(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】ボールジョイントのベアリングシート及びボールジョイント
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20220913BHJP
F16C 11/08 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
F16C11/06 R
F16C11/08 B
(21)【出願番号】P 2018110446
(22)【出願日】2018-06-08
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】横井 良紘
(72)【発明者】
【氏名】清川 剛志
(72)【発明者】
【氏名】水谷 雅之
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189146(JP,A)
【文献】特開平5-26225(JP,A)
【文献】特公昭45-12165(JP,B1)
【文献】実公昭50-12615(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボール側部材のボール部とこのボール部を受ける受け側部材との間に配置され、潤滑剤を介して前記ボール部を回動可能に保持するボールジョイントのベアリングシートであって、
前記ボール部が挿通する開口部を有するとともにこの開口部とは反対側に底部を有する筒状に形成され、前記底部よりも前記開口部側に前記ボール部に摺動可能に接触する摺動面を有するシート本体と、
このシート本体の前記底部に前記摺動面よりも窪んで設けられる潤滑剤溜まり部と、
前記シート本体の前記底部で前記潤滑剤溜まり部の中央から前記開口部側へ向けて放射状に突出
するとともに、前記潤滑剤溜まり部の中央へ向かうにつれて徐々に細くなってその細くなった部位で互いに結合する形状に設けられ、前記ボール部に摺動可能に接触する突出部と
を具備することを特徴とするボールジョイントのベアリングシート。
【請求項2】
ボール側部材のボール部とこのボール部を受ける受け側部材との間に配置され、潤滑剤を介して前記ボール部を回動可能に保持するボールジョイントのベアリングシートであって、
前記ボール部が挿通する開口部を有するとともにこの開口部とは反対側に底部を有する筒状に形成され、前記底部よりも前記開口部側に前記ボール部に摺動可能に接触する摺動面を有するシート本体と、
このシート本体の前記底部に前記摺動面よりも窪んで設けられる潤滑剤溜まり部と、
前記シート本体の前記底部で前記潤滑剤溜まり部の中央から前記開口部側へ向けて放射状に突出し、前記ボール部に摺動可能に接触する突出部と、
前記シート本体の前記摺動面に
前記シート本体の外面側まで切り欠かれることなく前記摺動面から窪んだ形状で前記底部側から前記開口部側へ向けて設けられ、前記潤滑剤溜まり部と前記開口部のうちの前記潤滑剤溜まり部のみに連通する複数の第1の溝部と、
前記シート本体の前記摺動面に
前記シート本体の外面側まで切り欠かれることなく前記摺動面から窪んだ形状で前記開口部側から前記底部側へ向けて設けられ、前記潤滑剤溜まり部と前記開口部のうちの前記開口部のみに連通する複数の第2の溝部とを具備し、
前記第1の溝部と前記第2の溝部とが前記摺動面の周方向に交互に配置されている
ことを特徴とす
るボールジョイントのベアリングシート。
【請求項3】
前記開口部側へ向けた前記第1の溝部の端部側と前記底部側へ向けた前記第2の溝部の端部側とは前記摺動面の周方向に重なる位置に配置されている
ことを特徴とする請求項2記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項4】
ボール部を有するボール側部材と、
前記ボール部を受ける受け側部材と、
前記ボール部と前記受け側部材との間に配置され、潤滑剤を介して前記ボール部を回動可能に保持する請求項1ないし3いずれか一記載のベアリングシートと
を具備することを特徴とするボールジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤溜まり部を備えたボールジョイントのベアリングシート、及びこのベアリングシートを備えたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車などの車両のスタビライザ装置に用いられるスタビライザリンクなどに、ボールジョイントが使用されている。
【0003】
このボールジョイントは、ボール部を有するボール側部材であるボールスタッドと、このボールスタッドのボール部を回動可能に保持する筒状のベアリングシートと、このボール部を保持したベアリングシートを受ける受け側部材であるハウジングとを備えている。
【0004】
ベアリングシートは、潤滑剤を介してボール部を回動可能に保持しており、ボール部との摺動性、及び耐久性を確保している。このようなベアリングシートでは、潤滑剤を保持しておくために、潤滑剤を溜める潤滑剤溜まり部が設けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ボールジョイントを製造する場合、ベアリングシートを嵌めたボール部を中子として成形型に装着し、その成形型内でベアリングシートを覆うように樹脂製のハウジングを射出成形する製造方法がある。この場合、ベアリングシートの潤滑剤溜まり部に潤滑剤を注入した状態で射出成形するが、ベアリングシートの潤滑剤溜まり部が外側からの成形熱及び圧力で潰れやすく、潤滑剤溜まり部に注入されていた潤滑剤がボール部とベアリングシートとの間から外部に流出してしまう可能性がある。また、射出成形による製造方法以外の製造方法においても、あるいはボールジョイントの使用状態においても、潤滑剤溜まり部が潰れるように荷重が加わることで、潤滑剤溜まり部に注入されていた潤滑剤がボール部とベアリングシートとの間から外部に流出してしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-92865号公報(第7頁、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のベアリングシートでは、潤滑剤溜まり部が潰れ、潤滑剤がボール部とベアリングシートとの間から外部に流出してしまう可能性がある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、潤滑剤がボール部との間から外部に流出するのを防止できるボールジョイントのベアリングシート及びボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートは、ボール側部材のボール部とこのボール部を受ける受け側部材との間に配置され、潤滑剤を介して前記ボール部を回動可能に保持するボールジョイントのベアリングシートであって、前記ボール部が挿通する開口部を有するとともにこの開口部とは反対側に底部を有する筒状に形成され、前記底部よりも前記開口部側に前記ボール部に摺動可能に接触する摺動面を有するシート本体と、このシート本体の前記底部に前記摺動面よりも窪んで設けられる潤滑剤溜まり部と、前記シート本体の前記底部で前記潤滑剤溜まり部の中央から前記開口部側へ向けて放射状に突出するとともに、前記潤滑剤溜まり部の中央へ向かうにつれて徐々に細くなってその細くなった部位で互いに結合する形状に設けられ、前記ボール部に摺動可能に接触する突出部とを具備するものである。
【0010】
請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートは、ボール側部材のボール部とこのボール部を受ける受け側部材との間に配置され、潤滑剤を介して前記ボール部を回動可能に保持するボールジョイントのベアリングシートであって、前記ボール部が挿通する開口部を有するとともにこの開口部とは反対側に底部を有する筒状に形成され、前記底部よりも前記開口部側に前記ボール部に摺動可能に接触する摺動面を有するシート本体と、このシート本体の前記底部に前記摺動面よりも窪んで設けられる潤滑剤溜まり部と、前記シート本体の前記底部で前記潤滑剤溜まり部の中央から前記開口部側へ向けて放射状に突出し、前記ボール部に摺動可能に接触する突出部と、前記シート本体の前記摺動面に前記シート本体の外面側まで切り欠かれることなく前記摺動面から窪んだ形状で前記底部側から前記開口部側へ向けて設けられ、前記潤滑剤溜まり部と前記開口部のうちの前記潤滑剤溜まり部のみに連通する複数の第1の溝部と、前記シート本体の前記摺動面に前記シート本体の外面側まで切り欠かれることなく前記摺動面から窪んだ形状で前記開口部側から前記底部側へ向けて設けられ、前記潤滑剤溜まり部と前記開口部のうちの前記開口部のみに連通する複数の第2の溝部とを具備し、前記第1の溝部と前記第2の溝部とが前記摺動面の周方向に交互に配置されているものである。
【0011】
請求項3記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、前記開口部側へ向けた前記第1の溝部の端部側と前記底部側へ向けた前記第2の溝部の端部側とは前記摺動面の周方向に重なる位置に配置されているものである。
【0012】
請求項4記載のボールジョイントは、ボール部を有するボール側部材と、前記ボール部を受ける受け側部材と、前記ボール部と前記受け側部材との間に配置され、潤滑剤を介して前記ボール部を回動可能に保持する請求項1ないし3いずれか一記載のベアリングシートとを具備するものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、シート本体の底部に摺動面よりも窪む潤滑剤溜まり部を設けるとともに、この潤滑剤溜まり部の中央から開口部側へ向けて放射状に突出してボール部に摺動可能に接触する突出部を設けたため、放射状の突出部によって潤滑剤溜まり部が潰れるのを確実に防止でき、潤滑剤がボール部との間から外部に流出するのを防止できる。
【0014】
請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、シート本体の摺動面に、潤滑剤溜まり部のみに連通する複数の第1の溝部と、開口部のみに連通する複数の第2の溝部とを設け、これら第1の溝部と第2の溝部とを摺動面の周方向に交互に配置しているため、潤滑剤溜まり部の潤滑剤を摺動面全体に供給できるとともに、潤滑剤溜まり部の潤滑剤が開口部に直接的に流出するのを防止できる。
【0015】
請求項3記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、開口部側へ向けた第1の溝部の端部側と底部側へ向けた第2の溝部の端部側とを摺動面の周方向に重なる位置に配置しているため、ボール部の周方向の回動に伴って潤滑剤が第1の溝部から第2の溝部に移動しやすく、潤滑剤を摺動面全体に供給できる。
【0016】
請求項4記載のボールジョイントによれば、請求項1ないし3いずれか一記載のベアリングシートを備えるため、ボール部の摺動性、及び耐久性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態を示すベアリングシートの平面図である。
【
図2】同上ベアリングシートの
図1A-A視の断面図である。
【
図3】同上ベアリングシートの
図1B-B視の断面図である。
【
図4】同上ベアリングシートの
図1C-C視の断面図である。
【
図5】同上ベアリングシートの
図2D-D視の断面図である。
【
図6】同上ベアリングシートの
図2E-E視の断面図である。
【
図8】同上ベアリングシートを用いたボールジョイントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0019】
図8において、10はボールジョイントである。このボールジョイント10は、自動車などの車両のスタビライザ装置に用いられるスタビライザリンクの一部を構成している。スタビライザ装置は、例えば左右の車輪に対して用いられる懸架装置の一部を成すもので、コーナリング中などの車両の旋回時のロールを抑制する。なお、ロールとは、車両の走行前後方向に沿う軸を中心とする車両の回動をいう。そして、スタビライザリンクは、車輪を弾性的に支持する被接続部としての車輪支持部材であるサスペンションアームとスタビライザバーとを相対的に可動するように連結するものである。
【0020】
ボールジョイント10は、連結部材としてのリンク部15と、ベアリングシート16と、ボール側部材としてのボールスタッド17と、受け側部材としてのハウジング18と、図示しない閉塞部材としてのダストカバーとを備えている。なお、以下、ボールジョイント10の各構成の上下方向は、
図8の状態での上下方向に対応するものとして説明する。また、ボールスタッド17の直立状態(中立状態)での長手方向、すなわち
図8中の上下方向を軸方向といい、この軸方向に対して直交する方向を軸直角方向という。したがって、ボールジョイント10の中心軸は、ボールスタッド17の直立状態(中立状態)での中心軸と一致(略一致も含む)するものとする。
【0021】
そして、リンク部15は、例えば金属により長尺に形成されている。このリンク部15の一端部側に、リンク部15の長手方向に対して交差(直交)する方向である上下方向に沿って円形状の孔部21が設けられている。なお、このリンク部15の他端部側には、図示しないが、一端部側と同様のボールジョイント10が形成されていてもよい。
【0022】
また、ベアリングシート16は、例えば耐摩耗性に優れる合成樹脂などにより筒状に形成されている。さらに、このベアリングシート16は、ハウジング18の成形温度(射出温度)よりも融点が高い合成樹脂により筒状に形成されている。このベアリングシート16は、リンク部15の孔部21内に配置されており、ハウジング18により覆われている。すなわち、このベアリングシート16は、上下方向に沿って軸方向を有している。
【0023】
また、ボールスタッド17は、例えば鋼鉄製などであり、球状のボール部24と、このボール部24に連結された軸状のスタッド部25とを一体に備えている。
【0024】
ボール部24は、表面の一部がベアリングシート16に潤滑剤(グリース)を介して摺動(回動)可能に保持されている。すなわち、ボール部24は、ベアリングシート16とともにリンク部15の孔部21に収容されている。本実施の形態において、ボール部24の中心部は、リンク部15の厚み方向(長手方向に対して直交する方向)である上下方向の中心部と略一致している。換言すれば、ボール部24の中心部は、リンク部15の厚み方向の中心線上に位置している。
【0025】
スタッド部25は、サスペンションアーム、あるいはスタビライザバーと接続されて荷重が加わる部分であり、リンク部15及びハウジング18から外方(
図8中の上方)へと突出している。このスタッド部25は、ベアリングシート16から外部へと露出し、孔部21に対して上方へと延出されている。このスタッド部25の先端側、すなわちボール部24と反対側には、接続部としての雄ねじ部26が形成されている。また、このスタッド部25には、本実施の形態において、例えば接続安定部としての鍔部27が形成されている。
【0026】
雄ねじ部26は、例えばサスペンションアーム、あるいはスタビライザバー側に形成された図示しない挿通穴などに挿通されてナットなどが螺合されることで、ボールスタッド17(スタッド部25)をサスペンションアーム、あるいはスタビライザバー側と接続する部分である。
【0027】
鍔部27は、サスペンションアーム、あるいはスタビライザバー側と面接触することで、ボールジョイント10側とサスペンションアーム、あるいはスタビライザバー側との接触面積を確保して、雄ねじ部26による接続状態を安定させるものである。
【0028】
また、ハウジング18は、ソケットなどとも呼ばれるもので、例えば合成樹脂により射出成形されている。このハウジング18は、ベアリングシート16とともにリンク部15の端部側を一体的に覆って形成されている。すなわち、このハウジング18は、ボール部24を内包したベアリングシート16をリンク部15の端部側とともに内部に保持している。そして、このハウジング18は、リンク部15の端部側を覆う連結部材被覆部としてのリンク部被覆部30と、孔部21を含んでベアリングシート16を覆って保持するシート部材被覆部としてのベアリングシート被覆部31とを一体に備えている。また、このハウジング18は、ボールスタッド17のスタッド部25が突出するハウジング開口部32を上部に備えている。さらに、このハウジング18は、ダストカバーを取り付けるためのカバー取付部33を上部に備えている。
【0029】
リンク部被覆部30は、リンク部15の上下面から側面に亘る部分を例えば略一定厚みで覆うように形成されている。
【0030】
ベアリングシート被覆部31は、リンク部被覆部30から連続してリンク部15を越えてベアリングシート16の上端部の上部に亘る部分までを覆っている。すなわち、ベアリングシート被覆部31は、リンク部15の上側を包み込んでベアリングシート16の外縁部を上方から押さえる押え部34を備えている。また、このベアリングシート被覆部31は、リンク部被覆部30から連続してリンク部15を越えてベアリングシート16の底部を覆っている。すなわち、このベアリングシート被覆部31は、ベアリングシート16の底部を保持する保持部35を備えている。
【0031】
ハウジング開口部32は、ベアリングシート16と連通して形成され、上方に向かって徐々に拡開されている。
【0032】
カバー取付部33は、ベアリングシート被覆部31の押え部34の上部に連続して上方に突設されている。このカバー取付部33は、リンク部被覆部30よりも上方に突出しており、ハウジング開口部32の周縁に立ち上げられている。そして、このカバー取付部33は、全周に亘り連続する溝状に形成されている。
【0033】
ダストカバーは、ダストシール、あるいはブーツなどとも呼ばれ、ボールスタッド17の揺動に拘らずハウジング18のハウジング開口部32を覆い、ハウジング18あるいはベアリングシート16の内部への水分及び塵埃などの侵入を阻止するものである。このダストカバーは、例えば合成樹脂により略円筒状に形成され、下端側がボールスタッド17のスタッド部25の外周面(鍔部27の下側の位置)に固定され、上端側がハウジング18のカバー取付部33に嵌着され、この上端側の外周面に取り付けられた図示しないリング状の固定部材により締め付け固定されている。
【0034】
ここで、ボールジョイント10の製造方法を説明する。
【0035】
ベアリングシート16にボールスタッド17のボール部24を回動可能に保持した状態で、このベアリングシート16及びボール部24をリンク部15の孔部21に配置した第1中間体を形成する。
【0036】
第1中間体を成形型(金型)のキャビティにセットし、リンク部15の孔部21を含む端部側及びこの孔部21に配置されたベアリングシート16を覆ってキャビティに合成樹脂を射出し、ハウジング18を成形する。この結果、ボールスタッド17のボール部24を回動可能に保持するベアリングシート16がハウジング18の内部に収容保持された第2中間体を形成する。
【0037】
この後、成形型を開いてこの第2中間体を成形型から取り外し、ダストカバーを嵌着するなど、所定の仕上げ加工を施してボールジョイント10を製造する。
【0038】
次に、ベアリングシート16の構成を、
図1ないし
図7を参照して説明する。
【0039】
ベアリングシート16は、シート本体40を備えている。このシート本体40は、例えば耐摩耗性に優れる合成樹脂などにより筒状に形成されている。このシート本体40は、軸方向の一端側である上端側に形成される開口部41を有する筒部42と、この筒部42の開口部41側とは反対側である下端側に形成され筒部42の底面側を閉塞する底部43とを有している。シート本体40の内部には、ボール部24を回動可能に収容する内室44が設けられている。
【0040】
筒部42の開口部41は、ボール部24の最大直径寸法よりも小さい内径寸法に形成されている。筒部42の開口部41にボール部24を圧入し、筒部42が弾性変形することで、ボール部24が開口部41を挿通して内室44に入り込むように構成されている。
【0041】
筒部42は、ボール部24の表面に摺動可能に接触する摺動面47を有している。つまり、摺動面47は、シート本体40の内面で、底部43よりも開口部41側に形成されている。この摺動面47は、ボール部24の表面形状に対応した凹球面状に形成されている。また、筒部42の外周面には、リンク部15の孔部21の内周面に当接する複数のリブ部48が軸方向に沿って突出されている。
【0042】
底部43は、内面側が開口部41に対向されるとともに外面側が平坦状に形成された底面部51と、この底面部51の周辺部から筒部42に連続するように形成された傾斜面部52とを有している。
【0043】
また、底部43は、摺動面47よりも窪んで設けられる潤滑剤溜まり部55と、この潤滑剤溜まり部55の中央から開口部41側へ向けて放射状に突出する突出部56とを備えている。
【0044】
潤滑剤溜まり部55は、ボール部24との間に形成される間隙であり、この間隙内に潤滑剤が溜まる構造となっている。この潤滑剤溜まり部55は、突出部56の複数の放射状部分の間に形成される複数の隙間領域57と、この隙間領域57から摺動面47の下側までの連通領域58とが含まれる。この連通領域58は、突出部56と摺動面47との間で、底部43の周方向に連続する領域である。
【0045】
突出部56は、潤滑剤溜まり部55の中央の中央突出部59と、この中央突出部59から放射状に突出する複数の放射状突出部60とを有している。中央突出部59は、底部43(底面部51)の中心部に突出されている。放射状突出部60は、底部43(潤滑剤溜まり部55)から断面略山形状に突出されている。中央突出部59から放射状に延びる放射状突出部60の先端部は、摺動面47側へ向かっているが、摺動面47には接続されず離反されており、この先端部と摺動面47との間に潤滑剤溜まり部55の連通領域58が形成されている。
【0046】
複数の放射状突出部60は、中央突出部59を中心として周方向に所定角度毎の位置に形成されている。本実施の形態では、中央突出部59を中心として周方向に60°毎の位置に形成されている。さらに、本実施の形態では、放射状突出部60は6つであり、中央突出部59を中心として互いに対向する放射状突出部60が直線上に位置する配置となっている。なお、放射状突出部60の数は、6つに限らず、6つよりも少なくても多くてもよい。
【0047】
突出部56の表面には、ボール部24の表面に摺動可能に接触する摺動面部61が形成されている。この摺動面部61は、ボール部24の表面形状に対応した凹球面状であって、摺動面47の凹球面の中心点及びこの中心点からの同じ半径の凹球面状に形成されている。すなわち、摺動面部61は、摺動面47と同一面の凹球面状に形成されている。
【0048】
また、シート本体40は、それぞれ摺動面47から窪むとともに軸方向に沿って長く形成された複数の第1の溝部62と複数の第2の溝部63とを有している。
【0049】
第1の溝部62は、摺動面47において底部43側から開口部41側へ向けて軸方向に沿って設けられ、底部43側の端部が潤滑剤溜まり部55に連通され、開口部41側の端部が摺動面47の領域内にとどまって開口部41には連通されていない。
【0050】
第2の溝部63は、摺動面47において開口部41側から底部43側へ向けて軸方向に沿って設けられ、開口部41側の端部が開口部41に連通され、底部43側の端部が摺動面47の領域内にとどまって潤滑剤溜まり部55には連通されていない。
【0051】
これら第1の溝部62と第2の溝部63とは、摺動面47の周方向に交互に配置されている。さらに、これら第1の溝部62及び第2の溝部63は、突出部56の各放射状突出部60に対して放射方向に対向する位置から外れた位置であって、突出部56の隣り合う放射状突出部60の間に対向する位置、つまり潤滑剤溜まり部55の各隙間領域57に対向する位置に配置されている。
【0052】
さらに、開口部41側へ向けた第1の溝部62の端部側である上端側と、底部43側へ向けた第2の溝部63の端部側である下端側とは、摺動面47の周方向において重なる位置に配置されている。この第1の溝部62の軸方向の長さよりも第2の溝部63の軸方向の長さが長く形成されている。そして、この第1の溝部62の上端側は摺動面47の軸方向の中間位置(軸方向に対して直交する方向の摺動面47が径が最大となる位置)よりも下側に位置し、第2の溝部63の下端側は摺動面47の上下方向の中間位置よりも下側に位置し、第1の溝部62の上端側と第2の溝部63の下端側とが摺動面47の周方向に重なる位置に配置されている。
【0053】
そして、ベアリングシート16の作用を説明する。
【0054】
上述したボールジョイント10の製造時において、潤滑剤をシート本体40の開口部41から内部(潤滑剤溜まり部55)に注入した後、ボールスタッド17のボール部24を開口部41からシート本体40内に圧入し、ボール部24をベアリングシート16内に保持する。
【0055】
このベアリングシート16を装着したボール部24をリンク部15と組み合わせた状態で成形型のキャビティにセットし、ベアリングシート16を覆ってキャビティに合成樹脂を射出し、ハウジング18を成形する。
【0056】
このハウジング18の射出成形の際、成形熱および圧力がベアリングシート16の外面側から加わる。このとき、潤滑剤溜まり部55から突出する突出部56がボール部24に接触し、この突出部56でボール部24に対してベアリングシート16(底部43)を支えるため、潤滑剤溜まり部55が潰れるのを防止する。すなわち、放射状の突出部56により、複数の放射状突出部60間に形成されている隙間領域57がベアリングシート16の外面側から加わる成形熱及び圧力で潰れるのを防止する。さらに、突出部56の複数の放射状突出部60が摺動面47に向かって接近していることにより、複数の放射状突出部60と摺動面47との間の潤滑剤溜まり部55の連通領域58がベアリングシート16の外面側から加わる成形熱及び圧力で潰れるのを防止する。
【0057】
そのため、製造されたボールジョイント10において、ベアリングシート16の潤滑剤溜まり部55に潤滑剤が確実に保持されている。
【0058】
そして、ボールジョイント10の動作時、潤滑剤溜まり部55の潤滑剤がボール部24とベアリングシート16との間の全体に供給され、ボール部24とベアリングシート16との摺動性、及び耐久性が確保される。
【0059】
潤滑剤溜まり部55に保持されている潤滑剤は、ボール部24とベアリングシート16との相対的な揺動や回動などの動きにより、突出部56の摺動面部61側に供給されるとともに、上方の摺動面47側に供給される。
【0060】
摺動面47側に供給される潤滑剤の一部は、潤滑剤溜まり部55に連通している複数の第1の溝部62に進入し、これら第1の溝部62から摺動面47側つまり摺動面47の下部側領域である底部43側の領域に供給される。さらに、これら第1の溝部62から摺動面47側に供給された潤滑剤の一部は、ボール部24とベアリングシート16との相対的な揺動や回動などの動きにより、複数の第2の溝部63に入り、これら第2の溝部63から摺動面47側つまりこの摺動面47の上部側である開口部41側の領域にも供給される。そして、これら第1の溝部62と第2の溝部63とが摺動面47の周方向に交互に配置されていることにより、潤滑剤溜まり部55の潤滑剤が摺動面47全体に供給されるとともに、潤滑剤溜まり部55の潤滑剤が開口部41に直接的に流出するのが防止されている。さらに、これら第1の溝部62と第2の溝部63とが摺動面47の周方向に重なる位置に配置されていることにより、ボール部24の周方向の回動に伴って潤滑剤が第1の溝部62から第2の溝部63に移動しやすく、潤滑剤が摺動面47全体に供給されやすい。
【0061】
このように、本実施の形態のベアリングシート16によれば、シート本体40の底部43に摺動面47よりも窪む潤滑剤溜まり部55を設けるとともに、この潤滑剤溜まり部55の中央から開口部41側へ向けて放射状に突出してボール部24に摺動可能に接触する突出部56を設けたため、この放射状の突出部56によって潤滑剤溜まり部55が潰れるのを確実に防止でき、潤滑剤がボール部24との間から外部に流出するのを防止できる。
【0062】
また、シート本体40の摺動面47に、潤滑剤溜まり部55のみに連通する複数の第1の溝部62と、開口部41のみに連通する複数の第2の溝部63とを設け、これら第1の溝部62と第2の溝部63とを摺動面47の周方向に交互に配置しているため、潤滑剤溜まり部55の潤滑剤を摺動面47全体に供給できるとともに、潤滑剤溜まり部55の潤滑剤が開口部41に直接的に流出するのを防止できる。
【0063】
また、開口部41側へ向けた第1の溝部62の端部側と底部43側へ向けた第2の溝部63の端部側とを摺動面47の周方向に重なる位置に配置しているため、ボール部24の周方向の回動に伴って潤滑剤が第1の溝部62から第2の溝部63に移動しやすく、潤滑剤を摺動面47全体に供給できる。
【0064】
また、潤滑剤溜まり部55に連通する第1の溝部62の軸方向の長さを、開口部41に連通する第2の溝部63の軸方向の長さよりも短くしているため、第1の溝部62から第2の溝部63への潤滑剤の供給量を適量に保ち、開口部41から潤滑剤の流出を防止できる。
【0065】
そして、このようなベアリングシート16を備えたボールジョイント10は、ボール部24の摺動性、及び耐久性を確保できる。
【0066】
なお、ベアリングシート16の放射状の突出部56は、摺動面47に連続して形成されていてもよく、潤滑剤溜まり部55が潰れるのをより確実に防止できる。
【0067】
そして、ボールジョイント10は、車両用に限らず、その他の任意の用途に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、例えば自動車などの車両のスタビライザ装置用のスタビライザリンクとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
10 ボールジョイント
16 ベアリングシート
17 ボール側部材としてのボールスタッド
18 受け側部材としてのハウジング
24 ボール部
40 シート本体
41 開口部
43 底部
47 摺動面
55 潤滑剤溜まり部
56 突出部
62 第1の溝部
63 第2の溝部