(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】ローラカッタ
(51)【国際特許分類】
E21D 9/087 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
E21D9/087 C
(21)【出願番号】P 2018149566
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502138304
【氏名又は名称】株式会社スターロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】本並 義弘
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/002452(WO,A1)
【文献】特開平03-191194(JP,A)
【文献】特開平11-050786(JP,A)
【文献】特開2017-133285(JP,A)
【文献】特開2002-061494(JP,A)
【文献】米国特許第05284403(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッタ本体の外周部を構成する山形断面形状の刃先部に対して、周方向に所定間隔で位置するように、円形断面のチップ取付穴を設けると共に、かかるチップ取付穴に、先端が山形断面形状とされた、超硬合金からなる円柱形状の超硬チップを圧入、固定せしめてなるローラカッタにおいて、
前記チップ取付穴が、前記超硬チップの
埋設長さよりも大となる深さにおいて設けられて、前記圧入される超硬チップの下端面と該チップ取付穴の底面との間に、所定の移動許容空間が形成されるように構成されている一方、かかる移動許容空間内に、該超硬チップの下端面に当接して、該超硬チップを支持すると共に、該超硬チップの軸方向に過大な荷重が作用したときに、該超硬チップの該チップ取付穴内への更なる入り込みを許容するチップ移動規制手段が設けられて
おり、且つ
該チップ移動規制手段が、所定長さの柱状部の周りに、鍔部を連続的に若しくは断続的に設けてなる鍔付きピンと、前記チップ取付穴の底面に開口するように設けられた、該鍔付きピンの前記柱状部を収容し得る大きさの隠し穴とから構成され、前記超硬チップに過大な荷重が作用したときに、該鍔付きピンにおける柱状部と鍔部とが破断されて、かかる柱状部が前記隠し穴内に突入することによって、前記超硬チップの前記チップ取付穴内への更なる入り込みが許容され得るように構成されていることを特徴とするローラカッタ。
【請求項2】
カッタ本体の外周部を構成する山形断面形状の刃先部に対して、周方向に所定間隔で位置するように、円形断面のチップ取付穴を設けると共に、かかるチップ取付穴に、先端が山形断面形状とされた、超硬合金からなる円柱形状の超硬チップを圧入、固定せしめてなるローラカッタにおいて、
前記チップ取付穴が、前記超硬チップの埋設長さよりも大となる深さにおいて設けられて、前記圧入される超硬チップの下端面と該チップ取付穴の底面との間に、所定の移動許容空間が形成されるように構成されている一方、かかる移動許容空間内に、該超硬チップの下端面に当接して、該超硬チップを支持すると共に、該超硬チップの軸方向に過大な荷重が作用したときに、該超硬チップの該チップ取付穴内への更なる入り込みを許容するチップ移動規制手段が設けられており、且つ
該チップ移動規制手段が、原形状の破壊によって高さが低下せしめられ得る高さ変化部材にて構成され、かかる高さ変化部材が前記移動許容空間内に収容されてなる形態において、前記過大な荷重が作用したときに、該高さ変化部材が破壊されて、その高さが低下することにより、前記超硬チップの前記チップ取付穴内への更なる入り込みが許容され得るように構成されていることを特徴とす
るローラカッタ。
【請求項3】
前記高さ変化部材がパイプ部材であって、該パイプ部材の軸方向が前記チップ取付穴の軸方向に対して直角となる方向において、前記移動許容空間内に配置されて、前記過大な荷重の作用によって扁平化せしめられることにより、前記超硬チップの前記チップ取付穴内への更なる入り込みが許容され得るように構成されていることを特徴とする請求項
2に記載のローラカッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラカッタの改良に係り、特に、トンネル掘削機のカッタヘッド(カッタ板)に装着されて、かかるカッタヘッドの回転により、前方の岩盤や地盤を掘削するようにしたローラカッタの耐久性を向上せしめる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道や道路等のためのトンネルを掘削する機械として、シールドマシン等の各種のトンネル掘削機が用いられて来ている。そして、そのようなトンネル掘削機の一つとして、前端部において、カッタヘッドの回転駆動に伴って回転すると共に、その外周部に設けられた切刃部(刃先部)により、地山の岩盤や岩盤と土砂地盤との複合地盤等を切るように圧壊乃至は破砕する多数のローラカッタを備えたものが、知られている。
【0003】
具体的には、そのようなローラカッタは、例えば、特開平10-246093号公報や特開2007-138437号公報等に明らかにされている如く、回転せしめられるカッタ本体の外周部を山形断面形状の刃先部として構成すると共に、かかる刃先部の周方向に所定間隔で位置するように円形断面のチップ取付穴を多数設ける一方、それらのチップ取付穴に、刃先部と同様な山形断面形状の先端形状を有する、超硬合金からなる円柱状の超硬チップを圧入して、それら超硬チップを、それぞれのチップ取付穴内に収容せしめることにより、超硬チップの山形断面形状の先端を、カッタ本体の刃先部の先端に対して周方向に連続させた埋込状態となるように、それぞれの超硬チップが嵌着されて、保持せしめられるようになっている。
【0004】
ところで、このような構造を有するローラカッタにあっては、トンネルの掘削を行う際に、超硬チップを含むカッタ本体の全体が、岩盤や地盤に切り込むように押し付けられた状態で回転せしめられて、岩盤や地盤等を掻き取るようにして切り崩す作業が進められることとなる。このため、カッタ本体が、岩盤や地盤等との接触により削り取られて、摩耗してしまい、カッタ本体に埋め込まれた超硬チップが脱落して、掘削効率が低下すると共に、ローラカッタの耐久性が低くなって、その寿命が短くなってしまう等という問題を内在しているところから、そのような問題の解消を図るべく、従来から、例えば、特開平3-191194号公報等に明らかにされている如く、カッタ本体の表面部位に対して、硬度の高い材質からなる硬化肉盛りを施すことが行われているのであるが、そのような硬化肉盛りを設けただけでは、カッタ本体の摩耗を抑制乃至は阻止することは極めて困難であり、そのために、ローラカッタの耐久性を充分に向上させることは、著しく困難であったのである。
【0005】
すなわち、カッタ本体に硬化肉盛りを設けたところで、その硬化肉盛りの硬さが、圧入された超硬チップよりも硬くなることはなく、また、カッタ本体の母材を耐摩耗性の高い材質にて構成したところで、そのような材質にあっても、その硬度は超硬チップよりも低いものであるところから、掘削作業の進行に伴い、ローラカッタの刃先部が、全体的に、均一に摩耗することはなく、超硬チップよりもカッタ本体の母材の摩耗が大きくなることにより、
図7(a)及び(b)に示される如く、カッタ本体100の刃先部102の外周面が摩耗して、その高さが低くなることによって、超硬チップ104が、その円柱状の基部まで露出した状態において、かかる刃先部102から、独立して、大きく突出した形態となってしまうのである。なお、図において、106は、硬化肉盛り部である。
【0006】
そして、
図7(a)に示される如く、ローラカッタのカッタ本体100の外周部の刃先部において、超硬チップ104が外方に大きく突出した形態で、砂礫層の如き地盤の掘削を進めた場合、そのような地盤中に存在する巨礫等の硬い岩盤にあたったときに、その衝撃によって、
図7(b)に示されるように、超硬チップ104自体が破断乃至は欠損したり、割れてしまう問題が惹起され、それによって、更に、その周囲の超硬チップ104が連鎖反応的に次々に割れ、また部分的に欠損するようになり、そして甚だしい場合にあっては、リング状のカッタ本体が大きく割れてしまい、使用不能となってしまう問題を内在しているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-246093号公報
【文献】特開2007-138437号公報
【文献】特開平3-191194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、カッタ本体の刃先部の摩耗により、かかる刃先部において超硬チップが大きく突出するようなことを効果的に緩和乃至は解消せしめて、巨礫等との衝突による超硬チップの欠損や割れ等の問題を解決し、耐久性を有利に向上せしめ得るローラカッタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明にあっては、上述せるようなローラカッタに係る課題の解決を図るために、カッタ本体の外周部を構成する山形断面形状の刃先部に対して、周方向に所定間隔で位置するように、円形断面のチップ取付穴を設けると共に、かかるチップ取付穴に、先端が山形断面形状とされた、超硬合金からなる円柱形状の超硬チップを圧入、固定せしめてなるローラカッタにおいて、前記チップ取付穴が、前記超硬チップの軸方向長さよりも大となる深さにおいて設けられて、前記圧入される超硬チップの下端面と該チップ取付穴の底面との間に、所定の移動許容空間が形成されるように構成されている一方、かかる移動許容空間内に、該超硬チップの下端面に当接して、該超硬チップを支持すると共に、該超硬チップの軸方向に過大な荷重が作用したときに、該超硬チップの該チップ取付穴内への更なる入り込みを許容するチップ移動規制手段が設けられていることを特徴とするローラカッタを、その要旨とするものである。
【0010】
なお、このような本発明に従うローラカッタの望ましい態様の一つによれば、前記チップ移動規制手段が、所定長さの柱状部の周りに、鍔部を連続的に若しくは断続的に設けてなる鍔付きピンと、前記チップ取付穴の底面に開口するように設けられた、該鍔付きピンの前記柱状部を収容し得る大きさの隠し穴とから構成され、前記超硬チップに過大な荷重が作用したときに、該鍔付きピンにおける柱状部と鍔部とが破断されて、かかる柱状部が前記隠し穴内に突入することによって、前記超硬チップの前記チップ取付穴内への更なる入り込みが許容され得るように構成されている。
【0011】
また、本発明に従うローラカッタの望ましい態様の他の一つによれば、前記チップ移動規制手段が、原形状の破壊によって高さが低下せしめられ得る高さ変化部材にて構成され、かかる高さ変化部材が前記移動許容空間内に収容されてなる形態において、前記過大な荷重が作用したときに、該高さ変化部材が破壊されて、その高さが低下することにより、前記超硬チップの前記チップ取付穴内への更なる入り込みが許容され得るように構成されている。
【0012】
さらに、本発明にあっては、かかる高さ変化部材として、例えば、パイプ部材が用いられ、そのパイプ部材の軸方向が前記チップ取付穴の軸方向に対して直角となる方向において、前記移動許容空間内に配置されて、前記過大な荷重の作用によって扁平化せしめられることにより、前記超硬チップの前記チップ取付穴内への更なる入り込みが許容され得るように構成されることとなる。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従うローラカッタにあっては、カッタ本体の刃先部に圧入される超硬チップの下端面と超硬チップ取付穴の底面との間に形成される所定の移動許容空間内に、所定のチップ移動規制手段が設けられて、掘削されるべき地盤の砂礫層に存在する巨礫等に、超硬チップが衝突して、かかる超硬チップの軸方向に規定値以上の過大な荷重が作用したときに、当該超硬チップのチップ取付穴内への更なる入り込みが許容され得るようになっているところから、掘削の進行に伴って、カッタ本体の刃先部の母材等が漸次摩耗するようになり、それによって、かかる刃先部から突出することとなる超硬チップの先端部が、地盤中に存在する巨礫等に衝突して、大きな荷重を受けるようになっても、かかる超硬チップの軸方向に作用する荷重が、規定された一定値以上の過大な荷重となったときに、チップ移動規制手段による規制が解除されて、超硬チップは、その下方に存在する移動許容空間により、チップ取付穴内に押し込まれるようにして、更に入り込むようになるのである。
【0014】
従って、本発明に係るローラカッタによれば、カッタ本体の刃先部の摩耗により、かかる刃先部より超硬チップが大きく突出し、そしてその突出した超硬チップ部位が、巨礫等と衝突することによって、大きな衝撃を受けるようなことが効果的に回避され得ることとなるのであり、これによって、超硬チップ自体が破断乃至は欠損したり、割れてしまうようなことが効果的に回避され、ひいては大きな衝撃によってカッタ本体が割れてしまう問題も惹起されることがなく、以て、ローラカッタの耐久性が有利に高められ得ることとなったのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に従うローラカッタの一例を示す側面説明図である。
【
図2】
図1に示されるローラカッタの部分断面説明図であって、(a)は、
図1におけるA-A断面概略説明図であり、(b)は、(a)におけるB部拡大説明図である。
【
図3】
図2(b)に対応する説明図であって、(a)は、ローラカッタの刃先部が摩耗した状態を示す断面説明図であり、(b)は、(a)の状態において、超硬チップに過大な荷重が作用して、超硬チップがチップ取付穴内に押し込まれてなる形態を示す断面説明図である。
【
図4】本発明の実施形態において用いられる鍔付きピンの説明図であって、(a)は、
図2(b)に示される鍔付きピンの一例を示す斜視説明図であり、(b)は、鍔部の配設位置が、かかる
図2(b)に示されるものとは異なる例を示す縦断面説明図である。
【
図5】本発明におけるチップ移動規制手段の他の一例を示す説明図であって、(a)は、
図2(b)に対応する断面説明図であり、(b)は、
図3(b)に対応する断面説明図である。
【
図6】本発明におけるチップ移動規制手段としての高さ変化部材の異なる例を示す説明図であって、(a)及び(b)は、それぞれ、形態の異なる高さ変化部材を示す斜視説明図である。
【
図7】掘削作業の進行に伴って、ローラカッタのカッタ本体の刃先部に生じた摩耗の形態を示す説明図であって、(a)は、かかる刃先部の側面部分説明図であり、(b)は、超硬チップが破断した形態を示す、
図3(a)に対応する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に従うローラカッタの代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0017】
先ず、
図1及び
図2には、本発明に従うローラカッタの一例が、それぞれ、側面図及び部分断面図の形態において示されている。そこにおいて、ローラカッタ10は、トンネル掘削機の前端部に対して、具体的には、カッタヘッド乃至はカッタ板に対して固定的に取り付けられる軸部材12と、かかる軸部材12に対して、図示しないベアリング等を介して、
図1に細線矢印で示されるように、中心軸:P周りに回転自在に、外嵌、装着されているカッタ本体14とを備えている。なお、カッタ本体14は、従来と同様に、全体として略円筒形状を呈し、その中心軸は、軸部材12の中心軸に対して同軸とされている。より詳細には、カッタ本体14は、
図2の(a)から明らかな如く、その外周部の中央部位が、山形断面形状において外方に突出して、周方向に延びる刃先部16を有しており、この刃先部16の両側の斜面に、従来と同様にして、硬化肉盛り部18,18が、それぞれ、設けられている。
【0018】
そして、かかるカッタ本体14の刃先部16に対して、超硬合金からなる超硬チップ20の多数が、刃先部16の周方向に所定の間隔を隔てて配設されているのである。具体的には、超硬チップ20は、基本的には、円柱形状を呈し、その先端部が刃先部16の山形断面形状と同様な山形断面形状とされている。そして、刃先部16の周方向に所定間隔で位置するように設けられた円形断面のチップ取付穴22内に、かかる超硬チップ20が、その円柱形状の基部側から圧入せしめられて、刃先部16と共に、円形の連続した稜線を描くようにして、固定されている。
【0019】
そこにおいて、本発明にあっては、かかる超硬チップ20の配設構造において、
図2(b)に示される如く、刃先部16に設けられるチップ取付穴22が、超硬チップ20の軸方向長さよりも大となる深さとなるように構成されて、圧入される超硬チップ20の下端面と、かかるチップ取付穴22の底面との間に、超硬チップ20の下降を許容する所定の移動許容空間24が形成されており、更に、そのような移動許容空間24内に、鍔付きピン26が収容、配置せしめられて、超硬チップ20の下端部を当接、支持するようになっている。具体的には、鍔付きピン26は、所定長さの円柱部26aと、その周方向の全周に亘って所定幅で一体的に形成されてなる円環板形状の鍔部26bとを備えており、その鍔部26bにおいて、チップ取付穴22の底面上に載置されて、支持されてなる形態において配置される一方、円柱部26aの上端部が、超硬チップ20の下端面に当接せしめられて、かかる超硬チップ20を支持し得るようになっている。なお、このような鍔付きピン26においては、その円柱部26aに対して、軸方向に所定大きさの荷重が作用したときに、かかる円柱部26aと鍔部26bとが、それらの連結部において、破断し得るようになっている。
【0020】
一方、刃先部16の周方向に所定間隔で設けられるチップ取付穴22の底部には、その底面の中央部に開口するように、鍔付きピン26の円柱部26aを収容し得る大きさにおいて、具体的には、円柱部26aの直径よりも少し大きな直径において、隠し穴28が、チップ取付穴22と同心的に形成されており、これによって、かかる隠し穴28と上記した鍔付きピン26とから、本発明に従うチップ移動規制手段が構成されている。
【0021】
従って、かくの如き鍔付きピン26と隠し穴28とからなるチップ移動規制手段を、チップ取付穴22内に配設してなる、ローラカッタ10を装備したトンネル掘削機を用いて掘削した際に、その掘削の進行に伴い、ローラカッタ10の刃先部16は、
図3(a)に示されるように、その母材部や硬化肉盛り部18において、程度の差こそあれ、漸次摩耗して、超硬チップ20が、その先端部を刃先部16から独立して突出した形態において、配設されてなる状態となるのである。
【0022】
そして、そのような状態下において、地盤中に存在する巨礫等が、ローラカッタ10におけるカッタ本体14の刃先部16に配設した超硬チップ20に衝突して、
図3(b)において白抜きの矢印にて示されるように、かかる超硬チップ20の軸方向に、そのような衝突に基づくところの衝撃に対応した大きさの荷重が作用するようになるのであり、また、その荷重は、チップ取付穴22の下部に形成される移動許容空間24に配置された鍔付きピン26に伝達されることとなる。そして、そのような荷重が所定の規定値以上の過大なものとなると、この過大な荷重は、鍔付きピン26を構成する円柱部26aと鍔部26bとの間の連結部の破断を惹起することとなり、これによって、
図3(b)に示される如く、鍔付きピン26の円柱部26aが、チップ取付穴22の底部に設けた隠し穴28内に突入するようになることにより、超硬チップ20が、その下方に位置する移動許容空間24の存在により、チップ取付穴22内に押し込まれるようにして、更に入り込む(落とし込まれる)こととなるのである。
【0023】
このように、掘削の進行に伴って、カッタ本体14の刃先部16における母材等が摩耗して、超硬チップ20の先端部が突出して、例えば、砂礫層の如き地盤中に存在する巨礫等から漸次大きな荷重が作用するようになっても、その荷重が所定の規定値以上となったときに、超硬チップ20がチップ取付穴22内に落とし込まれるように、更に入り込むことによって、超硬チップ20がカッタ本体14の刃先部16から大きく突出するようなことが効果的に緩和乃至は回避され得ることとなるのであり、これによって超硬チップ20の突出せる先端部が、巨礫等との更なる衝突によって大きな衝撃を受けるようなことが、効果的に抑制乃至は回避され得ることとなるのであり、以て、超硬チップ20自体が破断乃至は欠損したり、割れてしまうようなことが有利に緩和乃至は回避され、ひいては大きな衝撃によって、カッタ本体14が割れてしまう問題も惹起されることがなく、以て、ローラカッタ10の耐久性が有利に高められ得ることとなるのである。
【0024】
なお、
図3(b)に示される如き超硬チップ20のチップ取付穴22内への更なる入り込み(落とし込み)によって、
図1に示されるローラカッタ10の直径は全体的に小さくなるが、その変化は、カッタ本体14の刃先部16の母材の摩耗の許容範囲内とされ、これによって、破損に至ることなく、ローラカッタとして有利に用いられ、安定して掘削を続行することが可能となっている。
【0025】
また、かかる超硬チップ20のチップ取付穴22内への入り込み量(落とし込み量)である移動量は、移動許容空間24の高さ乃至は隠し穴28の深さ(円柱部26aの突入量)に応じて適宜に決定され、更にその移動条件は、鍔付きピン26の硬度、具体的には破壊強度にて、調整可能である。例えば、超硬チップ20の移動量を5mmとしたとき、鍔付きピン26における円柱部26aの長さを7mmとし、鍔部26bの厚さを2mmとして、材質:SCM435、硬さ:HRC50の鍔付きピン26を用いた場合において、軸方向の衝撃荷重が90N以上で、鍔付きピン26は破壊されて、超硬チップ20は、チップ取付穴22内に更に入り込ませることが可能となる。なお、この鍔付きピン26の破壊荷重は、超硬チップ20の破壊強度に応じて適宜に決定されることとなる。
【0026】
ところで、鍔付きピン26として、
図4(a)においては、所定長さの円柱部26aの下端部外周面に、所定幅の鍔部26bが、一体的に設けられてなる構造を有するものが示されているが、これに代えて、
図4(b)に示される如く、円柱部26aの下端部よりも上方に位置する外周部に鍔部26bを一体的に設けて、鍔部26bから円柱部26aの下部が下方に所定長さ突出してなる構造の鍔付きピンを用いることも可能である。このように、鍔部26bよりも下方に突出した円柱部26a部分を、チップ取付穴22の底部に設けた隠し穴28内に挿入した形態において、鍔付きピン26をセットすることにより、かかる鍔付きピン26の位置決めや、隠し穴28内への円柱部26aの入り込みを容易に行うことが出来る等の利点を享受することが出来る。
【0027】
また、上記した実施形態においては、チップ移動規制手段が、鍔付きピン26と隠し穴28とから構成されているが、それに代えて、原形状の破壊によって高さが低下せしめられ得る高さ変化部材にて構成して、かかる高さ変化部材が、チップ取付穴22の底部に形成される移動許容空間24内に収容されてなる形態において、超硬チップ20の軸方向に規定値以上の過大な荷重が作用したときに、当該高さ変化部材が破壊されて、その高さが低下することにより、超硬チップ20のチップ取付穴22内への更なる入り込み(落とし込み)が許容され得るように構成することも可能である。
【0028】
例えば、
図5(a)に示される如く、パイプ部材30が、上記した高さ変化部材として用いられ、そのパイプ部材30の軸方向が、チップ取付穴22の軸方向に対して直角となる方向において、移動許容空間24内に配置せしめられることによって、超硬チップ20の下端面に当接して、かかる超硬チップ20を支持するようになっているのであり、そして、巨礫等との衝突による衝撃によって、超硬チップ20の軸方向に、規定値以上の過大な荷重が作用したときに、かかるパイプ部材30が、
図5(b)に示される如く、円形の原形状が破壊されて、扁平化せしめられることにより、その高さが低下させられ、以て、超硬チップ20のチップ取付穴22内への更なる入り込み(落とし込み)が許容され得るようになっているのである。
【0029】
このように、パイプ部材30の扁平化により、超硬チップ20がチップ取付穴22内に更に入り込むことによって、超硬チップ20のみが、巨礫等の衝突による衝撃を受けることが効果的に回避され得ることとなり、その欠損や脱落等の問題の発生が効果的に回避され得るのであり、以て、ローラカッタ10の割れ等による使用不能の事態も有利に回避され得ることとなるのである。
【0030】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0031】
例えば、先の実施形態においては、超硬チップ20の軸方向に規定値以上の過大な荷重が作用したときに、かかる超硬チップ20のチップ取付穴22内への更なる入り込み乃至は落とし込みを許容するチップ移動規制手段として、2つの形態が採用されているのであるが、そのような超硬チップ20の軸方向への過大な荷重の作用によって、破壊乃至は破損又は変形や変位等によって移動許容空間24の高さが低減せしめられ、以て、超硬チップ20のチップ取付穴22内への入り込み乃至は落とし込みが可能となる構造乃至は機構であれば、如何なるものをも採用可能であることが、理解されるべきである。
【0032】
また、本発明において用いられる高さ変化部材としては、例示の如きパイプ部材30の他にも、
図6(a)に示される如き、板材を屈曲せしめてなる山形形状部材32や、
図6(b)に示される如き、円錐台形状の筒状部材34等を用い、規定値以上の過大な荷重の作用によって、それらが変形乃至は破壊されて、それらの高さが変化し得るようにした構造を採用することも可能である。
【0033】
さらに、例示の実施形態においては、カッタ本体14の外周部を構成する山形断面形状の刃先部16の両側の斜面に、硬化肉盛り部18,18が形成されているが、そのような硬化肉盛り部18は、カッタ本体14の母材の材質に応じて、また掘削対象となる地盤による刃先部16の摩耗の程度に応じて、適宜に設けられるものであって、それを省略することも可能である。
【0034】
加えて、
図4に示される鍔付きピン26にあっては、その円柱部26aに対して一体的に設けられる鍔部26bが、かかる円柱部26aの周りに、所定幅で、連続的に延びる円環板形状において、形成されているが、そのような鍔部26bは、円柱部26aの周りに断続的(非連続的)に設けられていても、何等差支えない。
【0035】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0036】
10 ローラカッタ 12 軸部材
14 カッタ本体 16 刃先部
18 硬化肉盛り部 20 超硬チップ
22 チップ取付穴 24 移動許容空間
26 鍔付きピン 26a 円柱部
26b 鍔部 28 隠し穴
32 山形形状部材 34 筒状部材
100 カッタ本体 102 刃先部
104 超硬チップ 106 硬化肉盛り部