(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】紫外発光する有機発光体
(51)【国際特許分類】
C09K 11/06 20060101AFI20220913BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220913BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20220913BHJP
H01L 33/26 20100101ALI20220913BHJP
C07F 7/18 20060101ALN20220913BHJP
C07C 43/215 20060101ALN20220913BHJP
【FI】
C09K11/06 660
C09K11/06 615
H05B33/14 B
H05B33/02
H01L33/26
C07F7/18 W
C07C43/215
(21)【出願番号】P 2018185347
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 正毅
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】SHIMIZU, Masaki et al.,Chem. Asian J.,2011年,6,2536-2544,DOI: 10.1002/asia.201100176
【文献】Meng Guan Tay et al.,Journal of Chemistry,Hindawi Publishing Corporation,2016年,volume 2016,Article ID 3608137 (8 pages),DOI: 10.1155/2016/3608137
【文献】SHIMIZU, Masaki et al.,Angew. Chem. Int. Ed.,2009年,48,3653-3656,DOI: 10.1002/anie.200900963
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される紫外線発光体。
【化1】
(式(1)中、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基又は置換されていてもよいオルガノシリル基であり、
R
3、R
4、R
5、R
6、R
7及びR
8は下記の(i)
又は(ii)である。
(i)R
3及びR
4は、それぞれ独立して水素又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、R
5、R
6、R
7及びR
8は、それぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である
(ii)R
3及びR
4は、それぞれ独立して水素又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、R
5及びR
7、並びにR
6及びR
8は一緒になって環状アルキリデン基を形成す
る)
【請求項2】
R
1及びR
2がオルガノシリル基である請求項1に記載の紫外線発光体。
【請求項3】
R
5、R
6、R
7及びR
8が同一の炭素数1~10のアルキル基である請求項1又は2に記載の紫外線発光体。
【請求項4】
R
5
及びR
7
、並びにR
6
及びR
8
が一緒になって環状アルキリデン基を形成する請求項1又は2に記載の紫外線発光体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の紫外線発光体と、合成樹脂とを含む光学部材。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の紫外線発光体を備えた発光装置。
【請求項7】
有機発光ダイオードである請求項6に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を発光する有機発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光極大波長が380nm以下にある公知の有機蛍光材料として、ジアリールフルオレンの2量体(非特許文献1,2)及びクオーターフェニル(非特許文献3)が報告されている。しかしながら、ジアリールフルオレンの2量体及びクオーターフェニルは、分子改良の余地が非常に小さいため、分子改良によって熱安定性の向上、発光効率の向上等の性能向上を図ることが難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Advanced Materials, 2005, Vol 17, 992
【文献】Org. Lett. 2005, Vol 7, No.23, 5131
【文献】J. Phys. Chem. B 2004, 108, 9571
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決すべき課題は、有機材料からなり、分子設計性がより柔軟な紫外線発光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ベンゼン環のそれぞれオルト位同士に二個のアルコキシ基と二個のアルケニル基とを配置して捩れた分子構造を誘起することにより、発光波長の短波長化に必須の共役系の縮小と、発光効率低下の要因である分子の近接の抑制との両方を実現し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
【0007】
項1.下記一般式(1)で表される紫外線発光体。
【0008】
【0009】
(式(1)中、
R1及びR2は、それぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基又は
置換されていてもよいオルガノシリル基であり、
R3、R4、R5、R6、R7及びR8は下記の(i)又は(ii)である。
(i)R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である
(ii)R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、R5及びR7、並びにR6及びR8は一緒になって環状アルキリデン基を形成する)
項2.R1及びR2がオルガノシリル基である項1に記載の紫外線発光体。
【0010】
項3.R5、R6、R7及びR8が同一の炭素数1~10のアルキル基である項1又は2に記載の紫外線発光体。
【0011】
項4.R
5
及びR
7
、並びにR
6
及びR
8
が一緒になって環状アルキリデン基を形成する項1又は2に記載の紫外線発光体。
【0012】
項5.項1~4のいずれか一項に記載の紫外線発光体と、合成樹脂とを含む光学部材。
【0013】
項6.項1~4のいずれか一項に記載の紫外線発光体を備えた発光装置。
【0014】
項7.有機発光ダイオードである項6に記載の発光装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発光効率等の性能が向上された有機系の紫外線発光体及びかかる紫外線発光体を備えた有機発光装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】製造例1~3の紫外線発光体の粉末状態での発光スペクトル。
【
図4】製造例4又は5の紫外線発光体の粉末状態での発光スペクトル。
【
図5】製造例5又は6の紫外線発光体をPMMA樹脂に分散させた薄膜の発光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0018】
本明細書において、紫外線とは波長が10~400nmの光線を指す。
【0019】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「X~Y」は、「X以上、Y以下」を意味する。
【0020】
(I)本発明に係る紫外線発光体
本発明に係る紫外線発光体は、下記一般式(1)で表される化合物からなる。
【0021】
【0022】
式(1)中、
R1及びR2は、それぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基又は置換されていてもよいオルガノシリル基であり、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は下記の(i)又は(ii)である。
(i)R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である
(ii)R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、R5及びR7、並びにR6及びR8は一緒になって環状アルキリデン基を形成する
R1及びR2は同じであることもできるし異なることもでき、好ましくは同じである。
【0023】
R1及びR2の炭素数1~10のアルキル基は、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖アルキル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0024】
紫外線発光体の熱安定性の点からは、R1及びR2のアルキル基の鎖長が長いことが好ましい。
【0025】
R1及びR2が置換される場合の置換基は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、オキソ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基など)、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基など)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基、(ジ)アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基など)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基など)、シリル基、ボリル基等が挙げられる。また前記置換基が存在する場合、その個数はR1及びR2の各々に対して1~3個であることが好ましい。
【0026】
R1及びR2のオルガノシリル基は、ケイ素上に少なくとも一つの有機基を有する官能基であり、R9R10R11Siで表すことができる。R9、R10、及びR11は、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換の炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は置換若しくは非置換のフェニル基であるが、ただしR9、R10、及びR11がすべて水素である場合は除く。好ましくは、R9、R10、及びR11は、それぞれ独立して置換若しくは非置換の炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は置換若しくは非置換のフェニル基であり、より好ましくはそれぞれ独立して置換若しくは非置換の炭素数1~8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は置換若しくは非置換のフェニル基であり、さらに好ましくはそれぞれ独立して置換若しくは非置換の炭素数1~6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は置換若しくは非置換のフェニル基である。
【0027】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
R1及びR2のオルガノシリル基の好ましい例としては、ビニルジメチルシリル基、ジエチルメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、シクロプロピルジメチルシリル基、アリルジメチルシリル基、ブチルジメチルシリル基、イソブチルジメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、シクロブチルジメチルシリル基、sec-ブチルジメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリビニルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、シクロペンチルジメチルシリル基、メチルジイソプロピルシリル基、イソプロピルジエチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基、シクロヘキシルジメチルシリル基、シクロヘキセニルジメチルシリル基、テキシルジメチルシリル基、1-メチルシクロペンチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基、メチルジフェニルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、ブチルジエチルシリル基、ヘプチルジメチルシリル基、シクロヘプチルジメチルシリル基、2-ノルボルニルジメチルシリル基、5-ノルボルネン-2-イルジメチルシリル基、トリルジメチルシリル基、ベンジルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、オクチルジメチルシリル基、ヘキシルジエチルシリル基、デシルジメチルシリル基、トリブチルシリル基、トリイソブチルシリル基、ドデシルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0029】
R9、R10、及びR11が置換される場合の置換基は、ビニル基、アルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、オキソ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基など)、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基など)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基、(ジ)アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基など)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基など)等が挙げられる。また前記置換基が存在する場合、その個数はR9、R10、及びR11の各々に対して1~3個であることが好ましい。
【0030】
R1及びR2は同じであることもできるし異なることもでき、好ましくは同じである。
【0031】
上記(i)に関し、R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。
【0032】
一実施形態では、R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基である。
【0033】
R3及びR4の炭素数1~10のアルキル基は、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖アルキル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられる。
【0034】
R3及びR4が置換される場合の置換基は、ビニル基、アルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、オキソ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基など)、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基など)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基、(ジ)アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基など)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基など)、シリル基、ボリル基等が挙げられる。また前記置換基が存在する場合、その個数はR3及びR4の各々に対して1~3個であることが好ましい。
【0035】
R3及びR4は同じであることもできるし異なることもでき、好ましくは同じである。
【0036】
R3及びR4のアルキル基の炭素数が長いと、紫外線発光体に捩れが生じ、紫外線発光体の発光波長が短波長側にシフトする。このように、R3及びR4のアルキル基の炭素数の調整により、所望の発光波長になるよう紫外線発光体を設計することができる。
【0037】
上記(i)に関し、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。
【0038】
R5、R6、R7及びR8の炭素数1~10のアルキル基は、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖アルキル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられる。
【0039】
R5、R6、R7及びR8が置換される場合の置換基は、ビニル基、アルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、オキソ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基など)、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基など)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基、(ジ)アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基など)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基など)、シリル基、ボリル基等が挙げられる。また前記置換基が存在する場合、その個数はR5、R6、R7及びR8の各々に対して1~3個であることが好ましい。
【0040】
R5及びR6は同じであることもできるし異なることもでき、好ましくは同じである。R7及びR8は同じであることもできるし異なることもでき、好ましくは同じである。より好ましくは、R5、R6、R7及びR8は同じである。
【0041】
一般に、R5、R6、R7及びR8のアルキル基の炭素数が長いと、紫外線発光体の熱分解点が上昇し、熱安定となる。このように、R5、R6、R7及びR8のアルキル基の炭素数の調整により、所望の熱安定性を有するよう紫外線発光体を設計することができる。
【0042】
上記(ii)に関し、R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、R5及びR7、並びにR6及びR8は一緒になって環状アルキリデン基を形成する。
【0043】
R3及びR4が炭素数1~10のアルキルである場合の例については上記(i)に関して説明した通りである。
【0044】
R5及びR7、並びにR6及びR8が形成する環状アルキリデン基は、炭素数3~10の環状アルキリデン基であることが好ましく、シクロプロピリデン基、シクロブチリデン基、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロオクチリデン基、アダマンチリデン基などが挙げられ、好ましくはシクロヘキシリデン基、アダマンチリデン基などである。
【0045】
R5、R6、R7及びR8は置換されていてもよく、その場合の置換基は、ビニル基、アルケニル基ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、オキソ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基など)、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基など)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基、(ジ)アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基など)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基など)、シリル基、ボリル基等が挙げられる。また前記置換基が存在する場合、その個数はR5、R6、R7及びR8の各々に対して1~3個であることが好ましい。
【0046】
R5及びR7、並びにR6及びR8が形成する環状アルキリデン基は、同じであることもできるし異なることもでき、好ましくは同じである。
【0051】
一つの好ましい実施形態では、式(1)で表される化合物において、R1及びR2がオルガノシリル基である。この構成によれば、σ-π共役安定化により、分解点が高く熱に安定な紫外線発光体とすることができる。
【0052】
さらに好ましい実施形態では、R1及びR2がR9R10R11Siで表され、R9、R10、及びR11は、それぞれ独立して置換若しくは非置換の炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。
【0053】
別の好ましい実施形態では、R5、R6、R7及びR8が同一の炭素数1~6のアルキル基である。この構成によれば、紫外線発光体の製造が容易である。
【0054】
別の好ましい実施形態では、R5及びR7、並びにR6及びR8が一緒になって環状アルキリデン基を形成する。この構成によれば、熱安定性に優れる紫外線発光体とすることができる。
【0055】
本発明の紫外線発光体は、10~400nmの波長の領域に発光極大波長を有し、好ましくは200~400nmの領域に発光極大波長を有し、より好ましくは250~385nmの領域に発光極大波長を有する。
【0056】
本発明の紫外線発光体は、粉末状態や結晶状態で紫外発光するものであってもよいし、有機薄膜に分散した状態で紫外発光するものであってもよいし、その両方であってもよい。好ましくは、本発明の紫外線発光体は20℃において固体状態で紫外線を発光する。このため、いわゆる常温で固体として扱うことができて、大気に対して安定なため、取り扱い性に優れている。
【0057】
また本発明の紫外線発光体は、置換基の選択により、熱安定性又は発光波長を調整でき、設計性に優れている。さらに、有機溶媒への溶解度が良好なので、溶液プロセスへの展開も容易である。
【0058】
さらに、本発明の紫外線発光体の固体状態における発光量子収率は好ましくは0.2以上であり、発光体として優れている。
【0059】
(II)本発明に係る紫外線発光体の製造方法
まずR1及びR2がアルキル基でR3及びR4が水素の場合、本発明に係る紫外線発光体は、ヒドロキノンのアルキル化により調製される1,4-ジアルコキシベンゼンにヨウ素を作用させて、2,5-ジヨード-1,4-ジアルコキシベンゼンに誘導し、これをアルキルリチウムでジリチオ化しジメチルホルムアミドでジホルミル化したのち、所望の置換基R5とR7及びR6とR8を備えるトリフェニルホスホニウム塩をそれぞれ作用させてWittig反応を行うことにより、容易に合成することができる。
【0060】
一方、R1及びR2がアルキル基でR3及びR4が水素でない場合は、ジメチルホルムアミドに代えて、対応するアルデヒドを反応させて生じるジオールを酸化することにより、水素でないR3及びR4を有するジケトンを調製し、これに所望の置換基R5とR7及びR6とR8を備えるトリフェニルホスホニウム塩をそれぞれ作用させてWittig反応を行うことにより合成する。
【0061】
また、R1及びR2がオルガノシリル基でR3及びR4が水素の場合、本発明に係る紫外線発光体は、市販の1,4-ジメトキシベンゼンにヨウ素を作用させて、2,5-ジヨード-1,4-ジメトキシベンゼンに誘導し、これをアルキルリチウムでジリチオ化しジメチルホルムアミドでジホルミル化したのち、ルイス酸を用いて脱メチル化を行い、得られたヒドロキノン誘導体を所望のオルガノシリルクロリドでシリル化し、得たジアルデヒドに所望の置換基R5とR7及びR6とR8を備えるトリフェニルホスホニウム塩をそれぞれ作用させてWittig反応を行うことにより、容易に合成することができる。
【0062】
R1及びR2がオルガノシリル基でR3及びR4が水素でない場合は、本発明に係る紫外線発光体は、ジメチルホルムアミドの代わりにハロゲン化アシルを作用させて対応するジケトンへと導き、これに所望の置換基R5とR7及びR6とR8を備えるトリフェニルホスホニウム塩をそれぞれ作用させてWittig反応を行うことにより、容易に合成することができる。
【0063】
上記製造方法は簡便であり、より安価で、用途に合わせた実用性の高い紫外発光素子を製造することができる。
【0064】
(III)本発明に係る紫外線発光体の利用、光学部材、発光装置
本発明に係る紫外線発光体は、単体の化合物として用いることもできるし、他の材料と組み合わせて複合材として用いることもできる。
【0065】
複合材としては、本発明に係る紫外線発光体をマトリックス材に分散させた組成物が挙げられる。マトリックス材は、合成樹脂、エラストマー、ゴム等の高分子化合物からなる有機材料、有機材料、又は無機材料と有機材料のハイブリット材料が挙げられる。有機材料の例としては、
エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、セルロースエステル、シリコーン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂、ポリジメシルシロキサン及びシクロオレフィンコポリマーからなる群から選択される1種以上の材料が挙げられる。これらの材料は透明性の点で有利である。無機材料の例としては、ガラス、(溶融)水晶、透過性セラミック材、及びシリコーンからなる群から選択される1種以上の材料が挙げられる。
【0066】
本発明に係る紫外線発光体と、マトリックス材とを含む上記組成物は、発光素子等の光学部材として使用することができる。かかる光学部材は、量子収率が高いため、発光効率の優れた光学部材となり得る。
【0067】
組成物又は光学部材中の紫外線発光体の含有量は、組成物又は光学部材を100質量部%としたとき、0.01~50質量%の範囲内であることが好ましく、0.5~30質量%の範囲内であることがより好ましく、2.0~25質量%の範囲内であることが最も好ましい。発光の点で、含有量が0.01質量%以上であることが好ましく、組成物又は光学部材の成形性の点で、50質量%以下であることが好ましい。
【0068】
光学部材の形状としては、特に制限はなく、所望の形状に成形できる。例えば、平板状、レンズ状、フィルム状、シート状、キャピラリー状、ロッド状、チューブ状、錐状、錐台状等が挙げられる。このうち、フィルム状またはシート状が好ましい。なお、フィルムとは厚さが250μm未満の膜状のものを指し、シートとは厚さが250μm以上の薄板状のものを指す。
【0069】
光学部材としての光学フィルムを製造する方法としては、特に限定されないが、樹脂のモノマーおよび紫外線発光体を含む構成材料を溶かした塗布液を調製し、基材上に塗布してUV硬化させる方法、樹脂および紫外線発光体を含む組成物を分散または溶解させてドープ液に調製し、キャスト成膜する方法等を挙げることができる。キャスト成膜では、支持体上にドープ液をキャストし、乾燥させた後、支持体から剥離することで光学フィルムを形成する。キャスト成膜によれば、光学フィルムの成膜時に活性種が生じないため、得られたフィルムの発光効率が向上する。
【0070】
本発明に係る紫外線発光体及び光学部材は、半導体発光素子、エレクトロルミネッセンスデバイス等として使用することができる。
【0071】
図1に光学部材の例を示す。光学部材1は、基板2と、基板2の上に配置された本発明に係る紫外線発光体を含む発光層3とを備えている。基板2と発光層3とは面接触している。発光層3は基板2の上に成膜してもよいし、基板2と発光層3を別々に作製し、接着剤やその他の手段によって互いに接触させてもよい。基板2はガラス、石英、シリコン、セラミック、金属、及び有機材料等の公知の材料から形成された基板とすることができる。
【0072】
本発明は、上記の光学フィルムを備えた発光装置をも提供する。本発明の発光装置は、上記の本発明に係る紫外線発光体、又は該紫外線発光体を含有する光学部材としての発光層を備えている。このため、発光効率に優れた装置となる。
【0073】
好ましくは、発光装置は、2つの電極と、前記2つの電極間に配置された本発明に係る紫外線発光体又は該紫外線発光体を含有する発光層とを備えている。
【0074】
図2に、発光装置としての有機発光ダイオード4の例を示す。有機発光ダイオード4は、透明基板5の上に順に積層された、陽極6、正孔注入層7、本発明に係る紫外線発光体を含む発光層3、及び陰極8を備えている。基板5はガラス、石英、シリコン、セラミック、金属、及び有機材料等の公知の材料から形成された基板とすることができる。陽極6を形成する材料にはITO等の公知の陽極材料を使用することができる。正孔注入層7を形成する材料には、PEDOT/PSS等(4-スチレンスルホン酸でドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)等の公知の材料を使用することができる。陰極8を形成する材料にはLi、Cs、B、Al、またはこれらの合金等の公知の陰極材料を使用することができる。
【0075】
発光装置としては、照明装置、液晶ディスプレイ装置等が挙げられる。本発明の発光装置は、安価で、加工性が高く、大面積化が可能であり、柔軟性(Flexibility)があり、面光源とすることができる。このため、医療器具、上水道、空気等の殺菌の用途、可視光有機発光ダイオードのホスト材料、蛍光性フィルム又は蛍光センサーの励起光源、記録媒体、ポリマーの硬化の用途、光治療等の広範な用途に使用することができる。
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0077】
製造例1 2,5-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-1,4-ビス(2-メチルプロペニル)ベンゼン(式(2)の化合物)の合成
【0078】
【0079】
Meはメチル基、tBuはtert-ブチル基を示す。
【0080】
フレームドライした 80 mL シュレンク管にイソプロピルトリフェニルホスホニウムヨージド (0.88 g, 2.0 mmol) を入れ、脱気・アルゴン置換を 3 回行った後、テトラヒドロフラン (8 mL) を加えた。これを 0 ℃ に冷却し、n-ブチルリチウムのヘキサン溶液 (1.6 M, 1.3 mL, 2.0 mmol) を 10 分かけて滴下した後、0 ℃ で 30 分撹拌した。そこに 1,4-ビス (tert-ブチルジメチルシロキシ) テレフタルアルデヒド (0.20 g, 0.50 mmol) のテトラヒドロフラン溶液 (8 mL) を加え、室温まで昇温してから、16 時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液 (30 mL) を加え、反応を停止した。水層を酢酸エチル (50 mL×2) で抽出し、得た有機層を水 (20 mL×2)、飽和塩化ナトリウム水溶液 (20 mL) で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (トルエン) により精製し、2,5-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-1,4-ビス(2-メチルプロペニル)ベンゼン(0.22 g, 0.49 mmol, 98%) を無色固体として得た。
【0081】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz):δ0.11 (s, 12H), 0.98 (s, 18H), 1.79 (s, 6H), 1.87 (s, 6H), 6.22 (s, 2H), 6.62 (s, 2H).
【0082】
製造例2 2,5-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-1,4-ビス(シクロヘキシリデンメチル)ベンゼン(式(3)の化合物)の合成
【0083】
【0084】
Meはメチル基、tBuはtert-ブチル基を示す。
【0085】
撹拌子を入れてフレームドライした 80 mL シュレンク管にシクロヘキシルトリフェニルホスホニウムブロミド (0.47 g, 1.1 mmol) を入れ、脱気・アルゴン置換を 3 回行った後、テトラヒドロフラン (5 mL) を加えた。これを 0 ℃ に冷却し、n-ブチルリチウムのヘキサン溶液 (1.6 M, 0.7 mL, 1.1 mmol) を 10 分かけて滴下した後、0 ℃ で 30 分撹拌した。そこに 1,4-ビス (tert-ブチルジメチルシロキシ) テレフタルアルデヒド (0.11 g, 0.27 mmol) のテトラヒドロフラン溶液 (5 mL) を加え、室温まで昇温してから、16 時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液 (30 mL) を加え、反応を停止した。水層を酢酸エチル (50 mL×2) で抽出し、得た有機層を水 (20 mL)、飽和塩化ナトリウム水溶液 (20 mL) で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (トルエン) により精製し、2,5-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-1,4-ビス(シクロヘキシリデンメチル)ベンゼン (0.13 g, 0.25 mmol, 93%) を無色固体として得た。
【0086】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ0.12 (s, 12H), 0.98 (s, 18H), 1.53-1.62 (m, 12H), 2.32 (t, J = 6.0 Hz, 4H), 2.42 (t, J = 6.0 Hz, 4H), 6.15 (s, 2H), 6.57 (s, 2H).
【0087】
製造例3 1,4-ビス(シクロヘキシリデンメチル)-2,5-ビス(トリイソプロピルシリルオキシ)ベンゼン(式(4)の化合物)の合成
【0088】
【0089】
iPrはイソプロピル基を示す。
【0090】
撹拌子を入れてフレームドライした 80 mL シュレンク管にシクロヘキシルトリフェニルホスホニウムブロミド (0.77 g, 1.8 mmol) を入れ、脱気・アルゴン置換を 3 回行った後、テトラヒドロフラン (10 mL) を加えた。これを 0 ℃ に冷却し、n-ブチルリチウムのヘキサン溶液 (1.6 M, 1.2 mL, 1.8 mmol) を 10 分かけて滴下した後、0 ℃ で 30 分撹拌した。そこに 1,4-ビス (トリイソプロピルシロキシ) テレフタルアルデヒド (0.22 g, 0.45 mmol) のテトラヒドロフラン溶液 (8 mL) を加え、室温まで昇温してから、10 時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液 (30 mL) を加え、反応を停止した。水層を酢酸エチル (50 mL×2) で抽出し、得た有機層を水 (20 mL)、飽和塩化ナトリウム水溶液 (20 mL) で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (トルエン) により精製し、1,4-ビス(シクロヘキシリデンメチル)-2,5-ビス(トリイソプロピルシリルオキシ)ベンゼン (0.21 g, 0.34 mmol, 76%) を無色固体として得た。
【0091】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz):δ 1.10 (d, J = 6.8 Hz, 36H), 1.21 (sep, J = 6.8 Hz, 6H), 1.50-1.60 (m, 12H), 2.24 (t, J = 6.4 Hz, 4H), 2.31 (t, J = 6.4 Hz, 4H), 6.23 (s, 2H), 6.60 (s, 2H).
【0092】
製造例4 1,4-ビス(1,2-ジメチルプロペニル)-2,5-ジメトキシベンゼン(式(5)の化合物)の合成
【0093】
【0094】
Meはメチル基を示す。
【0095】
撹拌子を入れてフレームドライした 80 mL シュレンク管にイソプロピルトリフェニルホスホニウムヨージド (0.78 g, 2.0 mmol) を入れ、脱気・アルゴン置換を 3 回行った後、トルエン (5 mL) を加えた。続いてその溶液に、撹拌しながら tert-ブトキシカリウム (0.20 g, 1.8 mmol) を加え、室温で 1 時間撹拌した。そこに 1,4-ジアセチル-2,5-ジメトキシベンゼン (0.10 g, 0.45 mmol) のトルエン溶液 (6 mL) を加え、48 時間加熱還流を行った。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液 (30 mL) を加え、反応を停止した。水層を酢酸エチル (50 mL×2) で抽出し、得た有機層を水 (20 mL)、飽和塩化ナトリウム水溶液 (20 mL) で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (酢酸エチル:ヘキサン 20:1) 、ゲル透過クロマトグラフィー (クロロホルム) により精製し、1,4-ビス(1,2-ジメチルプロペニル)-2,5-ジメトキシベンゼン (0.08 g, 0.29 mmol, 64%) を無色固体として得た。
【0096】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz):δ1.54 (s, 6H), 1.82 (s, 6H), 1.93 (s, 6H), 3.73 (s, 6H), 6.54 (s, 2H).
【0097】
製造例5 1,4-ビス(2-メチルプロペニル)-2,5-ジメトキシベンゼン(式(6)の化合物)の合成
【0098】
【0099】
Meはメチル基を示す。
【0100】
撹拌子を入れてフレームドライした 80 mL シュレンク管にイソプロピルトリフェニルホスホニウムヨージド (1.73 g, 4.0 mmol) を入れ、脱気・アルゴン置換を 3 回行った後、テトラヒドロフラン (8 mL) を加えた。これを 0 ℃ に冷却し、n-ブチルリチウムのヘキサン溶液 (1.6 M, 2.5 mL, 4.0 mmol) を 10 分かけて滴下した後、0 ℃ で 30 分撹拌した。そこに 1,4-ジメトキシテレフタルアルデヒド (0.19 g, 1.00 mmol) のテトラヒドロフラン溶液 (15 mL) を加え、室温まで昇温してから、16 時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液 (30 mL) を加え、反応を停止した。水層を酢酸エチル (50 mL×2) で抽出し、得た有機層を水 (30 mL)、飽和塩化ナトリウム水溶液 (30 mL) で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (トルエン) により精製し、1,4-ビス(2-メチルプロペニル)-2,5-ジメトキシベンゼン (0.18 g, 0.74 mmol, 74%) を無色固体として得た。
【0101】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz):δ1.85 (s, 6H), 1.94 (s, 6H), 3.78 (s, 6H), 6.31 (s, 2H), 6.73 (s, 2H).
【0102】
製造例6 1,4-ビス(シクロヘキシリデンメチル)-2,5-ジメトキシベンゼン(式(7)の化合物)の合成
【0103】
【0104】
Meはメチル基を示す。
【0105】
フレームドライした 80 mL シュレンク管にシクロヘキシルトリフェニルホスホニウムブロミド (0.73 g, 1.7 mmol) を入れ、脱気・アルゴン置換を 3 回行った後、テトラヒドロフラン (6 mL) を加えた。これを 0 ℃ に冷却し、n-ブチルリチウムのヘキサン溶液 (1.6 M, 1.1 mL, 1.7 mmol) を 10 分かけて滴下した後、0 ℃ で 30 分撹拌した。そこに 1,4-ジメトキシテレフタルアルデヒド (0.08 g, 0.43 mmol) のテトラヒドロフラン溶液 (10 mL) を加え、室温まで昇温し、20 時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液 (30 mL) を加え、反応を停止した。水層を酢酸エチル (50 mL×2) で抽出し、得た有機層を水 (20 mL)、飽和塩化ナトリウム水溶液 (20 mL) で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (トルエン) により精製し、1,4-ビス(シクロヘキシリデンメチル)-2,5-ジメトキシベンゼン (0.12 g, 0.38 mmol, 88%) を無色固体として得た。
【0106】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ1.58-1.66 (m, 12H), 2.30 (t, J = 6.0 Hz, 4H), 2.35 (t, J = 6.0 Hz, 4H), 3.77 (s, 6H), 6.21 (s, 2H), 6.69 (s, 2H).
【0107】
実施例1 発光の測定
製造例1~6の化合物の発光極大波長および発光量子収率は、浜松ホトニクス社製絶対PL量子収率測定装置(C9920-02)を用いて室温、大気下、測定した。製造例5および6のPMMA薄膜は、紫外発光材料とPMMAをジクロロメタン溶液に溶かし、スピンコート法により調製した。また、融点、5%分解点は、セイコーインスツルメント社製TG/DTA6200を用いて窒素雰囲気下で測定した。
【0108】
【0109】
1-1.粉末状態での発光の測定
製造例1~3の化合物の発光極大波長、発光量子収率、融点、5%分解点を表1に示す。
【0110】
アルケニル基の末端置換基R5、R6、R7及びR8がメチル基である製造例1の発光量子収率が0.21であったのに対し、R5とR7及びR6とR8がそれぞれシクロヘキシリデン基である製造例2の発光量子収率は0.26と若干高い値となった。さらにシクロヘキシリデン基はそのままでオルガノシリル基がトリイソプロピル基である製造例3の発光効率は大幅に向上して0.40であった。すなわち、アルケニル基の末端置換基やオルガノシリル基を嵩高い置換基にすることにより、発光量子収率の高い紫外線発光体を得ることができる。また、嵩高い置換基を用いると、5%分解点も向上した。すなわち、嵩高い置換基を選択することにより熱安定性に優れる紫外線発光体を得ることができる。またいずれも、ホスト材料に分散させた状態ではなく、粉末状態において良好な発光量子収率を示すことから、これらの製造例は非ドープ型発光層として利用することが可能である。
【0111】
【0112】
1-2.固体状態での発光の測定
製造例4及び5の化合物の発光極大波長、発光量子収率、融点、5%分解点を表2に示す。
【0113】
置換基R3とR4がメトキシ基である製造例4の発光極大波長は352 nmである一方、置換基R3とR4が水素である製造例5の発光極大波長は380 nmであり、置換基R3とR4の嵩を大きくすると発光波長が大きく短波長化している。これは、置換基R3とR4とそれらのオルト位に位置するメトキシ基とが立体反発を起こし、その結果アルケニル基がベンゼン環に対してより捩れた配座をとって有効共役長が短縮化するためと説明することができる。つまり、本発明の分子構造においては、置換基R3とR4の大きさを変えてベンゼン環に対する捩れ角を調節することにより、発光極大波長を制御することが可能である。また両例とも、ホスト材料に分散させた状態ではなく、粉末状態において良好な発光量子収率を示すことから、これらは非ドープ型発光層として利用することが可能である。
【0114】
【0115】
1-3.PMMAに発光体を分散した薄膜の発光の測定
製造例5及び6の化合物をPMMA膜に分散した状態でのそれぞれの発光極大波長、発光量子収率、融点および5%分解点を表3に示す。
【0116】
発光量子収率は、それぞれ0.38、0.41と大変良好な値であった。したがって、製造例5及び6の化合物は、適当なホスト材料と組み合わせることにより、紫外線発光ドーパントとして使用することができる。
【0117】
【0118】
実施例2 有機発光ダイオードの製造
ITO被覆ガラス基板上に、まずPEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/スチレンスルホン酸塩)の水分散液を塗布し、その後乾燥することによって厚さ100 nm の正孔注入層を形成した。この上に、製造例3の化合物を含有するトルエン溶液をスピンコーティングして、厚さ100 nm の発光層を形成した。積層体を乾燥させてから Ba/Al カソードを該積層体に気相堆積させ、得られた装置を封入し、ITO(アノード)/正孔注入層/発光層/カソードからなる有機発光ダイオードを完成させた。かかる有機発光ダイオードの発光を実施例1と同様に測定したところ、紫外領域に発光極大波長をもつ発光を示した。