では、アーム41の一端側、すなわち、アーム41を支持する支持部のベアリングよりも半径方向外側に相当する部分において、扁平に形成され、アーム41の他端側が円柱状に形成されているが、アーム41の形状は特に限定されない。たとえば、アーム41は全体が扁平であってもよいし、アーム41の一部のみが扁平であってもよいし、全体が円柱状であってもよい。
【0032】
アーム41は、ブレード42の垂直軸X周りの回転時にブレード42および/またはアーム41に加わる空気力によって、ブレード42の受風面積を減少させるようにアーム41の回転軸Y周りにツイストするように設けられている。なお、ブレード42の受風面積は、ブレード42が垂直軸X周りに一回転したときに掃過する部分の投影面積をいう。したがって、図6Aにおいて、ブレード42が実線で示される翼面が水平面に対して略垂直な状態では受風面積が最大で、ブレード42が二点鎖線で示される翼面が水平な状態では受風面積が最小となる。なお、本明細書でいう「空気力によってツイストする」とは、後述する他の実施形態で説明するように、ブレード42および/またはアーム41に加わる空気力に加えて、後述する錘部材に作用する遠心力あるいはブレードの変形に起因する補強部材の張力によってブレード42がツイストする場合も含む。風車1の風車翼部4が垂直軸X周りに回転するとき、風車翼部4に作用する空気力によって、アーム41の回転軸Y周りの回転モーメントが発生する。このアーム41の回転軸Y周りの回転モーメントを、本明細書ではツイストモーメントと呼ぶ。
【0033】
図7は、ブレード42の半径方向外側に位置する直線状の部分における回転軸Yに対して等距離にある空力中心点Aと空力中心点Bに作用する空気力FpAとFpBを示した模式図である。ブレード42が鉛直線VTに対してツイスト角ηだけ傾いている場合、たとえば、空力中心点Aを通る翼断面に平行に入射してくる相対風速VpAは、図8Aに示されるように、自然風Vおよび空力中心点Aの風車1の回転軸(垂直軸X)からの半径距離rAと回転角速度ωの積で与えられる運動に伴う相対風速rAωの合成により決まってくる。図7ではこの合成された相対風速を(V+rω)Aと表示している。空力中心点Aを含む翼断面内において、合成の相対風速VpAの方向と翼の弦長方向の間の角度を迎角αと定義した場合、この迎角αと相対風速VpAの大きさの関数として、翼断面内には、図7に示す方向に揚力Lおよび抗力Dが発生する。ただし、垂直軸風車では、自然風Vの方向が一定であると仮定した場合でも、翼断面の翼弦方向は風車が1回転する間において、自然風Vの方向に対して360°向きが変わるため、迎角αの翼弦方向に対する向きも常に変化をし、図7に示した揚力Lおよび抗力Dの方向が翼弦方向に対して逆向きになる状態も起こることになる。空力中心点Aを含む翼断面内において翼を回転させる空気力成分FpAは揚力Lと抗力Dのそれぞれの翼弦方向の射影の和として与えられるため、風車が1回転する間に、空気力FpAの大きさと向きは翼弦方向内の制限の中で変化する。
【0034】
もし、ブレード42の前縁LEからの翼の取付位置(アーム41の回転軸Yの位置)までの距離xaが、ブレード42の前縁LEから空力中心点Aまでの距離xcと等しく(xa=xc)、回転軸Yの位置から等距離hの位置にある任意の空力中心点Aと空力中心点Bに作用する空気力FpAとFpBの風車1回転における平均値が同じである場合(FpA=FpB)には、ブレード42のツイスト角ηの大きさに依らず、ブレード42および/またはアーム41の回転軸Y周りのツイストモーメントTMは発生しない。しかし、ブレード42の前縁LEからの翼の取付位置までの距離xaが、ブレード42の前縁LEから空力中心点までの距離xcと異なり、たとえば、図7に示すようにブレード42をアーム41の回転軸Y方向に見たときに、アーム41の回転軸Yが、アーム41の回転軸Yに対して等距離に位置する2つの空力中心点A、Bを結んだ線LNに対して、ブレード42の後縁TE側に位置するように、アーム41が設けられている場合には、ブレード42がツイストしている状態において空力中心点Aと点Bに作用する空気力FpAとFpBの平均値は同じとはならず、ツイストモーメントTMが発生することになる。より詳しく説明をするならば、図7に示すように、風車1の垂直軸X方向から見た場合の回転軸Yの位置からの空力中心点Aまでの水平方向の距離をSA、空力中心点Bまでの水平方向の距離をSBとすれば、SA>SBの関係となる。これは、図8Aの垂直軸X方向からみた位置関係の図に明示されるように、空力中心点Aの垂直軸Xからの半径距離rAが、空力中心点Bの垂直軸Xからの半径距離rBよりも長くなることを意味する。したがって、空力中心点Aの回転運動に伴う相対風速rAωは、空力中心点Bの回転運動に伴う相対風速rBωよりも大きくなる。同時に、ブレード42がツイストすることにより、回転軸Y方向を基準として、空力中心点Aは空力中心点Bよりも回転方位角度Ψ(図8A参照)に関して位相が進んでいることになる。風車に流入する自然風の大きさVは風車ロータに近づくと減速し、ロータ中央部に流入する風速はそのまわりよりも速度が減少する速度分布をもつことになる。また、上流側(0°≦Ψ<180°)に比べて下流側(180°≦Ψ<360°)では速度が全体的に減少することも一般に知られている。従って、相対風速(rω)と自然風(V)の合成で決まる迎角αや揚力Lおよび抗力Dの大きさと向きの変化の仕方が、空力中心点Aと空力中心点Bを含む2つの断面の間で異なることになり、その結果として、風車が1回転する間の空気力FpAとFpBの平均値にも違いが生じることになり、図7に示されるツイストモーメントTMが発生する。
【0035】
このように、本実施形態では、ブレード42および/またはアーム41に作用する空気力によって、ブレード42をブレード42の受風面積が小さくなるようにツイストさせることができる。これにより、強風時にブレード42の回転力を弱めて、ブレード42の過回転を抑制することができ、風車1の破損を抑制し、安全性を高めることができる。また、ブレード42を、遠心力によるアーム41の半径方向外側への移動を利用してツイストさせるのではなく、空気力によりツイストさせている。したがって、本実施形態では、アーム41およびブレード42は、アーム41が回転軸Y周りにツイストする際に、アーム41の回転軸Yの軸方向(半径方向外側)へ移動しない。そのため、非直線状の複雑なガイド溝を必要とせず、摩擦の影響を減少することが可能となる。また、過回転抑制機構を半径方向に大きくする必要がない。
【0036】
なお、アーム41の回転軸Yのブレード42に対する位置に関して、上述したように、アーム41の回転軸Yの位置が、アーム41の回転軸Yに対して等距離に位置する2つの空力中心点A、Bを結んだ線LNに対して、ブレード42の後縁TE側に設けられる。アーム41の回転軸Yの位置は、アーム41の回転軸Yの位置がブレード42の後縁TE側にシフトするほどツイストモーメントが大きくなり、ブレード42を傾斜させる効果が大きくなる。具体的には、ブレード42の前縁LEからのアーム41の回転軸Yの位置までの距離xaが、ブレード42の前縁LEから後縁TEまでの距離cに対して40~85%であることが好ましく、55~75%であることがさらに好ましい。
【0037】
この翼取付位置によるツイストモーメントの変化の違いを、3つのツイスト角(η=5°、10°、15°)について比較した図を図8Bに示す。縦軸はツイストモーメントTMを0.5ρV2RH(H/2)で割って無次元化した無次元ツイストモーメントCtmである。横軸は先端周速比λであり、λ=Rω/Vで定義される。ここでρは空気密度、Vは上流風速、Rは風車ロータ半径、Hは風車高さ、ωは風車ロータの回転角速度である。
【0038】
図8Bでは、風車として、図1図5に示されるバタフライ風車であり、ロータ直径(風車1のブレード42の最外部の回転軌跡の直径)が12.5m(半径R=6.25m)、回転用ハブ3の直径が0.9m、ブレードの高さH(図4参照)が7.8m、ブレードの数が3枚のものを想定している。翼断面形状はNACA 0018(対称翼型)であり、翼弦長は412mmとして計算した。翼の取付位置について、ブレード42の前縁LEからのアーム41の回転軸Yの位置までの距離xaはブレード42の前縁LEから後縁TEまでの距離cに対して44.2%の位置のもの(以下、44.2%cと呼ぶ)、55%c、60%c、72%cの4つの場合を比較した。
【0039】
図8Bに示されるように、xa=44.2%cでは、λ=0.8~2.8の範囲で無次元ツイストモーメントがマイナス方向に大きくなっている。xa=55%cのη=5°とη=10°、およびxa=60%cのη=5°の場合においても、λ=1.9~2.5辺りで多少、無次元ツイストモーメントがマイナス値になっている。しかし、xa=55%cでη=15°、xa=60%cで10°と15°、xa=72%cでは、すべてのηの値において、無次元ツイストモーメントはあらゆるλの値においてプラスの値となっており、ブレード42の前縁LEからのアーム41の回転軸Yの位置までの距離xaの値が大きくなるほど無次元ツイストモーメントが増加する傾向となっている。
【0040】
また、本実施形態では、無風状態のときに対応するブレード42の初期位置は、2つの空力中心点A、Bを結んだ線が鉛直線VT(垂直軸Xに平行な線)に対して所定の初期ツイスト角で傾斜した状態となるように設定されている。これにより、風車1の風車翼部4が垂直軸X周りに回転を開始すると、ブレード42にツイストモーメントを生じさせることができる。なお、初期ツイスト角で傾斜した状態のブレード42は、鉛直方向で上側に位置する空力中心点Aが空力中心点Bよりも、回転軸Yからの水平方向の距離が遠くなるように傾斜している。また、初期ツイスト角η0は、0°より大きければ(η0>0°)ブレード42に空気力によるツイストモーメントが生じるので、0°より大きければ特に限定されないが、たとえば、0.1°≦η0≦5°であることが好ましい。
【0041】
この初期ツイスト角η0について、初期ツイスト角η0が異なる5つのケース(表1参照)について、3つの風速(8m/s、23m/s、40m/s)状態における軸トルクQの比較を図9に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
なお、風車としては、図1図5に示されるバタフライ風車であり、ロータ直径が7m、回転用ハブ3の直径が0.89m、ブレードの高さが2.7m、ブレードの数が5枚のものを用いた。翼断面形状はNACA 0018(対称翼型)であり、翼弦長は242.3mmとして計算した。距離xaは57%cとしている。風車の最大の許容風車回転数(定格回転数)は120rpmとした。図9に示されるように、初期ツイスト角η0が3°(ケース4)または4°(ケース5)の場合は、他のケースに比べて小さい回転数で動作点を持つが、過回転防止の効果が有効に得られていることがわかる。また、初期ツイスト角η0が1°(ケース2)または2°(ケース3)の場合には、3つの風速(8m/s、23m/s、40m/s)状態において、トルク特性は望ましい特性を持っていると言える。初期ツイスト角η0が0°(ケース1)の場合、風速8m/sにおいて制御トラブルなどで無負荷になった時に、許容回転数(120rpm)を多少超える特性となっている。したがって、初期ツイスト角は、0.1°≦η0≦4°であることが好ましく、0.1°≦η0≦2.5°であることがさらに好ましい。
【0044】
本実施形態では、風車1は、ブレード42が(後述する付勢部材SPによって付勢された状態で)所定の初期ツイスト角η0で傾斜した状態で保持されるように、図2図4および図6Aに示されるように、ブレード42の初期位置を画定する位置決め部材51を有している。位置決め部材51を有していることにより、たとえば無風状態で初期ツイスト角η0を有した状態でブレード42が保持され、風車翼部4が垂直軸X周りに回転したときにブレード42にツイストモーメントを発生させることができる。位置決め部材51は、本実施形態ではアーム41を支持する支持部31に設けられた位置決めピンであり、アーム41から突出する係合部(係合ピン)41aと係合することによってブレード42を初期ツイスト角η0で傾斜した初期位置に保持することができる。なお、位置決め部材51は位置決めピンに限定されず、アーム41またはブレード42の一部と係合して、アーム41およびブレード42を所定の初期ツイスト角η0で傾斜した初期位置で保持することができればよい。
【0045】
また、本実施形態では、風車1は、図2図4および図6Aに示されるように、ブレード42が初期位置からブレード42の受風面積が減少した第2の位置までツイストした際に、ブレード42のさらなるツイストを規制し、ブレード42の最大ツイスト角ηmを画定する第2の位置決め部材52を有している。第2の位置決め部材52を有していることにより、強風時にブレード42の受風面積を減少させた状態で維持したい場合に、第2の位置決め部材52にアーム41に設けられた係合部(係合ピン)41aが係合して、受風面積が減少した第2の位置までブレード42がツイストした状態で保持される。第2の位置決め部材52は、本実施形態では、位置決め部材51と同様に、位置決めピンである。しかし、第2位置決め部材52は位置決めピンに限定されず、アーム41またはブレード42の一部と係合して、アーム41およびブレード42を所定の最大ツイスト角ηmで傾斜した第2の位置で保持することができればよい。なお、第2の位置に対応する最大ツイスト角ηmは特に限定されないが、たとえば、20°≦ηm≦30°とすることが好ましい。なお、位置決め部材51および第2位置決め部材52は、位置調整可能に設けられ、初期ツイスト角および最大ツイスト角を変更可能に構成されていてもよい。本実施形態では、第2位置決め部材52は、図6Bに示されるように、支持部31に設けられた複数の挿入孔等、複数の取付部53に取付可能であり、第2位置決め部材52の取付位置を変更することにより、最大ツイスト角を変更することができる。また、図6Aに示されるように、ブレード42が水平な状態でアーム41の係合部41aと第2位置決め部材52とが係合するように構成してもよい。この場合、たとえば、2つの取付部53に挿入された2つの第2位置決め部材52によりアーム41の係合部41aを挟み込んで(図6B参照)、ブレード42が水平状態で保持されるようにすることにより、後述するように、風車1の組立時の作業性が向上する。
【0046】
本実施形態の風車1は、図2図4に示されるように、複数の風車翼部4のそれぞれのアーム41およびブレード42のツイスト角が互いに等しくなるように、アーム41の回転軸Y周りの回転を互いに同調させる同調機構6を有している。風車1が同調機構6を有していることにより、複数のブレード42のツイスト動作が連動し、ツイスト角が等しくなる。したがって、風車1の回転方位角に依存するブレード42表面に作用する空気力(面積力)の変動や、風車1に用いられる部材の製造誤差に基づく空気力のアンバランスがあっても、ブレード42の傾斜角(ツイスト角)が同調される。したがって、複数のブレード42がアンバランスな動きをすることが無く、風車1は安定した回転を得ることができる。
【0047】
本実施形態では、同調機構6は、図2図4に示されるように、複数の風車翼部4のアーム41の他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車G1と、回転用ハブ3に設けられ、複数のアーム側歯車G1に噛み合う1つのハブ側歯車G2とを有している。具体的には、本実施形態では、1つの大径の傘歯車であるハブ側歯車G2に、小径の傘歯車である3つのアーム側歯車G1が係合し、3つのアーム側歯車G1が互いに連動して同じ回転角度で回転する。したがって、アーム41が回転軸Y周りに同じ回転角度で回転し、複数の風車翼部4の間でツイスト角度が均等になり、風車1は安定して回転する。また、同調機構6に歯車を用いることによって、同調機構6の耐久性が高まり、風車1の安全性を高め、長寿命化することができる。
【0048】
また、本実施形態では、図2図4に示されるように、アーム41がツイストした際に、アーム41をブレード42の受風面積が大きくなる方向に向かって付勢する付勢部材SPを有している。付勢部材SPは、強風時など、アーム41およびブレード42がツイストした後、風が弱まった際に、ブレード42の受風面積が大きくなる方向、すなわち、ブレード42が初期ツイスト角の傾斜状態となる方向へと付勢する。これにより、風が弱くなった後に、ブレード42の受風面積を再び大きくして、風車1は高い出力を得ることが可能となる。
【0049】
なお、付勢部材SPはアーム41を直接付勢してもよいし、アーム41を間接的に付勢してもよい。本実施形態では、付勢部材SPが同調機構6のハブ側歯車G2を付勢することにより、アーム41を間接的に付勢している。具体的には、付勢部材SPは、ハブ側歯車G2を、回転用ハブ3に対して垂直軸X周りに回転する方向に付勢する捩じりバネ(以下、捩じりバネSPとも呼ぶ)である。捩じりバネSPの一端は、回転用ハブ3に設けられた第1保持部(本実施形態ではピン)Haに保持され、捩じりバネSPの他端は、ハブ側歯車G2に設けられた第2保持部(本実施形態ではピン)Hbに保持されている。これにより、ハブ側歯車G2はアーム41を初期ツイスト角の傾斜状態とする方向へと付勢している。
【0050】
なお、付勢部材SPの種類は、本実施形態では、捩じりバネであるが、アーム41の付勢が可能であれば、コイルバネなど他のバネであってもよいし、油圧・空圧アクチュエータ、あるいはサーボモータなどの電動アクチュエータであってもよい。なお、付勢部材SPとしてバネ等の弾性体を用いることにより、バネ等の弾性体が破損して付勢力がなくなって、ブレード42に空気力が加わった際に、ブレード42がすぐにツイストする。したがって、付勢部材SPが破損した場合に、風が吹くとブレード42がツイストし易く、ブレード42が初期ツイスト角に近い状態(すなわち、受風面積が大きい状態)で維持されることがない。したがって、付勢部材SPが破損して風車1が過回転を抑制できない状態のままの危険な状態となることを回避することができ、風車1にフェールセーフな特性を持たせることができる。
【0051】
また、ブレード42の初期位置において、ブレード42は、付勢部材SPから所定の付勢力で予圧が加えられた状態で保持されていてもよい。ブレード42に付勢部材SPによって予圧が加えられている場合、ブレード42に所定の大きさのツイストモーメントが加わるまでは、ブレード42が初期位置側で保持される。そのため、所定の風力となるまでは、ブレード42は回転軸Y周りにツイストせずに受風面積が大きい状態を維持しつつ、風車翼部4が垂直軸X周りに回転する。したがって、所定の風力となるまでは風車1を高い出力に維持することができる。そして、ブレード42に所定以上のツイストモーメントが加わった場合に、ブレード42が初期位置側からブレード42の受風面積を減少させる方向にツイストする。これにより、風が所定以上強くなった場合に、ブレード42は受風面積を小さくする方向にツイストし、強風時にブレード42の回転力を弱めて、ブレード42の過回転を抑制することができる。したがって、風車1の破損を抑制し、安全性を高めることができる。
【0052】
また、本実施形態では、付勢部材SPによって、ブレード42に加わる予圧の有無の切り替えまたは予圧の大きさを調整する、付勢力調整機構を有していてもよい。付勢力調整機構は、捩じりバネSPの一端を押さえている第1保持部Ha(バネ押さえ)の位置を変更可能にしたり、複数の第1保持部(バネ押さえ)を回転用ハブ3に設けて、捩じりバネSPの一端が係合する位置を切り替えることにより、予圧の有無や予圧の大きさの調整が可能となる。付勢力調整機構は付勢力を調整することができれば、その構造は特に限定されない。たとえば、アーム側歯車G1とハブ側歯車G2との係合を解除した状態で、ハブ側歯車G2を回転用ハブ3に対して回転させることにより、捩じりバネSPを圧縮し、その後アーム側歯車G1とハブ側歯車G2とを係合することにより、捩じりバネSPにより加わる予圧を調整してもよい。風車1が付勢力調整機構を有している場合、風車1の設置場所や大きさ等の条件に応じて、付勢部材SPによって加わる予圧を調整して、ブレード42がツイストするタイミングなどを最適にすることができる。
【0053】
また、上述した付勢力調整機構を有している場合、図10に示されるように、風車1の組立作業を容易にすることができ、風車設置コストを減少させることができる。基部2の上部の高所において、風車翼部4を取り付ける作業を行うことは困難であるため、地上において風車翼部4を回転用ハブ3に取付ける方法が現実的である。その場合、風車翼部4が大きい場合には、地上から回転用ハブ3までの高さが大きくなると、回転用ハブ3を載せる土台の地上からの高さを高くしたり、足場を組むなど、作業が大変になる可能性がある。しかし、付勢力調整機構によって、付勢部材SPに加わる付勢力を一旦無効として、ブレード42の向きを本来の初期ツイスト角から約90°回転させ(図6Aに二点鎖線で示されるブレード42が水平な状態)、図10(A)に示すように翼面を地面と平行な状態にして回転用ハブ3に取り付けるならば作業性が向上する。全ての風車翼部4を回転用ハブ3に組み付けた後、クレーン等を使用して風車ロータ(回転用ハブ3および風車翼部4を含むユニット)全体を基部2の上部の高さまで持ち上げて、基部2の回転軸に据え付ける(図10(B)参照)。なお、この際には、ブレード42が水平な状態から回転しないように、風車1は、ブレード42の回転軸Y周りの回転を規制してブレード42を水平な状態に保持する、ピン等の回転規制部材(図示せず)を有していてもよい。
【0054】
回転用ハブ3と基部2との接続が完了すると、上述した回転規制部材によるブレード42の回転の規制を解除し、ブレード42が水平な状態から初期ツイスト角の傾斜状態になるように向きを変える(図10(C)参照)。この後、付勢力調整機構を操作してブレード42に付勢力を加え、ブレード42を初期ツイスト角の状態で保持する。これにより、風車1の組立が完了する。
【0055】
<実施の形態2>
つぎに、実施の形態2の風車について説明する。実施の形態1の各構成において説明した点については、同様に実施の形態2にも適用することができる。以下の説明では、実施の形態1で説明した点については省略し、相違点を中心に説明する。
【0056】
本実施形態では、図11および図12に示されるように、ブレード42を回転軸Y周りにツイストさせるために、ブレード42に加わる空気力に加えて、回転用ハブ3に設けられた錘部材7に加わる遠心力を用いている。なお、図11および図12においてはブレード42の図示は省略している。
【0057】
本実施形態の風車1は、図11および図12に示されるように、回転用ハブ3が、回転用ハブ3が回転し所定の遠心力が加わったときに回転用ハブ3に対して移動可能な錘部材7を有している。錘部材7は、同調機構6に連結部材8を介して連結されている。付勢部材SPは、錘部材7の遠心力による移動を抑制する方向に錘部材7を直接または間接的に付勢するように構成されている。
【0058】
本実施形態では、空気力によるツイストモーメントおよび遠心力による錘部材7に加わる力が、付勢部材SPの付勢力に打ち勝って錘部材7が移動したときに、錘部材7の移動に連動する連結部材8の動作によって同調機構6が動作する。これにより、ブレード42がブレード42の受風面積を減少させる方向にツイストするように構成されている。したがって、本実施形態では、所定の遠心力が錘部材7に加わるまでは、錘部材7が回転用ハブ3に対して動かずに、空気力が加わってもブレード42のツイストが抑制される。したがって、本実施形態では、実施の形態1で得られる効果に加えて、ブレード42は大きな受風面積をさらに広い風速の範囲で維持することができ、発電効率を高めることができる。その後、風車翼部4の回転数が高くなり、ブレード42に加わる空気力に加えて、錘部材7に所定の遠心力が加わると、付勢部材SPの付勢力に抗して、錘部材7が移動して、同調機構6を介してブレード42がツイストする。これにより、風車翼部4の回転数が所定の範囲まではブレード42の受風面積が大きい状態で発電が可能であり、風車翼部4の回転数が所定の範囲を超えたときに、ブレード42に加わる空気力と錘部材7に加わる遠心力との両方により、ブレード42をツイストさせて、過回転を抑制することができる。
【0059】
錘部材7は所定の重量を有し、風車1の風車翼部4の垂直軸X周りの回転数の増大によって遠心力によって移動して、錘部材7の移動によってブレード42を回転軸Y周りに回転させる。なお、錘部材7は、錘部材7の底部が回転用ハブ3の上面に対して離間するように連結部材8に支持されている。
【0060】
本実施形態では、錘部材7は連結部材8によって同調機構6に接続されている。連結部材8は、錘部材7の移動に伴って動作することによって、ブレード42を回転軸Y周りに回転させる方向に同調機構6を操作することができるように、錘部材7と同調機構6とを接続している。なお、連結部材8は、ブレード42を回転軸Y周りに回転させる方向に同調機構6を操作することができるように、錘部材7と同調機構6とを接続するものであれば、本実施形態の形状および構造に限定されるものではない。
【0061】
本実施形態では、連結部材8は、図11および図12に示されるように、回転用ハブ3に対して垂直軸Xに平行な軸Ax周りに揺動可能に取り付けられている。連結部材8は、連結部材8の揺動軸Axから錘部材7に向かって延びる第1延出部81と、連結部材8の揺動軸Axからハブ側歯車G2に向かって延び、ハブ側歯車G2に取り付けられる第2延出部82とを備えている。第2延出部82は、ハブ側歯車G2に取り付けられる端部に長孔82aを有し、ハブ側歯車G2は、長孔82aに挿入される軸部材G21を有している。第1延出部81と第2延出部82とを有する連結部材8は略L字状に形成され、図12に示されるように、錘部材7に遠心力が加わると、錘部材7は付勢部材SPの付勢力に抗して揺動軸Axを中心に矢印AR1の方向に揺動する。これにより、第1延出部81と第2延出部82とは一体的に揺動軸Axを中心に揺動し、第2延出部82の端部は、図12の矢印AR2の方向に揺動する。
【0062】
付勢部材SPは、錘部材7の遠心力による移動を抑制する方向に錘部材7を直接または間接的に付勢することができれば、付勢部材SPを設ける位置は特に限定されない。本実施形態では、付勢部材SPは、回転用ハブ3の垂直軸Xに沿って延びる付勢部材支持体32(回転用ハブ3に対して、バネの一端を取付ける部分が回転する構造になっている)と錘部材7との間に設けられている。具体的には、筒状の錘部材7に設けられた係止部71と、支持ピンとして示された付勢部材支持体32に設けられた係止部32aとに、引っ張りバネとして示された付勢部材SPが係止されている。なお、付勢部材SPは上述したように予圧が加えられていることが好ましい。付勢部材SPはハブ側歯車G2など同調機構6と回転用ハブ3との間に設けられて、錘部材7の遠心力に抗するように構成されていてもよい。
【0063】
本実施形態では、図12に示されるように、錘部材7が遠心力により移動し、第2延出部82の端部が連結部材8の揺動軸Axを中心に矢印AR2方向に揺動したときに、軸部材G21が第2延出部82の長孔82aの縁部から力を受けることによってハブ側歯車G2が矢印AR3方向に回転するように構成されている。これにより、アーム側歯車G1を介して複数の風車翼部4のアーム41が同調して回転軸Y周りに回転する。これにより、ブレード42が回転軸Y周りにツイストし、ブレード42の受風面積が減少し、風車翼部4の過回転が抑制される。
【0064】
<実施の形態3>
つぎに、実施の形態3の風車について説明する。実施の形態1および2の各構成において説明した点については、同様に実施の形態3にも適用することができる。以下の説明では、実施の形態1および2で説明した点については省略し、相違点を中心に説明する。
【0065】
本実施形態の風車1は、錘部材7と同調機構6とを連結する連結部材8が、歯車を有している。具体的には、図13図15に示されるように、連結部材8が、連結部材8の揺動軸Axから錘部材7に向かって延びる延出部81と、連結部材8の揺動軸Axと同軸上に設けられた連結部材側歯車83とを備えている。同調機構6は、図15に示されるように、連結部材側歯車83と噛み合い、ハブ側歯車G2と同軸上に設けられた同調機構側歯車G3を備えている。
【0066】
錘部材7は、実施の形態2と同様の構成であり、風車1の風車翼部4の垂直軸X周りの回転数の増大によって遠心力によって移動する。錘部材7は所定の遠心力が加わった際に、揺動軸Ax周りに延出部81とともに揺動する。図14に示されるように、錘部材7が揺動軸Ax周りに矢印AR4方向に揺動すると、揺動軸Axと共に回転するように揺動軸Axに接続された連結部材側歯車83も揺動軸Ax周りに矢印AR5方向に回転する。
【0067】
連結部材側歯車83は、図15に示されるように、同調機構側歯車G3と噛み合うように配置され、連結部材側歯車83が回転することにより、同調機構側歯車G3も回転するように構成されている。ハブ側歯車G2は、同調機構側歯車G3の回転に応じて回転するように構成されている。なお、同調機構側歯車G3の構造や配置される位置は、同調機構側歯車G3の回転によってハブ側歯車G2を回転させることができれば特に限定されない。本実施形態では、同調機構側歯車G3は、図15に示されるように、ハブ側歯車G2と同軸上に配置され、ハブ側歯車G2と共に回転するように設けられている。同調機構側歯車G3は、ハブ側歯車G2と一体に形成されていてもよいし、別体としてハブ側歯車G2に嵌合するものであってもよい。また、同調機構側歯車G3とハブ側歯車G2との間に他の歯車が介在していてもよい。
【0068】
本実施形態では、実施の形態2と同様に、空気力によるツイストモーメントおよび遠心力による錘部材7に加わる力が、付勢部材SPの付勢力に打ち勝って錘部材7が移動したときに、錘部材7の移動に連動する連結部材8の動作によって同調機構6が動作する。これにより、ブレード42がブレード42の受風面積を減少させる方向にツイストするように構成されている。したがって、本実施形態では、所定の遠心力が錘部材7に加わるまでは、錘部材7が回転用ハブ3に対して動かずに、空気力が加わってもブレード42のツイストが抑制される。したがって、本実施形態では、実施の形態1で得られる効果に加えて、ブレード42は大きな受風面積をさらに広い風速の範囲で維持することができ、発電効率を高めることができる。その後、風車翼部4の回転数が高くなり、ブレード42に加わる空気力に加えて、錘部材7に所定の遠心力が加わると、付勢部材SPの付勢力に抗して錘部材7が移動して、図14に示されるように、連結部材8が揺動軸Axを中心に矢印AR4方向に揺動する。連結部材8が揺動軸Axを中心に矢印AR4方向に揺動すると、連結部材側歯車83が揺動軸Ax周りに矢印AR5方向に回転する。連結部材側歯車83が矢印AR5方向に回転すると、同調機構側歯車G3が逆方向に回転する。これにより、ハブ側歯車G2が矢印AR6方向に回転する。ハブ側歯車G2が回転することにより、アーム側歯車G1を介して複数の風車翼部4のアーム41が同調して回転軸Y周りに回転する。これにより、ブレード42が回転軸Y周りにツイストし、ブレード42の受風面積が減少し、風車翼部4の過回転が抑制される。また、本実施形態では、錘部材7と同調機構6との間が歯車(連結部材側歯車83および同調機構側歯車G3)によって接続されているため、遠心力が加わった錘部材7の揺動による力を同調機構6に円滑に伝達することができ、連結部材8および同調機構6の破損が抑制される。
【0069】
図2、3、4に示した実施の形態1において、バネの予圧が無い場合(ケース6とする)と予圧がある場合(ケース7とする)、および図13、14、15に示した実施の形態3の場合(ケース8とする)について、予想される最適状態(過回転が防止され、かつ年間発電量が大きくなる状態)の軸トルクの回転数依存性を、図16、17、18にそれぞれ示す。各ケースにおいて風速Vは5m/s、10m/s、18m/sの3状態を仮定した。各ケースの最適状態における各パラメータの値を表2にまとめる。
【0070】
【表2】
【0071】
図16、17、18において想定した風車は、図1に示されるバタフライ風車であり、ロータ直径が12.5m(半径R=6.25m)、回転用ハブ3の直径が0.9m、ブレードの高さHが7.8m、ブレードの数が3枚のものを想定している。翼断面形状はNACA 0018(対称翼型)であり、翼弦長は412mmとして計算した。表1および図9に特性を示したケース1~5の風車はロータ直径が7mの場合であり、回転用ハブ3の直径すなわち過回転抑制機構の大きさは0.89mであったが、風車のロータ直径を12.5mまで大きくしたケース6~8の場合においても、回転用ハブ3の直径はほとんど同じ大きさ(0.9m)になっており、過回転抑制機構の大型化が抑制できることがわかる。
【0072】
図16に示す捩じりバネで予圧が無いケース6では、風速V=5m/sにおいて、ツイストの無い場合のトルク特性に出来るだけ一致するようにパラメータが調整され、風速10m/sや18m/sの強風状態では、定格回転数として想定する約40rpmより低い回転数において、発電制御目標(発電機のトルク特性)と交点(動作点)を持つように最適状態が選ばれていて、強風における過回転が抑制される特性となっている。ただし、ケース6の場合、制御器のトラブルなどが発生したときには、風速5m/sでは、風車回転数が定格回転数を越えた50rpm以上になることも予想される。
【0073】
図17に示す捩じりバネで予圧が有るケース7では、風速V=5m/sにおいて、ツイストの無い場合のトルク特性の極大値(回転数30rpm)に出来るだけ近接した上で、定格回転数40rpm以下の回転数において、横軸の0Nmのラインと交点を持つようにパラメータを調整した。風速10m/sや18m/sの強風状態においても、定格回転数40rpmより低い回転数において、発電制御目標(発電機のトルク特性)と交点(動作点)を持っている。
【0074】
図18に示す引っ張りバネと連結部材側歯車を用いるケース8では、風速V=5m/sにおいて、定格回転数の40rpmまで、ツイストの無い場合のトルク特性とほぼ一致した上で、それよりも高い回転数ではツイスト角が第2位置決め部材で画定される最大角度30°まで急激に変化をし、風車ロータの回転トルク(軸トルク)がマイナスになるように、各パラメータが調整された。風速10m/sや18m/sの強風状態においては、低速回転数から定格回転数の40rpmまでは、発電制御目標(発電機のトルク特性)と交点(動作点)を持たず、ツイスト角度は初期値を維持したまま回転数が増加するが、定格回転数を越えたところで、第2位置決め部材で画定される最大角度30°までツイスト角が急激に変化をし、風車ロータの回転トルク(軸トルク)がマイナスになり、過回転が抑制される特性となっている。
【0075】
図19に、図16~18に示した風車ロータの回転トルク(軸トルク)から予測したケース6~8の発電電力の風速依存性を比較する。自然の風は変動するため、風車の発電電力も常に変化することが予想されるが、図19においては、便宜的に、図16~18に示すような一定風速を仮定した場合の風車のトルクカーブと発電機のトルク特性カーブ(発電制御目標)の交点を求めて、特定の風速の発電電力とした。図19において、風速18m/s以上では、発電電力が高くても風速出現率がほぼ0%と予測されるため、年間発電量への寄与はない。ケース6における風速6~8m/sの範囲の発電電力の落ち込み、およびケース8における風速7~9m/sの範囲の発電電力の落ち込みは、図8Bに示したツイスト角ηが5°から10°の場合で先端周速比λが3~4の範囲においてみられる無次元ツイストモーメントのピークに相当する状況となっている。
【0076】
図19の発電電力の風速依存性に基づいて予想されるケース6~8の年間発電量を表3に示す。風速出現率は平均風速5m/sのレイリー分布を仮定した。6m/s以下の低風速範囲において発電電力が最も高い特性となっているケース8の予想年間発電量がもっとも大きくなっている。
【0077】
【表3】
【0078】
<実施の形態4>
つぎに、実施の形態4の風車について説明する。実施の形態1~3の各構成において説明した点については、同様に実施の形態4にも適用することができる。以下の説明では、実施の形態1~3で説明した点については省略し、相違点を中心に説明する。
【0079】
一般に垂直軸風車の翼は、高速回転状態になると、翼に作用する遠心力によって、図20に示すように、翼は半径方向外向きに変形する。図20は有限要素法に基づく構造解析によって、三角状の翼の変形をシミュレーションした結果であり、翼の自重を考慮しているため、鉛直下向きへの変位も結果として表れている。風車としては、図1図5に示されるバタフライ風車であり、本実施形態では、ロータ直径が7m、ブレードの高さが2.7mを想定して計算している。翼断面形状はNACA 0018(対称翼型)であり、翼弦長は242.3mm、翼材料はアルミニウムとして計算した。最大半径位置の変形量は回転数にほぼ比例し、図20の例では、定格回転数120rpmにおいて半径方向外側に約80mmの変形が予想される。なお、図20では、変形量を10倍にして表示をしている。
【0080】
翼の変形を抑制し、上限回転数を増加させるために、多少の出力低減を犠牲にして(予想される出力低下は数%)、本実施形態では、図21図23に示すように、ブレード42の垂直軸X周りの回転によりブレード42に所定の遠心力が加わったときにブレード42の半径方向外側(図20および図21における右側)に最大変形が生じるブレード42の変形箇所42aと、同調機構6との間に、補強部材9を有している。補強部材9は、変形箇所42aに半径方向内側に向かう張力をかける。
【0081】
図22は、ブレード42のツイストを駆動する力として、補強部材(ブレース)9を介して作用する翼の変形力を利用する実施の形態4の揚力型垂直軸風車の斜視図である。図23図22に示される揚力型垂直軸風車の上面図である。なお、図22および図23ではブレード42および補強部材9の一部は省略している。
【0082】
補強部材9の一端91はブレード42の変形箇所42aに接続され(図21参照)、補強部材9の他端92は同調機構6に連結部材80を介して接続されている(図22および図23参照)。図22および図23に示されるように、付勢部材SPは、連結部材80を介して、補強部材9がブレード42の変形箇所42aに対して半径方向内側に向かう張力を加えるように、同調機構6を付勢している。図22および図23に示されるように、同調機構6は、複数の風車翼部4のアーム41の他端にそれぞれ設けられた複数のアーム側歯車G1と、回転用ハブ3に設けられ、複数のアーム側歯車G1に噛み合う1つのハブ側歯車G2とを有している。連結部材80の一端80aは、ハブ側歯車G2に、垂直軸Xと平行な軸周りに揺動可能に取り付けられ、連結部材80の他端80bは、補強部材9の他端92に揺動可能に取り付けられている。
【0083】
より具体的に説明すると、本実施形態では、図22および図23に示されるように、補強部材9はロッド状であり、支持部(フレーム)31に設けられた孔を貫通して半径方向に移動可能となるように取付けられており、補強部材9の垂直軸X側の他端80bにおいて、リンク棒(連結部材80)とヒンジでハブ側歯車G2の上面に対して揺動可能となるように結合されている。リンク棒(連結部材80)の一端80aはハブ側歯車G2から鉛直上方に突き出るように取付けられたピン(リーマボルト等)と揺動可能に結合されている。風車が高速回転状態になり、ブレード42に所定の遠心力が加わると、補強部材9に大きな張力が作用する。補強部材9および変形箇所42aが付勢部材SPの付勢力に抗して半径方向外側に変位したときに、補強部材9の変位によって連結部材80を介して同調機構6が操作されて、ブレード42がブレード42の受風面積を減少させる方向にツイストする。より具体的には、ブレード42に所定の遠心力が加わって、補強部材9および変形箇所42aが半径方向外側に変位したときに、連結部材80の移動によりハブ側歯車G2が回転する。ハブ側歯車G2の回転によってアーム側歯車G1が回転し、ブレード42がブレード42の受風面積を減少させる方向にツイストする。
【0084】
本実施形態では、回転数が比較的に小さい場合に、ブレード42のツイストが起こらないようにするため、ハブ側歯車G2の側面と支持部(フレーム)31の側面に取付部材(アイボルトなど)を設け、その2つの取付部材(アイボルトなど)の間に引っ張りバネ(付勢部材SP)を設置して予圧をかけている。
【0085】
風速60m/s程度の強風時において過回転を抑制するためには、ブレード42の最大ツイスト角は25°から30°程度であれば十分である。図22および図23の例では、ハブ側歯車G2とアーム側歯車G1の歯数比は3:1であるため、ブレード42の最大ツイスト角を30°とした場合、ハブ側歯車G2の回転角度は10°となる。風車の大きさや上限回転数によって、補強部材(ブレース)9および連結部材80を介してハブ側歯車G2に作用する垂直軸Xまわりの回転モーメントは変化するが、所望する回転数において最大ツイスト角が実現するように、付勢部材SP(引っ張りバネあるいは圧縮バネなど)の比例定数や初期変位などを調節すればよい。
【0086】
図22および図23の例では、ブレードが30°のツイスト角状態となった場合においても、傾斜するブレード42の根元部分およびブレード42とアーム41を接続する部材(図示せず)との干渉が起こらないように、補強部材(ブレース)9の支持部(フレーム)31への設置位置を設定している。なお、アーム41の中心に補強部材(ブレース)9を貫通させる孔をあけることが可能な場合には、補強部材9の設置位置はアーム41の中心軸と一致させることも可能である。
【0087】
なお、図22および図23の例において、図10に示したように組立時にツイスト角を90°の状態にする場合には、分割可能な補強部材を使用し、組立時に90°に傾斜したブレード42の根元部分およびブレード42とアーム41を接続する部材との干渉を一時的に回避し、ブレード42の組立が終了し、ツイスト角を0°にした状態で、補強部材(ブレース)9を接続し所定の張力をかければ良い。
【0088】
実施の形態4では、ブレード42がツイストした場合に、補強部材9に捩じりが発生する。補強部材9が十分に長い場合は、弾性変形の範囲内において、前記捩じりを吸収可能である。もし、補強部材9の捩じりが弾性変形の範囲内において吸収されない場合には、補強部材9の端部も含めたいずれかの位置に、補強部材9の中心軸回りに回転可能な自在継手(図示せず)を挿入して、前記捩じりを回避することが可能である。
【0089】
実施の形態4では、ブレード42の自重あるいは補強部材9の自重により、補強部材9の一端91が他端92の位置に対して鉛直下向きに変位する。補強部材9の一端91のブレード42の変形箇所42aへの取付けは、回転軸Yの延長線上に近接している位置が理想的であるが、前記のブレード42の自重あるいは補強部材9の自重による鉛直変位や、図22および図23の例で示すように、補強部材9の設置位置をアーム41の中心軸(回転軸Y)と一致させない場合は水平方向の変位も生じる。したがって、ブレード42がツイストした場合に、補強部材9には撓みが発生する。補強部材9が十分に長い場合は、弾性変形の範囲内において、前記撓みを吸収可能である。もし、補強部材9の撓みが弾性変形の範囲内において吸収されない場合には、補強部材の端部も含めたいずれかの位置に、補強部材9の中心軸に対して偏向可能な自在継手(図示せず)を挿入して、前記撓みを回避することが可能である。
【0090】
実施の形態4の揚力型垂直軸風車を用いれば、実施の形態2および3で必要とした錘部材7が不要になり、実施の形態1で必要とした初期ツイスト角の設定が無くても良い。また、本実施形態では、空気力に比べて遠心力の作用が大きいため、実施の形態1~3で必要とした翼取付位置の後縁方向への移動は必要が無いか、あるいは移動量を減らすことが可能になる。実施の形態4では、補強部材(ブレース)9は極少量(10mm程度)半径方向外側に移動するが複雑な形状のガイド溝は必要とせず、また、アーム41は半径方向に移動しない。したがって、風車の大きさが増しても過回転抑制機構の大きさはコンパクトになる。
【符号の説明】
【0091】
1 揚力型垂直軸風車(風車)
2 基部
21 発電部
22 脚部
3 回転用ハブ
31 支持部
32 付勢部材支持体
32a 係止部
4 風車翼部
41 アーム
41a 係合部(係合ピン)
42 ブレード
42a ブレードの変形箇所
51 位置決め部材
52 第2の位置決め部材
6 同調機構
7 錘部材
71 係止部
8、80 連結部材
80a 連結部材の一端
80b 連結部材の他端
81 延出部(第1延出部)
82 第2延出部
82a 長孔
83 連結部材側歯車
9 補強部材
91 補強部材の一端
92 補強部材の他端
Ax 揺動軸
G1 アーム側歯車
G2 ハブ側歯車
G21 軸部材
G3 同調機構側歯車
Ha 第1保持部
Hb 第2保持部
LE 前縁
SP 付勢部材(捩じりバネ/引っ張りバネ)
TE 後縁
X 垂直軸
Y 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23